私のような条文イジり屋の出る幕など、何も無いと思っていたのですが。
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
意識が低いとなかなか気づきにくいだけであって。何ごとにも、何かしらの「イジり代(しろ)」があるものですね。
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以下、いきなり余談。
近ごろは税制があまりにも複雑怪奇になりすぎて、節税ライターの方々の扱えるネタ、この倒産防と短期前払費用の特例くらいしかなくなっているんじゃないですかね。
研究開発税制・設備投資税制・所得拡大促進税制あたりは、使えるものならガンガン活用していくべきもののはずですが。節税ライターの皆さんが免罪符として宣う「一般の方にも分かりやすく記述する。」という執筆方針では「給与増やしたら税金減るよ(詳しくは税務署へ)」程度のことしか書けず、適用要件も減税額も、記述しきることができなくなっているのではないかと。
下手に単純化して書こうとすると、不正確極まりない内容になってしまうでしょうし。
その手の記事、最近はおよそ目にも入ってこないので、単なる邪推ですが。
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話は戻って。
上記一連の記事では、掛金納付の「損金」算入側をメインに扱っていました。
が、解約手当金の「益金」算入についても、いまいちしっくりこないところがあり。
素朴な《簿記脳》からすれば、次のような図式が思い浮かびます。
A 掛金納付:費用 ⇒ 解約手当金:収益
B 掛金納付:資産 ⇒ 解約手当金:△資産
掛金納付時に費用計上したなら解約手当金は収益となる(A)、掛金納付時に資産計上したなら解約手当金は資産のマイナスになる(B)、と。
が、税法の側ではストレートな「費用=損金」「収益=益金」という図式は成り立たず。それぞれ法令に定めるところに従います。
損金・益金についての原則ルールが「法人税法22条2項・3項」です。
法人税法第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
これだけで済めば、まだよいのですが。残念ながらそんな単純な話ではない。
各項にいう「別段の定め」によって原則ルールが歪められています。
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「歪められている」という言い方をしたのはなぜかというと。税法世界では、美しい簿記世界とは異なり、必ずしもプラス/マイナス、表/裏が一致するとは限らないからです。
たとえば、「交際費」の損金不算入ルール。
支払った側が損金不算入となるのに、もらった側(接待を受けた人ではなく利用店舗のほう)は普通に売上として益金算入しなければなりません。
支払側:損金不算入(措置法61条の4)
売上側:益金算入(原則)
「一方がマイナスなら他方はプラスのはず」という素朴な感覚が、税法世界では通用しません。表裏を揃える必要がある場合には、「グループ法人税制」の寄附金・受贈益ルールのように、
あげた側: 損金不算入(法人税法37条2項)
もらった側:益金不算入(法人税法25条の2)
と、両面から規定しなければなりません。
それぞれの条文の場所からも分かるとおり、「グループ法人税制における贈与/受贈ルール」という単体の制度があるわけではなく。益金ルールと損金ルールが別々に規定されています。
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ちなみに、グループ法人税制の寄附金・受贈益ルールが、条文編成において散らかってしまっている理由。
税法の構成が
本法; 恒久的・原則
措置法:一時的・例外
の二本立てとなっていることが要因かなあと。
というのも、グループ法人税制、「完全支配関係」にある法人間に関する制度という意味では、例外的な制度のはずです。なので、措置法に法人税法の特例としてまとめて規定してもよかったはずです。
が、恒久的な制度でもあるがゆえに、法人税法本法に組み込まざるをえなかったと。で、寄附金・受贈益については、法人税法の中に個別ルールが書かれているから、それぞれ切り出してその中に配置せざるをえなかったのではないかと。
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もうひとつ余談。
本ブログにおいて、『消費税法の理論構造』というサブタイトルのもとで長々と記事を書き連ねているやつ。あれこれ書いているものの、本当に言いたいことは唯一つ。
「消費税法の条文をあるがままに理解するかぎり、売上課税ルールと仕入控除ルールはそれぞれ別の原理で作動している」
ということです。売上側は譲渡すれば問答無用で課税されるのに、仕入側は、あれやこれやの制約により控除ができるとはかぎらないことになっています。
《両輪駆動》云々といった妄言は「だったらいいな」レベルの与太話であって。およそ現実の消費税法の構造を表す表現とはなっていません。
法人税法における「益金/損金」も、消費税法における「課税/控除」も、素朴な《オセロ思考》は通用せず。それぞれの規定に従って要件該当性を判断する必要があるということです。
※オセロ思考とは:表が白なら裏は当然黒だろ、と思い込む考えのこと。
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で、話は「倒産防」に戻ってきます。
まず掛金納付が「損金」となるかというに。
「納付月数40ヶ月で返戻率100%に到達し、その後目減りすることがない」なんてもの、保険通達のノリからすれば、100%資産だと言われてもおかしくないはずです。それを措置法が100%損金に全振りしているというのは、措置法の政策立法としての面目躍如、ということでしょう。
また、解約後2年は損金算入できないとしたり、通達レベルで前納1年までに制限しちゃっているのも、そもそも法人税法の原則からすればとても損金とはいえないものを、措置法様が損金にしてあげているだけのものだから、だとすれば納得がいきます。
「別表添付しなきゃ損金算入させねえよ」(措置法66条の11第2項)というところも、一見傲慢に感じますが。もともと損金じゃないものを特別に損金算入認めてやっている、という点からすれば正当化できるでしょうか。
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そのことを前提として。問題は「益金」のほうです。
もともと損金とならない掛金を措置法によって損金にしているだけ、ということを前提とするならば。その掛金の戻りである解約手当金も、何らかの規定がないかぎり益金とはなりえないのではないでしょうか。
掛金納付: 資産(原則) ⇒ 損金(措置法)
解約手当金:資産マイナス?(原則) ⇒(規定なし)
表裏を揃えるには、上述の「グループ法人税制」のとおり、両面から規定しなければなりません。が、(私の見落としがなければですが)、解約手当金を益金算入する旨の規定は見当たらないですよね。
「掛金納付が損金算入なら、解約手当金は当然に益金算入」というのは、文言上はいえないことになります。
では、法人税法22条の解釈論として「掛金納付は3項の損金にあたらないが、解約手当金は2項の益金にあたる」ということを導くことは可能でしょうか。
原則:掛金納付は本来は資産なので損金算入できない。
例外:措置法が特別に損金算入を認めている。
という損金側の構成を前提としつつ、解約手当金を益金と解釈するのは、極めて困難です。
掛金納付の資産性を根拠付けているのは解約手当金が戻ってくるからであり。預けた資産が戻ってきただけならば、益金とは言い難いでしょう。
措置法は、掛金納付が会計上の「費用」だと解釈しているのではなく。ダイレクトに税法上の「損金」と扱っているだけです。
この帰結を回避しようとして、解約手当金は預けた掛金がそのまま戻ってきたものではない、と性質が別だとして切り離そうとすると、今度は掛金の資産性を根拠付けるものがなくなってしまいます。
掛金納付が資産でないなら、わざわざ措置法によるまでもなく損金算入できることになってしまいます。
これらのことからすると、解約手当金が益金であることについて法令上の根拠は特にない、ということになりはしないでしょうか。
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解約手当金の益金算入を根拠付ける条文がない、などという畢竟独自の見解。一般の通念におもいっきり反することであり。
私がものすごい思い違いをしているだけのようにも思うので、実務において主張するつもりは全くありません。仮に裁判になったとして、裁判所が「アクロバティック趣旨解釈」に依拠して『益金算入当たり前!』みたいな判決を出すことも、容易に想像できるところ。
以下の高裁判決、私個人は、文言ガン無視の「アクロバティック趣旨解釈」の一味だと思っているのですが。残念ながら、一般には積極的に受け入れられているようですし。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
ということで、皆様方におかれましては、各自の信ずるところに従って税法解釈を展開されてみてください。
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
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