白石忠志先生の『法律文章読本』の、とある記述に触発されて、「事業/事業者」の機能について、整理をしてみたものです。
白石忠志「法律文章読本」(弘文堂2024)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
同書の記述、基本的に納得できるところばかりなのですが。1点だけ気になったところが。
◯
P135の「定義と機能は異なる」という項目のところ。
「定義を書け」と言われているのに「機能」を書くのは間違い、というのはそのとおりなのですが。
定義は「要件」であり、機能は「効果」である、とも言える。
と書いてあって。
「とも言える。」という語尾にどのような含みがあるのか、正確には分かりませんが。
定義=要件
機能=効果
という意味あいだとしたら、これには私は反対で。それぞれ区別して使いわけをしたほうが《便利》というのが私見。
例によって、僕らの「消費税法」を題材にして敷衍します。
◯
まず、「要件/定義」の使い分けについて。
法律上の要件には、そのままあてはめに使えるものと、解釈による《解きほぐし》が必要なものとがあります。
たとえば「事業として」のままでは、どのような事実があればそれに該当するかが不明です。なので、これに解釈を入れることで「反復、継続、独立して」と解きほぐしをします。
※ちなみに、このような、「単に文言だけから導いたわけではないが、かといって拡大・縮小しているわけでもない」という解釈手法を、私は勝手に《定義付け解釈》とよんでいます。
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈
・
このように、条文に書かれていることそのものと、そこから論者の解釈が混入することにより導かれたものとは、区別しておいたほうがよいと、私は考えています。区別できればいいので用語は何でもいいのですが、それぞれ要件/定義と名付けておくのが無難かなあと。
要件 事業として
↓ 解釈
定義 反復、継続、独立して
まあ基本的には、《区別したほうが便利》レベルの話にとどまると思います。が、武富士事件の最高裁判決(の特に須藤補足意見)では、要件と定義を混同したかのような物言いがされているところであり。
要件 住所=生活の本拠
定義 客観で判断。主観は考慮しない。
法律上の要件は「住所=生活の本拠」までであって。「主観を入れてはダメ」というのは自分のところの解釈(判例)から導いたものにすぎません。
仮に「主観」を入れて解釈したとしても、ありうる解釈の一つにとどまるのであって。法解釈の限界を超えるなんてことにはならない。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)
ということで、「要件(立法権)/定義(司法権)」という国家作用の役割分担という視角からも、それぞれを区別しておくべきだと考えます。
ただ、この役割分担に従うと、「定義規定」に書かれていることも「定義でなく要件」ということになるため、もう少し相応しい用語づけをしたいところではあります。
◯
「効果/機能」については、「要件/定義」以上に明確に区別すべきだと思っていて。
消費税法のメインシステムにおいては、「譲渡に課税」と「仕入で控除」しか書かれていません。
要件:譲渡したら ⇒ 効果:課税する
要件:仕入したら ⇒ 効果:控除する
消費税法のどこにも「消費者の消費に課税し、消費者に税負担させる」などということは書き込まれていません。
では、「消費課税」とか「消費者課税」とかいっているのはデマカセなのかというと。そのように即断することはできません。
というのも、法令に書き込まれているのは、要件に該当した場合に発生する直接的な効果だけであって(要件効果モデル)。その効果によって、最終的にどのような帰結がもたらされるかまでは書かれていません。
そこで、最終的な帰結を表す用語として「機能」を割り当てることで、法がどのように機能しているかを分析する、という視角を導入することができます。
要件: 譲渡したら 仕入したら
効果: 課税する 控除する
機能: 消費者に税負担が発生???
・
では、最終的な帰結として「消費者の消費に課税し、消費者に税負担させる」という機能がもたらされているかというと。
もはや本記事では詳述しませんが。
『消費税法の理論構造』と題する一連の記事における私の見立てでは、「売上課税ルールと仕入控除ルールの組み合わせにより、「消費支出」に相当する額に課税することまでは実現できている。が、それを「消費者」がすべて負担するような仕組みは内蔵されていない」というものとなります。
要件: 譲渡したら 仕入したら
効果: 課税する 控除する
機能:◯消費支出分の税負担が発生する
×消費者だけが税負担する
何に課税するかと誰が納税するかまでは法によりコントロールできるとして。最終的に誰が税負担するかまではコントロールできないでしょう。
予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)
・
参考まで。受贈者が税負担するのが当たり前と思うような「贈与税」であっても、必ずしも受贈者が税負担するとは限りません。
たとえばですけど。
納税意識高めなパパ活女子が、『私、手取りで1億円欲しいから、パパたちで相談して税引後で1億円になるような金額ちょうだい。』とパパたち(一般税率)にお願いしたとして、それでも贈与税はあくまでも受贈者負担だといえるのでしょうか。
要件: もらったら
効果: 課税する
機能: 受贈者に税負担が発生??
一次的な納税義務者が受贈者だというに留まり。プラス1億いくらだかの出費については、パパたちが負担しているということにならないでしょうか。
◯
今後は、『消費者に消費税を負担してほしい!』という運営側の単なる期待・願望とか、『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』というような、現実に存在する法令上の制度を前提としない空想に基づく立論などは、やめてもらって。
法令上の「効果」によってどのような「機能」が発揮されているかについて、議論をしていただければと思います。
こういう空論に基づいて議論を進めてしまうの。法学において「要件効果モデル」が強烈に幅を利かせているから、というのが私の邪推するところ(要件事実論などが特にそうでしょうか)。
「要件」と「効果」を検討するところまでで法に基づく議論が終わってしまい。あとは融通無碍に何でも語っていい、みたいな。
要件⇒効果・・・・・・⇒空論
ここに、「機能」という概念を挟むことによって、現実の法令に基づいた議論ができるはず、と私は期待しています。
要件⇒効果⇒機能
◯
以上、たったの一文だけから、あらぬ方向に話を広げるのはマナー違反な感じもしますが。思ってしまったので書かざるをえない。
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