吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
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「条文の読み方」的な本は、今どきはあれこれあるのですが。
法制執務・法令用語研究会「条文の読み方 第2版」(有斐閣2021)
そこで題材となる条文は、自分の全く関心のないあちこちの分野から引っ張ってこられていたりして。自分の関心のない法分野の条文について、ひたすら法律の「文法」を学習するなんて、「クソつまらん」という感想をもってしまうのは必至です。
そこで、題材を「特定の」法分野に限定した条文の読み方本であれば、当該分野に関わったことのある人にとっては、中身についてある程度知識があるので、理解しやすくなるんじゃないかと思うわけです。
というわけで、本書が「労働法令」を題材に「条文の読み方」をやってくれているのは、とてもよいコンセプトだと思いました。
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ではなぜ、「コンセプトは」という含みのある言い方をしたのかというと。
労務分野では、法令のみならず、通達をはじめとするお役所発の情報が大きな顔を利かせています。法令だけ読みこなしていれば労務分野でイキリ散らせるかというと、まったくそんなことはなく。
法の建前とは異なり、実務的にはお役所情報の取扱い方が相当重要な位置づけを占めています。法の規律が抜けている箇所については、通達等に頼らざるをえませんし。
という観点から、本書の記述をみてみると。
法令以外の情報について、第1章の「基礎知識」では通達等の説明があるものの、第2章の「読みこなし術」では、残念ながら法令だけが題材となっています。まあ、それが普通といえば普通なのでしょうが。労務に特化しているというコンセプトからすれば、通達等の読み方についても深掘りしてほしいところでした。
お役所の情報が条文とイマイチ噛み合っていない、ということはしばしば見られる現象であり。
リーガルマインド年次有給休暇 〜原則付与と比例付与
社会保険適用拡大について(2022年10月〜) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
「出産手当金支給申請書」違法論
こういう場合に、「条文はこうだから(キリッ)」だけでは済まされない悩みが、実務家にはあるわけです。ので、条文を読み、通達等を読み、さてどうするか、についてのアプローチの仕方が求められている。
のに、本書では、他著と同様、そこまでの踏み込みはされていません。
や、私が本書に過度の期待をしてしまっただけなのでしょう。著者は「条文の読み方」の専門家であって、労務の専門家ではないですし。タイトルにも『労働法令』とだけしか書かれていませんし。
【ガチの専門家による通達の読み方】
酒井克彦「アクセス 税務通達の読み方」(第一法規2016)
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本書には、随所に卑近な例を使って説明をしてくれている箇所があるのですが。
著者御本人としては、非専門家向けに分かりやすく説明してあげている、というつもりかもしれませんが。喩えがド下手なんですよね。
たとえば、「章名・節名をもって見出しに代えさせていただきます」系の、見出しがない条文についての喩え(本書では、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の第5条が題材にあげられています)。
「中華料理店で、ラーメンとチャーハンを同時に注文するとチャーハンのスープが出てこないことがありますが、考え方はそれと同じです。「大は小を兼ねる」というわけです。」
これで理解しやすくなっていますか。
ラーメンのスープが大で、チャーハンについてくるスープが小ということでしょうか。つまり、中華料理店は、普段はチャーハンのスープとして提供しているものを、ラーメンが注文されるとそれを大きい器に入れて提供しているんだと。
あるいはその逆に、ラーメンのスープを小さい器に入れて、チャーハンのスープとして流用しているということでしょうか。
そういうことなんですか?
章タイトル: ラーメンのスープ(大)
条文見出し: チャーハンについてくるスープ(小)
「喩え」というのは、誰もが分かっているものを使って、わかりにくいものを理解しやすくするために用いるもののはずです。ので、こういう疑問が浮かんでしまう時点で失敗なのは明らかです。
そもそも、「章名・節名をもって見出しに代える」程度のこと、わざわざ喩えを使ってまで説明しなければならないほど、理解が難しいものでしょうか。
おそらく、本書の著者のような超頭の良い方が、我々のような庶民向けに分かりやすく書こうとすると、こういう感じになってしまうのでしょう。あるいは、「面白い喩えが思いついた!」ということで、どうしてもねじ込みたかったのか。
【頭の良い人の考えるユーモア】
大島 眞一「完全講義 民事裁判実務の基礎 上巻(第3版) 」(民事法研究会2019)
喩えなんて所詮喩えであって。雰囲気は掴めても正確な理解からは遠ざかる。のに、本書ではやたらと喩えがでてきて。
その都度、喩え側でイメージづくりをしなければならず。端的にいってノイズでしかない。
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なお、本の薄さからすると定価がお高め(223頁で税抜3,524円)。しかも、最後の「付録」と題する箇所、『労働法ナビ』とかいう、かつて存在したサービスの広告になっていますし。
特定のサービスの販促本という位置づけなら、もう少しお安めに頒布したらよかったんじゃないですかね(今更言っても詮無い話)。
【マネーフォワード販促本?】
小島孝子「電帳法とインボイス制度のきほん(令和5年度税制改正大綱対応版)」(税務研究会出版局2023)
上述した「過度の期待」も、このようなお高めのお値段から勝手に私が抱いてしまったものなのかもしれません。
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