小規模宅地の特例における「同意」について 〜注意書きワナビー
・東京地裁平成28年7月22日判決
・東京高裁平成29年1月26日判決
事案を、今回の検討用に改変すると次の通りとなります。
《事例》
・相続人: 子A、子B
・相続財産:土地甲(生計一Aの事業用)
土地乙(被相続人の貸付事業用)
・土地甲は遺言でAが相続、土地乙は未分割
⇒AはBの同意なしに土地甲に特例適用受けられるか?
で、裁判所は、土地乙は遺産共有の状態でもBが特例対象宅地等を取得していることになるから、Bの同意も必要と判断しました(地裁高裁ともほぼ同じなので、最大公約数的に「裁判所」とバンドルしてしまいます)。
◯
そこらの実務書だと、この判決を鵜呑みにして「未分割土地があったら相続人全員の同意が必要」などと、雑な規範を導き出しています。
が、本判決の事案、「平成22年度税制改正」前の事案だということに、注意が必要です(激烈不謹慎なことをいうと、タイミング的には結構ギリギリ)。
平成22年度の改正事項、たとえば次のようなものがありました。
1 申告期限までの利用継続・保有継続が必須となった
2 共同相続の場合は、対象者の持分のみ適用されることになった
このときの改正により、特例の適用範囲がド派手に縮小されたため、それに比例して「同意」が必要な範囲も狭まったはずです。
ということで、改正前後で「同意」の範囲にどのような影響があったか、検討してみます。
◯
まず、改正前から。
改正前条文は、地裁の「別紙1」を、今回の検討に必要なかぎりで、本記事末尾にそのまま貼り付けておきます(なお、本件の納税者側は様々な主張をされているものの、本記事では、改正前後の違いに焦点をあてます)。
前回記事と同じルートで条文を拾っていくと、
令3項3号
当該特例対象宅地等(略)を取得した全ての個人の1号の選択についての同意を証する書類
↓
令3項本文
措置法69条の4第1項に規定する個人が相続又は遺贈()により取得した特例対象宅地等
↓
法1項本文
個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。以下同じ。)の用又は居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもので政令で定めるもの(以下「特例対象宅地等」という。)
となります。
改正後と対比して明らかなのが、「特例対象宅地等」に該当するかを判定するには、《相続開始直前の利用状況》だけをみるという点です。「特例対象宅地等」に該当するかを判定した後、減額割合や限度面積を判定する段階で、申告期限までの利用継続・保有継続があるかの分岐を走らせると(以下、「申告期限まで」という限定句は省略します)。
特例対象宅地等
改正前:相続開始直前の利用状況
改正後:相続開始直前の利用状況+申告期限までの利用継続+保有継続
単に要件が加わったとだけ理解するのでは足りなくて。用語の定義そのものが変わってしまったということです。
これを《事例》にあてはめると、土地乙は「相続開始直前で被相続人の貸付事業用に供されていた」という事実だけで「特例対象宅地等」に該当することになります。
そして、遺産共有によって相続人全員が同土地を「取得」したことになることから、Bの同意が必要という結論が導かれます。
「特例の取り合い参加者の合意を求める」という同意の《趣旨》から考えても、「利用継続+保有継続」がなくても特例適用が受けられる以上、相続人全員に参加のチャンスが残されているのであり。相続人全員の同意を要求することは妥当だという説明が可能です。
◯
さて、これが改正後だとどうなるか(以下、利用者が「被相続人」自身のパターンで検討し、「生計一親族」のパターンは省略します)。
この点、貸付事業用の場合は、遺産共有によって強制的に「利用継続+保有継続」を満たすことになるため、相続人全員の同意が必要という結論は同じとなります。分割されるまでは相続人全員が按分割合で不動産所得の確定申告をしなければならない、というのがその帰結です。
ただ、同意が必要となる要件として「相続人全員が利用継続をしている」という事実を摘示しなければならないということです(改正前の事案ゆえ、判決文では明示的に現れていない)。
◯
なんだ結論同じじゃん、と思われるかもしれません。が、問題は特定事業用と特定居住用。
「不動産所得」は強制的に按分申告と扱われていますが、「事業所得」の場合はどうなるのかと。相続人の中の一人だけが事業に従事していた場合、それでも按分強制なのかどうか。
もし按分強制されないなら、「特定事業用」については、申告期限の時点で、相続人の中で特例要件を満たす人と満たさない人に分かれることになります。
それでも相続人全員の同意が必要となるのかどうか。
◯
「特定居住用」の場合も、要件を満たす人・満たさない人が分かれることがあります。
以下、最初の《事例》から条件を変えた事例をあげます。Aが土地甲に特例を受けるためにBの同意が必要かどうか、という問いは同じです。
《事例1》
相続財産:土地乙(被相続人の居住用)
相続人:長男A(持ち家なし)、長女B(持ち家なし)
ABとも「家なき子特例」の要件を全て満たしているとします。
この場合は、Bも特例を受ける可能性が残されているため、Bの同意が必要となることに、問題はありません。
《事例2》
相続財産:土地乙(被相続人の居住用)
相続人:長男A(持ち家あり)、長女B(持ち家あり)
この場合、AもBも特例を受ける可能性は残されていないため、土地乙は「特例対象宅地等」に該当せず、Bの同意は不要となるはずです。
改正前だったら、相続開始直前に被相続人の居住用だったというだけで適用を受けられたので、Bの同意が必要となったところです。
《事例3》
相続財産:土地乙(被相続人の居住用)
相続人:長男A(持ち家なし)、長女B(持ち家あり)
Aには特例を受ける可能性が残されているものの、Bには残されていません。つまり、土地乙はAにとっては「特例対象宅地等」であるものの、Bにとっては「特例対象宅地等」でないことになります。
この場合に、Bは「特例対象宅地等を取得した」といえるのかどうか。
一方で、Aにとって「特例対象宅地等」である以上、措置法上は「特例対象宅地等」と扱われるのであり、それを誰が取得しようが「特例対象宅地等」に変わりはないという《絶対的特例対象宅地概念説》がありえます。
他方で、Bにとって「特例対象宅地等」でない以上、Bは「特例対象宅地等」を取得したとはいえないという《相対的特例対象宅地概念説》もありえます。
前述したとおり、共同相続の場合に対象者の持分にしか特例適用できないという改正が入ったことや、特例の取り合いに参加できる相続人の合意を求めるという趣旨からすれば、《相対説》のほうが妥当なように思えます。
が、納税者有利な特例に対する異様なまでの《厳格解釈》を展開する風潮からすると、《絶対説》に傾きそうではあります。
前回の記事のように、条文を「読む」だけで結論を導くことができる論点とは異なり。ここでは一定の《解釈》が必要となります。
ので、野良税理士としては安全を取る方向で運用せざるをえない。
だからといって、前回の論点までもを安全をとってBの同意を求めよう、などというのは、さすがに条文読まなすぎだろ、という評価になるかと思います。
(別紙1) 関係法令の定め
1 措置法の定め
(1) 69条の4第1項
個人が相続又は遺贈により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続若しくは遺贈に係る被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族(以下「被相続人等」という。)の事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む。以下同じ。)の用又は居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下同じ。)で財務省令で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもので政令で定めるもの(以下「特例対象宅地等」という。)がある場合には、当該相続又は遺贈により財産を取得した者に係る全ての特例対象宅地等のうち、当該個人が取得をした特例対象宅地等又はその一部でこの項の規定の適用を受けるものとして政令で定めるところにより選択をしたもの(以下「選択特例対象宅地等」という。)については、限度面積要件を満たす場合の当該選択特例対象宅地等(以下「小規模宅地等」という。)に限り、相続税法11条の2に規定する相続税の課税価格に算入すべき価額は、当該小規模宅地等の価額に次の各号に掲げる小規摸宅地等の区分に応じ当該各号に定める割合を乗じて計算した金額とする。
1号 特定事業用宅地等である小規摸宅地等、特定居住用宅地等である小規模宅地等及び特定同族会社事業用宅地等である小規模宅地等 100分の20
2号 前号に掲げる小規模宅地等以外の小規模宅地等 100分の50
(3) 69条の4第3項
この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
1号 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。以下同じ。)の用に供されていた宅地等で、当該相続又は遺贈により当該宅地等を取得した個人のうちに、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続又は遺贈により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)がいる場合の当該宅地等(政令で定めるものに限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法27条、29条又は31条2項の規定による申告書の提出期限(以下、この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
2号 特定居住用宅地等
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、当該相続又は遺贈により当該宅地等を取得した個人のうちに、当該被相続人の配偶者又は次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該被相続人の配偶者を除く。以下この号において同じ。)がいる場合の当該宅地等(政令で定めるものに限る。)をいう。
イ 当該親族が相続開始の直前において当該宅地等の上に存する当該被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該家屋に居住していること。
ロ 当該親族(当該被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した者に限る。)が相続開始前3年以内に相続税法の施行地内にあるその者又はその者の配偶者の所有する家屋(当該相続開始の直前において当該被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く。)に居住したことがない者(財務省令で定める者を除く。)であり、かつ、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有していること(当該被相続人の配偶者又は相続開始の直前においてイに規定する家屋に居住していた親族で政令で定める者がいない場合に限る。)。
ハ 当該親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であって、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の居住の用に供していること。
3号 特定同族会社事業用宅地等
相続開始直前に被相続人及び当該被相続人の親族その他当該被相続人と政令で定める特別の関係がある者が有する株式の総数又は出資の総額が当該株式又は出資に係る法人の発行済株式の総数又は出資の総額の10分の5を超える法人の事業の用に供されていた宅地等で、当該相続又は遺贈により当該宅地等を取得した個人のうちに当該被相続人の親族(財務省令で定める者に限る。)がおり、当該宅地等を取得した当該親族が相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、申告期限まで引き続き当該法人の事業の用に供されている場合の当該宅地等(政令で定めるものに限る。)をいう。
2 租税特別措置法施行令(平成22年政令第58号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)
(3) 40条の2第3項
措置法69条の4第1項に規定する個人が相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下同じ。)により取得した特例対象宅地等のうち、同項の規定の適用を受けるものの選択は、次に掲げる書類の全てを同条6項に規定する相続税の申告書(以下、単に「相続税の申告書」という。)に添付してするものとする。ただし、当該相続若しくは遺贈又は贈与〔当該相続に係る被相続人からの贈与(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。)であって当該贈与により取得した財産につき相続税法21条の9第3項の規律の適用を受けるものに係る贈与に限る。〕により特例対象宅地等並びに措置法69条の5第2項4号に規定する特定計画山林のうち同号イに掲げるもの(以下「特例対象山林」という。)及び当該特定計画山林のうち同号ロに掲げるもの(以下「特例対象受贈山林」という。)の全てを取得した個人が1人である場合には、1号及び2号に掲げる書類とする。
1号 当該特例対象宅地等を取得した個人がそれぞれ措置法69条の4第1項の規定の適用を受けるものとして選択をしようとする当該特例対象宅地等又はその一部について同項各号に掲げる小規模宅地等の区分その他の明細を記載した書類
2号 当該特例対象宅地等を取得した全ての個人に係る前号の選択をしようとする当該特例対象宅地等又はその一部の全てが措置法69条の4第2項各号に規定する限度面積要件のうちのいずれか一の要件を満たすものである旨を記載した書類
3号 当該特例対象宅地等又は当該特例対象山林若しくは当該特例対象受贈山林を取得した全ての個人の1号の選択についての同意を証する書類(以下、同号に規定する書類を「選択同意書」という。)
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