が、ではなぜ、非課税だとそれに対応する課税仕入が仕入税額控除を否定されるのか、その《実質的根拠》をきちんと説明してくれる人は皆無です。
「累積していないから」は、ただのレトリックであって。
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
「消費者の消費」に課税しているというならば、消費を非課税にした以上、およそ税負担が生じるのはおかしい、と思うのが自然なはずです。
「消費者の消費」を軸にして税負担を根拠づけるのならば、輸出免税が「国内で消費していない」ことを理由に税負担を発生させないのと同様、非課税も「消費を非課税にしている」ことを理由に税負担を発生させない、という制度にするのが当然の帰結に思えます。
が、現行法はそうなっていないのであり。
以下、例によって《機能面》から、このあたりの整理をしておきます。
◯
単純な事例を使って説明します。
【事例1】
A(事業者)
↓ 食品44+それ以外33
B(事業者)
↓ 食品110
C(消費者)
・金額は税込です。
・面倒なので、食品もそれ以外も税率10%とします。
消費税
A 7(=4+3)
B 3(=10-7)
利益
A 70(=77-7)
B 30(110-77-3)
最終的に、消費者のところで生じた10(A7+B3)の消費税が、お国に納付されてくることになります。
では、食品が「非課税」となったらどうなるか。
【事例2】
A(事業者)
↓ 食品40+それ以外33
B(事業者)
↓ 食品100
C(消費者)
消費税
A 3(=0+3)
B 0
利益
A 70(=73-3)
B 27(=100-73)
非課税になったということで、ABとも素直に税額分値下げをした場合を想定しています。
この場合、BがAに支払う消費税のうち3が控除できなくなるため(用途区分)、Bの利益が【事例1】と比べて△3となってしまいます。
では、Bが【事例1】の課税のときと同じ利益を維持するためにはどうすればよいか。
【事例3】
A(事業者)
↓ 食品40+それ以外33
B(事業者)
↓ 食品103
C(消費者)
消費税
A 3(=0+3)
B 0
利益
A 70(=73-3)
B 30(=103-73)
控除できない消費税分3は、値下げをしないこととします。これにより、Bは【事例1】と同じ利益30が確保できることになります。
では、これが「免税」の場合はどうなるか。
【事例4】
A(事業者)
↓ 食品40+それ以外33
B(事業者)
↓ 食品100
C(消費者)
消費税
A 3(=0+3)
B △3(=0-3)
利益
A 70(=73-3)
B 30(=100-73+3)
【事例1】から素直に免税額分を値下げしたとします。
Bは、【事例2・3】と違い、食品にかかる消費税3も控除できるため、値上げをしないでも利益30を確保できることになります。
他方で、お国の側からすると、消費税が1円も入ってこないことになります。
◯
さて、これら事例群から読み取れること。
「免税」の場合は、免税対象に関わる消費税をなかったことにする効果があります。
ここまでの強い効果を正当化できるの、輸出免税であれば、輸出により「国内消費」がされないことになるため、消費税を課税する根拠が失われるから、という説明が可能です。
そして、これだけの強い効果を付与するには、厳格な形式要件(輸出証明書類)が要求されることになると。
他方で「非課税」の場合、仕入税額控除が否定されることから、消費税は一部残ることになります。
では、【事例3】で生じている消費税3は、何に対する課税といえるでしょうか。
これについては、その他取引により生じている《付加価値》に対応する税だと表現することができます。
食品取引の付加価値 70(A40+B30) 非課税
その他取引の付加価値 30(A30) 課税のまま
つまり、「非課税」というのは、あくまでも非課税対象にかかる付加価値のみを非課税とする制度であり。それ以外の付加価値まで非課税とするものではないと。
翻って。
「輸出免税」の場合に、国内で生じているはずの、その他取引にかかる付加価値まで免税効果を及ぼしてしまう理由。単に「国内で最終消費をしていないから」というだけでなく。
「輸出先国での競争に負けないようにする」という、国家の政策からの強い要望によるもの、という(外在的な)説明を加える必要があるのではないでしょうか。国家政策として輸出を抑制したいのであれば、輸出免税しない(せいぜい非課税にとどめる)という選択肢も当然ありうるわけです。
制度設計としては、どこまでの減税効果を及ぼしたいかによって、免税/非課税を選択することになるかと思います。
◯
このように、非課税売上対応課税仕入が仕入税額控除を否定される理由については、《事業者/付加価値課税モデル》に従えば説明が可能です。
他方で、通俗的な説明の仕方である《消費者/消費課税モデル》からは、「消費者から消費税をお預かりしていないのに、お支払いした消費税を還付してもらえないのはおかしい」という帰結にならざるをえません。
モデル間での説明を仕方を比較すると、以下の通り。
それぞれ、一応の説明は可能ですが、《消費者/消費課税モデル》からは、非課税の場合に仕入税額控除が否定されることを説明するのが難しい。
要は、《事業者/付加価値課税モデル》であれば、
・Aの食品の付加価値
・Aのその他の付加価値
・Bの食品の付加価値
と分解できるのに対し、《消費者/消費課税モデル》では、最終的には
・Cの食品の消費
というひとつのものに収斂されてしまうため、それを非課税にした以上、他のものに税負担を発生させることの説明が厳しいということです。
そして、「食料品に消費税を課さないのであれば免税とすべき!」というご主張。
非課税とした場合に生ずる不都合諸々はおっしゃるとおりなんですが、輸出取引と同じだけの「その他取引にかかる付加価値分も含めてまるごと免税」を正当化できるような理由があるのかどうか。
非課税を超えて免税にまでするにはそれ相応の理由が必要なのであり。お気軽に免税扱いしてよいものではないわけです(が、法律に書きさえすれば実現可能なのが現実)。
・
上記で《消費者・消費課税モデル》では説明が難しいといいましたが。
これを主体を外した《消費課税モデル》に変形すれば、説明は可能となります。
というのも、《消費》自体は消費者だけでなく事業者もおこなっています。事業者が買ってきた鉛筆で字を書くのも消費です(卑近な例)。
それゆえ、上記事例における消費は、次のように分解できます。
・Cの食品の消費
・Bのその他の消費
ここで、Cの食品の消費を課税しないこととしたからといって。Bのその他の消費まで課税しないとする必然性はありません。
必然性もないのに課税しないこととしているのが「免税」制度であり。そうするだけの相応の理由が必要となるのは、上述したとおりです。
通俗的に、消費税は最終消費者が負担すべき「人税」風に説明されがちですが。消費に課税する「物税」として捉えたほうが、現行消費税法に適合的な理解ではないかと思います。
◯
なお、私個人としては、外食/内食間でド派手な《裁定》が働くような政策、およそ採用すべきではないと思っております。
「課税と脱税の経済史」(みすず書房2025)
本記事はあくまでも、「非課税と免税は違う!」ところまでは盛んに言われるのに、ではなぜそうなっているのかの《実質的根拠》を誰も説明してくれないことから、整理しておいたものにとどまります。
そして、通説的には「累積していないから」とだけ言っておけば済むところであり。わざわざ「付加価値」などを持ち出すのは、そういう表面的なタームでは納得できない人だけに向けた説明となります。
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