2023年09月25日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)

 そもそもの話として、インボイス制度施行前における古物商等の取引がどのように扱われているのか、調べようと思ったのですが。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)

 運営謹製「Q&A」服従型のインボイス解説本はもちろんのこと、消費税全体を論じた下記のような本ですら、インボイス制度施行前における古物商等の取引の取り扱いについて、何の記述もされていませんでした。

熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)

 ただ単に、Q&Aの該当箇所をトレースしているだけで。改正前と比べてどこがどう変わったのかなんてことは、解説してくれません。


 では、過去に出版された本の中で、取り扱いが記述されているものがあるかというと。

 私の手元にあるものだと、いにしえの消費税解説本の中で、平成9年に日税連が(国税庁お墨付きで)示した『見解』の中に出てきているものを引用したのが見つかりました。

 この『見解』が現在に至るまで生きていたと仮定して、私なりに敷衍してみると次のように整理できそうです。

【消費者から買い取った場合の仕入税額控除の扱いについて】

1 インボイス前

《通常の取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:請求書がなくても控除可
 ウ 請求書: 3万円未満→少額だから不要(法30条7項、令49条1項1号)
        3万円以上→やむを得ない理由があるから不要(法30条7項、令49条1項2号)
 エ 帳簿:  氏名・住所を省略できる(令49条2項)

《古物商取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:請求書がなくても控除可
 ウ 請求書: 3万円未満→少額だから不要(法30条7項、令49条1項1号)
        3万円以上→やむを得ない理由があるから不要(法30条7項、令49条1項2号)
 エ 帳簿:  氏名・住所を省略できる(令49条2項)
        「買取台帳」を帳簿とすることができる(『見解』)

 アイウまではどちらも同じで、帳簿のところだけ、ほんのり便宜をはかってもらっているくらいの違いしかありません。
 これがインボイス後には、次のように変容します。

2 インボイス後

《通常の取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:インボイスがないので控除不可(法30条1項)
 ウ 請求書: 困難ではない(法30条7項)
 エ 帳簿:  ×××

《古物商取引》
 ア 課税仕入:消費者からの買取も該当(法2条1項12号)
 イ 税額控除:インボイスがなくても控除可
 ウ 請求書: 困難だから保存不要(法30条7項、令49条1項1号ハ)
 エ 帳簿:  1万円未満→氏名・住所を省略できる(令49条2項、告示)
        1万円以上→省略不可(告示)
        「古物台帳」を帳簿とすることができる(Q&A)

 通常の取引のウ 請求書に「困難ではない」とあるの、何となく違和感があるかもしれません。消費者からインボイスをもらうの、いかなる場合でも「困難である」(というか不可能)といえるのではないのかと。

 が、法30条7項+令49条1項の書きぶりからすると、
  古物商取引はインボイスをもらうのが「困難である場合」だから、控除可とする
  通常の取引はインボイスをもらうのが「困難である場合」でないから、控除不可とする
という建付けになっていると理解せざるをえないと思われます。

 また、エ 帳簿の「1万円以上未満/以上」という区分、消費税法本体に記述されているものではなく。
 国税庁告示が古物営業法の規律を引っ張ってきているせいで、こういう区分になっています。インボイス前の「3万円未満/以上」とは全く出自が異なるものです。

 「古物台帳」を消費税法上の「帳簿」とすることができるという点については、法令には定めはなく。おそらくですが、告示がいう「業務帳簿に記載しなくてよいなら氏名省略できる」というのを裏読みして導いたものだと思われます。
 例によって、Q&Aには結論しか書いておらず。そのような解釈プロセスが明示されることはありません。


 というように、インボイス前は、通常の取引も古物商取引も、ほとんど同じルールのもとで仕入税額控除ができていました。

 が、インボイス後になり、通常の取引の場合は全面的に控除不可となったにもかかわらず、古物商取引については、なぜかほとんど無傷で控除可のままとなっております。

 同じ「益税」を享受する者であるにもかかわらず、古物商等の特定業種だけが、なぜ益税を享受できるままとなったのでしょうか。
 何度も繰り返し述べているとおり、免税事業者排斥運動を繰り広げてきた人々の関心が、なぜこれら特定業種のほうへは向かわなかったのかも謎です。

 やはり、運営側のプロパガンダがお上手すぎた、ということなのかどうか。
posted by ウロ at 09:11| Comment(0) | 消費税法

2023年09月20日

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴

 8割特例を検討していて思ったことですが。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺

 下記8の者から仕入れた場合に8割特例を受けられるかについての話。

 8 課税事業者(適格者) インボイスなし

 「Q&A」及びそれを母体とする巷の解説の類では、8割特例の要件として「適格請求書発行事業者以外の者」から仕入れた場合に適用を受けられると、「ヒト」の観点から記述がされていました。
 これに対して、実際の条文では「モノ」の観点から規定されているということを指摘しました。


 この点についてもう少し深掘りすると。

 30条1項(以下、1項は省略します)は、新旧とも、「誰から仕入れたか」については何ら触れられていません。
 もちろん、新30条の場合はインボイスが必要となるため、結果として「適格者」から仕入れた場合に限られることになります。が、条文上は「インボイス」というモノの側からしか記述されていません。

 で、通常の場面であれば、「適格者から仕入れたら」と書こうが「インボイスがあれば」と書こうが控除不可という結論は同じになるので、問題はありません。「控除できません残念でした。」で終わる話です。
 が、8割特例の場面に限っては、新30条の適用を受けるが控除額は0円になるのか、そもそも新30条の適用を受けないのかによって、結論が変わってきてしまいます。

 たとえば、新30条の書きぶりが、
  ・適格者からの仕入なら適用あり(ヒト)
  ・その控除額はインボイス記載の金額に従う(モノ)
と、ヒトとモノの両面から規律していたならば、8の場合は、新30条の適用はあるが控除額は0円、となるので、8割特例の対象とはなりません。

 ところが、実際の新30条は、ストレートに「インボイス記載の消費税額を控除できる」と、モノの側からしか記述していないため、8の場合は、インボイスがないから新30条適用なし⇒旧30条なら適用できた⇒ゆえに8割特例の対象となる、という結論になってしまうように思えます。
 つまり、旧30条、新30条、H28法附則52条のすべてが「モノ」の観点からしか対象範囲を限定していないせいで、8がすり抜けてきてしまったということかと。

 さすがに運営側が、条文も読まずに条文見出しだけみて「Q&A」を作成するはずはないでしょう。なので、気づいちゃった上で、あえて触れていないように思えます。
 触れていないだけで「控除できない」とまでは明記していないので、決して嘘を書いているわけではありません(巧妙)。運営の公表する情報が「裏表両面を書かない」なんてことはいつもの手口であって。この場面かぎりの特殊なやり口ということでもないので、紛れてしまいますし。


 さて、ここまで書いてきて、ふと「仕入税額控除は単なる『計算要素』ではなく『請求権』だ!」みたいな議論を展開されている件の教科書の存在を思い出しました。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 こういった問題に対して何かしらヒントにでもなるかと一応少し考えてみたものの、何の役にもたたなそうです。具体的な規定に基づかない空中戦を繰り広げてみたところで、どうにもならない。

 いやほんと、虚無が過ぎる。
posted by ウロ at 14:03| Comment(0) | 消費税法

2023年09月18日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)

 前回は「古物商特例」の要件と機能を、通常の取引の場合と比較して検討しました。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)

 で、今回が本論です。

 前回の検討結果を貼り付けておきます。

【古物商特例】
  ・控除できる
   1 法人+適格者+インボイス(原則)
   2 個人+適格者+インボイス+事業用資産(原則)
   6 法人+非適格者(特例)
   7 個人+非適格者(特例)
  ・控除できない
   3 法人+適格者
   4 個人+適格者
   5 個人+適格者+インボイス+家事用資産

 以下、次の事例を想定しながら検討します。

【事例】
 A(消費者・非適格者)⇒ B(買取業者・課税事業者) 11000
 B(買取業者・課税事業者)⇒ C(消費者・非適格者) 16500

 Bが、Aから自家用車を11000で買取り、Cに16500で販売したと。

 原則ルールどおりであれば、BはCから預かった消費税「1500」をそのままお国にお返ししなければなりません。当然のことながら、BはAに消費税をお預けしていないので、控除額は0です(以下、わざと「預かり」等の表現をとります)。
 ところが、特例が適用されることにより、Aに預けてもいない1000を控除した「500」だけ納税すればよいことになります。

 これ、どう考えても「課税なき控除」ですよね。インボイスの導入により撲滅しようとしたはずの。1000の「益税」が生じてしまっていますよ。

 なお、Aが「非適格者である課税事業者」ならば課税ありとなります。本ブログにおいては「控除なき課税」が生じているとして散々批判の対象としたところです。が、本特例の場面では、結果的に課税と控除が一致することになります。

 【非適格者である課税事業者Aからの古物買取り】
  A +11000 1000納税 (問答無用の売上課税ルール)
  B -11000 1000控除 (原則控除不可。特例で控除可に)

 問答無用の売上課税ルールと、非適格者からの仕入でも控除できるというイカれたルールが悪魔合体することで《課税=控除》が実現されるという、悪夢のような展開。


 では、誰が益税1000を着服しているか。《免税事業者は消費税をネコババしている》思想からすれば、Aがネコババしていることになりそうです。

 が、今までご自分で何かしら業者に買い取ってもらった経験のある方は、そのときのことを思い出してもらいたいのですが。たとえば「査定価格10万円です」となったとして、そこに消費税を上乗せして支払ってくれたでしょうか。おそらく10万円ポッキリしかもらっていないのでは。
 にもかかわらず、消費税をネコババしているなんて言われるとしたら、とんでもない言いがかりだと感じるのではないでしょうか。

 もちろん、「消費者」として買い取ってもらったのなら、消費税をもらっていないというのはそのとおりです。買取業者の側からすれば、消費者には消費税を支払っていないということです。
 支払っていないのに控除できるのだとしたら、買取業者のほうがネコババしていることにならないでしょうか。

 では、「法人」「個人事業」として買い取ってもらった場合はどうかというと、やはり消費税込みの価格で買い取られたんじゃないでしょうか。「思ったほど売却益上がらないなあ。」と感じるとしたら、それは消費税込みでしかもらっていないからです(消費税分目減りしている)。

 というか、そもそも「事業/家事」いずれで売るか、課税事業者かどうかなんて、買取の際に確認していなかったんじゃないですか。誰が売手であろうと、一律で税込での買取をしていたかと。

 そうすると、古物商取引において益税を得ているのは、買手である古物商のほうなのではないでしょうか(もちろん場合によりますが、それは免税事業者が益税を得ているとは限らない、というのと同じ話です)。


 「家事用資産」の場合、適格者からの買取りだと控除されないが、非適格者からの買取りなら控除されることになります。これ、どうにもバランス感覚がおかしくなる。家事用資産は事業じゃないから控除できないとしておきながら、非適格者からなら家事用資産でも控除できると。

 ・原則:家事用資産→インボイス発行できない→控除できない
 ・特例:非適格者→インボイス発行しなくていい→控除できる

 以前検討した《媒介者交付特例》については、キモいという感想を抱いたものの、あくまでも売手が「適格者」であるというラインを超えることはありませんでした。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)

 ところが、本特例は、売手が「非適格者」であれば控除できる、他方で「適格者」であってもイケてないパターン(345)は控除できない、という逆転現象を生じさせてしまっています。

 売手が個人で、課税「あり/なし」と控除「あり/なし」のパターンを並べてみます(法人は省略)。
 ここでも、通常の取引と古物商特例を対比させます。

 【通常の取引】
  ・課税あり×控除あり
    2 個人+適格者+インボイス+事業用資産
  ・課税なし×控除なし
    5 個人+適格者+インボイス+家事用資産
  ・課税なし×控除あり ←納税者有利
    無し
  ・課税あり×控除なし ←課税側有利
    4 個人+適格者
    7 個人+非適格者

 インボイス制度の導入によって、「課税なし×控除あり」のパターンを撲滅することができました。
 適格者がインボイスを発行すれば控除できる、それ以外は控除できない、というきれいなルールとなっています(5のインボイスは偽インボイスです)。

 【古物商特例】
  ・課税あり×控除あり
    2 個人+適格者+インボイス+事業用資産
    7a 個人+非適格者(課税事業者)(特例)
  ・課税なし×控除なし
    5 個人+適格者+インボイス+家事用資産
  ・課税なし×控除あり ←納税者有利
    7b 個人+非適格者(免税事業者)(特例)
    7c 個人+非適格者(消費者)(特例)
  ・課税あり×控除なし ←課税側有利
    4 個人+適格者

 特例の適用により、7が3つ(課税事業者・免税事業者・消費者)に分裂して、「控除あり」に編入されることに。このうち、課税事業者(7a)は課税=控除となることから、結果としては問題ないです(上述した悪魔合体)。

 問題なのが免税事業者(7b)と消費者(7c)。インボイス制度によって撲滅したはずの「課税なし×控除あり」を復活させてしまっています。
 

 免税事業者に対しては、あたかも親の仇のごとく徹底的に潰しにかかっていたというのに。なぜに特定業種に対しては「スンッ」て感じでスルーしているのか。
 弱小免税事業者との取引により生じる益税と、特例業種との取引により生じる益税とで、一方は撲滅、他方は温存とするほどの違いは何なんでしょうか。「平等」という観点からすれば、「規模」で線引きするよりも「業種」で線引きするほうが筋が悪いはずなんですが、なぜ、前者が駄目で後者は良いとなるのか。

  免税事業者(益税)⇒消費者  「許せない!!」
  消費者⇒買取業者(益税)   「・・・・・。」

 「滅せよ免税事業者!」を唱えるのはいいのですが、これら矛盾について、どのように折り合いをつけているのか、ぜひご教示いただきたいところ。私のような野良税理士には思いつかないような、鮮やかな理由付けがあるのでしょうか。

 もちろん、何かしらの政策的な理由があっての特例なのでしょう。が、それがどのような理由にせよ、何かしらの理由付けさえあれば「課税なき控除」を正面から認めてもいいというのであれば、あれほどまでに頑なな、免税事業者排斥運動はなんだったのでしょうか。

 さすがに、買取業者が「インボイスの施行にともない『販売価格』に消費税を乗せさせていただきます(が『買取価格』は税込のまま)。」とか言い出したら、免税事業者に向けていた憎悪をこちらに向けてくれますよね。
posted by ウロ at 10:49| Comment(0) | 消費税法

2023年09月11日

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)

 「課税なき控除」が許せない方々、下記の「インボイスいらない特例」はどのようにお思いでしょうか。

 ・古物商
 ・質屋
 ・宅建
 ・再生資源

 以下、「古物商」に代表してもらって検討してみましょう(上記業種をまとめるときは「特定業種」「優遇業種」などといいます)。
 具体例としては、中古車買取業者が自動車を買い取る際に支払明細書を発行する場面を想定してください。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)


 本特例の要件は次のとおり。

【要件】
 1 古物商であること
 2 非適格者からの仕入であること
 3 古物商にとって棚卸資産であること
 4 古物台帳等に記載・保存すること

 上記要件のうち、キモとなるのが2(非適格者からの仕入)です。

 たとえば、「自販機特例」の場合は、自販機を設置した人(売手)が「適格者かどうか」は確認しなくてよいことになっています。そんなもの逐一確認してられるか、ということです。
 「売手は自販機に登録番号を書いておき、買手はそれを書き写せ」くらい言うのかと思ったら、何もいらないと。ではあるものの、買手は帳簿に「相手方の所在地」を記載しなけばならないなどという、冗談みたいな要件が残されています。

 これに対して本特例では、買取業者は「非適格者からの仕入であるかどうか」を確認する必要があります。

 さらに、この特例とは別に、適格者である個人が「家事用資産」を売却した場合は、インボイスを発行できず仕入税額控除の対象外となるため、この点についての確認も必要となります。


 そこで、買取業者がこれらルールを正しく運用するためには、以下の質問事項を用意する必要があります。

 【法人の場合】
  ・ 適格者ですか?
    はい  ⇒インボイスあれば控除可(原則)
    いいえ ⇒インボイスなしで控除可(特例)

 【個人の場合】
  ア 適格者ですか?
    はい  ⇒イ
    いいえ ⇒インボイスなしで控除可(特例)
  イ 事業のみに使っていましたか?
    はい ⇒インボイスあれば控除可(原則)
    いいえ ⇒ウ
  ウ 事業供用の割合を記入してください。
    ◯% ⇒当該割合のみインボイスあれば控除可(原則)

 買取業者がどこまで真面目に実践するかは分かりませんが、上記2つのルールに従うかぎり、ここまでの確認が必要となってしまいます。


 さて、本特例がどのように機能しているかを理解するため、「通常の取引」の場合と比較してみましょう。

 通常の取引の場合の「控除できる/できない」のパターンを並べると、次の通りとなります(家事按分については省略)。

 【通常の取引】
  ・控除できる
   1 法人+適格者+インボイス
   2 個人+適格者+インボイス+事業用資産
  ・控除できない
   3 法人+適格者
   4 個人+適格者
   5 個人+適格者+インボイス+家事用資産
   6 法人+非適格者
   7 個人+非適格者

 3、4は、適格者なのにインボイスを発行しなかった場合や要式を満たさなかった場合です。
 5は、厳密にはインボイスを発行できません。「事業用の場合と同じものを発行したとしても」という意味です。

 これが、本特例が適用されることによって、ポジションが次のとおり移動します。

 【古物商特例】
  ・控除できる
   1 法人+適格者+インボイス(原則)
   2 個人+適格者+インボイス+事業用資産(原則)
   6 法人+非適格者(特例)
   7 個人+非適格者(特例)
  ・控除できない
   3 法人+適格者
   4 個人+適格者
   5 個人+適格者+インボイス+家事用資産

 イケてない適格者グループ(3、4、5)が控除できない側にそのまま残されて、6、7の非適格者が特例によって控除できる側に入れるという、下剋上感あふれる展開に。


 ここまでは制度をそのまま説明しただけなので、次回、それで何が言いたいのか、ということを書きます。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
posted by ウロ at 09:27| Comment(0) | 消費税法

2023年09月10日

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺

 前回、暫定版として記事にしたもの、未だに煮えきらないままですが、補足を加えておきます。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版

7 消費者向け電気通信利用役務の提供者(未登録)
9 消費者向け電気通信利用役務の提供者(登録あり) 登録番号記載なし


 旧法において、「消費者向け電気通信利用役務の提供」が仕入税額控除の対象となるかは、次の建付けによっていました。

  ア 旧法30条1項    ◯ 控除対象となる
  イ H27法附則38条本文 × 控除対象とならない
  ウ H27法附則38条但書 ◯ 登録あれば控除対象となる

 これがインボイス施行後は次のとおりとなります。イウのルールはアに吸収されて、霧散霧消しました。

  ア 新法30条1項    ◯ 登録あれば控除対象となる

 このままなら7、9は控除対象外となるところです。
 が、H28法附則52条が「もしも旧法30条が今も生きていたならば」などという《復活詠唱》を唱えだしました。復活といってもゾンビ・アンデッドの類として蘇らせるようなものですが(ネクロマンサー的な)。

 これを7、9にそのままあてはめると次のとおりとなります。

  ア 旧法30条1項    ◯ 控除対象となる

 その結果、7、9は「旧30◯⇒新30×」となるため、8割特例が適用されることになってしまいそうです。

 これを手当するためでしょう、H30令附則24条があわてて「旧H27法附則38条本文も生きていたならば」などという《追加詠唱》を唱えだしました。

  ア 旧法30条1項    ◯ 控除対象となる
  イ H27法附則38条本文 × 控除対象とならない

 これによれば「旧30+旧附則×⇒新30×」となるため、8割特例は適用されないこととなります。

 が、廃止された法を令によって蘇らせるなんて、禁忌の類ではないでしょうか。下級ネクロマンサーが上級ゾンビを蘇らせるようなもので、そんなチート、現行制度の仕様上可能なのでしょうか(やりたい放題のオンラインゲーム運営会社を想起せよ)。


8 課税事業者(適格者) インボイスなし

 より問題なのがこちら。
 7、9は、H27附則38条をどうにか復活させることで手当をしようとしたわけですが、こちらは旧30条1項がどストレートに適用されてしまいます。どうやってこれを回避するつもりなのでしょうか。

  ア 旧法30条1項    ◯ 控除対象となる

 旧30条の異常にゆるゆるな控除ルールから、新30条の異常に厳格な控除ルールへ変更したことによって、8割特例の要件である「旧30◯⇒新30×」も広範囲に広がることなります。その結果が、8も適用範囲に入っているように読めてしまうことです。
 H28法附則52条をどう読めば8を適用範囲から外せるのか、ご存知の方がいらしたらご教示ください。


 なお、登録しておいてインボイス発行しないなんて、そんな奴いねえよ、と思われるかもしれません。

 が、「言われるがままに登録したはいいけど通知書がどっかいっちゃて番号分からないし、インボイスの書き方もよくわからん」という方が、少なくとも自分の顧問先を買手とする取引先にはいるだろうな、という予感があるわけです。
 その場合に、もし8割特例とれるならば、インボイスを発行してもらうためにわざわざ手間をかけることもせず、しばらく様子をみて3年経ってもそのままならフェードアウトする、という判断もありうるわけです。他方で、控除額が0ならば、そのままってわけにはいかないだろうと。


 以下、余談。
 
 どなたか、『無益な税実務本』発生史というものを研究していただきたいのですが、その際に発生源として挙げられるのは、前回もあげつらった「Q&A」のほかに、「税制改正大綱」と「税制改正の解説」が対象となるかと思います。

 8割特例の適用範囲につきそれぞれ確認してみると、次のような記述になっていました。

 税制改正大綱 「免税事業者等」
 Q&A      「適格請求書発行事業者以外の者
        (消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)」
 税制改正の解説「適格請求書発行事業者以外の者」
        「改正前の消費税法第30条第1項の規定がなお効力を有するものとした
         ならばその適用を受けるもの」

 税制改正大綱は「ヒト」、税制改正の解説では最初に「ヒト」で書きつつ、その後に条文通り「モノ」の観点からも記述されています。

 もし8割特例の解説として「免税事業者等」と書いてあったとしたら、改正法が成立した後も税制改正大綱の記述のままアップデートされていない、超絶無益改正本として切り捨ててよいと思います。
 他方で、「適格請求書発行事業者以外の者」と書いてある場合は、自分で条文を確認せずに、Q&Aまたは税制改正の解説の最初だけを鵜呑みにした無益改正本として、やはり切り捨ててよいと思います(果たして何冊残るでしょうか)。

 当ブログでは、《条文引き写し系》の法律書を散々批判してきましたが、ここでは条文引き写しすらできていない、より下のレベルの問題だということです。


 近時、租税法の世界でも「民事要件事実論」の成果を輸入しようなどという動きが一部あるわけですが。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
酒井克彦「クローズアップ課税要件事実論 第6版」(財経詳報社2023)

 そもそも、実体法レベルの要件が何なのか、ということすらまともに分析できていないのではないでしょうか。
 ここでも、条文に記載されていない「適格請求書発行事業者以外の者」などというものを、あたかも8割特例の要件であるかのように記述して満足してしまっているの、法律書としての最低限のお作法すら守られていないわけで。

 要件事実論を展開するのであれば、その前提として、条文から実体法上の要件を抽出する必要があります。で、それを要件事実として構成する、という手順を踏むことになります。
 ところが、この前段すらまともにできていない、というのが私の見立て。

 金子宏先生が展開された実体法重視の租税法学というプロジェクト、皆さんすっかり浸透した気になっているのかもしれませんが(ゆえに要件事実論に手を出したがる)。全くそんなことはない、と私は感じています。

「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
サラリーマンマイカー訴訟 〜生活に通常必要でも必要でなくもない資産

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴


平成28年度 税制改正大綱
 P.100 (別紙1)消費税の軽減税率制度 (国 税)
四 適格請求書等保存方式 8 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置
(1)適格請求書等保存方式導入後3年間の経過措置
 事業者が平成33年4月1日から平成36年3月31日までの間に国内において免税事業者等から行った課税仕入れについて一定の事項が記載された帳簿及び請求書等を保存している場合には、当該課税仕入れに係る支払対価の額に係る消費税相当額に80%を乗じた額を仕入税額として控除する。
(注)上記の「一定の事項が記載された帳簿及び請求書等」とは、上記三2の「適格請求書等保存方式が導入されるまでの間の措置」において仕入税額控除の要件を満たす帳簿及び請求書等をいい、帳簿にはこの経過措置の適用を受けたものである旨を、あわせて記載するものとする。

平成28年度 税制改正の解説
P.823 消費税法等の改正
三 適格請求書等保存方式の導入 5 仕入税額控除制度の見直し (2) 改正の内容
B 適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置
 @で述べたとおり、平成33年4月1日以後に国内において行った課税仕入れに係る仕入税額控除制度の適用については、原則として、適格請求書等の保存が要件とされますが、適格請求書等保存方式を円滑に導入する観点から、次に掲げる経過措置が講じられています。すなわち、次に掲げる一定期間においては、適格請求書発行事業者以外の者から行う課税仕入れであっても、改正前の消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等が保存されていることを要件として、仕入れに係る消費税額相当額の一定割合(80%又は50%)の控除が認められます。
 なお、改正前の仕入税額控除制度における請求書等の記載事項については、複数税率に対応するための読替えが行われています(改正法附則52A、53A)。具体的には、区分記載請求書等保存方式における請求書等の追加記載事項(二3(3)ハ参照)と同様であり、また、当該追加記載事項については、請求書等の交付を受けた事業者による追記が認められています(改正法附則52B、53B)。
イ 適格請求書等保存方式の導入後3年間(平成33年4月1日から平成36年3月31日までの間)は、国内において行った課税仕入れ(改正後の消費税法第30条第1項の規定の適用を受けるものを除きます。)のうち、改正前の消費税法第30条第1項の規定がなお効力を有するものとしたならばその適用を受けるものについては、当該課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8(当該課税仕入れが軽減対象資産の譲渡等に係るものである場合には、108分の6.24)を乗じた金額の80%を、課税仕入れに係る消費税額とみなして、改正後の消費税法第30条第1項の規定が適用されます(改正法附則52@)。
 この場合において、改正前の消費税法第30条第9項に規定する請求書等を、改正後の消費税法第30条第9項に規定する請求書等とみなすこととされています(改正法附則52A)。
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2023年09月08日

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版

 免税事業者等からの仕入についての経過措置(8割特例、5割特例)、適用範囲を正確に理解できているでしょうか(自問)。
 ざっくりレベルで交通整理だけしておきます(条文は8割特例のみ)。中身はかなりの生煮え状態です。


 条文(平成27年法附則38条)の書きぶりからは、「旧30条では控除できていたのに、新30条では控除できなくなる場合」を対象としているように読み取れます。
 では、具体的に、以下の者からの課税仕入のどこまでがこれにあたるでしょうか(インボイスなしでも区分記載請求書は発行されているものとします)。

 1 消費者
 2 免税事業者
 3 課税事業者(非適格者)


 これらはあたるということで問題ないですよね。運営謹製「Q&A」にもまんまそのとおり記載されています。
 が、お得意の「等」が入っていないことから、この3つしかないと考えているのかどうか。

インボイス制度に関するQ&A(国税庁)
免税事業者からの仕入れに係る経過措置(P137)

 「適格請求書等保存方式の下では、適格請求書発行事業者以外の者(消費者、免税事業者又は登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除のために保存が必要な請求書等の交付を受けることができないことから、仕入税額控除を行うことができません(新消法30F)。
 ただし、適格請求書等保存方式開始から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています(28年改正法附則52、53)。」


 4 事業者向け電気通信利用役務の提供者

 「特定課税仕入」は課税仕入とは別枠なので対象外です。

 5 課税事業者(適格者)+インボイス
 6 消費者向け電気通信利用役務の提供者(登録あり)+インボイス


 こちらは新30条の適用ありなので対象外となります。


 ここまではストレートに結論導けるのですが、問題はここから。

 7 消費者向け電気通信利用役務の提供者(未登録)

 旧30条だけみれば適用できることになるので、対象となるでしょうか。
 あるいは、平成27年法附則38条もあわせて読めば旧30条の適用が除外されることになるから、対象外となるでしょうか。

 政令(平成30年令附則24条)には結論が書いちゃってあるのですが、これが法律の解釈から出てくるものなのかどうか。

 8 課税事業者(適格者) インボイスなし

 適格者がインボイスを発行してくれず、従前の区分記載請求書の形式のままだった場合です。
 この場合も旧30条なら適用されていたとして対象となるでしょうか。

 運営の「Q&A」は意識的にこの場合を除外しているように読めますが、果たして条文解釈としてそのような結論が導き出せるでしょうか。
 というのも、たとえば《古物商特例》などは明確に適格者からの買取りを除外しているわけですが、8割特例についてはそれが読み取れない。新30条は「インボイスに記載された消費税額を控除できる」と書いてあるだけなので、適格者が区分記載請求書しか発行してくれない場合は新30条が適用されない⇒8割特例適用ありとなってしまうように読めてしまいます(読み込みが甘い?)。

 運営の「Q&A」及びそれを母体とするこの世の全ての「インボイス解説本」では、8割特例の適用範囲が「誰から仕入れたか」で規律されているかのように記述しているものと思われます。が、現実の条文は、誰から仕入れたかにかかわらず「旧適用あり⇒新適用なし」かどうかで判定することになっています。
 どこでこんな認識のズレが生じてしまったのでしょうか。ちなみに、条文見出しはただの飾りです。

 9 消費者向け電気通信利用役務の提供者(登録あり) 登録番号記載なし

 登録しているのに請求書に「登録番号」を記載してくれなかったが、区分記載請求書の要式は満たしていた場合です(ためにする事例)。
 この場合、旧30条だけみれば対象となりそうですが、7と同様、平成27年法附則38条と合わせて一本で旧30条の適用が除外されるから、対象外となるでしょうか。


 一覧にすると以下のとおり。
 「旧30◯⇒新30×」となる場合が対象となるはずで、123が対象の典型例、456が対象外の典型例となります。789がはっきりしないという状況です。

  旧30 附則 ⇒ 新30
1 ◯       ×   対象
2 ◯       ×   対象
3 ◯       ×   対象
4 −       −   対象外
5 ◯       ◯   対象外
6 ◯  ◯    ◯   対象外
7 ◯  ×    ×   対象外?
8 ◯       ×   対象?
9 ◯  ×    ×   対象外?

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴

◯旧法

(仕入れに係る消費税額の控除)
第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。

附 則 (平成二七年三月三一日法律第九号)
(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
第三十八条 事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者(新消費税法第二条第一項第四号の二に規定する国外事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)から受けた電気通信利用役務の提供(同項第八号の三に規定する電気通信利用役務の提供をいい、同項第八号の四に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下この条及び次条において同じ。)に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。ただし、当該国外事業者のうち登録国外事業者(次条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)に該当する者から受けた電気通信利用役務の提供については、この限りでない。

◯新法

(仕入れに係る消費税額の控除)
第三十条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。

附 則 (平成二八年三月三一日法律第一五号)
(適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置)
第五十二条 事業者(新消費税法第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。以下この条及び次条において同じ。)が、五年施行日から五年施行日以後三年を経過する日(同条第一項において「適用期限」という。)までの間に国内において行った課税仕入れ(新消費税法第三十条第一項の規定の適用を受けるものを除く。次条第一項において同じ。)のうち、五年改正規定による改正前の消費税法(以下この条及び次条において「旧消費税法」という。)第三十条の規定がなお効力を有するものとしたならば同条第一項の規定の適用を受けるものについては、同条第九項に規定する請求書等又は当該請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(平成十年法律第二十五号)第二条第三号に規定する電磁的記録をいう。次項並びに次条第一項及び第二項において同じ。)を新消費税法第三十条第九項に規定する請求書等とみなし、かつ、当該課税仕入れに係る支払対価の額(同条第八項第一号ニに規定する課税仕入れに係る支払対価の額をいう。次条第一項及び附則第五十三条の二において同じ。)に百十分の七・八(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等(新消費税法第二条第一項第九号の二に規定する軽減対象課税資産の譲渡等をいい、消費税法第七条第一項、第五条の規定による改正後の同法第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。第三項及び次条第一項において同じ。)に係るものである場合には、百八分の六・二四)を乗じて算出した金額に百分の八十を乗じて算出した金額を新消費税法第三十条第一項に規定する課税仕入れに係る消費税額とみなして、同条の規定を適用する。この場合において、同条第八項第一号ハ中「である旨)」とあるのは、「である旨)及び所得税法等の一部を改正する法律(平成二十八年法律第十五号)附則第五十二条第一項の規定の適用を受ける課税仕入れである旨」とする。

附 則(平成三〇年三月三一日政令第一三五号)
(国外事業者から受ける電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
第二十四条 事業者が、五年施行日から令和十一年九月三十日までの間に国内において行った課税仕入れのうち、二十八年改正法第十八条の規定による改正前の二十七年改正法附則第三十八条第一項本文の規定がなお効力を有するものとしたならば同項本文の規定の適用を受けるものについては、二十八年改正法附則第五十二条及び第五十三条の規定は、適用しない。
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2023年08月28日

熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)

 インボイス解説本に関しては、「雨後の筍!!」って感じで大量発生しているわけですが。
 消費税法全体を解説したものがまあ少ない。件の教科書はあんな有様ですし。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 なお、運営のQ&Aが「雨」に相当しますが、解説本のほうは「筍」なんて上等なものとは思えず。各自、雨の後に大量発生する何かでご想像ください。



 熊王征秀「消費税法講義録 第4版」(中央経済社2023)

 本書は令和元年に初版がでてから、もう第4版。いい加減ちゃんと読まないと、と思い立ってどうにか通読しました。


 これだけのボリュームがある法令の実務書だというのに、判決の引用がただの1件もない、というのは、揉め事の領域には触れないという執筆方針なのか。
 本書には「ちゃんと条文を読め」的なことが書かれていて、それは仰るとおりなんですが。法律の実務書だというのに「法解釈論」にまでは及んでいない。「文理解釈」一本でどうにか乗り切れ、みたいなことか。

 まあ、それはそれで潔いと思います。法解釈論を展開するのは実務家よりも学者が率先してやるべきことですし(だというのに、件の教科書は(以下略))。


 制度に対し批判的に検討しているのも、平成22年改正の旧3年縛りのところだけ。そこだけ裁決まで持ち出してやたらと詳しく検討しています。
 それ以外のところは、通達ベースの解説が基本となっています。

 個人的には、旧3年縛りをそこまで批判するんだったら、そもそも、なぜ非課税対応の課税仕入が控除対象外となるのか、とか、居住用賃貸建物の課税仕入を全面的に控除対象外としてもよいのか、といった点についても、深掘りしてほしいところでした。
 が、残念ながら、控除対象外となることは前提とした上での検討なので、どうにも肩透かし。


 本ブログにおける一連のインボイスの記事、個々の運用よりも、消費税法全体の中でインボイス制度がどのように組み込まれるか、ということに対する関心からスタートしています。
 本書を読もうとした動機も、インボイスのみの解説本では分からない、消費税法全体の中におけるインボイス制度の位置づけを知りたいと思ったからです。

 が、本書におけるインボイス制度の位置づけ、「第5章 課税標準(対価の額)・税率」と「第7章 税額控除」の間に「第6章 インボイス制度」として挟み込まれているだけで、おおむね同章の中で説明が終わってしまっています。
 たとえばですが、「電気通信利用役務の提供」とインボイス制度との関係がどうなるかとか、そういった論点に触れられることもなく。


 法人税法では確定申告期限の延長の制度があるが、消費税法にはない(P690)と書いておきながら、そのすぐ後(P693)に令和2年改正の延長制度の説明があるのは、まあご愛嬌。

 というか、令和2年改正ということは「第2版」で反映されたわけで、その後誰も指摘してあげなかったのか。どこかのドマイナーな税理士が書いた本ならともかく、消費税界のスーパースターが書いた本ですら、誰も指摘してあげないとか。なかなか世知辛い感じですね。


 と、批判的な観点からあれこれ論難してますが、私の個人的な関心事が、本書のメイン読者とはズレているというだけでしょう。

 個々の制度について、図表や具体的な数字を使って説明してくれているので、とても分かりやすくなっています。私自身も「日常系」の税理士という立場から読めば、オススメできる内容となっています。
 変則的な角度からみると、徹底的にイジりの対象となってしまう、というだけの話です。悲しいかな、そういう読み癖がついてしまっている。

 ページ数が多いのも、かなり細かいところまで、具体例を使って説明をしてくれているからです。本書を通読しないまでも、他著で理解できなかった箇所を本書で補うという使い方でいいと思います。


 ただ、本書の致命的な欠陥が、具体例で「しか」説明しない箇所がある点です。定義付けがすっ飛ばされている。通常の法律書を読んでいる人間からすると、ものすごい違和感を感じます。
 たとえば、特定新規設立法人における「非支配特殊関係法人」については、具体例の中で出てくるだけで(P230)、定義なり規範命題なりが記述されていません。ので、他の事例ではどうか、という応用が全く効かない。

 まあ、ちゃんと記述しようとすると、どうしても条文引き写しになってしまうので「自分で条文読んどけや」ということなのかもしれません。が、難解な条文ほど解きほぐしが必要だと思いますが。
 このように、レガシーな税制とは違って、今どきの税制は込み入っていて柔らかく表現することが困難になっています。このことが、巷の節税本クリエイターの方々が、今どきの制度を記述しきれていないことの原因でもあります。
 昔の感覚で「税法条文読め」と言ってしまうのは、現代っ子にとってはなかなかハードルが高い。

 ということで、これだけ分厚い(&お高い)本でありながら、本書1冊では消費税法を理解するには及ばず。やはり、他著の抽象的な記述をイメージ化するための補助デバイスという位置づけがいいのかもしれません。


 なお、最後に、本書に対する故山本守之先生の書評が載せられています。
 私には、本書が消費税を「預かり」として説明していることに対して、暗に批判をしているように読めるのですが、そのことへの応答は特になく。そのまま載せている。

 以下、本書から離れた余談。

 消費税は「預かりもの」だから、ということで「納税なき控除」をインボイスで潰すことには賛成しておきながら、「控除なき納税」に対しては無批判に受け入れていることとか、およそ一貫していないと私は思っています。
 消費税法全体をもって、消費者に税負担を転嫁する仕組みだと捉えるならば、賃貸住宅のオーナーが消費税を負担するような制度(居住用賃貸建物の特例)なんて、おかしいはずです。どうやって正当化するというのか。
 消費税を「預かりもの」とするかどうかは、所詮決め事の問題なので、立法論レベルの話となるわけですが、「預かりもの」として性質決定したならば、制度全体をそれに沿った設計として構築すべきでしょう。

 「(極端な)手形取引の安全保護」という命題から一貫した理論構築がされている『前田手形法理論』の洗礼を受けた法学徒からすると、「消費税は消費者が負担すべき」といいながら、それと矛盾する制度が堂々と組み込まれている消費税法の理論構造には、違和感しかないのですが。

前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣 1983)
 
 そういった問題意識をもった書籍が現れることを期待しておきます。
posted by ウロ at 10:07| Comment(0) | 消費税法

2023年08月21日

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)

 前回に引き続いて《媒介者交付特例》の話ではあるのですが。以下、少し助走距離をとります。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)


 税制の基本型について、通常は《国×納税者》の二項対立で捉えておけば足ります。
 たとえば「法人税」において、売手の売上計上基準と買手と仕入計上基準が異なっていたとしても、どちらかにあわせなければならない、などということはなく。国×売手、国×買手のそれぞれの課税関係が別々に問題になるだけです。
 また、二項対立の税制で「特例」といえば、国が損して納税者が得する制度ということになります。売手が特例によって得をしたからといって、それによって買手が損することにはなりません。

 他方で、税制の中には《三つ巴》のものがあって。
 典型例が「源泉徴収」絡みです。表向きは《国×徴収される者》との間は無関係で、《国×徴収する者》だけに課税関係があることになっています。が、《国×徴収する者》のしわ寄せが《徴収する者×徴収される者》に及ぶことがあり。徴収される者も安穏とはしていられません(なお、そのとき国は高みの見物をしています)。

 「消費税法」も同じく三つ巴、というのが私の見立て。
 ですが、そこでいう三者は《国×課税事業者×消費者》では決してなく。《国×売手事業者×買手事業者》というのが実相で、インボイスの正式導入によって、その度合はさらに深まったように思います。
 「消費者」は、消費税法の世界においては売手事業者の向こう側にいる人で、外部の人どまりです。


 さて、なぜこのような助走をとったかというと。

 上述したとおり、通常、税制における「特例」と呼ばれるもの、何かしら納税者側に有利なもののはずです。が、これは二項対立系の税制であればそのとおりなのですが、三つ巴系の税制においては、必ずしもそうとは限りません。

 たとえば、《公共交通機関特例》であれば、
  ・交通機関は少額の旅費にまでインボイスを発行しなくてもすむ(発行義務の免除)
  ・利用者は少額の旅費にまでインボイスをもらわなくてもすむ(仕入税額控除の緩和)
と、売手・買手双方にとってメリットがあります。
 他方で、国はインボイスがないものについても税額控除を認めないといけないので、(ある意味)損をすると。

 では《媒介者交付特例》においてはどうなっているでしょうか。
 以下、プレーヤーごとにみていきます。


《想定事例》
  A 貸主(委託者)
  B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
  C 借主 10社

 事業用の賃貸ビル(オフィスビル)1棟で、借主が10社いると想定してください。

A 貸主(委託者)

 原則:C1〜C10に対し、A番号のインボイスを発行しなければならない。
 特例:BだけにA番号を通知すればいい。

 特例によって圧倒的に楽になります。

B 不動産管理会社(媒介者)

 原則:なし
 特例:AからA番号の通知を受ける。
    B番号のインボイスをCに発行する。
    インボイス控えをAに交付し、保存する。

 Aが自分でインボイスを発行する場合と比べると、当然手間は増えます。
 が、B番号で済むので、自社発行の請求書(仲介手数料とか更新手数料を請求しているやつ)と同じ書式で済ませることができます。

 ここまではいいとして、問題は借主Cです。

C 借主

 原則:AからA番号のインボイスをもらう。
 特例:BからB番号のインボイスをもらう。

 これだけ書くと、インボイスをもらう人が入れ替わるだけじゃん、と思うかもしれません。
 が、実際にCが税額控除を取るためには、次の確認が必要となります。

 原則:
  ア Aからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
  イ Aの番号が支払時も有効かを確認

 特例:
  ア Bからもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
  イ Aの番号が支払時に有効かを確認
  ウ Bの番号が支払時に有効かを確認
  エ AがBに通知をしていたかを確認

 実務的に、ここまで実際にやるかどうかは別として。
 Aの番号は、インボイスに記載しなくてもいいというだけで、それが有効であることは媒介者交付特例によって仕入税額控除を受けるためには必要な要件です。
 媒介者交付特例を受けるかどうかは、売手側(媒介者主導?)によって勝手に決められてしまうことで、買手側で原則どおりAが発行せよと強制できるものではないでしょう。

 特例イエについては管理会社Bがきちんとやってくれているはずだ、なんていうのは、まるで保証のない空手形。もちろん、要件満たさず税額控除がとれなかった場合に、ABに損害賠償請求をすることは考えられるでしょうが、対税務署対応ということでいえば、やはりCが自分で確認しなければなりません。

 このように、売手・媒介者が楽になるのと引き換えに、そのしわ寄せがもれなく買手側に押し付けられています。
 特例といいながら、買手にとっては税額控除の要件が加重されてしまっています。


 また、《公売特例》と比べてみても、《媒介者交付特例》の異様さが際立ちます。

C 買受人

 原則:
  ア A(債務者)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
  イ Aの番号が支払時に有効かを確認
 特例:
  ア B(執行機関)からもらったインボイスが形式要件を満たすかを確認
  イ Aの番号が支払時に有効かを確認

 《公売特例》の場合には、原則/特例とで、負担が増えることにはなっていません。ただ、A番号を自分で調べないといけないのか、B(執行機関)が教えてくれるのか、実務的には気になるところ。
 というか、Aが適格者かどうかが事前にわからなければ、入札価額も決められないんじゃないかと思いますが。


 ちなみに、お国の機関を通した執行手続なんだから、税関で「輸入消費税」を掠め取られるのと同じように、執行機関が消費税を掠め取ることにしちゃってもおかしくないのでは、とも思います。
 現行法上、消費税以外の「消費税等」はそういう感じになっているのですが(国税通則法39条、国税徴収法11条)、肝心の消費税については対象から除外されています。随分慎ましいなあと(なお、喩えとして「◯◯と△△ズ」から◯◯が脱退したみたいな、と言おうとしましたが、実名だと差し障りがありそうなので、各自で思い浮かべていただければ)。

【仕入税額控除の要件】
 輸入取引:税関が発行した輸入許可書を保存すればよい。
 執行手続:執行機関が発行した買受証明書を保存すればよい(ありうる制度構想)。

 さすがに、輸入消費税のごとく、売手が消費者・免税事業者であっても構わず徴収する、というわけにはいかないでしょう。なので、執行機関において売手が適格者かどうか確認し、適格者ならインボイス発行、非適格者ならインボイス不発行とすればよいのではないでしょうか。で、インボイス発行したら最優先で消費税を頂いてしまうと。


 このように、消費税法上における各種の「特例」、売手側・買手側双方にとっての優遇措置であるものと、そうでないものが混在していることになっています。

 だというのに、巷のインボイス解説本の中には、これら特例を無造作に横並びで扱っているものが大半。実際に使ってみたら(使われてみたら)どうなる?ということを具体的に考えてもいないんでしょう。運営の情報をコピペしているだけ、というのがよく分かります。

 インボイス制度の施行が目前に迫っていて、私の個人的な関心事からすれば、大量発生している《インボイス本》に対して何かしらの総括をしておきたいところ。ですが、いまいちまとめきれない。
posted by ウロ at 12:49| Comment(0) | 消費税法

2023年08月14日

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)

 前回の記事では、媒介者Bの番号をインボイスに記載させるのは「おかしい」というところまで説明しました。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)

 今回は「キモい」の核心に迫ります。


 《媒介者交付特例》のキモさの引き立て役として、同じ条数に収まっている《公売特例》に登場してもらいます。

消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
5 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、国税徴収法(昭和三十四年法律第百四十七号)第二条第十二号(定義)に規定する強制換価手続により執行機関(同条第十三号に規定する執行機関をいう。以下この条において同じ。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合には、当該執行機関は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該執行機関の名称及びこの項の規定の適用を受ける旨を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書又は適格請求書に記載すべき事項に係る電磁的記録を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。この場合において、当該執行機関は、財務省令で定めるところにより、当該適格請求書の写し又は当該電磁的記録を保存しなければならない。


《公売特例》
  A 滞納者
  B 執行機関(媒介者)
  C 買受人

 原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
 特例:BがCに対し、「B名称+公売特例適用」が書かれたインボイスを発行すればよい。

 【要件】
  ・Aが適格者
   執行機関が適格者である必要はなく、またAからBへの通知も不要となっています。

 《公売特例》についても要素を分解しておくと、次のとおりとなります。
  ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
  イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
  ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
  エ Bは適格者でなくてもいい ⇒わかる

 こちらのほうが、媒介者特例としてのあるべき姿に近いです。Bが適格者であることとかBの番号をインボイスに記載するとか、買手Cにとって余計なものを要求していませんので。
 そしてまた、Aが適格者でありさえすればインボイスにAの番号を記載しなくていい、というのも《実体課税》としての望ましい姿ということができます。


 では、同じ条数の中に収まっていながら、なぜ媒介者交付特例と公売特例とでこのような差があるのか(以下、媒介者交付特例の媒介者Bを「一般媒介者」と呼びます)。

 ふと思ったのが、一般媒介者が適格者であることを要求しているのは、決して家賃にかかる消費税に対する何かしらの証明を求めているのではなく。単に、「適格者なら信用できるはず」という根拠薄弱な想い入れに基づいたものなのではないでしょうか。
 一般媒介者Bが「適格者」だということは、お国の課税制度に素直に従ってくれている良い人なんだから、Aが適格者であることをきちんと確認した上でCにインボイスを発行してくれるはずだと(なお、非適格者に対する酷い扱いは、これまでの記事で検討したとおり)。

 これとの対比で、「執行機関」はお国の組織なので、まあ適格者でなくても大丈夫だろうと(国が登録しないなんてことはないでしょうが、要件として明示されていない以上はこういう理解になるかと)。

 めちゃくちゃ変なことを言っている自覚はあります。が、そもそも「媒介者Bの番号を記載すればいい」なんてストレンジな制度を理屈付けしようと思ったら、説明のほうもストレンジ不可避でしょうよ。


 これでどうにか説明できそう、と思ったのですが。5項(以下、令70条の12は略します)で引用されている国税徴収法2条12号の取り込み方に、若干の疑問。

 「国税徴収法」から定義をお借りしているということから、てっきり、公売特例が適用されるのは「租税債権」に基づく執行手続に限られるのかと思っていました。もしそうだとすると、公売特例の趣旨を『たとえお国(の組織)であろうとも、非適格者ならば信用できない。が、税徴収の場面に限っては処理をスムースにすすめるためルールを緩めよう。』と捉える必要があります。

 が、よくよく読んでみると、5項でいう強制換価手続には「租税債権」を回収する以外の執行手続も含まれているのではないかと思うようになりました。
 
国税徴収法 第二条(定義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十二 強制換価手続 滞納処分(その例による処分を含む。以下同じ。)、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続及び破産手続をいう。


 国税徴収法の中に「強制執行」(担保権実行等は略します)という用語がでてくるのは、すでに私債権に基づき強制執行が開始されているところに、徴収当局が乱入してくる場面を規律する必要があるからです。
 ただ、5項は強制換価手続の定義だけを取り出してお借りしているので、単に「強制執行」という用語だけが5項に取り込まれることになります。「租税債権」が絡む場面だという限定は、国税徴収法の中に収まっているかぎりで事実上そうなるというだけであって。国税徴収法から外に取り出した時点で外れてしまいます。
 そうすると、5項は「租税債権」が絡む場面にかぎらず、純粋な「私債権」だけが回収対象となっている強制執行の場面にも適用されることになります。

 運営発行の資料含め、5項を《公売特例》呼ばわりしているわけですが、この読み方が正しいとすると《競売特例》でもあるということになります。

 しかしまあ、お国の側も、インボイスが取引の阻害要因であることは、十分自覚があるようです。だからこそ、お国が運営する執行手続がスムースに進められるよう、特例を設けているわけですよね。

 なお、毎度おなじみ『税制改正の解説』では、「滞納者」としか書かれていないことから、「租税債権」が絡む場面に限定されているかのような書きぶりになっています(P.697)。

令和4年度 税制改正の解説(財務省)

 が、上記の通り、条文上はそのような限定はされていないのであって。
 運営が「俺はこういうつもりで作った」(立案者意思)なんて言っているのは、プロット段階でちょろっと口出しをした《自称》共同制作者のアレオレ詐欺みたいなものです。税法解釈においては、オリジナル(条文)から読み取れる趣旨に限定すべき、というのがこれまで本ブログで再三述べてきたところです。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?


 さて、媒介者交付特例のキモさの根源。この適格者に対する根拠のない信頼感を感じ取ったからだというのが、私自身の分析結果。
 適格者であるというだけでお国の組織と同格扱いしちゃうなんて、その感覚キモい!ということかと。

 しかも、お国が勝手に信頼しちゃっているだけならともかく。媒介者Bの番号が書かれたインボイスなんて不完全なものでもよいと扱うことで、買手側にも適格者に対する信頼を強要しているわけですよね。
 『俺の愛した適格者を、お前も愛せよ。』みたいな話。

 ただ、これはあくまでも私の感じたことであって。皆様方もそれぞれキモいとお感じになったポイントがあるのではないでしょうか。
 それぞれ、その感覚をお大事になさってください(《感情税法》の世界)。

 キモいに関しては以上のとおりですが、この特例についてはもうちょい引っかかる部分があるので、次週に続けます。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編32)
posted by ウロ at 09:32| Comment(0) | 消費税法

2023年08月07日

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編30)

 媒介者交付特例を「キモい」呼ばわりしたのは、人類史上、私が初めてではないかと自負しております。
 が、だからといって《先行者利益》を貪るつもりはなく。この気持ち、以下の説明をもって皆さんにも共有していただきます。

免税事業者Requiem(第3曲) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編29)


 「媒介者交付特例」について説明しておくと、次のようなものです。

《媒介者交付特例》
 A 売手(委託者)
 B 媒介者(受託者)
 C 買手

 原則:AがCに対し、Aの番号が書かれたインボイスを発行する義務がある。
 特例:BがCに対し、Bの番号が書かれたインボイスを発行すればよい。

 【要件】
  ア ABとも適格者(適格請求書発行事業者)
  イ AがBに対し、取引前までに自分が適格者であることを通知

消費税法施行令 第七十条の十二(媒介者等による適格請求書等の交付の特例)
1 事業者(適格請求書発行事業者に限る。)が、媒介又は取次ぎに係る業務を行う者(適格請求書発行事業者に限る。以下この条において「媒介者等」という。)を介して国内において課税資産の譲渡等を行う場合において、当該媒介者等が当該課税資産の譲渡等の時までに当該事業者から登録を受けている旨の通知を受けているときは、当該媒介者等は、当該課税資産の譲渡等を受ける他の者に対し法第五十七条の四第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項、同条第二項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項又は同条第三項(第一号に係る部分に限る。)の規定により記載すべき事項に代えて当該媒介者等の氏名又は名称及び法第五十七条の二第四項の登録番号を記載した当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書、適格簡易請求書若しくは適格返還請求書(以下第七十条の十四までにおいて「適格請求書等」という。)又は適格請求書等に記載すべき事項に係る電磁的記録(法第五十七条の四第五項に規定する電磁的記録をいう。以下この条及び次条において同じ。)を当該事業者に代わつて交付し、又は提供することができる。


 どういう意味で特例なのかというと、
  ・発行義務者:発行するのは売手Aではなく媒介者Bでよい。
  ・記載事項:売手Aの番号でなく媒介者Bの番号でよい。
ということになります。

 この時点で「キモっ!」って感じていただけたならば、私と感覚が近い方だと思われます。
 まだいまいちピンとこないという方のために、もう少し踏み込みます。

 以下、イメージしやすい例として、事業用賃貸物件(オフィスビル)の「不動産管理」を想定します。家賃のやり取りをするにあたって、どのようなインボイスが必要となるか、という問題です。

《不動産管理(事業用賃貸物件)》
  A 貸主(委託者)
  B 不動産管理会社(受託者・媒介者)
  C 借主

 なお、不動産管理において、AがBを「介して」Cに貸付けをしていると言われると、違和感があります。が、運営の見解では、請求書発行とか集金の代行程度でも「媒介者交付特例」の適用あり、としているので、不動産管理にも適用されるという理解を前提としておきます。


 これまでの一連の記事でも検討したとおり、インボイス後の消費税法の基本構造は次のようになりました。

  売上:問答無用の実体課税ルール
  仕入:実体+厳格な形式による税額控除ルール

 売上側の課税ルールは、形式は気にせず課税資産の譲渡という実体があるかぎりは課税されます。こちらは従前どおりです。
 他方で、仕入側の税額控除ルールについては、実体があるだけでは足りず、インボイスという厳格な形式がないかぎりは控除されないこととなりました。

 このハイブリッドぶりが奇妙なのはさておき。控除側に厳格な形式要件が課せられていることを正当化する根拠として、「インボイスは売手側の『課税証明書』だからだ」といったことが言われることがあります。
 もちろんこの理由付けに対して私が否定的なのは置いておくとして。

 この根拠を頭の片隅においた上で「媒介者交付特例」の中身を分解してみていくと、
  ア Aはインボイスを発行しなくていい ⇒わかる
  イ Bがインボイスを発行すればいい ⇒わかる
  ウ AはインボイスにAの番号を書かなくていい ⇒わかる
  エ BはインボイスにBの番号を書けばいい ⇒キモっ!

 エがキモいんですよ。

 Cにとって、自分が家賃に含めて支払った消費税がきちんと納税されているかどうかは、Aが適格者であるかどうかにかかってきます。Bが適格者かどうかなんて全く全然何にも関係ないです。

 「Aの番号を省略してもいい」というのは、たとえば「旅費特例」のような発行義務免除系の特例もあることからすれば、理解できます。が、なぜここでBの番号が出てくるのか。Cにしてみれば、Bから「俺は消費税を納税してるぜ!」なんてアピールされたところで、「いらない情報」でしょう。

 なお厳密には、「課税証明」と言うならばAが適格者である必要もなく。課税事業者でありさえすれば非適格者でもいいわけで。
 この「非適格である課税事業者」の存在についても、本ブログで散々イジってきたところ。ですが、今回は触れません。

 「インボイス本来の目的からすればBの番号はいらないはずだ」というのは、制度設計として「おかしい」というだけであって。これだけでは決して「キモい」という感情にまでは到達しません。

 では、私が「キモい」と思う正体は何でしょうか。
 すでに共感いただいている方もいらっしゃるかもしれませんが、次週に続けます。

《媒介者交付特例》がキモいのだが(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編31)
posted by ウロ at 10:13| Comment(0) | 消費税法