2020年06月15日

内田貴「民法3(第4版)債権総論・担保物権」(東京大学出版会2020)

 2017年民法改正(債権関係)の総本山。
 同改正を反映した教科書はすでにあれこれ出ているところ、満を持して登場(ジャケが完全に春日狙い)。



内田貴「民法3(第4版)債権総論・担保物権」(東京大学出版会2020)
http://www.utp.or.jp/special/CivilLawIII/

最近の気になる本

 下記記事でネタにした本は、当初何気なく読んでしまいツッコミが出遅れました。

後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 ので、今回は同じ鉄は踏まじと、初めからツッコむ気満々で読み始め。
 が、それほどの取っ掛かりもなく読了。

 「債権者代位権、債務名義いらないのがメリット」みたいな記述に対するツッコミ程度のことは、もう上記記事で出尽くしてしまっています。
 ならではのツッコミ、というのがありませんでした。


 とにかく沢山のことが書いてあって、特に金融絡みでの今どきな制度の使われ方の解説などは、他書にない特徴だと思います(カタカナ用語が沢山でてくるやつ)。

 が、記述の「構造化」がされておらず、最初から最後まで平地をひたすら転戦していくようなイメージ。

【民法構造化の極地】


山本敬三「民法講義1(第3版) 総則」(有斐閣2011)
山本敬三「民法講義4-1 契約」(有斐閣2005)
(※改訂が待たれる)

 オープンワールドゲームとかいいながら、予算がないので見渡す限り全面平地です(フェアリーバース)、とか言われたら退屈するでしょ。

【良いオープンワールドゲーム例】


ゼルダの伝説 BREATH OF THE WILD(任天堂2017)

 どこまでいっても個々の制度の説明に徹していて、総論チックな記述はおそらく意図的に排除しているように感じます。

 他方で、内田先生の著書には、下記のようなアメリカ契約思想を日本の契約に持ち込もう的なものもあったりします。
 ので、教科書はあくまで教科書だ、ということで本書は内田先生ご自身の法学教育観を徹底した記述になっているのだと推測。



内田貴 契約の再生(弘文堂1990)
内田貴 契約の時代(岩波書店2000)

 なお、第4版では「実務に役立つことをも視野に入れて執筆することを心がけた」とはしがきに書いてありました。
 が、私にはどのあたりがその心がけの成果なのかが読み取れませんでした。
 これは、私が学者本に期待する「実務に役立つ」というものが下記記事のようなものだから、という個人的な事情からでしょう。

森田宏樹『契約責任の帰責構造』(有斐閣2002) 〜印紙税法における「結果債務・手段債務論」の活用 

 実務に「直接」役立たせたいなら『〜の法務・税務』みたいな本を読めばすむわけで。
 わざわざ遠回りな学者本を読むのは、視線を数段階上に引き上げてくれることを期待しているからです。

 まあ、このへんは私の読み込み不足のせいなんでしょう。

 という感じで、私としては、この本を基本書ポジションに据えて通読するのではなく、他の教科書でよくわからなかった箇所だけつまみ食い的に読んでみる、という使い方がよいように思います。
 体系っぽさが弱いおかげで、そういうつまみ食い的な読み方が許されることになっている。


 債権総論の中の履行確保の手段の部分と担保物権を「金融取引法」としてまとめている、というのが本書の特徴の一つのようにも思えます。

 が、おそらく普通の教科書としても使えるようにするためでしょうか、一冊にまとめたというくらいで、内容的に一体として論じられているわけでもないです(重たいから、てことで分解して使っても支障がないと思われる)。

 これに対して、執行法や倒産法まで視野に入れて一体として論じているのが森田修先生の本。



森田修「債権回収法講義(第2版)」(東京大学出版会2011)
(※改訂が待たれる)

 森田先生の本は一定程度の基礎知識があったほうが読みやすいので、森田先生の本の副読本ポジションとしてなら、うまくはまる気がします。
 森田先生の本が改正対応していない今なら、改正部分の確認もできますし。


 なお、「事例形式でわかりやすい」ように一見思えますが、事例で説明しているのってほぼほぼ判例がある論点ばかりです。
 潮見佳男先生の教科書が、なんでもかんでも事例で書いてあるのとは違う。



潮見佳男「プラクティス民法 債権総論(第5版補訂)」(信山社2020)
潮見佳男「詳解 相続法」(弘文堂2018)

 たとえば、「保証」の改正のところとか、あれこれ細かい要件が条文に書き込まれました。
 そこで、これら改正がどういう状況を想定して規定されたのか、とかを具体例で理解したいわけです。
 が、そういう箇所は条文引き写しで終わってしまっていたり。

 「判例の明文化」系の改正は従前の記述の延長で理解すれば済むわけで、「新設」系の改正こそ、しっかり事例で説明してほしい。


 なお、このブログでは、(実務家のくせに)判例中心の学習法に対しては、どちらかというと批判的なスタンスを示してきました。
 それは、判例から判例に渡っていく学習法だと、そこから漏れる穴ができるから、というところにあります。

 あるいは、まずは「通常事例思考」をしっかり身につけるべきだろうと。

【通常事例思考】
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

 判例がないから重要でないか、というと必ずしもそうではない。
 ですし、判例が無いせいで誰も正面から論じている人がいなくって、参考になるような文献が皆無ということが起こるわけです。

 このブログでやっていることは、そういった穴をほじくって、あとは頭のいい人たちの議論にお任せする、というのを期待しているということです。
posted by ウロ at 11:49| Comment(0) | 民法

2020年03月09日

窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)

 家族法の教科書。親族法と相続法をカバーしています。

 2018年の相続法改正や2019年の特別養子の改正までフォローしているので、旧版を持っている人でも買わざるをえないところ。



 窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)

 親族法と相続法を両方カバーしているとはいえ、668頁というのはなかなかのボリューム。

 なぜこんなボリュームになるかというと、通常の教科書でいうところのいわゆる「行間」を、ぐいっと広げて、我々常人が理解できるレベルになるまで、そこにひたすら言葉を詰め込む、ということをしているせいです。

 駄菓子屋のおばあちゃんが、おまけとかいって袋にものすごい量のお菓子を詰め込んでくれる的な、親切心に溢れた所作(こういう喩えは、もはや伝わらない世代が多いのでしょうか)。

 その、論理飛躍のない地の足についた説明のおかげで、ボリューム感をあまり感じずにスムースに理解することができます。
 下手に「条文引き写し系」の薄い本を読むよりも、理解するのは早くなると思う。

 逆に、丁寧な説明をしたせいで、いまいち論理が薄いところがあぶり出されてきます。
 が、そういった箇所は率直にそういうものとして言ってくれるので、安心して読めます。

 ひたすら文章による説明で、図表の類がほとんど出てこないのは、あえてそうしているのかどうか。

 同じコンセプトで、『不法行為法』も出ています(むしろこちらがご専門)。



窪田充見「不法行為法 第2版」(有斐閣2018)


 ちなみに、潮見佳男先生の『詳解 相続法』は相続法だけで616頁もあります。



潮見佳男「詳解 相続法」(弘文堂2018)

 さぞかし説明が丁寧かと思いきや、そうではなく、ものすごい数の「CASE」が載っているせいでこうなっています。
 本文の解説自体は簡潔なところがほとんど。「事例で語る」といった趣の(「事例を」ではなく)。

 という感じなので、窪田先生の本で理解した知識を潮見先生の「CASE」で実践してみる、という使い方をすると良さそう。


 個人的に、「お!」と思った文章。

 「個人的なことになるが、具体的相続分の計算という問題、筆者は、比較的好きである。計算ばかりであんまり好きではないという諸君も多いのではないかと思うが、そうした計算の前提となる仕組みの中には、相続をめぐる基本的な問題が見え隠れしていると感じられるからである。」

 私のブログを読んでくれている人であれば、なぜこの文章を引用したかお察しいただけるかと思います。

 これとの対比をするためです。
 
三木義一ほか「よくわかる税法入門 第13版」(有斐閣2019)

 「この本を読んだ方が、税法の中に数式ではなく、人々の生活の息吹や社会の動きを感じ取って、税法の面白さを少しでも理解してくれたら」

 行為/裁判規範がらみで散々イジった本ですが、この数式に否定的な見方をする税法教科書と、肯定的な見方をする民法教科書とのコントラストを味わってどうぞ(勝手に対立を煽る)。

税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)

 煽っておいてなんですが、後者の文章も、本当は窪田先生と同じ趣旨のことを言いたかったのかもしれませんね。
 が、やっぱり数式「ではなく」はないよなあ。


 巻末に「特別講義」として、「家族法×税法」の絡みについて佐藤英明先生と対談されています。

 佐藤先生も、窪田先生と同様に分かりやすい教科書をお書きになる先生です。



佐藤英明 プレップ租税法 第3版(弘文堂2015)
佐藤英明 スタンダード所得税法 第2版補正2版(弘文堂2020)

 比較的丁寧に説明してくれているものの、多分これだけ読んでも理解するの難しいと思う。
 ここは、なんかそういう論点があるんだなあ、くらいの雰囲気が掴めればいいんじゃないんですかね。
 で、あとは佐藤先生の教科書を読むと。

 いっそのこと、巻末のおまけなどではなく、独立の一冊ものとして、家族法全体を税法の観点から総点検する本を、このお二人で作ったほうがいいんじゃないでしょうか。


 ところで、窪田先生は「はしがき」の中で、太田武男先生のおかげで、的なことを書いています。
 のに、〈参考文献〉には太田先生の教科書がなぜか掲げられていない。

 なぜだ?



太田武男 親族法概説(有斐閣1990)
太田武男 相続法概説(一粒社1997)

 もちろん、古いとか入手困難とかで載せないってことはありますが、〈参考文献〉には古くて入手困難な本も載っているんですよね。
posted by ウロ at 13:36| Comment(0) | 民法

2019年12月02日

池田真朗「スタートライン債権法(第7版)」(日本評論社2020)

※2020年に第7版が出るとのこと。
 第6版は債権法改正成立直前の出版ですが、改正法の評価について第7版でどこまで突っ込んで書かれているかは気になります。表現上の手直しくらいにとどめているかもしれませんが。



池田真朗 スタートライン債権法 第7版(日本評論社2020)


 1995年に初版が出版されてから2017年で第6版。
 それだけでも、大変人気のある本だと分かります。

 実際、個々の制度の説明はとてもわかり易い、わかり易い(2回言う)。
 危険負担における「債権者」と「債務者」とか、初学者が躓きやすい箇所をしっかり解説されていたり。

 が、ガチの初学者が一冊目として通読するにはしんどいかな、というのが個人的な感想。

 というのも、本書のカバーする領域は「債権総論」と「債権各論」で、前半各論・後半総論と順序を入れ替えてはいるものの、それぞれの中身自体は民法の条文どおりの並びになっています。
 特に「債権総論」の編成なんてパーツ感が強いので、頭から読んでいくのきついと思う。

 ここまで教育的配慮を尽くしていながら構成は民法の編成どおり、というのはあえてそうしているんだと思います。
 おそらく、どの大学の講義でも使いやすいように独自の組み換えはしない、ということかなあと。

 最初に書いたとおり、個々の制度の説明はとてもわかり易い(3回目)。
 ので、たとえば米倉明先生の「プレップ民法」のような入門書を読みながら、理解できなかった制度をこの本で理解する、といった利用方法がよさそう。

米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)


 個人的には「ルール創りの観点から」と題するコラムがとても面白かったです。

 2017年の債権法改正について、(改正法案の段階ですが)かなり批判的な観点から触れられています。
 学者の学理的な関心からの改正になってしまっていて市民にとってわかり易いルールにするための改正になっていない、といった感じの。

 まさしく仰るとおりで、私もこのブログでかなりイジってきたところです。

【債権法改正イジり】
ドキッ!?ドグマだらけの民法改正
時効の中断・停止から時効の完成猶予・更新へ
私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法
どんな子にも親に内緒のコトがある。 〜民法98条の2の謎に迫る(迫れていない)
潮見佳男『新債権総論1(法律学の森)』『新債権総論2(法律学の森)』(信山社 2017)
潮見佳男「基本講義 債権各論1 契約法・事務管理・不当利得」(新世社2017)
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)
加賀山茂「求められる改正民法の教え方」(信山社2019)


 初学者が読む入門書、という観点からして気になった箇所をいくつか。

第18課 多数当事者の債権関係(1)

 分割債権・分割債務を同時に記述しようとして、どっちがどっちだよと悩まされる記述になっています(不可分債権・不可分債務も)。
 「債権者」とか「債務者」とかどっちのことをいっているのか、一読して分かりにくい。

 自分の頭で解きほぐすトレーニングなんでしょうか。「売主ら」とか自分で読み替えていく感じの。

 第19課の連帯債務・保証債務では債務者側が複数の場合に記述を絞っているので、同じようにすればいいのに。

第21課 債権譲渡

 譲渡通知が「観念の通知(表示)」か「意思表示」かみたいなことが書いてあるけども、それを論ずる実益が書いていないので、初学者にはなんのことやら分からないと思う。

第22課 債務引受・契約譲渡

 債務引受とか履行引受とか、譲受人・引受人が何のためにわざわざ負担を引き受けるのかが書いていないので、イメージがしにくい。

タグ:入門書 民法
posted by ウロ at 09:35| Comment(0) | 民法

2019年10月28日

米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)

 「法学学習」という観点からみて、1つの望ましいかたち。



米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)

 下記記事で引き合いに出しましたが、正面から記事にしておきます。

内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)


 一般的に、民法の学習単位は、

  民法総則
  物権法
  担保物権法
  債権総論
  契約総論
  契約各論
  事務管理・不当利得・不法行為
  親族法
  相続法

と、民法典の編成に倣っているのがほとんど。
 順番を組み替えるなどの工夫はされることはあるものの、上記単位より小さくバラすことまではされていない。

 大学だと複数教員で分担することになるので、最大公約数的な意味合いで民法の編成に倣わざるをえないんですかね。

 が、民法総則なんて特にですけど、抽象化抽象化を繰り返した末の制度の寄せ集めなわけで、それ単体では理解しにくい。
 完成図がわからない1000ピースパズルを組み立てるくらいの苦行(しかも端っこのピースが除かれている)。

 なわけで、「学習」という観点からすれば、民法典の編成に従うのは悪手だ、というのが私の見立て。

 じゃあどうすればいいのかというと、民法典の編成に拘らず個々の契約類型ごとに学習していくというのが望ましいのでは、と思っています。

 民法典の編成は、知識を整理するための「お道具箱」として活用する感じで。


 で、この本。

 この本では不動産売買契約を軸として、

  第1章 ⇒不動産売買契約のノーマルな状況
  第2章 ⇒不動産売買契約のアブノーマルな状況
  第3章 ⇒その他のサブシステム

といった構成になっています。

 (※もとの章タイトルは以下のとおり。
  第1章 売買の交渉から契約の成立、その履行終了まで
  第2章 契約が履行されなかったときの法的処理
  第3章 その他の紛争の法的処理)

・民法典の編成を無視
・特定の契約類型を軸にした解説

なので、基本的に1つの事例を思い浮かべながら読み進められます。
 あれやこれやの事例が出てくるせいで逐一頭を切り替えなきゃいけない、という事態にならずにすむ。

また、

・ノーマルな事例からイレギュラーな事例へ

という流れなのも理解しやすいです。

 今どきは「事例でわかる」とか「事例で学ぶ」といったタイトルのついた本が沢山でています。
 なんですが、そこでいう事例は、判例の事案をベースにした論点もりもりな事例であることがほとんど。

 でも、最初の段階では、当該制度を普通に利用した場合の事例から始めたほうがよいと思います。

【通常事例思考について】


 フリチョフ・ハフト「レトリック流法律学習法」(木鐸社1993)

 さらに、

・論点解説の中で、民法解釈方法論にも触れられている。

といったところもよい。

 たとえば、

  実質論と形式論
  要件と効果の関係
  解釈論と立法論
  利益衡量の方法
  一般条項の用い方
  法律概念の相対性

などについて、論点解説の流れの中で丁寧に説明されています。

 こういう方法論て、それだけを取り出して説明するよりも、個々の論点の中で方法論を展開するほうが理解しやすいはず。


 また、「債権法改正」も反映されています。

 類書だと、改正条文の引き写しで終わらせがちなところですが、この本では、単なる制度の説明にとどまらず、従来の議論との関係も触れられていたりします。
 たとえば、541条但書で「軽微」な場合に解除できないとされたことと「信頼関係破壊理論」との関係性とか。

 あるいは、一応改正はされたけども今後議論の余地があるところを示唆していたり。


 ただ、全くの初心者がいきなり読んでも理解しにくいところはあるかもしれません。

 ので、1回この本を読んで契約類型に即した民法の見取り図を作ったあとに、民法典の編成に従って個々の論点を掘り下げる、そしてまたこの本に戻って知識を整理し直す、という使い方をしてもよいかもしれません、


 とまあ、こういう内容を先日の借地借家法の本に期待して読んだわけです。

 が、残念ながら普通の「借地借家法」の条文判例解説本だった、のでがっかりしたと。
posted by ウロ at 13:40| Comment(0) | 民法

2019年10月14日

内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

我妻榮『民法案内』という超絶名著がありまして。



我妻榮「民法案内1 私法の道しるべ(第2版)」(勁草書房2013)

 もし、何の条件も無しに「法学の本でなんかお勧めない?」と聞かれたら、問答無用でお勧めするのがこの本。
 この本読んでみて、法学って面白そうと思えれば、その先に進んでみると。


 で、今回紹介する本なんですが、同じ出版社でタイトルに「案内」とあって、しかも「勁草法学案内シリーズ」とかいうシリーズ名が付けられています。



 内田 勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

 ので、我妻先生の名著のコンセプトをなにがしか受け継いでいるのかと思うじゃないですか。
 が、そういう感じでもなく。

 語尾が「ですます調」で、一応入門書風にはなっています。
 でも、語尾を全部「である」に入れ替えても違和感のない、お硬めの文章。
 いわゆる「語尾だ系」。

 そもそも我妻民法案内は「ですます調」じゃないし。
 それでも読者に語りかけてくる筆致が、名著たる所以なわけです。


 アマゾンの「内容紹介」には以下のようなことが書いてあって、ものすごい良さげじゃないですか。

 規定の内容を断片的に書き並べるのではなく、法制度の趣旨、背景等の本質的なしくみに重きを置き、法が織りなす全体像を縦糸(歴史的沿革)と横糸(比較法、社会的実態)から立体的にわかりやすく解きほぐす。相互の法令を有機的に連関させ、法的・論理的な思考方法をも習得できる。学生、各種国家試験受験生等、はじめて学ぶひとたちへ。

 実際のところは、「条文+判例紹介」が記述のほとんどを占めています。

 この手の本にしては、判例の紹介が多めなので、判例の動向を把握するにはいいのかもしれません。
 が、入門書ポジションだとしたら、あまり望ましくない。
 そういう役割は、判例付き六法でもこなせることで、入門書の役割ではない。



 有斐閣判例六法Professional 令和2年版(有斐閣2019)
 有斐閣判例六法 令和2年版 (有斐閣2019)


 次々と判例の紹介がされていくんですが、判例から判例へつないでいく感じの記述なので見通しがよろしくない。
 「賃料債権と物上代位」のところとか、あれこれ判例の展開が書かれているんですが、で、結局どういうルールなの?ということが読み取りにくい。
 色々パターンがある中で、どのパターンにまだ判例が無いのかとか、これまでの判例からすればどのような帰結になりそうか、とか、そういったことが検討しにくいわけです。


 判例になるような事案て、要するにイレギュラーな事例です。
 そういう事例ばかり並べられても、断片的な理解になってしまいがち。

 判例を沢山知っている、じゃあ借地借家法を日常使いできるか、というと、まあ無理ですよね。

 もちろん、紛争予防のために判例を勉強する、というのは有りですが、判例で問題になった事案なんて世の中にある借地借家問題のうちの一部分にすぎません。
 どれだけ大量に判例を勉強したところで、それは実務のうちの一部分にとどまるわけです。
 
 判例にならない領域というのが確実にあって。
 このブログでもよく対比しているように、「紛争系」に対する「日常系」の領域。

 判例を詳述するならするで、あわせて「判例の読み方」も書いていてくれていればいいんですが、そういう方法論が書かれているわけでもなく。


 ちなみに、このあたりのこと、下記の本で「通常事例思考」と言われているものと同じものだと、私は勝手に思っています。



 フリチョフ・ハフト「レトリック流法律学習法」(木鐸社1993)

 この本、『法学学習本』として私の中では最高峰の本なので、しっかり読み直してからちゃんと紹介したいところ。
 タイトルの「レトリック流」というのが、「ビームサーベ流」ぽくてアレなんですが。


 話は戻って、いろいろ気になる記述はあるんですが、主なものだけ。

・「定期借地権」のところ、事業用が二種類(10〜30年と30〜50年)あるのなんで?と思ったんですが、それぞれの制度の内容が並列的に書かれているだけで、そういう視点からの記述がありません。

・民法(債権関係)改正(案)を反映しているとあるんですが、あくまでも601条以下の「賃貸借」の改正箇所がメイン。
 たとえばですが、「根保証」の改正のような、保証人条項に大きく関わる改正については触れられていません(同じことを下記の記事でも書きました)。

 後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 「担保責任」の改正については、改正内容だけは書かれているのですが、この改正が借地借家関係にどのような影響を及ぼすのか、といったことが書かれていない。売買の条文をなぞっただけ。

 実務本でもない、民法学者の書く「借地借家法」単独の本に期待するとしたら、「賃貸借」の箇所の改正のみならず、それ以外の箇所の改正も含めて、改正法を借地借家関係に当てはめたときにどのように投影されるか、ということではないかと思います。
 ある特定の契約類型を前提になされた改正が、借地借家関係とうまく接合するのか気になるわけですが、まあそういう視点では書かれていない。

・立退料の支払と物件明渡しの関係が先履行か同時履行かって話で、執行文付与とか強制執行開始の要件とかってことがちらっと書いてあります。これだけ書かれたって初学者は理解できませんよね。

 すでに「手続法」も一通り勉強していることを前提としてしまっているんでしょう。

 が、上記記事でも書いたとおり、手続法について書くならそれだけ読んで理解できるように書いてほしい。
 入門書のつもりならば。

 「民事執行法」などで一般的に議論されていることが、借地借家関係に当てはめたときにどうなるか、というのは、「民事執行法」側でも正面から論じられているわけでもないですし。

紙幅の関係云々いうなら、はじめから書かなければいいし。


 ここまで書いてきてふと思ったのが、米倉明先生の『プレップ民法』のこと。



 米倉明「プレップ民法(第5版)」弘文堂2018

 こちらは「民法を勉強したい」と言われた場合に必ず勧める本です。

 この本では1つの売買契約を軸に、民法の財産法全体を解説しています。

 私が民法の教科書に対して常々不満に思っている、パンデクテン方式の編別順に学習していくことの理解しにくさや、論点ごとに想定されている契約類型があれこれ変わってしまうといった問題点が、見事に解消されています。

 今回の本も、借地借家法の解説をメインにするのではなく、借地借家契約を軸にして民法全体を解説する、という本にすればよかったのに、と思いました。

 売買の場合は売主と買主の力関係は場合によって入れ替わりますが、借地借家の場合は、例外はあるにせよ一般的には、貸主(強い):借主(弱い)という力関係が多いはず。
 ので、利益衡量の手習いをするには、売買よりもやりやすいでしょうし。

 また、不動産売買をしたことがなくても不動産賃借はしたことがある、という人は多いと思うので、自分の身におきかえて想像することもしやすいでしょうし。


 ということで、借地借家法の「入門書」に期待するとしたら、

・民法の知識を前提とせず、むしろ(借地借家にかかわる)民法の知識も身につけることができる。
・手続法の知識を前提とせず、むしろ(借地借家にかかわる)手続法の知識も身につけることができる。
・民法や手続法で議論されていることを、借地借家関係に投影したときにどうなるか具体的に検討している。
・借地借家法の勉強をしながら、法学の学び方や判例の読み方も勉強することができる。

といった感じ。
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2019年07月08日

平井宜雄「債権各論I上 契約総論」(弘文堂2008)

 本物の、契約「総論」の教科書。



平井宜雄「債権各論I上 契約総論」(弘文堂2008)

 「本物の」と形容した理由を、少し敷衍してみます。


 民法典の編成と、民法学(財産法)における講学上の編成を対比すると、次の通り(講学上のほうは、あくまで最大公約数的な)。

(民法典 ⇒ 民法学)

 第一編 総則    ⇒民法総則
 第二編 物権    ⇒物権法
 第三編 債権 
  第一章 総則   ⇒債権総論
  第二章 契約 
   第一節 総則  ⇒債権各論(契約総論)
   第二節 贈与〜 ⇒債権各論(契約各論)
  第三章 事務管理 ⇒債権各論(事務管理)
  第四章 不当利得 ⇒債権各論(不当利得)
  第五章 不法行為 ⇒債権各論(不法行為法)

 並べてみて、いくつか疑問が思い浮かぶんですけど、

・物権法というなら、「債権法」ではないのか。

・不法行為だけ「法」がつく(つきがち)のはなぜか。
(穿った見方をすると、『事務管理・不当利得・不法行為法』をそのまま分解しただけのような。
 が、『手形・小切手法』を「手形」と「小切手法」に分けたら明らかにおかしいわけで。)

・民法総則というなら、債権総論は「債権総則」、契約総論は「契約総則」ではないのか。

 こういった法典との微妙なズレ、なにか明確な理由があるならいいんですが、そういった説明をちゃんとしてくれているもの、見かけたことないです。

 で、3つ目の疑問が、今回の主題になります。


 実際のところ、債権総論や契約総論で扱われている事項って、それぞれの総則に規定されている制度の説明にとどまることがほとんど。

 総則規定とは区別された「総論」なるものが、正面から論じられているわけではない。

 もし、総論ぽいことがちょっとでも書いてあれば「総論」と名乗っていい、というなら、逆に「民法総則」を「民法総論」と呼ばずに、頑なに「民法総則」であり続けている理由はなぜなのか。
 むしろ「民法総則」こそ、最初に勉強する領域ってことで総論ぽいことをそれなりの分量やるはず。
 なのに、あくまでも「民法総則」なんですよね。


 という前置きがあって。

 平井宜雄先生のこの本は、契約法の『基礎理論』というものを正面から扱っていて、これこそ「契約総論」と名乗るのに相応しい教科書です。

 契約とは何かということやその機能がしっかり論じられていたり。

 普通の教科書だと、民法総則の「意思表示の解釈」に依存しがちの「契約の解釈」についても、「契約の」ということを意識的に正面に出して、かなり詳細に論じられています。
 ここは、普通の教科書だと意思表示の項目の中で論じられてしまっているせいで、契約法理論との結びつきがいまいち理解しずらくなっているところ。
 この関連が明確になっているわけです。

【イケてない代表例として思い浮かんでしまう、同じ出版社なのに。】
 後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)
(せっかくの1冊本なんだから、単なる制度の羅列でなく、こういうことしっかり書けばいいのに、と切に思う。)


 平井先生のこの本読んでて思い出したのが、前に書いた記事で引用した記述。

三木義一ほか「よくわかる税法入門 第13版」(有斐閣2019)

24頁
 「民法の場合は、当事者が原則として契約の自由を行使して、紛争が生じたときに裁判所に判断してもらう規範(裁判規範)ですから、裁判官が合理的に判断できればいいかもしません。しかし、税法は税務署と納税者に直接向けられていて、両者ともに税法に定められたとおりにしなければならず(行為規範)、しかも、納税者は申告をしなければならないのです。」

 こういった切り分けにしっくりこないものを感じたわけです。

 たぶんですけど、民法における契約理論というものを、
  ・売主「売ります」(申込)
  ・買主「買います」(承諾)
  ・申込と承諾が一致したから契約成立
みたいな、素朴な理論枠組みとして捉えているから、こういう物言いになるのかなと。

 が、実際にはそう単純な話ではない、ということが、こういう本を読むとわかりますよね。



 ちなみに、この本の書評、梅本吉彦先生が書かれたものがネットにPDFで上がっていたはずなんですが、いつの間にか読めなくなっていました。

梅本 吉彦
「契約法における民法と民事訴訟法の交錯:平井宜雄著『債権各論・I上 契約総論』について」
(専修大学法学研究所所報40巻20頁)

専修大学学術機関リポジトリ

 これとは直接関係ありませんが、ロースクールの廃止にともなって、そこのロー・レビューとかが見られなくなる可能性があるわけですよね。
 明治学院大学法科大学院における加賀山茂先生の論文だったり(加賀山先生の場合はご自身のサイトに掲載されていますけども)。

仮想法科大学院

 速やかにダウンロードしておかないといけない。
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2019年04月08日

加賀山茂「求められる改正民法の教え方」(信山社2019)

 2019年の債権法改正については、『公式見解』に寄り添う系の解説本ばかり出版されています。
 そんななか、加賀山茂先生の著書は、正面から批判的検討をしている数少ない本です。



加賀山茂 求められる改正民法の教え方―いや〜な質問への想定問答 (信山社2019)

 上の本は薄い本で突っ込んだ検討まではされていませんが、成立前に出版されたこちらはもう少し詳細。



加賀山茂 民法改正案の評価 ―債権関係法案の問題点と解決策(信山社2015)

 しかし、これら批判が、全く何にも改正法からは無視されてしまっているのが、如何ともし難いところ。


 私自身もこのブログで、債権法改正に対してはどちらかといえば批判的な観点からイジってきました。

どんな子にも親に内緒のコトがある。 〜民法98条の2の謎に迫る(迫れていない)
ドキッ!?ドグマだらけの民法改正
時効の中断・停止から時効の完成猶予・更新へ
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)
Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法
潮見佳男「基本講義 債権各論1 契約法・事務管理・不当利得」(新世社2017)
私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法
潮見佳男『新債権総論1(法律学の森)』『新債権総論2(法律学の森)』(信山社 2017)

 あらためて読み返してみて、その中でドキッ!?ドグマだらけの民法改正(ひどいタイトル。黒歴史現在進行系)で引用した潮見佳男先生の体系書の記述、もしかしてこういうことなんではと思ったので、そのあたりを追記として。
 再引用するのもアレなので、内容はリンク先の記事にてご確認ください。

(以下の内容は加賀山先生の著書とは直接の関係もなく、また記述レベルも加賀山先生とは比ぶべくもない低空飛行ですが、批判精神のみは承継しているということで)


・民法95条1項柱書(要約)
 錯誤が「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」は、意思表示を取り消せる。

・民法412条の2(要約)
 債務の履行が「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるとき」は、履行請求権は発生しないが損害賠償請求権は発生する。

 潮見先生は、給付の履行が不能であることは「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要」でない(から不能を理由にした錯誤は成立しない)、という主張をされています。

 履行が可能かどうかは契約当事者にとって最重要な要素のはずなのに、なんでこんなこというのか正直よく理解できませんでした。
 ので、前の記事では、不能の問題を「債務不履行責任」に一本化したかったからじゃね、と邪推しておきました。

 今回読み返して思ったのが、これ、「改正民法様が『不能でも契約は有効』と仰っている以上、錯誤ごときに効力をひっくり返されるわけがない!」と言いたかったのではないかと。
 なんでかよく分かりませんが、錯誤のうち不能を理由としたものだけは、412条の2に上書きされてしまうと。

 それはそれで「何故なのか?」という疑問がありますが、他方で、他に無効事由・取消事由があればそっちが優先される、とも書いてあります。
 そうすると、

  不能を理由とした錯誤(95条)
    < 不能でも有効(412条の2)
      < 不能以外の錯誤(95条)、その他の無効事由・取消事由

という、優先劣後関係が構築されることに。

 一体、どういうポリシーなんですかこれは。
 不能が「重要」かどうかは契約当事者が決めること(で、裁判官が、当事者が重要とみていたかを評価する)だと私は思うんですが、そうではなく、412条の2によって、「当然に」重要でないとされてしまう(いわゆる法規からのアプローチ)、ということでいいのかどうか。

 なんとなくですが、さっくん(錯誤くん)が、改正民法様に「動機の錯誤」という重石を担がされた上、412条の2によって海に沈められる様が思い浮かんで悲しいよ(沈むのか浮かぶのか)。


 そもそも、412条の2には「不能でも契約は有効」なんて一言も書いてないんですよね。
 同条からその意味を引き出すには、

 ・契約が有効 ⇒損害賠償責任が発生する
 ・契約が無効 ⇒およそ損害賠償責任は発生しない

という見えないドグマ(Invisible Dogma)をどこから持ち込まないといけないわけで。

 で、

  ・412条の2は不能の場合でも損害賠償責任を認めている。
  ・損害賠償責任が発生するのは契約が有効の場合で無効の場合は発生しない(ドグマ)。
  ・とすると、412条の2は不能でも契約が有効であることを前提としているはずだ。

と、ドグマ繋ぎで逆算していかないと、この結論にはたどり着けない。


 まあそのドグマが正しいという前提にたったとします。
 が、よくよく考えてみると、改正民法で錯誤の効果を無効⇒取消しに落っことしたってことは、錯誤の場合も契約はとりあえず有効なわけです。
 とすると、

 ・有効な契約を、不能を理由とする錯誤で取り消す。
 ・有効な契約を、不能を理由として損害賠償責任を請求する。

と並べて書けるように、契約が有効であることと同時に錯誤要件も満たしている、という状態はありえます。
 錯誤が無効だったときのように「不能でも有効なんだから、当然無効である錯誤は成立しえない」とは言えなくなったはず(これはこれで概念チックすぎますが)。

 ので、412条の2を「不能でも契約は有効」と読み込んだとしても、不能を理由とした錯誤が「当然に」排除される、という結論には直結しない。

 ・不能による錯誤は当然無効  − 不能でも有効 ←両立しない。
 ・錯誤でも取り消すまでは有効 − 不能でも有効 ←両立する。

 もちろん、結論として「不能を理由とした錯誤は排除される」という見解になるのはいいんですが、412条の2を持ち出すだけでは単に「矛盾していない」ということしかいえず、それ以外の実質的な理由付けが必要になる、ということです。


 ちなみに、錯誤の効果が取消しになったことについては加賀山先生も触れているところです。

【改正前】
・意思の欠缺 − 無効 − 心裡留保・虚偽表示・錯誤・(意思能力)
・意思の瑕疵 − 取消 − 詐欺・強迫・行為能力

と、改正前は表向きは綺麗に揃っていました。
 で、無効だと不都合なところを「相対的無効」「取消的無効」とかいって取消に効果を近づけていました。

【改正後】
・意思の欠缺 − 無効 − 心裡留保・虚偽表示・意思能力(←明文化)
・意思の欠缺 − 取消 − 錯誤(1号)
・意思の瑕疵 − 取消 − 錯誤(2号)・詐欺・強迫・行為能力

 改正後では、錯誤が2号の「動機の錯誤」を押し付けられた上で、欠缺と瑕疵にまたがって股裂きの刑にあっているような状態に。
 ほんと錯誤かわいそう。

 これ、一体どういうポリシーで無効と取消を使い分けているんだ?、と思いますよね。
 改正前は、「意思ドグマ」をベースにした理屈の側からの使い分けだったわけですが、改正後はどうにも説明がつかない。
 「表意者保護」という機能を重視するのであれば、列挙した制度全部「取消」にしておかないとおかしいし。


 この一覧みてて思うのが、『意思ドグマぶっ壊してやったぜ、いえ〜い!』とかドヤってるくせに、心裡留保と虚偽表示は無効のままだし、さらにいえば、「意思ドグマ」界の裏ボス的存在たる「意思無能力⇒無効」様を、わざわざ「節」まで新設して無防備に迎え入れちゃってるわけですよね。
 「意思能力がないから無効」なんて、ゴリゴリ「意思ドグマ」だと思うんですけど、なんで平気な顔していられるんだろうか。
 本当にただ、さっくん(錯誤くん)一人だけがぶっ壊されただけじゃんか。

 …「ドグマ狩り」の強襲にひとり犠牲となる錯誤
 …その陰で迫害を逃れた心裡留保と虚偽表示
 …残されたふたりの願いにより、亡くなった錯誤の魂が意思能力に転生して蘇る

そんな「テイルズ・オブ・イシドグマ(TAILS OF ISYDOGMA)」

 ついでにいうと、意思表示の「受領能力」という点では、意思能力と行為能力とは全くの並列になっているんですけど(第98条の2)、無効/取消という効果との整合性はどうなっているのか。
 なお、同条そのものについては、以前の記事でイジり済みです。

どんな子にも親に内緒のコトがある。 〜民法98条の2の謎に迫る(迫れていない)


 話はもどって、私としては、不能が「重要」かどうかは、個々の契約当事者の意思表示ごとに判断すべきことであって、契約内容を見ないで判断できるものではないと思っています(まあ普通は重要だと思いますが)。

 不能な場合に、錯誤取消ルートでいくか契約責任追及ルートでいくかなんて当事者の選択に委ねればいいと思うんですが、なぜにわざわざ錯誤取消ルートを排除しようとするのか。
 最近あまり流行らない、契約責任が成立するなら不法行為責任は成立しない、とか、意思能力欠如で無効なら行為能力取消しはできない、といった「非競合説」を復活させようという試みでしょうか。

【請求権競合については】
多層的請求権競合論と、メロンの美味しいところだけいただく感じの。

 なんか、このへんから、新しい『概念法学』(概念法学Neo)が始まりそうな予感がします。

第三条の二(意思能力)
 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。


第九十五条(錯誤)
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

第九十八条の二(意思表示の受領能力)
 意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次に掲げる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
一 相手方の法定代理人
二 意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方

第四百十二条の二(履行不能)
1 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。



加賀山茂 求められる法教育とは何か (信山社2018)

【加賀山茂先生のサイト】
 仮想法科大学院
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2019年02月11日

潮見佳男『詳解 相続法』(弘文堂2018)



潮見佳男 詳解 相続法 弘文堂2018

 相続法が改正されまして。

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)(法務省)

 内容が重要なのは当たり前として、実務的に気にしないといけないのが「施行日」。

 で、こんな感じ。

  1 2019.1.13 相続法A 自筆証書遺言
  2 2019.7.1 相続法B 下記以外
  3 2020.4.1 相続法C 配偶者居住権
  4 2020.7.1 相続法D 遺言保管法

 1はもう施行済み。
 債権法の改正が3と同じ日なんですね。

  3’2020.4.1 債権法

 この差し込みっぷりをみて想起されたのが、前に紹介したこの本。

近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)

 そこでは、先走って債権法改正後の世界だけを描いてしまったため、運送・海商法改正との不整合が生じてしまっていることを指摘しました。

 潮見先生のこの本では、例によって4以降の世界を中心に描かれています。
 ではありますが、今後、4以前に施行日がくる改正が差し込まれないかぎり、この本がおかくなることにはなりません。


 問題は、『(全)』のほう(※その後、改訂されましたが記録として残しておきます)。

潮見佳男『民法(全)第2版』(有斐閣 2019)
 
 こちらの本では債権法改正後の世界を描いているわけですが、出版時期の関係から当然のことながら、相続法の改正には触れられていません。

 ので、施行を○、未施行を×とすると、

  (全):債権法○ 相続法ABCD×

となっているわけですが、現実の施行状況を時系列にそって並べると、

   〜1 債権法× 相続法ABCD×
  1〜2 債権法× 相続法A○、BCD×
  2〜3 債権法○ 相続法AB○、CD×
  3〜4 債権法○ 相続法ABC○、D×
  4〜  債権法○ 相続法ABCD○

となって、(全)は、現実のどの時点とも一致しないわけです。

 下記記事でもさんざんイジり倒しましたが、1冊本の役割は当該領域を一体として理解できるのがメリット、と思っているので、こういう不整合は早めに解消しておいてほしいです。

後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 内容については、ボリューミーで読み終わってないので、また後日。
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2019年01月21日

前田達明「続・民法学の展開 (民法研究 第三巻)」(成文堂2017)



前田達明 続・民法学の展開 (民法研究 第三巻)  成文堂2017

 研究書で一気読みできたの、久しぶりな気がします。
 論旨が明確で一貫した記述だから、ではないかと思います。

 また、記述の形式が、通常の論文形式のほかに、対話形式だったり、自説への疑問・批判に対してひとつひとつ解答していく、という形式があったりするのも、理解がしやすい要因かもしれません。

 いくつかの論文はネットにアップされていて、すでに読んでいましたが、そのときはよく理解できていませんでした。
 こうやって連続してよむと、そのときよりは理解できた気がします。

【本書に掲載されている論文含めた、「書斎の窓」(有斐閣)掲載の前田論文】
権威への挑戦(上) 2014.1月号(No.631)
権威への挑戦(下) 2014.3月号(No.632)
続・権威への挑戦 2014.11月号(No.636)
続々・権威への挑戦 法規不適用説VS.証明責任規範説 2015.7月号(No.640)
中国からの手紙2016.1月号(No.643)
引き続き「権威への挑戦」 ―― 主張責任と立証責任 2017.03月号(No.650)

法の解釈(上)2016.09月号(No.647)
法の解釈(下) ―― 言語表明 2016.11月号(No.648)
意思表示とは何か 2017年7月号(No.652)
『新注釈民法(15)債権(8)』を読んで 2017.09月号(No.653)
証明責任論争 2018.5月号(No.657)
反制定法的解釈について 2018.9月号(No.659)

前田達明氏の「権威への挑戦」に対する感想 2014.7月号(No.634) (奥田昌道先生)


 構成は以下のとおり。

  第一章 法解釈方法論
  第二章 証明責任論
  第三章 ドイツ民法史論


 第一章は、いわゆる「立法者意思説」という亡霊を召喚しようとするもの。
 あの、ご自身で「亡霊」って書いているので。

 もちろん、立法者意思に絶対的に拘束される、という主張ではなく。

 いきなり自己の価値判断に従った解釈をするのではなく、まずは立法者意思が何かを探求する、で、それが現在において正しくないと判断した場合には、立法者意思に反することを明示した上で解釈をすすめる、という手順をふむと。
 で、これらのことは憲法により根拠づけることができると。


 第二章は、証明責任の分配についての、いわゆる「司法研修所説」(と、それに盲従している学説)に挑戦しようというもの。

 研修所説が、主張責任と証明責任の所在を必ず一致させることに対して、前田説では、証明責任を主観的証明責任(証拠提出責任)と客観的証明責任に分解し、主張責任と主観的提出責任の所在は一致するが、客観的証明責任は必ずしもそれらと一致しない、と主張されています。

 で、こちらの主張も憲法によって根拠づけられると。

 最初に個々の論文を読んでいたときは、私自身も研修所説を当然の前提としていたので、すんなり理解できなかったのですが、複数の論文を通して読むことで、ある程度は理解できた気がします。

 ただ、

 ・主張責任の分配: 民法等の実体要件に忠実に従う
 ・客観的証明責任の分配: 個々の事案ごとに判断する

までは分かるのですが、「主観的証明責任(証拠提出責任)」が、上の2つとは独立して機能する場面というのを具体的に想像することができませんでした。

 主張責任は、主張しないと裁判所に取り上げてもらえない、客観的証明責任は真偽不明になったら不利に判断される、という具体的な効果がそれぞれあるわけです。が、主観的証明責任というのは、どういった効果に結びつくのか。
 現行民事訴訟法では、文書提出命令違反の場合の真実擬制(224条)や時機に遅れた攻撃防御方法の却下(157条)のような、「信義則」(2条)を具体化したような制度があるわけで、それ以外に、主観的証明責任というのが働く場面があるのかどうか。

 ちなみに、おそらくですけど、実務的には「主張責任の所在=証明責任の所在」というルールは変えずに、前田説が言わんとするところは「事実認定」のレベルで調整するんだろうな、という気がします。

 まあしかし、民法学の大家が、こういう権威的な見解にチャレンジするの、読んでいて面白いですね。


 第三章はざっとしか読めていませんが、当時のドイツ民法において、「パンデクテン体系」なんて人工物を導入できた経緯が書かれています。
タグ:専門書 民法
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2018年11月19日

後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)



後藤巻則 契約法講義(弘文堂2017)

 井田良先生の書評記事でも触れましたが、民法で、総論部分を契約類型ごとに溶け込ませた本があったらいいな、と常々思っていました。

【総論 ⇔ 各論(L⇔R)】
井田良「講義刑法学・各論」(有斐閣2016)
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)
関俊彦「商法総論総則」(有斐閣2006)

 で、もしかしてこの本がそういうコンセプトなのかと思って読んでみました。

 が、結論からいうと、契約に関係する個々の制度を一冊にまとめた、ただそれに尽きる、という感じでした。

 『目次』(記事の最後に引用)をみてもらうと分かりますが、個別の契約類型とそれ以外が分断されています。
 では、それ以外は一体になっているのかというと、それほどでもなく。

 たとえば、「意思表示」だったら、民法総則の教科書の該当箇所をそのままこの本にもってきたような記述になっています。
 でも、契約の効力を阻害する制度はほかにもあるんだから、それら制度との役割分担とかを書いたほうがいいと思うんです。
 一通り基礎知識があって、そういったことを自分で考えられる人なら、一冊にまとまっていることは便利なのかもしれませんが。

 まあ、大学の授業のコマが民法の編別ごとに分かれてしまっているので、分けても使えるように配慮しなきゃいけない という事情でもあるんですかね。


 そしておなじみ、「第1刷」は誤字多め。

 訂正表でてますけど、まだ直ってないのありますからね。民法の誤字界隈ではレギュラークラスの「損賠賠償」とか、当然直ってませんし(強い)。

 訂正表・補遺(一般)
 
 直したところでも、たとえば321頁の訂正後はこうなります。

 「622条の2第2項は、敷金返還債務の発生前に、賃貸人は賃借人が賃貸人に対する債務を履行しない場合には、敷金をその債務の弁済に充てることができること(同項前段)、および、この場合に、賃借人は、その充当を請求することができないこと(同項後段)を定めている。」

 条項を主語に持ってくるという、訂正前の文章の構成を維持したまま、条文引き写しをしようとするとこうなるんですが、日本語の文章としては変ですよね。

 ちなみに、数字の全角半角は原文のままです。
 なんか1桁(全角)と2桁以上(半角)で使い分けがされていて、酔いそうになる。

 また、改正法対応で書き換えた部分ならまだ弁解の余地はありますけど、賃貸借契約の解除の効力が「遡及効がある」⇒「遡及効がない」に訂正されたのとか(319頁)、なんでしょうね。

 これ、第1刷とはいえ「第4版」のだからまだこれくらいなんでしょうけど、同出版社の別の本で、「初版」の第1刷の訂正表がものすごい量になっているのを見たことあります。

 こういう本て、教え子の皆さんに、勉強のためとかモニターとかいって、校正してもらえるものかと思っていましたが、違うんですか。



 以下、個別にツッコミいれていきます。
 ただ、この本自体にどうこう、というよりも、理想の契約法の教科書があるとしたらどんな感じになるだろうか、という観点からのツッコミです。


・XX 民法典の体系と本書の構成

 はしがきや帯で「第4版から消滅時効追加したよ」とアピールしているのに、この表には反映されていない残念感。

 と思いきや、債権総則の「第7節 有価証券」に対応しているらしいですよ。
 何言ってるか分からないと思いますが、この表にそう書いてあるので。

 これ、貼り付け場所の間違いから、コピペレポートがばれる学生さんみたいな。


・XX 民法典の体系と本書の構成

 物権法が本書の対象からごっそり抜けています。
 契約法(債権法)を中心に記述する、という方針からは、まあそうなるんでしょう。

 にもかかわらず、個別の論点の中には、対抗要件の問題とか物権・債権の違いとか共有とか担保物権とか、結構でてきてます。
 のに、物権に関するまとまった記述がないので、初学者には理解しにくいと思う。


・第1章 契約の成立、第2章 契約の内容

 「第1章 契約の成立」の中で、意思表示(錯誤とか)が論じられてしまっていますが、通説的な発想からすれば、意思表示は契約が成立した後の効力(有効/無効)の問題ですよね。

 また、「第2章 契約の内容」のところで、契約内容の確定が論じられているのですが、これ意思表示を論じるより前の問題ですよね。
 契約内容が確定してから、じゃあその契約内容に対して錯誤とかがあるのかどうかを検討する、という流れなはずです。

 それが正しいかはともかく、この枠組みを正確に理解できていないと、通説的な契約法の構造を理解することもできないんじゃないかと。


 この契約の成立/効力のはなし、印紙税法からの逆噴射からはじまって、当ブログでも散々イジってきました。

【契約の成立と効力絡みの記事】
【書評】潮見佳男『新債権総論1(法律学の森)』『新債権総論2(法律学の森)』(信山社 2017)
ドキッ!?ドグマだらけの民法改正
私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法
どんな子にも親に内緒のコトがある。 〜民法98条の2の謎に迫る(迫れていない)
Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法

1 契約の成立 どのような場合に契約は成立するか。
2 契約内容の確定 どのような内容の契約か。
3 債務不履行・契約不適合 どのような場合に契約違反となるか。
4 意思表示 意思にどのような問題があった場合に効力が阻害されるか。

 理屈上はこのように分類できて、教科書のそれぞれの場所でバラバラに論じられています。

 が、それぞれの場所で考慮すべき事情って、具体的にどのような違いがあるんでしょう。
 結局のところ、当事者がどのような合意をしたかを探求する、というのが中心にあるんだと思うんですけど。

 それぞれの制度目的にしたがって考慮すべき事情が変わってくるのであれば、具体的な違いを示してほしいわけです。 
 こういうコンセプトの本に、そういった期待をしているんですが、残念ながら普通の教科書と同じノリ。


 ちなみに、2017年の民法改正では、
  1⇒522条で明記された
  3⇒415条で契約の趣旨を考慮することが明記された
  3⇒担保責任が吸収された
  4⇒動機(基礎事情)の錯誤を考慮することが明記された
といった改正が行われました(3と裏表の関係にある2にも影響)。

 そのため、それぞれのポジションが従来の見解から動いているはずです。
 ので、それらの関係を論じる必要性は高まっていると思います。

 特に、債務不履行責任の中に、担保責任という責任拡張規定を吸収した一方で、意思表示理論という責任制限規定との関係性は不明なまま。
 契約不適合を債務不履行責任に吸収しつつ、動機の錯誤を意思表示理論に組み込んだことで、債務不履行責任と意思表示理論がかなり接近しているんじゃないかと思うんですけど。

 概念上は、成立した法律行為から生じる債権債務の問題と、その法律行為を構成する意思表示の問題、ということで区別はできます。が、考慮すべき事情は相当かぶってますよね。

 契約に関する限り、意思表示理論を廃棄して債務不履行責任に一本化するところまで、あと一歩な気がします。たとえば、詐欺により形成された契約は、「取引の社会通念上」保護に値しないから債務不履行責任は生じない、とかいって。
 債務不履行責任が過失責任主義から抜け出した(ともいえる)のと同じように、意思表示理論も、当事者の善意/悪意や過失/無過失を直接の要件とせず、契約の拘束力判断の一要素に落とすとか。第三者への対抗も、契約責任規範の第三者効として論じるとか。


・23頁 原始的不能

 どの民法改正本にも書かれているのと同じように、原始的不能でも無効にならなくなった、ということが書いてあります。
 が、私にはどうにも理解できないのが、133条との関係。

(不能条件)
第百三十三条  不能の停止条件を付した法律行為は、無効とする。
(履行不能)
第四百十二条の二 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。


 133条では不能の停止条件がついてたら無効だって書いてあるんですよね。
 たとえば、「金ちゃん(ペットの金魚)を生き返らせてくれたら1000万円あげる」というのは、不能な停止条件がついた贈与契約、ということで無効になるのか。それとも、それは「停止条件」ではなく、負担付贈与とみるか、あるいは1000万円と対価関係にある請負契約とみて、有効のままなのか。

 改正前ならどちらでも無効だったわけですけど、改正後は条件とみるかどうかで結論が変わってしまいます。

 条件付贈与:1000万円あげる。金ちゃん生き返らせてくれたらね。 ⇒無効
 負担付贈与:金ちゃん生き返らせてくれたら1000万円払うね。   ⇒有効
 請負   :金ちゃん生き返らせてくれたら1000万円払うね。   ⇒有効

 概念上は、その契約がどういう趣旨だったかでどうにか区別できそうですけど(相手方自身の力によらず、何らかの力によって勝手に生き返った場合でも払う趣旨かどうか、とか)、そもそも、有効/無効なんて、両極端に結論の食い違いがでてもいいのか。
 契約の「要素」か「付款」かで決める、なんていったら、みんな毛嫌い『概念法学』みたいですし。
 それで区別するにしても、

 ・契約の要素が不能 ⇒有効
 ・契約の付款が不能 ⇒無効

てことになって、付款が不能なだけで無効なのに、なんで要素が不能な場合は有効なんだ、と逆転現象が生じてしまいますし。

 両条を整合的に解釈しようと思ったら、原始的不能では無効だが(133条)、損害賠償請求することは可能(412条の2第2項)、と解するとか。もちろん、実際に賠償すべき損害が生じてるかどうかは別問題として。

 412条の2第2項を、
  ・有効だから損害賠償請求ができる
と読むのではなく、
  ・無効だけど損害賠償請求はできる
と読むこということ。

 こういう、民法総則(不能条件)と債権総論(原始的不能)にまたがる問題があって、特に今回の改正で原始的不能が有効となったことによって怪しい関係になっているはずなのに、特に何の記述もなく。


 条件絡みで、ついでにもうひとつの疑問。この本からはさらに離れます。

(条件の成就の妨害等)
第百三十条  条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
2  条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条  当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2  債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。


 130条2項の例として、仲介者の仲介を妨害して直接契約した場合、条件成就とみなされて仲介料支払わないといけない、という具体例が民法総則の教科書によくあげられています。
 他方で、危険負担に関して、使用者のせいで労働者が労務の提供できなくなった場合は、536条2項の法意から、労働者はその期間の賃料を請求できる、という具体例が契約総論の教科書にあげられています。

 これ、一方が「条件」の問題、他方が「危険負担」の問題、というようにまるで別々のことのように記述されているんですが、中身はほぼ同じですよね。たとえば、仲介者の事例を「危険負担」の問題として記述することもできるわけで。
 もっというと「受領拒絶」の事例ということもできますし。

 と、ここでも、民法総則(条件成就妨害)、債権総論(受領拒絶)、契約総論(危険負担)にまたがる問題があるはずなのに、特に記述もなく。


・77頁、359頁 代理・委任

 代理は契約の主体の中で、委任は個別の契約類型の中で、それぞれ別々に論じられてしまっています。

 完全にオーバーラップしないまでも、復代理が105条から644条の2に飛んだみたいに、代理と委任、かなり密接な関係があるのに。

 一冊本のメリットが活かされていない一例。

・105頁 契約上の地位の移転

 機能的には債権譲渡や債務引受に近いのに、なぜかそれらとは離れた「契約の主体」のなかで論じられています。似通ったそれぞれの制度が、どのように使い分けされているのか書けば、理解が深まると思うんですけど。

 債権譲渡・債務引受を「金銭債権の履行の確保」のための制度に括ったせいで、はみ出しちゃった感じですか。


・132頁 弁済

 『弁済とは、債務者による給付内容の実現である。100万円の借金がある者がこれを弁済する場合や、売主が目的物を買主に引き渡す場合のように、債務者による履行行為が弁済である。』

 下線は私が引きましたが、弁済の具体例をあげる中に「弁済」って入れるの、絶対ダメだと思うんですけど。
 しかも、『弁済とは、〜弁済である。』とかいってて、後ろの「弁済」余計ですし。

 この箇所読んで、あれ?この本もしかしてアレなんじゃ、と思いはじめ、ツッコミモードに切り替えて、あらためて読み進めていくことになりました。


・189頁 金銭債務の不履行についての特則

 『金銭債務の不履行について、419条は、2つの例外を定めている。』

 もちろんこのあとに内容の説明があるんですけど、どの原則に対する「例外」か、ということがこの一文の中に書かれておらず、読んでいて不安になりました。


・191頁 代償請求権

 建物賃借人が保険金受取人になれる火災保険なんて、今どきあるんですか?(この状況から入れる保険なんてあるんですか的な感じでどうぞ)。

 もし仮に、受取人になれない賃借人が何かの間違いで保険金を受け取ってしまっても、それは普通に「不当利得」だし、保険会社側からすれば「非債弁済」の問題だし(下手すると保険金詐欺)。
 
 どうにか現代でこの事例を活かすなら、賃貸人が受け取った保険金が、賃借人の負担する損害賠償金から控除されるかどうか、という「損益相殺」の話とかになるのでは。

 少なくとも、「代償請求権」の具体例としては相応しくない。
 おそらくですけど、ここで引用されている昭和41年の判例の事案て、本当はそういう事案ではないんだと思います。他の本からの孫引き孫引きを繰り返している間に、間違った要約がされていったと推測。

 こんなこと、学生がゼミの報告でやらかしたら、教授にめたくそに怒られるやつよ(後藤ゼミは除く)。

【今どき相応しくない判例をあげる例】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)



・194頁、312頁 債権侵害

 どちらにも、不動産賃借権に妨害排除請求権があることが書かれてます。
 が、同じ判例を引用しているにもかかわらず、クロスリファレンスがない。

 せっかく一冊本にしたのに、結局、債権総論の教科書と契約各論の教科書を合本したのと変わらない。
 このクロスリファレンスの不徹底、逐一指摘しているときりがないので途中でカウントやめました。


・196頁 債権者代位権の意義・機能

 強制執行には「債務名義」がいる、でも債権者代位権行使すればいらない、てことが債権者代位権のメリットみたいに書かれています。
 それはまあ民法上はそうなんでしょうけど、現実的に考えるとどうだろうかと。

 自分が第三債務者Cの立場だとして、いきなり知らない人(A)から俺に払えとか言われて、はいそうですか払います、とはならないですよね。
 特に、債務者Bの「無資力」なんて第三債務者Cには判断しようがないですし。
 不安なら、債務者B本人に払うなり供託するなりするはず。

 ので、Bに対する債務名義をとってCに債権執行(+取立訴訟)をするか、Cに対する債務名義をとってCに強制執行をするか、という手続法上の違いはあるものの、「債権者代位権のおかげで債務名義なしに回収できました」と言い切れる場面は現実的に少ないはず。

 これ、転貸借に関する613条1項と比べると、第三債務者Cのおかれた「利害状況」の違いがわかると思います。

 613条1項では、転借人Cは賃貸人Aに直接債務を履行する義務を負うとされています。
 この規定、賃貸人A側からのメリットばかり強調されますが、転借人Cにとってもメリット大きいです。というのも、賃借人/転貸人Bの意向にかかわらず、自分自身が債務者として弁済したりできるので。
 転借人Cにとって、賃貸人がAであることは把握しているのが普通でしょうし、進んで支払うことに自分自身もメリットがあるわけです。

 他方で、債権者代位権の場面では、第三債務者Cは債権者Aのことなんて通常知らないですし、知っていたとしてもBが無資力かどうかを自ら調査してまでAに支払うインセンティブは何もないわけです。
 訴訟外でAに支払ったあとに、Bから請求されたらどうしてくれるの、とか考えますよね。

 ということで、実際の回収の場面まで想定すると、この点は債権者代位権のメリットとしてあまりアピールできるものではない気がします。

 「債権者代位権には事実上の優先弁済機能がある」ということもよく言われますが(この本では、なぜかそういう表現はでてこないです)、これが機能するのって、ラッキーにもCが任意に払ってくれたか、または、Cに対する強制執行が他の債権者の参加なく配当までいけた場合ぐらいですよね。
 で、後者の場合に他の債権者に優先できるのは、債権者代位権の効力というよりは執行法上の遮断効のおかげじゃないんですかね。債権者代位権の仕事は、Cに直接、訴訟提起⇒強制執行できる権利があるというところまでで、優先弁済機能は執行法の手柄ではないかと。
 とすると、債権者代位権の「事実上の優先弁済機能」というのは、前者の、Cが任意で支払ってくれるという奇跡的な事例でしか働かない、ということになりそう。

 いずれにしても、債権者代位権(あと詐害行為取消権も)の機能を理解するには、実体法だけでなく手続法の知識が必要となってきます。通常の場合と代位権行使した場合とで、交渉⇒訴訟⇒執行⇒回収のそれぞれの場面でどれほどの違いがでてくるかを理解する必要があるので。
 とすると、実体法側からだけ詳しく論じても、それほど意味がない。

 中途半端に「債務名義いらない」なんて手続法上のメリットぽいことを書くのはやめて、Cに直接請求できるとか、Cが払ってくれたら受領できるとか、実体法レベルの記述にとどめておくのがいいような。
 書くのであれば、たとえば森田修先生のように、債権回収という側面から実体法・手続法を一体として論じるとかしないと。



森田修 債権回収法講義 第2版(有斐閣2011)


・200頁 債権者代位権の転用

 『このような債権者代位権の活用を、債権者代位権の転用という。』

 他にどう言えって反論されると思いますが、「活用を転用という」って。

 ちなみに、法が正面から認めた類型については、いつまでも「転用」と言い続けるのはどうかとも思いますけども。


・253頁 承認による時効の更新

 『完全な行為能力は必要でなく、管理能力があれば足りる。』

 「管理能力」って法律用語っぽく書いてるけど何だ、と思ってもそこに定義が書いてありません。

 なんか行為能力絡みっぽいから、行為能力のところに書いてあるのかな、と頑張って探しても、まあありません。

 僕たち私たちの『法律学小辞典』にも「管理能力」のってませんし。

 「法律学小辞典」の『小』は「小スキピオ」の『小』


 共有における処分・管理・保存の「管理」を想定しているのかもしれませんが、特にそういう説明もないし。
 そもそもこの本に物権法の記述ないし。


・269頁、318頁 継続的契約の解除、賃貸借の終了事由

 おなじみ信頼関係破壊の法理。
 で、同じ判例を引用しているのに相互参照がないパターン。


・298頁 債権の売主の担保責任

 「債権売買」って、債権総論の「債権譲渡」に絡んでくるものです。
 ので、一緒の箇所で論じないまでも、相互参照があってもおかしくない。
 のに、ここでは単に569条の説明のみ。

 債権譲渡を「金銭債権の履行の確保」のための制度として位置づけているんだから、なおさら、担保責任だって重要なはずなんですが。

 その視点からの記述にはなっていない。


・315頁 転貸の効果

 転貸の効果って、債権者代位権(の転用)と機能が似ているよね、と思うんですが、例によって相互参照もなく。


・336頁 使用物の費用の負担

 595条2項で準用されている583条2項ってどんな内容だっけ、と思い、例によってレファレンスないパターンかと思って、目次から「買戻」の箇所を探して該当ページをみたところ、そもそも583条2項についての記載がないというオチ。

 そうきたか。


・338頁 要物契約としての消費貸借

『貸す側からすれば、契約書その他をきちんとしたうえで貸したほうが安全であるため、実際の金銭貸借においては、まず金銭消費貸借契約書を公正証書で作成し、次いで抵当権の設定登記をして、その後に金銭の交付がなされるのが一般である。』

 この記述、お金を貸す場合に、公正証書の作成と抵当権の設定をするのが一般であるかのように読めますよね。
 社会人であれば、んなこたーない、とツッコめるでしょうが、学生さんは誤解するかもしれません(学生ローン人除く)。

 公正証書の作成と抵当権の設定をする場合には金銭交付が最後にくる、という「順番」が一般だ、ということなんでしょうけども。

 誤解を招く書き方。


・345頁 請負契約と委任

 『請負契約は』『委任では』

 対比をしているんだから、表記揺れないでほしい。


・348頁 解除の非遡及効

 「非遡及効」というのははじめて聞きました。
 「将来効」か、あるいは「不遡及効」が一般的では。


・349頁 請負工事契約約款

 さらっと「約款」という言葉がでてきますが、「定形約款」との関係を書いてほしい。


・391頁 消費者契約の取消し

 『消費者契約法4条1項から4項の要件が充足される場合には、消費者は当該消費者契約の申込みまたはその承諾の意思表示を取り消すことができる。その結果、事業者と消費者との間で締結されていた契約は、契約締結時に遡って無効となる。』

 「その結果」て、できるってだけでまだ取り消すとは言ってませんけど!と思わず突っ込んでしまいました。
 ここまでくると、ツッコミぐせが強くなってしまって。


・394頁 不当条項

 「以下のような当該不当条項の全部または一部を無効とする規定を置いている。」

 「当該」いらなくね?


・418頁 資料1 貸室賃貸借契約書

 通常、この手のおまけ書式は読み飛ばすところなんですが、本文にこれだけツッコミポイントがあるんだから、おまけにもなんかありそう、と思って読んでみました。
 で、期待通り。

 どこかの書式をいただいてくるにしても、もう少しどうにかならなかったのかと。

・418頁 資料1 前文 

 『賃貸人○と賃借人○との間に、次のとおり貸室賃貸借契約を締結します。』

 これ主語ないですよね。
 「〜との間に〜締結します」て、え?これ誰が宣言してんの怖い。

 神託により契約が成立する(The Oracle of Contract God)、みたいな世界観ですか。
 一般私人には契約締結能力がなく、契約神のみが契約を締結することができる、そんな時代。

・418頁 資料1 第7条

 『賃料の支払いをしばしば遅滞し』

 契約書に「しばしば」はないでしょ、「しばしば」は。

 「しばしば」
 「しばしば」
 「しばしば」

 どんだけ?(おなじみゲシュタルト崩壊)


・418頁 資料1 第16条

 「賃貸人の居住地の裁判所を第1審の管轄裁判所とする」

 正確には「居住地を管轄する裁判所」だし、専属的・付加的の区別もないし、地裁・簡裁の区別もないし、ゆるゆる。


・418頁 資料1 第15条 連帯保証

『連帯保証人は、賃料の支払い等本契約に基づく賃貸人に対する賃借人の一切の債務について保証し、賃借人と連帯して履行の責を負うものとします。』

 ここまでは細かい言い回し程度の話ですが、「連帯保証」に関しては致命的。
 改正民法が全く反映されていない。

 家賃の保証っていわゆる「根保証」に該当するので、極度額の設定とか通知義務とか、かなり気を使わなければならないことになりました。

 のに、ここでは昔ながらの文言。
 で、「保証」のルール確認しようとおもって、この本の該当箇所探してみたら、そもそも書いていない!

 まさかの。
 
 保証だって「金銭債権の履行の確保」のための制度なのに、まさか一言も触れられていないとは。
 やたらと詳しい「債権者代位権」や「詐害行為取消権」の記述を減らしてでも、ねじ込むべきものだと思うんですけど。


・422頁 資料4 約款の例

 なぜか主たる保険契約の約款ではなく、付加契約のほうの約款。途中で打ち切っちゃってるし。
 
 内容も、改正民法の「定形約款」ルールを織り込んだバージョンにすればいいのに、と思う。


・帯 クロスレファランス

 『クロスレファランスが、契約をまるごと理解するのに有効。』

 まさか帯までツッコむことになるとはね。

 カタカタ英語(reference)なのでどうこういうのもなんですが、通常は「レファレンス」か「リファレンス」ですよね。
 これだけ誤字があると、「帯まで誤字か!」とツッコみたくもなりますよ。

 そして、これ書いたせいで、私のグーグル日本語入力に記憶されてしまう罠。
 私自身もどこかで誤字る可能性がありますので、先に謝っておきます。



 以上、コンセプト自体はよさげだったんですけども。

【コンセプトだけを褒める系】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)
(本記事2度目の引用)

 さらっと読めてしまう本よりも、こうやってツッコミを入れながら読んでいける本のほうが、能動的な学習(アクティブ・ラーニング)ができるという意味ではいい本なのかも(フォロー・アップ)。

 でも、初学者にとっては難しいですよね。
 もっとしっかり読み込めば、色んな発見があるかもしれないので、チャレンジャーはぜひ。



 ということで、理想の契約法の教科書を妄想してみます。

・個別の契約類型ごとに、意思表示やら解除等の制度を溶け込ませて論じる。

・個別の制度特有の論点は、それぞれの領域の教科書に委ね、深入りしない。

・他方で、制度間の関係やそこから生じる論点は深く論じる。

・手続法との絡みはどこまで書くか。少なくとも誤解を生じる中途半端な記述はしない。

 さしあたりこんな感じですかね。思いついたら都度充実させていきます。


【理想の教科書を求める旅】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅


【主要目次】
序 章 民法典と契約法
第1章 契約の成立
 T 契約成立のプロセス
 U 契約成立の諸態様
 V 意思表示
 W 契約の主体
第2章 契約の内容
 T 契約内容の確定
 U 契約内容の妥当性
第3章 契約の履行
 T 正常な経過による債権の実現
 U 双務契約上の債務の履行過程における牽連性
 V 契約が期待通りに履行されなかった場合の救済
 W 金銭債権の履行の確保
 X 債権の消滅時効
第4章 契約の終了
第5章 契約の基本類型
 T 売買
 U 贈与
 V 交換
 W 賃貸借1(賃貸借一般)
 X 賃貸借2(宅地・建物の賃貸借)
 Y 使用貸借
 Z 消費貸借
 [ 雇用
 \ 請負
 ] 委任
 ]T 寄託
 ]U 組合
 ]V 終身定期金
 ]W 和解
第6章 消費者取引に関する特則
 T 消費者契約法
 U 特定商取引法
 V 割賦販売法
【資料/事項・法令・判例索引】
posted by ウロ at 12:01| Comment(0) | 民法