2024年04月08日

自販機特例の改正(笑)改 〜令和6年度税制改正

 税制改正モノの記事なんて、しょせん水物だろうということで、新告示公表後、速やかに記事化しておきました。
 が、そのあとにあれこれ追加・修正をしていったので、日付変えて再掲します。


 あらためて、きったねえ条文構成だなあと。

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)

 R5告示第26号に改正が入って、R6告示第10号に生まれ変わりました。
 ただの告示なんだから、本法の改正とタイミング合わせる必要もないはずですが。自分のこと法律だとでも勘違いしちゃっているのでしょうか(虎の威を借る狐)。

消費税法施行令第49条第1項第1号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件

 政令が「国税庁長官の指定」なんかに委ねているの。
 省令ですら改正手続遅いからということで、より迅速に対応できるようにするため、という趣旨なはずですよね。今回も、とっとと改正すべき事情があったわけで、何を満を持して登場しているんだか。

 「委任立法」に関しては、もっぱら「内容面」で委任の趣旨から逸脱しているか云々ということが論じられています。が、制定の「時期」という観点からも、委任の趣旨に反しているかどうかを問題とすべきなのではないでしょうか。


 今回の改正で、「住所」いらない告示に「入場券特例」と「自販機特例」が追加され、これらの場合も「住所」の記載が不要になりました。

 追加ついでに、新告示では号の並び順が「施行令→施行規則」に整理されています。
 が、そもそもの話、「困難な」事由につき、施行令に規定されているものと施行規則に規定されているものとで、何か意味のある分け方がされている感じでもなく。わざわざ順番ならび変えるほどの必然性があるとは思えません。

 しかも、条文の並びは「保存→交付」なのに、公共交通機関や自販機、郵便ポストの定義は「交付」から引っ張ってきているので、条数順に並べると、むしろ落ち着きのない感じになります。

令49条1項1号(保存特例)
 イ 公共交通機関  (→3号)
 ロ 入場券等 →1号
 ハ 古物商等 →2号
 ニ 困難(施行規則へ委任) (→4号・5号・6号)

令70条の9 2項1号(交付特例)
 一 公共交通機関 →3号
 ニ 卸売市場・農協 
 三 著しく困難(施行規則へ委任) (→5号・6号)

規15条の4(保存特例)
 一 自販機・郵便ポスト (→5号・6号)
 ニ 出張旅費 →4号
 三 通勤手当 →4号

規26条の6(交付特例)
 一 自販機 →5号
 ニ 郵便ポスト →6号

 あえて整理するならば、交付されたら保存するという物事の順序にしたがって「交付→保存」とすべきなのではないかと。
 と思って、あらためてR5告示第26号を見てみると、ちゃんとそうなっている!

R5告示第26号
 一 公共交通機関 (令70の9・交付)
 ニ 郵便ポスト (規26の6・交付)
 三 出張旅費・通勤手当 (規15の4・保存)
 四 古物商等 (令49・保存)

 「古物商等」の位置がやや気になりますが、非適格者からの仕入なのに控除できるとか氏名まで省略できるとか、異常に優遇されたものであるから、一番うしろにされたんですかね。
 あるいは、古物商等だけ「業務帳簿」絡みの限定がついているからなのか。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 参考まで、旧告示と新告示とを「交付→保存」の順で対比すると次のとおり。新告示の気持ち悪さが際立つ。

 交付 公共交通機関 1号 →3号
 交付 自販機    なし →5号
 交付 郵便ポスト  2号 →6号

 保存 入場券等   なし →1号
 保存 出張・通勤  3号 →4号
 保存 古物商等   4号 →2号

 もちろん、旧告示の並べ方だけが正しいのではなく。
 そもそも「住所」は、インボイスを「保存」しないことのバーターとして要求されているものです。なので「保存特例」の順序どおりに並べるというやり方もありえます。

 1 公共交通機関
 2 入場券等
 3 古物商等
 4 自販機、郵便ポスト
 5 出張旅費
 6 通勤手当

 いずれにしても、新告示の並び順には、旧告示をあえて再編成しなければならないほどの必然性が、何ひとつない。


 当時の立案者の叡智が、すでに失われた世界。数ヶ月しか経っていないというのに。前任者が《怒りの辞職》でもして、後任に引き継ぎをしていかなかったのでしょうか。
 で、ガワだけしか理解していない後任者が、『順番めちゃくちゃ!前任者無能すぎ!』などと激しく勘違いして、現行のような浅はかさ満載の並び替えをしてしまったのか。

 「8割控除」のときにもさんざん論じましたが、当局の立案能力が著しく劣化しているように思えます。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 もしかすると、別に劣化しているわけではなく。近時の税制が複雑怪奇化しすぎて、もはや条文化困難なところまできているのかもしれません。
 で、当初の制度構想と比べて「過小課税」や「過大課税」が生じてしまった場合には、裁判所の『解釈』(という名の辻褄あわせ)で尻拭いしてもらうことを期待すると。

【過小課税尻拭い判決】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
【過大課税尻拭い判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)


 本題に戻って。

 告示はあくまでも「住所」いらない規定にすぎません。なので、告示に追加されたとて、法で要求されている「氏名」は記載しなければならないままのはずです。

 では「氏名」いらない規定である令49条2項がどうなったかというと。結局何の改正も入っていません。

令49条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
2 前項第一号に規定する国税庁長官が指定する者から受ける課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ(同号に掲げる場合に該当するものに限る。)のうち、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れについては、法第三十条第八項第一号の規定により同条第七項の帳簿に記載することとされている事項のうち同号イに掲げる事項は、同号の規定にかかわらず、その記載を省略することができる。


 「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れ」とあるとおり、古物商等だけが対象となります。あいも変わらず、古物商等だけがやたらと優遇されたままだと。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 自販機はこれに当たらないため、「氏名」を省略することはできないはずです。ところが、『Q&A』によれば氏名は記載しなくても「差し支えない」とされています。

 もちろん実務家的には、その結論に何の文句もありません。
 が、「住所」はわざわざ改正いれておきながら「氏名」はそのまま、という立法態度からしたら、「氏名」については法の原則どおり記載必要だと解釈するのが筋なのではないでしょうか(スマッシング反対解釈)。

 今後もし、交付特例・保存特例・住所特例にさらなる事由が追加されていったとしても、氏名特例に関してだけは手を加えられることなく。永遠に「差し支えない」で済ますつもりかもしれません。
 
 下記記事では『古物商等を異常に優遇しているから』、氏名は改正しなかったと邪推しておきました。さすがに穿った見立てだと自覚はあったものの、現実の改正結果をみるかぎり、単なる言いがかりとも言い難いようにも思えてきました。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)


 ・インボイス保存いらない特例(+帳簿住所いる要件)
 ・帳簿住所いらない特例
 ・帳簿氏名いらない特例
 ・インボイス交付いらない特例
が、法律・政令・省令・告示とに散らかりまくっているわけで。

 告示の中の並び順なんか気にするよりも、全体の構成を整理するほうが先なのではないでしょうか。
 「帳簿住所いる要件」(令49条1項1号柱書の括弧内)なんて、今回の告示改正により、古物商等の「業務帳簿」絡み以外のものは空文化してしまっていますし。

 が、残念ながら、「どうせお前ら条文読まないだろ」ということで、テレビとかパソコンの裏側の配線がごちゃついたままでも使えりゃいいじゃん、みたいな話なのかもしれません。

 次回は、この交付特例と保存特例の絡み具合を整理してみようと思います。
posted by ウロ at 09:56| Comment(0) | 消費税法
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