2024年05月06日

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)

 前回整理した課税/控除が、どのように機能して『消費に課税する』を実現しようとしているかを確認しておきます。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)

 記述の順番ですが、前回は条文の並びどおり
  1 国内取引
  2 特定仕入
  3 輸入
としました。

 が、これは自分の頭を使わず条項順に並べてみただけのものです(条項順列思考)。

【条項順列思考】
多田望ほか「国際私法 (有斐閣ストゥディア)」 (有斐閣2021)
法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論


 今回は、乏しい自分の頭を使って検討してみた結果、
  3 輸入
  2 特定仕入
  1 国内取引
の順番で記述したいと思います。


 お約束ごとは、概ね前回と同じですが、今回の趣旨にあわせて若干変更します。

・事業者=適格請求書発行事業者とします。
・課税の対象(4条)と納税義務者(5条)は、区別せずに一体として記述します。
・今回の「事業者」は、「家事用」と書かないかぎり「事業として」を満たす者として記述します。
・特定仕入は「事業者向け電気通信利用役務の提供」を想定します。
・「保税地域からの外国貨物の引き取り」=輸入として記述します。


 まずは「輸入」から。

輸入取引.png

 なぜこれを最初にもってきたかというと。
 「国内消費」に課税したい、という消費税法の基本姿勢がよく現れているからです。

・国内に入ってきたら、問答無用で課税する。
・輸入者が消費者なら、そこで課税は終了する。
・輸入者が事業者なら、そこからさらに課税/控除が続く。

 消費税法は、本来「国内消費」に課税したいと企んでいるものの。
 消費そのものに課税するのは無理がある、ということで、その手前のどこかしらで課税しています。

 「国内取引」の場合は、それが二段階遡って、事業者の譲渡に課税することになっています。

  国内取引: 事業者A:譲渡   ⇒◯課税
       →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
        消費者C:消費行為
 
 これに対して、輸入の場合、輸入行為に課税することとしています。それゆえ、輸入者が消費者ならば、消費者に直接課税することができることになっています。ダイレクトに輸入者=消費者に課税できており。「税転嫁により消費者への税負担が予定されている」などという、淡い期待にとどまるものではありません。

  輸入: 消費者C:輸入   ⇒◯課税+税負担(確定)
     →消費者C:消費行為

 なお、消費者が納税義務者になるという意味では「直接税(主体)」ですが、課税対象が消費ではなく輸入という側面からすれば「間接税(客体)」ともいえます。

 他方で、「事業者」が輸入した場合は、事業者は輸入課税と輸入控除の適用により、消費者に税転嫁する道筋が拓かれることになります。
 「道筋が拓かれる」などともってまわった言い方をしているの。あくまでも、税転嫁の邪魔になるものを露払いしただけであって。積極的に税転嫁を促進するような仕組みは何もないからです。

  輸入: 事業者A:輸入   ⇒◯課税/◯控除
     →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
     →消費者C:消費行為

 問題は、事業者が「家事用」で輸入した場合。課税されるのは当然として、控除まで取れてしまうという点です(文言解釈のかぎりでは)。

  輸入  事業者B(家事):輸入   ⇒◯課税/◯控除
     →事業者B(家事):消費支出 ⇒税負担(控除と相殺)
     →事業者B(家事):消費行為

 この場合、Bは消費税負担なしに、輸入した物を消費できることになります(さすがに限定解釈が入るでしょうか)。


 上記例では、輸入課税と輸入控除で終わるパターンしか記述していませんが。
 国内流通する場合は「輸入」ルールから「国内取引」ルールに連結されることで、課税/控除が続いていくことになります。

 このように、「事業者(家事用)」の場合に変な穴があるものの。
 輸入ルールでは、国内に入ってきた段階ですべて課税しておき、消費者に行き着くまで課税/控除を続ける、という遣り口で、『消費に課税する』を実現しようとしています。


 次に「特定仕入」について。

特定仕入.png

 これを「輸入」の次にした理由。
 輸入ルールが《モノ》にしか通用されないせいで、同ルールが実現しようとした「国内に入ってきたら課税スタート」という機能が発揮されない穴を防ごうとした、という位置づけだからです。

 ただ、輸入と異なり、「消費者」が仕入れた場合は課税されないため、「問答無用の仕入課税」とはなっておりません(定義上、消費者は「特定仕入」できませんが、便宜的にそのように記述します)。
 
 特定仕入: 消費者C:特定仕入  ⇒×課税
      →消費者C:消費行為

 特定仕入は「事業者向け」のサービスではあるものの。あくまでもサービスの内容で判断されるので、消費者が購入することは絶無ではないでしょう。
 輸入と違って消費者が課税されないことを理屈づけるとしたら。そのようなサービスは事業者が付加価値をのっけてはじめて「消費」できるものであって、消費者がダイレクトに「消費」できるものではないから。というような説明になるのでしょうか(こじつけ)。

 本来であれば、買手の属性(事業者/消費者)で切り分けすべきところ。あえてサービスの属性(事業者向け/消費者向け)で切り分けているせいで、いまいちしっくりこないのは分かります。
 が、だからといって、『インボイスがあれば「事業者向け/消費者向け」を区別できる!』なんて物言いをするの。控えめに言って、「日本の」消費税法知らなすぎですよね(EU消費税法学・日本支部?)。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 事業者が特定仕入をした場合、原則ルールでは課税と控除の両方があることになっているものの。課税も控除もなかったことにする例外ルールもあります。
 また、控除する場合でもインボイスは不要です。

  特定仕入: 事業者A:特定仕入  ⇒◯課税/◯控除 or ×課税/×控除

 消費税法の仕組み上、事業者間取引では消費税負担が発生しない建前となっており。これを実現するには、「課税あり/控除あり」か「課税なし/控除なし」のどちらであっても問題ありません。
 ただし、「控除対象外消費税」が生じる場合は別、ということはすでに検討ずみです。

偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)


 最後に「国内取引」について。

国内取引.png

 外から入ってきたモノ・サービスについては、「輸入」「特定仕入」ルールから引き続いて課税/控除がされていきます。
 また、国内で生産されたモノ・サービスについては、「国内取引」ルール始まりで課税/控除がスタートします。

 最初に書いたとおり、消費税法は、消費者の消費行為でもなく、消費者の消費のための支出でもなく、事業者の譲渡行為に課税することとしています。

  国内取引: 事業者A:譲渡   ⇒◯課税
       →消費者C:消費支出 ⇒税負担(予定)
        消費者C:消費行為

 「税負担」「予定」などという概念を使って、消費税を「間接税」と形容することには、私は違和感しかないのですが。

予定は予定 〜消費税法の理論構造(種蒔き編20)

 ・本来は「消費」に直接課税すべき
 ・しかしそれは非現実的
 ・なので、その前の段階の「譲渡」に課税する
 ・それにともなって「譲渡者」に課税する
というかぎりで「間接税」だというのであれば、よく理解できます。

 そこに、「税負担」とか「予定」といった概念を挟まれると、そんなもん制度上何ら保障されていないじゃねえか、と思ってしまうわけです。
 『消費にもれなく課税するために、譲渡段階で課税しておくから、あとはお前らの企業努力で頑張って下流に税負担を転嫁してくださいや』という、残酷な話ですよね。


 今回は「インボイス」の話をするつもりはなかったのですが。流れで少しだけ。

 かつては、事業者が「消費者」から仕入れた場合も控除がとれてしまうことが問題となっていました。

  国内取引: 消費者C:譲渡   ⇒×課税
       →事業者A:課税仕入 ⇒◯控除

 この穴を塞ぐため、適格請求書保存要件が追加されたわけです。

 ただ、問題は、実体要件としての「課税仕入」の定義を見直すのではなく。形式要件としての適格請求書を要求したせいで。売手が「課税事業者」であっても、非適格者あるいは適格者であってもインボイス不発行だと控除が取れないこととなってしまいました(損税)。

  国内取引: 事業者B:譲渡   ⇒◯課税
       →事業者C:課税仕入 ⇒×控除 (インボイス無)

 なぜ、「誰から買っても課税仕入」というガバガバな定義を見直さず。インボイスを要求するという過剰な形式要件を要求することとしたのでしょうか。
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 消費税法

2024年04月29日

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)

 消費税法に関するそこいらの解説書では、「事業」「事業者」概念につき、通達を貼り付ける程度で終わってしまい。実際にどのように機能して、最終的に消費者課税を実現しているかが説明されることは、およそない。

消費税法基本通達 5−1−1(事業としての意義)
 法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいう。
1 個人事業者が生活の用に供している資産を譲渡する場合の当該譲渡は、「事業として」には該当しない。
2 法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は、その全てが、「事業として」に該当する。


 そしてまた、課税の対象、納税義務者、仕入税額控除がそれぞれの箇所で別々に説明されるだけで。それらが一体としてどのように機能しているかが説明されることもないです。

 ということで、以下、自力で整理を試みます。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)


 場合分けが拡散するのを防ぐため、次の通り、場面設定を限定します。

・事業者=適格請求書発行事業者とします。
・課税の対象(4条)と納税義務者(5条)は、区別せずに一体として記述します。
・「事業者」「事業として」が結論にどのような影響を及ぼすかを中心にみていきます。「国内において」「対価を得て行われる資産の譲渡」などといった他の要件は、当然に満たすものとします。
・特定仕入は「事業者向け電気通信利用役務の提供」を想定します。
・「保税地域からの外国貨物の引き取り」=輸入として記述します。


 まず「国内取引」について。

国内取引.png

1 課税

・売手:事業者(家事用)でも「事業者が」には該当します。ですが「事業として」ではないので「資産の譲渡等」に該当せず、課税されません。
・適格請求書を発行しようがしまいが、売手:事業者が資産の譲渡等をした以上は課税されます(問答無用の譲渡課税)。

2 控除

・買手:事業者(家事用)でも「事業者が」に該当します。ですが「事業として」ではないので「課税仕入れ」に該当せず、控除できません。
・買手:事業者(事業用)であれば、誰から購入しても「課税仕入」に該当します。が、インボイスがなければ控除できません。
 売上側はインボイスの有無にかかわらず課税されるのに、仕入側はインボイスがなければ控除できない、ということで「損税」の発生源となっています。


 次に「特定仕入れ」について。

特定仕入.png

1 課税

・売手には、インボイスを発行する権利も義務もありません。
・課税対象となるのは「仕入」であり、納税義務者となるのは「買手」です。
・「事業者向け」はサービスの内容で判定するので、買手が「消費者」の場合もありえます。
・売手/買手ともに「事業者」「事業として」でなければ「特定課税仕入」に該当しません。

2 控除

・買手:事業者(家事用)でも「事業者が」に該当します。ですが「事業として」ではないので「特定課税仕入」に該当せず、控除できません。
・国内取引と異なり、インボイス保存が要求されないの。そもそもインボイスが発行されないという形式論とあわせて、買手が、同一取引につき課税されるが控除されない(損税)などというのが、どう考えても不合理だからでしょう。


 次に「輸入」について。

輸入取引.png

1 課税

・保税地域からの引き取りである以上、「輸入許可書」は当然に発行されているもののはずです。
・主体の属性・目的にかかわらず、輸入したら当然に課税されます(問答無用の輸入課税)。
・「取引」であることは要求されていません。ので、主体は「売手」ではなく「輸入者」です。

2 控除

・「外国貨物の引き取り」の定義の中に「事業として」が含まれていません。そのため、事業者(家事用)が輸入した場合は税額控除が取れてしまう、というのが《文言解釈》の帰結です(最終的な結論は保留)。
・「取引」であることは要求されていません。ので、主体は「買手」ではなく「輸入者」となります。
・輸入者が納税して輸入者が控除する、ということで、元祖リバースチャージみたいなものです。


 これらの「課税/控除」の組み合わせにより、

 売手  買手
・事業者‐事業者
・消費者‐消費者
・消費者‐事業者
は《課税=控除》とし、

 売手  買手
・事業者‐消費者
のときだけ《課税あり/控除なし》となっていてくれれば、「消費に課税する」ための道筋が実現できるわけです。

 が、上述したところだけでも、インボイスが保存されなかった場合の「損税」、事業者が家事用に輸入した場合の「益税」が発生しています。
 さらに、各種サブシステムまで含めると、あちらこちらで益税・損税が発生しており。『インボイス導入したので益税撲滅できました、めでたしめでたし。』で終われません。


 そこいらの解説書の代表として、「税大講本」をあげておきます。

消費税法(令和6年度版)

P13 
3 事業者が事業として行う取引
 消費税は、国内において事業者が事業として行う取引を課税の対象としているから、事業者以外の者が行う取引は課税の対象にならない。
「事業者」とは、事業を行う個人(「個人事業者」という。)及び法人をいい、その個人事業者又は法人が居住者であるか非居住者であるかを問わない(消法2@三、四)。 なお、国・地方公共団体及び人格のない社団等も「事業者」に含まれる(消法3、60 @)。
「事業として」とは、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われることをいい、事業に使用していた資産の売却など事業活動に付随して行われる取引もこれに含まれる(消法2@八、消令2B)。
(注)法人が行う取引は、その全てが「事業として」に該当するが、個人事業者は、事業者の立場と消費者の立場を兼ね備えており、そのうち「事業者として」の取引のみが課税の対象となる。
したがって、家庭で使用している冷蔵庫、テレビ等の生活用資産の売却などは、「事業として」行う取引に該当しない(不課税取引)。


 『「事業として」とは』という書き出しのところですが。
 「事業として」の定義を記述するのであれば、「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が〜」はいらないですよね。「事業として」の定義の中にこれを含めてしまうと、たとえば「資産の譲渡等」は次のように理解しなければならなくなります。

消費税法 2条1項
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(略)をいう。

 対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供が反復、継続、独立して行われる対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(略)をいう。


 とんでもなくキモい中身になってしまいます。

 まあ、特に何も考えず、通達コピペしただけなのかもしれません。
 が、上記のとおり、事業者が家事用で輸入した場合も輸入控除が取れてしまう、という過誤が生じているの、「事業者」という用語の中に「事業として」という要素が含まれていると勘違いしたがゆえ、ぽいですよね。
 こういう勘違いをなくすためには、各用語のどこにどの要素が含まれているか、ということは正確に理解しておくべきです。

 このような観点からすれば、「事業として」に含まれる要素は、
  反復、継続、独立して
の部分だけになります。


 なお、(注)にある『そのうち「事業者として」の取引のみが課税の対象となる。』というところも不正確。正確には「事業者として」ではなく、「事業として」でしょう。
 消費税法上、個人事業者であるかぎり、常に「事業者として」しか取引を行うことはできませんので。


 他の解説モノも似たりよったりで。
「条文読め」とか言っている下記書籍でも、同様の通達コピペから始まっていますし(P.28)。

熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)

 というか、「事業者」と「事業として」の使い分けなんか、まるで意識せずになんとなくシームレスで記述されて終わってしまうものばかり。ですし、これら概念が課税と控除のそれぞれの場面でどのように機能しているかを記述してくれることなんて、ありません。

 頭の良い学者先生を初めとして、「課税要件事実論」なんてものに手を出す前に、実体法レベルの、地に足のついた議論を展開してくれることを望みます。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)


 「事業」の中身が課税対象の箇所でしか解説されないせいで。初学者の人からすると「事業を広く解釈すると税負担が重くなってしまう!」などと勘違いしてしまいがちです。

 が、消費税法の基本コンセプトは、「事業の世界からはみ出したところで税負担を発生させる」というものになっています。そのコンセプトに従い、課税と控除両方に事業概念を仕込んでいるので、課税側の事業が広がれば、控除側の事業も同じだけ広がります。

 ので、事業概念を広く解しても、そのまま税負担が重くなる、などということにはなりません。むしろ、事業の世界が広がればその分消費の世界が狭まるので、事業概念が広いほうが望ましいかもしれない。
 もちろん、事業概念以外の要件のせいで控除ができなくなることはあります。が、それは当該要件の問題であって。事業概念が広いことが直接の原因ではない。

 法律上の各要件がどのように機能しているかをちゃんと記述しないから、学習者は、どこまでいっても表面的・断片的な理解しかできないままにおわってしまうのでしょう。

 といった感じのことを、最近出版された田村善之先生の教科書の、各要件の「機能」面を重視した丁寧な解説を読みながら、ふと思いました。

田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024) Amazon

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
posted by ウロ at 09:54| Comment(0) | 消費税法

2024年04月22日

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編46)

 前回、「法律文章の書き方本」のご紹介だというのに、流れで、消費税法における「事業者」概念について触れることになりました。

白石忠志「法律文章読本」(弘文堂2024)

 今回は、この「事業者」概念まわりを主題として、交通整理をします。


 本ブログの『消費税法の理論構造』というサブタイトルをつけた、一連の記事。免税事業者、非課税売上、用途区分、インボイス及びその特例などのせいで、「消費者が消費税を負担する」という理想が歪められている、という消費税法の構造上の問題を検討するものとなっています。

 それらの記事では、そういったサブシステムのせいで「益税」やら「損税」があちらこちらに発生している、ということの指摘までで。メインシステムについては、きちんと触れずにいました。

 ということで、今回は、メインシステムの構造について、軽く整理するものとなります。


 消費税法が採用している《課税/控除》のメインシステムの構造は、次のとおりとなっています。

【課税】
 1 事業者+国内+課税資産の譲渡
 2 事業者+国内+特定課税仕入
 3 保税地域+課税貨物の引き取り

【控除】
 4 事業者+国内+課税仕入 (+インボイス+帳簿)
 5 事業者+国内+特定課税仕入 (+帳簿)
 6 事業者+保税地域+課税貨物の引き取り (+輸入インボイス+帳簿)
  (※「輸入インボイス」というのは造語です)


 このような座組みを採用することで、消費税法が理想の姿として描いているの、

   売手  買手  課税 控除
  ・事業者 事業者 あり あり
  ・消費者 消費者 なし なし
  ・消費者 事業者 なし なし
  ・事業者 消費者 あり なし

という帰結になることです。

 課税/控除のあり・なしがこのとおりに正しく作動することで、最終的に消費者が消費税を負担することが「予定」されています。消費者が事業者から購入するときだけ課税と控除がずれることとし、それ以外の場面では《課税=控除》とすることで、その目的を達せられるはずでした。

 ところが、免税事業者、非課税売上、用途区分、インボイス及びその特例などにより、その理想がことごとく歪められています。
 その点については、他の記事を読んでいただくとして。では、このメインシステム自体には問題がないのかというと。

 一点だけ気になる箇所があります。


 以下の事例で検討してみます。

【事例1】
 個人事業主Aは、個人Bに対し、自宅お片付けコンサルサービスを提供し、コンサル料110万円を受け取った(国内売上)。
 ご機嫌となったAは、高級家具店で自宅用のおしゃれ家具99万円を購入し、自宅に搬入した(国内仕入)。

 Aはいくら消費税を納税すべきでしょうか。

 まず、サービス提供により対価を受けたことは、上記課税1に該当し、Aは10万円を納税しなければなりません。
 他方で、おしゃれ家具の購入は自宅用のため、控除4に該当せず、9万円を控除することは出来ません。
 よって、AはBからお預かりした10万円をそのまま消費税として納税しなければなりません。

 では、次の事例はどうでしょうか。

【事例2】
 個人事業主Cは、個人Dに対し、自宅お片付けコンサルサービスを提供し、コンサル料110万円を受け取った(国内売上)。
 ご機嫌となったCは、海外の高級家具店から自宅用におしゃれ家具90万円を購入し、自宅に搬入した(輸入仕入)。

 サービス提供が課税1に該当して10万円課税されることは、【事例1】と同じです。
 また、おしゃれ家具を輸入したことは課税3に該当し、Aは輸入消費税9万円を納付します(関税等は無視)。
 では、控除6により、輸入消費税につき税額控除を受けることは可能でしょうか。

 「自宅用」なんだからできるわけないわボケ!と思われるかもしれません。が、《文言解釈》によるかぎり、これは可能と読むことができます。

 というのも、課税3と控除6には「事業として」という要件がどこにもでてきません。
 課税1・2、控除4・5にも書いてないと思われるかもしれません。が、こちらはそれぞれ「課税資産の譲渡」「特定課税仕入」「課税仕入」の定義の中に、「事業として」がビルトインされています。

 それぞれの定義規定から「事業として」を抽出すると。

   売手          買手
 1 事業者・事業として  4 事業者・事業として
 2 事業者・事業として  5 事業者・事業として
 3            6 事業者

 課税3・控除6からは「事業として」が出てこないことになります。


 その結果、課税3、控除6は次のとおり解釈されます。

 まず課税3については、誰がどういうつもりであろうが、国内に持ち込んだら課税する。それゆえ、消費者が輸入する場合も、事業者がプライベートで輸入する場合も、等しく輸入消費税を納付しなければならないことになります。しかも、取引の存在すら前提とされていません。

 こちらは、「国内消費」に課税しようとする消費税法の建前(仕向地主義)からすれば当然の帰結で。国内に入り込んだら課税転嫁がスタートする、いきなり消費されたらそこで転嫁が終了する、というだけの話です(問答無用の輸入課税)。

 問題は控除6です。
 「事業者が」で主体を限定するところまではよいのですが。「事業として」という要件が「課税貨物」「引き取る」の中に含まれていません。それゆえ、何かしら事業をやっていさえすれば、事業用だろうがプライベート用だろうが、輸入消費税を納付した以上は、それを控除できてしまうことになります。

 これが、「事業者」の定義の中に「事業として」が含まれていると勘違いしたがゆえの立法の過誤なのか。よく分かりませんが、今のところ放置されたままとなっています。
 【事例2】でも、Cは個人事業を営んでいる以上「事業者」に該当する、そしてプライベート目的での輸入でも「課税貨物の引き取り」に該当する、ゆえに税額控除可能、ということになります。

 本当にこんなことでいいのか疑問ではあります。が、条文上はそうなっているということです。
 だからといって、これを悪用しようとしても、例によって裁判所が《過小課税尻拭い判決》を出すこともありうるわけで。「自家消費」(課税側のルール)あたりの制度趣旨を《アクロバティック拡張解釈》して、税額控除を制限するかもしれない。

 ということで、私自身が何かを推奨するつもりは全くありません。


 消費税法においては、「消費者に税負担をさせる」という目的を達するために、「事業」「事業者」という概念を利用して、事業の世界と消費の世界の切り分けをしています。厳密には、「消費」を正面から切り出すことなく、「事業」とそれ以外という区分となっていますが。
 事業の世界からはみ出した時点で転嫁を終了させ、そこで税負担が生じるように仕組んでいるわけです。

 それゆえ、所得税法をはじめ、他の法律が同じ「事業」「事業者」という用語を使っているからといって、同一に解釈する必然性はなく。消費税法の目的にそった解釈をすべきでしょう。
 他法の概念理解を混入させてしまうと、「消費者に消費税を負担させる」という目的が阻害されかねないわけで。
 当ブログが「借用概念論」を胡散臭い扱いしているのは、主としてそういう視角からです。


 今回指摘したことは、「事業」「事業者」の中身の問題ではなく。
 消費税法が「事業者」につき絶対的主体概念を採用しているにもかかわらず。あたかもそれを忘れたかのような要件設定をしたせいで、輸入消費税の税額控除の可否をうまく制御できていないのではないか、ということでした。

 ・「問答無用の輸入課税」を実現するために、課税ルール(3)ではゆるゆるな用語設定をした。
 ・控除ルール(6)にもその用語をそのまま流用した。
 ・「事業者が」と主体を限定しておけば「自宅用」を除外できると勘違いした。
という図式になるでしょうか。

 個人の場合は、同一主体が消費者でもあり事業者でもあり、ということがあり。その切り分けの設計が難しいであろうことはよく分かります(所得税法における資産損失まわりとかもそうです)。
 が、輸入消費税に関しては、どうして「事業として」という限定を外したままとしているのか、謎です。


 ちなみに、上記4の「課税仕入れ」について。

 こちらは定義上、「誰から仕入れるか」の限定が外されています。そのため、消費者から買っても、事業用であるかぎり「課税仕入れ」に該当することになります。

 では、税額控除ができるのかというと。税額控除するには「要インボイス」とされているため、ガバガバな定義規定の穴はしっかり塞がれています。

 他方で、古物商等特例で「インボイス保存いらない」とされた途端、ガバガバな定義が復活します。そのため、『非適格者からの課税仕入れなら税額控除できる』などという倒錯した帰結を導くことができることになります。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 インボイスが導入されたにもかかわらず、「課税仕入れ」の定義がガバガバなままなの。これら「インボイスいらない特例」をメインシステムに接合しやすくするため、ではないかと穿った見方をしてしまいます。

消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編47)
消費税法における「事業/事業者」概念の機能(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編48)
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2024年04月08日

自販機特例の改正(笑)改 〜令和6年度税制改正

 税制改正モノの記事なんて、しょせん水物だろうということで、新告示公表後、速やかに記事化しておきました。
 が、そのあとにあれこれ追加・修正をしていったので、日付変えて再掲します。


 あらためて、きったねえ条文構成だなあと。

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)

 R5告示第26号に改正が入って、R6告示第10号に生まれ変わりました。
 ただの告示なんだから、本法の改正とタイミング合わせる必要もないはずですが。自分のこと法律だとでも勘違いしちゃっているのでしょうか(虎の威を借る狐)。

消費税法施行令第49条第1項第1号に規定する国税庁長官が指定する者を定める件の一部を改正する件

 政令が「国税庁長官の指定」なんかに委ねているの。
 省令ですら改正手続遅いからということで、より迅速に対応できるようにするため、という趣旨なはずですよね。今回も、とっとと改正すべき事情があったわけで、何を満を持して登場しているんだか。

 「委任立法」に関しては、もっぱら「内容面」で委任の趣旨から逸脱しているか云々ということが論じられています。が、制定の「時期」という観点からも、委任の趣旨に反しているかどうかを問題とすべきなのではないでしょうか。


 今回の改正で、「住所」いらない告示に「入場券特例」と「自販機特例」が追加され、これらの場合も「住所」の記載が不要になりました。

 追加ついでに、新告示では号の並び順が「施行令→施行規則」に整理されています。
 が、そもそもの話、「困難な」事由につき、施行令に規定されているものと施行規則に規定されているものとで、何か意味のある分け方がされている感じでもなく。わざわざ順番ならび変えるほどの必然性があるとは思えません。

 しかも、条文の並びは「保存→交付」なのに、公共交通機関や自販機、郵便ポストの定義は「交付」から引っ張ってきているので、条数順に並べると、むしろ落ち着きのない感じになります。

令49条1項1号(保存特例)
 イ 公共交通機関  (→3号)
 ロ 入場券等 →1号
 ハ 古物商等 →2号
 ニ 困難(施行規則へ委任) (→4号・5号・6号)

令70条の9 2項1号(交付特例)
 一 公共交通機関 →3号
 ニ 卸売市場・農協 
 三 著しく困難(施行規則へ委任) (→5号・6号)

規15条の4(保存特例)
 一 自販機・郵便ポスト (→5号・6号)
 ニ 出張旅費 →4号
 三 通勤手当 →4号

規26条の6(交付特例)
 一 自販機 →5号
 ニ 郵便ポスト →6号

 あえて整理するならば、交付されたら保存するという物事の順序にしたがって「交付→保存」とすべきなのではないかと。
 と思って、あらためてR5告示第26号を見てみると、ちゃんとそうなっている!

R5告示第26号
 一 公共交通機関 (令70の9・交付)
 ニ 郵便ポスト (規26の6・交付)
 三 出張旅費・通勤手当 (規15の4・保存)
 四 古物商等 (令49・保存)

 「古物商等」の位置がやや気になりますが、非適格者からの仕入なのに控除できるとか氏名まで省略できるとか、異常に優遇されたものであるから、一番うしろにされたんですかね。
 あるいは、古物商等だけ「業務帳簿」絡みの限定がついているからなのか。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 参考まで、旧告示と新告示とを「交付→保存」の順で対比すると次のとおり。新告示の気持ち悪さが際立つ。

 交付 公共交通機関 1号 →3号
 交付 自販機    なし →5号
 交付 郵便ポスト  2号 →6号

 保存 入場券等   なし →1号
 保存 出張・通勤  3号 →4号
 保存 古物商等   4号 →2号

 もちろん、旧告示の並べ方だけが正しいのではなく。
 そもそも「住所」は、インボイスを「保存」しないことのバーターとして要求されているものです。なので「保存特例」の順序どおりに並べるというやり方もありえます。

 1 公共交通機関
 2 入場券等
 3 古物商等
 4 自販機、郵便ポスト
 5 出張旅費
 6 通勤手当

 いずれにしても、新告示の並び順には、旧告示をあえて再編成しなければならないほどの必然性が、何ひとつない。


 当時の立案者の叡智が、すでに失われた世界。数ヶ月しか経っていないというのに。前任者が《怒りの辞職》でもして、後任に引き継ぎをしていかなかったのでしょうか。
 で、ガワだけしか理解していない後任者が、『順番めちゃくちゃ!前任者無能すぎ!』などと激しく勘違いして、現行のような浅はかさ満載の並び替えをしてしまったのか。

 「8割控除」のときにもさんざん論じましたが、当局の立案能力が著しく劣化しているように思えます。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 もしかすると、別に劣化しているわけではなく。近時の税制が複雑怪奇化しすぎて、もはや条文化困難なところまできているのかもしれません。
 で、当初の制度構想と比べて「過小課税」や「過大課税」が生じてしまった場合には、裁判所の『解釈』(という名の辻褄あわせ)で尻拭いしてもらうことを期待すると。

【過小課税尻拭い判決】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
【過大課税尻拭い判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)


 本題に戻って。

 告示はあくまでも「住所」いらない規定にすぎません。なので、告示に追加されたとて、法で要求されている「氏名」は記載しなければならないままのはずです。

 では「氏名」いらない規定である令49条2項がどうなったかというと。結局何の改正も入っていません。

令49条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
2 前項第一号に規定する国税庁長官が指定する者から受ける課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ(同号に掲げる場合に該当するものに限る。)のうち、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れについては、法第三十条第八項第一号の規定により同条第七項の帳簿に記載することとされている事項のうち同号イに掲げる事項は、同号の規定にかかわらず、その記載を省略することができる。


 「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れ」とあるとおり、古物商等だけが対象となります。あいも変わらず、古物商等だけがやたらと優遇されたままだと。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 自販機はこれに当たらないため、「氏名」を省略することはできないはずです。ところが、『Q&A』によれば氏名は記載しなくても「差し支えない」とされています。

 もちろん実務家的には、その結論に何の文句もありません。
 が、「住所」はわざわざ改正いれておきながら「氏名」はそのまま、という立法態度からしたら、「氏名」については法の原則どおり記載必要だと解釈するのが筋なのではないでしょうか(スマッシング反対解釈)。

 今後もし、交付特例・保存特例・住所特例にさらなる事由が追加されていったとしても、氏名特例に関してだけは手を加えられることなく。永遠に「差し支えない」で済ますつもりかもしれません。
 
 下記記事では『古物商等を異常に優遇しているから』、氏名は改正しなかったと邪推しておきました。さすがに穿った見立てだと自覚はあったものの、現実の改正結果をみるかぎり、単なる言いがかりとも言い難いようにも思えてきました。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)


 ・インボイス保存いらない特例(+帳簿住所いる要件)
 ・帳簿住所いらない特例
 ・帳簿氏名いらない特例
 ・インボイス交付いらない特例
が、法律・政令・省令・告示とに散らかりまくっているわけで。

 告示の中の並び順なんか気にするよりも、全体の構成を整理するほうが先なのではないでしょうか。
 「帳簿住所いる要件」(令49条1項1号柱書の括弧内)なんて、今回の告示改正により、古物商等の「業務帳簿」絡み以外のものは空文化してしまっていますし。

 が、残念ながら、「どうせお前ら条文読まないだろ」ということで、テレビとかパソコンの裏側の配線がごちゃついたままでも使えりゃいいじゃん、みたいな話なのかもしれません。

 次回は、この交付特例と保存特例の絡み具合を整理してみようと思います。
posted by ウロ at 09:56| Comment(0) | 消費税法

2024年02月12日

消費税法における実質と形式、そして計算へ 〜消費税法の理論構造(種蒔き編45)

 法に定める要件として、しばしば「実質要件/形式要件」などと区別されることがあります。

 たとえば、保証契約においては、意思表示の合致(実質要件)だけでは足りず書面の作成(形式要件)が必要とされる、といったように、実質と形式とを区別して記述されたりします。

 税法においても、同様に実質要件/形式要件の区別が可能です。
 が、それに加えて、税法に特徴的な規定として「計算規定」というものを観念することができます(もちろん、民法でも「相続編」のように計算要素強めな領域もあります)。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)


 《インボイスいらない特例》の究極系と位置づけることができるのが、30条7項但書の「災害その他やむを得ない事情」のやつ(以下、これを「災害」と略することがあります)。
 同条括弧書きの「困難である場合」のような、せせこましい限定列挙モノとはスケールが違います。

消費税法 第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ、特定課税仕入れ又は課税貨物に係る課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。


 ここでいう「災害その他やむを得ない事情」というのが《実質要件》にあたります。で、このような事情があることにより、《形式要件》であるインボイスの保存がなくても税額控除できることになる、という構造になっています。


 さて、この場面における《計算規定》はどうなっているでしょうか。要するに「では控除額いくらだ?」ということです。

 長くなるのですが、該当規定をそのまま貼り付けます。

消費税法施行令 第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
1 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この章において同じ。)の区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
二 適格簡易請求書(法第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格簡易請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等(当該適格簡易請求書に当該消費税額等の記載がないときは、当該消費税額等として第七十条の十に規定する方法に準じて算出した金額)のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
三 法第三十条第九項第二号に掲げる電磁的記録(同項に規定する電磁的記録をいう。以下この項、第四十九条及び第五十条において同じ。)の提供を受けた課税仕入れ 当該電磁的記録に記録されている法第五十七条の四第一項第五号又は第二項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
四 法第三十条第九項第三号に掲げる書類又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録を作成した課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第四項第六号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
五 法第三十条第九項第四号に掲げる書類の交付又は当該書類に記載すべき事項に係る電磁的記録の提供を受けた課税仕入れ 当該書類に記載され、又は当該電磁的記録に記録されている第四十九条第六項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額
六 第四十九条第一項第一号イからニまでに掲げる課税仕入れ 課税仕入れに係る支払対価の額(法第三十条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。以下この章において同じ。)に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)

2 事業者が、その課税期間に係る前項各号に掲げる課税仕入れについて、その課税仕入れの都度、課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の十(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、百八分の八)を乗じて算出した金額(当該金額に一円未満の端数が生じたときは、当該端数を切り捨て、又は四捨五入した後の金額)を法第三十条第七項に規定する帳簿に記載している場合には、前項の規定にかかわらず、当該金額を合計した金額に百分の七十八を乗じて算出した金額を、同条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。

3 その課税期間に係る法第四十五条第一項第二号に掲げる税率の異なるごとに区分した課税標準額に対する消費税額の計算につき、同条第五項の規定の適用を受けない事業者は、第一項の規定にかかわらず、前項の規定の適用を受ける場合を除き、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れのうち第一項各号に掲げるものに係る課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分して合計した金額に、課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等及び軽減対象課税資産の譲渡等に該当するものを除く。)に係る部分については百十分の七・八を、軽減対象課税資産の譲渡等に係る部分については百八分の六・二四をそれぞれ乗じて算出した金額の合計額を、法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とすることができる。


 1項が「請求書積上げ」、2項が「帳簿積上げ」、3項が「割戻し」の規定となります。
 売上を「積上げ」で処理した場合は仕入「割戻し」を選択できないわけですが、条文上は3項のような書きぶりで差配しているわけです。


 それはさておき。
 どの処理方法による場合でも、税額控除の対象となるのは、「1項各号」に定める課税仕入れに限定されています。「災害」の場合もそれ用の計算規定が見当たらないため、この規定によって計算することになります。

 では、実際にどのように計算されるでしょうか。

 この点、『インボイスの交付を受けたが災害により紛失。仕入先が連絡不能で再発行不可』というような事案であれば、1号の「適格請求書の交付を受けた課税仕入れ」に該当します。一度「交付」を受けさえすれば「保存」がなくても「交付を受けた」と言えますので。
 ゆえに、インボイスに記載してあったであろう税額をもとに、税額控除することが可能となるはずです。

   交付を受けた ⇒ 災害で紛失した ⇒ 保存できない

 問題は、『インボイスの交付を受ける前に被災。仕入先が連絡不能で発行不可』というような事案です。

   災害で交付を受けられない ⇒ 保存できない

 この場合、「交付」を受けていない以上は1号には該当せず、他の号にも該当しないため、税額控除できないことになりそうです。より正確にいうならば、『法30条7項但書に従い税額控除はできるが、施行令により算出される税額は0円』となるでしょうか。

 いかにも不条理極まりない。

 これに対して、『積上げではなく割戻しならいけるのでは』と思われる方がいるかもしれません。
 が、「割戻し」規定である3項においても、その計算対象は「1項各号」列挙の課税仕入れに限定されてしまっています。なので、やはり控除額は0円となります。


 以前に検討した、自販機特例などのせせこましいほうの《インボイスいらない特例》については、1項6号に専用の計算規定が用意されています。

 「入場券特例」以外は、そもそもインボイスが「交付」されていないことが前提となっています。それゆえ、計算方法は課税仕入れごとの「割戻し」でいくことが同号の中に記載されています。
 「割戻し」というと紛らわしいのですが、3項の割戻しとは違って課税仕入れごとに割戻しをします。

 ちなみに、「入場券特例」の場合は一度「交付」を受けているはずだから1項1号・2号も適用できるのか、という疑問もあります。が、ややこしくなるので深入りしません。

 何にしても、1項6号のような専用の計算規定が「災害」の場合には用意されていないということです。《究極系》のはずなのに、計算規定における待遇が悪すぎる。


 計算規定がこのような状態であることを前提として。

 翻って、法30条7項但書の《実質要件》としての適用範囲が問題となります。
 もし救済を想定しているのが、『交付を受けたが保存できなかった場合』だけなのであれば、現状の計算規定でも問題はないわけです。

  実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
  計算規定: 交付を受けた場合

 これに対して『そもそも交付を受けられなかった場合』も救済の対象として想定しているのであれば、現行の計算規定は明らかに足りていないわけです。

  実質要件: 交付を受けたが保存できない場合
       +交付を受けられずに保存できない場合
  計算規定: 交付を受けた場合
        交付を受けていない場合は規定なし(?)


 法令上の規定がこのような構造であることを知ってか知らずか、運営の「よくあるお問い合わせ」では、《偽インボイス》を掴まされた場合も税額控除の適用を受けることが可能、という見解が開陳されています。

お問合せの多いご質問(令和6年1月26日更新)
【令和5年11月13日公表分】
問A (適格請求書発行事業者公表サイトの検索結果とレシート表記が異なる場合)

(注) 売手が適格請求書発行事業者以外の者であるにもかかわらず、自らの登録番号と誤認されるような英数字が記載されているような場合には、当該請求書等は適格請求書等に該当しないこととなりますが、適格請求書発行事業者以外の者がそうした適格請求書又は適格簡易請求書であると誤認されるおそれのある表示をした書類を交付することや、適格請求書発行事業者が偽りの記載をした適格請求書又は適格簡易請求書を交付すること、それらの書類の記載事項に係る電磁的記録を提供することは禁止されており、罰則(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)の適用対象となります。
 また、そうした書類や電磁的記録を受領した事業者において、災害その他やむを得ない事情により、請求書等の保存をすることができなかったことを証明した場合には、帳簿や請求書等の保存がなくとも仕入税額控除の適用を受けることが可能です。


 「偽インボイス記載の消費税額を控除してもよい」なんて計算規定は存在しないわけで。仕入税額控除の適用を受けたとて、偽インボイスからどうやって控除税額を算出するつもりなのでしょうか。

 確かに、税額控除を受けることができると書いてあるだけで、控除税額がいくらとまでは書いていない。ので間違ったことは書いていない、と嘯くことは可能です。
 が、当然のことながら、そんな物言いはただの詭弁でしょう。

 そもそも、「非適格者」ならば、災害があろうがなかろうがインボイスを交付すること自体がはじめから不可能であって。《実質要件》レベルの問題として、このような場合まで、法30条7項但書がカバーしていると解釈できるのでしょうか。
 もしかしてですが、『もしも非適格者が災害前に登録していてくれたならば』なんて妄想をベースにするってことですか。そうだとしても、租税法律主義の建前を遵守するならば、2割特例や8割控除のごとく『もしもシリーズ』の系譜にあることを明記すべきでしょう。

【もしもシリーズ】
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
調整対象固定資産と高額特定資産とインボイスと


 以上、法令上の文言をベースに読み取れたことを記述しているだけで、何らの裏付けを取っているものではありません。運営の見解とは真っ向から対立していますし。

 ではありますが、実質/形式要件とは区別して「計算規定」を独自に検討することが、税法解釈上重要である、という限りでは間違いないものと思います。
 「税額控除できる」だけで満足するのではなく、「ではいくら控除できるか」までフォローすべきだろうと。

 にもかかわらず、学者先生の中には、「数式ではなく息吹」(租税息吹主義かよ!?)「仕入税額控除は計算要素でなく請求権」などという感じで、計算規定を軽視する傾向が見受けられるところです。

三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 この点、民法学者が『効果を度外視して要件論だけ論じている。』とか『実体法レベルの議論に終始していて、その実現まで考えてない。』みたいな傾向、おそらくだいぶ昔に払拭されたもののはずです。税法学の世界ではそこまで及んでいないということなのかどうか。
 一方で、課税要件レベルの議論が十分詰められているかといえば。税法分野での「要件事実論」の展開を見る限り、「う〜ん」て感じですよね。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 何にしても、一方で学者先生の計算軽視があり、他方で実務家の法解釈論軽視がある、という税法≒税務世界の不幸な取り合わせ、いい加減どうにかならないものでしょうか。

【税務本における法解釈のゼロ展開】
熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)
posted by ウロ at 11:38| Comment(0) | 消費税法

2024年01月15日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)

 前回の記事で、自販機特例につき「住所」省略は改正事項とするのに「氏名」省略は『差し支えありません』で済まそうとするの、気持ち悪いと評しました。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 なぜ、「氏名」も改正事項としないのかについては、おおよそアタリは付いていて。
 その理由は『古物商等を異常に優遇しているから』だと思われます。

 突飛すぎてよく分からないかもしれませんので、以下説明を加えます(入場券特例については記述を省略)。


 氏名省略規定の条文構造については、以下の記事で分析をしたところです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 長くなりますが、政令と告示を貼り付けてみると次のとおり。

令第四十九条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
1 法第三十条第七項に規定する政令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
 一 課税仕入れが次に掲げる課税仕入れに該当する場合(法第三十条第七項に規定する帳簿に次に掲げる課税仕入れのいずれかに該当する旨及び当該課税仕入れの相手方の住所又は所在地(国税庁長官が指定する者に係るものを除く。)を記載している場合に限る。)
  イ 他の者から受けた第七十条の九第二項第一号に掲げる課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ
  ロ 入場券その他の課税仕入れに係る書類のうち法第五十七条の四第二項各号(第二号を除く。)に掲げる事項が記載されているものが、当該課税仕入れに係る課税資産の譲渡等を受けた際に当該課税資産の譲渡等を行う適格請求書発行事業者により回収された課税仕入れ(イに掲げる課税仕入れを除く。)
ハ 課税仕入れに係る資産が次に掲げる資産のいずれかに該当する場合における当該課税仕入れ(当該資産が棚卸資産(消耗品を除く。)に該当する場合に限る。)
   (1) 古物営業法第二条第二項(定義)に規定する古物営業を営む同条第三項に規定する古物商である事業者が、他の者(適格請求書発行事業者を除く。ハにおいて同じ。)から買い受けた同条第一項に規定する古物(これに準ずるものとして財務省令で定めるものを含む。)
   (2) 質屋営業法第一条第一項(定義)に規定する質屋営業を営む同条第二項に規定する質屋である事業者が、同法第十八条第一項(流質物の取得及び処分)の規定により他の者から所有権を取得した質物
   (3) 宅地建物取引業法第二条第二号(用語の定義)に規定する宅地建物取引業を営む同条第三号に規定する宅地建物取引業者である事業者が、他の者から買い受けた同条第二号に規定する建物
   (4) 再生資源卸売業その他不特定かつ多数の者から再生資源等(資源の有効な利用の促進に関する法律第二条第四項(定義)に規定する再生資源及び同条第五項に規定する再生部品をいう。)に係る課税仕入れを行う事業を営む事業者が、他の者から買い受けた当該再生資源等
  ニ イからハまでに掲げるもののほか、請求書等(法第三十条第七項に規定する請求書等をいう。)の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるもの

2 前項第一号に規定する国税庁長官が指定する者から受ける課税資産の譲渡等に係る課税仕入れ(同号に掲げる場合に該当するものに限る。)のうち、不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る課税仕入れについては、法第三十条第八項第一号の規定により同条第七項の帳簿に記載することとされている事項のうち同号イに掲げる事項は、同号の規定にかかわらず、その記載を省略することができる。

○国税庁告示第26号
2 令第四十九条第一項第一号に規定する国税庁長官が指定する者は、次に掲げる者とする。
四 令第四十九条第一項第一号ハ(1)から(4)までに掲げる資産に係る課税仕入れ(同号ハ(1)から(3)までに掲げる資産に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、これらの業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限り、同号ハ(4)に掲げる資産に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限る。)を行った場合の当該課税仕入れの相手方


 令49条2項によれば、氏名省略できるのは、告示に列挙されているもののうち「不特定かつ多数の者から課税仕入れを行う事業に係る」ものとされています。
 決して、特定業種に限定しているわけではなく。中立的な装いの書きぶりとなっています。が、(その2)(その3)で検討したとおり、結果的には「古物商等」だけに限定されることになります。

 これ、改正前は政令自体に業種が書き込まれていたところであり。インボイス後は政令だけ読んでも特定業種を優遇していることが見えにくくなっています。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)

 『結果的に古物商等だけが氏名省略できることになっているだけで、政令レベルでは決して特定業種のみを優遇する意図があったわけではない』という言い訳も可能っちゃ可能。もちろんヤラセでしょうが(以下、同項を「すっとぼけ条項」と呼びます)。


 さて、このような「すっとぼけ条項」に自販機を追加するには、どのような条文とすべきでしょうか。

 正面から「自販機」とは書かずに、「不特定かつ多数の者から」のような、すっとぼけた書きぶりで限定しなければならないとしたら、どのように記述すればよいのか。うまい遣り口が思いつきません。
 そうだとすると、令49条2項を修正して、正面から「古物商等」「自販機」と謳うことにせざるをえないでしょうか。あるいは、委任先が省令/告示と別れていることをこれ幸いとばかりに、別々の書きぶりで共存させることにするかどうか。

 といったように、自販機を氏名省略できるようにするためには、単に49条2項に自販機を追加すれば済むのではなく。「古物商等」の書きぶりについても再検討しなければならなくなります。


 運営側の往生際の悪さについて、「8割控除」を題材に指摘したことがありますが。
 
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 なぜだかよく分かりませんが、一度アウトプットしたものを修正することに対しては、異常な抵抗があるように見受けられます。ここでも、令49条2項に追加するだけなら許せても、現行の規定を修正するのは避けたいという態度が透けて見えます。

 といった検討の結果として、住所の扱いとの不整合を受け入れてでも、氏名については『差し支え有りません』で乗り切ることにしよう、としたのではないでしょうか。


 以上、前回も書いたとおり『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』と言えばすむところを、あらぬ方向に話を広げるだけの虚無な記事です。
 が、私個人としては、条文イジりのトレーニングとなるので、全く無益ではないはず(と自分に言い聞かせる)。
posted by ウロ at 11:44| Comment(0) | 消費税法

2024年01月08日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)

 以下、マトモな実務家ならば『自販機特例、住所書かなくてよくなったってよ!』の一言で終わることを、あれこれ難癖つけるだけのやつです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)


 令和6年度税制改正大綱にて、自販機特例を使う場合に「住所」を記載しなくてよいとの改正案が示された、ということを以下の記事で書きました。

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱

 要綱に「令和5年10月1日からも書かなくて構わんよ。」と謳われているせいで、Q&Aが爆速で公表されました。

令和6年度税制改正の大綱について(インボイス関連) 令和5年12月22日

 「定額減税」あたりと違って、こんな改正案、誰も反対しないでしょうから、これがそのまま本体の『インボイスQ&A』に組み込まれることになるのでしょう。

 そんな程度のものですら、引っかかりを覚えてしまうのが、ひねくれ者の哀しい性(サガ)。


 下記(その2)に記載したとおり、「住所」がいらない場合が列挙されているのは、「国税庁告示」(R5第26号)です。
 インボイス前は基本通達内に編成されていたものが、改正に伴って単独の告示として括りだされました。

 なので、「住所」を省略するというのであれば、国会審議を待つまでもなく国税庁告示をいじくれば済むだけの話です(もちろん「委任立法」の問題はありますが)。とすると、その他の改正事項よりも先行して改正が反映されることになるのでしょうか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)


 ちなみに、令和5年10月1日より前は住所書かなきゃいけないのか、というと、こちらは旧法時代の「3万円特例」でカバーされています。

 「住所」の記載は、請求書等の保存とのバーターで要求されているものです。その上で、通達・告示に列挙されることによってその要求が解除される、という構造となっています。
 ところが、「3万円特例」だけは、はじめから「住所」の記載が要求されていないという、他の特例とは毛並みが異なるものとなっていました。

 ワナビー達の解説だと、単に「住所いらない」だけで括られがちなところ。ですが、条文構造上は全く異なっていたということです。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)


 改正対象である「住所」は、実はどうでもよくって。今回のQ&Aで私が「気持ち悪い」と感じたのが以下のもの。

問.自動販売機で飲料を購入した場合、帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」はどのように記帳すればよいでしょうか。

 帳簿に記載する「課税仕入れの相手方の氏名又は名称」及び「特例の対象となる旨」は、「自販機」との記載で差し支えありません。
 この記載方法に関する取扱いは、今回の見直し前後で変更はありません。


 先日の記事でも(ゴリゴリの建前を語っています)と仄めかしておいたところであって、結論自体は全く問題ないです。

 ですが、「住所」は改正を入れるというのに、「氏名」はなぜ『差し支えありません』で済まそうとするのか。
 「住所」は、政令で請求書等とのバーターで要求されているものにすぎません。他方で、「氏名」は法律レベルで要求されていることであって。「氏名」を省略するというならば、氏名省略規定である令49条2項も改正するのが筋なんじゃないんですか。

 この、住所と氏名に対するアンバランス感が、どうにも気持ち悪いわけです。

 なお、国税庁が『前からそういう扱いでしたけど?』みたいな言い回しをするの。そういう運用していたことを表立って明言していなかったときに言いがちなセリフな気がします。氏名を省略しても『差し支えありません』と明言しているの、私は今回初めて見ました。
 

 また、氏名記載については運用レベルで無視するくせに、「◯コインランドリー/×コインパーキング」みたいな区別は厳密に運用しようとしているのも気持ち悪いです。

(自動販売機及び自動サービス機の範囲)
1−8−14 規則第26条の6第1号《適格請求書等の交付が著しく困難な課税資産の譲渡等》に規定する「自動販売機又は自動サービス機」とは、課税資産の譲渡等及び代金の収受が自動で行われる機械装置であって、当該機械装置のみにより課税資産の譲渡等が完結するものをいい、例えば、飲食料品の自動販売機のほか、コインロッカーやコインランドリー等がこれに該当する。
(注) 小売店内に設置されたセルフレジなどのように単に代金の精算のみを行うものは、これに該当しないことに留意する。


 確かに、「自動販売機又は自動サービス機」という文言からすれば、「機械のみで資産の譲渡が完結するもの」と理解するのが素直に思えます。
 が、「氏名」ルールをガン無視するという前科をおかしておきながら、なぜ「完結」ルールだけは忠実に文言に従おうとするのか。

 そもそもの話、コインランドリーとコインパーキングとで、インボイス発行の「困難さ」にどのような有意差があるというのでしょうか。コインランドリーが困難だというならば、コインパーキングだって困難でしょうよ。

 また、たとえばですけど、コインランドリーで洗濯・乾燥するのに、利用者が洗濯機から乾燥機に洗濯物を移さなければならない場合は「完結」ルールを満たさないということになりはしないでしょうか。利用者の行為は資産の譲渡に組み込まれないというならば、コインパーキングにおける駐車行為も組み込まれないことになるのでは。
 あるいは、コインパーキングも、ゲートを上げるための料金だけをもらっているということにすれば、「完結」ルールを満たすということでいいんですか(これらはもちろん難癖です)。

 この区別を支えているのは、唯一文言のみですよね。実質的な根拠は何もない。
 もし何かしら区別をするのだとしたら「売手がその場にいない(のでインボイス出せない)」くらいじゃないですかね。

 いずれにしても、「氏名」ルールをガン無視できる度胸を、「完結」ルールでも発揮してくれればいいじゃないですか。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
posted by ウロ at 10:25| Comment(0) | 消費税法

2024年01月01日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)

 インボイスの前後に渡って、《請求書いらない特例》の条文イジりをしたことには、それなりの意図がありまして。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 一般的には、「請求書等」として要求されるものが、区分記載請求書から適格請求書に変更されたことにより、仕入税額控除が認められる範囲が限定されたと理解されています。し、当ブログにおいてもそのように表現をしている箇所があります。

 が、仕入税額控除厳格化の本体は、表向きの《原則ルール》にあるのではなく。《例外ルール》である「やむを得ない理由」が「困難な場合」に変更されたことにある、というのが私の見立てです。

 インボイス制度に対する評価として、「単に登録番号と税額を追加するだけなのに、騒ぎすぎ!ウケる〜!」みたいな意見を聞くこともあります。
 それは《原則ルール》のかぎりではそのとおりです。「区分記載請求書方式」が、インボイス移行ツールとして優れていたと評価することができるでしょうか。


 ですが、《例外ルール》まで視野に入れると、そんなお気楽なものではないことが分かります。

 というか、今まで我々実務家は、あまりにも「やむを得ない理由」に依存しきっていたのかもしれません。せっかく運営が「区分記載請求書方式」を挟んでくれたというのに、「やむを得ない理由」に甘えることで請求書の保存を真面目に実施していなかったと。

 レベル0 請求書いらない(超ゆるい)
 レベル1 請求書(ゆるい)     orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル2 区分記載請求書(きつい) orやむを得ない理由(ゆるい)
 レベル10 適格請求書(かなりきつい)or困難な場合(超きつい)


 だらけきった実務家により生み出されていた益税を、困難な場合の限定列挙化により撲滅できてめでたしめでたし(皮肉)。原則ルールのほうは「区分記載請求書」という移行ツールを挟んでくれたのに、例外ルールについては移行ツールを挟まずにいきなり厳格化したせいで、ついていけなくなっているだけの話だと。


 税法学者からしても、通達に規定されっぱなしの「やむを得ない理由」を、政令・省令で「困難な場合」として明確化したことは『租税法律主義』『課税法規の明確性』『法的安定性』の観点から正しい、とか言い出しそうですし。
 特に件の教科書の著者あたりが、「仕入税額控除が『請求権』として明確化された!」とか言いそう(冷笑)。

 もちろん、税法ルールを明確化すること、それ自体は望ましいことです。が、消費税法における仕入税額控除制度を厳格化することには、他の制度とは異なる特有の問題があります。

 それは、本ブログでも再三指摘してきた「損税」発生問題。

 件の教科書をはじめとして、現実の消費税法の仕組みを無視した論者がよくいうのが『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言。
 
 免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)

 しかしながら、現実には売上側は問答無用の譲渡課税、他方で仕入側は厳格化したインボイス控除と、まったく異なる原理で作動しています。

  売上課税:問答無用の譲渡課税    (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 or困難な場合(超狭い)


 課税側は譲渡があれば問答無用で課税されるくせに、仕入側は限定的にしか控除されません。
 相互の連動ということでいうと、

  ◯ 課税されないなら控除されない(=控除するなら必ず課税されるべき)

と、控除が課税よりもはみ出さない方向でのみ連動し、

  × 控除されないなら課税されない(=課税するなら必ず控除されるべき)

と、課税が控除よりもはみ出さない方向では連動しません。
 控除縮小(課税拡大)の方向でのみ、一方通行で連動することになっています。その結果、インボイス制度のもとではひたすら「損税」が生じることとなります。

 これがインボイス前であれば、

  売上課税:問答無用の譲渡課税       (超広い)
  仕入控除:帳簿+請求書 orやむを得ない理由(わりと緩い)


と、売上側と仕入側とがほどよくバランスが取れていました。インボイス前の制度は、損税が大量発生するくらいなら一部益税の発生を受け入れるものだったと評価することができます。

 これに対してインボイス後は、「売手:免税事業者」の益税を撲滅できるならば、それ以外の場面でどれだけ損税が発生してもお構いなし、という制度に仕上がっています。
 ここで、益税をわざわざ「売手:免税事業者の場合の」と限定するのは、《インボイスいらない特例》によって、特定業種の益税は積極的に容認しているからです。現行制度は、同じ益税の中でも、許せない益税と許せる益税とがあるという価値判断を前提に組み立てられてしまっています。インボイス推進派の方々がノセられてしまっている「益税絶許!!」というプロパガンダとは、まるで様相が異なる。

 現行制度は、特定場面の益税だけを撲滅しただけであり、かつ新たな損税を生み出しているわけで。真面目に《課税=控除》を実現するつもりがあるとは、とても思えません。


 こういった制度全体の構造理解というもの、税法分野では正面切って展開されていません。憲法論から始まる抽象概念論と、裁判で問題となった個別論点に関心が集中しがちで。その真ん中が手薄すぎる。

 そのせいで、『課税と控除は一致させるべき』という抽象的なお題目から、一気に仕入税額控除を厳格化するという個別制度の実現へと到達してしまう有様なのでしょう。
 仕入側だけを厳格化するだけで《課税=控除》を実現できたつもりになってしまい、売上側との規律に不整合が生じないかといったことを検討しないで済ませてしまっています。

 このような検討作業、件の教科書のような消費税法全体を記述した書籍などでこそ展開すべきものだと思うのですが。残念ながら『消費税は税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという妄言をのたまうだけで、現実に両輪駆動が機能しているかを検証することもありません。

 現実には、一方のタイヤはスポンジ製、他方のタイヤは鉄製でできていて、およそ真っ直ぐ進まない出来上がりですよ。


 なお、《例外ルール》のほうを本体とみることに対しては、違和感のある方もいるかもしれません。が、法学における《原則/例外モデル》の欺瞞っぷりについては、すでに何度か指摘してきたとおりです。

【原則/例外モデル批判】
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 「例外は文字通り例外的に考慮するだけですよ。」と言いながら、バックグラウンドでは常に例外ルールを走らせている例の所作のことです。

 実務への現実的な影響のデカさという観点からすると、表向きの「区分記載請求書→適格請求書」の変更は単なる目眩ましで。実体(実態)は《請求書いらない特例》を厳格化・特権化することに主眼があったのではないか、と思わざるをえません。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その8) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編43)
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 消費税法

2023年12月25日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その6) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編41)

 あいだを開けてしまいましたが。
 前回は、「特定課税仕入」についての《インボイスいらない特例》の条文構造を検討しました。通常の課税仕入とは違って、条文構造上は特に問題はないと。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

 今回は、ではなぜ「特定課税仕入」の場合にインボイスがいらないとされているか、について検討します。

【電気通信利用役務の提供とインボイス】
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)


 前回述べたとおり、そもそも「特定資産の譲渡」を行っても、売手にはインボイスを発行する権利も義務もありません。
 仮に、売手が「消費者向け」も提供しているということでたまたま「適格者」になっていたとしても、です。「事業者向け」を提供する際には、インボイスを発行する義務がないどころか、親切心でインボイスみたいな何かを発行することもできません。
 買手に対して「テメエで納付しろや!」と通知する義務があるだけ。

 ゆえに、インボイスを発行する/しないという選択肢がそもそも存在しません。
 「形式論」としてはここでお終いなのですが、以下、もう少し実質に踏み込んで検討してみましょう。


 国内仕入に関する厳格形式主義に鑑みれば、特定課税仕入についても、インボイスの代わりに何かしらの「控除証明書」を発行する義務を売手に課す、ということも考えられます。

 が、買手にとって、売手の代わりに「課税」させられるのに、売手から証明書をもらえないせいで「控除」のほうはできないとしたら、さすがに理不尽だとバレてしまいます。

 【悪魔合体(リバースチャージ+インボイス制度)】
   売上:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
   仕入:インボイスをもらえなければ控除はさせないよ

 なので、「特定課税仕入」については何らの書類を要せずに控除できることとしたのでしょう。インボイスがなくても、控除する買手自身が課税されているのであって、《課税=控除》は確保されていることになります。

 【真正(神聖)リバースチャージ】
   売上:問答無用の仕入課税
   仕入:問答無用の仕入控除
  
 課税と控除が一致する、美しい世界線が実現されています。
 

 このことが正当化できるというならば、国内仕入において「非適格者である課税事業者」(以下、「非適格者(課税)」といいます)からの仕入が税額控除できないのは、なぜなのでしょうか(「適格者」がインボイスを発行してくれないとか間違ったインボイスを発行する場合も同じです)。

 【売手:非適格者(課税)×買手:課税事業者(本則)】
   売上:問答無用の譲渡課税
   仕入:インボイスがないから控除不可

 この場面でも、売手:非適格者(課税)は譲渡課税されています。のに、買手側は税額控除できません。課税/控除の主体が分属されているだけで、控除できないと「損税」が発生してしまう、という損益状況は「特定課税仕入」の場合と全く一緒です。

 損益状況が全く同じなのに、主体が別人になった途端、《許せる損税》になってしまうという不可思議現象。

  免税事業者の益税      ←絶許!!!!
  特定課税仕入による損税   ←よくないよね。
  非適格者(課税)による損税 ←(無言)・・。


 リバースチャージにおいては、譲渡にかかる税額も仕入にかかる税額も、「買手」側で計算することになっています。

 インボイス推進派の方々の中には、インボイス制度を説明するにあたって『売手だけが正しい税額を計算することができる、インボイスは「控除証明書」である、なので買手が勝手に書き換えることは許されない。』というような感じのことを宣わっている方もいます。
 が、リバースチャージでは「買手」が税額計算をすることになっているわけで、そのような前提は存在しません。

 そもそも、売手がインボイスの税率や税額を間違えて記載していた場合には、買手が税務処理の修正を余儀なくされます。買手は、売手作成のインボイスを鵜呑みにして自社の処理をすることが許されていません。

  法令 = 売手のインボイス = 買手の税務処理  ←控除できる

の場合だけ、めでたく税額控除ができ、

  法令 ≠ 売手のインボイス = 買手の税務処理  ←控除できない

と、売手の間違ったインボイスを鵜呑みにして買手が処理した場合には、控除ができないことになっています。売手作成のインボイス記載事項は、買手にとって単なる参考事項にすぎず、その内容が正しいかどうかは自分で判断しなければなりません。

 民法でいうところの《公信力》や行政法でいうところの《公定力》みたいなものは、インボイスには備わっていないということです。
 買手はインボイスの記載を信じて処理してよい、間違いがあった場合は売手と課税庁との問題として処理する、というような制度にはなっていないのであって。とてもじゃないが「控除証明書」なんてご立派なものではない。

 「課税と控除が両輪駆動する」とか「重低音がバクチクする」みたいな、現代なら「※イメージです。実際の商品とは異なります。」と注意書きが挿入される感じの宣伝文句。


 という具合で、「リバースチャージ」だけが、現行消費税法の中で純粋に《課税=控除》を実現できる唯一絶対の領域だ、と思ったのですが。

 残念ながら「用途区分」という貧乏神(from桃鉄)の存在により、リバースチャージですら、控除額が削られることになっています。

  【悪魔合体(リバースチャージ+用途区分)】
   仕入:国外事業者の代わりにお前が納付しろよ
   仕入:非課税対応なら控除させないよ

 上記でリバースチャージに「真正(神聖)」という修飾を加えたのは、「用途区分」に侵食されない綺麗な状態に限り、という限定を加える趣旨からです。

 もはや、現行消費税法の中に、混じり気のない《課税=控除》が実現できる理想郷は存在しないのかもしれません。
 「輸入消費税」は無事か?、とも一瞬考えたのですが、これも「用途区分」の支配下にありました。輸入消費税として直接お国にお納めしているにもかかわらず、非課税対応分は控除できないことになっています。

  【悪魔合体(輸入消費税+用途区分)】
   仕入:問答無用の輸入課税
   仕入:非課税対応なら控除させないよ

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その7) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編42)
posted by ウロ at 11:29| Comment(0) | 消費税法

2023年12月19日

自販機特例の改正(笑) 〜令和6年度税制改正大綱

 新年度の税制改正大綱が出たとて。

令和6年度税制改正大綱(自民党)

 本ブログにおいて、その内容を真面目に記事にする気もなく。するとしても、下記のような変則的な内容であったり。

「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に

 ただ今回は、先日の記事との関係で気になるところがあったので、メモ代わりに。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

P101
(10)一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる自動販売機及び自動サービス機による課税仕入れ並びに使用の際に証票が回収される課税仕入れ(3万円未満のものに限る。)については、帳簿への住所等の記載を不要とする。
(注)上記の改正の趣旨を踏まえ、令和5年10月1日以後に行われる上記の課税仕入れに係る帳簿への住所等の記載については、運用上、記載がなくとも改めて求めないものとする。


 自販機特例が使える場合に、帳簿に「住所等」の記載を求めないことにすると。しかも、今から改正前提で処理しちゃっていいんだって(以下、入場券特例はガン無視)。


 そもそもの話なんですが。

 自販機特例を適用する場合に「住所等」の記載が求められていたの、インボイスができてからではなく。旧法時代からずっと求められていたものであって。なんで今さら改正しようとするのか。
 まあ、旧法時代は「3万円未満」特例があったおかげで、ほとんどがそちらでカバー出来ていたから、ということでしょうか。だとしたら、「3万円未満」特例廃止にあわせて同時に手当てしとけや、という話ですよね。

・旧法
 3万円未満 氏名 3万円未満特例
 3万円以上 氏名+住所 自販機特例
・新法
 3万円未満 氏名+住所 自販機特例
 3万円以上 インボイス+氏名 特例なし


 その点はさておき。
 私が気になるのが、ここでいう「住所等」とは令49条1項でいうところの「住所又は所在地」だけなのかということです。

 というのも、(Q&Aワナビーの方々は誤解されているかもしれませんが)自販機特例を使った場合であっても、原則どおり帳簿には「氏名又は名称」(以下「氏名等」と略します)の記載が必要となっています(法30条8項)。
 「氏名等を省略できるのは古物商等だけ」ということを、上記一連の記事において散々批判の対象としたところ。

 もし、大綱でいう「住所等」に氏名等が含まれていないのだとしたら、当該自販機にかかる「販売者」を確認しそれを帳簿に記載するという作業は、相変わらず必要だということになります(ゴリゴリの建前を語っています)。

 これ、「住所等」のほうは、国税庁Q&A様が「◯◯市」程度の購入場所でよいと仰ってくれているので、面倒とはいえすぐに分かることです。他方で「氏名等」のほうは、当該自販機の「販売者」を探し当てなければなりません。それがその敷地の所有者なのか、あるいは運営会社なのか、自販機ごとに違うはずであり、いわゆる「管理者」と一致するとは限らないでしょう。

自販機表示(日本自動販売システム機械工業会)

 ということで、「氏名等」のほうも省略できるとしてくれないと、大変なことに変わりはない。というかむしろ、「住所(購入場所)残しで氏名省略」のほうが楽なんじゃないですかね。


 こうなったら、消費税法上、全ての自動販売機に「販売者情報」の表示を義務づけ、購入者はその表示と購入した商品を撮影することをもってインボイスに替える、みたいな制度にしてしまえばいいじゃないですか(投げやり)。
 あるいは、媒介者特例のごとく「管理者」名でもよいことにするか。

 一応冗談のつもりで言っていますが、令和6年ぽっきりの「定額減税」なんて制度を、大綱の目玉のごとく扱っているイカした(またはファンキーな)彼らからすると、本気で採用してしまいそうで恐ろしい。
posted by ウロ at 16:56| Comment(0) | 消費税法