2024年03月25日

みんな大好き!倒産防(その10) 〜月割できる奴は誰だ!

 いやまさか、節税ライターの方々が噛んで噛んで、味のしなくなっている倒産防ネタについて、ここまで続くとは思っていませんでした。
 ので、タイトルも「続」「続々」なんてつけていたのですが。足りなくなって、あとから「その◯」に変えることとしました。

みんな大好き!倒産防(その9) 〜事例演習

 何を論じていたかを整理すると次のとおり。当初は法人想定だったのが、小規模との対比のため個人へ移りました。そのまま中退共も個人前提で対比をしました。

 その1 倒産防(法人) 損金、前納
 その2 倒産防(法人) R6税制改正大綱
 その3 倒産防(法人) 条文構造、費用性
 その4 倒産防(法人) 益金/損金
 その5 倒産防(法人) R6改正法律案
 その6 倒産防(個人) 小規模(個人)との対比
 その7 倒産防(個人) 中退共(個人)との対比
 その8 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比
 その9 倒産防(個人) 小規模(個人)、中退共(個人)との対比

 その9までで漏れているのが「中退共(法人)」。なので、今回はこの条文を貼り付けるところから始めます。

 その10 倒産防(法人) 中退共(法人)との対比


 損金算入できることについては、中退共(個人)と同様、政令に規定されています。

法人税法施行令 第百三十五条(確定給付企業年金等の掛金等の損金算入)
1 内国法人が、各事業年度において、次に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は信託金等若しくは預入金等の払込みに充てるための金銭を支出した場合には、その支出した金額(第二号に掲げる掛金又は保険料の支出を金銭に代えて株式をもつて行つた場合として財務省令で定める場合には、財務省令で定める金額)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
一 独立行政法人勤労者退職金共済機構又は所得税法施行令第七十四条第五項(特定退職金共済団体の承認)に規定する特定退職金共済団体が行う退職金共済に関する制度に基づいてその被共済者(事業主が退職金共済事業を行う団体に掛金を納付し、その団体がその事業主の雇用する使用人の退職について退職給付金を支給することを約する退職金共済契約に基づき、その退職給付金の支給を受けるべき者をいう。)のために支出した掛金(同令第七十六条第一項第二号ロからヘまで(退職金共済制度等に基づく一時金で退職手当等とみなさないもの)に掲げる掛金を除くものとし、中小企業退職金共済法第五十三条(従前の積立事業についての取扱い)の規定により独立行政法人勤労者退職金共済機構に納付する金額を含む。)


 中退共(個人)は「給与所得」のおまけと規定されていました。が、中退共(法人)は、きちんと損金のところに規定されています。

 法令レベルではこれだけ。では、通達はどうなっているかというと。

法人税基本通達 9−3−1(退職金共済掛金等の損金算入の時期)
 法人が支出する令第135条各号《確定給付企業年金等の掛金等の損金算入》に掲げる掛金、保険料、事業主掛金、信託金等又は預入金等の額は、現実に納付(中小企業退職金共済法第2条第5項に規定する特定業種退職金共済契約に係る掛金については共済手帳への退職金共済証紙の貼付けを含む。)又は払込みをしない場合には、未払金として損金の額に算入することができないことに留意する。


 専用の通達はこれだけ。現実の納付が必要で未払は不可だと。
 当然といえば当然ですが、中退共(個人)にあった「確定申告期限までに納付したら未払でもOK」というイカれた例外ルールは、中退共(法人)には存在しません。

 前納については専用規定がありません。ので、中退共(個人)同様、汎用規定である「短期前払費用の特例」が使えるものと捉えておきます。

法人税基本通達 2−2−14(短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。



 中退共(個人)との比較で特徴的なのが、月割規定が存在しないことです。

所得税基本通達 37−30(前納掛金等の必要経費算入)
 37−29の掛金等を前納した場合において、当該前納した掛金等のうちに翌年以後の期間分の掛金等があるときは、その前納した期間の属するそれぞれの年分の必要経費に算入する金額は、次の算式により計算した金額とする。
(算式)
 前納した掛金等の総額(前年により割引された場合には、その割引後の金額)×(前納した掛金等に係るその年中に到来する支払期日の回数)÷(前納した掛金等に係る支払期日の総回数)


 月割規定の有無について、その他制度を含めて並べてみると次のとおりとなっています。

【月割規定の有無】
 倒産防(法人) ×
 倒産防(個人) ×
 中退共(法人) ×
 中退共(個人) ◯
 小規模(個人) ◯

 そうすると、法人が中退共を前納した場合、月割で算入することはできないということでしょうか。


 前座として、月割規定がないからといって当然に「月割はできない」と解釈されるわけではない、ということを説明しておきます。

 ここまでの記事では、通達を丸呑みにした上で、法にも通達に月割規定がないということは、法の趣旨として月割をしないという意味だという前提で記述してきました。
 が、規定がない場合に「文言解釈」から導かれることは「規定がない」というだけです。「月割りをする」とか「しない」という結論までいくには、文言解釈以外の解釈操作が必要となります。
 結論として「月割しない」というのであれば、それは「月割をすべきでない」という価値判断のもと反対解釈をしていることになります。規定がない、というただそれだけから結論を導いているわけではありません。

 ただの邪推ですが、中途半端に「要件事実論的思考」が頭に入っていると、『不明な場合は不適用に決め打ちしてもよい』と誤解してしまうような気がします。
 が、要件事実論で決め打ちできるのは、あくまでも事実認定レベルで真偽不明となった場合の話であって。法解釈レベルにおいては、解釈権限を有する裁判官が、自己の責任において一定の結論を出さなければなりません。

 近時の民法の教科書の中には、やたらと要件事実論に阿った記述をしているものがあり。そのせいで、実体法レベルの要件と、訴訟で使う用に改変された要件事実とを混同してしまうのかもしれません。
 一緒くたにしてしまうの、短期間で民法も要件事実論も学習するには効率的なやり方かもしれません。が、別々のレベルの問題であることは、最初の学習段階でしっかり叩き込んでおいたほうがよいと思います。

 なんでこんな余計なことを言うかというに。
 下記のような、実体法上の要件についての議論をきちんと詰めないまま、要件事実論に手を出すことで悲惨な事態に陥ってしまう状況が、見るに耐えないからです。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 実体法上の要件がふんわりしたまま、それを要件事実に翻訳するなんてできない、という基本的なお作法がどうも理解されていないように感じるわけです。

 余談ついでに。
 「租税法律主義」を根拠として『文言解釈が原則』という方々がいるのですが。ここで月割すべきかどうかを導くにあたって「文言解釈」だけではどうにもなりません。書いてないんだから。
 租税法で法解釈が問題となる場面において、「文言解釈」一本でどうにかなる領域なんてほとんどないと思うのですが。やたらと文言解釈を過大評価しているように感じます。


 盛大に話がズレたので、元に戻ります。

 結論としては、月割規定がなくても月割できると考えます。

 というのも、中退共は、一度充当されたら支払った法人・事業主に戻ってこないという点で費用性が高いといえます。そのため、原則規定である法人税法22条3項2号が適用されて、「期間対応」ルールに従うことになると思われるからです。

法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


 ただ、その理屈でいうと、中退共(個人)も所得税法37条1項により「期間対応」が適用されるのに、なぜ通達に「月割規定」があるのか疑問が出てきます。

所得税法 第三十七条(必要経費)
1 その年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く。)の額とする。


 この点は、「中退共(個人)は未払計上に関するイカれた例外ルールがあるので、原則である月割を明記しておいた。」と説明できるでしょうか。
 月割規定がなくても法の「期間対応」ルールで対応できるものの。イカれた例外ルールが使える範囲を明確にしておくため、通達にも月割規定を盛り込んでおいたと。

 もちろん、こんなものはただの後付けにすぎません。法人・個人それぞれの通達立案者がそんなことを意識して、書き分けをしたわけではないでしょう。
 が、それらしい説明にはなっていると思うので、何かで困ったらこの説明を使って、凌いでいただければ。


 では翻って、同じく月割規定のない倒産防(法人)・倒産防(個人)も、月割算入できるでしょうか。

 中退共が月割算入できることの根拠は、費用性の高いものなので法の規定する「期間対応」が適用されることによるものでした。他方で、倒産防は極めて資産性の高いものであり、措置法により無理やり損金・必要経費にしているにすぎないといえます。

 そうすると、倒産防には「期間対応」が適用されず、支払ったときに全額算入できるか全額算入できないかのどちらかしかないことになるのではないでしょうか。

 このような解釈を前提としているのかどうかよく分かりませんが、「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」「別表10(7)」では、「当期・当年に支出したもの」だけが損金・必要経費に算入できる書きぶりとなっています。
 ので、翌期・翌年になって充当されたタイミングでは、損金・必要経費に算入することはできないということになるかと。


 小規模共済(個人)については、「所得控除」のカテゴリに入っているので、あえて倒産防・中退共との整合性を求める必要はそれほど高いとは思いません。

 が、現行の所得税法が本当に《包括的所得概念》を採用しているというならば、いずれも所得の減少事由として共通するはずであり、同一の理由付けによる必要があるでしょう。

 ということで、《包括的所得概念》の支持者の方々は、今回の月割の問題にかぎらず、前納ルールや2年制限ルールなど、各制度で不揃いになっていることについて、『純資産の増加+消費』という公式から統一的な説明をしていただけますでしょうか。よろしくお願いいたします。
posted by ウロ at 12:14| Comment(0) | 法人税法

2024年02月19日

みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案

 この時期になっても、税制改正ネタを税制改正大綱「のみ」を素材として記述している記事、信頼性は低いと決めつけてもらってもいいと思います。

 というのも、この時期になると財務省から「法律案」が公表されます。そのため、制度の正確な理解をするためには、法律案を読み込むことが必須となります。

第213回国会における財務省関連法律(財務省)
所得税法等の一部を改正する法律案
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/213diet/st060202h.pdf
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21309001.htm

 もちろん、現時点ではまだ「案」だし。法律で全てカバーされているわけでもなく。これ以降に公表される政令・省令、通達もあわせて確認する必要はあります。
 が、少なくとも、法律でカバーされる予定のものは、法律案から読み取るべきものでしょう。

 とはいえ、成立後ですら条文を読まない節税ライターさんの記事が溢れかえっている現状で、法律案にまで目を通せというのは無茶な要求なのかもしれません。
 インボイスの8割控除でデマの拡散に協力した、という前科があるにもかかわらず。更生が見込めないのが哀しい現実。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版

 今回、特にたちが悪いのが「定額減税」。
 成立前だというのに、先走って「特設サイト」なんてものまで作られていて。

定額減税特設サイト(国税庁)

 Q&Aワナビーの方々が大好きな「国税庁Q&A」もすでに出来上がってしまっています。
 法律案を無視して、「Q&A」だけみてあーでもないこーでもないと言うだけの記事が、これから雨後の筍のように溢れかえるのでしょう。

  理想:大綱→法律案→法律 (Q&A等は参考どまり)
  現実:大綱→Q&A (法律案・法律は見ない)


 以上は単なる前置きです。
 先日触れた「倒産防」の改正につき、法律案が公表されたのでフォローしておきます、というのが本論です。

みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱

 法律案は次のとおり。

第六十六条の十一第二項中「前項」を「第一項」に改め、同項を同条第三項とし、同条第一項の次に次の一項を加える。
2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。


 これを現行法に溶け込ませると、以下のとおりとなります。

第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金

2 前項(第二号に係る部分に限る。)の規定は、法人の締結していた同号に規定する共済契約につき解除があつた後同号に規定する共済契約を締結した当該法人がその解除の日から同日以後二年を経過する日までの間に当該共済契約について支出する同号に掲げる掛金については、適用しない。

3 第一項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。


 あわせて適用時期に関する経過措置は以下のとおり。

(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例に関する経過措置)
第五十三条 新租税特別措置法第六十六条の十一第二項の規定は、法人の締結していた同項に規定する共済契約につき令和六年十月一日以後に解除があった後同項に規定する共済契約を締結した当該法人が当該共済契約について支出する同項に規定する掛金について適用する。


 まあ、特にサプライズもなく。大綱に規定されたとおりの条文となっています。
 とはいえ、インボイスにおける「8割控除」のときのような例もあるわけで。立案者がヘンテコなオリジナリティを発揮していないか、きちんと確認しておく必要があります。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺

 倒産防に関しては、大綱に書かれたことを素直に条文化したものと評価できるでしょう。しかしまあ、8割控除はなんで勝手に内容変えちゃったんでしょうかね。


 それはさておき。

 すでに記事にしたとおり、通達における前納1年限定ルールや、法人税法における益金ルールとの絡みが、相変わらずスッキリしないままです。

 法律案の書きぶりからすると、たとえば、解約後すぐに再加入した場合、2年間は損金不算入ですが、そのまま払い続けていれば2年経過後からは損金算入できることになります。
 別に解約後に即再加入することが禁止されているわけでなく。ただ単に損金算入ができないというだけですので。

 で、この状態から40か月分納付後に解約した場合、結論だけでいうと、最初の2年に対応する解約手当金は益金不算入、残りは益金算入とするのが妥当だと思います。
 が、このような区分を、法人税法22条2項の益金ルールだけから導くことが可能なのでしょうか。法人税法における益金ルールと損金ルールはそれぞれ別モノであって。《オセロ思考》によって結論を導くことはできない、ということはすでに論じたとおりです。

 また、解約後2年以内に再加入して1年分前納した場合はどうなるか。文言どおりなら「支出」の時点が2年以内かどうかで判定することになるでしょうか。

 このあたり、さすがに通達で何かしら触れるような気もしますが。さて、どうなるでしょう。

みんな大好き!倒産防(その6) 〜小規模共済もお好きでしょ
posted by ウロ at 11:23| Comment(0) | 法人税法

2024年02月05日

みんな大好き!倒産防(その4)。 〜令和6年度税制改正大綱

 倒産防なんて、節税ライターの方々の鉄板ネタであって。
 私のような条文イジり屋の出る幕など、何も無いと思っていたのですが。

みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱
みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱


 意識が低いとなかなか気づきにくいだけであって。何ごとにも、何かしらの「イジり代(しろ)」があるものですね。


 以下、いきなり余談。

 近ごろは税制があまりにも複雑怪奇になりすぎて、節税ライターの方々の扱えるネタ、この倒産防と短期前払費用の特例くらいしかなくなっているんじゃないですかね。

 研究開発税制・設備投資税制・所得拡大促進税制あたりは、使えるものならガンガン活用していくべきもののはずですが。節税ライターの皆さんが免罪符として宣う「一般の方にも分かりやすく記述する。」という執筆方針では「給与増やしたら税金減るよ(詳しくは税務署へ)」程度のことしか書けず、適用要件も減税額も、記述しきることができなくなっているのではないかと。
 下手に単純化して書こうとすると、不正確極まりない内容になってしまうでしょうし。

 その手の記事、最近はおよそ目にも入ってこないので、単なる邪推ですが。
 

 話は戻って。

 上記一連の記事では、掛金納付の「損金」算入側をメインに扱っていました。
 が、解約手当金の「益金」算入についても、いまいちしっくりこないところがあり。

 素朴な《簿記脳》からすれば、次のような図式が思い浮かびます。

  A 掛金納付:費用 ⇒ 解約手当金:収益
  B 掛金納付:資産 ⇒ 解約手当金:△資産

 掛金納付時に費用計上したなら解約手当金は収益となる(A)、掛金納付時に資産計上したなら解約手当金は資産のマイナスになる(B)、と。

 が、税法の側ではストレートな「費用=損金」「収益=益金」という図式は成り立たず。それぞれ法令に定めるところに従います。

 損金・益金についての原則ルールが「法人税法22条2項・3項」です。

法人税法第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


 これだけで済めば、まだよいのですが。残念ながらそんな単純な話ではない。
 各項にいう「別段の定め」によって原則ルールが歪められています。


 「歪められている」という言い方をしたのはなぜかというと。税法世界では、美しい簿記世界とは異なり、必ずしもプラス/マイナス、表/裏が一致するとは限らないからです。

 たとえば、「交際費」の損金不算入ルール。
 支払った側が損金不算入となるのに、もらった側(接待を受けた人ではなく利用店舗のほう)は普通に売上として益金算入しなければなりません。

  支払側:損金不算入(措置法61条の4)
  売上側:益金算入(原則)

 「一方がマイナスなら他方はプラスのはず」という素朴な感覚が、税法世界では通用しません。表裏を揃える必要がある場合には、「グループ法人税制」の寄附金・受贈益ルールのように、

  あげた側: 損金不算入(法人税法37条2項)
  もらった側:益金不算入(法人税法25条の2)

と、両面から規定しなければなりません。
 それぞれの条文の場所からも分かるとおり、「グループ法人税制における贈与/受贈ルール」という単体の制度があるわけではなく。益金ルールと損金ルールが別々に規定されています。


 ちなみに、グループ法人税制の寄附金・受贈益ルールが、条文編成において散らかってしまっている理由。

 税法の構成が
  本法; 恒久的・原則
  措置法:一時的・例外
の二本立てとなっていることが要因かなあと。

 というのも、グループ法人税制、「完全支配関係」にある法人間に関する制度という意味では、例外的な制度のはずです。なので、措置法に法人税法の特例としてまとめて規定してもよかったはずです。
 が、恒久的な制度でもあるがゆえに、法人税法本法に組み込まざるをえなかったと。で、寄附金・受贈益については、法人税法の中に個別ルールが書かれているから、それぞれ切り出してその中に配置せざるをえなかったのではないかと。


 もうひとつ余談。

 本ブログにおいて、『消費税法の理論構造』というサブタイトルのもとで長々と記事を書き連ねているやつ。あれこれ書いているものの、本当に言いたいことは唯一つ。

 「消費税法の条文をあるがままに理解するかぎり、売上課税ルールと仕入控除ルールはそれぞれ別の原理で作動している」

ということです。売上側は譲渡すれば問答無用で課税されるのに、仕入側は、あれやこれやの制約により控除ができるとはかぎらないことになっています。
 《両輪駆動》云々といった妄言は「だったらいいな」レベルの与太話であって。およそ現実の消費税法の構造を表す表現とはなっていません。

 法人税法における「益金/損金」も、消費税法における「課税/控除」も、素朴な《オセロ思考》は通用せず。それぞれの規定に従って要件該当性を判断する必要があるということです。

 ※オセロ思考とは:表が白なら裏は当然黒だろ、と思い込む考えのこと。


 で、話は「倒産防」に戻ってきます。

 まず掛金納付が「損金」となるかというに。
 「納付月数40ヶ月で返戻率100%に到達し、その後目減りすることがない」なんてもの、保険通達のノリからすれば、100%資産だと言われてもおかしくないはずです。それを措置法が100%損金に全振りしているというのは、措置法の政策立法としての面目躍如、ということでしょう。

 また、解約後2年は損金算入できないとしたり、通達レベルで前納1年までに制限しちゃっているのも、そもそも法人税法の原則からすればとても損金とはいえないものを、措置法様が損金にしてあげているだけのものだから、だとすれば納得がいきます。

 「別表添付しなきゃ損金算入させねえよ」(措置法66条の11第2項)というところも、一見傲慢に感じますが。もともと損金じゃないものを特別に損金算入認めてやっている、という点からすれば正当化できるでしょうか。


 そのことを前提として。問題は「益金」のほうです。

 もともと損金とならない掛金を措置法によって損金にしているだけ、ということを前提とするならば。その掛金の戻りである解約手当金も、何らかの規定がないかぎり益金とはなりえないのではないでしょうか。

 掛金納付: 資産(原則) ⇒ 損金(措置法)
 解約手当金:資産マイナス?(原則) ⇒(規定なし)

 表裏を揃えるには、上述の「グループ法人税制」のとおり、両面から規定しなければなりません。が、(私の見落としがなければですが)、解約手当金を益金算入する旨の規定は見当たらないですよね。
 「掛金納付が損金算入なら、解約手当金は当然に益金算入」というのは、文言上はいえないことになります。

 では、法人税法22条の解釈論として「掛金納付は3項の損金にあたらないが、解約手当金は2項の益金にあたる」ということを導くことは可能でしょうか。

   原則:掛金納付は本来は資産なので損金算入できない。
   例外:措置法が特別に損金算入を認めている。
という損金側の構成を前提としつつ、解約手当金を益金と解釈するのは、極めて困難です。

 掛金納付の資産性を根拠付けているのは解約手当金が戻ってくるからであり。預けた資産が戻ってきただけならば、益金とは言い難いでしょう。
 措置法は、掛金納付が会計上の「費用」だと解釈しているのではなく。ダイレクトに税法上の「損金」と扱っているだけです。

 この帰結を回避しようとして、解約手当金は預けた掛金がそのまま戻ってきたものではない、と性質が別だとして切り離そうとすると、今度は掛金の資産性を根拠付けるものがなくなってしまいます。
 掛金納付が資産でないなら、わざわざ措置法によるまでもなく損金算入できることになってしまいます。

 これらのことからすると、解約手当金が益金であることについて法令上の根拠は特にない、ということになりはしないでしょうか。


 解約手当金の益金算入を根拠付ける条文がない、などという畢竟独自の見解。一般の通念におもいっきり反することであり。

 私がものすごい思い違いをしているだけのようにも思うので、実務において主張するつもりは全くありません。仮に裁判になったとして、裁判所が「アクロバティック趣旨解釈」に依拠して『益金算入当たり前!』みたいな判決を出すことも、容易に想像できるところ。

 以下の高裁判決、私個人は、文言ガン無視の「アクロバティック趣旨解釈」の一味だと思っているのですが。残念ながら、一般には積極的に受け入れられているようですし。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 ということで、皆様方におかれましては、各自の信ずるところに従って税法解釈を展開されてみてください。

みんな大好き!倒産防(その5) 〜令和6年度改正法律案
posted by ウロ at 11:54| Comment(0) | 法人税法

2024年01月29日

みんな大好き!倒産防(その3) 〜令和6年度税制改正大綱

 前回の記事の中で、倒産防の掛金の損金算入ルールの構造を次のとおり記述しました。

みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い
みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱

【倒産防】
 A 法人税法  (全額は?)できない。
 B 措置法   できる。
 C 措置法通達 前納1年まで

 今回は、この構造についてもう少し掘り下げます。


 まず、損金算入の大原則は、法人税法22条3項に定めるとおりです(以下では、損金算入できることを「費用性あり」などと表現します)。

法人税法 第二十二条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの


 この原則によらない場合には、同項にいう「別段の定め」が必要となります。


 若干まわり道をして、他の費用の扱いについて触れます。

【寄付金】
 A 法人税法 できる(22条)
 B 法人税法 制限される(37条)

 寄付金は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、同法37条により制限されます。

【交際費】
 A 法人税法 できる(22条)
 B 措置法  制限される(61条の4)

 交際費は、法人税法22条3項に該当するかぎりは損金算入できるはずですが、措置法61条の4により制限されます。

 寄付金と交際費、法人税法の解説書の類では損金不算入モノとして並べて記述されることが多い。ですが、不算入の根拠法が本法か措置法かで異なっています。
 いずれにしても、法律レベルで「別段の定め」を設けることにより、一部損金不算入になるということです。

【保険料】
 A 法人税法  できるものとできないものがある(22条)
 B 法人税通達 できる/できないを形式で振り分ける(9-3-1〜)

 保険料(定期保険・養老保険等)については、ご存知「法人税基本通達」にびっしり規定されているところです。

法人税基本通達 第3節 保険料等

 保険料の中には、費用性のあるものと資産性のあるものとでごちゃまぜになっているものがあります(というか保険会社が意図的にそうしている)。これを割り振るにあたって、個別の保険契約ごとに判定なんてしていられないわけです。
 そこで、通達で「割り切り(決めつけ)」をしているということです。

 もちろん、所詮通達なので、納得のいかない納税者の皆さんは訴訟で争うことが可能です。が、裁判所が「明確性・安定性」といったマジックワードで保険通達を全肯定するであろうことは、火を見るよりも明らかです。

【マジックワード租税判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 なぜ、寄付金・交際費は法律レベルで「別段の定め」が設けられているというのに、保険料は通達レベルで差配しているのかというと。
 寄付金・交際費の損金不算入は、そもそも費用性が備わっているものにつき損金算入を否定することから、法律レベルで規定することが必須です。に対して、保険料は資産性/費用性の区分を通達使って解釈入れている、という位置づけになります。
 費用性があるのに通達で資産として扱う、ではなく、通達が資産としているものは最初から資産なんだと。で、多少のズレがあったとしても「明確性・安定性」を言い訳にもってくればセーフになると。


 で、倒産防に戻ってきます。上記を踏まえて表現を少し修正します。

【倒産防(改正前)】
 A 法人税法  できる部分とできない部分がある(22条)。
 B 措置法   できる(66条の11)。
 C 措置法通達 前納1年まで(66の11-2)。

 倒産防についても「解約返戻金」があることから、費用の部分と資産の部分の両方があることになるはずです。これを措置法では政策的考慮を入れて、損金側に全振りしています(なお、法文上は損金算入「する」ですが、便宜上「できる」と表現します)。
 寄付金・交際費については、費用を損金不算入とするための「別段の定め」だったのに対し。倒産防は、費用でないものを損金算入とするための「別段の定め」だということです。

 ところが、通達では前納1年までに限定してしまっています。
 措置法が全額損金算入するとしているのに、通達が勝手に限定してよいのか、ということが一番最初の記事で検討した論点となります。そこでは、「充てるため」の読み方を工夫することで、通達を拡張規定と捉えることができるのでは、というアイディアを示しました。
 
 今回、ABCと並べてみて、
  A 費用性のあるものだけを損金算入する。
  B 資産部分も含めて全額損金算入できる。
  C Bで広げすぎたのでA方向に微調整。
と通達を位置づけることができるかも、と思いました。
 B・Cだけ見ていると、CがBに反すると思いきや。Aまで視野に入れれば、必ずしも違法ということにはならないのではないかと。

 が、A・Bとの関係は「前法/後法」あるいは「一般法/特別法」であって。法解釈のお作法どおりの理解からすれば、Bが優先適用されることになります。
 ので、CがAに適合しているからといって、やはりBに反することは許されないはずです。何かしら、Bに反しないようにCを位置づける必要があります。

  B>A≒C


 さて、今回の改正事項である、解約後2年間は損金算入できないというルールについてですが。

 措置法第66条の11に、単純に制限規定を追加することになるでしょうか。もしそうだとすると、通達の書きぶりも、若干修正を入れることになりそうです。

【倒産防(改正後?)】 
 A 法人税法  できる部分とできない部分がある。
 B 措置法   できる。ただし解約後2年はできない。
 C 措置法通達 前納1年まで


 2年という期間で区切るということは、掛金のうち資産の部分にとどまらず費用の部分も損金算入が否定されることになります。
 交際費や寄付金は、それぞれ損金算入を制限する実質的な根拠があったわけですが。倒産防の2年ルールにはそのような実質的な根拠が見いだせるでしょうか。「損益調整は許さない。」という、どちらかというと「役員報酬」のルールに近い理由つけが採用されることになるのかもしれません。

 もし、掛金がそもそも費用性を有しないものであったならば、措置法が損金でないものを特例で損金算入できるようにしているだけ、原則は損金不算入なのだから2年制限したとしても問題ない、といえたところです。

【費用性がないとしたら】
 A 法人税法  できない。
 B 措置法   できる。ただし解約後2年はできない。

 が、一部とはいえ損金性も有しているものの損金算入を否定するには、何某かの実質的な根拠が必要になるはずです。まあ、40ヶ月分たまれば返戻率100%になるということで、もともと費用性は極めて弱い、ということなのかもしれませんが。


 なにか思い違いをしているような気もしますが。私が理解するところの、改正後措置法の構造。

倒産防2年ルール.png


 通常の場合、費用部分は法人税法の原則どおり、資産部分は拡張規定。解約後2年間については、費用部分は制限規定、資産部分は原則どおり。
 というように、原則・拡張・制限が入り乱れたキマイラ感溢れる規定になってしまうのでしょうか。

【キマイラ税法】
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に

みんな大好き!倒産防(その4) 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:30| Comment(0) | 法人税法

2024年01月22日

みんな大好き!倒産防(その2) 〜令和6年度税制改正大綱

 みんな大好き!!倒産防。ですが、ちょっと嫌いになる人が増えるかも、というお話。
 
みんな大好き!倒産防(その1) 〜措置法解釈手習い

 令和6年度税制改正において、「解約したら2年は再加入できないよ。」という規定が入ることになるようで。
 正しくは「加入するのは勝手だが、損金算入させねえよ。」ですが、現実世界においては、哀しいかな同義でしょう。

5 その他の租税特別措置等
(国 税)
〔廃止・縮減等〕
(13)特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例における独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済事業に係る措置について、中小企業倒産防止共済法の共済契約の解除があった後同法の共済契約を締結した場合には、その解除の日から同日以後2年を経過する日までの間に支出する当該共済契約に係る掛金については、本特例の適用ができないこととする(所得税についても同様とする。)。
(注)上記の改正は、令和6年10月1日以後の共済契約の解除について適用する。


 単なる繰り延べだし、個々の金額も可愛いものだし、わざわざ改正するほどのものかと感じるところ。機構の側からしても余計なことしやがって、ということでしょうし。

 改正いれるぐらいだから、相当な金額が実施されていたのでしょうか。改正されたとして、機構への金員流入がごっそり減るのか、それとも解約のほうが減ることになるのか。

 お国の方針としては、抜けて入ってで益金調整に使うのは認めないんだと。そうだとして、同期中に限らず、2年も制限されるのはよく分かりませんが。
 解約したけど事情が変わって翌期には再加入したい、という場合もあるだろうに(最初に述べた通り、再加入自体が禁止されるわけではないでしょうが)。

経営セーフティ共済(独立行政法人中小企業基盤整備機構)


 なお、大綱の読み方ですが、「本特例の適用ができない」と書いてあることから、『前納が損金算入できないだけで毎月分は損金算入できるはず』みたいな読み方をされる方がいるかもしれません。

 が、倒産防の掛金の損金算入ルールは、

 A 法人税法:(全額は?)できない。
 B 措置法:できる。
 C 措置法通達:前納1年まで

という構成になっています。
 「前納1年」というのは、措置法本体ではなく通達が勝手にそう言っているだけで。損金算入できること自体が「特例」にあたるので、これが適用されないのであれば、掛金は損金算入できない、ということになります(「全額は?」と書いたのは、疑問を留保している点があるからです)。

 もちろん、今後できあがる実際の条文がどうなるか次第ではあります。が、大綱の記載に従うかぎりは、前納だろうが毎月分だろうが2年間は損金算入できないという意味になるはずです。


 ここまでは、そのへんの《税務お役立ち記事》と同じ、単なる大綱のご紹介です。
 当ブログにおける関心事は、「法令/通達の規律範囲」の問題です。

 上述したとおり、前納による損金算入の範囲が「1年」であることについては、法律ではなく通達に記載されています。
 この通達が、法を「拡張」しているのか「制限」しているのか、いずれの読み方も可能ということを、上記記事では示しました。

 で、今回の改正にあたって、通達に外出しされていた「1年前納ルール」を法律に取り込むのかどうか、ということが、私の個人的な関心事となります。

 法令/通達の規律範囲の変更に関しては、以前、《インボイスいらない特例》でも検討したところです。通達に規定されっぱなしだった《いらない》場合を、政令・省令に取り込む改正が行われたと。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)

 余談ですが、税務においては、通達が相当幅を効かせているというのに。法令/通達の規律範囲について、それ自体を題材とした研究というのが見受けられない(私が知らないだけですか)。

【労務における法令/通達】
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)

 それはさておき。このような規律範囲の見直しが、倒産防に対しても行われるのかどうか。

 私の見立てでは、おそらく何も触れられず、単に「2年不算入ルール」だけが法律に付け加わるのだと思います。「1年前納ルール」を法律に取り込もうとすると、では、なぜ今まで通達で勝手に1年に限定していたのか、ということの問題が可視化されてしまうからです。
 もちろん、通達を《拡張ルール》と読むことで問題は回避できます。が、そういう議論が巻き起こること自体を回避しようとするのが、運営側の生態(と私が邪推している)。

 ということで、自販機特例における氏名省略と同様、法令には取り込まないままにするのではないでしょうか(というか、そういう意思決定すらせずガン無視を決め込む)。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その9) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編44)


 もう一つ検討したい論点があるのですが(「全額は?」と書いたところ)、余裕があれば次回以降で。

みんな大好き!倒産防(その3)。 〜令和6年度税制改正大綱
posted by ウロ at 11:46| Comment(0) | 法人税法

2021年09月06日

非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制

 スピンオフ第2弾、今回は「組織再編税制」について(138頁〜)。

浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯


 「組織再編税制の立法趣旨」という項目で政府税調の『基本的考え方』の記述が引用されています。
 類書も大体そうなんですが、なぜかこの項目のときだけ税調のご意見を引用するのがお決まりのパターンになっているようです。

 が、立法趣旨と立案者意思とを安易に同一視すべきでない、ということは以前も論じたとおりです。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 とはいえ、同一視する高裁判決が実在しているわけで、もはや同一視しないほうが異端なんですかね。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 まだ最高裁が残されているものの、この手の趣旨解釈は残念ながら最高裁でも安易に受け入れられがち、というのが私の見立て。
 どの教科書・解説書も横並びで税調のご意見=立法趣旨と見做してしまっている状況において、「ここがヘンだよ私以外!」と叫んだところで、徒労なのかもしれない。


 「次に示す適格要件等を満たせばある組織再編成が適格と判断され、課税繰延が認められる。」(138頁)

 本書でも「適格外し」のことが書かれているとおり、適格組織再編成は「課税繰延」(利益先送り)となるだけでなく「損失先送り」としても機能します。
 そして、適格要件に該当する以上は問答無用で簿価移転としなければならないので、「認められる」というのは表現として不正確。

 ・適格 :簿価強制
 ・非適格:時価強制

 どちらかが原則でどちらかが例外、ということでもありません。
 もちろん実態としては、「利益先送り」狙いで使われることが多いのかもしれません。が、まずは色眼鏡を外した状態からスタートすべきでしょう。

 前回記事のように結論反転させないかぎり、原則/例外で説明したって別にいいんじゃね、と思うかもしれません。ですが、原則/例外と表現することに私が危惧しているのは、次のような『要件事実論』を展開する輩が現れかねないからです。
 すなわち、

【適格/非適格要件の立証責任の分配(民事横流し系)】
 ・時価移転(非適格)が原則で簿価移転(適格)は例外。
 ・ゆえに、時価移転を主張する側は合併の事実を立証するのみで足りる。
 ・例外である簿価移転を主張する側が「適格要件を満たすこと」を立証しなければならない。
 ・適格要件が真偽不明となった場合は非適格と認定される。
 ・このように分配することは、消極的事実(適格でない)ではなく積極的事実(適格である)を負担させるべきという要件事実論の基本コンセプトにもかなう。

 いかにも要件事実論のお作法に従った綺麗な分配のように見えます。
 が、民事要件事実論の発想をそのまま税法へ横流してもよいのかは極めて疑問です。

 上記分配で「課税庁」「納税者」の特定をしていないことからも分かるとおり、適格/非適格のどちらが納税者有利/不利になるかは、局面によって入れ替わります。
 仮に、納税者が簿価移転を望む場合、上記分配によれば納税者が適格要件を立証しなければならず、立証に失敗した場合には時価移転の不利益を受けなければならないことになります。

 このような負担を納税者に負わせてもよいものなのかどうか、特に「真偽不明」でも非適格扱いとされるのがよいのか。原則非適格とする考えからすれば何の問題もない、となりそうですが、私には疑問です。
 「非適格=法人税法、適格=措置法」とでもなっていれば、まだありえたかもしれませんが、どちらも法人税法本法に収まっていますし。

 租税法の大原則からすれば、課税処分の適法性は課税庁が主張立証しなければならないはずです。この大原則からするならば、適格が適法性を基礎付けるならば適格を、非適格が適法性を基礎付けるならば非適格を、それぞれ課税庁が主張立証する、とすべきでしょう。
 が、「課税要件事実論に詳しい」みたいな人たちは、いかにも上記の民事横流し系の分配論を展開しそうです。これは穿った見方でしょうか。

 例の奇妙な課税要件事実論が、誰からも批判されることなく放置されている現状からして、租税法学における要件事実論の受容というのが、未だ満足に行われていないのではないか、というのが、極めて個人的な私の見立てです。

伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)


 「完全支配関係とは、一の者の法人の発行済株式等の全てを直接または間接に保有する関係をいう」(139頁)

 条文上の定義を、親切心でわかりやすく簡略にしただけ、のつもりかもしれません。
 が、完全支配関係には、親子孫関係(縦)だけでなく兄弟姉妹(横)の関係もあることが、記述から抜け落ちてしまっています。

法人税法2条
 十二の七の六 完全支配関係 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう。


 条文でいうところの後段が削られてしまっているということです。
 そして、横の関係の場合には適格要件として「株式継続保有要件」が要求されるわけですが、このことが抜け落ちてしまっています。

 例の「見込み」(⇒法的安定性?)のやつです。

中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)

 なんの考えもなしに条文引き写ししておけば間違えずに済んだのに、という前回と同じ類の間違い。


「ここで注意深い読者なら、株式継続保有要件を満たす必要のない場合、投資の継続と支配の継続の両方がなく、課税繰延を認める理由がないのではと冴るかもしれない。共同事業要件の存在は、合併前後における事業の継続性や関連性の存在から経済実体の不変更とみるか、または、「選択と集中」を支持する産業政策の要請によるとみるしかないであろう。」(140頁・共同事業要件)

 なぜ、「みるしかないであろう」などという、仕方ない感溢れる物言いをしているのでしょうか。これは、政府税調の『基本的考え方』を立法趣旨と同一視することからくるものでしょう。
 しかし、実際にできあがった制度の個別要件からスタートして解釈するのであれば、こういう評価にはならないはずです。現行法が実際に要求している要件が『基本的考え方』にそぐわないのであれば、それは『基本的考え方』のほうが現行法にそった内容になっていないと評価すべきでしょうよ。

  × 基本的考え方 → 現行法 (基本的考え方のとおり条文化されていないのは不当)

  ○ 基本的考え方 ← 現行法 (現行法で実現していない基本的考え方は通用しない)


 引用は省略しますが、欠損金引継ぎの具体例として、被合併法人T・合併法人Aとも支配関係成立前の欠損金は引き継げないが、成立後の欠損金は引き継げるという例があげられています(141頁)。

 が、支配関係成立前後で取り扱いが変わることが、その前の段落の制度説明の箇所に記述されていません。ので、なぜ支配関係成立前後で帰結が変わるのか、さっぱり理解できないでしょう。

 本書は、数値を含んだ事例での解説が豊富なので、理解しやすいところは非常に理解しやすいです。が、このように制度説明とあてはめの対応関係が欠落しているところがあったりします。

      類書  本書
 制度説明 多い  少ない
 具体例  少ない 多い

 なんですか、コモンロー的に事例(だけ)で理解しようぜ、ってことですか、租税法なのに。

 また、合併法人Aの欠損金も「引き継げる」と表現されていますが、AはAの欠損金を制限なしにそのまま使えるということであって、他社から引き継ぐものではありません。ここも、正確に言葉を使いわけましょう、という問題です。

 次回はスピンオフ第3弾、「リバースチャージ」についてです。

引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
posted by ウロ at 09:42| Comment(0) | 法人税法

2021年08月30日

留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯

 今回から数回ほど、前回記事のスピンオフ記事を掲載する予定です。
 
浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
 (以下「本書」といいます)

 今回は「留保金課税」について(126頁)。


 第1刷では、盛大な間違いをおかしています。
 最初、知らない間にこんな大改正が入ったのかと思って一瞬焦ったのですが、単なる本書の間違いでした。
 出版社のサイトに正誤表が載っていますので、そちらをご確認ください。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8378.html

 訂正前の記述では、留保金課税が適用されるかどうかにつき、
  ・資本金1億円以下の会社に適用される
  ・資本金5億円以上の大法人の100%子会社は除かれる

などと、まったく正反対のことが書かれていました(※念のため、上記間違いですよ)。
 
 ただ単にひっくり返しちゃっただけじゃん、と思うかもしれません。が、たとえば『課税売上高1000万円の場合には消費税免税事業者となる』などといったとしたら、その感覚を疑われますよね。

 参考まで、このひっくり返しによる違いがどれくらいの「ボリューム感」となって現れるかを、以下の統計資料で見てみましょう。

令和元年度分 会社標本調査結果

 統計表⇒第11表法人数の内訳によると、資本金1億円以下/超で区切った同族会社数とその割合は次の通りとなっています(ついでに特定同族会社も)。

 資本金1億円以下/超
    同族会社 2,632,648/10,012 99.62%/0.38%
  特定同族会社     23/3,829   0.6%/99.4%

 これを反転させるって、なかなかの致命傷。

 普通の教科書だと、このあたりの定義は条文引き写しで済まそうとするので、むしろこの手の間違いは生じにくいところです。本書では親切にも噛み砕いて説明しようとしたことが、逆に仇になったといえなくもない(擁護)。


 邪推するに、次のような先入観があったのではないでしょうか。すなわち、

 ・留保金課税は利益を溜め込みがちな会社向けの制度。
 ・規模が小さく、大企業に支配されていないような会社のほうがより溜め込みやすいはず。
 ・そういう企業を狙い撃ちするため、より規模の小さい会社に絞って適用するはずだ。

 あくまでも邪推ですが、そうとでも勘違いしなければこんな反転やらかしませんよね。

 実際にご本人の意図がどうだったかは別として、このような勘違いが生じうる要因というのを以下検討してみます。
 なお、間違えをあげつらう趣旨ではなく。超頭のいいはずの先生でさえ勘違いした要因を辿ることで、我々常人はどのようなことに気をつけておく必要があるかを理解する、という趣旨です。


 留保金課税制度では、
  ア 株主構成基準 (支配が強ければ適用)
  イ 資本金基準 (規模が小さければ除外)
のふたつの基準で適用範囲をコントロールしています。

 このうち、アが「溜め込みやすさ」の指標であり、留保金課税制度の内在的な要件ということができます。他方で、イは「溜め込みやすさ」とは直接関係がなく、規模が小さいのに税負担重くするの可哀想、という趣旨でしょう。ので、こちらは外在的な制約要素ということができます。

留保金課税.png


 本書(訂正前)は上図の×を適用あり、○を適用なしと間違えたということです。

 上図ではアイはそれぞれ別々の観点からの基準だということで、それぞれを縦軸(株主構成基準)・横軸(資本金基準)に配置しています。他方で、法の規律を気にしないで「大小」という観点から横並びにすると次のようになります(上下に並べてますが慣用句としての「横並び」)。

溜め込みやすさ.png

大小.png


 もちろん、特定同族会社だからといって規模が小さいとは限らないわけですが、なんとなくのイメージだけを先行させるとこういう配置になります。そして、上段で左にいけば留保金課税の適用を受けるということは、下段も左にいけば留保金課税の適用を受けるはずだ、と勘違いをすると上記の間違いを導くことができます。

 実際にどういうつもりだったかはご本人のみぞ知るところです。ですのでこれは、間違いの要因を推測することで自らの勘違い防止に役立てる、という限りでの検討ということです。


 「趣旨解釈」というのは、いかにも法解釈のお作法に則った正統な解釈手法であるかのように思われがち。ですが、いうところの「趣旨」が、実定法以外のどこかから持ってきたものによるならば、砂上の楼閣にすぎない、ということが分かります。

 このことは、TPR事件の高裁判決に対しても指摘をしたところです。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 また、小規模宅地等の特例の家なき子特例の趣旨を「出戻り保護」だと決め打ちしていることに対しても、個別の要件にそぐわないことを指摘しました。

白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)

 解釈に用いる「趣旨」は、あくまで現行法から取り出すべきものでしょう。
 近時、税理士向けの研修・セミナーの類で、弁護士先生が税理士にリーガルマインドを教える、ということで「趣旨から解釈すべし」というようなことを強調しているのを見聞きします。それ自体はそのとおりなのでしょうが、その趣旨なるものをどうやって見出すかが問題です。
 立案担当者の解説など、条文の外側にあるものを鵜呑みにするのではなく、個々の条文上の要件から抽出すべきものだと、私は思います。


 また、大法人の100%子会社については、「除かれる」から「含まれる」に訂正されたわけですが、その「理由づけ」はそのままになっています。
 いわく、中小法人向けの軽課措置を受けることが問題だからだと。

 が、留保金課税は同族会社向けの「重課措置」であって、そのままの記述では文意がとりにくいです。
 確かに算術的には、

  プラス(軽課)を受けるのが問題 = マイナス(重課)を受けないのが問題

と同じ意味にはなります。ですが、日本語の表現としてはすんなり理解し難いですよね。
 なので、ここの記述を無理やり活かすならば「中小法人として重課措置を受けないことが問題」とでも修正すべきでしょう。

・留保金課税(特定同族会社)
 資本金1億円超  重課措置
 資本金1億円以下 除外
 大法人の子会社  除外の除外


 また、中小法人扱いが問題であることの理由として、「親会社の信用力を背景に資金調達等が可能」ということが書かれています。

 が、資金調達しやすいことと税負担を重くすることとは、どう連関するのでしょうか。資金調達しやすいことそれ自体は担税力を高めることにはなりません。借入金も所得だとする立場を採用しないかぎり。
 資金を集めやすければ稼ぎやすいはずだ(現金⇒利益)、ということでしょうか。

 ただ留保金課税の場面でいうと、「資金調達しやすいんだから利益溜め込むんじゃねえ」ということができるかもしれません。外部調達できるなら内部留保しておく必要ねえだろ、と。
 ではあるのですが、その資金調達を新株発行で行うと100%子会社でなくなって留保金課税から一度外れる、資本金が1億円超になったら再び留保金課税の適用を受ける、ただしそのときの資本構成如何では同族会社ですらなくなっている、という変遷を辿ることになるかもしれません。ややこしい。

1 A法人5000万円(B大法人100%) (Bは被支配会社)
 ↓   ⇒適用あり
2 A法人1億円(B大法人50%、C50%)(BCは資本関係なし)
 ↓   ⇒適用なし(大法人100%支配が外れるので)
3 A法人1億5000万円(B大法人1/3、C1/3、D1/3) (BCDは資本関係なし)
     ⇒適用なし(資本金1億円超だが同族会社でなくなるので)

 資本金基準と株主構成基準は、それぞれ額面と割合という違う物差しを基準としているものの、上記例のように連動して動くことがあるわけです。

 なお、ここでいう「親会社」が「被支配会社でない法人」であるならば、その子会社は特定同族会社から外れます。ので、信用力云々といっているときに「上場企業」を想定しているのだとしたら、それは不正確ということになります。

 いずれにしても、立案担当者の解説などを鵜呑みにするのではなく(下記239頁あたりの解説)、制度ごとにその趣旨を探求すべきものでしょう。

平成22年度 税制改正の解説
 

 ちなみに、上記統計表によれば、資本金1億円未満の特定同族会社は23社しかいないわけで、この選ばれし精鋭のためだけに「除外の除外」規定を設けたということなんですよね。

 普通に教科書に並んで書かれていると、一般的な制度との捕捉領域の広狭が意識されにくいところです。が、どれくらいのボリューム感のある制度なのかも記述しておいてくれると、イメージがしやすくなるかもしれません。


 さて、次回は「組織再編税制」についてです。

非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
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2021年06月07日

珍奇な新規(続) 〜『人材確保等促進税制御利用ガイドブック(令和3年5月31日公表版)』

 前回記事をアップした5/31と同じ日に、経済産業省の「ガイドブック」「Q&A集」がでてました。

珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)

賃上げ・生産性向上のための税制(経済産業省)

 今まで「ご利用」だったのが「御利用」になったのは、何か理由があるのでしょうか。
 P.1の「ご覧下さい。」はひらがなのくせに。

 それはさておき、前回いくつかあげた疑問のうち、回答となっているのは「支給日判定」という点だけでした。
 それ以外は条文をなぞっただけ。

 ということで、「ガイドブック」をベースに、前回記事に関わる部分の検証をしていきます。

 以下、頁数は「ガイドブック」のもの、「A○○」は「Q&A集」のものを指します。
 また、前回同様、条数を省略して、法・令・規のそれぞれ項・号で特定します。
  法 第四十二条の十二の五 3項
  令 第二十七条の十二の五 
  規 第二十条の十 2項


P.3
国内雇用者とは
 法人の使用人のうちその法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者で国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者をいいます。


 前回述べたとおり「国内勤務」は要件ではありません。令の「賃金台帳」で上書きされてしまっているので。

法九 国内雇用者
 法人の使用人(略)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるものに該当するものをいう。

令18
 法第四十二条の十二の五第三項第九号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第百八条に規定する賃金台帳に記載された者とする。


 A24には、その旨書いてあります。
 ので、国内勤務が要件であるかのようなガイドブックの書きぶりは誤解を招く。
 法の「雇用者として」を勝手に「雇用者で」に変換してしまっているのが問題。

P.3
国内新規雇用者とは
 法人の国内雇用者のうち、当該法人の有する国内の事業所に勤務することになった日(労働基準法第107条に規定する「労働者名簿」に氏名が記載された日)から1年を経過していない者をいいます。


 令どまりで、なぜか規の「雇入の年月日」が反映されていません。

法二 国内新規雇用者
 法人の国内雇用者のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるものをいう。


3 法第四十二条の十二の五第三項第二号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内雇用者のうち国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿(労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿をいう。)に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日(次項において「雇用開始日」という。)から一年を経過していないもの(次に掲げる者を除く。)とする。(略)

規 
2 施行令第二十七条の十二の五第三項に規定する財務省令で定める日は、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された同項各号列記以外の部分に規定する国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日とする。


労働基準法施行規則 第五十三条
1 法第百七条第一項の労働者名簿(様式第十九号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもののほか、次に掲げるものとする。
四 雇入の年月日



 また、法・令の繋げ方が、上記『国内雇用者』の定義の書きぶりとは違って、こちらでは令を(カッコ)に入れています。
 この不揃い感、どういうつもりなんでしょうか。

 ということで、前回検討した「実際の雇入日」なのか「記載雇入日」なのか問題は、未解決のまま。

P.4
新規雇用者給与等支給額とは
 国内新規雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額をいいます。


 ここだけが唯一、条文に解釈を加えた部分となります。1年以内は「支給日判定」なんだと。
 法5号に同2号を代入するとそう読めるということなんでしょう。

法五 新規雇用者給与等支給額
 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額をいう。


P.6
 「支給日判定」に従った具体例が図示されています。

 A〜Gまで例があがっているものの、いずれも「月単位」での例になってしまっています。
 が、条文上は「雇入年月日」から1年と、「日単位」で判定することになっているはずです。

 雇入日と支給日がきれいにそろわない場合の悩みが、ここでは一切表現されていません。


 また、「締日判定」が認められるのかどうかがはっきりしません。

 この点、A31、A32には、損金算入した未払給与も含めると書いてあります。これ自体は条文記載のとおりです(法5号)。
 が、これと1年以内判定との関係が不明です。未払計上日で判定してよいということでしょうか。

 もしそうだとすると、3/30で1年が経過してしまう場合は、3/31未払計上分は含めないということになりますか。どうしても含めたければ、3/30で未払計上すればいいのかどうか(30日締めとする合理的な理由があるとして)。


 上述した、A24について気になる点。

 同箇所には、国内事業所で作成された賃金台帳に記載されていれば「海外に長期出張等していた場合でも」「一時的に海外で勤務をしていても」国内新規雇用者に該当する、と書いてあります。

 「一時的」な「長期出張」とは何ぞや、という疑問はありますが、それはさておき。
 「一時的」ではなく1年以上の予定で出国した非居住者の場合はどうなるのか。いやに「一時的」を強調していることからすると、非該当と考えているようにも読めますが、はっきりしません。
 『賃金台帳に記載されていればいい』のであれば、非居住者だろうがなんだろうが、給与等を支給しているかぎり該当するでしょうし。

 ここで問題となるのが、令の文言。

 「労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿」
 「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」


 (日本の)労働基準法を引用しているわけです。
 これの読み方として、

 A 日本の労働基準法が適用される労働者の名簿・台帳に限られる。
 B 日本の労働基準法が定める名簿・台帳の様式に従ってさえいればいい。

のいずれなのか。

 もしAだとした場合でも、非居住者だから当然に非該当になるわけではありません。
 日本の労働基準法が適用されるかどうかについては、僕たち私たちの『法の適用に関する通則法』が存在するからです。

国際私法(カテゴリ)

法の適用に関する通則法
第七条(当事者による準拠法の選択)
 法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

第八条(当事者による準拠法の選択がない場合)
1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

第十二条(労働契約の特例)
1 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3 労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。


 「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」に該当するかどうかを判定するのに、法適用通則法を経由する必要があるのかどうか。
 それとも、税法の側で勝手に、非居住者・国外源泉所得は対象外などと決め打ちしてしまうのか。

 仮に、法適用通則法を経由させるとどうなるか。

 同法の規律では、原則として当事者の選択に委ねることになっています。最密接関連地の強行規定についてさえも、あくまでも労働者の意思表示に委ねられています。
 これをそのまま認めると、名簿・台帳について日本法・外国法の準拠法選択をコントロールすることで、本制度の適用の可否・控除税額を調整できることになりかねません。

 労働者名簿・賃金台帳の作成については罰則による規制があるといっても、それはあくまでも日本法が適用される場合に限られます。
 『強行法規の特別連結』的な発想で、無理やり日本法が適用されることにするのか。
 「的な」というのは、ここで保護しようとしているのは国家の課税権であって、労働基準法上の保護法益などではないからです。およそ当事者が望んでもいない規律を、国家の都合で適用しようとしている。

 A24は、「一時的」という言い方をすることで、非居住者には適用されないかのような《刷り込み》をしようとしています。が、条文上はそういう縛りはありません。
 あくまでも「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」の解釈でコントロールするしかない。


 他方で、Bなら問題がないかというとそういうことではなく。

 賃金台帳を作成するかしないかによって集計範囲をコントロールできてしまうのは同じです。
 不作成による罰則を適用しようとしても、外国法を選択されたらどうなるのか、という問題も同じ。

 賃金台帳につき、「あたる/あたらない」でコントロールするか、「作る/作らない」でコントロールするかの違いにすぎません。


 根本的な問題はやはり、令が法の「国内勤務」を上書きしてしまっているところにあるのでしょう。

 国内勤務かつ賃金台帳に記載、というルールならば、問題がゼロになるわけではないものの、納税者がコントロールできる幅はだいぶ狭まります。

 なぜ、法の実質要件を令では形式要件に置き換えてしまったのか。
 国内賃金台帳に記載があれば国内勤務と「推定」する、という事実認定レベルの問題であれば理解はできます。が、要件そのものを置き換える必要があったのかどうか。

 これもある意味で「台帳課税主義」みたいなものです(逆作用ですが)。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 固定資産税の場合は、形式判断とすることに合理的な根拠があるわけです。そして形式不合理な場合は例外を認めると。
 他方で、本制度において形式判断とすることに合理的な根拠はあるでしょうか。私にはさっぱり思いつきません。


 なお、以前に、「所得税法×著作権法×法適用通則法」の絡みについて検討したことがあります。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(まとめ)

 所得税法にいう「著作権」とは、一体どこの国の著作権なのかと。

 今回は日本の労働基準法を明示的に引用していることから、意味が明確になるかと思いきやそうではなく。
 かえって、日本法に固定したせいで、そもそも適用されるかどうかの問題が生じることになっています。

 国境を跨ぐ以上、準拠法選択の問題は消去されえない。


 『借用概念は、法的安定性・納税者の予測可能性に資する』というのがいかにイリュージョンであるか、ということの一例がまたここに。

金子宏・中里実「租税法と民法」(有斐閣2018)

 お借りするのは勝手ですが、ちゃんとそのお借りの仕方まで明示しておいてくれないと困る。
posted by ウロ at 11:47| Comment(0) | 法人税法

2021年05月31日

珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)

 法解釈フローチャート作成の途中ではありますが、条文出揃ったので例のヤツ検討しておきます。


 散々おイジりあそばせてきた「継続雇用者」概念。令和3年度改正で無事お亡くなりになりました。
 ブログネタをご提供いただきありがとうございました。

【所得拡大促進税制(令和3年度改正前)】
税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)
武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ

 ところが令和3年度改正では、性懲りもなく、新たに「国内新規雇用者」なる概念を産み出しています。
 例によって判定の仕方が怪しいので、以下検討します。

 ブログネタをご提供いただきありがとうございます。


 なお、「中小企業版」の所得拡大促進税制については、この珍奇概念は利用せずに、単純に前期→当期の雇用者給与支給額での比較になっています(要件ごとの助成金を含む・含まないの見極めは必要ですが)。

 計算の仕組みをみるかぎり、ほとんどの中小企業は中小企業版を使うことになるはずです。そうだとすると、この珍奇概念の直接的な影響を受けるのは中小企業版を受けられない法人ということになります。


 まずは、検討事項を限定します。

 「人材確保等促進税制」の要件検討にあたって、気をつけなければならないこととしては他にも、
  ・一般被保険者だけかどうか
  ・役員等の除外者に該当しないか
  ・雇用安定助成金額を控除するか
  ・0円の場合はどう判定するか
などがあります。
 が、今回はあくまでも「国内新規雇用者」の『新規』の部分のみに絞って検討を加えます。

 また、現時点では、イジりの対象になりうる『令和3年度 改正税法のすべて』がまだ出ていません。
 ので、条文のみが検討の対象となります。

 ちなみに、今回は正面から「労働基準法」を絡めた概念規定をしているので、たぶんまた変なことを書いてくれるはずです。


 今回の検討事項に関わる箇所に絞って、大胆に省略しつつ条文を列挙します(租税特別措置法、同施行令、同施行規則)。

法 第四十二条の十二の五(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
1 青色申告書を提出する法人が、平成三十年四月一日から令和五年三月三十一日までの間に開始する各事業年度において国内新規雇用者に対して給与等を支給する場合において、(略)

3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
二 国内新規雇用者
 法人の国内雇用者のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるものをいう。
五 新規雇用者給与等支給額
 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額をいう。

令 第二十七条の十二の五(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
3 法第四十二条の十二の五第三項第二号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内雇用者のうち国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿(労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿をいう。)に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日(次項において「雇用開始日」という。)から一年を経過していないもの(次に掲げる者を除く。)とする。(略)

規 第二十条の十(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
2 施行令第二十七条の十二の五第三項に規定する財務省令で定める日は、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された同項各号列記以外の部分に規定する国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日とする。


 以下では、条数を省略して、法・令・規のそれぞれ項・号で特定します。
 なお、私が財務省サイトの新旧対照表を閲覧した時点では規2の冒頭が「施行令第二十七条の十二の四の二第三項に規定する」となっていましたが、これはアレですか。一太郎濡れ衣騒動のひとつ?

 あわせて労働基準法、同施行規則も。

法 第百七条(労働者名簿)
1 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
2 前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。

規 第五十三条
1 法第百七条第一項の労働者名簿(様式第十九号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもののほか、次に掲げるものとする。
一 性別
二 住所
三 従事する業務の種類
四 雇入の年月日
五 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)
六 死亡の年月日及びその原因



 国内新規雇用者の定義部分を並べると次のとおり。
 枝葉を落として『新規』にかかわる部分のみ抽出します。


 国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるもの

 国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日から一年を経過していないもの

 施行令3に規定する財務省令で定める日は、国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日

 これ、ちゃんと委任の枠内に納まっていますか?
 さらに削ぎ落としてみるとこうなります。

  法 勤務することとなつた日
  令 労働者名簿に氏名が記載された日
  規 労働者名簿の雇入日

 法では「実態」としての勤務開始日を要求しているのに対して、令は名簿への氏名記載日、規は同名簿の雇入日とそれぞれ別の日を指定しているように読めます。
 法と規は、同じものの実質/形式で対応しているようにもみえますが、そうすると令は何だっていうんですか。

 規の読み方として、「記載された」という文言が、
  A 氏名が記載された「国内雇用者の雇入年月日」
と、雇入年月日にかかると読むか、あるいは、
  B 氏名が記載された国内雇用者の「雇入の年月日」
と、年月日にはかからないと読むか、いずれでしょうか。
 Bであれば、法・規は同じものの実質で完全一致することになります。

 言い回しだけからすれば、Bが素直な読み方にも思えます。
 が、実質判断でよいのであれば「勤務を開始した日」と直接いえばいいのであって、わざわざ労働基準法施行規則をかます必要はあるでしょうか。


 仮に、雇入日を間違えて記載してしまった場合、実質と形式どちらで判断するのか。

 「継続雇用者」のときは、労働基準法24条2項違反な支給を認めちゃっていたくせに、労働者名簿は必ず真実に従って記載されていることを前提としているのでしょうか。
 ちなみに、違反時の法定刑はどちらも同じです(労基法120条1号)。

 たとえばですけど、実際は3/1が勤務開始日なのに、3/5に労働者名簿を作成し、そこに間違えて雇入日を3/10と記載してしまった場合、いつが起算点となるのでしょうか。

  勤務開始日 3/1
  氏名記載日 3/5
  記載雇入日 「3/10」(3/5に記載)

 法・規については、上記A読みならば3/1と3/10でズレる、B読みならば3/1で一致ということになります。
 他方で、令では3/5です。

 あるいは、雇入日は勤務開始日に正しく記載したものの、氏名の正式な漢字が分からなかったので、氏名欄だけ空欄の労働者名簿を作成しておいて、後日氏名を追記した場合はどうか。

  勤務開始日 3/1
  氏名記載日 3/15
  記載雇入日 「3/1」(3/1に記載)

 法・規はABいずれでも3/1で一致します。
 他方で、令はあくまでも「氏名」の記載日なので3/15となります。

 このような疑問はあるものの、以下ではすべて同日であるとして話をすすめます(記述は常識的にそぐう「勤務開始日」で代表させます)。


 では、勤務開始日を起算点とした1年経過の判定日はいつになるのでしょうか。

 当然に「事業年度終了日」なのかと思ったんですが、条文上ははっきりと書かれていません。
 ので、可能性としては「各支給日」(または各締日)ごとに判定することも考えられます。 

 事例で考えてみましょう。

【事例1】
 ・3月決算
 ・給与〆日末日・翌月10日支給
 ・給与は支給時に損金計上
 ・Aさん 勤務開始日 2021年3月1日
 ・適用年度 2022年3月期

 「事業年度終了日」で判定するとどうなるか。

支給日計上.png


 事業年度終了日である2022年3月31日時点では、勤務開始日から1年を経過しているため新規雇用者に該当しません。
 他方で、前年度では、2021年3月31日時点で1年未経過のため比較新規雇用者に該当します。しかし、初回支給日が2021年4月10日となるため、前年度中の比較新規雇用者給与は0円となります。
 ので、Aさんの給与は、前年度も適用年度も新規雇用者給与にカウントされません。


 なお、前年度の比較新規雇用者給与が「0円」の場合は、2%増要件満たせないと令22項に書いてあります。とすると、前期の新規給与が0円だと、適用年度になってどれだけ大量採用したとしても適用は受けられないということになってしまいます。

 『前期はコロナの影響もあって新規採用を停止していたけど、今期はどんどん採用していくぞ!』の場合に適用できないという罠。
 3月決算の会社なんてもう手遅れよ。初年度適用は諦めろということですか。

 新規採用を促進する特例じゃないんですか、これ。
 教育訓練費みたいに、0→0はダメだけど0→1はOKとなっていないんですよね(令24項)。

 この事例の場合にかぎっては、前期決算が確定する前であれば、給与の計上時期を支給日から締日に変更することで、0円不可ルールを回避することが考えられます。
 が、締日計上に変更すると前期に13ヶ月分の給与が計上されてしまうので、増加率要件を満たせなかったり、仮に満たせたとしても控除額が少なくなったりするといった問題が生じます。

 なお、中小版にも「0円不可ルール」はありますが(令23)、全体での比較なのでまだましです。
 新規じゃなくても、誰かしら支給を受けていればいいので。

 前期が役員等しかいない場合はダメですが。


 では、「支給日」ごとで判定するとどうなるか。

 この場合は、2021年4月10日から2022年2月10日までに支給を受けた給与が新規雇用者給与となります。
 とはいえ、こちらも前期支給額は無しなので、「0円不適用問題」は解消されません。

【事例2】
 【事例1】で、損金算入時期が「締日」だった場合はどうでしょうか。

締日計上.png


 「終了日判定」の場合は、当然のことながら、新規雇用者に該当するかどうかは【事例1】と同じです。前期は新規該当、当期は新規非該当になると。
 が、前期中に2021年3月分給与が締日計上されているので、同給与が比較新規雇用者給与となります。ゆえに、0円不適用問題は回避できます。
 ではありますが、Aさんは当期新規非該当なので、増加率要件を満たすには、他の人が新規で入る必要があります。「継続雇用者」と違い、同じ人である必要がないのが救いですね。


 「締日判定」の場合は、2021年3月分給与から2022年2月分給与までが1年未経過となります。
 で、2021年3月分給与が前期、2021年4月分給与〜2022年2月分給与までが当期の新規雇用者給与となります。

 結論的にはこれが素直な帰結のような気がしますが、これを条文解釈として導けるものなのかどうか。


 上記事例からすると、「終了日判定」では「とにかくご新規を増やせ」という趣旨を促進できていないですよね。Aさんが当期の新規雇用者ではなくなってしまうわけで。

 また、「支給日判定」でも、勤務開始日・締日・支給日の組み合わせによっては12ヶ月目の給与が抜けてしまうことになってしまいます。
 もちろん、前期・当期の比較に使うものなので、抜けることが必ずしも不利になるわけではありません。前期・当期とで同じルールで集計することが、比較要件では重要です(ので、前期・当期で給与の計上ルールが違う場合にそのまま集計していいのかどうか)。

 とはいえ、上記事例はやはり変です。

 ので、「締日判定」とするのがよさそうです。
 ただし、上記事例では、《初日入社・末日締日・締日計上・締日判定》と、条件をきれいに揃えていたから、単純に集計できました。
 が、これらがズレたときにどうなるか・・・、ちょっと考えるのはやめておきます。


 あとひとつだけ、「退職」した場合はどうなるか。

 「継続雇用者」のときは、24ヶ月支給が要求されていたせいで、結果としてそれら支給を受けられる期間の在籍が要求されていました。
 他方で、「新規雇用者」については、在籍要件が明記されているわけではありません。

 この点、
  終了日判定=終了日在籍
  支給日判定=支給日在籍
   締日判定=締日在籍
と、判定時点と在籍要件が連動しそうですが、必ずしもそうとは限りません。

 ここで効いてくるのが労働者名簿の「雇入年月日」。
 退職したとしても労働者名簿を廃棄しないかぎりは記載された雇入日は残っているわけです。

労働基準法 第百九条(記録の保存)
 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない


労働基準法施行規則 第五十六条
1 法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。
一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日


 ので、終了日判定の場合であっても、退職者も含めて記載された雇入日から事業年度終了日までで1年経過しているかどうかで判定する、ということも考えられます。
 また、終了日在籍を要求してしまうと、「継続雇用者」のときと同様、事業年度が終了するまで誰が集計対象者かが決まらない、という問題が生じてしまいます。

 とすると、終了日判定の場合でも、記載雇入日〜事業年度終了日で1年経過しているかを判定し在籍要件は要求しない、とするのが簡明でよさそうです。


 「支給日判定」「締日判定」の場合はイコールでもよいでしょうか。

 が、イコールだからといって問題がなくなるわけではありません。
 たとえば最後の支給日時点では退職している場合、支給日在籍を要求してしまうと、最後の給与が対象から外れてしまいます。退職日と同日に最後の給与を支給した場合にしか含められないことになってしまいます。
 これが退職ではなく、海外事業所に転勤とかでも同じことです。国内最後の給与が支給された時点では非居住者になっていた場合にどうなるのか。

 これらのことからすると、どこか後の時点で新規国内雇用者であることを判定するのではなく、勤務開始日から1年経過するまでの勤務期間の対価であれば含まれる、と考えるのがよさそうです。
 条文に、1年の起算点だけあって後ろが書いていないのは、そういう趣旨ですか?

 ただ、雇入年月日から1年とだけあって、「1年経過後の最初の締日」などではないので、厳密には「日割り」の問題がでてきます。必ずしも、入社日と締日がきれいにそろうわけではない。
 ここはさすがに、締日単位で集計することになるのかどうか。


 なお、支給額を集計する際には、国内事業所作成の「賃金台帳」に記載されているか、という枠がハメられています。
 退職・海外転勤の場合も、そのことゆえに集計対象外となるのではなく、「賃金台帳」から外れたことにより集計対象外になるということでしょう。

 ・勤務開始日から1年以内で、かつ、
 ・国内事業所作成の賃金台帳に記載されている

 ここでも「賃金台帳」という労働基準法上の道具をお借りしてしまっているわけですが、この点も気になるので一応軽く触れておきます。

法 第四十二条の十二の五 3項
九 国内雇用者 法人の使用人(略)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるものに該当するものをいう。

令 第二十七条の十二の五
18 法第四十二条の十二の五第三項第九号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第百八条に規定する賃金台帳に記載された者とする。



 国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるもの

 当該法人の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者

 法では国内勤務を要求しているのに対して、令では国内事業所作成の賃金台帳に載っていればいいことになっています。「国内勤務者であって政令で定めるもの」ではなく、「国内勤務者として政令で定めるもの」という書き方なので、令が法を上書きすることになります。

 これが委任の範囲におさまっているのか疑問はあります。が、令を額面通りに受け取るならば、非居住者であっても国内事業所で賃金台帳を作成してさえいれば対象になるということになります。

 あくまでも「労働基準法108条に規定する」賃金台帳であって、日本の労働基準法が適用されない労働者の賃金台帳は同条の賃金台帳ではない、とでもいうのでしょうか。


 以上、疑問は残ったままですが、さしあたりはここまで。
 あくまでも、条文だけを読んだかぎりでの推測どまりです。

 特に措置法上の新規概念なんて、通常の法解釈のお作法が通用しにくいところなので、上記解釈がことごとく的外れであっても、驚きません。
 そういう限度のものとして、お読みいただければ。

 ・措置法通達
 ・『令和3年度 改正税法のすべて』
 ・経済産業省、中小企業庁のハンドブック

あたりが出揃って、なにか突っ込みどころがあれば続編を書きます。
posted by ウロ at 10:24| Comment(0) | 法人税法

2021年04月26日

未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 決算賞与の未払計上なんて、今さらブログネタにする人もいないのかもしれません。
 「節税対策」の括りで、さんざんこすり倒されていて。

【今さらシリーズ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について【追補】

 が、私個人の関心事に引っかかる論点があったので、その点に絞って検討します。
 タイトルの変な組み合わせは、まあそういうことです。

 以下「12月決算、通知12/25、翌年1/20支給」を想定します。


 まずは条文。

法人税法施行令 第七十二条の三(使用人賞与の損金算入時期)
 内国法人がその使用人に対して賞与(略)を支給する場合(略)には、これらの賞与の額について、次の各号に掲げる賞与の区分に応じ当該各号に定める事業年度において支給されたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。

一 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額の通知がされているもので、かつ、当該支給予定日又は当該通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理をしているものに限る。) 当該支給予定日又は当該通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度

二 次に掲げる要件の全てを満たす賞与 使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度
 イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
 ロ イの通知をした金額を当該通知をした全ての使用人に対し当該通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から一月以内に支払つていること。
 ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。

三 前二号に掲げる賞与以外の賞与 当該賞与が支払われた日の属する事業年度


 2号のイロハを満たせば期中に未払でも損金算入できる、というところまでは、各所のお役立ち記事で書かれていることでご存知かと思います。


 厄介なのが「支給時在籍要件」を設定した場合。

  通知A 『1/20まで在籍してたら支給するよ。』

 この点に関して、運営側の公式ルールとして、イの通知は「最終的、確定的に決定」したものを意味するという限定解釈が示されています。
 根拠として、3号の実際の支払日と同視できる場合に限られるからだと。

決算賞与金の税務上の取扱いについて(平成27年2月26日・金沢国税局)
 
 そこまでの限定解釈ができるのか、疑問がなくはない。

 これが、法人税法に「支払われた日その他これに類する政令で定めるとき」とでも書いてあれば、施行令の文言を支払日に引きつけて解釈する必要があるのは分かります。が、実際にはどちらも施行令に並列的に書かれているのであって、2号を3号に引きつけるとは、少なくとも文言上は読み取れない。
 せいぜい、1号が支給予定日(かそれより遅い通知日)・3号が実際の支給日だから、間に挟まれた2号もそれに近づけて解釈すべき、というくらいじゃないでしょうか。

 これ、当ブログでおなじみ「文言解釈×趣旨解釈」の相克の一場面です。
 裁判になったとして、最高裁がいずれを重視するか正直予測がつかない。どっちに転んでもおかしくない。

 と、疑問はあるものの、この限定解釈に従うならば「支給時在籍要件」がある場合には、実際に支給するかどうかは支給日まで不確定ということで、期中に損金算入できないことになります(用語として「未確定」と書くか「不確定」と書くか迷うところですが、さしあたり「不確定」としておきます)


 問題はここから先。
 じゃあってことで、通知を次のように定めたらどうでしょうか。

  通知B 『支給するよ。でも1/20までに退職したら放棄したことにするよ。』

 これは民法上の用語でいうところの「解除条件」にあたります(対して、通知Aは「停止条件」)。

民法 第百二十七条(条件が成就した場合の効果)
1 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。


 こういうふうに書いておけば、
  ・通知時点では支給することは確定している
  ・辞めて放棄したのは事後の事情だから翌期の処理になる
とできるでしょうか。

 さすがに無理があるんじゃないですかね。


 この点、「純粋私法準拠説」によるならば、民法上、通知時に
  通知A 効力未発生(停止条件)
  通知B 効力発生 (解除条件)
となるのを、税法上の結論にも直結させることになるのでしょう。

 確かに、民法上効力が未発生ならば税法上も不確定といえると思います。
 が、民法上効力が発生しているからといって、税法上も確定しているとまでいえるのかどうか。

  民法    税法
 ・未発生 ⇒ 不確定
 ・発生  ⇒ 確定??

 通知AとBを比べれば分かるとおり、書き方のオモテ・ウラを変えただけで、実態はなにも変わっていません。

  通知A もし在籍してたら払う
  通知B もし辞めたら払わない

 このあたりは「原則例外モデル」の欺瞞性と同じ匂いを感じます。
 例外的に考慮するだけ、といいながらバックグラウンドで必ず混入させている例の状態。

【原則例外モデルの欺瞞性】
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ

 「実際に支給したのと同視できるか」という観点からすれば、停止条件で書こうが解除条件で書こうが、等距離にあるはずです。

 数値で表現するならば、通知時に予測される在籍確率が80%だとして、通知Aでも通知Bでも、実際に支給する確率は80%です。通知Bで書いたからといって、在籍確率がおもむろに上昇するわけではありません。
 何を当たり前なことを書いているんだ、と思うかもしれませんが、これを違うと見せかけるのが「条件トリック」です(叙述トリック的な)。

 運営ルールが、「通知時点での支給確率100%」を要求しているのだとしたら、通知Aも通知Bも要件を満たしていないことになります。

 そもそも、民法上の「条件」というもの自体が、『将来の不確定な事実』をトリガーとしています(ここが「期限」との違い)。
 ので、停止条件だろうが解除条件だろうが、条件を付けた時点で不確定になります。
 発生を不確定と書くか(停止条件)、消滅を不確定と書くか(解除条件)の違いにすぎません。

 対して、支給時の在籍を要求しない場合(通知C)は、いずれ必ず到来する「期限」のみとなるので、セーフとなるわけです。

  通知A 期限+停止条件 (支給するか不確定)
  通知B 期限+解除条件 (支給しないか不確定)
  通知C 期限 (支給するか確定)


 以上は法人税法上の問題ですが、それ以外に気になるのが「所得税法」の扱い。
 仮に、「解除条件で通知時確定」スキームが認められたとして、自動的に放棄扱いとなった個人の給与所得はどうなるのでしょうか。

 この点、通常の「支給日に確定」扱いであれば、確定前の放棄ということで所得税が課税されないことは、素直に導かれると思います。

 他方で、通知時に確定扱いとされたものを、確定後に放棄した場合でも同じに扱ってよいのかどうか。
 一度実現した所得を勝手に捨てただけ、と評価されることはないか。

 結論として課税すべきでないのは間違いないです。が、その理屈はすんなり導かれるものなのかどうか。


 さらに、賞与の放棄ということで気になるのが、「労働法規」絡み。
 「辞めたら放棄と扱う」のが、一連の労働法規上有効なのかどうか。

 賞与に関しては、給与と比較して権利性が弱いものとして扱われています。
 ので、「支給時在籍要件」を定めること自体は認められています(ただし、労働の対価の後払要素が強い場合ならば、その評価は怪しいですが)。

 ではあるのですが、通知Bのように一旦権利として「確定」したと扱っておきながら、一方的な通知のみで事後的に放棄させることができるのかどうか。
 少なくとも、そこに自由意思による任意の放棄があるようには思えません。

 だからといって、「権利として弱い」ことを、個別の放棄意思までいらないことの理由としてしまうと、「解除条件で確定」の前提が怪しくなってしまいますし。


 「解除条件で確定」という発想が出てくるの、「私法準拠説」の弊害ではないか、というのが私の見立て。

 民法上の
  停止条件=条件成就時に効力発生
  解除条件=条件成就時に効力消滅
という図式を無批判に税法に取り込むことによって産まれたのが、この発想ではないかと。

 実態は何も変わらないのに、表から書くか裏から書くかで税法上の取り扱いが真逆に変わる、なんて通常は思わないでしょう。私法準拠に殉教した信徒にしか到達しえない境地。

 「停止条件/解除条件」という概念を知らずに実態を評価するならば、いずれの通知であっても支給日がくるまでは支払われるかどうか不確定、と思うのが素直な見方でしょう。
 これを『税務署・税理士は民法を知らない』などとして一笑に付せるものなのか。中途半端な民法理解が、逆に誤った税法解釈を導いているのではないでしょうか。

 いわゆる「中級者の罠」。

 第一層
  通知Aも通知Bも中身同じじゃん
 第二層
  停止条件=条件成就時に効力発生/解除条件=条件成就時に効力消滅
 第三層
  停止条件も解除条件も「将来の不確定な事実」がトリガー
 
 民法理解が第二層どまりだと、税法上の扱いを異ならせてもよいように思ってしまいます。が、第三層にまで理解を及ぼすならば、いずれも不確定であることが分かります。
 『税理士は民法を勉強すべき』などという煽りにノセられて、第二層どまりの中途半端な民法知識を植え付けられるくらいなら、第一層の健全な事実感覚を育てたほうがハズさないはず。


 もちろん、最初に疑問を呈したとおり、「この程度の不確定をもって通知要件を満たさないという運営ルールは、施行令の解釈として狭すぎる」という主張は成り立ちえます。

 あるいは、事実評価の問題として、たとえば「当社は設立以降数十年経っているが、定年退職以外の退職実績は皆無」という場合ならば確定と同視してもよいのではないか(貸倒実績率的な)とか、ゼロではないがほぼ起こり得ない条件であれば確定と同視してもよいのではないか、などと主張する余地はあります。
 ですが、これらの場合もあくまでも100%確定と「同視できる」というにとどまり、100%確定そのものというのは無理筋でしょう。

 いずれにしても、実際の確率の評価問題であって、単なる通知の書き方だけで動かせるものではありません。


 なお、ここまで随所に「権利」とか「確定」とかが出てくるので、「権利確定主義」がちらつくかもしれません。
 が、ここでは(ここでも)何ら規範たりえません。

 あくまでも「お主義」どまりで、肝心の「権利」とか「確定」の中身を「権利確定主義」から導くことができないことは、以前論じたとおりです。

【さよなら権利確定主義】
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
さよなら「権利確定主義」(その2) 〜不動産所得
さよなら「権利確定主義」(その3) 〜譲渡所得
さよなら「権利確定主義」(その4) 〜違法所得


 決算賞与に限らず、「停止条件/解除条件」を裏返すことで課税関係をイジる所作、あくまで私の感覚ですが、税法的にはほとんど認められることはないんじゃないですかね。
 それによって実態が変わる場合ならば別ですけども、単に書き方をひっくり返しただけで課税関係が変わるとは思えません。

 以上の考えを別の場面に発展させると、たとえば「所得の収入計上時期」について、一律、
  停止条件付き契約 条件成就時に実現
  解除条件付き契約 効力発生時に実現
と扱うのはおかしいのでは、という発想に至ります。

 条件の内容や所得区分によっては、停止条件付きでも効力発生時に前倒しすべき、とか、解除条件付きでも条件成就時に遅らせるべき、といったことがありうるのではないでしょうか。

 逆に、収入計上時期のこの図式を決算賞与の場面に持ち出して、やはり「解除条件なら通知時確定」は正しいと主張する人がいるかもしれません。
 が、こういうの、まさに「経路依存」による論証の弱点。

 あくまでもこの図式が正しいことが前提になっているわけです。が、実態からすれば、この図式が全面的に通用するとは言い難い。
 たとえば、引渡も代金決済も完了しているにもかかわらず、『サボテンが花をつけたら効力発生』という停止条件が成就していないからまだ収入計上しなくてよい、とはさすがにならないですよね。
 停止条件/解除要件はあくまでも収入実現の目安にすぎず、絶対的な基準とはなりえない。

 こういったテーマについて、下記のような『税法×民法』ものの書籍で展開してくれることを期待しているのですが、残念ながら及ばない。

「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)

 思い違いがあったら失礼なので、ということで一応読み返してみましたが、案の定、上記図式がそのまま開陳されているだけでした。
 条件の中身や所得区分によっては違った評価がありうるのでは、などといった深堀りはそこにはなく。

 「実務家のため」とは何か?


 確かに、実務家の発想が基本的に「経路依存」であるのは間違いないです。
 本ブログでも、珍奇な独自説を唱えているつもりはなく、現状の道具立てを未解決の問題にあてはめたらどうなるか、というところから発想をスタートさせているはずです(自称)。

 スタート時点では「依存される側」を正しいものとして、一旦ピン留めするのはいいとして、どうも雲行きが怪しいなと思ったら、すぐに引き返して見直しをする、というのが経路依存による論証には必要な態度です。


 本ブログは、私法準拠×税法独自の枠組みでいうと、税法独自の観点を強調することが多いです。
 が、それは私法準拠が理論的におよそ間違っている、というのではなく。

 私法に準拠するといいながら、具体的にどうやって準拠するのか、その座組がいまだに(いまだに!)はっきりしていないと思うからです。
 だったら、私法は一旦カッコに入れて、税法の側から決め打ちしたほうが、さしあたりの判断はしやすいだろう、という戦略的な考慮からにすぎません。

  税法独自T⇒私法準拠T⇒税法独自U⇒私法準拠U⇒・・・

 私のつもりとしては、上記流れの中の「税法独自U」あたりを自分のポジションとして意識していて、いずれ準拠の仕方を精緻化した「私法準拠U」により止揚していただけることを、待望しております。
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 法人税法