2024年02月12日

消費税法における実質と形式、そして計算へ 〜消費税法の理論構造(種蒔き編45)

 法に定める要件として、しばしば「実質要件/形式要件」などと区別されることがあります。

 たとえば、保証契約においては、意思表示の合致(実質要件)だけでは足りず書面の作成(形式要件)が必要とされる、といったように、実質と形式とを区別して記述されたりします。

 税法においても、同様に実質要件/形式要件の区別が可能です。
 が、それに加えて、税法に特徴的な規定として「計算規定」というものを観念することができます(もちろん、民法でも「相続編」のように計算要素強めな領域もあります)。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)


 《インボイスいらない特例》の究極系と位置づけることができるのが、30条7項但書の「災害その他やむを得ない事情」のやつ(以下、これを「災害」と略することがあります)。
 同条括弧書きの「困難である場合」のような、せせこましい限定列挙モノとはスケールが違います。

消費税法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。


 ここでいう「災害その他やむを得ない事情」というのが《実質要件》にあたります。で、このような事情があることにより、《形式要件》であるインボイスの保存がなくても税額控除できることになる、という構造になっています。


 さて、この場面における《計算規定》はどうなっているでしょうか。要するに「では控除額いくらだ?」ということです。

 長くなるのですが、該当規定をそのまま貼り付けます。

消費税法施行令 第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
1 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この章において同じ。)の区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
二 適格簡易請求書(法第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格簡易請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等(当該適格簡易請求書に当該消費税額等の記載がないときは、当該消費税額等として第七十条の十に規定する方法に準じて算出した金額)のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
三 法第三十条第九項第二号に掲げる電磁的記録(同項に規定する電磁的記録をいう。以下この項、第四十九条及び第五十条において同じ。)の提供を受けた課税仕入れ 当該電磁的記録に記録されている法第五十七条の四第一項第五号又は第二項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
四 法第三十条第九項第三号に掲げる書類又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を作成した課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第四項第六号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
五 法第三十条第九項第四号に掲げる書類の交付又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録の提供を受けた課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第六項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
六 第四十九条第一項第一号イからニまでに掲げる課税仕入れ 課税仕入れに係る支払対価の額(法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。以下この章において同じ。)に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)

2 事業者が、その課税期間に係る前項各号に掲げる課税仕入れについて、その課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)を法第三十条第七項に規定する帳簿に記載している場合には、前項の規定にかかわらず、当該金額を合計した金額に百分の七十八を乗じて算出した金額を、同条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。

3 その課税期間に係る法第四十五条第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額の計算につき、同条第五項の規定の適用を受けない事業者は、第一項の規定にかかわらず、前項の規定の適用を受ける場合を除き、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れのうち第一項各号に掲げるものに係る課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に、課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等及び軽減対象課税資産の譲渡等に該当するものを除く。)に係る部分については百十分の七・八を、軽減対象課税資産の譲渡等に係る部分については百八分の六・二四をそれぞれ乗じて算出した金額の合計額を、法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。


 1項が「請求書積上げ」、2項が「帳簿積上げ」、3項が「割戻し」の規定となります。
 売上を「積上げ」で処理した場合は仕入「割戻し」を選択できないわけですが、条文上は3項のような書きぶりで差配しているわけです。


 それはさておき。
 どの処理方法による場合でも、税額控除の対象となるのは、「1項各号」に定める課税仕入れに限定されています。「災害」の場合もそれ用の計算規定が見当たらないため、この規定によって計算することになります。

 では、実際にどのように計算されるでしょうか。

 この点、『インボイスの交付を受けたが災害により紛失。仕入先が連絡不能で再発行不可』というような事案であれば、1号の「適格請求書の交付を受けた課税仕入れ」に該当します。一度「交付」を受けさえすれば「保存」がなくても「交付を受けた」と言えますので。
 ゆえに、インボイスに記載してあったであろう税額をもとに、税額控除することが可能となるはずです。

   交付を受けた ⇒ 災害で紛失した ⇒ 保存できない

 問題は、『インボイスの交付を受ける前に被災。仕入先が連絡不能で発行不可』というような事案です。

   災害で交付を受けられない ⇒ 保存できない

 この場合、「交付」を受けていない以上は1号には該当せず、他の号にも該当しないため、税額控除できないことになりそうです。より正確にいうならば、『法30条7項但書に従い税額控除はできるが、施行令により算出される税額は0円』となるでしょうか。

 いかにも不条理極まりない。

 これに対して、『積上げではなく割戻しならいけるのでは』と思われる方がいるかもしれません。
 が、「割戻し」規定である3項においても、その計算対象は「1項各号」列挙の課税仕入れに限定されてしまっています。なので、やはり控除額は0円となります。


 以前に検討した、自販機特例などのせせこましいほうの《インボイスいらない特例》については、1項6号に専用の計算規定が用意されています。

 「入場券特例」以外は、そもそもインボイスが「交付」されていないことが前提となっています。それゆえ、計算方法は課税仕入れごとの「割戻し」でいくことが同号の中に記載されています。
 「割戻し」というと紛らわしいのですが、3項の割戻しとは違って課税仕入れごとに割戻しをします。

 ちなみに、「入場券特例」の場合は一度「交付」を受けているはずだから1項1号・2号も適用できるのか、という疑問もあります。が、ややこしくなるので深入りしません。

 何にしても、1項6号のような専用の計算規定が「災害」の場合には用意されていないということです。《究極系》のはずなのに、計算規定における待遇が悪すぎる。


 計算規定がこのような状態であることを前提として。

 翻って、法30条7項但書の《実質要件》としての適用範囲が問題となります。
 もし救済を想定しているのが、『交付を受けたが保存できなかった場合』だけなのであれば、現状の計算規定でも問題はないわけです。

  実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
  計算規定: 交付を受けた場合

 これに対して『そもそも交付を受けられなかった場合』も救済の対象として想定しているのであれば、現行の計算規定は明らかに足りていないわけです。

  実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
       +交付を受けられずに保存できない場合
  計算規定: 交付を受けた場合
        交付を受けていない場合は規定なし(?)


 法令上の規定がこのような構造であることを知ってか知らずか、運営の「よくあるお問い合わせ」では、《偽インボイス》を掴まされた場合も税額控除の適用を受けることが可能、という見解が開陳されています。

お問合せの多いご質問(令和6年1月26日更新)
【令和5年11月13日公表分】
問A (適格請求書発行事業者公表サイトの検索結果とレシート表記が異なる場合)

(注) 売手が適格請求書発行事業者以外の者であるにもかかわらず、自らの登録番号と誤認されるような英数字が記載されているような場合には、当該請求書等は適格請求書等に該当しないこととなりますが、適格請求書発行事業者以外の者がそうした適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類を交付することや、適格請求書発行事業者が偽りの記載をした適格請求書又は適格簡易請求書を交付すること、それらの書類の記載事項に係る電磁的記録を提供することは禁止されており、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)の適用対象となります。
 また、そうした書類や電磁的記録を受領した事業者において、災害その他やむを得ない事情により、請求書等の保存をすることができなかったことを証明した場合には、帳簿や請求書等の保存がなくとも仕入税額控除の適用を受けることが可能です。


 「偽インボイス記載の消費税額を控除してもよい」なんて計算規定は存在しないわけで。仕入税額控除の適用を受けたとて、偽インボイスからどうやって控除税額を算出するつもりなのでしょうか。

 確かに、税額控除を受けることができると書いてあるだけで、控除税額がいくらとまでは書いていない。ので間違ったことは書いていない、と嘯くことは可能です。
 が、当然のことながら、そんな物言いはただの詭弁でしょう。

 そもそも、「非適格者」ならば、災害があろうがなかろうがインボイスを交付すること自体がはじめから不可能であって。《実質要件》レベルの問題として、このような場合まで、法30条7項但書がカバーしていると解釈できるのでしょうか。
 もしかしてですが、『もしも非適格者が災害前に登録していてくれたならば』なんて妄想をベースにするってことですか。そうだとしても、租税法律主義の建前を遵守するならば、2割特例や8割控除のごとく『もしもシリーズ』の系譜にあることを明記すべきでしょう。

【もしもシリーズ】
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
調整対象固定資産と高額特定資産とインボイスと


 以上、法令上の文言をベースに読み取れたことを記述しているだけで、何らの裏付けを取っているものではありません。運営の見解とは真っ向から対立していますし。

 ではありますが、実質/形式要件とは区別して「計算規定」を独自に検討することが、税法解釈上重要である、という限りでは間違いないものと思います。
 「税額控除できる」だけで満足するのではなく、「ではいくら控除できるか」までフォローすべきだろうと。

 にもかかわらず、学者先生の中には、「数式ではなく息吹」(租税息吹主義かよ!?)「仕入税額控除は計算要素でなく請求権」などという感じで、計算規定を軽視する傾向が見受けられるところです。

三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 この点、民法学者が『効果を度外視して要件論だけ論じている。』とか『実体法レベルの議論に終始していて、その実現まで考えてない。』みたいな傾向、おそらくだいぶ昔に払拭されたもののはずです。税法学の世界ではそこまで及んでいないということなのかどうか。
 一方で、課税要件レベルの議論が十分詰められているかといえば。税法分野での「要件事実論」の展開を見る限り、「う〜ん」て感じですよね。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 何にしても、一方で学者先生の計算軽視があり、他方で実務家の法解釈論軽視がある、という税法≒税務世界の不幸な取り合わせ、いい加減どうにかならないものでしょうか。

【税務本における法解釈のゼロ展開】
熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)
posted by ウロ at 11:38| Comment(0) | 消費税法

2024年01月15日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)

 前回の記事で、自販機特例につき「住所」省略は改正事項とするのに「氏名」省略は『差し支えありません』で済まそうとするの、気持ち悪いと評しました。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 なぜ、「氏名」も改正事項としないのかについては、おおよそアタリは付いていて。
 その理由は『古物商等を異常に優遇しているから』だと思われます。

 突飛すぎてよく分からないかもしれませんので、以下説明を加えます(入場券特例については記述を省略)。


 氏名省略規定の条文構造については、以下の記事で分析をしたところです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 長くなりますが、政令と告示を貼り付けてみると次のとおり。

令第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
 一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
  イ 他の者から受けた第七十条の九第二項第一号に掲げる課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ
  ロ 入場券その他の課税仕入れに係る書類のうち法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているものが、当該課税仕入れに係る課税資産の譲渡等を受けた際に当該課税資産の譲渡等を行う適格請求書発行事業者により回収された課税仕入れ(イに掲げる課税仕入れを除く。)
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
   (1) 古物営業法第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
   (2) 質屋営業法第一条第一項(定義)に規定する質屋営業を営む同条第二項に規定する質屋である事業者が、同法第十八条第一項(流質物の取得及び処分)の規定により他の者から所有権を取得した質物
   (3) 宅地建物取引業法第二条第二号(用語の定義)に規定する宅地建物取引業を営む同条第三号に規定する宅地建物取引業者である事業者が、他の者から買い受けた同条第二号に規定する建物
   (4) 再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から再生資源等(資源の有効な利用の促進に関する法律第二条第四項(定義)に規定する再生資源及び同条第五項に規定する再生部品をいう。)に係る課税仕入れを行う事業を営む事業者が、他の者から買い受けた当該再生資源等
  ニ イからハまでに掲げるもののほか、請求書等(法第三十条第七項に規定する請求書等をいう。)の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるもの

2 前項第一号に規定する国税庁長官が指定する者から受ける課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ(同号に掲げる場合に該当するものに限る。)のうち、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れについては、法第三十条第八項第一号の規定により同条第七項の帳簿に記載することとされている事項のうち同号イに掲げる事項は、同号の規定にかかわらず、その記載を省略することができる。

○国税庁告示第26号
2 令第四十九条第一項第一号に規定する国税庁長官が指定する者は、次に掲げる者とする。
四 令第四十九条第一項第一号ハ(1)から(4)までに掲げる資産に係る課税仕入れ(同号ハ(1)から(3)までに掲げる資産に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り、同号ハ(4)に掲げる資産に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限る。)を行った場合の当該課税仕入れの相手方


 令49条2項によれば、氏名省略できるのは、告示に列挙されているもののうち「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る」ものとされています。
 決して、特定業種に限定しているわけではなく。中立的な装いの書きぶりとなっています。が、(その2)(その3)で検討したとおり、結果的には「古物商等」だけに限定されることになります。

 これ、改正前は政令自体に業種が書き込まれていたところであり。インボイス後は政令だけ読んでも特定業種を優遇していることが見えにくくなっています。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)

 『結果的に古物商等だけが氏名省略できることになっているだけで、政令レベルでは決して特定業種のみを優遇する意図があったわけではない』という言い訳も可能っちゃ可能。もちろんヤラセでしょうが(以下、同項を「すっとぼけ条項」と呼びます)。


 さて、このような「すっとぼけ条項」に自販機を追加するには、どのような条文とすべきでしょうか。

 正面から「自販機」とは書かずに、「不特定かつ多数の者から」のような、すっとぼけた書きぶりで限定しなければならないとしたら、どのように記述すればよいのか。うまい遣り口が思いつきません。
 そうだとすると、令49条2項を修正して、正面から「古物商等」「自販機」と謳うことにせざるをえないでしょうか。あるいは、委任先が省令/告示と別れていることをこれ幸いとばかりに、別々の書きぶりで共存させることにするかどうか。

 といったように、自販機を氏名省略できるようにするためには、単に49条2項に自販機を追加すれば済むのではなく。「古物商等」の書きぶりについても再検討しなければならなくなります。


 運営側の往生際の悪さについて、「8割控除」を題材に指摘したことがありますが。
 
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 なぜだかよく分かりませんが、一度アウトプットしたものを修正することに対しては、異常な抵抗があるように見受けられます。ここでも、令49条2項に追加するだけなら許せても、現行の規定を修正するのは避けたいという態度が透けて見えます。

 といった検討の結果として、住所の扱いとの不整合を受け入れてでも、氏名については『差し支え有りません』で乗り切ることにしよう、としたのではないでしょうか。


 以上、前回も書いたとおり『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』と言えばすむところを、あらぬ方向に話を広げるだけの虚無な記事です。
 が、私個人としては、条文イジりのトレーニングとなるので、全く無益ではないはず(と自分に言い聞かせる)。
posted by ウロ at 11:44| Comment(0) | 消費税法

2024年01月08日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 以下、マトモな実務家ならば『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』の一言で終わることを、あれこれ難癖つけるだけのやつです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)


 令和6年度税制改正大綱にて、自販機特例を使う場合に「住所」を記載しなくてよいとの改正案が示された、ということを以下の記事で書きました。

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱

 要綱に「令和5年10月1日からも書かなくて構わんよ。」と謳われているせいで、Q&Aが爆速で公表されました。

令和6年度税制改正の大綱について(インボイス関連) 令和5年12月22日

 「定額減税」あたりと違って、こんな改正案、誰も反対しないでしょうから、これがそのまま本体の『インボイスQ&A』に組み込まれることになるのでしょう。

 そんな程度のものですら、引っかかりを覚えてしまうのが、ひねくれ者の哀しい性(サガ)。


 下記(その2)に記載したとおり、「住所」がいらない場合が列挙されているのは、「国税庁告示」(R5第26号)です。
 インボイス前は基本通達内に編成されていたものが、改正に伴って単独の告示として括りだされました。

 なので、「住所」を省略するというのであれば、国会審議を待つまでもなく国税庁告示をいじくれば済むだけの話です(もちろん「委任立法」の問題はありますが)。とすると、その他の改正事項よりも先行して改正が反映されることになるのでしょうか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)


 ちなみに、令和5年10月1日より前は住所書かなきゃいけないのか、というと、こちらは旧法時代の「3万円特例」でカバーされています。

 「住所」の記載は、請求書等の保存とのバーターで要求されているものです。その上で、通達・告示に列挙されることによってその要求が解除される、という構造となっています。
 ところが、「3万円特例」だけは、はじめから「住所」の記載が要求されていないという、他の特例とは毛並みが異なるものとなっていました。

 ワナビー達の解説だと、単に「住所いらない」だけで括られがちなところ。ですが、条文構造上は全く異なっていたということです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)


 改正対象である「住所」は、実はどうでもよくって。今回のQ&Aで私が「気持ち悪い」と感じたのが以下のもの。

問.自動販売機で飲料を購入した場合、帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」はどのように記帳すればよいでしょうか。

 帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」は、「自販機」との記載で差し支えありません。
 この記載方法に関する取扱いは、今回の見直し前後で変更はありません。


 先日の記事でも(ゴリゴリの建前を語っています)と仄めかしておいたところであって、結論自体は全く問題ないです。

 ですが、「住所」は改正を入れるというのに、「氏名」はなぜ『差し支えありません』で済まそうとするのか。
 「住所」は、政令で請求書等とのバーターで要求されているものにすぎません。他方で、「氏名」は法律レベルで要求されていることであって。「氏名」を省略するというならば、氏名省略規定である令49条2項も改正するのが筋なんじゃないんですか。

 この、住所と氏名に対するアンバランス感が、どうにも気持ち悪いわけです。

 なお、国税庁が『前からそういう扱いでしたけど?』みたいな言い回しをするの。そういう運用していたことを表立って明言していなかったときに言いがちなセリフな気がします。氏名を省略しても『差し支えありません』と明言しているの、私は今回初めて見ました。
 

 また、氏名記載については運用レベルで無視するくせに、「◯コインランドリー/×コインパーキング」みたいな区別は厳密に運用しようとしているのも気持ち悪いです。

(自動販売機及び自動サービス機の範囲)
1−8−14 規則第26条の6第1号《適格請求書等の交付が著しく困難な課税資産の譲渡等》に規定する「自動販売機又は自動サービス機」とは、課税資産の譲渡等及び代金の収受が自動で行われる機械装置であって、当該機械装置のみにより課税資産の譲渡等が完結するものをいい、例えば、飲食料品の自動販売機のほか、コインロッカーやコインランドリー等がこれに該当する。
(注) 小売店内に設置されたセルフレジなどのように単に代金の精算のみを行うものは、これに該当しないことに留意する。


 確かに、「自動販売機又は自動サービス機」という文言からすれば、「機械のみで資産の譲渡が完結するもの」と理解するのが素直に思えます。
 が、「氏名」ルールをガン無視するという前科をおかしておきながら、なぜ「完結」ルールだけは忠実に文言に従おうとするのか。

 そもそもの話、コインランドリーとコインパーキングとで、インボイス発行の「困難さ」にどのような有意差があるというのでしょうか。コインランドリーが困難だというならば、コインパーキングだって困難でしょうよ。

 また、たとえばですけど、コインランドリーで洗濯・乾燥するのに、利用者が洗濯機から乾燥機に洗濯物を移さなければならない場合は「完結」ルールを満たさないということになりはしないでしょうか。利用者の行為は資産の譲渡に組み込まれないというならば、コインパーキングにおける駐車行為も組み込まれないことになるのでは。
 あるいは、コインパーキングも、ゲートを上げるための料金だけをもらっているということにすれば、「完結」ルールを満たすということでいいんですか(これらはもちろん難癖です)。

 この区別を支えているのは、唯一文言のみですよね。実質的な根拠は何もない。
 もし何かしら区別をするのだとしたら「売手がその場にいない(のでインボイス出せない)」くらいじゃないですかね。

 いずれにしても、「氏名」ルールをガン無視できる度胸を、「完結」ルールでも発揮してくれればいいじゃないですか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
posted by ウロ at 10:25| Comment(0) | 消費税法

2024年01月01日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)

 インボイスの前後に渡って、《請求書いらない特例》の条文イジりをしたことには、それなりの意図がありまして。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 一般的には、「請求書等」として要求されるものが、区分記載請求書から適格請求書に変更されたことにより、仕入税額控除が認められる範囲が限定されたと理解されています。し、当ブログにおいてもそのように表現をしている箇所があります。

 が、仕入税額控除厳格化の本体は、表向きの《原則ルール》にあるのではなく。《例外ルール》である「やむを得ない理由」が「困難な場合」に変更されたことにある、というのが私の見立てです。

 インボイス制度に対する評価として、「単に登録番号と税額を追加するだけなのに、騒ぎすぎ!ウケる〜!」みたいな意見を聞くこともあります。
 それは《原則ルール》のかぎりではそのとおりです。「区分記載請求書方式」が、インボイス移行ツールとして優れていたと評価することができるでしょうか。


 ですが、《例外ルール》まで視野に入れると、そんなお気楽なものではないことが分かります。

 というか、今まで我々実務家は、あまりにも「やむを得ない理由」に依存しきっていたのかもしれません。せっかく運営が「区分記載請求書方式」を挟んでくれたというのに、「やむを得ない理由」に甘えることで請求書の保存を真面目に実施していなかったと。

 レベル0 請求書いらない(超ゆるい)
 レベル1 請求書(ゆるい)     orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル2 区分記載請求書(きつい) orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル10 適格請求書(かなりきつい)or困難な場合(超きつい)


 だらけきった実務家により生み出されていた益税を、困難な場合の限定列挙化により撲滅できてめでたしめでたし(皮肉)。原則ルールのほうは「区分記載請求書」という移行ツールを挟んでくれたのに、例外ルールについては移行ツールを挟まずにいきなり厳格化したせいで、ついていけなくなっているだけの話だと。


 税法学者からしても、通達に規定されっぱなしの「やむを得ない理由」を、政令・省令で「困難な場合」として明確化したことは『租税法律主義』『課税法規の明確性』『法的安定性』の観点から正しい、とか言い出しそうですし。
 特に件の教科書の著者あたりが、「仕入税額控除が『請求権』として明確化された!」とか言いそう(冷笑)。

 もちろん、税法ルールを明確化すること、それ自体は望ましいことです。が、消費税法における仕入税額控除制度を厳格化することには、他の制度とは異なる特有の問題があります。

 それは、本ブログでも再三指摘してきた「損税」発生問題。

 件の教科書をはじめとして、現実の消費税法の仕組みを無視した論者がよくいうのが『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言。
 
 免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)

 しかしながら、現実には売上側は問答無用の譲渡課税、他方で仕入側は厳格化したインボイス控除と、まったく異なる原理で作動しています。

  売上課税:問答無用の譲渡課税    (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 or困難な場合(超狭い)


 課税側は譲渡があれば問答無用で課税されるくせに、仕入側は限定的にしか控除されません。
 相互の連動ということでいうと、

  ◯ 課税されないなら控除されない(=控除するなら必ず課税されるべき)

と、控除が課税よりもはみ出さない方向でのみ連動し、

  × 控除されないなら課税されない(=課税するなら必ず控除されるべき)

と、課税が控除よりもはみ出さない方向では連動しません。
 控除縮小(課税拡大)の方向でのみ、一方通行で連動することになっています。その結果、インボイス制度のもとではひたすら「損税」が生じることとなります。

 これがインボイス前であれば、

  売上課税:問答無用の譲渡課税       (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 orやむを得ない理由(わりと緩い)


と、売上側と仕入側とがほどよくバランスが取れていました。インボイス前の制度は、損税が大量発生するくらいなら一部益税の発生を受け入れるものだったと評価することができます。

 これに対してインボイス後は、「売手:免税事業者」の益税を撲滅できるならば、それ以外の場面でどれだけ損税が発生してもお構いなし、という制度に仕上がっています。
 ここで、益税をわざわざ「売手:免税事業者の場合の」と限定するのは、《インボイスいらない特例》によって、特定業種の益税は積極的に容認しているからです。現行制度は、同じ益税の中でも、許せない益税と許せる益税とがあるという価値判断を前提に組み立てられてしまっています。インボイス推進派の方々がノセられてしまっている「益税絶許!!」というプロパガンダとは、まるで様相が異なる。

 現行制度は、特定場面の益税だけを撲滅しただけであり、かつ新たな損税を生み出しているわけで。真面目に《課税=控除》を実現するつもりがあるとは、とても思えません。


 こういった制度全体の構造理解というもの、税法分野では正面切って展開されていません。憲法論から始まる抽象概念論と、裁判で問題となった個別論点に関心が集中しがちで。その真ん中が手薄すぎる。

 そのせいで、『課税と控除は一致させるべき』という抽象的なお題目から、一気に仕入税額控除を厳格化するという個別制度の実現へと到達してしまう有様なのでしょう。
 仕入側だけを厳格化するだけで《課税=控除》を実現できたつもりになってしまい、売上側との規律に不整合が生じないかといったことを検討しないで済ませてしまっています。

 このような検討作業、件の教科書のような消費税法全体を記述した書籍などでこそ展開すべきものだと思うのですが。残念ながら『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言をのたまうだけで、現実に両輪駆動が機能しているかを検証することもありません。

 現実には、一方のタイヤはスポンジ製、他方のタイヤは鉄製でできていて、およそ真っ直ぐ進まない出来上がりですよ。


 なお、《例外ルール》のほうを本体とみることに対しては、違和感のある方もいるかもしれません。が、法学における《原則/例外モデル》の欺瞞っぷりについては、すでに何度か指摘してきたとおりです。

【原則/例外モデル批判】
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 「例外は文字通り例外的に考慮するだけですよ。」と言いながら、バックグラウンドでは常に例外ルールを走らせている例の所作のことです。

 実務への現実的な影響のデカさという観点からすると、表向きの「区分記載請求書→適格請求書」の変更は単なる目眩ましで。実体(実態)は《請求書いらない特例》を厳格化・特権化することに主眼があったのではないか、と思わざるをえません。
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 消費税法

2023年12月25日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 あいだを開けてしまいましたが。
 前回は、「特定課税仕入」についての《インボイスいらない特例》の条文構造を検討しました。通常の課税仕入とは違って、条文構造上は特に問題はないと。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

 今回は、ではなぜ「特定課税仕入」の場合にインボイスがいらないとされているか、について検討します。

【電気通信利用役務の提供とインボイス】
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)


 前回述べたとおり、そもそも「特定資産の譲渡」を行っても、売手にはインボイスを発行する権利も義務もありません。
 仮に、売手が「消費者向け」も提供しているということでたまたま「適格者」になっていたとしても、です。「事業者向け」を提供する際には、インボイスを発行する義務がないどころか、親切心でインボイスみたいな何かを発行することもできません。
 買手に対して「テメエで納付しろや!」と通知する義務があるだけ。

 ゆえに、インボイスを発行する/しないという選択肢がそもそも存在しません。
 「形式論」としてはここでお終いなのですが、以下、もう少し実質に踏み込んで検討してみましょう。


 国内仕入に関する厳格形式主義に鑑みれば、特定課税仕入についても、インボイスの代わりに何かしらの「控除証明書」を発行する義務を売手に課す、ということも考えられます。

 が、買手にとって、売手の代わりに「課税」させられるのに、売手から証明書をもらえないせいで「控除」のほうはできないとしたら、さすがに理不尽だとバレてしまいます。

 【悪魔合体(リバースチャージ+インボイス制度)】
   売上:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
   仕入:インボイスをもらえなければ控除はさせないよ

 なので、「特定課税仕入」については何らの書類を要せずに控除できることとしたのでしょう。インボイスがなくても、控除する買手自身が課税されているのであって、《課税=控除》は確保されていることになります。

 【真正(神聖)リバースチャージ】
   売上:問答無用の仕入課税
   仕入:問答無用の仕入控除
  
 課税と控除が一致する、美しい世界線が実現されています。
 

 このことが正当化できるというならば、国内仕入において「非適格者である課税事業者」(以下、「非適格者(課税)」といいます)からの仕入が税額控除できないのは、なぜなのでしょうか(「適格者」がインボイスを発行してくれないとか間違ったインボイスを発行する場合も同じです)。

 【売手:非適格者(課税)×買手:課税事業者(本則)】
   売上:問答無用の譲渡課税
   仕入:インボイスがないから控除不可

 この場面でも、売手:非適格者(課税)は譲渡課税されています。のに、買手側は税額控除できません。課税/控除の主体が分属されているだけで、控除できないと「損税」が発生してしまう、という損益状況は「特定課税仕入」の場合と全く一緒です。

 損益状況が全く同じなのに、主体が別人になった途端、《許せる損税》になってしまうという不可思議現象。

  免税事業者の益税      ←絶許!!!!
  特定課税仕入による損税   ←よくないよね。
  非適格者(課税)による損税 ←(無言)・・。


 リバースチャージにおいては、譲渡にかかる税額も仕入にかかる税額も、「買手」側で計算することになっています。

 インボイス推進派の方々の中には、インボイス制度を説明するにあたって『売手だけが正しい税額を計算することができる、インボイスは「控除証明書」である、なので買手が勝手に書き換えることは許されない。』というような感じのことを宣わっている方もいます。
 が、リバースチャージでは「買手」が税額計算をすることになっているわけで、そのような前提は存在しません。

 そもそも、売手がインボイスの税率や税額を間違えて記載していた場合には、買手が税務処理の修正を余儀なくされます。買手は、売手作成のインボイスを鵜呑みにして自社の処理をすることが許されていません。

  法令 = 売手のインボイス = 買手の税務処理  ←控除できる

の場合だけ、めでたく税額控除ができ、

  法令 ≠ 売手のインボイス = 買手の税務処理  ←控除できない

と、売手の間違ったインボイスを鵜呑みにして買手が処理した場合には、控除ができないことになっています。売手作成のインボイス記載事項は、買手にとって単なる参考事項にすぎず、その内容が正しいかどうかは自分で判断しなければなりません。

 民法でいうところの《公信力》や行政法でいうところの《公定力》みたいなものは、インボイスには備わっていないということです。
 買手はインボイスの記載を信じて処理してよい、間違いがあった場合は売手と課税庁との問題として処理する、というような制度にはなっていないのであって。とてもじゃないが「控除証明書」なんてご立派なものではない。

 「課税と控除が両輪駆動する」とか「重低音がバクチクする」みたいな、現代なら「※イメージです。実際の商品とは異なります。」と注意書きが挿入される感じの宣伝文句。


 という具合で、「リバースチャージ」だけが、現行消費税法の中で純粋に《課税=控除》を実現できる唯一絶対の領域だ、と思ったのですが。

 残念ながら「用途区分」という貧乏神(from桃鉄)の存在により、リバースチャージですら、控除額が削られることになっています。

  【悪魔合体(リバースチャージ+用途区分)】
   仕入:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
   仕入:非課税対応なら控除させないよ

 上記でリバースチャージに「真正(神聖)」という修飾を加えたのは、「用途区分」に侵食されない綺麗な状態に限り、という限定を加える趣旨からです。

 もはや、現行消費税法の中に、混じり気のない《課税=控除》が実現できる理想郷は存在しないのかもしれません。
 「輸入消費税」は無事か?、とも一瞬考えたのですが、これも「用途区分」の支配下にありました。輸入消費税として直接お国にお納めしているにもかかわらず、非課税対応分は控除できないことになっています。

  【悪魔合体(輸入消費税+用途区分)】
   仕入:問答無用の輸入課税
   仕入:非課税対応なら控除させないよ
posted by ウロ at 11:29| Comment(0) | 消費税法

2023年12月19日

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱

 新年度の税制改正大綱が出たとて。

令和6年度税制改正大綱(自民党)

 本ブログにおいて、その内容を真面目に記事にする気もなく。するとしても、下記のような変則的な内容であったり。

「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に

 ただ今回は、先日の記事との関係で気になるところがあったので、メモ代わりに。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

P101
(10)一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)については、帳簿への住所等の記載を不要とする。
(注)上記の改正の趣旨を踏まえ、令和5年10月1日以後に行われる上記の課税仕入れに係る帳簿への住所等の記載については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。


 自販機特例が使える場合に、帳簿に「住所等」の記載を求めないことにすると。しかも、今から改正前提で処理しちゃっていいんだって(以下、入場券特例はガン無視)。


 そもそもの話なんですが。

 自販機特例を適用する場合に「住所等」の記載が求められていたの、インボイスができてからではなく。旧法時代からずっと求められていたものであって。なんで今さら改正しようとするのか。
 まあ、旧法時代は「3万円未満」特例があったおかげで、ほとんどがそちらでカバー出来ていたから、ということでしょうか。だとしたら、「3万円未満」特例廃止にあわせて同時に手当てしとけや、という話ですよね。

・旧法
 3万円未満 氏名 3万円未満特例
 3万円以上 氏名+住所 自販機特例
・新法
 3万円未満 氏名+住所 自販機特例
 3万円以上 インボイス+氏名 特例なし


 その点はさておき。
 私が気になるのが、ここでいう「住所等」とは令49条1項でいうところの「住所又は所在地」だけなのかということです。

 というのも、(Q&Aワナビーの方々は誤解されているかもしれませんが)自販機特例を使った場合であっても、原則どおり帳簿には「氏名又は名称」(以下「氏名等」と略します)の記載が必要となっています(法30条8項)。
 「氏名等を省略できるのは古物商等だけ」ということを、上記一連の記事において散々批判の対象としたところ。

 もし、大綱でいう「住所等」に氏名等が含まれていないのだとしたら、当該自販機にかかる「販売者」を確認しそれを帳簿に記載するという作業は、相変わらず必要だということになります(ゴリゴリの建前を語っています)。

 これ、「住所等」のほうは、国税庁Q&A様が「◯◯市」程度の購入場所でよいと仰ってくれているので、面倒とはいえすぐに分かることです。他方で「氏名等」のほうは、当該自販機の「販売者」を探し当てなければなりません。それがその敷地の所有者なのか、あるいは運営会社なのか、自販機ごとに違うはずであり、いわゆる「管理者」と一致するとは限らないでしょう。

自販機表示(日本自動販売システム機械工業会)

 ということで、「氏名等」のほうも省略できるとしてくれないと、大変なことに変わりはない。というかむしろ、「住所(購入場所)残しで氏名省略」のほうが楽なんじゃないですかね。


 こうなったら、消費税法上、全ての自動販売機に「販売者情報」の表示を義務づけ、購入者はその表示と購入した商品を撮影することをもってインボイスに替える、みたいな制度にしてしまえばいいじゃないですか(投げやり)。
 あるいは、媒介者特例のごとく「管理者」名でもよいことにするか。

 一応冗談のつもりで言っていますが、令和6年ぽっきりの「定額減税」なんて制度を、大綱の目玉のごとく扱っているイカした(またはファンキーな)彼らからすると、本気で採用してしまいそうで恐ろしい。
posted by ウロ at 16:56| Comment(0) | 消費税法

2023年12月04日

調整対象固定資産と高額特定資産とインボイスと

 調整対象固定資産(9条7項)と高額特定資産(12条の4)は売上課税側のルール(これらを「資産ルール」と総称します)、インボイス(30条1項)は仕入控除側のルール、と別々の領域のものです(本記事の条数はいずれも消費税法)。
 『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などというのは、「だったらいいな」レベルの与太話であって。実際のところ、インボイスが導入されたにもかかわらず、資産ルールの要件に変更はありません。

【両輪駆動テーゼ批判】
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)

 が、インボイス導入に伴い、あれやこれやの特例・経過措置も導入されたため、それらとの食い合わせがどうなっているか、検討する必要が出てきます。
(用語の使い方として、調整対象固定資産の中に高額特定資産が含まれているわけですが、以下ではそれぞれ排他的なものとして使うこととします。)

【食い合わせ検証】
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)


 資産ルールとの関係で問題となるのが、免税事業者が「課税事業者選択届出書」(9条4項。以下、単に「選択」と略します)を提出せずに、H28附則44条4項の特例ルートを使って「選択」なしで適格者になった場合に、資産ルールが適用されるのかどうか、という点です(論点1)。

 特例ルートならば、還付とった後に免税に逃げ込むことができるでしょうか(厳密には、控除≠還付ですが、互換的に用います)。なお、資産ルール適用の効果として免税制限と簡易制限の2つがありますが、調整対象固定資産と高額特定資産とで簡易制限の内容がズレていますので、免税のみを想定して記述します。

 まず、高額特定資産について。
 こちらは、本則課税を使った場合に問答無用で規律が及ぶことになっています。それゆえ、どういうルートで適格者となろうが、本則課税を使った以上は3年縛りが発動します。

 他方で、調整対象固定資産はどうかというと。
 こちらは、「選択」ルートを使ったことが要件となっています。それゆえ、「選択」なしで適格者になった場合には発動しないことになります。
 結果、調整対象固定資産につき本則課税を使って仕入税額控除の適用を受けたとしても、翌期に免税の適用を受ける道がひらけます。もちろん、特例ルートの「2年縛り」が発動する場合には、そちらに従うことになりますが。

 こういう違いがきちんと条文に明記されていればよいのですが。「あくまでもルールは従前どおりなんだから、良い子のみんなは言わなくても分かるだろ」とばかりに、何かしらの整備規定のようなものは設けられていません。
 良い子の我々は、「選択ルートを特例ルートに読み替える規定がどこにも見当たらない」ということから裏読みするしかありません。


 と、調整対象固定資産か高額特定資産かによって、規律が異なることになっています。

 【論点1の帰結】
  ・高額特定資産   本則使えば3年縛りあり
  ・調整対象固定資産 選択して本則使えば3年縛りあり
            選択なければ本則使っても3年縛りなし

 両制度を「多額の資産を取得して還付とっておきながら、免税に逃げることを防止する制度」と薄ぼんやりとしか理解していないと、安易に、同じじゃないのはおかしいと捉えてしまうかもしれません(「趣旨→条文」テーゼの陥穽)。例によって、立案担当者が条文作成ミスにより、修正パッチを当て忘れただけなんじゃないのかと。

【「趣旨→条文」テーゼ批判】
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)

【条文作成ミス】
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版


 が、おそらくこの点に関しては、意図的に違いを設けたのだと思われます。
 調整対象固定資産がイケてない制度であったことから洗練された高額特定資産が導入された、という経緯からすると、メインはやはり高額特定資産のほうであって。調整対象固定資産は、すぐに廃止するわけにも行かないからみっともないけど仕方なく残しているだけ、という程度の位置づけのようにみえます。なので、積極的に適用範囲を広げるつもりもないんだと。
 条文の置き場所も、調整対象固定資産は9条の中に組み込まれたサブルールなのに対し、高額特定資産は独立の条数を与えられており。ガワだけみても待遇が違います。

 両制度を似たようなものとして横並びでしか理解していないと、その違いに気づきにくいのではないでしょうか。控除したという「結果」の側だけから規制すればすむところを、課税選択したという「行為」の悪辣さに着目して規制しようとしたせいで発動条件が限定されてしまっている、というのが調整対象固定資産の(残念な)特徴です。
 少なくとも、両制度の要件と効果の違いは正確に理解しておくべきものでしょう。

消費税、免税とるって大変よ、という話(2018.1.11現在のルール)。

 ちなみに、件の教科書では、どういうわけか片方の規律しか説明しないという、ろくでもない記述となっています。細部に至るまでイミフな記述が散りばめれている、格好のアクティブラーニング教材。

〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)

 もしかしてですが、「調整対象固定資産残してるのみっともない」という立案者のお気持ちを汲み取って、正面から取り上げないであげた、ということでしょうか。親切ですね、運営側には。


 もう一つ問題となるのが、本則課税で還付をとった後の課税期間で「2割特例」(H28附則51条の2)は使えるのかどうかです(論点2)。
 以下、資産ルール以外の要件はクリアしているものと想定して検討します。

 結論的には、論点1と同じ規律になるはずですが、これを条文からストレートに導くことができるでしょうか(例によって条文引用はかなり省略入れてます)。

 【論点2の帰結】
  ・高額特定資産   本則使えば2割特例適用できない
  ・調整対象固定資産 選択して本則使えば2割特例適用できない
            選択なければ本則使っても2割特例適用できる

H28附則 第五十一条の二(適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置)
1 適格請求書発行事業者()の五年施行日から五年施行日以後三年を経過する日までの日の属する課税期間(法第五十七条の二第一項の登録()、消費税法第九条第四項の規定による届出書の提出(略)がなかったとしたならば消費税を納める義務が免除されることとなる課税期間に限るものとし、次に掲げる課税期間を除く。)については、(略)
二 消費税法第九条第七項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合に該当する場合における同項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間から当該調整対象固定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後三年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間


 条文読めば分かるとおり、2割特例も、8割控除と同じく『もしもシリーズ』です(「もしも◯◯がコンビニの店員だったら」などのコントの古典様式)。「もしもインボイス登録も課税選択もなければ免除受けられたか」という、現実に存在しなかった世界線を夢想することで判定するんだと。
 あわせて各号では、現実に存在する課税期間を適用除外とすることもしています。これはいわゆる『リアルとファンタジーのハイブリッド課税要件』ですね(以下「R&F要件」と略します)。

 各自で思いつくものを想起していただきたいのですが。フィクション物のお話で、現実世界の登場人物と平行世界の登場人物とが、一致する行動をとることで何かが発動する、みたいなアレのことです。

 余談ですが、税制ってどこまでいっても「現実世界」のものだと、私は思っていたのですが。「予知」とか「見込み」のような、オカルトというか夢想系の課税要件があちらこちらに紛れ込んでいるんですよね。

【オカルティック租税法】
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)


 で、この条文を高額特定資産にあてはめてみると。
 こちらは、本則使った以上問答無用で3年縛り発動なので、インボイス登録・課税選択がなかったと仮定しても免税期間にはなりません。ので、2割特例は使えないことになります。

 では、調整対象固定資産はどうか。
 もしもインボイス登録も課税選択もなかったならば、3年縛りは発動しないこととなるはずです。そのための備えが、現実要件である本条2号なのでしょう。

 2号によれば「調整対象固定資産」絡みの課税期間が除外されているので、こちらで適用不可となるのかと思いきや。が、よくよく読んでみると、単に調整対象固定資産を仕入れた場合とあるのではなく、「消費税法第九条第七項に規定する調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合に該当する場合」と、もってまわった言い回しをしています。
 おそらくこれは、調整対象固定資産の3年縛りが実際に発動した場合を言いたいのではないでしょうか。

 ということで、結論としては、特例ルートで登録された場合には2割特例が使えるということになるかと。

 規律としては、論点1と同じ遣り口で振り分けをしていることになっています。が、論点1では「何も書かない」ことによって、論点2では「リアル&ファンタジー」によってその規律を表現しています。
 結果だけ見ると同じ切り分けになるというのに、条文構造が全く違うということです。


 ここで、上記2つの論点につき、運営の『Q&A』群がどのように記述しているかを見てみましょう。

 論点2の2割特例が受けられるかどうかについては書いてあるものの、論点1の特例ルートの場合にそもそも資産ルールが及ぶのかについては、記述が見つけられませんでした。
 条文に明記されていないことの穴埋めこそが、『Q&A』の本領が発揮される場面じゃないのかと思うのですが。条文のある2割特例のほうだけしか記述されていないようです。

【2割特例の適用範囲】
インボイス制度に関するQ&A目次一覧(国税庁)
問115 (2割特例の適用ができない課税期間@)
消費税のインボイス制度・軽減税率制度に関する資料(財務省)
インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答
問1.適用対象者を教えてください。

 その中身をみてみると、「国税庁Q&A」では選択ルート/特例ルートのいずれかによって規律が異なることが明記されています。に対して、「財務省Q&A」では雑に、調整対象固定資産は全て適用対象外であるかのような書き方になっています。

・国税庁Q&A
D 「課税選択届出書」を提出して課税事業者となった後2年以内に本則課税で調整対象固定資産(注2)の仕入れ等を行った場合において、「消費税課税事業者選択不適用届出書」の提出ができないことにより事業者免税点制度の適用が制限される課税期間(注3)(消法9F)
(注3) 免税事業者に係る登録の経過措置(28年改正法附則44C)の適用を受けて適格請求書発行事業者となった者は、「課税選択届出書」の提出をして課税事業者となっていませんので、これに該当することはありません。
F 本則課税で高額特定資産(注4)の仕入れ等を行った場合(棚卸資産の調整の適用を受けた場合)において事業者免税点制度の適用が制限される課税期間(消法12の4@AB)

・財務省Q&A
 調整対象固定資産や高額特定資産を取得して仕入税額控除を行った場合等、インボイス発行事業者の登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる場合(略)についても、2割特例の対象となりません。


 「インボイス発行事業者の登録と関係なく事業者免税点制度の適用を受けないこととなる場合」という記述を深読みすれば、特例ルートはインボイス登録と関係ありだからここには含まれない、と理解できるのかもしれません。
 が、さすがに我々のようなプロの「Q&A裏読み士」にしかできない芸当ではないでしょうか(この対資格が「Q&A鵜呑み士」)。

国税庁『Q&A』解釈方法論 序説

 というか、財務省Q&A、本問にかぎらず全体として、法的素養のない人が記述したようなピントのボケた書きぶりになっているように思えます。「ド素人向けにお易しく書いてやったんだから、仕方ねえだろ!」ということなのかどうか。

 に対して、国税庁Q&Aのほうは、確かに、上記引用した条文の構造とは大分異なっています。
 が、「R&F要件」をそのまま引き写したとして、容易には理解し難いでしょう。「インボイス登録も課税選択もなければ免除受けられた場合です」とだけいわれたところで、なんのこっちゃって感じになるはずです。
 そこで、条文上の「空想要件+現実要件」という構成を解体して、類型ごとに再編成してくれた、と好意的に評価することができるのかもしれません。
 8割控除のときのような隠し立てはせずに、きちんと特例ルートの説明をしてくれていますし。

【類型論的アプローチ】
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
社会保険適用拡大について(2022年10月〜) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克


 上述したH28附則51条の2の読み方が合っているのかどうか、全く自信はありません。現実要件のほうは事実に当てはめるだけだから単純ですが、空想要件のほうは妄想力を働かせなければならないわけで。
 が、国税庁『Q&A』様と結論において一致しているので、さしあたりこれで理解しておきます。

 なお、消費税法基本通達21−1−1には、特例ルートのH28附則44条4項に関する解釈が開陳されています。
 同項の文言をどのように読めばこの通達のいうような解釈(特に(注)の第一段落)を導けるのか、という問題もありますが、それはまた別のお話。
posted by ウロ at 11:57| Comment(0) | 消費税法

2023年11月20日

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 先日取り急ぎで書いた記事、妄想を付け足して書き直しました。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 確定版


 クソ真面目に検討したものが、しれっと、あっさりと・・・。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴

 下記の問Fをご覧ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_faq.htm
お問合せの多いご質問(令和5年11月13日更新)

(適格請求書発行事業者からの課税仕入れに係る経過措置の適用等)
問F 当社は、仕入先が多数あり、登録番号の記載のない請求書の交付を受けることも多くあります。この場合、適格請求書発行事業者から交付を受けた登録番号の記載のない請求書等を含め、登録番号の記載のない請求書等については、一律に、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置の適用を受けてもよいでしょうか。

【答】
 適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れであっても、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。
 ただし、当該経過措置の適用は、取引の相手方が適格請求書発行事業者以外の者である場合に限りませんので、例えば適格請求書発行事業者から交付を受けた登録番号のない請求書等を含め、区分記載請求書等の記載事項を満たしたものの保存がある場合には、一律に、当該経過措置の適用を受けることとなります。


 【答】の一段落目とニ段落目とで、どう考えても矛盾しているのですが。

【AただしB構文】
A 「適格請求書発行事業者以外の者」からの課税仕入なら経過措置受けられる。
 ただし、
B 経過措置は「適格請求書発行事業者以外の者」からの課税仕入に限られない。

 どうしても従前の記述(A)を訂正するような表現にはしたくなかったんでしょうか。下衆の勘ぐりセンサーからすると、どうにも立案担当者の「往生際の悪さ」を感じざるをえない構文(以下、これを「AただしB構文」といいます)。

 下記は、もちろん妄想です。

【「AただしB構文」誕生の経緯】
・本来であれば「適格請求書発行事業者以外の者」からの課税仕入だけに限定するつもりだった。
・が、法30条1項は「ヒト」ではなく「モノ」の観点から控除対象を制御している。そこで、本経過措置も「モノ」の観点から規律することにした。ただ、見出しだけは当初の「つもり」である「ヒト」のまま残しておいた。
・ところが、「モノ」の観点から制御したせいで、「適格者(インボイス無し)」が控除対象に含まれることになってしまった。
・条文立案ミスがバレたくないが、かといって嘘を書くわけにもいかない。ので、「Q&A」では「適格請求書発行事業者以外の者」と書き、「適格者(インボイス無し)」も控除対象になることについてはダンマリを決め込んだ。
・その後、大量に問い合わせが来てしまい誤魔化しきれなくなったので、「お問合せの多いご質問」に明記せざるをえなくなった。が、条文立案ミスを正面から認めたくはないので、「AただしB構文」を使って、本来は「適格請求書発行事業者以外の者」だけが対象だが、運用で「適格者(インボイス無し)」も対象に含めてあげているかのような書きぶりとした(どうせお前ら条文読まないだろと舐めている)。

 こんなものは、私の逞しい妄想力の産物にすぎません。が、これくらいしょうもない妄想によらなければ、上記のようなひねくれた書きぶりにはならないと思うのです。

 素直に間違いを認めるのならば、わざわざニ段落に分けて記述する必要はありません。条文どおり、旧法では受けられたが新法では受けられない場合として、まとめて列挙すればいいだけです。


 いずれにしても、適格者がインボイスをくれない(が区分記載請求書はくれる)場合も経過措置受けられるんだと。まあ、条文通りの結論であって、何をいまさらというところなんですが。
 他の回答にあるような、「差し支えありません」系の、運用で勝手に緩める回答ではありません(が、「AただしB構文」を使うことにより、あたかも「差し支えありません」風の書きぶりに見せかけている)。

 立案担当者からすれば「過小課税」であって、本来は「適格請求書発行事業者以外の者」だけが対象なんだと強調したいのかもしれません。が、みずほCFC事件最高裁判決の「形式重視」からすれば、「適格者(インボイス無し)」が含まれるのは当然の帰結でしょう。
 「本当はそんなつもりで書いていない」は無視すべきことになるはずで。納税者不利な方向のみに「形式重視」を発動するなんて、許されるはずもない。

みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
みずほCFC事件判決(最高裁令和5年11月6日)と形式的犯罪論

 のはずなんですが、形式重視だと納税者有利になってしまうということで、形式無視の実質重視な高裁判決もあるわけで(上告不受理)。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 本経過措置については、運営側が自白してくれたからよいようなものの(が、施行後公表というのにも、往生際の悪さを感じる)。これが、公式ではダンマリ決め込んだままだったら、どうなっていたことか。
 立案担当者の「つもり」にのっかった「実質重視」の判決が出たとしても、おかしくない。


 ということで、Q&Aワナビーの、インボイス解説モノの執筆者各位は、条文読まずに不十分な情報を拡散したことを、自省されたほうがよろしいかと。立案担当者の条文作成ミスに付き合わされて、ウソの拡散に加担させられていただけですよ。

 が、そんなことはお気になさらず、おそらく「国税庁の最新情報を反映した決定版!!」とか言って、上記「AただしB構文」をコピペするだけの改訂版を出して終わってしまうのでしょう。運営の情報更新(すり替え)を、単なる改訂チャンスとしてしか見てないのか。

 上記のとおり、「お前らどうせ条文なんて読まねえだろ」と舐めプかまされているわけで。
 カリスマ指導者に『国民よ立て!悲しみを怒りに変えて。立てよ国民!』くらい煽られないと、目覚めることはないのでしょうか。
posted by ウロ at 09:46| Comment(0) | 消費税法

2023年11月14日

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 確定版

 クソ真面目に検討したものが、しれっと、あっさりと・・・。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴

 下記の問Fをご覧ください。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice_faq.htm
お問合せの多いご質問(令和5年11月13日更新)

(適格請求書発行事業者からの課税仕入れに係る経過措置の適用等)
問F 当社は、仕入先が多数あり、登録番号の記載のない請求書の交付を受けることも多くあります。この場合、適格請求書発行事業者から交付を受けた登録番号の記載のない請求書等を含め、登録番号の記載のない請求書等については、一律に、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置の適用を受けてもよいでしょうか。

【答】
 適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れであっても、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています。
 ただし、当該経過措置の適用は、取引の相手方が適格請求書発行事業者以外の者である場合に限りませんので、例えば適格請求書発行事業者から交付を受けた登録番号のない請求書等を含め、区分記載請求書等の記載事項を満たしたものの保存がある場合には、一律に、当該経過措置の適用を受けることとなります。


 一段落目とニ段落目とで、どう考えても矛盾しているのですが。

1 「適格請求書発行事業者以外の者」からの課税仕入なら経過措置受けられる。
2 経過措置は「適格請求書発行事業者以外の者」からの課税仕入に限られない。

 どうしても従前の記述(1)を訂正するような表現にはしたくなかったんでしょうか。

 いずれにしても、適格者がインボイスをくれない(が区分記載請求書はくれる)場合も経過措置受けられるんだと。まあ、条文通りの結論であって、何をいまさらと。
 他の回答にあるような、「差し支えありません」系の、運用で勝手に緩める回答ではありません。

 ということで、Q&Aワナビーの、インボイス解説モノの執筆者各位は、条文読まずに不十分な情報を拡散したことを、自省されたほうがよろしいかと。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
posted by ウロ at 16:34| Comment(0) | 消費税法

2023年10月30日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

 前回までで省略した「特定課税仕入」と《インボイスいらない特例》の関係について、一応確認しておきます。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)

 事業者向け/消費者向け電気通信利用役務の提供については、以前に条文構造を整理したことがあります。

【電気通信利用役務の提供とインボイス】
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)

 その際は、帳簿・請求書に関する規律は省略していました。ので、今回はその補完となります。


 まず、インボイス「前」の旧法。法30条1項の規律から確認します。

法30条1項
 ・国内課税仕入
  課税仕入れに係る消費税額
  (当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・特定課税仕入
  特定課税仕入れに係る消費税額
  (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額


 以前確認したとおり、旧法では通常の国内課税仕入(以下、「通常の」は略)と同じ計算式となっていました。
 次に7項。

 法30条7項
  原則:帳簿及び請求書 保存必要
  例外:帳簿のみ保存必要。
     少額、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項


 原則は帳簿・請求書が必要だが、特定課税仕入は帳簿のみでOKだと。
 法にそのものずばり「特定課税仕入」と明記されているものの、「その他の」となっているため、一応、政令を確認しなければなりません。

 令49条1項 帳簿のみの保存でよい場合
   三 特定課税仕入


 まあ、書いてあるわけです。
 国内課税仕入のように、通達にまではみ出すこともなく、これで完結しています。


 これがインボイス「後」はどうなったかというと。

 法30条1項
 ・国内課税仕入
  国内において行つた課税仕入れに係る消費税額
 (当該課税仕入れに係る適格請求書の記載事項を基礎として計算した金額
  その他の政令で定めるところにより計算した金額)
 ・特定課税仕入
  国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額
 (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額


 旧法と比べて、国内課税仕入のみ計算式が変更となりました。
 次に7項。

 法30条7項
  原則:帳簿及び請求書等
  例外:帳簿のみ。困難、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項


 相変わらず「特定課税仕入」は法に明記されているものの、やはり「その他の」なので政令を確認する必要があると。

 令49条1項 帳簿のみの保存でよい場合
  ニ 特定課税仕入


 まあ書いてありますよね。旧1号の「3万円未満」がなくなったせいで、3号から2号に繰り上がっただけです。
 国内課税仕入についての1号にはごちゃごちゃ小賢しいことが書かれているのに対して、2号はこれだけ。


 国内課税仕入があれやこれや変更があったのに対して、特定課税仕入については何も変わっちゃいない、ということが分かりました。
 30条7項で一旦原則どおり帳簿・請求書が必要としておきながら、括弧書き→政令で「特定課税仕入」は帳簿のみでOKとする構成も旧法どおり。

 が、30条9項にいう請求書は、「課税資産の譲渡」を行った場合に発行するものとされています。他方で、「特定資産の譲渡」は、2条の定義上は「課税資産の譲渡」に含まれていることにされていながら、5条で「課税資産の譲渡」から除外されています(一部除く)。
 なので、30条7項で一旦請求書を必要とする、という所作が無駄なんじゃないかと感じてしまいます。特定課税仕入と9項の請求書は無関係なわけで。

 旧法では1項の計算式が同種だったからまだ分かります。が、新法では計算式が大きく別れてしまったわけで。7項も「国内課税仕入」と「特定課税仕入」とで書き分けをすればよかったんじゃないかと。

 まあ、単に条文の書きぶりの問題で、結論には何の影響もありません。なんかしっくりこないというだけの話。


 「特定課税仕入」について、「委任立法」という観点からは特に問題がないことが分かりました。
 次回では、なぜ「特定課税仕入」はインボイス無しでよいのか、という点について検討します。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)
posted by ウロ at 11:27| Comment(0) | 消費税法