輸出免税について、『非課税とは違うのだよ、非課税とは!』と言わんばかりに、「ゼロ税率」呼ばわりされることがあります。
が、私には、いまいち正確性を欠く表現ではないかと感じられるところです。
そこで以下、その感覚を敷衍してみます。
《輸出免税を見たら脱税だと思え》思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編23)
◯
例によって、条文から(モノの輸出に関わる箇所のみ抜粋します)。
消費税法 第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所
国内にあるモノを譲渡するかぎり、その先、国内にとどまるか海外に出ていくかにかかわらず、課税されます(以下、有償とか課税資産とかの要件は当然に満たすものとします)。
消費税法 第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一 本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
しかし、「輸出」に該当すれば、免除していただけます。
が、モノの場合は実態として輸出しただけではだめで。「輸出許可書」を保存していなければなりません。
消費税法 第七条(輸出免税等)
2 前項の規定は、その課税資産の譲渡等が同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものであることにつき、財務省令で定めるところにより証明がされたものでない場合には、適用しない。
消費税法施行規則 第五条(輸出取引等の証明)
1 法第七条第二項に規定する財務省令で定めるところにより証明がされたものは、同条第一項に規定する課税資産の譲渡等のうち同項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するものを行つた事業者が、当該課税資産の譲渡等につき、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める書類又は帳簿を整理し、当該課税資産の譲渡等を行つた日の属する課税期間の末日の翌日から二月を経過した日から七年間、これを納税地又はその取引に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの(第一号イにおいて「事務所等」という。)の所在地に保存することにより証明がされたものとする。
一 法第七条第一項第一号に掲げる輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け(船舶及び航空機の貸付けを除く。)である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該資産の輸出に係る税関長から交付を受ける輸出の許可(関税法(昭和二十九年法律第六十一号)第六十七条(輸出又は輸入の許可)に規定する輸出の許可をいう。)若しくは積込みの承認(同法第二十三条第二項(船用品又は機用品の積込み等)の規定により同項に規定する船舶又は航空機(本邦の船舶又は航空機を除く。)に当該資産を積み込むことについての同項の承認をいう。)があつたことを証する書類又は当該資産の輸出の事実を当該税関長が証明した書類で、次に掲げる事項が記載されたもの
イ 当該資産を輸出した事業者の氏名又は名称及び住所若しくは居所又は事務所等の所在地(以下この項において「住所等」という。)
ロ 当該資産の輸出の年月日
ハ 当該資産の品名並びに品名ごとの数量及び価額
ニ 当該資産の仕向地
◯
消費税法の仕組みについて、『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などというレトリックが、およそ現行法の説明として不適切だということは、これまで散々述べてきたところです。
現行法の構造をあるがままに記述するならば、
・売上側は、実体があれば問答無用で課税される
・仕入側は、実体+形式が揃わないかぎり控除されない
と記述するのが正確です。
では、「輸出免税」は売上側のルールがあてはまるかというと。上述した条文からもわかるとおり、むしろ「仕入側」のルールと軌を一にしています。
すなわち、実態として輸出した(ので輸出先で消費税負担が発生している)場合であっても、「輸出許可書」という形式がないかぎりは免除されないと。
・売上課税 問答無用の実体課税
・輸出免税 実体+形式がなければ免除されない
・仕入控除 実体+形式がなければ控除されない
・
「ゼロ税率」というと、あたかも、輸出という実態がありさえすれば、当然に課税されないかのように思ってしまいます。が、インボイス制度と同様、形式も揃ってはじめて免除していただけるにすぎません。
輸出免税の制度趣旨は、各国が「仕向地主義」を採用しているなかで、輸出先で発生する消費税との二重課税を排除するため、だと言われているものの。形式が整っていなければ排除してもらえない程度の、弱い制度にとどまるわけです。
『仕入税額控除は請求権だ!』といいながら、控除範囲を狭める方向にしか作用させていない、件の教科書の記述が、ここでも想起されます。
「請求権だから、実態があるかぎり保護する!」 ←ですよね。
「請求権だから、実態があっても形式がなければ保護しない!」 ←何なのこいつ?
◯
以上のことを、簡単な事例で確認しておきましょう。
実態は全く同じで、形式を満たすかどうかが違うだけの事例で比較します(税率は10%で揃えます)。
A 課税事業者
↓ 88 仕入
B 課税事業者
↓ 100 輸出
C X国消費者
この事例で、輸出許可書のある/なしと、インボイスのある/なしでBの課税関係がどう変わるでしょうか。
【輸出許可書あり/インボイスあり】
・Bの損益 20(100-80)
・日本国の消費税収入 0(8-8)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
国内で消費されていないことから、日本国の消費税収入は0になります。「消費者の消費に課税する」テーゼに忠実な帰結となっています。
【輸出許可書なし/インボイスなし】
・Bの損益 3(91-88)
・日本国の消費税収入 17(8+9)
・X国の消費税収入 10(Cが負担)
輸出免税の適用がない場合、BはCから消費税をお預かりしていなくても、自分の売上の一部を消費税としてお国に献上しなければなりません。
「インボイスなし」は、Aが非適格者の場合と、適格者だが有効なインボイスがない場合がありえます。いずれにしても、お国はAから消費税8を献上してもらえます。
◯
「あり/あり」と「なし/なし」を比較すると、Bの損益20のうち17がお国に奪われているのが、後者の事例ということです。
当然のことながら、両事例で実態は何一つかわりません。
違うのは形式が整っているかどうかのみです。その点のみを理由として、Bの損益は20から3に激減するということです。
消費税の目的は「消費者の消費に課税する」であるという説明が破綻していることは、再三述べてきたところです。
【用途区分の最高裁判決に即して】
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
判例が、言っていることいないこと。 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、それにしても、これほどの利益減少を正当化するだけの説明は、どのようにできるのでしょうか。
「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」というマジックワードだけで正当化するには、荷が重すぎるように思います。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
が、ここでも「課税回避可能性」概念を使うことで、このような《過剰課税》も許容されてしまうのでしょうか。
◯
というように、「仕向地主義」「ゼロ税率」といったレトリックから受ける印象とは異なり。形式が整ってはじめて免除していただけるにすぎない、という輸出免税の規律が、最初に述べた違和感の中身ではないか、と思った次第です。
2025年01月06日
「ゼロ税率」という誤導 〜消費税法の理論構造(種蒔き編55)
posted by ウロ at 09:29| Comment(0)
| 消費税法
2024年12月30日
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)
前回に続き、今回は「仕入控除ルール」についてです。
今回も前回と同じく、『相当する額』がパンチラインとなっております。
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編53)
◯
まずはお馴染み法30条1項からスタート。リバースチャージと輸入取引はまるごと省略しました。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者が、国内において行う課税仕入れについては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。)を控除する。
令第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
1 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れの区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
法第五十七条の四(適格請求書発行事業者の義務)
1
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
仕入控除ルールの原則である「請求書積上げ計算」においても、積み上げるのは『相当する額』だということになります。
・
また、帳簿に記載するのも『相当する額』となっております。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ちなみに、リバースチャージ(2号)に関しては消費税額に関する記載は(当然ながら)無し、輸入取引(3号)については(相当する額ではなく)消費税そのものを記載することとなっています。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
三 課税仕入れ等の税額が第一項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物に係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
ハ課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額又はその合計額
輸入取引に関しては、保税地域からの引取時にダイレクトにお国に消費税を納税済みのため、控除できるのも、帳簿に記載するのも、消費税そのものとなるということです。
◯
では、売上課税ルールと同じように、確定申告時に(控除)消費税が顕現することになるのでしょうか。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
三 前章の規定によりその課税期間において前号に掲げる消費税額から控除をされるべき次に掲げる消費税額の合計額
イ 第三十二条第一項第一号に規定する仕入れに係る消費税額
法第三十二条(仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
1
一 当該事業者の当該課税期間における第三十条第一項の規定により控除される課税仕入れ等の税額の合計額(以下この章において「仕入れに係る消費税額」という。) (略)
法45条1項3号イが、「対価の返還」を受けた場合のルールである法32条1項1号からお借りしているのは、単に「仕入れに係る消費税額」の定義規定がそこにあるからであって、深い意味はないです。
で、これらの書きぶりからすると、(控除)消費税については、どこかの時点で消費税そのものになる、ということはなく。『相当する額』から「控除される税額」になって税額計算に反映される、という建付けになっているように思われます。
いずれにしても、買手が支払っているのは売買代金に含まれた『相当する額』であって。消費税そのものを支払っているわけではないことになります。
◯
念のため、例外としての「割戻し計算」については、次のとおり。
第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
3 その課税期間に係る法第四十五条第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額の計算につき、同条第五項の規定の適用を受けない事業者は、第一項の規定にかかわらず、前項の規定の適用を受ける場合を除き、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れのうち第一項各号に掲げるものに係る課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に、課税資産の譲渡等に係る部分については百十分の七・八を乗じて算出した金額を、法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。
対価の額からダイレクトに控除する額を抽出するのであり。もはや、対価の額から『相当する額』を一旦取り分けるということすらしていません。
◯
このように、売上課税ルールと仕入控除ルールとは、ダイレクトに連結されておらず。むしろ『相当する額』という概念を間にかますことで、あえて連動しないように仕組んでいるようにみえます。
ではなぜ消費税法は、「消費税そのものを納税する/消費税そのものを控除する」という建付け(以下「そのものテーゼ」といいます。)を採用せずに、『相当する額』という概念を導入することとしたのでしょうか。
立案担当者の《主観的》なつもりはさておき。実際の機能から邪推するに、「そのものルール」を採用してしまうと、
・買手が消費税を支払ったら、売手は必ず納税すべき。
を根拠付けることができるものの、それと同時に、
・売手が消費税を納税したら、(消費者以外の)買手は必ず控除できるようにすべき。
という主張がでてきてしまうことになります。
ところが、現行法では、
・売手が課税事業者でも未登録なら、買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、適式なインボイスがなければ買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、買手にとって非課税対応なら買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、居住用賃貸建物なら買手は控除できない。
などなど、売手が課税されるにもかかわらず、買手が控除できない場面が、そこかしこにあります。
このような制度になっているにもかかわらず、「そのものテーゼ」を採用してしまうと、「売手が課税されるのに、買手が控除できない」ことの問題が表面化してしまいます。そうすると、売上課税ルールと仕入控除ルールは、分断された別世界のものとして位置づけておかなければなりません。
そのために採用されたのが『相当する額』という概念なのではないか、と私は思うわけです。消費税そのものではなく『相当する額』にすぎないことから、売上課税ルール内での扱いと仕入控除ルール内での扱いを異ならせても、問題がないかのように見せかけることが可能となります。
◯
このように、消費税法は売上課税ルールと仕入控除ルールを分断する《二元的構成》を採用しているにもかかわらず。インボイス導入を正当化する際は「免税事業者の益税撲滅」ばかりが盛んに喧伝されていました。
「益税」という意味では全く同じであるはずの「古物商特例」などは、ほぼ変わらずに残されているというのに。同じ熱量で攻撃する人が、まるでいない。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
なぜここまで扱いが違うのか、原因ははっきりしていて。
要するに「ネコババ」というレトリックが馴染むかどうか、という点のみにあります。
カイム・ペレルマン「法律家の論理−新しいレトリック−」(木鐸社1986) Amazon
・私が本体代金のほかに消費税を払ったのに、免税事業者はお国にそれを納めていない。
⇒益税ネコババ野郎!許せない!
・私が古物商に中古品を売ったが、古物商は消費税を控除しているらしい。
⇒ちょっとよくわかんないや
「もらったものを納めない」のはネコババといえるとして、「払っていないのに減らす」をネコババというのは、いまいちしっくりこないですよね。
このように、本来ならば「益税」が生じているかどうかで議論すべきところを、「ネコババ」と感じるかどうかに論点ずらしをしたことで、古物商特例にまで攻撃が及ばずに済んだわけです。
誰かがはじめからそういう効果を狙って「ネコババ」と言い出した、などとは思いません。が、結果としてそうなっている、というお話です。
◯
免税事業者を《ネコババ》呼ばわりされる方々の消費税イメージ。おそらく次のようなものだったのでしょう。
【ネコババ思考からアプローチする消費税】(インボイス前)
1 消費者は、本体代金10,000円とは別に「消費税」と書かれた封筒に1,000円を入れて事業者にお預けする。この封筒は、事業者がお国にそのまま献上するよう、信じて託したものである。
2 ただし例外として、事業者は、自分が受け取った区分記載請求書記載の消費税を支払うときだけ、封筒内の1,000円を使うことができる。
3 課税期間終了時に封筒内に残っていた残額は、そのままお国に納めなければならない。のに、納付しないで自分のポッケに入れてしまうのは「ネコババ」だ!
いかにもそれらしい喩え。
【卑近な喩え】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
が、このイメージどおりの事例ならば、免税事業者が消費税と表示して消費者から代金を受け取った時点で、「詐欺罪」の構成要件に該当してしまうのではないでしょうか。
受け取った時点では納税するつもりだった、というパターンは免税事業者の場合には通常ありえないですし(例外は設立年度)。他方で、もし消費者が、当該事業者が免税事業者であることを知っていたとしたら、納税しないことに「同意」があることになり、何ら犯罪は成立しません。
そうだとすると、横領系を意味する「ネコババ」というレトリックは、免税事業者には馴染まないことになるはずです(益税詐欺野郎?)。
本事例において、「封緘物」の占有が委託者・受託者どちらにあるかを論じて、3の行為を「窃盗罪」or「横領罪」と結論づけてしまった方は、出題者の誤導にまんまと引っかかってしまったというわけです(不可罰的事後行為)。
【法における比喩の利用は、用法用量を守って】
松浦好治「法と比喩」(弘文堂1992) Amazon
なお、「封筒」イメージが、免税事業者の悪辣さを印象づけることにしか機能しておらず。輸出免税、還付、控除対象外消費税などなど、他の現象を記述できないことは、もはや説明するまでもないでしょう。
◯
以上、現行法が現実に果たしている機能から《客観的》な立案者意思を邪推する、ということを試みました。
が、皆様方はこんな横着をせず。きちんと立法資料にあたって、《主観的》な立案者意思から解釈をスタートされることをお勧めいたします。
今回も前回と同じく、『相当する額』がパンチラインとなっております。
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編53)
◯
まずはお馴染み法30条1項からスタート。リバースチャージと輸入取引はまるごと省略しました。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者が、国内において行う課税仕入れについては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。)を控除する。
令第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
1 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れの区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
法第五十七条の四(適格請求書発行事業者の義務)
1
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
仕入控除ルールの原則である「請求書積上げ計算」においても、積み上げるのは『相当する額』だということになります。
・
また、帳簿に記載するのも『相当する額』となっております。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
ちなみに、リバースチャージ(2号)に関しては消費税額に関する記載は(当然ながら)無し、輸入取引(3号)については(相当する額ではなく)消費税そのものを記載することとなっています。
法第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
三 課税仕入れ等の税額が第一項に規定する保税地域からの引取りに係る課税貨物に係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
ハ課税貨物の引取りに係る消費税額及び地方消費税額又はその合計額
輸入取引に関しては、保税地域からの引取時にダイレクトにお国に消費税を納税済みのため、控除できるのも、帳簿に記載するのも、消費税そのものとなるということです。
◯
では、売上課税ルールと同じように、確定申告時に(控除)消費税が顕現することになるのでしょうか。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
三 前章の規定によりその課税期間において前号に掲げる消費税額から控除をされるべき次に掲げる消費税額の合計額
イ 第三十二条第一項第一号に規定する仕入れに係る消費税額
法第三十二条(仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例)
1
一 当該事業者の当該課税期間における第三十条第一項の規定により控除される課税仕入れ等の税額の合計額(以下この章において「仕入れに係る消費税額」という。) (略)
法45条1項3号イが、「対価の返還」を受けた場合のルールである法32条1項1号からお借りしているのは、単に「仕入れに係る消費税額」の定義規定がそこにあるからであって、深い意味はないです。
で、これらの書きぶりからすると、(控除)消費税については、どこかの時点で消費税そのものになる、ということはなく。『相当する額』から「控除される税額」になって税額計算に反映される、という建付けになっているように思われます。
いずれにしても、買手が支払っているのは売買代金に含まれた『相当する額』であって。消費税そのものを支払っているわけではないことになります。
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念のため、例外としての「割戻し計算」については、次のとおり。
第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
3 その課税期間に係る法第四十五条第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額の計算につき、同条第五項の規定の適用を受けない事業者は、第一項の規定にかかわらず、前項の規定の適用を受ける場合を除き、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れのうち第一項各号に掲げるものに係る課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に、課税資産の譲渡等に係る部分については百十分の七・八を乗じて算出した金額を、法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。
対価の額からダイレクトに控除する額を抽出するのであり。もはや、対価の額から『相当する額』を一旦取り分けるということすらしていません。
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このように、売上課税ルールと仕入控除ルールとは、ダイレクトに連結されておらず。むしろ『相当する額』という概念を間にかますことで、あえて連動しないように仕組んでいるようにみえます。
ではなぜ消費税法は、「消費税そのものを納税する/消費税そのものを控除する」という建付け(以下「そのものテーゼ」といいます。)を採用せずに、『相当する額』という概念を導入することとしたのでしょうか。
立案担当者の《主観的》なつもりはさておき。実際の機能から邪推するに、「そのものルール」を採用してしまうと、
・買手が消費税を支払ったら、売手は必ず納税すべき。
を根拠付けることができるものの、それと同時に、
・売手が消費税を納税したら、(消費者以外の)買手は必ず控除できるようにすべき。
という主張がでてきてしまうことになります。
ところが、現行法では、
・売手が課税事業者でも未登録なら、買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、適式なインボイスがなければ買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、買手にとって非課税対応なら買手は控除できない。
・売手が適格事業者でも、居住用賃貸建物なら買手は控除できない。
などなど、売手が課税されるにもかかわらず、買手が控除できない場面が、そこかしこにあります。
このような制度になっているにもかかわらず、「そのものテーゼ」を採用してしまうと、「売手が課税されるのに、買手が控除できない」ことの問題が表面化してしまいます。そうすると、売上課税ルールと仕入控除ルールは、分断された別世界のものとして位置づけておかなければなりません。
そのために採用されたのが『相当する額』という概念なのではないか、と私は思うわけです。消費税そのものではなく『相当する額』にすぎないことから、売上課税ルール内での扱いと仕入控除ルール内での扱いを異ならせても、問題がないかのように見せかけることが可能となります。
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このように、消費税法は売上課税ルールと仕入控除ルールを分断する《二元的構成》を採用しているにもかかわらず。インボイス導入を正当化する際は「免税事業者の益税撲滅」ばかりが盛んに喧伝されていました。
「益税」という意味では全く同じであるはずの「古物商特例」などは、ほぼ変わらずに残されているというのに。同じ熱量で攻撃する人が、まるでいない。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
なぜここまで扱いが違うのか、原因ははっきりしていて。
要するに「ネコババ」というレトリックが馴染むかどうか、という点のみにあります。
カイム・ペレルマン「法律家の論理−新しいレトリック−」(木鐸社1986) Amazon
・私が本体代金のほかに消費税を払ったのに、免税事業者はお国にそれを納めていない。
⇒益税ネコババ野郎!許せない!
・私が古物商に中古品を売ったが、古物商は消費税を控除しているらしい。
⇒ちょっとよくわかんないや
「もらったものを納めない」のはネコババといえるとして、「払っていないのに減らす」をネコババというのは、いまいちしっくりこないですよね。
このように、本来ならば「益税」が生じているかどうかで議論すべきところを、「ネコババ」と感じるかどうかに論点ずらしをしたことで、古物商特例にまで攻撃が及ばずに済んだわけです。
誰かがはじめからそういう効果を狙って「ネコババ」と言い出した、などとは思いません。が、結果としてそうなっている、というお話です。
◯
免税事業者を《ネコババ》呼ばわりされる方々の消費税イメージ。おそらく次のようなものだったのでしょう。
【ネコババ思考からアプローチする消費税】(インボイス前)
1 消費者は、本体代金10,000円とは別に「消費税」と書かれた封筒に1,000円を入れて事業者にお預けする。この封筒は、事業者がお国にそのまま献上するよう、信じて託したものである。
2 ただし例外として、事業者は、自分が受け取った区分記載請求書記載の消費税を支払うときだけ、封筒内の1,000円を使うことができる。
3 課税期間終了時に封筒内に残っていた残額は、そのままお国に納めなければならない。のに、納付しないで自分のポッケに入れてしまうのは「ネコババ」だ!
いかにもそれらしい喩え。
【卑近な喩え】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
が、このイメージどおりの事例ならば、免税事業者が消費税と表示して消費者から代金を受け取った時点で、「詐欺罪」の構成要件に該当してしまうのではないでしょうか。
受け取った時点では納税するつもりだった、というパターンは免税事業者の場合には通常ありえないですし(例外は設立年度)。他方で、もし消費者が、当該事業者が免税事業者であることを知っていたとしたら、納税しないことに「同意」があることになり、何ら犯罪は成立しません。
そうだとすると、横領系を意味する「ネコババ」というレトリックは、免税事業者には馴染まないことになるはずです(益税詐欺野郎?)。
本事例において、「封緘物」の占有が委託者・受託者どちらにあるかを論じて、3の行為を「窃盗罪」or「横領罪」と結論づけてしまった方は、出題者の誤導にまんまと引っかかってしまったというわけです(不可罰的事後行為)。
【法における比喩の利用は、用法用量を守って】
松浦好治「法と比喩」(弘文堂1992) Amazon
なお、「封筒」イメージが、免税事業者の悪辣さを印象づけることにしか機能しておらず。輸出免税、還付、控除対象外消費税などなど、他の現象を記述できないことは、もはや説明するまでもないでしょう。
◯
以上、現行法が現実に果たしている機能から《客観的》な立案者意思を邪推する、ということを試みました。
が、皆様方はこんな横着をせず。きちんと立法資料にあたって、《主観的》な立案者意思から解釈をスタートされることをお勧めいたします。
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| 消費税法
2024年12月23日
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編53)
本ブログにおいて「消費税法の理論構造」というサブタイトルの記事を、長々と展開しているのですが。
公売特例と8割控除 〜消費税法の理論構造(種蒔き編52)
私が言いたいことの主論は、インボイス推進派の人が「売上消費税と仕入消費税を一致させるべき!」と声高に言っておきながら、実際には益税方向の不一致を(一部)潰しただけで、損税方向の不一致はむしろ拡大してるじゃねえか、という点にあります。
このような課税拡大志向、近時の最高裁判決にみられる「過少課税になるくらいなら過剰課税を許容する」という方向性と、軌を一にしているわけです。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
最高裁令和6年7月18日・第一小法廷判決(外国子会社合算税制) 雑感
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
国家ぐるみでスクラム組まれてしまったら、《疑わしきは納税者の利益に》なんて、か細いスローガンを掲げたところで、どうにも太刀打ちできないでしょう。憲法論も、あまりあてにできるものでもないですし。
平等権と、課税公平主義のあいだ 〜最高裁令和4年4月19日判決における「平等原則」とは?
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
◯
さて、今回の記事は、これまでの記事が「機能面」から過剰課税(損税)を眺めてきたのに対し、この機能を条文がどのように表現しているかを見るものとなります。
あるいは、条文から読み取れる立案担当者の《客観的》意思をプロファイルする、ということができるでしょうか。
先に予告しておくと、『相当する額』というのがパンチラインとなっております。
以下、条文は適宜省略を入れておりますので、各自原文をご確認ください。また、本来であれば消費税と地方消費税を区別しなければならないのですが、文脈上必要な場面でのみ区別することとします。
事例としては、以下のものを想定しながら説明していきます(リバースチャージと輸入取引は考慮外)。
A(売手)
↓ 110 物の売買(国内・課税資産)
B(買手)
◯
まず、「売上課税ルール」について。
法第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする。
ここででてくる「課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額」というのが、以下でこすり倒す最重要用語であり。以下では『相当する額』と省略することとします。
消費税の課税標準は、対価の額から『相当する額』を除いた額だと言っています。
なぜ『相当する額』という言い方をしているかといえば、Bからもらうのはあくまでも売買代金(=対価の額)だけであって、消費税そのものを別途お預かりするわけではないからでしょう。
・
ちなみに、免税事業者の基準期間における課税売上高から消費税(に相当する額)を除かないのは、免税事業者にとっては『相当する額』すら存在しないから、ということになります。
法第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
2 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。
一 個人事業者及び基準期間が一年である法人基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(第二十八条第一項に規定する対価の額をいう。)の合計額から、イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額
法28条1項から定義をお借りしているにもかかわらず。こちらでは税込価額で判定するの、単にそう解釈しないと不都合だから、というのではなく。免税事業者にとっては、課されるべき消費税に『相当する額』がないから、と説明するのが筋が通っているでしょう。
免税事業者Requiem(第1曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編27)
免税事業者Requiem(第2曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編28)
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
このあたりの解釈に絡み、免税事業者擁護の方々が「免税事業者は対価をもらっているだけで消費税をもらっていないんだから、消費税をネコババしているわけではない!」と主張されているのを見かけたことがあります。
確かに、「免税事業者が消費税をネコババしている」というインボイス推進派の方々のいうレトリックが、実際の消費税法の建付けから導かれない空論であることは事実ではあります。が、本来、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるはずのところを免除していただいている、という意味では恩恵を受けていることも事実です。
あとはそれが妥当か不当かという立法政策上の価値判断レベルの問題であって。「ネコババ」というレトリックを巡って議論をすることに、全く意味はないでしょう。
・
余談ついでに。
輸出免税につき「免税事業者制度と違って、国内で消費されないから免除されるのは当然」というような物言いをされる方がいます。
法第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
が、「用途区分」制度を見れば分かるように、現行消費税法は、消費者の消費以外の場面で税負担が生じることを容認してしまっているところです。
なので、単に「消費がない」というだけでは免除制度を正当化することはできないのであり。「国際競争上どうしても免除制度が必要」という競争政策レベルで議論すべきものだと思います。
・
話を戻して。
売上課税ルールにおいては、課税標準算出にあたって対価の額から『相当する額』を除いているにすぎず、消費税そのものを控除しているわけではない、ということです。
未登録である課税事業者が納税義務を負担しなければならないのも、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるからであって。買手が消費税をお預けしてない(ので税額控除できない)のに、売手が消費税の納税義務を負担させられるのも、そもそも消費税を「お預けした/お預かりした」という建付けを、消費税法が採用していないことによるものです。
・
ちなみに、価格の表示ルールに関しても、『相当する額』を含めた金額を価格として表示せよとあり。消費税額そのものを取り分けて表示せよとはなっていません。
法第六十三条(価格の表示)
事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。
なお、括弧書きで「免税事業者」が除かれているのは。上述のとおり、免税事業者には『相当する額』すらないからでしょう。
◯
では、どの段階で消費税そのものが発生することになるのでしょうか。
それは、「確定申告」をしたときです。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
一 その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等に係る税率の異なるごとに区分した課税標準である金額の合計額及びその課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額並びにそれらの合計額(次号において「課税標準額」という。)
二 税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額
確定申告するまでは『相当する額』という仮想消費税(なんちゃって消費税)にすぎず。確定申告をしてはじめて消費税が顕現することになります(なお、租税債務の「成立/確定」という概念がありますが、あまり有意性のある区別とは思えないので、本記事では「確定」のみを念頭において記述しています)。
◯
ここまでの検討で、消費税法上、個々の売上代金には消費税そのものは含まれておらず、確定申告によって消費税額が顕現する、という建付けになっていることが分かりました。
この建付けは、個々の売上代金には法人税は含まれておらず、確定申告をしてはじめて法人税が登場する、というのに近いと言えるでしょうか。
「全く違う!」と思うのだとしたら、それは「お預かりする/お預けする」というお国の作り出した消費税のイメージに引っ張られているだけのように思えます。
消費税を、条文構造を無視して「お預かりする/お預けする」で説明できるというならば、法人税を、「益金法人税−損金法人税=法人税額」で説明することもできるはずです。ここに違和感をもってしまうのは、単に我々の心の中にある法人税の「イメージ」とズレているだけ、だからではないでしょうか(もちろん、私自身は条文構造を崩して誤導することには反対です)。
・
ここで、売上課税ルールの原則である「割戻し計算」だからそうなのであって。「積上げ計算」なら消費税そのものを集計するのではないか、という疑問を持たれる方がいるかもしれません。
そこで、「積上げ方式」の条文を見てみましょう。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
5 第一項の規定による申告書を提出する事業者が、当該申告書に係る課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき交付した適格請求書又は適格簡易請求書の写しを第五十七条の四第六項の規定により保存している場合には、当該課税資産の譲渡等に係る第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額については、同号の規定にかかわらず、当該適格請求書に記載した同条第一項第五号に掲げる消費税額等その他の政令で定める金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額とすることができる。
法第五十七条の四(適格請求書発行事業者の義務)
1
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
令第六十二条(課税標準額に対する消費税額の算出方法の特例)
1 法第四十五条第五項に規定する政令で定める金額は、次の各号に掲げる課税資産の譲渡等の区分に応じ当該各号に定める金額とし、法第四十五条第五項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書を交付した課税資産の譲渡等 当該適格請求書に記載した法第五十七条の四第一項第五号に掲げる消費税額等
ここにもでてくる『相当する額』。
そのへんの《税務お役立ち記事》だと、インボイスの記載事項として「消費税額」が要求されているとだけ書かれていることがほとんどです。そのせいで、積上げ計算では消費税そのものを集計するのだと勘違いしてしまうのかもしれません。
が、条文では「消費税額等」とあり。そしてこれは『相当する額』だとされています。
そうすると、インボイスに記載するのはあくまでも『相当する額』であって、消費税そのものではないことになります。なので、インボイス記載の『相当する額』を積上げていって確定申告してはじめて、消費税そのものが登場する、というのが「積上げ計算」の正確な表現となります。
◯
最初に書いたとおり、本記事では、消費税と地方消費税の違いを意識せずに書いているところです。
が、税額計算では消費税(7.8%)を算出してからそれを課税標準として地方消費税(2.2%)を算出する、というプロセスになっているのであり。
どうあっても、税抜価格に10%をかけたものは消費税(+地方消費税)そのものにはなりえないわけです。
上記の「積上げ計算」の表現についても、より正確には地方消費税の扱いをきちんと記述しなければならないところです(が面倒なので省略)。
◯
長くなったので、一旦区切って、次回は「仕入控除ルール」について整理します。
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)
公売特例と8割控除 〜消費税法の理論構造(種蒔き編52)
私が言いたいことの主論は、インボイス推進派の人が「売上消費税と仕入消費税を一致させるべき!」と声高に言っておきながら、実際には益税方向の不一致を(一部)潰しただけで、損税方向の不一致はむしろ拡大してるじゃねえか、という点にあります。
このような課税拡大志向、近時の最高裁判決にみられる「過少課税になるくらいなら過剰課税を許容する」という方向性と、軌を一にしているわけです。
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
最高裁令和6年7月18日・第一小法廷判決(外国子会社合算税制) 雑感
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
国家ぐるみでスクラム組まれてしまったら、《疑わしきは納税者の利益に》なんて、か細いスローガンを掲げたところで、どうにも太刀打ちできないでしょう。憲法論も、あまりあてにできるものでもないですし。
平等権と、課税公平主義のあいだ 〜最高裁令和4年4月19日判決における「平等原則」とは?
《通達みてえな判決》 〜「判例」としての最高裁令和6年5月7日判決
◯
さて、今回の記事は、これまでの記事が「機能面」から過剰課税(損税)を眺めてきたのに対し、この機能を条文がどのように表現しているかを見るものとなります。
あるいは、条文から読み取れる立案担当者の《客観的》意思をプロファイルする、ということができるでしょうか。
先に予告しておくと、『相当する額』というのがパンチラインとなっております。
以下、条文は適宜省略を入れておりますので、各自原文をご確認ください。また、本来であれば消費税と地方消費税を区別しなければならないのですが、文脈上必要な場面でのみ区別することとします。
事例としては、以下のものを想定しながら説明していきます(リバースチャージと輸入取引は考慮外)。
A(売手)
↓ 110 物の売買(国内・課税資産)
B(買手)
◯
まず、「売上課税ルール」について。
法第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とする。
ここででてくる「課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額」というのが、以下でこすり倒す最重要用語であり。以下では『相当する額』と省略することとします。
消費税の課税標準は、対価の額から『相当する額』を除いた額だと言っています。
なぜ『相当する額』という言い方をしているかといえば、Bからもらうのはあくまでも売買代金(=対価の額)だけであって、消費税そのものを別途お預かりするわけではないからでしょう。
・
ちなみに、免税事業者の基準期間における課税売上高から消費税(に相当する額)を除かないのは、免税事業者にとっては『相当する額』すら存在しないから、ということになります。
法第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
2 前項に規定する基準期間における課税売上高とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める金額をいう。
一 個人事業者及び基準期間が一年である法人基準期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等の対価の額(第二十八条第一項に規定する対価の額をいう。)の合計額から、イに掲げる金額からロに掲げる金額を控除した金額の合計額を控除した残額
法28条1項から定義をお借りしているにもかかわらず。こちらでは税込価額で判定するの、単にそう解釈しないと不都合だから、というのではなく。免税事業者にとっては、課されるべき消費税に『相当する額』がないから、と説明するのが筋が通っているでしょう。
免税事業者Requiem(第1曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編27)
免税事業者Requiem(第2曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編28)
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
このあたりの解釈に絡み、免税事業者擁護の方々が「免税事業者は対価をもらっているだけで消費税をもらっていないんだから、消費税をネコババしているわけではない!」と主張されているのを見かけたことがあります。
確かに、「免税事業者が消費税をネコババしている」というインボイス推進派の方々のいうレトリックが、実際の消費税法の建付けから導かれない空論であることは事実ではあります。が、本来、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるはずのところを免除していただいている、という意味では恩恵を受けていることも事実です。
あとはそれが妥当か不当かという立法政策上の価値判断レベルの問題であって。「ネコババ」というレトリックを巡って議論をすることに、全く意味はないでしょう。
・
余談ついでに。
輸出免税につき「免税事業者制度と違って、国内で消費されないから免除されるのは当然」というような物言いをされる方がいます。
法第七条(輸出免税等)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が国内において行う課税資産の譲渡等のうち、次に掲げるものに該当するものについては、消費税を免除する。
一本邦からの輸出として行われる資産の譲渡又は貸付け
が、「用途区分」制度を見れば分かるように、現行消費税法は、消費者の消費以外の場面で税負担が生じることを容認してしまっているところです。
なので、単に「消費がない」というだけでは免除制度を正当化することはできないのであり。「国際競争上どうしても免除制度が必要」という競争政策レベルで議論すべきものだと思います。
・
話を戻して。
売上課税ルールにおいては、課税標準算出にあたって対価の額から『相当する額』を除いているにすぎず、消費税そのものを控除しているわけではない、ということです。
未登録である課税事業者が納税義務を負担しなければならないのも、課税取引をした以上は問答無用で譲渡課税されるからであって。買手が消費税をお預けしてない(ので税額控除できない)のに、売手が消費税の納税義務を負担させられるのも、そもそも消費税を「お預けした/お預かりした」という建付けを、消費税法が採用していないことによるものです。
・
ちなみに、価格の表示ルールに関しても、『相当する額』を含めた金額を価格として表示せよとあり。消費税額そのものを取り分けて表示せよとはなっていません。
法第六十三条(価格の表示)
事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。
なお、括弧書きで「免税事業者」が除かれているのは。上述のとおり、免税事業者には『相当する額』すらないからでしょう。
◯
では、どの段階で消費税そのものが発生することになるのでしょうか。
それは、「確定申告」をしたときです。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
1 事業者は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。
一 その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等に係る税率の異なるごとに区分した課税標準である金額の合計額及びその課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る課税標準である金額の合計額並びにそれらの合計額(次号において「課税標準額」という。)
二 税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額
確定申告するまでは『相当する額』という仮想消費税(なんちゃって消費税)にすぎず。確定申告をしてはじめて消費税が顕現することになります(なお、租税債務の「成立/確定」という概念がありますが、あまり有意性のある区別とは思えないので、本記事では「確定」のみを念頭において記述しています)。
◯
ここまでの検討で、消費税法上、個々の売上代金には消費税そのものは含まれておらず、確定申告によって消費税額が顕現する、という建付けになっていることが分かりました。
この建付けは、個々の売上代金には法人税は含まれておらず、確定申告をしてはじめて法人税が登場する、というのに近いと言えるでしょうか。
「全く違う!」と思うのだとしたら、それは「お預かりする/お預けする」というお国の作り出した消費税のイメージに引っ張られているだけのように思えます。
消費税を、条文構造を無視して「お預かりする/お預けする」で説明できるというならば、法人税を、「益金法人税−損金法人税=法人税額」で説明することもできるはずです。ここに違和感をもってしまうのは、単に我々の心の中にある法人税の「イメージ」とズレているだけ、だからではないでしょうか(もちろん、私自身は条文構造を崩して誤導することには反対です)。
・
ここで、売上課税ルールの原則である「割戻し計算」だからそうなのであって。「積上げ計算」なら消費税そのものを集計するのではないか、という疑問を持たれる方がいるかもしれません。
そこで、「積上げ方式」の条文を見てみましょう。
法第四十五条(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての確定申告)
5 第一項の規定による申告書を提出する事業者が、当該申告書に係る課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき交付した適格請求書又は適格簡易請求書の写しを第五十七条の四第六項の規定により保存している場合には、当該課税資産の譲渡等に係る第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額については、同号の規定にかかわらず、当該適格請求書に記載した同条第一項第五号に掲げる消費税額等その他の政令で定める金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額とすることができる。
法第五十七条の四(適格請求書発行事業者の義務)
1
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
令第六十二条(課税標準額に対する消費税額の算出方法の特例)
1 法第四十五条第五項に規定する政令で定める金額は、次の各号に掲げる課税資産の譲渡等の区分に応じ当該各号に定める金額とし、法第四十五条第五項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書を交付した課税資産の譲渡等 当該適格請求書に記載した法第五十七条の四第一項第五号に掲げる消費税額等
ここにもでてくる『相当する額』。
そのへんの《税務お役立ち記事》だと、インボイスの記載事項として「消費税額」が要求されているとだけ書かれていることがほとんどです。そのせいで、積上げ計算では消費税そのものを集計するのだと勘違いしてしまうのかもしれません。
が、条文では「消費税額等」とあり。そしてこれは『相当する額』だとされています。
そうすると、インボイスに記載するのはあくまでも『相当する額』であって、消費税そのものではないことになります。なので、インボイス記載の『相当する額』を積上げていって確定申告してはじめて、消費税そのものが登場する、というのが「積上げ計算」の正確な表現となります。
◯
最初に書いたとおり、本記事では、消費税と地方消費税の違いを意識せずに書いているところです。
が、税額計算では消費税(7.8%)を算出してからそれを課税標準として地方消費税(2.2%)を算出する、というプロセスになっているのであり。
どうあっても、税抜価格に10%をかけたものは消費税(+地方消費税)そのものにはなりえないわけです。
上記の「積上げ計算」の表現についても、より正確には地方消費税の扱いをきちんと記述しなければならないところです(が面倒なので省略)。
◯
長くなったので、一旦区切って、次回は「仕入控除ルール」について整理します。
消費税、売上から見るか?仕入から見るか?(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編54)
posted by ウロ at 09:24| Comment(0)
| 消費税法
2024年12月16日
納税者有利とて。 〜社宅に係る仕入税額控除(質疑応答事例)
いくら納税者有利とて、さすがに文理と離れすぎで納得感がない、という国税庁見解に出くわすことがあります。
たとえばこれ。
社宅に係る仕入税額控除(質疑応答事例)
この中の以下の記述。
1 自己において取得した社宅や従業員寮の取得費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けることがその取得の時点で客観的に明らかな社宅や従業員寮は居住用賃貸建物に該当しない
3 社宅や従業員寮の維持費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けている場合は、原則として課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに(略)該当します
◯
まずは、後者の「無償でも共通仕入」から検討します。
「無償でも共通仕入」というのは、以下の通達を根拠としているのでしょう。
消基通11−2−16(資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの取扱い)
法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」という。)とは、原則として課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等をいうのであるが、例えば、株券の発行に当たって印刷業者へ支払う印刷費、証券会社へ支払う引受手数料等のように資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱う。
資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの税額控除(質疑応答事例)
が、消費税法30条2項では、「共通仕入」の定義は次のようになっています。
【共通仕入】
課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの
(その他の資産の譲渡等=課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等)
ここでいう「資産の譲渡等」の定義は、同法2条1項8号にあります。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
つまり、消費税法で「資産の譲渡等」というときは、(みなし規定でもないかぎり)有償取引を指していることになります。とすると、共通仕入に該当するためには、有償取引に対応するものである必要があります。
にもかかわらず、通達によって、無償取引に対応するものでも共通仕入として扱うことにしてしまっているわけです。
よくよく通達をみてみると、語尾が「該当するものとして取り扱う。」となっていて。「本当は違うけど、そういうことにしといてやるよ」という場面で出てくるやつですよね。
そもそも消費税法の書きぶりが、課のみ/非のみ/共通いずれにも「資産の譲渡等」に対応するものであることを要求してしまっています。そのせいで、無償取引に対応する課税仕入の行き場がない、という事態が生じてしまっているわけです。
このような不都合を、通達がカバーしてくれている、と理解すればよろしいのでしょうか。
◯
次に、前者の「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」について。
消費税法における「居住用賃貸建物」の書きぶりは次のとおり。
第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
10 第一項の規定は、事業者が国内において行う別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この項において同じ。)以外の建物(第十二条の四第一項に規定する高額特定資産又は同条第二項に規定する調整対象自己建設高額資産に該当するものに限る。第三十五条の二において「居住用賃貸建物」という。)に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
別表第二
十三 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)
国税庁の見解によれは、ここでいう「住宅の貸付け」は有償の貸付け(賃貸借)に限定され、無償の貸付け(使用貸借)は含まれない、と解釈していることになります。
このような解釈、消費税法の文言に適合するものでしょうか。
・
「貸付け」に関する消費税法の規定は、次のとおり。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
2 この法律において「資産の貸付け」には、資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為(当該行為のうち、電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)を含むものとする。
これをみると、「対価を得て行われる」は、貸付けに《外付け》されていることが分かります。
要するに、「貸付け」という用語自体には、有償に限定するという意味が含まれていないことになります。
とすると、居住用賃貸建物における「貸付け」も、《外付け》パーツのないむき出しの「貸付け」であるため、有償/無償いずれも含まれる、と解釈せざるをえないはずです。
よって、無償であっても、居住用として貸す以上は「居住用賃貸建物」に該当してしまうことになりそうです。
◯
「無償でも共通仕入」のほうは、紛いなりにも緩和通達があったわけです。他方で「無償でも居住用賃貸建物」については、なんの説明もなく、急に質疑応答事例で示されたものです(どこかに個別通達でもあるのでしょうか)。
・資産の譲渡等=有償に限定される →無償も含める!(通達)
・住宅の貸付け=有償に限定されない →無償は含めない!(??)
消費税法が採用している用語の使い分けを無視して、ご都合主義的に無償を含めるといったり含めないといったり、節操がなさすぎでしょうよ。
【事業/事業者】
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
◯
もちろん、結論において、非課税売上が立たないのに問答無用で仕入税額控除を全額否定されるのは理不尽、というのはそのとおりです。そもそも私個人としては、用途区分を始めとする、「損税」を生み出す全ての制度が理不尽だと思っているところですし。
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、条文上、有償/無償とか、実際に非課税売上が立つかどうかといった事情を考慮しない書きぶりになっているというのに、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」なんて条文ガン無視の見解を、しれっと混入してもいいのかよと思うわけです。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
頑張って国税庁見解を擁護するならば、次のような読み方ができるでしょうか。
すなわち、別表第二にいう「住宅の貸付け」は、それ単体で理解すべきではなく。6条1項にいう「資産の譲渡等のうち」と合わせて理解すべきだと。
第六条(非課税)
1 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには、消費税を課さない。
この読み方に従うならば、居住用賃貸建物にいう「住宅の貸付け」には無償貸付けは含まない、と解釈することができます。
・資産の譲渡等のうち住宅の貸付け →無償は含めない!
この読み方、「いい線いっているね」と思われるかもしれません。
が、6条1項には「国内において行われる」とも書いてあります。これをそのまま30条10項に代入すると、
第一項の規定は、事業者が国内において行う国内において行われる資産の譲渡等のうち別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
と、キモい規定になってしまいます。
よって、6条1項と合わせて読む、という解釈は取れません。
まあ、近時の条文起案能力の劣化っぷりからすると、他の条項との関係など深く考えることもなく、当然に有償のつもりで「住宅の貸付け」と記述した、ということなのでしょうかね。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
◯
文言上の無理を押し通して、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という国税庁の見解を採用したとして。次のような事例ではどうなるでしょうか。
【事例】
・当課税期間終了間際に、転売目的で中古の居住用賃貸マンションを購入。
・売却は、次の課税期間の開始直後となる予定。
・そこで、売却まではフリーレントとする旨、借主全員に通知した。
国税庁見解及び下記通達を合わせるならば、この場合は居住用賃貸建物に該当しないということになるでしょうか(用途区分は共通仕入)。
消基通11−7−1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)
居住用賃貸建物は、住宅の貸付け(法別表第二第13号《住宅の貸付け》に掲げる住宅の貸付けをいう。以下この節において同じ。)の用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この節において同じ。)以外の建物であることが要件となるが、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、例えば、次に掲げるようなものがこれに該当する。
(3) 棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの
もちろん、居住用賃貸建物に該当する場合でも、次の課税期間に売却すれば税額調整を受けられます。が、キャッシュフローの観点からすれば、できるだけ早めに控除を取りたい、と考えることは十分ありうるわけです。
そこで、もらえない家賃との損得を考慮して、フリーレントを実施することも合理的な判断となり得ます。
質疑応答事例の社宅事案と比べて、どこか違和感はあります。が、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という見解を採用してしまった以上、このような事例を排除することはできないことになります。
◯
今回は結論として「納税者有利」だからいいとして。趣旨解釈の名のもとに、条文をガン無視した解釈をカマしてくることに対して、我々はもっと警戒すべきではないでしょうか。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
(PGM事件については、いずれ)
たとえばこれ。
社宅に係る仕入税額控除(質疑応答事例)
この中の以下の記述。
1 自己において取得した社宅や従業員寮の取得費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けることがその取得の時点で客観的に明らかな社宅や従業員寮は居住用賃貸建物に該当しない
3 社宅や従業員寮の維持費
従業員から使用料を徴収せず、無償で貸し付けている場合は、原則として課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに(略)該当します
◯
まずは、後者の「無償でも共通仕入」から検討します。
「無償でも共通仕入」というのは、以下の通達を根拠としているのでしょう。
消基通11−2−16(資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの取扱い)
法第30条第2項第1号《個別対応方式による仕入税額控除》に規定する課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの(以下「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」という。)とは、原則として課税資産の譲渡等と非課税資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等をいうのであるが、例えば、株券の発行に当たって印刷業者へ支払う印刷費、証券会社へ支払う引受手数料等のように資産の譲渡等に該当しない取引に要する課税仕入れ等は、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するものに該当するものとして取り扱う。
資産の譲渡等に該当しない取引のために要する課税仕入れの税額控除(質疑応答事例)
が、消費税法30条2項では、「共通仕入」の定義は次のようになっています。
【共通仕入】
課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの
(その他の資産の譲渡等=課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等)
ここでいう「資産の譲渡等」の定義は、同法2条1項8号にあります。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
つまり、消費税法で「資産の譲渡等」というときは、(みなし規定でもないかぎり)有償取引を指していることになります。とすると、共通仕入に該当するためには、有償取引に対応するものである必要があります。
にもかかわらず、通達によって、無償取引に対応するものでも共通仕入として扱うことにしてしまっているわけです。
よくよく通達をみてみると、語尾が「該当するものとして取り扱う。」となっていて。「本当は違うけど、そういうことにしといてやるよ」という場面で出てくるやつですよね。
そもそも消費税法の書きぶりが、課のみ/非のみ/共通いずれにも「資産の譲渡等」に対応するものであることを要求してしまっています。そのせいで、無償取引に対応する課税仕入の行き場がない、という事態が生じてしまっているわけです。
このような不都合を、通達がカバーしてくれている、と理解すればよろしいのでしょうか。
◯
次に、前者の「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」について。
消費税法における「居住用賃貸建物」の書きぶりは次のとおり。
第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
10 第一項の規定は、事業者が国内において行う別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この項において同じ。)以外の建物(第十二条の四第一項に規定する高額特定資産又は同条第二項に規定する調整対象自己建設高額資産に該当するものに限る。第三十五条の二において「居住用賃貸建物」という。)に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
別表第二
十三 住宅(人の居住の用に供する家屋又は家屋のうち人の居住の用に供する部分をいう。)の貸付け(当該貸付けに係る契約において人の居住の用に供することが明らかにされている場合(当該契約において当該貸付けに係る用途が明らかにされていない場合に当該貸付け等の状況からみて人の居住の用に供されていることが明らかな場合を含む。)に限るものとし、一時的に使用させる場合その他の政令で定める場合を除く。)
国税庁の見解によれは、ここでいう「住宅の貸付け」は有償の貸付け(賃貸借)に限定され、無償の貸付け(使用貸借)は含まれない、と解釈していることになります。
このような解釈、消費税法の文言に適合するものでしょうか。
・
「貸付け」に関する消費税法の規定は、次のとおり。
第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
2 この法律において「資産の貸付け」には、資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為(当該行為のうち、電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)を含むものとする。
これをみると、「対価を得て行われる」は、貸付けに《外付け》されていることが分かります。
要するに、「貸付け」という用語自体には、有償に限定するという意味が含まれていないことになります。
とすると、居住用賃貸建物における「貸付け」も、《外付け》パーツのないむき出しの「貸付け」であるため、有償/無償いずれも含まれる、と解釈せざるをえないはずです。
よって、無償であっても、居住用として貸す以上は「居住用賃貸建物」に該当してしまうことになりそうです。
◯
「無償でも共通仕入」のほうは、紛いなりにも緩和通達があったわけです。他方で「無償でも居住用賃貸建物」については、なんの説明もなく、急に質疑応答事例で示されたものです(どこかに個別通達でもあるのでしょうか)。
・資産の譲渡等=有償に限定される →無償も含める!(通達)
・住宅の貸付け=有償に限定されない →無償は含めない!(??)
消費税法が採用している用語の使い分けを無視して、ご都合主義的に無償を含めるといったり含めないといったり、節操がなさすぎでしょうよ。
【事業/事業者】
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
◯
もちろん、結論において、非課税売上が立たないのに問答無用で仕入税額控除を全額否定されるのは理不尽、というのはそのとおりです。そもそも私個人としては、用途区分を始めとする、「損税」を生み出す全ての制度が理不尽だと思っているところですし。
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)
が、条文上、有償/無償とか、実際に非課税売上が立つかどうかといった事情を考慮しない書きぶりになっているというのに、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」なんて条文ガン無視の見解を、しれっと混入してもいいのかよと思うわけです。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
頑張って国税庁見解を擁護するならば、次のような読み方ができるでしょうか。
すなわち、別表第二にいう「住宅の貸付け」は、それ単体で理解すべきではなく。6条1項にいう「資産の譲渡等のうち」と合わせて理解すべきだと。
第六条(非課税)
1 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには、消費税を課さない。
この読み方に従うならば、居住用賃貸建物にいう「住宅の貸付け」には無償貸付けは含まない、と解釈することができます。
・資産の譲渡等のうち住宅の貸付け →無償は含めない!
この読み方、「いい線いっているね」と思われるかもしれません。
が、6条1項には「国内において行われる」とも書いてあります。これをそのまま30条10項に代入すると、
第一項の規定は、事業者が国内において行う国内において行われる資産の譲渡等のうち別表第二第十三号に掲げる住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
と、キモい規定になってしまいます。
よって、6条1項と合わせて読む、という解釈は取れません。
まあ、近時の条文起案能力の劣化っぷりからすると、他の条項との関係など深く考えることもなく、当然に有償のつもりで「住宅の貸付け」と記述した、ということなのでしょうかね。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
◯
文言上の無理を押し通して、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という国税庁の見解を採用したとして。次のような事例ではどうなるでしょうか。
【事例】
・当課税期間終了間際に、転売目的で中古の居住用賃貸マンションを購入。
・売却は、次の課税期間の開始直後となる予定。
・そこで、売却まではフリーレントとする旨、借主全員に通知した。
国税庁見解及び下記通達を合わせるならば、この場合は居住用賃貸建物に該当しないということになるでしょうか(用途区分は共通仕入)。
消基通11−7−1(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)
居住用賃貸建物は、住宅の貸付け(法別表第二第13号《住宅の貸付け》に掲げる住宅の貸付けをいう。以下この節において同じ。)の用に供しないことが明らかな建物(その附属設備を含む。以下この節において同じ。)以外の建物であることが要件となるが、「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物」とは、建物の構造及び設備の状況その他の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが客観的に明らかなものをいい、例えば、次に掲げるようなものがこれに該当する。
(3) 棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの
もちろん、居住用賃貸建物に該当する場合でも、次の課税期間に売却すれば税額調整を受けられます。が、キャッシュフローの観点からすれば、できるだけ早めに控除を取りたい、と考えることは十分ありうるわけです。
そこで、もらえない家賃との損得を考慮して、フリーレントを実施することも合理的な判断となり得ます。
質疑応答事例の社宅事案と比べて、どこか違和感はあります。が、「無償なら居住用賃貸建物に該当しない」という見解を採用してしまった以上、このような事例を排除することはできないことになります。
◯
今回は結論として「納税者有利」だからいいとして。趣旨解釈の名のもとに、条文をガン無視した解釈をカマしてくることに対して、我々はもっと警戒すべきではないでしょうか。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
(PGM事件については、いずれ)
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| 消費税法
2024年12月02日
内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022)
法制度を何でもかんでもフローチャート化することに対して、私自身は極めて懐疑的。
内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022) Amazon
下記記事では、専門家なのだから平文で書けば間違えなかったであろうことを、(共著の執筆方針に従ってか)無理にフローチャート化しようとしたことで間違ったチャートとなってしまった例と、その改善案を示しました。
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論
下記記事になると、完全におふざけモード(フローチャートイジり)に入っています。
フローチャートで遊ぼう。 〜フローチャート総論
消費税法も、ご多分にもれず複雑怪奇化しているのであり。余すことなくフローチャート化するには、もはや無理がある、というのが私の見立て。
◯
というあたりを意識しながら、本書を眺めてみたのですが・・。
たとえば、「特定新規設立法人」の特定要件や判定対象者につき、どのようにフローチャート化されているかを確認してみると。すでに「特定新規設立法人」に該当することの検討が終わったところから、チャートがスタートしてしまっています(P.20)。
肝心の特定要件・判定対象者については、「用語解説」(P.300)などというかたちで、巻末に平文で書いてあるだけ(ですし、分かりやすく表現しようとしたせいか、不正確な記述になっている)。意図的なのかどうか、難解な部分はフローチャートの外に出されてしまっているわけです。
また、「調整対象固定資産・高額特定資産」のフローチャートについて、ゴールが「3年縛り」が発動するかしないか、で終わってしまっています(P.26,27)。
が、これは途中経過にすぎず。3年縛りが発動するとして、当該3年度において、それぞれ本則/簡易/免税のいずれとなるのかという、肝心の結論部分が書かれていません。
【作用と帰結を取り違えている】
法律解釈のフローチャート(助走編)
・
私が何を意識しているかというと。
本書では、「3年縛り」が発動した場合の効果として、フローチャート外の解説部分に、免税事業者となれないほか「簡易課税制度の適用を受けることもできません」と書かれています(P.25)。が、同制度の(簡易に対する)効果は、簡易届出の提出制限であって、簡易不適用ではありません(厳密にいうと「3年縛り」ではなく「2年提出制限」ということ)。
これが「調整対象固定資産」の場合には、結果的に3年簡易不適用となりますが、それはあくまでも結果論です。「調整対象固定資産」が想定しているパターンだと、ちょうど結論が一致するというだけです。
他方で、「高額特定資産」の場合は、対象資産を限定する一方で、適用パターンを無制限に広げてしまったため、2年の提出制限を受けても、3年度中に簡易が発動する隙が生まれてしまっています。
これが立法の過誤なのか意図的にそうしているのか分かりませんが、そういう構成になっているということです。
ゆえに、「調整対象固定資産・高額特定資産」のルールをフローチャート化するというならば。適用されるパターンを細かく場合分けして、3年度それぞれが本則/簡易/免税のいずれとなるのかを潰していかなければ、正確な理解をすることはできないはずです。
本書のフローチャートは、スタートが遅い、または、ゴールが早いものとなっており。肝心の、難しい部分が省かれてしまっているということです。
・
もし、本書が非専門家向けの「学習書」だというなら、枝葉を切り落とした基本部分だけをチャート化するだけでも十分でしょう。が、本書の「まえがき」には税賠の件数・金額が載せられていて、これら事故の対策本のつもりで執筆したとあります。
基本を知らないなんてのはさておき。こういう枝葉の部分に潜む落とし穴に嵌まり込むのを防ぐことのほうが、税賠回避のためには必要なのではないでしょうか。
本書の記述を信じて、縛り期間中はおよそ簡易の適用なしと思い込んで本則で申告してしまったとしたら、どう対応されるのか。
◯
と、偉そうにいっていますが。
本件に関しては、私がたまたま「特定新規設立法人」「高額特定資産」あたりについて、微に入り細に入り条文を読み込んだ経験があったから気付いたにすぎません。
もし、今から手持ちの知識で消費税法の解説書を書けと言われたら、間違って理解している箇所が、いくつも出てくるのではないかと思います。
・
現行消費税法のような複雑な制度に対して、(手続的側面に限定したとしても)フローチャート単騎で突撃するのは無謀な試みであって。どうしても分かりやすく説明したいというならば、あの手この手の手法でアプローチしていかなければならないのだと、思います。
しかも、「ロジカルシンキング」など他所の道具立てを使うにしても、直輸入するのではなく。法学の特性に合わせて微調整する必要があるでしょう。
いずれにしても、出発点は条文にあるのであって。非効率とのそしりを受けようが、私は今後もひたすら条文読みに勤しむことにします。
・
なお、私が本書のような書籍に目を通すの。決して何か新しいことを学ぼうといったつもりからではなく。
表紙の「→」2つを見て(お気付きだろうか?)、「もしかして・・。」と思ってしまったから、です。
【表紙で気づく系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
橋内武・堀田秀吾「法と言語 改訂版」(くろしお出版2024)
「表紙から何かを受信する」なんて、およそ無意味な特殊能力ですが。これも含めて自分ゆえ、付き合っていかざるをえない。
・
あらためて、自分の条文知識を再確認するかぎりでは、まあよかったかなあと思います(強引にフォローする)。
内川毅彦「フローチャート消費税」(法令出版2022) Amazon
下記記事では、専門家なのだから平文で書けば間違えなかったであろうことを、(共著の執筆方針に従ってか)無理にフローチャート化しようとしたことで間違ったチャートとなってしまった例と、その改善案を示しました。
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論
下記記事になると、完全におふざけモード(フローチャートイジり)に入っています。
フローチャートで遊ぼう。 〜フローチャート総論
消費税法も、ご多分にもれず複雑怪奇化しているのであり。余すことなくフローチャート化するには、もはや無理がある、というのが私の見立て。
◯
というあたりを意識しながら、本書を眺めてみたのですが・・。
たとえば、「特定新規設立法人」の特定要件や判定対象者につき、どのようにフローチャート化されているかを確認してみると。すでに「特定新規設立法人」に該当することの検討が終わったところから、チャートがスタートしてしまっています(P.20)。
肝心の特定要件・判定対象者については、「用語解説」(P.300)などというかたちで、巻末に平文で書いてあるだけ(ですし、分かりやすく表現しようとしたせいか、不正確な記述になっている)。意図的なのかどうか、難解な部分はフローチャートの外に出されてしまっているわけです。
また、「調整対象固定資産・高額特定資産」のフローチャートについて、ゴールが「3年縛り」が発動するかしないか、で終わってしまっています(P.26,27)。
が、これは途中経過にすぎず。3年縛りが発動するとして、当該3年度において、それぞれ本則/簡易/免税のいずれとなるのかという、肝心の結論部分が書かれていません。
【作用と帰結を取り違えている】
法律解釈のフローチャート(助走編)
・
私が何を意識しているかというと。
本書では、「3年縛り」が発動した場合の効果として、フローチャート外の解説部分に、免税事業者となれないほか「簡易課税制度の適用を受けることもできません」と書かれています(P.25)。が、同制度の(簡易に対する)効果は、簡易届出の提出制限であって、簡易不適用ではありません(厳密にいうと「3年縛り」ではなく「2年提出制限」ということ)。
これが「調整対象固定資産」の場合には、結果的に3年簡易不適用となりますが、それはあくまでも結果論です。「調整対象固定資産」が想定しているパターンだと、ちょうど結論が一致するというだけです。
他方で、「高額特定資産」の場合は、対象資産を限定する一方で、適用パターンを無制限に広げてしまったため、2年の提出制限を受けても、3年度中に簡易が発動する隙が生まれてしまっています。
これが立法の過誤なのか意図的にそうしているのか分かりませんが、そういう構成になっているということです。
ゆえに、「調整対象固定資産・高額特定資産」のルールをフローチャート化するというならば。適用されるパターンを細かく場合分けして、3年度それぞれが本則/簡易/免税のいずれとなるのかを潰していかなければ、正確な理解をすることはできないはずです。
本書のフローチャートは、スタートが遅い、または、ゴールが早いものとなっており。肝心の、難しい部分が省かれてしまっているということです。
・
もし、本書が非専門家向けの「学習書」だというなら、枝葉を切り落とした基本部分だけをチャート化するだけでも十分でしょう。が、本書の「まえがき」には税賠の件数・金額が載せられていて、これら事故の対策本のつもりで執筆したとあります。
基本を知らないなんてのはさておき。こういう枝葉の部分に潜む落とし穴に嵌まり込むのを防ぐことのほうが、税賠回避のためには必要なのではないでしょうか。
本書の記述を信じて、縛り期間中はおよそ簡易の適用なしと思い込んで本則で申告してしまったとしたら、どう対応されるのか。
◯
と、偉そうにいっていますが。
本件に関しては、私がたまたま「特定新規設立法人」「高額特定資産」あたりについて、微に入り細に入り条文を読み込んだ経験があったから気付いたにすぎません。
もし、今から手持ちの知識で消費税法の解説書を書けと言われたら、間違って理解している箇所が、いくつも出てくるのではないかと思います。
・
現行消費税法のような複雑な制度に対して、(手続的側面に限定したとしても)フローチャート単騎で突撃するのは無謀な試みであって。どうしても分かりやすく説明したいというならば、あの手この手の手法でアプローチしていかなければならないのだと、思います。
しかも、「ロジカルシンキング」など他所の道具立てを使うにしても、直輸入するのではなく。法学の特性に合わせて微調整する必要があるでしょう。
いずれにしても、出発点は条文にあるのであって。非効率とのそしりを受けようが、私は今後もひたすら条文読みに勤しむことにします。
・
なお、私が本書のような書籍に目を通すの。決して何か新しいことを学ぼうといったつもりからではなく。
表紙の「→」2つを見て(お気付きだろうか?)、「もしかして・・。」と思ってしまったから、です。
【表紙で気づく系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
橋内武・堀田秀吾「法と言語 改訂版」(くろしお出版2024)
「表紙から何かを受信する」なんて、およそ無意味な特殊能力ですが。これも含めて自分ゆえ、付き合っていかざるをえない。
・
あらためて、自分の条文知識を再確認するかぎりでは、まあよかったかなあと思います(強引にフォローする)。
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| 消費税法
2024年10月28日
公売特例と8割控除 〜消費税法の理論構造(種蒔き編52)
今回は、目地埋め系の小ネタ記事です。
「公売特例」については、下記記事で、《媒介者交付特例》のキモさの引き立て役として取り上げました。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
インボイス絡みの特例の中では、損税も益税も生じない、ずいぶんとまともな制度だなあと。
ではこの公売特例と、「8割控除」(という条文設計に失敗した特例)との関係はどうなっているでしょうか。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
公売特例は「公売」のみに適用されるものではありませんが、以下では「公売」を念頭において記述します。
【登場人物】
A 滞納者
B 執行機関(媒介者)
C 買受人
◯
まず、公売特例は「売手側」の交付特例、8割控除は「買手側」の保存特例という位置づけであることを理解する必要があります。
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
ので、適用範囲がバッティングしてどちらかが優先適用される、という関係にはありません。
【少額特例と8割控除】
少額特例と電気通信利用役務の提供 〜消費税法の理論構造(種蒔き編49)
・
で、公売特例の要件についてですが。
公売特例は、媒介者交付特例と異なり、滞納者が執行機関に適格者であることを「通知」する必要はありません。が、実体要件としてAが「適格者」であることは要求されています。
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
5 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第十三号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。
そのため、執行機関は、買受人にインボイスを交付するにあたり、滞納者が「適格者」かどうかを調査しなければなりません。
で、滞納者が適格者であることが確認できたら、執行機関は買受人にインボイスを交付します。このインボイスには「執行機関の名称+公売特例を適用する旨」を記載するだけでよく、「滞納者の氏名・住所、インボイス番号」を記載する必要はありません。
この「公売インボイス」は、正規のインボイスとして扱われるため、滞納者が適格者の場合には、「8割控除」の出番はないということになります。
・
では、滞納者が「非適格者」の場合はどうかというと。執行機関はインボイスを交付しないこととなります。
この場面において、買受人が「8割控除」の適用を受けられるか、というかたちで「8割控除」の適否を検討する必要が出てくるわけです。
8割控除の条文については、下記記事を参照いただくとして。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
8割控除の要件のうち、公売の場面で問題となるのが、滞納者に「区分記載請求書」を発行してもらえるかどうか、です。
公売特例の条文の書きぶりからすると、滞納者は「執行機関を介して」課税資産の譲渡を行っているという建付けとなっているため、滞納者が区分記載請求書を発行してもよいことになりそうです。
が、「できる」のはいいとして、その先、滞納者には「区分記載請求書」を発行する義務があるのでしょうか。
適格者にはインボイスを交付する義務が課せられているのに対し(法57条の4)。非適格者には「区分記載請求書」を発行する義務は課せられていません。
したがって、買受人が運良く滞納者から「区分記載請求書」を発行してもらえた場合には「8割控除」が適用できるのに対し。発行してもらえない場合には、買受人はそれ以上どうすることもできないため、適用を受けられない、という帰結になります。
・
金額的にも相当でかくなると思うのですが。「売手側」の公売特例はあるのに、「買手側」の公売特例はないわけです。
このあたりは、通常の取引と異なり。滞納者が「非適格者」だというならば、そのことを織り込んで「入札価格」を調整すればいいだけだろ、ということで正当化できるでしょうか。
そうだとして、運良く区分記載請求書をもらえたら「8割控除」を受けられる、というのも不公平な気もしますが。
また、これまでの記事でさんざん述べてきたところですが。
「課税事業者である非適格者」というカテゴリが存在することによる「損税」につき、公売の場面でも何らの手当もされていません。特に、公売においては対象物件にかかる消費税が優先で掻っ攫われてしまうのであって。お国の側では取りっぱぐれが生じない。
インボイス施行後の消費税法が、
・課税側は、課税事業者/免税事業者・消費者
で区分しているにもかかわらず、
・控除側は、適格者(課税事業者)/非適格者(課税事業者・免税事業者・消費者)
で区分していることのミスマッチによる損税が、ここでも生じてしまっているわけです。
◯
ちなみに、「通常の取引」の場面でも、売手は「区分記載請求書」を発行する義務があるか、という点は問題となりえます。
もちろん、普通は任意に発行してくれるものでしょうし、また、契約上の義務として明記しておけば請求可能でしょう。そうじゃない場合にどうなるか、というお話しです。
たとえば、民法486条に「契約当事者は相手方の損害軽減に協力しなければならない」という契約規範をプラスすることで、「区分記載請求書交付義務」を導出することができるでしょうか。
まあ、税率が複数にならないかぎり、普通に領収書を書いてくれれば、区分記載請求書の記載事項を満たせるはずですけども。
民法 第四百八十六条(受取証書の交付請求等)
1 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
2 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。
キャッシュレス決済と印紙税法 〜第17号文書(領収書)該当性について
◯
以上、消費税法から直接導くことができる結論を記載しただけで。運用レベルでどのように扱われるかは考慮外です。
「公売特例」については、下記記事で、《媒介者交付特例》のキモさの引き立て役として取り上げました。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
インボイス絡みの特例の中では、損税も益税も生じない、ずいぶんとまともな制度だなあと。
ではこの公売特例と、「8割控除」(という条文設計に失敗した特例)との関係はどうなっているでしょうか。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
公売特例は「公売」のみに適用されるものではありませんが、以下では「公売」を念頭において記述します。
【登場人物】
A 滞納者
B 執行機関(媒介者)
C 買受人
◯
まず、公売特例は「売手側」の交付特例、8割控除は「買手側」の保存特例という位置づけであることを理解する必要があります。
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
ので、適用範囲がバッティングしてどちらかが優先適用される、という関係にはありません。
【少額特例と8割控除】
少額特例と電気通信利用役務の提供 〜消費税法の理論構造(種蒔き編49)
・
で、公売特例の要件についてですが。
公売特例は、媒介者交付特例と異なり、滞納者が執行機関に適格者であることを「通知」する必要はありません。が、実体要件としてAが「適格者」であることは要求されています。
消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
5 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第十三号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。
そのため、執行機関は、買受人にインボイスを交付するにあたり、滞納者が「適格者」かどうかを調査しなければなりません。
で、滞納者が適格者であることが確認できたら、執行機関は買受人にインボイスを交付します。このインボイスには「執行機関の名称+公売特例を適用する旨」を記載するだけでよく、「滞納者の氏名・住所、インボイス番号」を記載する必要はありません。
この「公売インボイス」は、正規のインボイスとして扱われるため、滞納者が適格者の場合には、「8割控除」の出番はないということになります。
・
では、滞納者が「非適格者」の場合はどうかというと。執行機関はインボイスを交付しないこととなります。
この場面において、買受人が「8割控除」の適用を受けられるか、というかたちで「8割控除」の適否を検討する必要が出てくるわけです。
8割控除の条文については、下記記事を参照いただくとして。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
8割控除の要件のうち、公売の場面で問題となるのが、滞納者に「区分記載請求書」を発行してもらえるかどうか、です。
公売特例の条文の書きぶりからすると、滞納者は「執行機関を介して」課税資産の譲渡を行っているという建付けとなっているため、滞納者が区分記載請求書を発行してもよいことになりそうです。
が、「できる」のはいいとして、その先、滞納者には「区分記載請求書」を発行する義務があるのでしょうか。
適格者にはインボイスを交付する義務が課せられているのに対し(法57条の4)。非適格者には「区分記載請求書」を発行する義務は課せられていません。
したがって、買受人が運良く滞納者から「区分記載請求書」を発行してもらえた場合には「8割控除」が適用できるのに対し。発行してもらえない場合には、買受人はそれ以上どうすることもできないため、適用を受けられない、という帰結になります。
・
金額的にも相当でかくなると思うのですが。「売手側」の公売特例はあるのに、「買手側」の公売特例はないわけです。
このあたりは、通常の取引と異なり。滞納者が「非適格者」だというならば、そのことを織り込んで「入札価格」を調整すればいいだけだろ、ということで正当化できるでしょうか。
そうだとして、運良く区分記載請求書をもらえたら「8割控除」を受けられる、というのも不公平な気もしますが。
また、これまでの記事でさんざん述べてきたところですが。
「課税事業者である非適格者」というカテゴリが存在することによる「損税」につき、公売の場面でも何らの手当もされていません。特に、公売においては対象物件にかかる消費税が優先で掻っ攫われてしまうのであって。お国の側では取りっぱぐれが生じない。
インボイス施行後の消費税法が、
・課税側は、課税事業者/免税事業者・消費者
で区分しているにもかかわらず、
・控除側は、適格者(課税事業者)/非適格者(課税事業者・免税事業者・消費者)
で区分していることのミスマッチによる損税が、ここでも生じてしまっているわけです。
◯
ちなみに、「通常の取引」の場面でも、売手は「区分記載請求書」を発行する義務があるか、という点は問題となりえます。
もちろん、普通は任意に発行してくれるものでしょうし、また、契約上の義務として明記しておけば請求可能でしょう。そうじゃない場合にどうなるか、というお話しです。
たとえば、民法486条に「契約当事者は相手方の損害軽減に協力しなければならない」という契約規範をプラスすることで、「区分記載請求書交付義務」を導出することができるでしょうか。
まあ、税率が複数にならないかぎり、普通に領収書を書いてくれれば、区分記載請求書の記載事項を満たせるはずですけども。
民法 第四百八十六条(受取証書の交付請求等)
1 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
2 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。
キャッシュレス決済と印紙税法 〜第17号文書(領収書)該当性について
◯
以上、消費税法から直接導くことができる結論を記載しただけで。運用レベルでどのように扱われるかは考慮外です。
posted by ウロ at 09:26| 消費税法
2024年10月07日
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
前回は、交付特例と保存特例を一気通貫で整理しました。
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
今回は、全体の概観をします。
前回述べたとおり、「Q&A」「お問合せの多いご質問」「週刊税務通信」などで公表されている《ズルズル・ゆるゆる運用》については正面から扱いません。また、古物商等特例は古物商を念頭におき「再生資源」に関する記述は省略します。
◯
先に指摘しておきたいのが、例外ルールのない取引についてです。
・ATM手数料
・ETC
などのように、「少額・大量・どう考えても売手適格者に決まってんだろ」な取引が、なぜここに入ってこなかったのか。
公共交通機関、郵便ポストあたりと近いはずですが、「アレがよくてコレがだめ」の理由が謎です(そのせいで、Q&Aがみっともない緩和運用を示さざるをえなくなっている)。
同様に、「自動販売機はよくてコインパーキングはだめ」というのもよくわかりません。機械で完結するかどうかというのが、インボイスの要否にどう影響してくるのでしょうか。
「自販機や郵便ポストにはインボイス発行機能を仕込まなくてよいが、コインパーキングには仕込まなければならない」なんて、どういう根拠による職業差別なんでしょうか。
いっそのこと、駐車料ではなく「ゲート上げ下げ料」として徴収すればいいんですか(当然ふざけて言っていますが、お役所の有料駐車場問題も、この手の屁理屈じゃないかと私は思うのですが)。
さて、では中身に触れていきます。
◯
まず「売手の属性」について。
公共交通機関と郵便ポストに〈適格者〉とあるのは、法令上は要件とされていないものの、これらのサービス提供者はどう考えても適格者に決まってんだろ、という意味合いです。
他方で、入場券等は、一旦は簡易インボイス(の記載事項のうち取引年月日以外が書かれたもの)を発行することが要件となっているため、売手は「適格者」である必要があります。
自販機には売手の属性要件はないため、「適格者/非適格者」いずれの場合もあります。が、この特例のおかげで、買手は売手の属性を気にせずに取引ができることになります。
出張旅費等は、直接の売手は「従業員」ですが、実際の支払先には「適格者/非適格者」が混ざってくることになるでしょう(自販機と同様「不特定」にあたる)。
実費精算の場合でもこれを使えるのは、もっぱら事業主の便宜に阿った結果だとは思いますが。「出張旅費等」かどうかで扱いを区別する、という手間は増えることになります。
卸売市場・農協等は、元の売手の属性要件はありません。が、「媒介者」が適格者である必要があります。
なお、媒介者が適格者であることが益税撲滅に何の意味もないことについては、《媒介者交付特例》で論じたものをご参照ください。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
突出してイカれてるのが古物商等です。売手が「非適格者」である場合だけに限定されています。
なぜこれをイカれてると評価するのかといえば、
【売手の属性】
・適格者 →益税なし 《課税=控除》
・不特定 →益税かもしれないし、ないかもしれない 《課税=控除》or《課税<控除》
・非適格者 →絶対に益税が発生する! 《課税<控除》
ということであり、どう考えても益税が発生するからです。
自販機などが売手の属性を「不特定」とするのは、『適格チェックする事務負担を軽減してあげる』という大義名分があるわけです。ところが、古物商等の場合は『適格チェックした上で「非適格者」であることが確認できたら税額控除してよい』という、よりによって倒錯した控除要件になっています。
自販機などが「適格者か非適格者かなんて、面倒くさくて区別してらんないよ〜」なんて軟弱な理由なのに対し。「非適格者からの仕入であることが明らかなら税額控除させろ!!」という、ド正面からの、理不尽な益税要求(それぞれ、発言をのび太とジャイアンで脳内再生すると、イメージしやすいでしょうか)。
あれだけ益税を蛇蝎のごとく憎んでいたはずのインボイス推進派の方々が、なぜ古物商等特例についてはダンマリを決め込んでいるのか、謎すぎる。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
「氏名」については、古物商等で業務帳簿が不要な場合だけ、会計帳簿も記載不要とされています。バーターとして何かが要求されている、ですらなく。この場合、代わりの何も要求されてない。
古物商等だけがやたら優遇されていると。
自販機については、Q&Aによって記載しないでも「差し支えない」とされています。それ以外のものも、このノリでずるずると「差し支えない」扱いが増えていくのでしょうか。
◯
「住所」についてですが、必要とされているのが古物商等で業務帳簿が必要な場合だけです。
とはいえ、この場合も、業務帳簿に書いておけば会計帳簿には記載不要という古(いにしえ)からの取り扱いがあります。
R6の告示改正で自販機と入場券等が追加された結果、令49条1項1号柱書の括弧内の「インボイス保存しないかわりに帳簿に住所書けや」要件は、実質死文化したといってよいのでは。
そして、全滅させるというならば、「省令:必要→告示:不要」なんて回りくどいことをせず。省令内できっちり介錯してあげるべきではないでしょうか(解釈の誤字ではない)。
【現行法】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。代わりに住所書け。(+規則:保存いらない場合追加)
告示:住所いらない(いるのは古物商等で業務帳簿に書くときだけ)
⇒
【再構成案】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。ただし古物商等で業務帳簿に書く場合だけ住所書いておいて。
◯
以上、交付特例と保存特例を整理してみたのですが。
結局のところ、古物商等特例の異常さを再認識させられただけな気がします。
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
今回は、全体の概観をします。
前回述べたとおり、「Q&A」「お問合せの多いご質問」「週刊税務通信」などで公表されている《ズルズル・ゆるゆる運用》については正面から扱いません。また、古物商等特例は古物商を念頭におき「再生資源」に関する記述は省略します。
◯
先に指摘しておきたいのが、例外ルールのない取引についてです。
・ATM手数料
・ETC
などのように、「少額・大量・どう考えても売手適格者に決まってんだろ」な取引が、なぜここに入ってこなかったのか。
公共交通機関、郵便ポストあたりと近いはずですが、「アレがよくてコレがだめ」の理由が謎です(そのせいで、Q&Aがみっともない緩和運用を示さざるをえなくなっている)。
同様に、「自動販売機はよくてコインパーキングはだめ」というのもよくわかりません。機械で完結するかどうかというのが、インボイスの要否にどう影響してくるのでしょうか。
「自販機や郵便ポストにはインボイス発行機能を仕込まなくてよいが、コインパーキングには仕込まなければならない」なんて、どういう根拠による職業差別なんでしょうか。
いっそのこと、駐車料ではなく「ゲート上げ下げ料」として徴収すればいいんですか(当然ふざけて言っていますが、お役所の有料駐車場問題も、この手の屁理屈じゃないかと私は思うのですが)。
さて、では中身に触れていきます。
◯
まず「売手の属性」について。
公共交通機関と郵便ポストに〈適格者〉とあるのは、法令上は要件とされていないものの、これらのサービス提供者はどう考えても適格者に決まってんだろ、という意味合いです。
他方で、入場券等は、一旦は簡易インボイス(の記載事項のうち取引年月日以外が書かれたもの)を発行することが要件となっているため、売手は「適格者」である必要があります。
自販機には売手の属性要件はないため、「適格者/非適格者」いずれの場合もあります。が、この特例のおかげで、買手は売手の属性を気にせずに取引ができることになります。
出張旅費等は、直接の売手は「従業員」ですが、実際の支払先には「適格者/非適格者」が混ざってくることになるでしょう(自販機と同様「不特定」にあたる)。
実費精算の場合でもこれを使えるのは、もっぱら事業主の便宜に阿った結果だとは思いますが。「出張旅費等」かどうかで扱いを区別する、という手間は増えることになります。
卸売市場・農協等は、元の売手の属性要件はありません。が、「媒介者」が適格者である必要があります。
なお、媒介者が適格者であることが益税撲滅に何の意味もないことについては、《媒介者交付特例》で論じたものをご参照ください。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
突出してイカれてるのが古物商等です。売手が「非適格者」である場合だけに限定されています。
なぜこれをイカれてると評価するのかといえば、
【売手の属性】
・適格者 →益税なし 《課税=控除》
・不特定 →益税かもしれないし、ないかもしれない 《課税=控除》or《課税<控除》
・非適格者 →絶対に益税が発生する! 《課税<控除》
ということであり、どう考えても益税が発生するからです。
自販機などが売手の属性を「不特定」とするのは、『適格チェックする事務負担を軽減してあげる』という大義名分があるわけです。ところが、古物商等の場合は『適格チェックした上で「非適格者」であることが確認できたら税額控除してよい』という、よりによって倒錯した控除要件になっています。
自販機などが「適格者か非適格者かなんて、面倒くさくて区別してらんないよ〜」なんて軟弱な理由なのに対し。「非適格者からの仕入であることが明らかなら税額控除させろ!!」という、ド正面からの、理不尽な益税要求(それぞれ、発言をのび太とジャイアンで脳内再生すると、イメージしやすいでしょうか)。
あれだけ益税を蛇蝎のごとく憎んでいたはずのインボイス推進派の方々が、なぜ古物商等特例についてはダンマリを決め込んでいるのか、謎すぎる。
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
◯
「氏名」については、古物商等で業務帳簿が不要な場合だけ、会計帳簿も記載不要とされています。バーターとして何かが要求されている、ですらなく。この場合、代わりの何も要求されてない。
古物商等だけがやたら優遇されていると。
自販機については、Q&Aによって記載しないでも「差し支えない」とされています。それ以外のものも、このノリでずるずると「差し支えない」扱いが増えていくのでしょうか。
◯
「住所」についてですが、必要とされているのが古物商等で業務帳簿が必要な場合だけです。
とはいえ、この場合も、業務帳簿に書いておけば会計帳簿には記載不要という古(いにしえ)からの取り扱いがあります。
R6の告示改正で自販機と入場券等が追加された結果、令49条1項1号柱書の括弧内の「インボイス保存しないかわりに帳簿に住所書けや」要件は、実質死文化したといってよいのでは。
そして、全滅させるというならば、「省令:必要→告示:不要」なんて回りくどいことをせず。省令内できっちり介錯してあげるべきではないでしょうか(解釈の誤字ではない)。
【現行法】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。代わりに住所書け。(+規則:保存いらない場合追加)
告示:住所いらない(いるのは古物商等で業務帳簿に書くときだけ)
⇒
【再構成案】
法律:住所いらない。
政令:保存いらない。ただし古物商等で業務帳簿に書く場合だけ住所書いておいて。
◯
以上、交付特例と保存特例を整理してみたのですが。
結局のところ、古物商等特例の異常さを再認識させられただけな気がします。
posted by ウロ at 09:02| Comment(0)
| 消費税法
2024年09月30日
交付特例と保存特例の一体的理解(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編50)
自販機特例まわりの条文を整理していて思ったこと。
自販機特例の改正(笑)改 〜令和6年度税制改正
巷のインボイス解説本、交付免除は売手の特例、保存免除は買手の特例ということで、分断して記述されているものばかり(というか、私が目を通したものは全てそうなっていました)。
今こそ「丸善リサーチ」様で横断検索すべき場面なのでしょうが。無料期間終了にともなって解約したまま。
「丸善リサーチ」と私。
まあ、こういった観点から期待できるタイプの書籍が、収録されているとは思えない。
良くも悪くも、実務家向けかつ一回り古いものが中心で、私のような趣味に走りがちな人間は、想定利用者から盛大にずれているのでしょうし。
◯
それはさておき。
消費税法における売上課税ルールと仕入控除ルール、逆向きの理屈で作動しているということを示すことが、『消費税法の理論構造』という連載での主たるテーマです(勝手にそうなっていった)。
売上課税: 問答無用の譲渡課税 (超絶広い)
仕入控除: 課税仕入+登録+インボイス+帳簿なければ控除不可 (超絶狭い)
課税側は、課税資産の譲渡をすれば当然課税されるのに対して。控除側は課税仕入をしただけでは控除できず。登録+インボイス+帳簿という形式も必要とされています。
結果、「益税」を滅するところまではよいとして。「損税」が拡大することになっています。
件の教科書が宣うような『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などというテーゼ、「だったらいいな」レベルの妄言にすぎず。日本に現実に存在する現行の消費税法を、あるがままに表すものとは程遠い、ただのポエム。
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
『両輪駆動』云々いうならば、売手側のルールと買手側のルールとが、手に手を取り合って消費者のところだけで税負担が発生するように、同じ方向を向いて機能していなければならないはずです。が、現実にはそうなっていない。
そして、件の教科書はじめ『両輪駆動』的な表現を謳うあまたの書籍の記述、個々の制度をバラバラに説明するだけで終わっている(終わっている)。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
◯
といった現状であるため、仕方なく自力で、交付特例と保存特例の関係を整理してみます。
以下、帳簿に「当該特例にかかる取引である」旨を記載する点については、記述を省略します。また、あくまでも法令の整理を目的とするため、「Q&A」「お問合せの多いご質問」「週刊税務通信」などで公表されている《ズルズル・ゆるゆる運用》については、正面から扱いません。
まずは原則ルールから。
1 原則
交付:必要 法57条の4 1項
保存:必要 法30条7項
氏名:必要 法30条8項
住所:
売手がインボイスを「交付」し、買手がそれを「保存」する、これによって課税と控除が一致する、不一致(課税>控除)は消費者のところだけで生じる、というのが消費税法が描く理想の世界です。
が、現実には、あの手この手で、事業者間取引においても「課税>控除」(損税)の状態が生じることとなっています。
この点については、今回の記事ではこれ以上触れないので、他の記事をお読みいただければ。
・
帳簿には氏名を記載します。住所は要求されていません。
氏名はインボイスの記載事項となっているんだから、帳簿にはせいぜい「インボイス番号」さえ書いておけばいいと思うのですが(法人税法、所得税法も消費税法にあわせる)。で、住所と同様、保存がいらない場合にだけ帳簿記載を要求すると。
「適格請求書保存方式」に変わったといいながら、従前どおりの「帳簿方式」も存置されたまま。これまで「帳簿方式」が残されていたの、請求書が「なんちゃってインボイス」どまりだったことの穴埋めとして、ではなかったんでしょうか。
◯
ここから「例外ルール」を記述します。その中でも理解しやすいところから整理していきます。
例外ルールでは、インボイスの保存がいらないこととのバーターで住所記載を要求していますので、原則ルールとは違い「保存→住所→氏名」の順に並べます。
2 公共交通機関(3万円未満)
交付:不要 令70条の9 2項1号
保存:不要 令49条1項1号イ
住所:不要 R5告示1→R6告示3
氏名:必要 原則どおり
交付・保存とも不要です。交付されない以上、保存する義務もないということです。
住所は告示により不要となっています。
帳簿には、原則どおり氏名を記載します。まあ、公共交通機関でどこの誰だかわからん、ということはないから大した負担ではないでしょ、ということでしょうか。
3 郵便ポスト
交付:不要 令70条の9 2項3号→規26の6 2号
保存:不要 令49条1項1号ニ→規15条の4 1号
住所:不要 R5告示2→R6告示6
氏名:必要 原則どおり
交付・保存とも不要です。ポストに投函されたときにインボイスを発行できるようにしなくてもよいと。
政令ではなく省令に出されている理由は全くわかりません。
住所は告示により不要となっています。
氏名は一択なので、まあ書けよと。逆に一択なんだから書かなくてもいいじゃねえか、とも言えますが。
4 自販機(3万円未満)
交付:不要 令70条の9 2項3号→規26の6 1号
保存:不要 令49条1項1号ニ→規15条の4 1号
住所:不要 R6告示5(新設)
氏名:必要 原則どおり
交付・保存とも不要です。自販機にインボイス発行機能を仕込まなくてもよいと。
こちらも省令に出されている理由は不明です。
住所はR6告示によって不要とされました。
こうやって公共交通機関、郵便ポストと並べてみると、なんで自販機は住所記載が必要とされていたのか、意味不明です。どこの誰だか分からんから、でしょうか。
氏名は法令上は必要なはずですが、Q&Aで勝手に「差し支えない」とされています。
◯
以下から、すんなり理解がしにくくなっていきます。
5 出張旅費・通勤手当
交付:(従業員)
保存:不要 令49条1項1号ニ→規15条の4ニ・三
住所:不要 R5告示3→R6告示4号
氏名:必要 原則どおり
出張旅費・通勤手当は「買手側」のみのルールとなっています。これも省令に出されています。
政令の書きぶりでは「従業員」が売手という位置づけになっています。なので、そもそもインボイス交付不可だと。
確かに、手当方式で定額で払う場合であれば、保存がいらないことは理解できます。従業員が直接の売手だとはいえ、実際には旅費等を支払っている先があるわけで。その先には適格者も含まれているはずです。
が、実費精算の場合でもこの特例使えることになっています。
実費精算の場合、電車・バスあたりならともかく、ホテル代などは領収書を提出させているはずです。その領収書がインボイスでなくても税額控除していいんだと。
なので、従業員経由で支払っているかと、「旅行にあてるために必要な支出」であるかどうかが、クリティカルな問題となります。
住所は告示により不要で、氏名は原則どおり必要です。
6 入場券等
交付:必要 (適格者・簡易記載・年月日不要)
保存:不要 令49条1項1号ロ
住所:不要 R6告示1(新設)
氏名:必要 原則どおり
入場券等も、あくまでも「買手側」のルールです。
が、保存いらない要件の中に、回収された入場券等に簡易インボイスの記載事項(取引年月日除く)が記載されていることが求められています。「インボイス番号」も要記載となるため、結果として、売手は「適格者」であることが必要ということになります。
紛いなりにも、一旦は適格者が簡易インボイス(年月日除く)を発行していることから、保存いらないことが正当化できるでしょうか。
ただ気になるのが、回収の際に「年月日」を記載しなければ、交付義務違反になってしまうのではないでしょうか。入場券等には交付特例はありませんので。
住所は今回の告示改正で不要とされました。氏名は必要です。
なお、条文の書きぶりは以下のとおりとなっています。ので、最低限、取引年月日以外の簡易インボイスの記載事項が書かれていればよいと読むことができます。
「記名式」だと簡易インボイスじゃないから適用できない、ということではないと思います。
令49条1項1号ロ
「法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているもの」
この逆の問題で。現実にありうるか分かりませんが。
売手が正規インボイスを交付する義務があるのに簡易インボイスしか交付しなかった場合でも、買手は入場券等特例を使えば税額控除できることになりそうです。売手が交付義務違反を問われるかどうかは別問題として。
ただし、これはあくまでも文言解釈によるもの。趣旨解釈で限定されることはありうるでしょう(実務的には、こんな重隅、問題にする人は誰もいないはず)。
7 古物商等
交付:なし (非適格者に限る)
保存:不要 令49条1項1号ハ
氏名:不要 令49条2項、R6告示2 (限定あり)
住所:不要 R5告示4→R6告示2 (限定あり)
(以下、「再生資源」だけ、住所・氏名省略要件が微妙に違いますが記述を省略します)
古物商等特例が適用されるのは「非適格者」からの仕入に限られています。ので、インボイスが交付されることはありえません。だというのに、税額控除が取れるということの特異性については、さんざん論じてきました。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
また、古物商等だけが、住所だけでなく「氏名」も省略できることになっていることも検討ずみです。
「業務帳簿」に記載しないでいい場合だけという限定がついているものの、「非適格者」からの仕入であることを確認した上で税額控除できる、というイカれた特例の時点で十分な恩恵を受けているのであって。
住所・氏名省略に限定がついているとて。他業種に比べて大幅に優遇されていることに変わりはないです。
◯
最後、「交付特例」の並びにあるので含めましたが、かなり異質な制度です。
8 卸売市場・農協等
交付:不要 令70条の9 2項2号
保存:必要 法30条9項4号 (媒介者)
氏名:必要 令49条3項 (媒介者)
住所:
委託者(生産者等)はインボイスを交付しなくてもよいことになっています。
他方で、買手側は、媒介者(卸売市場等)が発行するインボイスを保存する必要があります。また、媒介者が適格者であればよく、委託者が適格者である必要はないことになっています(媒介者特例・公売特例(令70条の12)との違い)。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
氏名は媒介者のものを記載します。
住所については、他の「保存特例」と異なり令49条1項1号ルートを経由しないので、最初から要求されていません。
◯
以上、ひととおり規律の列挙ができたので、次回、全体の概観をします。
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
自販機特例の改正(笑)改 〜令和6年度税制改正
巷のインボイス解説本、交付免除は売手の特例、保存免除は買手の特例ということで、分断して記述されているものばかり(というか、私が目を通したものは全てそうなっていました)。
今こそ「丸善リサーチ」様で横断検索すべき場面なのでしょうが。無料期間終了にともなって解約したまま。
「丸善リサーチ」と私。
まあ、こういった観点から期待できるタイプの書籍が、収録されているとは思えない。
良くも悪くも、実務家向けかつ一回り古いものが中心で、私のような趣味に走りがちな人間は、想定利用者から盛大にずれているのでしょうし。
◯
それはさておき。
消費税法における売上課税ルールと仕入控除ルール、逆向きの理屈で作動しているということを示すことが、『消費税法の理論構造』という連載での主たるテーマです(勝手にそうなっていった)。
売上課税: 問答無用の譲渡課税 (超絶広い)
仕入控除: 課税仕入+登録+インボイス+帳簿なければ控除不可 (超絶狭い)
課税側は、課税資産の譲渡をすれば当然課税されるのに対して。控除側は課税仕入をしただけでは控除できず。登録+インボイス+帳簿という形式も必要とされています。
結果、「益税」を滅するところまではよいとして。「損税」が拡大することになっています。
件の教科書が宣うような『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などというテーゼ、「だったらいいな」レベルの妄言にすぎず。日本に現実に存在する現行の消費税法を、あるがままに表すものとは程遠い、ただのポエム。
免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)
『両輪駆動』云々いうならば、売手側のルールと買手側のルールとが、手に手を取り合って消費者のところだけで税負担が発生するように、同じ方向を向いて機能していなければならないはずです。が、現実にはそうなっていない。
そして、件の教科書はじめ『両輪駆動』的な表現を謳うあまたの書籍の記述、個々の制度をバラバラに説明するだけで終わっている(終わっている)。
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
◯
といった現状であるため、仕方なく自力で、交付特例と保存特例の関係を整理してみます。
以下、帳簿に「当該特例にかかる取引である」旨を記載する点については、記述を省略します。また、あくまでも法令の整理を目的とするため、「Q&A」「お問合せの多いご質問」「週刊税務通信」などで公表されている《ズルズル・ゆるゆる運用》については、正面から扱いません。
まずは原則ルールから。
1 原則
交付:必要 法57条の4 1項
保存:必要 法30条7項
氏名:必要 法30条8項
住所:
売手がインボイスを「交付」し、買手がそれを「保存」する、これによって課税と控除が一致する、不一致(課税>控除)は消費者のところだけで生じる、というのが消費税法が描く理想の世界です。
が、現実には、あの手この手で、事業者間取引においても「課税>控除」(損税)の状態が生じることとなっています。
この点については、今回の記事ではこれ以上触れないので、他の記事をお読みいただければ。
・
帳簿には氏名を記載します。住所は要求されていません。
氏名はインボイスの記載事項となっているんだから、帳簿にはせいぜい「インボイス番号」さえ書いておけばいいと思うのですが(法人税法、所得税法も消費税法にあわせる)。で、住所と同様、保存がいらない場合にだけ帳簿記載を要求すると。
「適格請求書保存方式」に変わったといいながら、従前どおりの「帳簿方式」も存置されたまま。これまで「帳簿方式」が残されていたの、請求書が「なんちゃってインボイス」どまりだったことの穴埋めとして、ではなかったんでしょうか。
◯
ここから「例外ルール」を記述します。その中でも理解しやすいところから整理していきます。
例外ルールでは、インボイスの保存がいらないこととのバーターで住所記載を要求していますので、原則ルールとは違い「保存→住所→氏名」の順に並べます。
2 公共交通機関(3万円未満)
交付:不要 令70条の9 2項1号
保存:不要 令49条1項1号イ
住所:不要 R5告示1→R6告示3
氏名:必要 原則どおり
交付・保存とも不要です。交付されない以上、保存する義務もないということです。
住所は告示により不要となっています。
帳簿には、原則どおり氏名を記載します。まあ、公共交通機関でどこの誰だかわからん、ということはないから大した負担ではないでしょ、ということでしょうか。
3 郵便ポスト
交付:不要 令70条の9 2項3号→規26の6 2号
保存:不要 令49条1項1号ニ→規15条の4 1号
住所:不要 R5告示2→R6告示6
氏名:必要 原則どおり
交付・保存とも不要です。ポストに投函されたときにインボイスを発行できるようにしなくてもよいと。
政令ではなく省令に出されている理由は全くわかりません。
住所は告示により不要となっています。
氏名は一択なので、まあ書けよと。逆に一択なんだから書かなくてもいいじゃねえか、とも言えますが。
4 自販機(3万円未満)
交付:不要 令70条の9 2項3号→規26の6 1号
保存:不要 令49条1項1号ニ→規15条の4 1号
住所:不要 R6告示5(新設)
氏名:必要 原則どおり
交付・保存とも不要です。自販機にインボイス発行機能を仕込まなくてもよいと。
こちらも省令に出されている理由は不明です。
住所はR6告示によって不要とされました。
こうやって公共交通機関、郵便ポストと並べてみると、なんで自販機は住所記載が必要とされていたのか、意味不明です。どこの誰だか分からんから、でしょうか。
氏名は法令上は必要なはずですが、Q&Aで勝手に「差し支えない」とされています。
◯
以下から、すんなり理解がしにくくなっていきます。
5 出張旅費・通勤手当
交付:(従業員)
保存:不要 令49条1項1号ニ→規15条の4ニ・三
住所:不要 R5告示3→R6告示4号
氏名:必要 原則どおり
出張旅費・通勤手当は「買手側」のみのルールとなっています。これも省令に出されています。
政令の書きぶりでは「従業員」が売手という位置づけになっています。なので、そもそもインボイス交付不可だと。
確かに、手当方式で定額で払う場合であれば、保存がいらないことは理解できます。従業員が直接の売手だとはいえ、実際には旅費等を支払っている先があるわけで。その先には適格者も含まれているはずです。
が、実費精算の場合でもこの特例使えることになっています。
実費精算の場合、電車・バスあたりならともかく、ホテル代などは領収書を提出させているはずです。その領収書がインボイスでなくても税額控除していいんだと。
なので、従業員経由で支払っているかと、「旅行にあてるために必要な支出」であるかどうかが、クリティカルな問題となります。
住所は告示により不要で、氏名は原則どおり必要です。
6 入場券等
交付:必要 (適格者・簡易記載・年月日不要)
保存:不要 令49条1項1号ロ
住所:不要 R6告示1(新設)
氏名:必要 原則どおり
入場券等も、あくまでも「買手側」のルールです。
が、保存いらない要件の中に、回収された入場券等に簡易インボイスの記載事項(取引年月日除く)が記載されていることが求められています。「インボイス番号」も要記載となるため、結果として、売手は「適格者」であることが必要ということになります。
紛いなりにも、一旦は適格者が簡易インボイス(年月日除く)を発行していることから、保存いらないことが正当化できるでしょうか。
ただ気になるのが、回収の際に「年月日」を記載しなければ、交付義務違反になってしまうのではないでしょうか。入場券等には交付特例はありませんので。
住所は今回の告示改正で不要とされました。氏名は必要です。
なお、条文の書きぶりは以下のとおりとなっています。ので、最低限、取引年月日以外の簡易インボイスの記載事項が書かれていればよいと読むことができます。
「記名式」だと簡易インボイスじゃないから適用できない、ということではないと思います。
令49条1項1号ロ
「法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているもの」
この逆の問題で。現実にありうるか分かりませんが。
売手が正規インボイスを交付する義務があるのに簡易インボイスしか交付しなかった場合でも、買手は入場券等特例を使えば税額控除できることになりそうです。売手が交付義務違反を問われるかどうかは別問題として。
ただし、これはあくまでも文言解釈によるもの。趣旨解釈で限定されることはありうるでしょう(実務的には、こんな重隅、問題にする人は誰もいないはず)。
7 古物商等
交付:なし (非適格者に限る)
保存:不要 令49条1項1号ハ
氏名:不要 令49条2項、R6告示2 (限定あり)
住所:不要 R5告示4→R6告示2 (限定あり)
(以下、「再生資源」だけ、住所・氏名省略要件が微妙に違いますが記述を省略します)
古物商等特例が適用されるのは「非適格者」からの仕入に限られています。ので、インボイスが交付されることはありえません。だというのに、税額控除が取れるということの特異性については、さんざん論じてきました。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
また、古物商等だけが、住所だけでなく「氏名」も省略できることになっていることも検討ずみです。
「業務帳簿」に記載しないでいい場合だけという限定がついているものの、「非適格者」からの仕入であることを確認した上で税額控除できる、というイカれた特例の時点で十分な恩恵を受けているのであって。
住所・氏名省略に限定がついているとて。他業種に比べて大幅に優遇されていることに変わりはないです。
◯
最後、「交付特例」の並びにあるので含めましたが、かなり異質な制度です。
8 卸売市場・農協等
交付:不要 令70条の9 2項2号
保存:必要 法30条9項4号 (媒介者)
氏名:必要 令49条3項 (媒介者)
住所:
委託者(生産者等)はインボイスを交付しなくてもよいことになっています。
他方で、買手側は、媒介者(卸売市場等)が発行するインボイスを保存する必要があります。また、媒介者が適格者であればよく、委託者が適格者である必要はないことになっています(媒介者特例・公売特例(令70条の12)との違い)。
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
氏名は媒介者のものを記載します。
住所については、他の「保存特例」と異なり令49条1項1号ルートを経由しないので、最初から要求されていません。
◯
以上、ひととおり規律の列挙ができたので、次回、全体の概観をします。
交付特例と保存特例の一体的理解(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編51)
posted by ウロ at 14:38| Comment(0)
| 消費税法
2024年07月01日
少額特例と電気通信利用役務の提供 〜消費税法の理論構造(種蒔き編49)
「8割控除・5割控除」と電気通信利用役務の提供との関係については、すでに取り上げました。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
今回は、「少額特例」と電気通信利用役務の提供との関係につき、条文整理をしておきます。
・
もちろん、運営がすでに「Q&A」を出しているところであり。Q&Aワナビーの方々からしたら、「何をいまさら」って感じかもしれません。
インボイス制度に関するQ&A目次一覧
問103−3(電気通信利用役務の提供と適格請求書の保存)
が、「8割控除」のときもそうですが。運営のQ&Aでは、平気で条文と異なることを書いていることがあり。Q&Aを鵜呑みにすることはできず、条文と照らし合わせながら読む必要があります。
しかもこの設問【令和6年4月追加】となっていて。それまでの間、Q&Aワナビーの人たちはどうやって意味をとっていたのでしょうか。
◯
結論として、上記Q&Aの記述は間違っていませんでした。
以下、条文を引用していきますが、その前提として用語の確認。これがわかっていないと正確に理解できないはずです。
【課税仕入れの類型】
ア 課税仕入れ(イウ以外のもの)
イ 消費者向け電気通信利用役務の提供 を受けること
ウ 事業者向け電気通信利用役務の提供 を受けること(特定課税仕入れ)
例のリーフレットしか見ていないとピンとこないかもしれません。が、用語上、電気通信利用役務の提供(を受けること)は、あくまでも「課税仕入れ」の中に含まれているものです。
国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について
「特定課税仕入れ」についても、課税仕入れの一類型であって。仕入税額控除の場面に限って、30条1項で分岐させてから同条2項で「課税仕入れ等の税額」としてまとめる、ということをやっています。
【お約束ごと】
・以下では「事業者向け」「消費者向け」と略して記述します。
・記述を簡略化するため、「特定役務の提供」は省略します。
・あくまでも類型としての括りだしなので、「事業者が」「事業として」などの要件は当然満たすものとします。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
◯
で、「少額特例」の条文。
法 附則(平成二八年三月三一日法律第一五号)
第五十三条の二(請求書等の保存を要しない課税仕入れに関する経過措置)
事業者(新消費税法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が五年施行日から五年施行日以後六年を経過する日までの間に国内において行う課税仕入れ(その基準期間における課税売上高が一億円以下である課税期間又はその特定期間における課税売上高(消費税法第九条の二第一項に規定する特定期間における課税売上高をいう。)が五千万円以下である課税期間に行うものに限る。)について、当該課税仕入れに係る支払対価の額が少額である場合として政令で定める場合における新消費税法第三十条第七項の規定の適用については、同項中「帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)」とあるのは、「帳簿」とする。この場合において、当該課税仕入れについては、前二条の規定は、適用しない。
令 附則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
第二十四条の二(請求書等の保存を要しない課税仕入れの範囲等)
1 二十八年改正法附則第五十三条の二に規定する政令で定める場合は、五年消費税法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額が一万円未満である場合とする。
法30条7項を読み替えることになっています。
法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
H28法附則53条の2にいう「課税仕入れ」、法30条7項にいう「課税仕入れ等の税額」の中に、「消費者向け」も「事業者向け」も含まれていますので、これらにも「少額特例」が適用できることになります。
ただし、「事業者向け」については、もともと「帳簿」だけでよかったのであり。わざわざ少額特例を適用するまでもないです。
なので、特定課税仕入れを除外して記述してもよかったはずです。が、書き分けをせずに少額特例の対象に含めたままとしています(ここで要件事実論における「a+b」を思い出す)。
・事業者向け ⇒帳簿のみでOK
・事業者向け+少額特例 ⇒帳簿のみでOK
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
・
ちなみに、「請求書等の交付を受けることが困難である場合」と、少額特例との関係について。
「困難である場合」ルートでいく場合には、令49条で要求されている追加の記載事項を帳簿に記載しなければなりません。
令 第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
他方で、H28法附則53条の2では、追加の記載事項が要求されていません。それゆえ、「困難である場合」に該当する場合であっても、この特例は使わずに「少額特例」を使えば、余計な記載をしないですみます。
・課税仕入れ+交付困難 ⇒帳簿+追加事項必要
・課税仕入れ+少額特例 ⇒帳簿のみでOK
少額特例を使う場合には、読み替えが起こって「困難な場合」が条文から消え去ります。なので、困難特例を使いつつ少額特例も同時に使う、ということは概念上ありえないことになります。
・
ちなみに、Q&Aには、帳簿の記載事項について、しれっと結論だけが書いてあります。
問111 (一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)
4 当該経過措置の適用に当たっては、帳簿に「経過措置(少額特例)の適用がある旨」を記載する必要はありません。
なぜこうなるかは、令49条とH28法附則53条の2の書きぶりを対比して、はじめて理解できることです。
まあ、正面から条文に明記されていないことを書いてくれているだけでも、親切だと評価すべきでしょうか。
◯
以上、「消費者向け」「事業者向け」とも「少額特例」が適用できます、めでたしめでたし。で検討を終えてはいけないのが、税法の怖いところ。
というのも、「8割控除・5割控除」については、穴塞ぎ系の条文がありました。これが「少額特例」にも及ばないのかどうか、を検討しなければなりません。
令 附則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
第二十四条(国外事業者から受ける電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
事業者が、五年施行日から令和十一年九月三十日までの間に国内において行った課税仕入れのうち、二十八年改正法第十八条の規定による改正前の二十七年改正法附則第三十八条第一項本文の規定がなお効力を有するものとしたならば同項本文の規定の適用を受けるものについては、二十八年改正法附則第五十二条及び第五十三条の規定は、適用しない。
ここで適用が排除されているのは、H28法附則52条(8割控除)と53条(5割控除)だけです。他方で、少額特例については、H28法附則53条の2後段において、8割控除・5割控除とは排他関係にあるとされています。
そうすると、「消費者向け」で排除されるのは8割控除・5割控除だけで。少額特例は適用できる、ということになります。
◯
以上をまとめると、次のとおり。
原則 8割控除・5割控除 少額特例
事業者向け 帳簿のみ ‐(H28法附則52) ◯(無意味)
消費者向け 請求書+帳簿 ×(H30令附則24) ◯
Q&A問103-3では、「消費者向け」なら少額特例が適用できるとだけ書いてあって。事業者向けについては何にも書かれていません。これは、事業者向けに少額特例を適用しても無意味だからあえて書かない、ということなのでしょうか。
が、「条文を正確に読み下す」という趣旨からは、事業者向けも少額特例の適用範囲に含まれている、ということを確認しておくことに意味があります。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
今回は、「少額特例」と電気通信利用役務の提供との関係につき、条文整理をしておきます。
・
もちろん、運営がすでに「Q&A」を出しているところであり。Q&Aワナビーの方々からしたら、「何をいまさら」って感じかもしれません。
インボイス制度に関するQ&A目次一覧
問103−3(電気通信利用役務の提供と適格請求書の保存)
が、「8割控除」のときもそうですが。運営のQ&Aでは、平気で条文と異なることを書いていることがあり。Q&Aを鵜呑みにすることはできず、条文と照らし合わせながら読む必要があります。
しかもこの設問【令和6年4月追加】となっていて。それまでの間、Q&Aワナビーの人たちはどうやって意味をとっていたのでしょうか。
◯
結論として、上記Q&Aの記述は間違っていませんでした。
以下、条文を引用していきますが、その前提として用語の確認。これがわかっていないと正確に理解できないはずです。
【課税仕入れの類型】
ア 課税仕入れ(イウ以外のもの)
イ 消費者向け電気通信利用役務の提供 を受けること
ウ 事業者向け電気通信利用役務の提供 を受けること(特定課税仕入れ)
例のリーフレットしか見ていないとピンとこないかもしれません。が、用語上、電気通信利用役務の提供(を受けること)は、あくまでも「課税仕入れ」の中に含まれているものです。
国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について
「特定課税仕入れ」についても、課税仕入れの一類型であって。仕入税額控除の場面に限って、30条1項で分岐させてから同条2項で「課税仕入れ等の税額」としてまとめる、ということをやっています。
【お約束ごと】
・以下では「事業者向け」「消費者向け」と略して記述します。
・記述を簡略化するため、「特定役務の提供」は省略します。
・あくまでも類型としての括りだしなので、「事業者が」「事業として」などの要件は当然満たすものとします。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
◯
で、「少額特例」の条文。
法 附則(平成二八年三月三一日法律第一五号)
第五十三条の二(請求書等の保存を要しない課税仕入れに関する経過措置)
事業者(新消費税法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が五年施行日から五年施行日以後六年を経過する日までの間に国内において行う課税仕入れ(その基準期間における課税売上高が一億円以下である課税期間又はその特定期間における課税売上高(消費税法第九条の二第一項に規定する特定期間における課税売上高をいう。)が五千万円以下である課税期間に行うものに限る。)について、当該課税仕入れに係る支払対価の額が少額である場合として政令で定める場合における新消費税法第三十条第七項の規定の適用については、同項中「帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)」とあるのは、「帳簿」とする。この場合において、当該課税仕入れについては、前二条の規定は、適用しない。
令 附則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
第二十四条の二(請求書等の保存を要しない課税仕入れの範囲等)
1 二十八年改正法附則第五十三条の二に規定する政令で定める場合は、五年消費税法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額が一万円未満である場合とする。
法30条7項を読み替えることになっています。
法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。
H28法附則53条の2にいう「課税仕入れ」、法30条7項にいう「課税仕入れ等の税額」の中に、「消費者向け」も「事業者向け」も含まれていますので、これらにも「少額特例」が適用できることになります。
ただし、「事業者向け」については、もともと「帳簿」だけでよかったのであり。わざわざ少額特例を適用するまでもないです。
なので、特定課税仕入れを除外して記述してもよかったはずです。が、書き分けをせずに少額特例の対象に含めたままとしています(ここで要件事実論における「a+b」を思い出す)。
・事業者向け ⇒帳簿のみでOK
・事業者向け+少額特例 ⇒帳簿のみでOK
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
・
ちなみに、「請求書等の交付を受けることが困難である場合」と、少額特例との関係について。
「困難である場合」ルートでいく場合には、令49条で要求されている追加の記載事項を帳簿に記載しなければなりません。
令 第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
他方で、H28法附則53条の2では、追加の記載事項が要求されていません。それゆえ、「困難である場合」に該当する場合であっても、この特例は使わずに「少額特例」を使えば、余計な記載をしないですみます。
・課税仕入れ+交付困難 ⇒帳簿+追加事項必要
・課税仕入れ+少額特例 ⇒帳簿のみでOK
少額特例を使う場合には、読み替えが起こって「困難な場合」が条文から消え去ります。なので、困難特例を使いつつ少額特例も同時に使う、ということは概念上ありえないことになります。
・
ちなみに、Q&Aには、帳簿の記載事項について、しれっと結論だけが書いてあります。
問111 (一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)
4 当該経過措置の適用に当たっては、帳簿に「経過措置(少額特例)の適用がある旨」を記載する必要はありません。
なぜこうなるかは、令49条とH28法附則53条の2の書きぶりを対比して、はじめて理解できることです。
まあ、正面から条文に明記されていないことを書いてくれているだけでも、親切だと評価すべきでしょうか。
◯
以上、「消費者向け」「事業者向け」とも「少額特例」が適用できます、めでたしめでたし。で検討を終えてはいけないのが、税法の怖いところ。
というのも、「8割控除・5割控除」については、穴塞ぎ系の条文がありました。これが「少額特例」にも及ばないのかどうか、を検討しなければなりません。
令 附則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
第二十四条(国外事業者から受ける電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
事業者が、五年施行日から令和十一年九月三十日までの間に国内において行った課税仕入れのうち、二十八年改正法第十八条の規定による改正前の二十七年改正法附則第三十八条第一項本文の規定がなお効力を有するものとしたならば同項本文の規定の適用を受けるものについては、二十八年改正法附則第五十二条及び第五十三条の規定は、適用しない。
ここで適用が排除されているのは、H28法附則52条(8割控除)と53条(5割控除)だけです。他方で、少額特例については、H28法附則53条の2後段において、8割控除・5割控除とは排他関係にあるとされています。
そうすると、「消費者向け」で排除されるのは8割控除・5割控除だけで。少額特例は適用できる、ということになります。
◯
以上をまとめると、次のとおり。
原則 8割控除・5割控除 少額特例
事業者向け 帳簿のみ ‐(H28法附則52) ◯(無意味)
消費者向け 請求書+帳簿 ×(H30令附則24) ◯
Q&A問103-3では、「消費者向け」なら少額特例が適用できるとだけ書いてあって。事業者向けについては何にも書かれていません。これは、事業者向けに少額特例を適用しても無意味だからあえて書かない、ということなのでしょうか。
が、「条文を正確に読み下す」という趣旨からは、事業者向けも少額特例の適用範囲に含まれている、ということを確認しておくことに意味があります。
posted by ウロ at 09:26| Comment(0)
| 消費税法
2024年06月27日
「反制定法的解釈について」 〜問d(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)
タイトルはもちろん、広中俊雄先生にあやかって、です。
広中俊雄「民法解釈方法に関する十二講」(有斐閣1997) Amazon
本ブログは、あくまでも「法令の」条文イジりを旨としております。ので、通達やらQ&Aがどう変わろうが、基本的には無関係です。
が、ド派手な条文ガン無視「反制定法解釈」をカマされると、とてもそのままの内容では維持しがたい、ということが生じます。
それが、今回のQ&Aの「古物商等特例」に対する「差し支えありません」ラッシュ。条文ガン無視の運用が乱舞しています。
令和6年4月以降版 お問合せの多いご質問(令和6年6月26日)
P.6(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)問d
下記記事における「古物商等特例」の姿と比べて、本当に同じ制度の説明だろうかと、書いた自分でも疑念を抱いてしまうほど。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
あまりにもあまりにも、なので、Q&Aの中身について説明する気もありません。し、Q&Aに合わせて、当ブログの記事を個別に修正するつもりはありません。法令上、間違ったことを書いているわけではないですし。
が、さすがに運用と差が出すぎ、なので、法令と違って「運用ゆるいよ!」という《注意書き》のかぎりで、本記事を作成しておきました。
◯
しかしまあ、「8割控除」のときもそうでしたが、Q&Aが、条文とは別世界に行ってしまっている。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 確定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
「適格請求書発行事業者を除く」とある以上、適格請求書発行事業者である限り、消費者としての取引であっても除外しなければならないのが、文言解釈からの帰結であり。また、そのことは「事業として」と「事業者」を用語として区分している、消費税法の基本構造にも関わるものでもあるはずです。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
だというのに、そんなことお構いなし。いくら納税者有利だからといって、条文ガン無視な運用を、安易に認めてしまってよいものかどうか。
ここまでド派手な「反制定法的解釈」、さすがに公式で謳うことはできない、ので、(民間の)業界誌経由でリークする、という遣り口で公表していくものだと思っていました。表向きとはいえ、最低限の遵法意識はあるぞ、という姿勢を崩すことはないだろうと。
が、そんなものは単なる買いかぶり、にすぎませんでした。
◯
なお、Q&Aの「差し支えありません」が、「フリマアプリ等」の行きずり感のある取引の場でのみ通用するものなのか、それともがっつり店舗を構えているような大手買取業者も含めた全ての古物商等に通用するものなのか。
大手なんて、すでに法令通りにシステム構築していたはずで。今さら緩められても遅せーよ、という感じかもしれませんが。
私はもう知らんので、ご不安な方は各自、管轄税務署までお問い合わせされたらよろしい。
広中俊雄「民法解釈方法に関する十二講」(有斐閣1997) Amazon
本ブログは、あくまでも「法令の」条文イジりを旨としております。ので、通達やらQ&Aがどう変わろうが、基本的には無関係です。
が、ド派手な条文ガン無視「反制定法解釈」をカマされると、とてもそのままの内容では維持しがたい、ということが生じます。
それが、今回のQ&Aの「古物商等特例」に対する「差し支えありません」ラッシュ。条文ガン無視の運用が乱舞しています。
令和6年4月以降版 お問合せの多いご質問(令和6年6月26日)
P.6(フリマアプリ等により商品を仕入れた場合の仕入税額控除)問d
下記記事における「古物商等特例」の姿と比べて、本当に同じ制度の説明だろうかと、書いた自分でも疑念を抱いてしまうほど。
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)
あまりにもあまりにも、なので、Q&Aの中身について説明する気もありません。し、Q&Aに合わせて、当ブログの記事を個別に修正するつもりはありません。法令上、間違ったことを書いているわけではないですし。
が、さすがに運用と差が出すぎ、なので、法令と違って「運用ゆるいよ!」という《注意書き》のかぎりで、本記事を作成しておきました。
◯
しかしまあ、「8割控除」のときもそうでしたが、Q&Aが、条文とは別世界に行ってしまっている。
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「適格請求書発行事業者を除く」とある以上、適格請求書発行事業者である限り、消費者としての取引であっても除外しなければならないのが、文言解釈からの帰結であり。また、そのことは「事業として」と「事業者」を用語として区分している、消費税法の基本構造にも関わるものでもあるはずです。
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
だというのに、そんなことお構いなし。いくら納税者有利だからといって、条文ガン無視な運用を、安易に認めてしまってよいものかどうか。
ここまでド派手な「反制定法的解釈」、さすがに公式で謳うことはできない、ので、(民間の)業界誌経由でリークする、という遣り口で公表していくものだと思っていました。表向きとはいえ、最低限の遵法意識はあるぞ、という姿勢を崩すことはないだろうと。
が、そんなものは単なる買いかぶり、にすぎませんでした。
◯
なお、Q&Aの「差し支えありません」が、「フリマアプリ等」の行きずり感のある取引の場でのみ通用するものなのか、それともがっつり店舗を構えているような大手買取業者も含めた全ての古物商等に通用するものなのか。
大手なんて、すでに法令通りにシステム構築していたはずで。今さら緩められても遅せーよ、という感じかもしれませんが。
私はもう知らんので、ご不安な方は各自、管轄税務署までお問い合わせされたらよろしい。
posted by ウロ at 16:50| Comment(0)
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