2024年03月04日

みんな大好き!倒産防(その7) 〜中退共もお好きでしょ

 前回は所得控除である「小規模共済」と比較しました。

みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ

 今回は、同じ必要経費グループである「中退共」と比較します。


 まずは、前座(失礼)としての所得税法。

・所得税法 第二十七条(事業所得)
1 事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
2 事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする。

・所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。


 法律レベルでは、中退共専用の規定があるわけではなく。
 政令に、それ用の規定がでてきます。

・所得税法施行令 第六十四条(確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の取扱い)
1 事業を営む個人又は法人が支出した次の各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等は、当該各号に規定する被共済者、加入者、受益者等、企業型年金加入者、個人型年金加入者又は信託の受益者等に対する給与所得に係る収入金額に含まれないものとする。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者のために支出した掛金(第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法(昭和三十四年法律第百六十号)第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付した金額を含む。)
2 事業を営む個人が、前項各号に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等を支出した場合には、その支出した金額(略)は、その支出した日の属する年分の当該事業に係る事業所得の金額の計算上、必要経費に算入する。


 規定が納められている場所からも分かるとおり、これは「給与所得」に関する規定です。コピペ元間違えたわけではなく。2項までお読みください。
 1項の「掛金は給与所得の収入金額としない」というのがメインです。2項はオマケみたいな扱いです。

 倒産防が、措置法様によって特別に必要経費扱いして頂いている感丸出しなのに対して。
 中退共の場合、もともと必要経費であるものを政令で確認しただけなのか(確認規定)、それとも、必要経費でないものを政令によって特別に必要経費扱いして頂いているのか(創設規定)。この規定の位置づけや書きぶりだけでは、読み取ることが困難です。

 それはともかく、政令によって中退共掛金は必要経費に算入することになっています。
 では、通達にはどのような規定があるかというと。
 
・所得税基本通達 法第37条((必要経費))関係〔その他の共通費用〕
37−29(退職金共済掛金等の必要経費算入の時期)
 令第64条第1項第1号から第6号まで《確定給付企業年金規約等に基づく掛金等の取扱い》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金又は信託金等(以下この項において「掛金等」という。)は、翌年分以後の掛金等を前納した場合を除き、現実に支払(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については、共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)をした日の属する年分の必要経費に算入する。ただし、その年中において支払期限の到来した掛金等を未払金として計上している場合において、その年分の確定申告期限までに当該掛金等の支払をしたときは、当該支払期限の到来した日の属する年分の必要経費に算入することができる。
(注) これらの掛金等について現実に支払をするまで必要経費に算入しないこととするのは、これらの掛金等を所定の期日までに支払わない場合には、その契約が解除され、未払掛金等の支払を要しないこととなるからである。

37−30(前納掛金等の必要経費算入)
 37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
 前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)


 37-29は、小規模共済通達の74・75-1の(1)に対応するものです。
  ・現実に支払ったときに必要経費算入
  ・前納した場合は除く
  ・納期到来分は、確定申告期限までに支払えば未払計上でも算入してよい
となっています。
 未払の扱いが、小規模共済、倒産防にはない特有の規定です。同時に、法人とも異なる、個人特有の規定でもあります。

 37-30が、小規模共済通達の74・75-1の(2)に対応するものです。
 こちらは小規模共済と同様で、納付期限が到来したものだけ必要経費になるとしています。


 さて、前納1年はどうなっているかというと。

37−30の2(短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。


 明記はされていないのですが、置き場所からするとこれを使えということなのでしょう。節税ライターの皆さんが大好きな「短期前払費用の特例」が、こんなところに出てきました。

 中退共専用の規定は用意されておらず。中退共が「一定の契約」云々にあたるのかどうかよく分かりません。運営のサイトでも、前納の税務上の扱いについては何も触れていないですし。

9-2-1.掛金は税法上どのように取り扱われますか?(独立行政法人勤労者退職金共済機構)

 が、一応これが使えると捉えておきます。


 前回の小規模共済は「所得控除」であったことから、倒産防とは違う規律であったとしても、それなりに理屈づけることはできそうな感じではありました。他方で、中退共は倒産防と同じ必要経費グループだというのに、通達の書きぶりが異なるわけです。
 単に書きぶりが異なるだけならまだいいのですが、前納1年を算入するには、倒産防は無条件なのに、中退共は「短期前払費用の特例」の条件に従い継続性などが要求されることになっています。

 このような違いを説明するとしたら、倒産防と中退共とで同じ必要経費扱いとされるものの、そもそもの算入できる根拠が異なる、というしかないような気がします。
 が、通達ではそれぞれの場所にそれぞれのルールが書いてあるだけで、その根拠を何も語ってはくれません。し、頭のいい学者先生がこのような地に足のついた議論を展開してくれることなど、期待してはいけないのでしょう。

みんな大好き!倒産防(その8) 〜みんな違ってみんな好き
posted by ウロ at 12:07| Comment(0) | 所得税法
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