これまで当ブログにおいては、あたかも税理士が「税の法律家」であるかのような振る舞いで、税法イジリや判例イジリをしてきました。単なる情報陳列系の記事を《税務お役立ち記事》などと揶揄しながら。
が、先日までの記事に鑑みるに、どうやら税理士は「税の計算家」どまりである可能性のほうが濃厚ではないかと、思うようになりました。
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その1)
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その2)
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その3)
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その4)
ということで以下、これに抗うべく、何かしら税理士が「税の法律家」であるに有利な事情をどうにかひねり出せないか、税理士業務の「現実面」から探ってみることとします。
1
税理士事務所の中には、税理士が「監督」さえしていればよいということで、無資格職員に顧客を(担当という名目で)丸投げをしているところがあります。税理士は長らく訪問していなかったりして。
税理士法 第四十一条の二(使用人等に対する監督義務)
税理士は、税理士業務を行うため使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けるところのないよう当該使用人その他の従業者を監督しなければならない。
弁護士からしたら、税理士が直接顧客対応をしないことに異常性を感じるかもしれません。では、なぜこのようなことが許されるのか。
やはり、税理士業務は「計算事務」どまりであり、誰がやっても差が出るものでもない、事後的にチェックすればそれで済む程度の業務だと、税理士自身が思っているからではないでしょうか。
弁護士事務所でも、「定型業務」(過払金請求など)を無資格職員に丸投げしてしまっているところもあったと聞いていますが。これはまさしく、誰がやっても同じ定型のものだからこそなのでしょう。
税理士業務というのは、過払金の計算と同じ程度の事務にすぎないということなのか。
2
相続税申告につき、一人の税理士が相続人全員から委任を受けて申告してしまっているのが通常かと思います。で、このことに対し、税理士の側に特に何らかの問題意識はないものと思われます。
他方で、弁護士が複数の相続人から相続案件につき依頼を受けるかといえば、原則として拒否するものと思われます。よっぽど「一蓮托生」「ふたりでひとり」みたいな関係性でもないかぎりは。
なぜかといえば、依頼時点では大丈夫だとしても、この先少しでも利益相反の可能性があるならば、事前に回避しておくべきだからでしょう。
利益相反が顕在化してしまったら、どちらか一方との関係だけは続ける、なんてことはできないので。
では、なぜ税理士が、特に何も問題意識もなく相続人全員から受任できてしまうのかといえば。やはり、相続税法等に従って計算するだけだから、と思っているがゆえなのでしょう。
法にしたがって計算するだけなのだから、およそ相続人間に利益相反は生じることはないと。
が、たとえばですけど。
「小規模宅地の特例」を適用するにあたって、
・長男Aが被相続人と同居していると認定できれば、長男Aが同居特例の適用を受けられる。
・長男Aが被相続人と同居していないと認定できれば、次男Bが家なき子特例を受けられる。
と、Aと被相続人との同居が微妙な案件において、税理士はどのように立ち振る舞えばよいのでしょうか。
建前上は、あくまでも法に従うわけですが。同居の有無のような「事実認定」の領域においては、判断者の価値判断が混入してきます。最終的には裁判所の判断によるとはいえ、申告業務の中でいずれかの事実に決め打ちをせざるをえません。
ここで余談ですが。
資産税専門の税理士事務所のサイト上に、相続人が紙の相続税申告ファイルを抱えて、ニコニコで税理士と写真に写っているものを見かけました。
相続人とはいっても、おそらく相続人全員ではない。邪推するに、当該税理士事務所に直接依頼をした相続人その人だけなのでしょう。
相続人が複数名いる場合において、現実には、手続きを主導する相続人とそれに従わざるをえない相続人に分かれることなるのが実情かと思われます。写真撮影に応じている相続人も、ここでいう「主たる相続人」に該当することが、強く推認されます。
もしこのような邪推どおりの状況だとして。
主たる相続人から依頼を受けた税理士は、主たる相続人の意向に偏することなく対応することができるでしょうか。上記例でいえば、Aが主たる相続人だとして、Aの同居を認める側に意識が偏らないか、という点です。
もちろん、個々の税理士の強い精神力において、全員に公平に対応する努力はしているのでしょう。が、それを制度的に担保できるものは、何もないわけです。
ちなみに、小規模宅地の特例を適用するにあたって必要な「同意」は、適用を受けられる人が複数いる場合に機能するものです。
上記例では《二律背反》の関係にあり。Aが適用できる場合はBは適用受けられない(逆も同じ)ので、同意が必要な場面にはなりえません。
ので、遺産分割の段階で勝負を決める必要があるわけですが。その分割先を決めるにあたって、Aの同居が認められるかどうかが重大な判断要素となるということです。
話を元に戻して。
このように、相続税法レベルにおいても、相続人間で利益相反が生じうるのであって。にもかかわらず、税理士が特に問題意識なく相続人全員から受任しているのが実情であり。
やはり、税理士業務には「法解釈・事実認定」が含まれておらず。税理士の仕事は、すべての規範や事実が確定した段階で、それをそのまま当てはめるだけだから、相続人全員から受任することに何の問題もない、ということになってしまうのではないでしょうか。
なお、「生前対策」として、(結果的に)特定の相続人に有利になるよう立ち回った税理士が、他の相続人の相続税申告を代理することの適否も問題となります。これも、相続税申告自体は計算にすぎない、ということで正当化されるでしょうか。
3
本当かどうかは別として。
ときおり、士業の人が、身寄りのない依頼者から遺産について相談を受けたということで、(冗談めかして)「私に遺言を書いて」と言ってみたなどという逸話・寓話が流れてきます。
このあたり、代理法理・信託・信認関係・忠実義務といった概念、あるいは税理士法1条にいう「独立した公正な立場」といったフレーズが念頭にあると、《たとえ冗談としてであれ》言っていいことと悪いことがあるのでは、という意識が働くはずです。
税理士法 第一条(税理士の使命)
税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
もし税理士が、このような冗談をいえるとしたら、やはり税理士業務というのは単に計算をするだけだから、依頼者から(計算報酬とは別に)遺産をもらったとしても、何らの影響も受けない、という前提があるからではないでしょうか。
そうでなければ、冗談としてであれ、このようなことを言うことに抵抗感があるはずです。
たとえばですけど。
税理士が法人の依頼者から決算対策を相談されたとして。「自分への顧問料を先取りして支払って。」などと(冗談としてであれ)言うかといえば、言うはずがありません。こんなものは脱税幇助どころか脱税教唆(共同正犯か?)になってしまうので。
税理士法 第三十六条(脱税相談等の禁止)
税理士は、不正に国税若しくは地方税の賦課若しくは徴収を免れ、又は不正に国税若しくは地方税の還付を受けることにつき、指示をし、相談に応じ、その他これらに類似する行為をしてはならない。
に対して、「自分への遺言を書いて。」などということを(冗談としてであれ)抵抗感なく言えてしまうのは、それ自体、何らかの問題があることだとは思っていないからなのでしょう。
全くの余談ですが。
賄賂罪は「その職務に関し」賄賂を収受することで成立します。
刑法 第百九十七条(収賄、受託収賄及び事前収賄)
1 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の拘禁刑に処する。この場合において、請託を受けたときは、七年以下の拘禁刑に処する。
この「職務関連性」は、判例上広く解されているとはいえ、全く無関係の職務について金品を授受した場合にまで成立するものでもないでしょう。他方で、職務と一定の関連があるかぎり「俺は強い精神力があるから、賄賂をもらっても職務に影響させることは絶対にない!」などという言い訳は通用しません。
このような賄賂罪におけるタームを借用するならば、税理士業務は単に計算をするだけだから、計算報酬とは別口で遺産をもらったとしても職務とは全くの無関係だ、と表現することができるでしょうか。
4
確定申告の時期になると、税理士が「応援」「お手伝い」などと称して、他の税理士事務所の確定申告業務に従事するというお話しを、しばしば見聞きします。
が、このようなことが実際に行われているとしたら、税理士法違反となってしまいます。
税理士制度のQ&A(国税庁)
問3−4
開業税理士が、他の税理士又は税理士法人の補助者として税理士業務を行うことはできるのですか。
(答)開業税理士は、他の税理士又は税理士法人の補助者として税理士業務を行うことはできません。
問3−5
所属税理士が、従事する開業税理士又は税理士法人とは別の開業税理士等の補助者として税理士業務を行うことはできるのですか。
(答)所属税理士は、従事する開業税理士又は税理士法人とは別の開業税理士等の補助者として税理士業務を行うことはできません。
許容されているのは、そのお手伝いする側の開業税理士が、顧客から「直接の委嘱」「個別的な委任」を受けた場合に限られます。
果たして実際に、そのような手順を取っているのかは、疑わしい。
もしも、何の問題意識もなくこのようなことが行われているのだとしたら、やはり税理士業務は単に計算をするだけで、誰がやっても同じ、ということを前提としているのではないでしょうか。
ルール通りに計算するだけなのだから、税理士間で見解が分かれるなどということもないだろうと。
◯
以上、現実面・実態面から「税の法律家」説の根拠となりそうな事情をあれこれ考えてみたものの。肝心の税理士自身が「税の計算家」としての自己規定でもって、税理士業務にあたっているのではないか、と思わされます。
もうひとつ、このような税理士の意識からではなく。税賠(税理士賠償責任)の場面において、税理士がいかなる範囲で責任を負わされているかを検討してみようかと思ったのですが、
・税理士業務は計算事務に限られるので、法律事務については責任を負わない。
と、やっぱり税の計算家にすぎないと思わされるか、
・税理士業務は法律事務にも及ぶので、責任を負う。
と、責任負担の場面では業務範囲が広くなるのかと悲しくなるか、
いずれにしても、残念な結論が待っていそうなので、手を付けないことにします。
◯
というのが、私の観測するかぎりでの実情であり。規範論としても実態論としても、どうやら《税の法律家》説を採用するのは厳しそうです。
『税理士よ、法律家たれ』なるフレーズを見聞きしたことがありますが。これは《運動論》としての主張にすぎず、税理士法の《解釈論》としての主張ではないということなのでしょうか。
ということで、《税の法律家》説を前提に記事を積み上げてきた当ブログの方向性も、あらためて見直さなければならないようです。
そこで、今回の記事をもって定期的な更新は一旦ストップすることとします。なにかまとめておきたい内容があったときにのみ、思いつきのように不定期更新していきます。
もっぱら「内発的動機づけ」のみによって続けてきた当ブログですが。まさか自分で書いた記事によってモチベーションを毀損されることになるとは、思いもよりませんでした。
2026年01月12日
『印紙税法は弁護士にお任せしなさい?? 〜税理士法解釈序説』(その5)
posted by ウロ at 09:21| Comment(0)
| 税理士法
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