2024年03月18日

みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習編

 倒産防、小規模共済、中退共の、それぞれの通達の書きぶりの違いを、事例演習を通して整理しておきます。

みんな大好き!倒産防(その8) 〜みんな違ってみんな好き

 以下では「法令・通達に記載のないものはおよそ否定される」という《ラディカル文言解釈+反対解釈》に基づいたあてはめをしていきます。
 もちろん、通達を文言解釈・反対解釈するなんてのは、法解釈のお作法を知らない阿呆のやることですが。あえてそれをやってみます。


 以下の事例では「個人が令和6年12月に掛金を納付する」という点のみ共通で、納付月数をずらしていきます。なお、現実世界の「前納上限」は無視して、あくまでも仮想例として検討します。

【事例1】
 2024年12月分(1ヶ月分)を納付した。
 12月分を必要経費算入・所得控除できるか?
(以下では「算入・控除」と略します)

  A 倒産防 必要経費に算入する
  B 小規模 所得控除する
  C 中退共 必要経費に算入する

 これは当たり前じゃん、と思うかもしれません。通達によるまでもなく、法律レベルで算入・控除できるものだろうと。

 確かに、法律の《文言解釈》によるかぎりはそのとおりです。が、そもそもこれらの掛金が算入・控除できる実質的な根拠がよく分からないわけです。どのような根拠かによって、前納した場合や収入の扱いをどうやって説明するかも変わってくるはずです。

 中退共については、一度納付したら、その後解約してももはや事業主の元に戻ってくることはないので、算入されるのはまだ分かります。
 他方で、退職金の積立である小規模共済や、納付40ヶ月で返戻率100%に達する倒産防が、なぜ全額算入・控除できるのかがよく分かりません。

 みんな大好き《包括的所得概念》に従えば、いずれも「純資産の減少」として統一的に説明できるはずです ので、支持者の方々は、ぜひご説明いただければと思います。

 といった問題があるわけですが、以下では当月分は当然に算入・控除できる前提で進めます。

【事例2】
 2024年12月分〜2025年11月分(1年分)を納付した。
 12月分のみを算入・控除できるか?


  A 倒産防 できない(?)
  B 小規模 できる
  C 中退共 できる

 倒産防通達には月割規定がないため、12月分のみ算入するということはできません。倒産防の場合は、納付した分全額算入する/全額算入しないのいずれかになると。

 のはずなんですが。「明細書」に12月分だけを記載したらどうなるでしょうか。
 倒産防通達の書きぶりからすれば一部算入は不可能なはずです。が、運営が出している明細書によると、「当年に支出した負担金等の額C」と「同上のうち必要経費に算入した額D」を別々に記入することになっています。

特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書(国税庁)

 そこで、上に1年分の金額、下に1ヶ月分の金額だけ記載すれば、12月分だけ算入することができそうです。これは、国税庁ですら、ここまで馬鹿正直に通達を文言解釈していないということなのでしょうか。

 ただ問題は、2025年に残りの11ヶ月分(2025年1月分〜11月分)を算入できるかです。
 この点は「当年」に支出していない以上、明細書に記載できる額がないので、算入できないとなるのでしょう。
 これ、月割規定がないと分かった上であえて二段に分けているとしたら、罠みたいなものでかなり性格が悪い。

【事例3】
 2024年12月分〜2025年11月分(1年分)を納付した。
 1年分全額を算入・控除できるか?


  A 倒産防 する
  B 小規模 差し支えない
  C 中退共 認める(継続適用)

 それぞれ言い回しが異なります。倒産防については「できる」ではなく「する」と書かれています。
 もし算入したくないのであれば、「明細書」を添付しないことによって形式要件を外すことになるでしょうか。が、支出年度である2024年に算入しなかったら、2025年には算入できなくなります。

 また、明細書を添付しないことによって算入しなかったとして、これに対応する「解約手当金」は当然に収入に算入しなくてよいことになるでしょうか。
 「収入金額/必要経費」の判定を、単純な《オセロ思考》によってよいのか、についてはすでに検討したところです。「明細書を添付しない」という形式要件を満たすかどうかによって、解約手当金の収入該当性という実質要件の帰結が左右される、なんてことがあるでしょうか。

【事例4】
 2024年12月分〜2026年11月分(2年分)を納付した。
 12月分を算入・控除できるか?


  A 倒産防 できない(?)
  B 小規模 できる
  C 中退共 できる

 【事例2】と同じ帰結になります。

 倒産防通達では、「前納1年以内」以外は掛金に該当しないと書かれているため、本事例では措置法上の掛金を支払っていないと扱われることになります。とすると、「当年に支出した負担金等の額C」が存在しないとして、明細書Dに12月分だけ記載するというテクニックが使えないことになりそうです。

【事例5】
 2024年12月分〜2026年11月分(2年分)を納付した。
 うち1年分を算入・控除できるか?


  A 倒産防 できない
  B 小規模 できない
  C 中退共 できない

 いずれも、通達の書きぶりからは、前納した掛金が「1年以内」のものでないかぎりは前納規定が適用されないと読めます。
 ただ、小規模共済、中退共は月割規定があることで充当年度が到来すれば算入・控除できるのに対し。倒産防は月割規定がないため、いつになっても算入できることにはならない、ということになります。


 以上、通達の文言解釈+反対解釈から導かれる帰結を、馬鹿正直に記述しただけのものとなります。

 それぞれの帰結が妥当なのか、特にAとBCで違いがあることはどのように説明ができるか、などよく分からないところが残ったままです。

みんな大好き!倒産防(その10) 〜月割できる奴は誰だ!
posted by ウロ at 12:58| Comment(0) | 所得税法
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