「家なき子特例の趣旨は出戻り保護だ」に対する疑問から始まって、利用区分ごとに各特例の趣旨が何なのか探ってきました。
が、結局のところよくわからない、というのが最終的な結論です。
ので、実務家としては各要件を正確に理解することに努めることとし、《趣旨から考える》とかいって、現実の要件から導かれないような趣旨を勝手に祭り上げて、正確な要件理解を阻害しないようにすることとします。
ということで、ここまでのまとめにかえて、各要件を縦方向で対比してみようと思います。
この表は、対比用に並べたものなので、正確性は若干犠牲にはなっていますのでご留意ください。
また、二世帯住宅や老人ホームの扱いは「居住」のサブルール扱いということで、省略します。
1
もっとも特徴的なのが、表の右端が「申告期限」で終わっているということです。「申告期限」以降の継続は求められていません。
表の中でもいくつか「継続」という言葉を使っていますが、これはあくまでも申告期限までの継続という意味にとどまります。
巷で言われるとおりに、真面目に「居住・事業の継続」というものを保護するつもりがあるのであれば、申告期限以降の居住・事業の継続も要件になっているはずです。
設備投資を促進したいなら設備投資してくれれば優遇するし、雇用を増やしたいなら雇用を増やしてくれれば優遇すると、同語反復な物言いですが、優遇税制というものは本来そういうものです。
ところが、本特例は申告期限後の継続を要求していないわけで、居住・事業の継続の保護を目的としているとは言い難い。
申告期限までの継続を要求しているものの、こんな中途半端なタイミングまで継続させることにどんな意味があるでしょうか。これは、申告期限までの継続それ自体をしてほしいのではなく、それ以外の何かを判定するための指標として流用しているのではないでしょうか。
たとえば、事業用@であれば、被相続人の事業が決して特例狙いの仮初めモノではないことを証明するものとして、相続前は3年超or一定規模以上の事業を要求し、相続後は申告期限までの継続を要求すると。
こういう説明ならば、なぜ申告期限までなどという中途半端なタイミングまでの継続にとどめているのか、一応理解は可能です。
2
おおむね、相続前(左側)は被相続人の領域、相続後(右側)は相続人の領域と区分できます。
左側にでてくる「生計一親族」と「同族会社」は、被相続人と一体のものとして理解すればよいかと。というか、被相続人と一体として評価できるからこそ、被相続人と同列に保護されているのでしょう。
この区分を領域侵犯しているのが「家なき親族」。相続後は保有継続だけで居住継続が要求されていない一方で、相続前はあれやこれやの条件が課せられています。
このうちの「×家屋所有」と「×過去所有」。表に収めるために言葉を省略していますが、次のような要件です。
ア 相続前の3年間に「自分、配偶者、三親等内の親族、特別の関係がある法人」の持ち家に住んでいない
イ 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
表作成の都合上「〜相続開始時」の欄に収めていますが、これら要件を「行為規範」として捉えるならば、相当広範囲に機能していることが分かります。
【行為規範としての税法】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
というのも、いつ相続が開始するかは事前には分からないわけです。仮に未来を「予知」できる能力があったとしても、その未来は変わってしまう可能性もあるわけですし。
【オカルティック通則法(「予知」と税法)】
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)
子が、将来親の自宅につき居住用Dの適用を受けられるようにしたい、と考えたとして、上記要件アイはどのように機能するかというと。
ア「いつ親が亡くなるか分からないのだから、自分や関係者所有の家屋に住むのは止めておこう」
イ「いつ親が亡くなるか分からないのだから、自分が過去所有していた家屋に住むのは止めておこう」
アはイと違い「3年限定」となっているので、一見射程範囲が狭そうに思えます。が、「行為規範」の観点からすれば無意味な限定です。
というのも、いつ亡くなるかが分からない以上、「亡くなってからさかのぼって3年」とか言われても、およそ期間が限定されていることにはなりません。
「人はいつか必ず死ぬ」として、事前にいつ死ぬかが決まっていない以上、不確定であることに変わりはありません。「相続後3年」と「相続前3年」は、言葉の上では一文字違いですが、「行為規範(事前規範)」の観点からは全く性質の異なるものです。
もしかするとですが、「見込み」に法的安定性があるとか言っちゃう例の教科書ならば、「期間を限定しているという意味で、法的安定性を重視した結果として評価できる」とか言い出しかねない。
【「見込み」には法的安定性がある?】
中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)
なお、上記の表、事後規範としての要件整理にとどまっているため、行為規範としての広大無辺さを表現できておりません。
3
「行為規範」という観点からすると、事業用・貸付用の「3年縛り」にも同様の問題があります。
事業用でいうと、「事業開始してから3年経てばいい」とか言われても、これから事業を始めようとする時点では、自分があと3年生きるのかどうか知らないわけです。
そうすると、これから事業を始める人が、自分が亡くなったら相続人に事業用を適用を受けてもらいたいと思ったならば、常に一定規模以上の設備投資をし、かつ無事3年間生き延びられるまでの間、15%を下回らないようにキープし続けなければなりません。
貸付用はさらに俗悪です。
事業用の場合は「3年以内に死ぬかも」という運命に対して、自分でたくさん設備投資をすれば抗うことができました。他方で、貸付用の場合は、自分の力ではどうにもできません。
先代から多数の貸付物件を引き継いできた場合はそのまま維持するだけでいいのに対して、これから貸付事業を始めようとする人は、自分で沢山貸付物件を買っただけではどうにもならず、なんとか3年生き延びることを天に祈るしかない。
貸付用の3年縛りは《格差拡大税制》だと評価しましたが、行為規範という観点からみると、その俗悪さがさらに引き立ちます。
4
「生計一親族」供用の場合は、生計一親族がそのまま継続することを要求しています(事業用A、貸付用A、居住用D)。
この例外が、同族用と居住用C。
居住用Cでは、取得者を生計一親族に限定することなく「配偶者」でもよいとされています。これは、本特例が相続人である生計一親族の居住継続を保護するものではなく、(生計一親族と一体として評価される)被相続人の生前の利用を保護しようとするものだからでしょう。
そして、被相続人に対する保護について、配偶者は要保護性が高いから無条件でそのまま享受ができると。
同族用では、生計一親族の事業は相続開始時までで打ち切りOKとなっています。前回述べたとおり、同族用にとって、この要件は文字通りの供用要件ではなく、被相続人側の受益要件にすぎないからでしょう。
5
各要件の検討を経て、暫定的な私の見立て。
本特例は取得者側の何らかの利益を保護しようとするものではなく、被相続人の生前の活動によって相続人に迷惑がかからないようにするためのもの、だと捉えています(《立つ鳥跡を濁さず税制》)。
取得者側が保護されているようにみえますが、あくまでも被相続人の活動の自由を保障したことの付随的効果にすぎないと。
2022年08月08日
さよなら小規模宅地等の特例の趣旨探訪
posted by ウロ at 17:49| Comment(0)
| 相続税法
2022年08月01日
特定同族会社事業用宅地は特定同族会社を保護しない
全く全然その気はなかったのですが、小規模宅地等の特例につき、居住用・貸付用・事業用と検討してしまったので、「同族用」についても一応触れておきます。
細かいテクニカルな論点には触れず、他の利用区分との対比を中心に検討します。
タイトルにある「保護しない」というのは、言いすぎかもしれません。が、個々の要件をみるかぎり、結果として保護される場合もあるというにとどまり、直接保護の対象にはなっていないように思います。
○
ということで、要件の抽出から。条文は関連箇所だけ抜粋して、最後にまとめておいておきます。
【相続直前要件】
1 被相続人or生計一親族 事業供用(同族会社へ貸付)
2 特定同族会社 事業供用(貸付事業除く)
【相続開始後要件】
3 特定同族会社 申告期限まで事業継続
4 取得親族 申告期限において役員であること
5 取得親族 申告期限まで保有
・特定同族会社:
被相続人+親族+特別関係者で50%超支配
・特定同族会社の「事業」:
不動産貸付業、駐車場、自転車駐車場、準事業は含まない(通達69の4-23注1)
事業用・貸付用のバリエーションかと思いきや、要件の座組みがだいぶ違います。
例の「原則・除外・除外の除外」といったリバーシ(オセロ)感が、ここには存在しない。
タックスアンサーの「表」だと、要件2・4・5だけが要件のように読めてしまいます。が、「1 特例の概要」に要件1、「3特例の対象となる宅地等(2)」の本文に要件3が紛れ込んでいます。
No.4124相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
表の見出しに「要件」と書かれているんだから、ここに要件が網羅されていると思うじゃないですか。が、そうじゃないと。
表の外には書いてあるから、間違ったことが書かれているわけではない。ですが、「誤読を誘っている」と言われても文句はいえないでしょう。
○
次に、個々の要件について。
・
要件1は、「同族用」を小規模宅地等の特例の枠組みの中にねじ込んだせいで、要求せざるをえなくなったものです。
土地(被相続人所有)なり建物(被相続人or生計一親族所有)が有償/無償かで、事業性の有無が変わってきますが、その詳細はここでは触れません(通達69の4-23参照)。
ここで指摘しておきたいことは、もし同族用の特例が、文字通り「同族会社の」事業継続を保護するものであるならば、「被相続人の」事業性を要求する必然性はないはずだということです(以下、「生計一親族」は記述を省略します)。
ところが、小規模宅地等の特例は、すべての特例対象地に共通する要件として、「被相続人の」事業・居住供用地であることを要求しています。ので、同特例にねじ込むと、必然的に被相続人にとっての事業性を備えなければならなくなります。
ではあるのですが、それが要求されるのは相続開始直前までで、相続開始後は「被相続人」の事業の承継・継続は求められていません。要件3で要求されている事業継続は「同族会社」にとってのそれであって、「被相続人」のではありません。
相続直前の要件として要求しているくせに、相続が開始された途端、いらない子扱いするという。急に冷めるな、と突っ込みたくなる。
・
要件2・3では、相続直前から申告期限まで、同族会社の事業継続が要求されています。
上記の通り、要件1に対応する相続開始後の要件が存在しないわけです。
相続開始前 相続開始後
被相続人の事業 要件1 なし
同族会社の事業 要件2 要件3
このことを整合的に説明する視点として、「供用」と「受益」を区別してみたらどうでしょうか。
たとえば、「事業用」では、被相続人が土地を自己の事業に供用し、かつそこから便益を得るというように、供用する人と受益する人は一致します。
他方で「同族用」では、供用するのは同族会社ですが、要件1により被相続人がそこから受益することが要求されています。というように、制度上、供用する人と受益する人がずれます。
供用 同族会社が事業供用する
受益 被相続人が利益を得る
そして、小規模宅地等の特例において承継・継続が要求されるのは、「供用」の側面であって「受益」の側面ではないのだと。
法1項と同3項3号とで、同じ「事業供用」という言葉が使われてしまっているため紛らわしいのですが、それぞれ要求される意味合いが違うと考えれば、理解しやすくなります。
相続開始前 相続開始後
被相続人の事業(受益) 要件1 なし ←承継不要
同族会社の事業(供用) 要件2 要件3 ←承継必要
上記で指摘したとおり、タックスアンサーの「同族用」の表には要件1が盛り込まれていません。
「事業用」の場合には「被相続人の事業供用地」とだけ書けば供用・受益両面を記述したことになります。他方で「同族用」の場合は、「同族会社の事業供用地」とだけ書いても供用面しか記述できていないことになります。
「事業用」と同じノリで表を作成してしまったため、要件1が表から省かれてしまったのでしょう。
・
要件4では、申告期限時点で取得親族が「役員」であればよいことになっています。株主ではなく役員。申告期限までに役員に就任して、申告期限が過ぎたら退任でもいいんだと。
また、要件5では、申告期限まで保有すればよく、それ以降の保有は求められていません。
事業用・貸付用と同様、いずれも「申告期限」どまりでそれ以降の継続は求められていません。
○
同族用では、事業用・貸付用にあったような、ややこしい「除外要件×除外要件の除外要件」は設定されていません。
同族会社の事業を保護するかような雰囲気を醸し出しておきながら、被相続人にとっての事業性を要求するという、アンビバレントな要件設定をしたせいで、若干ややこしい話があります。が、事業用・貸付用ほど厄介なものではありません。
要するに、被相続人がその土地から利益を受けられる供用形態であったことを要求していると理解すれば足ります。
・
3年縛りがないため、「事業用」の逃げ場としては利用できそうです。
『3年以内個人事業がダメなら法人化すればいいじゃない。』
簡単に法人設立できなかった昔のノリを、未だに引きずっているんでしょうか(が、有限会社もあったわけで)。
なお、「貸付事業」は同族会社の事業から除外されているので、「貸付用」の逃げ場としては使えないでしょう。
○
事業用・貸付用と同様、要件が「申告期限」どまりとなっており、それ以降の事業継続が眼中にありません。被相続人の事業供用(要件1)に至っては、相続開始直前までしか要求されていませんし。
そうすると、同族用についても被相続人の生前における活動の自由度を確保することに主眼があるのであって、相続人や同族会社の何らかの利益を保護しようとしているわけではないように思えます。
○
以上、小規模宅地等の特例の「立法趣旨」が何であるのかを探りあてようとして、各要件をこねくりまわしてきました。
その結果、要件の見通しはだいぶよくなったものの、本来の目的である「立法趣旨」の正体については、要件を正確に理解すればするほど分からなくなる、という結果になりました。ひとつひとつの要件の中身は分かったものの、それぞれが一体何のために要求されているのか、分からないもの多数。
ここまで検討してきたかぎりでですが、おそらく小規模宅地等の特例は、いわば被相続人に向けられた《立つ鳥後を濁さず税制》であって、取得者側の要件は、被相続人に対する保護を享受することが許容されるかという限度で要求されるにすぎない、と理解するのがよいかもしれません。
これだけで、建て増し建て増しの要件すべてを説明しきれるとは思えませんが、少なくとも『家なき子の立法趣旨は出戻り保護だ!』といったように、およそ現実の要件とはかけ離れた理解をするよりはまだましだと思います。
が、要件理解についてはふんわりふわふわのまま『出戻り保護だ!』と言っていられたほうが、あるいは幸せだったのかもしれない。
法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
法1 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合
令1 法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4 法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。
規1 法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3 令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。
法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(「申告期限」)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
令7 法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
三 特定同族会社事業用宅地等
相続開始の直前に被相続人【及び当該被相続人の親族その他当該被相続人と政令(16)で定める特別の関係がある者】が有する株式の総数が当該株式に係る法人の発行済株式の総数の十分の五を超える法人の事業の用に供されていた宅地等で、当該宅地等を相続により取得した当該被相続人の親族(財務省令(5)で定める者に限る。)が相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続き当該法人の事業の用に供されているもの(政令(18)で定める部分に限る。)をいう。
令16 法第三項第三号に規定する政令で定める特別の関係がある者は、次に掲げる者とする。
一 被相続人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 被相続人の使用人
三 被相続人の親族及び前二号に掲げる者以外の者で被相続人から受けた金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの
四 前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
五 次に掲げる法人
イ 被相続人(当該被相続人の親族及び当該被相続人に係る前各号に掲げる者を含む。以下この号において同じ。)が法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該法人
ロ 被相続人及びこれとイの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
ハ 被相続人及びこれとイ又はロの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
令17 法第三項第三号の規定の適用に当たつては、同号の株式又は発行済株式には、議決権に制限のある株式として財務省令(6)で定めるものは含まないものとする。
令18 法第三項第三号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する法人(同項第一号イに規定する申告期限において清算中の法人を除く。)の事業の用に供されていた宅地等のうち同項第三号に定める要件に該当する部分(同号に定める要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。
規5 法第三項第三号に規定する財務省令で定める者は、同号に規定する申告期限において同号に規定する法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員(清算人を除く。)である者とする。
規6 令第十七項に規定する議決権に制限のある株式として財務省令で定めるものは、相続の開始の時において、会社法第百八条第一項第三号に掲げる事項の全部について制限のある株式、同法第百五条第一項第三号に掲げる議決権の全部について制限のある株主が有する株式、同法第三百八条第一項又は第二項の規定により議決権を有しないものとされる者が有する株式その他議決権のない株式とする。
細かいテクニカルな論点には触れず、他の利用区分との対比を中心に検討します。
タイトルにある「保護しない」というのは、言いすぎかもしれません。が、個々の要件をみるかぎり、結果として保護される場合もあるというにとどまり、直接保護の対象にはなっていないように思います。
○
ということで、要件の抽出から。条文は関連箇所だけ抜粋して、最後にまとめておいておきます。
【相続直前要件】
1 被相続人or生計一親族 事業供用(同族会社へ貸付)
2 特定同族会社 事業供用(貸付事業除く)
【相続開始後要件】
3 特定同族会社 申告期限まで事業継続
4 取得親族 申告期限において役員であること
5 取得親族 申告期限まで保有
・特定同族会社:
被相続人+親族+特別関係者で50%超支配
・特定同族会社の「事業」:
不動産貸付業、駐車場、自転車駐車場、準事業は含まない(通達69の4-23注1)
事業用・貸付用のバリエーションかと思いきや、要件の座組みがだいぶ違います。
例の「原則・除外・除外の除外」といったリバーシ(オセロ)感が、ここには存在しない。
タックスアンサーの「表」だと、要件2・4・5だけが要件のように読めてしまいます。が、「1 特例の概要」に要件1、「3特例の対象となる宅地等(2)」の本文に要件3が紛れ込んでいます。
No.4124相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
表の見出しに「要件」と書かれているんだから、ここに要件が網羅されていると思うじゃないですか。が、そうじゃないと。
表の外には書いてあるから、間違ったことが書かれているわけではない。ですが、「誤読を誘っている」と言われても文句はいえないでしょう。
○
次に、個々の要件について。
・
要件1は、「同族用」を小規模宅地等の特例の枠組みの中にねじ込んだせいで、要求せざるをえなくなったものです。
土地(被相続人所有)なり建物(被相続人or生計一親族所有)が有償/無償かで、事業性の有無が変わってきますが、その詳細はここでは触れません(通達69の4-23参照)。
ここで指摘しておきたいことは、もし同族用の特例が、文字通り「同族会社の」事業継続を保護するものであるならば、「被相続人の」事業性を要求する必然性はないはずだということです(以下、「生計一親族」は記述を省略します)。
ところが、小規模宅地等の特例は、すべての特例対象地に共通する要件として、「被相続人の」事業・居住供用地であることを要求しています。ので、同特例にねじ込むと、必然的に被相続人にとっての事業性を備えなければならなくなります。
ではあるのですが、それが要求されるのは相続開始直前までで、相続開始後は「被相続人」の事業の承継・継続は求められていません。要件3で要求されている事業継続は「同族会社」にとってのそれであって、「被相続人」のではありません。
相続直前の要件として要求しているくせに、相続が開始された途端、いらない子扱いするという。急に冷めるな、と突っ込みたくなる。
・
要件2・3では、相続直前から申告期限まで、同族会社の事業継続が要求されています。
上記の通り、要件1に対応する相続開始後の要件が存在しないわけです。
相続開始前 相続開始後
被相続人の事業 要件1 なし
同族会社の事業 要件2 要件3
このことを整合的に説明する視点として、「供用」と「受益」を区別してみたらどうでしょうか。
たとえば、「事業用」では、被相続人が土地を自己の事業に供用し、かつそこから便益を得るというように、供用する人と受益する人は一致します。
他方で「同族用」では、供用するのは同族会社ですが、要件1により被相続人がそこから受益することが要求されています。というように、制度上、供用する人と受益する人がずれます。
供用 同族会社が事業供用する
受益 被相続人が利益を得る
そして、小規模宅地等の特例において承継・継続が要求されるのは、「供用」の側面であって「受益」の側面ではないのだと。
法1項と同3項3号とで、同じ「事業供用」という言葉が使われてしまっているため紛らわしいのですが、それぞれ要求される意味合いが違うと考えれば、理解しやすくなります。
相続開始前 相続開始後
被相続人の事業(受益) 要件1 なし ←承継不要
同族会社の事業(供用) 要件2 要件3 ←承継必要
上記で指摘したとおり、タックスアンサーの「同族用」の表には要件1が盛り込まれていません。
「事業用」の場合には「被相続人の事業供用地」とだけ書けば供用・受益両面を記述したことになります。他方で「同族用」の場合は、「同族会社の事業供用地」とだけ書いても供用面しか記述できていないことになります。
「事業用」と同じノリで表を作成してしまったため、要件1が表から省かれてしまったのでしょう。
・
要件4では、申告期限時点で取得親族が「役員」であればよいことになっています。株主ではなく役員。申告期限までに役員に就任して、申告期限が過ぎたら退任でもいいんだと。
また、要件5では、申告期限まで保有すればよく、それ以降の保有は求められていません。
事業用・貸付用と同様、いずれも「申告期限」どまりでそれ以降の継続は求められていません。
○
同族用では、事業用・貸付用にあったような、ややこしい「除外要件×除外要件の除外要件」は設定されていません。
同族会社の事業を保護するかような雰囲気を醸し出しておきながら、被相続人にとっての事業性を要求するという、アンビバレントな要件設定をしたせいで、若干ややこしい話があります。が、事業用・貸付用ほど厄介なものではありません。
要するに、被相続人がその土地から利益を受けられる供用形態であったことを要求していると理解すれば足ります。
・
3年縛りがないため、「事業用」の逃げ場としては利用できそうです。
『3年以内個人事業がダメなら法人化すればいいじゃない。』
簡単に法人設立できなかった昔のノリを、未だに引きずっているんでしょうか(が、有限会社もあったわけで)。
なお、「貸付事業」は同族会社の事業から除外されているので、「貸付用」の逃げ場としては使えないでしょう。
○
事業用・貸付用と同様、要件が「申告期限」どまりとなっており、それ以降の事業継続が眼中にありません。被相続人の事業供用(要件1)に至っては、相続開始直前までしか要求されていませんし。
そうすると、同族用についても被相続人の生前における活動の自由度を確保することに主眼があるのであって、相続人や同族会社の何らかの利益を保護しようとしているわけではないように思えます。
○
以上、小規模宅地等の特例の「立法趣旨」が何であるのかを探りあてようとして、各要件をこねくりまわしてきました。
その結果、要件の見通しはだいぶよくなったものの、本来の目的である「立法趣旨」の正体については、要件を正確に理解すればするほど分からなくなる、という結果になりました。ひとつひとつの要件の中身は分かったものの、それぞれが一体何のために要求されているのか、分からないもの多数。
ここまで検討してきたかぎりでですが、おそらく小規模宅地等の特例は、いわば被相続人に向けられた《立つ鳥後を濁さず税制》であって、取得者側の要件は、被相続人に対する保護を享受することが許容されるかという限度で要求されるにすぎない、と理解するのがよいかもしれません。
これだけで、建て増し建て増しの要件すべてを説明しきれるとは思えませんが、少なくとも『家なき子の立法趣旨は出戻り保護だ!』といったように、およそ現実の要件とはかけ離れた理解をするよりはまだましだと思います。
が、要件理解についてはふんわりふわふわのまま『出戻り保護だ!』と言っていられたほうが、あるいは幸せだったのかもしれない。
法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
法1 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等、特定同族会社事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合
令1 法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4 法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。
規1 法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3 令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。
法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(「申告期限」)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
令7 法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
三 特定同族会社事業用宅地等
相続開始の直前に被相続人【及び当該被相続人の親族その他当該被相続人と政令(16)で定める特別の関係がある者】が有する株式の総数が当該株式に係る法人の発行済株式の総数の十分の五を超える法人の事業の用に供されていた宅地等で、当該宅地等を相続により取得した当該被相続人の親族(財務省令(5)で定める者に限る。)が相続開始時から申告期限まで引き続き有し、かつ、申告期限まで引き続き当該法人の事業の用に供されているもの(政令(18)で定める部分に限る。)をいう。
令16 法第三項第三号に規定する政令で定める特別の関係がある者は、次に掲げる者とする。
一 被相続人と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者
二 被相続人の使用人
三 被相続人の親族及び前二号に掲げる者以外の者で被相続人から受けた金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの
四 前三号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
五 次に掲げる法人
イ 被相続人(当該被相続人の親族及び当該被相続人に係る前各号に掲げる者を含む。以下この号において同じ。)が法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該法人
ロ 被相続人及びこれとイの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
ハ 被相続人及びこれとイ又はロの関係がある法人が他の法人の発行済株式総数等の十分の五を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合における当該他の法人
令17 法第三項第三号の規定の適用に当たつては、同号の株式又は発行済株式には、議決権に制限のある株式として財務省令(6)で定めるものは含まないものとする。
令18 法第三項第三号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する法人(同項第一号イに規定する申告期限において清算中の法人を除く。)の事業の用に供されていた宅地等のうち同項第三号に定める要件に該当する部分(同号に定める要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。
規5 法第三項第三号に規定する財務省令で定める者は、同号に規定する申告期限において同号に規定する法人の法人税法第二条第十五号に規定する役員(清算人を除く。)である者とする。
規6 令第十七項に規定する議決権に制限のある株式として財務省令で定めるものは、相続の開始の時において、会社法第百八条第一項第三号に掲げる事項の全部について制限のある株式、同法第百五条第一項第三号に掲げる議決権の全部について制限のある株主が有する株式、同法第三百八条第一項又は第二項の規定により議決権を有しないものとされる者が有する株式その他議決権のない株式とする。
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2022年07月25日
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その3)
では、特定事業用宅地の特例の立法趣旨は何でしょうか。
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その2)
【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
2ア 被相続人の事業
事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 × (除1)
「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2)
「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)
「一定の規模以上の事業」
事業の用に供されていた一定の資産のうち
被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額 ≧15%
新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額
「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの
○
原則要件によれば、事業・保有は「申告期限」までしか要求されていません。この点は貸付事業用宅地と同じで、『申告期限までは頑張って続けてみてよ。もし続けられそうならその後も続けてほしいかな。』といったお願いどまりのものでしょう。
では、『たとえ駆け込みであっても保護すべきものがそこにはある』でおなじみ、除2要件はどのように理解できるでしょうか。
ア 事業継続促進税制
たくさん設備投資しているなら後戻りするつもりはなかったんだろうから、事業継続しやすくしてあげよう。
イ 事業廃止促進税制
たくさん設備投資しているなら片付けが大変だろうから、事業廃止しやすくしてあげよう。
全く逆方向のどちらにも理解することができます。
これを原則要件とあわせて記述するならば、次のような説明が可能でしょうか。
・本当は節税目的だけの駆け込み購入を排除したい。が、主観的な「つもり」要件では法的安定性を欠く。
そこで、3年という期限で区切る。ただ、しっかり設備投資をしているなら本気で事業するつもりだったといえるだろうから、3年以内でも許容する。
・相続人に対しては「お試し期間」として申告期限まで続けてもらおう。続けてくれるならそれにこしたことはないし、止めるにしても後始末に手間がかかるだろうから、どちらであっても特例は受けさせてあげよう。
貸付事業用宅地と枠組みは同じで、「つもり」の邪推要件だけが異なっていることになります。
特定事業用宅地の場合は、「しっかり設備投資」をもって事業への本気度を測っていることになります。他方で、貸付事業用宅地の場合は、たとえば駆け込みでマンション数棟(合計10室以上)を買ったとて、それをもって貸付事業への本気度として評価することはできないということなのでしょう。
ので、3年超本気で貸付事業をやっている場合だけ、死に際購入も許容すると。
ということで、特定事業用宅地の特例の立法趣旨についても、相続人の事業継続に向けられたものではなく、本気で事業をやっていた被相続人を保護しようとするものだということが分かりました。未来志向ではなく過去の後始末制度。
ただ、貸付事業用宅地の場合と毛並みが違うのは、『突然亡くなっても相続人に迷惑がかからないようにしておいてあげるから、出し惜しみせず思いっきり事業チャレンジしてくれたまえ!』というように、新規事業の創出を後押ししているところです。
で、「申告期限」までの継続とすることで、相続人には一応お試しだけはしてもらいつつ、被相続人が好き勝手に始めた事業を押し付けることはしないんだと。
もちろん「しっかり設備投資」だけをもって事業への本気度を図ることが適切か、ということは当然問題となりえます。除2要件では極めて限定された事業形態しか許容されていないわけで、《事業創出促進税制》とまではいうのはおこがましい。
なお、ここまでは「被相続人の事業」を念頭において論じてきました。が、「生計一親族の事業」も適用対象となっているわけで、こちらを「お試し期間」で説明するのは違和感があります。もともと自分がやっていた事業ですし。
被相続人が亡くなったからといって、生計一親族が申告期限までで事業を辞めてもいい理由って、何かありかね。と、疑問は残るものの、ここは保留としておきます。
○
以上、3年縛り繋がりで「特定事業用宅地」についても一応の検討をしました。
小規模宅地の特例という括りであれば、上記でちらっと触れたとおり、もうひとつ「特定同族会社事業用宅地」というのがあります。
が、さらにモチベーションが上がらないので、たぶんやりません。
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その2)
【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
2ア 被相続人の事業
事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 × (除1)
「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2)
「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)
「一定の規模以上の事業」
事業の用に供されていた一定の資産のうち
被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額 ≧15%
新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額
「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの
○
原則要件によれば、事業・保有は「申告期限」までしか要求されていません。この点は貸付事業用宅地と同じで、『申告期限までは頑張って続けてみてよ。もし続けられそうならその後も続けてほしいかな。』といったお願いどまりのものでしょう。
では、『たとえ駆け込みであっても保護すべきものがそこにはある』でおなじみ、除2要件はどのように理解できるでしょうか。
ア 事業継続促進税制
たくさん設備投資しているなら後戻りするつもりはなかったんだろうから、事業継続しやすくしてあげよう。
イ 事業廃止促進税制
たくさん設備投資しているなら片付けが大変だろうから、事業廃止しやすくしてあげよう。
全く逆方向のどちらにも理解することができます。
これを原則要件とあわせて記述するならば、次のような説明が可能でしょうか。
・本当は節税目的だけの駆け込み購入を排除したい。が、主観的な「つもり」要件では法的安定性を欠く。
そこで、3年という期限で区切る。ただ、しっかり設備投資をしているなら本気で事業するつもりだったといえるだろうから、3年以内でも許容する。
・相続人に対しては「お試し期間」として申告期限まで続けてもらおう。続けてくれるならそれにこしたことはないし、止めるにしても後始末に手間がかかるだろうから、どちらであっても特例は受けさせてあげよう。
貸付事業用宅地と枠組みは同じで、「つもり」の邪推要件だけが異なっていることになります。
特定事業用宅地の場合は、「しっかり設備投資」をもって事業への本気度を測っていることになります。他方で、貸付事業用宅地の場合は、たとえば駆け込みでマンション数棟(合計10室以上)を買ったとて、それをもって貸付事業への本気度として評価することはできないということなのでしょう。
ので、3年超本気で貸付事業をやっている場合だけ、死に際購入も許容すると。
ということで、特定事業用宅地の特例の立法趣旨についても、相続人の事業継続に向けられたものではなく、本気で事業をやっていた被相続人を保護しようとするものだということが分かりました。未来志向ではなく過去の後始末制度。
ただ、貸付事業用宅地の場合と毛並みが違うのは、『突然亡くなっても相続人に迷惑がかからないようにしておいてあげるから、出し惜しみせず思いっきり事業チャレンジしてくれたまえ!』というように、新規事業の創出を後押ししているところです。
で、「申告期限」までの継続とすることで、相続人には一応お試しだけはしてもらいつつ、被相続人が好き勝手に始めた事業を押し付けることはしないんだと。
もちろん「しっかり設備投資」だけをもって事業への本気度を図ることが適切か、ということは当然問題となりえます。除2要件では極めて限定された事業形態しか許容されていないわけで、《事業創出促進税制》とまではいうのはおこがましい。
なお、ここまでは「被相続人の事業」を念頭において論じてきました。が、「生計一親族の事業」も適用対象となっているわけで、こちらを「お試し期間」で説明するのは違和感があります。もともと自分がやっていた事業ですし。
被相続人が亡くなったからといって、生計一親族が申告期限までで事業を辞めてもいい理由って、何かありかね。と、疑問は残るものの、ここは保留としておきます。
○
以上、3年縛り繋がりで「特定事業用宅地」についても一応の検討をしました。
小規模宅地の特例という括りであれば、上記でちらっと触れたとおり、もうひとつ「特定同族会社事業用宅地」というのがあります。
が、さらにモチベーションが上がらないので、たぶんやりません。
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| 相続税法
2022年07月18日
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その2)
前回に引き続いて、特定事業用宅地の【除外要件の除外要件】の中身について検討します。
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)
【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
2ア 被相続人の事業
事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 ×
「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く
【除外要件の除外要件】 ○
「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)
「一定の規模以上の事業」
事業の用に供されていた一定の資産のうち
被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額 ≧15%
新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額
「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
【お約束事項】
・条数は省略して項数以下で引用します。
法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
・条文引用は例によってド派手に省略するので、正確には原文をご確認ください。
・要件のうち、「3年縛り」絡みだけを検討します。
○
「一定の資産」について、参照先の所得税法の内容は次のとおりとなっています。
所法(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十九 減価償却資産 不動産所得若しくは雑所得の基因となり、又は不動産所得、事業所得、山林所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供される建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。
所令(減価償却資産の範囲)
第六条 法第二条第一項第十九号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。
一 建物及びその附属設備(暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備をいう。)
二 構築物(ドック、橋、岸壁、桟橋、軌道、貯水池、坑道、煙突その他土地に定着する土木設備又は工作物をいう。)
三 機械及び装置
四 船舶
五 航空機
六 車両及び運搬具
七 工具、器具及び備品(観賞用、興行用その他これらに準ずる用に供する生物を含む。)
八 次に掲げる無形固定資産 (リ以外省略)
リ ソフトウエア
九 次に掲げる生物(第七号に掲げるものに該当するものを除く。)
(省略)
意外なことに、条文上は「無形固定資産」が除外されていません。ので、その土地の上で行う事業で使うのであれば、「ソフトウェア」も対象に含まれることになります。
とはいえ、あくまでも、
土地−事業−ソフトウェア
と、土地の上で行う事業と結びついている必要があります。
また、「一定の資産」が1(建物、附属設備、構築物)と2(それ以外)で書き分けられているのは、1は土地上に所在することが求められるが、2は必ずしも土地上に存在することを求められていないということでしょう(営業用の自動車とか)。
問題は、資産の「所有」を求められていることです。
個人事業を始めるにあたって、レンタル・リース・サブスクリプションなどの非所有形態をフル活用して設備投資額を最小限に抑えようとすると、要件を満たせなくなってしまいます。
『特定事業用宅地がダメなら、法人化して特定同族会社事業用宅地を使えばいいじゃない』ということかもしれません。が、たとえばですけど、個人事業段階ではなるべく非所有形態でスタートさせておいて、うまくいきそうなら法人化して所有形態に切り替えていく、というスタイルもありうるはずです。
【除外要件の除外要件】を額面通りに受け取るならば、このようなチャレンジスタイルを抑制することになるわけですが、それでいいのかどうか。
また、「事業実態」としてはモノにだけ着目していて、ヒトの要素がまったく考慮されていません。沢山人を雇って付加価値を高めるような事業であっても、モノを所有しなければダメなんだと。
法人税・所得税が、ヒト(所得拡大)/モノ(投資促進)の両面から優遇税制を設けているというのに、特定事業用宅地ではヒトの要素が抜け落ちてしまっています。
○
特定居住用宅地、貸付事業用宅地でも同じ雰囲気を感じましたが、申告期限以降の「居住継続・事業継続」というものに関心が向けられていないように思えます。
どちらかといえば、「事業畳むのにモノが沢山あると処分が大変だから、相続税は下げといてあげよう」という、事業を終わらせやすくする方向での配慮に思えます(事業廃止促進税制)。このように捉えることで、始めたての非所有メインの事業が優遇を受けられないことが、よく理解できます。
が、だとしたら「申告期限」までの事業継続を要求するのは謎です。
事業継続/事業廃止のいずれを促進するにしても、申告期限までの事業継続という中途半端な要求になっているのは説明しがたい。どちらの税制からもすんなり出てこない要件。
【事業継続要件(理念型)】
事業継続促進税制:申告期限後も事業継続を求める
事業廃止促進税制:申告期限までに事業廃止を求める
????????:申告期限までの事業継続を求める
なお、(こういう言い方をするのはなんですが)相続にともなって事業を畳む際には、モノだけでなくヒトも整理の対象となります。特定事業用宅地の適用を受けるために、相続後申告期限までは事業を継続させたとして、その後、被用者との雇用契約をすんなり終了させられるのかは、ひとつの問題となります(整理解雇)。
というのに、ヒトに対する配慮をしないというのは、「資産税だから気にしない」といって済ませられるものでしょうか。相続税法と労働法制とがうまく連結されていない、ひとつの場面。
逆に、特定事業用宅地の適用狙いで申告期限までのつもりで事業継続していたら、従業員に察せられて、その前に退職されてしまって事業継続要件を満たせなくなる、なんて事態もあるかもしれません。
以前、「所得拡大促進税制」が労働者にとっての武器になる、ということを論じましたが、それと同じことがここでも起こりえます。
武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
ちなみに、「個人版事業承継税制」が、特定事業用宅地とは別建ての、相容れない制度として創設されています。こちらは額面通り、事業承継を促進するための税制となってます。
このような制度が新設されたことからしても、特定事業用宅地を「事業継続」促進のための制度とみるのは正しくなさそうです。
個人版事業承継税制(国税庁)
○
「貸付事業用宅地」の場合、3年以内に追加することが許容されるのは「特定貸付事業」に該当するものに限られるかどうか、ということが問題になりました。
これに対して、「特定事業用宅地」の場合は、追加する事業そのものについて正面から一定規模以上の事業を要求されているので、そのことが論点になることはありません。
また、「相続人が死んだらどうなる」問題も、貸付事業用宅地のようにトキ・ヒト・モノが複雑に絡み合ったりしていないので、そう難しく考える必要はありません。
結果的に同じような配列にはなっていますが、貸付事業用宅地のほうはあれこれさんざん捏ねくり回した上で、どうにかまとめたものです。きれいにまとまった風ですが、「特定貸付事業者」の定義の中にいろんな含意がビルドインされています。
他方で、特定事業用宅地のほうは、条文から素直に導き出せるものです。当該土地のことと当該事業のことを中心に検討すればあてはめができます。
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)
【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
2ア 被相続人の事業
事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 ×
「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く
【除外要件の除外要件】 ○
「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)
「一定の規模以上の事業」
事業の用に供されていた一定の資産のうち
被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額 ≧15%
新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額
「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
【お約束事項】
・条数は省略して項数以下で引用します。
法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
・条文引用は例によってド派手に省略するので、正確には原文をご確認ください。
・要件のうち、「3年縛り」絡みだけを検討します。
○
「一定の資産」について、参照先の所得税法の内容は次のとおりとなっています。
所法(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十九 減価償却資産 不動産所得若しくは雑所得の基因となり、又は不動産所得、事業所得、山林所得若しくは雑所得を生ずべき業務の用に供される建物、構築物、機械及び装置、船舶、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権その他の資産で償却をすべきものとして政令で定めるものをいう。
所令(減価償却資産の範囲)
第六条 法第二条第一項第十九号(定義)に規定する政令で定める資産は、棚卸資産、有価証券及び繰延資産以外の資産のうち次に掲げるもの(時の経過によりその価値の減少しないものを除く。)とする。
一 建物及びその附属設備(暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備をいう。)
二 構築物(ドック、橋、岸壁、桟橋、軌道、貯水池、坑道、煙突その他土地に定着する土木設備又は工作物をいう。)
三 機械及び装置
四 船舶
五 航空機
六 車両及び運搬具
七 工具、器具及び備品(観賞用、興行用その他これらに準ずる用に供する生物を含む。)
八 次に掲げる無形固定資産 (リ以外省略)
リ ソフトウエア
九 次に掲げる生物(第七号に掲げるものに該当するものを除く。)
(省略)
意外なことに、条文上は「無形固定資産」が除外されていません。ので、その土地の上で行う事業で使うのであれば、「ソフトウェア」も対象に含まれることになります。
とはいえ、あくまでも、
土地−事業−ソフトウェア
と、土地の上で行う事業と結びついている必要があります。
また、「一定の資産」が1(建物、附属設備、構築物)と2(それ以外)で書き分けられているのは、1は土地上に所在することが求められるが、2は必ずしも土地上に存在することを求められていないということでしょう(営業用の自動車とか)。
問題は、資産の「所有」を求められていることです。
個人事業を始めるにあたって、レンタル・リース・サブスクリプションなどの非所有形態をフル活用して設備投資額を最小限に抑えようとすると、要件を満たせなくなってしまいます。
『特定事業用宅地がダメなら、法人化して特定同族会社事業用宅地を使えばいいじゃない』ということかもしれません。が、たとえばですけど、個人事業段階ではなるべく非所有形態でスタートさせておいて、うまくいきそうなら法人化して所有形態に切り替えていく、というスタイルもありうるはずです。
【除外要件の除外要件】を額面通りに受け取るならば、このようなチャレンジスタイルを抑制することになるわけですが、それでいいのかどうか。
また、「事業実態」としてはモノにだけ着目していて、ヒトの要素がまったく考慮されていません。沢山人を雇って付加価値を高めるような事業であっても、モノを所有しなければダメなんだと。
法人税・所得税が、ヒト(所得拡大)/モノ(投資促進)の両面から優遇税制を設けているというのに、特定事業用宅地ではヒトの要素が抜け落ちてしまっています。
○
特定居住用宅地、貸付事業用宅地でも同じ雰囲気を感じましたが、申告期限以降の「居住継続・事業継続」というものに関心が向けられていないように思えます。
どちらかといえば、「事業畳むのにモノが沢山あると処分が大変だから、相続税は下げといてあげよう」という、事業を終わらせやすくする方向での配慮に思えます(事業廃止促進税制)。このように捉えることで、始めたての非所有メインの事業が優遇を受けられないことが、よく理解できます。
が、だとしたら「申告期限」までの事業継続を要求するのは謎です。
事業継続/事業廃止のいずれを促進するにしても、申告期限までの事業継続という中途半端な要求になっているのは説明しがたい。どちらの税制からもすんなり出てこない要件。
【事業継続要件(理念型)】
事業継続促進税制:申告期限後も事業継続を求める
事業廃止促進税制:申告期限までに事業廃止を求める
????????:申告期限までの事業継続を求める
なお、(こういう言い方をするのはなんですが)相続にともなって事業を畳む際には、モノだけでなくヒトも整理の対象となります。特定事業用宅地の適用を受けるために、相続後申告期限までは事業を継続させたとして、その後、被用者との雇用契約をすんなり終了させられるのかは、ひとつの問題となります(整理解雇)。
というのに、ヒトに対する配慮をしないというのは、「資産税だから気にしない」といって済ませられるものでしょうか。相続税法と労働法制とがうまく連結されていない、ひとつの場面。
逆に、特定事業用宅地の適用狙いで申告期限までのつもりで事業継続していたら、従業員に察せられて、その前に退職されてしまって事業継続要件を満たせなくなる、なんて事態もあるかもしれません。
以前、「所得拡大促進税制」が労働者にとっての武器になる、ということを論じましたが、それと同じことがここでも起こりえます。
武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
ちなみに、「個人版事業承継税制」が、特定事業用宅地とは別建ての、相容れない制度として創設されています。こちらは額面通り、事業承継を促進するための税制となってます。
このような制度が新設されたことからしても、特定事業用宅地を「事業継続」促進のための制度とみるのは正しくなさそうです。
個人版事業承継税制(国税庁)
○
「貸付事業用宅地」の場合、3年以内に追加することが許容されるのは「特定貸付事業」に該当するものに限られるかどうか、ということが問題になりました。
これに対して、「特定事業用宅地」の場合は、追加する事業そのものについて正面から一定規模以上の事業を要求されているので、そのことが論点になることはありません。
また、「相続人が死んだらどうなる」問題も、貸付事業用宅地のようにトキ・ヒト・モノが複雑に絡み合ったりしていないので、そう難しく考える必要はありません。
結果的に同じような配列にはなっていますが、貸付事業用宅地のほうはあれこれさんざん捏ねくり回した上で、どうにかまとめたものです。きれいにまとまった風ですが、「特定貸付事業者」の定義の中にいろんな含意がビルドインされています。
他方で、特定事業用宅地のほうは、条文から素直に導き出せるものです。当該土地のことと当該事業のことを中心に検討すればあてはめができます。
posted by ウロ at 11:22| Comment(0)
| 相続税法
2022年07月11日
特定事業用宅地はトキ・モノ・モノ(その1)
「特定事業用宅地」については、どういうわけかまったく全然検討する気になれませんでした。
やはり、ちょっと癖のある制度のほうがイジリがいがあるということでしょうか。
ですが、特定居住用宅地、貸付事業用宅地について検討してしまったので、《揃えモン》としては「3年縛り三姉妹」の残り一人、特定事業用宅地の「3年縛り」についても検討せざるをえません(それぞれどれが泪、瞳、愛に対応するかは各自ご検討ください)。
【揃え癖】
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開
ということで、以下気が進まないまま展開していきます。
【お約束事項】
・条数は省略して項数以下で引用します。
法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
・条文引用は例によってド派手に省略するので、正確には原文をご確認ください。
・要件のうち、「3年縛り」絡みだけを検討します。
○
まずは条文。
法1
個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合
令1
法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4
法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。
規1
法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3
令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。
法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令(8)で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(10)で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
令7
法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令8
法第三項第一号に規定する政令で定める規模以上の事業は、同号に規定する新たに事業の用に供された宅地等の相続の開始の時における価額に対する当該事業の用に供されていた次に掲げる資産(当該資産のうちに当該事業の用以外の用に供されていた部分がある場合には、当該事業の用に供されていた部分に限る。)のうち同条第一項に規定する被相続人等が有していたものの当該相続の開始の時における価額の合計額の割合が百分の十五以上である場合における当該事業とする。
一 当該宅地等の上に存する建物(その附属設備を含む。)又は構築物
二 所得税法第二条第一項第十九号に規定する減価償却資産で当該宅地等の上で行われる当該事業に係る業務の用に供されていたもの(前号に掲げるものを除く。)
令9
被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令10
法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。
そして、いつものやつ。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
○
ここから要件を整理すると次の通り。
【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
「事業」
不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業は除く
←貸付事業用宅地との棲み分けがされています。
2ア 被相続人の事業
事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 ×
「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く
【除外要件の除外要件】 ○
「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)
「一定の規模以上の事業」
事業の用に供されていた一定の資産のうち
被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額 ≧15%
新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額
「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの
○
これだけをみると、「除外要件」に「除外要件の除外要件」をぶつけるという座組は、貸付事業用宅地と同じです。が、同じなのは座組だけで、中身は貸付事業用宅地とは似ても似つかない。
【貸付事業用宅地の場合】
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(貸除1)。
・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(貸除2)。
【特定事業用宅地の場合】
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで事業始めても駄目だよ(事除1)。
・でも、その土地の上で多額の減価償却資産使う事業ならいいよ(事除2)。
すでに検討したとおり、《貸除2》は、3年前からガチ貸付事業をやっている「特定貸付事業者」というヒトの属性を満たせば、その後はどんな規模であっても追加し放題でした。
他方で、《事除2》の規律をみると、過去どんな事業を行っていたかは一切問わず、当該事業が土地の上で(一定規模以上の)モノを使うかどうかで判断することになっています。
《貸除2》は、すでに持っている人に対してはやたら寛容なのに対して、これから新しく貸付事業を始めようとする人に対しては無慈悲。持てるものはより持てるよう、持たざるものはいつまでも持てるようにはならないよう仕向けている(格差の拡大再生産)、と評価されても文句はいえないでしょう。
これに対して《事除2》は、これまで持っていなかった人でも、一定規模以上であれば「死に際チャレンジ」も認めることになっています。
一般事業のチャレンジは広く推進する一方で、貸付事業はこれ以上多くの人に広がることを抑制する、という隠れた意図が透けてみえるよう(既得権益保護税制)。
○
一旦ここで区切って、次回【除外要件の除外要件】の中身について検討します。
やはり、ちょっと癖のある制度のほうがイジリがいがあるということでしょうか。
ですが、特定居住用宅地、貸付事業用宅地について検討してしまったので、《揃えモン》としては「3年縛り三姉妹」の残り一人、特定事業用宅地の「3年縛り」についても検討せざるをえません(それぞれどれが泪、瞳、愛に対応するかは各自ご検討ください)。
【揃え癖】
人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開
ということで、以下気が進まないまま展開していきます。
【お約束事項】
・条数は省略して項数以下で引用します。
法 第六十九条の四(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
令 第四十条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
規 第二十三条の二(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)
・条文引用は例によってド派手に省略するので、正確には原文をご確認ください。
・要件のうち、「3年縛り」絡みだけを検討します。
○
まずは条文。
法1
個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等で財務省令(1)で定める建物又は構築物の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(特定事業用宅地等「特例対象宅地等」)がある場合
令1
法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
令4
法第一項に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち政令で定めるものは、相続の開始の直前において、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた宅地等のうち所得税法第二条第一項第十六号に規定する棚卸資産(これに準ずるものとして財務省令(3)で定めるものを含む。)に該当しない宅地等とし、これらの宅地等のうちに当該被相続人等の法第一項に規定する事業の用以外の用に供されていた部分があるときは、当該被相続人等の同項に規定する事業の用に供されていた部分に限るものとする。
規1
法第一項に規定する財務省令で定める建物又は構築物は、次に掲げる建物又は構築物以外の建物又は構築物とする。
一 温室その他の建物で、その敷地が耕作(農地法第四十三条第一項の規定により耕作に該当するものとみなされる農作物の栽培を含む。次号において同じ。)の用に供されるもの
二 暗渠きよその他の構築物で、その敷地が耕作の用又は耕作若しくは養畜のための採草若しくは家畜の放牧の用に供されるもの
規3
令第四項に規定する財務省令で定める棚卸資産に準ずるものは、所得税法第三十五条第一項に規定する雑所得の基因となる土地又は土地の上に存する権利とする。
法3 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものを除く。以下この号及び第三号において同じ。)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人を含む。イにおいて同じ。)が相続により取得したもの(相続開始前三年以内に新たに事業の用に供された宅地等(政令(8)で定める規模以上の事業を行つていた被相続人等の当該事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(10)で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の事業の用に供していること。
令7
法第三項第一号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令8
法第三項第一号に規定する政令で定める規模以上の事業は、同号に規定する新たに事業の用に供された宅地等の相続の開始の時における価額に対する当該事業の用に供されていた次に掲げる資産(当該資産のうちに当該事業の用以外の用に供されていた部分がある場合には、当該事業の用に供されていた部分に限る。)のうち同条第一項に規定する被相続人等が有していたものの当該相続の開始の時における価額の合計額の割合が百分の十五以上である場合における当該事業とする。
一 当該宅地等の上に存する建物(その附属設備を含む。)又は構築物
二 所得税法第二条第一項第十九号に規定する減価償却資産で当該宅地等の上で行われる当該事業に係る業務の用に供されていたもの(前号に掲げるものを除く。)
令9
被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令10
法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする。
そして、いつものやつ。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
○
ここから要件を整理すると次の通り。
【原則要件】 ○
1 事業の用に供されていた宅地
「事業」
不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業は除く
←貸付事業用宅地との棲み分けがされています。
2ア 被相続人の事業
事業承継要件 相続税の申告期限までに承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2イ 生計一親族の事業
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 ×
「相続の開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地」は除く
【除外要件の除外要件】 ○
「一定の規模以上の事業を行っていた被相続人等の事業の用に供された宅地」は除かない(除くを除く)
「一定の規模以上の事業」
事業の用に供されていた一定の資産のうち
被相続人等が有していたものの相続開始時の価額の合計額 ≧15%
新たに事業の用に供された宅地等の相続開始時の価額
「一定の資産」(その事業の用に供されていた部分に限る)
・その宅地等の上に存する建物(その附属設備を含みます。)、構築物
・所得税法2条1項19号に規定する減価償却資産でその宅地等の上で行われるその事業に係る業務の用に供されていたもの
○
これだけをみると、「除外要件」に「除外要件の除外要件」をぶつけるという座組は、貸付事業用宅地と同じです。が、同じなのは座組だけで、中身は貸付事業用宅地とは似ても似つかない。
【貸付事業用宅地の場合】
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(貸除1)。
・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(貸除2)。
【特定事業用宅地の場合】
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで事業始めても駄目だよ(事除1)。
・でも、その土地の上で多額の減価償却資産使う事業ならいいよ(事除2)。
すでに検討したとおり、《貸除2》は、3年前からガチ貸付事業をやっている「特定貸付事業者」というヒトの属性を満たせば、その後はどんな規模であっても追加し放題でした。
他方で、《事除2》の規律をみると、過去どんな事業を行っていたかは一切問わず、当該事業が土地の上で(一定規模以上の)モノを使うかどうかで判断することになっています。
《貸除2》は、すでに持っている人に対してはやたら寛容なのに対して、これから新しく貸付事業を始めようとする人に対しては無慈悲。持てるものはより持てるよう、持たざるものはいつまでも持てるようにはならないよう仕向けている(格差の拡大再生産)、と評価されても文句はいえないでしょう。
これに対して《事除2》は、これまで持っていなかった人でも、一定規模以上であれば「死に際チャレンジ」も認めることになっています。
一般事業のチャレンジは広く推進する一方で、貸付事業はこれ以上多くの人に広がることを抑制する、という隠れた意図が透けてみえるよう(既得権益保護税制)。
○
一旦ここで区切って、次回【除外要件の除外要件】の中身について検討します。
posted by ウロ at 10:28| Comment(0)
| 相続税法
2022年07月04日
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
貸付事業用宅地の特例について、要件整理はどうにかできました。が、そもそもこの制度の趣旨は何なんでしょうか。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
家なき子特例については少なくとも『出戻り保護』ではないことまでは分かりました。ではありますが、では何を保護しようとしているのかについては、さっぱり分かりませんでした。
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
今回も、懲りずに立法趣旨を探ってみます。
○
貸付事業用宅地の特例の座組は次の通りでした。
【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 × (除1と呼びます)
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
原則要件では、事業・保有の継続が「申告期限」までという、中途半端なところまでの要求となっています。
申告期限後も事業・保有が継続することやその見込みすら要求されていないということは、本特例は貸付事業の「継続」を積極的に保護するつもりはないのでしょう。
継続方向にどうかこじつけるとしたら、せいぜい『申告期限までは頑張って続けてみてよ。もし続けられそうならその後も続けてほしい、かな。』程度でしょう。
では、何を保護しようとしているのか。除2要件が『たとえ駆け込みであっても保護すべきものがそこにはある』という心づもりで設けたものでしょうから、当該要件がどのように機能するかという観点からみてみることにしましょう。
○
貸付用の土地を購入しようと考えている人の立場から、除2を考えてみると、
ア すでにガチ貸付事業をやっている人の場合
自分がいつ亡くなっても新規購入分も適用受けられるから、減額効率のよい単価高め・収益力高めの物件があれば購入していこう。
イ これまで貸付事業をやったことがない人の場合
3年以内にうっかり亡くなっちゃうと特例適用できなくなるから、購入を控えよう。
と機能することになります(厳密にいうと、購入ではなく事業供用ですが、購入したら即事業供用するということで)。
有り体にいえば、「持てる者はより持てるようになり、持たざる者はいつまでも持てるようにならない」という格差の拡大再生産を、本制度は推進していることになります(格差拡大促進税制)。
「持てる者」はすでに限度面積を超えていることが多いのかもしれません。が、上記の通り、死ぬまで減額効率のよい物件漁りが許容されていることになります。超高層マンション(分譲)を想定するならば、限度面積にまだまだ余裕がある可能性もあります。
また、「持たざる者」でも3年生きることを頑張れば、適用を受けられることにはなります。が、自分が3年超生き延びられるかどうかなど事前に分からないわけで、本特例を《行為規範》として考えた場合には、購入を控えざるをえないでしょう。
【税法における行為規範】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
○
ということで、除2要件を額面どおり素直に受け取るならば、
ア すでにガチ貸付事業をやっている人は好きに増やしていいよ。
イ これから新規で貸付事業を始めようとする人が増えるのは望まない。
という、《既得権益保護税制》だと捉えることができます。
もちろん、こんなことを公刊物で大っぴらに宣う奴いるはずありません。
《運営》側の説明では「タワマン節税防止」だということになっています。
平成30年度税制改正の解説(財務省) P.641
実際そういう側面があるのは事実なので、嘘をついているわけではありません。
が、本特例が機能する人/しない人は次の通り分かれます。
ア すでに持っている人のタワマン節税 →防止しない
イ まだ持っていない人のタワマン節税 →防止する
下手に嘘をつかれるよりも、たちが悪い。
このような露骨な差別がされているにもかかわらず、世の実務本は《運営》の説明を鵜呑みにしちゃっているわけで、粗忽と言わざるを得ない。
○
このように、貸付事業用宅地の特例は《格差拡大促進税制》あるいは《既得権益保護税制》として機能することが分かりました。
立案担当者的には「そんなつもりは毛頭ない」というかもしれません。ですが、実際に出来上がった要件を正確に理解するならば、そのように機能することは自明のことです。
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?
とはいえ、機能と立法趣旨とは必ずしもイコールではありません。本特例でも、原則要件が「申告期限」までという中途半端な保有・事業継続を求めているわけで、このこととの折り合いをつける必要があります。
次のような説明が可能でしょうか。
・本当は節税目的だけの駆け込み購入を排除したい。が、主観的な「つもり」要件では法的安定性を欠く。
そこで、3年という期限で区切る。ただ、すでにガチ貸付事業をやっているならば、売ったり買ったりも事業の一環だろうから、3年以内でも許容する。
・相続人に対しては「お試し期間」として申告期限まで続けてもらおう。続けてくれるならそれにこしたことはないし、止めるにしても後始末に手間がかかるだろうから、どちらであっても特例は受けさせてあげよう。
とすると、立法趣旨としては、被相続人(+生計一親族)に向けて、しっかり貸付事業をやっているかぎりいきなり亡くなっても相続人に迷惑をかけないようにしておいてあげる、というものだといえそうです。少なくとも、相続人がこれから先、貸付事業を続けていくことに向けられたものではない。
なお、立案担当者がどういうつもりであったにせよ、除1・2要件は、実際には「格差の拡大再生産」機能を果たすことになるわけで、この要件設定が適切だったかは当然問題となります。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
家なき子特例については少なくとも『出戻り保護』ではないことまでは分かりました。ではありますが、では何を保護しようとしているのかについては、さっぱり分かりませんでした。
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
今回も、懲りずに立法趣旨を探ってみます。
○
貸付事業用宅地の特例の座組は次の通りでした。
【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
【除外要件】 × (除1と呼びます)
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
原則要件では、事業・保有の継続が「申告期限」までという、中途半端なところまでの要求となっています。
申告期限後も事業・保有が継続することやその見込みすら要求されていないということは、本特例は貸付事業の「継続」を積極的に保護するつもりはないのでしょう。
継続方向にどうかこじつけるとしたら、せいぜい『申告期限までは頑張って続けてみてよ。もし続けられそうならその後も続けてほしい、かな。』程度でしょう。
では、何を保護しようとしているのか。除2要件が『たとえ駆け込みであっても保護すべきものがそこにはある』という心づもりで設けたものでしょうから、当該要件がどのように機能するかという観点からみてみることにしましょう。
○
貸付用の土地を購入しようと考えている人の立場から、除2を考えてみると、
ア すでにガチ貸付事業をやっている人の場合
自分がいつ亡くなっても新規購入分も適用受けられるから、減額効率のよい単価高め・収益力高めの物件があれば購入していこう。
イ これまで貸付事業をやったことがない人の場合
3年以内にうっかり亡くなっちゃうと特例適用できなくなるから、購入を控えよう。
と機能することになります(厳密にいうと、購入ではなく事業供用ですが、購入したら即事業供用するということで)。
有り体にいえば、「持てる者はより持てるようになり、持たざる者はいつまでも持てるようにならない」という格差の拡大再生産を、本制度は推進していることになります(格差拡大促進税制)。
「持てる者」はすでに限度面積を超えていることが多いのかもしれません。が、上記の通り、死ぬまで減額効率のよい物件漁りが許容されていることになります。超高層マンション(分譲)を想定するならば、限度面積にまだまだ余裕がある可能性もあります。
また、「持たざる者」でも3年生きることを頑張れば、適用を受けられることにはなります。が、自分が3年超生き延びられるかどうかなど事前に分からないわけで、本特例を《行為規範》として考えた場合には、購入を控えざるをえないでしょう。
【税法における行為規範】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
○
ということで、除2要件を額面どおり素直に受け取るならば、
ア すでにガチ貸付事業をやっている人は好きに増やしていいよ。
イ これから新規で貸付事業を始めようとする人が増えるのは望まない。
という、《既得権益保護税制》だと捉えることができます。
もちろん、こんなことを公刊物で大っぴらに宣う奴いるはずありません。
《運営》側の説明では「タワマン節税防止」だということになっています。
平成30年度税制改正の解説(財務省) P.641
実際そういう側面があるのは事実なので、嘘をついているわけではありません。
が、本特例が機能する人/しない人は次の通り分かれます。
ア すでに持っている人のタワマン節税 →防止しない
イ まだ持っていない人のタワマン節税 →防止する
下手に嘘をつかれるよりも、たちが悪い。
このような露骨な差別がされているにもかかわらず、世の実務本は《運営》の説明を鵜呑みにしちゃっているわけで、粗忽と言わざるを得ない。
○
このように、貸付事業用宅地の特例は《格差拡大促進税制》あるいは《既得権益保護税制》として機能することが分かりました。
立案担当者的には「そんなつもりは毛頭ない」というかもしれません。ですが、実際に出来上がった要件を正確に理解するならば、そのように機能することは自明のことです。
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?
とはいえ、機能と立法趣旨とは必ずしもイコールではありません。本特例でも、原則要件が「申告期限」までという中途半端な保有・事業継続を求めているわけで、このこととの折り合いをつける必要があります。
次のような説明が可能でしょうか。
・本当は節税目的だけの駆け込み購入を排除したい。が、主観的な「つもり」要件では法的安定性を欠く。
そこで、3年という期限で区切る。ただ、すでにガチ貸付事業をやっているならば、売ったり買ったりも事業の一環だろうから、3年以内でも許容する。
・相続人に対しては「お試し期間」として申告期限まで続けてもらおう。続けてくれるならそれにこしたことはないし、止めるにしても後始末に手間がかかるだろうから、どちらであっても特例は受けさせてあげよう。
とすると、立法趣旨としては、被相続人(+生計一親族)に向けて、しっかり貸付事業をやっているかぎりいきなり亡くなっても相続人に迷惑をかけないようにしておいてあげる、というものだといえそうです。少なくとも、相続人がこれから先、貸付事業を続けていくことに向けられたものではない。
なお、立案担当者がどういうつもりであったにせよ、除1・2要件は、実際には「格差の拡大再生産」機能を果たすことになるわけで、この要件設定が適切だったかは当然問題となります。
posted by ウロ at 11:40| Comment(0)
| 相続税法
2022年06月27日
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
前回の原則要件2の場面は、「相続開始〜申告期限(or死亡日)」の間の問題でした。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
今回の「除×除」要件の場合は、相続開始前3年以内の領域において「死んだらどうなる?」ということが問題となります。
○
(相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、
【除外要件】 × (除1と呼びます)
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
○
以下、事例で検討します。
【表の説明】
・甲→乙→丙の順で相続があったとします(他に相続人はいない)。
・事業は継続しているものとします。
・その他に貸付物件はないものとします。
乙及び丙がそれぞれ貸付事業用宅地の適用を受けられるかを検討します。
【事例1】
甲が物件を新規購入し、特定貸付事業を開始してから1年経過後に死亡
乙が甲の特定貸付事業を相続により承継してから1年経過後に死亡
丙が乙の特定貸付事業を相続により承継
(以下の事例も同様の読み方となります。)
乙
甲が相続開始前3年以内取得のため、除1が発動して適用不可。
甲の特定貸付事業は1年のため除2は機能しません。
丙
相続開始前3年以内取得ではありますが、令20,9により、Bが「相続」で取得した物件は新規取得に該当しなくなるため、除1は発動せずに、適用できることになります。
令9
被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令20
第九項の規定は、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等について準用する。この場合において、同項中「第三項第一号」とあるのは、「第三項第四号」と読み替えるものとする。
なお、この令20,9にいう「法第三項第四号に規定する事業の用に供されていた宅地等」については、下記《で》の前までを指しているのか(で前説)、《で》の後も含めるのか(で後も説)、二通りの読み方がありうるかもしれません。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地等《で》、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
が、この書き方であれば「で前説」で読むべきだと思います。
「で後も説」で読んでしまうと、適用場面がすべて除2と被ってしまい、独自の機能がないことになってしまいます。また、「新規取得に該当しない」という効果からすれば、令20,9は「除1⇒除2」ルートに流れていく手前の段階で機能するものでしょう。
【事例2】
事例1の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合でも、事例1と同じ結論となります。
丙については、新規取得に該当しないことになるため、新規取得の場合に発動する除1とそれを否定する除2はそもそも出番がありません。ので、特定か準かを云々する必要がないということです。
【事例3】
事例3は、事例1より期間が長くなっています。結論は事例1と同じです。
紛らわしいのは、以下の規定の存在。
令21
特定貸付事業を行つていた被相続人(「第一次相続人」)が、当該第一次相続人の死亡に係る相続開始前三年以内に相続(「第一次相続」)により当該第一次相続に係る被相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等を取得していた場合には、当該第一次相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等に係る法第三項第四号の規定の適用については、当該第一次相続に係る被相続人が当該第一次相続があつた日まで引き続き特定貸付事業を行つていた期間は、当該第一次相続人が特定貸付事業を行つていた期間に該当するものとみなす。
特定貸付事業の期間を算定するのに、甲の1.5年と乙の1.6年を足してもいいんだと。
事例3でも、この規定のおかげで3年超になるから、除2が機能するんじゃないかと思ってしまうかもしれません。
が、相続による取得の場合は、令20,9により「新規取得」に該当しないこととなるので、除1が発動せず、除2とそのサブルールである令21も発動することはありません。
結論同じならどっちでもよいのでは、と思われるかもしれません。が、条文構造に従った正確な理解を抑えておくことが、込み入った事例を解くのに必要な素養かと思います。
【事例4】
事例3の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合です。
こちらは「準事業」なので除2,令21は機能しないことは明らかです。すんなり、令20,9が適用されることが理解できるかと思います。
事例3と4を統一的に理解するためには、やはり事例3も除2,令21ルートではなく令9,20ルートで適用OKになると理解しておくべきでしょう。
では、令21が機能するのはどういう場合かというと。
たとえば、事例3で、乙が別途新たに物件を購入したような場合です。
甲からの相続物件をA、新規購入物件をBとすると、丙は、物件Aについては令9,20で適用を受けられます。他方で、物件Bについては、もしB取得が乙の相続開始前3年以内だったとしても、除2,令21で甲乙の特定期間を合算することができることになります。
結果、特定期間3年超となるため。物件Bについても丙は適用を受けられるということになります。
他方で、事例4の場合は準事業なので、物件Aは令9,20で適用できても、物件Bについては令21は発動せず適用不可となるということです。
【事例5】
事例3の甲→乙を相続ではなく「売買」とした場合です。
乙がそもそも相続対象外なのは当然として、丙についても、「売買」の場合は令9,20も除2,令21も起動しないので、除1により適用不可です。
○
以上、「令9,20」と「除2,令21」の適用関係については、《規範論的アプローチ》からは「令9,20」が優先的に適用されること、《類型論的アプローチ》からは、それぞれの規定がどのような場面で機能するかが整理できたかと思います。
思考ルートとしては次の通り。
1 3年より前事業供用ならOK
2 3年以内の場合は、「相続」による取得ならば令9,20によりOK
3 それ以外の場合は、「3年超特定貸付事業者」ならば除2によりOK
4 いずれにも該当しなければ適用不可
「除2,令21」は「3年超特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらうのが、理解しやすいかと思います。
両アプローチが相まって条文理解が進むという、よい関係性が発揮できた好例。
『年末調整のしかた』、なおさらお前はダメだ。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
今回の「除×除」要件の場合は、相続開始前3年以内の領域において「死んだらどうなる?」ということが問題となります。
○
(相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、
【除外要件】 × (除1と呼びます)
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
○
以下、事例で検討します。
【表の説明】
・甲→乙→丙の順で相続があったとします(他に相続人はいない)。
・事業は継続しているものとします。
・その他に貸付物件はないものとします。
乙及び丙がそれぞれ貸付事業用宅地の適用を受けられるかを検討します。
【事例1】
甲が物件を新規購入し、特定貸付事業を開始してから1年経過後に死亡
乙が甲の特定貸付事業を相続により承継してから1年経過後に死亡
丙が乙の特定貸付事業を相続により承継
(以下の事例も同様の読み方となります。)
乙
甲が相続開始前3年以内取得のため、除1が発動して適用不可。
甲の特定貸付事業は1年のため除2は機能しません。
丙
相続開始前3年以内取得ではありますが、令20,9により、Bが「相続」で取得した物件は新規取得に該当しなくなるため、除1は発動せずに、適用できることになります。
令9
被相続人が相続開始前三年以内に開始した相続により法第三項第一号に規定する事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後当該宅地等を引き続き同号に規定する事業の用に供していた場合における当該宅地等は、同号の新たに事業の用に供された宅地等に該当しないものとする。
令20
第九項の規定は、被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等について準用する。この場合において、同項中「第三項第一号」とあるのは、「第三項第四号」と読み替えるものとする。
なお、この令20,9にいう「法第三項第四号に規定する事業の用に供されていた宅地等」については、下記《で》の前までを指しているのか(で前説)、《で》の後も含めるのか(で後も説)、二通りの読み方がありうるかもしれません。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地等《で》、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令で定める部分に限る。)をいう。
が、この書き方であれば「で前説」で読むべきだと思います。
「で後も説」で読んでしまうと、適用場面がすべて除2と被ってしまい、独自の機能がないことになってしまいます。また、「新規取得に該当しない」という効果からすれば、令20,9は「除1⇒除2」ルートに流れていく手前の段階で機能するものでしょう。
【事例2】
事例1の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合でも、事例1と同じ結論となります。
丙については、新規取得に該当しないことになるため、新規取得の場合に発動する除1とそれを否定する除2はそもそも出番がありません。ので、特定か準かを云々する必要がないということです。
【事例3】
事例3は、事例1より期間が長くなっています。結論は事例1と同じです。
紛らわしいのは、以下の規定の存在。
令21
特定貸付事業を行つていた被相続人(「第一次相続人」)が、当該第一次相続人の死亡に係る相続開始前三年以内に相続(「第一次相続」)により当該第一次相続に係る被相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等を取得していた場合には、当該第一次相続人の特定貸付事業の用に供されていた宅地等に係る法第三項第四号の規定の適用については、当該第一次相続に係る被相続人が当該第一次相続があつた日まで引き続き特定貸付事業を行つていた期間は、当該第一次相続人が特定貸付事業を行つていた期間に該当するものとみなす。
特定貸付事業の期間を算定するのに、甲の1.5年と乙の1.6年を足してもいいんだと。
事例3でも、この規定のおかげで3年超になるから、除2が機能するんじゃないかと思ってしまうかもしれません。
が、相続による取得の場合は、令20,9により「新規取得」に該当しないこととなるので、除1が発動せず、除2とそのサブルールである令21も発動することはありません。
結論同じならどっちでもよいのでは、と思われるかもしれません。が、条文構造に従った正確な理解を抑えておくことが、込み入った事例を解くのに必要な素養かと思います。
【事例4】
事例3の「特定貸付事業」が「準事業」に置き換わった場合です。
こちらは「準事業」なので除2,令21は機能しないことは明らかです。すんなり、令20,9が適用されることが理解できるかと思います。
事例3と4を統一的に理解するためには、やはり事例3も除2,令21ルートではなく令9,20ルートで適用OKになると理解しておくべきでしょう。
では、令21が機能するのはどういう場合かというと。
たとえば、事例3で、乙が別途新たに物件を購入したような場合です。
甲からの相続物件をA、新規購入物件をBとすると、丙は、物件Aについては令9,20で適用を受けられます。他方で、物件Bについては、もしB取得が乙の相続開始前3年以内だったとしても、除2,令21で甲乙の特定期間を合算することができることになります。
結果、特定期間3年超となるため。物件Bについても丙は適用を受けられるということになります。
他方で、事例4の場合は準事業なので、物件Aは令9,20で適用できても、物件Bについては令21は発動せず適用不可となるということです。
【事例5】
事例3の甲→乙を相続ではなく「売買」とした場合です。
乙がそもそも相続対象外なのは当然として、丙についても、「売買」の場合は令9,20も除2,令21も起動しないので、除1により適用不可です。
○
以上、「令9,20」と「除2,令21」の適用関係については、《規範論的アプローチ》からは「令9,20」が優先的に適用されること、《類型論的アプローチ》からは、それぞれの規定がどのような場面で機能するかが整理できたかと思います。
思考ルートとしては次の通り。
1 3年より前事業供用ならOK
2 3年以内の場合は、「相続」による取得ならば令9,20によりOK
3 それ以外の場合は、「3年超特定貸付事業者」ならば除2によりOK
4 いずれにも該当しなければ適用不可
「除2,令21」は「3年超特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらうのが、理解しやすいかと思います。
両アプローチが相まって条文理解が進むという、よい関係性が発揮できた好例。
『年末調整のしかた』、なおさらお前はダメだ。
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:02| Comment(0)
| 相続税法
2022年06月20日
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
以前、年末調整とか住宅ローン控除について、「死んだらどうなる?」ということを検討しました。
リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
他方で、貸付事業用宅地の場面では、「被相続人」が死ぬのは必然(『被相続人、いつも死んでんな。』)。ですが、その後に当該宅地を取得した「相続人」のほうが(申告前に)死んだらどうなる?、ということは問題になりえます。
これを想定した規定があるので、今回はそれらをイジりの対象としてみます。
ただし、前回までのメインどころ、「除×除」要件については今回は考慮外とします(その他、お約束事項は前回・前々回と同じです)。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
○
まずは条文の引用から。
法3
この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む。イ及び第四号(ロを除く。)において同じ。)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地を自己の事業の用に供していること。
貸付事業用の話だっつってんのに、なに1号(特定事業用宅地)引用しちゃってんの、と思われるかもしれません。
が、下線部分の「において同じ」というのがあるせいで、1号の引用から始めなければならないのです。
○
法3項の編成は次の通りとなっています。
【法3項の編成】
一イ 特定事業用宅地(被相続人の事業)
ロ 特定事業用宅地(生計一親族の事業)
二イ 特定居住用宅地(同居親族)
ロ 特定居住用宅地(家なき子)
ハ 特定居住用宅地(生計一親族)
三 特定同族会社事業用宅地
四イ 貸付事業用宅地(被相続人の貸付事業)
ロ 貸付事業用宅地(生計一親族の貸付事業)
1号柱書によると、「当該被相続人の親族」に「当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人」が含まれるというのは、1号イと4号イも同じだと。
また、1号ロによると、当該親族が申告期限前に死亡した場合には「申告期限」が「死亡の日」になるというのは、2号イロハ、3号、4号ロも同じだと。
このように、4号に関する規律が1号の中に混入されてしまっています。
他方で、4号の側には「1号を見てね」などといった指示が何もありません。ので、4号を見ただけでは「貸付事業用宅地」の正確な定義を把握することができないことになっています。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
○
当ブログでは、条文イジりを敢行する際には、検討対象外の部分を大胆に削っているところです。
プレーン条文はいろんな場合を想定して枝葉をつけがち。「相続又は遺贈」とか。
が、そのまま頭から読んでいっても意味が取りにくいので、検討にあたってノイズとなる箇所は切り落としてしまっています。
この手法の弱点、大事な箇所をうっかり切り落としてしまうおそれがあるという点です。
今回も、1号は特定事業用宅地の定義規定だからといって読み飛ばしてしまうと、その中の4号に関する規律を見落としてしまうことになります。
つまり、この手法を採用するには邪魔かどうかを判断できる素養が求められるということです。が、その素養を身につけるにはあらかじめ条文を理解していなければならないわけで。
どうしろっていうんですか、て感じですよね。しんどいですが、とにかく一読はしないといけないんでしょう。
ここではまだ同じ条項内だからましですけど、この振る舞いを条数飛び越えてやられるときつい。
幸い、租税特別措置法は個別特例の寄せ集めで、それぞれが一国一城の主感強めなので、跨ぎは少なめかと思います。42条の6(設備投資優遇税制)が「中小企業者」の定義を42条の4(研究開発税制)からお借りしている、というのがあったりしますが、42条の6にはちゃんとどこからお借りするかが書かれていますし。
読み手の目→ 42条の6「借りますね」 ⇒42条の4
他方で、69条の4の3項の1号・4号間は、貸す側にしか書いてないせいで、借りる側の条文しか読まない人には認識しえない。
1号「貸しますね」 ⇒4号 ←読み手の目
このような《サイレント押し貸し》、条文作成お作法としてはかなり最悪の部類に属すると思うのですが。
こんなお作法があるかぎり、「納税者の予測可能性」の確保なんて夢のまた夢よ。
○
さて、本筋に戻って。
【原則要件】
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
上記下線部は、原則要件2に関わるものです。
下線部を4号にねじ込むと次のようになります。
四 貸付事業用宅地等 イ
被相続人の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
四 貸付事業用宅地等 ロ
被相続人と生計を一にしていた親族の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含まない)が相続により取得したもの()をいう。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
ロには、1号柱書の拡張デバイスは「含まない」ことを注意的に記載しておきました。正統な条文作成お作法ならば、両面から書くなんて絶対にやらないでしょうけど。
結果、甲⇒乙⇒丙の順で順次相続が発生した場合の要件は次の通りとなります。
2イ 被相続人甲の貸付事業の場合
事業承継要件 丙が相続開始時から申告期限までの間に事業を承継し継続
保有継続要件 丙が申告期限まで保有
2ロ 生計一親族乙の貸付事業の場合
事業継続要件 乙が相続開始前から死亡日まで事業を継続
保有継続要件 乙が死亡日まで保有
イについては、以下の「ご説明通達」があります。
これは「解釈通達」というよりは、条文の作りがよろしくないので、噛み砕いて説明してくれているという類のものでしょう。
(宅地等を取得した親族が申告期限までに死亡した場合)
69の4-15 被相続人の事業用宅地等を相続により取得した被相続人の親族が当該相続に係る相続税の申告期限までに死亡した場合には、当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人が法第3項第4号イの要件を満たせば、当該宅地等は同項第4号に規定する貸付事業用宅地等に当たるのであるから留意する。
(注) 当該相続人について法第3項第4号イの要件に該当するかどうかを判定する場合において、第4号の申告期限は、相続税法第27条第2項((相続税の申告書))の規定による申告期限をいい、また、被相続人の事業(令第1項に規定する事業を含む。)を引き継ぐとは、当該相続人が被相続人の事業を直接引き継ぐ場合も含まれるのであるから留意する。
○
なぜロの場合に「死亡日」に繰り上がるのでしょうか。
「イは丙が承継してから日が浅いが、ロは乙の事業が甲の生前から継続していたから」という説明をしているものを見かけたことがあります。が、現行法上は、除×除要件のせいで、甲にしても乙にしても相続開始前3年超の事業継続が求められているところです。
また、相続開始後は、申告期限までとするのと死亡日までとするのとで、せいぜい数ヶ月の違いしかないでしょう。イとロとで、事業継続期間に類型差があるようには思えないのですが。
おそらくですが、イの場合は、甲⇒乙も乙⇒丙も同じイとして連続扱いができるけども、ロの場合は、甲⇒乙はロ、乙⇒丙はイとカテゴリが変わってしまうから、乙死亡日で区切って別々に要件を検討するのだと理解すればよいでしょうか。
○
ここまでが前座で、次回、死んだら「除×除」要件どうなる?を検討します。
原則要件2は、せいぜい「相続開始〜申告期限」の間の問題でしたが、これが相続開始前3年前までトキが広がることになります。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除
他方で、貸付事業用宅地の場面では、「被相続人」が死ぬのは必然(『被相続人、いつも死んでんな。』)。ですが、その後に当該宅地を取得した「相続人」のほうが(申告前に)死んだらどうなる?、ということは問題になりえます。
これを想定した規定があるので、今回はそれらをイジりの対象としてみます。
ただし、前回までのメインどころ、「除×除」要件については今回は考慮外とします(その他、お約束事項は前回・前々回と同じです)。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
○
まずは条文の引用から。
法3
この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む。イ及び第四号(ロを除く。)において同じ。)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地を自己の事業の用に供していること。
貸付事業用の話だっつってんのに、なに1号(特定事業用宅地)引用しちゃってんの、と思われるかもしれません。
が、下線部分の「において同じ」というのがあるせいで、1号の引用から始めなければならないのです。
○
法3項の編成は次の通りとなっています。
【法3項の編成】
一イ 特定事業用宅地(被相続人の事業)
ロ 特定事業用宅地(生計一親族の事業)
二イ 特定居住用宅地(同居親族)
ロ 特定居住用宅地(家なき子)
ハ 特定居住用宅地(生計一親族)
三 特定同族会社事業用宅地
四イ 貸付事業用宅地(被相続人の貸付事業)
ロ 貸付事業用宅地(生計一親族の貸付事業)
1号柱書によると、「当該被相続人の親族」に「当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人」が含まれるというのは、1号イと4号イも同じだと。
また、1号ロによると、当該親族が申告期限前に死亡した場合には「申告期限」が「死亡の日」になるというのは、2号イロハ、3号、4号ロも同じだと。
このように、4号に関する規律が1号の中に混入されてしまっています。
他方で、4号の側には「1号を見てね」などといった指示が何もありません。ので、4号を見ただけでは「貸付事業用宅地」の正確な定義を把握することができないことになっています。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
○
当ブログでは、条文イジりを敢行する際には、検討対象外の部分を大胆に削っているところです。
プレーン条文はいろんな場合を想定して枝葉をつけがち。「相続又は遺贈」とか。
が、そのまま頭から読んでいっても意味が取りにくいので、検討にあたってノイズとなる箇所は切り落としてしまっています。
この手法の弱点、大事な箇所をうっかり切り落としてしまうおそれがあるという点です。
今回も、1号は特定事業用宅地の定義規定だからといって読み飛ばしてしまうと、その中の4号に関する規律を見落としてしまうことになります。
つまり、この手法を採用するには邪魔かどうかを判断できる素養が求められるということです。が、その素養を身につけるにはあらかじめ条文を理解していなければならないわけで。
どうしろっていうんですか、て感じですよね。しんどいですが、とにかく一読はしないといけないんでしょう。
ここではまだ同じ条項内だからましですけど、この振る舞いを条数飛び越えてやられるときつい。
幸い、租税特別措置法は個別特例の寄せ集めで、それぞれが一国一城の主感強めなので、跨ぎは少なめかと思います。42条の6(設備投資優遇税制)が「中小企業者」の定義を42条の4(研究開発税制)からお借りしている、というのがあったりしますが、42条の6にはちゃんとどこからお借りするかが書かれていますし。
読み手の目→ 42条の6「借りますね」 ⇒42条の4
他方で、69条の4の3項の1号・4号間は、貸す側にしか書いてないせいで、借りる側の条文しか読まない人には認識しえない。
1号「貸しますね」 ⇒4号 ←読み手の目
このような《サイレント押し貸し》、条文作成お作法としてはかなり最悪の部類に属すると思うのですが。
こんなお作法があるかぎり、「納税者の予測可能性」の確保なんて夢のまた夢よ。
○
さて、本筋に戻って。
【原則要件】
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
上記下線部は、原則要件2に関わるものです。
下線部を4号にねじ込むと次のようになります。
四 貸付事業用宅地等 イ
被相続人の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
四 貸付事業用宅地等 ロ
被相続人と生計を一にしていた親族の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含まない)が相続により取得したもの()をいう。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
ロには、1号柱書の拡張デバイスは「含まない」ことを注意的に記載しておきました。正統な条文作成お作法ならば、両面から書くなんて絶対にやらないでしょうけど。
結果、甲⇒乙⇒丙の順で順次相続が発生した場合の要件は次の通りとなります。
2イ 被相続人甲の貸付事業の場合
事業承継要件 丙が相続開始時から申告期限までの間に事業を承継し継続
保有継続要件 丙が申告期限まで保有
2ロ 生計一親族乙の貸付事業の場合
事業継続要件 乙が相続開始前から死亡日まで事業を継続
保有継続要件 乙が死亡日まで保有
イについては、以下の「ご説明通達」があります。
これは「解釈通達」というよりは、条文の作りがよろしくないので、噛み砕いて説明してくれているという類のものでしょう。
(宅地等を取得した親族が申告期限までに死亡した場合)
69の4-15 被相続人の事業用宅地等を相続により取得した被相続人の親族が当該相続に係る相続税の申告期限までに死亡した場合には、当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人が法第3項第4号イの要件を満たせば、当該宅地等は同項第4号に規定する貸付事業用宅地等に当たるのであるから留意する。
(注) 当該相続人について法第3項第4号イの要件に該当するかどうかを判定する場合において、第4号の申告期限は、相続税法第27条第2項((相続税の申告書))の規定による申告期限をいい、また、被相続人の事業(令第1項に規定する事業を含む。)を引き継ぐとは、当該相続人が被相続人の事業を直接引き継ぐ場合も含まれるのであるから留意する。
○
なぜロの場合に「死亡日」に繰り上がるのでしょうか。
「イは丙が承継してから日が浅いが、ロは乙の事業が甲の生前から継続していたから」という説明をしているものを見かけたことがあります。が、現行法上は、除×除要件のせいで、甲にしても乙にしても相続開始前3年超の事業継続が求められているところです。
また、相続開始後は、申告期限までとするのと死亡日までとするのとで、せいぜい数ヶ月の違いしかないでしょう。イとロとで、事業継続期間に類型差があるようには思えないのですが。
おそらくですが、イの場合は、甲⇒乙も乙⇒丙も同じイとして連続扱いができるけども、ロの場合は、甲⇒乙はロ、乙⇒丙はイとカテゴリが変わってしまうから、乙死亡日で区切って別々に要件を検討するのだと理解すればよいでしょうか。
○
ここまでが前座で、次回、死んだら「除×除」要件どうなる?を検討します。
原則要件2は、せいぜい「相続開始〜申告期限」の間の問題でしたが、これが相続開始前3年前までトキが広がることになります。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:20| Comment(0)
| 相続税法
2022年06月13日
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地の「3年縛り」ルールについて、事例ごとの当てはめをしてみます。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
条文は、除く・除くの箇所だけ引用。
(相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、
【除外要件】 × (除1と呼びます)
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
○
以下、事例検討をするにあたってのお約束ごと。あれこれうるさいですが、まあ措置法上の特例なので諦めてください。
【事例検討のお約束事項】
・除1・除2の適用関係のみの検討で、それ以外の要件は満たすものとします。
・A〜D物件は、いずれもマンションの部屋で数字は部屋数を表します。
・購入時には借主居住ずみで以降退去なしとします(購入即事業供用開始・継続)。
・従前の貸付事業があれば、購入によりそれに組み込まれるものとします。
・10室以上保有・貸付で「特定貸付事業」に該当することとします。
【事例1】
事例1は、相続開始から3年より前にA1室を購入した、3年以内にB1室を購入した、相続開始時にはA1室、B1室を保有していた、という意味です(以下の事例も同じ読み方です)。
・Aは1室のみですが、3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので、除1が機能して適用外となります。
・3年超特定貸付事業がないので、除2は機能しません。
【事例2】
・Cは3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので除1が機能しますが、Cによる3年超特定貸付事業があるため、除2が機能して適用できることになります。
【事例3】
事例3は、相続直前にD10室を購入したということです。
・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。10室なので「特定貸付事業」には該当しますが、「3年超」ではないため除2は機能しません。
【事例4】
事例4は、D購入前にCを売却したことで、一度保有物件なし状態が挟まっているということです。
・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。
そして、Cによる「特定貸付事業」がありましたが、一度途切れてしまっているため、除2は機能しません。
一日でも空いたらダメなのか、という問題提起はありうるかとは思います。が、それはいわゆる「チャレンジ案件」ということで、フロンティアスピリッツ溢れる納税者にお任せいたします。
「措置法解釈は厳格に」という裁判所の志向からすると、厳しい戦いになりそうですが。
なお、措置法通達69の4-24の3では、事業継続が途切れた場合について一定の手当がされていますが、「売却⇒0⇒購入」パターンについては触れられていません。
○
これら事例から分かることは、3年より前スタートなら「準事業」でもよいということです。
除1がやたらと幅を効かせているし、除2は「特定貸付事業」じゃないとだめとか言っているせいで、うっかり「準事業」じゃダメだと思ってしまいがち。
が、除×除はあくまでも3年以内スタートの場合に出張ってくるものです。3年より前の領域では、原則要件の「準事業でもいいよ」という優しさが汚されずに残っている。
他方で、3年以内の領域では、取得したものが何部屋だろうが除1により適用外とされてしまいます。
これに抗う除2を機能させるには、被相続人が3年超の「特定貸付事業」を継続している必要があります。どんなにでかい物件を購入しても、3年以内ではもはやどうにもならない。
○
「3年縛り」ルールがすんなり理解できないの、同じ「事業」概念を、広げる(原則要件)・狭める(除1)、戻す(除2)の、3つの局面で使いまわしているせいではないかと感じます。
そこで、「特定貸付事業」を土地(モノ)の属性としてでなく、「特定貸付事業者」というヒトの属性として再構成したほうが理解がしやすそうです。
トキ:相続開始前 3年以内/3年超
ヒト:3年超特定貸付事業者/それ以外の者
モノ:貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業)に供していた土地
だいぶシンプルにまとめられました。
何部屋持っているかは「特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらって、表の項目としては出さないのが、混乱しないですみそう。
条文の座組みからは離れますが、正確な理解ができるのならば、それに越したことはない。
が「年末調整のしかた」、お前はダメだ。
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
○
本当はこの先によりややこしい問題があるのですが、記事化するかは思案中。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
条文は、除く・除くの箇所だけ引用。
(相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、
【除外要件】 × (除1と呼びます)
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
○
以下、事例検討をするにあたってのお約束ごと。あれこれうるさいですが、まあ措置法上の特例なので諦めてください。
【事例検討のお約束事項】
・除1・除2の適用関係のみの検討で、それ以外の要件は満たすものとします。
・A〜D物件は、いずれもマンションの部屋で数字は部屋数を表します。
・購入時には借主居住ずみで以降退去なしとします(購入即事業供用開始・継続)。
・従前の貸付事業があれば、購入によりそれに組み込まれるものとします。
・10室以上保有・貸付で「特定貸付事業」に該当することとします。
【事例1】
事例1は、相続開始から3年より前にA1室を購入した、3年以内にB1室を購入した、相続開始時にはA1室、B1室を保有していた、という意味です(以下の事例も同じ読み方です)。
・Aは1室のみですが、3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので、除1が機能して適用外となります。
・3年超特定貸付事業がないので、除2は機能しません。
【事例2】
・Cは3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので除1が機能しますが、Cによる3年超特定貸付事業があるため、除2が機能して適用できることになります。
【事例3】
事例3は、相続直前にD10室を購入したということです。
・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。10室なので「特定貸付事業」には該当しますが、「3年超」ではないため除2は機能しません。
【事例4】
事例4は、D購入前にCを売却したことで、一度保有物件なし状態が挟まっているということです。
・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。
そして、Cによる「特定貸付事業」がありましたが、一度途切れてしまっているため、除2は機能しません。
一日でも空いたらダメなのか、という問題提起はありうるかとは思います。が、それはいわゆる「チャレンジ案件」ということで、フロンティアスピリッツ溢れる納税者にお任せいたします。
「措置法解釈は厳格に」という裁判所の志向からすると、厳しい戦いになりそうですが。
なお、措置法通達69の4-24の3では、事業継続が途切れた場合について一定の手当がされていますが、「売却⇒0⇒購入」パターンについては触れられていません。
○
これら事例から分かることは、3年より前スタートなら「準事業」でもよいということです。
除1がやたらと幅を効かせているし、除2は「特定貸付事業」じゃないとだめとか言っているせいで、うっかり「準事業」じゃダメだと思ってしまいがち。
が、除×除はあくまでも3年以内スタートの場合に出張ってくるものです。3年より前の領域では、原則要件の「準事業でもいいよ」という優しさが汚されずに残っている。
他方で、3年以内の領域では、取得したものが何部屋だろうが除1により適用外とされてしまいます。
これに抗う除2を機能させるには、被相続人が3年超の「特定貸付事業」を継続している必要があります。どんなにでかい物件を購入しても、3年以内ではもはやどうにもならない。
○
「3年縛り」ルールがすんなり理解できないの、同じ「事業」概念を、広げる(原則要件)・狭める(除1)、戻す(除2)の、3つの局面で使いまわしているせいではないかと感じます。
そこで、「特定貸付事業」を土地(モノ)の属性としてでなく、「特定貸付事業者」というヒトの属性として再構成したほうが理解がしやすそうです。
トキ:相続開始前 3年以内/3年超
ヒト:3年超特定貸付事業者/それ以外の者
モノ:貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業)に供していた土地
だいぶシンプルにまとめられました。
何部屋持っているかは「特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらって、表の項目としては出さないのが、混乱しないですみそう。
条文の座組みからは離れますが、正確な理解ができるのならば、それに越したことはない。
が「年末調整のしかた」、お前はダメだ。
リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
○
本当はこの先によりややこしい問題があるのですが、記事化するかは思案中。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
posted by ウロ at 10:37| Comment(0)
| 相続税法
2022年06月06日
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
小規模宅地の特例については過去散々ネタにしてきましたが、特定居住用の、しかも「二世帯住宅」と「家なき子」だけをピンポイントでイジってきました。
条文イジりの対象となるのがそこぐらいかと思って。
なのですが、ふと予感がして「貸付事業用宅地」の条文を眺めていたら、どうもすんなり理解しにくいところがありまして。
「貸付事業用宅地」については、実務解説本の類でも記述が手薄なことが多いです。
特に、昔からの継ぎ足し継ぎ足しで改訂している本だとその気が強い。
我らがタックスアンサーでも、あっさりめ。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
という感じで、よそ様の解説があまり頼りにならないので、自力でどうにか検討してみます。
【お約束事項】
・租税特別措置法の「69条の4」、同施行令の「40条の2」は省略して項数以降で引用します。
・遺贈は除いて相続のみとします。
・借地権等は除いて土地のみとします。
・要件の検討のみで効果のほうは考慮外とします。
・経過措置はもはや無視します。
○
まずは条文。例によって大胆に省略入れています。正確には原文をお読みください。
法1
個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等(土地【又は土地の上に存する権利】)で財務省令で定める建物【又は構築物】の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(貸付事業用宅地等に限る。「特例対象宅地等」)がある場合には、(略)
令1
法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
法3
この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものに限る。「貸付事業」)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(22,10)で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
令7
法第三項第四号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令19
法第三項第四号に規定する政令で定める貸付事業は、同号に規定する貸付事業(「貸付事業」)のうち準事業以外のもの(「特定貸付事業」)とする。
令10
法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする
令22
第十項の規定は、法第三項第四号に規定する政令で定める部分について準用する。
ここから要件を抽出すると次の通り。
【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地
「貸付事業」とは
・不動産貸付業
・駐車場業、自転車駐車場業
・準事業
「準事業」とは
事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの
2イ 被相続人の貸付事業の場合
事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
「準事業」でもいいという、謎の優しさが発揮されています。過去、お亡くなりになったこともあるようですが、今は元気にやっています(ただし下記)。
そして、(事業+保有)継続要件も「申告期限」まででよくって、いわゆる「事業承継」保護とは言い難い。
上記2イで「事業承継要件」とは書いたのは、タックスアンサーに倣っただけ。「承継とはいったが継続とはいっていない」ということのようで。
長期間に渡って事業継続、株式・資産保有を要求される『事業承継税制』とは、まるで毛並みが異なる。
法人版事業承継税制(国税庁)
個人版事業承継税制(国税庁)
「家なき子」特例の制度趣旨を『出戻り保護』っていうのと同じように、こちらを『貸付事業の継続保護』というのだとしたら、的外れも甚だしい。
○
要件がこれだけだったら、特にネタにするようなこともないです。
勝手に制度趣旨を『貸付事業の継続保護』だと勘違いして、要件を読み間違えさえしなければ十分です(解説本の類の記述が未だに手薄なのは、シンプル要件時代のノリを引きずってのことでしょうか)。
ところが、2018年度改正により、次のような「除外要件」「除外要件の除外要件」が入りました。
【除外要件】 ×
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
いわゆる「3年縛り」。
特定居住用や特定事業用にも「3年縛り」がありますが、それぞれ規律内容は違います。
カッコ書き内での除く×除くの二重掛けなので(いわゆるジョジョ掛け)、一読して理解しがたい。
ではありますが、要するに、
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(除1)。
・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(除2)。
ということかと。
3年超なら準事業レベルでもいい一方で、3年以内に始めた場合はガチ貸付業でもダメだという。
駆け込みを徹底的に拒絶する、「3年縛り」ルールらしい所作。
他方で、もともとガチ貸付業やってたなら追加し放題という、奇妙な抜け道。
まあ、物件追加し放題とはいえ、「限度面積」が特定貸付用だけで「200u」までなので、限界はあるでしょう。追加するなら坪単価高め・収益性高めの物件にしておけ、ということでしょうか。
○
以上、条文ベースに制度理解をしてみましたが、「3年縛り」ルールがいまいちしっくりきていません。
ということで、次回は《類型論的アプローチ》により検討をすすめてみます。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
【規範論×類型論】
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
条文イジりの対象となるのがそこぐらいかと思って。
なのですが、ふと予感がして「貸付事業用宅地」の条文を眺めていたら、どうもすんなり理解しにくいところがありまして。
「貸付事業用宅地」については、実務解説本の類でも記述が手薄なことが多いです。
特に、昔からの継ぎ足し継ぎ足しで改訂している本だとその気が強い。
我らがタックスアンサーでも、あっさりめ。
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
という感じで、よそ様の解説があまり頼りにならないので、自力でどうにか検討してみます。
【お約束事項】
・租税特別措置法の「69条の4」、同施行令の「40条の2」は省略して項数以降で引用します。
・遺贈は除いて相続のみとします。
・借地権等は除いて土地のみとします。
・要件の検討のみで効果のほうは考慮外とします。
・経過措置はもはや無視します。
○
まずは条文。例によって大胆に省略入れています。正確には原文をお読みください。
法1
個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等(土地【又は土地の上に存する権利】)で財務省令で定める建物【又は構築物】の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(貸付事業用宅地等に限る。「特例対象宅地等」)がある場合には、(略)
令1
法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。
法3
この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 貸付事業用宅地等
被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものに限る。「貸付事業」)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(22,10)で定める部分に限る。)をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。
令7
法第三項第四号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令19
法第三項第四号に規定する政令で定める貸付事業は、同号に規定する貸付事業(「貸付事業」)のうち準事業以外のもの(「特定貸付事業」)とする。
令10
法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする
令22
第十項の規定は、法第三項第四号に規定する政令で定める部分について準用する。
ここから要件を抽出すると次の通り。
【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地
「貸付事業」とは
・不動産貸付業
・駐車場業、自転車駐車場業
・準事業
「準事業」とは
事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの
2イ 被相続人の貸付事業の場合
事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
保有継続要件 申告期限まで保有
「準事業」でもいいという、謎の優しさが発揮されています。過去、お亡くなりになったこともあるようですが、今は元気にやっています(ただし下記)。
そして、(事業+保有)継続要件も「申告期限」まででよくって、いわゆる「事業承継」保護とは言い難い。
上記2イで「事業承継要件」とは書いたのは、タックスアンサーに倣っただけ。「承継とはいったが継続とはいっていない」ということのようで。
長期間に渡って事業継続、株式・資産保有を要求される『事業承継税制』とは、まるで毛並みが異なる。
法人版事業承継税制(国税庁)
個人版事業承継税制(国税庁)
「家なき子」特例の制度趣旨を『出戻り保護』っていうのと同じように、こちらを『貸付事業の継続保護』というのだとしたら、的外れも甚だしい。
○
要件がこれだけだったら、特にネタにするようなこともないです。
勝手に制度趣旨を『貸付事業の継続保護』だと勘違いして、要件を読み間違えさえしなければ十分です(解説本の類の記述が未だに手薄なのは、シンプル要件時代のノリを引きずってのことでしょうか)。
ところが、2018年度改正により、次のような「除外要件」「除外要件の除外要件」が入りました。
【除外要件】 ×
相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く
【除外要件の除外要件】 ○
相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)
「特定貸付事業」とは
○不動産貸付業
○駐車場業、自転車駐車場業
×準事業はダメ
いわゆる「3年縛り」。
特定居住用や特定事業用にも「3年縛り」がありますが、それぞれ規律内容は違います。
カッコ書き内での除く×除くの二重掛けなので(いわゆるジョジョ掛け)、一読して理解しがたい。
ではありますが、要するに、
・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(除1)。
・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(除2)。
ということかと。
3年超なら準事業レベルでもいい一方で、3年以内に始めた場合はガチ貸付業でもダメだという。
駆け込みを徹底的に拒絶する、「3年縛り」ルールらしい所作。
他方で、もともとガチ貸付業やってたなら追加し放題という、奇妙な抜け道。
まあ、物件追加し放題とはいえ、「限度面積」が特定貸付用だけで「200u」までなので、限界はあるでしょう。追加するなら坪単価高め・収益性高めの物件にしておけ、ということでしょうか。
○
以上、条文ベースに制度理解をしてみましたが、「3年縛り」ルールがいまいちしっくりきていません。
ということで、次回は《類型論的アプローチ》により検討をすすめてみます。
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その4) 〜過程論2
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その5) 〜趣旨論
【規範論×類型論】
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
posted by ウロ at 19:57| Comment(0)
| 相続税法