2024年01月08日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 以下、マトモな実務家ならば『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』の一言で終わることを、あれこれ難癖つけるだけのやつです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)


 令和6年度税制改正大綱にて、自販機特例を使う場合に「住所」を記載しなくてよいとの改正案が示された、ということを以下の記事で書きました。

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱

 要綱に「令和5年10月1日からも書かなくて構わんよ。」と謳われているせいで、Q&Aが爆速で公表されました。

令和6年度税制改正の大綱について(インボイス関連) 令和5年12月22日

 「定額減税」あたりと違って、こんな改正案、誰も反対しないでしょうから、これがそのまま本体の『インボイスQ&A』に組み込まれることになるのでしょう。

 そんな程度のものですら、引っかかりを覚えてしまうのが、ひねくれ者の哀しい性(サガ)。


 下記(その2)に記載したとおり、「住所」がいらない場合が列挙されているのは、「国税庁告示」(R5第26号)です。
 インボイス前は基本通達内に編成されていたものが、改正に伴って単独の告示として括りだされました。

 なので、「住所」を省略するというのであれば、国会審議を待つまでもなく国税庁告示をいじくれば済むだけの話です(もちろん「委任立法」の問題はありますが)。とすると、その他の改正事項よりも先行して改正が反映されることになるのでしょうか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)


 ちなみに、令和5年10月1日より前は住所書かなきゃいけないのか、というと、こちらは旧法時代の「3万円特例」でカバーされています。

 「住所」の記載は、請求書等の保存とのバーターで要求されているものです。その上で、通達・告示に列挙されることによってその要求が解除される、という構造となっています。
 ところが、「3万円特例」だけは、はじめから「住所」の記載が要求されていないという、他の特例とは毛並みが異なるものとなっていました。

 ワナビー達の解説だと、単に「住所いらない」だけで括られがちなところ。ですが、条文構造上は全く異なっていたということです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)


 改正対象である「住所」は、実はどうでもよくって。今回のQ&Aで私が「気持ち悪い」と感じたのが以下のもの。

問.自動販売機で飲料を購入した場合、帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」はどのように記帳すればよいでしょうか。

 帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」は、「自販機」との記載で差し支えありません。
 この記載方法に関する取扱いは、今回の見直し前後で変更はありません。


 先日の記事でも(ゴリゴリの建前を語っています)と仄めかしておいたところであって、結論自体は全く問題ないです。

 ですが、「住所」は改正を入れるというのに、「氏名」はなぜ『差し支えありません』で済まそうとするのか。
 「住所」は、政令で請求書等とのバーターで要求されているものにすぎません。他方で、「氏名」は法律レベルで要求されていることであって。「氏名」を省略するというならば、氏名省略規定である令49条2項も改正するのが筋なんじゃないんですか。

 この、住所と氏名に対するアンバランス感が、どうにも気持ち悪いわけです。

 なお、国税庁が『前からそういう扱いでしたけど?』みたいな言い回しをするの。そういう運用していたことを表立って明言していなかったときに言いがちなセリフな気がします。氏名を省略しても『差し支えありません』と明言しているの、私は今回初めて見ました。
 

 また、氏名記載については運用レベルで無視するくせに、「◯コインランドリー/×コインパーキング」みたいな区別は厳密に運用しようとしているのも気持ち悪いです。

(自動販売機及び自動サービス機の範囲)
1−8−14 規則第26条の6第1号《適格請求書等の交付が著しく困難な課税資産の譲渡等》に規定する「自動販売機又は自動サービス機」とは、課税資産の譲渡等及び代金の収受が自動で行われる機械装置であって、当該機械装置のみにより課税資産の譲渡等が完結するものをいい、例えば、飲食料品の自動販売機のほか、コインロッカーやコインランドリー等がこれに該当する。
(注) 小売店内に設置されたセルフレジなどのように単に代金の精算のみを行うものは、これに該当しないことに留意する。


 確かに、「自動販売機又は自動サービス機」という文言からすれば、「機械のみで資産の譲渡が完結するもの」と理解するのが素直に思えます。
 が、「氏名」ルールをガン無視するという前科をおかしておきながら、なぜ「完結」ルールだけは忠実に文言に従おうとするのか。

 そもそもの話、コインランドリーとコインパーキングとで、インボイス発行の「困難さ」にどのような有意差があるというのでしょうか。コインランドリーが困難だというならば、コインパーキングだって困難でしょうよ。

 また、たとえばですけど、コインランドリーで洗濯・乾燥するのに、利用者が洗濯機から乾燥機に洗濯物を移さなければならない場合は「完結」ルールを満たさないということになりはしないでしょうか。利用者の行為は資産の譲渡に組み込まれないというならば、コインパーキングにおける駐車行為も組み込まれないことになるのでは。
 あるいは、コインパーキングも、ゲートを上げるための料金だけをもらっているということにすれば、「完結」ルールを満たすということでいいんですか(これらはもちろん難癖です)。

 この区別を支えているのは、唯一文言のみですよね。実質的な根拠は何もない。
 もし何かしら区別をするのだとしたら「売手がその場にいない(のでインボイス出せない)」くらいじゃないですかね。

 いずれにしても、「氏名」ルールをガン無視できる度胸を、「完結」ルールでも発揮してくれればいいじゃないですか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
posted by ウロ at 10:25| Comment(0) | 消費税法
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