2024年02月19日

みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案

 この時期になっても、税制改正ネタを税制改正大綱「のみ」を素材として記述している記事、信頼性は低いと決めつけてもらってもいいと思います。

 というのも、この時期になると財務省から「法律案」が公表されます。そのため、制度の正確な理解をするためには、法律案を読み込むことが必須となります。

第213回国会における財務省関連法律(財務省)
所得税法等の一部を改正する法律案
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/213diet/st060202h.pdf
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309001.htm

 もちろん、現時点ではまだ「案」だし。法律で全てカバーされているわけでもなく。これ以降に公表される政令・省令、通達もあわせて確認する必要はあります。
 が、少なくとも、法律でカバーされる予定のものは、法律案から読み取るべきものでしょう。

 とはいえ、成立後ですら条文を読まない節税ライターさんの記事が溢れかえっている現状で、法律案にまで目を通せというのは無茶な要求なのかもしれません。
 インボイスの8割控除でデマの拡散に協力した、という前科があるにもかかわらず。更生が見込めないのが哀しい現実。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 今回、特にたちが悪いのが「定額減税」。
 成立前だというのに、先走って「特設サイト」なんてものまで作られていて。

定額減税特設サイト(国税庁)

 Q&Aワナビーの方々が大好きな「国税庁Q&A」もすでに出来上がってしまっています。
 法律案を無視して、「Q&A」だけみてあーでもないこーでもないと言うだけの記事が、これから雨後の筍のように溢れかえるのでしょう。

  理想:大綱→法律案→法律 (Q&A等は参考どまり)
  現実:大綱→Q&A (法律案・法律は見ない)


 以上は単なる前置きです。
 先日触れた「倒産防」の改正につき、法律案が公表されたのでフォローしておきます、というのが本論です。

みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱

 法律案は次のとおり。

第六十六条の十一第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。


 これを現行法に溶け込ませると、以下のとおりとなります。

第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金

2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。

3 第一項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。


 あわせて適用時期に関する経過措置は以下のとおり。

(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例に関する経過措置)
第五十三条 新租税特別措置法第六十六条の十一第二項の規定は、法人の締結していた同項に規定する共済契約につき令和六年十月一日以後に解除があった後同項に規定する共済契約を締結した当該法人が当該共済契約について支出する同項に規定する掛金について適用する。


 まあ、特にサプライズもなく。大綱に規定されたとおりの条文となっています。
 とはいえ、インボイスにおける「8割控除」のときのような例もあるわけで。立案者がヘンテコなオリジナリティを発揮していないか、きちんと確認しておく必要があります。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺

 倒産防に関しては、大綱に書かれたことを素直に条文化したものと評価できるでしょう。しかしまあ、8割控除はなんで勝手に内容変えちゃったんでしょうかね。


 それはさておき。

 すでに記事にしたとおり、通達における前納1年限定ルールや、法人税法における益金ルールとの絡みが、相変わらずスッキリしないままです。

 法律案の書きぶりからすると、たとえば、解約後すぐに再加入した場合、2年間は損金不算入ですが、そのまま払い続けていれば2年経過後からは損金算入できることになります。
 別に解約後に即再加入することが禁止されているわけでなく。ただ単に損金算入ができないというだけですので。

 で、この状態から40か月分納付後に解約した場合、結論だけでいうと、最初の2年に対応する解約手当金は益金不算入、残りは益金算入とするのが妥当だと思います。
 が、このような区分を、法人税法22条2項の益金ルールだけから導くことが可能なのでしょうか。法人税法における益金ルールと損金ルールはそれぞれ別モノであって。《オセロ思考》によって結論を導くことはできない、ということはすでに論じたとおりです。

 また、解約後2年以内に再加入して1年分前納した場合はどうなるか。文言どおりなら「支出」の時点が2年以内かどうかで判定することになるでしょうか。

 このあたり、さすがに通達で何かしら触れるような気もしますが。さて、どうなるでしょう。

みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
posted by ウロ at 11:23| Comment(0) | 法人税法
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