2025年05月05日

大村 敦志「新基本民法7 家族編 第2版」(有斐閣2025)

 薄いほうを購入するつもりは全く無かったのですが。

大村敦志「新基本民法7 家族編 第2版」(有斐閣2025) Amazon

 体系書のほうが《無限発売延期ルート》に入ってしまったので、前哨戦として買ってみました。

大村敦志「新・家族法 たそがれ時の民法学」(有斐閣2025)
(当初は「シン・」だった気がするのですが、旬が過ぎてくれたおかげで修正されたのでしょうか)


 一通り読んだ感想。

 家族法(親族法)につき、一通りの知識がある人が、軽くおさらいをしつつ近時の法改正の動向を簡潔に押さえるには、ちょうどよい記述だと思います。

 他方で、
  「基本」というタイトル
  分量少なめ
  二色刷り
  図表が豊富
といったガワにつられて、初学者が買うのは悪手。

 というのも、この「基本民法」シリーズ、いわゆる「中二階本」または「1.5階本」といった類の本で。記述がことごとく、既存の議論を理解していることを前提としたものになっています。

 既存の議論を知っている人にとっては、新たな視点を得られるので、非常に有益です。たとえば、財産分与のパターンを、図をつかって共同事業主型・出資者型・労働者型に分類してくれているところとか。

 他方で、初学者にとっては、基本部分の記述がとてつもなく手薄なので、まあ理解しにくい。


 法学書タイトルにおいて、「基本」「基礎」「入門」「概説」とついていても、必ずしも初学者向けとは限らないという問題があります。

【一例】
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007) Amazon
前田庸「会社法入門 第13版」(有斐閣2018) Amazon

団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)

 そういった本、上級者にとってめちゃくちゃ有益なのと反比例する形で、初学者にとって理解できない度合いが深まります。

 出版社的には、購買層を広げたいがために、こういったタイトルを入れたくなるのかもしれません。が、「入門書なのにまるで理解できない」ということで、法学嫌いになる人を増産しているだけのような気もします。


 なお、個人的な民法の導入ルート。米倉先生・道垣内先生のラインが最適だと、私は思っていて。

 まず米倉先生の本を読んでみて、すんなり理解できれば入門は卒業して先に進む。理解しにくいと思ったら、説明が詳細な道垣内先生の本を読んでみる。
 これで民法入門としては十分だと思います。

 あとは、各自の目的にあわせた教材をお読みいただければ。

道垣内弘人「リーガルベイシス民法入門 第5版」(日本経済新聞出版2024) Amazon
米倉明「プレップ民法 第5版増補版」(弘文堂2024) Amazon

米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)

 こういう導入ルートを想定したときに、本書のような中二階本、どのタイミングで読むのをおすすめしたらよいのか、私にはよく分かりません。
 もちろん、有益な本であることは間違いないのですが。限られた勉強時間の中で、他に優先すべきことがありすぎるわけです。


 このような、本シリーズが初学者に相応しくないという評価。私がまともに読み込めていないから、かもと思ったりもしていたのですが。
 出版社自身の、他の民法教科書(ストゥディアシリーズ)の宣伝文句をみて、後押しをしていただけました(安心)。

ストゥディア民法 Amazon

民法の海を渡りきる、いちばん確かな海図がここに。

【民法学習の決定版がついに完結】
学界を代表する民法学者が監修した「ストゥディア」民法シリーズ、ついに全7巻完結。
豊富な図解と丁寧な解説で、つまずくことなく民法の理解が深められます。
初学者から学び直しの方までおすすめです!

もう民法学習で迷わない!挫折しない!
初学者に寄り添った丁寧な解説が特徴の「ストゥディア」民法シリーズ全7巻が完結。
豊富な事例と図解で「わかりやすさ」と「学びやすさ」を追求。
つまずくことなく民法の理解を深められるテキストです。


 これを裏読みするならば、これまでの民法の教科書への評価として、
   それほど確かな海図ではなかった
   決定版といえるものはなかった
   民法学習に迷わされていた、挫折させられていた
といっているわけですよね。

 本書に限らず、たくさんの民法教科書を出版しているにもかかわらず、この言い草。


 この宣伝文句に対する私の見立てとして、Xには次のとおり書きました。

 「いちばん確かな」とか、同出版社から出版されている他の民法教科書の立場は‥。
 陸図のいちばん、空図のいちばん、それぞれのいちばんがあるということか(みんな一等賞思想)

 売れているアーティストAの稼ぎのおかげで、同じ音楽レーベル内のその他Bらが活動できているからといって、レーベルの人が「BらよりAの楽曲が優れている」とか公言しちゃだめじゃないの、という話。

 が、ああいう宣伝文句が何の問題もなく社内を通ってしまうということは、出版社的には、音楽のような芸術品寄りではなく、iPhoneのPRO→無印→eのような工業製品的な序列があるものとして捉えているのかもしれない。

 社内闘争の一環として、Aの担当マネージャーが、Bらの担当マネージャーにマウントをカマしているということならありうるか。同じく、当該書籍の担当編集者が、他の書籍の担当編集者にマウントをカマした結果としての、あの宣伝文句といえるだろうか。


 ユーザーとして色んな書籍を購入させていただいていますが、なぜああいう宣伝文句が出てくるのか、本当のところはよく分かりません。 


 さて、上記の体系書の出版日、今のところ6月5日となっていますので、眼の前の積読本を解消しながら、大人しくお待ちすることにいたします。
posted by ウロ at 16:48| Comment(0) | 民法
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