みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
みんな大好き!倒産防(その7) 〜中退共もお好きでしょ
整理すると次のとおり(比較のため、個人で揃えます)。
A 倒産防
措置法 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2
通達3 1年以内を除いて「掛金」に該当しない。
B 小規模共済
所法 掛金を支払った場合、所得から控除する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2 前納は到来分のみ控除できる。
通達3 1年以内であれば支払った金額としても差し支えない。
C 中退共
所令 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 現実に支払ったら。確定申告期限までに支払ったら未払計上でもよい。
通達2 前納は到来分のみ必要経費に算入できる。
通達3 1年以内であればこれを認める(短期前払費用の特例)。
(以下、2023年12月に、2023年12月分〜2024年11月分を前納したという事例を想定しながら記述します。)
◯
前納1年ルールについて以前検討したときは、A倒産防通達が、法律で認められている経費算入を制限しているのか、それとも法律を超えて経費算入を拡張しているのかが分からない、ということを述べました。
この点につき、B小規模共済通達・C中退共通達の書きぶりと比べると、次のことがいえそうです。
すなわち、BCとも、通達2によって、法律上はあくまでも充当分だけを控除・算入できると解釈しています。そのうえで、通達3により1年分の控除・算入も認めてあげる、となっています。
他方で、Aでは通達2に相当するものがなく。通達3で、措置法上の掛金が「前納1年以内」なんだと解釈している、という書きぶりとなっています。
つまり、法律で認められていないものを通達で広げているのではなく。措置法の「掛金」そのものが「前納1年以内」だと解釈していることになっています。
この解釈が正しいかどうかは別として。A通達3は、その書きぶりからして緩和通達でも制限通達でもなく。ただの「解釈通達」だと自認しているものといえます。
・法令レベルのルール
A 倒産防 1年以内(措置法+A通達3による解釈)
B 小規模共済 充当分のみ(所得税法+B通達2による解釈)
C 中退共 充当分のみ(所得税法施行令+C通達2による解釈)
・通達による拡張ルール
A 倒産防 なし
B 小規模共済 1年以内(B通達3による拡張)
C 中退共 1年以内(C通達3による拡張)
◯
以上の交通整理を前提とすると、たとえば「2年分前納」した場合の取り扱い、それぞれの結論は次のとおりとなります(現実の「前納上限」はさしあたり無視します)。
A 倒産防
1年超は掛金に該当しないので、全額必要経費算入できない。
B 小規模共済
B通達2により、充当分のみ所得控除できる。
C 中退共
C通達2により、充当分のみ必要経費算入できる。
BCは、通達2があることにより、充当分だけ控除・算入できることになります。他方で、Aでは、1年超はそもそも掛金に該当しないとされてしまっており、通達2に対応するものがないので、全額損金算入が否定されるということになります。
このような違いが妥当かどうかは議論の余地がありますが、通達を丸呑みするならば、このような結論となるはずです。
◯
倒産防通達がこのようなものだとして。今回の改正で追加される「2年制限ルール」と現行の倒産防通達との関係も気になるところ。
次のような事例ではどうなるでしょうか。
【事例】
解約から1年11ヶ月後に1年分前納した。前納した1年分のうち11ヶ月分は必要経費算入できるか。
改正法では、2年経過までに「支出する」と書いてあるので、解約〜支出までが2年空いているかどうかによって判定されることになると思われます。
この事例では、納付月の1ヶ月分を除く11ヶ月分は、解約から2年経過後に毎月充当されていくものです。とすると、充当された各時点で「支出した」ことになり、それぞれの月ごとに必要経費算入できるでしょうか。
この点、倒産防にはBC通達2に相当するものがありません。そのため、現実に支出した前納時にすべて「支出した」ことになります。
結果、1年分全額が2年以内に支払ったものとなるため、必要経費算入できないとなるかと思われます。
【改正後の構造】
措置法1 掛金を支出した場合、必要経費に算入する。
通達1 損金算入できるのは、現実に支払ったら。
通達2 無し。
通達3 1年以内を除いて「掛金」に該当しない。
措置法2 解約後2年以内の支出は必要経費に算入しない。
現実に支払っているし(通達1)、前納1年以内なので(通達3)、措置法1により必要経費に算入できるかと思いきや。通達2がないせいで2年以内に1年分すべてを支出していることになるため、必要経費に算入できない(措置法2)ということになります。
◯
以上は、あくまでも現行のABC通達のそれぞれの書き分けを前提として、経路依存的に辿っていったらどういう帰結になるか、を検討したものにすぎません。
これらの書き分けが本当に正当性のあるものなのかについては、何らの評価も入れていません。
例によって、この手の地に足のついた議論を頭のいい学者先生が展開してくれることは望めません。
だからといって、場末の税理士が畢竟独自の見解を唱えたところで虚無でしょう。なので、我々野良税理士は、適度な落とし所を探りつつ、有りモノでどうにか遣り繰りしていくしかないのが現状です。
しかしまあ、法解釈の権限も責務も有する裁判所が「通達の文言解釈」なんかやり出すのは、どう考えても職務放棄(だった)でしょうよ。
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習
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