もちろん、いまさら印紙税法の記事を書くなんて、ただの事前追悼記事にすぎません(本ブログにおける《手形法レクイエム》と同じポジションです)。
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣1983)
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印紙税法の解説書、最近どの程度出版されているのか寡聞にして存じ上げませんが。
たとえば、下記のような弁護士が書かれた書籍においてすら、印紙税法の《手続的側面》はほとんど省略されてしまっています。
鳥飼重和「実務に役立つ印紙税の考え方と実践」(新日本法規2017) Amazon
鳥飼重和「実務に活かす印紙税の実践と応用」(新日本法規2018) Amazon
もっぱら、「課税文書に該当するか」という《実体的側面》ばかりに議論が集中していて。
税務調査のところまでは触れられているのですが。その先、納税者と課税庁とで意見が物別れに終わったあと、どのように手続きが進んでいって最終的に訴訟にまで至るのか、そのことが書かれていません。
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では、「国税通則法」の解説書のほうで扱われているかというと。
印紙税法が正面から扱われることは、まあない。個別税目でいうと、「源泉所得税」がやたと幅を効かせているものばかり。
木山泰嗣「国税通則法の読み方」(弘文堂2022) Amazon
ということで、仕方がないので、以下、軽く整理をしておきます。
なおこれは、印紙税法そのものについてどうこう、ということではなく。将来的に、同じような建付けの税目が新設されたとき用の備えとしてです。
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まず、印紙税を納付する義務は、課税文書作成の時に「成立」し、それと同時に「確定」します(なお、「納税義務の成立」という概念には胡散臭さを感じていますが、それはまた別の機会に)。
つまり、印紙税の納税義務は、いわゆる「自動確定方式」によるということです(以下では「特例」の扱いは省略します)。
国税通則法 第十五条(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定)
1 国税を納付する義務(源泉徴収等による国税については、これを徴収して国に納付する義務。以下「納税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。
2 納税義務は、次の各号に掲げる国税(第一号から第十三号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。
十二 印紙税 課税文書の作成の時
3 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は、次に掲げる国税とする。
五 印紙税(印紙税法(昭和四十二年法律第二十三号)第十一条(書式表示による申告及び納付の特例)及び第十二条(預貯金通帳等に係る申告及び納付等の特例)の規定の適用を受ける印紙税及び過怠税を除く。)
そうすると、国税通則法の解説書でド派手に展開されている「源泉所得税」(自動確定方式)の議論を横流しできるのかといえば、全くそうではなく。
印紙税法 第二十条(印紙納付に係る不納税額があつた場合の過怠税の徴収)
1 第八条第一項の規定により印紙税を納付すべき課税文書の作成者が同項の規定により納付すべき印紙税を当該課税文書の作成の時までに納付しなかつた場合には、当該印紙税の納税地の所轄税務署長は、当該課税文書の作成者から、当該納付しなかつた印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額に相当する過怠税を徴収する。
7 第一項又は第三項の過怠税の税目は、印紙税とする。
納税者が印紙税を納付しなかった場合、課税庁は「過怠税」(=印紙税+印紙税×2)を徴収することとしています。そして過怠税は「賦課課税方式」に従うことになっています。
国税通則法 第十六条(国税についての納付すべき税額の確定の方式)
1 国税についての納付すべき税額の確定の手続については、次の各号に掲げるいずれかの方式によるものとし、これらの方式の内容は、当該各号に掲げるところによる。
二 賦課課税方式 納付すべき税額がもつぱら税務署長又は税関長の処分により確定する方式をいう。
2 国税(前条第三項各号に掲げるものを除く。)についての納付すべき税額の確定が前項各号に掲げる方式のうちいずれの方式によりされるかは、次に定めるところによる。
一 納税義務が成立する場合において、納税者が、国税に関する法律の規定により、納付すべき税額を申告すべきものとされている国税申告納税方式
二 前号に掲げる国税以外の国税賦課課税方式
国税通則法 三十二条(賦課決定)
1 税務署長は、賦課課税方式による国税については、その調査により、課税標準申告書を提出すべき期限(課税標準申告書の提出を要しない国税については、その納税義務の成立の時)後に、次の各号の区分に応じ、当該各号に掲げる事項を決定する。
三 課税標準申告書の提出を要しないとき。 課税標準(第六十九条(加算税の税目)に規定する加算税及び過怠税については、その計算の基礎となる税額。以下この条において同じ。)及び納付すべき税額
3 第一項の規定による決定は、税務署長がその決定に係る課税標準及び納付すべき税額を記載した賦課決定通知書(第一項第一号に掲げる場合にあつては、納税告知書)を送達して行なう。
印紙税法 第二十条(印紙納付に係る不納税額があつた場合の過怠税の徴収)
6 税務署長は、国税通則法第三十二条第三項(賦課決定通知)の規定により第一項又は第三項の過怠税に係る賦課決定通知書を送達する場合には、当該賦課決定通知書に課税文書の種類その他の政令で定める事項を附記しなければならない。
では、自動確定方式で発生・確定したはずの「印紙税」の納税義務はどこに行ってしまうのか。
印紙税法20条1項に基づいて、「印紙税」の納税義務(自動確定方式)が消滅して、「過怠税」の納税義務(賦課課税方式)に置き換わる、と理解すればよいのでしょうか。
・印紙税(自動確定) ←過怠税に吸収される?
・過怠税(賦課課税)
もちろん、結論は誰もが分かっているわけですが。それを条文からどのように導くか、ということです。
はっきりしませんが、さしあたり上記のとおり理解しておきます。
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ここまでくれば、あとは国税通則法の解説書に書かれている「賦課課税方式」についての記述に従って、不服申立てをするなり、訴訟を提起するなりすることになります。
裁決や判決をみていて、なぜ印紙税法上の争いは、「過怠税」の賦課決定処分を争うものばかりで「印紙税」本体を争うものがないのか、という疑問をもたれた方がいるかもしれません。
その理由は、「印紙税」本体の納税義務はいつの間にかどこかへ消えてしまうから、です。法人税・所得税などのように、本税が本体であるのとは、建付けが全く異なるわけです。
では、なぜこういう建付けにしたのでしょうか。
「自動確定の印紙税のままだと争いにくかろう」という親切心、なわけはないですよね。
それこそ「源泉所得税」も、不納付加算税と合算して賦課課税するという建付けでもよいと思うのですが。
2024年10月21日
印紙税法における手続論的展開 〜印紙税法レクイエム
posted by ウロ at 09:01| Comment(0)
| 印紙税法
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