2026年01月05日

『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その4)

 今回は、(その3)までの話の流れの中で、取りこぼした論点について触れます。
 
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その1)
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その2)
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その3)


 本業である「税理士業務」に付随する業務として、どのようなものがあるかを考えてみるに、以下の類型が想定しえます(類型的思考)。

【税理士業務の付随業務】                    
 ア 他士業法に抵触しないので、誰でもできる。
 イ 他士業法に抵触するので、税理士にはできない。
 ウ 他士業法に抵触するけど、税理士ならできる。

 一般に、アの典型例が「記帳代行」、イの典型例が「会計監査」(なんちゃってではなく、法定のやつ)と、それぞれ挙げられています。
 では、ウは何があるかというと。

社会保険労務士法 第二十七条(業務の制限)
 社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。

社会保険労務士法施行令 第二条(業務の制限の解除)
 法第二十七条ただし書の政令で定める業務は、次に掲げる業務とする。
一 公認会計士又は外国公認会計士が行う公認会計士法(昭和二十三年法律第百三号)第二条第二項に規定する業務
二 税理士又は税理士法人が行う税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)第二条第一項に規定する業務


 制定当時にどういう力が働いたのか、寡聞にして存じませんが。明文にて、社労士業務の一部を公認会計士と税理士に解放してくれています。

 過激派の社労士先生のなかには、「税理士が社労士業務に手を出すことは一切許されない!」とご主張される方がいらっしゃって。運動論としては理解できるのですが、現行法上は、税理士業務に付随するかぎりで社労士業務ができることになっているわけです。


 このように、付随業務の中には、法的に効力のあるもの(ウ)とないもの(アイ)が含まれていて。

 「税理士法に付随業務を定める意味はない」というご主張も想定しえますが。
 これは、上記アとイしか見えていないからであって。ウのように、付随業務に《他士業法上書き効》が付与されているものもあるのであり。
 付随業務を定めることは、決して意味がないわけではありません。


 さて、問題は、ウのような《他士業法上書き効》は、明文の規定がないかぎり認められないものだろうか、という点です。

 (その3)までで論じてきたことでいうと、「印紙税事務(法律)」は、税理士業務の付随業務としてできるのかどうか、という話になります。

【印紙税事務(法律)】
 A説(税の計算家)、C説(折衷説) ⇒できない
 B説(税の法律家) ⇒できる

 見解が分かれうるわけですが。
 少なくとも、現行の税理士試験の出題内容をみるかぎり、税理士という資格には「法解釈能力」がビルドインされていない、ゆえに「できない」説のほうが説得力があるといわざるをえない、となってしまうのではないかと(当事者である税理士以外から見れば、の話)。


 そして、さらなる問題として、税理士資格に「法解釈能力」がビルドインされていない以上、「所得税業務(法律)」も許容されていないのでは、という疑問がでてきてしまいます。

【所得税事務(法律)】
 A説(税の計算家) ⇒できない
 B説(税の法律家)、C説(折衷説) ⇒できる

 このような疑問をかわす見解のひとつとして、《法律》を、「税法」と「それ以外」に分解し、税法に限って解釈できるとする見解が考えられます(税法解釈限定説)。

 もちろん、税法であろうが、「法解釈能力」が身についていないことに変わりはないわけですが。「税法」に関する一定の知識はあるということで、あとは頑張ってそこに「法解釈能力」を載せていくと。
 他方で、「それ以外」については、そもそも知識すら身についていないのだから、それらを対象とする解釈まではできないこととすると。

【所得税事務(法律)】
 税法の解釈 ⇒できる
 それ以外の解釈 ⇒できない


 もしこのような見解(税法解釈限定説)が成り立つのだとすると、発生する問題。

 税法学においては、《法的帰属説/経済的帰属説》《私法準拠説/税法独自説》《借用概念/独自概念》のように、税法解釈において、私法に従うか税法独自に解釈するか、といった点を軸にした論争があります。

 たとえば、所得税法や相続税法にいう「住所」が完全に民法に準拠するものだとすると、「税法解釈限定説」からは、税理士は住所の有無を判断できないことになります。
 他方で、「生計を一にする」が、民法にいう「扶養」とは異なる独自概念なのだとしたら、こちらは税理士が解釈してもよいことになります。

【所得税の解釈】
 借用概念 ⇒解釈できない
 独自概念 ⇒解釈できる

 税理士はなかなかに不自由を強いられるわけですが。税法すら解釈できないよりは、まだましだということになります(税理士は、職域の維持・拡大のために実体法レベルで「税法独自説」を唱え続けなければならない、という呪いがかかり続ける事態になる)。


 なお、ここでいう「解釈」には「狭義の法解釈」と「事実認定」の両方が含まれる前提で記述をしました。

 が、「裁判員制度」などというものがあることからも分かるとおり、(殺人のようなハードケースにおいてすら)「事実認定は誰でもできる」というのが、現行法制のおける制度設計となっています。
 とすると、税法にしても税法以外にしても、「事実認定」にかぎっては「誰でもできる」こととしてもよいのかもしれません。

 狭義の解釈: 弁護士の独占業務
 事実認定 : 誰でもできる

 ただ、教義の解釈/事実認定をどこまできれいに区分できるのか、という問題はあります。
 上記の「住所」でいうと、

・住所は民法の借用概念と解される。
・住所は生活の本拠である。
・生活の本拠は客観的事実により判定すべきである。
・生活の本拠は、記述的要件か規範的要件か、何が主要事実にあたるか。
・住所を認定するための事実には◯◯など、阻害する事実には××などがある。
・証拠からは、××といった事実が認められるが、他方で◯◯といった事実も認められる。
・これら事実を総合すると、住所は日本にあるといえる。

といった一連の営みのうち、どこまでが狭義の解釈で、どこからが事実認定の問題なのでしょうか。そして、どこかに線引きをしたとして、そのラインが「専門家にしかできない/誰でもできる」と区別できるほど、難易度に違いのあるといえるものといえるでしょうか。

 おそらく「裁判員制度」に関する研究において、このような議論は済んでいるのでしょうが、不勉強なためそこまでは追えていません。


 以上、真面目に考えれば考えるほど、「税理士は税の法律家だ!」説の方々のおっしゃる理想像とは異なる帰結がでてきてしまって。

 C説(折衷説)や「税法解釈限定説」などをひねり出して、どうにか抜け道がないか試みてみたものの、どうにも苦しい。
posted by ウロ at 09:26| Comment(0) | 税理士法
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