2024年01月15日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)

 前回の記事で、自販機特例につき「住所」省略は改正事項とするのに「氏名」省略は『差し支えありません』で済まそうとするの、気持ち悪いと評しました。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 なぜ、「氏名」も改正事項としないのかについては、おおよそアタリは付いていて。
 その理由は『古物商等を異常に優遇しているから』だと思われます。

 突飛すぎてよく分からないかもしれませんので、以下説明を加えます(入場券特例については記述を省略)。


 氏名省略規定の条文構造については、以下の記事で分析をしたところです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 長くなりますが、政令と告示を貼り付けてみると次のとおり。

令第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
 一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
  イ 他の者から受けた第七十条の九第二項第一号に掲げる課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ
  ロ 入場券その他の課税仕入れに係る書類のうち法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているものが、当該課税仕入れに係る課税資産の譲渡等を受けた際に当該課税資産の譲渡等を行う適格請求書発行事業者により回収された課税仕入れ(イに掲げる課税仕入れを除く。)
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
   (1) 古物営業法第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
   (2) 質屋営業法第一条第一項(定義)に規定する質屋営業を営む同条第二項に規定する質屋である事業者が、同法第十八条第一項(流質物の取得及び処分)の規定により他の者から所有権を取得した質物
   (3) 宅地建物取引業法第二条第二号(用語の定義)に規定する宅地建物取引業を営む同条第三号に規定する宅地建物取引業者である事業者が、他の者から買い受けた同条第二号に規定する建物
   (4) 再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から再生資源等(資源の有効な利用の促進に関する法律第二条第四項(定義)に規定する再生資源及び同条第五項に規定する再生部品をいう。)に係る課税仕入れを行う事業を営む事業者が、他の者から買い受けた当該再生資源等
  ニ イからハまでに掲げるもののほか、請求書等(法第三十条第七項に規定する請求書等をいう。)の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるもの

2 前項第一号に規定する国税庁長官が指定する者から受ける課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ(同号に掲げる場合に該当するものに限る。)のうち、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れについては、法第三十条第八項第一号の規定により同条第七項の帳簿に記載することとされている事項のうち同号イに掲げる事項は、同号の規定にかかわらず、その記載を省略することができる。

○国税庁告示第26号
2 令第四十九条第一項第一号に規定する国税庁長官が指定する者は、次に掲げる者とする。
四 令第四十九条第一項第一号ハ(1)から(4)までに掲げる資産に係る課税仕入れ(同号ハ(1)から(3)までに掲げる資産に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り、同号ハ(4)に掲げる資産に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限る。)を行った場合の当該課税仕入れの相手方


 令49条2項によれば、氏名省略できるのは、告示に列挙されているもののうち「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る」ものとされています。
 決して、特定業種に限定しているわけではなく。中立的な装いの書きぶりとなっています。が、(その2)(その3)で検討したとおり、結果的には「古物商等」だけに限定されることになります。

 これ、改正前は政令自体に業種が書き込まれていたところであり。インボイス後は政令だけ読んでも特定業種を優遇していることが見えにくくなっています。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)

 『結果的に古物商等だけが氏名省略できることになっているだけで、政令レベルでは決して特定業種のみを優遇する意図があったわけではない』という言い訳も可能っちゃ可能。もちろんヤラセでしょうが(以下、同項を「すっとぼけ条項」と呼びます)。


 さて、このような「すっとぼけ条項」に自販機を追加するには、どのような条文とすべきでしょうか。

 正面から「自販機」とは書かずに、「不特定かつ多数の者から」のような、すっとぼけた書きぶりで限定しなければならないとしたら、どのように記述すればよいのか。うまい遣り口が思いつきません。
 そうだとすると、令49条2項を修正して、正面から「古物商等」「自販機」と謳うことにせざるをえないでしょうか。あるいは、委任先が省令/告示と別れていることをこれ幸いとばかりに、別々の書きぶりで共存させることにするかどうか。

 といったように、自販機を氏名省略できるようにするためには、単に49条2項に自販機を追加すれば済むのではなく。「古物商等」の書きぶりについても再検討しなければならなくなります。


 運営側の往生際の悪さについて、「8割控除」を題材に指摘したことがありますが。
 
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 なぜだかよく分かりませんが、一度アウトプットしたものを修正することに対しては、異常な抵抗があるように見受けられます。ここでも、令49条2項に追加するだけなら許せても、現行の規定を修正するのは避けたいという態度が透けて見えます。

 といった検討の結果として、住所の扱いとの不整合を受け入れてでも、氏名については『差し支え有りません』で乗り切ることにしよう、としたのではないでしょうか。


 以上、前回も書いたとおり『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』と言えばすむところを、あらぬ方向に話を広げるだけの虚無な記事です。
 が、私個人としては、条文イジりのトレーニングとなるので、全く無益ではないはず(と自分に言い聞かせる)。
posted by ウロ at 11:44| Comment(0) | 消費税法
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