みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
インボイスの8割控除でデマの拡散に付き合わされたというのに、また同じことの繰り返し。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
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タイトル記載の疑問、ちらほら見かけますが、節税ライターの方々の記事では、下記「国税庁Q&A」の記述をなぞるだけで終わりがち。
2−4 給与所得者における定額減税の適用選択権の有無
問 給与所得者が、主たる給与の支払者のもとで定額減税の適用を受けるか受けないかを、自分で選択することはできますか。
[A] 令和6年6月1日現在、給与の支払者のもとで勤務している人のうち、給与等の源泉徴収において源泉徴収税額表の甲欄が適用される居住者の人(その給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している居住者の人)については、一律に主たる給与の支払者のもとで定額減税の適用を受けることになり、自分で定額減税の適用を受けるか受けないかを選択することはできません。
ここには「定額減税」としか書かれておらず。
では「月次減税はしないで年調減税で精算する」という選択をすることは許されるか、という疑問に対して、これだけ読んでもどうしたって結論は出てきません。
そこで、条文を確認する必要があります。
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年調減税を省いても、月次減税だけで相当なボリュームあるのですが、必要箇所に絞って引用。1年限りなので、ということで「措置法」に規定されており、珍しく措置法の本領発揮という感じ。
新租税特別措置法第四十一条の三の七(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)
1 令和六年六月一日において給与等(所得税法第百八十三条第一項に規定する給与等をいう。以下この条及び次条において同じ。)の支払者から主たる給与等(給与所得者の扶養控除等申告書(同法第百九十四条第八項に規定する給与所得者の扶養控除等申告書をいう。第三項第一号及び第二号並びに次条第二項第二号において同じ。)の提出の際に経由した給与等の支払者から支払を受ける給与等をいう。以下この項及び次項において同じ。)の支払を受ける者である居住者の同日以後最初に当該支払者から支払を受ける同年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、同法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。次項及び第五項において「第一回目控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額は、当該所得税の額に相当する金額(以下この項及び次項において「第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から給与特別控除額を控除した金額に相当する金額とする。この場合において、当該給与特別控除額が当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額を超えるときは、当該控除をする金額は、当該第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額とする。
2 前項の場合において、給与特別控除額を第一回目控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額から控除してもなお控除しきれない金額(以下この項において「第一回目控除未済給与特別控除額」という。)があるときは、当該第一回目控除未済給与特別控除額を、前項の居住者が第一回目控除適用給与等の支払を受けた日後に当該第一回目控除適用給与等の支払者から支払を受ける令和六年中の主たる給与等(同年分の所得税に係るものに限り、所得税法第百九十条の規定の適用を受けるものを除く。以下この項において「第二回目以降控除適用給与等」という。)につき同法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額に相当する金額(以下この項において「第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額」という。)から順次控除(それぞれの第二回目以降控除適用給与等に係る控除前源泉徴収税額に相当する金額を限度とする。)をした金額に相当する金額をもつて、それぞれの第二回目以降控除適用給与等につき同節の規定により徴収すべき所得税の額とする。
3 前二項に規定する給与特別控除額は、三万円(次に掲げる者がある場合には、三万円にこれらの者一人につき三万円を加算した金額)とする。
一 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者(所得税法第二条第一項第三十三号の四に規定する源泉控除対象配偶者をいい、居住者に限る。第四十一条の三の九第三項第一号において同じ。)で合計所得金額の見積額が四十八万円以下である者
二 給与所得者の扶養控除等申告書に記載された控除対象扶養親族(所得税法第二条第一項第三十四号の二に規定する控除対象扶養親族をいい、居住者に限る。次条第二項第二号及び第四十一条の三の九第三項第二号において同じ。)
三 第五項に規定する申告書に記載された同一生計配偶者(第一号に掲げる者を除く。)
四 第五項に規定する申告書に記載された扶養親族(第二号に掲げる者を除く。)
4 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。
このうち特に第4項の書きぶりが重要かと思います。
すなわち、定額減税という独立の減税項目を追加するのではなく。給与源泉できる金額をダイレクトに減らすこととしています。
こんなこと、わざわざ第4項を設けなくても、第1項の書きぶりからだけでもその趣旨は読み取れるようにも思えます。が、わざわざ「みなす」などという規定でダメ押しをしているわけです。
同項にいう「所得税法第四編第二章第一節」には複数条文がありますが、メインとなるのは以下の規定かと。
所得税法第百八十三条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
同条にいう「所得税」が、上記の第4項によって「月次減税後の所得税」に置き替えられるということになります。
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この書きぶりを念頭において、事案に即して検討してみます。
たとえば、月次減税を適用した場合としなかった場合とで、会社全体の徴収税額が次のとおりになったとします(一度で全額控除しきれたとする)。月次減税しない場合は、12月に年調減税で反映することになると。
2024年 6月分 〜(略)〜 2024年12月分
月次減税する 70万円(▲30万円) 100万円
月次減税しない 100万円 70万円(▲30万円)
どのタイミングで減税しようが、年間通した税額は同額となります(全員が月次・年調とも対象で人員変動なかったとして)。
が、6月分の源泉税と12月分の源泉税とは別モノとして扱われます。なので、月次減税を適用しなかった場合、形式上は6月分は30万円の「納付しすぎ」、12月分は30万円の「納付不足」ということになります。
これを税務署側で勝手に相殺してくれるわけではなく。もし充当してほしいなら、あらためて6月分で月次減税を適用した場合の税額を算出して、充当の届出をしなければならないはずです。
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『◯◯しなかったら税務署にバレますか?』的な挨拶文がありますが。月次減税に関しては「ダダ漏れ」だと思います。
たとえば、5月分と6月分の源泉税納付書を比べてみて、「支給額・人員」が同程度だとして「納税額」も同程度だとしたら、『この会社、月次減税してないな。』とモロバレです。
通常は、実地調査に入って資料を突き合わせることで指摘事項を上げていくのがメインかと思います。が、定額減税については、税務署の手元資料だけで容易に釣り上げることが可能となっています。
源泉データから抽出しておいて、年末調整が終わったころに対象会社に一斉にお手紙(お尋ね)出すだけで、入れ食い状態。
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あとは税務署がそこまで本気でやるかどうかの話です。
ただでさえクソ忙しいであろうに、今年限りの制度のためにそこまで本気をだすか?とも思えます。が、大綱発表直後から、特設サイト・リーフレット・Q&A・様式・動画・全国説明会などなどを次々と繰り出してくるなど、相当なリソースを投入しています。インボイス施行直後の確定申告時期などという地獄の中で、定額減税の準備もやらされているわけです。
ここまでのことをやらされておきながら、我々納税者が真面目に月次減税しなかったとしたら、八つ当たり・逆恨みくらいされてもおかしくないでしょう。
あるいは、コロナ禍で激減した調査実績をリカバリーするため、定額減税で取り戻そうとするかもしれません。調査経験積めていない新米調査官の実地教育にもちょうどよさそうですし。
と、こんなものはあくまでも私の妄想にすぎませんが、「年末調整でやればいいんじゃない」などとお気軽に無責任なことは言いにくいわけです。
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もう一点論点があるのですが、記事を分けます。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(労務編)
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