2025年06月02日

インボイス登録申請の条文構造 〜消費税法の理論構造(種蒔き編61)

 登録申請まわりの条文、あまり面白おかしいものでもない、ということで触れずにいました。が、本則と附則の入り繰りっぷりをみるにはほどよいと思うので、一応整理しておきます。

 以下、12月決算法人のR7/01/01以降の事業年度(1年)を想定しながら記述します。なお「令和5年10月1日」絡みの特別扱いについては、もういいんじゃないということで省略します。


 まず、現時点で「課税事業者」である者が登録申請する場面です。

法 第五十七条の二(適格請求書発行事業者の登録等)
1 国内において課税資産の譲渡等を行い、又は行おうとする事業者であつて、第五十七条の四第一項に規定する適格請求書の交付をしようとする事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、税務署長の登録を受けることができる。
2 前項の登録を受けようとする事業者は、財務省令で定める事項を記載した申請書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。(略)
3 税務署長は、前項の申請書の提出を受けた場合には、遅滞なく、これを審査し、第五項の規定により登録を拒否する場合を除き、第一項の登録をしなければならない。


 基本これだけ。「登録希望日」だとか「15日前」だとかいったものは、何もでてきません。

 そのため、課税事業者が「1月1日から登録受けたい」と思っても選択することはできず。税務署長が登録してくれるまで大人しく待っていなければなりません。



 次に「新設法人」の特例です。

令 第七十条の四(登録の時期等に関する特例)
 登録を受けようとする事業者が、事業を開始した日の属する課税期間その他の財務省令で定める課税期間の初日から登録を受けようとする旨を記載した法第五十七条の二第二項の申請書を当該課税期間の末日までに提出した場合において、同条第三項の規定による登録がされたときは、当該課税期間の初日から登録を受けたものとみなす。


 たとえば、令和7年中の設立であれば、R07/12/31までに提出すれば、設立日から登録を受けたことにできます。
 ただし、あくまでも設立日を希望した場合にかぎられます。それゆえ、それ以外の日にしたい場合は、2の特例は使えません。



 免税事業者用の規定に行く前に、登録を取り消したい場合のルールを見ておきます。

法 第五十七条の二(適格請求書発行事業者の登録等)
10 適格請求書発行事業者が、次の各号に掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号に定める日に、第一項の登録は、その効力を失う。
一 当該適格請求書発行事業者が第一項の登録の取消しを求める旨の届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合
 その提出があつた日の属する課税期間の末日の翌日(その提出が政令で定める日の翌日から当該課税期間の末日までの間にされた場合には、当該課税期間の翌課税期間の末日の翌日)

令 第七十条の五(適格請求書発行事業者登録簿の登載事項等)
3 法第五十七条の二第十項第一号に規定する政令で定める日は、同号の届出書の提出があつた日の属する課税期間の翌課税期間の初日から起算して十五日前の日とする。


 「登録取消届出書」の提出日が
  ・〜R7/12/17 →R8/01/01から取消し
  ・R7/12/18〜 →R9/01/01から取消し
というように、取消しの場面では、課税期間単位でのルールがきっちり定められています。

 登録の場面ではゆるゆるなのに、足抜けする場面ではやたらと厳しくなるという不均衡。


 では、申請時に「免税事業者」の場合はどうか。
 そのへんの《税務お役立ち記事》だと、本則と附則の規律がまぜこぜに記述されていて、条文構造が見えなくなっています。そこで本記事では、本則の規律から順番に記述していくことにします。

法 第五十七条の二(適格請求書発行事業者の登録等)
2 前項の登録を受けようとする事業者は、財務省令で定める事項を記載した申請書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。この場合において、第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者が、同項本文の規定の適用を受けないこととなる課税期間の初日から前項の登録を受けようとするときは、政令で定める日までに、当該申請書を当該税務署長に提出しなければならない。

令 第七十条の二(適格請求書発行事業者の登録申請書の提出期限)
1 法第五十七条の二第二項に規定する政令で定める日は、同項に規定する課税期間の初日から起算して十五日前の日とする。
2 法第五十七条の二第二項後段の規定により同項に規定する政令で定める日までに同項の申請書を提出した事業者について、同項に規定する課税期間の初日後に同条第三項の規定による登録(同条第一項の登録をいう。以下第七十条の十二までにおいて同じ。)がされたときは、同日に登録を受けたものとみなす。


 上記1では省略しましたが、法57条の2第2項の「後段」に定めがあります。
 ここで対象とされている「免税事業者」は、これから課税事業者になることが決まっている者です。

 このような者が、課税期間初日のR7/01/01から登録を受けたい場合には、R6/12/17までに「登録申請書」を提出しなければなりません。
 が、同日までに提出さえしておけば、課税時間の初日であるR7/01/01に登録を受けたものとみなされます。これは税務署側での処理が遅れた場合に備えた措置です。

 もし提出が遅れた場合はどうなるかというと。上記1のルールに戻って、税務署長に登録していただけるのを大人しくお待ちすることになります。



 登録したけど、やっぱり「免税事業者」に戻りたい場合はどうすればよいか。

 もし「課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となった場合には、「課税事業者選択不適用届出書」を提出しなければなりません。
 さらに、法9条1項によれば「(適格請求書発行事業者を除く。)」とあるため、上記3のルールに従い「登録取消届出書」も提出しなければなりません。

法 第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
1 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


 我々は、慣用的に「免税事業者」とか「課税事業者」などと言ってしまうところ。そのため、「課税事業者選択不適用届出書」を提出したのに免税事業者に戻れないのが不自然に思ってしまいがち。
 が、正確には「法9条1項の適用を受けられるか受けられないか」ということであって。決して「ヒト」の属性ではないわけです。
 それゆえ、法9条1項の適用を受けるための制約が2つ付いている状態なので、これらを外す必要がある、と捉えるべきなのでしょう。


 余談ですが。
 消費税法が用意している「ヒト」の属性は、「事業者」と「適格請求書発行事業者」であって。「免税事業者」とか「課税事業者」は、「ヒト」の属性としては規定されていません(単なる便利用語)。
 それゆえ、「免税事業者」ではなく「小規模事業者」というのが正しい、などというのは、無意味な拘りにすぎません。ヒトの属性をヒトの属性に言い換えることに、何の意味があるのでしょうか。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 そもそも、免税事業者が「小規模」だといえるのは、基準期間(あるいは特定期間)においてであって。当該課税期間において「小規模」であるとは限りません。



 さて、免税事業者用の「経過措置」(R5/10/01〜R11/09/30)はどのように規定されているか。免税事業者をインボイス沼に引きずり込む、販促キャンペーンのルールについてです。

 ここからが附則の世界に入ります。

H28法附則 第四十四条(適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置)
4 新消費税法第五十七条の二第二項の申請書を提出した事業者(登録開始日が五年施行日から五年施行日以後六年を経過する日までの日の属する課税期間中である事業者に限る。)の当該登録開始日の属する課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課税期間、消費税法第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は同法第九条の二第一項、第十条第二項、第十一条第二項から第四項まで、第十二条第一項から第四項まで若しくは第六項、第十二条の二第一項若しくは第二項、第十二条の三第一項若しくは第三項若しくは第十二条の四第一項から第三項までの規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間及び当該登録開始日の前日までに同法第十条第一項の相続、同法第十一条第一項の合併又は同法第十二条第五項の吸収分割があったことにより消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)のうち当該登録開始日から当該課税期間の末日までの間における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、消費税法第九条第一項本文の規定は、適用しない。


 通俗的にいえば、免税事業者は「登録申請書」だけを提出すれば「課税事業者選択届出書」を提出しなくても課税事業者になれる特例、と理解されているものです。
 が、条文上の正確な効果は「法第九条第一項本文の規定は、適用しない」です。「届出があったものとみなす」とか「課税事業者とみなす」などとは書かれていません。

 消費税法においては、「あれをするとこれができない」みたいな制約があちらこちらにあります。が、何ができなくなるのかを正確に理解しておかないと、適用を間違えることになります。
 この効果が分かっていると、調整対象固定資産、高額特定資産の3年縛りが発動するかどうかも、すんなり理解できます。

【効果を書き間違えている例】
内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022)

 この効果により、法第57条の2第1項に規定されている「(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)」という制限が外れて、免税事業者であっても登録申請できることになります。

 で、免税事業者だった者が登録開始日をR7/01/01として登録を受けると、R7/12/31までは免税事業者とはなれなくなるということになります。

 なお、免税事業者が「課税事業者選択届出書」を提出した場合はどうなるかというと。
 この場合は、ふたつめの括弧で除外されているので、経過措置ルートは使えずに上記4のルールに従うことになります。


 では、その後の課税期間はどうなるのかというと。

H28法附則 第四十四条(適格請求書発行事業者の登録等に関する経過措置)
5 前項の規定の適用を受ける事業者の登録開始日の属する課税期間の翌課税期間から登録開始日以後二年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間(その基準期間における課税売上高が千万円を超える課税期間及び消費税法第九条第四項の規定による届出書の提出により、又は同法第九条の二第一項、第十条第二項、第十一条第二項若しくは第四項、第十二条第二項から第四項まで若しくは第六項、第十二条の二第一項若しくは第二項、第十二条の三第一項若しくは第三項若しくは第十二条の四第一項から第三項までの規定により消費税を納める義務が免除されないこととなる課税期間を除く。)における課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについては、同法第九条第一項本文の規定は、適用しない。ただし、登録開始日の属する課税期間が五年施行日を含む課税期間である場合は、この限りでない。


 2年間は「法第九条第一項本文の規定は、適用しない」とされています。
 一般に「2年縛り」などと称されることがありますが、ここでは届出書の提出制限ではなく。そもそも免税の規定が受けられないということになっています。

 そのため、上記3のルールに従い「登録取消届出書」を提出すること自体は制限されません。が、2年間は免税規定の適用が受けられないということになります。

 では、2年後はどうなるかというと。上記5のルールに従って、法9条1項の適用を妨げる制約が全て外せれば、免税事業者に戻ることができることになります。

 ちなみに、なぜ4項(初回縛り)と5項(2年縛り)を別項にしたのか。
 よく分かりませんが、5項の但し書きで、早期登録者にかぎって2年縛りだけを外してあげる、というのを書きやすくするためなんですかね。
 しかしまあ、「事前登録者にかぎり早期解約認めます」って、とにかく登録者数をかさ増ししたい、サブスクサービスのローンチみたいなノリですね。



 最後に、免税事業者が「経過措置」を使って申請する場合のルールについて。

H30令附則 第十五条(登録申請書の提出等に関する経過措置)
2 五年施行日後に五年消費税法第五十七条の二第一項の登録を受けようとする事業者(二十八年改正法附則第四十四条第四項の規定の適用を受けることとなる事業者に限る。)が、五年消費税法第五十七条の二第二項の申請書を提出する場合には、当該申請書に同条第一項の登録を希望する年月日(当該申請書を提出する日から十五日を経過する日以後の日に限る。次項において「登録希望日」という。)を記載するものとする。
3 前項の規定により登録希望日から五年消費税法第五十七条の二第一項の登録を受けようとする事業者について、当該登録希望日後に同条第三項の規定による同条第一項の登録がされたときは、当該登録希望日に同項の登録を受けたものとみなす。


 「登録希望日」(15日経過する日以後)を選べることができることとされています。
 また、登録が遅れた場合も「登録希望日」に登録したとみなされます。

 登録が遅れた場合の手当ては上記4のルールでもありましたが、「登録希望日」を選べるというのは、経過措置特有の制度です。
 通常のルールであれば「課税期間の短縮」を使ってコントロールしなければならないところ。経過措置ルートに限っては、課税期間をイジらずともコントロールできるということになっています。

 課税事業者(これから課税事業者になる者含む)に対する素っ気なさと比較して。どうにかして免税事業者を登録させてやろう、という思想が強すぎる。


 以上、よくある《税務お役立ち記事》だと、条文構造をごっちゃにしたまま(というか国税庁Q&Aをコピペしているだけでしょうが)、各制度が陳列されていて。適用関係がよく分からないものが多いように思えます。

 こういったものは、面倒でも一度自力で条文を解きほぐしてみると、正確な理解が得られるものです。
posted by ウロ at 09:20| Comment(0) | 消費税法
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