法人税法・所得税法については、また別のお話し。
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下記のような、なんとも不正確な記述が、しばしば見られるのですが。

消費税法にいう「帳簿」としてどういうものがあるのか、正確に理解されていないように思うので、あらためて整理しておきます。
○
消費税法で「帳簿」というと、仕入税額控除の要件として要求されているそれに飛びつきがちなのですが、そうではなく。
まずは以下の条文からスタートとなります(以下、例によって省略入れています)。
法 第五十八条(帳簿の備付け等)
事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、政令で定めるところにより、帳簿を備え付けてこれにその行つた資産の譲渡等又は課税仕入れ若しくは課税貨物の保税地域からの引取りに関する事項を記録し、かつ、当該帳簿を保存しなければならない。
帳簿の記録・保存が必要なのは、仕入税額控除の場面に限りません。
・資産の譲渡等
・課税仕入れ
・課税貨物の保税地域からの引取り
売上については、課税資産の譲渡等とされていないことから、「非課税売上」も帳簿に記載しなければならないことになっています。他方で、仕入れについては、「課税仕入れ」に関してのみ記載すればよいとされています(輸入絡みは触れません)。
で、政令。
令 第七十一条(帳簿の備付け等)
1 事業者(法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、帳簿を備え付けてこれにその行つた資産の譲渡等又は課税仕入れ若しくは課税貨物の保税地域からの引取りに関する財務省令で定める事項を整然と、かつ、明瞭に記録しなければならない。
記録の仕方として、「整然・明瞭」が要求されています。
そして、記載事項については省令に規定されています。長くなるのですが、ひととおり引用します。
規 第二十七条(帳簿の記載事項等)
1 令第七十一条第一項に規定する財務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一 国内において行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。以下この項及び第三項において同じ。)に係る事項のうち次に掲げるもの
イ 資産の譲渡等の相手方の氏名又は名称
ロ 資産の譲渡等を行つた年月日
ハ 資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)(法第三十七条第一項の規定の適用を受ける事業者にあつては、当該資産の譲渡等が課税資産の譲渡等(法第七条第一項、法第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)である場合は、令第五十七条第五項第一号から第六号までに掲げる事業の種類を含む。)
ニ 税率の異なるごとに区分した資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該資産の譲渡等が課税資産の譲渡等に該当する場合には、当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)に相当する額を含むものとする。)
二 国内において行つた資産の譲渡等に係る対価の返還等(資産の譲渡等につき、返品を受け、又は値引き若しくは割戻しをしたことにより、当該資産の譲渡等の対価の額の全部若しくは一部の返還又は当該資産の譲渡等の対価の額に係る売掛金その他の債権の額の全部若しくは一部の減額をすることをいい、法第三十八条第一項に規定する売上げに係る対価の返還等を除く。以下この号において同じ。)に係る事項のうち次に掲げるもの
イ 資産の譲渡等に係る対価の返還等を受けた者の氏名又は名称
ロ 資産の譲渡等に係る対価の返還等をした年月日
ハ 資産の譲渡等に係る対価の返還等の内容
ニ 資産の譲渡等に係る対価の返還等をした金額
三 仕入れに係る対価の返還等(法第三十二条第一項に規定する仕入れに係る対価の返還等をいい、法第三十八条の二第一項に規定する特定課税仕入れに係る対価の返還等を除く。以下この号において同じ。)に係る事項のうち次に掲げるもの
イ 仕入れに係る対価の返還等をした者の氏名又は名称
ロ 仕入れに係る対価の返還等を受けた年月日
ハ 仕入れに係る対価の返還等の内容(当該仕入れに係る対価の返還等が他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、仕入れに係る対価の返還等の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)
ニ 仕入れに係る対価の返還等を受けた金額
四 保税地域からの引取りに係る課税貨物に係る消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。)の全部又は一部につき、法律の規定により還付を受ける場合における当該課税貨物に係る事項のうち次に掲げるもの
イ 保税地域の所在地を所轄する税関の名称
ロ 当該還付を受けた年月日
ハ 課税貨物の内容
ニ 当該還付を受けた消費税額
五 法第三十九条第一項に規定する事実(以下この号において「貸倒れ」という。)に係る事項のうち次に掲げるもの
イ 貸倒れの相手方の氏名又は名称
ロ 貸倒れがあつた年月日
ハ 貸倒れに係る課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該貸倒れに係る課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
ニ 税率の異なるごとに区分した貸倒れにより領収をすることができなくなつた金額
1号から5号までに列挙されているもの。
1 売上
2 売上返還
3 課税仕入返還
4 輸入返還
5 貸倒れ
帳簿の記載事項、なんだかフルカバーされていないわけです。
○
カバーされていないものがどこにあるかというと。
ここから、皆さんご存知の「仕入税額控除」の要件として要求される「帳簿」が出てきます。
法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)
ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。第三十二条第一項において同じ。)
二 課税仕入れ等の税額が特定課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 特定課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 特定課税仕入れを行つた年月日
ハ 特定課税仕入れの内容
ニ 第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額
ホ 特定課税仕入れに係るものである旨
三 課税仕入れ等の税額が第一項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物に係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税貨物を保税地域から引き取つた年月日(課税貨物につき特例申告書を提出した場合には、保税地域から引き取つた年月日及び特例申告書を提出した日又は特例申告に関する決定の通知を受けた日)
ロ 課税貨物の内容
ハ 課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。次項第五号において同じ。)又はその合計額
仕入税額控除の対象となる
・課税仕入れ
・特定課税仕入れ
・保税地域からの引取りに係る課税貨物
に係る帳簿の記載事項については、きっちり法律レベルで規定されているということです(以下、「課税仕入れ」は特定課税仕入れを除いたものをいいます)。
また、条文引用は省略しますが、法38条では売上返還、法38条の2では特定課税仕入れの返還につき、帳簿要件が規定されています。
そして、帳簿の記載事項については、
・売上返還 :法38条→令38条の2
・特定課税仕入れの返還 :法38条の2→令38条の3
にそれぞれ、規定されています。
上述した売上等も含めて、「帳簿の記載事項」という同じものなのに、法律・政令・省令と置き場所がバラバラなのは、法的な効果に鑑みて、と説明することができるでしょうか。
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ということで、《仕入》税額控除の要件として要求されている「帳簿」は、あくまでも、課税仕入れ・特定課税仕入れ・輸入に係るものだけだということになります。最初にあげた画像の記述のごとく、何の気なしに「売上帳」やらなんやらを並べ立てているのは、極めて不正確だということです。
「帳簿」というと、なんとなくで総勘定元帳などをイメージしがちですが。消費税法上は、まず税区分により対象が絞られていて。そしてそれぞれの税区分ごとに記載事項が定められているわけです。
これら帳簿の違いは、法58条に違反しても直接的なペナルティがないのに対し、30条に違反すれば税額控除が否定されるというところにあります(法38条、法38条の2も同様)。
・58条の帳簿 :課税要件ではない
・30条,38条,38条の2 :控除要件である
このような違いは、消費税法が
・課税は問答無用の譲渡課税
・控除は実態+形式が揃わないと控除しない
という、《二枚舌構成》になっていることを反映しているのでしょう。
税額プラス側には、調査しやすいように記帳義務を課しておくが、特にペナルティは設けない。税額マイナス側には、記帳が不十分であることそれ自体で控除を否定すると。
で、税額控除を否定するという、強い効果をもたらす帳簿要件については、さすがに省令レベルで規定するわけにはいかない、ということで、法律・政令で規定しているのではないかと思われます。
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ところで、例の平成16年の最高裁判決(第一、第二小法廷どちらでも)。
「消費税法施行令50条1項の定めるとおり、法30条7項に規定する帳簿又は請求書等(同日以降の課税期間については帳簿及び請求書等。以下「帳簿等」という。)を整理し、これらを所定の期間及び場所において、法62条に基づく税務職員による検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要するのであり、事業者がこれを行っていなかった場合には、法30条7項により、事業者が災害その他やむを得ない事情によりこれをすることができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条1項の規定は適用されないものというべきである」
これはあくまでも、税額控除否定という強い効果をもたらす法30条7項の解釈であって。法58条の解釈を示したものではないということになります。
なお、本判決は「検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存することを要する」といっているのだから、「提示しなければ保存とはいえない」のではなく、あくまでも「提示できるように準備しておけば足りる」と理解するのが素直な読み方になります。
とすれば、実際に提示をしなかったとしても、提示できるような準備状態を整えていたのであれば、保存に該当することになるはずです。
ところが、本判決のあてはめのところでは、「提示を求めたけど拒み続けた」という事実から、「適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していたということはできず」と結論づけてしまっています。要するに、最高裁自身が自分で定立した規範を正確にあてはめできていない。
表向きは「保存」の解釈論としてぎりぎりの拡張をしつつ、(それでは最高裁が望ましいと考える結論を導けないからか)あてはめ段階でさらなる拡張(サイレント拡張解釈)をかましているということです。
文言:保存
解釈:提示できるように準備すること
あてはめ:拒絶したから保存してない
こんなこと、最高裁(神)だからこそできる御業であって。決して真似してはいけない。
どうにか擁護するならば、「拒絶した」という事実から経験則をつかって「それは準備してなかったからだ」と認定をした、しかし「法律審」という建前上、新しい事実を認定するのは憚られる、ということができるでしょうか。
が、これはこれで《サイレント事実認定》であり、決して褒められたものではない。
「最高裁は文言解釈を重視している」みたいなことを言われることもありますが。文言を逆手に取った態度に対しては、反則的な「法解釈&事実認定&あてはめ」を繰り出してでも、徹底的に叩き潰すという一例。
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