2025年12月29日

『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その3)

 その1・その2までは、わりと地に足のついた議論におさまっていたかと思います(自称)。

『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その1)
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その2)

 が、今回は《妄想》強めの内容となります。私がこれまで、「税理士法」に関する文献をまともに読んでこなかったことのツケを、ここで払わされることに。


 「印紙税等に関する事務」(以下「印紙税事務」といいます。)について、税理士法の規律は次のとおりとなっていました。

印紙税事務
 ア 税理士業務 除く
 イ 付随業務 含む(通達による)

 これは、「印紙の要否なんて誰でも判定できるんだから、税理士業務として独占させる必要はない。」という判断の結果であると思われます(さしあたり、昔は決済手段が「現金」だけだったので、領収書の印紙の要否なんて誰でも容易に判定できた、という状況を想定していただければ。)

キャッシュレス決済と印紙税法 〜第17号文書(領収書)該当性について

 問題は、現代において、私法の規律が複雑化したことに伴い印紙の要否も難しくなってしまったことにつき、税理士法の規律がどのような影響を受けるか、という点です。

 昔:事実関係は単純、規範もそのまま当てはめれば結論がでる。ゆえに誰でもできる。
 ↓
 今:事実関係は複雑、規範も解釈が必要。ゆえに素人が判定するのは困難。

 この点、「原意主義」からすると、税理士が付随業務としてできるとされている「印紙税事務」は、現代においても、誰でもできる「昔」レベルのものに限定されたままだということになります。
 とすると、「印紙税事務」の中でも《法的判断》が必要となるものは、付随業務にも税理士業務にも含まれていないことになるため、原則どおり弁護士にしかできない「法律事務」にあたるのだと、解釈することになります。

 印紙税事務
  簡単なやつ   →付随業務(誰でもできる)
  法的判断が必要 →法律事務(弁護士しかできない)


 他方で、「税理士は税の法律家だ!」「税理士もリーガルマインドを身につけるべきだ!」と主張される方々からすれば、「原意主義」の立場を否定しなければなりません。
 そこで、時代とともに付随業務としての「印紙税事務」も(なし崩し的に?)広がってきたのだ、などと解釈する必要があるはずです。

 印紙税事務
  簡単なやつ   →付随業務(誰でもできる)
  法的判断が必要 →付随業務(?)

 税理士が印紙税事務をできるとするためには、(税理士業務には入れられないので)付随業務に入れるしかありません。が、付随業務には「他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。」という制約があります。

 この制約を、乗り越えることができるのかどうか。

弁護士法 第七十二条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

税理士法 第二条(税理士の業務)
2 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。


 こう並べると、但書同士でループしているように感じてしまうのですが。
 文理解釈としては、
・税理士法2条2項本文が、弁護士法72条にいう「他の法律に別段の定めがある場合」にあたる。
・結果、付随業務としてであれば「法律事務」もできることになり、税理士法2条2項但書の「他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項」には該当しないことになる。
と読めばよいでしょうか。

 文理解釈はこれでよいとして、この帰結を「実質論」としても正当化できるのかどうかです。


 ここで余談めいた話をしますが。

 税理士試験(の税法科目)における「理論」と「計算」。
 これらは、条文に書かれていること(を予備校が暗記用に整えたもの)を正確に理解し、ルールに従って正しく税額を算出するというもの、と表現することができるでしょうか。
(他士業の方からすると、条文(を加工しただけのもの)を「理論」と呼ぶことに違和感があるかと思いますが、そういう慣用句・ジャーゴンだとご理解ください。)

 ここには、事実関係が不明な状態で、証拠から事実を認定するという「事実認定」、そして、条文に解釈を加えて規範を導く「法解釈」といった営みは一切でてきません。これらの問題が生じていない、キレイな状態からスタートしているわけです(にもかかわらず「税理士試験、簡単」とはならないのが、税ゆえ)。

 税理士試験は「税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的」としているわけですが(税理士法6条)。税理士という資格をもって業務を始めるにおいて、さしあたり「事実認定能力」や「法解釈能力」はなくても大丈夫、というメッセージだと受け取ってもよいのでしょうか。
 登録するには、試験合格にプラスして2年の「実務経験」が要求されているものの(税理士法3条1項)。「租税に関する事務」と書いてあるだけで、それら能力が要求されているわけでもなく。そもそも「会計に関する事務」だけでも足りてしまいます。

 時代とともに税制が複雑化し、それにあわせて試験問題も難易度があがっているのはそのとおりですが。
 試験で問われていることとして、「事実認定能力」「法解釈能力」が要求されていないという点にはかわりはないわけです。


 その是非はさておき。
 大学院における「税法論文」をもって、税法科目合格の代わりとするという制度。「法解釈能力」を示すことをもって「理論・計算能力」の代わりとしていることになります。

 なお、「制度論」としては、
・税理士試験に「事実認定・法解釈能力」を問う問題をいれる
・「事実認定・法解釈能力」を要求する《特定税理士》という2階建の資格を導入する
といったあたりが、検討に値するでしょうか。


 ここまでは「印紙税事務」についてのお話しをしていたのですが。

 より根本的な問題として、当然に税理士業務に含まれている「法人税事務」や「所得税事務」についても、具体的にどこまでの業務が含まれるのかが問題となりえます(以下「所得税事務」で代表させます)。

 「税理士試験」のところであげた言葉をそのまま使うならば、「理論・計算」事務は当然含むとして、「事実認定・法解釈」事務まで含まれるのだろうか、という話しです(「事務」という表現に違和感がありますが、税理士法・弁護士法の表現になるべく従うようにしています)。

 所得税事務
  理論・計算(事実関係が明確な状態で、条文に書かれたとおり正確に税額計算をする)
  事実認定・法解釈(証拠から事実を認定する、条文に解釈を施して規範を導く)

 税理士法を軽く眺めていても、
  第1条  「税務に関する専門家」
  第2条  「租税に関し」
  第2条の2 「租税に関する事項」
などと、「税法」「租税法」と言ってもおかしくないはずのところでも、あえて「税務」「租税」などと《法》を切り落として記述しているようにも読めます。

 とすると、税理士業務に含まれるのは、あくまでも「理論・計算」までで。「事実認定・法解釈」は、原則に戻って弁護士にお任せしなければならない、という解釈もありえることになります。

【計算限定説】
 昔:事実関係は単純、規範もそのまま当てはめれば結論がでる。しかし計算は難しい
   そこで、税理士に所得税事務を独占させよう。
 ↓
 今:事実関係は複雑、規範も解釈が必要。が、税理士が事実認定・法解釈をするのは困難
   そこで、弁護士が事実認定・法解釈を施し、税理士はそれに従って計算するだけ

 税理士業務
  租税に関する計算事務 ←含む
  租税法に関する法律事務 ←含まない

 もし、このような見解が正しいのだとすると、税理士法2条の2ルートで「補佐人」となった場合でも、裁判所の許可なしに陳述できるのは「計算事務」に関するものに限られることになります。


 もちろん、こんな見解、「税理士は税に関する法律家だ!」と主張する方々からは、とても受け入れられない解釈でしょう。

 が、税理士法の書きぶり、税理士試験の出題範囲や現実に問われている能力などからすると、どうも税理士(という資格の保有者)には、「事実認定能力」や「法解釈能力」までは要求されていないと理解せざるをえないように思えてしまいます。

 にもかかわらず、《独占業務》として租税に関する「法律事務」ができるとする実質的な根拠はあるのだろうかと。


 ここまでの、とっ散らかった記述を、一旦整理します。

【以下、用語のお約束】
 計算 ⇒理論&計算
 法律 ⇒事実認定&法解釈

《A説(税の計算家説)》
所得税事務
 計算 税理士業務 →補佐人(税理士法)
 法律 法律業務×
印紙税事務
 計算 付随業務
 法律 法律業務×

 A説では、所得税でも印紙税でも、「計算」はできるが「法律」はできないと解することになります。
 補佐人(税理士法)についても、印紙税事務ができないのは当然、所得税事務も「計算」にかかる陳述しかできないことになります。

《B説(税の法律家説)》
所得税事務
 計算 税理士業務 →補佐人(税理士法)
 法律 税理士業務 →補佐人(税理士法)
印紙税事務
 計算 付随業務
 法律 付随業務

 B説では、「法律」までできると解するわけですが、税理士という資格だけではその能力が担保されていないのが難点です。


 こうみると、どうもA説のほうが筋が通っているようにも見えます。が、A説にとって位置づけの微妙なものが、「審査請求」までは税理士が税務代理できるとされている点です。

 ア 税務調査、再調査の請求、審査請求 ⇒単独で税務代理できる
 イ 税務訴訟 ⇒弁護士がいたうえで、補佐人としてのみ

 税理士が審査請求において代理人となったとして、「計算」だけしか陳述できないなどいうのは変であり。実際にもそのような運用はなされていないわけです。


 よくよく考えると、上記のA説・B説とも、税理士業務と付随業務とを整合的に位置づけるという意味では、共通の発想に基づいています。「付随」業務とある以上、1項の税理士業務とパラレルに構成すべきだろうと。

 これらに対し、整合性をとることを放棄すると、次のような見解が可能となります。

《C説(あるときは税の法律家、またあるときは税の計算家説)》
所得税事務
 計算 税理士業務 →補佐人(税理士法)
 法律 税理士業務 →補佐人(税理士法) (税理士法2条1項+弁護士法72条但書による)
印紙税事務
 計算 付随業務
 法律 法律事務× (弁護士法72条本文+税理士法2条2項但書による)

 税理士業務は「法律」もできるが付随業務は「計算」までしかできないと、それぞれ扱いを違えることにすると。
 この見解は、税理士法2条1項には弁護士法72条本文を上書きする効力があるが、税理士法2条2項にはそのような効力はない、と理解するものです。

弁護士法72条但書「他の法律に別段の定めがある場合」
 税理士法2条1項「税理士業務」 ⇒あたる
 税理士法2条2項「付随業務」  ⇒あたらない

 もちろん、所得税事務は「法律」までできるが印紙税事務は「計算」しかできない、などという帰結が変なのはそのとおりです。が、この点は、租税を税目ごとに分断し、
 ・税理士業務(税理士独占・激強)/付随業務(税理士非独占・激弱)
の二択で振り分けている現行法に起因することです。
 そして、「印紙税については税務代理できない」という俗説を信奉されている方々からすれば、税理士業務と付随業務とで、業務範囲が異なるという帰結も容易に受け入れることができるはずです(個人的にはなぜそのような解釈ができるのか、疑問に思っているところですが)。


 税理士ができる業務範囲、あるいは独占できる業務範囲について、広げるにしても狭めるにしても、現行の《税理士業務/付随業務》二元論では、うまく規律できる見込みが薄いように、私には感じます。


 以上、不勉強な野良税理士が、こんな辺境のブログでイチャモンつけていることなど、税理士法のプロの方々からすれば、とっくにクリアずみのことなのでしょう。

 ということで、年末の3回にわたって、税理士法や訴訟実務につき私がたいして理解ができていない、という恥を晒しただけの記事ということで終わりとなります(今年が)。

『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その3)
posted by ウロ at 09:20| Comment(0) | 税理士法
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