2022年03月28日

長崎年金二重課税訴訟の要件事実(と称するところのもの)

 全く全然、続ける気はなかったのですが、あまりにも酷かったので。気力を振り絞って整理しておきます。

伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 同書には、いわゆる長崎年金二重課税訴訟の要件事実だとかいって、次のような記述が出てきます(同書43頁)。

【長崎年金二重課税訴訟】
 最高裁平成22年7月6日判決(最高裁のサイト)

(引用ここから)
訴訟物
 本件更正処分の違法性

請求原因
(行政処分の存在)
@ 処分行政庁による,Xの平成14年分の所得につき,年金払保障特約付生命保険契約に基づき支払われた第1回目の年金支給額を雑所得と認定して行った所得税に係る更正処分が存在する。
(違法性の主張)
A 本件更正処分は違法である。

〔争点:本件生命保険契約に基づき支払われる年金受給権は,相税3条1項により,相続により取得したものとみなされて,相続税の課税財産に含められているところ,旧所税9条1項15号は,相続税により取得するものを非課税所得としているから,本件年金受給権に基づき取得した本件第1回目の年金支給額を雑所得として認定判断してなした本件更正処分には,法条の解釈を誤った違法があるといえるか否か。〕

抗弁(更正処分の適法性に関する評価根拠事実)
1 本件年金受給権は,本件生命保険契約によれば,亡Aを契約者兼被保険者とし,Xを保険金受取人とする有期定期金債権であり,相税3条1項1号所定の相続財産に該当する。
2 Xは,本件生命保険契約に基づいて,本件年金受給権という基本権とは異なり,保険事故が発生した日から10年間毎年の応当日に発生する,年金受給に係る支分権に基づき,保険会社から現金を受領した。

〔主張の趣旨:当該定期金は,相続税の課税対象たる年金受給権(基本権)とは異なる,別個の定期金請求権(支分権)に基づくものであるから,所得税の課税対象となる。〕

再抗弁(更正処分の適法性に関する評価障害事実)
3 本件生命保険契約によれば,本件支分権が行使されることにより,生命保険金に係る基本的権利である本件年金受給権は徐々に消滅していく関係にある。
4 本件支分権たる有期定期金の価額は,相税及び財産評価基本通達によれば,その残存期間に受けるべき給付金の総額に,その期間に応じた一定の割合を乗じて計算した金額とされているところ,この割合は,将来支給を受ける各年金の課税時期における現価を複利の方法によって計算し,その合計額が支給を受けるべき年金の総額のうちに占める割合を求め,端数整理をしたものとされている。

〔主張の趣旨:相続法による年金受給権の評価は,将来にわたって受け取る各年金の当該取得時における経済的な利益を現在価値に引き直したものであるから,これに対して相続税を課税したうえで,さらに個々の定期金に所得税を課税することは,実質的に,同一の資産に対して相続税と所得税を二重に課税するもので,所税9条1項15号の規定に違反するものである。〕
(引用ここまで)


 (抗弁・再抗弁の数字を1〜4に変えてあります。)

所得税法 第九条(非課税所得)
1 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
十七 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの(相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)の規定により相続、遺贈又は個人からの贈与により取得したものとみなされるものを含む。)



 前回の記事をご覧いただくとおわかりになるかと思いますが、以前と全く同じ愚挙をおかしています。

 2で「基本権と異なり」などと書かれていますが、基本権と支分権が異なるかどうかはもっぱら裁判所による「評価」の問題です。これを要件事実の中に混ぜ込むことなど、およそ許されるものではありません。

 (およそありえない想定ですが)仮に、納税者が「2は認める」などと認否したとしても、裁判所が2の《評価部分》に拘束されることはありません。当事者の認否の対象となるのは「事実」であって「評価」ではないからです。

 そもそも、本件最高裁の立場からすれば、2の《事実部分》がすべて認定できたとしても、更正処分が是認されることにはなりません。端的にいえば「主張自体失当」。

 「評価的要件」の場合、プラスっぽい事情を評価根拠事実として課税庁に、マイナスっぽい事情を評価障害事実として納税者に、なんとなく割り振れば、なんか要件事実の分配をしたかのように見せかけることができてしまいます。
 が、このようなものは、学部生が聞きかじりの要件事実論の真似事をしてみたレベルの話。実体法の勉強があやふやな段階で、要件事実論に手を出そうとするとやりがちな間違い。

 上記の抗弁・再抗弁(1〜4)で分配されているのは要件事実などではなく、単にA説(二重課税否定説)の理由付けとB説(二重課税肯定説)の理由付けが並んでいるだけです。当事者の主張責任・立証責任の対象となる事実として純化されていません。
 確かに、「当該見解の根拠はその主張者が主張すべきである」という言い方をするならば、主張責任・立証責任《風》な表現は可能です。が、すくなくともそれは要件事実論とは別の何かです。


 「税法」領域で要件事実論を展開しているせいで理解しにくくなっているのかもしれません。そこで、次のような「民法」領域での例をあげれば、上記引用にかかる記述のビザール感が理解できるでしょうか。

 たとえば、2017年改正前民法で、「動機の錯誤」が民法95条の錯誤に該当するかが争われていた状況を前提とします。
 原告が、動機レベルの思い違いも錯誤にあたるから契約は無効だとして代金返還請求をしてきたとしましょう。これに対して、被告が、動機は意思表示の要素とならないから錯誤にあたらないと反論したとします。

 この場合に、次のような要件事実の分配をしたらどうでしょうか(本論と関わりない要件は省略します)。

  請求原因
   1 動機は表示されているから意思表示に含まれ要素の錯誤となる。
  抗弁
   2 動機は意思表示の内容でないから要素の錯誤とならない。

 「阿呆ですか」と突っ込まれますよね。
 ひとつのブロックダイアグラムの中で、A説、B説が同居するなんてことはおよそありえません。A説に基づくブロックダイアグラム、B説に基づくブロックダイアグラムがそれぞれ別々に存在するものです。

 もちろん、裁判所がA説・B説いずれを採用するかは、中間判決を出してくれるなり心証開示でもしてくれない限りは、事前にわかるものではありません。ので、どちらの説がでてもよいような主張・立証活動をすることになります。
 が、だからといって、A説に基づく請求原因の後ろにB説に基づく抗弁を連結させる、などということはしません。

 法解釈論レベルの争いを請求原因⇒抗弁として直列させるなどという愚挙、要件事実論というものをまるで理解していないということを如実に表しています。

 これは予備校のテキストによくある、次のような《論点学説陳列》にすぎません。

 A説(肯定説)
  理由:動機は表示されることで要素になる。
 B説(否定説)
  理由:動機は意思表示の内容に含まれない。

 別の例もあげておきます。
 たとえば、未成年者側が、未成年を理由とする契約取消しに基づき代金返還請求をしたとしましょう。これに対して相手方が、未成年であることを黙っていたことが「詐術」にあたるとして反論したとしましょう。

 抗弁
  1 未成年であることを黙っていたから「詐術」にあたる。
 再抗弁
  2 単なる沈黙は「詐術」にあたらない。

 これも、A説×B説の法解釈論レベルの争いであって、要件事実の問題ではありません。


 と、民法領域でカマしたら阿呆呼ばわりされるようなことが、税法領域だと公刊物において幅を利かせることができてしまっているわけです。
 これ、「税法」の要件事実論だから誰からも突っ込まれずに流されているんでしょう。けども、同じことを「民法」で展開したら、しばらく要件事実論出入り禁止になるレベルではないでしょうか。

 要件事実論というのは、単に事実っぽい何かを原告被告に割り付けるようなものではなく。
 その大前提として、実体法上の要件が何であるかを見極めた上で、評価と事実、主要事実と間接事実、事実と証拠、それぞれを混同することなく、主張責任・立証責任の対象となる主要事実を取り出す必要があります。
 要件事実の分配なんてのは、そこまでしっかりやった上で最後に原告被告のどっちに振るかの問題にすぎません。実体法上の要件を取りこぼしたり、実体法にない要件を勝手に付け加えたり、などといった所作に比べれば、そこまで致命的な問題とはなりません(念のため、重要でないということではなく比較の問題です)。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 ちなみに、本件最高裁の結論は「原判決破棄+控訴棄却」となっていて、控訴審の結論をひっくり返しつつも事実審に差戻しをしていません。これができるのは、事実関係が原審までですべて出揃っていて、新たな事実認定を必要としなかったからです。
 このことからすれば、本件の論点が事実レベルの問題ではなく、もっぱら法解釈レベルの問題だったということは、容易に推測できたはずなんですけども。


 本書の出版社、どちらかといえば「税務本」が多く、「税法」のしかも「要件事実論」を扱った本などというのは、同社の蓄積が及ばないジャンルなのでしょうか。

【税法本と税務本】
西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 が、同出版社でも、次のようなとても優れた判決分析本も出版されていたりします。



 高橋貴美子 税務判例に強くなる本 (中央経済社2016)
 高橋貴美子 税務頭を鍛える本 (中央経済社2018)
 
 このことからすると、品質についてはもっぱら著者依存となっており、「出版社買い」はあまりおすすめできない、ということになりますかね。


 さて、結構なお値段のする本書ですが、私としては、ただ2箇所の要件事実の分配(と自称するところのもの)を見ただけで、これ以上読みすすめる気力が撃滅してしまったため、残念ながら終了。

 もう少し「アクティブ・ラーニング」が展開できそうですが、この記事を仕上げるだけでも相当しんどかったため、これ以上は進めなそうです。
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 所得税法

2022年02月28日

リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除

 今回は蛇足。ですが、全くの空想というわけでもない。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除

 次のような事例はどうなるでしょうか。

【検討事例】
1 取得年
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:本人に同行
  配偶者の父母:入居・継続居住
2 翌年
  配偶者:死亡
  配偶者の父母:継続居住

法第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


通達41-1(居住の用に供した場合) 1
・「その者の居住の用に供した場合」とは、第1項に規定する居住用家屋(「居住用家屋」)で建築後使用されたことのないものの取得(「新築等」)をした者が、現にその居住の用に供した場合をいうのであるが、
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしていない場合において、
・その取得の日から6月以内にその家屋をこれらの親族がその居住の用に供したときで、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・これに該当するものとする。

通達41-2(引き続き居住の用に供している場合)
「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1)
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、
・その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。



 まず、通達41-1,41-2により、配偶者の父母が本人にとって生計一の扶養親族に該当すれば、取得年は適用を受けられます。

 では、配偶者死亡後はどうなるでしょうか。

 民法728条によれば、本人と(元)配偶者の父母との姻族関係は当然には終了せず、本人の意思表示により終了させられるとあります。

民法 第七百二十八条(離婚等による姻族関係の終了)
1 姻族関係は、離婚によって終了する。
2 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。


 とすると、この意思表示をせず、かつ、ちゃんと面倒を見てあげているかぎり(生計一)、適用を継続できるということになります。

 この枠組を前提とすると、必ずしも円満でない場合の各当事者の思惑としては、

  本人:自分が帰郷してから終了の意思表示すれば継続して適用を受けられるのか。
  配偶者の父母:本人帰郷前の年末ぎりぎりにでも転居すれば今後適用を受けられなくなるのか。

という感じになるでしょうか。

 極めて不健全な想定ではありますが、現行の制度をあるがままに受け入れるかぎり、そういう結論になります。

 悲しいけどこれ現実なのよね。
posted by ウロ at 10:44| Comment(0) | 所得税法

2022年02月21日

リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除

 今回は、前回・前々回の検討を踏まえて「死別」の場合を掘り下げてみます。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除


 前座として「本人死亡」の場合から。

【事例1】
1 取得年
  本人:入居・継続居住
2 翌年
  本人:死亡 ⇒空家

 取得年は当然適用ありです。では、翌年はどうなるか。

 前回までの引用では省略していましたが、イ(継続居住要件)の「その年の十二月三十一日」の後ろにはカッコ書きで(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)というのが挿入されています。

法第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


 それゆえ、翌年においても「死亡日の現況」で判断されるので、適用を受けることが可能になります(準確定申告)。借入金残高は死亡日時点の残高となります。

 なお、誰かが住居を「相続」したとしても、相続は住宅ローン控除における取得原因とはならないので、翌年以降は住宅ローン控除の適用を受けることはできません。


 これを踏まえて真打ち。

【事例2】
1 取得年
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年
  配偶者:死亡 ⇒空家

 通達41-1と41-2で要件ア・イを拡張してくれているおかげで、取得年は適用を受けられます。

41-1(居住の用に供した場合)
 措置法第41条第1項、第6項、第10項、第13項及び第16項に規定する「その者の居住の用に供した場合」とは、同条第1項に規定する居住用家屋(以下第41条関係において「居住用家屋」という。)の新築若しくは居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは同項に規定する既存住宅の取得若しくは同条第10項に規定する認定住宅(以下第41条関係において「認定住宅」という。)の新築若しくは認定住宅で建築後使用されたことのないものの取得(以下第41条関係において「新築等」という。)又は同条第1項に規定する増改築等(以下第41条関係において「増改築等」という。)をした者が、現にその居住の用に供した場合をいうのであるが、その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしていない場合において、その新築の日若しくはその取得の日又は増改築等の日から6月以内にその家屋(増改築等をした家屋については、その増改築等に係る部分。以下41-5までにおいて同じ。)をこれらの親族がその居住の用に供したときで、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、これに該当するものとする。

41-2(引き続き居住の用に供している場合)
 措置法第41条第1項、第6項、第10項、第13項及び第16項に規定する「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等又は増改築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1) その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。


 では、配偶者が「死亡」した翌年はどうなるか。

 今回、通達を省略せずに掲載してみましたが、「家族死別」の場合のルールは何も書かれていません。
 そうすると、通達の文理解釈()からすれば、拡張デバイスの効力が切れて適用を受けられなくなる、という帰結になります。


 では、配偶者と死別後、本人が「帰郷」したら、23項で再適用を受けることができるか。

 23項にも(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)というカッコ書きが挟まっていますが、これはあくまでも「本人死亡」の場合です。

法第23項
・第一項の規定の適用を受けていた個人が、
・その者に係る所得税法第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(「給与等の支払者」)からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基因して
・その適用に係る第一項の居住用家屋をその者の居住の用に供しなくなつたことにより第一項の規定の適用を受けられなくなつた後、
・これらの家屋を再びその者の居住の用に供した場合における第一項の規定の適用については、
・同項に規定する居住年以後十年間(同項に規定する十年間をいう。)の各年のうち、その者がこれらの家屋を再び居住の用に供した日の属する年(その年において、これらの家屋を賃貸の用に供していた場合には、その年の翌年)以後の各年(同日以後その年の十二月三十一日(その者が死亡した日の属する年にあつては、同日。)まで引き続きその居住の用に供している年に限る。)は、同項に規定する適用年とみなす。


 また、通達41-3の拡張条件は「配偶者が本人と同居するために転居した場合」に限られています。

41-3(居住の用に供しなくなった場合)
 措置法第41条第23項及び第26項に規定する「その者の居住の用に供しなくなった」とは、新築等又は増改築等をした者が現に居住の用に供しなくなったことをいうのであるが、同条第23項及び第26項に規定する給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基づいてその者が居住の用に供しなくなった後も、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族がその家屋を引き続き居住の用に供していた場合で、これらの親族がその者と共に居住することに伴い転居してその家屋を居住の用に供しなくなったときは、これに該当するものとする。


 そうすると、配偶者「死亡」により空家になった場合は、通達41-3は機能しないことになります。

 が、下記【事例3】【事例4】と比べると、どうもアンバランス。

【事例2】 (配偶者が死亡)
1 取得年 ○(1項、通達41-1,2)
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年 ×
  配偶者:死亡 空家
3 翌々年 ×(?)
  本人:帰郷

⇒配偶者死亡により空家になっているため、翌年・翌々年は適用不可

【事例3】 (配偶者が本人と同居)
1 取得年 ○(1項、通達41-1,2)
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年 ×
  配偶者:本人と同居 ⇒空家
3 翌々年 ○(23項+通達41-3)
  本人+配偶者:帰郷

⇒翌年は空家になっているため適用不可だが、翌々年は法23項+通達41-3により適用可。

【事例4】 (23項の典型例)
1 取得年 ○(1項)
  本人:入居・居住継続
2 翌年 ×
  本人:転勤 ⇒空家
3 翌々年 ○(23項)
  本人:帰郷

⇒翌年は空家になっているため適用不可だが、翌々年は法23項により適用可。


 もちろん、「趣旨解釈」を展開することで、配偶者死亡の場合にも適用を拡張することが可能になるのかもしれません。
 が、措置法分野でそのような拡張解釈が望み薄なのは、すでに述べたとおりです。

「居住の用に供しなくなった場合」とは
  法23項:本人転勤で空家になった場合【事例4】
 通達41-3:家族のみ居住で、家族が「本人と同居」して空家になった場合に拡張【事例3】
 趣旨解釈:家族のみ居住で、家族が「死亡」して空家になった場合に拡張(?)【事例2】


 そうすると、1項を継続適用できるようにするため、配偶者の死を「予知」して単身赴任を早めに切り上げて戻ってこい、ということになるでしょうか。

【税法と予知(オカルティック租税法)】
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)

リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
posted by ウロ at 10:54| Comment(0) | 所得税法

2022年02月14日

リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除

 前回タイトルから、なんか増えていますが。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除

 まあ、人生山あり谷ありということで。


 前回検討のそもそものきっかけは、次のような事例で住宅ローン控除がどうなるかを確認するためでした。

【検討事例】
1 取得年
  本人:単身赴任、帰郷予定あり
  配偶者:入居・継続居住
2 翌年
  配偶者と離婚
3 離婚年に本人帰郷 または 離婚翌年に本人帰郷

 まず、1の取得年は、通達41-1,41-2のおかげで法1項が適用できます。
 では、翌年離婚した以降はどうなるでしょうか。

 このような問題、例によって、タックスアンサーや《税務お役立ち記事》に書かれることはありません。
 ので、自分で条文にあたるしかない。

 私自身も、ブログネタになるから頑張ってイジり倒しているだけであって、何の必要もないのに何でもかんでも条文に遡る気はありません。特に措置法の条文なんて、所属が措置法だと分かった時点で、忌避感を抱いてしまう類のものです。

 が、どこにも書いていないから、やるしかない。


 前回同様、素材の提示から。

第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


 法からすれば、要件イを満たさず「適用なし」となるところです。
 では、通達41-2の要件イ拡張デバイスが使えるかどうか。

41-2(引き続き居住の用に供している場合)
「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1)
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、
・その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。


 離婚して「他人」となってしまった以上、通達41-2は機能しません。
 仮にその他人(元配偶者)が引き続き居住していたとしてもです。他人は他人。


 では、本人が帰郷すれば適用ができるかどうか。

 まず、離婚前帰郷であれば、「○まだ配偶者⇒○ご本人」と居住継続が途切れないので、要件イを満たすことになるように思われます。

 これが、離婚後帰郷(離婚年または離婚翌年いずれでも)の場合は、「○まだ配偶者⇒×もう他人⇒○ご本人」と、他人が挟まってしまうので、要件イを満たせないことになりそうです。

 「帰郷するまで離婚待ってください」とでも言わないといけないということでしょうか。


 ここで、通達41-3が機能しないかどうか。
 通達41-3が機能してくれるのであれば、本人帰郷後に法23項が使えることになるはずです。

41-3(居住の用に供しなくなった場合)
・「その者の居住の用に供しなくなった」とは、新築等をした者が現に居住の用に供しなくなったことをいうのであるが、
・給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基づいてその者が居住の用に供しなくなった後も、
・配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族がその家屋を引き続き居住の用に供していた場合で、
・これらの親族がその者と共に居住することに伴い転居してその家屋を居住の用に供しなくなったときは、
・これに該当するものとする。


 が、通達41-3が想定しているのは、
  1 本人:単身赴任、配偶者:入居・継続居住
  2 配偶者:本人と同居
というものです。
 1は【検討事例】のとおりですが、2が全然違う。離婚の場合などはおよそ想定されていません。


 通達を文理解釈()するかぎり【検討事例】では使いようがありません。

【通達の文理解釈()】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 あとは「趣旨解釈」でどうにかならないか。

 確かに、近時いやに「趣旨解釈」を強調しがちな裁判例が現れています。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 が、他方でそれ以上に「措置法の特例は例外なんだから厳格に解釈すべし」という根強い通念が存在しています。
 ということで、おそらく「趣旨解釈」による救済の見込みは極めて低い、というのが私の見立て。

 タイミングが前後するだけで結論が逆転するという、税制お馴染みの落とし穴が、ここにもあるということです。

リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
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2022年02月07日

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除

 「令和4年度税制改正大綱」では住宅ローン控除についてもかなり手を入れることとされています。
 が、当ブログは例によって改正内容云々をご説明するつもりはなく。

 先日の記事では、年末調整における控除項目が、ご家庭の事情の変化にどう影響されるかということを検討しました。

機能的年末調整論(その1) 〜年末調整と離婚(配偶者)
機能的年末調整論(その2) 〜年末調整と死別(配偶者)
機能的年末調整論(その3) 〜年末調整と結婚(子)
機能的年末調整論(その4) 〜年末調整と死別(子)

 その中で、「住宅ローン控除」についてもほんのり触れました。
 ですが、いまいち理解しきれなかったので、もう少し検討を進めてみます。


 かつての住宅ローン控除、「転勤」の多い日本的雇用システム(長期雇用、年功賃金など)にそぐわない側面があったわけですが、法改正や通達によって一定程度のカバーがされてきました。

No.1234 転勤と住宅借入金等特別控除等

 上記タックスアンサー様(以下「TA」という。)にまとめて頂いているわけですが、例によって《類型論的アプローチ》での記述となっており、網羅性に欠ける。

 ということで、条文を確認してみます。

【以下の検討のお約束事項】
・新規取得で代表させて記述します。
・控除期間は10年前提で記述します。
・要件のうち「居住の用に供した場合」「引き続き居住の用に供している場合」のみを対象とします。
・「入居」は、取得から6ヶ月以内に居住の用に供したことを前提とします。
・転勤は国内を想定し、「特定事由」に該当するものとします。
・転勤が終わって再居住することを「帰郷」と表現します。
・属性は、単身者と単身赴任とします(家族全員転勤は単身者と同じ)。
・転勤のタイミングを、入居前/入居後適用前/入居後適用後に場合分けします。
・「措置法41条」は省略して項数のみで引用します。
・条文は、関係箇所以外を派手に省略して引用します。
・いつ以降の居住・転勤かによってルールが異なりますが、現時点のルールを前提とします。
・25項、28項の宥恕規定は省略します。


 まずは、大原則である「1項」について。

第1項
ア 「居住の用に供した場合」 (入居要件)
 個人が、家屋を平成十一年一月一日から令和三年十二月三十一日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から六月以内にその者の居住の用に供した場合に限る。)

イ 「引き続き居住の用に供している場合」 (継続居住要件)
 当該居住の用に供した日(「居住日」)の属する年(「居住年」)以後十年間の各年(当該居住日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。「適用年」)


 所得者本人が、家屋取得から6ヶ月以内に入居し、各適用年の12/31まで継続居住していることを要求しています。

 次に「23項・24項」について。

第23項(実体要件)
・第一項の規定の適用を受けていた個人が、
・その者に係る所得税法第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(「給与等の支払者」)からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基因して
・その適用に係る第一項の居住用家屋をその者の居住の用に供しなくなつたことにより第一項の規定の適用を受けられなくなつた後、
・これらの家屋を再びその者の居住の用に供した場合における第一項の規定の適用については、
・同項に規定する居住年以後十年間(同項に規定する十年間をいう。)の各年のうち、その者がこれらの家屋を再び居住の用に供した日の属する年(その年において、これらの家屋を賃貸の用に供していた場合には、その年の翌年)以後の各年(同日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。)は、同項に規定する適用年とみなす。

第24項(手続要件)
・前項の規定は、同項の個人が、
・同項の家屋をその居住の用に供しなくなる日までに同項に規定する事由その他の財務省令で定める事項を記載した届出書(第四十一条の二の二第七項の規定により同項の証明書(これに類するものとして財務省令で定める書類を含む。)の交付を受けている場合には、当該証明書のうち同日の属する年以後の各年分に係るものの添付があるものに限る。)を当該家屋の所在地の所轄税務署長に提出しており、
・かつ、前項の規定の適用を受ける最初の年分の確定申告書に当該家屋を再びその居住の用に供したことを証する書類その他の財務省令で定める書類(次項において「再居住に関する証明書類」という。)の添付がある場合に限り、適用する。


 適用後に転勤になった場合、
  転勤前:届出書を提出+証明書を返還
  帰郷後:確定申告書+再居住証明書類を提出
をすれば、再居住年から再適用を受けられる(残存期間のみ)、ということです(賃貸してたら翌年から)。

 そして、「26項・27項」について。

第26項(実体要件)
・個人が、
・住宅の取得等をし、かつ、当該住宅の取得等をした第一項の居住用家屋を同項の定めるところによりその者の居住の用に供した場合において、
・当該居住の用に供した日以後その年の十二月三十一日までの間に、その者に係る給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由(「特定事由」)に基因してこれらの家屋をその者の居住の用に供しなくなつた後、
・これらの家屋を再びその者の居住の用に供したときは、
・第一項に規定する居住年以後十年間(同項に規定する十年間をいう。)の各年のうち、その者がこれらの家屋を再び居住の用に供した日の属する年(その年において、これらの家屋を賃貸の用に供していた場合には、その年の翌年)以後の各年(同日以後その年の十二月三十一日まで引き続きその居住の用に供している年に限る。)は、
・同項に規定する適用年とみなして、同項の規定を適用することができる。

第27項(手続要件)
・前項の規定は、同項の個人が、
・同項の規定の適用を受ける最初の年分の確定申告書に、同項の規定により第一項の規定の適用による控除を受ける金額についてのその控除に関する記載があり、
・かつ、当該金額の計算に関する明細書、前項の家屋を特定事由が生ずる前において居住の用に供していたことを証する書類、当該家屋を再びその居住の用に供したことを証する書類、登記事項証明書その他の財務省令で定める書類(「再居住等に関する証明書類」)の添付がある場合に限り、適用する。


 入居後適用前に転勤になった場合、
  帰郷後:確定申告書+再居住証明書類の提出
すれば、再居住年から適用を受けられる(残存期間のみ)、ということです(賃貸してたら翌年から)。

 23項・26項とも、1項のイ「引き続き居住の用に供している場合」を緩和する(みなす)制度です。
 ア「居住の用に供した場合」については、23項では当初居住年で満たしていることが前提となっており、26項では要件の中に組み込まれています。

 これが転勤絡みの制度の枠組みです。
 次に、単身者・単身赴任の場合ごとに、どのタイミングで転勤するかで適用関係がどのように変わるかを検討します。


 A 単身者の場合

1 入居前に転勤

 誰も・一度も入居していない以上、ア「居住の用に供した場合」を満たさず適用を受けることはできません。
 上記の通り、23項・26項ともイ「引き続き居住の用に供している場合」の緩和制度に留まるので、入居前転勤事例には手が出せません。

2 入居後適用前に転勤

 ア「居住の用に供した場合」は満たしますが、イ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしません。
 26項の適用場面となるため、帰郷後に確定申告すれば適用を受けることができます。

 なお、タックスアンサーの2(3)では、なぜか家族がいる前提での記述となっているのですが、26項はそんなものは要求していません。ので、単身者でも当然適用を受けることができます。
 適用範囲を狭める方向に誤解させがちな、タックスアンサーの悪い性癖。

パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○

3 入居後適用後に転勤

 当初適用時はイ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしていましたが、その後イを満たさなくなったということです。
 23項の適用場面となるため、転勤前に届出、帰郷後に確定申告をすれば適用を受けられます。


 B 単身赴任の場合

1 入居前に転勤

 本人は、ア「居住の用に供した場合」もイ「引き続き居住の用に供している場合」も満たしていません。

 アの緩和通達が41-1にあり、「転勤+家族入居+本人帰郷予定」であればアを満たすものとされています。
 また、イの緩和通達が41-2にあり、「転勤+家族継続居住+本人帰郷予定」であればイを満たすものとされています。

 これら条件に合致すれば、当初居住年から適用を受けることができます。
 この場合に適用されるのは、23項でも26項でもなく1項になります。

41-1(居住の用に供した場合)
・「その者の居住の用に供した場合」とは、第1項に規定する居住用家屋(「居住用家屋」)で建築後使用されたことのないものの取得(「新築等」)をした者が、現にその居住の用に供した場合をいうのであるが、
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしていない場合において、
・その取得の日から6月以内にその家屋をこれらの親族がその居住の用に供したときで、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・これに該当するものとする。

41-2(引き続き居住の用に供している場合)
「引き続きその居住の用に供している」とは、新築等をした者が現に引き続きその居住の用に供していることをいうのであるが、これに該当するかどうかの判定に当たっては、次による。
(1)
・その者が、転勤、転地療養その他のやむを得ない事情により、配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族と日常の起居を共にしないこととなった場合において、
・その家屋をこれらの親族が引き続きその居住の用に供しており、当該やむを得ない事情が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・その者がその家屋を引き続き居住の用に供しているものとする。


2 入居後適用前に転勤

 ア「居住の用に供した場合」は満たしますが、イ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしません。

 通達41-2の条件に合致すればイを満たすことになり、当初居住年から適用を受けることができます。こちらも1項が適用されます。

3 入居後適用後に転勤

 当初適用時はイ「引き続き居住の用に供している場合」を満たしていましたが、その後イを満たさなくなったということです。

 通達41-2の条件に合致すればイを満たすことになり、本人転勤後も引き続き適用を受けることができます。こちらも1項が適用されます。


 なお、通達41-3、41-4というのがあります。

41-3(居住の用に供しなくなった場合)
・「その者の居住の用に供しなくなった」とは、新築等をした者が現に居住の用に供しなくなったことをいうのであるが、
・給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由に基づいてその者が居住の用に供しなくなった後も、
・配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族がその家屋を引き続き居住の用に供していた場合で、
・これらの親族がその者と共に居住することに伴い転居してその家屋を居住の用に供しなくなったときは、
・これに該当するものとする。

41-4(再び居住の用に供した場合)
・「再びその者の居住の用に供した」とは、新築等をした者が現に再び当該家屋を居住の用に供したことをいうのであるが、
・その者の配偶者、扶養親族その他その者と生計を一にする親族が再びその居住の用に供したときで、
・「給与等の支払者からの転任の命令に伴う転居その他これに準ずるやむを得ない事由」が解消した後はその者が共にその家屋に居住することとなると認められるときは、
・これに該当するものとする。


 上記B1〜3は、第1項の適用場面を通達41-1、41-2で拡張したものであって、23項・26項はでてきませんでした。
 これに対して、単身赴任後に残った家族が本人と同居した場合が通達41-3、家族だけが再居住した場合が通達41-4に書かれており、これらの場合に23項・26項の適用範囲を拡張するものです。

 局面でいうと、B1〜3の後の展開です。
 ただし、41-3は単身赴任スタートになっていますが、41-4は必ずしも単身赴任スタートである必要はありません。家族ごと転居からの家族のみ再居住も含まれています。


 さて、翻ってタックスアンサーの2をみてみると、記述範囲が中途半端です。

(1) 単身赴任
 1入居前転勤の場面だけが書かれてて、2・3が書かれていない。
(2) 3入居後適用後 
 家族ごと転居の場合が書かれているが、単身者の場合が書かれていない。
(3) 2入居後適用前
 家族ごと転居の場合が書かれているが、単身者の場合が書かれていない。

 また、家族ごと転居の場合の「1入居前転勤」は適用無しだからでしょうか、記述がされていません。

 そもそも、(1)は人の属性なのに、(2)(3)は転勤のタイミングと、違うものが並べられていて、ものすごい不安になる。私がセンチメンタルなだけですか。

TA1234.png


 人の属性/転勤のタイミングごとに整理することもなく、ただ単に、法律と通達に書かれていることを無思考で陳列しようとすると、こういう記述になります。

リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
posted by ウロ at 09:35| Comment(0) | 所得税法

2021年09月20日

どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ

 スピンオフ第4弾、今回は「租税回避」について。

浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯
非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税

 本書で「例2」として挙げられているものを要約します。

 ・甲土地 A所有 取得費3億円 時価9億円
 ・A⇒B 甲土地 賃貸(無期限) 地代年1億円
 ・B⇒A 金銭9億円 貸付(無期限) 利息年1億円
 ・AB 毎年1億円の支払債務は相殺。

 これは、所得税法33条1項のカッコ書きがなければ譲渡所得を回避できたはずの例として挙げられています。で、譲渡所得を回避しながら譲渡したのと同じ状態を実現できているだろうと。

 その限りではまあそうなんですけども、ちゃんと回避しきれているのか疑問があります。当たり前のことですが、所得税は「譲渡所得」だけで構成されているわけではないからです。

 以下、順番に考えてみます(課税庁による法律構成の引き直しはされない前提で)。


 まずAは、地代収入を「不動産所得」としなければなりません。支払利息とぶつけられるんじゃないの、と思うかもしれませんが、この例では「たまたま」金銭を借りているだけなので、不動産所得の必要経費にはなりません。
 事業所得あたりの必要経費にでもして損益通算を狙っているのでしょうか。が、当該事業で借りる必要性がなければ家事費扱いになってしまうでしょう。

 また、Bも受取利息を「雑所得」としなければなりません。支払地代を金銭貸付の必要経費とするのは、さすがに難しい。
 そうすると、その土地を活用した事業でも創設して、事業所得か不動産所得の必要経費として損益通算することになるのでしょうか。

 このように、目先の譲渡所得6億円を回避しようとすると、「無限に」年1億円の不動産所得+年1億円の雑所得が発生してしまうということです。これを消すためには、他の所得を発生させた上で支払利息・支払地代を当該所得の必要経費にして損益通算ルートでぶつける必要がでてきます。

 目先の所得を消しても他の所得がでてきてと、イタチごっこ的に次々と別の所得が出てきてしまうような気がします。


 ここがまさに、所得税法が所得を類型ごとに区分していることの妙味です。そして「包括的所得概念」的な発想では、いかに現行所得税法をあるがままに記述できないかの証左でもあります。
 学理的にはともかく、現行所得税法を色眼鏡なしに理解するためには、《包括的所得脳》は一旦脇に置いておくべきだと思います。

 よくよく考えると、「包括的」といえるのは「収入」面だけはないかと。

  ア あらゆるプラスが収入になる 《包括的収入概念》
  イ あらゆるマイナスが経費になる 《包括的経費概念》
  ウ あらゆるプラス・マイナスが通算できる 《包括的通算概念》

 雑所得のようなバスケットカテゴリーがあることによって、プラスはほとんど所得税に取り込まれることになっています。他方で、マイナスは、控除できるものが所得類型ごとにバラバラです。
 さらに通算ルールとなると、肝心の雑所得のマイナスが通算の対象にならないなど、包括的所得概念にとっては、かなり致命的なルール設定となっています。

 と、包括的といえるのはせいぜい収入までであって、それ以外の箇所を包括的だというのは、現行所得税法とは違う何かについて語っているにすぎません。
 それが標準的な説明の仕方だとしても、租税法の学習者にむけて包括的所得概念をもって現行所得税法の説明をしようとするの、良心が傷まないのだろうかと。

 この点、藤田宙靖先生の行政法の教科書のように、「法律による行政の原理」を偏差をはかるための『ものさし』とする、という使い方なら理解できます。



藤田宙靖 新版 行政法総論 上巻 青林書院2020
藤田宙靖 新版 行政法総論 下巻 青林書院2020 

 モデルとしての包括的所得概念を「ものさし」としながら、現行所得税法がこれとどのくらいの偏差があるかを見ていくと。

 逆説的ですが、所得は単なる《差額概念》にすぎないと位置づけた上で、なるべく所得という言葉を使わずに現行所得税法を勉強したほうが、正確な理解ができるかもしれない(所得における差額説)。


 この事例、単に譲渡所得回避の試み事例としてだけで使うのはもったいない。

 ではなくて、所得税法が複数の所得類型によって課税範囲をカバーしていてそう簡単には抜け出せないことや、他方で各所得類型ごとに課税のされ方がバラついていることといった、「所得税法の課税構造」を具体的に学ぶための事例として活かしたほうがよさそうです。


 現行法ではカッコ書き(以下「譲渡()」といいます)があるから、本事例の借地権の設定も当然に「譲渡」となるかと思いきや、そう単純な話ではありません。

 ここででてくるのが、いわゆる『借地権課税』。

 本事例においても、権利金の支払いがないから譲渡にならないのか、あるいは借入金9億円が権利金と評価されることにならないか、借入が「特別の経済的利益」とならないかなどなど、検討すべき事項が複数あります。ただ単に借地契約をしただけで、当然に「譲渡()」に該当するわけではありません。譲渡としての実態を備えた借地権の設定である必要があります。

 譲渡のつもりで借地権を設定したのに、余計な取引を追加したせいで譲渡に該当しないこととなって余計な所得税が発生してしまう、という事態も考えられます。譲渡所得が常に忌むべき・回避すべき対象とは限りません。
 他の所得で課税されるくらいならば譲渡所得のほうがまし、という場面は少なからずあるでしょう。


 所得税法だとややこしいことになるなら、当事者が「法人」にしたらどうか、ということを考えるかもしれません。

 確かに法人なら、上記のような所得類型ごとにどうたら、みたいな話はありません(包括的所得思考の復権)。が、法人の場合は、借地権の認定課税をはじめ『借地権課税』の問題が個人以上にシビアになってきます。下手をすると、Aが寄付金課税、Bが権利金課税をされることもありえます。
 ので、こちらもそうすんなり回避できるようなものではありません。


 以上のことから、『租税回避』というのは、単に目先の課税を逃れて終わるものではなく、どの所得類型・税目にも当てはまらないように立ち回れた先にあるもの、ということがわかります。
 そこまで到達してはじめて、課税庁に租税回避チャレンジをかますことができるんだと。

 我々は、租税回避チャレンジ事案(の判決)をみて、後知恵的にあれこれ文句をつけがちです。が、やはりファーストペンギンに対する敬意というのは、忘れてはいけないのでしょう。

 ちなみに、この『借地権課税』の問題、租税法学習の素材として最適ではないかと思います。
 というのも、次のような特徴があるからです。

 ・租税法を勉強しようとする段階の人であれば「借地借家法」の知識はあるはず。会社法の教科書レベルの知識で「組織再編税制」に挑むよりは、ハードルは低めです。
 ・比較的単純な取引で社会人経験のない学生さんでも想像しやすい(組織再編以下略)。
 ・所得税法・法人税法・相続税法が絡んできて、それぞれの課税スタンスが理解しやすい。

 本書が「年金二重課税問題」(所得税法×相続税法)をやたら詳しく論じているのと同じノリで、借地権課税も詳しく論じたらいいんじゃないですかね。


 以上でスピンオフ記事、終了となります。

 が、より勉強が進めば他にも指摘すべき事項があるかもしれません。ある程度勉強が進んでからまた戻ってきたいと思います。
 
posted by ウロ at 09:49| Comment(0) | 所得税法

2021年08月16日

伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 さて、前々回・前回の記事を前座として、今回は「とある書籍」で疑問に感じた記述の検討をします。

「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産



伊藤滋夫「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)


 さっそく引用(37頁)。
 サラリーマンマイカー訴訟の地裁判決、高裁判決を紹介した後に、「生活に通常必要な動産」の要件事実ということで、以下のような記述をしています。

訴訟物
 本件更正処分の違法性

請求原因
(行政処分の存在)
1 略
(違法性の主張)
2 本件更正処分は違法である。

抗弁(更正処分の適法性に関する評価根拠事実)
(「生活に通常必要な動産」該当性に係る評価根拠事実)
1 自家用車は、動産である。
2 本件自家用車は、Xの通勤及び勤務先での業務の用に通常使用されていた。
3 本件自家用車は、耐久消費税としての大衆車であり、美術工芸品ではない。

再抗弁(更正処分の適法性に関する評価障害事実)
4 Xの住所地には公共交通手段がなく、最寄りの駅まで遠いので、自家用車を生活及び通勤に用いる必要があったなど、本件自動車がX又はその配偶者その他の親族の生活に通常必要であることを根拠づける特別な事実。
5 自損事故当時の本件自動車の価値が30万円を超えることを根拠づける事実。

(※記述の便宜のため、再抗弁の1・2をそれぞれ4・5とし、以下では抗弁事実・再抗弁事実を1〜5の数字で引用します。)

 ただただ要件事実(と自称するところのもの)が列挙されており、なぜこのような分配をしたのかの説明が皆無です。

 要件事実の分配をするには、まずは実体法上の要件が何であるかを特定する必要があります。そして、解釈が必要ならば解釈を施して概念を定義づけすることになります。
 その上で、それを要件事実に翻訳して請求原因事実・抗弁事実等に分配していきます。


 そこでまず、条文から実体法上の要件を拾うと次のとおりとなります。

 生活用動産
  ア 生活の用に供する資産である
  イ 生活に通常必要な動産である
  ウ@ 高級品に該当しない
   A または(高級品であるが)30万円以下である
 


 抗弁の中にアに対応する要件事実が見当たらないのですが、これは2の中に、イと一緒くたに含められているということでしょうか。


 「評価根拠事実」「評価障害事実」と書かれていることからすると、どうやら「通常必要」を評価的要件と理解し、評価根拠事実を課税庁、評価障害事実を納税者に分配しているつもりのようです。

 が、「評価的要件」だからといって、何でもかんでも原告・被告に立証責任を分配すればいいというものではありません。「主要事実/主要事実」型のものもあれば「主要事実/間接事実」型のものもあるはずです。

 「主要事実」扱いするということは、その事実が主張立証されなければ、その事実は存在しないものと扱わなければならないということです。一般民事事件ならともかく租税訴訟において、何らの根拠も示さず、納税者にそのような負担を負わせてよいものではないはずです。


 また、評価的要件において、その評価に該当する具体的事実が主要事実だとされているのは(主要事実説)、「過失がある」「正当な理由がある」という評価それ自体は主張立証の対象となりえないから、というのが一般的な理解です。
 のに、2の評価根拠事実の中に「通常使用」といった評価的な文言を入れてしまうのは、要件事実としての正しい表現とはいえないでしょう。いうところの「通常」を具体的事実にほぐさなければなりません。

 この点、4にもある「通常必要であることを根拠づける事実」という抽象的な表現ならば、少なくとも評価と事実を混同することにはなりません(ただし、その前の具体的事実に問題があることは後述)。
 当事者が要件事実として主張することが求められるのは、あくまでも「事実」まであって、その事実が「通常」と評価できるかどうかは裁判所が判断することです。

 2のような表現をしてしまうのは、要するに、なぜ評価的要件において具体的事実が主要事実とされているのか、に関する基本的な理解が足りていないんでしょう。


 4は「生活に通常必要な資産」の「評価障害事実」となっているでしょうか。
 「通常必要」とか言っちゃって、どう考えても評価根拠事実のほうですよね(念のため、私が引用間違いをしているのではありません)。
 なぜ納税者が、再抗弁として抗弁2を《ダメ押し》するのか。

 どうしても評価障害事実と言いたいならば、「生活に通常必要でない資産」のほうの評価障害事実になります。

  である+根拠=でない+障害


 また、4の「特別な」というのは、どうにも「通常必要」とそぐわないように思えます。納税者個人の事情によって「特別」必要なのだとしたら、それは「通常」必要ではないということになるはずです。
 『通常必要』な『特別な事実』って何なんだよ。概念矛盾にも程がある。
 
 もしかして、このことをもって「評価障害事実」になるとでも言っているのでしょうか。納税者個人にとって「特別必要」だという事実は、「通常必要」という評価を妨げる事実なんだと。

 このあたりに関しては、前回検討した、実体法レベルにおける「通常必要」の判断構造を解明しなければならないはずです。公共交通手段がない地域に住んでいることそれ自体をもって「特別」だと評価するのか、それとも、そのような地域に住んでいる人にとって自家用車を生活に利用することは「通常」だと評価するのか。

 自家用車だとあまりピンとこないかもしれません。そこで、たとえば、ロープウェイでしかいけない地域に住んでいる人にとっての『自家用ロープウェイ』で考えてみたらどうでしょうか。
 ロープウェイ単体で評価するなら「特別」と言わざるをえません。が、その地域に住んでいる人にとっては「通常」だと評価できるはずです。
 「通常/特別」の判断において、納税者固有の事情をどこまで取り込むのか、という問題があるわけです。

 いずれにしても実体法の解釈を施すのが先であって、それを曖昧にしたまま要件事実っぽいものをなんとなくで分配していいものではおよそありません。ましてや、「特別」と「通常」をひとつの要件事実の中に同居させるなどという愚挙は論外。


 根拠/障害で分配するとなると、たとえば、通勤使用を課税庁が、レジャー使用を納税者がそれぞれ立証する、みたいなことになりますが、そのような分配は適切でしょうか(ここでは話を分かりやすくするため、地裁判決の実体法理解を前提とします)。

 課税庁は通勤使用の立証に成功したが納税者はレジャー使用の立証に失敗した、という場合に、納税者不利に判断してもよいのか、ということです。
 主要事実としての評価障害事実の主張立証責任を納税者に分配するということは、そういう負担を納税者に負わせるということを意味しています。単に評価的要件だからというだけで、自動的に負担させてよいものではありません。


 高裁では、本件給与所得者にとって通勤・業務使用は通常必要にならないと判断されています。ゆえに、単に2の主張をしただけでは、「通常必要」を根拠付ける事実として明らかに足りていない。
 実体法上の要件の分析を詰めないままいきなり要件事実の分配をはじめてしまうから、こういうことが起こります。

 上述したとおり、要件事実の中に《評価文言》を入れ込んでいることが、こういう誤謬が紛れ込む原因です。
 「通常使用」などと書かれていることから、あたかもその前の通勤云々といった事実が評価根拠事実であるかのように見えてしまいます。が、高裁の立場は、通勤・業務使用という事実が認められたとしても通常必要とは評価できないというものです。ので、単なる通勤・業務使用をいうだけでは抗弁事実にはなりえません。

 評価的要件は最終的には「総合判断」だから、といって適当にプラスの事情とマイナスの事情をばら撒いておけばよいものではありません。少なくとも評価根拠事実は、それらがすべて認められたら「通常必要」と評価できるような事実である必要があります。

 まさかですけど、通勤・業務使用だけで一旦「通常必要」だと評価されて、「納税者が給与所得者であること」は再抗弁事実にまわるとでもいうのでしょうか。

 ・抗弁: 通勤・業務使用 ⇒通常必要
 ・再抗弁: 納税者は給与所得者 ⇒通常不要

 もちろん実際には、「通勤・業務使用」を主張しようと思ったら、給与所得者であることも同時に主張せざるをえません。ので、この分配は現実には機能しません。


 高級品でないことを課税庁(抗弁3)、30万円超であることを納税者(再抗弁5)が、それぞれ主張立証することになっています。が、わざわざこのような分断をする根拠はなんでしょうか。
 課税庁が「30万円以下であることまたは高級品でないこと」を立証する、でよいのではないでしょうか。

 「でないことの立証より、であることの立証」ということが分配ルールのひとつとして挙げられることがあります。
 が、ここでは高級品でないことの立証は課税庁にさせているわけです。また、金額については、30万円以下と超のどちらが「でない」でどちらが「である」のか謎です。単に条文にそう書いてある、というだけでは決め手になりません。

 ・30万円超である=30万円以下でない
 ・30万円以下である=30万円超でない

 納税者に負担させるにしても、

  5 30万円超の高級品である

と両方負担させるルートもありえます。

 いずれにしても、分断させる積極的な根拠が見当たらない。


 そもそも、5には、対応する抗弁事実が存在していません。

 というのも、「30万円超/以下」が問題となるのは、高級品に該当する場合に限られます。抗弁123は、下記図でいうDのラインに対応していて「30万円」はでてきません。

通常必要(条文).png


 抗弁3で高級品非該当が立証されてしまったら、再抗弁5を主張立証してみたところで、何の意味もないということです。
 このことからわかることは、抗弁123が法9、令25をもれなくカバーしていないということです。図でいうCがでてこない。

 Cを出すためには、抗弁3を選択的抗弁として2つに分岐させて、

  3ア 高級品でない。 D
  3イ 高級品である。 C

とする必要があります。
 ただし私見では、課税庁側が価額も立証すべきと考えるので、イのほうは、

  3イ 30万円以下の高級品である。 C

となります。

 他方で、価額を再抗弁にまわす同書の見解によるならば、再抗弁5は3イの後ろにくっつくものであって3アにはくっつかない、ということになります。
 もしも、3ア・3イは裏表なんだから両方書かなくってもいいじゃん、などと思うのだとしたら、要件事実論をまるで理解してないことの自白です。

 確かに、実体法レベルでは、高級品に該当するか該当しないか、いずれかしか存在しません。

該当・非該当.png


 が、要件事実論・立証責任論のレベルでは、ここに「真偽不明」が挟まります。

真偽不明.png


 高級品でないことの立証が失敗したからといって、自動的に高級品であることの立証が成功することにはなりません。高級品であるかないかがいずれも真偽不明という状態が観念されるわけです。
 なので、実体法上裏表の関係にあったとしても、要件事実としては必ず別々に掲げる必要があります。


 また、30万円超を再抗弁にまわすということは、納税者が30万円超の立証に失敗した場合には「生活に通常必要な資産」として扱われてしまうということになります。

 この失敗というのが、明らかに30万円以下であることが判明したのならば仕方ないのでしょう。が、価額が「不明」の場合でもこの結論でよいのでしょうか。
 上記図でいうと、CかもしれないしBかもしれない、という状態にあるにもかかわらず、Cであると決め打ちしてしまうということです。

真偽不明(有利不利).png


 この図の○×は納税者有利/不利を表しています。
 上段が納税者に30万円超の立証責任を負担させた場合で、下段が課税庁に30万円以下の立証責任を負担させた場合です。上段では、真ん中の真偽不明を納税者不利に判断するということになります。

 納税者に立証責任を分配するということは、そういう不利益を納税者に課するということです。このような解釈が許されるのかどうか。


 さらなる問題は、高裁判決の紹介をしておきながら、「生活に通常必要でない資産」の要件事実が省略されてしまっていること。

 「生活に通常必要でない資産」の実体法上の要件は次のとおり。

 生活に通常必要でない資産
  エ 生活の用に供する動産である
  オ 令25条に該当しない
   @ 生活に通常必要な動産でない
   A または(生活に通常必要な動産であるが)30万円超の高級品である


 イとエオが裏返しの関係になっていて、どっちにしろ損益通算はできないわけです。
 訴訟物が損益通算を認めなかった処分の適法性である以上、「生活に通常必要な動産」の抗弁事実も「生活に通常必要でない資産」の抗弁事実も並列的にぶら下がっているわけで、片方を無視する理由はないです。
 債務不履行か不法行為か、みたいな請求権競合の事例とはわけが違う。


 また、この「どっちにしろ」を要件事実論の観点から評価した場合に、「主張自体失当」扱いにならないのか、ということが問題となりえます。

 実体法レベルでの抜け道としては、「生活に供する資産」(アエ)を否定することしかありません。供する資産とされてしまったら、この先、どのルートをたどっても損益通算はできません。
 他方で、要件事実論のレベルでは、課税庁側が「通常必要」の立証に失敗し、かつ「通常必要でない」の立証にも失敗することで、いずれも適用されないという状態が、理屈の上ではありえます(実際には、いずれかに該当するものとして判断されるのでしょうが)。

 ので、実際に認められるかはともかく、いずれも適用されない場合がありうるので、訴訟として成立しないということにはなりません。

 こういう、実体法で表裏となっているものが要件事実論レベルだとどうなるか、などといったことを論じたりするのが『要件事実で構成する』の名に相応しいと思うのですが。
 いやまあ、なんといいますか。


 また、「生活に通常必要な動産」の要件事実では、高級品でないことを課税庁(3)、30万円超であることを納税者(5)にそれぞれ立証責任を分断したわけですが、こちらではどうするのか。

 どうしても分断したいのならば、

  課税庁 高級品である
  納税者 30万円以下である

  課税庁 30万円超である
  納税者 高級品でない

のどちらかとなりますが、どうにも滑稽。
 素直に、課税庁が「30万円超かつ高級品であること」を立証する、でいいと思うのですが。

 是が非でも分断したい、というお気持ちが全く理解できない。
 確かに、要件事実論を習いたての頃は、何でもかんでも要件を分断して両当事者に分配してみたくなるものですけれども(下記記事でいう「序破急」の「破」段階)。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)


 以上、一番最初に抱いた直感のとおり、やはりこの記述おかしいという結論でフィニッシュ。
 本来は、本書を通読して、何某かの記事を書こうと思っていたのですが、この箇所のせいで通読を中断せざるをえないことになりました。

 ひととおり検討し終わったので再開しようと思ったのですが、この後の記述も、「法解釈」レベルの主張反論を評価根拠事実/評価障害事実に分配していたりして、読む気が失せる感じだったので再開することなく終了。

【検討レベルが違う】
 ・法解釈論
 ・要件事実論
 ・事実認定論

 もしかしたら「アクティブ・ラーニング」に活用するかもしれませんが、あまりに杜撰で今のところその気は起きません。

アクティブ・ラーニング


 一応、私の思うところの要件事実を記述しておきます(訴訟物・請求原因までは引用元と同じ)。

抗弁その1 「生活用動産」
 1  生活の用に供する資産である
 2+ 生活に通常必要な動産である
 3− 30万円以下である
   または
 4− 高級品でない

抗弁その2 「生活に通常必要でない資産」
 1  生活の用に供する動産である
 2− 生活に通常必要な動産でない
   または
 3+ 30万円超である
   かつ
 4+ 高級品である

・損益通算の可否が問題となっているのだから、その1・その2両方とも掲げないと無意味。
・事実1は共通。
・+−は同じ事実の表裏を表現しています。
・評価的要件と解するのであれば、それぞれ語尾に「ことを根拠付ける事実」を付加します。
・再抗弁はありません。納税者がやることはそれぞれの抗弁事実の反証まで。


 なお、条文通りに「通常必要」と記述しましたが、ここは前回記事で検討したとおり法解釈による敷衍が必要になります。

 要件事実論内部で「評価的要件」として論じられているものの中には、実体法レベルでの「定義づけ解釈」を施すことで解消されるものもある、というのが私の見立て。

【定義づけ解釈とは】
フローチャートを作ろう(その2) 〜定義付け解釈

 従前の議論は、条文記載の要件に何らの解釈も施すことなく、いきなり要件事実論の俎上にのせようとしているように思えます。たとえば条文に「過失」と書いてあったら、それをそのまま実体法レベルの要件として受け取った上で、「過失」の要件事実(あるいは主要事実)は何か、というかたちで論じられていました。

  実体法:「過失」
 →要件事実論:過失の要件事実とは?

 が、要件事実論へ行く前に実体法レベルでの解釈が挟まるはずです。

  実体法:「過失」
 →実体法の解釈:「過失」とは予見義務違反+回避義務違反
 →要件事実論:予見義務違反行為+回避義務違反行為の要件事実とは?

 ここまで敷衍するならば、「到達」や「弁済」などといった概念との差はほとんどなくなって、「過失」をあえて特殊な扱いをする必要もないはずです(評価っぽければ何でもかんでも根拠事実/障害事実に分配するなんてのは論外として)。公害訴訟とか医療訴訟などで特殊な扱いが必要なのは、そのような事件類型であることが主たる理由でしょうし。

 正面から特殊な扱いが残るとしたら、「正当な理由」のような実体法レベルでの特定がしがたい総合考慮型の概念などではないでしょうか。

 上記記事でも述べましたが、学説の一般的な傾向として、どういうわけか、この「定義づけ解釈」というものの存在が捨象されがち。

○所得税法、同法施行令

法 第九条(非課税所得)
1 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
 九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得
2 次に掲げる金額は、この法律の規定の適用については、ないものとみなす。
 一 前項第九号に規定する資産の譲渡による収入金額がその資産の第三十三条第三項に規定する取得費及びその譲渡に要した費用の額の合計額(以下この項において「取得費等の金額」という。)に満たない場合におけるその不足額

令 第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)
 法第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品

法 第六十二条(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
1 居住者が、災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、政令で定めるところにより、その者のその損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす。
2 前項に規定する損失の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める。

令 第百七十八条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)
1 法第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
一 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産(前号又は次号に掲げる動産を除く。)
三 生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの

法 第六十九条(損益通算)
1 総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。
2 前項の場合において、同項に規定する損失の金額のうちに第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産に係る所得の金額(以下この項において「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」という。)の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額のうち政令で定めるものは政令で定めるところにより他の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額から控除するものとし、当該政令で定めるもの以外のもの及び当該控除をしてもなお控除しきれないものは生じなかつたものとみなす。


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2021年08月09日

サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産

 前回とはまた逆方向に、誤記っぽいタイトル。

「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」

 前回検討した「生活に通常必要な資産/生活に通常必要でない資産」が問題となった裁判例、いわゆる「サラリーマンマイカー訴訟」について、私の関心事のかぎりで検討します。

 高裁と最高裁の判決は最高裁の検索サイトにあったので、リンク貼っておきます。

神戸地判 昭和61年9月24日
大阪高判 昭和63年9月27日
最高裁 平成2年3月23日


 本訴訟では、自動車の譲渡損失を給与所得と損益通算することの可否が争われました。
 結論は、いずれの判決でも納税者敗訴。

 ざっくり要約すると次のとおり。

・地裁
 レジャーよりも通勤・業務の使用割合が多いので「生活に通常必要な資産」に該当する。
 よって、譲渡損失はないものとみなされる(法9A一)。

・高裁(最高裁も是認)
 業務使用は使用者負担でなすべきものだし、通勤も定期代が支給されている。
 残るはレジャーなので「生活に通常必要でない資産」に該当する。
 よって、給与所得とは損益通算できない(法69A)。

 どっちにしろ損益通算できないじゃん、と思いますよね。
 そのとおりで、なぜこれが訴訟として成立しているのか、一般的な判例解説ではおよそ読み取れません。

通常必要(効果).png


 この点は、納税者の主張の独自性に依存しています(のに、一般的な判例解説では無視されがち)。


 前回の記事では、本概念を整理した図を作成しました(再掲)。

通常必要(条文).png


 これは「生活の用に供する動産」は、必ず「通常必要」か「通常必要でない」かいずれかに該当するという前提で作成しています。
 そんなの当たり前、と思うかもしれません。私自身もそう思います。

 が、そうじゃない、という主張をされているのが本件納税者。
 この図の外側に、「通常必要」でも「通常必要でない」でもない資産があるんだと。

 この手の、条文から離れ気味な「ピーキー」な主張、裁判所が採用する見込みはほぼない。
 独自の見解を主張するにしても、あくまでも一般的な見解から地続きの「経路依存」な主張に納めるのが望ましい。

税務訴訟におけるゴリ押しVS誉めごろし 〜税務トロイの木馬(Tax Trojan horse)

 もちろん、訴訟戦略を練る段階では、一旦従前の枠組みの「外側」から眺めてみる、という考えも大事です。一度上記のような図を作ってしまうと、どうしてもその枠の中でしか考えられなくなってしまうこともあるわけで。

 「9つの点を最も少ない直線で一筆書きしなさい。」という問題。

9点(問い).png


 答えを知ってしまえばなんてことはないわけですが、初見で、点で形成された見えない枠の外側にでる、という思考に至れるかどうか。

 ではありますが、現行の訴訟実務を前提とするかぎり、枠の外側からのゴリ押し一辺倒では難しいのが現実。内側から攻めるのも必須。

 本件納税者の独自の主張も結局のところ、最高裁からあっさりと、「原審の右判断の不当を抽象的に主張するものにすぎず失当」「ひっきょう、独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず」などと、酷い言われようをされて終わってしまっています。


 それはともかく、このような「ピーキー」な見解のおかげで一連の裁判例が出来上がっているわけです。
 にもかかわらず、判例解説の類でも、本納税者の主張は(私の見る限りではありますが)ことごとく省略されています。
 まったく感謝が足りていない。

 といいつつ、私自身も同見解の中身をここで扱うつもりはおよそなく。
 そういう見解を主張されていたおかげで訴訟が成立していたんですよ、という限りでご紹介するまでです。

 最高裁までいっておきながら、結局のところ事例判断どまり。「通常必要/必要でない」についての規範定立がなされることもなく。
 どっちでも同じじゃん、という事案では、わざわざ最高裁が規範定立をするに及ばないのでしょう。

 一般的な教科書では、あたかも『規範を示した判例』であるかのように記述されることがあります。が、本件はあくまでも当該事案かぎりでの判断で、他の事例の参考にし難い。


 結論の違いはあるとして、それぞれの裁判所が前提としている枠組みは次のようなものです。

 ・レジャー →通常必要でない
 ・通勤   →地裁:通常必要、高裁:給与所得者は通常不要
 ・業務   →地裁:通常必要、高裁:給与所得者は通常不要

  これら実際の使用状況の割合で判断するんだと。

 「レジャーは生活に通常必要でない」というのが、今どき通用するのか疑問はあります。
 いかにも《贅沢は敵》的な発想をする所得税法には適合的なのでしょうが。

 なお、高裁が通勤・業務に使っていても通常不要としたのは、あくまでも本件納税者のかぎりです。すべての給与所得者にとって当然に通常不要と判断されるとはかぎりません。


 一応この枠組みを前提とするとして、私の思う疑問。
 
 実際の使用状況で判断するというならば、買った直後に災害損失が生じた場合はどうやって判断するのか。
 これからどう使う「つもり」(使用目的)だったかで判断するのか。

 では、当初は通勤(通常必要だとする)に使うつもりだったのが、しばらくしてからレジャー(通常不要)だけに使うようになった、といった場合はどうか。
 使用割合で判断するとしたら、どの期間の使用割合で判断するのか。取得時からなのか直近から遡った一定期間なのか。
 また、用途変更した直後は「通常必要」のままで、それが徐々に「通常必要でない」に変化していくということか。それともこれからの見込みで判断するということで、用途変更した時点から「通常必要でない」に切り替わるのか。


 そもそも、どの事実が「通常必要/必要でない」の主要事実となるものなのかがよくわかりません。

 地裁・高裁とも、「実際の使用状況」を主要事実として理解し、それらを総合考慮して通常必要かを判断しているように読めます。

   評価的要件:通常必要
   主要事実:実際の使用状況

 が、「使用目的」が主要事実で、「実際の使用状況」はそれを事実上推定するための間接事実と構成することも可能です。

   評価的要件:通常必要
   主要事実:使用目的 ←間接事実:実際の使用状況

 取得直後でも判断する必要があることからすると、後者で判断しないと一貫性を保てないように思えますがどうなのか。


 また、「通常」必要といっている以上、当該納税者個人にとってどれだけ「必要」であっても、それだけでは「通常」とはいえないのではないでしょうか。

 たとえば、納税者が払い下げの「特殊車両」を実際に通勤に使っていたとして、これが「通常必要」と認められるのかどうか(装甲車とか消防車とかなんでも。公道を走行できるかは別として)。
 納税者がそれしか車両をもっておらず、公共交通機関が壊滅的な地域であれば、納税者にとって必要なのは間違いないでしょう。ですが、車両それ自体は通常とはいいがたいです。
 とすると、納税者には必要だけど通常ではない、と判断されてしまうのでしょうか。

 では、そのような特殊車両でなければ通行できないような僻地に住んでいるとしたらどうか。
 納税者にとっての必要性が高まるのはそうだとして、通常性のほうは影響されるのか。そのような地域に住んでいる人にとっては通常、などとでも判断するのかどうか。

 他方で、一般人にとっては通常必要なものでも当該納税者には不要な場合はどうなのか。
 たとえば、スキンヘッドの人にとっての櫛・ブラシは、「通常必要」といってよいのかどうか。
 あるいは、通勤に自動車が必要な地域に住んでいたとして、納税者の現在の職場がリモートワークを実施していたら「通常必要でない」となるのかどうか。
 法的な評価は別として言葉だけの問題でいえば、『通常は必要だが今の本人には必要でない』という言い方になるのが自然です。

 要するに、ここで判断すべき事項として「通常性」と「必要性」の2つがあり、これらを一般人レベルで判断するのか本人レベルで判断するのか、という問題があるということです。

通常・必要.png


 なんとなく、通常性は一般人、必要性は納税者本人、に対応しているっぽくみえます。が、「通常必要」とつながっている以上、どちらも一般人レベルで判断するのが語義には合います。

 これ、刑法学説にでてくる、主観説・客観説・折衷説の対立と似たような問題構造です。判断基準を一般人とするのか当該個人とするのか、判断対象につき個別事情をどこまで取り込むのか、などという例のやつ。
 まあ、あちらは条文のないところでの空中戦ですが、こちらは一応条文があるところでの問題です。


 なんら根拠はありませんが、私が望ましいと思う枠組みを示しておきます。

1 まずは「モノの性質」だけで通常必要かどうかを判断。

 納税者の個別事情は考慮しない。櫛・ブラシは誰がどういうつもりで保有していようが通常必要と評価する。
 私個人としては、自動車も一家に一台までなら誰がどう使おうが通常必要でいいと思うのですが、一般的な理解とはズレるでしょうか。

 なお、令25条では、「30万円超の高級品」に該当すれば、納税者個人の利用状況を問わずに問答無用で生活用動産から除外されています。これも「モノの性質」だけで判断する趣旨だと捉えることができます。

2 「モノの性質」だけで判断できない場合は、その「使用目的」が何かをみる。
  そして、そのモノをそのような「使用目的」で使うことが、一般的にみて「通常必要」と評価できるかを判断すると。

 「実際の使用状況」は、この「使用目的」を推認するための間接事実のひとつとして使います。いくら本人が通勤目的で買ったと言い張っても、実際にレジャーにしか使っていなければそれは違うんだろうと。ただ、通勤目的で買った直後に会社がリモートワークに切り替わってしまった場合などは、別の評価がありえます。

 また、納税者個人の「使用目的」をそのまま通常必要の判定に反映させるのではなく、それが一般人からみて通常といえるかを挟み込むと。
 そうはいっても、せいぜい納税者個人の特殊な嗜好を排除する程度でよいのではないかと思います。個人の生活に対して、むやみやたらと「それは通常ではない」などと評価すべきではないでしょう。
 特殊車両を持っているとか僻地に住んでいるとか、それ自体は通常でないように思ってしまうかもしれませんが、通勤に供しているかぎりは通常性を肯定してよいと思います。


 このような枠組み、別にこれが理論的に正しいとかそういうことを主張しているのではなくて。

 現状の、使用状況の割合から判断しているかにみえる判決の存在を尊重しつつも、取得直後でも判定する場面があることや、必要/必要でないかが都度都度変化してしまうのは望ましくないのではということなどを諸々配慮した上での枠組みにすぎません。


 こういった問題があるにもかかわらず、本訴訟では、あくまでも個別事案限りでの判断しかなされず。

 もしも本訴訟が「チャレンジ系」なのだったとしたら、「ピーキー」な見解を主張するだけでなく、こういった制度内在的な問題についても議論してほしいところでした。


 ちなみに、この点に関して「所得税基本通達」がダンマリを決め込んでいるのは、不思議ではあります。
 何がしか、いっちょ噛みしてきそうなものですが。

 確かに、施行令25条各号の書きっぷりが、いかにも通達のお株を奪う感じではあります。
 規範も示さず、ずらずらと断片的な例示を並べるだけの。

 へそ曲げちゃってんのか。


 さて、次回は、前回記事の冒頭に書いた「とある書籍」についてです。
 前回と今回の記事を踏まえて、どのように理解できるかを検討します。

伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
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2021年08月02日

「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」

 上記タイトル、誤記などではなく。

 「生活に通常必要な資産」周りの解説について、とある書籍の記述で盛大に間違っているのではないか、というものを見つけました。

 が、私が何か思い違いをしているだけの可能性もあります。
 ので、まずは基礎的なところから確認していってみようと思います。


 法人税法は、法人が「経済的活動」にフルコミットするという前提で規律をしています。

 他方で、個人は様々な活動を行っており、「所得」という切り口だけでは適切に課税範囲をコントロールできないことがあります。そこで、所得税法では、所得以外の道具概念を導入して、課税範囲を適切にコントロールしようとしています。

 今回扱う「生活に通常必要な資産/生活に通常必要でない資産」もそのうちの一つです。


 まずは条文から(法は所得税法、令は同法施行令)。

法 第九条(非課税所得)
1 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
 九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得
2 次に掲げる金額は、この法律の規定の適用については、ないものとみなす。
 一 前項第九号に規定する資産の譲渡による収入金額がその資産の第三十三条第三項に規定する取得費及びその譲渡に要した費用の額の合計額(以下この項において「取得費等の金額」という。)に満たない場合におけるその不足額

令 第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)
 法第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する政令で定める資産は、生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のものとする。
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品

法 第六十二条(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
1 居住者が、災害又は盗難若しくは横領により、生活に通常必要でない資産として政令で定めるものについて受けた損失の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)は、政令で定めるところにより、その者のその損失を受けた日の属する年分又はその翌年分の譲渡所得の金額の計算上控除すべき金額とみなす。
2 前項に規定する損失の金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める。

令 第百七十八条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)
1 法第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する政令で定めるものは、次に掲げる資産とする。
一 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産(前号又は次号に掲げる動産を除く。)
三 生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの

法 第六十九条(損益通算)
1 総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する。
2 前項の場合において、同項に規定する損失の金額のうちに第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)に規定する資産に係る所得の金額(以下この項において「生活に通常必要でない資産に係る所得の金額」という。)の計算上生じた損失の金額があるときは、当該損失の金額のうち政令で定めるものは政令で定めるところにより他の生活に通常必要でない資産に係る所得の金額から控除するものとし、当該政令で定めるもの以外のもの及び当該控除をしてもなお控除しきれないものは生じなかつたものとみなす。


・令25条の各号の物品は「高級品」と総称します。
 「贅沢品」とでもしようかと思いましたが、変なバイアスが働きそうなのでやめておきます(が、所得税法自身、各所で《贅沢は敵》バイアスに基づいた規律をしているようにも感じますが)。

・一応省略せずにのせておきましたが、令178条1項の1号・2号は考慮外とし、同3号の「生活の用に供する動産」のみを扱います。

・「資産」と「動産」は互換的に用います。


 「要件・効果」でいうところの「効果」を整理すると下図のとおり。

通常必要(効果).png


 ※見出しが「生活用資産」な理由は後述します。

 橙は納税者有利、青は納税者不利。無色のところは、通算できないよりは有利だけど、内部・内々部でしか通算できないという点は不利なので、色付けしていません。

ア 生活用資産
 ・利益がでても損失がでても無視する。
 ・が、災害損失のみは考慮する。

イ 生活に通常必要でない資産
 ・利益がでたら課税。
 ・通常の損失は通常必要でない資産同士でのみ通算。
  (「内々部通算」というのは、そういう意味での造語です。)
 ・災害損失の場合は、その他の譲渡所得とも内部通算できる。

 ざっくりいえば、担税力の有無とか少額不遡及とか日常生活に関与しないとか、そういう考慮が働いているのでしょう。


 では、所得税法はこの2つの概念をどのように切り分けているでしょうか。
 条文を整理すると下図のとおりとなります。

通常必要(条文).png


・まずは、生活に通常必要かそうでないかを判断する。
・通常必要でない場合はイ(A)。
・通常必要な場合は、30万円超の高級品であればイ(B)、それ以外はア(C、D)。

 ここで気づくことは、Bへの違和感。
 一旦、通常必要だと判断しておきながら、最終的には通常必要でない資産になると。

 現実的には、30万円超の高級品ならば通常必要と判断されることはないのかもしれません。
 が、令25条の書き方は、あくまでも「生活に通常必要な動産のうち」となっています。
 ので、30万円超の高級品もその中に含まれていると読まざるをえません。

 上記図で、見出しを「生活に通常必要な資産」ではなく「生活用資産」としたのは、この『必要だが必要でない資産』(B)が含まれていることを含意してのことです。

「生活に通常必要な資産」(令25条柱書)
 B 生活に通常必要な30万円超の高級品(=生活に通常必要でない資産)
 C 生活に通常必要な30万円以下の高級品
 D 生活に通常必要な日常品


 どうせ最終的に排除されるなら、ということで、条文構造を無視して30万円超の高級品を前出しするとどうなるか。

通常必要(改変).png


 やけにシンプルにまとまりました。

・30万円超の高級品ならイ(B)。
・それ以外は通常必要ならア(C,D)、通常必要でないならイ(A)。


 制度の全体像が整理できたところで、次回は本制度が問題となった裁判例(サラリーマンマイカー訴訟)を検討します。 

サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
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2021年03月22日

さよなら「権利確定主義」(その4) 〜違法所得

 これ以上の死体蹴りはバチ当たり、ということで前回で連載を終わらせたつもりでした。
 が、バックグラウンドでチラチラ見え隠れしていたのが「違法所得」の問題。

さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
さよなら「権利確定主義」(その2) 〜不動産所得
さよなら「権利確定主義」(その3) 〜譲渡所得

 「権利確定主義」にとっての鬼っ子。
 こいつの収入実現を肯定するために、清く美しい「権利確定主義」に泥っぽい「管理支配基準」を混入させられたといっても過言ではない(実際の「史実」と一致するかは未確認)。

 が、この「違法所得」という括りがどこまでの射程を含んだ問題なのか、いまいちつかめていません。
 「違法」という用語が厄介で、単に民法上の無効・取消事由があるにすぎないものやら刑事罰が課せられるものなど、様々なレベルのものが含まれます。

 以下では「違法」の中身として、AがBに暗殺を依頼したという「暗殺請負業」(事業所得)を軸にして、問題点の整理だけしておきます。

 なお、これまでの記事では「いつ収入を計上すべきか」という年度帰属の側面から論じてきましたが、今回は「どのような場合に収入が実現するか」という側面から論じます。
 とはいっても、これは記述の仕方が変わるだけで実質は同じです。今回は後者のほうが表現がしやすい、というにすぎません(所得概念と年度帰属を切り離す、という特殊な見解は別として)。
 また、事業概念についても「違法」如何に影響されないか、ということが問題になりそうですが、この点は省略します。

 以下、引用条数は民法のものです。

第九十条(公序良俗)
 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
第百二十一条の二(原状回復の義務)
1 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。
第七百三条(不当利得の返還義務)
 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
第七百五条(債務の不存在を知ってした弁済)
 債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。
第七百六条(期限前の弁済)
 債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。
第七百七条(他人の債務の弁済)
1 債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。
2 前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。
第七百八条(不法原因給付)
 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。



《事例1》
 AがBに暗殺を依頼。
 B履行済み(合掌)。A代金支払い済み。
 
 契約無効ではあるものの(90条)、不法原因給付となるのでAは代金返還請求できなくなります(708条本文)。
 ただし、(本事例では想定しにくいですが)Bのほうが一方的に悪い場合には返還請求できることになっています(同条但書)。

 さて、税法上の収入実現は、このような民法上の返還請求できる/できないに影響されるでしょうか。
 おそらく代金受領した以上は「管理支配基準」により収入実現となって、あとは返還した場合にマイナス処理ができるかどうかの問題になるのでしょう。

《事例2》
 AがBに暗殺を依頼。
 B未履行。A代金支払い済み。

 民法上の規律は《事例1》と同じく、Aは原則として代金返還請求できないことになります。
 そして税法上も「管理支配基準」からすれば収入実現となりそうです。

 しかし収入実現は、B側の(違法な)役務が未履行であることに影響を受けないのかどうか。
 代金受領さえあれば収入実現を肯定されてしまうものなのでしょうか。

 事例をかえて、次の事例と比較してみましょう。

《事例3》
 CはDの預金口座に誤って振込んでしまった。
 CD間には何らの関係もない。

 この場合に収入実現したという人は、さすがにいないでしょう。
 仮にDが年をまたいで返還したからといって、一旦申告させてから更正の請求をさせる、などということにはならないはずです。

 とすると、収入実現には現金受領のみならず、何らかの「取引関係」に基づく交付であることが要求されるのでしょうか(基づく交付説)。

《事例4》
 事例3でCがわざとDの口座に振り込んだ。

 この場合は、Cは返還請求できないことになっています(705条)。
 何らの取引関係もありませんが、DはCにお金を返さなくてよいことになります(銀行取引約款の規律は考慮外)。

 この場合、Dにとっては何某かの所得になるのは間違いないのであって、結論的には収入実現を肯定することになるのでしょう。
 が、いかなる事実をもって肯定すればよいのか。

《事例5》
 買主Eと売主Fが売買契約を締結。
 F引渡未了。Eは間違って支払期日前にFに代金を振り込んでしまった。

 この場合、Eは代金返還請求できません(706条)。

 引渡基準からすれば収入未実現となるはずですが、「管理支配基準」により返還不要の代金の受領をもって収入実現となってしまうのかどうか。
 
 Eに間違って振り込まれただけなのに収入実現となってしまうのはかわいそう、ということであれば、収入実現には「引渡」(または支払期日の到来?)が必要と解すべきことになります。
 が、《事例2》や《事例4》では引渡(役務提供)がなされていません。それでも収入実現を肯定したいのであれば、「引渡」は必要条件ではないと解さなければなりません。


 《事例1》から《事例5》までを並べてみましょう。

      効力 引渡 返還請求  収入実現
  事例1 無効 完了 ×(708条)  ○
  事例2 無効 未了 ×(708条)  ○
  事例3 なし −  ○(703条)  ×
  事例4 なし −  ×(705条)  ○    
  事例5 有効 未了 ×(706条)  ×?

 ややこしくなるので708条但書に該当する場合は省略しています。
 収入実現の欄は、「管理支配基準」に基づけばこうなりそう、という結論を書いています。
 ただし《事例5》を「管理支配基準」のみで×にもっていけるかは微妙。

 これらを統一的に説明しきることは可能でしょうか。

 結論的には以下のように整理するのがよさそうです。
 イメージ的には、順番にプラス(有因)・ゼロ(無因)・マイナス(不法)です。

【金銭交付による収入実現】
  ・金銭交付が有因 → 引渡の有無(支払期日も?)で判定 《事例5×》
  ・金銭交付が無因 → 返還請求の有無で判定 《事例3×》《事例4○》
  ・金銭交付が不法 → 金銭受領のみで判定 《事例1○》《事例2○》

 が、これはせいぜい、不当利得の「衡平説」が「類型論」に置き換わったくらいの話。
 事業所得を念頭においた物言いなので、所得区分ごとの整理が必要ですし(暗殺役務の提供が給与認定されたら、とか)、不法の程度に応じたグラデーション付けも必要です。

 また、相関関係説的な枠組みであることからも分かる通り、総合考慮説を二軸に並べただけにすぎません。
 「箱庭説」のような統一理論、私にはさしあたり思いつきません。
 


加藤雅信「不当利得論 (加藤雅信著作集第三巻) 」(信山社2016)

      不当利得 収入実現
 漠然理論 衡平説  権利確定主義
 部分理論 類型論  管理支配基準
 統一理論 箱庭説  ??


 これまでの議論を振り返って。

 田中二郎先生の税法独自説から決別して私法準拠に殉教してみたものの、なんちゃって私法準拠どまりのまま、というのが私の見立て。
 民法の規定を詳細に分析するでもなく、税法独自の判断手法を開発するでもなく、どっちつかず。

田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990)

 およそ歴史認識に基づかない思いつきですが、次のような邪推が可能でしょうか。

・租税法学が未発達の時代に「税法独自説」を正面から唱えてしまうと、あたかも国家権力による融通無礙な課税を許容するかのように誤解されるおそれがあった。
・そこで、「権利確定主義」という、すでに長い歴史のある民法学に依拠し、かつ、私人の権利を重視するっぽい基準を表に立たせることで、そのような批判を回避することとした。
・本来であれば、「権利確定主義」で凌いでいる間に税法独自の統一理論を開発すべきだったのに、「支配管理基準」などといった部分理論しか開発できなかった。
・理論開発が進まないことに愛想を尽かして、課税実務は通達で所得区分ごとの独自の基準を定立することにした。

 なぜ「権利確定主義」が民法の規定を詳細に分析する方向にいかなかったといえば、「始めからその気がなかったから」とでもいわなければ説明できないんじゃないですかね。
 もちろん、こんなものは誇大妄想に基づく言いがかりにすぎないわけですが、ほかにどういう説明が可能でしょうか(ちなみに「借用概念論」もこれと同じノリだと、私は思っています)。

【借用概念イジり】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

 いい加減、かつての佐伯仁志先生(刑法)と道垣内弘人先生(民法)の対談のように、がっぷり四つに組んだ議論を、民法×税法についてもどなたかが実施すべきなんでしょう。

 

佐伯仁志,道垣内弘人「刑法と民法の対話」(有斐閣2001)

 下記書籍のような、取り急ぎパンデクテン順にペッと並べてみました、みたいなやつじゃなく。

「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)

 窪田充見先生(民法)の家族法の教科書では、「特別講義 家族法と租税法」と題して佐藤英明先生(税法)との対談を掲載されています。これをオマケとしてではなく、全面的に展開してほしい。

窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)


 以上、私自身の目的は、学問上の真理を探求したいなどというものではおよそなく。
 通達ベースで実務運用をするにあたって、学理がノイズとして入ってこないか、の確認作業をしたかっただけです(「ノイズ」が表現上不穏当だというならば、「法解釈のお作法に基づく正当な解釈論の展開」と良いように言い換えてもよいです)。

 なんでもかんでも「リーガルマインド」云々言うのではなく、通達ベースで運用できるならそれに越したことはない。ルール元が私法準拠だろうが税法独自だろうが、とにかく事前にルールが明確に決まってさえいてくれれば、安定した運用が可能なわけです。そのルールに納得がいかない人だけが、法解釈アタックをかませばいい。
 とはいえ、法解釈として洗練されていない通達を鵜呑みにすると足元を掬われることもあるので、そのあたりの見極めをしておきたかった、ということです。

 で、自分の中では落ち着きどころが見えた気がするので、これ以上の死体蹴りは本当に終わりにいたします(終わる終わる詐欺の終幕)。 
posted by ウロ at 09:54| Comment(0) | 所得税法