2022年11月21日

「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)

 インボイス後は、以下の現象をどのように説明できるか、という話です。

ア 免税事業者
 免税事業者(Aといいます)はインボイスを発行できないので、建前上、売上先から消費税をもらえないことになります。一方でAが課税仕入(インボイス有)をしても税額控除(還付)を受けることはできません。
 消費税をもらっていないことが明確であるにもかかわらず、消費税を負担しなければならないことについて、どのように説明ができるでしょうか。

イ 非登録である課税事業者
 インボイス登録をするかは任意となっています。そのため、《非登録である課税事業者》(Bといいます)というカテゴリーが存在することになります。
 Bは売上に対する消費税を納付しなければなりませんが、他方で、Bから課税仕入をした事業者(Cといいます)は税額控除を受けることができません。
 Bが消費税を国に納付しなければならないのに、Cがそれに対応する税額の控除を受けられないことは、どのように説明ができるでしょうか。


 イで、Bに消費税を納付させておきながら、Cが税額控除を受けられないのはなぜなのか。
 まさに、この現象が「転嫁する世界」と「転嫁される世界」の分断が生じているところになります。というか、この現象が生じるせいで、2つの世界を分断して理解せざるをえなくなったということです(手形行為を債務負担行為と権利移転行為に分解する的な?)

前田庸『手形法・小切手法入門』(有斐閣 1983)

 実際の取引において、BCどちらが実際に税負担をすることになるかは、力関係次第でしょう。いずれにしても、BCの負担において国庫が過剰な税収入を得ていることになっています(損税問題)。
 現行制度の《益税》問題を敵視しておきながら、今後は、逆方向の《損税》問題を生み出してしまっています。このことを正当化することは可能でしょうか。

 インボイスがあろうがなかろうが、Bが課税事業者である以上、売上に対する消費税を納付しなければなりません。
 この原資はCが支払った金額そのもののはずです。なのに、「Bからみると(売上)消費税だがCからみると(支払)消費税でない」という《二枚舌現象》が生じてしまっています(ここでいう消費税は、控除対象になるものを指しています)。

【税法二枚舌概念】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」

 インボイス推進派が撲滅しようとしたはずの、「Cからみたら(支払)消費税だがA(免税事業者)からみたら(売上)消費税でない」という現象と、何が違うというのでしょうか。

 「Aが消費税をもらっておきながら納付しないのはけしからん!ネコババ!」
 「Cが消費税を払ったのに控除できないのは、まあどんまい。」

 バランス感覚が壊れてるとしか思えない。

 これをどうにか正当化しようとするならば、国が作った〈税転嫁連鎖システム〉に参加する意思のない反逆思想の持ち主を事業取引に闖入させた(C)、あるいは闖入した(B)ことに対するペナルティ、とでもいうしかないのでは。
 まともな課税根拠とは決して思えませんが。

 ちなみに、「簡易課税」を選択した事業者からの仕入が税額控除できるというのは、《疑似》とはいえ一応「転嫁される世界」に参加しているからギリセーフ、ということなのでしょう。


 よくよく考えると、〈税転嫁〉を実現するためだけだったら、税額控除の要件として「登録+帳簿+インボイス」の全てを要求するのは過剰だと思います。
 単に、仕入先が「課税事業者」でありさえすれば十分なはずです。

 仕入先が課税事業者かどうかは、現行の「届出・申請制度」を活用すれば、課税庁側で把握できますし、それを公開制度として転用すれば済みます。多少の手直しは必要でしょうが、少なくともインボイス制度のように大々的に新制度を構築するまでの必要はありません。「番号」も課税庁側で、勝手に課税事業者に付番していけばいいだけですし(「整理番号」的に)。

 にもかかわらず、わざわざコスト・負担をかけてまでインボイス制度を導入しようとするのは、「インボイス漏れ」(登録もれ、発行もれ、記載もれなどなど)による課税ベースの拡大を図っているように邪推してしまいます。自販機の下が手が挟めないくらい空いているのは、そこに小銭を落としてもらうことを狙っている、的な(陰謀論)。
 性根のセコさの割に、事業者に多大な負担を掛けすぎです。

 さすがにこれは邪推だとして、税転嫁というお題目を前面にたてつつ、取引実態に加えてインボイスという形式を要求することによって、「調査実務」を楽にしたいという課税庁側の下心があるのは間違いないでしょう。
 効率化とかDXとかいいながら、調査のしやすさ主眼で帳簿書類の電子化を強行しようとするのと同じノリです。

 ここに、「諸外国」の真似っ子をしたい学者先生と、新規システムを売り込みたいベンダーの〈悪魔合体〉の結果生まれたのが、日本版インボイス制度ではないのかと。

【時間泥棒】


真・女神転生V(アトラス2021)

 課税庁・ベンダーについては、己の立場に素直に従っただけでしょうから理解はできます。が、学者先生の〈諸外国倣い癖〉については、まるで共感ができません。


 以上、インボイス後の消費税、表向きは、円滑な税転嫁をすすめることで消費に対する課税を強化するものであるように見えます。が、実際は、仕入側にだけ厳格な形式要件を設けることで、売上側の譲渡課税の側面を強める結果となっています。
 売上側の絶対的な実体課税と仕入側の絶対的な形式控除と、性質のかけ離れたものが組み合わされたことで、もはや「付加価値」のような実体のあるものに対する課税ではなくなっています。

 このような実態をどう評価するかはさておき、少なくとも、仕入税額控除の「権利」性を強調しておきながら、インボイス制度を手放しで褒め称えるという錯乱した態度だけは、決して許されるものではないことは分かります。厳格な形式を要求することによって、ちゃんと実体があっても控除できなくなるわけで。
 かの教科書が、それを学習段階で植え付けようとしているのだとしたら、極めて悪質。

 インボイス制度は、それ単体を取り出してあれこれ評価すべきものではなく。売上側の規律とのセットで評価すべきものだと思います。
posted by ウロ at 11:36| Comment(0) | 消費税法

2022年11月14日

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)

 インボイス後の消費税、もはや事業者に対する「付加価値税」として位置づけることは無理なんでしょうね。
 では、名称どおり「消費」に対する課税といってもよいでしょうか。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 インボイス後に生じる以下の現象を通して考えてみます。

ア 免税事業者
 免税事業者(Aといいます)はインボイスを発行できないので、建前上、売上先から消費税をもらえないことになります。一方でAが課税仕入(インボイス有)をしても税額控除(還付)を受けることはできません。
 消費税をもらっていないことが明確であるにもかかわらず、消費税を負担しなければならないことについて、どのように説明ができるでしょうか。

イ 非登録である課税事業者
 インボイス登録をするかは任意となっています。そのため、《非登録である課税事業者》(Bといいます)というカテゴリーが存在することになります。
 Bは売上に対する消費税を納付しなければなりませんが、他方で、Bから課税仕入をした事業者(Cといいます)は税額控除を受けることができません。
 Bが消費税を国に納付しなければならないのに、Cがそれに対応する税額の控除を受けられないことは、どのように説明ができるでしょうか。


 これまでにも示唆したとおり、売上(転嫁する)側と仕入(転嫁される)側とで作動する理屈が違うと理解するしかないのではないかと思っています。

 例の「■消費税の負担と納付の流れ」の図のように、綺麗に税転嫁が流れていくというのは現実にそぐわない。

消費税のあらまし(令和4年6月)
 第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1

 イメージとしては、

  生産業者−製造業者−卸売業者−小売業者−消費者

という単線ではなく。

 ・転嫁する世界線(売上):  生産業者→製造業者→卸売業者→小売業者→消費者
 ・転嫁される世界線(仕入): 生産業者←製造業者←卸売業者←小売業者←消費者

と2つの別々のラインがあって、これが最終的に申告書上で重なるだけ、というのがしっくりきます(以下、便宜的に生産者側を「上流」、消費者側を「下流」といいますが貴賤の区別はありません)。


 まず、転嫁する世界線(売上)について。

 請求書に消費税を記載しなかったとしても、あるいは、経済的な意味で下流に税額を転嫁できなかったとしても、問答無用で売上×10/110(便宜的に地方税含む)の消費税をもらったことにされてしまいます。
 事業取引に参加して売上をあげた以上は、強制的に売上に課税されてしまうということです。

 自社で負担したくなければ下流に転嫁することになるわけですが、強制的に転嫁できるものでもありません。法人税などと同じで、税負担を考慮して価格設定を上増しできるか、という話です。
 あえて法人税との違いがあるとしたら、税目が「消費税」という名称なので、最終的に消費者負担となることに対して、法人税ほどの心理的抵抗が少ない、という程度でしょうか。お気持ちの問題。

 実際、条文の書きぶりも、事業者の「譲渡」に課税することになっていて。その先、消費者に転嫁することについて何某かの保証を消費税法が担保してくれているわけではありません。
 これが「源泉税」であれば、もともと受領者の所得に対する課税負担があり、それを支払者が先行して徴収している、と説明をすることができます。ところが、消費税については、消費者の消費に対する課税負担というものが消費税法に規定されていません。
 とすると、やはり事業者の譲渡に対する課税といわざるをえません。

 上記引用の「あらまし」(P.1)には、

[2]消費税の負担者
 消費税は、事業者に負担を求めるものではありません。税金分は事業者が販売する商品やサービスの価格に含まれて、次々と転嫁され、最終的に商品を消費し又はサービスの提供を受ける消費者が負担することとなります。


などと書かれていますが、常にそうだったらいいのにねレベルの与太話です。
 しかも、例の「Q&A」では、財務省は、他の官庁のご機嫌を伺ってかどうか知りませんが、他の官庁と一緒になって「(転嫁の連鎖に参加しない)免税事業者を不利益に扱うことが独禁法・下請法違反になりうる」などと脅しをかけているわけで。矛盾にもほどがある。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A

 このように、消費税は、事業者が事業取引の世界において売上をあげたことに対して課税するものであり、消費者が最終的に負担してくれるかどうかは企業努力次第、ということができると思います。

 そして、上記のBがインボイスを発行していないにもかかわらず消費税を納付しなければならないことについては、「事業で売上をあげたから、ただそれだけ。」という説明をすることになります。インボイス云々といった「転嫁される世界」の話は無関係なんだと。
 というか、インボイスを絡めた説明はおよそ不可能ですよね。


 では、A(免税事業者)が税額控除を受けられないことはどのように説明できるでしょうか。

 この点は、免税選択した(課税選択しなかった)ことにより、上記「転嫁する世界線」にも「転嫁される世界線」にも参加しないことを事業者自らが選択したから、という説明できるかと思います。
 免税制度というのは、税転嫁の連鎖に加わらないことを選択する制度なんだと。

 ちなみに、「簡易課税」の場合は、「転嫁する世界」に参加しつつ、「転嫁される世界」に《疑似》参加するものだということができるでしょう。

 一旦区切って、次回に続けます。

「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 10:55| Comment(0) | 消費税法

2022年11月07日

合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)

 「二重課税」どころの話じゃないと思うんですよ。
(以下、慣用的に「二重課税」と表現しますが、2つ以上の税目を視野に入れています)

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)


 「二重課税」問題について、教科書レベルだと、せいぜい「法人税と所得税」に関する古色蒼然とした議論とか、あるいは「長崎年金二重課税訴訟」などの局所的な判決後追いな記述くらいしか展開されていないのがほとんど。

長崎年金二重課税訴訟の要件事実(と称するところのもの)

 各章ごとにつらつらと税目が陳列されているだけで、それら税目の中に(不当な)二重課税と評価されるものはないのか、より広い視点から検討したものが見当たらない。
 もちろん、学術論文レベルではちゃんとあるのかもしれません。が、学習段階で無造作に税目ラッシュを浴びせるのが適切な教育といえるのか、疑問ありです。


 ここでは「法人」に課税される主な税目を、何に対する課税かという視角から分類してみます(地方税は「割」で分解)。

ア 所得に課税するもの
 ・法人税
 ・地方法人税
 ・法人税割(法人住民税)
 ・所得割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

 地方法人税、法人税割の課税標準は法人税額ですが、所得課税といってよいでしょう。
 というか、税金に税金をかけるって、よくよく考えると変ですよね。

イ 収入に課税するもの
 ・収入割(法人事業税)
 ・特別法人事業税

ウ 付加価値に課税するもの
 ・消費税(?)
 ・譲渡割、貨物割(地方消費税)(?)
 ・付加価値割(法人事業税)

 消費税(地方消費税)は「控除法」、付加価値割は「加算法」と計算方式は違いますが、付加価値に課税したいという目論見は同じでしょう。
 ただし、インボイス方式の消費税を付加価値税と呼んでよいかについては、前回までで論じたところです。私は、今回の整理でいうと、ウ(付加価値税)からイ(収入税)にはみ出していっているイメージを持っています。

エ 企業規模に課税するもの
 ・均等割(法人住民税)
 ・資本割(法人事業税)
 ・資産割(事業所税)
 ・従業者割(事業所税)

オ 取引規模に課税するもの
 ・印紙税

 おまけで印紙税も入れてみましたが、これもある種の「外形標準課税」ですよね。

 このような簡単な整理だけからでも、あらゆる視角から企業の事業活動を切り出して、あの手この手で課税しようとしている様が見て取れるかと思います。
 それぞれの税目は、それなりの正当化根拠をもって課税されているわけですが、すべてを合成してもなお、正当化できるようなものなのかどうか。

 ちなみに、「税効果会計」ではア(所得課税)が考慮対象となっており、その他は無視されます。これは会計基準側が中途半端というよりも、税法側が込み入りすぎで付き合いきれない、ということなんでしょう。


 また、これらの中でも、「損金算入」できるものとできないものとがあります。

【損金算入できるもの】
 事業税、特別法人事業税、事業所税、消費税・地方消費税(税込経理、控除対象外消費税)、印紙税

 そのせいで、「表面税率」のほかに「実効税率」なるものを計算しなければならないこととなっています。
 それはともかく、そもそも、なぜ税金の中に損金算入できるものとできないものがあるのか。

 特に、法人税と所得割のように、同じ分類に入っているにもかかわらず、そのような違いがある理由が不明です。
 事業者にとっては、どちらにしても事業コストとして計算するだけの話であって。もちろん、税率が同じなら損金算入のほうがうれしいわけですが、だったら、損金不算入で実効税率相当に税率を下げてもらうほうが、計算が簡単ですみます。
 しかも、事業税などは損金算入時期が「申告時」なので、所得等と税額が年度対応しません。「中間申告」のことも考慮するとさらに厄介。
 他方で、消費税等(税込経理)は、対応する年度に未払計上することも選択できるという謎仕様(一応、「期間税」ではないから、という理由付けが考えられますが、だとしたらなぜこちらが原則でないのか、という疑問が残ります。)

 おそらくですが、「事業税の本質は○○だ!」などといった性質決定が先にあって、それに従って取り扱いを決め打ちしてしまったのでしょう。ので、実際の課税方式と一致しないことになったと。
 この手の、実際の規定を脇において、立法趣旨や性質論から何某かの結論を導く手法については、本ブログにて再三警戒を呼びかけているところです。


 二重課税問題にかぎらず、こういった各種税目間の異同について、きちんと議論が展開されたものがないものか。

 租税法なんて、大多数の教科書が複数税目の寄り合い所帯なくせに、こういう税目間インターフェイスを正面から扱った記述がほとんどない。
 「総論」が総論として機能していない、というのは、どの法分野でも大して変わりがないのかもしれませんが。

【総論・各論問題】
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)


 消費税法本体からだいぶ脱線してきましたが、そろそろまとめられるでしょうか。

さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 10:38| Comment(0) | 消費税法

2022年10月31日

二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)

 インボイス導入後の消費税法、売上と仕入で二元的に理解するしかないのではないかと感じています。



佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 というのも、

・売上側は、実際に消費税分を転嫁できたかどうかにかかわらず、問答無用で「売上×10/110」分の消費税を掠め取られてしまう。
・仕入側は、課税事業者からの課税仕入であっても、インボイスがないかぎり税額控除できない。さらにインボイスがあっても、用途区分により控除額が制限される(特定収入とかは略)。

と売上側と仕入側とで全く別世界が展開されているようにみえるからです(積上・割戻といった枝葉の問題は省略)。

 「税額転嫁」というマジックワードで、あたかも商流を一本につなげているように見せかけています。が、実際のところ、売上側を向いたときと仕入側を向いたときとで、異なるルールが適用されることになっています。

 法人税における益金/損金だって、不算入にする場合は個別に規定されているのであって。ここまでド派手な違いではないと思います。

 インボイスがなければ税額控除できないので、理念型の付加価値税のように「課税売上−課税仕入=付加価値」と、ストレートに表現することはできません。
 同じ課税仕入なのにインボイスがなければ付加価値が減らない、などというのはどう考えても現実とあわない。形式の整ったインボイスでないかぎり、登録事業者からの課税仕入ですら控除できないですし。

 登録制度とインボイス制度とが抱き合わせで導入されることになっていますが、益税を撲滅するためであれば、登録制度単体だけでも十分足りたはずです(登録事業者からの課税仕入であれば、インボイスがなくても税額控除できることとする)。

 もはや、インボイス導入後の仕入税額控除は、付加価値という実態に課税するために控除しているのではなく。むしろ措置法上の税額控除制度のように、何某かの政策目的に協力したことによる恩恵として控除していただいているもの、と捉えたほうが落ち着きがよいかもしれません。
 少なくとも、この程度のものを「権利」だなどというのは、なにかの冗談としか思えません。インボイスがあれば引けるしなければ引けない、ただそれだけのことです。

 このことをあるがままに理解しようとするならば、

  ・売上側は売上に対する課税制度(売上税) 《激強》
  ・仕入側はインボイスによる税額控除制度  《激弱》

と、それぞれ別の理屈で作動している制度と捉えることになるかと。
 両者を連動させて累積を徹底排除しよう、という気概はもはやない。「疑わしきは課税者の利益に。」に政策転換したということでしょう。

 このような課税ベース拡大に偏った、アンバランスな制度に課税制度として合理性があるかといえば、私にはとてもあるとは思えません。が、現実にはこのような制度に仕上がっているわけです。
 賛成するにしても反対するにしても、正確に制度理解をするべきでしょう。少なくとも、財務省・課税庁による誤導的なイメージに何の疑いもなく倣うのは愚か。


 ところが、税理士執筆にかかるインボイス解説書ですら、「売上にかかる消費税は国の税金の預かり物」「益税はネコババ」などといった表現をしたものが見受けられます。
 税理士にもかかわらず、よく考えもせず当局のプロパガンダにノセられているとは、率直にいって虫酸が走る。

 税額転嫁できない事業者への対応として、従前のように国の負担で補填するか、それともインボイス導入によって当該事業者自身に負担させるか、といった政策決定の問題であって。免税事業者が本来貰えないはずのものを着服している、というのは決めつけの角度がきつすぎる。

 また、特別法は無くなってしまいましたが、今後も転嫁対策に国のリソースを費やすというのであれば、国・事業者のコストアップが、インボイス導入による税収アップを凌駕することにならないか。よくよく検証すべきかと思います。

 続きます。

合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
posted by ウロ at 10:12| Comment(0) | 消費税法

2022年10月24日

消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)



佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)


 どうしても、消費税法の入門書に「諸外国は〜」を入れたいと言うならば、次のような形にしてみてはどうでしょうか。

 1 消費に対する課税をするにはどのような課税モデルがありうるか、ゼロベースで制度構築をしてみる
 2 それらモデルは、消費活動を歪ませないか、効率的に運用できるか(事業者、課税庁とも)を検討する
 3 各国の制度はどの課税モデルに当てはまるか、あるいはどのくらい偏差があるかを検討する

 こういった検討をしてみることで、「諸外国が」みんなインボイス推しだからといって、それが唯一の正解とは限らない、あくまでも一つのモデルだ、といったことが分かるのではないでしょうか。


 また、「消費税は預かりものなんだから納付して当然、益税絶許!」という主張も、本体・消費税を分断するモデルを採用した場合にそういえるだけであって。理念型の付加価値税からすれば、あくまでも利益の一部にすぎず、「法人税」などと特段大きな違いはないことになります。

 というか、別税に見せかけているだけで、実態は法人税との「二重課税」のようにも思えます。

 消費税は「間接税」であって負担者は消費者に決まってんじゃん、事業者に対する「直接税」である法人税と「二重課税」だとか、何を阿呆なことを言っているのか、と思うかもしれません。
 が、生産者から消費者までの流れの中で、常に消費者だけが丸々税負担をしていると思っているのならば、それは大きな勘違いであって、必ずしもそうではない実態があります。

消費税のあらまし(令和4年6月)
 第1 消費税はどんな仕組み? 1.基本的な仕組み P.1

 上記の「■消費税の負担と納付の流れ」の図だと、生産者から消費者まで綺麗に税額転嫁が流れていく様が描かれています。あたかも、各段階の売上・仕入金額が事前に決まっていて、そこに消費税がそっと乗っかっているかのように。
 が、消費者の立場で考えたときに、そのモノを買うのに100,000円以上は出したくないとして、別途10,000円のっかるのが消費税なら許す(が本体なら許さない)、などということにはなりませんよね。本体だろうが消費税だろうが、トータルいくら出せるかで考えるはずです。
 トータルの支払額が大事、ということで、対消費者には「総額表示」が義務付けられていますし、極端な話「110,000円」と税額を明記しないことすら許容されているところです。

No.6902「総額表示」の義務付け

 そうすると、小売業者としては、自社で税抜100,000円の売上(=30,000円の粗利)を確保したいと思っても、対消費者との値決めの問題で税込100,000円にせざるをえない、という事態が生じます。すなわち、本来消費者に負担させたい消費税相当額の一部を、小売業者が負担することになると。
 販売価格決定のプロセスは、税抜で値決めをしてからおもむろに消費税をのっける、などというものではなく。消費税を含めた税込価格で決めることになります。
 図式的にいえば、「税抜価格+消費税10%」という《外付け型》ではなく「税込価格うち10/110が消費税」という《内蔵型》で表現するほうが実態にあっています。


 反対の仕入側の取引については、これまでですと、自社が課税事業者であるかぎりは、仕入先が課税事業者かどうかを気にすることなく、価格決定をすることができていました。
 ところが、インボイス導入によって、途中に未登録者が挟まると税額転嫁の流れが分断されてしまうことになりました。そして、値決めをするにあたっては、仕入先の属性に応じて場合分けをしなければなりません(卑近な例でいえば、同じ値段でコーヒー飲むならインボイスもらえるところで飲む、みたいな話)。
 力関係によって本体価格へ及ぼす影響が大きくなるはずです。

 このあたりが、「財務省、公正取引委員会、経済産業省、中小企業庁、国土交通省」といった錚々たる官庁が雁首揃えて「Q%A」を公表しておきながら、結局のところ「当事者同士でよく話し合って決めてね。」とぶん投げてしまっている、例の『価格交渉』の問題に繋がります。

免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A


 小売業者にとっての最悪なパターンを数値例で整理しておきます。

【理想】 税込売上11000 税込仕入7700(インボイス有)
    →粗利3000(10000-7000)
     消費税300(1000-700)

 理想は、粗利3000を確保するために、消費者に消費税分をちゃんと転嫁できることです。

【最悪】 税込売上10000 税込仕入7700(インボイス無)
    →粗利1390(9090-7700)
     消費税910(910-0)

 最悪のパターンは、仕入先がインボイス未登録な一方、消費者には消費税を転嫁できなかった場合です。
 仕入先は未登録のくせに値下げしないのは何なんだ、と思うかもしれません。が、未登録でも課税事業者である場合もあるわけで、必ずしもお値段据え置きが不当ということにはなりません。また、そこからしか仕入れられないという関係性によって、受け入れざるをえない場合もあるでしょう。さらに、上述したとおり、独禁法等による圧力もありますし。

 結果、粗利が53.6%(3000→1390)削られるという酷い結果に(本当に計算合ってます?)。
 インボイス導入により、商流の中の一番の弱者に不利益が集中的に流れ込むことになります。当然に消費者が消費税を全て負担するなどというの、夢想にもほどがある(控除対象外消費税→損金で、トータルの税負担はいくらかは軽減されますが)。


 このように上流でも、税額転嫁できないこととなった痛みを誰が負担するか、という問題が生じることになります。
 生産者から消費者まで商流が繋がっている現実のもとで、消費者だけが税負担をする課税モデルを構築したいのならば、少なくとも、インボイスの有無によって税額転嫁の流れを分断しようとする仕組みでは実現困難でしょう。それこそ、未登録者を事業取引の世界から排除するしかない(弱者を排除することで結果残った者たちが公平になるという、グロテスクな世界)。

 と、消費から離れたところで事業者にしわ寄せが生じてくるとなると、事業者の事業活動に課税しているのと変わりないことになってきます。課税対象を所得とするのか、付加価値とするのか、それ以外の何かとするのか、活動成果の切り出し方の違いにすぎません。法人事業税付加価値割なんて、思いっきり付加価値に対する課税だし。

 法人税にしても、力関係に応じて税負担を相手方に転嫁させることは可能です。制度の仕組みが税額転嫁を予定している/していない、などということは、現実に税額転嫁できるかどうかにとって決定的なものではありません。
 強制力のある特別法をつくってはじめて、無理矢理にでも税額転嫁を機能させることができるにすぎません。


 念のため、私自身は「二重課税」それ自体が悪だとは捉えているわけではありません。

浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)

 また、上記では「インボイスが税額転嫁を分断している」と悪し様に表現しましたが、これは「消費税の最終負担者は消費者である」というお題目を前提としての評価にすぎません。
 消費税法には消費に課税するとも消費者が税負担するとも一言も書いていないのだから、必ずしも消費者に税額転嫁させる必要はない、というならば、それはそれでひとつの立場でしょう。

 であるならば、詐言を弄して実態とかけ離れた物言いをするのはやめて、現実の課税実態に正面から向き合いましょう、ということです。

 次週へ続きます。

二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
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2022年10月17日

〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)



佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)


 「課税選択」なんて制度がなぜあるのかに関する以下の記述(P.191)。

「つまり、小規模事業者は、売上げについては納税が免除される一方で、その仕入れにおいて負担した仕入税額は控除できない(取り戻せない)ことになります。そこで、売上高に占める仕入高が大きい事業、たとえば生鮮野菜販売などの薄利多売の事業を営んでいる場合、納税事務負担をしても課税事業者になるインセンティブが働くわけです。」

 「多売」であることがおよそ課税選択と無関係なのはもちろんのこと、いくら「薄利」であっても利益がでる(課税売上>課税仕入)想定ならばわざわざ課税選択なんてしません。
 設備投資とか輸出以外で課税選択をするとしたら、あえて赤字を作り出したい的な、特殊な事情がある場合に限られるでしょう。
 もしかして、税率10%で仕入れたものを軽減税率8%で売る場合のことを言っていますか?(食用でないものを仕入れて食用で売る的な)

 なお、なぜ薄利多売の代表が「生鮮野菜」であり、かつ、わざわざ「生鮮」をつけたのか、謎が過ぎる。全く脈絡はありませんが、例の「牛乳販売業者」と似たような空気を感じる。

岡村忠生ほか「租税法 第3版(有斐閣アルマ) 」(有斐閣2021)
 
 この類の「なにか事実誤認してね?」と思われる記述をちらほら見かけます。
 が、私自身しっかり読み込めているわけではないので、これ以上個別の指摘はせず「皆さんも気をつけて読んでね。」という注意喚起にとどめておきます。


 P240〜の「脱税・節税スキーム」の記述は、初学者にとっては極めて難解。本書だけではおそらく理解しがたい。
 
 たとえばCase4-15(P.248)では「高額特定資産」の特例ができるきっかけとなった事例が書かれているのですが、これをちゃんと理解するには、前座としての「調整対象固定資産」の特例を理解する必要があります。
 P250には「高額特定資産と調整対象固定資産」という項目があるので、ここで両制度の関係が説明されているのかと思いきや。調整対象固定資産は、単に高額特定資産の定義の中に含まれているせいで、行きがかり上定義が記述されているだけでした。しかも、調整対象固定資産は100万円以上とあるのに高額特定資産は1000万円以上とあって、いやどっちなんだよ、と思ってしまうのでは。

 あれやこれやの難解スキームアラカルトを無節操に陳列するよりも、事例を絞って、租税回避⇔法改正のイタチごっこを順番に説明していったほうが面白いと思う。


 また、Case4-16(P.249)では、居住用(賃貸)建物の仕入税額控除に関する事例(ムゲンエステート事件、エーディーワークス事件)を扱っていますが、あたかも、多額の還付が生じること自体が悪であるかのような記述になっています。
 が、素朴に考えれば、実際に消費税を支払っているんだから、その分還付されないほうがおかしい、と思うのではないでしょうか。特に、本件のような事例では、仕入れた後に売るわけですし。

 そもそもこの事例が「密輸」から始まる一連の節税・脱税スキームの並びに無邪気に置かれていること自体がおかしい(一応、項は分かれていますが)。
 真正面から「用途区分」ルールの意義が問題となった事例なわけで、この事案をスキーム呼ばわりして悪し様にいうのは、いかにも課税庁の発想。通常の法解釈・事実認定の枠内で争われたものであって、制度濫用みたいな評価をするのだとしたら、違和感しかないです。

 この事例で納税者を悪者に仕立て上げたいならば、「何らかの手法で売却時の消費税を免れた」という事情を付け加える必要があるでしょう。まさにここが「スキーム」部分であって、これが抜けているのに「スキーム」呼ばわりするのはどう考えてもおかしい。

 また、Caseに対する回答では、「仕入税額控除は請求権→用途区分は取得時に確定→共通仕入」といった論旨の運びが披露されているのですが、これ理屈つながっています?
 『権利は発生時点で内容が固定され、それ以降のいかなる事情によってもおよそ変動しない』という、特定の激狭な権利概念を採用してはじめて言えることですよね。

 令和2年改正で、居住用賃貸不動産の仕入税額控除が制限されたことについてはさらっと触れている程度。
 仕入税額控除が「権利」だというならば、3年以内に売却できなければ永遠に控除できなくなる点とか、問題視すべきことなんじゃないですか。
 権利性を強調しておきながら、控除を制限する側になるととたんに大人しくなってしまうの、なんなのか。


 仕入税額控除の「権利」性を明確にすべきと主張しつつ、他方では、インボイス推しとか、ムゲンエステート事件・エーディーワークス事件での還付を悪し様にいうところとかを見るにつけ、運営側(課税庁・財務省)の課税ベース拡大狙いが正しいものとして、初学者向けにサブリミナル的に受け入れさせようとしているのではないか、と邪推してしまいます。

 総論レベルでは仕入税額控除を「権利」として明確にすべき、的な主張をされているので、てっきり納税者の権利の側から制度評価をしていくのかと思いきや。各論レベルでは、むしろ仕入税額控除の対象を狭める側に向かっていっていませんか。
 下手すると、仕入税額控除は「権利」だから、納税者が「全面的に」立証責任を負わなければならない、などと証明レベルでも弱体化する方向に進めだすかもしれない。

 現行の日本の仕入税額控除はあまりに緩すぎてとても権利などと呼べる代物ではない、インボイス導入によってはじめて、どこ(諸外国)に出しても恥ずかしくない権利として主張できるのだ、ということなのか。

 「○○は権利だ!」という主張、結局のところ、論者が中身に何を詰め込もうとしているかが肝心であって、権利ということそれ自体には何か特別な力があるわけではない、と捉えておくべきなのでしょう。
 私が、性質決定から演繹的に何某かを導こうとする思考を眉唾もの扱いするのは、こういうところにあります。


 仕入税額控除の「権利」性というものを有効活用するならば、たとえば「簡易課税制度」について、決して小規模事業者の事務負担を軽減するなどといった卑近なものではなく、仕入税額控除の権利としての最低限度を保障するものとして再構築する、といったことができるのではないでしょうか。

 もちろん、現行制度がそうだといっているのではなく。インボイス推し勢の次の標的であろう簡易課税制度を擁護するための錦の御旗としての利用です。


 次週に続きます。

消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
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2022年10月10日

益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)

 先週からの続き。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)



佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 以下、本書をきっかけとして思い浮かんだことを書き連ねていますので、しばしば、本書それ自体の記述からは離れているところがあります。本書に対する評価とは別物としてご理解いただけると。


 諸外国に倣って本書がインボイス推し、なのはいいとして、その他の既存制度との不整合はないのかどうか、検証すべきなのではないか。
 先週頭出しした「リバースチャージ」のほかに私が疑問に思うのが、仕入税額控除の「用途区分」によって控除対象外消費税が生じることとの整合性です。

 インボイス未登録者からの課税仕入は税額控除できない、とすることで「益税」を絶滅させたいのだとして。控除対象外消費税が生じることによる「損税」はそのまま放置されるのか。
 たとえば、非課税売上に対応する課税仕入で支払った消費税について、もらった側は納付するのに、支払った側は控除(還付)されないわけです(損税)。インボイス導入後も「用途区分」制度がそのままだとすると、この帰結は変わりません。

 そもそも、なぜ非課税売上対応の課税仕入(非のみ仕入)は仕入税額控除の対象とならないのか、「条文にそう書いてある」以上の理論的な根拠がよく分かっていません。
 ありうる説明としては、消費税は「付加価値税」であり非課税取引には付加価値を観念できないから消費税法の世界では無視する、といったものでしょうか。説得力があるかどうかはさておき、説明としては一応成り立っているかと。

 が、インボイス導入によって、免税事業者だけでなく、未登録の課税事業者、さらには登録していてもインボイスに不備があった場合には、ことごとく仕入税額控除が否定されることになります。
 「付加価値」の測定という観点からすると、インボイスの有無は何の関係もない事情なはずです。そんなものに税額控除の可否が左右されるのだとすれば、もはや消費税を「付加価値」に対する課税と位置づけるのは無理があると思います。
 『付加価値がなくてもインボイスがなければ課税する』のならば、それは付加価値以外の何かに課税しているということでしょう。

【付加価値税(理念型)】
 課税売上110−課税仕入88=付加価値22
 付加価値22×10/110=消費税2

【インボイス税(理念型)】
 売上消費税10−仕入消費税8=消費税2 

 インボイス導入後は、付加価値とは無関係にインボイス記載の消費税そのものを控除の対象としている、とでも言わざるをえないのではないでしょうか。
 そうだとすると、なおさら、インボイスに記載されているにもかかわらず、なぜ非のみ仕入は控除できないのか、という疑問に対する強い正当化根拠が求められることになるはずです。付加価値と切り離した以上、売上との対応関係を求めることの意味が問われます。

 では、非課税売上では消費税をもらっていないんだから、「税額転嫁」という仕入税額控除の趣旨にあてはまらない、という説明ではどうでしょうか。
 「用途区分」制度単体の根拠としては、これで説明がつきそうです。ある意味、非課税売上に関しては事業者を消費者(転嫁の先頭)の位置に繰り上げる(下げる?)ようなものです。

 が、インボイス導入によって、インボイスがなければ課税事業者からの課税仕入でも税額控除できなくなります。しかも、登録・未登録にかかわらずです。「税額転嫁」に相応しい実態があっても、インボイスがなければ、さらにインボイスがあっても記載が間違っていたら、控除ができないと。

 どうせお前ら、インボイス記載の登録番号が「丁0000....」と、頭文字が漢字の「てい」になっていたら、インボイスの記載要件を満たさないから仕入税額控除できない、とか言うんだろ(藤田二コル氏、木村力工ラ氏問題)。

 このことは、仕入税額控除の「税額転嫁」という機能を大幅に減殺することになるのではないか。それこそ、仕入税額控除を「権利」と性質決定する立場からすれば、このような事態は許されない、となりそうなものですけども。

 確かに、現行法でも「帳簿記載+請求書等」が要求されているところです。が、その程度のものと、仕入先がインボイス登録しているか、ミスらずインボイスを作成しているか、などといった、こちらでコントロールのし難いものとはおよそ要求レベルが違う。どうにか登録させようとしても、独禁法・下請法による脅しが待っているわけですし。

 また、理論的な説明がついたとして、(消費者と同じように)丸々消費税を負担させてもよいのか、という結論の妥当性はやはり検討すべきことでしょう。損金経由で法人税が減るから一部カバーできているはず、とでもいうのでしょうか。

 というか、控除できない消費税がなぜ法人税法で損金になるのか、その理屈もよく分かりません(法人税法施行令に書いてある、という形式論ではなく理屈の話)。実務的には淡々と処理していますが、あらためて顧問先から理由を説明してくれと言われたら、多分うまく説明できないと思う。

 理念型の付加価値税からすれば、本体と消費税は区別されないので、本体⇔税間がシームレスなのは理解できます。が、インボイスは本体と税を厳格に区別するのであって、そう簡単に「消費税、あぶれたものは損金へ」というわけにはいかないはずです。

 損税は損金になるからドンマイ、というなら、益税は益金となっているわけで、決して丸儲けになっているのではありません。
 インボイス推し勢の、益税絶許・損税ドンマイのバランス感覚、よく理解できません。

 また用途区分制度、仕入税額控除の趣旨を「付加価値」だとか「税額転嫁」だとか高らかに謳っておきながら、「共通仕入」が税額控除できる範囲は「課税売上割合」で決め打ちすることになっています。
 これまでならともかく、インボイス導入によって控除できる範囲を厳格に限定することになるというのに、共通仕入については課税売上割合でざっくり割り切ってしまうことに、落ち着きの悪さを感じてしまいます。

 インボイス(の建前)と「用途区分」制度、食い合わせが悪いと感じるのは私だけでしょうか。


 先週頭出しした、インボイスと「電気通信利用役務の提供」との関係も、サイレントでどこかの国の制度を混入させて説明するのではなく、正面から日本法のインボイスと日本法の「電気通信利用役務の提供」との関係を説明してほしい。


 インボイスの詳細な運用が、お役所のQ&A頼みで法的根拠がないことに対して、今後はルール作りが必要だ、的なことが書いてあります(P.235)。もう目前に迫っているのに、ずいぶん悠長な態度だなと感じました。
 インボイスを推すんだったら、そういうところこそ諸外国を参考に「事前に」制度を練り込んでおくべきことなんじゃないですかね。


 次週に続きます。

〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
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2021年09月13日

引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税

 スピンオフ第3弾。

浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯
非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制

 今回は「リバースチャージ」について(156頁〜)。

国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について(国税庁)


 越境役務提供につき、本書では消費者向けと事業者向けとで扱いが異なる理由がわかりやすく説明されています。

 なんですが、リバースチャージをとるべき例として挙げられているもの、初学者には一読して理解しにくいかもしれません。これも制度説明とあてはめが一対一対応していない(あてはめ側が多い)、という問題です。

 補足をしてみます(数字の前が本体、後が消費税です)。

1 国外仕入(リバースチャージ無し)
  900  0 非課税売上
  600  0 国外仕入

2 国内仕入
  900  0 非課税売上
  600 60 国内仕入

 1と比べて2が消費税分不利になっていると。
 そこで、輸入者に消費税を負担させることで、1と同じ状態に引きずり下ろすと。

3 国外仕入(リバースチャージ有り)
  900  0 非課税売上
  600 60 国外仕入(リバースチャージ)

 ガチの初学者であれば、さしあたりこれだけで納得できそうです。単純に足し算引き算すれば同じ数字になるので。
 が、複式簿記の知識がある人だと、リバースチャージ60をどうやって仕訳するのか悩むかもしれません。

【中級者の罠】
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 ?/未払消費税 60 

 左側(借方)は何なんだと。
 もしこれが「仮払消費税」だとすると、申告時に精算されてしまってリバースチャージを負担させた意味がないように思ってしまいます。

 仮払消費税/未払消費税 60

4 国外仕入(リバースチャージ有り)
  900  0 非課税売上
  600 60 国外仕入(リバースチャージ)
    △60 精算?

 ではなく、2の60も3の60も、いずれも「控除対象外消費税」として費用(損金)扱いとなるので(非課税売上対応仕入)、足並みが揃うということでしょう(科目名は便宜的に)。

 控除対象外消費税(費用)/未払消費税 60

 ここで、本書には出てこない「控除対象外消費税」「非課税売上対応仕入」という用語がでてきたとおり、これら概念を知らなければ、この事例のあてはめをちゃんと理解することができません。

 当該書籍に記載されていることが、当該書籍に記載されていることでは理解できないというのは、初学者にとってはかなりのストレス。自分の理解不足のせいなのか、それとも当該書籍が記述不足なだけなのか判断がつかないわけで。
 真面目な人なら、自分の理解不足だと思って当該(記述不足な)箇所を何度も何度も読んでしまうことになるでしょう。


 なお、現行法でリバースチャージしないといけないのは、「課税売上割合95%未満」の「課税事業者」に限られています。
 ので、取引先がほとんど教育機関であるような「免税事業者」であれば、リバースチャージ無しの国外仕入への誘引があることになります。

 また、「課税売上割合95%以上」の課税事業者で「個別対応方式」を採用している場合も、非課税売上対応仕入に関してはリバースチャージ無しの国外仕入が望ましいということになります。


 ただし、これらはあくまでも現行の日本法を前提とした話です。
 本書のつもりとしては、《理念》としてのリバースチャージを記述しているのであって、そんな細かい話をするつもりはない、ということかもしれません。

 が、消費税のことを「もらった消費税と払った消費税の差額を納付する」という限度で理解している人にとっては、ここの記述は意味不明なはずです。何でもかんでも盛り込むのは無理だとしても、少なくとも本書の記述を理解するのに必要な項目は記述しておいてほしい。

 勉強が進んでくると、記述不足な本であっても、オートモードが勝手に起動して記述を補って読んでしまいがちです。そうすると、論述が飛んでて初学者には理解できない、といった箇所に気づかなかったりします。
 私自身も、入門書評をするにあたってはそれなりに気をつけているものの、ガチの初学者と同じ目線で、というのはさすがに無理かもしれません。

 さて、次回は「租税回避」についての予定です。

どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
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2018年04月13日

特定新規設立法人のインフィニティ感

消費税、免税とるって大変よ、という話(2018.1.11現在のルール)

 この消費税課否判定の記事、よく整理されてるので私も結構利用しています。

 や、自分で書いた記事ではあるんですけど、そのときは一生懸命調べたけどすっかり忘れている、ということってよくありますよね。こうやってまとめ書いとくと、あとで便利です。

 で、今回この記事をみた理由が、「特定新規設立法人」の当てはめやりたかったからなんですが、あらためて、この特例の適用範囲の広さにビビりました。

 以下、具体例で。


  A(自分)、B(配偶者)、C(Bの兄弟)

・Aは脱サラしてこれから甲社を設立しようとしている。
・一応いうとBとは生計一、Cとは生計別。
・BCの父親Dが乙社(課税売上高はずっと5億円超)の株を100%保有していた。
・Dが亡くなり、乙社株をCが99%、Bが1%相続している。

 甲社(新設法人) ←100% A(他の者) 
              B(生計一)  1%→ 乙社(5億円超)
              C(生計別) 99%→ 

 甲社は「特定新規設立法人」に該当することになるか?


 元記事の「条件」にそって検討すると、

ア 基準期間
 ⇒なし
イ 特定要件
 ⇒A(他の者)が50%超保有しているので満たす
ウ 他の者Aの課税売上高
 ⇒なし
  特殊関係法人の課税売上高
 ⇒?

 問題は最後の、乙社が「特殊関係法人」に該当するか、です。

※特殊関係法人とは
 他の者(直接株主)と関係のある一定の者のうち、非支配特殊関係法人以外の法人


 分解して当てはめていくと、

1 他の者(直接株主に限る)
 ⇒Aは直接甲社の株を保有
2 他の者と関係のある一定の者
 ⇒Aの親族B、C と、BCに完全支配されている乙社
3 非支配特殊関係法人
 ⇒生計一のBが乙社株もってるので該当しない

 ので、乙社は「特殊関係法人」に該当しちゃって、甲はいきなり課税事業者からスタート、という結果に。


 これ、Bが乙社株を相続してなければ、

 甲社(新設法人) ←100% A(他の者) 
              B(生計一)   
              C(生計別) 100%→ 乙社(5億円超)

3 非支配特殊関係法人
 ⇒生計別のCが乙社株全部保有してるので該当する

となって、乙社は「特殊関係法人」にならない、となっていたわけです。

 だから、自分なり生計一親族なりが、どこかの課税売上高5億円超な会社の株をうっかり保有していないか、事前に確認する必要があります。

 こういうこと、ちゃんと遺産分割やってないと起こりえます。もちろん「名義株だ!」といって反論することもできるかもしれませんが、まあ揉めますよね、当局と。


 一応「特殊関係法人」に該当する、とあてはめしてみましたが、条文の読み、本当にこういう理解でいいんですかね。
 以下、条文を引用しつつ疑問を提示します。

消費税法施行令25条の3第1項《特殊関係法人》(省略入れてます)
一 当該他の者(新規設立法人の発行済株式を有する者に限り、当該他の者が個人である場合には、当該他の者の親族等を含む。)が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人


・「他の者」は直接保有を要求されているが、「他の者」が直接保有してさえいれば「親族」のほうは直接保有してなくても含まれるのか?

 甲社(新設法人) ←50%超 A(他の者) 100%→ 丙社
          ←0%   B(親族等) 100%→ 丁社

⇒丙社が「特殊関係法人」にあたる典型例なわけですけど、丁社はどうなるのか?

・完全支配の判定は、「他の者だけ」は当然として、「親族だけ」「他の者+親族」「親族+親族」でも判定するのか?
 「含む。」っていうのが「及び」の意味合いを持つのか、あくまでも単数形のままなのか?

1 他の者100%
2 親族100%
3 他の者50%+親族50%
4 親族50%+親族50%

 1が該当するのは当然です。
 で、1項と2項の書き分け方をみるに、生計別親族100%支配の法人を、一旦1項の「特殊関係法人」に含めた上で2項で除外しているわけです。とすると、2も1項に入っているのを前提にしているはずです。
 問題は3と4。

二 当該他の者及びこれと前号に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人
三 当該他の者及びこれと前二号に規定する関係のある法人が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人


 +法人の場合はこうやって「及び」で足してるんですが、+個人の場合はどうなのか。

同条第2項《非支配特殊関係法人》(省略入れてます)
一 当該他の者(新規設立法人の発行済株式を有する者に限る。)と生計を一にしない当該他の者の親族等が他の法人を完全に支配している場合における当該他の法人


 特殊関係法人から除外される「非支配特殊関係法人」はこういう書き方になっています。

 たとえば、上記事例を少し変形して、BCE(CEはAと生計別)の三人兄弟で乙社株をC50%、E50%相続したとします(直接保有の疑問は置いておきます)。

 甲社(新設法人) ←50%超 A(他の者) 
               B(生計一)  0%→ 乙社
              C(生計別) 50%→ 乙社
               E(生計別) 50%→ 乙社

 この場合は「特殊関係法人」から除外されないとおかしいわけで、そうすると、こちらの完全支配の判定は「親族+親族」ですべき、となるはずです。
 CまたはEが一人で100%持ってないから「非支配特殊関係法人」には該当しない、というのは変ですよね。

 ので、第1項第1号のほうも「及び」として読むべきなんだろうな、と。
 と、思うんですけど「含む。」の含みが引っかかる。「及び」でいくなら、『当該他の者が個人の場合は、当該他の者及びその親族等』という書き方になるのが普通だろうし。

 あるいは、そもそも1項1号は「単数形」しか定めていない、てことで、この変形事例は2項1号の判定に進まないということになるのかどうか。

 実はこういう疑問が残っているのですが、さしあたり保留にしておきます。


 しかしまあ、ここででてくる「親族」概念てのが相当広範囲です。
 消費税の課否判定に、民法の「親族」概念をそのままもってきてるもので。

民法725条
 次に掲げる者は、親族とする。
  一 六親等内の血族
  二 配偶者
  三 三親等内の姻族

 どれくらい広いかは「親族の範囲」とかでネット検索してでてくる図をご確認ください。
 皆さん、自分の親戚どこまで把握してますか。

 民法のお勉強をしてたときも相当広いなあとは思ってましたが、実際には、民法上の制度で「親族」概念がそのまま問題になるようなものってほとんどないので、現実的な問題はあまり生じてなかったかと思います。

 ところが、消費税の課否判定では、広いままの親族概念をそのままもってきてしまってるわけです。お得意の「特定親族」とかで、もっと狭めに絞ればいいと思うんですけど。

 「生計一」要件が一つの絞りなんでしょうけど、上記事例のように絞りきれてない事例もあると。

 まあ、税法の議論のなかには、むやみに税法特有の概念を使わずに、なるべく他法の概念をそのまま使うべき、という議論もあったりしますので(借用概念/固有概念)、「特定○○」なんてのを徒に産み出すべきではない、という主張もありうるところでしょうが。


 ここまで「親族」前提で話を書きましたが、正確には親族「等」です。
 税法における「等」一文字の『INFINITY感』がここでも遺憾なく発揮されてます。

親族等とは
 ・他の者の「親族」
 ・他の者と「内縁関係」にある者
 ・他の者(個人)の「使用人」
 ・他の者(個人)からの資金援助で生計維持してる者
 ・上記の者と生計一の親族


 ただでさえ広い「親族」を、「」でさらに広げるという鬼感。
 特に、最後の「の親族」の拡張っぷり。INFINITY×INFINITYですね(HUNTER×HUNTERぽくてかっこいい)。
posted by ウロ at 10:43| Comment(0) | 消費税法

2018年01月11日

消費税、免税とるって大変よ、という話(2018.1.11現在のルール)。

 一昔前までは単純だった消費税の課税事業者/免税事業者の判定、節税スキーム封じのためにややこしくなってます。

 もちろん売上少ないとか還付狙わないっていうなら悩むことはないんですけど、ギリギリを攻めようとすると、色々引っかかってきます。

 巷の解説書でもちゃんと書かれてないものがあったりするので、以下、注意点だけ整理しておきます。具体的なあてはめは個別にご相談ください。

【レベル1】

 ここまでは誰でも知っていると思います。

1 基準期間による判定

・条件
 基準期間における課税売上高が、
  1000万円以下 ⇒免税
  1000万円超 ⇒課税

・基準期間
 その事業年度の前々事業年度

※超と以下に注意
※基準期間が1年未満の年換算ルールに注意
※免税期間中は税込金額で判定

2 新設法人の特例

・条件
 基準期間がない事業者で、期首の資本金の額が
  1000万円未満 ⇒免税
  1000万円以上 ⇒課税

※資本金等ではなく資本金
※超と以下に注意
※各事業年度の期首時点で判定

【レベル2】

 特定期間の特例は、基準期間のヴァリエーションという理解からか割りと知られていますが、ぎりぎりを狙う場合は注意が必要です。

3 特定期間による判定

・条件
 特定期間の課税売上高・給与等支払額が、
  1000万円以下 ⇒免税
  1000万円超 ⇒課税

・特定期間
 前事業年度開始の日から6ヶ月の期間

※基準期間で課税なら特定期間を判定するまでもなく課税
※短期事業年度
 前事業年度が7ヶ月以下の期間の場合はカウントしない
 7ヶ月以上8ヶ月未満の場合でもカウントしない場合があるが、判定がややこしいので注意
※特定期間は年換算しない
※給与等支給額
 所得税が非課税となる通勤手当や旅費等は含めない
 未払額は含めない
※課税売上高・給与等支払額がいずれも1000万円超の場合に課税事業者が強制される。いずれかが1000万円以下の場合は課税/免税を選択可能(課税事業者選択届出書による選択ではないので2年拘束ルールなし)

【レベル3】

ここから先がちゃんとフォローされていない文献がありがち。
各種用語を条文にそって正確に理解してないと、ちゃんとあてはめできないです。

4 特定新規設立法人の特例

・条件
 ア 基準期間なし
 イ 特定要件満たす
 ウ 他の者(直接株主)または特殊関係法人の基準期間相当期間の課税売上高が5億円超
⇒すべてを満たすと課税

・基準期間
 その事業年度の前々事業年度
・特定要件
 他の者及び他の者と関係ある一定の者が株式50%超保有している
・他の者と関係のある一定の者
 他の者の親族等
 他の者及び他の者の親族等が完全支配している法人
・特殊関係法人
 他の者(直接株主)と関係のある一定の者のうち、非支配特殊関係法人以外の法人
・非支配特殊関係法人
 他の者とは別生計親族等が完全に支配している法人
・基準期間相当期間
 新設設立法人の新規開始日の2年前の前日から同日以後1年を経過する日までの間に終了した他の者及び特殊関係法人のうちいずれかの者の事業年度

※特定要件(イ)を判定するときに含める人と課税売上高(ウ)を判定するときに含める人が違うとか、支配・被支配の矢印がどっち向いているかで結論が違うとか、とにかくややこしい。いくら解説書を読んでも正確に理解するのは難しいので、(特に)消費税施行令の条文を直接読み込む必要あり。
※生計別要件があるとはいえ、5億円超の会社を経営している親族がいる場合には注意。グループ法人税制の場合は、取引関係がなければ事実上問題にはならないが、こっちでは取引関係なくても問題になる。

5 調整対象固定資産を取得した場合の特例

・条件
 ア 課税事業者を選択した事業者が
 イ 選択拘束期間中に調整対象固定資産を取得
⇒取得した課税期間から第三年度の課税期間の初日(の前日)まで、課税事業者選択不適用届出書・簡易課税制度選択届出書を提出できない。

 ア 資本金1000万円以上の新設法人または特定新規設立法人が
 イ 基準期間がない事業年度に調整対象固定資産を取得
⇒取得した課税期間から第三年度の課税期間まで、納税義務免除規定の適用なし。
⇒取得した課税期間から第三年度の課税期間の初日(の前日)まで簡易課税制度選択届出書の提出ができない。

・調整対象固定資産
 100万円以上の固定資産(棚卸資産除く)

※条件に該当する場合に何が制約されるか(届出提出制限or免税不適用)を正確に理解する
※上記アに該当する事業者以外は適用されない(基準期間判定で課税事業者になる場合など)
※取得した課税期間の初日から起算。選択適用した課税期間からではない
※取得した課税期間に簡易課税を適用している場合は拘束されない
※仕入控除税額の調整規定の適用にも注意
※廃棄・売却しても適用継続。ただし仕入控除税額の調整規定のほうは第三年度の課税期間の末日までに廃棄・売却すれば適用されない

6 高額特定資産を取得した場合の特例

・条件
 ア 本則課税の課税事業者が
 イ 高額特定資産の仕入等を行った場合
⇒仕入等した課税期間から第三年度の課税期間まで、納税義務免除規定の適用なし。
⇒仕入等した課税期間から第三年度の課税期間の初日(の前日)まで、簡易課税制度選択届出書の提出ができない。

・高額特定資産
 1000万円以上の棚卸資産及び調整対象固定資産

 ア 本則課税の課税事業者が
 イ 自己建設高額特定資産の自己建設等を行った場合
⇒累計額が1000万円以上になった課税期間から建設完了した課税期間の第三年度の課税期間まで、納税義務免除規定の適用なし。
⇒累計額が1000万円以上になった課税期間から建設完了した課税期間の第三年度の課税期間の初日(の前日)まで、簡易課税制度選択届出書の提出ができない。

※5と違い、適用される場面が限定されていない
※条件に該当する場合に何が制約されるか(届出提出制限or免税不適用)を正確に理解する
※自己建設の場合、規制期間が累計額1000万円到達〜建設完成〜3年と長い。
※廃棄・売却しても適用継続
※簡易課税制度選択届出書の提出制限のため、過去簡易選択届出をしていたが課税売上高5000万円超で原則課税になった場合には制限がかからない
※5と6の両方の条件を満たす場合は5が適用される

7 追記(令和2年度改正)

 5と6につき、「棚卸資産の調整措置」経由で仕入税額控除をとった場合も、3年縛りが適用されることになりました。
 従前は、取得時に本則とってた場合に限られていたわけですが、今後は取得時免税でも適用がありうると。
posted by ウロ at 10:27| Comment(0) | 消費税法