さて、前回整理した条文をベースに、畢竟独自の見解を開陳してみようと思います。
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その1)
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私が最初に思った疑問。
税理士が補佐人となった訴訟において、なぜ、判決文の当事者の表示が「補佐人税理士」と、肩書(資格)が記載されているのか、という点でした。
民事訴訟法上「訴訟上の任意代理人」の記載は、判決書において必要的とはされていないものの、慣例的に記載されているところです。
民事訴訟法 第二百五十三条(判決書)
1 判決書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
五 当事者及び法定代理人
そして、肩書を記載するかどうかについて、『10訂 民事判決起案の手引(補訂版)』(法曹会2020)には次のとおり記載されています。
「訴訟代理人は、法律上は必要的記載事項とされていないが、訴訟の追行者を明らかにすることと送達の便宜のため、これを表示している。訴訟代理人が弁護士であるときは、弁護士は、民訴法上特別の地位を与えられているから、それを示すために「同訴訟代理人弁護土A」と記載する。なお、支配人等の法令による訴訟代理人についても、その資格を記載するのが通例である。」
司法研修所「10訂 民事判決起案の手引(補訂版)」(法曹会2020) Amazon
たとえばですけど。
《印紙税法学》の権威・泰斗(◯◯大学法学部教授)に、裁判所の許可を得て補佐人になってもらったとして。「補佐人教授」と表示されるかといえば、されないでしょう。
なぜなら、「大学教授」であることは、訴訟手続において特別な地位を有さないからです。
では、なぜ「補佐人税理士」と表示されるのでしょうか。
これは税理士法という「特別法」において裁判所の許可を得ないで補佐人になった者、という意味で、「一般法」である民事訴訟法上の補佐人とは異なる地位を有しているからでしょう(以下、前者を「補佐人(税理士法)」、後者を「補佐人(民訴法)」といいます。)。
もしこれが正しいとすると、「補佐人税理士」と表示されるのは補佐人(税理士法)に限られることになります。
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では、印紙税法に関する訴訟(以下、「印紙税訴訟」といいます。)において、税理士は、補佐人(税理士法)となることができるのでしょうか。
前回記述したとおり、税理士が補佐人(税理士法)となれるのは、「租税に関する事項」に限られており、ここでいう「租税」には印紙税が含まれていません。
そうすると、印紙税訴訟において、補佐人(税理士法)となることはできないことになるはずです。
とすると、印紙税訴訟で補佐人になるためには、民事訴訟法60条に基づき裁判所の許可を得る必要があります。そして、この場合は、税理士という資格に訴訟上特別な意味はなく、「印紙税法に詳しい一般人」と同じ位置づけになります(その程度で許可してもらえるか、というのは置いておいて)。
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実際の印紙税訴訟において、当事者の表示がどうなっているかにつき、雑に検索してみたところ、「補佐人税理士」の表示があるものを2事件みつけました。
1 消費生活協同組合・領収書
東京地裁 令和5年3月8日判決
東京高裁 令和5年10月18日判決
最高裁 令和6年5月15日決定(上告棄却・不受理)
2 判取帳・お客様返金伝票
東京地裁 平成27年12月18日判決
東京高裁 平成28年6月29日判決
最高裁 平成29年2月23日決定(上告棄却・不受理)
いずれも、地裁・高裁の判決において、「補佐人税理士」と表示されていました。他方で、最高裁では補佐人の記載がなされていなかったのですが、これは「上告棄却・不受理」で終わったからなのでしょうか。
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印紙税訴訟では補佐人(税理士法)になれないはずなのに、当事者欄に「補佐人税理士」と表示されているのはなぜでしょうか。
いくつかの可能性をあげてみます。
・邪推その1
印紙税訴訟において税理士が補佐人(税理士法)になれないことを、裁判所が看過している。
・邪推その2
裁判所の許可なく補佐人(税理士法)になれるということで、とりあえずで選任しておく。そして、印紙税に関する陳述をする段階ではじめて裁判所の許可をもらう。
・邪推その3
国税通則法上の論点など、何かしら「租税に関する事項」を争点に紛れ込ませておく。そして、印紙税に関する陳述をする段階ではじめて裁判所の許可をもらう。
これらのような場合であれば、印紙税訴訟においても補佐人(税理士法)になることができることになります(なお、「陳述」といっても、現実には「主張書面」に名前を載せられる、というくらいになるでしょうか)。
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さらなる問題が、補佐人を「有償」(以下「業とする」も含めた意味で使います。)で引き受けることが、弁護士法違反(以下「非弁行為」といいます)にならないのかどうかという点です。
弁護士法 第七十二条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
まず、「租税に関する事項」につき補佐人(税理士法)となる場合は、「税理士業務」として実施するものであるため、弁護士法72条但書にいう「他の法律に別段の定めがある場合」に該当し、有償で行うことに問題はありません。
問題は、補佐人(民訴法)のほうです。
そもそもの話し。
「税理士」が印紙税訴訟において補佐人(民訴法)となる場面にかぎったことではなく。弁護士でない者が補佐人(民訴法)となり出頭・陳述をすることに対して報酬をもらうことは、非弁行為となるのでしょうか。
(なお、証拠方法としての「証人」に対して一方当事者が報酬を支払ってしまうとその証拠価値を損ねる、ということはあると思います。が、「補佐人」は一方当事者のための協力する立場であって、そういう問題はありません。)
たとえば、折り紙の著作権に関する訴訟において、「折り紙の専門家」が原告の補佐人(民訴法)となって、折り紙に関する知見に基づき陳述したことに対し報酬をもらった場合はどうか。
この場合は「法律事務」に関する知見ではないということで非弁行為とはならなそうです(が、著作権違反にあたる/あたらないのような法的判断を示した場合は怪しい)。
では、士業法に補佐人規定のない「司法書士」が、登記事件につき原告の補佐人(民訴法)になったとして。この補佐人業務に対する報酬をもらったら、これは「法律事務」にあたるということで、非弁行為になるのでしょうか。
折り紙に関する陳述 ⇒法律事務でない?
登記に関する陳述 ⇒法律事務にあたる?
これについては、「裁判所の許可」というものがいったいどこまでの効果をもっているか、という観点からアプローチができそうです。
「裁判所の許可」は、単に当該訴訟手続きにおいて補佐人として活動することを許容するだけの効果しか持たないのか、それとも弁護士法上の違法性までもを阻却する効果があるのか。
裁判所の許可の効果
ア 当該訴訟手続きで補佐人やっていいというだけ。
イ 弁護士法72条但書に該当し、有償で補佐人やってもいいことになる。
では、税理士が、印紙税訴訟において補佐人(民訴法)となる場合はどうか。
印紙税に関する業務が「付随義務」になるのだとして。では、この「付随義務」の中に「印紙税訴訟における補佐人活動」が含まれるのか。
そして、付随業務に該当することで有償で行ってもよいことになるのか、それとも裁判所の許可があってはじめて有償で行うことが許容されることになるのか。
印紙税訴訟における補佐人(民訴法)
ア 付随業務に該当し有償でやってもよい。
イ 付随業務に該当し、かつ裁判所の許可があるため有償でやってもよい。
ウ 補佐人活動は法律事務だから有償では行えない。
前回述べたとおり、印紙税が税理士業務に含まれていない理由。印紙の要否なんて誰でも判断できるでしょ、という制定当時の認識によるものだと述べました。問題は、印紙の要否ですら複雑な法的判断が必要となった現代においても、そのような位置づけのままでもよいのか、という点です。
租税を「税理士業務/付随業務」に振り分けるという現行法の建付けが、どうも現代にそぐわないように思うのですが。
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最近は下火になったのかどうか。
専門的な知見が必要な訴訟において、補佐人(民訴法)を積極的に活用していこう、というような論調が一時あったかと思います。が、弁護士法の規律との関係が明確にならない限り、現実問題として、積極的な活用が広がっていきにくいように思います。
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以上、現実の印紙税訴訟においては、「補佐人税理士」という表示のもと、補佐人として活動している税理士の方々がいらっしゃるのであり。実務的にはとっくに解決ずみの問題なのでしょう。
それはそれとして、前回・今回と記事を書いていて、どうにも引っかかる箇所があったので、次回で言語化してみます。
2025年12月22日
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その2)
posted by ウロ at 09:51| Comment(0)
| 税理士法
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