税法上の減価償却ルール、《個人は強制償却、法人は任意償却》というテーゼ自体はすでに人口に膾炙しているところかと思います。
が、《任意/強制》という単語だけがどうにも独り歩きしてしまっている感があるため、あらためて条文の確認をしておきます。
○
まず、所得税法から。
所法 第四十九条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
1 居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として第三十七条(必要経費)の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
《税務お役立ち記事》の中で条文にまで触れているものだと、文末に「とする。」と書いてあるから強制なんだ、とおっしゃっているものを見かけました。
そのことの当否は一旦保留して、次に法人税法の規定をあげます。
法法 第三十一条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
1 内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の所得の金額の計算の通則)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
同じく、《税務お役立ち記事》によれば「損金経理」と書かれているから任意なんだ、とおっしゃっていました。が、「損金経理」を要求しているからといって、当然に会計上の償却を任意にできるとの帰結が導けるわけではありません。
次のような簡易事例で考えてみます。
【簡易事例】
・取得価額 200
・1年目償却限度額 150
・2年目償却限度額 50
【事例1】
1年目 損金経理0 償却限度額150 →損金算入0
2年目 損金経理150 償却限度額150 or 50? →損金算入50(加算)or 150?
よくある、と言っていいのかどうか分かりませんが、1年目で会計上の減価償却費を0円としたパターンです。
「損金経理」を要求しているというだけでは、1年目の償却限度額を先送りにできるのかどうか、はっきりしません。「損金経理をしないのは勝手だが、自動的に償却にされて税務上の帳簿価額は目減りしてしまう。」という解釈も成り立ち得ます。
では、所得税法と法人税法とで、他に違いがあるかというと。
法人税法では「達するまでの金額」と書かれています。所得税法では決められた金額1点だけなのに対し、法人税法では「達するまでの金額」となっていることで、幅のある金額であることが示されています。また、「償却限度額」と定義づけされていることも、幅のあることを許容していることを表しているでしょうか。
このような「金額」についての書き分けから、《個人は強制、法人は任意》という帰結を導くことができるものと思われます。
が、結論にあわせてそう読み取っただけで、素直にそのように解釈できるかは微妙。
特に、31条1項の書きぶりでは「損金経理した金額のうち」となっていて、
損金経理額>償却限度額(超過)
のパターンしか想定していないように読めます。施行令をみても、「超過」の場合の処理しか書かれていませんし。
法令 第六十二条(償却超過額の処理)
内国法人がその有する減価償却資産についてした償却の額のうち各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されなかつた金額がある場合には、当該資産については、その償却をした日の属する事業年度以後の各事業年度の所得の金額の計算上、当該資産の帳簿価額は、当該損金の額に算入されなかつた金額に相当する金額の減額がされなかつたものとみなす。
この政令を裏読みして、「不足」の場合は当然に帳簿価額は減額されない(のに対し、「超過」の場合は減額されないとみなす必要がある)と理解しておけばよいでしょうか。
○
法人が任意だからといって、「黒字の期は全額計上、赤字の期は償却しない」などといった無節操な運用をすることが自由かといえば、そうとも言い切れません。
というのも、次の規定。
法法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
この規定の解釈も、一筋縄ではいかないのですが。
酒井克彦「プログレッシブ税務会計論」(中央経済社2018)
31条が、ここでいう「別段の定め」にあたり22条4項を完全に上書きし尽くす、という解釈が成り立ち得ないわけではないです。が、減価償却費の計上についても「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に従うことが要求される、と一般には理解されているものと思われます。
ただ、会計側には、(IFRS適用企業は別として)減価償却について個別具体的な「ルール」があるわけではありません。あくまでも「スタンダード」としての一般原則が存在しているだけです(ルール/スタンダードの区別)。
ここで関係がある一般原則としては、継続性の原則、重要性の原則、収益費用対応の原則あたりでしょうか(これらを横並びにすることの違和感はさしあたり無視してください)。
法人税法が、法人に任意償却を許容しているのは、法人がこれらスタンダードに準拠してくれるはずというピュア・マインドからであって。決して「黒字なら全額計上、赤字なら全額未計上」などといった傍若無人な振る舞いまでもを許容しているとは考えにくいです。
とはいえ、近時の課税要件設計のトレンドである、納税者有利にも機能しうる「スタンダード」を厳格な「ルール」に置き換えていく、という法令・通達の改正傾向を横目にみるならば、課税庁側にしても、22条4項のような「スタンダード」規定を使って更正をしていくのは、なかなかハードルが高いように思います。
○
もうひとつ、31条1項の規定から導かれる帰結。
【事例2】
1年目 損金経理150 償却限度額150 →損金算入0(加算)
2年目 損金経理50 償却限度額150 or 50? →損金算入150(減算)or 50
1年目に損金経理をしつつ申告書上で加算(留保)、2年目に減算するという処理が許容されるかどうか。
会計と税務が一体化している同族会社からすると、なぜこんなことをするのか、理解しがたいかもしれません。
が、たとえば、会計上は対金融機関向けということもあり限度額どおり償却する、他方で税務上は繰越欠損金が期限切れにならないように損金算入時期を遅らせたい、というニーズがありうるわけです。
しかしながら、このような先送りは許されないものと思われます。
というのも、31条1項の書きぶりは、償却限度額内で損金経理をした場合、問答無用で損金算入する、となっているからです。これが同項の文末の「とする。」の意味するところです。
「任意」とはいっても、会計原則上のスタンダードの範囲内での会計処理が許されるにすぎず。そのようなスタンダードによる会計処理が税法上の償却限度額内に収まっている限り、必ず損金算入されると。
なお、似たような話しは、倒産防(セーフティ共済)に関しても論じたことがあります。
みんな大好き!倒産防(その11) 〜益金ルール不存在
○
このようなことからすると、法人の場合を「任意」償却と呼ぶのは違和感があります。会計上のスタンダードによる制約はあるわけで、完全フリーではない。
他方で、個人の場合を「強制」償却というのも、別に償却が強制されるわけでなく。償却しなければ使い捨てられちゃうよということなので、やはり違和感があります。
《任意/強制》では、法的な規律を正確に表していないように思えます。
とはいえ、より望ましい名前が思いつくわけではなく。が、単語を独り歩きさせることなく、その中身を正確に理解すべきだとは思います。
2025年11月10日
《個人は強制償却、法人は任意償却》なる誤導テーゼについて
posted by ウロ at 11:57| Comment(0)
| 法人税法
2025年09月08日
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その5) 〜具象論
謎の《等質等量テーゼ》。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その4) 〜根拠論2
法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2−8「七」により追加、昭61年直法2−12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
《お役立ち記事》が、「これは等質等量、これは等質等量じゃない」などと真面目に記述しているの、あれは一体何をしているのでしょうか。
《お役立ち記事》では、だいたい同じような具体例が列挙されています。
《具体例》
認められる
家賃、保険料、リース料、保証料
認められない
顧問料、給料、広告料
が、これらが実際に裁判で争われたというものではありません(私が見つけられないだけで、どこかに「等質等量データベース」があるのでしょうか)。
たとえば、民法177条の「第三者」の具体例で、第三取得者、物上保証人には正当な利益があるなどと記述されているのは、それぞれ実際の判決が存在することに基づくものです。
ところが《等質等量テーゼ》には、このようなものが存在しない。のに、どの《お役立ち記事》でもこぞって同じような具体例とそのあてはめが書かれている。
一般論のかぎりでは、「みんなが言っている」は説得力を高めるひとつの理由ではあります。
が、《等質等量テーゼ》のあてはめに関しては、何に基づいているのかが不明なため、みんなが幻覚を見ているだけかもしれない。
「どのサイトを見ても一致した見解が示されている!ゆえに信頼できる!」とは速断できない。
○
先の記事で引用したとおり、国税庁の質疑応答事例では、「等質等量」とはいいがたい「拠出委託料」について、法人税基本通達2−2−14の取扱いに「準じて」損金算入できるという見解が示されています。
改正容器包装リサイクル法に基づき特定事業者が指定法人に支払う拠出委託料の取扱いについて
あてはめのところに《等質等量テーゼ》は一切でてきません。
《等質等量テーゼ》が要求されているならば、損金算入できませんとなるはずですよね。
本当に《等質等量テーゼ》は存在しているのか、非常に怪しい。
○
例の『要件』。
1 一定の契約に従って継続的に提供を受けること、
すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること
2 役務の提供の対価であること
3 翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること
4 現実にその対価として支払ったものであること
「一定の契約に従って継続的に提供を受けること」
と
「等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること」
とに、『すなわち』で連結できるほどのイコール感があるとは思えません(ちなみに、1〜4を並べるとなんか1だけめっちゃ早口で言っているように感じる)。
継続的なサービスだからといって、必ずしも等質等量とは限らないのではないでしょうか。
また、文字通りの「等質等量」のサービスなんて、実在するのでしょうか。
「定質定量」ですらなく「等×等」ですからね。1年先まで変わりがない固定のサービスなんて、今どきあるのかどうか。
○
ということで、《等質等量テーゼ》があるとかないとか言われている具体例につき、検討を加えてみます。
以下、○は「認められる」とされているもの、×は「認められない」とされているもの、?は「明らかでない」ものを表しています。
・家賃 ○
認められるの代表例。ですが、たとえば大家さんが親切な人で、「宅配ロッカー」を備え付けてくれたり「ネット回線」を速くしてくれたり、といった場合でも等質等量のままなのでしょうか。
また、ネット利用料を別料金で提供していたとしましょう(大家さんがアパート全体のネット契約をして借主に使わせるとする)。
いわゆる「ベストエフォート」と言われているとおり、回線速度は一定ではありません。とすると、ネット利用料は等質等量ではないということになるのでしょうか。
「ネットを利用できる」という抽象的なレベルでは同じなのでしょうが、「質と量」につき等しいことを要求してしまった以上、回線速度を無視して判断するわけにはいかないでしょう。
・保険料 ○
これも認められるの代表例。ですが、保険期間中に保険事故が生じて「保険金」が支払われても、等質等量性は保たれたままなのでしょうか。保険料の対価は危険の負担であって保険金の支払いではないとでも説明するのでしょうか。
あるいは、無事に保険期間が終了した場合だけが等質等量で、保険事故が生じた場合は等質等量でなくなる、ということになるのでしょうか。
・保証料 ○
たとえば、家賃保証で家賃滞納となった場合には保証債務が履行されることになるわけですが、それでも等質等量のサービスといえるのでしょうか。
保険料ならまだしも、保証債務の履行は保証料の対価ではない、というのはさすがに無理があるように思えますが。
・保守料 ?
これは内容によりけり、ということで争いがあるようです。
必要に応じて点検に来てもらう、とすると等質等量でないとなりそうです。が、もし1年間一度も利用しなかった場合は等質等量だったことになるのでしょうか。
もしかしてですが、等質等量かどうかは、前払いの時点での「見込み」で判断するということなのか。当該製品は初年度で点検が必要になったことは今まで一度もなかったから等質等量といえる、2年目以降から点検の頻度があがるから等質等量ではなくなる、とでもいうのか。
もし「見込み」で判断するのだとすると、家賃なども、そろそろ大家さんがなんかやってくれそう、という見込みがある場合には等質等量でなくなる、などと判断することになるのか。
・リース料(レンタル料) ○
リース物件を月によって使ったり使わなかったりしたとしても、等質等量といえるでしょうか。
物の性質上、24時間使いっぱなしのものならばよいのでしょうが、必ずしも毎日使うものでない場合はどうなのか。
サービス提供側からすれば等質等量な提供だといえても、受領側が実際に受ける便益はそうではない場合もあります。この場合に、どちらにとっての等質等量で判断するのか、という問題があります。
また、リース料が保守サービス込みとなっている場合はどうなるのか。
・クラウド会計利用料 ?
『日々進化している!即時アップデートが反映される!』を謳い文句にしているわけで、むしろ積極的に等質等量でないことをメリットとしてアピールしているってことですよね。
まさか、クラウド会計屋さん自身のサイトの記事で《等質等量テーゼ》を謳っておきながら、別記事で自社の年間利用料が損金算入できるなどと記述していたりしませんよね。
また、料金体系・サービス体系がコロコロかわるという点からしても、等質等量とは言い難いのではないでしょうか。
・広告料 ×
単発の広告なら駄目なんでしょうが、1年間サイトにバナーを設置する、だったらどうでしょうか。
これなら等質等量といえそうです。が、バナー以外の箇所が更新されることでサイトのPVが変動するわけで、これでも等質等量といえるのか。
「自社のバナー」部分だけでみれば等質等量ですが、広告効果は日々変動しています。
これ、ネット広告に特有の問題ではありません。
たとえば路上の立看板とかでも同じことがいえます。看板の隣に幹線道路ができたとか大型商業施設ができたとかで、広告効果が変動することがあるわけですが、それでも等質等量なのか。
○
以上、半ば(ほぼ?)イチャモンみたいなものです。
が、「等質等量」という言葉尻以外に、なんら判断基準となるものが存在しないから仕方がない。
そもそも《等質等量テーゼ》が、何のために要求されているのかがわからないところに、根本的な問題があります。
会計上も法令・通達上も存在しない謎『要件』を、わざわざ混入させたのはなぜなのか。
だというのに、《お役立ち記事》の皆様は、満たすとか満たさないといった結論をやすやすと導いています。
私には、「吸血鬼にとって、十字架様の形状のもののうちどこまでがセーフでどこからがアウトか」を真剣に議論しているような所作に思えて仕方がない。
【吸血鬼イジり】
なぜ吸血鬼は自分の血を吸わないのか。 〜AI時代の吸血士のための生存戦略セミナー
戸松秀典『憲法』(弘文堂 2015)
○
なお、《等質等量テーゼ》を打倒するためだけであれば、例の高裁判決が使えそうです。
【いつもの】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
この高裁判決の「通達の文言解釈(笑)」によるならば、『通達に明記されていない「重要性」や「等質等量」で損金算入の範囲を制限するのは許されない。』と、ワンチャン大逆転の目があるでしょうか。
もちろん、こんな解釈は最高裁に一蹴されるだけですが。
○
以上、何の解決にもなっていませんが、本通達の気持ち悪さの尻尾くらいは掴めたような気がします。(完)
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その4) 〜根拠論2
法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2−8「七」により追加、昭61年直法2−12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
《お役立ち記事》が、「これは等質等量、これは等質等量じゃない」などと真面目に記述しているの、あれは一体何をしているのでしょうか。
《お役立ち記事》では、だいたい同じような具体例が列挙されています。
《具体例》
認められる
家賃、保険料、リース料、保証料
認められない
顧問料、給料、広告料
が、これらが実際に裁判で争われたというものではありません(私が見つけられないだけで、どこかに「等質等量データベース」があるのでしょうか)。
たとえば、民法177条の「第三者」の具体例で、第三取得者、物上保証人には正当な利益があるなどと記述されているのは、それぞれ実際の判決が存在することに基づくものです。
ところが《等質等量テーゼ》には、このようなものが存在しない。のに、どの《お役立ち記事》でもこぞって同じような具体例とそのあてはめが書かれている。
一般論のかぎりでは、「みんなが言っている」は説得力を高めるひとつの理由ではあります。
が、《等質等量テーゼ》のあてはめに関しては、何に基づいているのかが不明なため、みんなが幻覚を見ているだけかもしれない。
「どのサイトを見ても一致した見解が示されている!ゆえに信頼できる!」とは速断できない。
○
先の記事で引用したとおり、国税庁の質疑応答事例では、「等質等量」とはいいがたい「拠出委託料」について、法人税基本通達2−2−14の取扱いに「準じて」損金算入できるという見解が示されています。
改正容器包装リサイクル法に基づき特定事業者が指定法人に支払う拠出委託料の取扱いについて
あてはめのところに《等質等量テーゼ》は一切でてきません。
《等質等量テーゼ》が要求されているならば、損金算入できませんとなるはずですよね。
本当に《等質等量テーゼ》は存在しているのか、非常に怪しい。
○
例の『要件』。
1 一定の契約に従って継続的に提供を受けること、
すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること
2 役務の提供の対価であること
3 翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること
4 現実にその対価として支払ったものであること
「一定の契約に従って継続的に提供を受けること」
と
「等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること」
とに、『すなわち』で連結できるほどのイコール感があるとは思えません(ちなみに、1〜4を並べるとなんか1だけめっちゃ早口で言っているように感じる)。
継続的なサービスだからといって、必ずしも等質等量とは限らないのではないでしょうか。
また、文字通りの「等質等量」のサービスなんて、実在するのでしょうか。
「定質定量」ですらなく「等×等」ですからね。1年先まで変わりがない固定のサービスなんて、今どきあるのかどうか。
○
ということで、《等質等量テーゼ》があるとかないとか言われている具体例につき、検討を加えてみます。
以下、○は「認められる」とされているもの、×は「認められない」とされているもの、?は「明らかでない」ものを表しています。
・家賃 ○
認められるの代表例。ですが、たとえば大家さんが親切な人で、「宅配ロッカー」を備え付けてくれたり「ネット回線」を速くしてくれたり、といった場合でも等質等量のままなのでしょうか。
また、ネット利用料を別料金で提供していたとしましょう(大家さんがアパート全体のネット契約をして借主に使わせるとする)。
いわゆる「ベストエフォート」と言われているとおり、回線速度は一定ではありません。とすると、ネット利用料は等質等量ではないということになるのでしょうか。
「ネットを利用できる」という抽象的なレベルでは同じなのでしょうが、「質と量」につき等しいことを要求してしまった以上、回線速度を無視して判断するわけにはいかないでしょう。
・保険料 ○
これも認められるの代表例。ですが、保険期間中に保険事故が生じて「保険金」が支払われても、等質等量性は保たれたままなのでしょうか。保険料の対価は危険の負担であって保険金の支払いではないとでも説明するのでしょうか。
あるいは、無事に保険期間が終了した場合だけが等質等量で、保険事故が生じた場合は等質等量でなくなる、ということになるのでしょうか。
・保証料 ○
たとえば、家賃保証で家賃滞納となった場合には保証債務が履行されることになるわけですが、それでも等質等量のサービスといえるのでしょうか。
保険料ならまだしも、保証債務の履行は保証料の対価ではない、というのはさすがに無理があるように思えますが。
・保守料 ?
これは内容によりけり、ということで争いがあるようです。
必要に応じて点検に来てもらう、とすると等質等量でないとなりそうです。が、もし1年間一度も利用しなかった場合は等質等量だったことになるのでしょうか。
もしかしてですが、等質等量かどうかは、前払いの時点での「見込み」で判断するということなのか。当該製品は初年度で点検が必要になったことは今まで一度もなかったから等質等量といえる、2年目以降から点検の頻度があがるから等質等量ではなくなる、とでもいうのか。
もし「見込み」で判断するのだとすると、家賃なども、そろそろ大家さんがなんかやってくれそう、という見込みがある場合には等質等量でなくなる、などと判断することになるのか。
・リース料(レンタル料) ○
リース物件を月によって使ったり使わなかったりしたとしても、等質等量といえるでしょうか。
物の性質上、24時間使いっぱなしのものならばよいのでしょうが、必ずしも毎日使うものでない場合はどうなのか。
サービス提供側からすれば等質等量な提供だといえても、受領側が実際に受ける便益はそうではない場合もあります。この場合に、どちらにとっての等質等量で判断するのか、という問題があります。
また、リース料が保守サービス込みとなっている場合はどうなるのか。
・クラウド会計利用料 ?
『日々進化している!即時アップデートが反映される!』を謳い文句にしているわけで、むしろ積極的に等質等量でないことをメリットとしてアピールしているってことですよね。
まさか、クラウド会計屋さん自身のサイトの記事で《等質等量テーゼ》を謳っておきながら、別記事で自社の年間利用料が損金算入できるなどと記述していたりしませんよね。
また、料金体系・サービス体系がコロコロかわるという点からしても、等質等量とは言い難いのではないでしょうか。
・広告料 ×
単発の広告なら駄目なんでしょうが、1年間サイトにバナーを設置する、だったらどうでしょうか。
これなら等質等量といえそうです。が、バナー以外の箇所が更新されることでサイトのPVが変動するわけで、これでも等質等量といえるのか。
「自社のバナー」部分だけでみれば等質等量ですが、広告効果は日々変動しています。
これ、ネット広告に特有の問題ではありません。
たとえば路上の立看板とかでも同じことがいえます。看板の隣に幹線道路ができたとか大型商業施設ができたとかで、広告効果が変動することがあるわけですが、それでも等質等量なのか。
○
以上、半ば(ほぼ?)イチャモンみたいなものです。
が、「等質等量」という言葉尻以外に、なんら判断基準となるものが存在しないから仕方がない。
そもそも《等質等量テーゼ》が、何のために要求されているのかがわからないところに、根本的な問題があります。
会計上も法令・通達上も存在しない謎『要件』を、わざわざ混入させたのはなぜなのか。
だというのに、《お役立ち記事》の皆様は、満たすとか満たさないといった結論をやすやすと導いています。
私には、「吸血鬼にとって、十字架様の形状のもののうちどこまでがセーフでどこからがアウトか」を真剣に議論しているような所作に思えて仕方がない。
【吸血鬼イジり】
なぜ吸血鬼は自分の血を吸わないのか。 〜AI時代の吸血士のための生存戦略セミナー
戸松秀典『憲法』(弘文堂 2015)
○
なお、《等質等量テーゼ》を打倒するためだけであれば、例の高裁判決が使えそうです。
【いつもの】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
この高裁判決の「通達の文言解釈(笑)」によるならば、『通達に明記されていない「重要性」や「等質等量」で損金算入の範囲を制限するのは許されない。』と、ワンチャン大逆転の目があるでしょうか。
もちろん、こんな解釈は最高裁に一蹴されるだけですが。
○
以上、何の解決にもなっていませんが、本通達の気持ち悪さの尻尾くらいは掴めたような気がします。(完)
posted by ウロ at 12:02| Comment(0)
| 法人税法
2025年09月01日
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その4) 〜根拠論2
前回は、会計上の「重要性の原則」と通達との関係について検討をしました。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その3) 〜根拠論1

会計上は「重要性」の程度で切り分けているところ、通達では「期間」で切り分けている、この関係性の理解については「制限説」(Aのみ)と「変形説」(AC)がありうると(以下は制限説を前提とします)。
では、ここに、例の《等質等量テーゼ》がどう絡んでくるでしょうか。
この点、Aの領域をさらに制限するものになるかと思います。

○
「1年以内」のほうは、一応「課税期間」で法的根拠を説明することができました。
が、会計上の重要性の原則をさらに狭める《等質等量テーゼ》については、どうやって根拠付けることができるのでしょうか。
期間と金額が固定ならば、サービスが等質等量でなくても年ごとの所得額が歪むとは思えません。
確かに、定額で前払いさせておきながら、実際の利用量に応じて後で精算する、というような場合にはさすがに駄目だろうとは思います。が、提供サービスが等質等量であることまで要求する必要はあるでしょうか。
私には、等質等量まで要求する根拠が思いつきません。
のに、なぜ巷の《お役立ち記事》が、当然のように、会計上も法令上も何の根拠もない《等質等量テーゼ》を要求し、かつ、等質等量にあたるとかあたらないなどというあてはめができているのか、どうにも理解が及びません。
○
短期前払費用の損金算入の『要件』とされているものを整理すると、次のようになります。
1 一定の契約に従って継続的に提供を受けること(会計、通達)
1' すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること(??)
2 役務の提供の対価であること(会計、通達)
3 翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること(会計)
4 現実にその対価として支払ったものであること(会計、通達)
5 1年以内に提供を受ける役務であること(通達・法?)
6 継続して支払日の属する事業年度に損金算入していること(通達)
7 重要性の乏しいものであること(会計)
・重要性要件が7番目になってしまっていますが、「制限説」によるならば本来はこれを1番目に位置づけるべきものです。他方で「変形説」からはこの要件は不要です。
巷の《お役立ち記事》では、通達は重要性の原則に基づくものだと解説しておきながら、なぜかこれを『要件』としてあげないものが多い印象です。「変形説」前提で説明をしているということなのでしょうか。
・「外出し説」に基づき、《等質等量テーゼ》を1とは切り分けています(1’としているのは妥協)。そしてこれを要求すべきことの根拠は、今のところどこにも見いだせません。
・6の継続要件は、通達の表現では損金処理に要求されていますが、これを支払の継続性と読み替えるのが一般的な理解かと思います。
○
ということで、次回は《等質等量テーゼ》のあてはめにつき、巷に言われているところを検討してみます。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その5) 〜具象論
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その3) 〜根拠論1

会計上は「重要性」の程度で切り分けているところ、通達では「期間」で切り分けている、この関係性の理解については「制限説」(Aのみ)と「変形説」(AC)がありうると(以下は制限説を前提とします)。
では、ここに、例の《等質等量テーゼ》がどう絡んでくるでしょうか。
この点、Aの領域をさらに制限するものになるかと思います。

○
「1年以内」のほうは、一応「課税期間」で法的根拠を説明することができました。
が、会計上の重要性の原則をさらに狭める《等質等量テーゼ》については、どうやって根拠付けることができるのでしょうか。
期間と金額が固定ならば、サービスが等質等量でなくても年ごとの所得額が歪むとは思えません。
確かに、定額で前払いさせておきながら、実際の利用量に応じて後で精算する、というような場合にはさすがに駄目だろうとは思います。が、提供サービスが等質等量であることまで要求する必要はあるでしょうか。
私には、等質等量まで要求する根拠が思いつきません。
のに、なぜ巷の《お役立ち記事》が、当然のように、会計上も法令上も何の根拠もない《等質等量テーゼ》を要求し、かつ、等質等量にあたるとかあたらないなどというあてはめができているのか、どうにも理解が及びません。
○
短期前払費用の損金算入の『要件』とされているものを整理すると、次のようになります。
1 一定の契約に従って継続的に提供を受けること(会計、通達)
1' すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること(??)
2 役務の提供の対価であること(会計、通達)
3 翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること(会計)
4 現実にその対価として支払ったものであること(会計、通達)
5 1年以内に提供を受ける役務であること(通達・法?)
6 継続して支払日の属する事業年度に損金算入していること(通達)
7 重要性の乏しいものであること(会計)
・重要性要件が7番目になってしまっていますが、「制限説」によるならば本来はこれを1番目に位置づけるべきものです。他方で「変形説」からはこの要件は不要です。
巷の《お役立ち記事》では、通達は重要性の原則に基づくものだと解説しておきながら、なぜかこれを『要件』としてあげないものが多い印象です。「変形説」前提で説明をしているということなのでしょうか。
・「外出し説」に基づき、《等質等量テーゼ》を1とは切り分けています(1’としているのは妥協)。そしてこれを要求すべきことの根拠は、今のところどこにも見いだせません。
・6の継続要件は、通達の表現では損金処理に要求されていますが、これを支払の継続性と読み替えるのが一般的な理解かと思います。
○
ということで、次回は《等質等量テーゼ》のあてはめにつき、巷に言われているところを検討してみます。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その5) 〜具象論
posted by ウロ at 12:22| Comment(0)
| 法人税法
2025年08月25日
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その3) 〜根拠論1
さて、本通達の『要件』を満たすと損金算入できるとされているわけですが、このことを法令上根拠付けることは可能でしょうか。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その2) 〜法源論
法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2−8「七」により追加、昭61年直法2−12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」経由で、企業会計原則注解1の「重要性の原則」が流れ込んでくる、と考えればよいのでしょうか。
法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
企業会計原則
[注1] 重要性の原則の適用について(一般原則二、四及び貸借対照表原則一)
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
しかしながら、重要性の原則と本通達、共通するのは前払費用が対象になっているというだけで、それ以外はさっぱり違います。
重要性の原則には「1年以内」といった制限はないですし、通達では「重要」かどうかなど一切要求されていません。
それぞれ書かれているとおりに整理すると次のようになります。

会計は「重要性」により、通達は「期間」により、それぞれ切り分けをしていて関心事がまったく異なっています。
○
ちなみに、通達に「継続して」とありますが、「支払った場合において」はその前に書かれているので、支払いに継続性は要求されていないと読むことができます。つまり、継続的に支払えではなく支払ったら継続的に損金処理しろ、という意味あいになるはずです。
これを額面通りに受け取ってよいならば、毎期継続的に前払いする必要はないことになります。実際に支払った場合には損金算入しないといけないけれども、毎期支払うこと自体は要求されていないのだと。
これが通達の素直な読み方だと個人的には思うものの、一般的な理解ではありません。
一般的な理解は「損金算入したいなら毎期継続的に前払いしろ」というものでしょう。これは「一定の契約」のほうにそのような意味合いを読み込めばよいのでしょうか。
あるいは、会計上の「継続性の原則」をそのようなものだと読み替えるのかどうか。
会計原則はあくまで会計処理のルールであって、取引そのものを規律するものではないはずです。ので、直輸入では支払の継続性まで導くことはできずに、税法側で読み替えをする必要があります。
少なくとも通達の表現だけからは、支払の継続性まで導くのは難しいと思います。
○
重要性(の乏しさ)を要求しないという根本的な違いがある以上、通達を「重要性の原則」に引きつけて理解するのは無理があるのではないでしょうか。
上記のとおり、会計では「重要性」で切り分けているのに対して、通達では「期間」で切り分けをしていて、規律内容は異なります。
ところが、一般的な見解は、通達は「重要性の原則」に基づくものだと説明しています。
確かに、役務提供が完了していない費用を損金算入するなんて、税法プロパーの理屈からはでてくるものではありません。法人税法22条4項ルートで外からの力を借りる以外、目ぼしい法的根拠はありそうもないです。
そこで、法人税法22条4項ルートを使ってどうにか理屈づけるとしたら、次のような説明ができるでしょうか。
すなわち、会計上の「重要性の原則」はあくまでも投資家・債権者保護を主目的とするルールであって税法にはそのままでは直輸入できない、税法では事業年度単位で課税されることから「1年以内」のものに制限する必要がある、と(制限説)。
法人税法 第十三条(事業年度の意義)
1 この法律において「事業年度」とは、法人の財産及び損益の計算の単位となる期間(以下この章において「会計期間」という。)で、法令で定めるもの又は法人の定款、寄附行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下この章において「定款等」という。)に定めるものをいい、法令又は定款等に会計期間の定めがない場合には、次項の規定により納税地の所轄税務署長に届け出た会計期間又は第三項の規定により納税地の所轄税務署長が指定した会計期間若しくは第四項に規定する期間をいう。ただし、これらの期間が一年を超える場合は、当該期間をその開始の日以後一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、その一年未満の期間)をいう。
納税者: 経過勘定設けるの面倒くさいんですけど。
⇒会計ルール:債権者保護があるから重要性が乏しければいいよ。
⇒税法ルール:課税期間が事業年度単位だから1年以内ならいいよ。
上記図表でいうと重要性の原則はABにかかるところ、通達でAのみに制限したと。
Dが範囲外なのは当然としてCも範囲外となるのは、法22条4項からはみ出してしまうからだと。
通達単体でみればCも許容しているように読めますが、ここには法的根拠が存在しないことになります。
このような理解が正しいとするならば、本通達は決して「重要性の原則」に基づくものではありません。
むしろ「重要性の原則」を税法側の都合で制限したものであって、「重要性の原則」からはおよそ出てくるものではありません。強いて根拠条文を言うならば、法13条の「趣旨」に基づくものでしょう。
法22条4項経由で「重要性の原則」を直輸入するならばBが許容されてしかるべきです。
これを本通達が制限をかけている。
短期前払費用が損金算入できるのは、法22条4項+重要性の原則の働きによるものであって、本通達はこれを一部阻害しているということです。
法22条4項+重要性の原則 ⇒AB損金算入できる
法13条(趣旨)+本通達 ⇒B損金算入できない
通達に「重要性」云々がでてこないのは、法22条4項+重要性の原則で一旦受け入れたものを制限している、というのが通達の位置づけだからということができます。
重要性が乏しいことは法22条4項+重要性の原則の時点で検討が済んでおり、通達の段階であらためて検討する必要がないからだと。
本通達を「緩和通達」と見る向きがありますが、この説明によれば全くの逆で、いわば「制限通達」となります。
で、なぜ制限が許されるかの理由として「課税期間1年」というだけで十分かどうかは、当然問題となりえます。法13条の「趣旨」といっているとおり、同条から直接導かれるものでもありませんし。
「制限説」以外の見解として、会計上の「重要性の原則」(A+B)が、税法に輸入される際にA+Cに変形した、という見解もありえるでしょう(変形説)。
が、Cが損金算入できる根拠がないですし、すでに実務上は重要性の有無で判定されていることからすると、こちらの採用の見込みは低そうです。
○
以上、会計/税務の関係性の検討が済んだところで、次回は《等量等質テーゼ》がこの関係のどこに絡んでくるのか、を検討します。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その4) 〜根拠論2
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その2) 〜法源論
法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。(昭55年直法2−8「七」により追加、昭61年直法2−12「二」により改正)
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
法人税法22条4項の「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」経由で、企業会計原則注解1の「重要性の原則」が流れ込んでくる、と考えればよいのでしょうか。
法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
企業会計原則
[注1] 重要性の原則の適用について(一般原則二、四及び貸借対照表原則一)
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
(2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
しかしながら、重要性の原則と本通達、共通するのは前払費用が対象になっているというだけで、それ以外はさっぱり違います。
重要性の原則には「1年以内」といった制限はないですし、通達では「重要」かどうかなど一切要求されていません。
それぞれ書かれているとおりに整理すると次のようになります。

会計は「重要性」により、通達は「期間」により、それぞれ切り分けをしていて関心事がまったく異なっています。
○
ちなみに、通達に「継続して」とありますが、「支払った場合において」はその前に書かれているので、支払いに継続性は要求されていないと読むことができます。つまり、継続的に支払えではなく支払ったら継続的に損金処理しろ、という意味あいになるはずです。
これを額面通りに受け取ってよいならば、毎期継続的に前払いする必要はないことになります。実際に支払った場合には損金算入しないといけないけれども、毎期支払うこと自体は要求されていないのだと。
これが通達の素直な読み方だと個人的には思うものの、一般的な理解ではありません。
一般的な理解は「損金算入したいなら毎期継続的に前払いしろ」というものでしょう。これは「一定の契約」のほうにそのような意味合いを読み込めばよいのでしょうか。
あるいは、会計上の「継続性の原則」をそのようなものだと読み替えるのかどうか。
会計原則はあくまで会計処理のルールであって、取引そのものを規律するものではないはずです。ので、直輸入では支払の継続性まで導くことはできずに、税法側で読み替えをする必要があります。
少なくとも通達の表現だけからは、支払の継続性まで導くのは難しいと思います。
○
重要性(の乏しさ)を要求しないという根本的な違いがある以上、通達を「重要性の原則」に引きつけて理解するのは無理があるのではないでしょうか。
上記のとおり、会計では「重要性」で切り分けているのに対して、通達では「期間」で切り分けをしていて、規律内容は異なります。
ところが、一般的な見解は、通達は「重要性の原則」に基づくものだと説明しています。
確かに、役務提供が完了していない費用を損金算入するなんて、税法プロパーの理屈からはでてくるものではありません。法人税法22条4項ルートで外からの力を借りる以外、目ぼしい法的根拠はありそうもないです。
そこで、法人税法22条4項ルートを使ってどうにか理屈づけるとしたら、次のような説明ができるでしょうか。
すなわち、会計上の「重要性の原則」はあくまでも投資家・債権者保護を主目的とするルールであって税法にはそのままでは直輸入できない、税法では事業年度単位で課税されることから「1年以内」のものに制限する必要がある、と(制限説)。
法人税法 第十三条(事業年度の意義)
1 この法律において「事業年度」とは、法人の財産及び損益の計算の単位となる期間(以下この章において「会計期間」という。)で、法令で定めるもの又は法人の定款、寄附行為、規則、規約その他これらに準ずるもの(以下この章において「定款等」という。)に定めるものをいい、法令又は定款等に会計期間の定めがない場合には、次項の規定により納税地の所轄税務署長に届け出た会計期間又は第三項の規定により納税地の所轄税務署長が指定した会計期間若しくは第四項に規定する期間をいう。ただし、これらの期間が一年を超える場合は、当該期間をその開始の日以後一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、その一年未満の期間)をいう。
納税者: 経過勘定設けるの面倒くさいんですけど。
⇒会計ルール:債権者保護があるから重要性が乏しければいいよ。
⇒税法ルール:課税期間が事業年度単位だから1年以内ならいいよ。
上記図表でいうと重要性の原則はABにかかるところ、通達でAのみに制限したと。
Dが範囲外なのは当然としてCも範囲外となるのは、法22条4項からはみ出してしまうからだと。
通達単体でみればCも許容しているように読めますが、ここには法的根拠が存在しないことになります。
このような理解が正しいとするならば、本通達は決して「重要性の原則」に基づくものではありません。
むしろ「重要性の原則」を税法側の都合で制限したものであって、「重要性の原則」からはおよそ出てくるものではありません。強いて根拠条文を言うならば、法13条の「趣旨」に基づくものでしょう。
法22条4項経由で「重要性の原則」を直輸入するならばBが許容されてしかるべきです。
これを本通達が制限をかけている。
短期前払費用が損金算入できるのは、法22条4項+重要性の原則の働きによるものであって、本通達はこれを一部阻害しているということです。
法22条4項+重要性の原則 ⇒AB損金算入できる
法13条(趣旨)+本通達 ⇒B損金算入できない
通達に「重要性」云々がでてこないのは、法22条4項+重要性の原則で一旦受け入れたものを制限している、というのが通達の位置づけだからということができます。
重要性が乏しいことは法22条4項+重要性の原則の時点で検討が済んでおり、通達の段階であらためて検討する必要がないからだと。
本通達を「緩和通達」と見る向きがありますが、この説明によれば全くの逆で、いわば「制限通達」となります。
で、なぜ制限が許されるかの理由として「課税期間1年」というだけで十分かどうかは、当然問題となりえます。法13条の「趣旨」といっているとおり、同条から直接導かれるものでもありませんし。
「制限説」以外の見解として、会計上の「重要性の原則」(A+B)が、税法に輸入される際にA+Cに変形した、という見解もありえるでしょう(変形説)。
が、Cが損金算入できる根拠がないですし、すでに実務上は重要性の有無で判定されていることからすると、こちらの採用の見込みは低そうです。
○
以上、会計/税務の関係性の検討が済んだところで、次回は《等量等質テーゼ》がこの関係のどこに絡んでくるのか、を検討します。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その4) 〜根拠論2
posted by ウロ at 10:37| Comment(0)
| 法人税法
2025年08月18日
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その2) 〜法源論
前回引用した判決と裁決、そもそも通達の位置づけがおかしい。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その1) 〜序論
以下、裁決のほうで代表させますが、地裁判決も問題構造は同じです(なお、ここでいう通達は「法令解釈通達」のことをいいます)。
前回引用の箇所に続いた「あてはめ」は、次のとおりとなっています。
(ここから)
(ハ) 本件地代家賃が支払った年分の必要経費に該当するか否かに関する判断
A 請求人は、上記(イ)のBのとおり、本件賃貸借契約書を作成しており、このことは、上記(ロ)のCの@の一定の契約に該当するものと認められ、また、その契約の内容は、上記(イ)のBの(B)のとおり、賃料は月額900,000円とし、甲である■■■■は毎年11月中にその年の12月から翌年11月までの1年分を支払うものとするとされている。
B これを本件についてみると、平成11年分については、別表4のとおり、平成11年12月27日に6ヶ月分を支払っていることが認められる。
このことは、上記(ロ)のCの前払費用に該当する要件の4つの項目のうち、AないしCには該当するものの、@の一定の契約に従っているとは認められないことから、平成11年12月27日支払の5,400,000円については、所得税基本通達37−30の2を適用することは相当ではない。
したがって、平成11年分については、請求人の主張には理由はない。
C また、平成12年分については、別表4のとおり、平成12年11月29日に向こう1年分の家賃を支払っていることが認められる。
このことは、上記(ロ)のCの前払費用に該当する要件の4つの項目のすべてを満たしているものと認められ、また、課税上弊害があるとする事実及び租税回避の目的で不用不急の前払いを行ったとする事実も認められないことから、平成12年11月29日支払の10,800,000円については、所得税基本通達37−30の2を適用し、短期の前払費用であると認めるのが相当である。
したがって、平成12年分については、原処分庁の主張には理由がない。
(ここまで)
本裁決の判断構造は、
1 大前提:通達を解釈し命題を抽出
2 小前提:通達命題に事実をあてはめ
3 結論 :命題の要件を満たさない平成11年分は損金算入できない。
満たす平成12年分は損金算入できる。
となっています。
ちゃんときれいな法的三段論法に従っていて、何がおかしいのと思う人がいるかもしれません。
が、法解釈のフローチャートからの流れで、「法源論」まで検討してきた我々にはわかるはずです。
通達は国税庁が法令を解釈した結果であり、解釈を施す対象ではないということを。
法源の機能的考察

法令を解釈する際に、通達が解釈の素材として参照されることはあるでしょう。が、解釈されるものとしての「制定法」のポジションに入ることはありえません。
ところが、本裁決は、通達を解釈して命題を導き、その命題の『要件』を満たすから損金算入できる/満たさないから損金算入できないなどと判断してしまっています。
しかし、損金算入できるのはあくまでも「法令の」要件を満たすからであるはずです。通達から損金算入/不算入といった法的効果が発生することはありえません。
この点は【反対解釈】から何らかの法的効果が生ずるといった考えと、同じ類の勘違いです(法令ですらない通達から法的効果を導いているので、さらにたちが悪いかもしれません)。
フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
あるいは、蛇口のハンドルをひねると水が出るからといって、ハンドルそのものに水を湧き出させるパワーが備わっていると勘違いするようなもの、とか、(ブラウン管)テレビに人が映っているからといって、テレビの中に人が入っていると勘違いするようなものです。
一連の記事で『要件』と二重括弧で括っているのは、通達それ自体は法令の要件とはなりえないから、ということを含意してのことです(以降でも、そのような含意を前提としつつ、揶揄感を込めて『要件』と記述します)。国税庁が法令の要件を解釈した結果としてでてきたものが通達であって、通達そのものは要件ではありません。
そして、通達記載の法命題が通用するのは、法令の解釈と適合するかぎりにとどまります。
○
なお、この手の勘違いを防ぐためには、「要件事実的思考」を導入するのがよいのかもしれん、と一瞬思いました。どの要件からどの効果が生じるかを正確に理解することができるはずですので。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
が、上記記事でも指摘したとおり、中途半端な理解で外の理論を導入するのは、むしろ逆効果になりかねません。下手をすると、通達に要件事実的思考を導入する、とか間抜けなことを言い出しかねない。
ので、思考を飛躍させずにひとつひとつ基本から詰めていく、という当たり前のことをあらためて理解することが大事なのでしょう。
○
もちろん、「日常系税務」の世界の中では、通達を法命題と同視して運用することに、さしあたっての問題はありません。
むしろ、通達だけで運用できるならそれにこしたことはない。
が、すでに「紛争系税務」の世界に移行していながら通達を法命題として扱い続けるのは、法解釈の基本を理解しているとはとても思えない。
これは、通達を「法源」として扱ってしまっているということです。
正面から「通達は法源ですか?」と聞かれれば、誰もが「通達が法源なわけないだろ!愚問乙」と返答するでしょう。
が、どういうわけか、短期前払費用の局面では、通達の『要件』を満たすかどうかで損金算入できるかどうかを判断してしまう人々が湧き出てきます。
○
また、本裁決においては「一定の契約に基づくか」が問題となっているのに、わざわざ、会計原則にも通達にも記載のない「すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること」などを付け加えたのか。
ひとつの非公開裁決の単なる余事記載にすぎないにもかかわらず、以降の《お役立ち記事》がことごとく右倣えしてしまったわけで、余計なことをいいやがって、という感想しかない。
○
次回は、短期前払費用を損金算入することに法的根拠が見いだせるか、検討してみます。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その3) 〜根拠論1
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その1) 〜序論
以下、裁決のほうで代表させますが、地裁判決も問題構造は同じです(なお、ここでいう通達は「法令解釈通達」のことをいいます)。
前回引用の箇所に続いた「あてはめ」は、次のとおりとなっています。
(ここから)
(ハ) 本件地代家賃が支払った年分の必要経費に該当するか否かに関する判断
A 請求人は、上記(イ)のBのとおり、本件賃貸借契約書を作成しており、このことは、上記(ロ)のCの@の一定の契約に該当するものと認められ、また、その契約の内容は、上記(イ)のBの(B)のとおり、賃料は月額900,000円とし、甲である■■■■は毎年11月中にその年の12月から翌年11月までの1年分を支払うものとするとされている。
B これを本件についてみると、平成11年分については、別表4のとおり、平成11年12月27日に6ヶ月分を支払っていることが認められる。
このことは、上記(ロ)のCの前払費用に該当する要件の4つの項目のうち、AないしCには該当するものの、@の一定の契約に従っているとは認められないことから、平成11年12月27日支払の5,400,000円については、所得税基本通達37−30の2を適用することは相当ではない。
したがって、平成11年分については、請求人の主張には理由はない。
C また、平成12年分については、別表4のとおり、平成12年11月29日に向こう1年分の家賃を支払っていることが認められる。
このことは、上記(ロ)のCの前払費用に該当する要件の4つの項目のすべてを満たしているものと認められ、また、課税上弊害があるとする事実及び租税回避の目的で不用不急の前払いを行ったとする事実も認められないことから、平成12年11月29日支払の10,800,000円については、所得税基本通達37−30の2を適用し、短期の前払費用であると認めるのが相当である。
したがって、平成12年分については、原処分庁の主張には理由がない。
(ここまで)
本裁決の判断構造は、
1 大前提:通達を解釈し命題を抽出
2 小前提:通達命題に事実をあてはめ
3 結論 :命題の要件を満たさない平成11年分は損金算入できない。
満たす平成12年分は損金算入できる。
となっています。
ちゃんときれいな法的三段論法に従っていて、何がおかしいのと思う人がいるかもしれません。
が、法解釈のフローチャートからの流れで、「法源論」まで検討してきた我々にはわかるはずです。
通達は国税庁が法令を解釈した結果であり、解釈を施す対象ではないということを。
法源の機能的考察

法令を解釈する際に、通達が解釈の素材として参照されることはあるでしょう。が、解釈されるものとしての「制定法」のポジションに入ることはありえません。
ところが、本裁決は、通達を解釈して命題を導き、その命題の『要件』を満たすから損金算入できる/満たさないから損金算入できないなどと判断してしまっています。
しかし、損金算入できるのはあくまでも「法令の」要件を満たすからであるはずです。通達から損金算入/不算入といった法的効果が発生することはありえません。
この点は【反対解釈】から何らかの法的効果が生ずるといった考えと、同じ類の勘違いです(法令ですらない通達から法的効果を導いているので、さらにたちが悪いかもしれません)。
フローチャートを作ろう(その1) 〜文理解釈(付・反対解釈)
あるいは、蛇口のハンドルをひねると水が出るからといって、ハンドルそのものに水を湧き出させるパワーが備わっていると勘違いするようなもの、とか、(ブラウン管)テレビに人が映っているからといって、テレビの中に人が入っていると勘違いするようなものです。
一連の記事で『要件』と二重括弧で括っているのは、通達それ自体は法令の要件とはなりえないから、ということを含意してのことです(以降でも、そのような含意を前提としつつ、揶揄感を込めて『要件』と記述します)。国税庁が法令の要件を解釈した結果としてでてきたものが通達であって、通達そのものは要件ではありません。
そして、通達記載の法命題が通用するのは、法令の解釈と適合するかぎりにとどまります。
○
なお、この手の勘違いを防ぐためには、「要件事実的思考」を導入するのがよいのかもしれん、と一瞬思いました。どの要件からどの効果が生じるかを正確に理解することができるはずですので。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
が、上記記事でも指摘したとおり、中途半端な理解で外の理論を導入するのは、むしろ逆効果になりかねません。下手をすると、通達に要件事実的思考を導入する、とか間抜けなことを言い出しかねない。
ので、思考を飛躍させずにひとつひとつ基本から詰めていく、という当たり前のことをあらためて理解することが大事なのでしょう。
○
もちろん、「日常系税務」の世界の中では、通達を法命題と同視して運用することに、さしあたっての問題はありません。
むしろ、通達だけで運用できるならそれにこしたことはない。
が、すでに「紛争系税務」の世界に移行していながら通達を法命題として扱い続けるのは、法解釈の基本を理解しているとはとても思えない。
これは、通達を「法源」として扱ってしまっているということです。
正面から「通達は法源ですか?」と聞かれれば、誰もが「通達が法源なわけないだろ!愚問乙」と返答するでしょう。
が、どういうわけか、短期前払費用の局面では、通達の『要件』を満たすかどうかで損金算入できるかどうかを判断してしまう人々が湧き出てきます。
○
また、本裁決においては「一定の契約に基づくか」が問題となっているのに、わざわざ、会計原則にも通達にも記載のない「すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること」などを付け加えたのか。
ひとつの非公開裁決の単なる余事記載にすぎないにもかかわらず、以降の《お役立ち記事》がことごとく右倣えしてしまったわけで、余計なことをいいやがって、という感想しかない。
○
次回は、短期前払費用を損金算入することに法的根拠が見いだせるか、検討してみます。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その3) 〜根拠論1
posted by ウロ at 10:28| Comment(0)
| 法人税法
2025年08月11日
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その1) 〜序論
当ブログおなじみの、いまさらシリーズ。
【いまさらシリーズ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
無償減資で均等割下げ(節税系の記事ではなく)
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について【追補】
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害
もはや誰もネタにしないであろう。
しかし、ネット検索してみると、どの記事も面白いくらい同じことしか書いてませんね(残骸あるいは残党感強め)。
最大公約数的にまとめてみると、こんな感じ。
(ここから)
《節税お役立ち記事》
ア 通達で短期前払費用の損金算入が認められている。
・所得税基本通達 37−30の2(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。
・法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
イ ここでいう「前払費用」として認められるためには、以下の『要件』を満たす必要がある。
1 一定の契約に従って継続的に提供を受けること、
すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること
2 役務の提供の対価であること
3 翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること
4 現実にその対価として支払ったものであること
ウ 本通達は、企業会計原則注解1の「重要性の原則」に基づくものである。
エ 損金算入が認められる/認められないの具体例として、たとえば次のようなものがある。
認められる
家賃、保険料、リース料、保証料
認められない
顧問料、給料、広告料
(ここまで)
だいたい、どこのサイトもこんな感じですよね。
諸々疑問だらけなのですが、今回は種蒔きだけして、次回以降で深堀りしてみます。
なお、『(通達の)要件』という表現は相応しくないと思いますが、さしあたり《節税お役立ち記事》の表現に従っておきます(二重括弧なのは含みがあっての装飾です)。
○
最初に浮かぶ疑問が、通達の言い回しと比べて、この『要件』ずいぶん絞りがかかってね?ということです(以下、法人税基本通達で代表させます)。
通達の「前払費用」の後ろの括弧書きには次のように書いてあります。
・一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち
・当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの
これだけ。
ちなみに、別の箇所の施行令による「前払費用」の定義づけは、次のようになっています(繰延資産から除外されるものとして)。
法人税法施行令 第十四条(繰延資産の範囲)
2 前項に規定する前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、その支出する日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。
同じですよね。
ところが、『要件』だと、なんか余計な装飾が付け加わっています。
・すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること
・翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること
このうち「時の経過」云々は、企業会計原則注解5(1)に同様の言い回しがでてきます。
ので、こちらはこの『要件』オリジナルではありません。
[注5] 経過勘定項目について(損益計算書原則一のAの二項)
(1) 前払費用
前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない。
問題となるのが「すなわち、等質等量」のほう(以下では《等質等量テーゼ》と表現します)。
「すなわち」と言っているということは、その前の「一定の契約に従って継続的に提供を受けること」とイコールだというつもりのようです。
果たして、同じと言えるでしょうか。
前払費用の定義の一部である「一定の契約に従って継続的に提供を受けること」と同じだということは、上記施行令や会計上の「前払費用」の中にも《等質等量テーゼ》がビルド・インされているということになってしまいます。が、一般的な前払費用の定義としてはさすがに絞り込みすぎです。
とすると、《等質等量テーゼ》はあくまでも本通達の中でしかイキれないテーゼという位置づけが正しいのではないでしょうか。
ということで、本記事ではさしあたり、《等質等量テーゼ》は前払費用そのものの定義の中には含まれず、本通達の適用にあたって要求される後付け要件だという理解ですすめます(外在説)。
内在説:「前払費用(等質等量含む)」
外在説:「前払費用」+等質等量
○
《お役立ち記事》がこぞって倣っているということは、国税庁のサイトに《等質等量テーゼ》が書かれているのでは、と思って確認してみました。《お役立ち記事》がタックスアンサーなぞりがちなのは、いつものことですので。
たとえば次のような記事があります。
No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合|国税庁
短期前払費用の取扱いについて|国税庁
が、《等質等量テーゼ》については触れられていませんでした。
ちなみに以前、「小規模宅地等の特例」について、タックスアンサーが法令・通達に存在しない要件を勝手に仕込んでいることを指摘しました。
タックスアンサー学習帳 〜やっててよかったTA式
今回の短期前払費用にかぎっては、このような仕込みがなかったということです。
○
では、この《等質等量テーゼ》はどこからやってきたのか。
試みにTAINSで検索してみたのですが、1件の非公開裁決と1件の地裁判決しか見つかりませんでした。
(一部引用させていただくかわりに、皆さん加入しましょうと宣伝しておきます。)
TAINS 税理士がつくる、税理士のためのデータベース
・平成16年3月24日裁決(以下、本裁決といいます)
(ロ) 法令等の規定等
A 所得税基本通達37−30の2は、前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費の額に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費の額に算入しているときは、これを認める旨定めており、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
B この所得税基本通達37−30の2の取扱いは、個人が一定の計算基準を継続して行う会計処理で、その計算基準を行うことに相当の理由があり、重要性の原則に照らして課税上さしたる弊害がないと認められる場合にその適用があるものであり、費用収益の対応関係を覆してまでもその適用を認める趣旨のものではなく、また、もっぱら租税回避の目的で不用不急の前払いを行ったようなものについては、適用することは相当でないと解されている。
C また、所得税基本通達37−30の2で述べた前払費用とは、@一定の契約に従って継続的に提供を受けること、すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること、A役務の提供の対価であること、B翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること、C現実にその対価として支払ったものであることの4つの要件のすべてを満たす費用と解するのが相当である。
・東京地裁 平成19年6月29日判決(以下、本地裁判決といいます)
(1) 本件通達は、企業としては、前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの)はその支出をする時の費用に計上する経理処理を行っていることが多く、これらについて厳密な期間計算を行って税務上別個の計算を行う実益を捨ててもさして弊害がないと思われることから、企業におけるこれら期間損益の処理を特例的に是認する取扱いであると解されるところ、その役務が等量等質のものではない場合には、時の経過に応じて収益と対応させる必要があることから、本件通達による特例的取扱いは認められないものと解すべきである。
『4要件』として提示しているのは本裁決のほうだけなので、こちらが各種《お役立ち記事》の源流なんでしょうか。
ここからさらに上流に辿れればいいのでしょうが、ここから先は不明です。
しかし皆さん、これら裁決・判決の「事案」まで見ているんですかね。
本裁決のほうは、《等質等量》であることに問題のない「家賃」について、その前払が「一定の契約に基づく」といえるかが争われたものです。
他方、本地裁判決のほうですが、なかなかファンキーで要約するのが難しい。支払内容でいうと「パチンコ店の特殊景品の納入業務手数料」です。その他の論点も含めてアグレッシブな事案であって、一般化に適さない。
標準的な「判例理論」からすると、とても『判例』とはよべないレベルの代物です(そもそも裁決と地裁判決だし)。
のに、あらゆるサイトに『4要件』が、公式見解のごとく書かれているのはなぜなのか。
○
ところで、国税庁の「質疑応答事例」の中に興味深いものがありました。
改正容器包装リサイクル法に基づき特定事業者が指定法人に支払う拠出委託料の取扱いについて(質疑応答事例)
「(2) 拠出委託料の損金算入時期
拠出委託料の損金算入時期については、次の理由により、法人税基本通達2−2−14(短期の前払費用)の取扱いに準じて、特定事業者が指定法人に対して支払った日の損金の額に算入して差し支えないものと考えられます。
1 拠出委託料は、特定事業者の再商品化義務量に応じて毎年7月に継続して支出されるものであり、かつ、原則として、その2か月後(9月)には指定法人から各市町村へ再商品化合理化拠出金として支払われるものであること。
2 拠出委託料については、指定法人において年度ごとに精算を行うが、仮に、剰余金が生じた場合であっても、その剰余金は若干に過ぎず、かつ、これを返還することはないこと。」
この拠出委託料、一般的に説かれているところの《等質等量テーゼ》を満たすとはとても思えません。
のに、この回答では、法人税基本通達2−2−14の取扱いに「準じて」損金算入できるとされています。
本当に《等質等量テーゼ》は損金算入のための要件として実在しているのかどうか。
○
今回は問題提起までで、次回以降本論に入ります。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その2) 〜法源論
【いまさらシリーズ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
無償減資で均等割下げ(節税系の記事ではなく)
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について【追補】
未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害
もはや誰もネタにしないであろう。
しかし、ネット検索してみると、どの記事も面白いくらい同じことしか書いてませんね(残骸あるいは残党感強め)。
最大公約数的にまとめてみると、こんな感じ。
(ここから)
《節税お役立ち記事》
ア 通達で短期前払費用の損金算入が認められている。
・所得税基本通達 37−30の2(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費に算入しているときは、これを認める。
・法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
イ ここでいう「前払費用」として認められるためには、以下の『要件』を満たす必要がある。
1 一定の契約に従って継続的に提供を受けること、
すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること
2 役務の提供の対価であること
3 翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること
4 現実にその対価として支払ったものであること
ウ 本通達は、企業会計原則注解1の「重要性の原則」に基づくものである。
エ 損金算入が認められる/認められないの具体例として、たとえば次のようなものがある。
認められる
家賃、保険料、リース料、保証料
認められない
顧問料、給料、広告料
(ここまで)
だいたい、どこのサイトもこんな感じですよね。
諸々疑問だらけなのですが、今回は種蒔きだけして、次回以降で深堀りしてみます。
なお、『(通達の)要件』という表現は相応しくないと思いますが、さしあたり《節税お役立ち記事》の表現に従っておきます(二重括弧なのは含みがあっての装飾です)。
○
最初に浮かぶ疑問が、通達の言い回しと比べて、この『要件』ずいぶん絞りがかかってね?ということです(以下、法人税基本通達で代表させます)。
通達の「前払費用」の後ろの括弧書きには次のように書いてあります。
・一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち
・当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの
これだけ。
ちなみに、別の箇所の施行令による「前払費用」の定義づけは、次のようになっています(繰延資産から除外されるものとして)。
法人税法施行令 第十四条(繰延資産の範囲)
2 前項に規定する前払費用とは、法人が一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出する費用のうち、その支出する日の属する事業年度終了の日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。
同じですよね。
ところが、『要件』だと、なんか余計な装飾が付け加わっています。
・すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること
・翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること
このうち「時の経過」云々は、企業会計原則注解5(1)に同様の言い回しがでてきます。
ので、こちらはこの『要件』オリジナルではありません。
[注5] 経過勘定項目について(損益計算書原則一のAの二項)
(1) 前払費用
前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない。
問題となるのが「すなわち、等質等量」のほう(以下では《等質等量テーゼ》と表現します)。
「すなわち」と言っているということは、その前の「一定の契約に従って継続的に提供を受けること」とイコールだというつもりのようです。
果たして、同じと言えるでしょうか。
前払費用の定義の一部である「一定の契約に従って継続的に提供を受けること」と同じだということは、上記施行令や会計上の「前払費用」の中にも《等質等量テーゼ》がビルド・インされているということになってしまいます。が、一般的な前払費用の定義としてはさすがに絞り込みすぎです。
とすると、《等質等量テーゼ》はあくまでも本通達の中でしかイキれないテーゼという位置づけが正しいのではないでしょうか。
ということで、本記事ではさしあたり、《等質等量テーゼ》は前払費用そのものの定義の中には含まれず、本通達の適用にあたって要求される後付け要件だという理解ですすめます(外在説)。
内在説:「前払費用(等質等量含む)」
外在説:「前払費用」+等質等量
○
《お役立ち記事》がこぞって倣っているということは、国税庁のサイトに《等質等量テーゼ》が書かれているのでは、と思って確認してみました。《お役立ち記事》がタックスアンサーなぞりがちなのは、いつものことですので。
たとえば次のような記事があります。
No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合|国税庁
短期前払費用の取扱いについて|国税庁
が、《等質等量テーゼ》については触れられていませんでした。
ちなみに以前、「小規模宅地等の特例」について、タックスアンサーが法令・通達に存在しない要件を勝手に仕込んでいることを指摘しました。
タックスアンサー学習帳 〜やっててよかったTA式
今回の短期前払費用にかぎっては、このような仕込みがなかったということです。
○
では、この《等質等量テーゼ》はどこからやってきたのか。
試みにTAINSで検索してみたのですが、1件の非公開裁決と1件の地裁判決しか見つかりませんでした。
(一部引用させていただくかわりに、皆さん加入しましょうと宣伝しておきます。)
TAINS 税理士がつくる、税理士のためのデータベース
・平成16年3月24日裁決(以下、本裁決といいます)
(ロ) 法令等の規定等
A 所得税基本通達37−30の2は、前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうちその年12月31日においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下この項において同じ。)の額はその年分の必要経費の額に算入されないのであるが、その者が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する年分の必要経費の額に算入しているときは、これを認める旨定めており、この取扱いは、当審判所においても相当であると認められる。
B この所得税基本通達37−30の2の取扱いは、個人が一定の計算基準を継続して行う会計処理で、その計算基準を行うことに相当の理由があり、重要性の原則に照らして課税上さしたる弊害がないと認められる場合にその適用があるものであり、費用収益の対応関係を覆してまでもその適用を認める趣旨のものではなく、また、もっぱら租税回避の目的で不用不急の前払いを行ったようなものについては、適用することは相当でないと解されている。
C また、所得税基本通達37−30の2で述べた前払費用とは、@一定の契約に従って継続的に提供を受けること、すなわち、等質等量のサービスがその契約期間中継続的に提供されること、A役務の提供の対価であること、B翌年以降において時の経過に応じて費用化されるものであること、C現実にその対価として支払ったものであることの4つの要件のすべてを満たす費用と解するのが相当である。
・東京地裁 平成19年6月29日判決(以下、本地裁判決といいます)
(1) 本件通達は、企業としては、前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するもの)はその支出をする時の費用に計上する経理処理を行っていることが多く、これらについて厳密な期間計算を行って税務上別個の計算を行う実益を捨ててもさして弊害がないと思われることから、企業におけるこれら期間損益の処理を特例的に是認する取扱いであると解されるところ、その役務が等量等質のものではない場合には、時の経過に応じて収益と対応させる必要があることから、本件通達による特例的取扱いは認められないものと解すべきである。
『4要件』として提示しているのは本裁決のほうだけなので、こちらが各種《お役立ち記事》の源流なんでしょうか。
ここからさらに上流に辿れればいいのでしょうが、ここから先は不明です。
しかし皆さん、これら裁決・判決の「事案」まで見ているんですかね。
本裁決のほうは、《等質等量》であることに問題のない「家賃」について、その前払が「一定の契約に基づく」といえるかが争われたものです。
他方、本地裁判決のほうですが、なかなかファンキーで要約するのが難しい。支払内容でいうと「パチンコ店の特殊景品の納入業務手数料」です。その他の論点も含めてアグレッシブな事案であって、一般化に適さない。
標準的な「判例理論」からすると、とても『判例』とはよべないレベルの代物です(そもそも裁決と地裁判決だし)。
のに、あらゆるサイトに『4要件』が、公式見解のごとく書かれているのはなぜなのか。
○
ところで、国税庁の「質疑応答事例」の中に興味深いものがありました。
改正容器包装リサイクル法に基づき特定事業者が指定法人に支払う拠出委託料の取扱いについて(質疑応答事例)
「(2) 拠出委託料の損金算入時期
拠出委託料の損金算入時期については、次の理由により、法人税基本通達2−2−14(短期の前払費用)の取扱いに準じて、特定事業者が指定法人に対して支払った日の損金の額に算入して差し支えないものと考えられます。
1 拠出委託料は、特定事業者の再商品化義務量に応じて毎年7月に継続して支出されるものであり、かつ、原則として、その2か月後(9月)には指定法人から各市町村へ再商品化合理化拠出金として支払われるものであること。
2 拠出委託料については、指定法人において年度ごとに精算を行うが、仮に、剰余金が生じた場合であっても、その剰余金は若干に過ぎず、かつ、これを返還することはないこと。」
この拠出委託料、一般的に説かれているところの《等質等量テーゼ》を満たすとはとても思えません。
のに、この回答では、法人税基本通達2−2−14の取扱いに「準じて」損金算入できるとされています。
本当に《等質等量テーゼ》は損金算入のための要件として実在しているのかどうか。
○
今回は問題提起までで、次回以降本論に入ります。
短期前払費用の「等質等量」テーゼ(その2) 〜法源論
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| 法人税法
2025年03月17日
《民法会計》なる奇説について
前回、税理士は《仕訳思考》に縛られているせいで、「支払期日まで債務は発生しない」などという(民法上の)珍説を信奉してしまうのでは、ということを書きました。
「事前確定届出給与、支給日前に不支給決議すればお咎めなし」なる謎理論について
このような珍説から抜け出すための処方箋として、《民法会計》なる奇説を提唱してみます(奇説をもって珍説を制す)。
【会計の種類】
企業会計
会社法会計
税務会計
民法会計 ←New!
次のような事例で検討します。役員報酬を素材にしてしまうと変なバイアスがかかりそうなので、普通の事例でいきます(通常事例思考)。
【事例】
3/1 にコンサル契約を締結
3/15にコンサルしてもらう
3/31にコンサル料支払う
これを《仕訳思考》によって表現すると、次の通りとなります。
《仕訳思考》
3/ 1契約締結時 仕訳なし
3/15役務提供時 支払報酬/未払金
3/31支払時 未払金/現金
このせいで、「契約締結時に債権債務が発生する」という民法側からしたら当然のお話しが、なぜか税務界隈では認識できない状態となってしまっているわけです。
ここで「もっと民法を勉強しろ」と言ってしまえば簡単ですが、「民法の規律を仕訳で表現する」という奇妙な発想により、見えなかったものが見えるようになるのでは、と思いつきました。
《民法会計》
3/ 1契約締結時 コンサルしてもらう債権/報酬支払債務
3/15役務提供時 コンサルしてもらった成果/コンサルしてもらう債権
3/31支払時 報酬支払債務/現金
通常の会計と異なるのは、「契約締結時に債権債務が発生する」という大原則を忠実に表現している点です。期限付きとはいえ契約締結時に債務は発生していると。
そして、コンサルしてもらう債権が履行されたことにより、成果が生じて債権が消滅します。で、支払期日に支払いをすることにより、債務が消滅します。
◯
上記は無事に契約関係が終了した場合ですが、「解約」した場合も表現してみましょう。
まずは、役務提供前に解約した場合です。
《役務提供前》
3/10解約 報酬支払債務/コンサルしてもらう債権
債権と債務双方が消滅するため、消滅による損益は生じないですみます。
問題は役務提供後に解約した場合です(この場面も解約というのは変ですが、用語を揃えておきます)。
《役務提供後》
3/20解約 コンサルしてもらった成果 ←消しようがない
報酬支払債務/債務消滅益
債権は成果に置き換わってしまっているため、もはや消しようがありません。そのため、報酬支払債務を消滅させたことによる消滅益だけが生じることになります。
だからといって、当然に課税すべきというのではなく。この債務消滅益に課税すべきかどうかは、税法内部で解決する問題となります。
◯
このように、《民法会計》という思考方法を導入することで、
・債務は契約締結時に発生している
・債務消滅益に課税すべきかどうかを検討すべきなのは役務提供後の事例
ということが可視化されたかと思います。
これが「役員報酬」だと、債務発生は支給決議時だとして、役員の役務提供が報酬支払債務とどう対応しているのか、ということを検討しなければならないわけです(私個人としては、1年単位での対応関係にあるから、職務執行期間が開始してしまった以上、部分的に消すのは原則不可と考えています)。
どのように考えるとしても、少なくとも「支給日前に不支給決議すればお咎めなし」などと、短絡的にいうことはできません。
◯
以上、《奇説をもって珍説を制す》を実践しただけであり。どこかよその場で《民法会計》とか言い出したら奇人扱いされるだけなので、心の中だけに仕舞っておかれることをおすすめいたします。
「事前確定届出給与、支給日前に不支給決議すればお咎めなし」なる謎理論について
このような珍説から抜け出すための処方箋として、《民法会計》なる奇説を提唱してみます(奇説をもって珍説を制す)。
【会計の種類】
企業会計
会社法会計
税務会計
民法会計 ←New!
次のような事例で検討します。役員報酬を素材にしてしまうと変なバイアスがかかりそうなので、普通の事例でいきます(通常事例思考)。
【事例】
3/1 にコンサル契約を締結
3/15にコンサルしてもらう
3/31にコンサル料支払う
これを《仕訳思考》によって表現すると、次の通りとなります。
《仕訳思考》
3/ 1契約締結時 仕訳なし
3/15役務提供時 支払報酬/未払金
3/31支払時 未払金/現金
このせいで、「契約締結時に債権債務が発生する」という民法側からしたら当然のお話しが、なぜか税務界隈では認識できない状態となってしまっているわけです。
ここで「もっと民法を勉強しろ」と言ってしまえば簡単ですが、「民法の規律を仕訳で表現する」という奇妙な発想により、見えなかったものが見えるようになるのでは、と思いつきました。
《民法会計》
3/ 1契約締結時 コンサルしてもらう債権/報酬支払債務
3/15役務提供時 コンサルしてもらった成果/コンサルしてもらう債権
3/31支払時 報酬支払債務/現金
通常の会計と異なるのは、「契約締結時に債権債務が発生する」という大原則を忠実に表現している点です。期限付きとはいえ契約締結時に債務は発生していると。
そして、コンサルしてもらう債権が履行されたことにより、成果が生じて債権が消滅します。で、支払期日に支払いをすることにより、債務が消滅します。
◯
上記は無事に契約関係が終了した場合ですが、「解約」した場合も表現してみましょう。
まずは、役務提供前に解約した場合です。
《役務提供前》
3/10解約 報酬支払債務/コンサルしてもらう債権
債権と債務双方が消滅するため、消滅による損益は生じないですみます。
問題は役務提供後に解約した場合です(この場面も解約というのは変ですが、用語を揃えておきます)。
《役務提供後》
3/20解約 コンサルしてもらった成果 ←消しようがない
報酬支払債務/債務消滅益
債権は成果に置き換わってしまっているため、もはや消しようがありません。そのため、報酬支払債務を消滅させたことによる消滅益だけが生じることになります。
だからといって、当然に課税すべきというのではなく。この債務消滅益に課税すべきかどうかは、税法内部で解決する問題となります。
◯
このように、《民法会計》という思考方法を導入することで、
・債務は契約締結時に発生している
・債務消滅益に課税すべきかどうかを検討すべきなのは役務提供後の事例
ということが可視化されたかと思います。
これが「役員報酬」だと、債務発生は支給決議時だとして、役員の役務提供が報酬支払債務とどう対応しているのか、ということを検討しなければならないわけです(私個人としては、1年単位での対応関係にあるから、職務執行期間が開始してしまった以上、部分的に消すのは原則不可と考えています)。
どのように考えるとしても、少なくとも「支給日前に不支給決議すればお咎めなし」などと、短絡的にいうことはできません。
◯
以上、《奇説をもって珍説を制す》を実践しただけであり。どこかよその場で《民法会計》とか言い出したら奇人扱いされるだけなので、心の中だけに仕舞っておかれることをおすすめいたします。
posted by ウロ at 09:51| Comment(0)
| 法人税法
2025年03月10日
「事前確定届出給与、支給日前に不支給決議すればお咎めなし」なる謎理論について
事前確定届出給与について、「支給日前に不支給決議しておけば、支給せずともお咎めなし」なるテーゼが、定説として人口に膾炙しているようです。
(ここでは詳論しませんので、「事前確定届出給与 支給しない」とかで雑に検索して出てくる《税務お役立ち記事》にて、同テーゼの内容をご確認ください。)
が、私にはなぜそのような帰結になるのか、まるで理解が及びません。
他方で、「事前確定届出給与の制度趣旨云々」とかいうことを根拠に、「税務署に否認される可能性がある」みたいな物言いをされている方々の主張も、ふんわりしすぎてまるでしっくりきません。
ということで、今回はそのあたりの整理をしておきます。
◯
まずは、条文の書きぶり。金銭交付の部分のみ抽出します(以下、用語のお約束として「職務」と「業務」は互換的に用います)。
事前確定届出給与とは(法法34条1項2号)
「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」
税法で「確定」というと(条文上なんら根拠のない)「権利確定主義」にいうあれか、と思われるかもしれません。
がそうではなく。ここでいう「確定」は、会社法のそれです。
会社法 第三百六十一条(取締役の報酬等)
1 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
つまり、一定の時期までに報酬決議で支給額を決めれば損金算入を認める、ということです。
だったら「定期同額給与」なんて設けずに、一定時期までの報酬決議さえあれば損金算入できる、だけのルールでも足りそうなものです。
おそらくですが、どうせ中小企業なんて後づけで報酬決議とかしやがるだろ、ということなんでしょう。かといって、全件届出されてもウザい。そこで、金額で規制を設けておき(定期同額)、途中で金額イジりたい場合にだけ事前に届出をさせる、という規律にしたのでしょう。
いずれ、「議事録にタイムスタンプ押しておけば届出不要」みたいなルールができそうですが、それはまた先のお話し。
◯
ちなみに、最近、「合同会社」も事前確定届出給与使えるよ、という(私からするとファンキーな)文書回答事例が出ています。
合同会社の社員に対して事前確定届出給与を支給する場合の税務上の取扱いについて(文書回答事例)
合同会社には、上記の会社法361条に対応する規定がありません。にもかかわらず、株式会社の真似ごとみたいな処理をすれば、事前確定届出給与使っていいんだと。
私には、法人税法も同法施行令も、事前確定届出給与については株式会社だけを想定していて、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)を含めた書きぶりにはなっていないと読めるのですが。そのまま横流ししちゃっていいということのようです。よかったですね。
定款に「当社は社員総会(任意機関)を置く。」「任期は◯年以内の定時社員総会終結時まで。」「報酬は社員総会で決定する。」とか、それっぽいことを書いておく必要があるのかどうか(会社法制定当時の「お前、有限会社の定款テンプレ、コピペしただけやろ!」と突っ込まれる感じのやつ)。
◯
話を戻して。
結果、事前確定届出給与の要件を満たすには、会社法における報酬決議が必要になります。で、報酬決議をした時点で、会社には報酬支払債務が発生することになります。
最高裁平成4年12月18日判決
株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。
そうすると、支給日前だろうと後だろうと、(本人同意のもとに)不支給決議をした場合は、支給決議時に発生した報酬債務を消滅させたことに変わりはありません。それゆえ、支給日前に不支給決議をした場合も、「債務を消滅させた」という事実に対して課税するかどうかが問題になるはずです。
(一般に「債務免除益課税」という言い回しがされることが多いところ。ですが、消滅原因は必ずしも「免除」(民法519条)とはかぎらないため、以下では「債務消滅益」と記述します。)
そこいらの《税務お役立ち記事》では、支給日前なら債務は発生していないから債務消滅益も発生しない、などと書かれています(恐ろしいほど皆同じ論調。全員同じところから節税記事買ってんのか)。
が、このような記述は、およそ民法・会社法における一般的な理解からはかけ離れた異説にすぎません。
【異説】
・同時履行の抗弁が存在するかぎり、債務は「発生」しない。
・確定期限が到来するまで、債務は「発生」しない。
法人税法の側で議論しなければならないことは、私法レベルで発生した債務を事後的に消滅させたとして、それが「益金」に該当し課税をすべきかどうか、という点です。
私法レベルでの異説を唱えて税法上の論点は無いものとする、のではなく。正面から税法上の問題として論ずるべきものでしょう。
・
ちなみに、このような民法上の異説を信じてしまう理由。税理士が《仕訳思考》《簿記思考》で物事を考えがちだから、ではないかと邪推しています。
すなわち、単に契約を締結しただけでは仕訳を起こすことはないのであり。で、仕訳を起こさない以上、法律上の債務もまだ発生していない、と勘違いしてしまうのではないかと。
【仕訳思考】
・支給決議時 : 仕訳なし →債務は発生していないに違いない!
そして、支給日前に不支給決議をすれば、消し込みをする未払金が計上されていない以上、対応する債務消滅益も計上しなくてよいと。
【仕訳思考】
ア 支給日前
・支給決議時 :仕訳なし
・不支給決議時:仕訳なし →未払金が計上されていないから債務消滅益も計上しない!
イ 支給日後
・支給決議時 :仕訳なし
・支給日 :役員報酬/未払金
・不支給決議時:未払金/債務消滅益 →未払金を消し込むために債務消滅益を計上する!
仕訳から税法上の論点にアプローチする思考。役にたつ場面もあるのでしょうが、正確な税法理解を妨げる要因にもなりうるということです。
◯
では、この場面で「債務消滅益」に課税すべきかどうかですが。この点は「債務消滅益」に関する課税理論に関わることであり、ここで深入りするつもりはありません。
ごくごく簡単にさわりだけ触れると。
一連の「企業再生税制」を念頭に置くと、再生場面では課税しなくてよいといえそうです。また、「臨時改定事由」にあたる事実が存在する場合も、(どう理屈づけるかはさておき)課税しなくてよいという結論になりそうです。
他方で、単に「今期思ったより利益でなかったな、てへっ」程度の理由では、およそ救済すべき理由とはならないでしょう。
平時の場面でありうる考えとしては、「債務に対応する反対給付が未履行なら課税しない」という規範が考えられるでしょうか。
たとえば、3/1〜3/31の間有償でコンサルをするということで2/15に契約した場合、報酬債務自体は2/15に発生しています。その後、コンサル開始前の2/28に合意解約した場合、その報酬債務は消滅しますが、この消滅という事実に課税せよ、ということにはならないはずです。
なぜかといえば、報酬の支払いは免れているものの、他方で、それに対応する役務の提供を受けていないからです。
・
問題は、この理屈が「役員報酬」にもあてはまるのか、ということです。
というのも、役員報酬というのは、1年の職務執行期間に対応するものとはいえても、その期間中のなにか特定の業務に対応するものではありません。
「定期同額部分」は、便宜的に従業員と一緒の給与計算期間で処理されることがあるものの、1月ごとの給与計算期間と業務執行とが一対一対応しているわけでもありません。
ましてや「事前確定部分」なんて、特定の業務との結びつきはないといっていいでしょう。
もしも、事前確定部分に対応する業務が特定されているならば、その業務の執行前に不支給決議をすれば債務消滅益に課税しなくてもよい、といえるのかもしれません。が、対応する業務が不明確な以上、事前確定部分にかかる反対給付をまだ受けていない、ということはできず。やはり、報酬債務を免れたことに対して課税せざるをえないのではないでしょうか。
この帰結が正しいかどうかはさておき。
少なくとも、「支給日」の前後で債務消滅益に課税する/しないが変わるなんて考え、およそ根拠のない珍説としか、私には思えません(のに、大部分の人々がこれを信奉しているようであり。私のほうが根本的な思い違いをしているのでしょうか)。
もちろん、支給日前なら所得が「確定」していないから所得税が課税されない、ということにはなるのでしょう。が、そのことと、法人側に債務消滅益課税が生じないかどうかは、別次元のお話しです。
◯
話は脱線しますが。
そもそもの話として、役員報酬について、所得税(法)上の扱いは従業員と同じ、というのが未だにしっくりきていません。
何を気にしているかといえば、請負(事業所得)を交えた以下の対比。
◯雇用(従属) :給与所得
1 雇用契約締結 ←賃金債務発生
2 労務の提供
3 支払期日 ←所得確定
◯請負(独立) :事業所得
1 請負契約締結 ←報酬債務発生
2 役務の提供 ←所得確定
3 支払期日
◯委任(独立) :給与所得
1 委任契約締結、選任決議・報酬決議 ←報酬債務発生
2 業務の執行
3 支払期日 ←所得確定
「従属/独立」という括りでいうと、受任者は請負人と同じく独立性ありだというのに、所得の「確定」は従業員(従属)の給与所得と同等に扱われています。これがどういう理屈によるものなのか。
というか、なぜ給与所得は支払期日まで「確定」しないのに、事業所得は役務の提供完了時に「確定」してしまうのか。その違いすら、私にはよく分かりません。
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
◯
「従業員と役員、違うんだか同じなんだか問題」、税法のみならず社会保障法の領域でもあって。
役員を、雇用保険法の被保険者、労災保険法の適用者とするのは、文言上さすがに無理だとして。健康保険法・厚生年金保険法の「使用される者」には含まれるとされています。
・適用事業に雇用される労働者(雇用保険法)
・労働者(労災保険法)
・適用事業所に使用される者(健康保険法、厚生年金保険法)
もちろん、「役員、社保に入れてあげないと可哀想よ。」というお気持ちは分かります。が、だとすると、労災保険・雇用保険だって同じことだと思うのですが。
黒田有志弥ほか「社会保障法(有斐閣ストゥディア)」(有斐閣2019)
◯
以上、極めて歯切れの悪い内容であり。
ですが、「債務消滅益」の課税問題、組織再編税制のように制度自体が難解なものを除けば、相当な難問のうちの一つであって。少なくとも、節税屋さんが「支給日前なら大丈夫だよ〜」なんてお気軽に言えるようなものではないと思う。
《民法会計》なる奇説について
(ここでは詳論しませんので、「事前確定届出給与 支給しない」とかで雑に検索して出てくる《税務お役立ち記事》にて、同テーゼの内容をご確認ください。)
が、私にはなぜそのような帰結になるのか、まるで理解が及びません。
他方で、「事前確定届出給与の制度趣旨云々」とかいうことを根拠に、「税務署に否認される可能性がある」みたいな物言いをされている方々の主張も、ふんわりしすぎてまるでしっくりきません。
ということで、今回はそのあたりの整理をしておきます。
◯
まずは、条文の書きぶり。金銭交付の部分のみ抽出します(以下、用語のお約束として「職務」と「業務」は互換的に用います)。
事前確定届出給与とは(法法34条1項2号)
「その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの」
税法で「確定」というと(条文上なんら根拠のない)「権利確定主義」にいうあれか、と思われるかもしれません。
がそうではなく。ここでいう「確定」は、会社法のそれです。
会社法 第三百六十一条(取締役の報酬等)
1 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
つまり、一定の時期までに報酬決議で支給額を決めれば損金算入を認める、ということです。
だったら「定期同額給与」なんて設けずに、一定時期までの報酬決議さえあれば損金算入できる、だけのルールでも足りそうなものです。
おそらくですが、どうせ中小企業なんて後づけで報酬決議とかしやがるだろ、ということなんでしょう。かといって、全件届出されてもウザい。そこで、金額で規制を設けておき(定期同額)、途中で金額イジりたい場合にだけ事前に届出をさせる、という規律にしたのでしょう。
いずれ、「議事録にタイムスタンプ押しておけば届出不要」みたいなルールができそうですが、それはまた先のお話し。
◯
ちなみに、最近、「合同会社」も事前確定届出給与使えるよ、という(私からするとファンキーな)文書回答事例が出ています。
合同会社の社員に対して事前確定届出給与を支給する場合の税務上の取扱いについて(文書回答事例)
合同会社には、上記の会社法361条に対応する規定がありません。にもかかわらず、株式会社の真似ごとみたいな処理をすれば、事前確定届出給与使っていいんだと。
私には、法人税法も同法施行令も、事前確定届出給与については株式会社だけを想定していて、持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)を含めた書きぶりにはなっていないと読めるのですが。そのまま横流ししちゃっていいということのようです。よかったですね。
定款に「当社は社員総会(任意機関)を置く。」「任期は◯年以内の定時社員総会終結時まで。」「報酬は社員総会で決定する。」とか、それっぽいことを書いておく必要があるのかどうか(会社法制定当時の「お前、有限会社の定款テンプレ、コピペしただけやろ!」と突っ込まれる感じのやつ)。
◯
話を戻して。
結果、事前確定届出給与の要件を満たすには、会社法における報酬決議が必要になります。で、報酬決議をした時点で、会社には報酬支払債務が発生することになります。
最高裁平成4年12月18日判決
株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後株主総会が当該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても、当該取締役は、これに同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があり、それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。
そうすると、支給日前だろうと後だろうと、(本人同意のもとに)不支給決議をした場合は、支給決議時に発生した報酬債務を消滅させたことに変わりはありません。それゆえ、支給日前に不支給決議をした場合も、「債務を消滅させた」という事実に対して課税するかどうかが問題になるはずです。
(一般に「債務免除益課税」という言い回しがされることが多いところ。ですが、消滅原因は必ずしも「免除」(民法519条)とはかぎらないため、以下では「債務消滅益」と記述します。)
そこいらの《税務お役立ち記事》では、支給日前なら債務は発生していないから債務消滅益も発生しない、などと書かれています(恐ろしいほど皆同じ論調。全員同じところから節税記事買ってんのか)。
が、このような記述は、およそ民法・会社法における一般的な理解からはかけ離れた異説にすぎません。
【異説】
・同時履行の抗弁が存在するかぎり、債務は「発生」しない。
・確定期限が到来するまで、債務は「発生」しない。
法人税法の側で議論しなければならないことは、私法レベルで発生した債務を事後的に消滅させたとして、それが「益金」に該当し課税をすべきかどうか、という点です。
私法レベルでの異説を唱えて税法上の論点は無いものとする、のではなく。正面から税法上の問題として論ずるべきものでしょう。
・
ちなみに、このような民法上の異説を信じてしまう理由。税理士が《仕訳思考》《簿記思考》で物事を考えがちだから、ではないかと邪推しています。
すなわち、単に契約を締結しただけでは仕訳を起こすことはないのであり。で、仕訳を起こさない以上、法律上の債務もまだ発生していない、と勘違いしてしまうのではないかと。
【仕訳思考】
・支給決議時 : 仕訳なし →債務は発生していないに違いない!
そして、支給日前に不支給決議をすれば、消し込みをする未払金が計上されていない以上、対応する債務消滅益も計上しなくてよいと。
【仕訳思考】
ア 支給日前
・支給決議時 :仕訳なし
・不支給決議時:仕訳なし →未払金が計上されていないから債務消滅益も計上しない!
イ 支給日後
・支給決議時 :仕訳なし
・支給日 :役員報酬/未払金
・不支給決議時:未払金/債務消滅益 →未払金を消し込むために債務消滅益を計上する!
仕訳から税法上の論点にアプローチする思考。役にたつ場面もあるのでしょうが、正確な税法理解を妨げる要因にもなりうるということです。
◯
では、この場面で「債務消滅益」に課税すべきかどうかですが。この点は「債務消滅益」に関する課税理論に関わることであり、ここで深入りするつもりはありません。
ごくごく簡単にさわりだけ触れると。
一連の「企業再生税制」を念頭に置くと、再生場面では課税しなくてよいといえそうです。また、「臨時改定事由」にあたる事実が存在する場合も、(どう理屈づけるかはさておき)課税しなくてよいという結論になりそうです。
他方で、単に「今期思ったより利益でなかったな、てへっ」程度の理由では、およそ救済すべき理由とはならないでしょう。
平時の場面でありうる考えとしては、「債務に対応する反対給付が未履行なら課税しない」という規範が考えられるでしょうか。
たとえば、3/1〜3/31の間有償でコンサルをするということで2/15に契約した場合、報酬債務自体は2/15に発生しています。その後、コンサル開始前の2/28に合意解約した場合、その報酬債務は消滅しますが、この消滅という事実に課税せよ、ということにはならないはずです。
なぜかといえば、報酬の支払いは免れているものの、他方で、それに対応する役務の提供を受けていないからです。
・
問題は、この理屈が「役員報酬」にもあてはまるのか、ということです。
というのも、役員報酬というのは、1年の職務執行期間に対応するものとはいえても、その期間中のなにか特定の業務に対応するものではありません。
「定期同額部分」は、便宜的に従業員と一緒の給与計算期間で処理されることがあるものの、1月ごとの給与計算期間と業務執行とが一対一対応しているわけでもありません。
ましてや「事前確定部分」なんて、特定の業務との結びつきはないといっていいでしょう。
もしも、事前確定部分に対応する業務が特定されているならば、その業務の執行前に不支給決議をすれば債務消滅益に課税しなくてもよい、といえるのかもしれません。が、対応する業務が不明確な以上、事前確定部分にかかる反対給付をまだ受けていない、ということはできず。やはり、報酬債務を免れたことに対して課税せざるをえないのではないでしょうか。
この帰結が正しいかどうかはさておき。
少なくとも、「支給日」の前後で債務消滅益に課税する/しないが変わるなんて考え、およそ根拠のない珍説としか、私には思えません(のに、大部分の人々がこれを信奉しているようであり。私のほうが根本的な思い違いをしているのでしょうか)。
もちろん、支給日前なら所得が「確定」していないから所得税が課税されない、ということにはなるのでしょう。が、そのことと、法人側に債務消滅益課税が生じないかどうかは、別次元のお話しです。
◯
話は脱線しますが。
そもそもの話として、役員報酬について、所得税(法)上の扱いは従業員と同じ、というのが未だにしっくりきていません。
何を気にしているかといえば、請負(事業所得)を交えた以下の対比。
◯雇用(従属) :給与所得
1 雇用契約締結 ←賃金債務発生
2 労務の提供
3 支払期日 ←所得確定
◯請負(独立) :事業所得
1 請負契約締結 ←報酬債務発生
2 役務の提供 ←所得確定
3 支払期日
◯委任(独立) :給与所得
1 委任契約締結、選任決議・報酬決議 ←報酬債務発生
2 業務の執行
3 支払期日 ←所得確定
「従属/独立」という括りでいうと、受任者は請負人と同じく独立性ありだというのに、所得の「確定」は従業員(従属)の給与所得と同等に扱われています。これがどういう理屈によるものなのか。
というか、なぜ給与所得は支払期日まで「確定」しないのに、事業所得は役務の提供完了時に「確定」してしまうのか。その違いすら、私にはよく分かりません。
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
◯
「従業員と役員、違うんだか同じなんだか問題」、税法のみならず社会保障法の領域でもあって。
役員を、雇用保険法の被保険者、労災保険法の適用者とするのは、文言上さすがに無理だとして。健康保険法・厚生年金保険法の「使用される者」には含まれるとされています。
・適用事業に雇用される労働者(雇用保険法)
・労働者(労災保険法)
・適用事業所に使用される者(健康保険法、厚生年金保険法)
もちろん、「役員、社保に入れてあげないと可哀想よ。」というお気持ちは分かります。が、だとすると、労災保険・雇用保険だって同じことだと思うのですが。
黒田有志弥ほか「社会保障法(有斐閣ストゥディア)」(有斐閣2019)
◯
以上、極めて歯切れの悪い内容であり。
ですが、「債務消滅益」の課税問題、組織再編税制のように制度自体が難解なものを除けば、相当な難問のうちの一つであって。少なくとも、節税屋さんが「支給日前なら大丈夫だよ〜」なんてお気軽に言えるようなものではないと思う。
《民法会計》なる奇説について
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| 法人税法
2025年01月13日
みんな大好き!倒産防(その11) 〜益金ルール不存在
倒産防について、損金ルールはあるのに益金ルールが明記されていない、ということを、以前指摘しました。
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
掛金:損金算入 ⇒解約手当金:益金算入
掛金:損金不算入 ⇒解約手当金:益金不算入
という素朴な《オセロ思考》が、法人税法22条の解釈論から導くことができるのだろうかと。
※《オセロ思考》とは
「表が白なら裏は黒に決まっている」という、省エネ・節約系の思考方法のことをいう
そこで今回は、パターン分けをして、問題の所在を整理するところまで手をつけてみます。
なお、実務家としては、上記の《オセロ思考》で処理しておけばさしあたり問題はないのでしょう。以下はただの《お戯れ》です。
◯
掛金の処理として考えられるパターンは、以下の通りになるかと思います。

表の説明をくわえると。
・掛金、実体要件
条文上は、掛金を納付したら「損金とする」となっており、「損金算入できる」ではありません。
ので、条文の書きぶりに忠実にしたがって《文言解釈》するならば、掛金を納付した以上、問答無用で損金算入するのであり。納税者が自由に選択できるものではないはずです。
なお、納付しなければ損金算入するものがないので、こちらははじめからパターンには組み込んでいません。
・会計
「費用」が損金経理をした場合、「資産」が損金経理をしなかった場合です。
・申告調整
「費用」としておきながらあえて加算する、とか、資産としたうえで申告調整しない、というパターンも組み込んでおきました。
なぜ、わざわざ課税所得を増やすようなことをするのか、といえば、繰越欠損金の問題とか税額控除の上限の問題とか、まあ、そういう事情があるわけです(当然、行為計算否認規定の発動はありうる)。
・明細添付、手続要件
明細書を添付しなければ、損金算入できません。
かつて、とある特例の手続要件が省令だけに規定されていたことが違法とされた判決がありましたが、ここでは、きちんと法律レベルで実体要件と並べて記述されています。
・課税所得
マイナスというのが損金算入した場合、0がしなかった場合です。
◯
さて、このような掛金処理パターンがあるなかで、《オセロ思考》によれば、解約手当金の処理は次の帰結となります。
・1、5の場合 ⇒益金算入する
・それ以外の場合 ⇒益金算入しない
1,5の場合に益金算入するのは、さしあたりよいということにして。それ以外の場合の全てが益金算入しないということでよいのかどうか。
どういう問題意識があるのかというと。
上述のとおり、掛金を納付した以上は損金算入するものであり、納税者が任意に損金算入を選択できるものではないはずです。にもかかわらず、
・あえて明細添付せずに損金算入しない(2,4,6,8)
・費用処理しておきながら、わざわざ加算する(3,4)
・資産処理をした上で、きちんと減算していない(7,8)
といったやり口で損金算入しなかった場合、解約手当金を益金算入しなくてもよいのか、という疑問があるわけです。
そもそもの話、解約手当金の性質は、掛金につきどの処理を行おうが変わるわけでもないのであって。益金性が左右される根拠は、どこにもないわけです。
◯
最初に述べたとおり、これは単なる《お戯れ》であって。実務家の方が深入りするようなものではないです(が、研究者はきちんと理論づけをしておいてください)。
なお、パターンが複雑になるので省略しましたが、ここに「2年ルール」が絡んでくると、さらに面倒なことになります(あえて2年以内に納付したので保護しなくてよい、と評価するのか、損金算入できないのは本人のせいじゃない、と評価するのか)。
やはり、実務家的には《オセロ思考》で済ませてしまうのが、楽になれてよいのでしょう。
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
掛金:損金算入 ⇒解約手当金:益金算入
掛金:損金不算入 ⇒解約手当金:益金不算入
という素朴な《オセロ思考》が、法人税法22条の解釈論から導くことができるのだろうかと。
※《オセロ思考》とは
「表が白なら裏は黒に決まっている」という、省エネ・節約系の思考方法のことをいう
そこで今回は、パターン分けをして、問題の所在を整理するところまで手をつけてみます。
なお、実務家としては、上記の《オセロ思考》で処理しておけばさしあたり問題はないのでしょう。以下はただの《お戯れ》です。
◯
掛金の処理として考えられるパターンは、以下の通りになるかと思います。

表の説明をくわえると。
・掛金、実体要件
条文上は、掛金を納付したら「損金とする」となっており、「損金算入できる」ではありません。
ので、条文の書きぶりに忠実にしたがって《文言解釈》するならば、掛金を納付した以上、問答無用で損金算入するのであり。納税者が自由に選択できるものではないはずです。
なお、納付しなければ損金算入するものがないので、こちらははじめからパターンには組み込んでいません。
・会計
「費用」が損金経理をした場合、「資産」が損金経理をしなかった場合です。
・申告調整
「費用」としておきながらあえて加算する、とか、資産としたうえで申告調整しない、というパターンも組み込んでおきました。
なぜ、わざわざ課税所得を増やすようなことをするのか、といえば、繰越欠損金の問題とか税額控除の上限の問題とか、まあ、そういう事情があるわけです(当然、行為計算否認規定の発動はありうる)。
・明細添付、手続要件
明細書を添付しなければ、損金算入できません。
かつて、とある特例の手続要件が省令だけに規定されていたことが違法とされた判決がありましたが、ここでは、きちんと法律レベルで実体要件と並べて記述されています。
・課税所得
マイナスというのが損金算入した場合、0がしなかった場合です。
◯
さて、このような掛金処理パターンがあるなかで、《オセロ思考》によれば、解約手当金の処理は次の帰結となります。
・1、5の場合 ⇒益金算入する
・それ以外の場合 ⇒益金算入しない
1,5の場合に益金算入するのは、さしあたりよいということにして。それ以外の場合の全てが益金算入しないということでよいのかどうか。
どういう問題意識があるのかというと。
上述のとおり、掛金を納付した以上は損金算入するものであり、納税者が任意に損金算入を選択できるものではないはずです。にもかかわらず、
・あえて明細添付せずに損金算入しない(2,4,6,8)
・費用処理しておきながら、わざわざ加算する(3,4)
・資産処理をした上で、きちんと減算していない(7,8)
といったやり口で損金算入しなかった場合、解約手当金を益金算入しなくてもよいのか、という疑問があるわけです。
そもそもの話、解約手当金の性質は、掛金につきどの処理を行おうが変わるわけでもないのであって。益金性が左右される根拠は、どこにもないわけです。
◯
最初に述べたとおり、これは単なる《お戯れ》であって。実務家の方が深入りするようなものではないです(が、研究者はきちんと理論づけをしておいてください)。
なお、パターンが複雑になるので省略しましたが、ここに「2年ルール」が絡んでくると、さらに面倒なことになります(あえて2年以内に納付したので保護しなくてよい、と評価するのか、損金算入できないのは本人のせいじゃない、と評価するのか)。
やはり、実務家的には《オセロ思考》で済ませてしまうのが、楽になれてよいのでしょう。
posted by ウロ at 10:40| Comment(0)
| 法人税法
2024年09月23日
使途不明金と使途秘匿金 〜だから違うっつんてんだろ!!
各種解説書のたぐいで、横並びで説明されがちなこの二人。
税制上は全くの別レベルのものだというのに。いまいち理解がされていない(上田晋也氏「加藤あいと阿藤快くらい違うよ!」)。
先日イジった書籍も、(税理士を法律ド素人扱いしているくせに)どうも正確に理解していないっぽい書きぶりでしたよね。
眞鍋淳也「税務調査は弁護士に相談しなさい」(ディスカバー2024)
ということで、条文レベルでの整理をしておきます。
なお、国税庁の「指示」により、使途秘匿金課税については慎重に対応することとされています。が、以下はあくまでも条文に書かれているかぎりでの整理にとどまります。
・
余談ですが、本論点のほかに、税法世界でその位置付けが正確に理解されていないものの代表例が、総則6項。
最高裁判決により釘を刺されたはずなのに、議論枠組みを頑なに変えない、一定の勢力が存在する。
だから巡ってないってば! 〜最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(財産評価)
◯
(遺憾ながら)いきなり通達から。
法人税基本通達9−7−20(費途不明の交際費等)
法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。
通達が勝手に「損金不算入規定」を新設するのおかしくない?というのはごもっともな疑問。
説明の仕方としてはいくつかありますが。ここでは、次のとおり理解しておきます。
・「費途」が不明な場合、「費用性」が認められないことを明記した(法22条3項2号の解釈として)。
・「交際費等」に限定しているのは、「物を買う」場合のように、対価として見合いのものが入ってこない場合だから。
法人税法 第二十二条
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
ということで、「費途不明金」なる概念は、費用性が認められない(と国税庁が考える)支出のうちの一部を、グループ化しただけの概念であって。法律上の制度ではないということです。
素直に「費用として認められない」といえばいいところを、「費途不明金に該当するから費用として認められない」とかいうの、どうにも回りくどく感じられ。講学上の概念としても使うべきではない、と個人的には思います(櫻井和寿氏のことを「Bank Bandのボーカルの人」というみたいなもの、という例が思い浮かびましたが、なんか違う気がする)。
【卑近な例】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
なお、「使途不明金」という書き方をされることもあります(タイトルはあえてこちら)。が、これだと、法令はおろか通達にすらとっかかりのない用語となってしまいます。
また、「使途秘匿金」と同レベルの制度だと誤解される元凶のひとつではないかとも思います。
ので、「使途不明金」という用語は使いません。
と、気に入らないと思いつつ、以下では「使途秘匿金」と対比するものとして「費途不明金」という用語を用います。
◯
で、「使途秘匿金」について。4、6、7、8項は省略します。
租税特別措置法 第六十二条
1 法人(公共法人を除く。以下この項において同じ。)は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法第六十六条第一項から第三項まで及び第六項、第六十九条第十九項(同条第二十三項又は第二十四項において準用する場合を含む。)並びに第百四十三条第一項及び第二項の規定、第四十二条の四第八項第六号ロ及び第七号(これらの規定を同条第十八項において準用する場合を含む。)、第四十二条の十四第一項及び第四項、第六十二条の三第一項及び第九項、第六十三条第一項、第六十七条の二第一項並びに第六十八条第一項の規定その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。
2 前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下この条において同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下この条において「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。
3 税務署長は、法人がした金銭の支出のうちにその相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものがある場合においても、その記載をしていないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認めるときは、その金銭の支出を第一項に規定する使途秘匿金の支出に含めないことができる。
5 法人が金銭の支出の相手方の氏名等をその帳簿書類に記載しているかどうかの判定の時期その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
9 第一項の規定は、法人がした金銭の支出について同項の規定の適用がある場合において、その相手方の氏名等に関して、国税通則法第七十四条の二(第一項第二号に係る部分に限る。)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求をすることを妨げるものではない。
これを簡単にまとめると次のとおり。
1項
使途秘匿金の支出額に40%課税する
2項
使途秘匿金の支出とは
ア 金銭の支出+金銭以外の資産の引渡し
イ 相手方の氏名名称、住所所在地、その事由を帳簿書類に記載していない
ウ 記載していないことに相当の理由がない
エ 取引の対価(金額相当)の支払は除外
3項
税務署長が、記載していないことが秘匿するためでないと認めるときは秘匿金課税しない
5項
記載の判定時期は事業年度終了日(令38条1項)
9項
秘匿金課税をする場合でも、重ねて質問検査権を行使してもよい
◯
こんなピーキーな制度を「費途不明金」と横並びにできる税法感覚、よく理解できません。
使途秘匿金の特徴は以下のとおり。
・「支出額」にダイレクトに課税する。損金不算入⇒課税所得UP経由で課税するのとは、わけが違う(赤字でも課税)。
未だに措置法に置かれっぱなしで本法に編入されないの、ダテじゃない。
・「未記載」がメインの要件となっている。費用性のような実質判定ではなく、形式判定によるということ。系統でいうと、消費税法における「仕入税額控除」に近い。
・「使途」秘匿金というが、記載の対象は使い道だけでなく。氏名住所の記載も要求されている。
・事業年度が終了するまでに記載していなければアウト。事後的に明らかにしたところで挽回できない(優良帳簿なら完全に詰みか)。
・「相当な理由」は、記載しなかったことに対するもの。
たとえば「いろんな人にビール券配った」など、相手方を特定しようがない場合などが想定されている。それ以上に、「刑事責任を追及されるおそれがある」とか「今後取引が打ち切られてしまう」などの理由が該当するかは、今のところはっきりしない(おそらく消極)。
・「秘匿するためでないこと」が要件のひとつになっているが、「相当な理由」とは違って、ストレートに実体要件として記述されていない。税務署長の判断に委ねられてしまっている(裁判所による裁量統制はあるでしょうが)。
・「使途秘匿金課税を受け入れます」と白旗あげても、質問検査権の追及から逃げられるわけではない。
ましてや、例の著書がいうみたいに「納税者には立証責任ないから、秘匿したまま税務署が立証するのを待っていればよい」などという対応で、安穏としていられるわけがない。
むしろ、そんな対応、質問調査権の「必要性・相当性」を爆上げさせるだけで。どぎつい調査権行使を呼び込むだけなんじゃないですかね。
◯
このように、使途秘匿金を費途不明金と地続きで記述するには、あまりにノリが違うわけです。
使途秘匿金から放たれる禍々しいオーラを感じ取れるなら、とても費途不明金を隣に置いておけるものではないことに、気づくはずです。
使途秘匿金の置き場所で、私が一番しっくりきたのは、「図解 法人税」での配置。
馬場光徳「図解 法人税(令和6年版)」(大蔵財務協会2024)
(よくある教科書類で対応するものでいうと)「第4章 費用の税務」の中に配置されがちなところを。「第15章 税額計算、申告、納付」の中で、留保金課税との並びで、使途秘匿金課税が解説されています。
他方で、置き場としてダメなものの代表として、「金子租税法」。
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021) Amazon
「法人所得の意義と計算」⇒「損金の額の計算」⇒「使途秘匿金(使途不明金)」と、損金ルールの中で記述されてしまっています。
あらためて。
「金子租税法」は、壮大な金子租税法学を仰ぎ見るためと、関連判決・論文を網羅的に拾い上げるためのエンサイクロペディアとして利用するものであって。
現行税制をあるがままに理解するためには、必ずしも適合的でないところがある、ということは意識しておくべきだなあと。
・
費途不明金のほうは、他の課税要件と同様「実質重視」の判定をします。ところが、使途秘匿金については、帳簿未記載という「形式要件」が前面に出てきます。
この点、私の肌感覚として、「消費税法の仕入税額控除が、適格者からの課税仕入であることが明らかであっても、インボイス無しor帳簿記載なしという形式のみで控除が否定されるの、理不尽すぎる」と思うのに対して。「使途秘匿金」については、そこまでの理不尽さは感じません。
この感覚の違いが何に基づくものなのか、さしあたりよく分かりません。
・
「課税要件事実論」の信奉者の方々は、ぜひとも費途不明金と使途秘匿金の、それぞれの要件事実を展開してみてください。
【課税要件事実論の展開】
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
そこらの《税務お役立ち記事》だと、あたかも「a+b」の関係にあるかのような記述になっているのですが。全く別物であることがお分かりになるかと思います。
(誤導的な書き方をしていますが、書き出しから「費途不明金の要件事実」とかやりだしたら、その時点でアウトですからね。)
税制上は全くの別レベルのものだというのに。いまいち理解がされていない(上田晋也氏「加藤あいと阿藤快くらい違うよ!」)。
先日イジった書籍も、(税理士を法律ド素人扱いしているくせに)どうも正確に理解していないっぽい書きぶりでしたよね。
眞鍋淳也「税務調査は弁護士に相談しなさい」(ディスカバー2024)
ということで、条文レベルでの整理をしておきます。
なお、国税庁の「指示」により、使途秘匿金課税については慎重に対応することとされています。が、以下はあくまでも条文に書かれているかぎりでの整理にとどまります。
・
余談ですが、本論点のほかに、税法世界でその位置付けが正確に理解されていないものの代表例が、総則6項。
最高裁判決により釘を刺されたはずなのに、議論枠組みを頑なに変えない、一定の勢力が存在する。
だから巡ってないってば! 〜最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(財産評価)
◯
(遺憾ながら)いきなり通達から。
法人税基本通達9−7−20(費途不明の交際費等)
法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。
通達が勝手に「損金不算入規定」を新設するのおかしくない?というのはごもっともな疑問。
説明の仕方としてはいくつかありますが。ここでは、次のとおり理解しておきます。
・「費途」が不明な場合、「費用性」が認められないことを明記した(法22条3項2号の解釈として)。
・「交際費等」に限定しているのは、「物を買う」場合のように、対価として見合いのものが入ってこない場合だから。
法人税法 第二十二条
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
ということで、「費途不明金」なる概念は、費用性が認められない(と国税庁が考える)支出のうちの一部を、グループ化しただけの概念であって。法律上の制度ではないということです。
素直に「費用として認められない」といえばいいところを、「費途不明金に該当するから費用として認められない」とかいうの、どうにも回りくどく感じられ。講学上の概念としても使うべきではない、と個人的には思います(櫻井和寿氏のことを「Bank Bandのボーカルの人」というみたいなもの、という例が思い浮かびましたが、なんか違う気がする)。
【卑近な例】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
なお、「使途不明金」という書き方をされることもあります(タイトルはあえてこちら)。が、これだと、法令はおろか通達にすらとっかかりのない用語となってしまいます。
また、「使途秘匿金」と同レベルの制度だと誤解される元凶のひとつではないかとも思います。
ので、「使途不明金」という用語は使いません。
と、気に入らないと思いつつ、以下では「使途秘匿金」と対比するものとして「費途不明金」という用語を用います。
◯
で、「使途秘匿金」について。4、6、7、8項は省略します。
租税特別措置法 第六十二条
1 法人(公共法人を除く。以下この項において同じ。)は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法第六十六条第一項から第三項まで及び第六項、第六十九条第十九項(同条第二十三項又は第二十四項において準用する場合を含む。)並びに第百四十三条第一項及び第二項の規定、第四十二条の四第八項第六号ロ及び第七号(これらの規定を同条第十八項において準用する場合を含む。)、第四十二条の十四第一項及び第四項、第六十二条の三第一項及び第九項、第六十三条第一項、第六十七条の二第一項並びに第六十八条第一項の規定その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。
2 前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下この条において同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下この条において「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。
3 税務署長は、法人がした金銭の支出のうちにその相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものがある場合においても、その記載をしていないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認めるときは、その金銭の支出を第一項に規定する使途秘匿金の支出に含めないことができる。
5 法人が金銭の支出の相手方の氏名等をその帳簿書類に記載しているかどうかの判定の時期その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
9 第一項の規定は、法人がした金銭の支出について同項の規定の適用がある場合において、その相手方の氏名等に関して、国税通則法第七十四条の二(第一項第二号に係る部分に限る。)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求をすることを妨げるものではない。
これを簡単にまとめると次のとおり。
1項
使途秘匿金の支出額に40%課税する
2項
使途秘匿金の支出とは
ア 金銭の支出+金銭以外の資産の引渡し
イ 相手方の氏名名称、住所所在地、その事由を帳簿書類に記載していない
ウ 記載していないことに相当の理由がない
エ 取引の対価(金額相当)の支払は除外
3項
税務署長が、記載していないことが秘匿するためでないと認めるときは秘匿金課税しない
5項
記載の判定時期は事業年度終了日(令38条1項)
9項
秘匿金課税をする場合でも、重ねて質問検査権を行使してもよい
◯
こんなピーキーな制度を「費途不明金」と横並びにできる税法感覚、よく理解できません。
使途秘匿金の特徴は以下のとおり。
・「支出額」にダイレクトに課税する。損金不算入⇒課税所得UP経由で課税するのとは、わけが違う(赤字でも課税)。
未だに措置法に置かれっぱなしで本法に編入されないの、ダテじゃない。
・「未記載」がメインの要件となっている。費用性のような実質判定ではなく、形式判定によるということ。系統でいうと、消費税法における「仕入税額控除」に近い。
・「使途」秘匿金というが、記載の対象は使い道だけでなく。氏名住所の記載も要求されている。
・事業年度が終了するまでに記載していなければアウト。事後的に明らかにしたところで挽回できない(優良帳簿なら完全に詰みか)。
・「相当な理由」は、記載しなかったことに対するもの。
たとえば「いろんな人にビール券配った」など、相手方を特定しようがない場合などが想定されている。それ以上に、「刑事責任を追及されるおそれがある」とか「今後取引が打ち切られてしまう」などの理由が該当するかは、今のところはっきりしない(おそらく消極)。
・「秘匿するためでないこと」が要件のひとつになっているが、「相当な理由」とは違って、ストレートに実体要件として記述されていない。税務署長の判断に委ねられてしまっている(裁判所による裁量統制はあるでしょうが)。
・「使途秘匿金課税を受け入れます」と白旗あげても、質問検査権の追及から逃げられるわけではない。
ましてや、例の著書がいうみたいに「納税者には立証責任ないから、秘匿したまま税務署が立証するのを待っていればよい」などという対応で、安穏としていられるわけがない。
むしろ、そんな対応、質問調査権の「必要性・相当性」を爆上げさせるだけで。どぎつい調査権行使を呼び込むだけなんじゃないですかね。
◯
このように、使途秘匿金を費途不明金と地続きで記述するには、あまりにノリが違うわけです。
使途秘匿金から放たれる禍々しいオーラを感じ取れるなら、とても費途不明金を隣に置いておけるものではないことに、気づくはずです。
使途秘匿金の置き場所で、私が一番しっくりきたのは、「図解 法人税」での配置。
馬場光徳「図解 法人税(令和6年版)」(大蔵財務協会2024)
(よくある教科書類で対応するものでいうと)「第4章 費用の税務」の中に配置されがちなところを。「第15章 税額計算、申告、納付」の中で、留保金課税との並びで、使途秘匿金課税が解説されています。
他方で、置き場としてダメなものの代表として、「金子租税法」。
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021) Amazon
「法人所得の意義と計算」⇒「損金の額の計算」⇒「使途秘匿金(使途不明金)」と、損金ルールの中で記述されてしまっています。
あらためて。
「金子租税法」は、壮大な金子租税法学を仰ぎ見るためと、関連判決・論文を網羅的に拾い上げるためのエンサイクロペディアとして利用するものであって。
現行税制をあるがままに理解するためには、必ずしも適合的でないところがある、ということは意識しておくべきだなあと。
・
費途不明金のほうは、他の課税要件と同様「実質重視」の判定をします。ところが、使途秘匿金については、帳簿未記載という「形式要件」が前面に出てきます。
この点、私の肌感覚として、「消費税法の仕入税額控除が、適格者からの課税仕入であることが明らかであっても、インボイス無しor帳簿記載なしという形式のみで控除が否定されるの、理不尽すぎる」と思うのに対して。「使途秘匿金」については、そこまでの理不尽さは感じません。
この感覚の違いが何に基づくものなのか、さしあたりよく分かりません。
・
「課税要件事実論」の信奉者の方々は、ぜひとも費途不明金と使途秘匿金の、それぞれの要件事実を展開してみてください。
【課税要件事実論の展開】
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
そこらの《税務お役立ち記事》だと、あたかも「a+b」の関係にあるかのような記述になっているのですが。全く別物であることがお分かりになるかと思います。
(誤導的な書き方をしていますが、書き出しから「費途不明金の要件事実」とかやりだしたら、その時点でアウトですからね。)
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