ささやかな抵抗として、所得税の還付申告を早めにやって、戻ってきたら消費税の納税に充当する、みたいなことも、まあやってもいいわけです。
ということで、以下はいつもどおり、実務上の実益のない条文イジりです。
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消費税法で、「確定申告期限」がどのように定められているかというと(以下、大胆に省略入れていきます)。
消費税法 第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
個人/法人の区別なく「課税期間の末日の翌日から二月以内」とされています(以下、法人は「12月決算」を想定します)。
「課税期間」については、以下の通り。
消費税法 第十九条(課税期間)
1 この法律において「課税期間」とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める期間とする。
一 個人事業者 一月一日から十二月三十一日までの期間
二 法人 事業年度
よって、個人・法人(12月決算)とも、12月31日の翌日から2月以内である「2月末日」が、確定申告期限となる、というのが原則となります。
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そして、法人については「提出期限の特例」があります。
消費税法 第四十五条の二(法人の確定申告書の提出期限の特例)
1 前条第一項の規定による申告書(以下この項及び第四項において「消費税申告書」という。)を提出すべき法人(法人税法第七十五条の二第一項(確定申告書の提出期限の延長の特例)の規定の適用を受ける法人に限る。)が、消費税申告書の提出期限を延長する旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、その提出をした日の属する事業年度以後の各事業年度終了の日の属する課税期間に係る消費税申告書の提出期限については、前条第一項の規定にかかわらず、当該課税期間の末日の翌日から三月以内とする。
届出により「3月以内」とすることができます。
なお、ここに引用されている法人税法75条の2の規定は以下の通り。
法人税法 第七十五条の二(確定申告書の提出期限の延長の特例)
1 第七十四条第一項(確定申告)の規定による申告書を提出すべき内国法人が、定款、寄附行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下この条において「定款等」という。)の定めにより、又は当該内国法人に特別の事情があることにより、当該事業年度以後の各事業年度終了の日の翌日から二月以内に当該各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあると認められる場合には、納税地の所轄税務署長は、当該内国法人の申請に基づき、当該事業年度以後の各事業年度(残余財産の確定の日の属する事業年度を除く。以下この項及び次項において同じ。)の当該申告書の提出期限を一月間(次の各号に掲げる場合に該当する場合には、当該各号に定める期間)延長することができる。
一 当該内国法人が会計監査人を置いている場合で、かつ、当該定款等の定めにより当該事業年度以後の各事業年度終了の日の翌日から三月以内に当該各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあると認められる場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該定めの内容を勘案して四月を超えない範囲内において税務署長が指定する月数の期間
二 当該特別の事情があることにより当該事業年度以後の各事業年度終了の日の翌日から三月以内に当該各事業年度の決算についての定時総会が招集されない常況にあることその他やむを得ない事情があると認められる場合 税務署長が指定する月数の期間
法人税法については「1月延長」、消費税法については「3月以内になる」と、効果が書き分けられているのですが、何か意味合いが異なるのかどうか。よく分かりません。
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では、個人についてはどうかというと。
消費税法の内部には存在せず、租税特別措置法に規定されています。
租税特別措置法 第八十六条の四(個人事業者に係る消費税の課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告期限の特例)
1 消費税法第二条第一項第三号に規定する個人事業者(同法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される者を除く。)のその年の十二月三十一日の属する課税期間(同法第十九条に規定する課税期間をいう。次条及び第八十六条の六において同じ。)に係る同法第四十五条第一項の規定による申告書(同条第二項の規定により提出すべき申告書を除く。)の提出期限は、同条第一項の規定にかかわらず、その年の翌年三月三十一日とする。
これでめでたく、「3月31日」を確定申告期限とすることができました。ひと安心。
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しかしなぜ、同じ申告期限の延長だというのに、法人は消費税法の中で内製、個人は租税特別措置法へ外注に出されているのでしょうか(時系列的には個人が先)。
租税特別措置法の「第六章 消費税法等の特例・第一節 消費税法の特例(第八十五条―第八十六条の七)」の他の規定を見ていただくと分かるとおり、かなり場面の限られた特例が列挙されているところ。
にも関わらず、本条だけは、個人事業者全員に問答無用で適用されるという、かなり適用場面の広い/強い規定です。
実際にどうかは別として。後づけで以下のような理屈で正当化できるのではないでしょうか。
すなわち、「申告期限の延長」というと「利子税はどうなるんだ?」と疑問に思うところです。個人の場合に利子税なんて納付したことないぞと。
国税通則法 第六十四条(利子税)
1 延納若しくは物納又は納税申告書の提出期限の延長に係る国税の納税者は、国税に関する法律の定めるところにより、当該国税にあわせて利子税を納付しなければならない。
この点、法人の延長については、消費税法に規定があります。
消費税法 第四十五条の二(法人の確定申告書の提出期限の特例)
4 第一項の規定の適用を受ける法人は、同項の規定の適用を受ける消費税申告書に係る課税期間の消費税の額に、当該課税期間終了の日の翌日以後二月を経過した日から同項の規定により延長された提出期限までの期間の日数に応じ、年七・三パーセントの割合を乗じて計算した金額に相当する利子税をその計算の基礎となる消費税に併せて納付しなければならない。
他方で、個人の延長については、租税特別措置法には利子税の規定がありません。
利子税は、国税通則法にいう「納税申告書の提出期限の延長に係る国税」に該当すれば当然に発生するのではなく。別途「国税に関する法律の定め」が必要ということです。
結果、同じ申告期限の延長でありながら、法人と個人とで効果が異なることになります。
【申告書の提出期限の延長の特例】
法人:消費税法、任意、利子税あり
個人:措置法、強制、利子税なし
この、《利子税が発生しないタイプの延長》であることの特例感を強調するために、消費税法本体ではなく租税特別措置法に盛り込んだ、というのが、それっぽい理由づけとしてイケそうですが、どうでしょうか。
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うろ覚えですが、かつて法人に延長規定がない理由として「消費税は消費者からお預かりしているだけだから」みたいなことが言われていた記憶があります。
が、個人の場合は随分昔から延長規定があったのであり。根拠薄弱な理由付けだったのでしょう。
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最初に書いたとおり、実務的には何の実益もないお話しであり。気になさらず3月31日までに申告していただければと思います。
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