2021年09月06日

非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制

 スピンオフ第2弾、今回は「組織再編税制」について(138頁〜)。

浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯


 「組織再編税制の立法趣旨」という項目で政府税調の『基本的考え方』の記述が引用されています。
 類書も大体そうなんですが、なぜかこの項目のときだけ税調のご意見を引用するのがお決まりのパターンになっているようです。

 が、立法趣旨と立案者意思とを安易に同一視すべきでない、ということは以前も論じたとおりです。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 とはいえ、同一視する高裁判決が実在しているわけで、もはや同一視しないほうが異端なんですかね。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 まだ最高裁が残されているものの、この手の趣旨解釈は残念ながら最高裁でも安易に受け入れられがち、というのが私の見立て。
 どの教科書・解説書も横並びで税調のご意見=立法趣旨と見做してしまっている状況において、「ここがヘンだよ私以外!」と叫んだところで、徒労なのかもしれない。


 「次に示す適格要件等を満たせばある組織再編成が適格と判断され、課税繰延が認められる。」(138頁)

 本書でも「適格外し」のことが書かれているとおり、適格組織再編成は「課税繰延」(利益先送り)となるだけでなく「損失先送り」としても機能します。
 そして、適格要件に該当する以上は問答無用で簿価移転としなければならないので、「認められる」というのは表現として不正確。

 ・適格 :簿価強制
 ・非適格:時価強制

 どちらかが原則でどちらかが例外、ということでもありません。
 もちろん実態としては、「利益先送り」狙いで使われることが多いのかもしれません。が、まずは色眼鏡を外した状態からスタートすべきでしょう。

 前回記事のように結論反転させないかぎり、原則/例外で説明したって別にいいんじゃね、と思うかもしれません。ですが、原則/例外と表現することに私が危惧しているのは、次のような『要件事実論』を展開する輩が現れかねないからです。
 すなわち、

【適格/非適格要件の立証責任の分配(民事横流し系)】
 ・時価移転(非適格)が原則で簿価移転(適格)は例外。
 ・ゆえに、時価移転を主張する側は合併の事実を立証するのみで足りる。
 ・例外である簿価移転を主張する側が「適格要件を満たすこと」を立証しなければならない。
 ・適格要件が真偽不明となった場合は非適格と認定される。
 ・このように分配することは、消極的事実(適格でない)ではなく積極的事実(適格である)を負担させるべきという要件事実論の基本コンセプトにもかなう。

 いかにも要件事実論のお作法に従った綺麗な分配のように見えます。
 が、民事要件事実論の発想をそのまま税法へ横流してもよいのかは極めて疑問です。

 上記分配で「課税庁」「納税者」の特定をしていないことからも分かるとおり、適格/非適格のどちらが納税者有利/不利になるかは、局面によって入れ替わります。
 仮に、納税者が簿価移転を望む場合、上記分配によれば納税者が適格要件を立証しなければならず、立証に失敗した場合には時価移転の不利益を受けなければならないことになります。

 このような負担を納税者に負わせてもよいものなのかどうか、特に「真偽不明」でも非適格扱いとされるのがよいのか。原則非適格とする考えからすれば何の問題もない、となりそうですが、私には疑問です。
 「非適格=法人税法、適格=措置法」とでもなっていれば、まだありえたかもしれませんが、どちらも法人税法本法に収まっていますし。

 租税法の大原則からすれば、課税処分の適法性は課税庁が主張立証しなければならないはずです。この大原則からするならば、適格が適法性を基礎付けるならば適格を、非適格が適法性を基礎付けるならば非適格を、それぞれ課税庁が主張立証する、とすべきでしょう。
 が、「課税要件事実論に詳しい」みたいな人たちは、いかにも上記の民事横流し系の分配論を展開しそうです。これは穿った見方でしょうか。

 例の奇妙な課税要件事実論が、誰からも批判されることなく放置されている現状からして、租税法学における要件事実論の受容というのが、未だ満足に行われていないのではないか、というのが、極めて個人的な私の見立てです。

伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)


 「完全支配関係とは、一の者の法人の発行済株式等の全てを直接または間接に保有する関係をいう」(139頁)

 条文上の定義を、親切心でわかりやすく簡略にしただけ、のつもりかもしれません。
 が、完全支配関係には、親子孫関係(縦)だけでなく兄弟姉妹(横)の関係もあることが、記述から抜け落ちてしまっています。

法人税法2条
 十二の七の六 完全支配関係 一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係として政令で定める関係(以下この号において「当事者間の完全支配の関係」という。)又は一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係をいう。


 条文でいうところの後段が削られてしまっているということです。
 そして、横の関係の場合には適格要件として「株式継続保有要件」が要求されるわけですが、このことが抜け落ちてしまっています。

 例の「見込み」(⇒法的安定性?)のやつです。

中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)

 なんの考えもなしに条文引き写ししておけば間違えずに済んだのに、という前回と同じ類の間違い。


「ここで注意深い読者なら、株式継続保有要件を満たす必要のない場合、投資の継続と支配の継続の両方がなく、課税繰延を認める理由がないのではと冴るかもしれない。共同事業要件の存在は、合併前後における事業の継続性や関連性の存在から経済実体の不変更とみるか、または、「選択と集中」を支持する産業政策の要請によるとみるしかないであろう。」(140頁・共同事業要件)

 なぜ、「みるしかないであろう」などという、仕方ない感溢れる物言いをしているのでしょうか。これは、政府税調の『基本的考え方』を立法趣旨と同一視することからくるものでしょう。
 しかし、実際にできあがった制度の個別要件からスタートして解釈するのであれば、こういう評価にはならないはずです。現行法が実際に要求している要件が『基本的考え方』にそぐわないのであれば、それは『基本的考え方』のほうが現行法にそった内容になっていないと評価すべきでしょうよ。

  × 基本的考え方 → 現行法 (基本的考え方のとおり条文化されていないのは不当)

  ○ 基本的考え方 ← 現行法 (現行法で実現していない基本的考え方は通用しない)


 引用は省略しますが、欠損金引継ぎの具体例として、被合併法人T・合併法人Aとも支配関係成立前の欠損金は引き継げないが、成立後の欠損金は引き継げるという例があげられています(141頁)。

 が、支配関係成立前後で取り扱いが変わることが、その前の段落の制度説明の箇所に記述されていません。ので、なぜ支配関係成立前後で帰結が変わるのか、さっぱり理解できないでしょう。

 本書は、数値を含んだ事例での解説が豊富なので、理解しやすいところは非常に理解しやすいです。が、このように制度説明とあてはめの対応関係が欠落しているところがあったりします。

      類書  本書
 制度説明 多い  少ない
 具体例  少ない 多い

 なんですか、コモンロー的に事例(だけ)で理解しようぜ、ってことですか、租税法なのに。

 また、合併法人Aの欠損金も「引き継げる」と表現されていますが、AはAの欠損金を制限なしにそのまま使えるということであって、他社から引き継ぐものではありません。ここも、正確に言葉を使いわけましょう、という問題です。

 次回はスピンオフ第3弾、「リバースチャージ」についてです。

引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
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2021年08月30日

留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯

 今回から数回ほど、前回記事のスピンオフ記事を掲載する予定です。
 


浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)
 (以下「本書」といいます)

 今回は「留保金課税」について(126頁)。


 第1刷では、盛大な間違いをおかしています。
 最初、知らない間にこんな大改正が入ったのかと思って一瞬焦ったのですが、単なる本書の間違いでした。
 出版社のサイトに正誤表が載っていますので、そちらをご確認ください。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8378.html

 訂正前の記述では、留保金課税が適用されるかどうかにつき、
  ・資本金1億円以下の会社に適用される
  ・資本金5億円以上の大法人の100%子会社は除かれる

などと、まったく正反対のことが書かれていました(※念のため、上記間違いですよ)。
 
 ただ単にひっくり返しちゃっただけじゃん、と思うかもしれません。が、たとえば『課税売上高1000万円の場合には消費税免税事業者となる』などといったとしたら、その感覚を疑われますよね。

 参考まで、このひっくり返しによる違いがどれくらいの「ボリューム感」となって現れるかを、以下の統計資料で見てみましょう。

令和元年度分 会社標本調査結果

 統計表⇒第11表法人数の内訳によると、資本金1億円以下/超で区切った同族会社数とその割合は次の通りとなっています(ついでに特定同族会社も)。

 資本金1億円以下/超
    同族会社 2,632,648/10,012 99.62%/0.38%
  特定同族会社     23/3,829   0.6%/99.4%

 これを反転させるって、なかなかの致命傷。

 普通の教科書だと、このあたりの定義は条文引き写しで済まそうとするので、むしろこの手の間違いは生じにくいところです。本書では親切にも噛み砕いて説明しようとしたことが、逆に仇になったといえなくもない(擁護)。


 邪推するに、次のような先入観があったのではないでしょうか。すなわち、

 ・留保金課税は利益を溜め込みがちな会社向けの制度。
 ・規模が小さく、大企業に支配されていないような会社のほうがより溜め込みやすいはず。
 ・そういう企業を狙い撃ちするため、より規模の小さい会社に絞って適用するはずだ。

 あくまでも邪推ですが、そうとでも勘違いしなければこんな反転やらかしませんよね。

 実際にご本人の意図がどうだったかは別として、このような勘違いが生じうる要因というのを以下検討してみます。
 なお、間違えをあげつらう趣旨ではなく。超頭のいいはずの先生でさえ勘違いした要因を辿ることで、我々常人はどのようなことに気をつけておく必要があるかを理解する、という趣旨です。


 留保金課税制度では、
  ア 株主構成基準 (支配が強ければ適用)
  イ 資本金基準 (規模が小さければ除外)
のふたつの基準で適用範囲をコントロールしています。

 このうち、アが「溜め込みやすさ」の指標であり、留保金課税制度の内在的な要件ということができます。他方で、イは「溜め込みやすさ」とは直接関係がなく、規模が小さいのに税負担重くするの可哀想、という趣旨でしょう。ので、こちらは外在的な制約要素ということができます。

留保金課税.png


 本書(訂正前)は上図の×を適用あり、○を適用なしと間違えたということです。

 上図ではアイはそれぞれ別々の観点からの基準だということで、それぞれを縦軸(株主構成基準)・横軸(資本金基準)に配置しています。他方で、法の規律を気にしないで「大小」という観点から横並びにすると次のようになります(上下に並べてますが慣用句としての「横並び」)。

溜め込みやすさ.png

大小.png


 もちろん、特定同族会社だからといって規模が小さいとは限らないわけですが、なんとなくのイメージだけを先行させるとこういう配置になります。そして、上段で左にいけば留保金課税の適用を受けるということは、下段も左にいけば留保金課税の適用を受けるはずだ、と勘違いをすると上記の間違いを導くことができます。

 実際にどういうつもりだったかはご本人のみぞ知るところです。ですのでこれは、間違いの要因を推測することで自らの勘違い防止に役立てる、という限りでの検討ということです。


 「趣旨解釈」というのは、いかにも法解釈のお作法に則った正統な解釈手法であるかのように思われがち。ですが、いうところの「趣旨」が、実定法以外のどこかから持ってきたものによるならば、砂上の楼閣にすぎない、ということが分かります。

 このことは、TPR事件の高裁判決に対しても指摘をしたところです。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 また、小規模宅地等の特例の家なき子特例の趣旨を「出戻り保護」だと決め打ちしていることに対しても、個別の要件にそぐわないことを指摘しました。

白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)

 解釈に用いる「趣旨」は、あくまで現行法から取り出すべきものでしょう。
 近時、税理士向けの研修・セミナーの類で、弁護士先生が税理士にリーガルマインドを教える、ということで「趣旨から解釈すべし」というようなことを強調しているのを見聞きします。それ自体はそのとおりなのでしょうが、その趣旨なるものをどうやって見出すかが問題です。
 立案担当者の解説など、条文の外側にあるものを鵜呑みにするのではなく、個々の条文上の要件から抽出すべきものだと、私は思います。


 また、大法人の100%子会社については、「除かれる」から「含まれる」に訂正されたわけですが、その「理由づけ」はそのままになっています。
 いわく、中小法人向けの軽課措置を受けることが問題だからだと。

 が、留保金課税は同族会社向けの「重課措置」であって、そのままの記述では文意がとりにくいです。
 確かに算術的には、

  プラス(軽課)を受けるのが問題 = マイナス(重課)を受けないのが問題

と同じ意味にはなります。ですが、日本語の表現としてはすんなり理解し難いですよね。
 なので、ここの記述を無理やり活かすならば「中小法人として重課措置を受けないことが問題」とでも修正すべきでしょう。

・留保金課税(特定同族会社)
 資本金1億円超  重課措置
 資本金1億円以下 除外
 大法人の子会社  除外の除外


 また、中小法人扱いが問題であることの理由として、「親会社の信用力を背景に資金調達等が可能」ということが書かれています。

 が、資金調達しやすいことと税負担を重くすることとは、どう連関するのでしょうか。資金調達しやすいことそれ自体は担税力を高めることにはなりません。借入金も所得だとする立場を採用しないかぎり。
 資金を集めやすければ稼ぎやすいはずだ(現金⇒利益)、ということでしょうか。

 ただ留保金課税の場面でいうと、「資金調達しやすいんだから利益溜め込むんじゃねえ」ということができるかもしれません。外部調達できるなら内部留保しておく必要ねえだろ、と。
 ではあるのですが、その資金調達を新株発行で行うと100%子会社でなくなって留保金課税から一度外れる、資本金が1億円超になったら再び留保金課税の適用を受ける、ただしそのときの資本構成如何では同族会社ですらなくなっている、という変遷を辿ることになるかもしれません。ややこしい。

1 A法人5000万円(B大法人100%) (Bは被支配会社)
 ↓   ⇒適用あり
2 A法人1億円(B大法人50%、C50%)(BCは資本関係なし)
 ↓   ⇒適用なし(大法人100%支配が外れるので)
3 A法人1億5000万円(B大法人1/3、C1/3、D1/3) (BCDは資本関係なし)
     ⇒適用なし(資本金1億円超だが同族会社でなくなるので)

 資本金基準と株主構成基準は、それぞれ額面と割合という違う物差しを基準としているものの、上記例のように連動して動くことがあるわけです。

 なお、ここでいう「親会社」が「被支配会社でない法人」であるならば、その子会社は特定同族会社から外れます。ので、信用力云々といっているときに「上場企業」を想定しているのだとしたら、それは不正確ということになります。

 いずれにしても、立案担当者の解説などを鵜呑みにするのではなく(下記239頁あたりの解説)、制度ごとにその趣旨を探求すべきものでしょう。

平成22年度 税制改正の解説
 

 ちなみに、上記統計表によれば、資本金1億円未満の特定同族会社は23社しかいないわけで、この選ばれし精鋭のためだけに「除外の除外」規定を設けたということなんですよね。

 普通に教科書に並んで書かれていると、一般的な制度との捕捉領域の広狭が意識されにくいところです。が、どれくらいのボリューム感のある制度なのかも記述しておいてくれると、イメージがしやすくなるかもしれません。


 さて、次回は「組織再編税制」についてです。

非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制
引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税
どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ
posted by ウロ at 11:06| Comment(0) | 法人税法

2021年06月07日

珍奇な新規(続) 〜『人材確保等促進税制御利用ガイドブック(令和3年5月31日公表版)』

 前回記事をアップした5/31と同じ日に、経済産業省の「ガイドブック」「Q&A集」がでてました。

珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)

賃上げ・生産性向上のための税制(経済産業省)

 今まで「ご利用」だったのが「御利用」になったのは、何か理由があるのでしょうか。
 P.1の「ご覧下さい。」はひらがなのくせに。

 それはさておき、前回いくつかあげた疑問のうち、回答となっているのは「支給日判定」という点だけでした。
 それ以外は条文をなぞっただけ。

 ということで、「ガイドブック」をベースに、前回記事に関わる部分の検証をしていきます。

 以下、頁数は「ガイドブック」のもの、「A○○」は「Q&A集」のものを指します。
 また、前回同様、条数を省略して、法・令・規のそれぞれ項・号で特定します。
  法 第四十二条の十二の五 3項
  令 第二十七条の十二の五 
  規 第二十条の十 2項


P.3
国内雇用者とは
 法人の使用人のうちその法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者で国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者をいいます。


 前回述べたとおり「国内勤務」は要件ではありません。令の「賃金台帳」で上書きされてしまっているので。

法九 国内雇用者
 法人の使用人(略)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるものに該当するものをいう。

令18
 法第四十二条の十二の五第三項第九号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第百八条に規定する賃金台帳に記載された者とする。


 A24には、その旨書いてあります。
 ので、国内勤務が要件であるかのようなガイドブックの書きぶりは誤解を招く。
 法の「雇用者として」を勝手に「雇用者で」に変換してしまっているのが問題。

P.3
国内新規雇用者とは
 法人の国内雇用者のうち、当該法人の有する国内の事業所に勤務することになった日(労働基準法第107条に規定する「労働者名簿」に氏名が記載された日)から1年を経過していない者をいいます。


 令どまりで、なぜか規の「雇入の年月日」が反映されていません。

法二 国内新規雇用者
 法人の国内雇用者のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるものをいう。


3 法第四十二条の十二の五第三項第二号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内雇用者のうち国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿(労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿をいう。)に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日(次項において「雇用開始日」という。)から一年を経過していないもの(次に掲げる者を除く。)とする。(略)

規 
2 施行令第二十七条の十二の五第三項に規定する財務省令で定める日は、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された同項各号列記以外の部分に規定する国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日とする。


労働基準法施行規則 第五十三条
1 法第百七条第一項の労働者名簿(様式第十九号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもののほか、次に掲げるものとする。
四 雇入の年月日



 また、法・令の繋げ方が、上記『国内雇用者』の定義の書きぶりとは違って、こちらでは令を(カッコ)に入れています。
 この不揃い感、どういうつもりなんでしょうか。

 ということで、前回検討した「実際の雇入日」なのか「記載雇入日」なのか問題は、未解決のまま。

P.4
新規雇用者給与等支給額とは
 国内新規雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額をいいます。


 ここだけが唯一、条文に解釈を加えた部分となります。1年以内は「支給日判定」なんだと。
 法5号に同2号を代入するとそう読めるということなんでしょう。

法五 新規雇用者給与等支給額
 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額をいう。


P.6
 「支給日判定」に従った具体例が図示されています。

 A〜Gまで例があがっているものの、いずれも「月単位」での例になってしまっています。
 が、条文上は「雇入年月日」から1年と、「日単位」で判定することになっているはずです。

 雇入日と支給日がきれいにそろわない場合の悩みが、ここでは一切表現されていません。


 また、「締日判定」が認められるのかどうかがはっきりしません。

 この点、A31、A32には、損金算入した未払給与も含めると書いてあります。これ自体は条文記載のとおりです(法5号)。
 が、これと1年以内判定との関係が不明です。未払計上日で判定してよいということでしょうか。

 もしそうだとすると、3/30で1年が経過してしまう場合は、3/31未払計上分は含めないということになりますか。どうしても含めたければ、3/30で未払計上すればいいのかどうか(30日締めとする合理的な理由があるとして)。


 上述した、A24について気になる点。

 同箇所には、国内事業所で作成された賃金台帳に記載されていれば「海外に長期出張等していた場合でも」「一時的に海外で勤務をしていても」国内新規雇用者に該当する、と書いてあります。

 「一時的」な「長期出張」とは何ぞや、という疑問はありますが、それはさておき。
 「一時的」ではなく1年以上の予定で出国した非居住者の場合はどうなるのか。いやに「一時的」を強調していることからすると、非該当と考えているようにも読めますが、はっきりしません。
 『賃金台帳に記載されていればいい』のであれば、非居住者だろうがなんだろうが、給与等を支給しているかぎり該当するでしょうし。

 ここで問題となるのが、令の文言。

 「労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿」
 「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」


 (日本の)労働基準法を引用しているわけです。
 これの読み方として、

 A 日本の労働基準法が適用される労働者の名簿・台帳に限られる。
 B 日本の労働基準法が定める名簿・台帳の様式に従ってさえいればいい。

のいずれなのか。

 もしAだとした場合でも、非居住者だから当然に非該当になるわけではありません。
 日本の労働基準法が適用されるかどうかについては、僕たち私たちの『法の適用に関する通則法』が存在するからです。

国際私法(カテゴリ)

法の適用に関する通則法
第七条(当事者による準拠法の選択)
 法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。

第八条(当事者による準拠法の選択がない場合)
1 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。

第十二条(労働契約の特例)
1 労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。
2 前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。
3 労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。


 「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」に該当するかどうかを判定するのに、法適用通則法を経由する必要があるのかどうか。
 それとも、税法の側で勝手に、非居住者・国外源泉所得は対象外などと決め打ちしてしまうのか。

 仮に、法適用通則法を経由させるとどうなるか。

 同法の規律では、原則として当事者の選択に委ねることになっています。最密接関連地の強行規定についてさえも、あくまでも労働者の意思表示に委ねられています。
 これをそのまま認めると、名簿・台帳について日本法・外国法の準拠法選択をコントロールすることで、本制度の適用の可否・控除税額を調整できることになりかねません。

 労働者名簿・賃金台帳の作成については罰則による規制があるといっても、それはあくまでも日本法が適用される場合に限られます。
 『強行法規の特別連結』的な発想で、無理やり日本法が適用されることにするのか。
 「的な」というのは、ここで保護しようとしているのは国家の課税権であって、労働基準法上の保護法益などではないからです。およそ当事者が望んでもいない規律を、国家の都合で適用しようとしている。

 A24は、「一時的」という言い方をすることで、非居住者には適用されないかのような《刷り込み》をしようとしています。が、条文上はそういう縛りはありません。
 あくまでも「労働基準法第百八条に規定する賃金台帳」の解釈でコントロールするしかない。


 他方で、Bなら問題がないかというとそういうことではなく。

 賃金台帳を作成するかしないかによって集計範囲をコントロールできてしまうのは同じです。
 不作成による罰則を適用しようとしても、外国法を選択されたらどうなるのか、という問題も同じ。

 賃金台帳につき、「あたる/あたらない」でコントロールするか、「作る/作らない」でコントロールするかの違いにすぎません。


 根本的な問題はやはり、令が法の「国内勤務」を上書きしてしまっているところにあるのでしょう。

 国内勤務かつ賃金台帳に記載、というルールならば、問題がゼロになるわけではないものの、納税者がコントロールできる幅はだいぶ狭まります。

 なぜ、法の実質要件を令では形式要件に置き換えてしまったのか。
 国内賃金台帳に記載があれば国内勤務と「推定」する、という事実認定レベルの問題であれば理解はできます。が、要件そのものを置き換える必要があったのかどうか。

 これもある意味で「台帳課税主義」みたいなものです(逆作用ですが)。

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 固定資産税の場合は、形式判断とすることに合理的な根拠があるわけです。そして形式不合理な場合は例外を認めると。
 他方で、本制度において形式判断とすることに合理的な根拠はあるでしょうか。私にはさっぱり思いつきません。


 なお、以前に、「所得税法×著作権法×法適用通則法」の絡みについて検討したことがあります。

非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(まとめ)

 所得税法にいう「著作権」とは、一体どこの国の著作権なのかと。

 今回は日本の労働基準法を明示的に引用していることから、意味が明確になるかと思いきやそうではなく。
 かえって、日本法に固定したせいで、そもそも適用されるかどうかの問題が生じることになっています。

 国境を跨ぐ以上、準拠法選択の問題は消去されえない。


 『借用概念は、法的安定性・納税者の予測可能性に資する』というのがいかにイリュージョンであるか、ということの一例がまたここに。

金子宏・中里実「租税法と民法」(有斐閣2018)

 お借りするのは勝手ですが、ちゃんとそのお借りの仕方まで明示しておいてくれないと困る。
posted by ウロ at 11:47| Comment(0) | 法人税法

2021年05月31日

珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)

 法解釈フローチャート作成の途中ではありますが、条文出揃ったので例のヤツ検討しておきます。


 散々おイジりあそばせてきた「継続雇用者」概念。令和3年度改正で無事お亡くなりになりました。
 ブログネタをご提供いただきありがとうございました。

【所得拡大促進税制(令和3年度改正前)】
税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)
武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ

 ところが令和3年度改正では、性懲りもなく、新たに「国内新規雇用者」なる概念を産み出しています。
 例によって判定の仕方が怪しいので、以下検討します。

 ブログネタをご提供いただきありがとうございます。


 なお、「中小企業版」の所得拡大促進税制については、この珍奇概念は利用せずに、単純に前期→当期の雇用者給与支給額での比較になっています(要件ごとの助成金を含む・含まないの見極めは必要ですが)。

 計算の仕組みをみるかぎり、ほとんどの中小企業は中小企業版を使うことになるはずです。そうだとすると、この珍奇概念の直接的な影響を受けるのは中小企業版を受けられない法人ということになります。


 まずは、検討事項を限定します。

 「人材確保等促進税制」の要件検討にあたって、気をつけなければならないこととしては他にも、
  ・一般被保険者だけかどうか
  ・役員等の除外者に該当しないか
  ・雇用安定助成金額を控除するか
  ・0円の場合はどう判定するか
などがあります。
 が、今回はあくまでも「国内新規雇用者」の『新規』の部分のみに絞って検討を加えます。

 また、現時点では、イジりの対象になりうる『令和3年度 改正税法のすべて』がまだ出ていません。
 ので、条文のみが検討の対象となります。

 ちなみに、今回は正面から「労働基準法」を絡めた概念規定をしているので、たぶんまた変なことを書いてくれるはずです。


 今回の検討事項に関わる箇所に絞って、大胆に省略しつつ条文を列挙します(租税特別措置法、同施行令、同施行規則)。

法 第四十二条の十二の五(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
1 青色申告書を提出する法人が、平成三十年四月一日から令和五年三月三十一日までの間に開始する各事業年度において国内新規雇用者に対して給与等を支給する場合において、(略)

3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
二 国内新規雇用者
 法人の国内雇用者のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるものをいう。
五 新規雇用者給与等支給額
 法人の適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内新規雇用者に対する給与等の支給額をいう。

令 第二十七条の十二の五(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
3 法第四十二条の十二の五第三項第二号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内雇用者のうち国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿(労働基準法第百七条第一項に規定する労働者名簿をいう。)に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日(次項において「雇用開始日」という。)から一年を経過していないもの(次に掲げる者を除く。)とする。(略)

規 第二十条の十(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除)
2 施行令第二十七条の十二の五第三項に規定する財務省令で定める日は、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された同項各号列記以外の部分に規定する国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日とする。


 以下では、条数を省略して、法・令・規のそれぞれ項・号で特定します。
 なお、私が財務省サイトの新旧対照表を閲覧した時点では規2の冒頭が「施行令第二十七条の十二の四の二第三項に規定する」となっていましたが、これはアレですか。一太郎濡れ衣騒動のひとつ?

 あわせて労働基準法、同施行規則も。

法 第百七条(労働者名簿)
1 使用者は、各事業場ごとに労働者名簿を、各労働者(日日雇い入れられる者を除く。)について調製し、労働者の氏名、生年月日、履歴その他厚生労働省令で定める事項を記入しなければならない。
2 前項の規定により記入すべき事項に変更があつた場合においては、遅滞なく訂正しなければならない。

規 第五十三条
1 法第百七条第一項の労働者名簿(様式第十九号)に記入しなければならない事項は、同条同項に規定するもののほか、次に掲げるものとする。
一 性別
二 住所
三 従事する業務の種類
四 雇入の年月日
五 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)
六 死亡の年月日及びその原因



 国内新規雇用者の定義部分を並べると次のとおり。
 枝葉を落として『新規』にかかわる部分のみ抽出します。


 国内の事業所に勤務することとなつた日から一年を経過していないものとして政令で定めるもの

 国内に所在する事業所につき作成された労働者名簿に当該国内雇用者の氏名が記載された日として財務省令で定める日から一年を経過していないもの

 施行令3に規定する財務省令で定める日は、国内に所在する事業所につき作成された同項に規定する労働者名簿にその氏名が記載された国内雇用者の労働基準法施行規則第五十三条第一項第四号に掲げる日

 これ、ちゃんと委任の枠内に納まっていますか?
 さらに削ぎ落としてみるとこうなります。

  法 勤務することとなつた日
  令 労働者名簿に氏名が記載された日
  規 労働者名簿の雇入日

 法では「実態」としての勤務開始日を要求しているのに対して、令は名簿への氏名記載日、規は同名簿の雇入日とそれぞれ別の日を指定しているように読めます。
 法と規は、同じものの実質/形式で対応しているようにもみえますが、そうすると令は何だっていうんですか。

 規の読み方として、「記載された」という文言が、
  A 氏名が記載された「国内雇用者の雇入年月日」
と、雇入年月日にかかると読むか、あるいは、
  B 氏名が記載された国内雇用者の「雇入の年月日」
と、年月日にはかからないと読むか、いずれでしょうか。
 Bであれば、法・規は同じものの実質で完全一致することになります。

 言い回しだけからすれば、Bが素直な読み方にも思えます。
 が、実質判断でよいのであれば「勤務を開始した日」と直接いえばいいのであって、わざわざ労働基準法施行規則をかます必要はあるでしょうか。


 仮に、雇入日を間違えて記載してしまった場合、実質と形式どちらで判断するのか。

 「継続雇用者」のときは、労働基準法24条2項違反な支給を認めちゃっていたくせに、労働者名簿は必ず真実に従って記載されていることを前提としているのでしょうか。
 ちなみに、違反時の法定刑はどちらも同じです(労基法120条1号)。

 たとえばですけど、実際は3/1が勤務開始日なのに、3/5に労働者名簿を作成し、そこに間違えて雇入日を3/10と記載してしまった場合、いつが起算点となるのでしょうか。

  勤務開始日 3/1
  氏名記載日 3/5
  記載雇入日 「3/10」(3/5に記載)

 法・規については、上記A読みならば3/1と3/10でズレる、B読みならば3/1で一致ということになります。
 他方で、令では3/5です。

 あるいは、雇入日は勤務開始日に正しく記載したものの、氏名の正式な漢字が分からなかったので、氏名欄だけ空欄の労働者名簿を作成しておいて、後日氏名を追記した場合はどうか。

  勤務開始日 3/1
  氏名記載日 3/15
  記載雇入日 「3/1」(3/1に記載)

 法・規はABいずれでも3/1で一致します。
 他方で、令はあくまでも「氏名」の記載日なので3/15となります。

 このような疑問はあるものの、以下ではすべて同日であるとして話をすすめます(記述は常識的にそぐう「勤務開始日」で代表させます)。


 では、勤務開始日を起算点とした1年経過の判定日はいつになるのでしょうか。

 当然に「事業年度終了日」なのかと思ったんですが、条文上ははっきりと書かれていません。
 ので、可能性としては「各支給日」(または各締日)ごとに判定することも考えられます。 

 事例で考えてみましょう。

【事例1】
 ・3月決算
 ・給与〆日末日・翌月10日支給
 ・給与は支給時に損金計上
 ・Aさん 勤務開始日 2021年3月1日
 ・適用年度 2022年3月期

 「事業年度終了日」で判定するとどうなるか。

支給日計上.png


 事業年度終了日である2022年3月31日時点では、勤務開始日から1年を経過しているため新規雇用者に該当しません。
 他方で、前年度では、2021年3月31日時点で1年未経過のため比較新規雇用者に該当します。しかし、初回支給日が2021年4月10日となるため、前年度中の比較新規雇用者給与は0円となります。
 ので、Aさんの給与は、前年度も適用年度も新規雇用者給与にカウントされません。


 なお、前年度の比較新規雇用者給与が「0円」の場合は、2%増要件満たせないと令22項に書いてあります。とすると、前期の新規給与が0円だと、適用年度になってどれだけ大量採用したとしても適用は受けられないということになってしまいます。

 『前期はコロナの影響もあって新規採用を停止していたけど、今期はどんどん採用していくぞ!』の場合に適用できないという罠。
 3月決算の会社なんてもう手遅れよ。初年度適用は諦めろということですか。

 新規採用を促進する特例じゃないんですか、これ。
 教育訓練費みたいに、0→0はダメだけど0→1はOKとなっていないんですよね(令24項)。

 この事例の場合にかぎっては、前期決算が確定する前であれば、給与の計上時期を支給日から締日に変更することで、0円不可ルールを回避することが考えられます。
 が、締日計上に変更すると前期に13ヶ月分の給与が計上されてしまうので、増加率要件を満たせなかったり、仮に満たせたとしても控除額が少なくなったりするといった問題が生じます。

 なお、中小版にも「0円不可ルール」はありますが(令23)、全体での比較なのでまだましです。
 新規じゃなくても、誰かしら支給を受けていればいいので。

 前期が役員等しかいない場合はダメですが。


 では、「支給日」ごとで判定するとどうなるか。

 この場合は、2021年4月10日から2022年2月10日までに支給を受けた給与が新規雇用者給与となります。
 とはいえ、こちらも前期支給額は無しなので、「0円不適用問題」は解消されません。

【事例2】
 【事例1】で、損金算入時期が「締日」だった場合はどうでしょうか。

締日計上.png


 「終了日判定」の場合は、当然のことながら、新規雇用者に該当するかどうかは【事例1】と同じです。前期は新規該当、当期は新規非該当になると。
 が、前期中に2021年3月分給与が締日計上されているので、同給与が比較新規雇用者給与となります。ゆえに、0円不適用問題は回避できます。
 ではありますが、Aさんは当期新規非該当なので、増加率要件を満たすには、他の人が新規で入る必要があります。「継続雇用者」と違い、同じ人である必要がないのが救いですね。


 「締日判定」の場合は、2021年3月分給与から2022年2月分給与までが1年未経過となります。
 で、2021年3月分給与が前期、2021年4月分給与〜2022年2月分給与までが当期の新規雇用者給与となります。

 結論的にはこれが素直な帰結のような気がしますが、これを条文解釈として導けるものなのかどうか。


 上記事例からすると、「終了日判定」では「とにかくご新規を増やせ」という趣旨を促進できていないですよね。Aさんが当期の新規雇用者ではなくなってしまうわけで。

 また、「支給日判定」でも、勤務開始日・締日・支給日の組み合わせによっては12ヶ月目の給与が抜けてしまうことになってしまいます。
 もちろん、前期・当期の比較に使うものなので、抜けることが必ずしも不利になるわけではありません。前期・当期とで同じルールで集計することが、比較要件では重要です(ので、前期・当期で給与の計上ルールが違う場合にそのまま集計していいのかどうか)。

 とはいえ、上記事例はやはり変です。

 ので、「締日判定」とするのがよさそうです。
 ただし、上記事例では、《初日入社・末日締日・締日計上・締日判定》と、条件をきれいに揃えていたから、単純に集計できました。
 が、これらがズレたときにどうなるか・・・、ちょっと考えるのはやめておきます。


 あとひとつだけ、「退職」した場合はどうなるか。

 「継続雇用者」のときは、24ヶ月支給が要求されていたせいで、結果としてそれら支給を受けられる期間の在籍が要求されていました。
 他方で、「新規雇用者」については、在籍要件が明記されているわけではありません。

 この点、
  終了日判定=終了日在籍
  支給日判定=支給日在籍
   締日判定=締日在籍
と、判定時点と在籍要件が連動しそうですが、必ずしもそうとは限りません。

 ここで効いてくるのが労働者名簿の「雇入年月日」。
 退職したとしても労働者名簿を廃棄しないかぎりは記載された雇入日は残っているわけです。

労働基準法 第百九条(記録の保存)
 使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない


労働基準法施行規則 第五十六条
1 法第百九条の規定による記録を保存すべき期間の計算についての起算日は次のとおりとする。
一 労働者名簿については、労働者の死亡、退職又は解雇の日


 ので、終了日判定の場合であっても、退職者も含めて記載された雇入日から事業年度終了日までで1年経過しているかどうかで判定する、ということも考えられます。
 また、終了日在籍を要求してしまうと、「継続雇用者」のときと同様、事業年度が終了するまで誰が集計対象者かが決まらない、という問題が生じてしまいます。

 とすると、終了日判定の場合でも、記載雇入日〜事業年度終了日で1年経過しているかを判定し在籍要件は要求しない、とするのが簡明でよさそうです。


 「支給日判定」「締日判定」の場合はイコールでもよいでしょうか。

 が、イコールだからといって問題がなくなるわけではありません。
 たとえば最後の支給日時点では退職している場合、支給日在籍を要求してしまうと、最後の給与が対象から外れてしまいます。退職日と同日に最後の給与を支給した場合にしか含められないことになってしまいます。
 これが退職ではなく、海外事業所に転勤とかでも同じことです。国内最後の給与が支給された時点では非居住者になっていた場合にどうなるのか。

 これらのことからすると、どこか後の時点で新規国内雇用者であることを判定するのではなく、勤務開始日から1年経過するまでの勤務期間の対価であれば含まれる、と考えるのがよさそうです。
 条文に、1年の起算点だけあって後ろが書いていないのは、そういう趣旨ですか?

 ただ、雇入年月日から1年とだけあって、「1年経過後の最初の締日」などではないので、厳密には「日割り」の問題がでてきます。必ずしも、入社日と締日がきれいにそろうわけではない。
 ここはさすがに、締日単位で集計することになるのかどうか。


 なお、支給額を集計する際には、国内事業所作成の「賃金台帳」に記載されているか、という枠がハメられています。
 退職・海外転勤の場合も、そのことゆえに集計対象外となるのではなく、「賃金台帳」から外れたことにより集計対象外になるということでしょう。

 ・勤務開始日から1年以内で、かつ、
 ・国内事業所作成の賃金台帳に記載されている

 ここでも「賃金台帳」という労働基準法上の道具をお借りしてしまっているわけですが、この点も気になるので一応軽く触れておきます。

法 第四十二条の十二の五 3項
九 国内雇用者 法人の使用人(略)のうち当該法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるものに該当するものをいう。

令 第二十七条の十二の五
18 法第四十二条の十二の五第三項第九号に規定する政令で定めるものは、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第百八条に規定する賃金台帳に記載された者とする。



 国内の事業所に勤務する雇用者として政令で定めるもの

 当該法人の国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載された者

 法では国内勤務を要求しているのに対して、令では国内事業所作成の賃金台帳に載っていればいいことになっています。「国内勤務者であって政令で定めるもの」ではなく、「国内勤務者として政令で定めるもの」という書き方なので、令が法を上書きすることになります。

 これが委任の範囲におさまっているのか疑問はあります。が、令を額面通りに受け取るならば、非居住者であっても国内事業所で賃金台帳を作成してさえいれば対象になるということになります。

 あくまでも「労働基準法108条に規定する」賃金台帳であって、日本の労働基準法が適用されない労働者の賃金台帳は同条の賃金台帳ではない、とでもいうのでしょうか。


 以上、疑問は残ったままですが、さしあたりはここまで。
 あくまでも、条文だけを読んだかぎりでの推測どまりです。

 特に措置法上の新規概念なんて、通常の法解釈のお作法が通用しにくいところなので、上記解釈がことごとく的外れであっても、驚きません。
 そういう限度のものとして、お読みいただければ。

 ・措置法通達
 ・『令和3年度 改正税法のすべて』
 ・経済産業省、中小企業庁のハンドブック

あたりが出揃って、なにか突っ込みどころがあれば続編を書きます。
posted by ウロ at 10:24| Comment(0) | 法人税法

2021年04月26日

未払決算賞与の損金算入時期と、なんちゃって私法準拠の弊害

 決算賞与の未払計上なんて、今さらブログネタにする人もいないのかもしれません。
 「節税対策」の括りで、さんざんこすり倒されていて。

【今さらシリーズ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について【追補】

 が、私個人の関心事に引っかかる論点があったので、その点に絞って検討します。
 タイトルの変な組み合わせは、まあそういうことです。

 以下「12月決算、通知12/25、翌年1/20支給」を想定します。


 まずは条文。

法人税法施行令 第七十二条の三(使用人賞与の損金算入時期)
 内国法人がその使用人に対して賞与(略)を支給する場合(略)には、これらの賞与の額について、次の各号に掲げる賞与の区分に応じ当該各号に定める事業年度において支給されたものとして、その内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。

一 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額の通知がされているもので、かつ、当該支給予定日又は当該通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理をしているものに限る。) 当該支給予定日又は当該通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度

二 次に掲げる要件の全てを満たす賞与 使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度
 イ その支給額を、各人別に、かつ、同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること。
 ロ イの通知をした金額を当該通知をした全ての使用人に対し当該通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から一月以内に支払つていること。
 ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。

三 前二号に掲げる賞与以外の賞与 当該賞与が支払われた日の属する事業年度


 2号のイロハを満たせば期中に未払でも損金算入できる、というところまでは、各所のお役立ち記事で書かれていることでご存知かと思います。


 厄介なのが「支給時在籍要件」を設定した場合。

  通知A 『1/20まで在籍してたら支給するよ。』

 この点に関して、運営側の公式ルールとして、イの通知は「最終的、確定的に決定」したものを意味するという限定解釈が示されています。
 根拠として、3号の実際の支払日と同視できる場合に限られるからだと。

決算賞与金の税務上の取扱いについて(平成27年2月26日・金沢国税局)
 
 そこまでの限定解釈ができるのか、疑問がなくはない。

 これが、法人税法に「支払われた日その他これに類する政令で定めるとき」とでも書いてあれば、施行令の文言を支払日に引きつけて解釈する必要があるのは分かります。が、実際にはどちらも施行令に並列的に書かれているのであって、2号を3号に引きつけるとは、少なくとも文言上は読み取れない。
 せいぜい、1号が支給予定日(かそれより遅い通知日)・3号が実際の支給日だから、間に挟まれた2号もそれに近づけて解釈すべき、というくらいじゃないでしょうか。

 これ、当ブログでおなじみ「文言解釈×趣旨解釈」の相克の一場面です。
 裁判になったとして、最高裁がいずれを重視するか正直予測がつかない。どっちに転んでもおかしくない。

 と、疑問はあるものの、この限定解釈に従うならば「支給時在籍要件」がある場合には、実際に支給するかどうかは支給日まで不確定ということで、期中に損金算入できないことになります(用語として「未確定」と書くか「不確定」と書くか迷うところですが、さしあたり「不確定」としておきます)


 問題はここから先。
 じゃあってことで、通知を次のように定めたらどうでしょうか。

  通知B 『支給するよ。でも1/20までに退職したら放棄したことにするよ。』

 これは民法上の用語でいうところの「解除条件」にあたります(対して、通知Aは「停止条件」)。

民法 第百二十七条(条件が成就した場合の効果)
1 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
2 解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
3 当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。


 こういうふうに書いておけば、
  ・通知時点では支給することは確定している
  ・辞めて放棄したのは事後の事情だから翌期の処理になる
とできるでしょうか。

 さすがに無理があるんじゃないですかね。


 この点、「純粋私法準拠説」によるならば、民法上、通知時に
  通知A 効力未発生(停止条件)
  通知B 効力発生 (解除条件)
となるのを、税法上の結論にも直結させることになるのでしょう。

 確かに、民法上効力が未発生ならば税法上も不確定といえると思います。
 が、民法上効力が発生しているからといって、税法上も確定しているとまでいえるのかどうか。

  民法    税法
 ・未発生 ⇒ 不確定
 ・発生  ⇒ 確定??

 通知AとBを比べれば分かるとおり、書き方のオモテ・ウラを変えただけで、実態はなにも変わっていません。

  通知A もし在籍してたら払う
  通知B もし辞めたら払わない

 このあたりは「原則例外モデル」の欺瞞性と同じ匂いを感じます。
 例外的に考慮するだけ、といいながらバックグラウンドで必ず混入させている例の状態。

【原則例外モデルの欺瞞性】
からくりサーカス租税法 〜文言解釈VS趣旨解釈、そして借用概念論へ

 「実際に支給したのと同視できるか」という観点からすれば、停止条件で書こうが解除条件で書こうが、等距離にあるはずです。

 数値で表現するならば、通知時に予測される在籍確率が80%だとして、通知Aでも通知Bでも、実際に支給する確率は80%です。通知Bで書いたからといって、在籍確率がおもむろに上昇するわけではありません。
 何を当たり前なことを書いているんだ、と思うかもしれませんが、これを違うと見せかけるのが「条件トリック」です(叙述トリック的な)。

 運営ルールが、「通知時点での支給確率100%」を要求しているのだとしたら、通知Aも通知Bも要件を満たしていないことになります。

 そもそも、民法上の「条件」というもの自体が、『将来の不確定な事実』をトリガーとしています(ここが「期限」との違い)。
 ので、停止条件だろうが解除条件だろうが、条件を付けた時点で不確定になります。
 発生を不確定と書くか(停止条件)、消滅を不確定と書くか(解除条件)の違いにすぎません。

 対して、支給時の在籍を要求しない場合(通知C)は、いずれ必ず到来する「期限」のみとなるので、セーフとなるわけです。

  通知A 期限+停止条件 (支給するか不確定)
  通知B 期限+解除条件 (支給しないか不確定)
  通知C 期限 (支給するか確定)


 以上は法人税法上の問題ですが、それ以外に気になるのが「所得税法」の扱い。
 仮に、「解除条件で通知時確定」スキームが認められたとして、自動的に放棄扱いとなった個人の給与所得はどうなるのでしょうか。

 この点、通常の「支給日に確定」扱いであれば、確定前の放棄ということで所得税が課税されないことは、素直に導かれると思います。

 他方で、通知時に確定扱いとされたものを、確定後に放棄した場合でも同じに扱ってよいのかどうか。
 一度実現した所得を勝手に捨てただけ、と評価されることはないか。

 結論として課税すべきでないのは間違いないです。が、その理屈はすんなり導かれるものなのかどうか。


 さらに、賞与の放棄ということで気になるのが、「労働法規」絡み。
 「辞めたら放棄と扱う」のが、一連の労働法規上有効なのかどうか。

 賞与に関しては、給与と比較して権利性が弱いものとして扱われています。
 ので、「支給時在籍要件」を定めること自体は認められています(ただし、労働の対価の後払要素が強い場合ならば、その評価は怪しいですが)。

 ではあるのですが、通知Bのように一旦権利として「確定」したと扱っておきながら、一方的な通知のみで事後的に放棄させることができるのかどうか。
 少なくとも、そこに自由意思による任意の放棄があるようには思えません。

 だからといって、「権利として弱い」ことを、個別の放棄意思までいらないことの理由としてしまうと、「解除条件で確定」の前提が怪しくなってしまいますし。


 「解除条件で確定」という発想が出てくるの、「私法準拠説」の弊害ではないか、というのが私の見立て。

 民法上の
  停止条件=条件成就時に効力発生
  解除条件=条件成就時に効力消滅
という図式を無批判に税法に取り込むことによって産まれたのが、この発想ではないかと。

 実態は何も変わらないのに、表から書くか裏から書くかで税法上の取り扱いが真逆に変わる、なんて通常は思わないでしょう。私法準拠に殉教した信徒にしか到達しえない境地。

 「停止条件/解除条件」という概念を知らずに実態を評価するならば、いずれの通知であっても支給日がくるまでは支払われるかどうか不確定、と思うのが素直な見方でしょう。
 これを『税務署・税理士は民法を知らない』などとして一笑に付せるものなのか。中途半端な民法理解が、逆に誤った税法解釈を導いているのではないでしょうか。

 いわゆる「中級者の罠」。

 第一層
  通知Aも通知Bも中身同じじゃん
 第二層
  停止条件=条件成就時に効力発生/解除条件=条件成就時に効力消滅
 第三層
  停止条件も解除条件も「将来の不確定な事実」がトリガー
 
 民法理解が第二層どまりだと、税法上の扱いを異ならせてもよいように思ってしまいます。が、第三層にまで理解を及ぼすならば、いずれも不確定であることが分かります。
 『税理士は民法を勉強すべき』などという煽りにノセられて、第二層どまりの中途半端な民法知識を植え付けられるくらいなら、第一層の健全な事実感覚を育てたほうがハズさないはず。


 もちろん、最初に疑問を呈したとおり、「この程度の不確定をもって通知要件を満たさないという運営ルールは、施行令の解釈として狭すぎる」という主張は成り立ちえます。

 あるいは、事実評価の問題として、たとえば「当社は設立以降数十年経っているが、定年退職以外の退職実績は皆無」という場合ならば確定と同視してもよいのではないか(貸倒実績率的な)とか、ゼロではないがほぼ起こり得ない条件であれば確定と同視してもよいのではないか、などと主張する余地はあります。
 ですが、これらの場合もあくまでも100%確定と「同視できる」というにとどまり、100%確定そのものというのは無理筋でしょう。

 いずれにしても、実際の確率の評価問題であって、単なる通知の書き方だけで動かせるものではありません。


 なお、ここまで随所に「権利」とか「確定」とかが出てくるので、「権利確定主義」がちらつくかもしれません。
 が、ここでは(ここでも)何ら規範たりえません。

 あくまでも「お主義」どまりで、肝心の「権利」とか「確定」の中身を「権利確定主義」から導くことができないことは、以前論じたとおりです。

【さよなら権利確定主義】
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
さよなら「権利確定主義」(その2) 〜不動産所得
さよなら「権利確定主義」(その3) 〜譲渡所得
さよなら「権利確定主義」(その4) 〜違法所得


 決算賞与に限らず、「停止条件/解除条件」を裏返すことで課税関係をイジる所作、あくまで私の感覚ですが、税法的にはほとんど認められることはないんじゃないですかね。
 それによって実態が変わる場合ならば別ですけども、単に書き方をひっくり返しただけで課税関係が変わるとは思えません。

 以上の考えを別の場面に発展させると、たとえば「所得の収入計上時期」について、一律、
  停止条件付き契約 条件成就時に実現
  解除条件付き契約 効力発生時に実現
と扱うのはおかしいのでは、という発想に至ります。

 条件の内容や所得区分によっては、停止条件付きでも効力発生時に前倒しすべき、とか、解除条件付きでも条件成就時に遅らせるべき、といったことがありうるのではないでしょうか。

 逆に、収入計上時期のこの図式を決算賞与の場面に持ち出して、やはり「解除条件なら通知時確定」は正しいと主張する人がいるかもしれません。
 が、こういうの、まさに「経路依存」による論証の弱点。

 あくまでもこの図式が正しいことが前提になっているわけです。が、実態からすれば、この図式が全面的に通用するとは言い難い。
 たとえば、引渡も代金決済も完了しているにもかかわらず、『サボテンが花をつけたら効力発生』という停止条件が成就していないからまだ収入計上しなくてよい、とはさすがにならないですよね。
 停止条件/解除要件はあくまでも収入実現の目安にすぎず、絶対的な基準とはなりえない。

 こういったテーマについて、下記のような『税法×民法』ものの書籍で展開してくれることを期待しているのですが、残念ながら及ばない。

「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)

 思い違いがあったら失礼なので、ということで一応読み返してみましたが、案の定、上記図式がそのまま開陳されているだけでした。
 条件の中身や所得区分によっては違った評価がありうるのでは、などといった深堀りはそこにはなく。

 「実務家のため」とは何か?


 確かに、実務家の発想が基本的に「経路依存」であるのは間違いないです。
 本ブログでも、珍奇な独自説を唱えているつもりはなく、現状の道具立てを未解決の問題にあてはめたらどうなるか、というところから発想をスタートさせているはずです(自称)。

 スタート時点では「依存される側」を正しいものとして、一旦ピン留めするのはいいとして、どうも雲行きが怪しいなと思ったら、すぐに引き返して見直しをする、というのが経路依存による論証には必要な態度です。


 本ブログは、私法準拠×税法独自の枠組みでいうと、税法独自の観点を強調することが多いです。
 が、それは私法準拠が理論的におよそ間違っている、というのではなく。

 私法に準拠するといいながら、具体的にどうやって準拠するのか、その座組がいまだに(いまだに!)はっきりしていないと思うからです。
 だったら、私法は一旦カッコに入れて、税法の側から決め打ちしたほうが、さしあたりの判断はしやすいだろう、という戦略的な考慮からにすぎません。

  税法独自T⇒私法準拠T⇒税法独自U⇒私法準拠U⇒・・・

 私のつもりとしては、上記流れの中の「税法独自U」あたりを自分のポジションとして意識していて、いずれ準拠の仕方を精緻化した「私法準拠U」により止揚していただけることを、待望しております。
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 法人税法

2020年11月02日

西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 いわゆる「税務本」、本ブログではほとんど紹介することがありませんでした。



西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 「税務本」というのは、法令・通達・公式(タックスアンサーなど)に書かれていることメインで構成されていて、「法解釈」の要素が希薄(あるいは皆無)なものをいっています。

 念のため、「希薄(あるいは皆無)」というのは決してディスっているのではなく。
 専門家特有の法解釈テクニックを用いなくても相当程度運用できる、というのは「租税法律主義」のあるべき姿であって、悪いことではない。


 本ブログで実務寄りの本の記事というと、これくらいですかね。

関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

 当然のことながら、業務の必要から大量の税務本を読んではいます。
 ブログで紹介している「法学本」は、余った時間で趣味として読んでいるにすぎません。
 しかしまあ、趣味で法学本を読むというのも、なかなかのアレですね。

 今は唸り呻きながら下記の体系書を少しづつ読みすすめていますが、こちらは税務とそれほど乖離していないからセーフ。変に実務に寄せたものよりも、徹底的に学理を突き詰めた法学書のほうが実務に効いてくる、というのが私の体感。



中田裕康「債権総論 第4版」(岩波書店2020)

 法学本と比べて、税務本はどのあたりをおイジりあそばせばよろしいのかがいまいち掴めていませんでした(ただし、中田先生の上記体系書は隙がなさすぎておイジり不能)。

【隙ありアクティブ・ラーニング系】
三木義一「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 ただ、なんとなく税務本の嗜み方がわかってきた気がするので、これから少しずつ開放してみようと思います。


 完全に私見ですが、税務本には「表」バージョンと「裏」バージョンがあるように思います。
 当該制度を「表側」から記述するものと「裏側」から記述するもの、といった意味合い。

 ただし、このネーミングはいまいち腑に落ちていないです。
 本当は、「表本/裏本」あるいは「表モノ/裏モノ」にしようと思ったのですが、裏側がいかがわしい方面に誤解されそうなので却下。
 「表側から本/裏側から本」では長いし。

 以下では「表/裏」と極端に略すか、あるいは「表本」のほうだけ使います。


 表裏、おおまかな傾向として、それぞれ以下のような特徴があります。

【表バージョン】
・ほぼ法令、通達、公式情報そのままで構成されている。
・書名が月並み、かぶりがち。
・一通りの情報が並んでいる。
・ヤマなし、オチなし(意味はある)。
・国税庁職員が余暇を利用して書きがち。
・はしがきに「本書の見解はあくまで私見で所属組織の見解ではない」などと書かれていたりするが、実際に私見が披露されることはほぼない。
・制度が新設、改正されてからかなり早めに出版される。

【裏バージョン】
・表バージョンでは見落としがち、理解しにくいところに絞って記述。
・書名が特徴的。
・記述は網羅的でない。
・単体で読んでも理解できない。
・ある程度、実務運用が積み重なってから出版される。

 もちろん、一冊の本が必ずどちらかに割り振れる、とはかぎりません。
 一冊の中で、表要素が強めとか裏要素が強めといったこともあります。


 表は信頼できるものが一冊あれば足ります。基本的に誰が書いても内容は同じなので。
 ので、漏れなく書かれていることが重要です。

 そして何冊読んでも新しい知見が得られることはない。
 私のように「同じ本を繰り返し読んでも記憶に定着させにくい」という特殊な癖をもった者もいますので、そういう傾奇者ならば、同じようなことが書かれた別の本、というのも役に立つことはありますが。

 他方で、裏は著者の実務での知見が盛り込まれているので、いろんな角度からの本を読んでみるのが有益。
 これが、裏っぽい宣伝文句なのに全然実務に響いてこないとなると、「コイツ実務経験なしに空想で書いてやがるな」ということが推測できます。

【宣伝文句問題】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 そして、最終的には、条文だけをみて自力で裏読みできるようになるのが理想。

《表裏・三段活用》
 1 裏を読んで表本を理解する。
 2 表本を読んで自力で裏読みができるようにする。
 3 条文から直接裏読みができるようにする。

【参照:三段階学習法】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)
南野森「ブリッジブック法学入門(第2版)」(信山社2013)
伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)


 ちなみに、「質疑応答集」「事例集」「問答式」「Q&A」などをタイトルに冠した書籍、通達とタックスアンサーそのままの事例を載せているだけのものが多い。
 もちろん例外はありますが、少数派(個人の体感です)。
 どの本読んでも似たような事例が載っているのは、そういうこと。

 が、せっかく事例を使うならば、あてはめに悩むようなものをあげてくれないとあまり役に立たない。
 当該事例の結論がそうなるとして、ではどうすれば課税されなくなるのかとか、どこまでやったら課税されるかとか、応用をきかせることができないわけで。

 当然のことながら、事例の回答が「ケースバイケースですね。」などというのは論外として。

アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民6)


 例によって前置きが長くなりましたが、本書について。

 「組織再編税制」、込み入りすぎですよね。
 本ブログでも、ピンポイントでネタにすることもありますが。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 「課税要件明確主義」とか「納税者の予測可能性」とか言ってる方々、同税制の条文を目の前にしてもまだそんなこと言うか、と問い詰めたくなるような。
 これら条文を納税者に分かりやすく改変するなんて、できるものならやっていただきたい。

 条文の読み方だけでプロ向けの専門書が一冊できあがるくらいの領域よ。



中島礼子「そうだったのか! 組織再編条文の読み方」(中央経済社2018)


 本書は、表本を読んだだけでは見落としがちな論点に絞って解説したもの。

 決して表本に書いていないわけではありません。
 この本読んでから、再度表本を読みかえしてみると、確かに書いてはあるんですよね。
(書いていないとしたら「漏れ本」ということになるので、表本としては失格。)

 が、「ヤマなし本」を普通に読んでいるだけでは、そこが落とし穴になっていることを見逃しがち。

 表本が「平面図」だとするとそれを「立体視」してくれるようなもの。
 もちろん、立体視用のデバイスなので、元となる平面図を理解していないとこの本だけ読んでも組織再編税制を理解することはできません。

 他方で、表本のほうに漏れがあったりするとうまく立体視できないので、そちらはそちらで信頼できる本が必要。
 立体視することで気づいたことを、表本に「ここ注意!」とか書きためていくと、実務で使える本に仕上がっていくはずです。


 本書の構成は、まず間違った判断を示した上でその間違いを指摘する、という流れになっています。
 これがまさに「裏側から」の解説。

 表本だと要件がそのまま並んでいるだけで、どうなったら要件を満たさなくなるか、とか、どの要件の検討を見落としやすいか、などといったことは書かれていない。
 に対してこの本では、具体的な要件のあてはめ方・検討の仕方を学ぶことができます。


 また、本書では数字を入れた具体例で説明してくれるので、理解しやすい。

 類書だと、仕訳は書いてあるけど数字のところが「×××」となっている本があったり(伏字ではない)。
 ここにちゃんと数字が入っているので、とてもイメージがしやすい。


 ただし、本書はあくまでも(最初に述べた)「税務本」の範疇におさまっています。

 表本で見落としがちなところを強調しているにとどまり、法令等に明記のない「法解釈」が必要な領域までは手を出していません。
 比喩的にいえば、表本を「縦方向」にそのまま立体視しただけで、「横方向」にまで拡張はしていないということ。

 それが意図的かどうかは分かりませんが、その切り分け自体は一つの見識だとは思います。
 まずは、法解釈を展開しないでもすむ領域をしっかりマスターするんだと。
 「紛争系」はまた別の本で補えばいいわけで。

 私としては、日常系税務においても(紛争系とは性質の異なる)法解釈論を展開すべき領域があるとは思っていますが、あくまでも妄想段階。


 判決・裁決に一切触れないでも「実務書」として成立するの、「税務本」特有の現象なんでしょうか。
 弁護士向けの「法務本」で裁判例に触れずに作り上げるのは、ちょっと無理ですよね。
 あるとしても特定の分野に限られ、税務みたいに全体として日常系/紛争系に分かれるものはさすがにないんじゃないかと。

 こんな曲芸ができるのは「租税法律主義」のおかげ、ではなく、通達をはじめとする運営側(国税庁)の詳細なルール設定のおかげだと思います。
 これまでも再三述べているように、法令だけを見て非専門家がその内容を理解できるとはとても思えません。
 (結論が正しいかどうかはさておき)運営側がどのように法令を運用するかを事前に公開してくれるおかげで、行動の指針が明確になるわけです。


 法務の世界で、税務における通達ポジション的なものを見出すとしたら、業界団体の自主規制ルールでしょうかね。
 いわゆるソフトローの世界。



 中山信弘編「ソフトローの基礎理論」(有斐閣2018)

 翻って税務における通達の機能というものを考えるに、これもある種の「ソフトロー」といってもよいのかもしれない。
 国家によるルール設定ではあるものの、実体法レベルでは「法的拘束力」がないという意味では自主規制ルールと同じなわけで。

 のはずなのに、裁判所が通達丸呑みみたいな判決を出したりすると、がっかりさせられる。


 「リーガルマインド」的なものを学び始めると「通達行政」をやたらとディスる意識高い系になりがち。
 が、「予測可能性」という観点からすれば、法令だけでは不十分なのは明らかで、それがどのように運用されるのかを事前に公開してくれるのは有り難い。

 もちろん、その運用が法の解釈として適切なものかを検証するには、「リーガルマインド」的なものは必要でしょう。
 が、何もかもをゼロベースから検証するのは極めて非効率。


 とかいうことを書きながら、ふと思ったのが「刑法(解釈)学」のこと。

 刑法の教科書には、必ず最初のほうに「罪刑法定主義」「刑罰法規の明確性」ということが高らかに謳われています。
 国民の行動の自由を保障するため、刑罰を科すには事前に法律で明確に定めておくことが、憲法上要請されているんだと。

 それ自体はそのとおりなんですが、それより後ろのページには、およそ国民一般が理解しがたい難解な刑法解釈論が展開されているのがお決まりのパターン。
 その難解な解釈論を、我々一般人が行動の基準としうると本気で考えているのかよと。

 一応擁護めいたことをいうならば、難解な議論が展開されているのは限られたレアケースについてだけであって、大部分の刑事事件はそんな難解な議論を経由しなくても粛々と処理されているんだと。
 税務になぞらえるならば、通達ベースでそのまま処理できるレベルの案件。

 擁護のつもりで言ってみたものの、むしろ刑法学の活躍場面を矮小化する結果になっていますか。
 本来ならば、常識で判断できるような場面でなく、ギリギリのレアケースでこそ、一義的に判断が導ける理論が必要なはずなんですけども。


 話を税務に戻して。

 そうすると、通達は一義的に結論が導けるようにしておくべき、ということになるのでしょう。
 現に、大部分の通達はそうなっている(はず)。

 で、うっかりそうなっていない通達があると、「通達は文理解釈すべし!」などというクレイジー判決に法解釈を施されちゃう(イジられ判決の一生)。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決


 ちなみに、「紛争系」の本についても、理念としての「表と裏」を想定することができます。
 表は当該判決の解説に留まるもの、裏はその判決を判例としてどのように使うかを検討したもの。

 表を「判決本」、裏を「判例本」と表現してもよいかもしれません。
 タイトルに「判例集」とあっても、単なる判決の寄せ集めにすぎないものもあるので要注意。
 その判決群から、自力で判例を抽出しないといけない。

 そもそも、当該判決は、それ自体で直ちに判例となるわけではありません。
 後続判決にて判例として引用されてはじめて、それが判例であることが確定するわけで。

  先行判決@
  後続判決A(判決@を引用)←この部分が判例

 そしてそれは、当該事案で使われたかぎりでしか姿を確認することができないものです。
 @がまるごと判例なのでなく、Aの中で利用された部分だけ。

 『判例は、引用判決の中でしか生きられない。』

 もちろん、出た時点で「規範力強そう」な判決(絶倫系判決)というのはあります。
 が、これも法制上はあくまでも、将来めっちゃ判例になりそうなやつ、というにとどまります。

判例の機能的考察(タイトル倒れ)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

 で、判決本/判例本についても、税務本と同様の段階的学習を想定することが可能です。

《判決⇒判例・三段活用》
 1 判例本を読んで判決解説本から判例を抽出できるようにする。
 2 判決解説本から自力で判例を抽出できるようにする。
 3 判決から直接判例を抽出できるようにする。


 以上、本の紹介の体裁をとっておきながら、全体として脱線につぐ脱線。

 書評としてのお作法は完全に無視していますが、今後も税務本の紹介をするとしたらたぶんこういう感じの記事になる気がします。
 というか、本ブログの本の紹介記事はイジり倒すか/褒めちぎる/脱線するのいずれかで、まともに書評らしい書評を書いたことがないかも。
posted by ウロ at 10:07| Comment(0) | 法人税法

2020年04月06日

「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

 古典的な論点である「定期同額給与」もの。

 もちろん、近時あれこれ改正入っているところなので、改正点をネタにすることはあるでしょう。
 他方で、古典中の古典たる「3ヶ月以内改定」なんて、今さらブログ記事にする人もいないのかもしれません。

 が、世の中の需要をまるで考慮しないこのブログ、条文イジりという観点から整理してみます。
 
【いまさら条文シリーズ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
無償減資で均等割下げ(節税系の記事ではなく)


 以下、このタックスアンサーでいうと、1の(1)と(2)イに限定します。
 また、事例は「12月決算」の株式会社を前提とします。

No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)

 まずは条文。
 直接関係があるところのみ大胆に省略いれつつ抜粋。

法人税法 第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
一 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(「定期給与」)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(「定期同額給与」)

法人税法施行令 第六十九条(定期同額給与の範囲等)
1 法第三十四条第一項第一号に規定する政令で定める給与は、次に掲げる給与とする。
一 法第三十四条第一項第一号に規定する定期給与(「定期給与」)で、次に掲げる改定(「給与改定」)がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの間の各支給時期における支給額が同額であるもの
イ 当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から三月を経過する日(「三月経過日等」)までにされた定期給与の額の改定



 法律上は大きく2つに分かれます。

法34条1項1号:
1 その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(「定期給与」)で
  当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの
2 その他これに準ずるものとして政令で定める給与

 「その他」とあるので、法で定めるものに「プラス」して政令で定めるものがあるということ。
 で、政令に3ヶ月以内改定のことが書いてあります。

 条文の引用のない解説ものだと政令のほうしか書いていなかったりしますが、条文の構造上は法の1がベースにあって、政令のやつはあくまでも「これに準ずるもの」だということになっています。

 会社法の側から考えると、定時総会での改定が通常ルールのように思えますが、法人税法上はまずは「事業年度」単位で考えるんだと。


 1によれば、定時総会まで待たずに期首月からの改定も許されることになります。

《事例0》
 1年12月 50万円
 2年 1月 100万円 (改定)
  〜
 2年12月 100万円

⇒2年1月〜12月 同額

 「定時株主総会によらず期首から改定するのは定期同額給与の趣旨に反するから否認リスクあり」みたいな記述を見かけたことがありますが、それはこの条文構造をおよそ踏まえない独自の見解。


 で、政令のほうが本日のメイン。

 まずは要件を分解します。

ア 定期給与:
  その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与
イ 給与改定:
  事業年度開始の日から三月を経過する日までにされた改定
ウ 同額給与:
  当該事業年度開始の日から給与改定後の最初の支給時期の前日まで
  給与改定前の最後の支給時期の翌日から当該事業年度終了の日まで
 の間の各支給時期における支給額が同額

 アは書いてあるとおり。
 イもこれ自体は書いてあるとおりなんですが、3ヶ月以内に改定決議だけしておけばいいのか、その改定による支給も3ヶ月以内にする必要があるのか、という問題があります。
 結論的には、決議だけでよいとなるのですが、ア・ウとの関係でおのずから制限がでてきます(後述)。

 ということで、問題の総本山がウの要件。


 まず、ノーマルな事例であてはめてみます(通常事例思考)。

【通常事例思考】
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)

《事例1》
 1年12月 50万円
 2年 1月 50万円 (1/31支給)
 2年 2月 50万円 (2/28支給)
 2年 3月 100万円 (3/25改定決議、3/31支給)
   〜
 2年12月 100万円 (12/31支給)

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(3/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒3/31〜12/31 同額

 一般向けの解説書だと、単に3ヶ月以内に改定すればいいよ、とウの要件を書いていないものもあったりします。
 それは、このような一定期間を設定しその間に到来する支給時期で比較する、という回りくどい要件を書いてもどうせ理解してもらえない、という配慮からでしょうか。

 まあ、実際上記のような《通常事例》ならば、結論は変わらないから実害はないんでしょう。


 が、次のような事例がでてくると、条文に立ち返らざるをえない。

《事例2》
 1年12月 50万円
 2年 1月 50万円 (1/31支給)
 2年 2月 50万円 (2/28支給)
 2年 3月 50万円 (3/31支給)
 2年 4月 100万円 (4/30支給) 3/25改定決議による
   〜
 2年12月 100万円 (12/31支給)

 なぜ、3/25改定決議の反映が、直後の3/31支給ではなく4/30支給からになるのか。
 それは、この会社では3/25に決議された役員報酬は、同日からの職務期間に対応するものだとしているからです。
 3/25から1ヶ月分の報酬を4/30に支給すると(後払)。

 にもかかわらず、《事例1》と同じようにあてはめをすると、

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(3/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒3/31〜12/31 同額でない

となってしまいます。

 また、改定決議自体は3ヶ月以内に行っているものの、その改定に対応する支給は3ヶ月後になってしまっています。
 そうすると、イの要件を満たすのかどうかも問題になります。


 この点、国税庁の「Q&A」では「職務執行期間」という考えを導入して、このようなものを容認しています(決算期がズレててすまん。オフィシャル事例、そろそろ12月決算にそろえないか)。

役員給与に関するQ&A - 国税庁(P.8)

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜3/31 同額
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(4/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒4/30〜12/31 同額

 Q&Aではウの緩和しか明示されていませんが、イについても、決議を3ヶ月以内にすれば支給は3ヶ月後でもいい、ということを前提にしていると思います。


 納税者有利な結論ではあるものの、この考えが政令の解釈として出てくるものなのか、国税庁が勝手に緩和してくれているだけなのかがはっきりしません(通達ですらない)。
 Q&Aに書いてあるのは「ウチはそう考える」というだけで、条文解釈の体裁をとっていません。
 政令の文言をどう解釈すれば、この結論が出てくるというのかが不明。

 納税者有利だから別にいいじゃん、て思うかもしれません。
 が、これが正当な法解釈でないとすると、あとから裁判所でひっくり返されることもありえます(信義則やら禁反言などはそう当てにはできない)。

 そこで、頑張って政令の解釈をするならば、
イ 給与改定
 文字通り改定決議日が3ヶ月以内であればいいということ
ウ 同額給与
 「給与改定前」「給与改定後」とあるのは、改定決議日そのものではなく、職務執行期間を考慮するということ(決議日3/25ではなく、新しい職務執行期間1ヶ月目の終了日4/25の前後で判定)

とでも読むことになりますか。
 政令も支給が後ろの月にずれる場合を想定しているはずだと。

 ただ、イでは決議日が基準になるといっておきながら、ウでは決議日ではなく職務執行期間に紐付けるというところに、そこはかとなく不整合感を感じます。
 条文ではわざわざ「給与改定」を定義づけた上でイとウを繋いでいるにもかかわらず、それぞれ違う意味合いで解釈をすることになるわけで。


 この「職務執行期間」を考慮する解釈、翻って典型例である《事例1》にあてはめるとこうなります。

3月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜2/28、3/31 同額でない
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(4/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒4/30〜12/31 同額

 駄目じゃんか。

 もちろん、この事例が
  新しい職務執行期間3/25〜 ⇒対応する1ヶ月目の支給日3/31(一部前払?)
だというならば、あてはめは最初に書いたとおりになるからセーフです。

 が、大半の中小企業は、職務執行期間なんか気にせずに改定・支給しているはずです。
 そうすると、今までは単純に、決議日の直後の支給日から反映させればいいと考えられていたものを、その支給日が新しい職務執行期間の1ヶ月目に対応するものかを確認しなければならなくなります。

 この結論がおかしいのだとすると、ウを二通りに解釈しなければなりません。

ウ 同額給与
 「給与改定前」「給与改定後」とあるのは、
 ・文字通り改定決議日の前後
 ・新しい職務執行期間1ヶ月目終了日の前後

 このどちらでもいいんだと。
 が、こんなご都合解釈、ますます条文解釈からは出てきそうにない。
 

 では、ウが緩和されたってことで、3/25決議で7/31支給からの変更が許されるかといったら、それは駄目っていうんでしょう。
 あくまでも1ヶ月サイクルのずれに収まるかぎりでの許容だと。

 確かに、不整合感は残るにしても、職務執行期間で縛っておかないとどこまでも後ろにずらせることになります。

 そうはいっても、このような限定が条文解釈から導けるかどうか。
 定期同額ルールの究極の趣旨である「利益調整許すまじ」という発想からすれば、3ヶ月以内に決めたものであるかぎり、いつから反映してもいいように思いますし。
 遡りさえしなければいいわけで。

 まあ中小企業の現実として、後付け議事録云々という問題はあるんでしょう。
 が、そういった現実が条文解釈に直結するわけでもない。

 ただし、制度趣旨を理由に条文上表現されていない解釈を創造することの問題点は、前に高裁判決をイジり倒したとおりです。
 1ヶ月サイクルに限る/限らない、いずれと解するにしても、あくまでも条文解釈として可能な範囲にとどまらなければなりません。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)


 では、1で期首から改定が許される+2で3ヶ月以内改定が許される、というのを合成して、2段階改定したらどうなるか。
 ややこしくなるので「職務執行期間」のことを気にしなくていいという前提で考えます。

《事例3》
 1年12月 50万円
 2年 1月 70万円 (1/1改定決議、1/31支給)
 2年 2月 70万円 (2/28支給)
 2年 3月 100万円 (3/1改定決議、3/31支給)
   〜
 2年12月 100万円

 1月に70万円に増額したものの、やっぱり今期はもっといけそうってことで3月に100万円に増額した、というストーリー。

 2年12月末の時点から振り返ってみると、2年1月〜12月が同額でないので1の要件は満たしていません。
 では2はどうか。

 2年1月・3月2回の改定は、いずれも3ヶ月以内改定なのでイは満たしています。
 問題はやはり、ウをどう考えるかです。

「@当該事業年度開始の日又はA給与改定前の最後の支給時期の翌日からB給与改定後の最初の支給時期の前日又はC当該事業年度終了の日まで」

 この条文をどう読むのかがあらためて問題になります。

 通常は、上記のとおり、
  @〜B A,C
  A〜C B,D
の間がそれぞれ同額かを見ればすみます。
 では、改定を2回した場合にはどうあてはめるのか、たすき掛けしてA〜B(E)もみる必要があるのかどうか。
 ちなみに、@〜Cは1と同じになっておよそ同額ではなくなってしまうので、検討からはずします(このことからすると、たすき掛け読みすべきでない、という方向になりそうですが)。

 無理くりやってみます。

1月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(1/30)まで
 ⇒なし。
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒1/31〜12/31 同額でない

3月改定
C 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額
D 給与改定前の最後の支給時期の翌日(3/1)から当該事業年度終了(12/31)の日まで
 ⇒3/31〜12/31 同額

1月改定〜3月改定
E (1月)給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から(3月)給与改定後の最初の支給時期の前日(3/30)まで
 ⇒1/31、2/28 同額

 う〜ん、て感じですよね。
 2回改定がある場合には、A+E+Dで見ればいいのか、2回目のC+Dだけを見ればいいのか、それともA〜E全部みるのか。

 仮に、A〜E全部でみて損金不算入になるのだとしたら、一体どの部分が不算入額として扱われるのか。


 では、《事例3》に「職務執行期間ズラし」をプラスしたらどうなるか。

《事例4》
 1年12月 50万円
 2年 1月 70万円 (1/25改定決議、1/31支給)
 2年 2月 70万円 (2/28支給)
 2年 3月 70万円 (3/31支給)
 2年 4月 100万円 (3/25改定決議、4/30支給)

1月改定
A 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(1/30)まで
 ⇒なし。
B 給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から当該事業年度終了の日(12/31)まで
 ⇒1/31〜12/31 同額でない

3月改定
C 当該事業年度開始の日(1/1)から給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜3/31 同額
D 給与改定前の最後の支給時期の翌日(4/1)から当該事業年度終了(12/31)の日まで
 ⇒4/30〜12/31 同額

1月改定〜3月改定
E (1月)給与改定前の最後の支給時期の翌日(1/1)から(3月)給与改定後の最初の支給時期の前日(4/29)まで
 ⇒1/31〜3/31 同額

 何気なくあてはめしてますけど、ここでは、
  1月改定 決議日で判定
  3月改定 職務執行期間を考慮して判定
と、同じ「給与改定」という言葉を違う意味で解釈しています。

 《事例2》と《事例3》のように、違う事例での使い分けが許されるとしても、同じ事例で同時に使い分けるのは、さすがに無理じゃないですかね。
 1月改定で職務執行期間サイクルを無視した改定をしているくせに、3月改定では職務執行期間を考慮するなんて、合理的な説明できないですよね。

 もし仮に違う意味解釈が許されたとしても、《事例3》同様、BCを除け者にして判定していいのかどうかが問題。


 ここまで、「決議」とだけ書いてきましたが、これが「定時総会」である必要があるのか、それとも「臨時総会」でもいいのか、ということも問題にはなります。

 「3ヶ月以内」とあるので、いかにも定時総会を想定しているように思えます。
 が、少なくとも条文上は限定されていない。

 限定したいのであれば、会社法の条数を引用してそのものずばりを書くなり、あるいは「職務執行期間」に紐付けて特定することができたはずです(事前確定みたいに)。
 ですが、そういう縛りはありません。

 ではあるのですが、Q&Aが「職務執行期間」を梃子にしてウを緩和しているわけで、その見返りに、支給が後ろにずれる場合は「定時総会」に限定される、みたいな交換条件がでてきてもおかしくない。

 例の「変な趣旨解釈」みたく、条文上書いてもいない限定要件を一般的否認規定経由で勝手に付加する、というのに似ていますが、ちょっと毛並みが違う。
 有利な緩和とのバーターになっているわけで。

【変な趣旨解釈】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)


 そもそも定期同額給与について、法のレベルでは「事業年度」単位で判定になっていて会社法のことなんて気にしていないのに、それに準ずるはずの政令で「職務執行期間」なんて概念を持ち出すのが、変といえば変です。
 
 とすると、あくまでも法令上は支給が後ろにずれるのはアウトだけども、実情に鑑みてあえて否認はしませんよ、と捉えるのが無難でしょうか。
 こういう理解でいいのだとすると、通達に書かずにQ&Aでとどめていることの奥ゆかしさ、慎ましさみたいなところに趣を感じます。

 そういう視点で通達の「定期同額給与」のところをみると、あえて避けているようにも読めてくるから不思議。

法人税基本通達 定期同額給与
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_02_03.htm

 これに対して「短期前払費用の特例」のでしゃばり具合。
 みんなにチヤホヤされて、さぞ嬉しかろうが。
 しかしちょっとでも機嫌を損ねるとブチ切れる感がきついよ、この人。

法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。



 と、何も結論でていないものの、私個人の見立ては以下のとおり。

《法令解釈》
・政令上は「改定決議⇒その直後の支給」と読まざるをえないのであって、職務執行期間を考慮して後ろにずらすのは許されない。これは「令の不備」。
・はみ出さないパターンならば、決議は3ヶ月以内でありさえすれば定時総会である必要はない。
・2回改定はA〜Bのたすき掛け読み(A+E+Dでみる)で許容可能か。

《実務運用》
・職務執行期間ズラしは政令上はアウトだが、実態に鑑みて、国税庁様があえて否認はしないよと言ってくれている。
 ので、後ろにズラせるのは、Q&A記載のとおりの「定時総会による改定+1ヶ月サイクル」におさまる場合に限られる。
 この優しさを裏切ってはみ出しチャレンジをした場合には、徹底的に否認されるはず。

  法律; 事業年度 ⇒セーフ
  政令; 改定+直後支給 ⇒セーフ
  Q&A; 定時改定+職務執行期間考慮  ⇒アウトだが容認
  勇者; Q&Aはみ出し ⇒完全アウト

《裁判》
・裁判になったとしても同様に、政令上は直後支給のみが許容されている、合理的な範囲のズラしは個別救済、と判断されそう。
 で、補足意見で政令の出来の悪さを論難されると。


 マニアックな特例ならともかく、定期同額給与なんてメインストリームの制度なのに、なんでこんなできの悪い条文のままなのか。
 誰かチャレンジングな人がギリギリを攻めて裁判にならないかぎり、このまま放置され続けるんでしょうかね。

 ちなみに、下記の判決では最高裁判事に通達の出来の悪さをボロクソに論難されたわけで、近いうちに通達改正がされるんでしょう。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈の終わり? 〜さらば東京高裁平成30年7月19日判決
解釈の解釈は終わりました。〜最高裁令和2年3月24日判決【判例速報】
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決


 条文なぞって終わり、で済むかと思いきや、よくわからない論点が出てきてしまいました(藪蛇)。

 定期同額給与なんてみんな知ってるよ、という類のものなので、こういう疑問を会計事務所・税理士事務所の人に聞いても、結論だけは自信満々に言ってくれるけどもなぜそうなのかの理由付けを説明してくれない、タイプのやつです。

 2回改定が「許される」とか「許されない」とか結論をいうのはいいんですが、それがこの条文をどうあてはめたら出てくるのか、理由付けのほうを知りたいんですけども。

 私自身も、今のところこれで勝負をかけようとは全く思いませんが、最後に残るものが「希望」となるのかどうか、もう少し考えてみます。
posted by ウロ at 10:56| Comment(0) | 法人税法

2019年03月01日

みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い

 生保が損金算入制限されても倒産防は制限されない、でおなじみの。

経営セーフティ共済(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)

 さっそく条文をみてみましょう(以下、条文イジりの記事であって節税系の記事ではないです)。

租税特別措置法(e-GOV)

第六十六条の十一(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
1 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。

二 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第二条第二項に規定する共済契約に係る掛金
(一号と三〜五号は省略)

2 前項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。


租税特別措置法関係通達(法人税編)第66条の11《特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例》関係

66の11−2(負担金の損金算入時期)
 措置法第66条の11に規定する負担金の損金算入時期は、法人が当該負担金を現実に支払った日を含む事業年度となることに留意する。

66の11−3(中小企業倒産防止共済事業の前払掛金)
 中小企業倒産防止共済法の規定による共済契約を締結した法人が独立行政法人中小企業基盤整備機構に前納した共済契約に係る掛金は、前納の期間が1年以内であるものを除き、措置法第66条の11第1項第2号に掲げる掛金に該当しない。



 まず、法(66条の11は略します)の1項では、支払った事業年度の損金に「算入する」と書いてあって、「算入できる」ではないんですね。
 ので、本来は問答無用で損金算入しなければならないはず。
 が、法2項で、明細添付しないと適用しないよと書いてあるせいで、事実上「できる規定」のようなことになってしまっています。


 また、損金算入するための要件として「明細添付」は要求されていますが、「損金経理」は要求されていません。
 ので、「保険料」で費用計上せずに、「保険積立金」で資産計上した場合でも、申告書上で課税所得を減算することになります。

 そうするとここで、《資金調達に強い!》みたいな触れ込みのコンサルさんが登場してきて、次のような提案をしてくることが考えられます(あくまで仮想例。こういうとき、私はゲーテの『ファウスト』を頭の中に思い浮かべています)。



 『保険積立金として計上すれば、損益計算書をよく見せつつ税金も減らせるよ!御社の顧問税理士はそんなアドバイスしてくれないでしょ!』

という感じの。

 これ、どういうことか具体的に考えてみましょう。

 年間240万円掛金納付したとして(諸々細かい事情は捨象します)

A 保険料として計上した場合

  売上高   240
  保険料   240
  税引前損益  0
  法人税    0
  当期損益   0

  課税所得 0

B 保険積立金として計上した場合

  売上高   240
  税引前損益 240
  法人税    0
  当期損益  240

  課税所得 0(当期損益240−減算240)

 なんと!当期損益が掛金納付分プラスになっているではないですか!
 しかも税額0円のまま!と。

 これだけみせられると、ついつい「保険積立金で処理します!ついては当社の顧問となっていただけますか。」と、乗っかってしまいそうになりますが、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

 保険モノは常に《出口戦略》が重要なわけで。

 ということで、掛金累計800万円を「保険積立金」で計上したあと、解約した場合はどうなるかというと、

  売上高    0
  税引前損益  0
  法人税   200 (税率25%とします)
  当期損益 ▲200

  課税所得 800(当期利益0+加算800)

 税引前損益が0円なのに法人税が発生するという、「どうかしてる系の損益計算書」になります。もちろん、資本金等、従業者、事業所が多いなどで「均等割」が高額になることはありますが、それはそういう説明ができるわけで。

 まあ、税引前損益0円というのは極端な事例であって、利益が1億円くらい出ていてくれれば、紛れてくれます。
 が、倒産防を解約するなんていうのは、800万円でもすぐに現金が欲しい、というカツカツな状況のはず。

 これを、むりやり普通の損益計算書ぽくしようとするなら、解約事業年度以降「なんちゃって税効果会計」みたいなことをやって、誤魔化すしかないような気がします(いや私には無理です)。

 ので、「保険積立金」で処理するにしても、ちゃんと出口のことを考えておこうね、ということです。


 また、節税商品としておすすめする際に、当然のように「前納は1年先まで!」てことになっています。

 これ、条文上どう書いてあるかというと、

  法:支払ったらそのとき損金算入な。
  通:でも前納は1年以内だからね。


と、「1年」て書いてあるの通達だけなんですよね。

 だから、なに通達で勝手に制限しちゃってるの、という点は、問題になっておかしくない。
 今どきの、文言解釈重視の判例の流れからいえば、「勝手な制限は違法」と判断される可能性もあるわけで。

 法自体の解釈から「損金算入される前納は1年まで」を読み取れないといけないはず。

【ちょっと違いますが参照】
解釈を解釈する解釈(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 あえて課税側に寄り添って解釈してあげるならば、次のような解釈ですかね。

・法1項2号には「中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための」と書いてあるんだから、実際に対象期間がきて充当されるまではこれに該当しないはずだ。
・でも、通達で、1年以内だったら充当されてない期間分も認めてあげるね。
・ので、この通達は、法の制限ではなく拡張だからセーフ。

て感じ。

 確かに、中小企業倒産防止共済法の15条みると、対象月の初日の到来で納付扱いになるんですよね。
 だから、こういう読み方も可能っちゃ可能かと。

中小企業倒産防止共済法 第十五条(前納)
1 機構は、共済契約者が、その納付すべき月の前月末日以前にする掛金の納付(以下「掛金前納」という。)をしたときは、経済産業省令で定めるところにより、その掛金の額を減額することができる。
2 掛金前納がされた掛金については、その納付すべき各月の初日が到来した時に、それぞれその月の掛金が納付されたものとみなす。


 が、そうすると今度は、何勝手に広げちゃっているの、という逆の問題が生じてしまいます。
 納税者有利だからいいだろ、と単純にいえないのが税法上の「合法性」の問題。

 けども、そこを突っ込みだすと、『みんなもっと大好き!短期前払費用の特例』の立場も怪しくなってしまうわけで。
 あまりイジらないほうがいいですか。

法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。



 そのへんの節税本でも当たり前にのっている倒産防ですが、税法解釈の観点から眺めると、実はイジりがいのある論点があるわけです。
posted by ウロ at 16:21| Comment(0) | 法人税法

2018年08月27日

さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ

 や、今回でひととおり出し尽くしたので、これ以上の続編はないはずです(当時のスタッフもそう思ってたのかも)。

 平成30年改正の所得拡大促進税制について、要件のうち『継続雇用者』の判定をメインに絞ってイジってきましたが、まだ積み残した論点があります。

【措置法イジり(所得拡大促進税制編)】
 税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)
 武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
 ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ

1 賞与は何月分?

 継続雇用者の判定では『賞与』はいつの月分として集計するんでしょうか。

 というのも、『給与』については、「○月分」というのは「○月勤務分」と理解できるので、集計のズレは気持ち悪いとして、まあやればいいと。

 では『賞与』でいう「○月分」はどう理解したらいいのか。賞与の場合、必ずしも特定の月に紐付いているわけではないので。

 賞与の計算対象期間で判定するのか、支給日で判定するのか。
 あるいは、各月分に紐付いてないから継続雇用者の判定の際には賞与は使わない、ということなのか。

 もしこの「使わない説」だとすると、CとDEで集計すべき項目が、さらにズレるってことになりますよね。

  C  発生した給与(賞与は集計しない)
  DE 損金算入した給与+賞与

 現実的には、「一般被保険者でありつつ、○月分の給与はないのに賞与はある」という事例が起こりえない、から、給与と別に賞与単独で判定する場面がない、ということかもしれませんが。

2 退職後に支給したら

 また、継続雇用者の判定を「発生」ベースでやるとして、支給を受けた時点で一般被保険者である必要があるのかどうか。

  ・前年度: x1.01.01〜X1.12.31
  ・適用年度:x2.01.01〜X2.12.31
  ・給与は当月末〆翌月末払
  ・X2.12.31退職

 この例では、X2.12月分まで給与が発生しているものの、最後の給与を受けるX3.1.31の時点ではその会社の一般被保険者ではないわけです。この場合でも継続雇用者に該当するかどうか。

 政令では

  ・国内雇用者(一般被保険者)として
  ・給与等の支給を受けた者

とあるので、支給を受けた時点でも一般被保険者である必要がある、とも読めるわけです。

 が、これに関しては、発生した給与が一般被保険者としてのものならよくて、あげる/もらう時点で一般被保険者である必要はない、と理解すればいいはず。おそらく。

 誤解を招く書き方ではありますが。

3 1日分でも該当するか?

 では、上の例で、もし「X2.12.01」に退職した場合は、「12月分」の給与の支給を受けたといえるのかどうか。 
 つまり、1日分でもその月分の給与を受けたといえるのかどうか、ということです。

 「各月分」という言葉だけみると、1日分だけでもその月分の給与の支給を受けたといえそうです(1日説)。

 ただ、法律・政令では、適用年度と前事業年度の「期間内の」という言葉もでてくるので、前事業年度の初日から適用年度の最終日の全期間分(365日間×2)の給与を受ける必要がある、とも読めなくもないです(全期間説)。
 
 が、「各月分」と「期間内」をあわせて読めば、その期間のうちの月分ということで、1日分でもいいとも読むこともできそうですし(1日説に戻る)。

 この点、中小企業庁作成の『中小企業向け所得拡大促進税制 よくあるご質問Q&A集』の「29」をみると、支給については「全ての月分の」とありながら、他方で、一般被保険者であることについては「全ての期間において」という言葉を使っているので、どうも「全期間説」を前提にしてるように読めるのですが、このへんのことをしっかり詰めた上での記述かどうかは不明。

 積極的な賃上げに取り組む企業を応援します(中小企業向け所得拡大促進税制)
 中小企業向け所得拡大促進税制 よくあるご質問Q&A集(PDF)


 継続雇用者の要件の厄介なのが、

  該当するのが納税者有利
  該当しないと納税者不利

とは限らないということ。

 0人だとそもそも適用受けられないので、誰もいないよりはいたほうがいいのは確かです。

 が、前年比で給与増やした人が該当するならいいんですけど、減らした人が該当しちゃうと困るわけです。
 前年比増要件が満たせなくなってしまうので。

 あるいは、上の論点3で、1日分支給でも継続雇用者に該当するとした場合、前年度は12ヶ月分、適用年度は11ヶ月と1日分となって、前年比減となる要因が増えてしまいます。

 こんな要件、珍しい。


 ここまで書いてきて、継続雇用者の判定要件、結局のところ分からないことだらけです。

 単純に、一般被保険者としての「勤務期間」だけで判定すればよかったと思うんですが、わざわざ「期間内の各月分の給与もらってる」といった厄介な要件を付け加えることで、どんな事例を排除しようとしたのか、よく分かりません。

 小規模宅地等の特例を検討したときと共通してますが、『制度趣旨』からそれぞれの適用要件の位置づけや意味を導くことができないのがネックになっています。

【措置法イジり(小規模宅地の特例編)】
 パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
 イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正

 今回の論点にしても、前回の支給か発生かという論点にしても、とにかくどっちかに決めといてくれ、というレベルの話であって、どちらかが正しい、という類のものではないです。
 当期と前期で同じ基準に揃えるべき、まではいえるとして、じゃあ「社員の所得増やそうぜ」という制度趣旨から、支給で判定すべきとか発生で判定すべき、なんて導けないですよね。

 措置法の要件て、この制度の他の要件でもあるように、前年比で「百分の一・五以上」増えたら、とか、はっきり基準が決まっているのが本来なはず。「所得増やそうぜ」の趣旨だけから、1.5が相応しいのか、あるいは2.0が相応しいのか、なんて解釈しようがないわけで。
 これが「前年比で相当割合増えたら」なんて書かれてたら、どうしようもないですよね。
 
 といったことで、ここまでの私の記述も「こう解すべき」という書き方はほとんどできていません。「実務的には、たぶんこっちの扱いのほうになるんじゃない?」くらいのふんわりニュアンス。

 「税務リーガルマインド」とかいってますけど、本来、この領域ではそんなもの発揮する場面ないですからね。決まった制度を粛々と当てはめていけば済んでたはずなんです。
 それがどういうわけか、ブログで長々とイジり倒す羽目になっている。

【参照条文】(はげしく省略要約してます)

○租税特別措置法42条の15の5第3項

四 雇用者給与等支給額
 法人の各事業年度(「適用年度」)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。

五 比較雇用者給与等支給額
 法人の適用年度開始の日の前日を含む事業年度(「前事業年度」)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。

六 継続雇用者給与等支給額
 継続雇用者(法人の適用年度及び当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度(「前事業年度等」)の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者として政令で定めるものをいう。)に対する当該適用年度の給与等の支給額として政令で定める金額をいう。

七 継続雇用者比較給与等支給額
 前号の法人の継続雇用者に対する前事業年度等の給与等の支給額として政令で定める金額をいう。

○租税特別措置法施行令27条の12の5

第13項
 法6号に規定する政令で定める『もの』は、法人の国内雇用者のうち、
 当該法人の国内雇用者として当該適用年度及び当該前事業年度等の期間内の各月分の当該法人の給与等の支給を受けた者

第14項
 法6号に規定する政令で定める『金額』は、法4号に規定する雇用者給与等支給額のうち法6号に規定する継続雇用者に係る金額とする。
posted by ウロ at 09:04| Comment(0) | 法人税法

2018年08月20日

ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ

 平成30年度改正の所得拡大促進税制について、2本ほど記事を書きましたが、実は正面から記事に書くのを避けた部分があります(で、この記事のあとにもう1本書きました)。

【措置法イジり(所得拡大促進税制編)】
 税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)
 武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
 ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
 さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ

 でも、なんかそのままだと気持ち悪いので、そういうレベルのものとご理解頂いた上で、書いてみます。

 それらの記事であげた具体例の前提条件として「当月末〆当月末払」と事例を単純化しておいたのが、そのことに関わります。


 以下、次の略称を使います。

 法 ⇒租税特別措置法42条の15の5第3項のこと
 令 ⇒租税特別措置法施行令27条の15の5のこと

 また、条文の引用については、適宜省略要約入れてますので、正確には原文をご確認ください。

 今回の記事では『継続雇用者』要件のうち、雇用保険の「一般被保険者」であることや「継続雇用制度」の対象になっていないことなどは満たしているものとして記述を進めます。

 なお、私の疑問点をそのままはき出しただけの記事ですので、実際にこの制度をご利用される際には、各自でよくよくご検討いただければと思います。


 法6号では、『継続雇用者』のことを

 「適用年度と前年度の期間内の各月において給与の支給を受けた国内雇用者として政令で定めるもの」

と定義し、詳細を政令に委ねています。

 で、委任を受けた令13項では、法人の国内雇用者のうち、

 「適用年度と前年度の期間内の各月分の当該法人の給与等の支給を受けた者」

を『継続雇用者』だと規定しています(両年度が同じ月数の場合)。

 これ、法律と政令で違うこと書いているように思うんですが、どうでしょう。

 ポイントを抜きだすと、

  法:各月において支給を受けた
  令:各月分の支給を受けた

と、法は「支給」ベースで記述しているのに、政令では「発生」ベースで記述しているように読めませんか。
 つまり、法は、その月に支給を受けたかを問題としているのに対して、政令は、その月分の支給を受けたかを問題にしていてそれをいつ受けたかは問題としていない、というふうに読めるのではないかと。

【(参考)発生ベースと支給ベース】
支払調書における「支払金額」(支払の確定した金額)について

 法律と政令でたまにこういうズレがあるんですが、これは委任の範囲を逸脱してるってことにならないのかどうか。


 政令は逸脱してない、って読もうとするならば、法律と政令の『もの』を介した入れ子構図を忠実に再現し、

  法:各月において支給を受けた者で、
 しかも、
  令:各月分の支給を受けた者

が継続雇用者なんだと、法によって「支給」ベースで絞った上で、さらに政令によって「発生」ベースで絞る、と読み込まざるをえないのでは。

 図式的にいうと、

  法:継続雇用者はA(支給24月判定)で、政令で定める『もの』
  令:法でいう『もの』は、B(発生24月判定)

とあってAとBがオーバーラップしているように読めるときに、

 ・上書説:継続雇用者はB(政令で法を上書き)
 
と解すると、委任の範囲を逸脱しているように読めてしまうので、

 ・追加説:継続雇用者はA+B

と解釈するということ(説の名前は私が勝手につけました)。
 が、法と似たような要件追加するというのも、委任の趣旨にそぐわない気もしますが。

 法律と政令の優劣に関する一般論からすれば「追加説」のほうが望ましい解釈に思えますが、この規定については、実務的には「上書説」のほうの結論で理解されるものと思います。

 もちろん、逸脱ってことを正面から認めるわけにはいかないので、法は必ずしも支給ベースに限定しているわけではない、みたいな読み方をすると。
 で、決して「上書き」ではなく、法が支給とも発生とも読めるところを、政令で発生と明確にしたんですよ、という言い方になるんじゃないですか。


 この「各月分」絡みの説明として、『平成30年度改正税法のすべて』(大蔵財務協会2018)408頁では、

 「支給日が月末の場合において、曜日の関係でその支払が翌月となるようなときであっても、各月に給与の支給があるものと考えます。」

とあり、政令もあくまで「支給」ベースであって、休日の関係でたまたま翌月にずれた場合だけ例外的に当月分支給としてカウントしてあげる、と解釈しているように読めます。



【参照】
平成30年度税制改正の解説(財務省)
「租税特別措置法等(法人税関係)の改正」のところ

 他方で、中小企業庁作成の『中小企業向け所得拡大促進税制 よくあるご質問 Q&A集』の「28」には、

  支給月が支給対象月の翌月となっている場合には、支給対象月のほうで判定する

と、たまたま翌月にずれ込んだ場合とか関係なく「発生」ベースで判定すると書かれているように読めます。

積極的な賃上げに取り組む企業を応援します(中小企業向け所得拡大促進税制)
中小企業向け所得拡大促進税制 よくあるご質問Q&A集(PDF)

 いやどっちだよ、と。

 そもそも、前者の「たまたま説」のほう、その前提が労働基準法24条2項の「毎月一回以上払の原則」におもいっきり違反しちゃってるんですけども、そんなの「著者の個人的見解」とはいえ財務省のサイトに載っけておいて大丈夫なんですかね。

 あれですか、「違法所得にも課税するぜ」と同じノリでしょうか。課税と税額控除で向きは逆ですが、要するに相対性というか独立性というか、税法世界の独立宣言。

労働基準法(e-Gov)
労働基準法24条2項
 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。

 まあ、なんのこっちゃよく分かりませんが、実務的には「発生」ベースで考えておけばいいんでしょう、身も蓋もないけれど。


 この法律(支給とします)と政令(発生とします)の関係、次の事例で検討してみましょう。

(例)
 ・前年度: x1.01.01〜X1.12.31
 ・適用年度:x2.01.01〜X2.12.31
 ・給与は当月末〆翌月末払
 ・入社はずっと昔。x2.11月分に退職

  x1.01月〜x2.12月 給与支給   ⇒24ヶ月支給 支給ベースでは○
  x1.01月分〜x2.11月分 給与発生 ⇒23ヶ月発生 発生ベースでは×

 この場合、法だけなら継続雇用者にあたるように読めるところ、政令によって継続雇用者にあたらなくなるわけです(この事例では上書説、追加説いずれでも結論は同じ)。


 『継続雇用者』という『もの』にあたるかどうかを判定する場合のルールが、令13項(だけ)のとおり「発生」ベースだとして、では『金額』のほうはどうかというと、こちらは法6号から令14項に委ねられています。

 で、令14項では、

  法4号の『雇用者給与等支給額』のうち『継続雇用者』にかかる金額

だと規定しています。
 そして、法4号をみると『雇用者給与等支給額』は「損金算入」された額だと。

 つまり、継続雇用者に該当するかどうかは「発生」ベースで判定しつつ、金額が前年比1.5%(or2.5%)増してるかどうかは「損金算入」された金額で判定すると(それぞれ比較すべき前年度の金額も同じルールに従います。)。

 これ、場合によっては集計期間がずれますよね。


 このことを具体例であてはめしてみます。

  A 雇用者給与等支給額    (損金算入)
  B 比較雇用者給与等支給額  (損金算入)
  C 継続雇用者の判定     (発生)
  D 継続雇用者給与等支給額  (損金算入)
  E 継続雇用者比較給与等支給額(損金算入)

  ・前年度: x1.01.01〜X1.12.31
  ・適用年度:x2.01.01〜X2.12.31
  ・給与は当月末〆翌月末払

 ・前々年度 00 x0.12月分 (⇒x1.01月末に支給。以下同じ)
 ・前年度  01 x1.01月分 
         (〜略)
       11 x1.11月分
       12 x1.12月分
 ・適用年度 13 x2.01月分
         (〜略)
       23 x2.11月分
       24 x2.12月分

○会社が「発生」ベースで損金算入している場合(損金算入=発生)

 A 雇用者給与等支給額     ⇒13〜24の給与集計
 B 比較雇用者給与等支給額   ⇒01〜12の給与集計
 C 継続雇用者の判定      ⇒01〜24の全月分の給与支給受けてるか
 D 継続雇用者給与等支給額   ⇒A(13〜24)のうち継続雇用者の給与集計
 E 継続雇用者比較給与等支給額 ⇒B(01〜12)のうち継続雇用者の給与集計

 この場合は、Cの判定で使った金額をそのままD適用年度とE前年度に分ければ済みます。
 なので、01〜24発生の給与を月ごとに出力して、全月に金額が入ってればそれが継続雇用者だってことでそのままその金額を使えばいいわけです。

○会社が「支給」ベースで損金算入している場合(損金算入≠発生)

 A 雇用者給与等支給額     ⇒12〜23の給与集計
 B 比較雇用者給与等支給額   ⇒00〜11の給与集計
 C 継続雇用者の判定      ⇒01〜24の全月分の給与支給受けてるか
 D 継続雇用者給与等支給額   ⇒A(12〜23)のうち継続雇用者の給与集計
 E 継続雇用者比較給与等支給額 ⇒B(00〜11)のうち継続雇用者の給与集計

 ところが、会社が支給ベースで損金算入している場合には、Cの判定期間(01〜24)と、DEの集計期間(00〜23)がずれることになります。

 この場合は、

1 継続雇用者の判定
 01〜24発生の給与を月ごとに出力して、全月に金額が入ってれば継続雇用者にあたる(または、便宜的に入社日と退職日で判定)。

2 前年比増の判定
 1で継続雇用者と判定された人の00〜23発生の金額を集計して、00〜11と12〜23を比較する。

 と二段階の集計・判定が必要となります。


 法律・政令に書かれていることをそのままあてはめてみましたが、そこはかとなく感じる、CとDE間の『ゆらぎ』『ひずみ』みたいなの、とても気持ち悪いんです。

 前回の記事で、「我々税理士は法律・政令・省令をしっかり読み込むべし」なんて建前書きましたけど、こういうすんなり理解できないズレが出てくると、心が消耗する。
 税法条文が徒に読みづらいのは仕方ないとして、変なバグ仕込むのやめてほしい。


 以上、平成30年度改正の所得拡大促進税制、3つ記事書きましたけど、やっぱなんか変ですよね。
 措置法だものドンマイ、てことで呑み込むしかないですか。

 ということで、所得拡大促進税制に関する記事、私の中では法人税(+所得税)関連の記事ではなく、いわゆる「措置法イジり」のジャンルに属してます。ので、以前書いた「小規模宅地の特例」がらみの記事と同じノリで書いています。

【小規模宅地の特例がらみの記事】
 パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
 イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正

 とはいえ、本法で規定されてるか措置法で規定されてるかなんて、税法マニアにしか関わりのないことなので、ブログ上では、あっちは「相続税法」、こっちは「法人税法」にカテゴリってます。

【参照条文】(はげしく省略要約してます)

○租税特別措置法42条の15の5第3項

四 雇用者給与等支給額
 法人の各事業年度(「適用年度」)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。

五 比較雇用者給与等支給額
 法人の適用年度開始の日の前日を含む事業年度(「前事業年度」)の所得の金額の計算上損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。

六 継続雇用者給与等支給額
 継続雇用者(法人の適用年度及び当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度(「前事業年度等」)の期間内の各月において当該法人の給与等の支給を受けた国内雇用者として政令で定めるものをいう。)に対する当該適用年度の給与等の支給額として政令で定める金額をいう。

七 継続雇用者比較給与等支給額
 前号の法人の継続雇用者に対する前事業年度等の給与等の支給額として政令で定める金額をいう。

○租税特別措置法施行令27条の12の5

第13項
 法6号に規定する政令で定める『もの』は、法人の国内雇用者のうち、
 当該法人の国内雇用者として当該適用年度及び当該前事業年度等の期間内の各月分の当該法人の給与等の支給を受けた者

第14項
 法6号に規定する政令で定める『金額』は、法4号に規定する雇用者給与等支給額のうち法6号に規定する継続雇用者に係る金額とする。
posted by ウロ at 00:01| Comment(3) | 法人税法