2025年12月08日

簡易課税なら「帳簿」なんていらない!? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編72)

 前回あれこれ条文を引用してみて。どうにも、とっ散らかっている印象があったのですが。

「帳簿」なんていらない!? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編71)

 それではということで、試みに簡易課税の場合には帳簿はどこまで用意したらよいのかを考えてみたら、若干見えてくるものがあったので、整理をしてみます(前回引用した条文は直接引用せず、条数のみ摘示します)。


 まず、法58条では、
 ・資産の譲渡等
 ・課税仕入れ
 ・課税貨物の保税地域からの引取り
について、記帳義務が課されていました。
 が、この義務については、直接的なペナルティは課されていません。

 他方で、法30条、法38条、法38条の2では、税額控除の要件として「帳簿」保存が要求されていました。

 これら帳簿につき、その「記載事項」がどこに規定されているかという観点から整理すると、以下のとおりとなっています(以下「課税仕入」は特定課税仕入を除いたものをいいます)。

1 法58→令74→規27 売上、売上返還、課税仕入返還、輸入返還、貸倒れ
2 法30 課税仕入、特定課税仕入、輸入
3 法38→令58の2 売上返還
4 法38の2→令58の3 特定課税仕入返還

 このように、帳簿の記載事項については、1は省令、2は法律、3・4は政令と、バラバラな箇所に規定されていました。

 なお、「売上返還」だけ1と3のニ箇所に規定されているのが、謎です。税額控除を受けない場合でも記帳義務だけはあるものが存在することになります。
 あまりしっかり読み込んでいませんが、なにか適用範囲が違うのでしょうか。


 では、これら規定が「簡易課税」だとどのように適用されるでしょうか。

 まず、1については当然に適用されることになります。ただし、規27条4項には「省略できる」規定があります。

規 第二十七条(帳簿の記載事項等)
4 法第三十七条第一項の規定の適用を受ける事業者は、同項の規定の適用を受ける課税期間においては、第一項第三号及び第四号に掲げる事項については、同項第三号及び第四号の規定にかかわらず、これらの事項の記録を省略することができる。


 これにより、「課税仕入返還」と「輸入返還」については記載を省略できます。

 2については、法37条の規定が「第三十条から前条までの規定・・にかかわらず」と、法30条を上書きしていることから、記載しなくてよいことになります。

法 第三十七条(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者及びその課税期間の初日において所得税法第二条第一項第八号の四(定義)又は法人税法第二条第十二号の十九(定義)に規定する恒久的施設を有しない国外事業者を除く。)が、その納税地を所轄する税務署長にその基準期間における課税売上高(第九条第一項に規定する基準期間における課税売上高をいう。以下この項及び次条第一項において同じ。)が五千万円以下である課税期間(第十二条第一項に規定する分割等に係る同項の新設分割親法人又は新設分割子法人の政令で定める課税期間(以下この項及び次条第一項において「分割等に係る課税期間」という。)を除く。)についてこの項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間(当該届出書を提出した日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間その他の政令で定める課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間(その基準期間における課税売上高が五千万円を超える課税期間及び分割等に係る課税期間を除く。)については、第三十条から前条までの規定により課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、これらの規定にかかわらず、次に掲げる金額の合計額とする。この場合において、当該金額の合計額は、当該課税期間における仕入れに係る消費税額とみなす。


 3については、法37条によっても上書きされておらず、簡易課税でも適用される規定ですので、税額控除を受けたい場合は、帳簿に記載する必要があります。

 4については、特定課税仕入は簡易課税に適用されないため、その返還も適用されません。

 結果、簡易課税の場合は、
  ・売上
  ・売上返還
  ・貸倒れ
に係るもののみ、帳簿が要求されているということになります。
 ただし、売上返還と貸倒れは「控除要件」としての帳簿ですので、売上に係る帳簿とは重みが異なります。

 そのへんの《税務お役立ち記事》とは結論において同じでしょうが、条文上はこういう構成になっているということです。


 このような、簡易課税における「帳簿」規定の適用のされ方から、おぼろげながら見えてくるもの。

+ 売上       記帳 58
− 課税仕入     帳簿+適格請求書 30
− 特定課税仕入   帳簿 30 (+でもある)
− 特定課税仕入返還 帳簿 38-2 (+でもある)
− 輸入       帳簿+輸入許可証 30
− 売上返還     帳簿 38
− 貸倒れ      記帳+書類 39
+ 課税仕入返還   記帳 58
+ 輸入返還     記帳 58

(ここで「記帳」というのは、帳簿保存が要件となっていないことを指します。他方で「帳簿」は、帳簿保存が要件となっていることを指します。)

 要するに、税額プラス側には形式要件は課さない、税額マイナス側には形式要件を課す、と明確に区別されているのがよく分かります。
 簡易課税の場合には、同じマイナスでも売上系のマイナスは適用されるが、仕入系のマイナスは適用されないということです。

 なお、「特定課税仕入&返還」については、同時にプラスでもありマイナスでもあることから、どちらも帳簿要件が必要となっています(インボイスがいらないのはリバースチャージゆえ)。


 消費税法、「課税」と「控除」とであらゆる面で扱いが異なっているのであり。

 『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという《両輪駆動テーゼ》が、いかに現実の消費税法とは異なる、完全なる気のせいであるかがお分かりになるかと思います。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
posted by ウロ at 16:32| Comment(0) | 消費税法
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