2024年01月01日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)

 インボイスの前後に渡って、《請求書いらない特例》の条文イジりをしたことには、それなりの意図がありまして。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 一般的には、「請求書等」として要求されるものが、区分記載請求書から適格請求書に変更されたことにより、仕入税額控除が認められる範囲が限定されたと理解されています。し、当ブログにおいてもそのように表現をしている箇所があります。

 が、仕入税額控除厳格化の本体は、表向きの《原則ルール》にあるのではなく。《例外ルール》である「やむを得ない理由」が「困難な場合」に変更されたことにある、というのが私の見立てです。

 インボイス制度に対する評価として、「単に登録番号と税額を追加するだけなのに、騒ぎすぎ!ウケる〜!」みたいな意見を聞くこともあります。
 それは《原則ルール》のかぎりではそのとおりです。「区分記載請求書方式」が、インボイス移行ツールとして優れていたと評価することができるでしょうか。


 ですが、《例外ルール》まで視野に入れると、そんなお気楽なものではないことが分かります。

 というか、今まで我々実務家は、あまりにも「やむを得ない理由」に依存しきっていたのかもしれません。せっかく運営が「区分記載請求書方式」を挟んでくれたというのに、「やむを得ない理由」に甘えることで請求書の保存を真面目に実施していなかったと。

 レベル0 請求書いらない(超ゆるい)
 レベル1 請求書(ゆるい)     orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル2 区分記載請求書(きつい) orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル10 適格請求書(かなりきつい)or困難な場合(超きつい)


 だらけきった実務家により生み出されていた益税を、困難な場合の限定列挙化により撲滅できてめでたしめでたし(皮肉)。原則ルールのほうは「区分記載請求書」という移行ツールを挟んでくれたのに、例外ルールについては移行ツールを挟まずにいきなり厳格化したせいで、ついていけなくなっているだけの話だと。


 税法学者からしても、通達に規定されっぱなしの「やむを得ない理由」を、政令・省令で「困難な場合」として明確化したことは『租税法律主義』『課税法規の明確性』『法的安定性』の観点から正しい、とか言い出しそうですし。
 特に件の教科書の著者あたりが、「仕入税額控除が『請求権』として明確化された!」とか言いそう(冷笑)。

 もちろん、税法ルールを明確化すること、それ自体は望ましいことです。が、消費税法における仕入税額控除制度を厳格化することには、他の制度とは異なる特有の問題があります。

 それは、本ブログでも再三指摘してきた「損税」発生問題。

 件の教科書をはじめとして、現実の消費税法の仕組みを無視した論者がよくいうのが『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言。
 
 免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)

 しかしながら、現実には売上側は問答無用の譲渡課税、他方で仕入側は厳格化したインボイス控除と、まったく異なる原理で作動しています。

  売上課税:問答無用の譲渡課税    (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 or困難な場合(超狭い)


 課税側は譲渡があれば問答無用で課税されるくせに、仕入側は限定的にしか控除されません。
 相互の連動ということでいうと、

  ◯ 課税されないなら控除されない(=控除するなら必ず課税されるべき)

と、控除が課税よりもはみ出さない方向でのみ連動し、

  × 控除されないなら課税されない(=課税するなら必ず控除されるべき)

と、課税が控除よりもはみ出さない方向では連動しません。
 控除縮小(課税拡大)の方向でのみ、一方通行で連動することになっています。その結果、インボイス制度のもとではひたすら「損税」が生じることとなります。

 これがインボイス前であれば、

  売上課税:問答無用の譲渡課税       (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 orやむを得ない理由(わりと緩い)


と、売上側と仕入側とがほどよくバランスが取れていました。インボイス前の制度は、損税が大量発生するくらいなら一部益税の発生を受け入れるものだったと評価することができます。

 これに対してインボイス後は、「売手:免税事業者」の益税を撲滅できるならば、それ以外の場面でどれだけ損税が発生してもお構いなし、という制度に仕上がっています。
 ここで、益税をわざわざ「売手:免税事業者の場合の」と限定するのは、《インボイスいらない特例》によって、特定業種の益税は積極的に容認しているからです。現行制度は、同じ益税の中でも、許せない益税と許せる益税とがあるという価値判断を前提に組み立てられてしまっています。インボイス推進派の方々がノセられてしまっている「益税絶許!!」というプロパガンダとは、まるで様相が異なる。

 現行制度は、特定場面の益税だけを撲滅しただけであり、かつ新たな損税を生み出しているわけで。真面目に《課税=控除》を実現するつもりがあるとは、とても思えません。


 こういった制度全体の構造理解というもの、税法分野では正面切って展開されていません。憲法論から始まる抽象概念論と、裁判で問題となった個別論点に関心が集中しがちで。その真ん中が手薄すぎる。

 そのせいで、『課税と控除は一致させるべき』という抽象的なお題目から、一気に仕入税額控除を厳格化するという個別制度の実現へと到達してしまう有様なのでしょう。
 仕入側だけを厳格化するだけで《課税=控除》を実現できたつもりになってしまい、売上側との規律に不整合が生じないかといったことを検討しないで済ませてしまっています。

 このような検討作業、件の教科書のような消費税法全体を記述した書籍などでこそ展開すべきものだと思うのですが。残念ながら『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言をのたまうだけで、現実に両輪駆動が機能しているかを検証することもありません。

 現実には、一方のタイヤはスポンジ製、他方のタイヤは鉄製でできていて、およそ真っ直ぐ進まない出来上がりですよ。


 なお、《例外ルール》のほうを本体とみることに対しては、違和感のある方もいるかもしれません。が、法学における《原則/例外モデル》の欺瞞っぷりについては、すでに何度か指摘してきたとおりです。

【原則/例外モデル批判】
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 「例外は文字通り例外的に考慮するだけですよ。」と言いながら、バックグラウンドでは常に例外ルールを走らせている例の所作のことです。

 実務への現実的な影響のデカさという観点からすると、表向きの「区分記載請求書→適格請求書」の変更は単なる目眩ましで。実体(実態)は《請求書いらない特例》を厳格化・特権化することに主眼があったのではないか、と思わざるをえません。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 消費税法
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