「顧客向けに、いかに分かりやすく説明するかの参考とする」という位置付けで利用させていただいております。
三木義一「よくわかる税法入門 第19版」(有斐閣2025) Amazon
なお、法学分野における「入門」には、本来的意味のそれと、⦅特殊用法⦆によるそれとがありますが。本記事ではあくまでも本来的意味で用います。
宍戸常寿・石川博康編「法学入門」(有斐閣2021)
団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)
ちなみに、当ブログ自体は、誰かに何ごとかを理解してもらうつもりで記事を書いているのでは、全く無く。専ら、自分の頭の整理用に、記事を作成しています(ゆえに文章が読みやすくない、という言い訳)。
◯
さて本書。
このところ毎年、年度末にかかさず改訂されていて。大学の授業で使うにはこのタイミングがベストなのでしょうが、直近の税制改正は「大綱」段階のものしか反映できないというジレンマがありそう(条文案にも間に合っていないはず)。
私自身は使用目的が上記のとおりのため、改訂のたびにではなく、一定間隔を空けて購入しているところです。
三木義一「よくわかる税法入門 第13版」(有斐閣2019)
で、今回ひさしぶりに通読してみての、所感を以下に列挙していきます。
先に予防線というか、所感の全体の方向として。
本書は、入門書であることから、ある程度正確性を犠牲にして、分かりやすさを優先していると思われます。が、そうだとしても、さすがに犠牲にしすぎじゃないか、と感じる箇所がいくつかあり。
各執筆者、種々の制約がありながらベストの記述をしているのだとは思います。ではありますが、私自身は何のしがらみのない外野ゆえ、全く空気を読まず、野暮なツッコミをしてみることにします。
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P14
「役員に対する給与は原則として法人の経費として差し引くことができるの。」
法人税法の文脈において、「経費として差し引く」が何を意味しているのかが不明なことは、さておき。
法人税法34条1項の書きぶりをみるかぎり、「原則は損金算入できないが、定期同額給与等に該当すれば損金算入できる」という建て付けとなっているのではないでしょうか。
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
ここはまあ、法人税法22条からスタートする、と捉えておけばよいでしょうか。
P18
「あくまでも議会の同意としての制定法に基づかなければなりません。」
いまさら説明するまでもないことですが、現代の日本では、法律は国会がその決議により制定するものとなっています。だというのに「議会の同意」などという言い回し、”Magna Carta“かよ(絶対王政から同意事項を勝ち取れて、よかったですね。ちなみに、まだ有効らしい)。
ただし、これが大日本帝国憲法における「協賛」を想定しているのだとしたら、時代違いの言いがかりとなるのであり、申し訳ありません。
P20
「税法の規定を解釈する際に、納税者の予測可能性・法的安定性を確保するためには、次の法理も重要です。」
「疑わしきは納税者の利益に (略)事実関係等が明確でないときは、納税者の利益を重視して、課税は控えるべきでしょう。」
法解釈レベルの話と、事実認定レベルの話が、ごちゃまぜ。
P28
「「脱税」行為は、(略)「偽りその他の不正の行為」を用いて、税負担を違法に軽減する行為です。」
「違法な行為ですから、脱税をした場合には罰せられます。」
ここででてくる「違法」というテクニカル・ターム、まるで用を為していない。
法学屈指の多義的な用語を、何の定義づけもなしに、お気軽に用いるべきでない、という一例。
P28
「机やベッドの下に隠しちゃだめなんですよね?」
「隠したら、脱税行為でしょ。」
隠すだけでは、本書にいう「脱税行為」には該当しないでしょうよ(上記の、定義らしき記述を参照せよ)。
そもそも「脱税」なる用語自体が多義的であって。法学書においては、単なる《現象》を指すもの以上に用いるべきでない、と私は思います。
P30
「節税目的の養子縁組は適法よ。」
上記の「違法」と同じく、「適法」の使い方が雑なのはさておき。
H29最判の射程は、節税目的が主であっても縁組意思が無いことにはならないというところまでで。もし節税目的だけだった場合でも当然に縁組意思ありとまでは言い切れないのではないでしょうか。
ちなみに、私自身のH29最判に対する見立て。
縁組意思に関する「法解釈」を示したものというよりも、縁組意思という主要事実を認定するにあたって、節税目的という間接事実は、それのみではマイナス要素とはならないという「認定構造」を示したもの、と捉えております。
なおこれと同じノリでいけば、武富士事件の最判については、租税回避の意図という事実があっても「生活の本拠」を否定する要素とはならないという判断を示したもの、表現することになるでしょうか。
【法解釈論と事実認定論】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)
法における「要件/定義」と「効果/機能」
最高裁令和6年7月4日第一小法廷判決(労災・メリット制)における「行政/司法」と「実体法/手続法」の交錯
北村豊「見解の相違を解消するヒント」(中央経済社2022)
P47
「皆さんのゼミの先生の多くは家族を養っているでしょう。」
この箇所だけに限らないのですが。
本書、この手の「多くは」「大体」といった事実認識がたびたび示されていて。こういう言説に触れると、「それは本当か?」と逐一、心の中で突っ込んでしまう。
P56
「市木君なら独立しても顧問先が少なくてリアリティがあるんじゃないかしら。」
私が⦅架空人物会話形式の⦆入門書が苦手なの、男子学生がサゲられがちだからです。
caricatureが強過ぎるのよ。
P70
「ローンの利息分ね。年間100万円ぐらい払っている人が多いわ。」
各種条件にもよるのでしょうが、(元本のぞく)住宅ローンの利息だけで年100万円て、結構な御宅ではないかと思うのですが。
たとえば、借入5000万円・固定金利2%・35年だと、しばらくこれくらいの負担になりますが、こういう人が「多い」かと言われると、どうなんだろうかと。
P104
「「プロ野球選手が本を執筆して受ける原稿料」は何所得かしら?」
「いわゆる印税のことですよね。」
「プロ野球選手が書いた本は労働の成果ではない、という評価をしているわけだわ。」
ここでいう「原稿料」なるものが、具体的に、何に対する対価かがふんわりしたまま、会話が進んでいってしまう。著作権に関するものだとしても、譲渡の対価なのか権利不行使の対価なのか。
あるいは、「労働の成果」という言い回しがでてくることからすると、(きちんとご本人が執筆していることを前提とした)原稿作成の手間賃的なものかもしれない(額の汗理論)。
「ライセンス料」などもそうなんですが、その中身を明確にしておかないと、(特に海外)源泉の要否など、帰結を導けないことになってしまう。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その1)
なお、参考まで。
所得税法204条1項1号をみると「原稿の報酬」と「著作権の使用料」が別建てで記載されています。ので、ここでいう「原稿の報酬」は、原稿の著作権の使用料とは別物を想定しているように読めます。
また、例えば同法施行令320条1項には「翻訳の報酬」がでてきます。これも、翻訳にかかる成果物(二次的著作物)の著作権の使用料とは、別物を指しているように読めます。
源泉徴収の場面では、著作権処理とは関わらない単なる手間賃も捕捉されている、と理解すればよいのでしょうか。
P116
「会社の年末調整は大体11月頃の状況を前提にして税額計算しているから、その後結婚したりした場合の事情は反映されていないのよ。」
「大体」「反映されない」とのことですが、皆様のまわりの年末調整はいかがでしょうか。
P145
「1年分まとめて返すの?」
家族手当の支給条件を税法準拠としている場合、年末時点で要件満たさなくなったら、1年分返すそうで。
これ、労基法上アウトだと私は思うのですが、別途どこかで整理することにします。
P155
「資料12−3 この上の部分のみが課税所得」
現行法が「超過累進課税」である以上、基礎控除は《下から控除》ではなく⦅上から控除⦆とするのが、現実の機能に即した説明だと思うのですが。
図を使って誤導するの、よろしくないと思う(なお、P157の図では《上から控除》となっています)。
P189
「連結納税制度からグループ通算制度へ」
おそらくですが、「連結納税制度でカバーしきれていないところをグループ法人税制で穴埋めをした」という、綺麗な流れで書かれていたであろう旧記述の途中に、グループ通算制度の導入の記述がねじ込まれたせいで、とても流れの悪い記述になっている。
P229
「相続開始から」「10か月」
知ってから、ね。
P229
「法務実務」
???
P231
「少なくとも申告までの価格下落で、それが当事者の恣意的な操作によるでないときは、その下落を反映した評価にしないと、」
恣意的な操作によるものでないかどうか、なかなかに判定が難しそう。
P241
「消費税は、課税期間中の課税売上に7.8%を乗じた金額から課税仕入れに110分の7.8を乗じた金額を差し引いて納付するのが原則よ(消法30条)。」
原則ではないのよ(消法30条1項)。
なお、インボイス後において、もはや⦅両輪駆動テーゼ⦆が通用しないことにつき、下記記事からはじまり、同じことばかりずっと書くはめに陥っている(一人で勝手にやっているだけ)。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
P273
「輸出取引を行う企業の多くは大企業であり、大企業は下請け業者に消費税を負担させて安い価格で仕入れて、そこからさらに消費税分を還付されており、不公平な優遇措置だとの批判もあることにも留意しておいてください。」
これをわざわざ、税法学者執筆にかかる、税法入門書に書いてしまうか、と。
「仕向地主義」などという小難しい用語を持ち出すまでもなく。単純な話、仮に輸出免税が廃止されたらどうなるかといえば。大企業の負担増が、さらに下請け業者へしわ寄せいくだけでしょうに。
要はこれ、〈競争法〉で規律すべき問題であって、税法レベルの問題ではないということ。
税負担を増したところで、民間で押し付け合う税額が増えるだけで。下請け業者にとっては、何の救いにもならない。
非課税売上押し付け課税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編68)
P298
「自分が指定する自治体に対して寄付をし、その額が住民税や所得税から控除されるという制度です。」
単に寄付するだけでなく、その前に「指定する」という行為が必要なんでしたっけ?(指定行為→寄付行為の二段階寄付行為論)。
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣 1983)
それはさておき。本書の他の箇所(第12章)では、「所得控除」と「税額控除」の違いが丁寧に説明されているというのに。こういう大味な制度説明で、よいのだろうかと。
まあ確かに、所得控除(所得税)による減税⦅推測⦆額の穴埋め的に税額控除(住民税)を算出する、という節操のない計算式ゆえ、真面目に記述するだけ悲しくなるといえば、そのとおりではあります。⦅推測⦆ゆえ、実際の所得税減税額とズレるというバグも、仕込まれていますし(各自、地方税法37条の2第11項にてご確認ください)。
P313
「地方税の場合には多くて、普通徴収といわれているのが賦課課税方式なのよ。」
「普通徴収/特別徴収」は、あくまでも賦課決定された後の徴収方法を表している用語であって。普通徴収それ自体を賦課課税方式というのは変じゃないですかね。
P320
「減額する場合には、税務署長による減額更正をうながす間接的な請求権の行使として、更正の請求が納税者に認められるにすぎません。」
今まで読んできた税法モノの書籍の中で断トツで、「更正の請求」が、いかに弱々しい・頼りにならない制度であるかを強く感じさせる定義だなあと、思わず感心してしまいました(決して、間違ったことを書いているわけではない)。
P322
「この期間は、時効期間ではなく、除斥期間ですから、時効の場合のような中断事由などはありません。」
もうそろそろ、やめましょう。
時効の中断・停止から時効の完成猶予・更新へ
P335
「平成23年の国税通則法改正により手続的正義が明文化されました。」
私の見落としだと思うのですが、これはどの規定のことをいっているのでしょうか。
P339
「軽微な脱税者には通常の加算税より重い重加算税を課して、それでおしまいにしているのよ。」
いやまあ、刑事罰が科されることと比べたら、それはそうなんでしょうけども。
重加事案を「軽微」とか「それでおしまい」とか表現できてしまう感覚、私のような⦅その辺にいる⦆税理士には理解が及ばない。
P343
「資料27−4のように、申告所得税だけで、年間約2万1,000件の重加算税処分がある。」
資料27−4には、「23,030」とあるのだが。
なお、同資料自体は令和4年のデータに更新されているのですが、他の資料だとやたらと古いままで差替えられていないものもあります。どういうポリシーによるものなのかが、不明。
P348
「民間の金貸し」
特定の業者を表すときだけ、急に口が悪くなるの、何なのか。
【ケーキ屋さん/牛乳販売業者】
岡村忠生ほか「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)
◯
以上、なんか多い。
旧版がもはや手元にないため、かつての私の「イジりアンテナ」が低かっただけなのか、あるいは、旧版以降に追加された新しい記述が多いのか、分からないのですが。
これほどまでに、まだまだイジり代(しろ)があるとは、ちょっと予想外でした。
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