2024年08月19日

『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)

 税理士がこれをイジるには、かなりの季節外れ感がありますが。

 誰が所得控除を受けられるかについては、暗記で済ませている方が多いでしょうか。あるいは、実務的には「まあドンマイ」って感じで、あまり厳密に処理していないか。

 私が同論点につき整理しておこうと思ったのは、季節外れの《年末調整・確定申告お役立ち記事》を書こうというつもりからではなく。
 それなりの意図があってのことですが。ひととおり整理が終わってから、可能であれば軽く触れるつもりです。

 ということで、以下では、ひたすら条文引用だけに終始します。
 なお、《支払系》の所得控除についてはややこしいところがあるため次回にまわし、今回は《支払系》以外を扱った前座記事となります。


 以下の条文引用は、「誰が」や「誰の」といった観点のみから切り取ります。要件全部を網羅したものではありませんのでご注意。


第七十二条(雑損控除)
 居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産()について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合


→雑損控除
 ・本人が所有する資産
 ・本人と生計一の配偶者が所有する資産
 ・本人と生計一の親族が所有する資産

 本人を基準に、同人と生計一の配偶者か親族であればOKとなっています。
 ただし、所得要件として「総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が48万円以下」である必要があります。
 他の控除と異なり、「同一生計配偶者」「扶養親族」という定義を使っていないのは、所得要件が「合計所得金額」ではないからです(なお、重複の場合の調整規定は省略)。


第七十九条(障害者控除)
1 居住者が障害者である場合
2 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が障害者である場合
3 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が特別障害者で、かつ、その居住者又はその居住者の配偶者若しくはその居住者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている者である場合


→障害者控除(障害者、特別障害者)
 ・本人が(特別)障害者
 ・同一生計配偶者が(特別)障害者
 ・扶養親族が(特別)障害者

 雑損控除と異なり、「同一生計配偶者」「扶養親族」という用語を使っているため、2条1項33号・34号の定義に従います。

  同一生計配偶者:生計一、青色事業専従者等除く、合計所得金額48万円以下
  扶養親族:親族+α、青色事業専従者等除く、合計所得金額48万円以下
       (「+α」という表現はご容赦ください。民法上の親族以外も含まれます)

 雑損控除の場合も同じく所得48万円以下なのに、こちらでは「合計所得金額」を使うことになっています(以降の所得控除も「合計所得金額」です)。

→障害者控除(同居特別障害者)
 ・同一生計配偶者が特別障害者で、本人or本人と生計一の親族と同居
 ・扶養親族が特別障害者で、本人or配偶者or本人と生計一の親族と同居

 たとえば、「本人・配偶者・親族3人とも生計一だが配偶者・親族が同居で本人別居」という場合に、配偶者が特別障害者であれば配偶者は「同居特別障害者」に該当しうる、ということです。本人と「生計一」の関係である必要はありますが、必ずしも本人と「同居」していなくてもよいことになります。
 また、「本人・親族の2人が生計一で配偶者とは生計別、なのに配偶者・親族が同居で本人別居」という場合に、親族が特別障害者であれば親族は「同居特別障害者」に該当しうる、ということになります(実際にそういう家庭があるかどうかは別として)。

 「生計一」「同居」が誰と誰との間に要求されるか、「所得要件」が誰に課されているか、という点に気をつけながら条文を読む必要があります。


第八十条(寡婦控除)
 居住者が寡婦である場合

第八十一条(ひとり親控除)
 居住者がひとり親である場合

第八十二条(勤労学生控除)
 居住者が勤労学生である場合


→寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除
 このあたりは、2条の定義規定をそのままあてはめるだけです。中身は省略します。


第八十三条(配偶者控除)
 居住者が控除対象配偶者を有する場合


→配偶者控除
 これも2条の定義規定どおりです。

  控除対象配偶者:同一生計配偶者、本人の合計所得金額1000万円以下


第八十三条の二(配偶者特別控除)
 居住者が生計を一にする配偶者(第二条第一項第三十三号(定義)に規定する青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が百三十三万円以下であるものに限る。)で控除対象配偶者に該当しないもの(合計所得金額が千万円以下である当該居住者の配偶者に限る。)を有する場合


→配偶者特別控除
 2条が出てきますが、ここでは「青色事業専従者等」の定義を使っているだけです。
 対象配偶者の要件をそのまま順番に並べると、
 ・本人と生計一
 ・青色事業専従者等以外 
 ・配偶者の合計所得金額133万円以下
 ・控除対象配偶者以外
 ・本人の合計所得金額1000万円以下
となります。

 よくある、配偶者控除と配偶者特別控除が一体となった控除額一覧表を見ると、配偶者控除と地続きのように思えます。が、配偶者特別控除の条文の規定ぶりはなかなかきちゃない。


第八十四条(扶養控除)
 居住者が控除対象扶養親族を有する場合


→扶養控除
 2条の定義規定どおりです。

 控除対象扶養親族: 扶養親族(居住者か非居住者かで範囲が異なる)


 以上、《支払系》以外ということで抽出しましたが、このうち雑損控除の配偶者・親族の絞り込みが、その他の所得控除と毛並みが異なっています。

 雑損控除の場合、災害などの《非日常系》で使われるものであることから、
  ・青色事業専従者等であってもよい。
  ・所得要件は繰越控除後の総所得金額等を使う。
と、適用範囲をほんのり広げることとしているのでしょう。

 雑損控除自体、非常時にしか使われないし、総所得金額等、合計所得金額といった所得の違いもあまり意識されないし、ということからすると、配偶者・親族の範囲をその他の所得控除と同じだと誤解している人が多いかもしれません。

 所得控除の中でも、雑損控除は《非日常系》、それ以外は《日常系》と捉えておくと、違いがあることが理解できるでしょうか。

『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
posted by ウロ at 09:00| Comment(0) | 所得税法
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