2024年12月02日

内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022)

 法制度を何でもかんでもフローチャート化することに対して、私自身は極めて懐疑的。

内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022) Amazon

 下記記事では、専門家なのだから平文で書けば間違えなかったであろうことを、(共著の執筆方針に従ってか)無理にフローチャート化しようとしたことで間違ったチャートとなってしまった例と、その改善案を示しました。

法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論

 下記記事になると、完全におふざけモード(フローチャートイジり)に入っています。

フローチャートで遊ぼう。 〜フローチャート総論

 消費税法も、ご多分にもれず複雑怪奇化しているのであり。余すことなくフローチャート化するには、もはや無理がある、というのが私の見立て。


 というあたりを意識しながら、本書を眺めてみたのですが・・。

 たとえば、「特定新規設立法人」の特定要件や判定対象者につき、どのようにフローチャート化されているかを確認してみると。すでに「特定新規設立法人」に該当することの検討が終わったところから、チャートがスタートしてしまっています(P.20)。

 肝心の特定要件・判定対象者については、「用語解説」(P.300)などというかたちで、巻末に平文で書いてあるだけ(ですし、分かりやすく表現しようとしたせいか、不正確な記述になっている)。意図的なのかどうか、難解な部分はフローチャートの外に出されてしまっているわけです。

 また、「調整対象固定資産・高額特定資産」のフローチャートについて、ゴールが「3年縛り」が発動するかしないか、で終わってしまっています(P.26,27)。
 が、これは途中経過にすぎず。3年縛りが発動するとして、当該3年度において、それぞれ本則/簡易/免税のいずれとなるのかという、肝心の結論部分が書かれていません。

【作用と帰結を取り違えている】
法律解釈のフローチャート(助走編)


 私が何を意識しているかというと。

 本書では、「3年縛り」が発動した場合の効果として、フローチャート外の解説部分に、免税事業者となれないほか「簡易課税制度の適用を受けることもできません」と書かれています(P.25)。が、同制度の(簡易に対する)効果は、簡易届出の提出制限であって、簡易不適用ではありません(厳密にいうと「3年縛り」ではなく「2年提出制限」ということ)。

 これが「調整対象固定資産」の場合には、結果的に3年簡易不適用となりますが、それはあくまでも結果論です。「調整対象固定資産」が想定しているパターンだと、ちょうど結論が一致するというだけです。
 他方で、「高額特定資産」の場合は、対象資産を限定する一方で、適用パターンを無制限に広げてしまったため、2年の提出制限を受けても、3年度中に簡易が発動する隙が生まれてしまっています。
 これが立法の過誤なのか意図的にそうしているのか分かりませんが、そういう構成になっているということです。

 ゆえに、「調整対象固定資産・高額特定資産」のルールをフローチャート化するというならば。適用されるパターンを細かく場合分けして、3年度それぞれが本則/簡易/免税のいずれとなるのかを潰していかなければ、正確な理解をすることはできないはずです。

 本書のフローチャートは、スタートが遅い、または、ゴールが早いものとなっており。肝心の、難しい部分が省かれてしまっているということです。


 もし、本書が非専門家向けの「学習書」だというなら、枝葉を切り落とした基本部分だけをチャート化するだけでも十分でしょう。が、本書の「まえがき」には税賠の件数・金額が載せられていて、これら事故の対策本のつもりで執筆したとあります。

 基本を知らないなんてのはさておき。こういう枝葉の部分に潜む落とし穴に嵌まり込むのを防ぐことのほうが、税賠回避のためには必要なのではないでしょうか。
 本書の記述を信じて、縛り期間中はおよそ簡易の適用なしと思い込んで本則で申告してしまったとしたら、どう対応されるのか。


 と、偉そうにいっていますが。

 本件に関しては、私がたまたま「特定新規設立法人」「高額特定資産」あたりについて、微に入り細に入り条文を読み込んだ経験があったから気付いたにすぎません。

 もし、今から手持ちの知識で消費税法の解説書を書けと言われたら、間違って理解している箇所が、いくつも出てくるのではないかと思います。


 現行消費税法のような複雑な制度に対して、(手続的側面に限定したとしても)フローチャート単騎で突撃するのは無謀な試みであって。どうしても分かりやすく説明したいというならば、あの手この手の手法でアプローチしていかなければならないのだと、思います。
 しかも、「ロジカルシンキング」など他所の道具立てを使うにしても、直輸入するのではなく。法学の特性に合わせて微調整する必要があるでしょう。

 いずれにしても、出発点は条文にあるのであって。非効率とのそしりを受けようが、私は今後もひたすら条文読みに勤しむことにします。


 なお、私が本書のような書籍に目を通すの。決して何か新しいことを学ぼうといったつもりからではなく。
 表紙の「→」2つを見て(お気付きだろうか?)、「もしかして・・。」と思ってしまったから、です。

【表紙で気づく系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
橋内武・堀田秀吾「法と言語 改訂版」(くろしお出版2024)

 「表紙から何かを受信する」なんて、およそ無意味な特殊能力ですが。これも含めて自分ゆえ、付き合っていかざるをえない。


 あらためて、自分の条文知識を再確認するかぎりでは、まあよかったかなあと思います(強引にフォローする)。
posted by ウロ at 10:15| Comment(0) | 消費税法
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