《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編58)
これを「消費」型で説明できないか、以下試みてみます。
【事例】
A ⇒ C1 ⇒ B ⇒ C2
110 33 88
・消費者C1が、事業者Aから110で買う。
・古物商Bが、消費者C1から33で買う。
・消費者C2が、古物商Bから88で買う。
(モノは、各自お好きなものを想定してください。)
古物商等特例がない世界では、次の帰結となります。
【納税額】
A 10納税(10-0)
B 8納税(8-0)
C1の消費110とC2の消費88をあわせた金額に対応する税負担が発生しているのであり、何ら問題はないように思えます。
が、C1は、モノを使い切る前にBに売却しているのであって。C1の消費に10の税負担を課したままとすることは、過剰に思えます。
◯
この点、消費税法において、「消費者の消費に課税する」はずのところを、「事業者の譲渡に課税する」こととしている理由。
ア 個々の消費者に納税させていられない。
イ 実際に消費したかどうかを追跡しきれない。
というところにあります。
本来は「消費者の消費」に直接課税すべきところ、およそ現実的ではありません。そこで、その前段階の「事業者の譲渡」に課税しているわけです。
税制では、『みなし課税』みたいな制度が採用されることがありますが、消費税法は、制度全体が「(消費手前の)譲渡を消費とみなす」ことによって成り立っている、と表現してもよいかもしれません。
◯
これはこれで合理的な制度設計です。
が、【事例】では、C1が古物商Bに売ったことにより、消費しきっていないことが明らかとなっています。にも関わらず、「譲渡=消費」として譲渡額全額に消費税を課することは、《過剰課税》となってしまいます。
そこで、古物商等特例を導入することにより、C1が実際に消費した分のみ課税するように調整を入れることが可能となります。
「実際に消費した分」とはいっても、客観的に測定できるものは何もないわけで。Bへの譲渡額をもって消費額を算出せざるをえないでしょう。
古物商等特例を適用した結果、納税額は次のとおりとなります。
【納税額】
A 10納税(10-0)
B 5納税(8-3)
合計15の税負担となりますが、C1が消費した分7とC2がこれから消費する分8というのが、理念上の内訳です。
◯
なぜ、わざわざ「理念上の」というのかといえば。消費税が理想通りに綺麗に転嫁されるとは限らないからです。
予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)
ここでの転嫁は、「税負担」の転嫁ではなく、「税還付」の転嫁となります。
すなわち、本来、古物商Bは、C1に対し、C1が消費しなかった分に対応する3を、お国のかわりに還付してあげなければなりません。
が、皆様、消費者の立場で買取業者になにか買い取ってもらった場面を想起してください。買取価格に消費税をきっちり上乗せして支払ってもらった人なんて、いないのではないでしょうか(「事業者として」すら、ないかもしれません)。
要するに、買取業者Bは、消費者C1に還付すべき消費税をネコババしていることになるはずです(《消費税お預かり/お預け思想》による表現)。
【実際の内訳】
C1 10負担
C2 8負担
B △3ネコババ!
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編53)
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)
実情はそうだとしても、理屈の上では、古物商等特例は「消費者の消費に課税する」を実現するための、素晴らしい制度だということになります。
◯
現実はともかく、理屈の上では「消費型」によって、古物商等特例の正当性を説明することができて、めでたしめでたし。というわけにはいきません。
これ以上なんのイチャモンをつけるのか、と思われるかもしれません。
もちろん、「消費者の消費に課税する」こと自体は、極めて望ましい処理です。問題はこれ以外、免税事業者の規律をはじめとして、「消費者の消費」以外の場面で税負担が発生していることが、放置されている点です。
【消費じゃないのに税負担発生源】
・免税事業者
・非適格である課税事業者
・非課税売上対応課税仕入
・居住用賃貸建物
など。
これらが取引に介在することで、消費者の消費以外の場面で税負担が発生することになっています(この税負担を、実際に誰が負担しているかはさておき)。
にも関わらず、古物商等だけが「消費者の消費」のみに課税されるような特例が設けられていて。しかも現実には、どうやら古物商等は、「税還付」を消費者に転嫁してないっぽいわけですよね。
古物商等だけが、消費税法の理念どおりにしか課税されないことを根拠付ける理由、何もないはずです。
とすると、古物商等特例は、結局のところ《特定業種優遇税制》であることに変わりはない、と評価せざるをえません。
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