各種解説書のたぐいで、横並びで説明されがちなこの二人。
税制上は全くの別レベルのものだというのに。いまいち理解がされていない(上田晋也氏「加藤あいと阿藤快くらい違うよ!」)。
先日イジった書籍も、(税理士を法律ド素人扱いしているくせに)どうも正確に理解していないっぽい書きぶりでしたよね。
眞鍋淳也「税務調査は弁護士に相談しなさい」(ディスカバー2024)
ということで、条文レベルでの整理をしておきます。
なお、国税庁の「指示」により、使途秘匿金課税については慎重に対応することとされています。が、以下はあくまでも条文に書かれているかぎりでの整理にとどまります。
・
余談ですが、本論点のほかに、税法世界でその位置付けが正確に理解されていないものの代表例が、総則6項。
最高裁判決により釘を刺されたはずなのに、議論枠組みを頑なに変えない、一定の勢力が存在する。
だから巡ってないってば! 〜最高裁令和4年4月19日第三小法廷判決(財産評価)
◯
(遺憾ながら)いきなり通達から。
法人税基本通達9−7−20(費途不明の交際費等)
法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは、損金の額に算入しない。
通達が勝手に「損金不算入規定」を新設するのおかしくない?というのはごもっともな疑問。
説明の仕方としてはいくつかありますが。ここでは、次のとおり理解しておきます。
・「費途」が不明な場合、「費用性」が認められないことを明記した(法22条3項2号の解釈として)。
・「交際費等」に限定しているのは、「物を買う」場合のように、対価として見合いのものが入ってこない場合だから。
法人税法 第二十二条
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
ということで、「費途不明金」なる概念は、費用性が認められない(と国税庁が考える)支出のうちの一部を、グループ化しただけの概念であって。法律上の制度ではないということです。
素直に「費用として認められない」といえばいいところを、「費途不明金に該当するから費用として認められない」とかいうの、どうにも回りくどく感じられ。講学上の概念としても使うべきではない、と個人的には思います(櫻井和寿氏のことを「Bank Bandのボーカルの人」というみたいなもの、という例が思い浮かびましたが、なんか違う気がする)。
【卑近な例】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
なお、「使途不明金」という書き方をされることもあります(タイトルはあえてこちら)。が、これだと、法令はおろか通達にすらとっかかりのない用語となってしまいます。
また、「使途秘匿金」と同レベルの制度だと誤解される元凶のひとつではないかとも思います。
ので、「使途不明金」という用語は使いません。
と、気に入らないと思いつつ、以下では「使途秘匿金」と対比するものとして「費途不明金」という用語を用います。
◯
で、「使途秘匿金」について。4、6、7、8項は省略します。
租税特別措置法 第六十二条
1 法人(公共法人を除く。以下この項において同じ。)は、その使途秘匿金の支出について法人税を納める義務があるものとし、法人が平成六年四月一日以後に使途秘匿金の支出をした場合には、当該法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法第六十六条第一項から第三項まで及び第六項、第六十九条第十九項(同条第二十三項又は第二十四項において準用する場合を含む。)並びに第百四十三条第一項及び第二項の規定、第四十二条の四第八項第六号ロ及び第七号(これらの規定を同条第十八項において準用する場合を含む。)、第四十二条の十四第一項及び第四項、第六十二条の三第一項及び第九項、第六十三条第一項、第六十七条の二第一項並びに第六十八条第一項の規定その他法人税に関する法令の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、当該使途秘匿金の支出の額に百分の四十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする。
2 前項に規定する使途秘匿金の支出とは、法人がした金銭の支出(贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しを含む。以下この条において同じ。)のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名又は名称及び住所又は所在地並びにその事由(以下この条において「相手方の氏名等」という。)を当該法人の帳簿書類に記載していないもの(資産の譲受けその他の取引の対価の支払としてされたもの(当該支出に係る金銭又は金銭以外の資産が当該取引の対価として相当であると認められるものに限る。)であることが明らかなものを除く。)をいう。
3 税務署長は、法人がした金銭の支出のうちにその相手方の氏名等を当該法人の帳簿書類に記載していないものがある場合においても、その記載をしていないことが相手方の氏名等を秘匿するためでないと認めるときは、その金銭の支出を第一項に規定する使途秘匿金の支出に含めないことができる。
5 法人が金銭の支出の相手方の氏名等をその帳簿書類に記載しているかどうかの判定の時期その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
9 第一項の規定は、法人がした金銭の支出について同項の規定の適用がある場合において、その相手方の氏名等に関して、国税通則法第七十四条の二(第一項第二号に係る部分に限る。)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求をすることを妨げるものではない。
これを簡単にまとめると次のとおり。
1項
使途秘匿金の支出額に40%課税する
2項
使途秘匿金の支出とは
ア 金銭の支出+金銭以外の資産の引渡し
イ 相手方の氏名名称、住所所在地、その事由を帳簿書類に記載していない
ウ 記載していないことに相当の理由がない
エ 取引の対価(金額相当)の支払は除外
3項
税務署長が、記載していないことが秘匿するためでないと認めるときは秘匿金課税しない
5項
記載の判定時期は事業年度終了日(令38条1項)
9項
秘匿金課税をする場合でも、重ねて質問検査権を行使してもよい
◯
こんなピーキーな制度を「費途不明金」と横並びにできる税法感覚、よく理解できません。
使途秘匿金の特徴は以下のとおり。
・「支出額」にダイレクトに課税する。損金不算入⇒課税所得UP経由で課税するのとは、わけが違う(赤字でも課税)。
未だに措置法に置かれっぱなしで本法に編入されないの、ダテじゃない。
・「未記載」がメインの要件となっている。費用性のような実質判定ではなく、形式判定によるということ。系統でいうと、消費税法における「仕入税額控除」に近い。
・「使途」秘匿金というが、記載の対象は使い道だけでなく。氏名住所の記載も要求されている。
・事業年度が終了するまでに記載していなければアウト。事後的に明らかにしたところで挽回できない(優良帳簿なら完全に詰みか)。
・「相当な理由」は、記載しなかったことに対するもの。
たとえば「いろんな人にビール券配った」など、相手方を特定しようがない場合などが想定されている。それ以上に、「刑事責任を追及されるおそれがある」とか「今後取引が打ち切られてしまう」などの理由が該当するかは、今のところはっきりしない(おそらく消極)。
・「秘匿するためでないこと」が要件のひとつになっているが、「相当な理由」とは違って、ストレートに実体要件として記述されていない。税務署長の判断に委ねられてしまっている(裁判所による裁量統制はあるでしょうが)。
・「使途秘匿金課税を受け入れます」と白旗あげても、質問検査権の追及から逃げられるわけではない。
ましてや、例の著書がいうみたいに「納税者には立証責任ないから、秘匿したまま税務署が立証するのを待っていればよい」などという対応で、安穏としていられるわけがない。
むしろ、そんな対応、質問調査権の「必要性・相当性」を爆上げさせるだけで。どぎつい調査権行使を呼び込むだけなんじゃないですかね。
◯
このように、使途秘匿金を費途不明金と地続きで記述するには、あまりにノリが違うわけです。
使途秘匿金から放たれる禍々しいオーラを感じ取れるなら、とても費途不明金を隣に置いておけるものではないことに、気づくはずです。
使途秘匿金の置き場所で、私が一番しっくりきたのは、「図解 法人税」での配置。
馬場光徳「図解 法人税(令和6年版)」(大蔵財務協会2024)
(よくある教科書類で対応するものでいうと)「第4章 費用の税務」の中に配置されがちなところを。「第15章 税額計算、申告、納付」の中で、留保金課税との並びで、使途秘匿金課税が解説されています。
他方で、置き場としてダメなものの代表として、「金子租税法」。
金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021) Amazon
「法人所得の意義と計算」⇒「損金の額の計算」⇒「使途秘匿金(使途不明金)」と、損金ルールの中で記述されてしまっています。
あらためて。
「金子租税法」は、壮大な金子租税法学を仰ぎ見るためと、関連判決・論文を網羅的に拾い上げるためのエンサイクロペディアとして利用するものであって。
現行税制をあるがままに理解するためには、必ずしも適合的でないところがある、ということは意識しておくべきだなあと。
・
費途不明金のほうは、他の課税要件と同様「実質重視」の判定をします。ところが、使途秘匿金については、帳簿未記載という「形式要件」が前面に出てきます。
この点、私の肌感覚として、「消費税法の仕入税額控除が、適格者からの課税仕入であることが明らかであっても、インボイス無しor帳簿記載なしという形式のみで控除が否定されるの、理不尽すぎる」と思うのに対して。「使途秘匿金」については、そこまでの理不尽さは感じません。
この感覚の違いが何に基づくものなのか、さしあたりよく分かりません。
・
「課税要件事実論」の信奉者の方々は、ぜひとも費途不明金と使途秘匿金の、それぞれの要件事実を展開してみてください。
【課税要件事実論の展開】
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
そこらの《税務お役立ち記事》だと、あたかも「a+b」の関係にあるかのような記述になっているのですが。全く別物であることがお分かりになるかと思います。
(誤導的な書き方をしていますが、書き出しから「費途不明金の要件事実」とかやりだしたら、その時点でアウトですからね。)
2024年09月23日
使途不明金と使途秘匿金 〜だから違うっつんてんだろ!!
posted by ウロ at 09:00| Comment(0)
| 法人税法
2024年06月17日
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その2)
手取り同額の計算対象に含まれるものは、前回整理したとおりです。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その1)
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
一般に役員報酬が変動するのは、(当たり前ですが)自社で意図的に金額を改定したときのみです。ところが、「手取り同額型」を採用した場合には、それに加えて上記金額が変動した場合にも、それにあわせて額面を変更しなければなりません。
《額面変動するのは》
手取り額を改定したとき
に加えて、
ア 所得税
・税額表の税額が変更になったとき
・年末調整で徴収・還付があったとき
・定額減税が適用されたとき
イ 住民税
・6月と7月以降
・定額減税が適用されたとき
ウ 社保
・標準報酬が改定されたとき(定時、随時)
・保険料率が変更されたとき
にも額面が変動することになります。
頻繁に額面が変動するため、なかなか面倒です。
市販の給与計算ソフトで、手取り額を設定しておけば、これらを反映して額面を自動計算してくれるものってありますかね?
◯
気になるのが、額面の変動にあわせて、社保の「随時改定」をしなければならないのかどうか、です。
「手取り額を改定したとき」が月変対象なのは分かるのですが。それ以外の事由で額面が変動した場合も、固定的賃金の変動があったとして、逐一月変判定しなければならないのでしょうか。
公式見解はないと思うので、個別に年金事務所へ問い合わせが必要な事項でしょうね。
余談ですが、役員が当たり前のように社保の「被保険者」として扱われていて。社会保障法の教科書類でも、ろくな論証もされていない、ということは以前触れました。
黒田有志弥ほか「社会保障法(有斐閣ストゥディア)」(有斐閣2019)
◯
また、年末調整の対象者に「手取り同額」を採用すると、大変なことになりそうです。
年末調整時の手取り同額の計算の仕方、次のようになるかと思います(畳の上の水練)。
【手取り同額と年末調整】
1 一旦11月と同額を12月の役員報酬として、年末調整の徴収・還付額を試算してみる。
2 試算した徴収・還付額を反映して、役員報酬を調整する。
3 調整した役員報酬をもとに、再度年末調整を試算する。
(以降、収束するまで繰り返し)
通常月であれば、単純な一次方程式で算出できますが、年末調整の場合も、どうにかして計算式が組めるのでしょうか。
・
じゃあってことで、徴収・還付を「翌年1月」にまわせば、繰り返し計算回避できるじゃん、と思われるかもしれません。
が、このやりかたは、条文上アウトです。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
通常の場合であれば、年調精算を1月にまわしても、源泉税の月ズレの問題にとどまります。特に他の社員含めて「還付」が多い場合がほとんどでしょうから、事実上あまり問題視されることはない。
が、「手取り同額」の場合には、「額面同額」の場合とは異なり、
所法190条どおりに徴収・還付しない
⇒法令69条に規定された「源泉税等の額」と違う金額で計算していることになる
⇒「同額」でないことになるから、法法34条により損金不算入
と、法人税法の側にまで影響が及んでしまいます。
それでも、1月精算チャレンジをかましますか、という話です。「額面同額型」と同じように、一番低いところまでは損金算入できるのかも、よくわかりませんし。
なお、「年末調整の対象者なのに、年末調整やらない」という遣り口でも、法律どおりの徴収・還付額ではなくなるため、同様の帰結となります。
◯
ここに「定額減税」が絡むと、さらに錯綜します。
まず、通常月の月次減税。たぶんですけど、次のような手順で計算するんですよね。
【通常月】
1 一旦、いつもどおり役員報酬と所得税を算出する。
2 月次減税を適用する。
3 月次減税を反映して役員報酬・所得税を調整する。
(以下、繰り返し)
こちらも、どうにか計算式が組めるのでしょうか。
・
年調減税については、さらに悲惨です。
もはや手順は書きません。が、対象者がそれぞれ、
年末調整 給与収入2000万円以下
年調減税 合計所得金額1805万円以下
となっており。
額面が動くことで、計算するたびに対象/対象外が動いてしまい、《無限ループ》に陥ることにはならないでしょうか(もちろん私は未検証)。
◯
ちなみに、「従業員」の年末調整を1月精算にまわした場合、労基法24条(全額払)違反になります。還付の場合は12月が、徴収の場合は1月が、それぞれ法より多く徴収することになりますので。
とはいえ、こんなもの、今まで問題視されてこなかったはずです。
ところが「定額減税」については、厚労省が通達まで出して、「月次でやらんと労基法24条(全額払)違反」だと言い出しました。
それはまあそのとおりなんですが、なぜ「定額減税」の場合だけそんな通達出したのか、という疑問はあるかと思います。
国税庁の定額減税に対する取り組みなども見ていてそうですが、「定額減税」に対しては、お国をあげて異例の体制をとっているように感じます(財務省、総務省、厚労省にまたがる)。
ので、実務家が、インボイスとかと同じノリで「そんな細かいことまでチェックするわけないじゃん」と言っているの、「定額減税」については危うい、というのが私の実感。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(労務編)
◯
と、面倒なことになっているため、「役員の場合は労基法関係ねえから、定額減税無視してもいいんじゃね。」と思われるかもしれません。
それはそれで各自の税務判断なのでしょうが。「手取り同額型」を適用している場合には、法人税法上の定期同額の要件を満たさなくなってしまう、という点は理解しておくべきでしょう。
◯
以上のとおり、「手取り同額」は、大変しんどいやつであって。
・年末調整対象外
・定額減税対象外
・住民税を特別徴収しない
・社保対象外
と変動要素が少なければ、余計な悩みは少なくて済みます。が、変動要素がたくさんあるからこそ、「手取り同額」にしたいという要望なのでしょうし。
外部の役員に要求されてしかたなく、なら分かります。が、わざわざ自分から採用するようなものではないと思うのですが、どうなんでしょうか。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その1)
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
一般に役員報酬が変動するのは、(当たり前ですが)自社で意図的に金額を改定したときのみです。ところが、「手取り同額型」を採用した場合には、それに加えて上記金額が変動した場合にも、それにあわせて額面を変更しなければなりません。
《額面変動するのは》
手取り額を改定したとき
に加えて、
ア 所得税
・税額表の税額が変更になったとき
・年末調整で徴収・還付があったとき
・定額減税が適用されたとき
イ 住民税
・6月と7月以降
・定額減税が適用されたとき
ウ 社保
・標準報酬が改定されたとき(定時、随時)
・保険料率が変更されたとき
にも額面が変動することになります。
頻繁に額面が変動するため、なかなか面倒です。
市販の給与計算ソフトで、手取り額を設定しておけば、これらを反映して額面を自動計算してくれるものってありますかね?
◯
気になるのが、額面の変動にあわせて、社保の「随時改定」をしなければならないのかどうか、です。
「手取り額を改定したとき」が月変対象なのは分かるのですが。それ以外の事由で額面が変動した場合も、固定的賃金の変動があったとして、逐一月変判定しなければならないのでしょうか。
公式見解はないと思うので、個別に年金事務所へ問い合わせが必要な事項でしょうね。
余談ですが、役員が当たり前のように社保の「被保険者」として扱われていて。社会保障法の教科書類でも、ろくな論証もされていない、ということは以前触れました。
黒田有志弥ほか「社会保障法(有斐閣ストゥディア)」(有斐閣2019)
◯
また、年末調整の対象者に「手取り同額」を採用すると、大変なことになりそうです。
年末調整時の手取り同額の計算の仕方、次のようになるかと思います(畳の上の水練)。
【手取り同額と年末調整】
1 一旦11月と同額を12月の役員報酬として、年末調整の徴収・還付額を試算してみる。
2 試算した徴収・還付額を反映して、役員報酬を調整する。
3 調整した役員報酬をもとに、再度年末調整を試算する。
(以降、収束するまで繰り返し)
通常月であれば、単純な一次方程式で算出できますが、年末調整の場合も、どうにかして計算式が組めるのでしょうか。
・
じゃあってことで、徴収・還付を「翌年1月」にまわせば、繰り返し計算回避できるじゃん、と思われるかもしれません。
が、このやりかたは、条文上アウトです。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
通常の場合であれば、年調精算を1月にまわしても、源泉税の月ズレの問題にとどまります。特に他の社員含めて「還付」が多い場合がほとんどでしょうから、事実上あまり問題視されることはない。
が、「手取り同額」の場合には、「額面同額」の場合とは異なり、
所法190条どおりに徴収・還付しない
⇒法令69条に規定された「源泉税等の額」と違う金額で計算していることになる
⇒「同額」でないことになるから、法法34条により損金不算入
と、法人税法の側にまで影響が及んでしまいます。
それでも、1月精算チャレンジをかましますか、という話です。「額面同額型」と同じように、一番低いところまでは損金算入できるのかも、よくわかりませんし。
なお、「年末調整の対象者なのに、年末調整やらない」という遣り口でも、法律どおりの徴収・還付額ではなくなるため、同様の帰結となります。
◯
ここに「定額減税」が絡むと、さらに錯綜します。
まず、通常月の月次減税。たぶんですけど、次のような手順で計算するんですよね。
【通常月】
1 一旦、いつもどおり役員報酬と所得税を算出する。
2 月次減税を適用する。
3 月次減税を反映して役員報酬・所得税を調整する。
(以下、繰り返し)
こちらも、どうにか計算式が組めるのでしょうか。
・
年調減税については、さらに悲惨です。
もはや手順は書きません。が、対象者がそれぞれ、
年末調整 給与収入2000万円以下
年調減税 合計所得金額1805万円以下
となっており。
額面が動くことで、計算するたびに対象/対象外が動いてしまい、《無限ループ》に陥ることにはならないでしょうか(もちろん私は未検証)。
◯
ちなみに、「従業員」の年末調整を1月精算にまわした場合、労基法24条(全額払)違反になります。還付の場合は12月が、徴収の場合は1月が、それぞれ法より多く徴収することになりますので。
とはいえ、こんなもの、今まで問題視されてこなかったはずです。
ところが「定額減税」については、厚労省が通達まで出して、「月次でやらんと労基法24条(全額払)違反」だと言い出しました。
それはまあそのとおりなんですが、なぜ「定額減税」の場合だけそんな通達出したのか、という疑問はあるかと思います。
国税庁の定額減税に対する取り組みなども見ていてそうですが、「定額減税」に対しては、お国をあげて異例の体制をとっているように感じます(財務省、総務省、厚労省にまたがる)。
ので、実務家が、インボイスとかと同じノリで「そんな細かいことまでチェックするわけないじゃん」と言っているの、「定額減税」については危うい、というのが私の実感。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(労務編)
◯
と、面倒なことになっているため、「役員の場合は労基法関係ねえから、定額減税無視してもいいんじゃね。」と思われるかもしれません。
それはそれで各自の税務判断なのでしょうが。「手取り同額型」を適用している場合には、法人税法上の定期同額の要件を満たさなくなってしまう、という点は理解しておくべきでしょう。
◯
以上のとおり、「手取り同額」は、大変しんどいやつであって。
・年末調整対象外
・定額減税対象外
・住民税を特別徴収しない
・社保対象外
と変動要素が少なければ、余計な悩みは少なくて済みます。が、変動要素がたくさんあるからこそ、「手取り同額」にしたいという要望なのでしょうし。
外部の役員に要求されてしかたなく、なら分かります。が、わざわざ自分から採用するようなものではないと思うのですが、どうなんでしょうか。
posted by ウロ at 09:25| Comment(0)
| 法人税法
2024年06月10日
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その1)
定額減税の対象となるような役員に対して、「手取り同額型」を採用しているところが実在しているのか、私は寡聞にして存じ上げませんが。
以下では、「定額減税」との関係にかぎらず、「手取り同額型」の条文の中身を整理しておきます。以前整理した「3ヶ月以内改定」よりはシンプルなはずです。
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
◯
まずは大元の法人税法から。例によって大胆に省略入れていきます(以下同様)。
法法 第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与()のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)
法律レベルでは「額面同額型」のみが規定されていて。「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」として、政令に委任されています。
で、法人税施行令。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
1 法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(以下第六項までにおいて「定期給与」という。)で、次に掲げる改定(以下この号において「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ (通常改定) ロ (臨時改定) ハ (業績悪化改定)
「改定前後のそれぞれで同額であるもの」が「当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」に「準ずる」といえるのか。文言上の違和感はありますが、これらも損金算入できるんだと。
では、「手取り同額」はどこに書いてあるかというと。同条第2項に規定されています。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
2 法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については、定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額(当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額、当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額、健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。)を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は、同額であるものとみなす。
1項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は」となっているので、法律の委任によるものであることは明らかです。
他方で、2項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については」などとなっていて。委任されてもいないのに、勝手に「同額」の意味を拡張しているように読めるのですが、どうなんでしょう。
と疑問はありますが、これも委任の範囲内だと理解しておきます。
・
では、何が「手取り」保証の対象になっているかというと。
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
と規定されています。
なんでもかんでも対象になるのではなく、限定列挙されています。
以下、それぞれ個別に検討します。
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
通常月は問題ありません。条文は以下のとおり。
所法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四十五 源泉徴収 第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収し及び納付することをいう。
所法 第百八十三条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
・
では、「年末調整」による徴収・還付があった場合は反映されるでしょうか。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
ここからすると、「徴収」の場合は、年末調整の結果、実際に徴収することとなった額を反映することになるのでしょう。
「還付」の場合はどうかというと。
アでは「源泉徴収をされる所得税の額」とあることから、徴収しない以上、徴収額0円と扱うことになるのでしょう。還付額がいくらであっても、その額は反映されないと。
・
では、タイトルにあげた「定額減税」についてはどうかというと。
条文の検討は、すでに下記記事で終えています。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
措法 第四十一条の三の七(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)
4 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。
これによれば、「定額減税後の金額」を所得税法における徴収税額とみなすこととしています。それゆえ、「手取り同額」においても「定額減税を反映した所得税」をもとに計算することになるのでしょう。
給与明細書上は、所得税と定額減税は別々の欄に記載することになっています(所規100)。が、両方とも含めて計算をする必要があると。
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
特に面白みもありませんが、一応条文をあげておきます。
地法 第一条(用語)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 地方税 道府県税又は市町村税をいう。
九 特別徴収 地方税の徴収について便宜を有する者にこれを徴収させ、且つ、その徴収すべき税金を納入させることをいう。
定額減税については「附則」の中に入り込んでいるし、さらに面白くもないので、「所得割から定額減税する⇒減税後の税額を特別徴収する」という構造になっているということだけ記述しておきます。
ということで、6月分の住民税が0円なら、0円を前提に計算することになります。
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
所得税法74条のほうから引用すると。
所法 第七十四条(社会保険料控除)
2 前項に規定する社会保険料とは、次に掲げるものその他これらに準ずるもので政令で定めるもの(第九条第一項第七号(在勤手当の非課税)に掲げる給与に係るものを除く。)をいう。
一 健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定により被保険者として負担する健康保険の保険料
二 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)の規定による国民健康保険の保険料又は地方税法の規定による国民健康保険税
二の二 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)の規定による保険料
三 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護保険の保険料
四 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)の規定により雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
五 国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入員として負担する掛金
六 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
七 厚生年金保険法の規定により被保険者として負担する厚生年金保険の保険料
八 船員保険法の規定により被保険者として負担する船員保険の保険料
九 国家公務員共済組合法の規定による掛金
十 地方公務員等共済組合法の規定による掛金(特別掛金を含む。)
十一 私立学校教職員共済法の規定により加入者として負担する掛金
十二 恩給法第五十九条(恩給納金)(他の法律において準用する場合を含む。)の規定による納金
で、なんで一つだけ頭出ししたか分からない、健康保険法。どれか一つは頭出ししておく、という法制執務お作法でしょうか。
健保法 第百六十七条(保険料の源泉控除)
1 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
これをみると、当月の給与から控除できるのは、あくまでも「前月分」(当月納付)の保険料だけとなっています。それゆえ、手取り同額の対象となるのも、前月分の保険料だけです。
それ以前に徴収漏れだったものを(本人同意のもと)控除した場合は、その分は手取り同額の対象とはならない、というのが《文言解釈》の帰結となります。
ここで気味が悪いのが、エです。
エ その他これらに類するものの額
一体何がエに該当するのか、未だに謎です。
もしかしたら、上述した過去分の保険料がここに含まれるのかもしれません。
が、含まれる前提で計算していたところ、含まれないと判断されて超過部分を否認されてしまっても困る。
◯
気になる論点がいくつかあるので、次回検討します。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その2)
以下では、「定額減税」との関係にかぎらず、「手取り同額型」の条文の中身を整理しておきます。以前整理した「3ヶ月以内改定」よりはシンプルなはずです。
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
◯
まずは大元の法人税法から。例によって大胆に省略入れていきます(以下同様)。
法法 第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与()のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号イにおいて「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(同号において「定期同額給与」という。)
法律レベルでは「額面同額型」のみが規定されていて。「その他これに準ずるものとして政令で定める給与」として、政令に委任されています。
で、法人税施行令。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
1 法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(以下第六項までにおいて「定期給与」という。)で、次に掲げる改定(以下この号において「給与改定」という。)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ (通常改定) ロ (臨時改定) ハ (業績悪化改定)
「改定前後のそれぞれで同額であるもの」が「当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」に「準ずる」といえるのか。文言上の違和感はありますが、これらも損金算入できるんだと。
では、「手取り同額」はどこに書いてあるかというと。同条第2項に規定されています。
法令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
2 法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については、定期給与の各支給時期における支給額から源泉税等の額(当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額、当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額、健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額その他これらに類するものの額の合計額をいう。)を控除した金額が同額である場合には、当該定期給与の当該各支給時期における支給額は、同額であるものとみなす。
1項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める給与は」となっているので、法律の委任によるものであることは明らかです。
他方で、2項の書き出しは「法第三十四条第一項第一号及び前項第一号の規定の適用については」などとなっていて。委任されてもいないのに、勝手に「同額」の意味を拡張しているように読めるのですが、どうなんでしょう。
と疑問はありますが、これも委任の範囲内だと理解しておきます。
・
では、何が「手取り」保証の対象になっているかというと。
【源泉税等の額】
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
エ その他これらに類するものの額
の合計額
と規定されています。
なんでもかんでも対象になるのではなく、限定列挙されています。
以下、それぞれ個別に検討します。
ア 当該定期給与について所得税法第二条第一項第四十五号(定義)に規定する源泉徴収をされる所得税の額
通常月は問題ありません。条文は以下のとおり。
所法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四十五 源泉徴収 第四編第一章から第六章まで(源泉徴収)の規定により所得税を徴収し及び納付することをいう。
所法 第百八十三条(源泉徴収義務)
1 居住者に対し国内において第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等(以下この章において「給与等」という。)の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日までに、これを国に納付しなければならない。
・
では、「年末調整」による徴収・還付があった場合は反映されるでしょうか。
所法 第百九十条(年末調整)
1 給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第一号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が二千万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合(その居住者がその後その年十二月三十一日までの間に当該支払者以外の者に当該申告書を提出すると見込まれる場合を除く。)において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第二号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月十日までに国に納付しなければならない。
ここからすると、「徴収」の場合は、年末調整の結果、実際に徴収することとなった額を反映することになるのでしょう。
「還付」の場合はどうかというと。
アでは「源泉徴収をされる所得税の額」とあることから、徴収しない以上、徴収額0円と扱うことになるのでしょう。還付額がいくらであっても、その額は反映されないと。
・
では、タイトルにあげた「定額減税」についてはどうかというと。
条文の検討は、すでに下記記事で終えています。
『定額減税、年末調整でやるから月次でやらなくていいしょや?』(税務編)
措法 第四十一条の三の七(令和六年六月以後に支払われる給与等に係る特別控除の額の控除等)
4 第一項又は第二項の規定の適用がある場合における所得税法その他の所得税に関する法令の規定の適用については、第一項又は第二項の規定による控除をした後の金額に相当する金額は、それぞれ所得税法第四編第二章第一節の規定により徴収すべき所得税の額とみなす。
これによれば、「定額減税後の金額」を所得税法における徴収税額とみなすこととしています。それゆえ、「手取り同額」においても「定額減税を反映した所得税」をもとに計算することになるのでしょう。
給与明細書上は、所得税と定額減税は別々の欄に記載することになっています(所規100)。が、両方とも含めて計算をする必要があると。
イ 当該定期給与について地方税法第一条第一項第九号(用語)に規定する特別徴収をされる同項第四号に規定する地方税の額
特に面白みもありませんが、一応条文をあげておきます。
地法 第一条(用語)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 地方税 道府県税又は市町村税をいう。
九 特別徴収 地方税の徴収について便宜を有する者にこれを徴収させ、且つ、その徴収すべき税金を納入させることをいう。
定額減税については「附則」の中に入り込んでいるし、さらに面白くもないので、「所得割から定額減税する⇒減税後の税額を特別徴収する」という構造になっているということだけ記述しておきます。
ということで、6月分の住民税が0円なら、0円を前提に計算することになります。
ウ 健康保険法第百六十七条第一項(保険料の源泉控除)その他の法令の規定により当該定期給与の額から控除される社会保険料(所得税法第七十四条第二項(社会保険料控除)に規定する社会保険料をいう。)の額
所得税法74条のほうから引用すると。
所法 第七十四条(社会保険料控除)
2 前項に規定する社会保険料とは、次に掲げるものその他これらに準ずるもので政令で定めるもの(第九条第一項第七号(在勤手当の非課税)に掲げる給与に係るものを除く。)をいう。
一 健康保険法(大正十一年法律第七十号)の規定により被保険者として負担する健康保険の保険料
二 国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)の規定による国民健康保険の保険料又は地方税法の規定による国民健康保険税
二の二 高齢者の医療の確保に関する法律(昭和五十七年法律第八十号)の規定による保険料
三 介護保険法(平成九年法律第百二十三号)の規定による介護保険の保険料
四 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号)の規定により雇用保険の被保険者として負担する労働保険料
五 国民年金法の規定により被保険者として負担する国民年金の保険料及び国民年金基金の加入員として負担する掛金
六 独立行政法人農業者年金基金法の規定により被保険者として負担する農業者年金の保険料
七 厚生年金保険法の規定により被保険者として負担する厚生年金保険の保険料
八 船員保険法の規定により被保険者として負担する船員保険の保険料
九 国家公務員共済組合法の規定による掛金
十 地方公務員等共済組合法の規定による掛金(特別掛金を含む。)
十一 私立学校教職員共済法の規定により加入者として負担する掛金
十二 恩給法第五十九条(恩給納金)(他の法律において準用する場合を含む。)の規定による納金
で、なんで一つだけ頭出ししたか分からない、健康保険法。どれか一つは頭出ししておく、という法制執務お作法でしょうか。
健保法 第百六十七条(保険料の源泉控除)
1 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
これをみると、当月の給与から控除できるのは、あくまでも「前月分」(当月納付)の保険料だけとなっています。それゆえ、手取り同額の対象となるのも、前月分の保険料だけです。
それ以前に徴収漏れだったものを(本人同意のもと)控除した場合は、その分は手取り同額の対象とはならない、というのが《文言解釈》の帰結となります。
ここで気味が悪いのが、エです。
エ その他これらに類するものの額
一体何がエに該当するのか、未だに謎です。
もしかしたら、上述した過去分の保険料がここに含まれるのかもしれません。
が、含まれる前提で計算していたところ、含まれないと判断されて超過部分を否認されてしまっても困る。
◯
気になる論点がいくつかあるので、次回検討します。
定期同額給与(手取り同額型)と定額減税(その2)
posted by ウロ at 09:36| Comment(0)
| 法人税法
2024年03月25日
みんな大好き!倒産防(その10) 〜月割できる奴は誰だ!
いやまさか、節税ライターの方々が噛んで噛んで、味のしなくなっている倒産防ネタについて、ここまで続くとは思っていませんでした。
ので、タイトルも「続」「続々」なんてつけていたのですが。足りなくなって、あとから「その◯」に変えることとしました。
みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習
何を論じていたかを整理すると次のとおり。当初は法人想定だったのが、小規模との対比のため個人へ移りました。そのまま中退共も個人前提で対比をしました。
その1 倒産防(法人) 損金、前納
その2 倒産防(法人) R6税制改正大綱
その3 倒産防(法人) 条文構造、費用性
その4 倒産防(法人) 益金/損金
その5 倒産防(法人) R6改正法律案
その6 倒産防(個人) 小規模(個人)との対比
その7 倒産防(個人) 中退共(個人)との対比
その8 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
その9 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
その9までで漏れているのが「中退共(法人)」。なので、今回はこの条文を貼り付けるところから始めます。
その10 倒産防(法人) 中退共(法人)との対比
◯
損金算入できることについては、中退共(個人)と同様、政令に規定されています。
法人税法施行令 第百三十五条(確定給付企業年金等の掛金等の損金算入)
1 内国法人が、各事業年度において、次に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は信託金等若しくは預入金等の払込みに充てるための金銭を支出した場合には、その支出した金額(第二号に掲げる掛金又は保険料の支出を金銭に代えて株式をもつて行つた場合として財務省令で定める場合には、財務省令で定める金額)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は所得税法施行令第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者(事業主が退職金共済事業を行う団体に掛金を納付し、その団体がその事業主の雇用する使用人の退職について退職給付金を支給することを約する退職金共済契約に基づき、その退職給付金の支給を受けるべき者をいう。)のために支出した掛金(同令第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付する金額を含む。)
中退共(個人)は「給与所得」のおまけと規定されていました。が、中退共(法人)は、きちんと損金のところに規定されています。
法令レベルではこれだけ。では、通達はどうなっているかというと。
法人税基本通達 9−3−1(退職金共済掛金等の損金算入の時期)
法人が支出する令第135条各号《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は預入金等の額は、現実に納付(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)又は払込みをしない場合には、未払金として損金の額に算入することができないことに留意する。
専用の通達はこれだけ。現実の納付が必要で未払は不可だと。
当然といえば当然ですが、中退共(個人)にあった「確定申告期限までに納付したら未払でもOK」というイカれた例外ルールは、中退共(法人)には存在しません。
前納については専用規定がありません。ので、中退共(個人)同様、汎用規定である「短期前払費用の特例」が使えるものと捉えておきます。
法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
◯
中退共(個人)との比較で特徴的なのが、月割規定が存在しないことです。
所得税基本通達 37−30(前納掛金等の必要経費算入)
37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)
月割規定の有無について、その他制度を含めて並べてみると次のとおりとなっています。
【月割規定の有無】
倒産防(法人) ×
倒産防(個人) ×
中退共(法人) ×
中退共(個人) ◯
小規模(個人) ◯
そうすると、法人が中退共を前納した場合、月割で算入することはできないということでしょうか。
◯
前座として、月割規定がないからといって当然に「月割はできない」と解釈されるわけではない、ということを説明しておきます。
ここまでの記事では、通達を丸呑みにした上で、法にも通達に月割規定がないということは、法の趣旨として月割をしないという意味だという前提で記述してきました。
が、規定がない場合に「文言解釈」から導かれることは「規定がない」というだけです。「月割りをする」とか「しない」という結論までいくには、文言解釈以外の解釈操作が必要となります。
結論として「月割しない」というのであれば、それは「月割をすべきでない」という価値判断のもと反対解釈をしていることになります。規定がない、というただそれだけから結論を導いているわけではありません。
ただの邪推ですが、中途半端に「要件事実論的思考」が頭に入っていると、『不明な場合は不適用に決め打ちしてもよい』と誤解してしまうような気がします。
が、要件事実論で決め打ちできるのは、あくまでも事実認定レベルで真偽不明となった場合の話であって。法解釈レベルにおいては、解釈権限を有する裁判官が、自己の責任において一定の結論を出さなければなりません。
近時の民法の教科書の中には、やたらと要件事実論に阿った記述をしているものがあり。そのせいで、実体法レベルの要件と、訴訟で使う用に改変された要件事実とを混同してしまうのかもしれません。
一緒くたにしてしまうの、短期間で民法も要件事実論も学習するには効率的なやり方かもしれません。が、別々のレベルの問題であることは、最初の学習段階でしっかり叩き込んでおいたほうがよいと思います。
なんでこんな余計なことを言うかというに。
下記のような、実体法上の要件についての議論をきちんと詰めないまま、要件事実論に手を出すことで悲惨な事態に陥ってしまう状況が、見るに耐えないからです。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
実体法上の要件がふんわりしたまま、それを要件事実に翻訳するなんてできない、という基本的なお作法がどうも理解されていないように感じるわけです。
余談ついでに。
「租税法律主義」を根拠として『文言解釈が原則』という方々がいるのですが。ここで月割すべきかどうかを導くにあたって「文言解釈」だけではどうにもなりません。書いてないんだから。
租税法で法解釈が問題となる場面において、「文言解釈」一本でどうにかなる領域なんてほとんどないと思うのですが。やたらと文言解釈を過大評価しているように感じます。
◯
盛大に話がズレたので、元に戻ります。
結論としては、月割規定がなくても月割できると考えます。
というのも、中退共は、一度充当されたら支払った法人・事業主に戻ってこないという点で費用性が高いといえます。そのため、原則規定である法人税法22条3項2号が適用されて、「期間対応」ルールに従うことになると思われるからです。
法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
ただ、その理屈でいうと、中退共(個人)も所得税法37条1項により「期間対応」が適用されるのに、なぜ通達に「月割規定」があるのか疑問が出てきます。
所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
この点は、「中退共(個人)は未払計上に関するイカれた例外ルールがあるので、原則である月割を明記しておいた。」と説明できるでしょうか。
月割規定がなくても法の「期間対応」ルールで対応できるものの。イカれた例外ルールが使える範囲を明確にしておくため、通達にも月割規定を盛り込んでおいたと。
もちろん、こんなものはただの後付けにすぎません。法人・個人それぞれの通達立案者がそんなことを意識して、書き分けをしたわけではないでしょう。
が、それらしい説明にはなっていると思うので、何かで困ったらこの説明を使って、凌いでいただければ。
◯
では翻って、同じく月割規定のない倒産防(法人)・倒産防(個人)も、月割算入できるでしょうか。
中退共が月割算入できることの根拠は、費用性の高いものなので法の規定する「期間対応」が適用されることによるものでした。他方で、倒産防は極めて資産性の高いものであり、措置法により無理やり損金・必要経費にしているにすぎないといえます。
そうすると、倒産防には「期間対応」が適用されず、支払ったときに全額算入できるか全額算入できないかのどちらかしかないことになるのではないでしょうか。
このような解釈を前提としているのかどうかよく分かりませんが、「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」「別表10(7)」では、「当期・当年に支出したもの」だけが損金・必要経費に算入できる書きぶりとなっています。
ので、翌期・翌年になって充当されたタイミングでは、損金・必要経費に算入することはできないということになるかと。
◯
小規模共済(個人)については、「所得控除」のカテゴリに入っているので、あえて倒産防・中退共との整合性を求める必要はそれほど高いとは思いません。
が、現行の所得税法が本当に《包括的所得概念》を採用しているというならば、いずれも所得の減少事由として共通するはずであり、同一の理由付けによる必要があるでしょう。
ということで、《包括的所得概念》の支持者の方々は、今回の月割の問題にかぎらず、前納ルールや2年制限ルールなど、各制度で不揃いになっていることについて、『純資産の増加+消費』という公式から統一的な説明をしていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
ので、タイトルも「続」「続々」なんてつけていたのですが。足りなくなって、あとから「その◯」に変えることとしました。
みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習
何を論じていたかを整理すると次のとおり。当初は法人想定だったのが、小規模との対比のため個人へ移りました。そのまま中退共も個人前提で対比をしました。
その1 倒産防(法人) 損金、前納
その2 倒産防(法人) R6税制改正大綱
その3 倒産防(法人) 条文構造、費用性
その4 倒産防(法人) 益金/損金
その5 倒産防(法人) R6改正法律案
その6 倒産防(個人) 小規模(個人)との対比
その7 倒産防(個人) 中退共(個人)との対比
その8 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
その9 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
その9までで漏れているのが「中退共(法人)」。なので、今回はこの条文を貼り付けるところから始めます。
その10 倒産防(法人) 中退共(法人)との対比
◯
損金算入できることについては、中退共(個人)と同様、政令に規定されています。
法人税法施行令 第百三十五条(確定給付企業年金等の掛金等の損金算入)
1 内国法人が、各事業年度において、次に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は信託金等若しくは預入金等の払込みに充てるための金銭を支出した場合には、その支出した金額(第二号に掲げる掛金又は保険料の支出を金銭に代えて株式をもつて行つた場合として財務省令で定める場合には、財務省令で定める金額)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は所得税法施行令第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者(事業主が退職金共済事業を行う団体に掛金を納付し、その団体がその事業主の雇用する使用人の退職について退職給付金を支給することを約する退職金共済契約に基づき、その退職給付金の支給を受けるべき者をいう。)のために支出した掛金(同令第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付する金額を含む。)
中退共(個人)は「給与所得」のおまけと規定されていました。が、中退共(法人)は、きちんと損金のところに規定されています。
法令レベルではこれだけ。では、通達はどうなっているかというと。
法人税基本通達 9−3−1(退職金共済掛金等の損金算入の時期)
法人が支出する令第135条各号《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は預入金等の額は、現実に納付(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)又は払込みをしない場合には、未払金として損金の額に算入することができないことに留意する。
専用の通達はこれだけ。現実の納付が必要で未払は不可だと。
当然といえば当然ですが、中退共(個人)にあった「確定申告期限までに納付したら未払でもOK」というイカれた例外ルールは、中退共(法人)には存在しません。
前納については専用規定がありません。ので、中退共(個人)同様、汎用規定である「短期前払費用の特例」が使えるものと捉えておきます。
法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。
◯
中退共(個人)との比較で特徴的なのが、月割規定が存在しないことです。
所得税基本通達 37−30(前納掛金等の必要経費算入)
37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)
月割規定の有無について、その他制度を含めて並べてみると次のとおりとなっています。
【月割規定の有無】
倒産防(法人) ×
倒産防(個人) ×
中退共(法人) ×
中退共(個人) ◯
小規模(個人) ◯
そうすると、法人が中退共を前納した場合、月割で算入することはできないということでしょうか。
◯
前座として、月割規定がないからといって当然に「月割はできない」と解釈されるわけではない、ということを説明しておきます。
ここまでの記事では、通達を丸呑みにした上で、法にも通達に月割規定がないということは、法の趣旨として月割をしないという意味だという前提で記述してきました。
が、規定がない場合に「文言解釈」から導かれることは「規定がない」というだけです。「月割りをする」とか「しない」という結論までいくには、文言解釈以外の解釈操作が必要となります。
結論として「月割しない」というのであれば、それは「月割をすべきでない」という価値判断のもと反対解釈をしていることになります。規定がない、というただそれだけから結論を導いているわけではありません。
ただの邪推ですが、中途半端に「要件事実論的思考」が頭に入っていると、『不明な場合は不適用に決め打ちしてもよい』と誤解してしまうような気がします。
が、要件事実論で決め打ちできるのは、あくまでも事実認定レベルで真偽不明となった場合の話であって。法解釈レベルにおいては、解釈権限を有する裁判官が、自己の責任において一定の結論を出さなければなりません。
近時の民法の教科書の中には、やたらと要件事実論に阿った記述をしているものがあり。そのせいで、実体法レベルの要件と、訴訟で使う用に改変された要件事実とを混同してしまうのかもしれません。
一緒くたにしてしまうの、短期間で民法も要件事実論も学習するには効率的なやり方かもしれません。が、別々のレベルの問題であることは、最初の学習段階でしっかり叩き込んでおいたほうがよいと思います。
なんでこんな余計なことを言うかというに。
下記のような、実体法上の要件についての議論をきちんと詰めないまま、要件事実論に手を出すことで悲惨な事態に陥ってしまう状況が、見るに耐えないからです。
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
実体法上の要件がふんわりしたまま、それを要件事実に翻訳するなんてできない、という基本的なお作法がどうも理解されていないように感じるわけです。
余談ついでに。
「租税法律主義」を根拠として『文言解釈が原則』という方々がいるのですが。ここで月割すべきかどうかを導くにあたって「文言解釈」だけではどうにもなりません。書いてないんだから。
租税法で法解釈が問題となる場面において、「文言解釈」一本でどうにかなる領域なんてほとんどないと思うのですが。やたらと文言解釈を過大評価しているように感じます。
◯
盛大に話がズレたので、元に戻ります。
結論としては、月割規定がなくても月割できると考えます。
というのも、中退共は、一度充当されたら支払った法人・事業主に戻ってこないという点で費用性が高いといえます。そのため、原則規定である法人税法22条3項2号が適用されて、「期間対応」ルールに従うことになると思われるからです。
法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
ただ、その理屈でいうと、中退共(個人)も所得税法37条1項により「期間対応」が適用されるのに、なぜ通達に「月割規定」があるのか疑問が出てきます。
所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。
この点は、「中退共(個人)は未払計上に関するイカれた例外ルールがあるので、原則である月割を明記しておいた。」と説明できるでしょうか。
月割規定がなくても法の「期間対応」ルールで対応できるものの。イカれた例外ルールが使える範囲を明確にしておくため、通達にも月割規定を盛り込んでおいたと。
もちろん、こんなものはただの後付けにすぎません。法人・個人それぞれの通達立案者がそんなことを意識して、書き分けをしたわけではないでしょう。
が、それらしい説明にはなっていると思うので、何かで困ったらこの説明を使って、凌いでいただければ。
◯
では翻って、同じく月割規定のない倒産防(法人)・倒産防(個人)も、月割算入できるでしょうか。
中退共が月割算入できることの根拠は、費用性の高いものなので法の規定する「期間対応」が適用されることによるものでした。他方で、倒産防は極めて資産性の高いものであり、措置法により無理やり損金・必要経費にしているにすぎないといえます。
そうすると、倒産防には「期間対応」が適用されず、支払ったときに全額算入できるか全額算入できないかのどちらかしかないことになるのではないでしょうか。
このような解釈を前提としているのかどうかよく分かりませんが、「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」「別表10(7)」では、「当期・当年に支出したもの」だけが損金・必要経費に算入できる書きぶりとなっています。
ので、翌期・翌年になって充当されたタイミングでは、損金・必要経費に算入することはできないということになるかと。
◯
小規模共済(個人)については、「所得控除」のカテゴリに入っているので、あえて倒産防・中退共との整合性を求める必要はそれほど高いとは思いません。
が、現行の所得税法が本当に《包括的所得概念》を採用しているというならば、いずれも所得の減少事由として共通するはずであり、同一の理由付けによる必要があるでしょう。
ということで、《包括的所得概念》の支持者の方々は、今回の月割の問題にかぎらず、前納ルールや2年制限ルールなど、各制度で不揃いになっていることについて、『純資産の増加+消費』という公式から統一的な説明をしていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
posted by ウロ at 12:14| Comment(0)
| 法人税法
2024年02月19日
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
この時期になっても、税制改正ネタを税制改正大綱「のみ」を素材として記述している記事、信頼性は低いと決めつけてもらってもいいと思います。
というのも、この時期になると財務省から「法律案」が公表されます。そのため、制度の正確な理解をするためには、法律案を読み込むことが必須となります。
第213回国会における財務省関連法律(財務省)
所得税法等の一部を改正する法律案
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/213diet/st060202h.pdf
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309001.htm
もちろん、現時点ではまだ「案」だし。法律で全てカバーされているわけでもなく。これ以降に公表される政令・省令、通達もあわせて確認する必要はあります。
が、少なくとも、法律でカバーされる予定のものは、法律案から読み取るべきものでしょう。
とはいえ、成立後ですら条文を読まない節税ライターさんの記事が溢れかえっている現状で、法律案にまで目を通せというのは無茶な要求なのかもしれません。
インボイスの8割控除でデマの拡散に協力した、という前科があるにもかかわらず。更生が見込めないのが哀しい現実。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
今回、特にたちが悪いのが「定額減税」。
成立前だというのに、先走って「特設サイト」なんてものまで作られていて。
定額減税特設サイト(国税庁)
Q&Aワナビーの方々が大好きな「国税庁Q&A」もすでに出来上がってしまっています。
法律案を無視して、「Q&A」だけみてあーでもないこーでもないと言うだけの記事が、これから雨後の筍のように溢れかえるのでしょう。
理想:大綱→法律案→法律 (Q&A等は参考どまり)
現実:大綱→Q&A (法律案・法律は見ない)
◯
以上は単なる前置きです。
先日触れた「倒産防」の改正につき、法律案が公表されたのでフォローしておきます、というのが本論です。
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
法律案は次のとおり。
第六十六条の十一第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
これを現行法に溶け込ませると、以下のとおりとなります。
第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
3 第一項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
あわせて適用時期に関する経過措置は以下のとおり。
(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例に関する経過措置)
第五十三条 新租税特別措置法第六十六条の十一第二項の規定は、法人の締結していた同項に規定する共済契約につき令和六年十月一日以後に解除があった後同項に規定する共済契約を締結した当該法人が当該共済契約について支出する同項に規定する掛金について適用する。
まあ、特にサプライズもなく。大綱に規定されたとおりの条文となっています。
とはいえ、インボイスにおける「8割控除」のときのような例もあるわけで。立案者がヘンテコなオリジナリティを発揮していないか、きちんと確認しておく必要があります。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
倒産防に関しては、大綱に書かれたことを素直に条文化したものと評価できるでしょう。しかしまあ、8割控除はなんで勝手に内容変えちゃったんでしょうかね。
◯
それはさておき。
すでに記事にしたとおり、通達における前納1年限定ルールや、法人税法における益金ルールとの絡みが、相変わらずスッキリしないままです。
法律案の書きぶりからすると、たとえば、解約後すぐに再加入した場合、2年間は損金不算入ですが、そのまま払い続けていれば2年経過後からは損金算入できることになります。
別に解約後に即再加入することが禁止されているわけでなく。ただ単に損金算入ができないというだけですので。
で、この状態から40か月分納付後に解約した場合、結論だけでいうと、最初の2年に対応する解約手当金は益金不算入、残りは益金算入とするのが妥当だと思います。
が、このような区分を、法人税法22条2項の益金ルールだけから導くことが可能なのでしょうか。法人税法における益金ルールと損金ルールはそれぞれ別モノであって。《オセロ思考》によって結論を導くことはできない、ということはすでに論じたとおりです。
また、解約後2年以内に再加入して1年分前納した場合はどうなるか。文言どおりなら「支出」の時点が2年以内かどうかで判定することになるでしょうか。
このあたり、さすがに通達で何かしら触れるような気もしますが。さて、どうなるでしょう。
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
というのも、この時期になると財務省から「法律案」が公表されます。そのため、制度の正確な理解をするためには、法律案を読み込むことが必須となります。
第213回国会における財務省関連法律(財務省)
所得税法等の一部を改正する法律案
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/213diet/st060202h.pdf
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309001.htm
もちろん、現時点ではまだ「案」だし。法律で全てカバーされているわけでもなく。これ以降に公表される政令・省令、通達もあわせて確認する必要はあります。
が、少なくとも、法律でカバーされる予定のものは、法律案から読み取るべきものでしょう。
とはいえ、成立後ですら条文を読まない節税ライターさんの記事が溢れかえっている現状で、法律案にまで目を通せというのは無茶な要求なのかもしれません。
インボイスの8割控除でデマの拡散に協力した、という前科があるにもかかわらず。更生が見込めないのが哀しい現実。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
今回、特にたちが悪いのが「定額減税」。
成立前だというのに、先走って「特設サイト」なんてものまで作られていて。
定額減税特設サイト(国税庁)
Q&Aワナビーの方々が大好きな「国税庁Q&A」もすでに出来上がってしまっています。
法律案を無視して、「Q&A」だけみてあーでもないこーでもないと言うだけの記事が、これから雨後の筍のように溢れかえるのでしょう。
理想:大綱→法律案→法律 (Q&A等は参考どまり)
現実:大綱→Q&A (法律案・法律は見ない)
◯
以上は単なる前置きです。
先日触れた「倒産防」の改正につき、法律案が公表されたのでフォローしておきます、というのが本論です。
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
法律案は次のとおり。
第六十六条の十一第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
これを現行法に溶け込ませると、以下のとおりとなります。
第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。
3 第一項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。
あわせて適用時期に関する経過措置は以下のとおり。
(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例に関する経過措置)
第五十三条 新租税特別措置法第六十六条の十一第二項の規定は、法人の締結していた同項に規定する共済契約につき令和六年十月一日以後に解除があった後同項に規定する共済契約を締結した当該法人が当該共済契約について支出する同項に規定する掛金について適用する。
まあ、特にサプライズもなく。大綱に規定されたとおりの条文となっています。
とはいえ、インボイスにおける「8割控除」のときのような例もあるわけで。立案者がヘンテコなオリジナリティを発揮していないか、きちんと確認しておく必要があります。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
倒産防に関しては、大綱に書かれたことを素直に条文化したものと評価できるでしょう。しかしまあ、8割控除はなんで勝手に内容変えちゃったんでしょうかね。
◯
それはさておき。
すでに記事にしたとおり、通達における前納1年限定ルールや、法人税法における益金ルールとの絡みが、相変わらずスッキリしないままです。
法律案の書きぶりからすると、たとえば、解約後すぐに再加入した場合、2年間は損金不算入ですが、そのまま払い続けていれば2年経過後からは損金算入できることになります。
別に解約後に即再加入することが禁止されているわけでなく。ただ単に損金算入ができないというだけですので。
で、この状態から40か月分納付後に解約した場合、結論だけでいうと、最初の2年に対応する解約手当金は益金不算入、残りは益金算入とするのが妥当だと思います。
が、このような区分を、法人税法22条2項の益金ルールだけから導くことが可能なのでしょうか。法人税法における益金ルールと損金ルールはそれぞれ別モノであって。《オセロ思考》によって結論を導くことはできない、ということはすでに論じたとおりです。
また、解約後2年以内に再加入して1年分前納した場合はどうなるか。文言どおりなら「支出」の時点が2年以内かどうかで判定することになるでしょうか。
このあたり、さすがに通達で何かしら触れるような気もしますが。さて、どうなるでしょう。
みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
posted by ウロ at 11:23| Comment(0)
| 法人税法
2024年02月05日
みんな大好き!倒産防(その4)。 〜令和6年度税制改正大綱
倒産防なんて、節税ライターの方々の鉄板ネタであって。
私のような条文イジり屋の出る幕など、何も無いと思っていたのですが。
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
意識が低いとなかなか気づきにくいだけであって。何ごとにも、何かしらの「イジり代(しろ)」があるものですね。
◯
以下、いきなり余談。
近ごろは税制があまりにも複雑怪奇になりすぎて、節税ライターの方々の扱えるネタ、この倒産防と短期前払費用の特例くらいしかなくなっているんじゃないですかね。
研究開発税制・設備投資税制・所得拡大促進税制あたりは、使えるものならガンガン活用していくべきもののはずですが。節税ライターの皆さんが免罪符として宣う「一般の方にも分かりやすく記述する。」という執筆方針では「給与増やしたら税金減るよ(詳しくは税務署へ)」程度のことしか書けず、適用要件も減税額も、記述しきることができなくなっているのではないかと。
下手に単純化して書こうとすると、不正確極まりない内容になってしまうでしょうし。
その手の記事、最近はおよそ目にも入ってこないので、単なる邪推ですが。
◯
話は戻って。
上記一連の記事では、掛金納付の「損金」算入側をメインに扱っていました。
が、解約手当金の「益金」算入についても、いまいちしっくりこないところがあり。
素朴な《簿記脳》からすれば、次のような図式が思い浮かびます。
A 掛金納付:費用 ⇒ 解約手当金:収益
B 掛金納付:資産 ⇒ 解約手当金:△資産
掛金納付時に費用計上したなら解約手当金は収益となる(A)、掛金納付時に資産計上したなら解約手当金は資産のマイナスになる(B)、と。
が、税法の側ではストレートな「費用=損金」「収益=益金」という図式は成り立たず。それぞれ法令に定めるところに従います。
損金・益金についての原則ルールが「法人税法22条2項・3項」です。
法人税法第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
これだけで済めば、まだよいのですが。残念ながらそんな単純な話ではない。
各項にいう「別段の定め」によって原則ルールが歪められています。
◯
「歪められている」という言い方をしたのはなぜかというと。税法世界では、美しい簿記世界とは異なり、必ずしもプラス/マイナス、表/裏が一致するとは限らないからです。
たとえば、「交際費」の損金不算入ルール。
支払った側が損金不算入となるのに、もらった側(接待を受けた人ではなく利用店舗のほう)は普通に売上として益金算入しなければなりません。
支払側:損金不算入(措置法61条の4)
売上側:益金算入(原則)
「一方がマイナスなら他方はプラスのはず」という素朴な感覚が、税法世界では通用しません。表裏を揃える必要がある場合には、「グループ法人税制」の寄附金・受贈益ルールのように、
あげた側: 損金不算入(法人税法37条2項)
もらった側:益金不算入(法人税法25条の2)
と、両面から規定しなければなりません。
それぞれの条文の場所からも分かるとおり、「グループ法人税制における贈与/受贈ルール」という単体の制度があるわけではなく。益金ルールと損金ルールが別々に規定されています。
◯
ちなみに、グループ法人税制の寄附金・受贈益ルールが、条文編成において散らかってしまっている理由。
税法の構成が
本法; 恒久的・原則
措置法:一時的・例外
の二本立てとなっていることが要因かなあと。
というのも、グループ法人税制、「完全支配関係」にある法人間に関する制度という意味では、例外的な制度のはずです。なので、措置法に法人税法の特例としてまとめて規定してもよかったはずです。
が、恒久的な制度でもあるがゆえに、法人税法本法に組み込まざるをえなかったと。で、寄附金・受贈益については、法人税法の中に個別ルールが書かれているから、それぞれ切り出してその中に配置せざるをえなかったのではないかと。
◯
もうひとつ余談。
本ブログにおいて、『消費税法の理論構造』というサブタイトルのもとで長々と記事を書き連ねているやつ。あれこれ書いているものの、本当に言いたいことは唯一つ。
「消費税法の条文をあるがままに理解するかぎり、売上課税ルールと仕入控除ルールはそれぞれ別の原理で作動している」
ということです。売上側は譲渡すれば問答無用で課税されるのに、仕入側は、あれやこれやの制約により控除ができるとはかぎらないことになっています。
《両輪駆動》云々といった妄言は「だったらいいな」レベルの与太話であって。およそ現実の消費税法の構造を表す表現とはなっていません。
法人税法における「益金/損金」も、消費税法における「課税/控除」も、素朴な《オセロ思考》は通用せず。それぞれの規定に従って要件該当性を判断する必要があるということです。
※オセロ思考とは:表が白なら裏は当然黒だろ、と思い込む考えのこと。
◯
で、話は「倒産防」に戻ってきます。
まず掛金納付が「損金」となるかというに。
「納付月数40ヶ月で返戻率100%に到達し、その後目減りすることがない」なんてもの、保険通達のノリからすれば、100%資産だと言われてもおかしくないはずです。それを措置法が100%損金に全振りしているというのは、措置法の政策立法としての面目躍如、ということでしょう。
また、解約後2年は損金算入できないとしたり、通達レベルで前納1年までに制限しちゃっているのも、そもそも法人税法の原則からすればとても損金とはいえないものを、措置法様が損金にしてあげているだけのものだから、だとすれば納得がいきます。
「別表添付しなきゃ損金算入させねえよ」(措置法66条の11第2項)というところも、一見傲慢に感じますが。もともと損金じゃないものを特別に損金算入認めてやっている、という点からすれば正当化できるでしょうか。
◯
そのことを前提として。問題は「益金」のほうです。
もともと損金とならない掛金を措置法によって損金にしているだけ、ということを前提とするならば。その掛金の戻りである解約手当金も、何らかの規定がないかぎり益金とはなりえないのではないでしょうか。
掛金納付: 資産(原則) ⇒ 損金(措置法)
解約手当金:資産マイナス?(原則) ⇒(規定なし)
表裏を揃えるには、上述の「グループ法人税制」のとおり、両面から規定しなければなりません。が、(私の見落としがなければですが)、解約手当金を益金算入する旨の規定は見当たらないですよね。
「掛金納付が損金算入なら、解約手当金は当然に益金算入」というのは、文言上はいえないことになります。
では、法人税法22条の解釈論として「掛金納付は3項の損金にあたらないが、解約手当金は2項の益金にあたる」ということを導くことは可能でしょうか。
原則:掛金納付は本来は資産なので損金算入できない。
例外:措置法が特別に損金算入を認めている。
という損金側の構成を前提としつつ、解約手当金を益金と解釈するのは、極めて困難です。
掛金納付の資産性を根拠付けているのは解約手当金が戻ってくるからであり。預けた資産が戻ってきただけならば、益金とは言い難いでしょう。
措置法は、掛金納付が会計上の「費用」だと解釈しているのではなく。ダイレクトに税法上の「損金」と扱っているだけです。
この帰結を回避しようとして、解約手当金は預けた掛金がそのまま戻ってきたものではない、と性質が別だとして切り離そうとすると、今度は掛金の資産性を根拠付けるものがなくなってしまいます。
掛金納付が資産でないなら、わざわざ措置法によるまでもなく損金算入できることになってしまいます。
これらのことからすると、解約手当金が益金であることについて法令上の根拠は特にない、ということになりはしないでしょうか。
◯
解約手当金の益金算入を根拠付ける条文がない、などという畢竟独自の見解。一般の通念におもいっきり反することであり。
私がものすごい思い違いをしているだけのようにも思うので、実務において主張するつもりは全くありません。仮に裁判になったとして、裁判所が「アクロバティック趣旨解釈」に依拠して『益金算入当たり前!』みたいな判決を出すことも、容易に想像できるところ。
以下の高裁判決、私個人は、文言ガン無視の「アクロバティック趣旨解釈」の一味だと思っているのですが。残念ながら、一般には積極的に受け入れられているようですし。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
ということで、皆様方におかれましては、各自の信ずるところに従って税法解釈を展開されてみてください。
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
私のような条文イジり屋の出る幕など、何も無いと思っていたのですが。
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
意識が低いとなかなか気づきにくいだけであって。何ごとにも、何かしらの「イジり代(しろ)」があるものですね。
◯
以下、いきなり余談。
近ごろは税制があまりにも複雑怪奇になりすぎて、節税ライターの方々の扱えるネタ、この倒産防と短期前払費用の特例くらいしかなくなっているんじゃないですかね。
研究開発税制・設備投資税制・所得拡大促進税制あたりは、使えるものならガンガン活用していくべきもののはずですが。節税ライターの皆さんが免罪符として宣う「一般の方にも分かりやすく記述する。」という執筆方針では「給与増やしたら税金減るよ(詳しくは税務署へ)」程度のことしか書けず、適用要件も減税額も、記述しきることができなくなっているのではないかと。
下手に単純化して書こうとすると、不正確極まりない内容になってしまうでしょうし。
その手の記事、最近はおよそ目にも入ってこないので、単なる邪推ですが。
◯
話は戻って。
上記一連の記事では、掛金納付の「損金」算入側をメインに扱っていました。
が、解約手当金の「益金」算入についても、いまいちしっくりこないところがあり。
素朴な《簿記脳》からすれば、次のような図式が思い浮かびます。
A 掛金納付:費用 ⇒ 解約手当金:収益
B 掛金納付:資産 ⇒ 解約手当金:△資産
掛金納付時に費用計上したなら解約手当金は収益となる(A)、掛金納付時に資産計上したなら解約手当金は資産のマイナスになる(B)、と。
が、税法の側ではストレートな「費用=損金」「収益=益金」という図式は成り立たず。それぞれ法令に定めるところに従います。
損金・益金についての原則ルールが「法人税法22条2項・3項」です。
法人税法第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
これだけで済めば、まだよいのですが。残念ながらそんな単純な話ではない。
各項にいう「別段の定め」によって原則ルールが歪められています。
◯
「歪められている」という言い方をしたのはなぜかというと。税法世界では、美しい簿記世界とは異なり、必ずしもプラス/マイナス、表/裏が一致するとは限らないからです。
たとえば、「交際費」の損金不算入ルール。
支払った側が損金不算入となるのに、もらった側(接待を受けた人ではなく利用店舗のほう)は普通に売上として益金算入しなければなりません。
支払側:損金不算入(措置法61条の4)
売上側:益金算入(原則)
「一方がマイナスなら他方はプラスのはず」という素朴な感覚が、税法世界では通用しません。表裏を揃える必要がある場合には、「グループ法人税制」の寄附金・受贈益ルールのように、
あげた側: 損金不算入(法人税法37条2項)
もらった側:益金不算入(法人税法25条の2)
と、両面から規定しなければなりません。
それぞれの条文の場所からも分かるとおり、「グループ法人税制における贈与/受贈ルール」という単体の制度があるわけではなく。益金ルールと損金ルールが別々に規定されています。
◯
ちなみに、グループ法人税制の寄附金・受贈益ルールが、条文編成において散らかってしまっている理由。
税法の構成が
本法; 恒久的・原則
措置法:一時的・例外
の二本立てとなっていることが要因かなあと。
というのも、グループ法人税制、「完全支配関係」にある法人間に関する制度という意味では、例外的な制度のはずです。なので、措置法に法人税法の特例としてまとめて規定してもよかったはずです。
が、恒久的な制度でもあるがゆえに、法人税法本法に組み込まざるをえなかったと。で、寄附金・受贈益については、法人税法の中に個別ルールが書かれているから、それぞれ切り出してその中に配置せざるをえなかったのではないかと。
◯
もうひとつ余談。
本ブログにおいて、『消費税法の理論構造』というサブタイトルのもとで長々と記事を書き連ねているやつ。あれこれ書いているものの、本当に言いたいことは唯一つ。
「消費税法の条文をあるがままに理解するかぎり、売上課税ルールと仕入控除ルールはそれぞれ別の原理で作動している」
ということです。売上側は譲渡すれば問答無用で課税されるのに、仕入側は、あれやこれやの制約により控除ができるとはかぎらないことになっています。
《両輪駆動》云々といった妄言は「だったらいいな」レベルの与太話であって。およそ現実の消費税法の構造を表す表現とはなっていません。
法人税法における「益金/損金」も、消費税法における「課税/控除」も、素朴な《オセロ思考》は通用せず。それぞれの規定に従って要件該当性を判断する必要があるということです。
※オセロ思考とは:表が白なら裏は当然黒だろ、と思い込む考えのこと。
◯
で、話は「倒産防」に戻ってきます。
まず掛金納付が「損金」となるかというに。
「納付月数40ヶ月で返戻率100%に到達し、その後目減りすることがない」なんてもの、保険通達のノリからすれば、100%資産だと言われてもおかしくないはずです。それを措置法が100%損金に全振りしているというのは、措置法の政策立法としての面目躍如、ということでしょう。
また、解約後2年は損金算入できないとしたり、通達レベルで前納1年までに制限しちゃっているのも、そもそも法人税法の原則からすればとても損金とはいえないものを、措置法様が損金にしてあげているだけのものだから、だとすれば納得がいきます。
「別表添付しなきゃ損金算入させねえよ」(措置法66条の11第2項)というところも、一見傲慢に感じますが。もともと損金じゃないものを特別に損金算入認めてやっている、という点からすれば正当化できるでしょうか。
◯
そのことを前提として。問題は「益金」のほうです。
もともと損金とならない掛金を措置法によって損金にしているだけ、ということを前提とするならば。その掛金の戻りである解約手当金も、何らかの規定がないかぎり益金とはなりえないのではないでしょうか。
掛金納付: 資産(原則) ⇒ 損金(措置法)
解約手当金:資産マイナス?(原則) ⇒(規定なし)
表裏を揃えるには、上述の「グループ法人税制」のとおり、両面から規定しなければなりません。が、(私の見落としがなければですが)、解約手当金を益金算入する旨の規定は見当たらないですよね。
「掛金納付が損金算入なら、解約手当金は当然に益金算入」というのは、文言上はいえないことになります。
では、法人税法22条の解釈論として「掛金納付は3項の損金にあたらないが、解約手当金は2項の益金にあたる」ということを導くことは可能でしょうか。
原則:掛金納付は本来は資産なので損金算入できない。
例外:措置法が特別に損金算入を認めている。
という損金側の構成を前提としつつ、解約手当金を益金と解釈するのは、極めて困難です。
掛金納付の資産性を根拠付けているのは解約手当金が戻ってくるからであり。預けた資産が戻ってきただけならば、益金とは言い難いでしょう。
措置法は、掛金納付が会計上の「費用」だと解釈しているのではなく。ダイレクトに税法上の「損金」と扱っているだけです。
この帰結を回避しようとして、解約手当金は預けた掛金がそのまま戻ってきたものではない、と性質が別だとして切り離そうとすると、今度は掛金の資産性を根拠付けるものがなくなってしまいます。
掛金納付が資産でないなら、わざわざ措置法によるまでもなく損金算入できることになってしまいます。
これらのことからすると、解約手当金が益金であることについて法令上の根拠は特にない、ということになりはしないでしょうか。
◯
解約手当金の益金算入を根拠付ける条文がない、などという畢竟独自の見解。一般の通念におもいっきり反することであり。
私がものすごい思い違いをしているだけのようにも思うので、実務において主張するつもりは全くありません。仮に裁判になったとして、裁判所が「アクロバティック趣旨解釈」に依拠して『益金算入当たり前!』みたいな判決を出すことも、容易に想像できるところ。
以下の高裁判決、私個人は、文言ガン無視の「アクロバティック趣旨解釈」の一味だと思っているのですが。残念ながら、一般には積極的に受け入れられているようですし。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
ということで、皆様方におかれましては、各自の信ずるところに従って税法解釈を展開されてみてください。
みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
posted by ウロ at 11:54| Comment(0)
| 法人税法
2024年01月29日
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
前回の記事の中で、倒産防の掛金の損金算入ルールの構造を次のとおり記述しました。
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
【倒産防】
A 法人税法 (全額は?)できない。
B 措置法 できる。
C 措置法通達 前納1年まで
今回は、この構造についてもう少し掘り下げます。
◯
まず、損金算入の大原則は、法人税法22条3項に定めるとおりです(以下では、損金算入できることを「費用性あり」などと表現します)。
法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
この原則によらない場合には、同項にいう「別段の定め」が必要となります。
◯
若干まわり道をして、他の費用の扱いについて触れます。
【寄付金】
A 法人税法 できる(22条)
B 法人税法 制限される(37条)
寄付金は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、同法37条により制限されます。
【交際費】
A 法人税法 できる(22条)
B 措置法 制限される(61条の4)
交際費は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、措置法61条の4により制限されます。
寄付金と交際費、法人税法の解説書の類では損金不算入モノとして並べて記述されることが多い。ですが、不算入の根拠法が本法か措置法かで異なっています。
いずれにしても、法律レベルで「別段の定め」を設けることにより、一部損金不算入になるということです。
【保険料】
A 法人税法 できるものとできないものがある(22条)
B 法人税通達 できる/できないを形式で振り分ける(9-3-1〜)
保険料(定期保険・養老保険等)については、ご存知「法人税基本通達」にびっしり規定されているところです。
法人税基本通達 第3節 保険料等
保険料の中には、費用性のあるものと資産性のあるものとでごちゃまぜになっているものがあります(というか保険会社が意図的にそうしている)。これを割り振るにあたって、個別の保険契約ごとに判定なんてしていられないわけです。
そこで、通達で「割り切り(決めつけ)」をしているということです。
もちろん、所詮通達なので、納得のいかない納税者の皆さんは訴訟で争うことが可能です。が、裁判所が「明確性・安定性」といったマジックワードで保険通達を全肯定するであろうことは、火を見るよりも明らかです。
【マジックワード租税判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
なぜ、寄付金・交際費は法律レベルで「別段の定め」が設けられているというのに、保険料は通達レベルで差配しているのかというと。
寄付金・交際費の損金不算入は、そもそも費用性が備わっているものにつき損金算入を否定することから、法律レベルで規定することが必須です。に対して、保険料は資産性/費用性の区分を通達使って解釈入れている、という位置づけになります。
費用性があるのに通達で資産として扱う、ではなく、通達が資産としているものは最初から資産なんだと。で、多少のズレがあったとしても「明確性・安定性」を言い訳にもってくればセーフになると。
◯
で、倒産防に戻ってきます。上記を踏まえて表現を少し修正します。
【倒産防(改正前)】
A 法人税法 できる部分とできない部分がある(22条)。
B 措置法 できる(66条の11)。
C 措置法通達 前納1年まで(66の11-2)。
倒産防についても「解約返戻金」があることから、費用の部分と資産の部分の両方があることになるはずです。これを措置法では政策的考慮を入れて、損金側に全振りしています(なお、法文上は損金算入「する」ですが、便宜上「できる」と表現します)。
寄付金・交際費については、費用を損金不算入とするための「別段の定め」だったのに対し。倒産防は、費用でないものを損金算入とするための「別段の定め」だということです。
ところが、通達では前納1年までに限定してしまっています。
措置法が全額損金算入するとしているのに、通達が勝手に限定してよいのか、ということが一番最初の記事で検討した論点となります。そこでは、「充てるため」の読み方を工夫することで、通達を拡張規定と捉えることができるのでは、というアイディアを示しました。
今回、ABCと並べてみて、
A 費用性のあるものだけを損金算入する。
B 資産部分も含めて全額損金算入できる。
C Bで広げすぎたのでA方向に微調整。
と通達を位置づけることができるかも、と思いました。
B・Cだけ見ていると、CがBに反すると思いきや。Aまで視野に入れれば、必ずしも違法ということにはならないのではないかと。
が、A・Bとの関係は「前法/後法」あるいは「一般法/特別法」であって。法解釈のお作法どおりの理解からすれば、Bが優先適用されることになります。
ので、CがAに適合しているからといって、やはりBに反することは許されないはずです。何かしら、Bに反しないようにCを位置づける必要があります。
B>A≒C
◯
さて、今回の改正事項である、解約後2年間は損金算入できないというルールについてですが。
措置法第66条の11に、単純に制限規定を追加することになるでしょうか。もしそうだとすると、通達の書きぶりも、若干修正を入れることになりそうです。
【倒産防(改正後?)】
A 法人税法 できる部分とできない部分がある。
B 措置法 できる。ただし解約後2年はできない。
C 措置法通達 前納1年まで
・
2年という期間で区切るということは、掛金のうち資産の部分にとどまらず費用の部分も損金算入が否定されることになります。
交際費や寄付金は、それぞれ損金算入を制限する実質的な根拠があったわけですが。倒産防の2年ルールにはそのような実質的な根拠が見いだせるでしょうか。「損益調整は許さない。」という、どちらかというと「役員報酬」のルールに近い理由つけが採用されることになるのかもしれません。
もし、掛金がそもそも費用性を有しないものであったならば、措置法が損金でないものを特例で損金算入できるようにしているだけ、原則は損金不算入なのだから2年制限したとしても問題ない、といえたところです。
【費用性がないとしたら】
A 法人税法 できない。
B 措置法 できる。ただし解約後2年はできない。
が、一部とはいえ損金性も有しているものの損金算入を否定するには、何某かの実質的な根拠が必要になるはずです。まあ、40ヶ月分たまれば返戻率100%になるということで、もともと費用性は極めて弱い、ということなのかもしれませんが。
・
なにか思い違いをしているような気もしますが。私が理解するところの、改正後措置法の構造。
通常の場合、費用部分は法人税法の原則どおり、資産部分は拡張規定。解約後2年間については、費用部分は制限規定、資産部分は原則どおり。
というように、原則・拡張・制限が入り乱れたキマイラ感溢れる規定になってしまうのでしょうか。
【キマイラ税法】
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
【倒産防】
A 法人税法 (全額は?)できない。
B 措置法 できる。
C 措置法通達 前納1年まで
今回は、この構造についてもう少し掘り下げます。
◯
まず、損金算入の大原則は、法人税法22条3項に定めるとおりです(以下では、損金算入できることを「費用性あり」などと表現します)。
法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
この原則によらない場合には、同項にいう「別段の定め」が必要となります。
◯
若干まわり道をして、他の費用の扱いについて触れます。
【寄付金】
A 法人税法 できる(22条)
B 法人税法 制限される(37条)
寄付金は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、同法37条により制限されます。
【交際費】
A 法人税法 できる(22条)
B 措置法 制限される(61条の4)
交際費は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、措置法61条の4により制限されます。
寄付金と交際費、法人税法の解説書の類では損金不算入モノとして並べて記述されることが多い。ですが、不算入の根拠法が本法か措置法かで異なっています。
いずれにしても、法律レベルで「別段の定め」を設けることにより、一部損金不算入になるということです。
【保険料】
A 法人税法 できるものとできないものがある(22条)
B 法人税通達 できる/できないを形式で振り分ける(9-3-1〜)
保険料(定期保険・養老保険等)については、ご存知「法人税基本通達」にびっしり規定されているところです。
法人税基本通達 第3節 保険料等
保険料の中には、費用性のあるものと資産性のあるものとでごちゃまぜになっているものがあります(というか保険会社が意図的にそうしている)。これを割り振るにあたって、個別の保険契約ごとに判定なんてしていられないわけです。
そこで、通達で「割り切り(決めつけ)」をしているということです。
もちろん、所詮通達なので、納得のいかない納税者の皆さんは訴訟で争うことが可能です。が、裁判所が「明確性・安定性」といったマジックワードで保険通達を全肯定するであろうことは、火を見るよりも明らかです。
【マジックワード租税判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
なぜ、寄付金・交際費は法律レベルで「別段の定め」が設けられているというのに、保険料は通達レベルで差配しているのかというと。
寄付金・交際費の損金不算入は、そもそも費用性が備わっているものにつき損金算入を否定することから、法律レベルで規定することが必須です。に対して、保険料は資産性/費用性の区分を通達使って解釈入れている、という位置づけになります。
費用性があるのに通達で資産として扱う、ではなく、通達が資産としているものは最初から資産なんだと。で、多少のズレがあったとしても「明確性・安定性」を言い訳にもってくればセーフになると。
◯
で、倒産防に戻ってきます。上記を踏まえて表現を少し修正します。
【倒産防(改正前)】
A 法人税法 できる部分とできない部分がある(22条)。
B 措置法 できる(66条の11)。
C 措置法通達 前納1年まで(66の11-2)。
倒産防についても「解約返戻金」があることから、費用の部分と資産の部分の両方があることになるはずです。これを措置法では政策的考慮を入れて、損金側に全振りしています(なお、法文上は損金算入「する」ですが、便宜上「できる」と表現します)。
寄付金・交際費については、費用を損金不算入とするための「別段の定め」だったのに対し。倒産防は、費用でないものを損金算入とするための「別段の定め」だということです。
ところが、通達では前納1年までに限定してしまっています。
措置法が全額損金算入するとしているのに、通達が勝手に限定してよいのか、ということが一番最初の記事で検討した論点となります。そこでは、「充てるため」の読み方を工夫することで、通達を拡張規定と捉えることができるのでは、というアイディアを示しました。
今回、ABCと並べてみて、
A 費用性のあるものだけを損金算入する。
B 資産部分も含めて全額損金算入できる。
C Bで広げすぎたのでA方向に微調整。
と通達を位置づけることができるかも、と思いました。
B・Cだけ見ていると、CがBに反すると思いきや。Aまで視野に入れれば、必ずしも違法ということにはならないのではないかと。
が、A・Bとの関係は「前法/後法」あるいは「一般法/特別法」であって。法解釈のお作法どおりの理解からすれば、Bが優先適用されることになります。
ので、CがAに適合しているからといって、やはりBに反することは許されないはずです。何かしら、Bに反しないようにCを位置づける必要があります。
B>A≒C
◯
さて、今回の改正事項である、解約後2年間は損金算入できないというルールについてですが。
措置法第66条の11に、単純に制限規定を追加することになるでしょうか。もしそうだとすると、通達の書きぶりも、若干修正を入れることになりそうです。
【倒産防(改正後?)】
A 法人税法 できる部分とできない部分がある。
B 措置法 できる。ただし解約後2年はできない。
C 措置法通達 前納1年まで
・
2年という期間で区切るということは、掛金のうち資産の部分にとどまらず費用の部分も損金算入が否定されることになります。
交際費や寄付金は、それぞれ損金算入を制限する実質的な根拠があったわけですが。倒産防の2年ルールにはそのような実質的な根拠が見いだせるでしょうか。「損益調整は許さない。」という、どちらかというと「役員報酬」のルールに近い理由つけが採用されることになるのかもしれません。
もし、掛金がそもそも費用性を有しないものであったならば、措置法が損金でないものを特例で損金算入できるようにしているだけ、原則は損金不算入なのだから2年制限したとしても問題ない、といえたところです。
【費用性がないとしたら】
A 法人税法 できない。
B 措置法 できる。ただし解約後2年はできない。
が、一部とはいえ損金性も有しているものの損金算入を否定するには、何某かの実質的な根拠が必要になるはずです。まあ、40ヶ月分たまれば返戻率100%になるということで、もともと費用性は極めて弱い、ということなのかもしれませんが。
・
なにか思い違いをしているような気もしますが。私が理解するところの、改正後措置法の構造。
通常の場合、費用部分は法人税法の原則どおり、資産部分は拡張規定。解約後2年間については、費用部分は制限規定、資産部分は原則どおり。
というように、原則・拡張・制限が入り乱れたキマイラ感溢れる規定になってしまうのでしょうか。
【キマイラ税法】
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:30| Comment(0)
| 法人税法
2024年01月22日
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!!倒産防。ですが、ちょっと嫌いになる人が増えるかも、というお話。
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
令和6年度税制改正において、「解約したら2年は再加入できないよ。」という規定が入ることになるようで。
正しくは「加入するのは勝手だが、損金算入させねえよ。」ですが、現実世界においては、哀しいかな同義でしょう。
5 その他の租税特別措置等
(国 税)
〔廃止・縮減等〕
(13)特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例における独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済事業に係る措置について、中小企業倒産防止共済法の共済契約の解除があった後同法の共済契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する当該共済契約に係る掛金については、本特例の適用ができないこととする(所得税についても同様とする。)。
(注)上記の改正は、令和6年10月1日以後の共済契約の解除について適用する。
単なる繰り延べだし、個々の金額も可愛いものだし、わざわざ改正するほどのものかと感じるところ。機構の側からしても余計なことしやがって、ということでしょうし。
改正いれるぐらいだから、相当な金額が実施されていたのでしょうか。改正されたとして、機構への金員流入がごっそり減るのか、それとも解約のほうが減ることになるのか。
お国の方針としては、抜けて入ってで益金調整に使うのは認めないんだと。そうだとして、同期中に限らず、2年も制限されるのはよく分かりませんが。
解約したけど事情が変わって翌期には再加入したい、という場合もあるだろうに(最初に述べた通り、再加入自体が禁止されるわけではないでしょうが)。
経営セーフティ共済(独立行政法人中小企業基盤整備機構)
◯
なお、大綱の読み方ですが、「本特例の適用ができない」と書いてあることから、『前納が損金算入できないだけで毎月分は損金算入できるはず』みたいな読み方をされる方がいるかもしれません。
が、倒産防の掛金の損金算入ルールは、
A 法人税法:(全額は?)できない。
B 措置法:できる。
C 措置法通達:前納1年まで
という構成になっています。
「前納1年」というのは、措置法本体ではなく通達が勝手にそう言っているだけで。損金算入できること自体が「特例」にあたるので、これが適用されないのであれば、掛金は損金算入できない、ということになります(「全額は?」と書いたのは、疑問を留保している点があるからです)。
もちろん、今後できあがる実際の条文がどうなるか次第ではあります。が、大綱の記載に従うかぎりは、前納だろうが毎月分だろうが2年間は損金算入できないという意味になるはずです。
◯
ここまでは、そのへんの《税務お役立ち記事》と同じ、単なる大綱のご紹介です。
当ブログにおける関心事は、「法令/通達の規律範囲」の問題です。
上述したとおり、前納による損金算入の範囲が「1年」であることについては、法律ではなく通達に記載されています。
この通達が、法を「拡張」しているのか「制限」しているのか、いずれの読み方も可能ということを、上記記事では示しました。
で、今回の改正にあたって、通達に外出しされていた「1年前納ルール」を法律に取り込むのかどうか、ということが、私の個人的な関心事となります。
法令/通達の規律範囲の変更に関しては、以前、《インボイスいらない特例》でも検討したところです。通達に規定されっぱなしだった《いらない》場合を、政令・省令に取り込む改正が行われたと。
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)
余談ですが、税務においては、通達が相当幅を効かせているというのに。法令/通達の規律範囲について、それ自体を題材とした研究というのが見受けられない(私が知らないだけですか)。
【労務における法令/通達】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
それはさておき。このような規律範囲の見直しが、倒産防に対しても行われるのかどうか。
私の見立てでは、おそらく何も触れられず、単に「2年不算入ルール」だけが法律に付け加わるのだと思います。「1年前納ルール」を法律に取り込もうとすると、では、なぜ今まで通達で勝手に1年に限定していたのか、ということの問題が可視化されてしまうからです。
もちろん、通達を《拡張ルール》と読むことで問題は回避できます。が、そういう議論が巻き起こること自体を回避しようとするのが、運営側の生態(と私が邪推している)。
ということで、自販機特例における氏名省略と同様、法令には取り込まないままにするのではないでしょうか(というか、そういう意思決定すらせずガン無視を決め込む)。
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
◯
もう一つ検討したい論点があるのですが(「全額は?」と書いたところ)、余裕があれば次回以降で。
みんな大好き!倒産防(その3)。 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
令和6年度税制改正において、「解約したら2年は再加入できないよ。」という規定が入ることになるようで。
正しくは「加入するのは勝手だが、損金算入させねえよ。」ですが、現実世界においては、哀しいかな同義でしょう。
5 その他の租税特別措置等
(国 税)
〔廃止・縮減等〕
(13)特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例における独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済事業に係る措置について、中小企業倒産防止共済法の共済契約の解除があった後同法の共済契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する当該共済契約に係る掛金については、本特例の適用ができないこととする(所得税についても同様とする。)。
(注)上記の改正は、令和6年10月1日以後の共済契約の解除について適用する。
単なる繰り延べだし、個々の金額も可愛いものだし、わざわざ改正するほどのものかと感じるところ。機構の側からしても余計なことしやがって、ということでしょうし。
改正いれるぐらいだから、相当な金額が実施されていたのでしょうか。改正されたとして、機構への金員流入がごっそり減るのか、それとも解約のほうが減ることになるのか。
お国の方針としては、抜けて入ってで益金調整に使うのは認めないんだと。そうだとして、同期中に限らず、2年も制限されるのはよく分かりませんが。
解約したけど事情が変わって翌期には再加入したい、という場合もあるだろうに(最初に述べた通り、再加入自体が禁止されるわけではないでしょうが)。
経営セーフティ共済(独立行政法人中小企業基盤整備機構)
◯
なお、大綱の読み方ですが、「本特例の適用ができない」と書いてあることから、『前納が損金算入できないだけで毎月分は損金算入できるはず』みたいな読み方をされる方がいるかもしれません。
が、倒産防の掛金の損金算入ルールは、
A 法人税法:(全額は?)できない。
B 措置法:できる。
C 措置法通達:前納1年まで
という構成になっています。
「前納1年」というのは、措置法本体ではなく通達が勝手にそう言っているだけで。損金算入できること自体が「特例」にあたるので、これが適用されないのであれば、掛金は損金算入できない、ということになります(「全額は?」と書いたのは、疑問を留保している点があるからです)。
もちろん、今後できあがる実際の条文がどうなるか次第ではあります。が、大綱の記載に従うかぎりは、前納だろうが毎月分だろうが2年間は損金算入できないという意味になるはずです。
◯
ここまでは、そのへんの《税務お役立ち記事》と同じ、単なる大綱のご紹介です。
当ブログにおける関心事は、「法令/通達の規律範囲」の問題です。
上述したとおり、前納による損金算入の範囲が「1年」であることについては、法律ではなく通達に記載されています。
この通達が、法を「拡張」しているのか「制限」しているのか、いずれの読み方も可能ということを、上記記事では示しました。
で、今回の改正にあたって、通達に外出しされていた「1年前納ルール」を法律に取り込むのかどうか、ということが、私の個人的な関心事となります。
法令/通達の規律範囲の変更に関しては、以前、《インボイスいらない特例》でも検討したところです。通達に規定されっぱなしだった《いらない》場合を、政令・省令に取り込む改正が行われたと。
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)
余談ですが、税務においては、通達が相当幅を効かせているというのに。法令/通達の規律範囲について、それ自体を題材とした研究というのが見受けられない(私が知らないだけですか)。
【労務における法令/通達】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
それはさておき。このような規律範囲の見直しが、倒産防に対しても行われるのかどうか。
私の見立てでは、おそらく何も触れられず、単に「2年不算入ルール」だけが法律に付け加わるのだと思います。「1年前納ルール」を法律に取り込もうとすると、では、なぜ今まで通達で勝手に1年に限定していたのか、ということの問題が可視化されてしまうからです。
もちろん、通達を《拡張ルール》と読むことで問題は回避できます。が、そういう議論が巻き起こること自体を回避しようとするのが、運営側の生態(と私が邪推している)。
ということで、自販機特例における氏名省略と同様、法令には取り込まないままにするのではないでしょうか(というか、そういう意思決定すらせずガン無視を決め込む)。
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)
◯
もう一つ検討したい論点があるのですが(「全額は?」と書いたところ)、余裕があれば次回以降で。
みんな大好き!倒産防(その3)。 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:46| Comment(0)
| 法人税法
2021年09月06日
非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
スピンオフ第2弾、今回は「組織再編税制」について(138頁〜)。
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯
○
「組織再編税制の立法趣旨」という項目で政府税調の『基本的考え方』の記述が引用されています。
類書も大体そうなんですが、なぜかこの項目のときだけ税調のご意見を引用するのがお決まりのパターンになっているようです。
が、立法趣旨と立案者意思とを安易に同一視すべきでない、ということは以前も論じたとおりです。
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?
とはいえ、同一視する高裁判決が実在しているわけで、もはや同一視しないほうが異端なんですかね。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
まだ最高裁が残されているものの、この手の趣旨解釈は残念ながら最高裁でも安易に受け入れられがち、というのが私の見立て。
どの教科書・解説書も横並びで税調のご意見=立法趣旨と見做してしまっている状況において、「ここがヘンだよ私以外!」と叫んだところで、徒労なのかもしれない。
○
「次に示す適格要件等を満たせばある組織再編成が適格と判断され、課税繰延が認められる。」(138頁)
本書でも「適格外し」のことが書かれているとおり、適格組織再編成は「課税繰延」(利益先送り)となるだけでなく「損失先送り」としても機能します。
そして、適格要件に該当する以上は問答無用で簿価移転としなければならないので、「認められる」というのは表現として不正確。
・適格 :簿価強制
・非適格:時価強制
どちらかが原則でどちらかが例外、ということでもありません。
もちろん実態としては、「利益先送り」狙いで使われることが多いのかもしれません。が、まずは色眼鏡を外した状態からスタートすべきでしょう。
前回記事のように結論反転させないかぎり、原則/例外で説明したって別にいいんじゃね、と思うかもしれません。ですが、原則/例外と表現することに私が危惧しているのは、次のような『要件事実論』を展開する輩が現れかねないからです。
すなわち、
【適格/非適格要件の立証責任の分配(民事横流し系)】
・時価移転(非適格)が原則で簿価移転(適格)は例外。
・ゆえに、時価移転を主張する側は合併の事実を立証するのみで足りる。
・例外である簿価移転を主張する側が「適格要件を満たすこと」を立証しなければならない。
・適格要件が真偽不明となった場合は非適格と認定される。
・このように分配することは、消極的事実(適格でない)ではなく積極的事実(適格である)を負担させるべきという要件事実論の基本コンセプトにもかなう。
いかにも要件事実論のお作法に従った綺麗な分配のように見えます。
が、民事要件事実論の発想をそのまま税法へ横流してもよいのかは極めて疑問です。
上記分配で「課税庁」「納税者」の特定をしていないことからも分かるとおり、適格/非適格のどちらが納税者有利/不利になるかは、局面によって入れ替わります。
仮に、納税者が簿価移転を望む場合、上記分配によれば納税者が適格要件を立証しなければならず、立証に失敗した場合には時価移転の不利益を受けなければならないことになります。
このような負担を納税者に負わせてもよいものなのかどうか、特に「真偽不明」でも非適格扱いとされるのがよいのか。原則非適格とする考えからすれば何の問題もない、となりそうですが、私には疑問です。
「非適格=法人税法、適格=措置法」とでもなっていれば、まだありえたかもしれませんが、どちらも法人税法本法に収まっていますし。
租税法の大原則からすれば、課税処分の適法性は課税庁が主張立証しなければならないはずです。この大原則からするならば、適格が適法性を基礎付けるならば適格を、非適格が適法性を基礎付けるならば非適格を、それぞれ課税庁が主張立証する、とすべきでしょう。
が、「課税要件事実論に詳しい」みたいな人たちは、いかにも上記の民事横流し系の分配論を展開しそうです。これは穿った見方でしょうか。
例の奇妙な課税要件事実論が、誰からも批判されることなく放置されている現状からして、租税法学における要件事実論の受容というのが、未だ満足に行われていないのではないか、というのが、極めて個人的な私の見立てです。
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
○
「完全支配関係とは、一の者の法人の発行済株式等の全てを直接または間接に保有する関係をいう」(139頁)
条文上の定義を、親切心でわかりやすく簡略にしただけ、のつもりかもしれません。
が、完全支配関係には、親子孫関係(縦)だけでなく兄弟姉妹(横)の関係もあることが、記述から抜け落ちてしまっています。
法人税法2条
十二の七の六 完全支配関係 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう。
条文でいうところの後段が削られてしまっているということです。
そして、横の関係の場合には適格要件として「株式継続保有要件」が要求されるわけですが、このことが抜け落ちてしまっています。
例の「見込み」(⇒法的安定性?)のやつです。
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)
なんの考えもなしに条文引き写ししておけば間違えずに済んだのに、という前回と同じ類の間違い。
○
「ここで注意深い読者なら、株式継続保有要件を満たす必要のない場合、投資の継続と支配の継続の両方がなく、課税繰延を認める理由がないのではと冴るかもしれない。共同事業要件の存在は、合併前後における事業の継続性や関連性の存在から経済実体の不変更とみるか、または、「選択と集中」を支持する産業政策の要請によるとみるしかないであろう。」(140頁・共同事業要件)
なぜ、「みるしかないであろう」などという、仕方ない感溢れる物言いをしているのでしょうか。これは、政府税調の『基本的考え方』を立法趣旨と同一視することからくるものでしょう。
しかし、実際にできあがった制度の個別要件からスタートして解釈するのであれば、こういう評価にはならないはずです。現行法が実際に要求している要件が『基本的考え方』にそぐわないのであれば、それは『基本的考え方』のほうが現行法にそった内容になっていないと評価すべきでしょうよ。
× 基本的考え方 → 現行法 (基本的考え方のとおり条文化されていないのは不当)
○ 基本的考え方 ← 現行法 (現行法で実現していない基本的考え方は通用しない)
○
引用は省略しますが、欠損金引継ぎの具体例として、被合併法人T・合併法人Aとも支配関係成立前の欠損金は引き継げないが、成立後の欠損金は引き継げるという例があげられています(141頁)。
が、支配関係成立前後で取り扱いが変わることが、その前の段落の制度説明の箇所に記述されていません。ので、なぜ支配関係成立前後で帰結が変わるのか、さっぱり理解できないでしょう。
本書は、数値を含んだ事例での解説が豊富なので、理解しやすいところは非常に理解しやすいです。が、このように制度説明とあてはめの対応関係が欠落しているところがあったりします。
類書 本書
制度説明 多い 少ない
具体例 少ない 多い
なんですか、コモンロー的に事例(だけ)で理解しようぜ、ってことですか、租税法なのに。
また、合併法人Aの欠損金も「引き継げる」と表現されていますが、AはAの欠損金を制限なしにそのまま使えるということであって、他社から引き継ぐものではありません。ここも、正確に言葉を使いわけましょう、という問題です。
次回はスピンオフ第3弾、「リバースチャージ」についてです。
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯
○
「組織再編税制の立法趣旨」という項目で政府税調の『基本的考え方』の記述が引用されています。
類書も大体そうなんですが、なぜかこの項目のときだけ税調のご意見を引用するのがお決まりのパターンになっているようです。
が、立法趣旨と立案者意思とを安易に同一視すべきでない、ということは以前も論じたとおりです。
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?
とはいえ、同一視する高裁判決が実在しているわけで、もはや同一視しないほうが異端なんですかね。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
まだ最高裁が残されているものの、この手の趣旨解釈は残念ながら最高裁でも安易に受け入れられがち、というのが私の見立て。
どの教科書・解説書も横並びで税調のご意見=立法趣旨と見做してしまっている状況において、「ここがヘンだよ私以外!」と叫んだところで、徒労なのかもしれない。
○
「次に示す適格要件等を満たせばある組織再編成が適格と判断され、課税繰延が認められる。」(138頁)
本書でも「適格外し」のことが書かれているとおり、適格組織再編成は「課税繰延」(利益先送り)となるだけでなく「損失先送り」としても機能します。
そして、適格要件に該当する以上は問答無用で簿価移転としなければならないので、「認められる」というのは表現として不正確。
・適格 :簿価強制
・非適格:時価強制
どちらかが原則でどちらかが例外、ということでもありません。
もちろん実態としては、「利益先送り」狙いで使われることが多いのかもしれません。が、まずは色眼鏡を外した状態からスタートすべきでしょう。
前回記事のように結論反転させないかぎり、原則/例外で説明したって別にいいんじゃね、と思うかもしれません。ですが、原則/例外と表現することに私が危惧しているのは、次のような『要件事実論』を展開する輩が現れかねないからです。
すなわち、
【適格/非適格要件の立証責任の分配(民事横流し系)】
・時価移転(非適格)が原則で簿価移転(適格)は例外。
・ゆえに、時価移転を主張する側は合併の事実を立証するのみで足りる。
・例外である簿価移転を主張する側が「適格要件を満たすこと」を立証しなければならない。
・適格要件が真偽不明となった場合は非適格と認定される。
・このように分配することは、消極的事実(適格でない)ではなく積極的事実(適格である)を負担させるべきという要件事実論の基本コンセプトにもかなう。
いかにも要件事実論のお作法に従った綺麗な分配のように見えます。
が、民事要件事実論の発想をそのまま税法へ横流してもよいのかは極めて疑問です。
上記分配で「課税庁」「納税者」の特定をしていないことからも分かるとおり、適格/非適格のどちらが納税者有利/不利になるかは、局面によって入れ替わります。
仮に、納税者が簿価移転を望む場合、上記分配によれば納税者が適格要件を立証しなければならず、立証に失敗した場合には時価移転の不利益を受けなければならないことになります。
このような負担を納税者に負わせてもよいものなのかどうか、特に「真偽不明」でも非適格扱いとされるのがよいのか。原則非適格とする考えからすれば何の問題もない、となりそうですが、私には疑問です。
「非適格=法人税法、適格=措置法」とでもなっていれば、まだありえたかもしれませんが、どちらも法人税法本法に収まっていますし。
租税法の大原則からすれば、課税処分の適法性は課税庁が主張立証しなければならないはずです。この大原則からするならば、適格が適法性を基礎付けるならば適格を、非適格が適法性を基礎付けるならば非適格を、それぞれ課税庁が主張立証する、とすべきでしょう。
が、「課税要件事実論に詳しい」みたいな人たちは、いかにも上記の民事横流し系の分配論を展開しそうです。これは穿った見方でしょうか。
例の奇妙な課税要件事実論が、誰からも批判されることなく放置されている現状からして、租税法学における要件事実論の受容というのが、未だ満足に行われていないのではないか、というのが、極めて個人的な私の見立てです。
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)
○
「完全支配関係とは、一の者の法人の発行済株式等の全てを直接または間接に保有する関係をいう」(139頁)
条文上の定義を、親切心でわかりやすく簡略にしただけ、のつもりかもしれません。
が、完全支配関係には、親子孫関係(縦)だけでなく兄弟姉妹(横)の関係もあることが、記述から抜け落ちてしまっています。
法人税法2条
十二の七の六 完全支配関係 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう。
条文でいうところの後段が削られてしまっているということです。
そして、横の関係の場合には適格要件として「株式継続保有要件」が要求されるわけですが、このことが抜け落ちてしまっています。
例の「見込み」(⇒法的安定性?)のやつです。
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)
なんの考えもなしに条文引き写ししておけば間違えずに済んだのに、という前回と同じ類の間違い。
○
「ここで注意深い読者なら、株式継続保有要件を満たす必要のない場合、投資の継続と支配の継続の両方がなく、課税繰延を認める理由がないのではと冴るかもしれない。共同事業要件の存在は、合併前後における事業の継続性や関連性の存在から経済実体の不変更とみるか、または、「選択と集中」を支持する産業政策の要請によるとみるしかないであろう。」(140頁・共同事業要件)
なぜ、「みるしかないであろう」などという、仕方ない感溢れる物言いをしているのでしょうか。これは、政府税調の『基本的考え方』を立法趣旨と同一視することからくるものでしょう。
しかし、実際にできあがった制度の個別要件からスタートして解釈するのであれば、こういう評価にはならないはずです。現行法が実際に要求している要件が『基本的考え方』にそぐわないのであれば、それは『基本的考え方』のほうが現行法にそった内容になっていないと評価すべきでしょうよ。
× 基本的考え方 → 現行法 (基本的考え方のとおり条文化されていないのは不当)
○ 基本的考え方 ← 現行法 (現行法で実現していない基本的考え方は通用しない)
○
引用は省略しますが、欠損金引継ぎの具体例として、被合併法人T・合併法人Aとも支配関係成立前の欠損金は引き継げないが、成立後の欠損金は引き継げるという例があげられています(141頁)。
が、支配関係成立前後で取り扱いが変わることが、その前の段落の制度説明の箇所に記述されていません。ので、なぜ支配関係成立前後で帰結が変わるのか、さっぱり理解できないでしょう。
本書は、数値を含んだ事例での解説が豊富なので、理解しやすいところは非常に理解しやすいです。が、このように制度説明とあてはめの対応関係が欠落しているところがあったりします。
類書 本書
制度説明 多い 少ない
具体例 少ない 多い
なんですか、コモンロー的に事例(だけ)で理解しようぜ、ってことですか、租税法なのに。
また、合併法人Aの欠損金も「引き継げる」と表現されていますが、AはAの欠損金を制限なしにそのまま使えるということであって、他社から引き継ぐものではありません。ここも、正確に言葉を使いわけましょう、という問題です。
次回はスピンオフ第3弾、「リバースチャージ」についてです。
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
posted by ウロ at 09:42| Comment(0)
| 法人税法
2021年08月30日
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯
今回から数回ほど、前回記事のスピンオフ記事を掲載する予定です。
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
(以下「本書」といいます)
今回は「留保金課税」について(126頁)。
○
第1刷では、盛大な間違いをおかしています。
最初、知らない間にこんな大改正が入ったのかと思って一瞬焦ったのですが、単なる本書の間違いでした。
出版社のサイトに正誤表が載っていますので、そちらをご確認ください。
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8378.html
訂正前の記述では、留保金課税が適用されるかどうかにつき、
・資本金1億円以下の会社に適用される
・資本金5億円以上の大法人の100%子会社は除かれる
などと、まったく正反対のことが書かれていました(※念のため、上記間違いですよ)。
ただ単にひっくり返しちゃっただけじゃん、と思うかもしれません。が、たとえば『課税売上高1000万円超の場合には消費税免税事業者となる』などといったとしたら、その感覚を疑われますよね。
参考まで、このひっくり返しによる違いがどれくらいの「ボリューム感」となって現れるかを、以下の統計資料で見てみましょう。
令和元年度分 会社標本調査結果
統計表⇒第11表法人数の内訳によると、資本金1億円以下/超で区切った同族会社数とその割合は次の通りとなっています(ついでに特定同族会社も)。
資本金1億円以下/超
同族会社 2,632,648/10,012 99.62%/0.38%
特定同族会社 23/3,829 0.6%/99.4%
これを反転させるって、なかなかの致命傷。
普通の教科書だと、このあたりの定義は条文引き写しで済まそうとするので、むしろこの手の間違いは生じにくいところです。本書では親切にも噛み砕いて説明しようとしたことが、逆に仇になったといえなくもない(擁護)。
○
邪推するに、次のような先入観があったのではないでしょうか。すなわち、
・留保金課税は利益を溜め込みがちな会社向けの制度。
・規模が小さく、大企業に支配されていないような会社のほうがより溜め込みやすいはず。
・そういう企業を狙い撃ちするため、より規模の小さい会社に絞って適用するはずだ。
あくまでも邪推ですが、そうとでも勘違いしなければこんな反転やらかしませんよね。
実際にご本人の意図がどうだったかは別として、このような勘違いが生じうる要因というのを以下検討してみます。
なお、間違えをあげつらう趣旨ではなく。超頭のいいはずの先生でさえ勘違いした要因を辿ることで、我々常人はどのようなことに気をつけておく必要があるかを理解する、という趣旨です。
○
留保金課税制度では、
ア 株主構成基準 (支配が強ければ適用)
イ 資本金基準 (規模が小さければ除外)
のふたつの基準で適用範囲をコントロールしています。
このうち、アが「溜め込みやすさ」の指標であり、留保金課税制度の内在的な要件ということができます。他方で、イは「溜め込みやすさ」とは直接関係がなく、規模が小さいのに税負担重くするの可哀想、という趣旨でしょう。ので、こちらは外在的な制約要素ということができます。
本書(訂正前)は上図の×を適用あり、○を適用なしと間違えたということです。
上図ではアイはそれぞれ別々の観点からの基準だということで、それぞれを縦軸(株主構成基準)・横軸(資本金基準)に配置しています。他方で、法の規律を気にしないで「大小」という観点から横並びにすると次のようになります(上下に並べてますが慣用句としての「横並び」)。
もちろん、特定同族会社だからといって規模が小さいとは限らないわけですが、なんとなくのイメージだけを先行させるとこういう配置になります。そして、上段で左にいけば留保金課税の適用を受けるということは、下段も左にいけば留保金課税の適用を受けるはずだ、と勘違いをすると上記の間違いを導くことができます。
実際にどういうつもりだったかはご本人のみぞ知るところです。ですのでこれは、間違いの要因を推測することで自らの勘違い防止に役立てる、という限りでの検討ということです。
○
「趣旨解釈」というのは、いかにも法解釈のお作法に則った正統な解釈手法であるかのように思われがち。ですが、いうところの「趣旨」が、実定法以外のどこかから持ってきたものによるならば、砂上の楼閣にすぎない、ということが分かります。
このことは、TPR事件の高裁判決に対しても指摘をしたところです。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
また、小規模宅地等の特例の家なき子特例の趣旨を「出戻り保護」だと決め打ちしていることに対しても、個別の要件にそぐわないことを指摘しました。
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
解釈に用いる「趣旨」は、あくまで現行法から取り出すべきものでしょう。
近時、税理士向けの研修・セミナーの類で、弁護士先生が税理士にリーガルマインドを教える、ということで「趣旨から解釈すべし」というようなことを強調しているのを見聞きします。それ自体はそのとおりなのでしょうが、その趣旨なるものをどうやって見出すかが問題です。
立案担当者の解説など、条文の外側にあるものを鵜呑みにするのではなく、個々の条文上の要件から抽出すべきものだと、私は思います。
○
また、大法人の100%子会社については、「除かれる」から「含まれる」に訂正されたわけですが、その「理由づけ」はそのままになっています。
いわく、中小法人向けの軽課措置を受けることが問題だからだと。
が、留保金課税は同族会社向けの「重課措置」であって、そのままの記述では文意がとりにくいです。
確かに算術的には、
プラス(軽課)を受けるのが問題 = マイナス(重課)を受けないのが問題
と同じ意味にはなります。ですが、日本語の表現としてはすんなり理解し難いですよね。
なので、ここの記述を無理やり活かすならば「中小法人として重課措置を受けないことが問題」とでも修正すべきでしょう。
・留保金課税(特定同族会社)
資本金1億円超 重課措置
資本金1億円以下 除外
大法人の子会社 除外の除外
○
また、中小法人扱いが問題であることの理由として、「親会社の信用力を背景に資金調達等が可能」ということが書かれています。
が、資金調達しやすいことと税負担を重くすることとは、どう連関するのでしょうか。資金調達しやすいことそれ自体は担税力を高めることにはなりません。借入金も所得だとする立場を採用しないかぎり。
資金を集めやすければ稼ぎやすいはずだ(現金⇒利益)、ということでしょうか。
ただ留保金課税の場面でいうと、「資金調達しやすいんだから利益溜め込むんじゃねえ」ということができるかもしれません。外部調達できるなら内部留保しておく必要ねえだろ、と。
ではあるのですが、その資金調達を新株発行で行うと100%子会社でなくなって留保金課税から一度外れる、資本金が1億円超になったら再び留保金課税の適用を受ける、ただしそのときの資本構成如何では同族会社ですらなくなっている、という変遷を辿ることになるかもしれません。ややこしい。
1 A法人5000万円(B大法人100%) (Bは被支配会社)
↓ ⇒適用あり
2 A法人1億円(B大法人50%、C50%)(BCは資本関係なし)
↓ ⇒適用なし(大法人100%支配が外れるので)
3 A法人1億5000万円(B大法人1/3、C1/3、D1/3) (BCDは資本関係なし)
⇒適用なし(資本金1億円超だが同族会社でなくなるので)
資本金基準と株主構成基準は、それぞれ額面と割合という違う物差しを基準としているものの、上記例のように連動して動くことがあるわけです。
なお、ここでいう「親会社」が「被支配会社でない法人」であるならば、その子会社は特定同族会社から外れます。ので、信用力云々といっているときに「上場企業」を想定しているのだとしたら、それは不正確ということになります。
いずれにしても、立案担当者の解説などを鵜呑みにするのではなく(下記239頁あたりの解説)、制度ごとにその趣旨を探求すべきものでしょう。
平成22年度 税制改正の解説
○
ちなみに、上記統計表によれば、資本金1億円未満の特定同族会社は23社しかいないわけで、この選ばれし精鋭のためだけに「除外の除外」規定を設けたということなんですよね。
普通に教科書に並んで書かれていると、一般的な制度との捕捉領域の広狭が意識されにくいところです。が、どれくらいのボリューム感のある制度なのかも記述しておいてくれると、イメージがしやすくなるかもしれません。
○
さて、次回は「組織再編税制」についてです。
非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
(以下「本書」といいます)
今回は「留保金課税」について(126頁)。
○
第1刷では、盛大な間違いをおかしています。
最初、知らない間にこんな大改正が入ったのかと思って一瞬焦ったのですが、単なる本書の間違いでした。
出版社のサイトに正誤表が載っていますので、そちらをご確認ください。
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8378.html
訂正前の記述では、留保金課税が適用されるかどうかにつき、
・資本金1億円以下の会社に適用される
・資本金5億円以上の大法人の100%子会社は除かれる
などと、まったく正反対のことが書かれていました(※念のため、上記間違いですよ)。
ただ単にひっくり返しちゃっただけじゃん、と思うかもしれません。が、たとえば『課税売上高1000万円超の場合には消費税免税事業者となる』などといったとしたら、その感覚を疑われますよね。
参考まで、このひっくり返しによる違いがどれくらいの「ボリューム感」となって現れるかを、以下の統計資料で見てみましょう。
令和元年度分 会社標本調査結果
統計表⇒第11表法人数の内訳によると、資本金1億円以下/超で区切った同族会社数とその割合は次の通りとなっています(ついでに特定同族会社も)。
資本金1億円以下/超
同族会社 2,632,648/10,012 99.62%/0.38%
特定同族会社 23/3,829 0.6%/99.4%
これを反転させるって、なかなかの致命傷。
普通の教科書だと、このあたりの定義は条文引き写しで済まそうとするので、むしろこの手の間違いは生じにくいところです。本書では親切にも噛み砕いて説明しようとしたことが、逆に仇になったといえなくもない(擁護)。
○
邪推するに、次のような先入観があったのではないでしょうか。すなわち、
・留保金課税は利益を溜め込みがちな会社向けの制度。
・規模が小さく、大企業に支配されていないような会社のほうがより溜め込みやすいはず。
・そういう企業を狙い撃ちするため、より規模の小さい会社に絞って適用するはずだ。
あくまでも邪推ですが、そうとでも勘違いしなければこんな反転やらかしませんよね。
実際にご本人の意図がどうだったかは別として、このような勘違いが生じうる要因というのを以下検討してみます。
なお、間違えをあげつらう趣旨ではなく。超頭のいいはずの先生でさえ勘違いした要因を辿ることで、我々常人はどのようなことに気をつけておく必要があるかを理解する、という趣旨です。
○
留保金課税制度では、
ア 株主構成基準 (支配が強ければ適用)
イ 資本金基準 (規模が小さければ除外)
のふたつの基準で適用範囲をコントロールしています。
このうち、アが「溜め込みやすさ」の指標であり、留保金課税制度の内在的な要件ということができます。他方で、イは「溜め込みやすさ」とは直接関係がなく、規模が小さいのに税負担重くするの可哀想、という趣旨でしょう。ので、こちらは外在的な制約要素ということができます。
本書(訂正前)は上図の×を適用あり、○を適用なしと間違えたということです。
上図ではアイはそれぞれ別々の観点からの基準だということで、それぞれを縦軸(株主構成基準)・横軸(資本金基準)に配置しています。他方で、法の規律を気にしないで「大小」という観点から横並びにすると次のようになります(上下に並べてますが慣用句としての「横並び」)。
もちろん、特定同族会社だからといって規模が小さいとは限らないわけですが、なんとなくのイメージだけを先行させるとこういう配置になります。そして、上段で左にいけば留保金課税の適用を受けるということは、下段も左にいけば留保金課税の適用を受けるはずだ、と勘違いをすると上記の間違いを導くことができます。
実際にどういうつもりだったかはご本人のみぞ知るところです。ですのでこれは、間違いの要因を推測することで自らの勘違い防止に役立てる、という限りでの検討ということです。
○
「趣旨解釈」というのは、いかにも法解釈のお作法に則った正統な解釈手法であるかのように思われがち。ですが、いうところの「趣旨」が、実定法以外のどこかから持ってきたものによるならば、砂上の楼閣にすぎない、ということが分かります。
このことは、TPR事件の高裁判決に対しても指摘をしたところです。
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
また、小規模宅地等の特例の家なき子特例の趣旨を「出戻り保護」だと決め打ちしていることに対しても、個別の要件にそぐわないことを指摘しました。
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
解釈に用いる「趣旨」は、あくまで現行法から取り出すべきものでしょう。
近時、税理士向けの研修・セミナーの類で、弁護士先生が税理士にリーガルマインドを教える、ということで「趣旨から解釈すべし」というようなことを強調しているのを見聞きします。それ自体はそのとおりなのでしょうが、その趣旨なるものをどうやって見出すかが問題です。
立案担当者の解説など、条文の外側にあるものを鵜呑みにするのではなく、個々の条文上の要件から抽出すべきものだと、私は思います。
○
また、大法人の100%子会社については、「除かれる」から「含まれる」に訂正されたわけですが、その「理由づけ」はそのままになっています。
いわく、中小法人向けの軽課措置を受けることが問題だからだと。
が、留保金課税は同族会社向けの「重課措置」であって、そのままの記述では文意がとりにくいです。
確かに算術的には、
プラス(軽課)を受けるのが問題 = マイナス(重課)を受けないのが問題
と同じ意味にはなります。ですが、日本語の表現としてはすんなり理解し難いですよね。
なので、ここの記述を無理やり活かすならば「中小法人として重課措置を受けないことが問題」とでも修正すべきでしょう。
・留保金課税(特定同族会社)
資本金1億円超 重課措置
資本金1億円以下 除外
大法人の子会社 除外の除外
○
また、中小法人扱いが問題であることの理由として、「親会社の信用力を背景に資金調達等が可能」ということが書かれています。
が、資金調達しやすいことと税負担を重くすることとは、どう連関するのでしょうか。資金調達しやすいことそれ自体は担税力を高めることにはなりません。借入金も所得だとする立場を採用しないかぎり。
資金を集めやすければ稼ぎやすいはずだ(現金⇒利益)、ということでしょうか。
ただ留保金課税の場面でいうと、「資金調達しやすいんだから利益溜め込むんじゃねえ」ということができるかもしれません。外部調達できるなら内部留保しておく必要ねえだろ、と。
ではあるのですが、その資金調達を新株発行で行うと100%子会社でなくなって留保金課税から一度外れる、資本金が1億円超になったら再び留保金課税の適用を受ける、ただしそのときの資本構成如何では同族会社ですらなくなっている、という変遷を辿ることになるかもしれません。ややこしい。
1 A法人5000万円(B大法人100%) (Bは被支配会社)
↓ ⇒適用あり
2 A法人1億円(B大法人50%、C50%)(BCは資本関係なし)
↓ ⇒適用なし(大法人100%支配が外れるので)
3 A法人1億5000万円(B大法人1/3、C1/3、D1/3) (BCDは資本関係なし)
⇒適用なし(資本金1億円超だが同族会社でなくなるので)
資本金基準と株主構成基準は、それぞれ額面と割合という違う物差しを基準としているものの、上記例のように連動して動くことがあるわけです。
なお、ここでいう「親会社」が「被支配会社でない法人」であるならば、その子会社は特定同族会社から外れます。ので、信用力云々といっているときに「上場企業」を想定しているのだとしたら、それは不正確ということになります。
いずれにしても、立案担当者の解説などを鵜呑みにするのではなく(下記239頁あたりの解説)、制度ごとにその趣旨を探求すべきものでしょう。
平成22年度 税制改正の解説
○
ちなみに、上記統計表によれば、資本金1億円未満の特定同族会社は23社しかいないわけで、この選ばれし精鋭のためだけに「除外の除外」規定を設けたということなんですよね。
普通に教科書に並んで書かれていると、一般的な制度との捕捉領域の広狭が意識されにくいところです。が、どれくらいのボリューム感のある制度なのかも記述しておいてくれると、イメージがしやすくなるかもしれません。
○
さて、次回は「組織再編税制」についてです。
非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
posted by ウロ at 11:06| Comment(0)
| 法人税法