2025年12月30日

供え本(法学体系書編)

 「供え本」(そなえぼん)とは、読まなくてもよいからさしあたり書棚にお供え(備え)しておきなさい、という本です。

 一度も開かないまま、改訂版が出ても逐一悲しまない(繰り返し経験済み)。
 むしろ改訂版を出してくれたことを喜びましょう。
 持っててよかった、と思うときがくるかもしれないし。 

 ラインナップ、万人向けと個人的嗜好との葛藤が垣間見えるかもしれません。

【憲法】
戸松秀典「憲法」(弘文堂2015)

【行政法】
宇賀克也「行政法概説1 第8版」(有斐閣2023)
宇賀克也「行政法概説2 第7版」(有斐閣2021)
宇賀克也「行政法概説3 第6版」(有斐閣2024)
宇賀克也「地方自治法概説 第11版」(有斐閣2025)
藤田宙靖「新版 行政法総論 上巻」(青林書院2020)
藤田宙靖「新版 行政法総論 下巻」(青林書院2020)
藤田宙靖「行政組織法 第2版」(有斐閣2022)
岡村久道「個人情報保護法 第4版」(商事法務2022)

【民法】
中田裕康「債権総論 第4版」(岩波書店2020)
中田裕康「契約法 新版」(有斐閣2021)
奥田昌道,佐々木茂美「新版 債権総論 上巻 」(判例タイムズ社2020)
奥田昌道,佐々木茂美「新版 債権総論 中巻 」(判例タイムズ社2021)
奥田昌道,佐々木茂美「新版 債権総論 下巻 」(判例タイムズ社2022)

【会社法・商法】
江頭憲治郎「株式会社法 第9版」(有斐閣2024)
田中亘「会社法 第5版」(東京大学出版会2025)
江頭憲治郎「商取引法 第9版」(弘文堂2022)
黒沼悦郎「金融商品取引法 第2版」(有斐閣2020)

【民事手続法】
伊藤眞「民事訴訟法 第8版」(有斐閣2023)
新堂幸司「新民事訴訟法 第6版」(弘文堂2019)
中野 貞一郎,下村 正明 「民事執行法 改訂版」(青林書院2021)
瀬木比呂志「民事保全法 新訂第2版」(日本評論社2020)

【倒産法】
伊藤眞「破産法・民事再生法 第5版」(有斐閣2022)
伊藤眞「会社更生法・特別清算法 」(有斐閣2020)

【刑法】
裁判所職員総合研修所「刑法総論講義案 四訂版」(司法協会2018)
西田典之,橋爪隆「刑法各論 第7版」(弘文堂2018)
山口厚「刑法各論 第3版」(有斐閣2024)

【刑事手続法】
酒巻匡「刑事訴訟法 第3版」(有斐閣2024)
三井誠,酒巻匡「入門刑事手続法 第9版」(有斐閣2023)

【租税法】
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)

【労働法】
菅野和夫「労働法 第13版」(弘文堂2024)
水町勇一郎「詳解 労働法 第3版」(東京大学出版会2023)
荒木尚志「労働法 第5版」(有斐閣2022)
土田道夫「労働契約法 第3版」(有斐閣2024)

【社会保障法】
菊池馨実「社会保障法 第3版」(有斐閣2022)
堀勝洋「年金保険法 第5版」(法律文化社2022)

【知的財産法】
中山信弘「著作権法 第4版」(有斐閣2023)
中山信弘「特許法 第5版」(弘文堂2023)
加戸守行「著作権法逐条講義 七訂新版」(著作権情報センター2021)
田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024)

【独占禁止法】
白石忠志「独占禁止法 第4版」(有斐閣2023)
泉水文雄「独占禁止法」(有斐閣2022)

【信託法】
新井誠「信託法 第4版」(有斐閣2014)
道垣内弘人「信託法 第2版」(有斐閣2022)

【保険法】
山下友信「保険法(上)」(有斐閣 2018)
山下友信「保険法(下)」(有斐閣 2022)
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2024年06月20日

積読のあゆみ 〜基本書編(2024年前半戦)

 閑話休題。

 実務書は、当然のように積読ループが終わることはありません。
 他方で、基本書・教科書・体系書・研究書の類についても、実務書とは別ラインで、相変わらず積読が続いています。

 それなりに抑制はしているつもりなので、以前に比べれば相当少なくなっています。
 が、「有益なものだけを厳選して読もう」と「ブログネタになりそうなものを読もう」のせめぎ合いがあり、かつ、積読病と通読病の極悪コンボのせいで、いつまでも終わらない。

 で、どうしても、イジリ代(しろ)のあるものばかり、記事化されがち。ので、今回は、よかったもの・よさそうなものにつき、まとめて触れておきます。


 まずは、最近読了したもの。


水町勇一郎「労働法 第10版」(有斐閣2024) Amazon

 2年毎に改訂してくれるので、その間の法改正・新判例の振り返りができます。あえて教科書を読むことで、従前の知識の再確認もできますし。

 定期的に改訂してくれるおかげで、「改訂チキンレース」に陥ることもないです。

【改訂チキンレースとは】
土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)
※土田先生の体系書は、少し前に、改訂される情報を見かけた覚えがあるので、皆さんは今から改訂チキンレースに参加されなくてよいのではないでしょうか。
⇒2024年12月に「第3版」がでるようです。
 土田道夫「労働契約法 第3版」(有斐閣2024) Amazon

 上記の教科書は574頁の薄い本です。
 分厚い体系書も当然購入しています。が、体系書に対しては「通読病」が発症しなくなったので、素直に本棚へお供えできています。

水町勇一郎「詳解 労働法 第3版」(東京大学出版会2023) Amazon

 ところが、「公式読本」が「第3版」にあわせてリニューアルされてしまいました。ので、こちらは積読ラインナップに加わってしまいました。

水町勇一郎「水町詳解労働法第3版公式読本」(日本法令2024) Amazon


興津征雄「行政法I 行政法総論」(新世社2023) Amazon

 行政法総論だけで864頁。が体系書ではなく教科書の部類です。

 情報量が多いというのもありますが、それよりも、ひたすら行間を埋めてくれているおかげでそうなっている、といえるでしょうか。
 今どきの教科書が、むやみやたらと「薄いが正義」みたいな風潮になっていて。これに抗う本書は、独学者にとって導きの星となってくれる存在です。


野村剛司,森智幸「倒産法講義」(日本加除出版2022) Amazon

 私のような素人でも、非常に読みやすい本でした。

 私が勝手に思うに、倒産法の入門書は、学者ではなく実務家が書いたものを読んだほうがいいと思います。学者の書く手続の説明とか、あまりに無味乾燥すぎませんか(入ってこない)。

徳田 和幸「プレップ破産法 第7版」(弘文堂2019)

 学者本は、難しい論点を勉強する段階で読めばよいのではないでしょうか。


 今読み途中のもの。


佐藤英明「スタンダード所得税法 第4版」(弘文堂2024) Amazon

 相変わらず読みやすい。
 技術的な側面を大胆に省略しているというのに、584頁もある。のですが、説明がやたらと丁寧なだけなので、負担にはならないと思う。

 しかしまあ、同じシリーズの消費税法があんな有り様になってしまったの、分担執筆の残酷さを感じる。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)


 これから読む予定のもの。

小西國友「労働法」(三省堂2008) Amazon

 「社会保障法」の教科書が良かったので。

小西國友「社会保障法」(有斐閣2001)

 労働法に関しても、法改正・新判例ラッシュのせいで、古い本を実務に直接活かすのは、もはや厳しいわけですが。
 そもそも、実務に直接活かすことだけを考えるならば、学者先生の教科書類なんて、読む必要はないでしょう。しかも、税理士が税法以外の法分野の教科書を読むなんて、遠回りにもほどがある。

 それでも読む、ことに意義があるのですが。今回の記事はただの余技であって。ここで詳論するには気合が足りない。


田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024) Amazon

 さらに「特許法」の教科書なんて、労働法以上に、野良税理士にとっては、さしあたり必要がない。
 ですが、田村善之先生の、お久しぶり待望の教科書、ということで読まざるをえない。

田村善之「知財の理論」(有斐閣2019)


 これから出版されるものなのに、すでに積読ラインナップに組み込まれているもの。

渕圭吾「租税法講義」(有斐閣2024) Amazon

 7月下旬発売とのこと。まあ、読むしかないですよね。

 佐藤英明先生の教科書をようやく読み始めたのも、積読ラインナップの租税法ラインを開けるためだったりしますし。

 本書によって、例の「旅」が終わってくれるでしょうか。

税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅


山口厚「刑法各論 第3版」(有斐閣2024) Amazon

 8月下旬に出版だそうです。

 一昔前は、やたらと刑法の教科書・体系書を買い込むという時期(しかも総論に偏る)がありました。が、最近はすっかり落ち着きました。
 とはいえ、山口厚先生の教科書(体系書?)となると、買わざるをえない。

 謎なのが、14年ぶりの改訂だというのに、10頁しか増えていないというところ。長々と判決文を引用してかさ増しする系の本ではないぞ、ということでしょうか。

 ただ、『総論』における、「問題探究」からの徐々に角が取れていく様を見ている古参(理論刑法学ガチ勢)からすると、どこか心配がないわけではない(余計なお世話)。

山口厚「問題探究 刑法総論」(有斐閣1998) Amazon
山口厚「刑法総論 第3版」(有斐閣2016) Amazon
山口厚「問題探究 刑法各論」(有斐閣1999) Amazon
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2020年02月10日

最近の気になる本

 前回まで法規範に関する記事を数週にわたって書いてきましたが、ここで終わりにしておきます。
 考えればもっと詰められるのでしょうが、とりあえずここまでで。

 ということでまた日常回へ。

 この、一話完結がメインでたまに中編・長編がはいる構成、私が思い出すのは『銀魂』です。

 とすると、今回は長編が終わった後のゆるーい回、ということになります。
 (メガネ置きが、先週までのは何だったんだ!と突っ込む感じの)


 町野朔「刑法総論 (法律学の森)」(信山社2020)

 町野朔先生の体系書。

 まさか出ると思わないじゃないですか。
 なので、ごくごく最近、下記の講義案1を購入してしまったわけですよ。
 1998年に第2版が出たきり音沙汰なかったし。

 町野朔「刑法総論講義案 1 (講義案シリーズ)」(信山社1998)

 かなりショックが大きい。
 講義案を買ってなければ速攻で購入していたと思いますが、未だ講義案を完読できていないので保留。

 いやしかし、刊行計画ってのを公表してくれないものかと。
 2、3カ月先程度じゃなくて。

 直後に改訂されてゲンナリするか、買い控えをしてしまうか、いずれにしてもマイナスしかない。

 新堂幸司「新民事訴訟法 第6版」(弘文堂2019)

 言わずとしれた名著ですね。
 たぶんですけど、買ってしまったら、本来やるべきことを脇に置いて読みふけってしまうおそれがあるので、こちらも保留。

 田村善之「知財の理論」(有斐閣2019)

 私の問題関心からすると、知的財産法それ自体よりも、田村先生の思考方式を学ぶため、というのが田村先生の本を読む理由。

 機能的知的財産法の理論 (知的財産研究叢書) (信山社1996)
 競争法の思考形式 (北海道大学法学部叢書)(有斐閣1999)
 市場・自由・知的財産 (21世紀COE知的財産研究叢書)(有斐閣2004)
 特許法の理論 (グローバルCOE知的財産研究叢書)(有斐閣2009)
 知的財産権と損害賠償 第3版(弘文堂2023)

 私が自然権や自然法にどちらかというと否定的な評価をしがちなのは、法学学習のかなり初期に田村先生の「インセンティブ論」に影響を受けたから、のような気がします(熱い風評被害?)。

【自然権思想イジり】
ホッブズ『リヴァイアサン』 〜彼の設定厨。
戸松秀典『憲法』(弘文堂 2015)

 内田貴「民法3 第4版」(東京大学出版会2020)

 ついに出たな総本山。

 こちら、長らく改訂がされていませんでした。
 にもかかわらず、帯には『最新法改正に対応』なんて書かれていて、2017年の民法(債権関係)改正に対応していると誤信した人がいたんじゃないですかね(他分野の人なら特に)。

 ・債権法改正の勉強しておきたいな
 ・債権法改正といえば内田貴先生の名前をよく聞くな
 ・内田先生が教科書出してる!
 ・帯に「最新法改正に対応」と書かれているぞ!
 ・二色刷りで図表も豊富、分かりやすそう!

 買っちゃうね、これは。

 まあ、内田先生が実現したくても立法過程における「妥協」で実現できなかったあれやこれやを知るには、旧版を読む意味があるのかもしれませんが(マニア)。

 しかしまあ、読まざるをえないですよね。主にツッコミ目的で。
posted by ウロ at 10:59| Comment(0) | 法律書マニアクス

2018年12月03日

「法律学大系」(有斐閣) 〜或るstalk。

 以前の記事でも書いたんですが、有斐閣の「法律学大系」というシリーズ、私にとって、文字組みや装丁、紙質なんかがもの凄く好みのタイプでした。

  前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣 1983)

 が、いつの間にか企画中止になってたらしいです。
 スタートするときには大々的に宣伝してたのに、中止しますごめんねなんてお知らせ、一般読者にはなかったはず。

 好きであればあるほど、失ったときの悲しみは強烈、てことで、備忘のために私のストークっぷりを残しておきます。
 下にあげた水野忠恒先生の「大系租税法」のまえがきに、実は「全80巻」の予定だったとかちらっと書かれてたもんで、それでかつての未練が再発したようなものです。

 ちなみに、当時刊行予定となっていたのに未だに出ていないものは、割愛しました(20年経ってもまだ出てないってことだし)。

1 シリーズで出したっきり。

 ・宇賀克也「国家補償法」 Amazon 1997
 ・前田庸「手形法・小切手法」 Amazon 1999
 ・樋口陽一「国法学」 Amazon 2004 補訂2007
 ・大村敦志「消費者法」 Amazon 1998 第2版2003 第3版2007 第4版2011

2 シリーズで出たあと改訂版が単行本で。

 ・西谷敏「労働組合法」 Amazon 1998
              ⇒第2版2006 第3版2012
 ・戸松秀典「憲法訴訟」 Amazon 2000
              ⇒第2版2008

3 シリーズで出たあと改訂版が単行本で。その後なぜか他社へ。

 ・水野忠恒「租税法」 Amazon 2003 第2版2005 第3版2007
          ⇒第4版2009 第5版2011
          ⇒「大系租税法」 2016 第2版2018 第3版2021 第4版2023(中央経済社)

4 シリーズで出る予定が、いきなり単行本として。

 ・大塚直「環境法」 Amazon 2002 第2版2006 第3版2010 第4版2020
 ・新井誠「信託法」 Amazon 2002 第2版2005 第3版2008 第4版2014
 ・西村健一郎「社会保障法」 Amazon 2003
 ・中山信弘「著作権法」 Amazon 2007 第2版2014 第3版2020 第4版2023
 ・山口厚「刑法各論」 Amazon 2005 第2版2010 第3版2024
 ・道垣内弘人「担保物権法」 Amazon 2004 第2版2005 第3版2008 第4版2017
 ・田中成明「現代法理学」 Amazon 2011


 時系列でいうと、4で、シリーズで出る予定だったものが単行本として出版されだしたり、2で、改訂版がシリーズから外れたりしたので、あれ?と思いつつ、大村敦志先生や水野忠恒先生のようにシリーズ内で改訂されてるのもあるし、まだ続いているのかな、と思っていたんですが、2011年以降はその改訂版も出てこない、ということで、もう終わったんだなと。

 で、水野忠恒先生の「大系租税法」のまえがきに、はっきり「中止」と書いてあったのでフィニッシュ。

 全80巻の予定が7巻。厳しいですね。
 昔の全集モノみたく、ナンバリングしておかなくてよかったね、としか。
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2018年11月26日

積読ループ

 私、かなり重度のツンドラー(重度積読症)です。
 しかも、電子書籍で読むのが苦手というスペック持ちなので、紙の書籍を買わざるを得ない。
 そもそも、私が読む分野はそれほど電子書籍化進んでないし。

 現状困っているのが、

  A:本を読める「時間」は有限である。
  B:本を置ける「場所」も有限である。

という制約条件の中で、

  対B:場所を空けるために、1回読めばいい本から先に読むべき

という方針と

  対A:手元に残しておきたい本ほど重要な内容なんだから優先して読むべき

という方針が対立。

 そして、そんな対立お構いなしに、

  γ: さらに購入する奴

も出てくるし。


 私なりに、自分にとっての書籍を分類すると、

 1 紙で1回読めばいい本
 2 紙で1回読んだらデータで残したい本
 3 紙で残したい本
 4 紙とデータで残したい本

とあって、

 1は読んだら売る
 3は読んだら本棚にしまう

でいいとして、

 2は自炊せざるをえないんでしょうけど、手間だなあということで、1か3へ移行。
 「紙の書籍を出版社に返すと電子書籍がもらえる」みたいなシステムがあったらいいのに。

 4に対しては、今だと紙とデータの「セット割」みたいのがないので、2冊分の値段が掛かってしまうわけです。

 あと、改訂版がでたときの「アップデート版」みたいなのがないと、つらいですよね。


 なお、こんな人もいますけども、これは紙の世界の超イレギュラー存在。

【こんな人】
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開
タグ:積読
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2018年07月23日

法学研究書考 〜部門別損益分析論

 一昔前は、法学分野の「研究書」をよく読んでいました。
 たとえばこういう。

山本敬三「公序良俗論の再構成」(有斐閣2000)
大村敦志「公序良俗と契約正義」(有斐閣1995)

 その本で扱われている研究対象に興味がある、というよりも、頭のいい人の、アプローチの仕方とか分析の仕方とか、そういったものを読んで、自分の頭もブラッシュアップする、という使い方です。

 ので、特定の分野に偏らず、それぞれの分野での頭の良い人の著者買いすることが多かったです。

 こういう研究書、前に紹介した森田宏樹先生の『契約責任の帰責構造』のような例外はあるにしても、基本的には実務に直接役立つことはありません。

森田宏樹『契約責任の帰責構造』(有斐閣2002) 〜印紙税法における「結果債務・手段債務論」の活用
Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法

 で、私は難しい本は線を引きながらじゃないと読めないので、借りるのでなく買わざるをえない。
 1頁あたり単価、とかいうのはなんですが、一般書にくらべて高いのでそうお気軽には買えないです。


 最近は、こういう本ほぼ買わなくなりました。

 というのも、昔は、その手の研究書が置いてある大きい書店とか、あるいは法律書専門の古書店とかによく行ってて、中身を確認することができてました。で、散々迷ってよければ買うと。
 のに、最近はほぼ行かなくってしまって。法律書専門の古書店なんて、どんどん無くなっていくし。

ネット古書店 購入お作法(含、小トラブルご報告)

 ネットでタイトルだけ見て、なんか良さそう、と思っても、中身が分からないんじゃ買えないじゃないですか、高いし。

 じゃあってことで、ネットで情報収集しようと思っても、まあ情報がない。
 著者名+書名で検索しても、Amazonを始めとするネットショップがまず出てきて、あとは出版社のページ、くらいでおしまい。

 Amazonレビューなんて当然ついてないし、じゃあ、出版社のページでは、て思って見てみても、ほんのり紹介文と目次だけしか書いてない。
 川柳みたく文字制限ルールでもあるんですか、と思いたくなるような短文。サーバー容量が数MBしかない、大昔の『○○のホームページ』みたいな。

 あのころの雰囲気を思い出したい方は、下記サイトをご参照ください。

阿部 寛のホームページ
(背景の「ABE Hiroshi」とかグッときますよね。「あなたは○人目のお客様です」とか「無断リンク禁止」とあればもっといいんですけど。)

 その出版社の紹介ページに「購入ボタン」が付いてたりするんですが、はじめから買う前提で見た人以外で、そのページ読んで買いたくなって押しちゃった(=お気ポチ=お気軽にポチる)、なんて人いないと思う。


 でもまあ折角だし、ということで、一応その目次みて買う気になるかどうかを検討してみるんですが、こういう感じの目次だと一気に萎える。

【萎え目次】 (括弧内は私の想像)
 序論 問題の所在 (短そう)
 第1章 ドイツにおける○○ (長そう)
 第2章 フランスにおける○○ (長そう)
 結語 日本法への示唆 (短そう)

 まあ、業界的にはそういうお作法で書かないとダメなんだろうな(特に若手の場合)、という気はしますが、読み物としてはつまらないです。
 これが、ドイツ・フランスに限らずもっと複数の国での議論をシームレスに紹介するとか、対象を絞るにしても、もっと絡みを多めにするとかすれば面白くなりそうなんですけど。

 たぶん、ドイツではこうです御仕舞い、フランスではこうです御仕舞い、日本ではドイツのこれが参考になるかも、フランスのこれが参考になるかも、くらいのご紹介論文で終わるんだろうな、と想像できるわけです。


 また「はしがき」によく、

「出版状況の厳しい折、このような利益の見込めないものを出版していただいた出版社には感謝の言葉しかありません」

みたいな感じのことが書いてあったりします。

 や、感謝とか本当に思ってるんだったら、ちゃんと自書アピールしなさいよ、て思う。昔ならともかく、今だったらブログでもツイッターでも媒体はいくらでもあるでしょうに。

 出版社自身の公式ツイッターもあったりしますが、型通りの新刊案内なだけで、思わず興味が沸くような宣伝文句って書いてないんですよね。
 研究者本人は、自分の研究書を出せただけで満足なのかもしれませんが、出版社にとってはできるだけ売れて利益出したほうがいいと思うんですけど、なんかやる気を感じられない。


 この、対外的な売る気のなさを、出版業界ド素人の私が「邪推」するに、

・出版社の利益構造的には、自社で出してる教科書と小型六法を、大学の授業で指定してもらえることが重要である。それによって1年の収益が大きく変わるからである。

・授業に指定してもらうのは、授業を担当している教授次第である。

・とすると、研究書を出してあげる、あるいは研究書を出してもらえるかもという期待をもたせることが、指定してもらうためには重要である。

・ゆえに、研究書の出版は教科書・小型六法を指定してもらうための手段にすぎないのであって、そこに経営資源を投入してはならない。

ではないかと。

 もしそうだとすると、研究書の出版は出版社にとってはある種の「交際費」みたいなもので、はじめからそれで利益を出すつもりはない、というのは理解できます。
 手間ひまかけてまで、ネット上で販促しないというのも、極めて経済合理性があるわけです。顧客を、一般層ではなく大学の「授業」に絞るという戦略。

 研究者側も、教科書指定してあげたじゃん、という気持ちなので、感謝の「言葉」をはしがきに書くことはしても、感謝の「販促活動」をしない、理由もよくわかります。

   「教科書」の指定 ←等価交換→ 「研究書」の出版

 でも本当に、教科書部門と研究書部門のそれぞれの部門別損益がどうなっているのか、興味あります。

     教科書部門 研究書部門
出版売上   ○円    ○円
出版仕入   ○円    ○円

ではなく、

           教科書部門
出版売上(教科書売上)  ○円
出版仕入(教科書仕入)  ○円
交際費(研究書仕入)   ○円
雑収入(研究書売上)   ○円

みたいな感じだったら笑える(泣ける)。
posted by ウロ at 13:48| Comment(0) | 法律書マニアクス

2018年04月06日

潮見佳男「民法(全) 第3版」(有斐閣2022)

※以下、初版当時の記事になります。

潮見佳男「民法(全) 第3版補訂版」(有斐閣 2025)

 750頁ほどで民法全体をカバーした本。

 750頁というとボリューミーに感じるかもしれませんが、民法って、

  民法総則
  物権法
  担保物権法
  債権総論
  契約総論
  契約各論
  事務管理・不当利得・不法行為
  親族法
  相続法

とジャンル分けされてて、

同じく潮見先生の書いた「新債権総論1・2(法律学の森)」(信山社 2017)だと、債権総論と契約総論だけで1770頁もあったりするので、なかなかの圧縮ぶりがイメージできるのではないかと。
 この本で対応する箇所は140頁程度。

 実際、余計な記述がないので、民法を一通り勉強した人が知識をすっきり整理するのによさそうです。
 逆に言うと、初学者がいきなりこの本読んで民法を「理解」しようとするのは、無茶だと思います。


 この本、改訂前は『入門民法(全)』て名乗っていたんですが、全然入門感なかったです。
 ので、タイトル変更は正解(偉そうに)。

 潮見佳男「入門民法(全)」(有斐閣 2007)


 この本の厄介なのが、H29民法改正で改正された部分については、当然のように改正後の規定だけで書かれていることです。
 まだ施行されてないししばらくは経過措置で混在するので、併記したほうがいいと思うんですけどそういう配慮が無くって。
 改訂前の『入門民法(全)』も買ってね、てことですか。

 経過措置って、学者本だと疎かにされがちですけど、実務的には超重要です。
 せっかくだから、民法で経過措置ルールを学ぶいい機会だと思うんですけど。

 あと、改正されてない部分は判例・通説ベースで書いてるんですが、改正された部分については、潮見先生の理解するところの改正法解釈をベースに解説されているんですよね。
 この本のコンセプトからすれば、もう少し公式見解(と言ってよいかどうか)寄りに記述したほうがいい気がしますけど。


 ので、この本を読む意味がある人って、

 ・一通り民法の知識はもっている
 ・普通の改正法の解説書を読んでいる

人で、間違い探し的に改正法がどこに紛れ込んでいるかを見つけるとか、改正法が民法体系の中にどんな感じで溶け込んでいるのか確認したいとか、改正されたばかりでも民法学者がどんな感じで解釈論を展開していくのかを知りたいとか、そんな読み方をしたい人向けなんじゃないかと。

 出版社側の売出し方に反して、まさしく「法律書マニアクス」ジャンルに入れておくに相応しい(全力で褒めている)。
posted by ウロ at 10:38| Comment(0) | 法律書マニアクス

2018年03月13日

人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開

「マニア」というのは、その対象となる分野の中で、普通の人が意識することもない差異を見出しその違いを嗜む人種、ではないかと思っています。

 普通の人にとっては「鉄道」という一括りのものを、○○鉄、○○鉄、とジャンルを分け、そしてさらに、その中でも何が好きかで細分化されていく、みたいな。

 私がマニアクスを自称している「法律書」についても、なんで同じような本買ってるの?という疑問をもたれたりするので、その違いを類型別(言い訳別)に解析してみます(便宜的にグレード付けしてみました)。

1 新版がでたので(法改正・新判例反映型) beginner

 山下友信・神田秀樹「金融商品取引法概説 第2版」(有斐閣2017) Amazon

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 法律書の場合、法改正やら新判例やらが出ると内容が古くなってきますので、それを反映した「新版」が出ることになります。

 この場合に買い換えるのは、まあ普通の行動です。読み終わらないうちに新しい版がでると悲しくなりますが。


2 同じジャンルだけど著者が違うので intermediate

 林幹人「刑法総論 第2版」(東京大学出版会2008) Amazon
 山口厚「刑法総論 第3版」(有斐閣2016) Amazon

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 たとえば、同じ『刑法総論』の教科書でも、著者違いで何冊か買ったりすることがあります。

 司法試験受験生のときには、基本書は一冊に絞るべきで何冊も買うやつは受からない、とか言われていましたが(そもそも学者本が不要、という風潮も)、ここではあくまで「マニア道」の話し。

 同じジャンルでも、書く人によって自分にとっての理解しやすさが違ったりするので、色んな本を読んでみるのもいいと思うのです。

 皆さんだって、同じブル9でも、指揮者違い・オケ違い・ホール違い・演奏日違い・レコード会社違いで、何枚もCDお持ちですよね。

【極々一部の例】
カイルベルト/ブルックナー:交響曲第9番
カール・シューリヒト&ウィーン・フィル/ブルックナー: 交響曲第9番


3 同じジャンルで同じ著者だけど対象読者が違うので intermediate

 井田良「入門刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018) Amazon
 井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018) Amazon
 井田良「刑法総論の理論構造」(成文堂2005) Amazon

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 3冊とも井田良先生の『刑法総論』の本ですが、対象読者が違っています(初級・中級・上級)。

 ある程度勉強が進んでいても、あえて初学者向けの本を読むことがあります。というのも、頭のいい先生が初学者向けに書いた本てとても理解しやすくて、一応理解しているつもりだったけど実はちゃんと理解できていなかったことが分かったりすることがあるからです。

 中には対象読者が別なはずなのに、自分の他の本のコピペで済ましている不埒な輩もいたりするので、注意は必要ですが。


4 弟子が改訂したけども advanced

 四宮和夫・能見善久「民法総則 第9版」(弘文堂2018) Amazon
 四宮和夫「民法総則 第4版補正版」(弘文堂1996) Amazon
 芦部信喜・高橋和之「憲法 第8版」(岩波書店2023) Amazon

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 名著だと、著者がお年になったり亡くなったりした後も、その弟子の方が改訂し続けることがあります。

 が、元の本が名著であればあるほど、弟子が本文に手を加えることに異論が出たりします。

 この四宮=能見『民法総則』、私が中身をどうこういうつもりはありませんが、能見先生が全面的に手を加える前の「第4版補正版」も並行してオンデマンド版で出したりしてるのも、何かを示唆しているような。

 私自身も写真のとおり「第4版補正版」を手元に残していたりして。

 さらに突き詰めると、補正版も補正箇所は四宮先生ご自身によるものではないようなので、純粋な四宮先生単著である「第4版」が欲しかったり。

 ちなみに、芦部信喜先生の『憲法』は、高橋和之先生が改訂し続けていますが、こちらは本文には手を加えず新判例を註で追加してるだけだそうで。こういう場合は安心して旧版とさよならすることができます。

 まあ、憲法というのが(いまのところ)法改正が無いおかげで、そういう改訂の仕方で済んでいるのかもしれませんが。


5 新版がでたので(著者改説嗜み型) advanced

 山口厚「刑法総論 第3版」(有斐閣2016) Amazon
 山口厚「刑法総論 第2版」(有斐閣2007) Amazon
 山口厚「刑法総論」(有斐閣2001) Amazon
 山口厚「問題探究 刑法総論」(有斐閣1998) Amazon

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 1と外形的には全く同じ行動ですが、こちらはちょっとアレです。

 普通、新版が出た場合には、古い版は使えなくなるので売るか捨てるかしてしまうのですが、稀に、版ごとの著者の改説を嗜む、という貴族の遊びをすることがあります。

 たとえば、山口厚先生の『刑法総論』というのが第3版まで出てるんですが、論点本である『問題探求刑法総論』を含めて順に読んでいくと、当初はゴリゴリ理論重視の見解だったのが、徐々に判例寄りの規範を取り入れるようになっていって、そしてついに最高裁判事になられる、というシンデレラストーリー(?)を味わうとか。


6 新装版がでたので advanced

 白井駿「新装版 白井教授の刑事訴訟法講義」(白順社2004) Amazon

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 新装版て、基本的に装丁が新しくなっただけで、中身が変わることってほとんどないです。

 白井先生のこの本は、統計データが新しくなったのと新装版のあとがきが追加されたくらい。それでも買ってしまったわけです。


7 オンデマンド版がでたので advanced

 林屋礼二「新民事訴訟法概要 第2版」(有斐閣2004) Amazon
 林屋礼二「新民事訴訟法概要 第2版 OD版」(有斐閣2004) Amazon

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 法律書の場合、名著でも平気で売切・絶版とかになったりします。そう古い本じゃなくても。

 一昔前は、古本屋で高値がついてしまって買えなかったりしたんですが、オンデマンド版というのが普及するようになって、多少は手に入りやすくなりました。

 そうはいっても、オンデマンド版自体も当時の値段よりは高くなってしまうんですが。

 で、古本屋で運良くオリジナルを安く手に入れたとしても、安いってことは状態があまりよろしくないってことなので、愛着が持ちにくいわけです(赤鉛筆、青鉛筆の書き込み、線引きをよく見かける)。

 そんなときにオンデマンド版が出てると、つい買ってしまうことがあります。

 とはいえ、林屋先生のこの本は当時新刊で買ったやつなので、この理由では説明が付きません。もちろん当時の自分自身の書き込み・線引きが黒歴史感あって嫌だ、というパターンもありえますが、この本に関してはそういうわけでもありません。

 なぜ買ったんでしょう?


8 同じですけど何か? maniacs

 奥田昌道「債権総論 増補版」(悠々社1992) Amazon
 奥田昌道「債権総論 増補版」(悠々社1992) Amazon

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 はい、同じです。

 ここまでは、似たような本でも何かしら違うんですよ、と、どうにか差異を見出してきましたが、ここに至ってついに全く同じ本、爆誕。

 や、さすがに両方とも定価で買うってわけではなく、持ってる本なんだけど名著が古本屋でお安く売ってるのを見かけてしまってなんか可愛そう、という感じで買うわけです。

 これこれと同じノリですね。

【事務所メンバー紹介(寂しくはない)】
押収品
私たちのファームに新しいクルーがジョインしてくれました!!!!!!

 事務所用と自宅用、とか、あるいは自炊用にするかどうか。
posted by ウロ at 09:34| Comment(0) | 法律書マニアクス

2017年07月24日

石田穣「民法総則」(悠々社1992・信山社2014)

○『法律書マニアクス』て?

 以下、完全に趣味の話しです。
 なので、ブログをお客さんに対する情報提供活動の一環として用いるという観点からすると、まるで無意味なカテゴリとなります。

 通常、本の紹介をするブログであれば、皆さんに役に立つ、読んでもらいたいビジネス書みたいのを紹介するのが王道なんでしょうが、このカテゴリでは、私がただ書きたいから書く、そして読んでもらうことは基本的におすすめしない、という本の紹介記事が続いていく予定です。


 で、本題。

 大学の法学部に入学して以来、なぜか法律学の「体系書」というものが好物になりました。体系書というのは、たとえば民法とか刑法とかの学者さんが、自分の思うところの体系に従った構成で全体を網羅し、各種論点につき詳細に判例・学説の検討、自説の披露をする、というものが典型的なものになります。

 今どきは、ユーザーフレンドリーな「薄い本」とか、判例・実務寄りの本とかが法律書のメインを占めてしまっていたり(判例=攻め、実務=受け、で学説がモブでしょうか)、有力学者がロースクールやら何やらで忙しいのかあまり本格的な体系書が出てこなくなってしまっており、体系書不遇の季節が長らく続いています。

 そんな中でも、少ないながらも素晴らしい体系書が出版されることがありますので、これから少しづつ紹介していければと思います。
 もちろん、私などが学説の評価などするのはおこがましいので、日本酒の記事と同様、のみやすい、後味がすっきりしてる、味がしっかりしてる、程度の私の主観的な感想を書かせて頂きます。
 ただ、「体系書」に絞ってしまうとネタが限られてしまいそうなので、広く「法律書」という括りで進めてみます。


 そして、やっと紹介。

 何よりも最初にどうしても紹介しなければならないのが、石田穣「民法総則」(悠々社1992)です。
 この本は、私が大学1年のときに購入し、それ以降体系書集めに散財するきっかけとなった本です。

石田穣「民法総則」(悠々社1992)

 民法は、大学のカリキュラムでいうと

  民法総則
  物権法(担保物権法含む)
  債権総論
  債権各論(契約総論、契約各論、法定債権)
  親族法
  相続法

と分かれています(大学により編成や順序は異なります。)。

 大学1年生は民法総則からはじめるのですが、扱っている概念が抽象的だったり、まだ学んでいない部分を知らないとちゃんと理解できないところがあったりで、授業がとても理解しにくかったです(私の学力の問題でもあるのですが)。

 そういう場合、通常は「わかりやすい」「薄い」入門書を読むのが正解なんでしょうが、私の場合は、なぜか、できるだけ厚くて詳細に書かれている本のほうが理解できるんじゃなかろうか、と思ってしまい、当時大学の書店で一番ページ数の多かったこの本を購入しました(657頁あります・・・)。

 で、実際、普通の教科書では理由付けもなく結論だけ書かれているようなところも、しっかり言葉を尽くして説明がされていたので、曖昧に理解していた部分がだんだんはっきりとしてきました。
 ただ、多くの点においていわゆる通説的な理解とは異なる異説が多い、ということに、段々気がついていきます。

 なので、学部のテスト向けには、この本で一回理解を深めた上で、頭を通説的な発想に戻す、という大人の対応をすることになりました。
 とはいえ、この本のおかげで、通説を曖昧なまま丸覚えせず、どこに問題があるかを内在的に把握できていたので、展開もしやすかったです。

 司法試験などではさらに、判例・通説をベースに記述を展開しなければならない度合いが強まりますが、やはり一回深く理解した上で判例・通説に戻ってくる、という過程は無駄ではなかったと思います。
 試験対策一般、ということでいうと、合格ラインが70%だからといって70%の理解をしておけばいいのではなく、100%にできるだけ近づくように普段から勉強しておくことが、本番で70%の出力をだすためには必要、ってことだと思います。

 その後、この本は絶版となり、実質的な改訂版が別の出版社から出版されています。
 石田穣「民法総則」(信山社2014)で、これはさらにパワーアップして12,960円で1216頁もあります。

石田穣「民法総則」(信山社2014)

 出版後さっそく購入したものの、比較的時間のあった大学時代と違い、ほかにも読むべき本があったりでなかなか読めずにいます。
 2017年に民法改正があって総則部分にも影響があるので、はやく改訂版をだしてもらって、改正法に対する著者の見解を読んでみたいとも思いつつ、まだ全部読めていないうちに改訂版がでたら悲しいという思いもあったりします。

 まあ、今どきの、「クラウドファンディング、◯◯万円集まったら◯◯頁書きます」というのに比べれば、良心的な気もしますので、この著者の本は、出版される度にお布施感覚で購入するつもりです。

石田穣「物権法」(信山社2008)
石田穣「担保物権法」(信山社2010)
石田穣「債権総論」(信山社2014)
posted by ウロ at 20:07| Comment(0) | 法律書マニアクス