《雰囲気》という表現が不穏当だというならば、《社会通念》と言い換えてもよいです。
◯
前回の記事では、『会社と役員の契約関係は「委任」である』という契約カテゴリをゴリ押しすると、所得税法上どうなるか、というお話しを展開しました(私法従属アプローチ)。
役員に対する通勤手当は「給与」か。 〜所得税法と民法の交錯
結果、役員の通勤手当には非課税限度額が適用されないなど、現行の課税実務の扱いとは異なる帰結となってしまいました。
もちろん、こんなものを裁判で争ったところで「100%納税者敗訴」となるに決まっています。とはいえ、裁判所がどんな「理屈」で現行の扱いを正当化するのかは興味があるところ。
ので、どなたかお暇な役員の方は、非課税限度額を超えた額を給与所得に含めて確定申告したうえで更正の請求をする、というルートで最後まで暴れまわってください。
前回の記事の裏テーマとして。
借用概念論では散々と「私法と同じに解せば法的安定性が確保できる」などと私法従属のメリットをアピールするくせに、それ以外の場面では私法従属にあまり興味を持たないという、《論点縦割り思考》を暗に揶揄する記事でもありました。
「会社・役員間の契約関係は委任」という私法のルールを、なぜガン無視するのかよと。
そう解さざるをえない事情があるわけですが、その前に「撒き餌」を。
◯
まず、給与所得該当性に関する、お馴染み最高裁の規範。
最高裁昭和56年4月24日判決(弁護士顧問料事件)
「すなわち、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、これに対し、給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかか重視されなければならない。」
そして、司法改革に巻き込まれて翻弄されまくった、「司法修習生」に対する支給について。
ア 給費制 →給与所得
イ 貸与制 →対象外
ウ 給付制 →雑所得
最高裁と司法修習生の法的関係、どう捉えるかは議論の余地があるとはいえ。少なくとも、アイウで支給制度が変わるごとに何かが変わったなどということはないはずです。
のに、特にア・ウの「むかし給与所得、いま雑所得」に変遷したところなど、まるで意味不明です。
アの給費、上記最高裁(司法)の規範をどう当てはめれば「給与所得」になるのか。
司法修習生が、最高裁(行政)の「言いなり」にならざるをえないのが現実だとして、そのことをもって指揮命令や空間的・時間的拘束があるとはいえるものの。言い成りが労務の提供に該当し、その対価として給費をもらっている、などという関係にはないでしょう。
上記規範は、事業所得との区別をするときにしか使えない、射程の極めて狭い規範なんでしょうか。
仮にそのような対価関係があるのだとして。
ではなぜ今は「雑所得」になってしまったのか、ということの説明が不能です。正しくは「雑所得」だったので修正してほしかったのだが、残念ながら貸与制が挟まっているうちに時効にかかってしまいました、とでもいうことか(あるいは信義則的な考慮)。
司法修習生を引き合いに出してしまって申し訳ないとは思いつつ。「給与所得に該当するかどうかを雰囲気で決めている」の代表例として、あまりにも適切すぎたので、ここに挙げさせていただきました。
◯
で、本論の会社役員。
会社法上、はっきりと「委任」だと書いてあるわけです。
会社法 第三百三十条(株式会社と役員等との関係)
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
にもかかわらず、当然のように役員報酬は「給与所得」として扱われています。会社役員についても、最高裁の規範からどうやって給与所得にもっていけるのかが不明です。
では、なぜ従業員給与と同じ給与所得扱いされているのか。これは所得分類において「役員報酬」の置き場がないからだと思われます。
もちろん、どの所得分類にも当てはまらなければ「雑所得」として扱われます(バスケット・カテゴリー)。ここでいう「置き場がない」というのは、どこにも当てはまらないという意味ではなく。役員報酬に「ちょうどいい」カテゴリがない、という意味です。
そもそも会社役員といっても、「雇われ社長」のような従属性ありまくりの人から、「ワンマン社長」のような独立性ありまくりの人までいるわけです。これを一律にどこか特定の所得分類に押し込めるの、無理があるはずです。
のに、課税実務では、一律に給与所得扱いされているところ。で、特に異論もなさそうです。
これはなぜか。控除面については「給与所得控除」が適切だと考えられているからなのでしょう。必要経費控除はふさわしくないんだと。
ここから分かる、所得分類の判定について重要視されていること。
上記最高裁判決のごとく、指揮命令云々ということではなく。結局のところ、「どのような控除がふさわしいか」という点なのではないでしょうか。弁護士顧問料事件判決も、要するに「給与所得控除使うの許さん。」ということでしょうし。
各種の《規範レトリック》は単なる後付け。
司法修習生の受ける給付が給与所得から雑所得に鞍替えしたのも。決して何か性質の変化があったというわけではなく。
「なんか給与所得控除受けられるのおかしくね?」程度の、(偉い人の)お気持ちの変化があったからではないかと(もちろん、こんなものは単なる邪推ですけど、それぐらいの暴論でなければ給与所得から雑所得への鞍替えを、説明することはできそうもない)。
ちなみに、雑所得であっても必要経費控除ができることにはなっていますが、現実には引けるものがない、というのが最高裁(行政)及び最高裁(司法)の見解(厳密には、上告不受理なので明示はされていませんが、司法側が行政側と違う見解を出すことは期待できない)。
◯
先日の「必要経費性」について論じた記事では、「上位規範」によって必要経費性の判定をコントロールするのを諦めて、事例群ごとの「下位規範」によりコントロールすべきでは、ということを論じました。
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか? 〜《規範の学》としての法学の有用性
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか?(続) 〜《規範の学》としての法学の有用性
「給与所得」該当性についても同じで。
最高裁の定立したようなリジッドな規範では、給与所得とすべき場合を網羅しきれないわけです。
ア 使用者の指揮命令下にある、古典的な労働者
イ 会社役員、執行役員(委任型)、管理監督者、高プロ適用の労働者など
ウ 指揮命令下にあるというのに、労務の提供をしているわけではない司法修習生(旧)
エ ・・・
上位規範としてはこれら事例群を包含した緩い規範だけを定立しておいて。あとは事例群ごとの下位規範を定立する、という遣り口でいくのが適切ではないか。
というのが私の問題意識です。
2026年06月24日
『僕らは給与所得に該当するかどうかを《雰囲気》で決めている。』
posted by ウロ at 10:56| Comment(0)
| 所得税法
2026年06月23日
役員に対する通勤手当は「給与」か。 〜所得税法と民法の交錯
前回の記事を書きながら、バックグラウンドで嫌な感じがしていました。
通勤手当は「給与」か。 〜所得税法と消費税法の交錯
従業員はさておき、「役員」にとって通勤手当は給与なのだろうかと。
これの何が「嫌な感じ」なのか、以下、敷衍します。
◯
役員給与(役員報酬)、《法人税法》の世界では損金算入制限ルールによりガチガチに固められているところです。
他方で、《所得税法》の世界では、ざっくりと従業員給与と同じ「給与所得」の括りで扱われてしまっています(ただし、学資金や社宅などのフリンジ・ベネフィット周りで異なる扱いがされている)。
前回記事では、労務提供義務は「持参債務」だから、通勤手当は給与に含まれるが非課税となる、と説明しました。他方で、消費税法では通勤手当も給与のはずなのに課税仕入れとして扱われており。そのことの文理上の説明が困難だと記述しました。
◯
さて、ここで疑問に思ったこと。
役員に支給する通勤手当は、従業員に対するそれと同じ扱いなのだろうかと(語感はおかしいものの、役員に対するものも「通勤手当(通勤費)」と呼称します)。
というのも、「雇用契約」における労務提供義務が持参債務であることについては、明確に言われているのに対し。「委任契約」における事務処理義務が持参債務かどうかは、明示的に示されていないように思われます(「取りこぼしなく、網羅的に地の足をついた議論をする」ということをサボりがちなのが、《法学》という学問の特徴。特定の論点に偏りがち)。
考えてみるに。
雇用契約は「とにかく会社まで来い。そこから指揮監督のもと労務提供してもらう。」というコンセプトなのに対して。委任契約の場合は、善管注意義務に従いつつ、最大限のパフォーマンスを発揮することが求められているのであり、必ずしも履行場所を特定する必然性はありません。
それゆえ、会社に行くことが当然に「委任の本旨」に組み込まれている、ということはできないでしょう。
民法 第六百四十四条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
とすると、雇用契約における労務提供義務が持参債務だからといって、委任契約でも同様に事務処理義務が持参債務だと決定することはできないように思われます。
(なお、本記事でいう《持参債務/非持参債務》というのは、「債務の本質論」みたいなものを展開しているのではなく。履行場所まで行くことは債務者・債権者いずれの「費用負担」とするのがデフォルトか、を表す記号として用いています。ちなみに、「取立債務」を使わないのはなんとなくの違和感からです。)
◯
委任に関する事務処理費用についての規定としては、民法650条があります。
民法 第六百五十条(受任者による費用等の償還請求等)
1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
この規定だけでははっきりしないものの。
委任事務を処理する上で会社まで行く必要があるのであれば、役員は同条に基づき会社に通勤費を請求できるのは確かです。ここから、事務処理義務のデフォルトは「非持参債務」であって、役員にとっての通勤費は、役員賞与ではなく「実費弁償」に該当すると捉えることができそうです。
◯
では、事務処理義務が「持参債務ではない」と法性決定できたとして、税法上はどういう違いがあるでしょうか。
・所得税が課税されるか(所得税法)
持参債務 給与だが非課税(非課税限度額あり) △
非持参債務 給与じゃないから対象外 ◯
・課税仕入か(消費税法)
持参債務 給与だけどなぜか課税仕入 ◯
非持参債務 給与じゃないから当然に課税仕入 ◯
・賃上げ税制(租税特別措置法)
持参債務 役員だから対象外 ×
非持参債務 役員だから対象外 ×
結論の違いは、所得税の「非課税限度額」があるかどうかのところだけです。
役員の通勤費が「実費弁償」なのであれば、非課税限度額を超えた遠隔地から会社にかよった場合でも、全額所得から除外されることになるはずです(もちろん何の必要もないのに会社にいく、などという場合は別)。
文理解釈としても、所得税法9条1項5号には「通勤」と書いてあるのであり。役員が会社に行くことは「通勤」ではないことから、同規定は適用されない、と解することができます(当記事で「通勤」と記述しているのは、あくまでも便宜的)。
一般的な通念とは異なるものの。雇用契約/委任契約の違いに着目するならば、このような理解に思い至るのではないでしょうか。
もちろん、こんなものは畢竟独自の珍説であり。役員報酬が(委任契約に基づくものでありながら)所得税法の世界で「給与所得」扱いされてしまった時点で、雇用契約/委任契約の違いを軸とする立論は成り立ちえない、と言われてしまえばそれまでの話です。
◯
まあ、税法についてはこの程度の違いしかない、といって差し支えないかと思います。
問題は社保の報酬に該当するかどうかです。
もし、通勤手当が社保の報酬に該当する理由が、「持参債務」であることを根拠としているのであれば、役員に対する通勤手当は報酬から除外しなければならないことになります。
なのですが、社保の報酬該当性については、所得税法における所得該当性の比じゃないくらい、見通しの悪いルールにより運用されているように思えます(税理士から見て、ですが)。
ので、ここではあくまでも問題提起にとどめ、これ以上は何も触れないこととします(おそらく社保も、従業員給与と同じ報酬扱いされた時点で、終わっている)。
通勤手当は「給与」か。 〜所得税法と消費税法の交錯
従業員はさておき、「役員」にとって通勤手当は給与なのだろうかと。
これの何が「嫌な感じ」なのか、以下、敷衍します。
◯
役員給与(役員報酬)、《法人税法》の世界では損金算入制限ルールによりガチガチに固められているところです。
他方で、《所得税法》の世界では、ざっくりと従業員給与と同じ「給与所得」の括りで扱われてしまっています(ただし、学資金や社宅などのフリンジ・ベネフィット周りで異なる扱いがされている)。
前回記事では、労務提供義務は「持参債務」だから、通勤手当は給与に含まれるが非課税となる、と説明しました。他方で、消費税法では通勤手当も給与のはずなのに課税仕入れとして扱われており。そのことの文理上の説明が困難だと記述しました。
◯
さて、ここで疑問に思ったこと。
役員に支給する通勤手当は、従業員に対するそれと同じ扱いなのだろうかと(語感はおかしいものの、役員に対するものも「通勤手当(通勤費)」と呼称します)。
というのも、「雇用契約」における労務提供義務が持参債務であることについては、明確に言われているのに対し。「委任契約」における事務処理義務が持参債務かどうかは、明示的に示されていないように思われます(「取りこぼしなく、網羅的に地の足をついた議論をする」ということをサボりがちなのが、《法学》という学問の特徴。特定の論点に偏りがち)。
考えてみるに。
雇用契約は「とにかく会社まで来い。そこから指揮監督のもと労務提供してもらう。」というコンセプトなのに対して。委任契約の場合は、善管注意義務に従いつつ、最大限のパフォーマンスを発揮することが求められているのであり、必ずしも履行場所を特定する必然性はありません。
それゆえ、会社に行くことが当然に「委任の本旨」に組み込まれている、ということはできないでしょう。
民法 第六百四十四条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
とすると、雇用契約における労務提供義務が持参債務だからといって、委任契約でも同様に事務処理義務が持参債務だと決定することはできないように思われます。
(なお、本記事でいう《持参債務/非持参債務》というのは、「債務の本質論」みたいなものを展開しているのではなく。履行場所まで行くことは債務者・債権者いずれの「費用負担」とするのがデフォルトか、を表す記号として用いています。ちなみに、「取立債務」を使わないのはなんとなくの違和感からです。)
◯
委任に関する事務処理費用についての規定としては、民法650条があります。
民法 第六百五十条(受任者による費用等の償還請求等)
1 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
この規定だけでははっきりしないものの。
委任事務を処理する上で会社まで行く必要があるのであれば、役員は同条に基づき会社に通勤費を請求できるのは確かです。ここから、事務処理義務のデフォルトは「非持参債務」であって、役員にとっての通勤費は、役員賞与ではなく「実費弁償」に該当すると捉えることができそうです。
◯
では、事務処理義務が「持参債務ではない」と法性決定できたとして、税法上はどういう違いがあるでしょうか。
・所得税が課税されるか(所得税法)
持参債務 給与だが非課税(非課税限度額あり) △
非持参債務 給与じゃないから対象外 ◯
・課税仕入か(消費税法)
持参債務 給与だけどなぜか課税仕入 ◯
非持参債務 給与じゃないから当然に課税仕入 ◯
・賃上げ税制(租税特別措置法)
持参債務 役員だから対象外 ×
非持参債務 役員だから対象外 ×
結論の違いは、所得税の「非課税限度額」があるかどうかのところだけです。
役員の通勤費が「実費弁償」なのであれば、非課税限度額を超えた遠隔地から会社にかよった場合でも、全額所得から除外されることになるはずです(もちろん何の必要もないのに会社にいく、などという場合は別)。
文理解釈としても、所得税法9条1項5号には「通勤」と書いてあるのであり。役員が会社に行くことは「通勤」ではないことから、同規定は適用されない、と解することができます(当記事で「通勤」と記述しているのは、あくまでも便宜的)。
一般的な通念とは異なるものの。雇用契約/委任契約の違いに着目するならば、このような理解に思い至るのではないでしょうか。
もちろん、こんなものは畢竟独自の珍説であり。役員報酬が(委任契約に基づくものでありながら)所得税法の世界で「給与所得」扱いされてしまった時点で、雇用契約/委任契約の違いを軸とする立論は成り立ちえない、と言われてしまえばそれまでの話です。
◯
まあ、税法についてはこの程度の違いしかない、といって差し支えないかと思います。
問題は社保の報酬に該当するかどうかです。
もし、通勤手当が社保の報酬に該当する理由が、「持参債務」であることを根拠としているのであれば、役員に対する通勤手当は報酬から除外しなければならないことになります。
なのですが、社保の報酬該当性については、所得税法における所得該当性の比じゃないくらい、見通しの悪いルールにより運用されているように思えます(税理士から見て、ですが)。
ので、ここではあくまでも問題提起にとどめ、これ以上は何も触れないこととします(おそらく社保も、従業員給与と同じ報酬扱いされた時点で、終わっている)。
posted by ウロ at 09:34| Comment(0)
| 所得税法
2026年06月17日
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか?(続) 〜《規範の学》としての法学の有用性
前回の記事、あたかも「規範」というものが役に立たないかのようなニュアンスとなってしまったかもしれません。
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか? 〜《規範の学》としての法学の有用性
が、それは正確ではなく。
ということで、今回は「規範」擁護のフォロー記事となります。
◯
今回も、刑法学上の議論を参照します。
「因果関係」をめぐる議論の流れについて、とてつもなくカリカチュアすると次のような感じかと。
【因果関係論】
・かつての学説は、相当因果関係説内部での内ゲバ(折衷説対客観説)。
・判例は、学説ガン無視で危険の現実化で判断するようになった。
・いつの間にやら学説も、危険の現実化を判断するための下位基準の開発競争に興ずるようになった。
橋爪隆「刑法総論の悩みどころ」(有斐閣2020)
【なお主観説】
辰井聡子「因果関係論」(有斐閣2006)
これに対する私の見立て。
【大きな規範から小さな規範へ】
・「相当因果関係」のような大きな規範では、複雑化した現代社会において、あらゆる「因果関係」を判定することはもはや不可能になってしまった。
・そこで、大きな規範としては「危険の現実化」のようなざっくりとした規範だけを掲げておく。
・実際の判定は、射程の狭い下位基準によってコントロールする。
・下位基準は、大きな規範から演繹的に導くのではなく。射程内の事例群を適切に差配できるかどうかで帰納的に導く。
・最後、結論のところだけ、危険が現実化している/していないと表現する。
「規範」というものが全くの無用になったわけではなく。大きな規範では小回りがきかないので、小さな規範に重心が移った、と理解するのが適切かと思います。
この2つのタイプの規範については、
・大きい規範/小さい規範
・上位規範/下位規範
・一般規範/個別規範
・一般命題/個別命題
・上位基準/下位基準
・大きいナラティブ/小さいナラティブ
・大きいモチーフ/小さいモチーフ
など、様々なネーミングが可能かと思いますが、文脈にあわせた使い分けになるでしょうか。
ちなみに、白石忠志先生が最近出版された新書の「第4章 裁判所の判決を読む」でも、判決で示されている規範の中には、一般的な規範と個別的な規範がある、といった趣旨のことが書かれていました。
白石忠志「法律の読み方がわかる本」(筑摩書房2026)
白石忠志「技術と競争の法的構造」(有斐閣1994)
◯
さて、話を戻して。
これを所得税法における「必要経費性」の文脈にもってくるとどうなるかというと。
・複雑化した現代社会では、《直接・関連・通常・客観》などといったレトリックを用いた「大きい規範」によって、仕事とプライベートの境目を切り分けることはもはや困難。
・そこで、上位規範レベルでは(危険の現実化的な)緩やかな命題だけを定立しておく。
・そして、射程内の事例群の必要経費性を適切に差配できる下位規範を開発する。
このように構成することができます。
で、まず「キャバクラが必要経費なら保育料も必要経費」式の《キャバクラテーゼ》は、全く異なるカテゴリに属する事例であるため、論証としては成り立ちえません。
もし《キャバクラテーゼ》が論証として成立するというならば、「消しゴムが必要経費になるのに保育料が必要経費にならないのはおかしい」などという《消しゴムテーゼ》も成立することになってしまいます。
しかしまあ、《消しゴム》なら変だと気づくのに、《キャバクラ》だと鵜呑みにしてしまう人が現れるのは、大変に興味深いところ。
それだけ、《キャバクラ》というレトリックが、人心を惑わすのに極めて有効であり。かつ、まともな大人は、自説の根拠がどれだけ乏しかろうとも《キャバクラテーゼ》には決して手を染めてはいけない、ということかと思います。
◯
ということで、同じカテゴリに属する事例を掲げる必要があるとして、
ア 子育て事例
イ 介護事例
ウ 積ガンプラ事例
エ 究極カレー事例
といった事例を提示しました。
これらはいずれも『家事時間を業務時間に転換する支出』というカテゴリに属する事例群として、括ることができるものです。
が、イはともかく、ウエが必要経費になってしまうのは妥当ではありません。
また、「反対」のカテゴリに属するものとして、
オ 新幹線事例
カ AI事例
といった事例を提示しました。
これらはいずれも『業務時間を家事時間に転換する支出』というカテゴリに属するものとして括ることができるものです。
そして、『家事⇒業務転換支出』を必要経費性を肯定するための下位規範として承認してしまうと、その反対である『業務⇒家事転換支出』の必要経費性を否定しなければならなくなってしまい、妥当ではありません。
以上より、保育料が『家事時間を業務時間に転換する支出』というカテゴリに属することを理由に必要経費性を肯定するのは、妥当でないということになります(下位規範の開発失敗)。
◯
もちろん、保育料が、他に必要経費性を肯定するのが妥当なカテゴリに属していることを説明できれば、必要経費性を根拠づけることは可能です。
が残念ながら、そのようなカテゴリ、私には思いつきませんでした。
し、(私の観測するかぎり)肯定したい側の方々も《上位規範直結型》の論証ばかりで、下位規範の開発がなされていないように思います(下手すると、「直接性」を不要とすれば直ちに必要経費性が認められる的なノリのものも)。
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか? 〜《規範の学》としての法学の有用性
が、それは正確ではなく。
ということで、今回は「規範」擁護のフォロー記事となります。
◯
今回も、刑法学上の議論を参照します。
「因果関係」をめぐる議論の流れについて、とてつもなくカリカチュアすると次のような感じかと。
【因果関係論】
・かつての学説は、相当因果関係説内部での内ゲバ(折衷説対客観説)。
・判例は、学説ガン無視で危険の現実化で判断するようになった。
・いつの間にやら学説も、危険の現実化を判断するための下位基準の開発競争に興ずるようになった。
橋爪隆「刑法総論の悩みどころ」(有斐閣2020)
【なお主観説】
辰井聡子「因果関係論」(有斐閣2006)
これに対する私の見立て。
【大きな規範から小さな規範へ】
・「相当因果関係」のような大きな規範では、複雑化した現代社会において、あらゆる「因果関係」を判定することはもはや不可能になってしまった。
・そこで、大きな規範としては「危険の現実化」のようなざっくりとした規範だけを掲げておく。
・実際の判定は、射程の狭い下位基準によってコントロールする。
・下位基準は、大きな規範から演繹的に導くのではなく。射程内の事例群を適切に差配できるかどうかで帰納的に導く。
・最後、結論のところだけ、危険が現実化している/していないと表現する。
「規範」というものが全くの無用になったわけではなく。大きな規範では小回りがきかないので、小さな規範に重心が移った、と理解するのが適切かと思います。
この2つのタイプの規範については、
・大きい規範/小さい規範
・上位規範/下位規範
・一般規範/個別規範
・一般命題/個別命題
・上位基準/下位基準
・大きいナラティブ/小さいナラティブ
・大きいモチーフ/小さいモチーフ
など、様々なネーミングが可能かと思いますが、文脈にあわせた使い分けになるでしょうか。
ちなみに、白石忠志先生が最近出版された新書の「第4章 裁判所の判決を読む」でも、判決で示されている規範の中には、一般的な規範と個別的な規範がある、といった趣旨のことが書かれていました。
白石忠志「法律の読み方がわかる本」(筑摩書房2026)
白石忠志「技術と競争の法的構造」(有斐閣1994)
◯
さて、話を戻して。
これを所得税法における「必要経費性」の文脈にもってくるとどうなるかというと。
・複雑化した現代社会では、《直接・関連・通常・客観》などといったレトリックを用いた「大きい規範」によって、仕事とプライベートの境目を切り分けることはもはや困難。
・そこで、上位規範レベルでは(危険の現実化的な)緩やかな命題だけを定立しておく。
・そして、射程内の事例群の必要経費性を適切に差配できる下位規範を開発する。
このように構成することができます。
で、まず「キャバクラが必要経費なら保育料も必要経費」式の《キャバクラテーゼ》は、全く異なるカテゴリに属する事例であるため、論証としては成り立ちえません。
もし《キャバクラテーゼ》が論証として成立するというならば、「消しゴムが必要経費になるのに保育料が必要経費にならないのはおかしい」などという《消しゴムテーゼ》も成立することになってしまいます。
しかしまあ、《消しゴム》なら変だと気づくのに、《キャバクラ》だと鵜呑みにしてしまう人が現れるのは、大変に興味深いところ。
それだけ、《キャバクラ》というレトリックが、人心を惑わすのに極めて有効であり。かつ、まともな大人は、自説の根拠がどれだけ乏しかろうとも《キャバクラテーゼ》には決して手を染めてはいけない、ということかと思います。
◯
ということで、同じカテゴリに属する事例を掲げる必要があるとして、
ア 子育て事例
イ 介護事例
ウ 積ガンプラ事例
エ 究極カレー事例
といった事例を提示しました。
これらはいずれも『家事時間を業務時間に転換する支出』というカテゴリに属する事例群として、括ることができるものです。
が、イはともかく、ウエが必要経費になってしまうのは妥当ではありません。
また、「反対」のカテゴリに属するものとして、
オ 新幹線事例
カ AI事例
といった事例を提示しました。
これらはいずれも『業務時間を家事時間に転換する支出』というカテゴリに属するものとして括ることができるものです。
そして、『家事⇒業務転換支出』を必要経費性を肯定するための下位規範として承認してしまうと、その反対である『業務⇒家事転換支出』の必要経費性を否定しなければならなくなってしまい、妥当ではありません。
以上より、保育料が『家事時間を業務時間に転換する支出』というカテゴリに属することを理由に必要経費性を肯定するのは、妥当でないということになります(下位規範の開発失敗)。
◯
もちろん、保育料が、他に必要経費性を肯定するのが妥当なカテゴリに属していることを説明できれば、必要経費性を根拠づけることは可能です。
が残念ながら、そのようなカテゴリ、私には思いつきませんでした。
し、(私の観測するかぎり)肯定したい側の方々も《上位規範直結型》の論証ばかりで、下位規範の開発がなされていないように思います(下手すると、「直接性」を不要とすれば直ちに必要経費性が認められる的なノリのものも)。
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| 所得税法
2026年06月12日
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか? 〜《規範の学》としての法学の有用性
回りくどいタイトルとなっている理由。
世間の皆様方は、「経費になる!」とか「ならない!」とか、大変威勢のよろしいご意見を開陳されていて。
とても羨ましいことですな、と思いつつ。
私自身はどうにも判断がつかないところであり。ではなぜ、私が即断ができないのか、その理由を探ってみようという、言い訳がましい記事となります。
◯
「必要経費」になる/ならないを論じる際、《直接・関連・通常・客観》などといったレトリックが持ち出されます(私はこれを、規範に使い回されがちなレトリックという意味合いで《規範レトリック》呼ばわりします)。
が、これらレトリックが規範として有効に機能しているとは、私にはとても思えません。
本論点に関しては特に、「直接性」を要求するかで結論が分かれるかのような物言いがされることがあります。が、『子どもを預けたので仕事ができた。』という事象をもって、これを「直接的」というのか「間接的」というのか、どうとでも言えるのではないでしょうか。
たとえば、民法でいう「親族」であれば、明確に数字でもって範囲を確定させているところです。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
これを「親等が近ければ親族」とか「直接的なら親族」などといったレトリックで範囲を確定しようなどいうのは、無茶なわけです。
五条先生の「無下限呪術」の下においては、どれだけ近づいても攻撃があたらないように(「アキレスと亀」と言わなくて済むのは助かる)。保育と仕事の間に、細かく因子を挟み込んでいけばあたかも「間接的」であるかのように表現できるし。
他方で、でかい因子をひとつだけを挟んでおけば、あたかも「直接的」であるかのようにも表現できてしまいます。
「直接/間接」などという規範は、論争性のある事案を切り分けるにあたって、ほとんど機能しえない、と私は思います。
◯
このように、規範レベルにおいてああだこうだ議論をしてみたところで。個別事案において身のある成果が出るとは思えず。
では、どうしたらよいかというと。
話は飛びますが。
いかにも「規範の学」の典型であるかのような(かつての)刑法学においても。
一見すると「違法性の本質は◯◯だから△△と解すべき。」のようなドグマティックな《演繹的アプローチ》が幅を効かせているかのようにみえて。むしろ、「他説では事例Aで犯罪不成立となり妥当でない。自説では妥当な結論を導ける。」といった《帰納的アプローチ》のほうが重宝されているように思えます。
これを参考にすると、(規範からではなく)事例からアプローチする手法(事例アプローチ)が有効ではないか、と考えられます。
そこで、事例アプローチ(のうち《比較事例アプローチ》)を以下に展開してみます。
◯
ここでまず思いあたるのが「キャバクラは経費なのに保育料が経費じゃないのはおかしい!」という《子育て/キャバクラテーゼ》です。
が、このようなテーゼは《比較事例アプローチ》としては不適切であると思われます。
おそらくですが、《子育てキャバクラテーゼ》では、
・子育て=高尚
・キャバクラ=下賎
というように、《倫理的》な軸を用いて子育てとキャバクラを上下関係または大小関係に配置し、勿論解釈を展開しているのだと思われます。
が、ここで問題としているのは「仕事に役立つか」という点であり、この軸から対比しなければなりません(ここで「仕事に役立つか」というのは、いかなる規範を採用しても通用するような、フラットな表現として用いています)。
たとえば、「子どもを沢山育てているのだから、育てていない人より児童手当を沢山もらえるべきだ」というのは、児童手当は「子育て」を軸として金額が決まるべきものだから、当然に正しい主張です。
他方で、「子どもを沢山育てているのだから、育てていない人より給料を沢山もらえるべきだ」というのは、給料はあくまでも会社に対する「労務の提供」を軸として金額が決めるべきものなので、正しくないわけです。
このように、別軸を持ち出して《比較事例アプローチ》を展開することは、(非専門家向けのプロパガンダとしてはともかく)勿論解釈としては不適切なわけです(「子どもを預けて取引先とキャバクラにいったらどちらも経費になるか」みたいな話もでてきうる)。
◯
では、どのような事例であれば、比較するのに適切となるでしょうか。
あくまでも、「仕事」との関わりにおいて同じカテゴリに属している事例をあげる必要があります。
保育料の属するカテゴリが何であるかは、保育料がいかなる意味で「仕事に役立つか」を考えると分かります。それは『家事時間を業務時間に転換する支出』だということです。
つまり、子どもを預けることで、子育てにあてる時間を業務時間に転換するための支出だと。
このような、《家事⇒業務》転換カテゴリに属する事例として、次のようなものが思いつきます(保育料も含めて列挙します)。
【家事時間⇒業務時間】
ア 子育て事例
保育が必要な子どもがいる。自分でフルタイム保育すると仕事ができない。施設に預けることで業務時間を確保できた。
イ 介護事例
介護が必要な親がいる。自分でフルタイム介護すると仕事ができない。施設に預けることで業務時間を確保できた。
ウ 積ガンプラ事例
未製作のガンプラが溜まっている。自分でフルタイム製作すると仕事ができない。製作代行を頼むことで業務時間を確保できた。
エ 究極カレー事例
趣味で究極のカレー造りをしている。自分でフルタイムルーをかき混ぜると仕事ができない。かき混ぜ代行を頼むことで業務時間を確保できた。
これら事例をみて、アとイは同等に扱うべきだと感じるかと思いますが、ウとエはとてもじゃないが認めるべきではないと感じるのではないでしょうか。
が、「家事時間を業務時間に転換するための支出」という理由だけでア・イの必要経費性を肯定するならば、ウ・エの必要経費性も肯定しなければならなくなります。
「アイとウエは違う」というならば、その違いを「仕事」との関係で区別できるような、別の理由付けが必要となります(が、さしあたり私には不明です)。
◯
《比較事例アプローチ》のもうひとつの手法として、「反対」の事例をあげるというのがあります。
ここでいう反対の事例というのが何になるかというと、『業務時間を家事時間に転換する支出』になります。
そのようなものとしては、次のような事例が思いつきます。
【業務時間⇒家事時間】
オ 新幹線事例
遠方の出張に新幹線を利用した。在来線よりも移動時間を短縮できたので家族と過ごす時間を増やせた。
カ AI事例
AIを利用して業務効率化した。早く帰れるようになったので家族と過ごす時間を増やせた。
これら事例で必要経費性を疑う人は誰もいないと思います。要は、必要経費性を判断するのに、「転換先」は考慮にいれず、あくまでも「転換元」だけで判断するということです。
このような視角からすると、「家事時間を業務時間に転換するための支出」という理由で保育料を必要経費に入れるというのは、転換元ではなく転換先で必要経費性を判断すべき、という見解を採用していると評価することができます。
そしてこの見解からは、オ・カは家事時間確保のための支出だとして、必要経費性を否定しなければならなくなってしまいます。
オ・カの必要経費性を否定すべきでないというのであれば、やはり「家事時間を業務時間に転換するための支出」という理由とは、別の理由付けを持ってこなければならないということです。
こちらについても、私にはさしあたり不明です。
◯
以上、私自身がいずれともはっきり決断をしないことの言い訳にすぎず。いずれかの意見表明をするものではない、という逃げの記事となります。
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか?(続) 〜《規範の学》としての法学の有用性
世間の皆様方は、「経費になる!」とか「ならない!」とか、大変威勢のよろしいご意見を開陳されていて。
とても羨ましいことですな、と思いつつ。
私自身はどうにも判断がつかないところであり。ではなぜ、私が即断ができないのか、その理由を探ってみようという、言い訳がましい記事となります。
◯
「必要経費」になる/ならないを論じる際、《直接・関連・通常・客観》などといったレトリックが持ち出されます(私はこれを、規範に使い回されがちなレトリックという意味合いで《規範レトリック》呼ばわりします)。
が、これらレトリックが規範として有効に機能しているとは、私にはとても思えません。
本論点に関しては特に、「直接性」を要求するかで結論が分かれるかのような物言いがされることがあります。が、『子どもを預けたので仕事ができた。』という事象をもって、これを「直接的」というのか「間接的」というのか、どうとでも言えるのではないでしょうか。
たとえば、民法でいう「親族」であれば、明確に数字でもって範囲を確定させているところです。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
これを「親等が近ければ親族」とか「直接的なら親族」などといったレトリックで範囲を確定しようなどいうのは、無茶なわけです。
五条先生の「無下限呪術」の下においては、どれだけ近づいても攻撃があたらないように(「アキレスと亀」と言わなくて済むのは助かる)。保育と仕事の間に、細かく因子を挟み込んでいけばあたかも「間接的」であるかのように表現できるし。
他方で、でかい因子をひとつだけを挟んでおけば、あたかも「直接的」であるかのようにも表現できてしまいます。
「直接/間接」などという規範は、論争性のある事案を切り分けるにあたって、ほとんど機能しえない、と私は思います。
◯
このように、規範レベルにおいてああだこうだ議論をしてみたところで。個別事案において身のある成果が出るとは思えず。
では、どうしたらよいかというと。
話は飛びますが。
いかにも「規範の学」の典型であるかのような(かつての)刑法学においても。
一見すると「違法性の本質は◯◯だから△△と解すべき。」のようなドグマティックな《演繹的アプローチ》が幅を効かせているかのようにみえて。むしろ、「他説では事例Aで犯罪不成立となり妥当でない。自説では妥当な結論を導ける。」といった《帰納的アプローチ》のほうが重宝されているように思えます。
これを参考にすると、(規範からではなく)事例からアプローチする手法(事例アプローチ)が有効ではないか、と考えられます。
そこで、事例アプローチ(のうち《比較事例アプローチ》)を以下に展開してみます。
◯
ここでまず思いあたるのが「キャバクラは経費なのに保育料が経費じゃないのはおかしい!」という《子育て/キャバクラテーゼ》です。
が、このようなテーゼは《比較事例アプローチ》としては不適切であると思われます。
おそらくですが、《子育てキャバクラテーゼ》では、
・子育て=高尚
・キャバクラ=下賎
というように、《倫理的》な軸を用いて子育てとキャバクラを上下関係または大小関係に配置し、勿論解釈を展開しているのだと思われます。
が、ここで問題としているのは「仕事に役立つか」という点であり、この軸から対比しなければなりません(ここで「仕事に役立つか」というのは、いかなる規範を採用しても通用するような、フラットな表現として用いています)。
たとえば、「子どもを沢山育てているのだから、育てていない人より児童手当を沢山もらえるべきだ」というのは、児童手当は「子育て」を軸として金額が決まるべきものだから、当然に正しい主張です。
他方で、「子どもを沢山育てているのだから、育てていない人より給料を沢山もらえるべきだ」というのは、給料はあくまでも会社に対する「労務の提供」を軸として金額が決めるべきものなので、正しくないわけです。
このように、別軸を持ち出して《比較事例アプローチ》を展開することは、(非専門家向けのプロパガンダとしてはともかく)勿論解釈としては不適切なわけです(「子どもを預けて取引先とキャバクラにいったらどちらも経費になるか」みたいな話もでてきうる)。
◯
では、どのような事例であれば、比較するのに適切となるでしょうか。
あくまでも、「仕事」との関わりにおいて同じカテゴリに属している事例をあげる必要があります。
保育料の属するカテゴリが何であるかは、保育料がいかなる意味で「仕事に役立つか」を考えると分かります。それは『家事時間を業務時間に転換する支出』だということです。
つまり、子どもを預けることで、子育てにあてる時間を業務時間に転換するための支出だと。
このような、《家事⇒業務》転換カテゴリに属する事例として、次のようなものが思いつきます(保育料も含めて列挙します)。
【家事時間⇒業務時間】
ア 子育て事例
保育が必要な子どもがいる。自分でフルタイム保育すると仕事ができない。施設に預けることで業務時間を確保できた。
イ 介護事例
介護が必要な親がいる。自分でフルタイム介護すると仕事ができない。施設に預けることで業務時間を確保できた。
ウ 積ガンプラ事例
未製作のガンプラが溜まっている。自分でフルタイム製作すると仕事ができない。製作代行を頼むことで業務時間を確保できた。
エ 究極カレー事例
趣味で究極のカレー造りをしている。自分でフルタイムルーをかき混ぜると仕事ができない。かき混ぜ代行を頼むことで業務時間を確保できた。
これら事例をみて、アとイは同等に扱うべきだと感じるかと思いますが、ウとエはとてもじゃないが認めるべきではないと感じるのではないでしょうか。
が、「家事時間を業務時間に転換するための支出」という理由だけでア・イの必要経費性を肯定するならば、ウ・エの必要経費性も肯定しなければならなくなります。
「アイとウエは違う」というならば、その違いを「仕事」との関係で区別できるような、別の理由付けが必要となります(が、さしあたり私には不明です)。
◯
《比較事例アプローチ》のもうひとつの手法として、「反対」の事例をあげるというのがあります。
ここでいう反対の事例というのが何になるかというと、『業務時間を家事時間に転換する支出』になります。
そのようなものとしては、次のような事例が思いつきます。
【業務時間⇒家事時間】
オ 新幹線事例
遠方の出張に新幹線を利用した。在来線よりも移動時間を短縮できたので家族と過ごす時間を増やせた。
カ AI事例
AIを利用して業務効率化した。早く帰れるようになったので家族と過ごす時間を増やせた。
これら事例で必要経費性を疑う人は誰もいないと思います。要は、必要経費性を判断するのに、「転換先」は考慮にいれず、あくまでも「転換元」だけで判断するということです。
このような視角からすると、「家事時間を業務時間に転換するための支出」という理由で保育料を必要経費に入れるというのは、転換元ではなく転換先で必要経費性を判断すべき、という見解を採用していると評価することができます。
そしてこの見解からは、オ・カは家事時間確保のための支出だとして、必要経費性を否定しなければならなくなってしまいます。
オ・カの必要経費性を否定すべきでないというのであれば、やはり「家事時間を業務時間に転換するための支出」という理由とは、別の理由付けを持ってこなければならないということです。
こちらについても、私にはさしあたり不明です。
◯
以上、私自身がいずれともはっきり決断をしないことの言い訳にすぎず。いずれかの意見表明をするものではない、という逃げの記事となります。
「保育料は必要経費か」はどのように判断すればよいか?(続) 〜《規範の学》としての法学の有用性
posted by ウロ at 13:29| Comment(0)
| 所得税法
2025年05月26日
配偶者(特別)控除と複数夫婦制 〜頑張れ借用概念論
先日の記事、話が拡散してしまうため、配偶者特別控除については、日本民法が前提とする「一夫一妻制」に決め打ちをして、記述を展開していました。
特定親族特別控除の条文構造
が、「複数夫婦制」を採用している国の婚姻法が適用される夫婦が日本の居住者である場合、「配偶者(特別)控除」の適用関係がどうなるか、ということは、別途検討が必要となるものです。
今回は、その点につき、軽く整理しておきます。
性別については、ニュートラルにするため、
一方の性 A
他方の性 BCD
と、特定の性に固定しない想定で記述します。
◯
「配偶者が複数人いても、配偶者控除・配偶者特別控除の控除額は増えない」ということ自体は、すでに人口に膾炙しているところかと思います(以下「配偶者控除等」とまとめます)。
条文上の根拠としては、扶養控除・特定親族特別控除(以下「扶養控除等」とまとめます)は「その控除対象扶養親族一人につき」「その特定親族一人につき」とあるのに、配偶者控除等にはその旨の文言がない、というところになります。
◯
ただ、この結論を導くにあたって、BCDのうち誰か1人だけが所得税法上の「配偶者」となるのか、それとも全員「配偶者」に該当するが控除額だけが頭打ちになるのか、いずれを前提としているかがはっきりしません。
所得税法上の「配偶者」は日本民法上のそれに固定されているのか、それとも法適用通則法を経由して外国民法の「配偶者」に読み替えられるのか、という問題です。
法適用通則法 第二十四条(婚姻の成立及び方式)
1 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
2 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
3 前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。
【税法と法適用通則法】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その9)
どうせ人数頭打ちなんだから、どっちでも構わないだろ、と思われる方がいるかもしれません。が、配偶者側に所得要件があるため、誰の所得で判定するのかを決める必要があります。
また、「配偶者控除等」が適用できないなら「扶養控除等」に鞍替えできないか、という問題もあります。
一般には、扶養控除等が受けられる「親族」から「配偶者」が除外されているので鞍替えはできない、と理解されているかと思います。が、もしAがBを所得税法上の配偶者として「配偶者控除等」を選択するとCDは所得税法上の配偶者ではなくなる、のだとすると、CDを「親族」から除外できる根拠がなくなってしまいます。
そもそもの話、この「配偶者は親族に含まれるが税法で除外されている」というときに想定している「親族」は、日本民法における「親族」と理解してしまってよいのでしょうか。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
民法 第七百二十六条(親等の計算)
1 親等は、親族間の世代数を数えて、これを定める。
2 傍系親族の親等を定めるには、その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり、その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。
『配偶者・親族は借用概念である』というだけでは、なにひとつ解決できない問題が、ここにあるわけです(借用概念無能論)。
◯
結論的だけいえば、複数夫婦制が適用される夫婦において、
・配偶者控除等の控除額は増えない
・配偶者の所得要件は適用者が選択した配偶者によって判定する
・配偶者を扶養控除等に鞍替えすることはできない
ということになりそうです。
が、そのことを整合的に導くためのロジックが、税法側できちんと手当てされていないように思うわけです。
◯
さらなる問題が、配偶者特別控除における「適用除外ルール」がどのように作動するか、という点です。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
2 前項の規定は、同項に規定する生計を一にする配偶者が、次に掲げる場合に該当するときは、適用しない。
一 当該配偶者が前項に規定する居住者として同項の規定の適用を受けている場合
二 当該配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者が、その年分の所得税につき、第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
三 当該配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第二百三条の三第一号から第三号まで(徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者がその年分の所得税につき確定申告書の提出をし、又は決定を受けた者である場合を除く。)
前回の記事では、「一夫一妻制」を前提に、1号の規範を「夫婦どちらかしか受けられない」と表現しました(以下1号のみを想定し、2号は省略します)。
では、「複数夫婦制」を前提とすると、1号はどのように作動することになるでしょうか。
B
↓ 配偶者特別控除?
A
↓ 配偶者特別控除?
C
まず、先にAがCを「特定配偶者」(造語)としている場合に、BがAを「特定配偶者」とできるかどうかを考えます。
B
↓ 配偶者特別控除?
A
↓ 配偶者特別控除
C
(前提問題として、AがCを配偶者として選択してる場合に、BにとってAは配偶者に該当するのかという問題があります。が、以下では配偶者に該当する前提で話を進めます。)
この場合は、Aは居住者として配偶者特別控除の適用を受けてしまっているため、BはAを「特定配偶者」とすることはできないことになります。
では、先にBがAを「特定配偶者」としていた場合、AはCを「特定配偶者」とすることができるか。
B
↓ 配偶者特別控除
A
↓ 配偶者特別控除?
C
Cは居住者として配偶者特別控除の適用を受けていないので、1号には該当せず。AはCを「特定配偶者」とすることができそうです。
が、Aが配偶者特別控除の適用を受けてしまうと、Bからみて「特定配偶者」であるAが、居住者として配偶者特別控除の適用を受けてしまったことになります。とすると、Bの適用を修正しなければならなくなります。
結果として、ABC間では、誰か1人しか配偶者特別控除を受けられないということになります。
◯
前回の記事の「3人兄弟」が、直列パターンだと1人しか適用を受けられないのは不当だと思ったのではないでしょうか。では、今回の配偶者の場合はどうお感じになるでしょうか。
「配偶者の場合は1人だけでいいじゃん」と思うだとしたら、やはり我々が異なる法域の秩序を(最低限の国内公序は維持しつつ)あるがままに受け入れるという心構えがまだ整っていない、ということのようにも思われます。
法適用通則法 第四十二条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。
もちろん、「私法秩序と税法秩序は別レイヤー」と理解することも可能ではあります。だとしても、そこでいう税法秩序とは何なのか、複数夫婦制に対するスタンスを明確にすべきように思います。「一人につき」と書いていない、なんて裏側から仄めかすのではなく。
◯
以上、税法と法適用通則法の関係性が、いまいちはっきりしないものの一事例でした。
まあ実務的には、
・配偶者控除等の控除額は増えない
・配偶者の所得要件は適用者が選択した配偶者によって判定する
・配偶者を扶養控除等に鞍替えすることはできない
・配偶者特別控除の適用者と特定配偶者は兼ねることができない
として運用していくしかないのかなあとは思います。
特定親族特別控除の条文構造
が、「複数夫婦制」を採用している国の婚姻法が適用される夫婦が日本の居住者である場合、「配偶者(特別)控除」の適用関係がどうなるか、ということは、別途検討が必要となるものです。
今回は、その点につき、軽く整理しておきます。
性別については、ニュートラルにするため、
一方の性 A
他方の性 BCD
と、特定の性に固定しない想定で記述します。
◯
「配偶者が複数人いても、配偶者控除・配偶者特別控除の控除額は増えない」ということ自体は、すでに人口に膾炙しているところかと思います(以下「配偶者控除等」とまとめます)。
条文上の根拠としては、扶養控除・特定親族特別控除(以下「扶養控除等」とまとめます)は「その控除対象扶養親族一人につき」「その特定親族一人につき」とあるのに、配偶者控除等にはその旨の文言がない、というところになります。
◯
ただ、この結論を導くにあたって、BCDのうち誰か1人だけが所得税法上の「配偶者」となるのか、それとも全員「配偶者」に該当するが控除額だけが頭打ちになるのか、いずれを前提としているかがはっきりしません。
所得税法上の「配偶者」は日本民法上のそれに固定されているのか、それとも法適用通則法を経由して外国民法の「配偶者」に読み替えられるのか、という問題です。
法適用通則法 第二十四条(婚姻の成立及び方式)
1 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。
2 婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。
3 前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。
【税法と法適用通則法】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その6)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その9)
どうせ人数頭打ちなんだから、どっちでも構わないだろ、と思われる方がいるかもしれません。が、配偶者側に所得要件があるため、誰の所得で判定するのかを決める必要があります。
また、「配偶者控除等」が適用できないなら「扶養控除等」に鞍替えできないか、という問題もあります。
一般には、扶養控除等が受けられる「親族」から「配偶者」が除外されているので鞍替えはできない、と理解されているかと思います。が、もしAがBを所得税法上の配偶者として「配偶者控除等」を選択するとCDは所得税法上の配偶者ではなくなる、のだとすると、CDを「親族」から除外できる根拠がなくなってしまいます。
そもそもの話、この「配偶者は親族に含まれるが税法で除外されている」というときに想定している「親族」は、日本民法における「親族」と理解してしまってよいのでしょうか。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
民法 第七百二十六条(親等の計算)
1 親等は、親族間の世代数を数えて、これを定める。
2 傍系親族の親等を定めるには、その一人又はその配偶者から同一の祖先にさかのぼり、その祖先から他の一人に下るまでの世代数による。
『配偶者・親族は借用概念である』というだけでは、なにひとつ解決できない問題が、ここにあるわけです(借用概念無能論)。
◯
結論的だけいえば、複数夫婦制が適用される夫婦において、
・配偶者控除等の控除額は増えない
・配偶者の所得要件は適用者が選択した配偶者によって判定する
・配偶者を扶養控除等に鞍替えすることはできない
ということになりそうです。
が、そのことを整合的に導くためのロジックが、税法側できちんと手当てされていないように思うわけです。
◯
さらなる問題が、配偶者特別控除における「適用除外ルール」がどのように作動するか、という点です。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
2 前項の規定は、同項に規定する生計を一にする配偶者が、次に掲げる場合に該当するときは、適用しない。
一 当該配偶者が前項に規定する居住者として同項の規定の適用を受けている場合
二 当該配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者が、その年分の所得税につき、第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
三 当該配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第二百三条の三第一号から第三号まで(徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者がその年分の所得税につき確定申告書の提出をし、又は決定を受けた者である場合を除く。)
前回の記事では、「一夫一妻制」を前提に、1号の規範を「夫婦どちらかしか受けられない」と表現しました(以下1号のみを想定し、2号は省略します)。
では、「複数夫婦制」を前提とすると、1号はどのように作動することになるでしょうか。
B
↓ 配偶者特別控除?
A
↓ 配偶者特別控除?
C
まず、先にAがCを「特定配偶者」(造語)としている場合に、BがAを「特定配偶者」とできるかどうかを考えます。
B
↓ 配偶者特別控除?
A
↓ 配偶者特別控除
C
(前提問題として、AがCを配偶者として選択してる場合に、BにとってAは配偶者に該当するのかという問題があります。が、以下では配偶者に該当する前提で話を進めます。)
この場合は、Aは居住者として配偶者特別控除の適用を受けてしまっているため、BはAを「特定配偶者」とすることはできないことになります。
では、先にBがAを「特定配偶者」としていた場合、AはCを「特定配偶者」とすることができるか。
B
↓ 配偶者特別控除
A
↓ 配偶者特別控除?
C
Cは居住者として配偶者特別控除の適用を受けていないので、1号には該当せず。AはCを「特定配偶者」とすることができそうです。
が、Aが配偶者特別控除の適用を受けてしまうと、Bからみて「特定配偶者」であるAが、居住者として配偶者特別控除の適用を受けてしまったことになります。とすると、Bの適用を修正しなければならなくなります。
結果として、ABC間では、誰か1人しか配偶者特別控除を受けられないということになります。
◯
前回の記事の「3人兄弟」が、直列パターンだと1人しか適用を受けられないのは不当だと思ったのではないでしょうか。では、今回の配偶者の場合はどうお感じになるでしょうか。
「配偶者の場合は1人だけでいいじゃん」と思うだとしたら、やはり我々が異なる法域の秩序を(最低限の国内公序は維持しつつ)あるがままに受け入れるという心構えがまだ整っていない、ということのようにも思われます。
法適用通則法 第四十二条(公序)
外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。
もちろん、「私法秩序と税法秩序は別レイヤー」と理解することも可能ではあります。だとしても、そこでいう税法秩序とは何なのか、複数夫婦制に対するスタンスを明確にすべきように思います。「一人につき」と書いていない、なんて裏側から仄めかすのではなく。
◯
以上、税法と法適用通則法の関係性が、いまいちはっきりしないものの一事例でした。
まあ実務的には、
・配偶者控除等の控除額は増えない
・配偶者の所得要件は適用者が選択した配偶者によって判定する
・配偶者を扶養控除等に鞍替えすることはできない
・配偶者特別控除の適用者と特定配偶者は兼ねることができない
として運用していくしかないのかなあとは思います。
posted by ウロ at 08:32| Comment(0)
| 所得税法
2025年05月12日
特定親族特別控除の条文構造
令和7年税制改正により、「特定親族特別控除」が新設されたわけですが。
「控除額」などは、巷の《税務お役立ち記事》をご参照いただくとして。当ブログでは、誰のニーズもない「条文構造」の確認をしておきます。
いろんな配偶者(所得控除編)
いろんな親族(所得控除編)
◯
対比用として、既存の「配偶者特別控除」の条文構造から確認します。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
1 居住者が生計を一にする配偶者(第二条第一項第三十三号(定義)に規定する青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が百三十三万円以下であるものに限る。)で控除対象配偶者に該当しないもの(合計所得金額が千万円以下である当該居住者の配偶者に限る。)を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
(略)
生計を一にする配偶者
配偶者の合計所得金額133万円以下
本人の合計所得金額1,000万円以下
控除対象配偶者除く
事業専従者(青色、白色)除く
「103万円の壁」の底上げがあったわけですが、配偶者特別控除の条文上は何の影響もありません。
同一生計配偶者→控除対象配偶者の合計所得金額がアップしたことにより、結果として「控除対象配偶者に該当しないもの」の範囲が拡大し、配偶者特別控除の下限がアップした。が、上限は据え置きなので条文の書き換えがされていない、ということになっています。
どういうわけだか分かりませんが、配偶者特別控除の対象となる配偶者については、専用の用語が用意されていません(アンネームド)。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
2 前項の規定は、同項に規定する生計を一にする配偶者が、次に掲げる場合に該当するときは、適用しない。
一 当該配偶者が前項に規定する居住者として同項の規定の適用を受けている場合
二 当該配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者が、その年分の所得税につき、第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
三 当該配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第二百三条の三第一号から第三号まで(徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者がその年分の所得税につき確定申告書の提出をし、又は決定を受けた者である場合を除く。)
適用除外となるパターンが列挙されています。「配偶者控除」と違って、配偶者ポジションとなる人自身にも税額が発生するがゆえの手当てです。
以下、叙述の都合上、配偶者特別控除の対象となる配偶者を「特定配偶者」と呼びます(あくまでも便宜であって、条文上の用語ではないです)。
1号
AがBを特定配偶者としている場合、BはAを特定配偶者とすることはできない。
日本の民法では「一夫一妻制」を採用しておりますので、「夫婦どちらかしか、配偶者特別控除は適用できない」と言い換えることができます。
2号・3号
Aが、Bを「源泉控除対象配偶者」として源泉徴収されている場合、BはAを特定配偶者とすることはできない。
月次の源泉徴収の段階で扶養1人として反映しているのも除外する、ということです。
括弧書きで、Aが「確定申告」していれば除くとある理由。
確定申告の結果、AがBを特定配偶者としなければ、BはAを特定配偶者としてもよいことになります。他方で、AがBを特定配偶者とした場合は、2号・3号は適用されないものの、1号によりBはAを特定配偶者とすることはできないこととなります。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
3 第一項の規定による控除は、配偶者特別控除という。
「見出しに書いてあるからいいだろ」ではなく。きちんと本文で名乗りをあげてくれています(偉いね)。
◯
さて、本論である「特定親族特別控除」について。「配偶者特別控除」との違いを意識しながら整理します。
所得税法 第八十四条の二(特定親族特別控除)
1 居住者が生計を一にする年齢十九歳以上二十三歳未満の親族(その居住者の配偶者を除く。)及び児童福祉法第二十七条第一項第三号(都道府県の採るべき措置)の規定により同法第六条の四(定義)に規定する里親に委託された児童(第五十七条第一項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するものを除くものとし、合計所得金額が百二十三万円以下であるものに限る。)で控除対象扶養親族に該当しないもの(以下この項及び次項において「特定親族」という。)を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その特定親族一人につきその特定親族の次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
(略)
「特定親族」
生計を一にする親族(配偶者除く)・里子
特定親族の合計所得金額123万円以下
控除対象扶養親族除く
事業専従者(青色、白色)除く
配偶者特別控除とは異なり、「特定親族」という名称が与えられています(ネームド)。
配偶者は「法律婚」による配偶者しか対象にならないから、むき出しの配偶者だけでよいのに対し。ここでは「里子」を含めるため、あえて専用の用語を用意したのでしょうか。
合計所得金額の上限がズレているという、そこはかとないキモさはさておき。下限が「控除対象扶養親族」に影響されるという構造は、配偶者特別控除と同じです。
居住者本人(以下「適用者」といいます)側の所得要件は課されていません。
所得税法 第八十四条の二(特定親族特別控除)
2 前項の規定は、次に掲げる場合に該当するときは、適用しない。
一 特定親族が前項に規定する居住者として同項の規定の適用を受けている場合
二 特定親族が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象親族(特定親族に限る。)がある居住者として第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該居住者としてこれらの規定の適用を受けている特定親族が、その年分の所得税につき、第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
三 前二号に掲げる場合のほか、政令で定める場合
こちらでも、適用除外となるパターンが列挙されています。これも「扶養控除」と違って特定親族側に税額が発生するがゆえの手当てです。
が、「一夫一妻制」による外在的制約がかからないゆえ、規律の仕方が異なっています。
(なお、これら適用除外ルールは「税制改正大綱」には明記されていなかったものです。そのため、「大綱読めども条文読まず」な巷の《税務お役立ち記事》では、改正法が成立した今現在に至っても、適用除外ルールに触れないものがほとんどです。)
法1号
具体例が適切かどうかわからないのですが。
たとえばA(22歳)・B(21歳)・C(20歳)の3人兄弟(生計一)がいたとして。Bが、Cを「特定親族」として「特定親族特別控除」を受けている場合、AはBを「特定親族」とすることはできない、ということになります。
A
↓ 適用不可
B
↓ 特定親族特別控除
C
法2号
意味合いは、上記の配偶者の場合と同じです。が、夫婦と違ってA⇔B相互に限られるわけではありません。
上記3人兄弟の例でいうと、Bが、Cを「源泉控除対象親族(特定親族に限る)」としている場合、AはBを「特定親族」とすることはできない、ということになります。Bが確定申告した場合の規律は、配偶者の場合と同じです。
A
↓ 適用不可
B
↓ 源泉控除対象親族
C
ただ、「源泉控除対象親族」を「特定親族」に限定している理由が、よく分からなくって。
「控除対象扶養親族」ならどうせ税額出ないんだから、除外しなくたって問題ないだろ、という舐めプからなのか。そうだとすると、配偶者特別控除の場合に、「源泉控除対象配偶者」が何らの限定無しに丸ごと除外されていることと、整合しないように思うのですが。
法3号の政令は次のとおり。
所得税法施行令 第二百十七条の三(特定親族特別控除を適用しない場合)
法第八十四条の二第二項第三号(特定親族特別控除)に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 他の者が、法第八十四条の二第一項に規定する居住者を、当該他の者の提出した法第百九十四条第八項(給与所得者の扶養控除等申告書)に規定する給与所得者の扶養控除等申告書又は法第百九十五条第六項(従たる給与についての扶養控除等申告書)に規定する従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象親族(法第八十四条の二第一項に規定する特定親族(第二百十八条の二(二以上の居住者がある場合の生計を一にする配偶者の所属)及び第二百十九条(二以上の居住者がある場合の扶養親族及び特定親族の所属)において「特定親族」という。)に限る。次号において同じ。)として、法第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該他の者が、その年分の所得税につき、法第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
二 他の者が、法第八十四条の二第一項に規定する居住者を、当該他の者の提出した法第二百三条の六第八項(公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)に規定する公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象親族として、法第二百三条の三第一号から第三号まで(徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該他の者がその年分の所得税につき確定申告書の提出をし、又は決定を受けた者である場合を除く。)
令1号・2号
3人兄弟の例でいうと、AがBを「源泉控除対象親族(特定親族に限る)」としている場合、Bは「特定親族特別控除」を受けられないということになります。
A
↓ 源泉控除対象親族
B
↓ 適用不可
C
法2号が、Bが「特定親族」となれるかから規律しているのに対し、令1号・2号はBが「適用者」となれるかどうかから規律しています。
法に令2号に対応する「公的年金」のルールがないのは、年齢的にありえないからでしょうかね(上記例でも、Aを年金受給年齢に設定する必要あり)。頭のよろしい財務省のお役人様がお作りになっているのですから、きっちり手当てされているはずですよね。
・
これらの適用除外パターン、「規範」として記述するのがしんどいということで、「具体例」としてしか記述していません。もちろん一例にすぎませんので、全てのパターンを網羅できていません。
おそらく「同一人が適用者と特定親族の両方になることはできない」ということだと思うのですが。これで正確に規範化できているかどうか怪しい。
一夫一妻制における配偶者特別控除が「どちらかしか適用受けられない」と簡略的に説明できたのと、次元が異なるわけです。
条文→規範化→具体例
現実には、それほどあるものだとは思えません。が、むしろそれゆえにこそ、適用除外のルールについては慎重な対応が必要になりそうです。
・
適用除外のルール、上記のように読み取りましたが。このような理解が妥当なのか、疑問がないわけではありません。
たとえば、AがBC2人を「特定親族」とすることは可能です。他方で、上記の例でAがBを、BがCをそれぞれ「特定親族」とすることは除外されてしまいます。
同じく生計一の3人兄弟でこのような違いが出ることに、合理的な理由はあるでしょうか。配偶者特別控除のようなAB2人しかいない場合と、同じようなルールで規律するのがおかしいのではないでしょうか。
解釈論として、適用者や特定親族を「相対的概念」と理解し、AB間とBC間を切り離して考える、という筋もありうるかとも考えてみましたが。
令218〜219条の所属ルールは、「絶対的概念」と理解するからこそ必要なルールなわけで。現行法の解釈としては、BC間でBが適用者ならば、AB間でもBは本控除の受けた者と理解せざるを得ないのでしょう。
「相対的概念」と理解してしまうと、A→B→C→Aという感じで、2人どころか3人とも適用受けられることにもなってしまいますし(いわゆるウロボロス状態)。
と、除外範囲おかしくないか、という疑問はあるものの。さしあたり、上記のとおり「絶対的概念」として理解しておきます。
第八十四条の二(特定親族特別控除)
3 第一項の規定による控除は、特定親族特別控除という。
名乗りをあげてくれるのは同じ。
◯
配偶者と親族とで用語を対比すると次のとおりとなります。
【無理やり用語対比】
同一生計配偶者 ⇔扶養親族
控除対象配偶者 ⇔控除対象扶養親族
⇔特定扶養親族
老人控除対象配偶者 ⇔老人扶養親族
特定配偶者(なし) ⇔特定親族(NEW!)
源泉控除対象配偶者 ⇔源泉控除対象親族(NEW!)
「配偶者特別控除」を受けられる配偶者を表す用語が欠けているという、謎の状態になっています。
一応、新設された「源泉控除対象親族」の条文は以下の通り。
所得税法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十四の五 源泉控除対象親族
控除対象扶養親族並びに居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)及び児童福祉法第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四に規定する里親に委託された児童でその居住者と生計を一にするもの(青色事業専従者等を除く。)のうち年齢十九歳以上二十三歳未満の者で合計所得金額が百万円以下であるもの(控除対象扶養親族に該当しないものに限る。)をいう。
従前は「控除対象扶養親族」=源泉控除対象だったのに対し。「特定親族」のごく一部も源泉控除対象に取り込んだゆえ、専用の用語が新設されたわけです。
源泉控除対象配偶者とは所得要件がずれています。
「控除額」などは、巷の《税務お役立ち記事》をご参照いただくとして。当ブログでは、誰のニーズもない「条文構造」の確認をしておきます。
いろんな配偶者(所得控除編)
いろんな親族(所得控除編)
◯
対比用として、既存の「配偶者特別控除」の条文構造から確認します。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
1 居住者が生計を一にする配偶者(第二条第一項第三十三号(定義)に規定する青色事業専従者等を除くものとし、合計所得金額が百三十三万円以下であるものに限る。)で控除対象配偶者に該当しないもの(合計所得金額が千万円以下である当該居住者の配偶者に限る。)を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
(略)
生計を一にする配偶者
配偶者の合計所得金額133万円以下
本人の合計所得金額1,000万円以下
控除対象配偶者除く
事業専従者(青色、白色)除く
「103万円の壁」の底上げがあったわけですが、配偶者特別控除の条文上は何の影響もありません。
同一生計配偶者→控除対象配偶者の合計所得金額がアップしたことにより、結果として「控除対象配偶者に該当しないもの」の範囲が拡大し、配偶者特別控除の下限がアップした。が、上限は据え置きなので条文の書き換えがされていない、ということになっています。
どういうわけだか分かりませんが、配偶者特別控除の対象となる配偶者については、専用の用語が用意されていません(アンネームド)。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
2 前項の規定は、同項に規定する生計を一にする配偶者が、次に掲げる場合に該当するときは、適用しない。
一 当該配偶者が前項に規定する居住者として同項の規定の適用を受けている場合
二 当該配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者が、その年分の所得税につき、第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
三 当該配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として第二百三条の三第一号から第三号まで(徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該配偶者がその年分の所得税につき確定申告書の提出をし、又は決定を受けた者である場合を除く。)
適用除外となるパターンが列挙されています。「配偶者控除」と違って、配偶者ポジションとなる人自身にも税額が発生するがゆえの手当てです。
以下、叙述の都合上、配偶者特別控除の対象となる配偶者を「特定配偶者」と呼びます(あくまでも便宜であって、条文上の用語ではないです)。
1号
AがBを特定配偶者としている場合、BはAを特定配偶者とすることはできない。
日本の民法では「一夫一妻制」を採用しておりますので、「夫婦どちらかしか、配偶者特別控除は適用できない」と言い換えることができます。
2号・3号
Aが、Bを「源泉控除対象配偶者」として源泉徴収されている場合、BはAを特定配偶者とすることはできない。
月次の源泉徴収の段階で扶養1人として反映しているのも除外する、ということです。
括弧書きで、Aが「確定申告」していれば除くとある理由。
確定申告の結果、AがBを特定配偶者としなければ、BはAを特定配偶者としてもよいことになります。他方で、AがBを特定配偶者とした場合は、2号・3号は適用されないものの、1号によりBはAを特定配偶者とすることはできないこととなります。
所得税法 第八十三条の二(配偶者特別控除)
3 第一項の規定による控除は、配偶者特別控除という。
「見出しに書いてあるからいいだろ」ではなく。きちんと本文で名乗りをあげてくれています(偉いね)。
◯
さて、本論である「特定親族特別控除」について。「配偶者特別控除」との違いを意識しながら整理します。
所得税法 第八十四条の二(特定親族特別控除)
1 居住者が生計を一にする年齢十九歳以上二十三歳未満の親族(その居住者の配偶者を除く。)及び児童福祉法第二十七条第一項第三号(都道府県の採るべき措置)の規定により同法第六条の四(定義)に規定する里親に委託された児童(第五十七条第一項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第三項に規定する事業専従者に該当するものを除くものとし、合計所得金額が百二十三万円以下であるものに限る。)で控除対象扶養親族に該当しないもの(以下この項及び次項において「特定親族」という。)を有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から、その特定親族一人につきその特定親族の次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
(略)
「特定親族」
生計を一にする親族(配偶者除く)・里子
特定親族の合計所得金額123万円以下
控除対象扶養親族除く
事業専従者(青色、白色)除く
配偶者特別控除とは異なり、「特定親族」という名称が与えられています(ネームド)。
配偶者は「法律婚」による配偶者しか対象にならないから、むき出しの配偶者だけでよいのに対し。ここでは「里子」を含めるため、あえて専用の用語を用意したのでしょうか。
合計所得金額の上限がズレているという、そこはかとないキモさはさておき。下限が「控除対象扶養親族」に影響されるという構造は、配偶者特別控除と同じです。
居住者本人(以下「適用者」といいます)側の所得要件は課されていません。
所得税法 第八十四条の二(特定親族特別控除)
2 前項の規定は、次に掲げる場合に該当するときは、適用しない。
一 特定親族が前項に規定する居住者として同項の規定の適用を受けている場合
二 特定親族が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象親族(特定親族に限る。)がある居住者として第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該居住者としてこれらの規定の適用を受けている特定親族が、その年分の所得税につき、第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
三 前二号に掲げる場合のほか、政令で定める場合
こちらでも、適用除外となるパターンが列挙されています。これも「扶養控除」と違って特定親族側に税額が発生するがゆえの手当てです。
が、「一夫一妻制」による外在的制約がかからないゆえ、規律の仕方が異なっています。
(なお、これら適用除外ルールは「税制改正大綱」には明記されていなかったものです。そのため、「大綱読めども条文読まず」な巷の《税務お役立ち記事》では、改正法が成立した今現在に至っても、適用除外ルールに触れないものがほとんどです。)
法1号
具体例が適切かどうかわからないのですが。
たとえばA(22歳)・B(21歳)・C(20歳)の3人兄弟(生計一)がいたとして。Bが、Cを「特定親族」として「特定親族特別控除」を受けている場合、AはBを「特定親族」とすることはできない、ということになります。
A
↓ 適用不可
B
↓ 特定親族特別控除
C
法2号
意味合いは、上記の配偶者の場合と同じです。が、夫婦と違ってA⇔B相互に限られるわけではありません。
上記3人兄弟の例でいうと、Bが、Cを「源泉控除対象親族(特定親族に限る)」としている場合、AはBを「特定親族」とすることはできない、ということになります。Bが確定申告した場合の規律は、配偶者の場合と同じです。
A
↓ 適用不可
B
↓ 源泉控除対象親族
C
ただ、「源泉控除対象親族」を「特定親族」に限定している理由が、よく分からなくって。
「控除対象扶養親族」ならどうせ税額出ないんだから、除外しなくたって問題ないだろ、という舐めプからなのか。そうだとすると、配偶者特別控除の場合に、「源泉控除対象配偶者」が何らの限定無しに丸ごと除外されていることと、整合しないように思うのですが。
法3号の政令は次のとおり。
所得税法施行令 第二百十七条の三(特定親族特別控除を適用しない場合)
法第八十四条の二第二項第三号(特定親族特別控除)に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 他の者が、法第八十四条の二第一項に規定する居住者を、当該他の者の提出した法第百九十四条第八項(給与所得者の扶養控除等申告書)に規定する給与所得者の扶養控除等申告書又は法第百九十五条第六項(従たる給与についての扶養控除等申告書)に規定する従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象親族(法第八十四条の二第一項に規定する特定親族(第二百十八条の二(二以上の居住者がある場合の生計を一にする配偶者の所属)及び第二百十九条(二以上の居住者がある場合の扶養親族及び特定親族の所属)において「特定親族」という。)に限る。次号において同じ。)として、法第百八十五条第一項第一号若しくは第二号(賞与以外の給与等に係る徴収税額)又は第百八十六条第一項第一号若しくは第二項第一号(賞与に係る徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該他の者が、その年分の所得税につき、法第百九十条(年末調整)の規定の適用を受けた者である場合又は確定申告書の提出をし、若しくは決定を受けた者である場合を除く。)
二 他の者が、法第八十四条の二第一項に規定する居住者を、当該他の者の提出した法第二百三条の六第八項(公的年金等の受給者の扶養親族等申告書)に規定する公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象親族として、法第二百三条の三第一号から第三号まで(徴収税額)の規定の適用を受けている場合(当該他の者がその年分の所得税につき確定申告書の提出をし、又は決定を受けた者である場合を除く。)
令1号・2号
3人兄弟の例でいうと、AがBを「源泉控除対象親族(特定親族に限る)」としている場合、Bは「特定親族特別控除」を受けられないということになります。
A
↓ 源泉控除対象親族
B
↓ 適用不可
C
法2号が、Bが「特定親族」となれるかから規律しているのに対し、令1号・2号はBが「適用者」となれるかどうかから規律しています。
法に令2号に対応する「公的年金」のルールがないのは、年齢的にありえないからでしょうかね(上記例でも、Aを年金受給年齢に設定する必要あり)。頭のよろしい財務省のお役人様がお作りになっているのですから、きっちり手当てされているはずですよね。
・
これらの適用除外パターン、「規範」として記述するのがしんどいということで、「具体例」としてしか記述していません。もちろん一例にすぎませんので、全てのパターンを網羅できていません。
おそらく「同一人が適用者と特定親族の両方になることはできない」ということだと思うのですが。これで正確に規範化できているかどうか怪しい。
一夫一妻制における配偶者特別控除が「どちらかしか適用受けられない」と簡略的に説明できたのと、次元が異なるわけです。
条文→規範化→具体例
現実には、それほどあるものだとは思えません。が、むしろそれゆえにこそ、適用除外のルールについては慎重な対応が必要になりそうです。
・
適用除外のルール、上記のように読み取りましたが。このような理解が妥当なのか、疑問がないわけではありません。
たとえば、AがBC2人を「特定親族」とすることは可能です。他方で、上記の例でAがBを、BがCをそれぞれ「特定親族」とすることは除外されてしまいます。
同じく生計一の3人兄弟でこのような違いが出ることに、合理的な理由はあるでしょうか。配偶者特別控除のようなAB2人しかいない場合と、同じようなルールで規律するのがおかしいのではないでしょうか。
解釈論として、適用者や特定親族を「相対的概念」と理解し、AB間とBC間を切り離して考える、という筋もありうるかとも考えてみましたが。
令218〜219条の所属ルールは、「絶対的概念」と理解するからこそ必要なルールなわけで。現行法の解釈としては、BC間でBが適用者ならば、AB間でもBは本控除の受けた者と理解せざるを得ないのでしょう。
「相対的概念」と理解してしまうと、A→B→C→Aという感じで、2人どころか3人とも適用受けられることにもなってしまいますし(いわゆるウロボロス状態)。
と、除外範囲おかしくないか、という疑問はあるものの。さしあたり、上記のとおり「絶対的概念」として理解しておきます。
第八十四条の二(特定親族特別控除)
3 第一項の規定による控除は、特定親族特別控除という。
名乗りをあげてくれるのは同じ。
◯
配偶者と親族とで用語を対比すると次のとおりとなります。
【無理やり用語対比】
同一生計配偶者 ⇔扶養親族
控除対象配偶者 ⇔控除対象扶養親族
⇔特定扶養親族
老人控除対象配偶者 ⇔老人扶養親族
特定配偶者(なし) ⇔特定親族(NEW!)
源泉控除対象配偶者 ⇔源泉控除対象親族(NEW!)
「配偶者特別控除」を受けられる配偶者を表す用語が欠けているという、謎の状態になっています。
一応、新設された「源泉控除対象親族」の条文は以下の通り。
所得税法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十四の五 源泉控除対象親族
控除対象扶養親族並びに居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)及び児童福祉法第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四に規定する里親に委託された児童でその居住者と生計を一にするもの(青色事業専従者等を除く。)のうち年齢十九歳以上二十三歳未満の者で合計所得金額が百万円以下であるもの(控除対象扶養親族に該当しないものに限る。)をいう。
従前は「控除対象扶養親族」=源泉控除対象だったのに対し。「特定親族」のごく一部も源泉控除対象に取り込んだゆえ、専用の用語が新設されたわけです。
源泉控除対象配偶者とは所得要件がずれています。
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| 所得税法
2025年03月03日
一時所得がキモいのだが。
一時所得と雑所得の関係について、一般に、雑所得が最終的なバスケットカテゴリーであり、一時所得はその手前に位置している、と理解されているように思われます。
利子所得等 →一時所得(利子所得等以外) →雑所得(一時所得以外)
確かに、法35条の書きぶりだけをみると、そのような理解に至ってしまうのも分かります。
法第三十五条(雑所得)
1 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
が、法34条のほうを読んでみると、そのような理解は不正確ではないか、と感じるわけです。
法第三十四条(一時所得)
1 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
1つ目の「以外」は(利子所得等以外)を意味するとして。2つ目の「以外」は何なんだよと。しかも、その後ろに「有しない」とさらに否定形が出てくるし。
ということで、今回はこのあたりの違和感を言語化してみます。
◯
法34条に規定されている、一時所得該当性の要件を抽出すると、次の通りとなります。
要件1
利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得
要件2
営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外(の所得)
要件3
一時の所得
要件4
ア 労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの
イ 資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの
このような、消極要件だらけの一時所得につき、「課税要件事実論」を展開されている方々からはどのような理解がなされるのか、非常に興味のあるところ。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
ですが、今回はこの点については触れず、あくまでも実体要件レベルで論じます。
・
まず、要件1それ自体は、まあ当然だと。ただ、別途、要件4が要求されていることにつき、説明が必要ではないかと思います。
ア「労務」の対価なのであれば、それは「給与所得」に該当するのではないか(なので要件4は不要では)、と疑問に思う方がいるかもしれません。
これは、「労務」の対価としての性質をもっていたとしても、必ずしも「給与所得」になるとはかぎらず。雑所得にもなりうるという前提があるということです(これが「役務」となると「給与所得/事業所得/雑所得」と広がります)。
イ「資産の譲渡」のほうも同様で、「譲渡所得」「事業所得」のほかに、「雑所得」にもあたりうるという前提があるということです。
役務の対価(としての性質を有するもの) :給与所得/事業所得/雑所得
資産の譲渡の対価(としての性質を有するもの):譲渡所得/事業所得/雑所得
それゆえ、要件1とは別に要件4を要求し、「雑所得」になるものを除外しているということです。
ちなみに、要件1と4がこのような関係だとすると。
たとえば「資産の譲渡の対価」にあたることが明らかな場合、まず要件1で譲渡所得or事業所得に該当するかを判定し、それから要件4の判定をする、などという迂路を経由する必要はなく。端的に要件4イに該当することがいえれば、「一時所得でない」と結論づけることができます。
・
要件2では、営利かつ継続的行為である場合に、一時所得から除外されることとされています。
A 営利+継続的行為 →除外(雑所得へ)
B 営利+単発的行為
C 非営利+継続的行為
D 非営利+単発的行為
除外されるAは、要件1「のうち」とされていることから、必然的に「雑所得」に該当することになります。
条文上、「継続的行為」とされているとおり、ここで除外されるのは所得が発生する原因となる「行為」が継続的かどうかで判定するということです。
所得それ自体が継続/単発かは、要件3として別に要求されています。
・
要件3が、唯一の「積極要件」となっています。
要件2のBCDにあたる行為によるものであっても、得られる所得が「一時」でなければ、一時所得にはならないということです。
◯
以上を踏まえて。
要件1で利子所得等にあたる所得を除外し、要件3で積極的に「一時の所得」にあたるものを一時所得で受け止める、というかぎりでは、
利子所得等 →一時所得(利子所得等以外) →雑所得(一時所得以外)
という序列であることに違和感はありません(雑所得がバスケット)。
ところが、要件2と4は、「雑所得に該当しないものを一時所得とする」という書きぶりであり、むしろ、以下のようなポジションとなっているように読めるわけです(一時所得がバスケット)。
利子所得等 →雑所得(利子所得等以外) →一時所得(雑所得以外)
この2つを整合させるために、一時所得/雑所得を直列一本に並べるのではなく、積極要件(要件2、4)を満たす雑所得Tと、すべての所得類型該当性が否定された末の雑所得Uを分岐させてみたらどうでしょうか。
利子所得等 →雑所得T(利子所得等以外)
→一時所得(利子所得等以外) →雑所得U(一時所得等以外)
要件1: 一時所得/雑所得共通の要件
→他の所得にあたらなければ、一時所得or雑所得の判定をスタートさせる
要件2、4: 雑所得に振り分けるための要件
→これらに該当したら、雑所得Tとなる。
要件3: 一時所得固有の要件
→これに該当したら一時所得、該当しなかったら雑所得U
常に一時の所得かどうか(要件3)を判定しなければ、雑所得該当性に進めないというのではなく。雑所得の判定が先にくるパターンもありうる、ということです。
これは、あくまでも思考プロセスの問題にすぎません。
が、「否定してばかりの」法34条がすんなり理解できない人は、同条が(一時所得の消極要件を定めていると同時に)雑所得の積極要件を定めていると捉えると、理解しやすくなるのではないでしょうか。
【利子所得等以外の所得】
・雑所得T
営利を目的とする継続的行為から生じた所得(=業務に係る所得)
労務その他の役務の対価としての性質を有する所得
資産の譲渡の対価としての性質を有する所得
・一時所得
一時の所得
・雑所得U
公的年金等に係る所得
その他いずれにも該当しない所得
法35条の書きぶりだと、一番最後の「いずれにも該当しない所得」だけが雑所得であるかのように誤解してしまいます。が、法34条の規律をあわせて考えると、上記のような編成になっていることが理解できるかと思います。
なお、「公的年金等」は、要件124は満たすが3を満たさない、ということで雑所得Uに流れてくることになるはずです。
本来であれば、「年金所得」という独立のカテゴリーがあってもおかしくないのですが、おそらく所得分類を増やしたくない、という理由で、雑所得に押し込められているのでしょう。
◯
完全なる邪推ですが。
「包括的所得概念」を採用したことの宣言的効果を狙って、どうしても、法35条のように「他の所得類型のどれにも該当しなくても、必ず課税するぞ」という表現にしたかったのではないか、と思われます。
法34条の要件2,4が果たすべき機能を素直に表現するならば、「雑所得以外の所得」と書くべきところです。が、これだと「包括的所得概念」宣言規定たる法35条との間で無限ループが生じてしまいます。
それゆえ、要件2、4のように、正面から「雑所得」という用語を使わない書き方をせざるを得なかったのではないかと。
もちろん、このような理解、実際の沿革とは異なるでしょう。
が、現行法における一時所得/雑所得の関係につき、条文の書きぶりと実際の中身を整合的に説明しようと思ったら、このような説明をするしかないんじゃないですかね。
そもそも、一時所得に課税していることも、現行法が「包括的所得概念」を採用していることを正当化する根拠となるのであって。
無理に雑所得だけを最後尾に配置する必要はなく。一時所得・雑所得とが相まって、他の所得からこぼれ落ちる所得を拾い上げている、と理解すればいいと思います。
・
ということで、「一時所得がキモい」と感じたのは、法35条の雑所得を最終的なバスケットカテゴリーとして記述しようとしたしわ寄せで、法34条を不自然な書き方にせざるをえなかった、ということかと思います。
一時所得は被害者であるにもかかわらず、「キモい」呼ばわりしてしまい、申し訳ありませんでした。
◯
ちなみに、「一時所得にとっては消極要件なのに雑所得にとっては積極要件」など、税法世界においては、積極/消極といった表裏、あるいは納税者にとっての有利/不利は、状況によってひっくり返ることがしばしばあります。
にも関わらず、「課税要件事実論」を展開されている方々は、こういったことにまるで無頓着。ただ単に「民事要件事実論」を横流しすればすむ、と思っているようなフシがあるように、私には感じられるところです。
利子所得等 →一時所得(利子所得等以外) →雑所得(一時所得以外)
確かに、法35条の書きぶりだけをみると、そのような理解に至ってしまうのも分かります。
法第三十五条(雑所得)
1 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
が、法34条のほうを読んでみると、そのような理解は不正確ではないか、と感じるわけです。
法第三十四条(一時所得)
1 一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
1つ目の「以外」は(利子所得等以外)を意味するとして。2つ目の「以外」は何なんだよと。しかも、その後ろに「有しない」とさらに否定形が出てくるし。
ということで、今回はこのあたりの違和感を言語化してみます。
◯
法34条に規定されている、一時所得該当性の要件を抽出すると、次の通りとなります。
要件1
利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得
要件2
営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外(の所得)
要件3
一時の所得
要件4
ア 労務その他の役務の対価としての性質を有しないもの
イ 資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの
このような、消極要件だらけの一時所得につき、「課税要件事実論」を展開されている方々からはどのような理解がなされるのか、非常に興味のあるところ。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
ですが、今回はこの点については触れず、あくまでも実体要件レベルで論じます。
・
まず、要件1それ自体は、まあ当然だと。ただ、別途、要件4が要求されていることにつき、説明が必要ではないかと思います。
ア「労務」の対価なのであれば、それは「給与所得」に該当するのではないか(なので要件4は不要では)、と疑問に思う方がいるかもしれません。
これは、「労務」の対価としての性質をもっていたとしても、必ずしも「給与所得」になるとはかぎらず。雑所得にもなりうるという前提があるということです(これが「役務」となると「給与所得/事業所得/雑所得」と広がります)。
イ「資産の譲渡」のほうも同様で、「譲渡所得」「事業所得」のほかに、「雑所得」にもあたりうるという前提があるということです。
役務の対価(としての性質を有するもの) :給与所得/事業所得/雑所得
資産の譲渡の対価(としての性質を有するもの):譲渡所得/事業所得/雑所得
それゆえ、要件1とは別に要件4を要求し、「雑所得」になるものを除外しているということです。
ちなみに、要件1と4がこのような関係だとすると。
たとえば「資産の譲渡の対価」にあたることが明らかな場合、まず要件1で譲渡所得or事業所得に該当するかを判定し、それから要件4の判定をする、などという迂路を経由する必要はなく。端的に要件4イに該当することがいえれば、「一時所得でない」と結論づけることができます。
・
要件2では、営利かつ継続的行為である場合に、一時所得から除外されることとされています。
A 営利+継続的行為 →除外(雑所得へ)
B 営利+単発的行為
C 非営利+継続的行為
D 非営利+単発的行為
除外されるAは、要件1「のうち」とされていることから、必然的に「雑所得」に該当することになります。
条文上、「継続的行為」とされているとおり、ここで除外されるのは所得が発生する原因となる「行為」が継続的かどうかで判定するということです。
所得それ自体が継続/単発かは、要件3として別に要求されています。
・
要件3が、唯一の「積極要件」となっています。
要件2のBCDにあたる行為によるものであっても、得られる所得が「一時」でなければ、一時所得にはならないということです。
◯
以上を踏まえて。
要件1で利子所得等にあたる所得を除外し、要件3で積極的に「一時の所得」にあたるものを一時所得で受け止める、というかぎりでは、
利子所得等 →一時所得(利子所得等以外) →雑所得(一時所得以外)
という序列であることに違和感はありません(雑所得がバスケット)。
ところが、要件2と4は、「雑所得に該当しないものを一時所得とする」という書きぶりであり、むしろ、以下のようなポジションとなっているように読めるわけです(一時所得がバスケット)。
利子所得等 →雑所得(利子所得等以外) →一時所得(雑所得以外)
この2つを整合させるために、一時所得/雑所得を直列一本に並べるのではなく、積極要件(要件2、4)を満たす雑所得Tと、すべての所得類型該当性が否定された末の雑所得Uを分岐させてみたらどうでしょうか。
利子所得等 →雑所得T(利子所得等以外)
→一時所得(利子所得等以外) →雑所得U(一時所得等以外)
要件1: 一時所得/雑所得共通の要件
→他の所得にあたらなければ、一時所得or雑所得の判定をスタートさせる
要件2、4: 雑所得に振り分けるための要件
→これらに該当したら、雑所得Tとなる。
要件3: 一時所得固有の要件
→これに該当したら一時所得、該当しなかったら雑所得U
常に一時の所得かどうか(要件3)を判定しなければ、雑所得該当性に進めないというのではなく。雑所得の判定が先にくるパターンもありうる、ということです。
これは、あくまでも思考プロセスの問題にすぎません。
が、「否定してばかりの」法34条がすんなり理解できない人は、同条が(一時所得の消極要件を定めていると同時に)雑所得の積極要件を定めていると捉えると、理解しやすくなるのではないでしょうか。
【利子所得等以外の所得】
・雑所得T
営利を目的とする継続的行為から生じた所得(=業務に係る所得)
労務その他の役務の対価としての性質を有する所得
資産の譲渡の対価としての性質を有する所得
・一時所得
一時の所得
・雑所得U
公的年金等に係る所得
その他いずれにも該当しない所得
法35条の書きぶりだと、一番最後の「いずれにも該当しない所得」だけが雑所得であるかのように誤解してしまいます。が、法34条の規律をあわせて考えると、上記のような編成になっていることが理解できるかと思います。
なお、「公的年金等」は、要件124は満たすが3を満たさない、ということで雑所得Uに流れてくることになるはずです。
本来であれば、「年金所得」という独立のカテゴリーがあってもおかしくないのですが、おそらく所得分類を増やしたくない、という理由で、雑所得に押し込められているのでしょう。
◯
完全なる邪推ですが。
「包括的所得概念」を採用したことの宣言的効果を狙って、どうしても、法35条のように「他の所得類型のどれにも該当しなくても、必ず課税するぞ」という表現にしたかったのではないか、と思われます。
法34条の要件2,4が果たすべき機能を素直に表現するならば、「雑所得以外の所得」と書くべきところです。が、これだと「包括的所得概念」宣言規定たる法35条との間で無限ループが生じてしまいます。
それゆえ、要件2、4のように、正面から「雑所得」という用語を使わない書き方をせざるを得なかったのではないかと。
もちろん、このような理解、実際の沿革とは異なるでしょう。
が、現行法における一時所得/雑所得の関係につき、条文の書きぶりと実際の中身を整合的に説明しようと思ったら、このような説明をするしかないんじゃないですかね。
そもそも、一時所得に課税していることも、現行法が「包括的所得概念」を採用していることを正当化する根拠となるのであって。
無理に雑所得だけを最後尾に配置する必要はなく。一時所得・雑所得とが相まって、他の所得からこぼれ落ちる所得を拾い上げている、と理解すればいいと思います。
・
ということで、「一時所得がキモい」と感じたのは、法35条の雑所得を最終的なバスケットカテゴリーとして記述しようとしたしわ寄せで、法34条を不自然な書き方にせざるをえなかった、ということかと思います。
一時所得は被害者であるにもかかわらず、「キモい」呼ばわりしてしまい、申し訳ありませんでした。
◯
ちなみに、「一時所得にとっては消極要件なのに雑所得にとっては積極要件」など、税法世界においては、積極/消極といった表裏、あるいは納税者にとっての有利/不利は、状況によってひっくり返ることがしばしばあります。
にも関わらず、「課税要件事実論」を展開されている方々は、こういったことにまるで無頓着。ただ単に「民事要件事実論」を横流しすればすむ、と思っているようなフシがあるように、私には感じられるところです。
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| 所得税法
2025年02月24日
いろんな親族(所得控除編)
前回に引き続き、今回は(配偶者以外の)「親族」について。
いろんな配偶者(所得控除編)
「親族」のほうは、配偶者以上に令和7年度改正によって影響を受けたところです。が、さしあたり所得要件の改正箇所のみ追記しておきました。
・
なお、単に「親族」というと配偶者も含んでしまいます。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
ですが、本記事では配偶者を除いた親族のことを「親族」ということにします。
ちなみに、所得税法の条文には、配偶者を含めた親族を表すときに、わざわざ「配偶者その他の親族」と、配偶者を頭出ししているところがあります。
配偶者を含めるならば、単に「親族」とだけいえばいいはずです(お前、借用概念なんだろ)。「高見沢俊彦その他のTHE ALFEE」なんていうのかって話ですよ(軽々しく例に出すのも失礼)。
他方で、他の箇所では「居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)」と、民法上の「親族」に忠実な用い方をしているところもあり。
文脈によって使い分けているのでしょうかね。
◯
前置きはさておき。
まず、2条(定義)で用意されているもの。
A 扶養親族
親族(配偶者除く)、里子、被養護老人
生計一
合計所得金額48(→58)万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象扶養親族
扶養親族
(居住者) 16歳以上
(非居住者)16歳以上30歳未満or70歳以上
留学・障害者・仕送り38万円(改正なし)
C 特定扶養親族
控除対象扶養親族
19歳以上23歳未満
D 老人扶養親族
控除対象扶養親族
70歳以上
配偶者の場合は「法律婚」単騎なのに対し。扶養親族の場合は、民法上の親族(養子はこちらに含む)だけでなく、里子や被養護老人(しかるべき略語が不明なため、そう略しておきます)も含むことになっています。
意外なことに、それらを含みながら「扶養親族等」などとはせず、シンプルに「扶養親族」とネーミングしています。
その他、配偶者と比較した場合、
・B 控除対象となるために、納税者所得は要求されていない
・B 源泉控除専用の用語が用意されていない(現時点では扶養控除あり=源泉控除あり)
・C 高等教育優遇(?、おおむね大学生に相当する年齢)がある
といった違いがあります。
【無理やり用語対比】
A 同一生計配偶者 ⇔A 扶養親族
B 控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族
⇔C 特定扶養親族
C 老人控除対象配偶者 ⇔D 老人扶養親族
D 源泉控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族(兼用)
こうやって用語を並べてみると、控除対象扶養親族に70歳以上が加わると、「老人控除対象扶養親族」とはせずに「控除対象」を外しているのとか、どういうつもりなのかよくわかりません(「老人配偶者」だと失礼っぽいから、老人感を薄めている?)。
なお、令和7年度改正で「特定親族特別控除」が導入されたことにより、「特定親族」と「源泉控除対象親族」という新規の用語が追加されました。
念のため。
配偶者は扶養親族から除かれているため、19〜23歳の配偶者は特定扶養親族にはなりませんからね。
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 親族が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・勤労学生控除
2 親族
・生命保険料控除
一般・介護: 親族(が受取人)
個人年金: なし
皆さんどれくらい真面目に処理されているのか知りませんが、配偶者以外の親族の場合、一般・介護と個人年金とで扱いが異なります。
3 生計を一にする親族
・雑損控除
生計を一にする親族(が有する資産)
総所得金額等48(→58)万円以下
扶養親族と違って親族所得要件が内蔵されていないため、外付けする必要があります。
合計所得金額ではなく総所得金額等としてるのが、芸が細かい。
・地震保険料控除
生計を一にする親族(が有する資産。納税者が支払ったもの)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする親族(納税者が支払ったもの)
この3つは、生計一で納税者が支払いさえすれば、親族の所得の多寡は問題とされないわけです。
4 生計を一にする子
・ひとり親控除
生計を一にする子
総所得金額等48(→58)万円以下
親族のうち、子だけを対象としています。
親のほうは「ひとり親」という名称が与えられていますが、子のほうは専用の用語がありません。
5 扶養親族
・障害者控除
扶養親族(が障害者)
・寡婦控除
扶養親族(を有すること) 離婚の場合
ひとり親に該当する場合はそちらが優先適用されることになっています。
(・所得金額調整控除)
扶養親族が障害者or23歳以下
所得控除ではありませんが、参考としてここに入れておきます。
6 控除対象扶養親族
・扶養控除
控除対象扶養親族
特定扶養親族、老人扶養親族は控除額アップ
・
こう並べてお気づきになったかどうか。
里子・被養護老人は、あくまでも「扶養親族」の中に含まれているものにすぎず。ゆえに、これらの人が対象となる所得控除は、5と6に出てくるものだけになります。
対象とならないもののうち、「医療費控除」あたりは特に問題がありそうですが、こういう理解で本当によいのかどうか。
また、ひとり親控除は4(生計を一にする子),寡婦控除は5(扶養親族)となっています。
そうすると、里子がいる人が離婚した場合、ひとり親控除はおよそ不可で、あとは寡婦控除の適用を検討するだけ、ということでよいのでしょうか。
当然ながら、男性里親は「寡婦」にはなりえないわけで。「ひとり親控除が新設されてよかったね」では済まない《性差別》があるように思うのですが(児童福祉法の規律は考慮せず、あくまでも所得税法内部の問題として考えています)。
◯
上述したとおり、このラインナップに「特定親族」「源泉控除対象親族」が加わりましたので、さらにしんどいことになりました。
いろんな配偶者(所得控除編)
「親族」のほうは、配偶者以上に令和7年度改正によって影響を受けたところです。が、さしあたり所得要件の改正箇所のみ追記しておきました。
・
なお、単に「親族」というと配偶者も含んでしまいます。
民法 第七百二十五条(親族の範囲)
次に掲げる者は、親族とする。
一 六親等内の血族
二 配偶者
三 三親等内の姻族
ですが、本記事では配偶者を除いた親族のことを「親族」ということにします。
ちなみに、所得税法の条文には、配偶者を含めた親族を表すときに、わざわざ「配偶者その他の親族」と、配偶者を頭出ししているところがあります。
配偶者を含めるならば、単に「親族」とだけいえばいいはずです(お前、借用概念なんだろ)。「高見沢俊彦その他のTHE ALFEE」なんていうのかって話ですよ(軽々しく例に出すのも失礼)。
他方で、他の箇所では「居住者の親族(その居住者の配偶者を除く。)」と、民法上の「親族」に忠実な用い方をしているところもあり。
文脈によって使い分けているのでしょうかね。
◯
前置きはさておき。
まず、2条(定義)で用意されているもの。
A 扶養親族
親族(配偶者除く)、里子、被養護老人
生計一
合計所得金額48(→58)万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象扶養親族
扶養親族
(居住者) 16歳以上
(非居住者)16歳以上30歳未満or70歳以上
留学・障害者・仕送り38万円(改正なし)
C 特定扶養親族
控除対象扶養親族
19歳以上23歳未満
D 老人扶養親族
控除対象扶養親族
70歳以上
配偶者の場合は「法律婚」単騎なのに対し。扶養親族の場合は、民法上の親族(養子はこちらに含む)だけでなく、里子や被養護老人(しかるべき略語が不明なため、そう略しておきます)も含むことになっています。
意外なことに、それらを含みながら「扶養親族等」などとはせず、シンプルに「扶養親族」とネーミングしています。
その他、配偶者と比較した場合、
・B 控除対象となるために、納税者所得は要求されていない
・B 源泉控除専用の用語が用意されていない(現時点では扶養控除あり=源泉控除あり)
・C 高等教育優遇(?、おおむね大学生に相当する年齢)がある
といった違いがあります。
【無理やり用語対比】
A 同一生計配偶者 ⇔A 扶養親族
B 控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族
⇔C 特定扶養親族
C 老人控除対象配偶者 ⇔D 老人扶養親族
D 源泉控除対象配偶者 ⇔B 控除対象扶養親族(兼用)
こうやって用語を並べてみると、控除対象扶養親族に70歳以上が加わると、「老人控除対象扶養親族」とはせずに「控除対象」を外しているのとか、どういうつもりなのかよくわかりません(「老人配偶者」だと失礼っぽいから、老人感を薄めている?)。
なお、令和7年度改正で「特定親族特別控除」が導入されたことにより、「特定親族」と「源泉控除対象親族」という新規の用語が追加されました。
念のため。
配偶者は扶養親族から除かれているため、19〜23歳の配偶者は特定扶養親族にはなりませんからね。
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 親族が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・勤労学生控除
2 親族
・生命保険料控除
一般・介護: 親族(が受取人)
個人年金: なし
皆さんどれくらい真面目に処理されているのか知りませんが、配偶者以外の親族の場合、一般・介護と個人年金とで扱いが異なります。
3 生計を一にする親族
・雑損控除
生計を一にする親族(が有する資産)
総所得金額等48(→58)万円以下
扶養親族と違って親族所得要件が内蔵されていないため、外付けする必要があります。
合計所得金額ではなく総所得金額等としてるのが、芸が細かい。
・地震保険料控除
生計を一にする親族(が有する資産。納税者が支払ったもの)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする親族(納税者が支払ったもの)
この3つは、生計一で納税者が支払いさえすれば、親族の所得の多寡は問題とされないわけです。
4 生計を一にする子
・ひとり親控除
生計を一にする子
総所得金額等48(→58)万円以下
親族のうち、子だけを対象としています。
親のほうは「ひとり親」という名称が与えられていますが、子のほうは専用の用語がありません。
5 扶養親族
・障害者控除
扶養親族(が障害者)
・寡婦控除
扶養親族(を有すること) 離婚の場合
ひとり親に該当する場合はそちらが優先適用されることになっています。
(・所得金額調整控除)
扶養親族が障害者or23歳以下
所得控除ではありませんが、参考としてここに入れておきます。
6 控除対象扶養親族
・扶養控除
控除対象扶養親族
特定扶養親族、老人扶養親族は控除額アップ
・
こう並べてお気づきになったかどうか。
里子・被養護老人は、あくまでも「扶養親族」の中に含まれているものにすぎず。ゆえに、これらの人が対象となる所得控除は、5と6に出てくるものだけになります。
対象とならないもののうち、「医療費控除」あたりは特に問題がありそうですが、こういう理解で本当によいのかどうか。
また、ひとり親控除は4(生計を一にする子),寡婦控除は5(扶養親族)となっています。
そうすると、里子がいる人が離婚した場合、ひとり親控除はおよそ不可で、あとは寡婦控除の適用を検討するだけ、ということでよいのでしょうか。
当然ながら、男性里親は「寡婦」にはなりえないわけで。「ひとり親控除が新設されてよかったね」では済まない《性差別》があるように思うのですが(児童福祉法の規律は考慮せず、あくまでも所得税法内部の問題として考えています)。
◯
上述したとおり、このラインナップに「特定親族」「源泉控除対象親族」が加わりましたので、さらにしんどいことになりました。
posted by ウロ at 10:20| Comment(0)
| 所得税法
2025年02月17日
いろんな配偶者(所得控除編)
一夫多妻制/多夫一妻制のお話しではなく。
所得税法の「所得控除」の中に出てくる配偶者のお話しです。
以前に整理した「所得控除」についての記事の、配偶者スピンオフものです。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
そして私の中では「いろんな」シリーズの一環と位置づけています(まあまあどうでもいい)。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
◯
まず、2条(定義)で用意されているもの(以下、令和7年税制改正による所得要件の改正は(→58)と追記しました)。
A 同一生計配偶者
生計一
合計所得金額48(→58)万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象配偶者
同一生計配偶者
本人の合計所得金額1,000万円以下
C 老人控除対象配偶者
控除対象配偶者
年齢70歳以上
D 源泉控除対象配偶者
生計一
本人の合計所得金額900万円以下
合計所得金額95万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 配偶者が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・扶養控除
小規模企業共済や寄附金につき、配偶者名義のものを本人が支払った場合にどうなるかについては、上記記事で論じたとおりです(以下、支払系は同様です)。
なお、「ひとり親」の中には言葉として配偶者は出てきますが、「いない」側のお話しなのでこちらに納めておきます。
2 配偶者
・生命保険料控除
配偶者(受取人)
受取人が配偶者でありさえすればよいことになっています。
生計一や所得要件が課せられていません。
3 生計を一にする配偶者
・雑損控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
総所得金額・退職所得金額・山林所得金額48(→58)万円以下
・地震保険料控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする配偶者(納税者が支払ったもの)
・配偶者特別控除
生計を一にする配偶者
配偶者の合計所得金額133万円以下
本人の合計所得金額1,000万円以下
控除対象配偶者除く
事業専従者(青色、白色)除く
ここまで、せっかく第2条で定義づけした用語が全く出てきません。
特に、配偶者特別控除の対象者の絞り込み、やたらとゴチャついていますが、専用の呼び名をご用意していただけておりません。
令和7年税制改正の「特定親族特別控除」の控除対象者に、『特定親族』という専用の呼び名が用意されようとしているのとは大違い。
以下で、ようやく2条の用語が登場します。
4 同一生計配偶者(A)
・障害者控除
同一生計配偶者
5 控除対象配偶者(B)
・配偶者控除
控除対象配偶者
老人控除対象配偶者(C)は控除額アップ
それぞれ一箇所づつ。
配偶者特別控除の対象者が専用の用語を用意していただけないの、そこでしか使われないからだと思って諦めていたのですが。
同一生計配偶者・控除対象配偶者・老人控除対象配偶者も、それぞれ一箇所でしか使われていないという有り様(念のため、措置法かつ所得控除じゃない「所得金額調整控除」では「同一生計配偶者」が使われています)。
一体どういう設計思想のもとに、専用の呼び名を用意する/しない(named/un-named)を振り分けているのでしょうか。
なお、「源泉控除対象配偶者」(D)については、あちらこちらで使いまわしされていますので、定義のしがいがあったでしょうね。
いろんな親族(所得控除編)
所得税法の「所得控除」の中に出てくる配偶者のお話しです。
以前に整理した「所得控除」についての記事の、配偶者スピンオフものです。
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その1)
『所得控除を受けられる奴は誰だ!』(その2)
そして私の中では「いろんな」シリーズの一環と位置づけています(まあまあどうでもいい)。
いろんな産休と育休 〜法間インターフェイス論
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
◯
まず、2条(定義)で用意されているもの(以下、令和7年税制改正による所得要件の改正は(→58)と追記しました)。
A 同一生計配偶者
生計一
合計所得金額48(→58)万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
B 控除対象配偶者
同一生計配偶者
本人の合計所得金額1,000万円以下
C 老人控除対象配偶者
控除対象配偶者
年齢70歳以上
D 源泉控除対象配偶者
生計一
本人の合計所得金額900万円以下
合計所得金額95万円以下
事業専従者(青色、白色)除く
◯
次に、所得控除(72条〜)での扱いについて。
1 配偶者が出てこないもの。
・小規模企業共済等掛金控除
・寄附金控除
・寡婦控除
・ひとり親控除
・勤労学生控除
・扶養控除
小規模企業共済や寄附金につき、配偶者名義のものを本人が支払った場合にどうなるかについては、上記記事で論じたとおりです(以下、支払系は同様です)。
なお、「ひとり親」の中には言葉として配偶者は出てきますが、「いない」側のお話しなのでこちらに納めておきます。
2 配偶者
・生命保険料控除
配偶者(受取人)
受取人が配偶者でありさえすればよいことになっています。
生計一や所得要件が課せられていません。
3 生計を一にする配偶者
・雑損控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
総所得金額・退職所得金額・山林所得金額48(→58)万円以下
・地震保険料控除
生計を一にする配偶者(が有する資産)
・医療費控除、社会保険料控除
生計を一にする配偶者(納税者が支払ったもの)
・配偶者特別控除
生計を一にする配偶者
配偶者の合計所得金額133万円以下
本人の合計所得金額1,000万円以下
控除対象配偶者除く
事業専従者(青色、白色)除く
ここまで、せっかく第2条で定義づけした用語が全く出てきません。
特に、配偶者特別控除の対象者の絞り込み、やたらとゴチャついていますが、専用の呼び名をご用意していただけておりません。
令和7年税制改正の「特定親族特別控除」の控除対象者に、『特定親族』という専用の呼び名が用意されようとしているのとは大違い。
以下で、ようやく2条の用語が登場します。
4 同一生計配偶者(A)
・障害者控除
同一生計配偶者
5 控除対象配偶者(B)
・配偶者控除
控除対象配偶者
老人控除対象配偶者(C)は控除額アップ
それぞれ一箇所づつ。
配偶者特別控除の対象者が専用の用語を用意していただけないの、そこでしか使われないからだと思って諦めていたのですが。
同一生計配偶者・控除対象配偶者・老人控除対象配偶者も、それぞれ一箇所でしか使われていないという有り様(念のため、措置法かつ所得控除じゃない「所得金額調整控除」では「同一生計配偶者」が使われています)。
一体どういう設計思想のもとに、専用の呼び名を用意する/しない(named/un-named)を振り分けているのでしょうか。
なお、「源泉控除対象配偶者」(D)については、あちらこちらで使いまわしされていますので、定義のしがいがあったでしょうね。
いろんな親族(所得控除編)
posted by ウロ at 09:06| Comment(0)
| 所得税法
2024年09月16日
『租税法教科書における《帰属所得》の説明は、なぜしっくりこないのか?』
こんな疑問抱いているの、私だけなんですかね。
言わんとすることは分かるけども、どうにも腑に落ちない状態。
所得税法における「総論・各論問題」について
いくつかの教科書を読んでいるうちに、どうも要因が分かった気がするので、以下整理してみます。
ただし、あくまでも「帰属所得の説明が分かりにくい要因が分かった」であって。「帰属所得が分かった!」ではありません。
なお本記事、もともとは、とある租税法教科書の書評記事の中で展開しようとしていたものでした。が、あまりにも当該教科書の内容からはかけ離れてしまったため、独立して記事化することにしました。
当該教科書の書評記事は、中身がほとんど無くなってしまったので、しばらく寝かせることになりそうです。
◯
以下、箇条書きで。
・まず、おなじみサイモンズの定式として《所得=純資産の増加+消費》がご紹介される。
・右辺に《消費》とあるが、消費そのものに課税するという趣旨ではなく。資産の減少をもたらす消費を足し戻した状態の、純資産の増加に課税するものである。例えていうなら、生前贈与を相続財産に足し戻して課税するみたいなもの。
なので、「消費型所得概念」を(も)採用しているのではなく。あくまでも、「取得型所得概念(純資産増加説)」の枠組みの中にとどまるものである。ひとつの税目で消費型と取得型を併用するなんて、さすがにご都合主義すぎるでしょうよ。
・ところが、《帰属所得》を論ずる段階になると、「帰属所得は消費だから本来課税すべきもの」と、消費であるという、ただそれだけの理由で課税してよいような書きぶりに変貌する。
純資産増加説からすれば、資産の減少をもたらす消費(α)だけが課税すべきものであるのに、無限定にすべての消費(+β)に課税してよいかのような論述にすり替わる。
純資産増加説: 所得=純資産の増加 +消費α
帰属所得: 消費(α+β)なので課税すべき
・では、大多数の教科書が、ウブな学習者向けに《叙述トリック》をかましているのかというと、そういうことではなく。
帰属所得においては「効用が生ずると同時にそれを消費している」というプロセスを経由しているにもかかわらず。前半を省略して、単に「消費している」としか記述しないせいで、すり替えているとの誤解が生じてしまっている。
× 消費したから課税する。
◯ 効用が生じたから課税する。消費によるマイナスは足し戻す。
・そもそも、「消費」などという日常用語っぽいものだというのに、厳密な定義(あるいは内包と外延)を記述してくれていない。
たとえば、帰属所得の例として「帰属家賃」は必ずでてくるが、「帰属地代」だとどうなるのか。消費税法上は「土地は消費されない。」とかいう理由で非課税扱いだが、所得税(法)の世界では、土地も「消費」できるということでよいのか。
・消費の直前に効用が生じているということで、《定式》上の説明はできるものの。
外部からの収入という確固たる純資産の増加が生じるものと比較して、消費する直前にいきなり生ずるだけの効用が、課税に値するものなのかどうか、その論証が別途必要ではないか。
「消費だから本来課税すべきだが、便宜的に課税していない」とか、「消費している以上、課税すべき効用が先行しているはず」というのは、ただの結論先取りであり。帰属所得における効用それ自体が課税に値するものかを、先に論じる必要があるはず。
・持ち家と賃貸を比較して、「持ち家が帰属所得の分だけ有利だから、帰属所得に課税すべき。」といったことが言われるが(厳密には「賃借」ですが慣用に合わせます)。両者の違いは「持っているかどうか」にあるのであって。その違いに即した形で課税するのが本来の姿ではないか。
ただ、「人脈が太くておいしい思いをしている」みたいな場合にも課税するというのなら、やはり、帰属所得のような概念を作りだして課税するのが、一番の近道か。というか、そんな場合にも無理やり課税できるようにするための、極めて技巧的な概念ではないか、とも思う。
・賃貸との「公平」の観点から持ち家にも課税すべき、というが。そんな限局された場面での部分最適だけを実現したところで、帰属所得のコンセプトにはそぐわないはず。
帰属所得に課税することの機能をあるがままに表現するならば、「持っている人を持っていない人に合わせる」というものであり。最終的には全員の「持っているモノ」が均等になるまで課税され続けることになる。資産を目減りさせないためには、「利用しない」ことが重要となる。
この点で、「包括的所得概念からは、帰属所得に課税するのが当然。」などという言明、憲法の「財産権の保障」との関係で、かなり危うい主張ではないか(相続税との二重課税も視野に入ってくる)。
・《課税単位》を説明する箇所では、「独身/夫婦(片稼ぎ)/夫婦(共稼ぎ)」を素材として、夫婦の所得を合算するかしないかが論じられている。
が、帰属所得が「所得」だというならば、「片稼ぎ」という概念は存在しえないのではないか。また、帰属所得は本来課税すべきだというならば、帰属所得の存在を無視して課税上の「公平」を論ずることはできないのではないか。
◯
以上、バラバラと述べたことから、次のような見立てをしました。
すなわち、「帰属所得」なる概念は、「持っている人と持っていない人」の格差の是正を、所得課税の中で実現するために生み出された概念にすぎないのではないか。
にもかかわらず、「帰属所得」がなにか自然界に実在しているものであるかのように説明していることから、私のような普通の人間には理解しにくくなっているのではないか。フィクションならフィクションだとして説明してくれないと、勘の悪い私のような人間が、すんなり理解できるはずもない。
【みんな大好きフィクション論】
来栖三郎「法とフィクション」(東京大学出版会1999)
そしてまた、「帰属所得」が実存するかのように主張するのならば、全領域において常にそのとおり振る舞ってほしいわけです。が、実際には、論点ごとに帰属所得を持ち出したり引っ込めたり。ご都合主義って感じで一貫した記述となっていない。
『私、見えないモノが見えるの。』という設定でいきたいのならば、すべての場面でそのとおりやってくれなければ。付き合わされるこちらが大変でしょうよ。
「設定を設定として守る」という基本的なお作法が、周りの理解を得るためには重要、とまとめることができるでしょうか。
◯
なお、以上は、あくまでも《教科書》レベルの記述を素材とするものにとどまり。《学術論文》レベルにまで手を出せば、厳密な論証が展開されていることが分かるのでしょう。
が、学者先生の教科書を《梯子読み》している時点で、税理士としてはかなりの傾奇者であり(旧司法試験でいう《基本書ヴェテ》みたいなポジション)。さらに学術論文まで読めというのは、さすがに及ばない。
言わんとすることは分かるけども、どうにも腑に落ちない状態。
所得税法における「総論・各論問題」について
いくつかの教科書を読んでいるうちに、どうも要因が分かった気がするので、以下整理してみます。
ただし、あくまでも「帰属所得の説明が分かりにくい要因が分かった」であって。「帰属所得が分かった!」ではありません。
なお本記事、もともとは、とある租税法教科書の書評記事の中で展開しようとしていたものでした。が、あまりにも当該教科書の内容からはかけ離れてしまったため、独立して記事化することにしました。
当該教科書の書評記事は、中身がほとんど無くなってしまったので、しばらく寝かせることになりそうです。
◯
以下、箇条書きで。
・まず、おなじみサイモンズの定式として《所得=純資産の増加+消費》がご紹介される。
・右辺に《消費》とあるが、消費そのものに課税するという趣旨ではなく。資産の減少をもたらす消費を足し戻した状態の、純資産の増加に課税するものである。例えていうなら、生前贈与を相続財産に足し戻して課税するみたいなもの。
なので、「消費型所得概念」を(も)採用しているのではなく。あくまでも、「取得型所得概念(純資産増加説)」の枠組みの中にとどまるものである。ひとつの税目で消費型と取得型を併用するなんて、さすがにご都合主義すぎるでしょうよ。
・ところが、《帰属所得》を論ずる段階になると、「帰属所得は消費だから本来課税すべきもの」と、消費であるという、ただそれだけの理由で課税してよいような書きぶりに変貌する。
純資産増加説からすれば、資産の減少をもたらす消費(α)だけが課税すべきものであるのに、無限定にすべての消費(+β)に課税してよいかのような論述にすり替わる。
純資産増加説: 所得=純資産の増加 +消費α
帰属所得: 消費(α+β)なので課税すべき
・では、大多数の教科書が、ウブな学習者向けに《叙述トリック》をかましているのかというと、そういうことではなく。
帰属所得においては「効用が生ずると同時にそれを消費している」というプロセスを経由しているにもかかわらず。前半を省略して、単に「消費している」としか記述しないせいで、すり替えているとの誤解が生じてしまっている。
× 消費したから課税する。
◯ 効用が生じたから課税する。消費によるマイナスは足し戻す。
・そもそも、「消費」などという日常用語っぽいものだというのに、厳密な定義(あるいは内包と外延)を記述してくれていない。
たとえば、帰属所得の例として「帰属家賃」は必ずでてくるが、「帰属地代」だとどうなるのか。消費税法上は「土地は消費されない。」とかいう理由で非課税扱いだが、所得税(法)の世界では、土地も「消費」できるということでよいのか。
・消費の直前に効用が生じているということで、《定式》上の説明はできるものの。
外部からの収入という確固たる純資産の増加が生じるものと比較して、消費する直前にいきなり生ずるだけの効用が、課税に値するものなのかどうか、その論証が別途必要ではないか。
「消費だから本来課税すべきだが、便宜的に課税していない」とか、「消費している以上、課税すべき効用が先行しているはず」というのは、ただの結論先取りであり。帰属所得における効用それ自体が課税に値するものかを、先に論じる必要があるはず。
・持ち家と賃貸を比較して、「持ち家が帰属所得の分だけ有利だから、帰属所得に課税すべき。」といったことが言われるが(厳密には「賃借」ですが慣用に合わせます)。両者の違いは「持っているかどうか」にあるのであって。その違いに即した形で課税するのが本来の姿ではないか。
ただ、「人脈が太くておいしい思いをしている」みたいな場合にも課税するというのなら、やはり、帰属所得のような概念を作りだして課税するのが、一番の近道か。というか、そんな場合にも無理やり課税できるようにするための、極めて技巧的な概念ではないか、とも思う。
・賃貸との「公平」の観点から持ち家にも課税すべき、というが。そんな限局された場面での部分最適だけを実現したところで、帰属所得のコンセプトにはそぐわないはず。
帰属所得に課税することの機能をあるがままに表現するならば、「持っている人を持っていない人に合わせる」というものであり。最終的には全員の「持っているモノ」が均等になるまで課税され続けることになる。資産を目減りさせないためには、「利用しない」ことが重要となる。
この点で、「包括的所得概念からは、帰属所得に課税するのが当然。」などという言明、憲法の「財産権の保障」との関係で、かなり危うい主張ではないか(相続税との二重課税も視野に入ってくる)。
・《課税単位》を説明する箇所では、「独身/夫婦(片稼ぎ)/夫婦(共稼ぎ)」を素材として、夫婦の所得を合算するかしないかが論じられている。
が、帰属所得が「所得」だというならば、「片稼ぎ」という概念は存在しえないのではないか。また、帰属所得は本来課税すべきだというならば、帰属所得の存在を無視して課税上の「公平」を論ずることはできないのではないか。
◯
以上、バラバラと述べたことから、次のような見立てをしました。
すなわち、「帰属所得」なる概念は、「持っている人と持っていない人」の格差の是正を、所得課税の中で実現するために生み出された概念にすぎないのではないか。
にもかかわらず、「帰属所得」がなにか自然界に実在しているものであるかのように説明していることから、私のような普通の人間には理解しにくくなっているのではないか。フィクションならフィクションだとして説明してくれないと、勘の悪い私のような人間が、すんなり理解できるはずもない。
【みんな大好きフィクション論】
来栖三郎「法とフィクション」(東京大学出版会1999)
そしてまた、「帰属所得」が実存するかのように主張するのならば、全領域において常にそのとおり振る舞ってほしいわけです。が、実際には、論点ごとに帰属所得を持ち出したり引っ込めたり。ご都合主義って感じで一貫した記述となっていない。
『私、見えないモノが見えるの。』という設定でいきたいのならば、すべての場面でそのとおりやってくれなければ。付き合わされるこちらが大変でしょうよ。
「設定を設定として守る」という基本的なお作法が、周りの理解を得るためには重要、とまとめることができるでしょうか。
◯
なお、以上は、あくまでも《教科書》レベルの記述を素材とするものにとどまり。《学術論文》レベルにまで手を出せば、厳密な論証が展開されていることが分かるのでしょう。
が、学者先生の教科書を《梯子読み》している時点で、税理士としてはかなりの傾奇者であり(旧司法試験でいう《基本書ヴェテ》みたいなポジション)。さらに学術論文まで読めというのは、さすがに及ばない。
posted by ウロ at 12:27| Comment(0)
| 所得税法
