2024年05月10日

最高裁令和6年5月7日・第三小法廷判決 速感

 「速感」なんて用語ないと思いますが。速い(ので粗雑な)感想という意味です。
 事件名は「法人税青色申告承認取消処分取消請求事件」ですが、いずれ誰かがキャッチーな事件名をつけてくれたら、反映します。

最高裁令和6年5月7日第三小法廷判決

判事事項:
 法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反しない


 例によって、論点の中身には踏み込まず、「ガワ」だけをイジります。
 「憲法」については、戸松秀典先生の教科書を読んだきり時間停止してしまっています。ので、私が何かを語れるようなものはありません。

戸松秀典「憲法」(弘文堂 2015)

 本判決は、多数意見、渡辺補足意見(漢字は失礼)、宇賀反対意見で構成されているので、それぞれ順番にイジっていきます。


 まず、多数意見。

法人税法127条1項の規定による青色申告の承認の取消処分については、その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等に照らし、その相手方に事前に防御の機会が与えられなかったからといって、憲法31条の法意に反するものとはいえない。

 「に照らし」とあるものの、「その処分により制限を受ける権利利益の内容、性質等」の中身が一切書かれていません。し、具体的にどのような事実を考慮したのかも分かりません。
 一定の事実をもとに、「権利利益の内容、性質等」を総合較量して合憲という結論を導き出しているはずなんですが。その思考プロセスが一切開示されていないということです。

 「権利利益の内容、性質等」に照らして、とはいうものの。納税者の「青色承認された地位」というものが、実体的権利/手続的権利としてそれぞれどのような内実を有するものなのか。多数意見からは全く読み取れない。

 卑近な喩えをあげておくと、
【ビーフ・ストロガノフのレシピ】
 1 まずは、牛肉、玉ねぎ、あと何かしらを用意します。
 2 なんやかんやあって完成でーす。
 
 これくらいのノリ。「いや、材料全部と作り方をちゃんと書けや!」と突っ込みたくなりますよね。牛肉にしてもひき肉でいいのか、とか。

 多数意見がなぜこんな薄ぼんやりした書き方しかできないのか。については、渡辺補足意見を検討する中で記述します。

 なお、具体的な事情に触れていないことから、これは法令レベルで合憲といっただけで、適用レベルでの合憲性を判断していないのでは、ということも気になります。が、「法令違憲/適用違憲」という概念すら、私にはおぼつかないので、指摘のみにとどめます。


 で、渡辺補足意見。

 総合較量の中で考慮した要素として、2つのものをあげています。


 ひとつは、事後手続である「審査請求手続」が充実しているということ。

 専門性を有する第三者的機関ともいい得る国税不服審判所における充実した審査請求手続

 こんなことが書いてあって。
 一体いかなる事実をもって「充実した」などと評価しているのか。およそその根拠を示してくれることはありません。
 もし法学部の学生さんが、何らの根拠も示さずに「僕は、審査請求手続、充実していると思うんだ。」などとご意見開陳したら、学者先生から「で、根拠は?」と突っ込まれること必至。

 みずほCFC事件判決における草野補足意見もそうですけど、補足意見というフィールドでは、根拠を示さない憶測どまりのものからでも意見を述べても構わない、という通念が形成されているのでしょうか。

 一般に、我が国の税法は、世界的にも稀有といえるほどに緻密で合理的な条文の集積から成り立っており、このことが税制に対する国民の信頼や我が国企業の国際競争力の礎となってきたことは税法の研究や実務に携わる者が均しく首肯するところではないかと推察する。

みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 もちろん、結果として正しい評価になっていることもあるかもしれません。が、根拠が示されていない以上、憶測呼ばわりされても文句はいえないでしょう。

 しかしまあ、「専門性を有する第三者的機関ともいい得る」って。「第三者的」といいつつ「ともいい得る」とも重ねていて。
 審判所が正規の第三者ヅラできるほどご立派なものではないのは公知の事実だとして。「第三者的」または「第三者ともいい得る」のどちらかではなく。両方使ってことさらに第三者性を薄めようとしている。

 これも、いかなる事実をもって第三者性を有している/いないのか、その根拠を明らかにしないから、こういうぼやけた書き方をせざるをえないのでしょう。


 もうひとつの考慮要素が、行政手続法の制定とか「事情の変化」も念頭に置いた上で、それでも合憲だと判断したんだよ、と。

 これだけ言われたところで、ではなぜ最終的に合憲という結論に至ったのか、思考プロセスが開示されていない以上、結局のところ理解ができません。

 『じつは・・・隠し味に・・・みりんを入れていたんですよ〜!』とか言われても、「いや、だから材料全部と作り方を教えろって言ってんじゃん!」と突っ込みたくなりますよね。

 それはともかく。問題だと思うのが、下記の書きぶり。

 多数意見は、関係規定の制定経緯等に鑑み、こうした事情の変化も念頭に置いた上で、憲法判断の変更は要しないと判断したものである。

 「だったら、そのことを多数意見に盛り込めや!」と思いますよね。

 というか、4人の裁判官が、心の中では本当にそのように思っていたとしても。多数意見に盛り込まず、渡辺補足意見にしか書かれていない、という外形的な事実からすれば、これは単に渡辺判事1人が思っただけのこと、多数意見の見解ではない、と評価するしかないですよね。

 国税庁がイタコ的に『税務通信』に語らせようが、それはあくまで民間雑誌の一記事にすぎない、というのと同じであって。補足意見は多数意見とは違う。
 まれに補足意見が「独り歩き」する現象が見られるの。「補足意見はあくまでも補足意見。」という建前を忘れられがちだからでしょうか(それでもなお、実務家的にはガン無視できないのが悲しいところ)。


 さて、翻って多数意見が総合較量の中身を開示しない理由。

 渡辺補足意見が、1人で考慮要素を追加していることからも透けて見えるように。総合較量の中身については、4人の判事の意見が一致していなかったのではないか、というのが私の邪推。

 それでもなお「合憲」という結論を一致させることができるのが、「総合較量説」の旨味であり。ともかく最終結論を出さなければならない最高裁の崇高な使命に、適合的な判断枠組みだと評価することができます(合議の厄介なルールを回避できる)。

 外野の人間からは、こういう、どんぶり勘定・ガラガラポンタイプの判断枠組み、評判がよろしくありません。が、ナカの人からすれば、結論を出しやすくするために、どうしても手放すわけにはいかないのでしょう。


 さて、そういう内部の空気を全く読まないのが宇賀反対意見。

 「原則必要説」ともいうべき見解で。事前手続を不要とするなら相当の根拠をもってこいと。
 
 長々と反対意見を展開していますが、事前手続を必要とする積極的根拠は2(1)でさらっと触れられている程度。
 残りは、事前手続を不要とする例外的な根拠を潰すことに腐心しています。

 多数意見の「総合較量説」が、建前上は天秤をフラットな状態にしてからプラス要素とマイナス要素をそれぞれ秤に載せていっているのに対し(実際は先に結論でてるんだろ、というのはさておき)。
 宇賀反対意見の「原則必要説」では、問答無用で天秤を必要説側にぐいっと傾けておいてから。不要説側に載せるマイナス要素については、秤に載せるに値するものかどうかを厳密に検証していく、というイメージ。

 根本から多数意見とは噛み合っていないので、早い段階で合議からハブられていたのではないかと心配になる(余計なお世話)。
 他の4人がワイワイきゃっきゃ言いながら「総合較量」しているところに入れてもらえない。
 だからなのかどうか、「総合較量説」とは正面から組み合わず。高裁判決のあちらこちらの記述を例外のための根拠付けだと構成し直して、そして潰し尽くす、なんて論旨の進め方をしちゃっているのか。


 未来予想として、何年かあとには「原則必要説」に成り代わるのかもしれません。が、いきなりそこまでひとっ飛びに実現するとは思えず。
 おそらくですが、「総合較量説」の枠組みを維持したうえで、当該事案のかぎりで違法(違憲?)というような判決が積み重なっていく、というプロセスが中間に必要な気がします。

 なので、宇賀先生には本当は、「総合較量説」の枠組みにおいても「違憲」までもっていける、ということを示しておいていただきたかったところ。
 普通は、1人の判事にこの役割までもを負わせるのは酷、と思われるかもしれません。が、宇賀先生は複数人いらっしゃるという噂ですので、宇賀1号反対意見(原則必要説・違憲)と宇賀2号反対意見(総合較量説・違憲)の2本を仕上げることもできたはずですよね。

 ただ、宇賀先生の場合は、退官後に立法作業に関与して、これまでのものを含め反対意見を実現するかたちで逆襲して来そうで震える。


 以上、生煮えの感想ですので、何か思い違いをしているかもしれません。

《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
規範がない。あんなの飾りです。 〜最高裁令和6年5月7日判決の法的構造
posted by ウロ at 14:29| Comment(0) | 判例イジり
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