以下では、「定額減税」との関係にかぎらず、「手取り同額型」の条文の中身を整理しておきます。以前整理した「3ヶ月以内改定」よりはシンプルなはずです。
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
◯
まずは大元の法人税法から。例によって大胆に省略入れていきます(以下同様)。
法法 第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与()のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)
法律レベルでは「額面同額型」のみが規定されていて。「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」として、政令に委任されています。
で、法人税施行令。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
1 法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(以下第六項までにおいて「定期給与」という。)で、次に掲げる改定(以下この号において「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ (通常改定) ロ (臨時改定) ハ (業績悪化改定)
「改定前後のそれぞれで同額であるもの」が「当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」に「準ずる」といえるのか。文言上の違和感はありますが、これらも損金算入できるんだと。
では、「手取り同額」はどこに書いてあるかというと。同条第2項に規定されています。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
2 法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については、定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額(当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額、当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額、健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。)を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は、同額であるものとみなす。
1項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は」となっているので、法律の委任によるものであることは明らかです。
他方で、2項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については」などとなっていて。委任されてもいないのに、勝手に「同額」の意味を拡張しているように読めるのですが、どうなんでしょう。
と疑問はありますが、これも委任の範囲内だと理解しておきます。
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では、何が「手取り」保証の対象になっているかというと。
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
と規定されています。
なんでもかんでも対象になるのではなく、限定列挙されています。
以下、それぞれ個別に検討します。
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
通常月は問題ありません。条文は以下のとおり。
所法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四十五 源泉徴収 第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収し及び納付することをいう。
所法 第百八十三条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
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では、「年末調整」による徴収・還付があった場合は反映されるでしょうか。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
ここからすると、「徴収」の場合は、年末調整の結果、実際に徴収することとなった額を反映することになるのでしょう。
「還付」の場合はどうかというと。
アでは「源泉徴収をされる所得税の額」とあることから、徴収しない以上、徴収額0円と扱うことになるのでしょう。還付額がいくらであっても、その額は反映されないと。
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では、タイトルにあげた「定額減税」についてはどうかというと。
条文の検討は、すでに下記記事で終えています。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
措法 第四十一条の三の七(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)
4 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。
これによれば、「定額減税後の金額」を所得税法における徴収税額とみなすこととしています。それゆえ、「手取り同額」においても「定額減税を反映した所得税」をもとに計算することになるのでしょう。
給与明細書上は、所得税と定額減税は別々の欄に記載することになっています(所規100)。が、両方とも含めて計算をする必要があると。
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
特に面白みもありませんが、一応条文をあげておきます。
地法 第一条(用語)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 地方税 道府県税又は市町村税をいう。
九 特別徴収 地方税の徴収について便宜を有する者にこれを徴収させ、且つ、その徴収すべき税金を納入させることをいう。
定額減税については「附則」の中に入り込んでいるし、さらに面白くもないので、「所得割から定額減税する⇒減税後の税額を特別徴収する」という構造になっているということだけ記述しておきます。
ということで、6月分の住民税が0円なら、0円を前提に計算することになります。
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
所得税法74条のほうから引用すると。
所法 第七十四条(社会保険料控除)
2 前項に規定する社会保険料とは、次に掲げるものその他これらに準ずるもので政令で定めるもの(第九条第一項第七号(在勤手当の非課税)に掲げる給与に係るものを除く。)をいう。
一 健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定により被保険者として負担する健康保険の保険料
二 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)の規定による国民健康保険の保険料又は地方税法の規定による国民健康保険税
二の二 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)の規定による保険料
三 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護保険の保険料
四 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)の規定により雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
五 国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入員として負担する掛金
六 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
七 厚生年金保険法の規定により被保険者として負担する厚生年金保険の保険料
八 船員保険法の規定により被保険者として負担する船員保険の保険料
九 国家公務員共済組合法の規定による掛金
十 地方公務員等共済組合法の規定による掛金(特別掛金を含む。)
十一 私立学校教職員共済法の規定により加入者として負担する掛金
十二 恩給法第五十九条(恩給納金)(他の法律において準用する場合を含む。)の規定による納金
で、なんで一つだけ頭出ししたか分からない、健康保険法。どれか一つは頭出ししておく、という法制執務お作法でしょうか。
健保法 第百六十七条(保険料の源泉控除)
1 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
これをみると、当月の給与から控除できるのは、あくまでも「前月分」(当月納付)の保険料だけとなっています。それゆえ、手取り同額の対象となるのも、前月分の保険料だけです。
それ以前に徴収漏れだったものを(本人同意のもと)控除した場合は、その分は手取り同額の対象とはならない、というのが《文言解釈》の帰結となります。
ここで気味が悪いのが、エです。
エ その他これらに類するものの額
一体何がエに該当するのか、未だに謎です。
もしかしたら、上述した過去分の保険料がここに含まれるのかもしれません。
が、含まれる前提で計算していたところ、含まれないと判断されて超過部分を否認されてしまっても困る。
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気になる論点がいくつかあるので、次回検討します。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その2)
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