【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
今回は、「少額特例」と電気通信利用役務の提供との関係につき、条文整理をしておきます。
・
もちろん、運営がすでに「Q&A」を出しているところであり。Q&Aワナビーの方々からしたら、「何をいまさら」って感じかもしれません。
インボイス制度に関するQ&A目次一覧
問103−3(電気通信利用役務の提供と適格請求書の保存)
が、「8割控除」のときもそうですが。運営のQ&Aでは、平気で条文と異なることを書いていることがあり。Q&Aを鵜呑みにすることはできず、条文と照らし合わせながら読む必要があります。
しかもこの設問【令和6年4月追加】となっていて。それまでの間、Q&Aワナビーの人たちはどうやって意味をとっていたのでしょうか。
◯
結論として、上記Q&Aの記述は間違っていませんでした。
以下、条文を引用していきますが、その前提として用語の確認。これがわかっていないと正確に理解できないはずです。
【課税仕入れの類型】
ア 課税仕入れ(イウ以外のもの)
イ 消費者向け電気通信利用役務の提供 を受けること
ウ 事業者向け電気通信利用役務の提供 を受けること(特定課税仕入れ)
例のリーフレットしか見ていないとピンとこないかもしれません。が、用語上、電気通信利用役務の提供(を受けること)は、あくまでも「課税仕入れ」の中に含まれているものです。
国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について
「特定課税仕入れ」についても、課税仕入れの一類型であって。仕入税額控除の場面に限って、30条1項で分岐させてから同条2項で「課税仕入れ等の税額」としてまとめる、ということをやっています。
【お約束ごと】
・以下では「事業者向け」「消費者向け」と略して記述します。
・記述を簡略化するため、「特定役務の提供」は省略します。
・あくまでも類型としての括りだしなので、「事業者が」「事業として」などの要件は当然満たすものとします。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
◯
で、「少額特例」の条文。
法 附則(平成二八年三月三一日法律第一五号)
第五十三条の二(請求書等の保存を要しない課税仕入れに関する経過措置)
事業者(新消費税法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が五年施行日から五年施行日以後六年を経過する日までの間に国内において行う課税仕入れ(その基準期間における課税売上高が一億円以下である課税期間又はその特定期間における課税売上高(消費税法第九条の二第一項に規定する特定期間における課税売上高をいう。)が五千万円以下である課税期間に行うものに限る。)について、当該課税仕入れに係る支払対価の額が少額である場合として政令で定める場合における新消費税法第三十条第七項の規定の適用については、同項中「帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)」とあるのは、「帳簿」とする。この場合において、当該課税仕入れについては、前二条の規定は、適用しない。
令 附則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
第二十四条の二(請求書等の保存を要しない課税仕入れの範囲等)
1 二十八年改正法附則第五十三条の二に規定する政令で定める場合は、五年消費税法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額が一万円未満である場合とする。
法30条7項を読み替えることになっています。
法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
H28法附則53条の2にいう「課税仕入れ」、法30条7項にいう「課税仕入れ等の税額」の中に、「消費者向け」も「事業者向け」も含まれていますので、これらにも「少額特例」が適用できることになります。
ただし、「事業者向け」については、もともと「帳簿」だけでよかったのであり。わざわざ少額特例を適用するまでもないです。
なので、特定課税仕入れを除外して記述してもよかったはずです。が、書き分けをせずに少額特例の対象に含めたままとしています(ここで要件事実論における「a+b」を思い出す)。
・事業者向け ⇒帳簿のみでOK
・事業者向け+少額特例 ⇒帳簿のみでOK
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
・
ちなみに、「請求書等の交付を受けることが困難である場合」と、少額特例との関係について。
「困難である場合」ルートでいく場合には、令49条で要求されている追加の記載事項を帳簿に記載しなければなりません。
令 第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
他方で、H28法附則53条の2では、追加の記載事項が要求されていません。それゆえ、「困難である場合」に該当する場合であっても、この特例は使わずに「少額特例」を使えば、余計な記載をしないですみます。
・課税仕入れ+交付困難 ⇒帳簿+追加事項必要
・課税仕入れ+少額特例 ⇒帳簿のみでOK
少額特例を使う場合には、読み替えが起こって「困難な場合」が条文から消え去ります。なので、困難特例を使いつつ少額特例も同時に使う、ということは概念上ありえないことになります。
・
ちなみに、Q&Aには、帳簿の記載事項について、しれっと結論だけが書いてあります。
問111 (一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)
4 当該経過措置の適用に当たっては、帳簿に「経過措置(少額特例)の適用がある旨」を記載する必要はありません。
なぜこうなるかは、令49条とH28法附則53条の2の書きぶりを対比して、はじめて理解できることです。
まあ、正面から条文に明記されていないことを書いてくれているだけでも、親切だと評価すべきでしょうか。
◯
以上、「消費者向け」「事業者向け」とも「少額特例」が適用できます、めでたしめでたし。で検討を終えてはいけないのが、税法の怖いところ。
というのも、「8割控除・5割控除」については、穴塞ぎ系の条文がありました。これが「少額特例」にも及ばないのかどうか、を検討しなければなりません。
令 附則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
第二十四条(国外事業者から受ける電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
事業者が、五年施行日から令和十一年九月三十日までの間に国内において行った課税仕入れのうち、二十八年改正法第十八条の規定による改正前の二十七年改正法附則第三十八条第一項本文の規定がなお効力を有するものとしたならば同項本文の規定の適用を受けるものについては、二十八年改正法附則第五十二条及び第五十三条の規定は、適用しない。
ここで適用が排除されているのは、H28法附則52条(8割控除)と53条(5割控除)だけです。他方で、少額特例については、H28法附則53条の2後段において、8割控除・5割控除とは排他関係にあるとされています。
そうすると、「消費者向け」で排除されるのは8割控除・5割控除だけで。少額特例は適用できる、ということになります。
◯
以上をまとめると、次のとおり。
原則 8割控除・5割控除 少額特例
事業者向け 帳簿のみ ‐(H28法附則52) ◯(無意味)
消費者向け 請求書+帳簿 ×(H30令附則24) ◯
Q&A問103-3では、「消費者向け」なら少額特例が適用できるとだけ書いてあって。事業者向けについては何にも書かれていません。これは、事業者向けに少額特例を適用しても無意味だからあえて書かない、ということなのでしょうか。
が、「条文を正確に読み下す」という趣旨からは、事業者向けも少額特例の適用範囲に含まれている、ということを確認しておくことに意味があります。
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