一時所得と雑所得の関係について、一般に、雑所得が最終的なバスケットカテゴリーであり、一時所得はその手前に位置している、と理解されているように思われます。
利子所得等 →一時所得(利子所得等以外) →雑所得(一時所得以外)
確かに、法35条の書きぶりだけをみると、そのような理解に至ってしまうのも分かります。
法第三十五条(雑所得)
1 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
が、法34条のほうを読んでみると、そのような理解は不正確ではないか、と感じるわけです。
法第三十四条(一時所得)
1 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
1つ目の「以外」は(利子所得等以外)を意味するとして。2つ目の「以外」は何なんだよと。しかも、その後ろに「有しない」とさらに否定形が出てくるし。
ということで、今回はこのあたりの違和感を言語化してみます。
◯
法34条に規定されている、一時所得該当性の要件を抽出すると、次の通りとなります。
要件1
利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得
要件2
営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外(の所得)
要件3
一時の所得
要件4
ア 労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの
イ 資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの
このような、消極要件だらけの一時所得につき、「課税要件事実論」を展開されている方々からはどのような理解がなされるのか、非常に興味のあるところ。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
ですが、今回はこの点については触れず、あくまでも実体要件レベルで論じます。
・
まず、要件1それ自体は、まあ当然だと。ただ、別途、要件4が要求されていることにつき、説明が必要ではないかと思います。
ア「労務」の対価なのであれば、それは「給与所得」に該当するのではないか(なので要件4は不要では)、と疑問に思う方がいるかもしれません。
これは、「労務」の対価としての性質をもっていたとしても、必ずしも「給与所得」になるとはかぎらず。雑所得にもなりうるという前提があるということです(これが「役務」となると「給与所得/事業所得/雑所得」と広がります)。
イ「資産の譲渡」のほうも同様で、「譲渡所得」「事業所得」のほかに、「雑所得」にもあたりうるという前提があるということです。
役務の対価(としての性質を有するもの) :給与所得/事業所得/雑所得
資産の譲渡の対価(としての性質を有するもの):譲渡所得/事業所得/雑所得
それゆえ、要件1とは別に要件4を要求し、「雑所得」になるものを除外しているということです。
ちなみに、要件1と4がこのような関係だとすると。
たとえば「資産の譲渡の対価」にあたることが明らかな場合、まず要件1で譲渡所得or事業所得に該当するかを判定し、それから要件4の判定をする、などという迂路を経由する必要はなく。端的に要件4イに該当することがいえれば、「一時所得でない」と結論づけることができます。
・
要件2では、営利かつ継続的行為である場合に、一時所得から除外されることとされています。
A 営利+継続的行為 →除外(雑所得へ)
B 営利+単発的行為
C 非営利+継続的行為
D 非営利+単発的行為
除外されるAは、要件1「のうち」とされていることから、必然的に「雑所得」に該当することになります。
条文上、「継続的行為」とされているとおり、ここで除外されるのは所得が発生する原因となる「行為」が継続的かどうかで判定するということです。
所得それ自体が継続/単発かは、要件3として別に要求されています。
・
要件3が、唯一の「積極要件」となっています。
要件2のBCDにあたる行為によるものであっても、得られる所得が「一時」でなければ、一時所得にはならないということです。
◯
以上を踏まえて。
要件1で利子所得等にあたる所得を除外し、要件3で積極的に「一時の所得」にあたるものを一時所得で受け止める、というかぎりでは、
利子所得等 →一時所得(利子所得等以外) →雑所得(一時所得以外)
という序列であることに違和感はありません(雑所得がバスケット)。
ところが、要件2と4は、「雑所得に該当しないものを一時所得とする」という書きぶりであり、むしろ、以下のようなポジションとなっているように読めるわけです(一時所得がバスケット)。
利子所得等 →雑所得(利子所得等以外) →一時所得(雑所得以外)
この2つを整合させるために、一時所得/雑所得を直列一本に並べるのではなく、積極要件(要件2、4)を満たす雑所得Tと、すべての所得類型該当性が否定された末の雑所得Uを分岐させてみたらどうでしょうか。
利子所得等 →雑所得T(利子所得等以外)
→一時所得(利子所得等以外) →雑所得U(一時所得等以外)
要件1: 一時所得/雑所得共通の要件
→他の所得にあたらなければ、一時所得or雑所得の判定をスタートさせる
要件2、4: 雑所得に振り分けるための要件
→これらに該当したら、雑所得Tとなる。
要件3: 一時所得固有の要件
→これに該当したら一時所得、該当しなかったら雑所得U
常に一時の所得かどうか(要件3)を判定しなければ、雑所得該当性に進めないというのではなく。雑所得の判定が先にくるパターンもありうる、ということです。
これは、あくまでも思考プロセスの問題にすぎません。
が、「否定してばかりの」法34条がすんなり理解できない人は、同条が(一時所得の消極要件を定めていると同時に)雑所得の積極要件を定めていると捉えると、理解しやすくなるのではないでしょうか。
【利子所得等以外の所得】
・雑所得T
営利を目的とする継続的行為から生じた所得(=業務に係る所得)
労務その他の役務の対価としての性質を有する所得
資産の譲渡の対価としての性質を有する所得
・一時所得
一時の所得
・雑所得U
公的年金等に係る所得
その他いずれにも該当しない所得
法35条の書きぶりだと、一番最後の「いずれにも該当しない所得」だけが雑所得であるかのように誤解してしまいます。が、法34条の規律をあわせて考えると、上記のような編成になっていることが理解できるかと思います。
なお、「公的年金等」は、要件124は満たすが3を満たさない、ということで雑所得Uに流れてくることになるはずです。
本来であれば、「年金所得」という独立のカテゴリーがあってもおかしくないのですが、おそらく所得分類を増やしたくない、という理由で、雑所得に押し込められているのでしょう。
◯
完全なる邪推ですが。
「包括的所得概念」を採用したことの宣言的効果を狙って、どうしても、法35条のように「他の所得類型のどれにも該当しなくても、必ず課税するぞ」という表現にしたかったのではないか、と思われます。
法34条の要件2,4が果たすべき機能を素直に表現するならば、「雑所得以外の所得」と書くべきところです。が、これだと「包括的所得概念」宣言規定たる法35条との間で無限ループが生じてしまいます。
それゆえ、要件2、4のように、正面から「雑所得」という用語を使わない書き方をせざるを得なかったのではないかと。
もちろん、このような理解、実際の沿革とは異なるでしょう。
が、現行法における一時所得/雑所得の関係につき、条文の書きぶりと実際の中身を整合的に説明しようと思ったら、このような説明をするしかないんじゃないですかね。
そもそも、一時所得に課税していることも、現行法が「包括的所得概念」を採用していることを正当化する根拠となるのであって。
無理に雑所得だけを最後尾に配置する必要はなく。一時所得・雑所得とが相まって、他の所得からこぼれ落ちる所得を拾い上げている、と理解すればいいと思います。
・
ということで、「一時所得がキモい」と感じたのは、法35条の雑所得を最終的なバスケットカテゴリーとして記述しようとしたしわ寄せで、法34条を不自然な書き方にせざるをえなかった、ということかと思います。
一時所得は被害者であるにもかかわらず、「キモい」呼ばわりしてしまい、申し訳ありませんでした。
◯
ちなみに、「一時所得にとっては消極要件なのに雑所得にとっては積極要件」など、税法世界においては、積極/消極といった表裏、あるいは納税者にとっての有利/不利は、状況によってひっくり返ることがしばしばあります。
にも関わらず、「課税要件事実論」を展開されている方々は、こういったことにまるで無頓着。ただ単に「民事要件事実論」を横流しすればすむ、と思っているようなフシがあるように、私には感じられるところです。
2025年03月03日
一時所得がキモいのだが。
posted by ウロ at 00:00| Comment(0)
| 所得税法
2025年02月24日
いろんな親族(所得控除編)
前回に引き続き、今回は(配偶者以外の)「親族」について。
いろんな配偶者(所得控除編)
「親族」のほうは、配偶者以上に令和7年度改正によって影響を受けるところです。が、さしあたり改正前の状態のものを整理しておきます。
・
なお、単に「親族」というと配偶者も含んでしまいます。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
ですが、本記事では配偶者を除いた親族のことを「親族」ということにします。
ちなみに、所得税法の条文には、配偶者を含めた親族を表すときに、わざわざ「配偶者その他の親族」と、配偶者を頭出ししているところがあります。
配偶者を含めるならば、単に「親族」とだけいえばいいはずです(お前、借用概念なんだろ)。「高見沢俊彦その他のTHE ALFEE」なんていうのかって話ですよ(軽々しく例に出すのも失礼)。
他方で、他の箇所では「居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)」と、民法上の「親族」に忠実な用い方をしているところもあり。
文脈によって使い分けているのでしょうかね。
◯
前置きはさておき。
まず、2条(定義)で用意されているもの(上記のとおり、令和7年度改正前の状態です)。
A 扶養親族
親族(配偶者除く)、里子、被養護老人
生計一
合計所得金額48万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象扶養親族
扶養親族
(居住者) 16歳以上
(非居住者)16歳以上30歳未満or70歳以上
留学・障害者・仕送り38万円
C 特定扶養親族
控除対象扶養親族
19歳以上23歳未満
D 老人扶養親族
控除対象扶養親族
70歳以上
配偶者の場合は「法律婚」単騎なのに対し。扶養親族の場合は、民法上の親族(養子はこちらに含む)だけでなく、里子や被養護老人(しかるべき略語が不明なため、そう略しておきます)も含むことになっています。
意外なことに、それらを含みながら「扶養親族等」などとはせず、シンプルに「扶養親族」とネーミングしています。
その他、配偶者と比較した場合、
・B 控除対象となるために、納税者所得は要求されていない
・B 源泉控除専用の用語が用意されていない(現時点では扶養控除あり=源泉控除あり)
・C 高等教育優遇(?、おおむね大学生に相当する年齢)がある
といった違いがあります。
【無理やり用語対比】
A 同一生計配偶者 ⇔A 扶養親族
B 控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族
⇔C 特定扶養親族
C 老人控除対象配偶者 ⇔D 老人扶養親族
D 源泉控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族(兼用)
こうやって用語を並べてみると、控除対象扶養親族に70歳以上が加わると、「老人控除対象扶養親族」とはせずに「控除対象」を外しているのとか、どういうつもりなのかよくわかりません(「老人配偶者」だと失礼っぽいから、老人感を薄めている?)。
なお、令和7年度改正で「特定親族特別控除」が導入されたら、「特定親族」と「源泉控除対象親族」という新規の用語が追加される予定となっております。
念のため。
配偶者は扶養親族から除かれているため、19〜23歳の配偶者は特定扶養親族にはなりませんからね。
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 親族が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・勤労学生控除
2 親族
・生命保険料控除
一般・介護: 親族(が受取人)
個人年金: なし
皆さんどれくらい真面目に処理されているのか知りませんが、配偶者以外の親族の場合、一般・介護と個人年金とで扱いが異なります。
3 生計を一にする親族
・雑損控除
生計を一にする親族(が有する資産)
総所得金額等48万円以下
扶養親族と違って親族所得要件が内蔵されていないため、外付けする必要があります。
合計所得金額ではなく総所得金額等としてるのが、芸が細かい。
・地震保険料控除
生計を一にする親族(が有する資産。納税者が支払ったもの)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする親族(納税者が支払ったもの)
この3つは、生計一で納税者が支払いさえすれば、親族の所得の多寡は問題とされないわけです。
4 生計を一にする子
・ひとり親控除
生計を一にする子
総所得金額等48万円以下
親族のうち、子だけを対象としています。
親のほうは「ひとり親」という名称が与えられていますが、子のほうは専用の用語がありません。
5 扶養親族
・障害者控除
扶養親族(が障害者)
・寡婦控除
扶養親族(を有すること) 離婚の場合
ひとり親に該当する場合はそちらが優先適用されることになっています。
(・所得金額調整控除)
扶養親族が障害者or23歳以下
所得控除ではありませんが、参考としてここに入れておきます。
6 控除対象扶養親族
・扶養控除
控除対象扶養親族
特定扶養親族、老人扶養親族は控除額アップ
・
こう並べてお気づきになったかどうか。
里子・被養護老人は、あくまでも「扶養親族」の中に含まれているものにすぎず。ゆえに、これらの人が対象となる所得控除は、5と6に出てくるものだけになります。
対象とならないもののうち、「医療費控除」あたりは特に問題がありそうですが、こういう理解で本当によいのかどうか。
また、ひとり親控除は4(生計を一にする子),寡婦控除は5(扶養親族)となっています。
そうすると、里子がいる人が離婚した場合、ひとり親控除はおよそ不可で、あとは寡婦控除の適用を検討するだけ、ということでよいのでしょうか。
当然ながら、男性里親は「寡婦」にはなりえないわけで。「ひとり親控除が新設されてよかったね」では済まない《性差別》があるように思うのですが(児童福祉法の規律は考慮せず、あくまでも所得税法内部の問題として考えています)。
◯
上述したとおり、このラインナップに「特定親族」「源泉控除対象親族」が加わりますので、さらにしんどいことになります。
ということで、改正後すぐに修正が必要となる、消費期限短めの記事でした。
いろんな配偶者(所得控除編)
「親族」のほうは、配偶者以上に令和7年度改正によって影響を受けるところです。が、さしあたり改正前の状態のものを整理しておきます。
・
なお、単に「親族」というと配偶者も含んでしまいます。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
ですが、本記事では配偶者を除いた親族のことを「親族」ということにします。
ちなみに、所得税法の条文には、配偶者を含めた親族を表すときに、わざわざ「配偶者その他の親族」と、配偶者を頭出ししているところがあります。
配偶者を含めるならば、単に「親族」とだけいえばいいはずです(お前、借用概念なんだろ)。「高見沢俊彦その他のTHE ALFEE」なんていうのかって話ですよ(軽々しく例に出すのも失礼)。
他方で、他の箇所では「居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)」と、民法上の「親族」に忠実な用い方をしているところもあり。
文脈によって使い分けているのでしょうかね。
◯
前置きはさておき。
まず、2条(定義)で用意されているもの(上記のとおり、令和7年度改正前の状態です)。
A 扶養親族
親族(配偶者除く)、里子、被養護老人
生計一
合計所得金額48万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象扶養親族
扶養親族
(居住者) 16歳以上
(非居住者)16歳以上30歳未満or70歳以上
留学・障害者・仕送り38万円
C 特定扶養親族
控除対象扶養親族
19歳以上23歳未満
D 老人扶養親族
控除対象扶養親族
70歳以上
配偶者の場合は「法律婚」単騎なのに対し。扶養親族の場合は、民法上の親族(養子はこちらに含む)だけでなく、里子や被養護老人(しかるべき略語が不明なため、そう略しておきます)も含むことになっています。
意外なことに、それらを含みながら「扶養親族等」などとはせず、シンプルに「扶養親族」とネーミングしています。
その他、配偶者と比較した場合、
・B 控除対象となるために、納税者所得は要求されていない
・B 源泉控除専用の用語が用意されていない(現時点では扶養控除あり=源泉控除あり)
・C 高等教育優遇(?、おおむね大学生に相当する年齢)がある
といった違いがあります。
【無理やり用語対比】
A 同一生計配偶者 ⇔A 扶養親族
B 控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族
⇔C 特定扶養親族
C 老人控除対象配偶者 ⇔D 老人扶養親族
D 源泉控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族(兼用)
こうやって用語を並べてみると、控除対象扶養親族に70歳以上が加わると、「老人控除対象扶養親族」とはせずに「控除対象」を外しているのとか、どういうつもりなのかよくわかりません(「老人配偶者」だと失礼っぽいから、老人感を薄めている?)。
なお、令和7年度改正で「特定親族特別控除」が導入されたら、「特定親族」と「源泉控除対象親族」という新規の用語が追加される予定となっております。
念のため。
配偶者は扶養親族から除かれているため、19〜23歳の配偶者は特定扶養親族にはなりませんからね。
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 親族が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・勤労学生控除
2 親族
・生命保険料控除
一般・介護: 親族(が受取人)
個人年金: なし
皆さんどれくらい真面目に処理されているのか知りませんが、配偶者以外の親族の場合、一般・介護と個人年金とで扱いが異なります。
3 生計を一にする親族
・雑損控除
生計を一にする親族(が有する資産)
総所得金額等48万円以下
扶養親族と違って親族所得要件が内蔵されていないため、外付けする必要があります。
合計所得金額ではなく総所得金額等としてるのが、芸が細かい。
・地震保険料控除
生計を一にする親族(が有する資産。納税者が支払ったもの)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする親族(納税者が支払ったもの)
この3つは、生計一で納税者が支払いさえすれば、親族の所得の多寡は問題とされないわけです。
4 生計を一にする子
・ひとり親控除
生計を一にする子
総所得金額等48万円以下
親族のうち、子だけを対象としています。
親のほうは「ひとり親」という名称が与えられていますが、子のほうは専用の用語がありません。
5 扶養親族
・障害者控除
扶養親族(が障害者)
・寡婦控除
扶養親族(を有すること) 離婚の場合
ひとり親に該当する場合はそちらが優先適用されることになっています。
(・所得金額調整控除)
扶養親族が障害者or23歳以下
所得控除ではありませんが、参考としてここに入れておきます。
6 控除対象扶養親族
・扶養控除
控除対象扶養親族
特定扶養親族、老人扶養親族は控除額アップ
・
こう並べてお気づきになったかどうか。
里子・被養護老人は、あくまでも「扶養親族」の中に含まれているものにすぎず。ゆえに、これらの人が対象となる所得控除は、5と6に出てくるものだけになります。
対象とならないもののうち、「医療費控除」あたりは特に問題がありそうですが、こういう理解で本当によいのかどうか。
また、ひとり親控除は4(生計を一にする子),寡婦控除は5(扶養親族)となっています。
そうすると、里子がいる人が離婚した場合、ひとり親控除はおよそ不可で、あとは寡婦控除の適用を検討するだけ、ということでよいのでしょうか。
当然ながら、男性里親は「寡婦」にはなりえないわけで。「ひとり親控除が新設されてよかったね」では済まない《性差別》があるように思うのですが(児童福祉法の規律は考慮せず、あくまでも所得税法内部の問題として考えています)。
◯
上述したとおり、このラインナップに「特定親族」「源泉控除対象親族」が加わりますので、さらにしんどいことになります。
ということで、改正後すぐに修正が必要となる、消費期限短めの記事でした。
posted by ウロ at 10:20| Comment(0)
| 所得税法
2025年02月17日
いろんな配偶者(所得控除編)
一夫多妻制/多夫一妻制のお話しではなく。
所得税法の「所得控除」の中に出てくる配偶者のお話しです。
以前に整理した「所得控除」についての記事の、配偶者スピンオフものです。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
そして私の中では「いろんな」シリーズの一環と位置づけています(まあまあどうでもいい)。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
◯
まず、2条(定義)で用意されているもの(以下、所得要件は令和7年度改正前のものです)。
A 同一生計配偶者
生計一
合計所得金額48万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象配偶者
同一生計配偶者
本人の合計所得金額1,000万円以下
C 老人控除対象配偶者
控除対象配偶者
年齢70歳以上
D 源泉控除対象配偶者
生計一
本人の合計所得金額900万円以下
合計所得金額95万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 配偶者が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・扶養控除
小規模企業共済や寄附金につき、配偶者名義のものを本人が支払った場合にどうなるかについては、上記記事で論じたとおりです(以下、支払系は同様です)。
なお、「ひとり親」の中には言葉として配偶者は出てきますが、「いない」側のお話しなのでこちらに納めておきます。
2 配偶者
・生命保険料控除
配偶者(受取人)
受取人が配偶者でありさえすればよいことになっています。
生計一や所得要件が課せられていません。
3 生計を一にする配偶者
・雑損控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
総所得金額・退職所得金額・山林所得金額48万円以下
・地震保険料控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする配偶者(納税者が支払ったもの)
・配偶者特別控除
生計を一にする配偶者
配偶者の合計所得金額133万円以下
本人の合計所得金額1,000万円以下
控除対象配偶者除く
事業専従者(青色、白色)除く
ここまで、せっかく第2条で定義づけした用語が全く出てきません。
特に、配偶者特別控除の対象者の絞り込み、やたらとゴチャついていますが、専用の呼び名をご用意していただけておりません。
令和7年税制改正(案)の「特定親族特別控除」の控除対象者に、『特定親族』という専用の呼び名が用意されようとしているのとは大違い。
以下で、ようやく2条の用語が登場します。
4 同一生計配偶者(A)
・障害者控除
同一生計配偶者
5 控除対象配偶者(B)
・配偶者控除
控除対象配偶者
老人控除対象配偶者(C)は控除額アップ
それぞれ一箇所づつ。
配偶者特別控除の対象者が専用の用語を用意していただけないの、そこでしか使われないからだと思って諦めていたのですが。
同一生計配偶者・控除対象配偶者・老人控除対象配偶者も、それぞれ一箇所でしか使われていないという有り様(念のため、措置法かつ所得控除じゃない「所得金額調整控除」では「同一生計配偶者」が使われています)。
一体どういう設計思想のもとに、専用の呼び名を用意する/しない(named/un-named)を振り分けているのでしょうか。
なお、「源泉控除対象配偶者」(D)については、あちらこちらで使いまわしされていますので、定義のしがいがあったでしょうね。
いろんな親族(所得控除編)
所得税法の「所得控除」の中に出てくる配偶者のお話しです。
以前に整理した「所得控除」についての記事の、配偶者スピンオフものです。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
そして私の中では「いろんな」シリーズの一環と位置づけています(まあまあどうでもいい)。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
◯
まず、2条(定義)で用意されているもの(以下、所得要件は令和7年度改正前のものです)。
A 同一生計配偶者
生計一
合計所得金額48万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象配偶者
同一生計配偶者
本人の合計所得金額1,000万円以下
C 老人控除対象配偶者
控除対象配偶者
年齢70歳以上
D 源泉控除対象配偶者
生計一
本人の合計所得金額900万円以下
合計所得金額95万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 配偶者が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・扶養控除
小規模企業共済や寄附金につき、配偶者名義のものを本人が支払った場合にどうなるかについては、上記記事で論じたとおりです(以下、支払系は同様です)。
なお、「ひとり親」の中には言葉として配偶者は出てきますが、「いない」側のお話しなのでこちらに納めておきます。
2 配偶者
・生命保険料控除
配偶者(受取人)
受取人が配偶者でありさえすればよいことになっています。
生計一や所得要件が課せられていません。
3 生計を一にする配偶者
・雑損控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
総所得金額・退職所得金額・山林所得金額48万円以下
・地震保険料控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする配偶者(納税者が支払ったもの)
・配偶者特別控除
生計を一にする配偶者
配偶者の合計所得金額133万円以下
本人の合計所得金額1,000万円以下
控除対象配偶者除く
事業専従者(青色、白色)除く
ここまで、せっかく第2条で定義づけした用語が全く出てきません。
特に、配偶者特別控除の対象者の絞り込み、やたらとゴチャついていますが、専用の呼び名をご用意していただけておりません。
令和7年税制改正(案)の「特定親族特別控除」の控除対象者に、『特定親族』という専用の呼び名が用意されようとしているのとは大違い。
以下で、ようやく2条の用語が登場します。
4 同一生計配偶者(A)
・障害者控除
同一生計配偶者
5 控除対象配偶者(B)
・配偶者控除
控除対象配偶者
老人控除対象配偶者(C)は控除額アップ
それぞれ一箇所づつ。
配偶者特別控除の対象者が専用の用語を用意していただけないの、そこでしか使われないからだと思って諦めていたのですが。
同一生計配偶者・控除対象配偶者・老人控除対象配偶者も、それぞれ一箇所でしか使われていないという有り様(念のため、措置法かつ所得控除じゃない「所得金額調整控除」では「同一生計配偶者」が使われています)。
一体どういう設計思想のもとに、専用の呼び名を用意する/しない(named/un-named)を振り分けているのでしょうか。
なお、「源泉控除対象配偶者」(D)については、あちらこちらで使いまわしされていますので、定義のしがいがあったでしょうね。
いろんな親族(所得控除編)
posted by ウロ at 09:06| Comment(0)
| 所得税法
2024年09月16日
『租税法教科書における《帰属所得》の説明は、なぜしっくりこないのか?』
こんな疑問抱いているの、私だけなんですかね。
言わんとすることは分かるけども、どうにも腑に落ちない状態。
所得税法における「総論・各論問題」について
いくつかの教科書を読んでいるうちに、どうも要因が分かった気がするので、以下整理してみます。
ただし、あくまでも「帰属所得の説明が分かりにくい要因が分かった」であって。「帰属所得が分かった!」ではありません。
なお本記事、もともとは、とある租税法教科書の書評記事の中で展開しようとしていたものでした。が、あまりにも当該教科書の内容からはかけ離れてしまったため、独立して記事化することにしました。
当該教科書の書評記事は、中身がほとんど無くなってしまったので、しばらく寝かせることになりそうです。
◯
以下、箇条書きで。
・まず、おなじみサイモンズの定式として《所得=純資産の増加+消費》がご紹介される。
・右辺に《消費》とあるが、消費そのものに課税するという趣旨ではなく。資産の減少をもたらす消費を足し戻した状態の、純資産の増加に課税するものである。例えていうなら、生前贈与を相続財産に足し戻して課税するみたいなもの。
なので、「消費型所得概念」を(も)採用しているのではなく。あくまでも、「取得型所得概念(純資産増加説)」の枠組みの中にとどまるものである。ひとつの税目で消費型と取得型を併用するなんて、さすがにご都合主義すぎるでしょうよ。
・ところが、《帰属所得》を論ずる段階になると、「帰属所得は消費だから本来課税すべきもの」と、消費であるという、ただそれだけの理由で課税してよいような書きぶりに変貌する。
純資産増加説からすれば、資産の減少をもたらす消費(α)だけが課税すべきものであるのに、無限定にすべての消費(+β)に課税してよいかのような論述にすり替わる。
純資産増加説: 所得=純資産の増加 +消費α
帰属所得: 消費(α+β)なので課税すべき
・では、大多数の教科書が、ウブな学習者向けに《叙述トリック》をかましているのかというと、そういうことではなく。
帰属所得においては「効用が生ずると同時にそれを消費している」というプロセスを経由しているにもかかわらず。前半を省略して、単に「消費している」としか記述しないせいで、すり替えているとの誤解が生じてしまっている。
× 消費したから課税する。
◯ 効用が生じたから課税する。消費によるマイナスは足し戻す。
・そもそも、「消費」などという日常用語っぽいものだというのに、厳密な定義(あるいは内包と外延)を記述してくれていない。
たとえば、帰属所得の例として「帰属家賃」は必ずでてくるが、「帰属地代」だとどうなるのか。消費税法上は「土地は消費されない。」とかいう理由で非課税扱いだが、所得税(法)の世界では、土地も「消費」できるということでよいのか。
・消費の直前に効用が生じているということで、《定式》上の説明はできるものの。
外部からの収入という確固たる純資産の増加が生じるものと比較して、消費する直前にいきなり生ずるだけの効用が、課税に値するものなのかどうか、その論証が別途必要ではないか。
「消費だから本来課税すべきだが、便宜的に課税していない」とか、「消費している以上、課税すべき効用が先行しているはず」というのは、ただの結論先取りであり。帰属所得における効用それ自体が課税に値するものかを、先に論じる必要があるはず。
・持ち家と賃貸を比較して、「持ち家が帰属所得の分だけ有利だから、帰属所得に課税すべき。」といったことが言われるが(厳密には「賃借」ですが慣用に合わせます)。両者の違いは「持っているかどうか」にあるのであって。その違いに即した形で課税するのが本来の姿ではないか。
ただ、「人脈が太くておいしい思いをしている」みたいな場合にも課税するというのなら、やはり、帰属所得のような概念を作りだして課税するのが、一番の近道か。というか、そんな場合にも無理やり課税できるようにするための、極めて技巧的な概念ではないか、とも思う。
・賃貸との「公平」の観点から持ち家にも課税すべき、というが。そんな限局された場面での部分最適だけを実現したところで、帰属所得のコンセプトにはそぐわないはず。
帰属所得に課税することの機能をあるがままに表現するならば、「持っている人を持っていない人に合わせる」というものであり。最終的には全員の「持っているモノ」が均等になるまで課税され続けることになる。資産を目減りさせないためには、「利用しない」ことが重要となる。
この点で、「包括的所得概念からは、帰属所得に課税するのが当然。」などという言明、憲法の「財産権の保障」との関係で、かなり危うい主張ではないか(相続税との二重課税も視野に入ってくる)。
・《課税単位》を説明する箇所では、「独身/夫婦(片稼ぎ)/夫婦(共稼ぎ)」を素材として、夫婦の所得を合算するかしないかが論じられている。
が、帰属所得が「所得」だというならば、「片稼ぎ」という概念は存在しえないのではないか。また、帰属所得は本来課税すべきだというならば、帰属所得の存在を無視して課税上の「公平」を論ずることはできないのではないか。
◯
以上、バラバラと述べたことから、次のような見立てをしました。
すなわち、「帰属所得」なる概念は、「持っている人と持っていない人」の格差の是正を、所得課税の中で実現するために生み出された概念にすぎないのではないか。
にもかかわらず、「帰属所得」がなにか自然界に実在しているものであるかのように説明していることから、私のような普通の人間には理解しにくくなっているのではないか。フィクションならフィクションだとして説明してくれないと、勘の悪い私のような人間が、すんなり理解できるはずもない。
【みんな大好きフィクション論】
来栖三郎「法とフィクション」(東京大学出版会1999)
そしてまた、「帰属所得」が実存するかのように主張するのならば、全領域において常にそのとおり振る舞ってほしいわけです。が、実際には、論点ごとに帰属所得を持ち出したり引っ込めたり。ご都合主義って感じで一貫した記述となっていない。
『私、見えないモノが見えるの。』という設定でいきたいのならば、すべての場面でそのとおりやってくれなければ。付き合わされるこちらが大変でしょうよ。
「設定を設定として守る」という基本的なお作法が、周りの理解を得るためには重要、とまとめることができるでしょうか。
◯
なお、以上は、あくまでも《教科書》レベルの記述を素材とするものにとどまり。《学術論文》レベルにまで手を出せば、厳密な論証が展開されていることが分かるのでしょう。
が、学者先生の教科書を《梯子読み》している時点で、税理士としてはかなりの傾奇者であり(旧司法試験でいう《基本書ヴェテ》みたいなポジション)。さらに学術論文まで読めというのは、さすがに及ばない。
言わんとすることは分かるけども、どうにも腑に落ちない状態。
所得税法における「総論・各論問題」について
いくつかの教科書を読んでいるうちに、どうも要因が分かった気がするので、以下整理してみます。
ただし、あくまでも「帰属所得の説明が分かりにくい要因が分かった」であって。「帰属所得が分かった!」ではありません。
なお本記事、もともとは、とある租税法教科書の書評記事の中で展開しようとしていたものでした。が、あまりにも当該教科書の内容からはかけ離れてしまったため、独立して記事化することにしました。
当該教科書の書評記事は、中身がほとんど無くなってしまったので、しばらく寝かせることになりそうです。
◯
以下、箇条書きで。
・まず、おなじみサイモンズの定式として《所得=純資産の増加+消費》がご紹介される。
・右辺に《消費》とあるが、消費そのものに課税するという趣旨ではなく。資産の減少をもたらす消費を足し戻した状態の、純資産の増加に課税するものである。例えていうなら、生前贈与を相続財産に足し戻して課税するみたいなもの。
なので、「消費型所得概念」を(も)採用しているのではなく。あくまでも、「取得型所得概念(純資産増加説)」の枠組みの中にとどまるものである。ひとつの税目で消費型と取得型を併用するなんて、さすがにご都合主義すぎるでしょうよ。
・ところが、《帰属所得》を論ずる段階になると、「帰属所得は消費だから本来課税すべきもの」と、消費であるという、ただそれだけの理由で課税してよいような書きぶりに変貌する。
純資産増加説からすれば、資産の減少をもたらす消費(α)だけが課税すべきものであるのに、無限定にすべての消費(+β)に課税してよいかのような論述にすり替わる。
純資産増加説: 所得=純資産の増加 +消費α
帰属所得: 消費(α+β)なので課税すべき
・では、大多数の教科書が、ウブな学習者向けに《叙述トリック》をかましているのかというと、そういうことではなく。
帰属所得においては「効用が生ずると同時にそれを消費している」というプロセスを経由しているにもかかわらず。前半を省略して、単に「消費している」としか記述しないせいで、すり替えているとの誤解が生じてしまっている。
× 消費したから課税する。
◯ 効用が生じたから課税する。消費によるマイナスは足し戻す。
・そもそも、「消費」などという日常用語っぽいものだというのに、厳密な定義(あるいは内包と外延)を記述してくれていない。
たとえば、帰属所得の例として「帰属家賃」は必ずでてくるが、「帰属地代」だとどうなるのか。消費税法上は「土地は消費されない。」とかいう理由で非課税扱いだが、所得税(法)の世界では、土地も「消費」できるということでよいのか。
・消費の直前に効用が生じているということで、《定式》上の説明はできるものの。
外部からの収入という確固たる純資産の増加が生じるものと比較して、消費する直前にいきなり生ずるだけの効用が、課税に値するものなのかどうか、その論証が別途必要ではないか。
「消費だから本来課税すべきだが、便宜的に課税していない」とか、「消費している以上、課税すべき効用が先行しているはず」というのは、ただの結論先取りであり。帰属所得における効用それ自体が課税に値するものかを、先に論じる必要があるはず。
・持ち家と賃貸を比較して、「持ち家が帰属所得の分だけ有利だから、帰属所得に課税すべき。」といったことが言われるが(厳密には「賃借」ですが慣用に合わせます)。両者の違いは「持っているかどうか」にあるのであって。その違いに即した形で課税するのが本来の姿ではないか。
ただ、「人脈が太くておいしい思いをしている」みたいな場合にも課税するというのなら、やはり、帰属所得のような概念を作りだして課税するのが、一番の近道か。というか、そんな場合にも無理やり課税できるようにするための、極めて技巧的な概念ではないか、とも思う。
・賃貸との「公平」の観点から持ち家にも課税すべき、というが。そんな限局された場面での部分最適だけを実現したところで、帰属所得のコンセプトにはそぐわないはず。
帰属所得に課税することの機能をあるがままに表現するならば、「持っている人を持っていない人に合わせる」というものであり。最終的には全員の「持っているモノ」が均等になるまで課税され続けることになる。資産を目減りさせないためには、「利用しない」ことが重要となる。
この点で、「包括的所得概念からは、帰属所得に課税するのが当然。」などという言明、憲法の「財産権の保障」との関係で、かなり危うい主張ではないか(相続税との二重課税も視野に入ってくる)。
・《課税単位》を説明する箇所では、「独身/夫婦(片稼ぎ)/夫婦(共稼ぎ)」を素材として、夫婦の所得を合算するかしないかが論じられている。
が、帰属所得が「所得」だというならば、「片稼ぎ」という概念は存在しえないのではないか。また、帰属所得は本来課税すべきだというならば、帰属所得の存在を無視して課税上の「公平」を論ずることはできないのではないか。
◯
以上、バラバラと述べたことから、次のような見立てをしました。
すなわち、「帰属所得」なる概念は、「持っている人と持っていない人」の格差の是正を、所得課税の中で実現するために生み出された概念にすぎないのではないか。
にもかかわらず、「帰属所得」がなにか自然界に実在しているものであるかのように説明していることから、私のような普通の人間には理解しにくくなっているのではないか。フィクションならフィクションだとして説明してくれないと、勘の悪い私のような人間が、すんなり理解できるはずもない。
【みんな大好きフィクション論】
来栖三郎「法とフィクション」(東京大学出版会1999)
そしてまた、「帰属所得」が実存するかのように主張するのならば、全領域において常にそのとおり振る舞ってほしいわけです。が、実際には、論点ごとに帰属所得を持ち出したり引っ込めたり。ご都合主義って感じで一貫した記述となっていない。
『私、見えないモノが見えるの。』という設定でいきたいのならば、すべての場面でそのとおりやってくれなければ。付き合わされるこちらが大変でしょうよ。
「設定を設定として守る」という基本的なお作法が、周りの理解を得るためには重要、とまとめることができるでしょうか。
◯
なお、以上は、あくまでも《教科書》レベルの記述を素材とするものにとどまり。《学術論文》レベルにまで手を出せば、厳密な論証が展開されていることが分かるのでしょう。
が、学者先生の教科書を《梯子読み》している時点で、税理士としてはかなりの傾奇者であり(旧司法試験でいう《基本書ヴェテ》みたいなポジション)。さらに学術論文まで読めというのは、さすがに及ばない。
posted by ウロ at 12:27| Comment(0)
| 所得税法
2024年09月09日
所得税法における「総論・各論問題」について
先日の記事では、「誰」という観点から、所得控除の規律を整理しました。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
今回は、「なぜ、このような整理をしたか」のバックボーンについてのご説明です。
◯
法学分野では、学術的な区分として、「総論/各論」という分け方がされることがあります。
が、(私程度の人間でも読めるような)一般的な教科書レベルの記述を見ていると、総論として論じられているにもかかわらず、各論のごく一部しか念頭に置かれていないように思えるところがあります。
たとえば、「刑法総論」において、特定の犯罪類型にしか当てはまらない議論をしているとか。
【総論各論問題】
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)
井田良「講義刑法学・各論 第2版」(有斐閣2020)
関俊彦「商法総論総則」(有斐閣2006)
「税法学」においても、その気があって。
◯
たとえば「消費税法」。
総論では「消費者の消費に課税する」といっておきながら。各論では、なんの躊躇もなく「用途区分」「控除対象外消費税」という、消費者の消費以外に税負担が生じる制度について記述がされています。
消費以外に税負担が生じることにつき、何かしらの《言い訳》が展開されるのかと思いきや。控除できないことを当然の前提として、「課のみ」で処理した事案(ムゲンエステート事件、エーディーワークス事件)を『脱税・節税スキーム』呼ばわりしていたりして。
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
虚弱判決(その1) 〜ムゲン・ADW事件判決(最判令和5年3月6日)
虚弱判決(その2) 〜ムゲン・ADW事件判決(最判令和5年3月6日)
やたらと「益税絶許」を強調するくせに、「損税」に対してはダンマリ。
「消費に課税」という、総論における最重要の制度理念が、各論では(損税方向のみ)ガン無視されてしまっているわけです。
◯
こういったノリ、「所得税法」についても同様で。
「誰が所得控除を受けられるか」という問題は、総論でいう《課税単位》の問題に相当します。
というのも、「納税者本人の所得をマイナスするのに、誰の事情まで取り込まれるか」を把握することは、現行所得税法が採用している課税単位の輪郭を理解することにつながるからです。
ところが、総論での《課税単位》の記述は、「独身/夫婦(片稼ぎ)/夫婦(共稼ぎ)」を素材として、夫婦の所得を足すのか足さないのか、に関する《政策論(空中戦)》がメインとなっています。しかもそこでは、夫の所得と妻の所得は、それぞれ個人単位で確定ずみであることが前提となっています。
で、現行所得税法に対する評価としては、基本は個人単位だけど家族単位を考慮している箇所もあるよ、と紹介されて終わってしまいます。
では、各論における「所得控除」に関する記述はどうかというと。ほんのりとしか触れられていません。
このような総論/各論の記述バランスでは、現行所得税法が実際に採用している課税単位につき、あるがままに理解することができないのではないでしょうか。
貧弱な個別規定しか存在しない古の時代ならともかく。すでに充実した個別規定が存在するのであるから、総論から《デカい理論》を降ろしていくのではなく。
個別規定から積み上げていって、現行制度を正確にトレースした理論を作っていくべきではないかと思います。
◯
なお、上記で「片稼ぎ/共稼ぎ」と記述しましたが。あくまでも、一般的な教科書の記述に倣っただけで。
一般的な教科書において、「所得とはなんぞや」に関する箇所では、「包括的所得概念」採用⇒本来であれば帰属所得はすべて課税、という論述を展開しておきながら。課税単位に関する箇所では「片稼ぎ」という用語を用いるの、どう考えても矛盾しているでしょうよ。
帰属所得も当然所得だというならば、「片稼ぎ」という夫婦は概念上存在しえないはずです。
帰属所得実在論者ならば、帰属所得の存在を無視して、課税上「平等」だとか「不平等」だとかを論ずることはできません。無視できるというならば、その所得はもはや《包括的》ではあり得ない。
また、《政策論(空中戦)》の中の記述でもあり。「収入」課税を前提とする現行所得税法の説明だ、という言い訳も通用しないでしょうし。
結局のところ、「帰属所得は本来課税」論者の方々は、決して家事に価値を見出しているのではなく。
単に課税ベースの拡大に都合がいいからそう言っているだけなんだろ、と罵られても文句はいえないのではないでしょうか。
◯
以上、「総論で言ったことを各論でも貫けよ」精神が原動力となっている、というお話しです。
そして、そのバックボーンには、常に『前田手形法理論』があります。
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣 1983)
かといって、私みたいなものが大理論を展開できるはずもなく。
ということで、地道に現行法の規律を整理するだけのことはやっておこう、と思ったわけです。
学者先生には、安易な「原則・例外モデル」に依存することなく。現行法の規律を、あるがままに説明できる理論を開発してくれることを、強く望みます。
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
今回は、「なぜ、このような整理をしたか」のバックボーンについてのご説明です。
◯
法学分野では、学術的な区分として、「総論/各論」という分け方がされることがあります。
が、(私程度の人間でも読めるような)一般的な教科書レベルの記述を見ていると、総論として論じられているにもかかわらず、各論のごく一部しか念頭に置かれていないように思えるところがあります。
たとえば、「刑法総論」において、特定の犯罪類型にしか当てはまらない議論をしているとか。
【総論各論問題】
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)
井田良「講義刑法学・各論 第2版」(有斐閣2020)
関俊彦「商法総論総則」(有斐閣2006)
「税法学」においても、その気があって。
◯
たとえば「消費税法」。
総論では「消費者の消費に課税する」といっておきながら。各論では、なんの躊躇もなく「用途区分」「控除対象外消費税」という、消費者の消費以外に税負担が生じる制度について記述がされています。
消費以外に税負担が生じることにつき、何かしらの《言い訳》が展開されるのかと思いきや。控除できないことを当然の前提として、「課のみ」で処理した事案(ムゲンエステート事件、エーディーワークス事件)を『脱税・節税スキーム』呼ばわりしていたりして。
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
虚弱判決(その1) 〜ムゲン・ADW事件判決(最判令和5年3月6日)
虚弱判決(その2) 〜ムゲン・ADW事件判決(最判令和5年3月6日)
やたらと「益税絶許」を強調するくせに、「損税」に対してはダンマリ。
「消費に課税」という、総論における最重要の制度理念が、各論では(損税方向のみ)ガン無視されてしまっているわけです。
◯
こういったノリ、「所得税法」についても同様で。
「誰が所得控除を受けられるか」という問題は、総論でいう《課税単位》の問題に相当します。
というのも、「納税者本人の所得をマイナスするのに、誰の事情まで取り込まれるか」を把握することは、現行所得税法が採用している課税単位の輪郭を理解することにつながるからです。
ところが、総論での《課税単位》の記述は、「独身/夫婦(片稼ぎ)/夫婦(共稼ぎ)」を素材として、夫婦の所得を足すのか足さないのか、に関する《政策論(空中戦)》がメインとなっています。しかもそこでは、夫の所得と妻の所得は、それぞれ個人単位で確定ずみであることが前提となっています。
で、現行所得税法に対する評価としては、基本は個人単位だけど家族単位を考慮している箇所もあるよ、と紹介されて終わってしまいます。
では、各論における「所得控除」に関する記述はどうかというと。ほんのりとしか触れられていません。
このような総論/各論の記述バランスでは、現行所得税法が実際に採用している課税単位につき、あるがままに理解することができないのではないでしょうか。
貧弱な個別規定しか存在しない古の時代ならともかく。すでに充実した個別規定が存在するのであるから、総論から《デカい理論》を降ろしていくのではなく。
個別規定から積み上げていって、現行制度を正確にトレースした理論を作っていくべきではないかと思います。
◯
なお、上記で「片稼ぎ/共稼ぎ」と記述しましたが。あくまでも、一般的な教科書の記述に倣っただけで。
一般的な教科書において、「所得とはなんぞや」に関する箇所では、「包括的所得概念」採用⇒本来であれば帰属所得はすべて課税、という論述を展開しておきながら。課税単位に関する箇所では「片稼ぎ」という用語を用いるの、どう考えても矛盾しているでしょうよ。
帰属所得も当然所得だというならば、「片稼ぎ」という夫婦は概念上存在しえないはずです。
帰属所得実在論者ならば、帰属所得の存在を無視して、課税上「平等」だとか「不平等」だとかを論ずることはできません。無視できるというならば、その所得はもはや《包括的》ではあり得ない。
また、《政策論(空中戦)》の中の記述でもあり。「収入」課税を前提とする現行所得税法の説明だ、という言い訳も通用しないでしょうし。
結局のところ、「帰属所得は本来課税」論者の方々は、決して家事に価値を見出しているのではなく。
単に課税ベースの拡大に都合がいいからそう言っているだけなんだろ、と罵られても文句はいえないのではないでしょうか。
◯
以上、「総論で言ったことを各論でも貫けよ」精神が原動力となっている、というお話しです。
そして、そのバックボーンには、常に『前田手形法理論』があります。
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣 1983)
かといって、私みたいなものが大理論を展開できるはずもなく。
ということで、地道に現行法の規律を整理するだけのことはやっておこう、と思ったわけです。
学者先生には、安易な「原則・例外モデル」に依存することなく。現行法の規律を、あるがままに説明できる理論を開発してくれることを、強く望みます。
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
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| 所得税法
2024年08月26日
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
前回は、所得控除のうち《支払系》以外のものを取り上げました。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
ということで、今回は《支払系》の所得控除です。
《支払系》の条文では、頭に必ず「居住者が、各年において、」と入っています。これをまるっと省略してしまってもよいのですが、《支払系》においては誰が支払ったかが重要であるため、「各年において、」だけを削除することとします。
◯
第七十三条(医療費控除)
居住者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合
→医療費控除
・本人の医療費
・生計一配偶者の医療費
・生計一親族の医療費
ここは今回の記事で唯一悩みのない箇所です。
余談ですが。
民法でいう親族の中には「配偶者」も含まれています。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
医療費控除では、配偶者と親族とで要件同じなので、みんな大好き《借用概念論》からすれば「自己と生計を一にする親族」とひとつにまとめて記述してしまってもよいはずです。
が、分かりやすさを優先したのか、配偶者とその他の親族という形で、なぜか配偶者を頭出ししています。
親切心からなのだとしたら、『分かりやすさより厳密さ』を重視する税法の中では珍しい例かと。もしかしたら、この前のどこかの条文で「親族(配偶者は除く)」と定義づけされているだけかもしれませんが。
以下、本記事でも、親族と書くときは配偶者を除いて記述します。
第七十四条(社会保険料控除)
居住者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合又は給与から控除される場合
→社会保険料控除
・本人の負担すべき社会保険料
・生計一配偶者の負担すべき社会保険料
・生計一親族の負担すべき社会保険料
ここでは他の《支払系》と違って、「給与から控除される場合」というものが付加されているのですが。
たとえば、夫婦同じ会社に勤めていて、夫の給与から妻の給与も控除した場合、夫は2人分の控除を受けられるのでしょうか。
もちろん、労基法の規律があるので、会社が勝手に控除できません。が、きちんと労使協定で定めたとか、あるいは夫が役員だというのであれば、控除はできますよね。
「控除される」という言い回しに、「あくまでも法律で控除できると規定されているかぎりで」という意味を読み込むことになるのかどうか。
第七十五条(小規模企業共済等掛金控除)
居住者が、小規模企業共済等掛金を支払つた場合
→小規模共済等掛金控除
・誰のでも????
医療費控除、社保控除では「誰の」ということが明記されていました。ところが、ここでは条文上何らの限定がされていません。
そうすると、赤の他人の小規模共済掛金を支払った場合でも、控除ができてしまうのでしょうか。
この点は、所得税法だけを眺めていても答えは出てこなくって。「小規模企業共済法」をみる必要があるのだと思います。
個別に引用はしませんが、同法上、共済に加入できるのは「小規模企業者」のみに限定されています。加入者が限定されている共済契約の性質上、他人が掛金を納付することは想定されていないのだと考えられます。
仮に他人が負担してあげたとしても、それは一旦、加入者に贈与してから加入者が納付した、という形になるのだと。
ということで、結論的には、本人が加入者である契約の掛金のみが所得控除の対象になる、ということになるのでしょう。
この理屈、下記裁決があることを念頭に置きながら記述しています。ので、本心ではいまいちしっくりきていないところです。ですがまあ、実務的にはこの結論でいくことになるかと。
平15.1.28裁決、裁決事例集No.65 268頁
→小規模共済等掛金控除
・本人の小規模企業共済掛金
第七十六条(生命保険料控除) 「旧契約」は省略
1 居住者が、新生命保険契約等に係る保険料若しくは掛金を支払つた場合
2 居住者が、介護医療保険契約等に係る保険料又は掛金を支払つた場合
3 居住者が、新個人年金保険契約等に係る保険料若しくは掛金を支払つた場合
→生命保険料控除
・誰のでも???
ここまでのノリでこの部分だけみると、赤の他人の保険料でも控除できるように読めてしまいます。小規模共済とは違い、法律上加入者が特定されているわけでもないですし。
が、この後ろで限定がかかっています。
5 第一項に規定する新生命保険契約等とは、
これらの新契約又は新規約に基づく保険金等の受取人のすべてをその保険料若しくは掛金の払込みをする者又はその配偶者その他の親族とするもの
7 第二項に規定する介護医療保険契約等とは、
これらの新契約に基づく保険金等の受取人のすべてをその保険料若しくは掛金の払込みをする者又はその配偶者その他の親族とするもの
8 第三項に規定する新個人年金保険契約等とは、
一 当該契約に基づく年金の受取人は、次号の保険料若しくは掛金の払込みをする者又はその配偶者が生存している場合にはこれらの者のいずれかとするものであること
→生命保険料控除(一般、介護)
・受取人が本人
・受取人が配偶者
・受取人が親族
→生命保険料控除(年金)
・受取人が本人
・受取人が配偶者
保険契約者、被保険者が誰かについては問わず。受取人が支払者にとって本人・配偶者・親族(一般、介護)かどうかで判断することになっています。
小規模共済のほうは、条文に明記されていないせいで、共済の性質から限定解釈せざるをえなかったのに対して。生命保険については、条文で契約の内容を限定するというかたちで規律されています。
第七十七条(地震保険料控除)
居住者が、自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有する家屋で常時その居住の用に供するもの又はこれらの者の有する第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する資産を保険又は共済の目的とし、かつ、地震若しくは噴火又はこれらによる津波を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害()によりこれらの資産について生じた損失の額をてん補する保険金又は共済金が支払われる損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金()を支払つた場合
第九条(非課税所得)
九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得
→地震保険料控除
・本人の所有する家屋+居住
・生計一配偶者の所有する家屋+居住
・生計一親族の所有する家屋+居住
・本人の生活用動産
・生計一配偶者の生活用動産
・生計一親族の生活用動産
長くなるので、カッコ内を端折りました。
家屋については所有と居住で縛りがかかっています。
読み方がはっきりしないのが「その居住の用に供する」のところ。
「その」とある以上、本人・生計一配偶者・生計一親族いずれかの居住が必要なのは分かります。が、これをたすき掛けで読むことで、「本人所有+生計一親族居住」というように、所有者と居住者がずれていてもよいのでしょうか。
生計一の縛りがかかっていますし、単身赴任の場合なども想定すれば、結論的には適用対象に入れてもよいのでしょう。
第七十八条(寄附金控除)1項のみ引用
居住者が、特定寄附金を支出した場合
→寄附金控除
誰の名義でも???
寄付金控除も、小規模共済と同じタイプの文言となっています。
本人が支払ったものであれば、誰名義で寄付しても控除可能なのでしょうか。
この点に関して、タックスアンサーに次のものがあります。
妻名義で寄附した場合
Q3 専業主婦である私の妻が、寄附を行い、寄附先から妻名義で寄附金の領収書を受領しました。妻は、収入がないため私の配偶者控除の適用対象となっていますが、妻名義で支払った寄附金について、私の確定申告において寄附金控除の適用を受けることができますか。
A3 寄附金控除は、納税義務者である居住者本人または非居住者本人が各年において、特定寄附金を支出した場合に適用をすることができます。そのため、本人以外が支払った寄附金については、寄附金控除を適用することができません。(所法78)
これ、わざとすっとぼけた書き方をしていて。
「妻名義で支払った」というのが、本人の財布から出したのか妻の財布から出したのか、わざと明記していません。で、勝手に妻の財布から出した前提に決め打ちした上で、本人は寄付金控除を受けられないという結論にもっていっています。
では、本人の財布から出した場合はどうなのか、ですが、この点についてはあえて触れていない。
これについては以下の裁決があります。
平成25年7月30日裁決
裁決の結論は、妻名義であっても本人が支払ったなら控除OKと判断しています。上記タックスアンサーは、この裁決があることを知っていながら、わざとぼかした書き方をしているのかどうか。
がしかし、このような裁決があるとはいえ、結論だけを鵜呑みにするわけにはいきません。
というのも、控除を受けるには、自分が支払ったことを明らかにしなければならないですし(本証・反証いずれかはさておき)、また、小規模共済のように、寄附金の性質上、名義者だけが寄付したことになる、みたいなものがあるかもしれません(ふるさと納税あたりは、ちょっとその気がありそうです)。
そもそも「支払った」というのが、いかなる事実から認定するのかがはっきりしません。上記では「財布」という比喩を使って説明しているものの、支払という行為をした人、お金を負担した人のいずれが「支払った」人に該当するというのでしょうか。
この手の地に足のついた実体要件解釈がきちんと詰められることもなく。一足飛びに課税要件事実論なんて展開しちゃっている、というのが私の租税法学に対する見立て。
【課税要件事実論の展開】
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
酒井克彦「クローズアップ課税要件事実論 第6版」(財経詳報社2023)
ということで、わざわざ他人名義で寄付するなんてことはせず。素直に本人名義で寄付しておくのが無難でしょう。「所得が増えたから、あとから他人名義の寄付をもってきたんだろ。」みたいな邪推を受けても嫌でしょうし。
→寄附金控除
誰の名義でも(?)
ということで、?は数を減らしつつ、注意喚起用に括弧書きで一つだけ残しておきます。
◯
以上、前回の《支払系》以外とは違って、支払うこと自体は誰でもできてしまうところ。そこを各控除ごとにそれぞれのやり方で絞りをかけています。
それが控除の趣旨に適合したものなのか、そこまで深く検討する余裕はないのですが。
他の控除と混同することなく、正確にあてはめをしていきましょう、というのが、税理士としての立場からいうべきことかなあと。
所得税法における「総論・各論問題」について
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
ということで、今回は《支払系》の所得控除です。
《支払系》の条文では、頭に必ず「居住者が、各年において、」と入っています。これをまるっと省略してしまってもよいのですが、《支払系》においては誰が支払ったかが重要であるため、「各年において、」だけを削除することとします。
◯
第七十三条(医療費控除)
居住者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払つた場合
→医療費控除
・本人の医療費
・生計一配偶者の医療費
・生計一親族の医療費
ここは今回の記事で唯一悩みのない箇所です。
余談ですが。
民法でいう親族の中には「配偶者」も含まれています。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
医療費控除では、配偶者と親族とで要件同じなので、みんな大好き《借用概念論》からすれば「自己と生計を一にする親族」とひとつにまとめて記述してしまってもよいはずです。
が、分かりやすさを優先したのか、配偶者とその他の親族という形で、なぜか配偶者を頭出ししています。
親切心からなのだとしたら、『分かりやすさより厳密さ』を重視する税法の中では珍しい例かと。もしかしたら、この前のどこかの条文で「親族(配偶者は除く)」と定義づけされているだけかもしれませんが。
以下、本記事でも、親族と書くときは配偶者を除いて記述します。
第七十四条(社会保険料控除)
居住者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族の負担すべき社会保険料を支払つた場合又は給与から控除される場合
→社会保険料控除
・本人の負担すべき社会保険料
・生計一配偶者の負担すべき社会保険料
・生計一親族の負担すべき社会保険料
ここでは他の《支払系》と違って、「給与から控除される場合」というものが付加されているのですが。
たとえば、夫婦同じ会社に勤めていて、夫の給与から妻の給与も控除した場合、夫は2人分の控除を受けられるのでしょうか。
もちろん、労基法の規律があるので、会社が勝手に控除できません。が、きちんと労使協定で定めたとか、あるいは夫が役員だというのであれば、控除はできますよね。
「控除される」という言い回しに、「あくまでも法律で控除できると規定されているかぎりで」という意味を読み込むことになるのかどうか。
第七十五条(小規模企業共済等掛金控除)
居住者が、小規模企業共済等掛金を支払つた場合
→小規模共済等掛金控除
・誰のでも????
医療費控除、社保控除では「誰の」ということが明記されていました。ところが、ここでは条文上何らの限定がされていません。
そうすると、赤の他人の小規模共済掛金を支払った場合でも、控除ができてしまうのでしょうか。
この点は、所得税法だけを眺めていても答えは出てこなくって。「小規模企業共済法」をみる必要があるのだと思います。
個別に引用はしませんが、同法上、共済に加入できるのは「小規模企業者」のみに限定されています。加入者が限定されている共済契約の性質上、他人が掛金を納付することは想定されていないのだと考えられます。
仮に他人が負担してあげたとしても、それは一旦、加入者に贈与してから加入者が納付した、という形になるのだと。
ということで、結論的には、本人が加入者である契約の掛金のみが所得控除の対象になる、ということになるのでしょう。
この理屈、下記裁決があることを念頭に置きながら記述しています。ので、本心ではいまいちしっくりきていないところです。ですがまあ、実務的にはこの結論でいくことになるかと。
平15.1.28裁決、裁決事例集No.65 268頁
→小規模共済等掛金控除
・本人の小規模企業共済掛金
第七十六条(生命保険料控除) 「旧契約」は省略
1 居住者が、新生命保険契約等に係る保険料若しくは掛金を支払つた場合
2 居住者が、介護医療保険契約等に係る保険料又は掛金を支払つた場合
3 居住者が、新個人年金保険契約等に係る保険料若しくは掛金を支払つた場合
→生命保険料控除
・誰のでも???
ここまでのノリでこの部分だけみると、赤の他人の保険料でも控除できるように読めてしまいます。小規模共済とは違い、法律上加入者が特定されているわけでもないですし。
が、この後ろで限定がかかっています。
5 第一項に規定する新生命保険契約等とは、
これらの新契約又は新規約に基づく保険金等の受取人のすべてをその保険料若しくは掛金の払込みをする者又はその配偶者その他の親族とするもの
7 第二項に規定する介護医療保険契約等とは、
これらの新契約に基づく保険金等の受取人のすべてをその保険料若しくは掛金の払込みをする者又はその配偶者その他の親族とするもの
8 第三項に規定する新個人年金保険契約等とは、
一 当該契約に基づく年金の受取人は、次号の保険料若しくは掛金の払込みをする者又はその配偶者が生存している場合にはこれらの者のいずれかとするものであること
→生命保険料控除(一般、介護)
・受取人が本人
・受取人が配偶者
・受取人が親族
→生命保険料控除(年金)
・受取人が本人
・受取人が配偶者
保険契約者、被保険者が誰かについては問わず。受取人が支払者にとって本人・配偶者・親族(一般、介護)かどうかで判断することになっています。
小規模共済のほうは、条文に明記されていないせいで、共済の性質から限定解釈せざるをえなかったのに対して。生命保険については、条文で契約の内容を限定するというかたちで規律されています。
第七十七条(地震保険料控除)
居住者が、自己若しくは自己と生計を一にする配偶者その他の親族の有する家屋で常時その居住の用に供するもの又はこれらの者の有する第九条第一項第九号(非課税所得)に規定する資産を保険又は共済の目的とし、かつ、地震若しくは噴火又はこれらによる津波を直接又は間接の原因とする火災、損壊、埋没又は流失による損害()によりこれらの資産について生じた損失の額をてん補する保険金又は共済金が支払われる損害保険契約等に係る地震等損害部分の保険料又は掛金()を支払つた場合
第九条(非課税所得)
九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得
→地震保険料控除
・本人の所有する家屋+居住
・生計一配偶者の所有する家屋+居住
・生計一親族の所有する家屋+居住
・本人の生活用動産
・生計一配偶者の生活用動産
・生計一親族の生活用動産
長くなるので、カッコ内を端折りました。
家屋については所有と居住で縛りがかかっています。
読み方がはっきりしないのが「その居住の用に供する」のところ。
「その」とある以上、本人・生計一配偶者・生計一親族いずれかの居住が必要なのは分かります。が、これをたすき掛けで読むことで、「本人所有+生計一親族居住」というように、所有者と居住者がずれていてもよいのでしょうか。
生計一の縛りがかかっていますし、単身赴任の場合なども想定すれば、結論的には適用対象に入れてもよいのでしょう。
第七十八条(寄附金控除)1項のみ引用
居住者が、特定寄附金を支出した場合
→寄附金控除
誰の名義でも???
寄付金控除も、小規模共済と同じタイプの文言となっています。
本人が支払ったものであれば、誰名義で寄付しても控除可能なのでしょうか。
この点に関して、タックスアンサーに次のものがあります。
妻名義で寄附した場合
Q3 専業主婦である私の妻が、寄附を行い、寄附先から妻名義で寄附金の領収書を受領しました。妻は、収入がないため私の配偶者控除の適用対象となっていますが、妻名義で支払った寄附金について、私の確定申告において寄附金控除の適用を受けることができますか。
A3 寄附金控除は、納税義務者である居住者本人または非居住者本人が各年において、特定寄附金を支出した場合に適用をすることができます。そのため、本人以外が支払った寄附金については、寄附金控除を適用することができません。(所法78)
これ、わざとすっとぼけた書き方をしていて。
「妻名義で支払った」というのが、本人の財布から出したのか妻の財布から出したのか、わざと明記していません。で、勝手に妻の財布から出した前提に決め打ちした上で、本人は寄付金控除を受けられないという結論にもっていっています。
では、本人の財布から出した場合はどうなのか、ですが、この点についてはあえて触れていない。
これについては以下の裁決があります。
平成25年7月30日裁決
裁決の結論は、妻名義であっても本人が支払ったなら控除OKと判断しています。上記タックスアンサーは、この裁決があることを知っていながら、わざとぼかした書き方をしているのかどうか。
がしかし、このような裁決があるとはいえ、結論だけを鵜呑みにするわけにはいきません。
というのも、控除を受けるには、自分が支払ったことを明らかにしなければならないですし(本証・反証いずれかはさておき)、また、小規模共済のように、寄附金の性質上、名義者だけが寄付したことになる、みたいなものがあるかもしれません(ふるさと納税あたりは、ちょっとその気がありそうです)。
そもそも「支払った」というのが、いかなる事実から認定するのかがはっきりしません。上記では「財布」という比喩を使って説明しているものの、支払という行為をした人、お金を負担した人のいずれが「支払った」人に該当するというのでしょうか。
この手の地に足のついた実体要件解釈がきちんと詰められることもなく。一足飛びに課税要件事実論なんて展開しちゃっている、というのが私の租税法学に対する見立て。
【課税要件事実論の展開】
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
酒井克彦「クローズアップ課税要件事実論 第6版」(財経詳報社2023)
ということで、わざわざ他人名義で寄付するなんてことはせず。素直に本人名義で寄付しておくのが無難でしょう。「所得が増えたから、あとから他人名義の寄付をもってきたんだろ。」みたいな邪推を受けても嫌でしょうし。
→寄附金控除
誰の名義でも(?)
ということで、?は数を減らしつつ、注意喚起用に括弧書きで一つだけ残しておきます。
◯
以上、前回の《支払系》以外とは違って、支払うこと自体は誰でもできてしまうところ。そこを各控除ごとにそれぞれのやり方で絞りをかけています。
それが控除の趣旨に適合したものなのか、そこまで深く検討する余裕はないのですが。
他の控除と混同することなく、正確にあてはめをしていきましょう、というのが、税理士としての立場からいうべきことかなあと。
所得税法における「総論・各論問題」について
posted by ウロ at 08:54| Comment(0)
| 所得税法
2024年08月19日
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
税理士がこれをイジるには、かなりの季節外れ感がありますが。
誰が所得控除を受けられるかについては、暗記で済ませている方が多いでしょうか。あるいは、実務的には「まあドンマイ」って感じで、あまり厳密に処理していないか。
私が同論点につき整理しておこうと思ったのは、季節外れの《年末調整・確定申告お役立ち記事》を書こうというつもりからではなく。
それなりの意図があってのことですが。ひととおり整理が終わってから、可能であれば軽く触れるつもりです。
ということで、以下では、ひたすら条文引用だけに終始します。
なお、《支払系》の所得控除についてはややこしいところがあるため次回にまわし、今回は《支払系》以外を扱った前座記事となります。
◯
以下の条文引用は、「誰が」や「誰の」といった観点のみから切り取ります。要件全部を網羅したものではありませんのでご注意。
・
第七十二条(雑損控除)
居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産()について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合
→雑損控除
・本人が所有する資産
・本人と生計一の配偶者が所有する資産
・本人と生計一の親族が所有する資産
本人を基準に、同人と生計一の配偶者か親族であればOKとなっています。
ただし、所得要件として「総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が48万円以下」である必要があります。
他の控除と異なり、「同一生計配偶者」「扶養親族」という定義を使っていないのは、所得要件が「合計所得金額」ではないからです(なお、重複の場合の調整規定は省略)。
・
第七十九条(障害者控除)
1 居住者が障害者である場合
2 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が障害者である場合
3 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が特別障害者で、かつ、その居住者又はその居住者の配偶者若しくはその居住者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている者である場合
→障害者控除(障害者、特別障害者)
・本人が(特別)障害者
・同一生計配偶者が(特別)障害者
・扶養親族が(特別)障害者
雑損控除と異なり、「同一生計配偶者」「扶養親族」という用語を使っているため、2条1項33号・34号の定義に従います。
同一生計配偶者:生計一、青色事業専従者等除く、合計所得金額48万円以下
扶養親族:親族+α、青色事業専従者等除く、合計所得金額48万円以下
(「+α」という表現はご容赦ください。民法上の親族以外も含まれます)
雑損控除の場合も同じく所得48万円以下なのに、こちらでは「合計所得金額」を使うことになっています(以降の所得控除も「合計所得金額」です)。
→障害者控除(同居特別障害者)
・同一生計配偶者が特別障害者で、本人or本人と生計一の親族と同居
・扶養親族が特別障害者で、本人or配偶者or本人と生計一の親族と同居
たとえば、「本人・配偶者・親族3人とも生計一だが配偶者・親族が同居で本人別居」という場合に、配偶者が特別障害者であれば配偶者は「同居特別障害者」に該当しうる、ということです。本人と「生計一」の関係である必要はありますが、必ずしも本人と「同居」していなくてもよいことになります。
また、「本人・親族の2人が生計一で配偶者とは生計別、なのに配偶者・親族が同居で本人別居」という場合に、親族が特別障害者であれば親族は「同居特別障害者」に該当しうる、ということになります(実際にそういう家庭があるかどうかは別として)。
「生計一」「同居」が誰と誰との間に要求されるか、「所得要件」が誰に課されているか、という点に気をつけながら条文を読む必要があります。
・
第八十条(寡婦控除)
居住者が寡婦である場合
第八十一条(ひとり親控除)
居住者がひとり親である場合
第八十二条(勤労学生控除)
居住者が勤労学生である場合
→寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除
このあたりは、2条の定義規定をそのままあてはめるだけです。中身は省略します。
・
第八十三条(配偶者控除)
居住者が控除対象配偶者を有する場合
→配偶者控除
これも2条の定義規定どおりです。
控除対象配偶者:同一生計配偶者、本人の合計所得金額1000万円以下
・
第八十三条の二(配偶者特別控除)
居住者が生計を一にする配偶者(第二条第一項第三十三号(定義)に規定する青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が百三十三万円以下であるものに限る。)で控除対象配偶者に該当しないもの(合計所得金額が千万円以下である当該居住者の配偶者に限る。)を有する場合
→配偶者特別控除
2条が出てきますが、ここでは「青色事業専従者等」の定義を使っているだけです。
対象配偶者の要件をそのまま順番に並べると、
・本人と生計一
・青色事業専従者等以外
・配偶者の合計所得金額133万円以下
・控除対象配偶者以外
・本人の合計所得金額1000万円以下
となります。
よくある、配偶者控除と配偶者特別控除が一体となった控除額一覧表を見ると、配偶者控除と地続きのように思えます。が、配偶者特別控除の条文の規定ぶりはなかなかきちゃない。
・
第八十四条(扶養控除)
居住者が控除対象扶養親族を有する場合
→扶養控除
2条の定義規定どおりです。
控除対象扶養親族: 扶養親族(居住者か非居住者かで範囲が異なる)
◯
以上、《支払系》以外ということで抽出しましたが、このうち雑損控除の配偶者・親族の絞り込みが、その他の所得控除と毛並みが異なっています。
雑損控除の場合、災害などの《非日常系》で使われるものであることから、
・青色事業専従者等であってもよい。
・所得要件は繰越控除後の総所得金額等を使う。
と、適用範囲をほんのり広げることとしているのでしょう。
雑損控除自体、非常時にしか使われないし、総所得金額等、合計所得金額といった所得の違いもあまり意識されないし、ということからすると、配偶者・親族の範囲をその他の所得控除と同じだと誤解している人が多いかもしれません。
所得控除の中でも、雑損控除は《非日常系》、それ以外は《日常系》と捉えておくと、違いがあることが理解できるでしょうか。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
誰が所得控除を受けられるかについては、暗記で済ませている方が多いでしょうか。あるいは、実務的には「まあドンマイ」って感じで、あまり厳密に処理していないか。
私が同論点につき整理しておこうと思ったのは、季節外れの《年末調整・確定申告お役立ち記事》を書こうというつもりからではなく。
それなりの意図があってのことですが。ひととおり整理が終わってから、可能であれば軽く触れるつもりです。
ということで、以下では、ひたすら条文引用だけに終始します。
なお、《支払系》の所得控除についてはややこしいところがあるため次回にまわし、今回は《支払系》以外を扱った前座記事となります。
◯
以下の条文引用は、「誰が」や「誰の」といった観点のみから切り取ります。要件全部を網羅したものではありませんのでご注意。
・
第七十二条(雑損控除)
居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産()について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合
→雑損控除
・本人が所有する資産
・本人と生計一の配偶者が所有する資産
・本人と生計一の親族が所有する資産
本人を基準に、同人と生計一の配偶者か親族であればOKとなっています。
ただし、所得要件として「総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が48万円以下」である必要があります。
他の控除と異なり、「同一生計配偶者」「扶養親族」という定義を使っていないのは、所得要件が「合計所得金額」ではないからです(なお、重複の場合の調整規定は省略)。
・
第七十九条(障害者控除)
1 居住者が障害者である場合
2 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が障害者である場合
3 居住者の同一生計配偶者又は扶養親族が特別障害者で、かつ、その居住者又はその居住者の配偶者若しくはその居住者と生計を一にするその他の親族のいずれかとの同居を常況としている者である場合
→障害者控除(障害者、特別障害者)
・本人が(特別)障害者
・同一生計配偶者が(特別)障害者
・扶養親族が(特別)障害者
雑損控除と異なり、「同一生計配偶者」「扶養親族」という用語を使っているため、2条1項33号・34号の定義に従います。
同一生計配偶者:生計一、青色事業専従者等除く、合計所得金額48万円以下
扶養親族:親族+α、青色事業専従者等除く、合計所得金額48万円以下
(「+α」という表現はご容赦ください。民法上の親族以外も含まれます)
雑損控除の場合も同じく所得48万円以下なのに、こちらでは「合計所得金額」を使うことになっています(以降の所得控除も「合計所得金額」です)。
→障害者控除(同居特別障害者)
・同一生計配偶者が特別障害者で、本人or本人と生計一の親族と同居
・扶養親族が特別障害者で、本人or配偶者or本人と生計一の親族と同居
たとえば、「本人・配偶者・親族3人とも生計一だが配偶者・親族が同居で本人別居」という場合に、配偶者が特別障害者であれば配偶者は「同居特別障害者」に該当しうる、ということです。本人と「生計一」の関係である必要はありますが、必ずしも本人と「同居」していなくてもよいことになります。
また、「本人・親族の2人が生計一で配偶者とは生計別、なのに配偶者・親族が同居で本人別居」という場合に、親族が特別障害者であれば親族は「同居特別障害者」に該当しうる、ということになります(実際にそういう家庭があるかどうかは別として)。
「生計一」「同居」が誰と誰との間に要求されるか、「所得要件」が誰に課されているか、という点に気をつけながら条文を読む必要があります。
・
第八十条(寡婦控除)
居住者が寡婦である場合
第八十一条(ひとり親控除)
居住者がひとり親である場合
第八十二条(勤労学生控除)
居住者が勤労学生である場合
→寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除
このあたりは、2条の定義規定をそのままあてはめるだけです。中身は省略します。
・
第八十三条(配偶者控除)
居住者が控除対象配偶者を有する場合
→配偶者控除
これも2条の定義規定どおりです。
控除対象配偶者:同一生計配偶者、本人の合計所得金額1000万円以下
・
第八十三条の二(配偶者特別控除)
居住者が生計を一にする配偶者(第二条第一項第三十三号(定義)に規定する青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が百三十三万円以下であるものに限る。)で控除対象配偶者に該当しないもの(合計所得金額が千万円以下である当該居住者の配偶者に限る。)を有する場合
→配偶者特別控除
2条が出てきますが、ここでは「青色事業専従者等」の定義を使っているだけです。
対象配偶者の要件をそのまま順番に並べると、
・本人と生計一
・青色事業専従者等以外
・配偶者の合計所得金額133万円以下
・控除対象配偶者以外
・本人の合計所得金額1000万円以下
となります。
よくある、配偶者控除と配偶者特別控除が一体となった控除額一覧表を見ると、配偶者控除と地続きのように思えます。が、配偶者特別控除の条文の規定ぶりはなかなかきちゃない。
・
第八十四条(扶養控除)
居住者が控除対象扶養親族を有する場合
→扶養控除
2条の定義規定どおりです。
控除対象扶養親族: 扶養親族(居住者か非居住者かで範囲が異なる)
◯
以上、《支払系》以外ということで抽出しましたが、このうち雑損控除の配偶者・親族の絞り込みが、その他の所得控除と毛並みが異なっています。
雑損控除の場合、災害などの《非日常系》で使われるものであることから、
・青色事業専従者等であってもよい。
・所得要件は繰越控除後の総所得金額等を使う。
と、適用範囲をほんのり広げることとしているのでしょう。
雑損控除自体、非常時にしか使われないし、総所得金額等、合計所得金額といった所得の違いもあまり意識されないし、ということからすると、配偶者・親族の範囲をその他の所得控除と同じだと誤解している人が多いかもしれません。
所得控除の中でも、雑損控除は《非日常系》、それ以外は《日常系》と捉えておくと、違いがあることが理解できるでしょうか。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
posted by ウロ at 09:00| Comment(0)
| 所得税法
2024年08月12日
雑損控除における「資産」について 〜或いは所得税法におけるヒトの活動領域
今回は、雑損控除の対象となる「資産」について検討します。
雑損控除の要件整理 〜助走編
雑損控除における「盗難」「横領」 〜立てよ!借用概念論!
法七十二条
資産(第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び第七十条第三項(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。)
全資産から一定の資産を除外する、という形で規定されています。
結論だけ書き出すと次のとおりですが、これらは条文からどうやって抽出されるでしょうか。
【除外する資産】
・生活に通常必要でない資産
射幸用動産
娯楽用資産
生活用動産(通常必要でない)
生活用動産(通常必要、30万円超高級品)
・被災事業用資産
棚卸資産(事業用)
固定資産(事業用)
繰延資産(事業用)
山林
◯
まず、「生活に通常必要でない資産」について。
法第六十二条(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
生活に通常必要でない資産として政令で定めるもの
令第百七十八条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)
一 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産(前号又は次号に掲げる動産を除く。)
三 生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの
法第九条(非課税所得)
九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得
法第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)
生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のもの
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品
このうち、令178条3号については下記記事で整理ずみです。これに、同記事で省略した射幸用動産(1号)と娯楽用資産(2号)が加わります。
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
【生活に通常必要でない資産】
・射幸用動産 1号
・娯楽用資産 2号
・生活用動産(通常必要でない) 3号
・生活用動産(通常必要、30万円超高級品) 3号
生活用動産が2つあるのは、令25条の柱書の「生活に通常必要な動産のうち」の部分を満たさないものと、通常必要ではあるが各号に該当+30万円超に当たるものの2種類があるからです。
◯
次に「被災事業用資産」について。
法第七十条(純損失の繰越控除)
3 棚卸資産又は第五十一条第一項若しくは第三項に規定する資産
法第二条(定義)
十六 棚卸資産 事業所得を生ずべき事業に係る商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産(有価証券、第四十八条の二第一項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)に規定する暗号資産及び山林を除く。)で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの
令第三条(棚卸資産の範囲)
一 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)
二 半製品
三 仕掛品(半成工事を含む。)
四 主要原材料
五 補助原材料
六 消耗品で貯蔵中のもの
七 前各号に掲げる資産に準ずるもの
法第五十一条(資産損失の必要経費算入)
1 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるもの
3 山林
令第百四十条(固定資産に準ずる資産の範囲)
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に係る繰延資産のうちまだ必要経費に算入されていない部分
これをまとめると、次のとおりとなります。
【被災事業用資産】
・棚卸資産(事業用)
・固定資産(事業用)
・繰延資産(事業用)
・山林
棚卸資産については、定義規定で「事業所得」のみに限定されています。が、通達では勝手に「事業用」に拡張しています。
通70−1(被災事業用資産に含まれるもの)
法第70条第3項に規定する棚卸資産には、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業に係る令第81条第1号《譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産》に掲げる資産が含まれるものとする。
純損失の繰越控除の範囲が広がるという意味では納税者有利ですが、雑損控除を受けられなくなるという意味では納税者不利となります。
こんな勝手な拡張が許されるのか疑問がありますが、さしあたりこの通達に従っておきます。
◯
さて、では「資産」から生活に通常必要でない資産と被災事業用資産を除外すると、何が残るでしょうか。
【雑損控除の対象資産】
・生活に通常必要な資産
・棚卸資産(業務用)
・固定資産(業務用)
・繰延資産(業務用)
生活に通常必要な資産だけでなく「業務用」の資産というものが登場することになります(なお、法令上の言葉遣いからすると、業務の中に事業が含まれている書きぶりとなっていますが、ここでは排他的な用語として使っておきます)。
◯
所得税法は、人間の活動領域というものを次のように区分しているように思われます。
生活系:生存/趣味
仕事系:事業/業務
このうち、生存と事業がそれぞれの典型で、それぞれに相応しい規律が施されています(ということにしておきます)。
他方で、趣味は「贅沢は敵」とばかりに徹底的に課税が強化されている、業務は生存と事業の間にあるものとして中途半端な(ヌエ、キマイラ的な)取り扱いがされている、というのが所得税法の基本姿勢かと思います。
災害による資産損失であっても、趣味のモノは譲渡所得内部での損益通算しか認めない、ということになっています。
業務用については、どういうわけか生存側に寄せて雑損控除の対象としてくれています。所得税法は、業務レベルのお仕事は、日常の延長線上にある「なんちゃってお仕事」としてしか見ていないということでしょうか。
副業・兼業推進の今の時代に適合している見方かは、怪しい気もしますが。
ただ、通達では「必要経費」算入も選択できることとしています。業務のどっちつかずな位置づけからすればごもっともではありますが。
だからといって、通達レベルで勝手に緩めてよいようなものとは思えませんけども。
72−1(事業以外の業務用資産の災害等による損失)
不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務(事業を除く。)の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産(令第81条第1号《譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産》に規定する資産を含み、山林及び生活に通常必要でない資産を除く。)につき災害又は盗難若しくは横領(以下72−7までにおいて「災害等」という。)による損失が生じた場合において、居住者が当該損失の金額及び令第206条第1項各号《雑損控除の対象となる雑損失の範囲》に掲げる支出(資本的支出に該当するものを除く。)の額の全てを当該所得の金額の計算上必要経費に算入しているときは、これを認めるものとする。この場合において、当該損失の金額の必要経費算入については法第51条第4項《資産損失の必要経費算入》の規定に準じて取り扱うものとし、法第72条第1項の規定の適用はないものとする。
(注) この取扱いの適用を受けた資産につき、修繕その他原状回復のため支出した費用の額があるときは、51-3の適用がある。
◯
「事業用/業務用」の区分については、実務においてそれなりの議論の積み重ねがあるものと思われます。
他方で、「生活に通常必要/必要でない」の区分については、いまだに例の訴訟が参照される程度で、いかなる事実からどのように判断すればよいのか、よくわかりません。
サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産
たとえば、今まで建物を別荘として使っていたが、これから賃貸に出そう(自分では一切使わない)と準備しているときに災害で滅失した場合、どの段階まで進んでいれば業務用資産の滅失ということで「雑損控除」が使えるのでしょうか。
どこまでの事実が積み上がっていれば、娯楽用資産から業務用資産に切り替わるのか、という問題です。
例によって、学者先生は判例周りを議論するのが中心で。日常系税務のレベルにまで降りてきてくれることがない。課税要件事実論なんか展開する前に、実体法レベルでやるべきことがまだまだあるだろうと思うのですが。
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
雑損控除の要件整理 〜助走編
雑損控除における「盗難」「横領」 〜立てよ!借用概念論!
法七十二条
資産(第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び第七十条第三項(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。)
全資産から一定の資産を除外する、という形で規定されています。
結論だけ書き出すと次のとおりですが、これらは条文からどうやって抽出されるでしょうか。
【除外する資産】
・生活に通常必要でない資産
射幸用動産
娯楽用資産
生活用動産(通常必要でない)
生活用動産(通常必要、30万円超高級品)
・被災事業用資産
棚卸資産(事業用)
固定資産(事業用)
繰延資産(事業用)
山林
◯
まず、「生活に通常必要でない資産」について。
法第六十二条(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
生活に通常必要でない資産として政令で定めるもの
令第百七十八条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)
一 競走馬(その規模、収益の状況その他の事情に照らし事業と認められるものの用に供されるものを除く。)その他射こう的行為の手段となる動産
二 通常自己及び自己と生計を一にする親族が居住の用に供しない家屋で主として趣味、娯楽又は保養の用に供する目的で所有するものその他主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産(前号又は次号に掲げる動産を除く。)
三 生活の用に供する動産で第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)の規定に該当しないもの
法第九条(非課税所得)
九 自己又はその配偶者その他の親族が生活の用に供する家具、じゆう器、衣服その他の資産で政令で定めるものの譲渡による所得
法第二十五条(譲渡所得について非課税とされる生活用動産の範囲)
生活に通常必要な動産のうち、次に掲げるもの(一個又は一組の価額が三十万円を超えるものに限る。)以外のもの
一 貴石、半貴石、貴金属、真珠及びこれらの製品、べつこう製品、さんご製品、こはく製品、ぞうげ製品並びに七宝製品
二 書画、こつとう及び美術工芸品
このうち、令178条3号については下記記事で整理ずみです。これに、同記事で省略した射幸用動産(1号)と娯楽用資産(2号)が加わります。
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
【生活に通常必要でない資産】
・射幸用動産 1号
・娯楽用資産 2号
・生活用動産(通常必要でない) 3号
・生活用動産(通常必要、30万円超高級品) 3号
生活用動産が2つあるのは、令25条の柱書の「生活に通常必要な動産のうち」の部分を満たさないものと、通常必要ではあるが各号に該当+30万円超に当たるものの2種類があるからです。
◯
次に「被災事業用資産」について。
法第七十条(純損失の繰越控除)
3 棚卸資産又は第五十一条第一項若しくは第三項に規定する資産
法第二条(定義)
十六 棚卸資産 事業所得を生ずべき事業に係る商品、製品、半製品、仕掛品、原材料その他の資産(有価証券、第四十八条の二第一項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)に規定する暗号資産及び山林を除く。)で棚卸しをすべきものとして政令で定めるもの
令第三条(棚卸資産の範囲)
一 商品又は製品(副産物及び作業くずを含む。)
二 半製品
三 仕掛品(半成工事を含む。)
四 主要原材料
五 補助原材料
六 消耗品で貯蔵中のもの
七 前各号に掲げる資産に準ずるもの
法第五十一条(資産損失の必要経費算入)
1 不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるもの
3 山林
令第百四十条(固定資産に準ずる資産の範囲)
不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に係る繰延資産のうちまだ必要経費に算入されていない部分
これをまとめると、次のとおりとなります。
【被災事業用資産】
・棚卸資産(事業用)
・固定資産(事業用)
・繰延資産(事業用)
・山林
棚卸資産については、定義規定で「事業所得」のみに限定されています。が、通達では勝手に「事業用」に拡張しています。
通70−1(被災事業用資産に含まれるもの)
法第70条第3項に規定する棚卸資産には、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業に係る令第81条第1号《譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産》に掲げる資産が含まれるものとする。
純損失の繰越控除の範囲が広がるという意味では納税者有利ですが、雑損控除を受けられなくなるという意味では納税者不利となります。
こんな勝手な拡張が許されるのか疑問がありますが、さしあたりこの通達に従っておきます。
◯
さて、では「資産」から生活に通常必要でない資産と被災事業用資産を除外すると、何が残るでしょうか。
【雑損控除の対象資産】
・生活に通常必要な資産
・棚卸資産(業務用)
・固定資産(業務用)
・繰延資産(業務用)
生活に通常必要な資産だけでなく「業務用」の資産というものが登場することになります(なお、法令上の言葉遣いからすると、業務の中に事業が含まれている書きぶりとなっていますが、ここでは排他的な用語として使っておきます)。
◯
所得税法は、人間の活動領域というものを次のように区分しているように思われます。
生活系:生存/趣味
仕事系:事業/業務
このうち、生存と事業がそれぞれの典型で、それぞれに相応しい規律が施されています(ということにしておきます)。
他方で、趣味は「贅沢は敵」とばかりに徹底的に課税が強化されている、業務は生存と事業の間にあるものとして中途半端な(ヌエ、キマイラ的な)取り扱いがされている、というのが所得税法の基本姿勢かと思います。
災害による資産損失であっても、趣味のモノは譲渡所得内部での損益通算しか認めない、ということになっています。
業務用については、どういうわけか生存側に寄せて雑損控除の対象としてくれています。所得税法は、業務レベルのお仕事は、日常の延長線上にある「なんちゃってお仕事」としてしか見ていないということでしょうか。
副業・兼業推進の今の時代に適合している見方かは、怪しい気もしますが。
ただ、通達では「必要経費」算入も選択できることとしています。業務のどっちつかずな位置づけからすればごもっともではありますが。
だからといって、通達レベルで勝手に緩めてよいようなものとは思えませんけども。
72−1(事業以外の業務用資産の災害等による損失)
不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務(事業を除く。)の用に供され又はこれらの所得の基因となる資産(令第81条第1号《譲渡所得の基因とされない棚卸資産に準ずる資産》に規定する資産を含み、山林及び生活に通常必要でない資産を除く。)につき災害又は盗難若しくは横領(以下72−7までにおいて「災害等」という。)による損失が生じた場合において、居住者が当該損失の金額及び令第206条第1項各号《雑損控除の対象となる雑損失の範囲》に掲げる支出(資本的支出に該当するものを除く。)の額の全てを当該所得の金額の計算上必要経費に算入しているときは、これを認めるものとする。この場合において、当該損失の金額の必要経費算入については法第51条第4項《資産損失の必要経費算入》の規定に準じて取り扱うものとし、法第72条第1項の規定の適用はないものとする。
(注) この取扱いの適用を受けた資産につき、修繕その他原状回復のため支出した費用の額があるときは、51-3の適用がある。
◯
「事業用/業務用」の区分については、実務においてそれなりの議論の積み重ねがあるものと思われます。
他方で、「生活に通常必要/必要でない」の区分については、いまだに例の訴訟が参照される程度で、いかなる事実からどのように判断すればよいのか、よくわかりません。
サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産
たとえば、今まで建物を別荘として使っていたが、これから賃貸に出そう(自分では一切使わない)と準備しているときに災害で滅失した場合、どの段階まで進んでいれば業務用資産の滅失ということで「雑損控除」が使えるのでしょうか。
どこまでの事実が積み上がっていれば、娯楽用資産から業務用資産に切り替わるのか、という問題です。
例によって、学者先生は判例周りを議論するのが中心で。日常系税務のレベルにまで降りてきてくれることがない。課税要件事実論なんか展開する前に、実体法レベルでやるべきことがまだまだあるだろうと思うのですが。
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
posted by ウロ at 12:48| Comment(0)
| 所得税法
2024年08月05日
雑損控除における「盗難」「横領」 〜立てよ!借用概念論!
今回は、雑損控除の適用が受けられる「事由」について。
雑損控除の要件整理 〜助走編
法七十二条(雑損控除)
1 災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合
このうち、「災害」については、法令から通達に至るまで異様に詳細な内容充填規定が整備されていますので、ここでは触れません。
当記事で検討したいのが「盗難」と「横領」です。
◯
上記の通り「災害」のほうはやたらと詳しく規定されているのに、「盗難」「横領」については、何の定めもありません。ワンフレーズに収まっているというのに、一方は「有りすぎて困る」、もう一方は「無さすぎて困る」状態と極端すぎる。
「刑法」っぽい物言いなので、みんな大好き《借用概念論》で一発解決できるはず。と思いきや、刑法には「横領」はあるものの「盗難」という言葉はでてきません。
「横領」は刑法からお借りしてきている借用概念だが、「盗難」は税法独自の固有概念だとでもいうのでしょうか。
この点、『図解 所得税』には、以下の定義が書かれていました(なお、書名に「法」がないのは、基本通達などと同様、敢えてなんですかね)。
田仲正之「図解 所得税 令和5年版」(大蔵財務協会2023) Amazon
盗難 自己の意思に反して財物を窃取又は強取されたことによる損失
横領 自己の財物を占有する第三者によってその財物を不正に領得されたことによる損失
なのですが、法令の条数なり通達の番号が書かれていません。
『図解シリーズ』において、著者個人の見解が示されることなんて、まずないはずです。「はしがき」では、文中の意見は「個人的見解」などと断っていますけども。
とすると、おそらくどなたか国税OBあたりの書いた文章に出てくる言い回しではないかと邪推されます。が、今のところ発見には至っていません。
◯
この定義を鵜呑みにするならば、刑法との対応関係は次のとおりとなります。
盗難 = 窃盗(235)、強盗(236)
横領 = 単純横領(252)、業務上横領(253)
本当に、このような理解でよいのでしょうか。
そこで以下、刑法の条文を眺めてみましょう(以下、条数のみで「刑法」は省略します)。
第二百三十五条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百三十六条(強盗)
1 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
これら2つが「盗難」に該当するということのようです(なお、「2項犯罪」により雑損控除の対象となる資産損失が生じるか、という問題もありますが、この点は省略します)。
第二百三十五条の二(不動産侵奪)
他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する。
「不動産」も雑損控除の対象資産となるはずですが、「侵奪」による損失は対象外となってしまうのでしょうか。
第二百四十二条(他人の占有等に係る自己の財物)
自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。
本条の理解に関連して、「占有説」と「本権説」の対立があって。所得税法72条にいう「有する資産」についても同様の議論がありうるはずですが。
おそらく、所得税法の側では「有する=所有権」を想定しているものと思われますので、本記事でもその理解にしたがっておきます。
それはさておき。所得税法72条では「盗難による」損失と書かれており。「盗難されたことによる」損失とは書かれていません。
所得税法法七十二条(雑損控除)
居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産()について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合
何が言いたいかというと。
たとえば、「AがBに盗まれた物をBから取り返したら、そのせいで後日、物が壊れてしまった」場合に、Aは「盗難による」損失があったとして、雑損控除の適用が受けられるのでしょうか。
「盗難による」
・盗難されたことによる(被害者側)
・盗難したことによる(加害者側)
『図解』の定義では、「窃取又は強取されたことによる」と言い換えがされており。が、この例のAは、自分が窃取したことによって壊れたのであって、Bに窃取されたことによって壊れたのではありません。
通常は、盗まれて戻ってこないことをもって「損失」と想定しているはずで。『図解』の言い換えもそのような理解を前提としているのでしょう。
が、盗難されて壊れたとか、盗難して壊れた、という場合も当然ありうるわけで。そのような場合も、雑損控除の適用ありとしてよいのかどうか。
第二百四十三条(未遂罪)
第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。
「未遂」に終わったが、その過程でモノが壊れた場合はどうでしょうか。
◯
色々疑問を留保しつつ、ここで「横領」のほうへいきます。
第二百五十二条(横領)
1 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
第二百五十三条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
これらは当然に「横領」に該当すると。
252条2項につき、「自分の物を横領したら壊れた」という場合に雑損控除の適用があるか、ということが、盗難の場合と同様に問題となります(こちらも『図解』の定義では除外されている)。
第二百四十七条(背任)
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
「横領と背任」という古典的な論点があって。
どちらが成立するか微妙な事案もあるわけですが、「背任」の場合は対象外になるということでよいのでしょうか。
第二百五十四条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
遺失物横領も「横領」である以上、雑損控除の適用があるはずです。ところが、『図解』の定義によると、「占有する第三者によって」とあるので、誰も占有していない場合は所得税法上の「横領」に該当しないことになります。
刑法の文言に反して、勝手に範囲を狭めてもよいのでしょうか。《借用概念論》の支持者の方々はキレ散らかすところですよ、ここ。
まあ、現実には「知らんうちに無くした」で終わってしまうから、雑損控除で遺失物横領が問題となることなんて、ほぼないのかもしれませんが。
◯
「盗難」と「横領」しか対象としていないことから、こぼれ落ちる犯罪類型があります。
第二百四十六条(詐欺)
1 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
第二百四十九条(恐喝)
1 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
奪取罪(窃盗、強盗)と区別された騙取罪(詐欺、恐喝)の類型です。
詐欺は窃盗と、恐喝は強盗と、それぞれ区別が問題となるわけです。が、騙取のほうは雑損控除の対象外なんだと。
教科書的な説明では「財産移転が任意かどうか」で区別されると言われています。が、現実にはそんな簡単に区別できるものではないはずです。
遥か彼方の記憶では、「木箱の中に魚が入っているのに、入っていないと嘘をついて木箱をもらったら窃盗?詐欺?」みたいな議論があった気がするのですが。当時は法定刑が同じだったので、通説的には、1項犯罪のかぎりではどっちでもいいんじゃん、みたいなノリだったような。
鈴木 左斗志「詐欺罪における「交付」について ー 「財産犯の保護法益論」に関する一考察」
当然のことながら、当時は、まさか所得税法の中で、窃盗か詐欺かで扱いが異なるものがあるなんてこと、およそ知りもしませんでした。
刑法学の側で、所得税法のことなんて意識して議論しているわけでもないのに、そこでの帰結をそのまま税法側にお借りしてくることの不合理性が、ここにあります。
第二百六十一条(器物損壊等)
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
盗まれたのではなく壊された場合は、雑損控除の対象外です(ので、上記「取り返したら壊れた」事例も、場面が限定されることになります)。
刑法学上は、壊されたら被害回復がでかいのになぜ法定刑が軽いのか、という議論があって。一般予防の観点から、禁圧する必要性が「領得罪」ほど高くないからだとかなんとか。
たとえ刑法学上はそうだとしても。財産減を所得に反映させようという所得税法の観点からすれば、領得罪(のうち盗取罪と横領罪)か毀棄罪かで区別して扱う必要は全くないと思います。
◯
そもそも、刑法学上、どの犯罪類型が成立するかについては一大論点を形成しているのであって。
【財産犯類型の区別だけで一冊モノ】
高橋則夫ほか「財産犯バトルロイヤル」(日本評論社2017) Amazon
たかだか所得税法ごときが、「盗難」と「横領」に限定して雑損控除を適用しようなんて、生意気にも程がある。
その切り分けが「所得マイナス」にとって何か違いがあればよいのですが。特になんの根拠もないでしょう。
「騙取(詐欺・恐喝)」の場合は、自分で任意に渡しているから救済する必要はないとでもいうのでしょうか。その物言いに従うにしても、「横領」だって自分が信じて渡した(のに裏切られた)わけで、騙取となにが違うのでしょうか。
◯
また、ここまで「実体法」レベルでの議論を想定して記述してきましたが。納税者が、自分の受けた被害が窃盗や横領によるものであって詐欺によるものではない、などと判断することができるのでしょうか。
刑事裁判で罪名が確定するまで大人しく待ってろということなのか。が、検察官にしたって、公判が維持しやすい罪名を選択するのであって、頑張って、被害者が雑損控除を受けられる罪名を選んで起訴してくれるわけではないでしょう。
例によって《借用概念論》が無力すぎる。刑法上の概念をそのままお借りしてくれば法的安定性・明確性・予測可能性が確保できるはずだったんじゃないんですか。
◯
以上、「大昔に勉強した『刑法各論』の知識で書いています。」レベルの記述にすぎません。
ちょうど山口厚先生の『各論』が新しくなることですし、最近の議論をフォローしておきたいところです。
山口厚「刑法各論 第3版」(有斐閣2024) Amazon
が、同書は「14年ぶりの大改訂!」とぶち上げていながら700頁→716頁の微増にとどまるようで。どこまで最新の議論をカバーしているのか、不安がないわけではない。
雑損控除における「資産」について 〜或いは所得税法におけるヒトの活動領域
雑損控除の要件整理 〜助走編
法七十二条(雑損控除)
1 災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合
このうち、「災害」については、法令から通達に至るまで異様に詳細な内容充填規定が整備されていますので、ここでは触れません。
当記事で検討したいのが「盗難」と「横領」です。
◯
上記の通り「災害」のほうはやたらと詳しく規定されているのに、「盗難」「横領」については、何の定めもありません。ワンフレーズに収まっているというのに、一方は「有りすぎて困る」、もう一方は「無さすぎて困る」状態と極端すぎる。
「刑法」っぽい物言いなので、みんな大好き《借用概念論》で一発解決できるはず。と思いきや、刑法には「横領」はあるものの「盗難」という言葉はでてきません。
「横領」は刑法からお借りしてきている借用概念だが、「盗難」は税法独自の固有概念だとでもいうのでしょうか。
この点、『図解 所得税』には、以下の定義が書かれていました(なお、書名に「法」がないのは、基本通達などと同様、敢えてなんですかね)。
田仲正之「図解 所得税 令和5年版」(大蔵財務協会2023) Amazon
盗難 自己の意思に反して財物を窃取又は強取されたことによる損失
横領 自己の財物を占有する第三者によってその財物を不正に領得されたことによる損失
なのですが、法令の条数なり通達の番号が書かれていません。
『図解シリーズ』において、著者個人の見解が示されることなんて、まずないはずです。「はしがき」では、文中の意見は「個人的見解」などと断っていますけども。
とすると、おそらくどなたか国税OBあたりの書いた文章に出てくる言い回しではないかと邪推されます。が、今のところ発見には至っていません。
◯
この定義を鵜呑みにするならば、刑法との対応関係は次のとおりとなります。
盗難 = 窃盗(235)、強盗(236)
横領 = 単純横領(252)、業務上横領(253)
本当に、このような理解でよいのでしょうか。
そこで以下、刑法の条文を眺めてみましょう(以下、条数のみで「刑法」は省略します)。
第二百三十五条(窃盗)
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第二百三十六条(強盗)
1 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
これら2つが「盗難」に該当するということのようです(なお、「2項犯罪」により雑損控除の対象となる資産損失が生じるか、という問題もありますが、この点は省略します)。
第二百三十五条の二(不動産侵奪)
他人の不動産を侵奪した者は、十年以下の懲役に処する。
「不動産」も雑損控除の対象資産となるはずですが、「侵奪」による損失は対象外となってしまうのでしょうか。
第二百四十二条(他人の占有等に係る自己の財物)
自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。
本条の理解に関連して、「占有説」と「本権説」の対立があって。所得税法72条にいう「有する資産」についても同様の議論がありうるはずですが。
おそらく、所得税法の側では「有する=所有権」を想定しているものと思われますので、本記事でもその理解にしたがっておきます。
それはさておき。所得税法72条では「盗難による」損失と書かれており。「盗難されたことによる」損失とは書かれていません。
所得税法法七十二条(雑損控除)
居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるものの有する資産()について災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合
何が言いたいかというと。
たとえば、「AがBに盗まれた物をBから取り返したら、そのせいで後日、物が壊れてしまった」場合に、Aは「盗難による」損失があったとして、雑損控除の適用が受けられるのでしょうか。
「盗難による」
・盗難されたことによる(被害者側)
・盗難したことによる(加害者側)
『図解』の定義では、「窃取又は強取されたことによる」と言い換えがされており。が、この例のAは、自分が窃取したことによって壊れたのであって、Bに窃取されたことによって壊れたのではありません。
通常は、盗まれて戻ってこないことをもって「損失」と想定しているはずで。『図解』の言い換えもそのような理解を前提としているのでしょう。
が、盗難されて壊れたとか、盗難して壊れた、という場合も当然ありうるわけで。そのような場合も、雑損控除の適用ありとしてよいのかどうか。
第二百四十三条(未遂罪)
第二百三十五条から第二百三十六条まで、第二百三十八条から第二百四十条まで及び第二百四十一条第三項の罪の未遂は、罰する。
「未遂」に終わったが、その過程でモノが壊れた場合はどうでしょうか。
◯
色々疑問を留保しつつ、ここで「横領」のほうへいきます。
第二百五十二条(横領)
1 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
2 自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
第二百五十三条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
これらは当然に「横領」に該当すると。
252条2項につき、「自分の物を横領したら壊れた」という場合に雑損控除の適用があるか、ということが、盗難の場合と同様に問題となります(こちらも『図解』の定義では除外されている)。
第二百四十七条(背任)
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
「横領と背任」という古典的な論点があって。
どちらが成立するか微妙な事案もあるわけですが、「背任」の場合は対象外になるということでよいのでしょうか。
第二百五十四条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
遺失物横領も「横領」である以上、雑損控除の適用があるはずです。ところが、『図解』の定義によると、「占有する第三者によって」とあるので、誰も占有していない場合は所得税法上の「横領」に該当しないことになります。
刑法の文言に反して、勝手に範囲を狭めてもよいのでしょうか。《借用概念論》の支持者の方々はキレ散らかすところですよ、ここ。
まあ、現実には「知らんうちに無くした」で終わってしまうから、雑損控除で遺失物横領が問題となることなんて、ほぼないのかもしれませんが。
◯
「盗難」と「横領」しか対象としていないことから、こぼれ落ちる犯罪類型があります。
第二百四十六条(詐欺)
1 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
第二百四十九条(恐喝)
1 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
奪取罪(窃盗、強盗)と区別された騙取罪(詐欺、恐喝)の類型です。
詐欺は窃盗と、恐喝は強盗と、それぞれ区別が問題となるわけです。が、騙取のほうは雑損控除の対象外なんだと。
教科書的な説明では「財産移転が任意かどうか」で区別されると言われています。が、現実にはそんな簡単に区別できるものではないはずです。
遥か彼方の記憶では、「木箱の中に魚が入っているのに、入っていないと嘘をついて木箱をもらったら窃盗?詐欺?」みたいな議論があった気がするのですが。当時は法定刑が同じだったので、通説的には、1項犯罪のかぎりではどっちでもいいんじゃん、みたいなノリだったような。
鈴木 左斗志「詐欺罪における「交付」について ー 「財産犯の保護法益論」に関する一考察」
当然のことながら、当時は、まさか所得税法の中で、窃盗か詐欺かで扱いが異なるものがあるなんてこと、およそ知りもしませんでした。
刑法学の側で、所得税法のことなんて意識して議論しているわけでもないのに、そこでの帰結をそのまま税法側にお借りしてくることの不合理性が、ここにあります。
第二百六十一条(器物損壊等)
前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
盗まれたのではなく壊された場合は、雑損控除の対象外です(ので、上記「取り返したら壊れた」事例も、場面が限定されることになります)。
刑法学上は、壊されたら被害回復がでかいのになぜ法定刑が軽いのか、という議論があって。一般予防の観点から、禁圧する必要性が「領得罪」ほど高くないからだとかなんとか。
たとえ刑法学上はそうだとしても。財産減を所得に反映させようという所得税法の観点からすれば、領得罪(のうち盗取罪と横領罪)か毀棄罪かで区別して扱う必要は全くないと思います。
◯
そもそも、刑法学上、どの犯罪類型が成立するかについては一大論点を形成しているのであって。
【財産犯類型の区別だけで一冊モノ】
高橋則夫ほか「財産犯バトルロイヤル」(日本評論社2017) Amazon
たかだか所得税法ごときが、「盗難」と「横領」に限定して雑損控除を適用しようなんて、生意気にも程がある。
その切り分けが「所得マイナス」にとって何か違いがあればよいのですが。特になんの根拠もないでしょう。
「騙取(詐欺・恐喝)」の場合は、自分で任意に渡しているから救済する必要はないとでもいうのでしょうか。その物言いに従うにしても、「横領」だって自分が信じて渡した(のに裏切られた)わけで、騙取となにが違うのでしょうか。
◯
また、ここまで「実体法」レベルでの議論を想定して記述してきましたが。納税者が、自分の受けた被害が窃盗や横領によるものであって詐欺によるものではない、などと判断することができるのでしょうか。
刑事裁判で罪名が確定するまで大人しく待ってろということなのか。が、検察官にしたって、公判が維持しやすい罪名を選択するのであって、頑張って、被害者が雑損控除を受けられる罪名を選んで起訴してくれるわけではないでしょう。
例によって《借用概念論》が無力すぎる。刑法上の概念をそのままお借りしてくれば法的安定性・明確性・予測可能性が確保できるはずだったんじゃないんですか。
◯
以上、「大昔に勉強した『刑法各論』の知識で書いています。」レベルの記述にすぎません。
ちょうど山口厚先生の『各論』が新しくなることですし、最近の議論をフォローしておきたいところです。
山口厚「刑法各論 第3版」(有斐閣2024) Amazon
が、同書は「14年ぶりの大改訂!」とぶち上げていながら700頁→716頁の微増にとどまるようで。どこまで最新の議論をカバーしているのか、不安がないわけではない。
雑損控除における「資産」について 〜或いは所得税法におけるヒトの活動領域
posted by ウロ at 09:00| Comment(0)
| 所得税法
2024年07月29日
雑損控除の要件整理 〜助走編
所得控除グループの中で、突出して《非日常系》なせいで、あまり理解がされていない(自戒込)可哀想な「雑損控除」。
「資産損失」絡みということで、事業所得など個別の所得類型における損失の扱いとの関係も気にしなければならないところですし。
ということで、雑損控除の要件について、条文(所得税法72条)ベースで整理しておきます。以下、入口である要件の整理までで、控除額の計算には触れません。
◯誰の資産が対象か?(ヒト)
居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるもの
・居住者
・生計一配偶者(総所得金額等48万円以下)
・生計一親族(総所得金額等48万円以下)
本人の資産だけでなく、配偶者・親族の資産も対象となります。
所得要件はおなじみ「合計所得金額」ではなく「総所得金額等」となっています。
「政令」には、所得要件とどの居住者につけるかのルールが書かれています。
◯どのような資産が対象か?(モノ)
資産(第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び第七十条第三項(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。)
「全ての資産から一定の資産を除外する」という書き方で対象資産を絞り込んでいます。
対象資産を漏れなくカバーしたいということかもしれませんが、裏から規定するのは、理解を妨げる大きな要因。
下記記事のとおり、国税庁が分かりやすさを重視して、条文を勝手にひっくり返して類型化する、という所作がしばしば観測されているところですが。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
雑損控除については、なぜか条文どおりの慎重な書きぶりとなっています。
No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
・
仕方がないので、除外資産を抽出すると次のとおり。
【除外する資産】
・生活に通常必要でない資産
・棚卸資産(事業用)
・固定資産(事業用)
・繰延資産(事業用)
・山林
巷の《税務お役立ち記事》でも、タックスアンサーに右ならえで同様の書きぶりであるものがほとんど。が、中には勇気を出して『対象資産は「生活に通常必要な資産」です。』と記述しているものも見かけました。
が、これではきちんとひっくり返せていません。
これを理解するには、所得税法全体における「資産」の分類を把握しなければなりません。ので、この点については次回検討することとします。
◯どのような事由が対象か?(コト)
災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)
・災害
・盗難
・横領
そして、これらによる損失額及び関連支出が対象になるとされています。
◯
以上、条文上の要件を軽く交通整理しただけのものとなります。
このうち、政令や通達でびっちり詳細が詰められているものについては省略して。2点ほど理解しにくいところを次回以降で検討します。
雑損控除における「盗難」「横領」 〜立てよ!借用概念論!
雑損控除における「資産」について 〜或いは所得税法におけるヒトの活動領域
「資産損失」絡みということで、事業所得など個別の所得類型における損失の扱いとの関係も気にしなければならないところですし。
ということで、雑損控除の要件について、条文(所得税法72条)ベースで整理しておきます。以下、入口である要件の整理までで、控除額の計算には触れません。
◯誰の資産が対象か?(ヒト)
居住者又はその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令で定めるもの
・居住者
・生計一配偶者(総所得金額等48万円以下)
・生計一親族(総所得金額等48万円以下)
本人の資産だけでなく、配偶者・親族の資産も対象となります。
所得要件はおなじみ「合計所得金額」ではなく「総所得金額等」となっています。
「政令」には、所得要件とどの居住者につけるかのルールが書かれています。
◯どのような資産が対象か?(モノ)
資産(第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)及び第七十条第三項(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。)
「全ての資産から一定の資産を除外する」という書き方で対象資産を絞り込んでいます。
対象資産を漏れなくカバーしたいということかもしれませんが、裏から規定するのは、理解を妨げる大きな要因。
下記記事のとおり、国税庁が分かりやすさを重視して、条文を勝手にひっくり返して類型化する、という所作がしばしば観測されているところですが。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
雑損控除については、なぜか条文どおりの慎重な書きぶりとなっています。
No.1110 災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)
・
仕方がないので、除外資産を抽出すると次のとおり。
【除外する資産】
・生活に通常必要でない資産
・棚卸資産(事業用)
・固定資産(事業用)
・繰延資産(事業用)
・山林
巷の《税務お役立ち記事》でも、タックスアンサーに右ならえで同様の書きぶりであるものがほとんど。が、中には勇気を出して『対象資産は「生活に通常必要な資産」です。』と記述しているものも見かけました。
が、これではきちんとひっくり返せていません。
これを理解するには、所得税法全体における「資産」の分類を把握しなければなりません。ので、この点については次回検討することとします。
◯どのような事由が対象か?(コト)
災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合(その災害又は盗難若しくは横領に関連してその居住者が政令で定めるやむを得ない支出をした場合を含む。)
・災害
・盗難
・横領
そして、これらによる損失額及び関連支出が対象になるとされています。
◯
以上、条文上の要件を軽く交通整理しただけのものとなります。
このうち、政令や通達でびっちり詳細が詰められているものについては省略して。2点ほど理解しにくいところを次回以降で検討します。
雑損控除における「盗難」「横領」 〜立てよ!借用概念論!
雑損控除における「資産」について 〜或いは所得税法におけるヒトの活動領域
posted by ウロ at 09:46| Comment(0)
| 所得税法