2024年01月29日

みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱

 前回の記事の中で、倒産防の掛金の損金算入ルールの構造を次のとおり記述しました。

みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱

【倒産防】
 A 法人税法  (全額は?)できない。
 B 措置法   できる。
 C 措置法通達 前納1年まで

 今回は、この構造についてもう少し掘り下げます。


 まず、損金算入の大原則は、法人税法22条3項に定めるとおりです(以下では、損金算入できることを「費用性あり」などと表現します)。

法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


 この原則によらない場合には、同項にいう「別段の定め」が必要となります。


 若干まわり道をして、他の費用の扱いについて触れます。

【寄付金】
 A 法人税法 できる(22条)
 B 法人税法 制限される(37条)

 寄付金は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、同法37条により制限されます。

【交際費】
 A 法人税法 できる(22条)
 B 措置法  制限される(61条の4)

 交際費は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、措置法61条の4により制限されます。

 寄付金と交際費、法人税法の解説書の類では損金不算入モノとして並べて記述されることが多い。ですが、不算入の根拠法が本法か措置法かで異なっています。
 いずれにしても、法律レベルで「別段の定め」を設けることにより、一部損金不算入になるということです。

【保険料】
 A 法人税法  できるものとできないものがある(22条)
 B 法人税通達 できる/できないを形式で振り分ける(9-3-1〜)

 保険料(定期保険・養老保険等)については、ご存知「法人税基本通達」にびっしり規定されているところです。

法人税基本通達 第3節 保険料等

 保険料の中には、費用性のあるものと資産性のあるものとでごちゃまぜになっているものがあります(というか保険会社が意図的にそうしている)。これを割り振るにあたって、個別の保険契約ごとに判定なんてしていられないわけです。
 そこで、通達で「割り切り(決めつけ)」をしているということです。

 もちろん、所詮通達なので、納得のいかない納税者の皆さんは訴訟で争うことが可能です。が、裁判所が「明確性・安定性」といったマジックワードで保険通達を全肯定するであろうことは、火を見るよりも明らかです。

【マジックワード租税判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 なぜ、寄付金・交際費は法律レベルで「別段の定め」が設けられているというのに、保険料は通達レベルで差配しているのかというと。
 寄付金・交際費の損金不算入は、そもそも費用性が備わっているものにつき損金算入を否定することから、法律レベルで規定することが必須です。に対して、保険料は資産性/費用性の区分を通達使って解釈入れている、という位置づけになります。
 費用性があるのに通達で資産として扱う、ではなく、通達が資産としているものは最初から資産なんだと。で、多少のズレがあったとしても「明確性・安定性」を言い訳にもってくればセーフになると。


 で、倒産防に戻ってきます。上記を踏まえて表現を少し修正します。

【倒産防(改正前)】
 A 法人税法  できる部分とできない部分がある(22条)。
 B 措置法   できる(66条の11)。
 C 措置法通達 前納1年まで(66の11-2)。

 倒産防についても「解約返戻金」があることから、費用の部分と資産の部分の両方があることになるはずです。これを措置法では政策的考慮を入れて、損金側に全振りしています(なお、法文上は損金算入「する」ですが、便宜上「できる」と表現します)。
 寄付金・交際費については、費用を損金不算入とするための「別段の定め」だったのに対し。倒産防は、費用でないものを損金算入とするための「別段の定め」だということです。

 ところが、通達では前納1年までに限定してしまっています。
 措置法が全額損金算入するとしているのに、通達が勝手に限定してよいのか、ということが一番最初の記事で検討した論点となります。そこでは、「充てるため」の読み方を工夫することで、通達を拡張規定と捉えることができるのでは、というアイディアを示しました。
 
 今回、ABCと並べてみて、
  A 費用性のあるものだけを損金算入する。
  B 資産部分も含めて全額損金算入できる。
  C Bで広げすぎたのでA方向に微調整。
と通達を位置づけることができるかも、と思いました。
 B・Cだけ見ていると、CがBに反すると思いきや。Aまで視野に入れれば、必ずしも違法ということにはならないのではないかと。

 が、A・Bとの関係は「前法/後法」あるいは「一般法/特別法」であって。法解釈のお作法どおりの理解からすれば、Bが優先適用されることになります。
 ので、CがAに適合しているからといって、やはりBに反することは許されないはずです。何かしら、Bに反しないようにCを位置づける必要があります。

  B>A≒C


 さて、今回の改正事項である、解約後2年間は損金算入できないというルールについてですが。

 措置法第66条の11に、単純に制限規定を追加することになるでしょうか。もしそうだとすると、通達の書きぶりも、若干修正を入れることになりそうです。

【倒産防(改正後?)】 
 A 法人税法  できる部分とできない部分がある。
 B 措置法   できる。ただし解約後2年はできない。
 C 措置法通達 前納1年まで


 2年という期間で区切るということは、掛金のうち資産の部分にとどまらず費用の部分も損金算入が否定されることになります。
 交際費や寄付金は、それぞれ損金算入を制限する実質的な根拠があったわけですが。倒産防の2年ルールにはそのような実質的な根拠が見いだせるでしょうか。「損益調整は許さない。」という、どちらかというと「役員報酬」のルールに近い理由つけが採用されることになるのかもしれません。

 もし、掛金がそもそも費用性を有しないものであったならば、措置法が損金でないものを特例で損金算入できるようにしているだけ、原則は損金不算入なのだから2年制限したとしても問題ない、といえたところです。

【費用性がないとしたら】
 A 法人税法  できない。
 B 措置法   できる。ただし解約後2年はできない。

 が、一部とはいえ損金性も有しているものの損金算入を否定するには、何某かの実質的な根拠が必要になるはずです。まあ、40ヶ月分たまれば返戻率100%になるということで、もともと費用性は極めて弱い、ということなのかもしれませんが。


 なにか思い違いをしているような気もしますが。私が理解するところの、改正後措置法の構造。

倒産防2年ルール.png


 通常の場合、費用部分は法人税法の原則どおり、資産部分は拡張規定。解約後2年間については、費用部分は制限規定、資産部分は原則どおり。
 というように、原則・拡張・制限が入り乱れたキマイラ感溢れる規定になってしまうのでしょうか。

【キマイラ税法】
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に

みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:30| Comment(0) | 法人税法
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