2024年07月19日

最高裁令和6年7月18日・第一小法廷判決(外国子会社合算税制) 雑感

 結論は「まあ、そうですよね。」くらいの感想なんですが。判決で展開されている、解釈の中身がしっくりこない。

最高裁令和6年7月18日・第一小法廷判決

 以下は違和感をそのまま吐き出しただけのものです。


 最高裁の解釈は次のとおり(ABCは私が挿入)。
 ちなみに、現行法だと施行令39条の14の3第28項第5号に対応します。

A 施行令39条の117第8項5号は、措置法68条の90第1項の規定の適用が除外される場合の要件の一つである非関連者基準を、主として保険業を行う特定外国子会社等について具体化するものである。そして、本件括弧書きは、特定外国子会社等が関連者との間の保険取引に関連者以外の者を介在させた場合の収入保険料の取扱いを明確にし、上記の者を形式的に介在させることによって非関連者基準を充足させ、同項の適用が除外されることとなるのを防ぐ趣旨に出たものと解される。

B このような本件括弧書きの趣旨に加えて、通常、保険に加入する者は、保険金の支払を受けることによって経済的不利益の保障、填補を受けることを目的として、保険料を負担して保険契約を締結するものと考えられることを踏まえると、本件括弧書きは、特定外国子会社等が保険者として再保険取引を行うに際し、当該再保険取引が関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保しようとするものである場合に限り、当該特定外国子会社等が当該再保険取引から得る収入保険料は関連者以外の者から収入するものとして扱うこととしたものと解される。

C したがって、本件括弧書きにいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」とは、関連者以外の者の資産又は損害賠償責任に係る経済的不利益を担保する保険をいうものと解すべきである。



 近時の最高裁の税法解釈の傾向について、「文理解釈が重視されている」みたいな評価がされることがあります。

 が、本判決は上記の通り、
  A 本規定の趣旨は、形式的に非関連者をかます遣り口を排除するためだよ
  B 通常、保険に加入するのは経済的不利益を担保するためだよ
  C ので、非関連者の保険かどうかは、誰の経済的不利益を担保するものかで判定するよ
という解釈を展開しており。

 「まずは文理解釈から入る」という基本お作法がガン無視されています。や、「まずは」どころかどこにも文理解釈が出てこない。


 ここで私が想定しているのが、「ホステス報酬源泉徴収事件」の最高裁判決

最高裁判所平成22年3月2日・第三小法廷判決
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法

 まずは文理解釈から入って趣旨解釈でフォローをする、という基本フォーマットがきれいに展開されています。

 なぜ、本判決では、この型によらなかったのか。
 変な独自性なんて発揮してもらわずとも。型に忠実に解釈を展開してもらえれば、それで十分なはずで。
 原審の、「資産・損害賠償責任は例示だよ!」なんていうアクロバティック趣旨解釈にアテられて、逆方向に全力疾走しようとでもしたのでしょうか。


 私個人の見立てでは、「文理どおりで取りたい結論が導けるなら文理解釈を重視する。文理どおりでは取りたい結論が出せない場合は、文理解釈を軽く扱って趣旨解釈等に走る」というのが、裁判所の態度ではないかと思っていました。

 が、本件に関しては、文理解釈だけでも取りたい結論を導くことはできたはずです。すなわち、

・「(関連者以外の者が負う)損害賠償責任を保険の目的とする保険」というのは、明らかに損害保険のうち「賠償責任保険」を指している。
・とすると、「(関連者以外の者が有する)資産を保険の目的とする保険」のほうは、損害保険のうち資産を被保険利益とする保険だといえる。
・本件保険はこれらに該当しないから、非関連者基準を満たさない。
で終わらせることができます。

 で、これだけだと説得力が弱いと思うなら、平成22年最高裁判決のように、趣旨からも同じ結論だよ、とそっと添えればいいだけです。
 のに、あえて文理解釈をすっとばす、本判決の謎。


 本判決Cでは、施行令の「保険の目的とする」を「経済的不利益を担保する」に言い換えています。

 私は保険法ド素人なので、よく分かっていないのですが。
 本件のような保険って、誰かの「経済的不利益」を担保するようなものではないですよね。顧客が亡くなったからといって、クレジット債権がいきなり焦げ付くわけでもないですし。
 Bで想定されている保険の典型例は、資産が壊れたとか、損害賠償責任を負ったとか、何かしらマイナス(経済的不利益)が生じて、それを埋めるために保険金をもらう、というものでしょう(損害保険そのもの)。
 が、本件契約はそういうものではない。

 ところが、本判決のあてはめを見る限り、最高裁は、本契約は「経済的不利益を担保する」ものではあるが、それが「関連者の」経済的不利益を担保するものだからだめ、と理解しているように思えます。

 もしかすると、顧客が亡くなると回収が「ほんのり面倒になる」程度のものを「経済的不利益」と捉えているのかもしれません。が、そこまで希薄なものを「経済的不利益」だといえるならば、顧客の側にもその程度の「経済的不利益」なら生じているともいえそうです。

 また、本判決のあてはめでは、「NRFMの資産の経済的不利益を担保するもの」だから非関連者基準を満たさない、といっているのですが。

 上記のとおり「経済的不利益」というものが極めて希薄なものでよいのならば。ひとつの保険が、NRFMにとっても顧客にとっても「経済的不利益を担保するもの」に該当する可能性もあるはずです。
 とすると、「顧客の資産の経済的不利益を担保するもの」ではない、というところまで言わないと足りないのではないでしょうか。
 

 本来、本判決が展開しなければならなかったこと。

 「保険の目的」を「経済的不利益の担保」に言い換えること、などではなく。原審における「資産・損害賠償責任は例示だ」というアクロバティック趣旨解釈を、正面から叩き潰すことではなかったのではないでしょうか。

 あまたある保険の中で、あえて「資産・損害賠償責任」を保険の目的とするものだけを取り上げている以上、文言上は「限定列挙」と理解せざるをえないわけで。
 あとは趣旨解釈からも、「資産・損害賠償責任」だけに限定したことを正当化できればよいはずです。

 のに、この点については何の論証もしていない。
 上記の通り、最高裁が想定しているであろう「経済的不利益」では、大した縛りにならないのであって。むしろ、こちらを固めておくほうが重要だったのではないでしょうか。


 ただ、CFC税制の制度趣旨から辿っていっても、「資産・損害賠償責任」に限定したことを正当化するの、難しくないでしょうか。「非関連者の」のほうが重要であって、何を保険の目的とするかのほうを限定する意味って、どの程度あるのでしょうか。

 保険の種類を限定しすぎで、《過剰課税》が生じているという評価もありうるわけで。
 もしそうだすると、「みずほCFC事件最高裁判決」のごとく、「課税要件の明確性」やら「課税執行面における安定性」といった《制度外在的》な理由付けを持ち込んで、どうにか正当化するしかないでしょうか。

みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 なお、本件についても、「委任立法」の問題として論ずることもできたはずですが。そういう議論は展開されておらず。
 あちらは第二小法廷、こちらは第一小法廷と裁判体が違うといえど、どちらも広い意味では「趣旨解釈」を展開していると括ることができるわけで。
 が、その論理展開は全然違うし、私個人としても、それぞれ別の意味で違和感があります。

 その違和感の違いを正面から整理したいところですが。その心の余裕が、現状無い。


 以上、「保険(法)」に関する知識がふんわりしたまま書いていますので、正確性はまったく保証できません。
posted by ウロ at 11:37| Comment(0) | 判例イジり
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