2024年05月06日

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)

 前回整理した課税/控除が、どのように機能して『消費に課税する』を実現しようとしているかを確認しておきます。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)

 記述の順番ですが、前回は条文の並びどおり
  1 国内取引
  2 特定仕入
  3 輸入
としました。

 が、これは自分の頭を使わず条項順に並べてみただけのものです(条項順列思考)。

【条項順列思考】
多田望ほか「国際私法 (有斐閣ストゥディア)」 (有斐閣2021)
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論


 今回は、乏しい自分の頭を使って検討してみた結果、
  3 輸入
  2 特定仕入
  1 国内取引
の順番で記述したいと思います。


 お約束ごとは、概ね前回と同じですが、今回の趣旨にあわせて若干変更します。

・事業者=適格請求書発行事業者とします。
・課税の対象(4条)と納税義務者(5条)は、区別せずに一体として記述します。
・今回の「事業者」は、「家事用」と書かないかぎり「事業として」を満たす者として記述します。
・特定仕入は「事業者向け電気通信利用役務の提供」を想定します。
・「保税地域からの外国貨物の引き取り」=輸入として記述します。


 まずは「輸入」から。

輸入取引.png

 なぜこれを最初にもってきたかというと。
 「国内消費」に課税したい、という消費税法の基本姿勢がよく現れているからです。

・国内に入ってきたら、問答無用で課税する。
・輸入者が消費者なら、そこで課税は終了する。
・輸入者が事業者なら、そこからさらに課税/控除が続く。

 消費税法は、本来「国内消費」に課税したいと企んでいるものの。
 消費そのものに課税するのは無理がある、ということで、その手前のどこかしらで課税しています。

 「国内取引」の場合は、それが二段階遡って、事業者の譲渡に課税することになっています。

  国内取引: 事業者A:譲渡   ⇒◯課税
       →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
        消費者C:消費行為
 
 これに対して、輸入の場合、輸入行為に課税することとしています。それゆえ、輸入者が消費者ならば、消費者に直接課税することができることになっています。ダイレクトに輸入者=消費者に課税できており。「税転嫁により消費者への税負担が予定されている」などという、淡い期待にとどまるものではありません。

  輸入: 消費者C:輸入   ⇒◯課税+税負担(確定)
     →消費者C:消費行為

 なお、消費者が納税義務者になるという意味では「直接税(主体)」ですが、課税対象が消費ではなく輸入という側面からすれば「間接税(客体)」ともいえます。

 他方で、「事業者」が輸入した場合は、事業者は輸入課税と輸入控除の適用により、消費者に税転嫁する道筋が拓かれることになります。
 「道筋が拓かれる」などともってまわった言い方をしているの。あくまでも、税転嫁の邪魔になるものを露払いしただけであって。積極的に税転嫁を促進するような仕組みは何もないからです。

  輸入: 事業者A:輸入   ⇒◯課税/◯控除
     →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
     →消費者C:消費行為

 問題は、事業者が「家事用」で輸入した場合。課税されるのは当然として、控除まで取れてしまうという点です(文言解釈のかぎりでは)。

  輸入  事業者B(家事):輸入   ⇒◯課税/◯控除
     →事業者B(家事):消費支出 ⇒税負担(控除と相殺)
     →事業者B(家事):消費行為

 この場合、Bは消費税負担なしに、輸入した物を消費できることになります(さすがに限定解釈が入るでしょうか)。


 上記例では、輸入課税と輸入控除で終わるパターンしか記述していませんが。
 国内流通する場合は「輸入」ルールから「国内取引」ルールに連結されることで、課税/控除が続いていくことになります。

 このように、「事業者(家事用)」の場合に変な穴があるものの。
 輸入ルールでは、国内に入ってきた段階ですべて課税しておき、消費者に行き着くまで課税/控除を続ける、という遣り口で、『消費に課税する』を実現しようとしています。


 次に「特定仕入」について。

特定仕入.png

 これを「輸入」の次にした理由。
 輸入ルールが《モノ》にしか通用されないせいで、同ルールが実現しようとした「国内に入ってきたら課税スタート」という機能が発揮されない穴を防ごうとした、という位置づけだからです。

 ただ、輸入と異なり、「消費者」が仕入れた場合は課税されないため、「問答無用の仕入課税」とはなっておりません(定義上、消費者は「特定仕入」できませんが、便宜的にそのように記述します)。
 
 特定仕入: 消費者C:特定仕入  ⇒×課税
      →消費者C:消費行為

 特定仕入は「事業者向け」のサービスではあるものの。あくまでもサービスの内容で判断されるので、消費者が購入することは絶無ではないでしょう。
 輸入と違って消費者が課税されないことを理屈づけるとしたら。そのようなサービスは事業者が付加価値をのっけてはじめて「消費」できるものであって、消費者がダイレクトに「消費」できるものではないから。というような説明になるのでしょうか(こじつけ)。

 本来であれば、買手の属性(事業者/消費者)で切り分けすべきところ。あえてサービスの属性(事業者向け/消費者向け)で切り分けているせいで、いまいちしっくりこないのは分かります。
 が、だからといって、『インボイスがあれば「事業者向け/消費者向け」を区別できる!』なんて物言いをするの。控えめに言って、「日本の」消費税法知らなすぎですよね(EU消費税法学・日本支部?)。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 事業者が特定仕入をした場合、原則ルールでは課税と控除の両方があることになっているものの。課税も控除もなかったことにする例外ルールもあります。
 また、控除する場合でもインボイスは不要です。

  特定仕入: 事業者A:特定仕入  ⇒◯課税/◯控除 or ×課税/×控除

 消費税法の仕組み上、事業者間取引では消費税負担が発生しない建前となっており。これを実現するには、「課税あり/控除あり」か「課税なし/控除なし」のどちらであっても問題ありません。
 ただし、「控除対象外消費税」が生じる場合は別、ということはすでに検討ずみです。

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)


 最後に「国内取引」について。

国内取引.png

 外から入ってきたモノ・サービスについては、「輸入」「特定仕入」ルールから引き続いて課税/控除がされていきます。
 また、国内で生産されたモノ・サービスについては、「国内取引」ルール始まりで課税/控除がスタートします。

 最初に書いたとおり、消費税法は、消費者の消費行為でもなく、消費者の消費のための支出でもなく、事業者の譲渡行為に課税することとしています。

  国内取引: 事業者A:譲渡   ⇒◯課税
       →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
        消費者C:消費行為

 「税負担」「予定」などという概念を使って、消費税を「間接税」と形容することには、私は違和感しかないのですが。

予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)

 ・本来は「消費」に直接課税すべき
 ・しかしそれは非現実的
 ・なので、その前の段階の「譲渡」に課税する
 ・それにともなって「譲渡者」に課税する
というかぎりで「間接税」だというのであれば、よく理解できます。

 そこに、「税負担」とか「予定」といった概念を挟まれると、そんなもん制度上何ら保障されていないじゃねえか、と思ってしまうわけです。
 『消費にもれなく課税するために、譲渡段階で課税しておくから、あとはお前らの企業努力で頑張って下流に税負担を転嫁してくださいや』という、残酷な話ですよね。


 今回は「インボイス」の話をするつもりはなかったのですが。流れで少しだけ。

 かつては、事業者が「消費者」から仕入れた場合も控除がとれてしまうことが問題となっていました。

  国内取引: 消費者C:譲渡   ⇒×課税
       →事業者A:課税仕入 ⇒◯控除

 この穴を塞ぐため、適格請求書保存要件が追加されたわけです。

 ただ、問題は、実体要件としての「課税仕入」の定義を見直すのではなく。形式要件としての適格請求書を要求したせいで。売手が「課税事業者」であっても、非適格者あるいは適格者であってもインボイス不発行だと控除が取れないこととなってしまいました(損税)。

  国内取引: 事業者B:譲渡   ⇒◯課税
       →事業者C:課税仕入 ⇒×控除 (インボイス無)

 なぜ、「誰から買っても課税仕入」というガバガバな定義を見直さず。インボイスを要求するという過剰な形式要件を要求することとしたのでしょうか。
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 消費税法
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