2026年05月11日

小規模宅地の特例における「同意」について 〜注意書きワナビー

 本ブログにおいては、条文読まない系の方々を、「通達ワナビー」「Q&Aワナビー」といった通称でお呼びしているところです。
 今回の記事は、ここに「注意書きワナビー」が加わります、というお知らせ記事となります。


 小規模宅地の特例の適用にあたって、他の相続人の「同意」が必要とされています。では、どのような場合に誰の同意が必要となるのでしょうか。このあたり、正面から書かれた文献がほとんど見当たらない(一部未分割の場合の判決のご紹介があるくらい)。

 私の観測範囲では、永吉啓一郎先生の下記書籍だけが、このことを正面から扱っていました。

永吉啓一郎「民法・税法 2つの視点で見る相続」(清文社2026)

 ので、「あとは同書をご覧ください。」で済ませてもよいのですが、「注意書きワナビー」の生態観察をするために、以下でも検討しておきます。


 本記事を書くきっかけとなったのは、要旨、次のようなブログ記事を複数観測したことによるものです。

【注意書きワナビーのブログ記事】
《事例》
 相続人:長男A、長女B
 相続財産:土地甲(生計一Aが居住している)
      土地乙(生計一Aが貸付事業に供している)
 分割:Aが土地甲を、Bが土地乙を相続

 Aが土地甲に居住用宅地の特例の適用を受けるためには、Bの同意が必要か?

《ワナビーの見解》
 ・(第11・11の2表の付表1)の《注意書き》によれば、「小規模宅地等の特例の対象となり得る宅地等を取得した全ての人」の同意が必要である。
 ・土地乙は、もしもAが相続していれば、貸付事業用宅地の特例の適用を受けることができた土地である。
 ・とすると、土地乙は「小規模宅地等の特例の対象となり得る宅地等」に該当する。
 ・よって、土地乙を取得したBの同意が必要である。

小規模注意書き.png


 これを読んで「丁寧な論証がなされている。」などと思われた方がいらっしゃるとしたら、大変にまずい。

 たとえばですけど、仮に土地乙が「未利用地」だった場合でも、「もし、Aまたは被相続人が貸付事業に供していれば、貸付事業用宅地の特例の適用を受けることができたはず」などという理由で、Bの同意が必要だというならば、さすがに可笑しいということが分かるはずです。
 極端な話、「すべての土地」は小規模宅地等の特例の適用を受けうる、無限の可能性に満ちているわけで。土地取得者全員が必ず同意の対象となってしまいます。
 もちろん、ワナビー達は「そこまでの仮定はしない」と反論するでしょう。が、では「そこまで」というのはいったいどこまでなのか。

 ここで、同意が必要となる境界を見出すために、『注意書きが「なり得る」と記述している趣旨は、』などといって、注意書きの《趣旨解釈》を始めようとするのは愚の骨頂。最初にやるべきことは、《条文を読む》ことです(解釈ですらなく、まず「読む」)。


 条文は後ろに貼り付けておきますので、ここでは必要な箇所のみ抜粋していきます。
  租税特別措置法69条の4 ⇒法と略します。
  租税特別措置法施行令40条の2 ⇒令と略します。

 まず、「同意」については、令5項3号に規定されています。

三 当該特例対象宅地等、当該特例対象山林若しくは当該特例対象受贈山林又は当該猶予対象宅地等若しくは当該猶予対象受贈宅地等を取得した全ての個人の第一号の選択についての同意を証する書類

 実体要件として「同意が必要」と定めることなく。いきなり形式要件として「同意を証する書類」を添付しろと規定されていることに、強い違和感があるものの、その点はさておき。
 「当該特例対象宅地等を取得した全ての個人」の同意が必要とされています。

 では、「特例対象宅地等」とは何か。これは令5項本文に規定されています。
 
 法第六十九条の四第一項に規定する個人が相続又は遺贈()により取得した同項に規定する特例対象宅地等(以下この項、次項及び第二十四項において「特例対象宅地等」という。)

 法をみろと。
 で、法1項では、次のように規定されています。

(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下この条において「特例対象宅地等」という。)

 長くなるのでここだけ抜粋しました。ポイントは「貸付事業用宅地等に限る」とされている点です。

 「貸付事業用宅地等」とは何かについては、法3項4号をみていただきたいのですが、生計一親族の場合でいうと、
  1 貸付事業供用
  2 事業継続
  3 保有継続
 のすべてを満たしてはじめて「貸付事業用宅地等」に該当することになります。

 さて、以上の条文を《事例》にあてはめると、土地乙は要件1は満たすものの、2・3を満たさないため、「貸付事業用宅地等」には該当しません。
 よって、Bは「特例対象宅地等」を取得しておらず、同人の同意は不要という結論になります。


 念のため、「同意」を要求している《趣旨》からも説明しておきます。

 すなわち、本特例には「限度面積」が定められており、「特例対象宅地等」を取得した人たちの間で取り合いになるから、その人たちの間できちんと合意しておいてね、というのが同意を求める趣旨かと思います。
 それゆえ、特例の取り合いに参加できないBの同意を求める必要は、ないということです。

 なお、この趣旨からすれば「限度面積内に収まっていれば、同意欄に記入しなくてもよいのでは」と思われるかもしれません。
 が、特例絡みの「形式要件」については、現場のみならず、審判所・裁判所まで含めて、異常なまでの《厳格解釈》が展開されており。令5項但書にあるように「一人」の場合に除外するといった規定がないかぎり、限度面積内に収まっていようが、同意書は必要という帰結になるかと思います。
 「限度面積内に収まっている場合や、実体レベルで同意がある場合にも、令が同意「書」がなければ適用不可としているのは、《法の委任》の限度を逸脱している。」という立論が成り立ちうるものの、まあ望み薄でしょう。


 税理士のブログ記事などというものは、基本的にはタックスアンサーや質疑応答事例などをトレースすることから、はみ出さないのが通常運転かと思います。
 ところが、本論点についてはタックスアンサーなどでは触れられていないところです。だというのに、複数のブログにおいて、《注意書きの拡大解釈》が展開されていました。

 勝手に邪推するに、『資産税に強いと見せかけましょうコンサル』の方の情報商材のなかに、このブログ記事も含まれていたのでしょうか。で、その中身を検証することもなく、そのままコピペしてしまったと。

 以上、毎度お馴染み「条文読めや」というだけのお話しです。

◯参照条文

法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
1 個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(第三項において「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。同項において同じ。)の用又は居住の用(居住の用に供することができない事由として政令で定める事由により相続の開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていなかつた場合(政令で定める用途に供されている場合を除く。)における当該事由により居住の用に供されなくなる直前の当該被相続人の居住の用を含む。同項第二号において同じ。)に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。同項及び次条第五項において同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令で定めるもの(特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、特定同族会社事業用宅地等及び貸付事業用宅地等に限る。以下この条において「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下この項及び次項において「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下この項において「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法第十一条の二に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規模宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。

3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 貸付事業用宅地等 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものに限る。以下この号において「貸付事業」という。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。

令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
5 法第六十九条の四第一項に規定する個人が相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下この条及び次条において同じ。)により取得した同項に規定する特例対象宅地等(以下この項、次項及び第二十四項において「特例対象宅地等」という。)のうち、法第六十九条の四第一項の規定の適用を受けるものの選択は、次に掲げる書類の全てを同条第七項に規定する相続税の申告書に添付してするものとする。
ただし、当該相続若しくは遺贈又は贈与(当該相続に係る被相続人からの贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。)であつて当該贈与により取得した財産につき相続税法第二十一条の九第三項の規定の適用を受けるものに係る贈与に限る。第二十四項及び次条(第九項を除く。)において同じ。)により特例対象宅地等、法第六十九条の五第二項第四号に規定する特定計画山林のうち同号イに掲げるもの(以下この項及び第二十四項において「特例対象山林」という。)及び当該特定計画山林のうち同号ロに掲げるもの(以下この項において「特例対象受贈山林」という。)並びに法第七十条の六の十第二項第一号に規定する特定事業用資産のうち同号イに掲げるもの(以下この項において「猶予対象宅地等」という。)及び法第七十条の六の九第一項(同条第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定により相続又は遺贈により取得したものとみなされた法第七十条の六の八第一項に規定する特例受贈事業用資産(以下この項において「特例受贈事業用資産」という。)のうち同条第二項第一号イに掲げるもの(同条第一項の規定の適用に係る贈与により取得をした同号イに規定する宅地等(以下この項において「受贈宅地等」という。)の譲渡につき同条第五項の承認があつた場合における同項第三号の規定により同条第一項の規定の適用を受ける特例受贈事業用資産とみなされた資産及び受贈宅地等又は当該特例受贈事業用資産とみなされた資産の現物出資による移転につき同条第六項の承認があつた場合における同項の規定により特例受贈事業用資産とみなされた株式又は持分を含む。以下この項において「猶予対象受贈宅地等」という。)の全てを取得した個人が一人である場合には、第一号及び第二号に掲げる書類とする。
一 当該特例対象宅地等を取得した個人がそれぞれ法第六十九条の四第一項の規定の適用を受けるものとして選択をしようとする当該特例対象宅地等又はその一部について同項各号に掲げる小規模宅地等の区分その他の明細を記載した書類
二 当該特例対象宅地等を取得した全ての個人に係る前号の選択をしようとする当該特例対象宅地等又はその一部の全てが法第六十九条の四第二項に規定する限度面積要件を満たすものである旨を記載した書類
三 当該特例対象宅地等、当該特例対象山林若しくは当該特例対象受贈山林又は当該猶予対象宅地等若しくは当該猶予対象受贈宅地等を取得した全ての個人の第一号の選択についての同意を証する書類
posted by ウロ at 09:21| Comment(0) | 相続税法
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