2024年03月25日

みんな大好き!倒産防(その10) 〜月割できる奴は誰だ!

 いやまさか、節税ライターの方々が噛んで噛んで、味のしなくなっている倒産防ネタについて、ここまで続くとは思っていませんでした。
 ので、タイトルも「続」「続々」なんてつけていたのですが。足りなくなって、あとから「その◯」に変えることとしました。

みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習

 何を論じていたかを整理すると次のとおり。当初は法人想定だったのが、小規模との対比のため個人へ移りました。そのまま中退共も個人前提で対比をしました。

 その1 倒産防(法人) 損金、前納
 その2 倒産防(法人) R6税制改正大綱
 その3 倒産防(法人) 条文構造、費用性
 その4 倒産防(法人) 益金/損金
 その5 倒産防(法人) R6改正法律案
 その6 倒産防(個人) 小規模(個人)との対比
 その7 倒産防(個人) 中退共(個人)との対比
 その8 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
 その9 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比

 その9までで漏れているのが「中退共(法人)」。なので、今回はこの条文を貼り付けるところから始めます。

 その10 倒産防(法人) 中退共(法人)との対比


 損金算入できることについては、中退共(個人)と同様、政令に規定されています。

法人税法施行令 第百三十五条(確定給付企業年金等の掛金等の損金算入)
1 内国法人が、各事業年度において、次に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は信託金等若しくは預入金等の払込みに充てるための金銭を支出した場合には、その支出した金額(第二号に掲げる掛金又は保険料の支出を金銭に代えて株式をもつて行つた場合として財務省令で定める場合には、財務省令で定める金額)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は所得税法施行令第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者(事業主が退職金共済事業を行う団体に掛金を納付し、その団体がその事業主の雇用する使用人の退職について退職給付金を支給することを約する退職金共済契約に基づき、その退職給付金の支給を受けるべき者をいう。)のために支出した掛金(同令第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付する金額を含む。)


 中退共(個人)は「給与所得」のおまけと規定されていました。が、中退共(法人)は、きちんと損金のところに規定されています。

 法令レベルではこれだけ。では、通達はどうなっているかというと。

法人税基本通達 9−3−1(退職金共済掛金等の損金算入の時期)
 法人が支出する令第135条各号《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は預入金等の額は、現実に納付(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)又は払込みをしない場合には、未払金として損金の額に算入することができないことに留意する。


 専用の通達はこれだけ。現実の納付が必要で未払は不可だと。
 当然といえば当然ですが、中退共(個人)にあった「確定申告期限までに納付したら未払でもOK」というイカれた例外ルールは、中退共(法人)には存在しません。

 前納については専用規定がありません。ので、中退共(個人)同様、汎用規定である「短期前払費用の特例」が使えるものと捉えておきます。

法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。



 中退共(個人)との比較で特徴的なのが、月割規定が存在しないことです。

所得税基本通達 37−30(前納掛金等の必要経費算入)
 37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
 前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)


 月割規定の有無について、その他制度を含めて並べてみると次のとおりとなっています。

【月割規定の有無】
 倒産防(法人) ×
 倒産防(個人) ×
 中退共(法人) ×
 中退共(個人) ◯
 小規模(個人) ◯

 そうすると、法人が中退共を前納した場合、月割で算入することはできないということでしょうか。


 前座として、月割規定がないからといって当然に「月割はできない」と解釈されるわけではない、ということを説明しておきます。

 ここまでの記事では、通達を丸呑みにした上で、法にも通達に月割規定がないということは、法の趣旨として月割をしないという意味だという前提で記述してきました。
 が、規定がない場合に「文言解釈」から導かれることは「規定がない」というだけです。「月割りをする」とか「しない」という結論までいくには、文言解釈以外の解釈操作が必要となります。
 結論として「月割しない」というのであれば、それは「月割をすべきでない」という価値判断のもと反対解釈をしていることになります。規定がない、というただそれだけから結論を導いているわけではありません。

 ただの邪推ですが、中途半端に「要件事実論的思考」が頭に入っていると、『不明な場合は不適用に決め打ちしてもよい』と誤解してしまうような気がします。
 が、要件事実論で決め打ちできるのは、あくまでも事実認定レベルで真偽不明となった場合の話であって。法解釈レベルにおいては、解釈権限を有する裁判官が、自己の責任において一定の結論を出さなければなりません。

 近時の民法の教科書の中には、やたらと要件事実論に阿った記述をしているものがあり。そのせいで、実体法レベルの要件と、訴訟で使う用に改変された要件事実とを混同してしまうのかもしれません。
 一緒くたにしてしまうの、短期間で民法も要件事実論も学習するには効率的なやり方かもしれません。が、別々のレベルの問題であることは、最初の学習段階でしっかり叩き込んでおいたほうがよいと思います。

 なんでこんな余計なことを言うかというに。
 下記のような、実体法上の要件についての議論をきちんと詰めないまま、要件事実論に手を出すことで悲惨な事態に陥ってしまう状況が、見るに耐えないからです。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 実体法上の要件がふんわりしたまま、それを要件事実に翻訳するなんてできない、という基本的なお作法がどうも理解されていないように感じるわけです。

 余談ついでに。
 「租税法律主義」を根拠として『文言解釈が原則』という方々がいるのですが。ここで月割すべきかどうかを導くにあたって「文言解釈」だけではどうにもなりません。書いてないんだから。
 租税法で法解釈が問題となる場面において、「文言解釈」一本でどうにかなる領域なんてほとんどないと思うのですが。やたらと文言解釈を過大評価しているように感じます。


 盛大に話がズレたので、元に戻ります。

 結論としては、月割規定がなくても月割できると考えます。

 というのも、中退共は、一度充当されたら支払った法人・事業主に戻ってこないという点で費用性が高いといえます。そのため、原則規定である法人税法22条3項2号が適用されて、「期間対応」ルールに従うことになると思われるからです。

法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


 ただ、その理屈でいうと、中退共(個人)も所得税法37条1項により「期間対応」が適用されるのに、なぜ通達に「月割規定」があるのか疑問が出てきます。

所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。


 この点は、「中退共(個人)は未払計上に関するイカれた例外ルールがあるので、原則である月割を明記しておいた。」と説明できるでしょうか。
 月割規定がなくても法の「期間対応」ルールで対応できるものの。イカれた例外ルールが使える範囲を明確にしておくため、通達にも月割規定を盛り込んでおいたと。

 もちろん、こんなものはただの後付けにすぎません。法人・個人それぞれの通達立案者がそんなことを意識して、書き分けをしたわけではないでしょう。
 が、それらしい説明にはなっていると思うので、何かで困ったらこの説明を使って、凌いでいただければ。


 では翻って、同じく月割規定のない倒産防(法人)・倒産防(個人)も、月割算入できるでしょうか。

 中退共が月割算入できることの根拠は、費用性の高いものなので法の規定する「期間対応」が適用されることによるものでした。他方で、倒産防は極めて資産性の高いものであり、措置法により無理やり損金・必要経費にしているにすぎないといえます。

 そうすると、倒産防には「期間対応」が適用されず、支払ったときに全額算入できるか全額算入できないかのどちらかしかないことになるのではないでしょうか。

 このような解釈を前提としているのかどうかよく分かりませんが、「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」「別表10(7)」では、「当期・当年に支出したもの」だけが損金・必要経費に算入できる書きぶりとなっています。
 ので、翌期・翌年になって充当されたタイミングでは、損金・必要経費に算入することはできないということになるかと。


 小規模共済(個人)については、「所得控除」のカテゴリに入っているので、あえて倒産防・中退共との整合性を求める必要はそれほど高いとは思いません。

 が、現行の所得税法が本当に《包括的所得概念》を採用しているというならば、いずれも所得の減少事由として共通するはずであり、同一の理由付けによる必要があるでしょう。

 ということで、《包括的所得概念》の支持者の方々は、今回の月割の問題にかぎらず、前納ルールや2年制限ルールなど、各制度で不揃いになっていることについて、『純資産の増加+消費』という公式から統一的な説明をしていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
posted by ウロ at 12:14| Comment(0) | 法人税法
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