2022年06月20日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1

 以前、年末調整とか住宅ローン控除について、「死んだらどうなる?」ということを検討しました。

リーガルマインド住宅ローン控除(その1) 〜転勤と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その2) 〜転勤と離婚と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その3) 〜転勤と死別と住宅借入金等特別控除
リーガルマインド住宅ローン控除(その4) 〜転勤と死別と姻族と住宅借入金等特別控除

 他方で、貸付事業用宅地の場面では、「被相続人」が死ぬのは必然(『被相続人、いつも死んでんな。』)。ですが、その後に当該宅地を取得した「相続人」のほうが(申告前に)死んだらどうなる?、ということは問題になりえます。

 これを想定した規定があるので、今回はそれらをイジりの対象としてみます。
 ただし、前回までのメインどころ、「除×除」要件については今回は考慮外とします(その他、お約束事項は前回・前々回と同じです)。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論


 まずは条文の引用から。

法3
 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 特定事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令で定めるものを除く。)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む。イ及び第四号(ロを除く。)において同じ。)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から相続税法第二十七条、第二十九条又は第三十一条第二項の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までの間に当該宅地の上で営まれていた被相続人の事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該事業を営んでいること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日。第四号イを除き、以下この項において同じ。)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地を自己の事業の用に供していること。


 貸付事業用の話だっつってんのに、なに1号(特定事業用宅地)引用しちゃってんの、と思われるかもしれません。
 が、下線部分の「において同じ」というのがあるせいで、1号の引用から始めなければならないのです。


 法3項の編成は次の通りとなっています。

【法3項の編成】
 一イ 特定事業用宅地(被相続人の事業)
  ロ 特定事業用宅地(生計一親族の事業)
 二イ 特定居住用宅地(同居親族)
  ロ 特定居住用宅地(家なき子)
  ハ 特定居住用宅地(生計一親族)
 三 特定同族会社事業用宅地
 四イ 貸付事業用宅地(被相続人の貸付事業)
  ロ 貸付事業用宅地(生計一親族の貸付事業)

 1号柱書によると、「当該被相続人の親族」に「当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人」が含まれるというのは、1号イと4号イも同じだと。
 また、1号ロによると、当該親族が申告期限前に死亡した場合には「申告期限」が「死亡の日」になるというのは、2号イロハ、3号、4号ロも同じだと。

 このように、4号に関する規律が1号の中に混入されてしまっています。

 他方で、4号の側には「1号を見てね」などといった指示が何もありません。ので、4号を見ただけでは「貸付事業用宅地」の正確な定義を把握することができないことになっています。

四 貸付事業用宅地等
 被相続人等の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。



 当ブログでは、条文イジりを敢行する際には、検討対象外の部分を大胆に削っているところです。

 プレーン条文はいろんな場合を想定して枝葉をつけがち。「相続又は遺贈」とか。
 が、そのまま頭から読んでいっても意味が取りにくいので、検討にあたってノイズとなる箇所は切り落としてしまっています。

 この手法の弱点、大事な箇所をうっかり切り落としてしまうおそれがあるという点です。
 今回も、1号は特定事業用宅地の定義規定だからといって読み飛ばしてしまうと、その中の4号に関する規律を見落としてしまうことになります。 

 つまり、この手法を採用するには邪魔かどうかを判断できる素養が求められるということです。が、その素養を身につけるにはあらかじめ条文を理解していなければならないわけで。
 どうしろっていうんですか、て感じですよね。しんどいですが、とにかく一読はしないといけないんでしょう。

 ここではまだ同じ条項内だからましですけど、この振る舞いを条数飛び越えてやられるときつい。
 幸い、租税特別措置法は個別特例の寄せ集めで、それぞれが一国一城の主感強めなので、跨ぎは少なめかと思います。42条の6(設備投資優遇税制)が「中小企業者」の定義を42条の4(研究開発税制)からお借りしている、というのがあったりしますが、42条の6にはちゃんとどこからお借りするかが書かれていますし。

  読み手の目→ 42条の6「借りますね」 ⇒42条の4

 他方で、69条の4の3項の1号・4号間は、貸す側にしか書いてないせいで、借りる側の条文しか読まない人には認識しえない。

  1号「貸しますね」 ⇒4号 ←読み手の目

 このような《サイレント押し貸し》、条文作成お作法としてはかなり最悪の部類に属すると思うのですが。
 こんなお作法があるかぎり、「納税者の予測可能性」の確保なんて夢のまた夢よ。


 さて、本筋に戻って。

【原則要件】
1 貸付事業の用に供されていた土地
2イ 被相続人の貸付事業の場合
    事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
    保有継続要件 申告期限まで保有
2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
    事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

 上記下線部は、原則要件2に関わるものです。
 下線部を4号にねじ込むと次のようになります。

四 貸付事業用宅地等 イ
 被相続人の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含む)が相続により取得したもの()をいう。
イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。

四 貸付事業用宅地等 ロ
 被相続人と生計を一にしていた親族の事業(「貸付事業」)の用に供されていた宅地で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族(当該親族から相続により当該宅地を取得した当該親族の相続人を含まない)が相続により取得したもの()をいう。
ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地を有し、かつ、相続開始前から申告期限(当該親族が申告期限前に死亡した場合には、その死亡の日)まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。


 ロには、1号柱書の拡張デバイスは「含まない」ことを注意的に記載しておきました。正統な条文作成お作法ならば、両面から書くなんて絶対にやらないでしょうけど。

 結果、甲⇒乙⇒丙の順で順次相続が発生した場合の要件は次の通りとなります。

2イ 被相続人甲の貸付事業の場合
    事業承継要件 丙が相続開始時から申告期限までの間に事業を承継し継続
    保有継続要件 丙が申告期限まで保有
2ロ 生計一親族乙の貸付事業の場合
    事業継続要件 乙が相続開始前から死亡日まで事業を継続
    保有継続要件 乙が死亡日まで保有

 イについては、以下の「ご説明通達」があります。
 これは「解釈通達」というよりは、条文の作りがよろしくないので、噛み砕いて説明してくれているという類のものでしょう。

(宅地等を取得した親族が申告期限までに死亡した場合)
69の4-15 被相続人の事業用宅地等を相続により取得した被相続人の親族が当該相続に係る相続税の申告期限までに死亡した場合には、当該親族から相続により当該宅地等を取得した当該親族の相続人が法第3項第4号イの要件を満たせば、当該宅地等は同項第4号に規定する貸付事業用宅地等に当たるのであるから留意する。
(注) 当該相続人について法第3項第4号イの要件に該当するかどうかを判定する場合において、第4号の申告期限は、相続税法第27条第2項((相続税の申告書))の規定による申告期限をいい、また、被相続人の事業(令第1項に規定する事業を含む。)を引き継ぐとは、当該相続人が被相続人の事業を直接引き継ぐ場合も含まれるのであるから留意する。



 なぜロの場合に「死亡日」に繰り上がるのでしょうか。

 「イは丙が承継してから日が浅いが、ロは乙の事業が甲の生前から継続していたから」という説明をしているものを見かけたことがあります。が、現行法上は、除×除要件のせいで、甲にしても乙にしても相続開始前3年超の事業継続が求められているところです。
 また、相続開始後は、申告期限までとするのと死亡日までとするのとで、せいぜい数ヶ月の違いしかないでしょう。イとロとで、事業継続期間に類型差があるようには思えないのですが。

 おそらくですが、イの場合は、甲⇒乙も乙⇒丙も同じイとして連続扱いができるけども、ロの場合は、甲⇒乙はロ、乙⇒丙はイとカテゴリが変わってしまうから、乙死亡日で区切って別々に要件を検討するのだと理解すればよいでしょうか。


 ここまでが前座で、次回、死んだら「除×除」要件どうなる?を検討します。

 原則要件2は、せいぜい「相続開始〜申告期限」の間の問題でしたが、これが相続開始前3年前までトキが広がることになります。
posted by ウロ at 10:20| Comment(0) | 相続税法

2022年06月13日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論

 貸付事業用宅地の「3年縛り」ルールについて、事例ごとの当てはめをしてみます。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論

 条文は、除く・除くの箇所だけ引用。

 (相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、

【除外要件】 × (除1と呼びます)
 相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く

【除外要件の除外要件】 ○ (除2と呼びます)
 相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)

「特定貸付事業」とは
   ○不動産貸付業
   ○駐車場業、自転車駐車場業
   ×準事業はダメ


 以下、事例検討をするにあたってのお約束ごと。あれこれうるさいですが、まあ措置法上の特例なので諦めてください。

【事例検討のお約束事項】
・除1・除2の適用関係のみの検討で、それ以外の要件は満たすものとします。
・A〜D物件は、いずれもマンションの部屋で数字は部屋数を表します。
・購入時には借主居住ずみで以降退去なしとします(購入即事業供用開始・継続)。
・従前の貸付事業があれば、購入によりそれに組み込まれるものとします。
・10室以上保有・貸付で「特定貸付事業」に該当することとします。

3年縛り(貸付事業用宅地).png


【事例1】
 事例1は、相続開始から3年より前にA1室を購入した、3年以内にB1室を購入した、相続開始時にはA1室、B1室を保有していた、という意味です(以下の事例も同じ読み方です)。

・Aは1室のみですが、3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので、除1が機能して適用外となります。
・3年超特定貸付事業がないので、除2は機能しません。

【事例2】
・Cは3年より前購入なので除1は機能しません。
・Bは3年以内購入なので除1が機能しますが、Cによる3年超特定貸付事業があるため、除2が機能して適用できることになります。

【事例3】
 事例3は、相続直前にD10室を購入したということです。

・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。10室なので「特定貸付事業」には該当しますが、「3年超」ではないため除2は機能しません。

【事例4】
 事例4は、D購入前にCを売却したことで、一度保有物件なし状態が挟まっているということです。

・Dは3年以内購入なので除1が機能して適用外となります。
 そして、Cによる「特定貸付事業」がありましたが、一度途切れてしまっているため、除2は機能しません。

 一日でも空いたらダメなのか、という問題提起はありうるかとは思います。が、それはいわゆる「チャレンジ案件」ということで、フロンティアスピリッツ溢れる納税者にお任せいたします。
 「措置法解釈は厳格に」という裁判所の志向からすると、厳しい戦いになりそうですが。

 なお、措置法通達69の4-24の3では、事業継続が途切れた場合について一定の手当がされていますが、「売却⇒0⇒購入」パターンについては触れられていません。


 これら事例から分かることは、3年より前スタートなら「準事業」でもよいということです。
 除1がやたらと幅を効かせているし、除2は「特定貸付事業」じゃないとだめとか言っているせいで、うっかり「準事業」じゃダメだと思ってしまいがち。
 が、除×除はあくまでも3年以内スタートの場合に出張ってくるものです。3年より前の領域では、原則要件の「準事業でもいいよ」という優しさが汚されずに残っている。

 他方で、3年以内の領域では、取得したものが何部屋だろうが除1により適用外とされてしまいます。
 これに抗う除2を機能させるには、被相続人が3年超の「特定貸付事業」を継続している必要があります。どんなにでかい物件を購入しても、3年以内ではもはやどうにもならない。


 「3年縛り」ルールがすんなり理解できないの、同じ「事業」概念を、広げる(原則要件)・狭める(除1)、戻す(除2)の、3つの局面で使いまわしているせいではないかと感じます。

 そこで、「特定貸付事業」を土地(モノ)の属性としてでなく、「特定貸付事業者」というヒトの属性として再構成したほうが理解がしやすそうです。

 トキ:相続開始前 3年以内/3年超
 ヒト:3年超特定貸付事業者/それ以外の者
 モノ:貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業、準事業)に供していた土地

特定貸付事業.png


 だいぶシンプルにまとめられました。
 何部屋持っているかは「特定貸付事業者」の定義の中に内蔵してもらって、表の項目としては出さないのが、混乱しないですみそう。

 条文の座組みからは離れますが、正確な理解ができるのならば、それに越したことはない。

 が「年末調整のしかた」、お前はダメだ。

リーガルマインド年末調整(その2) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド年末調整(その3) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克


 本当はこの先によりややこしい問題があるのですが、記事化するかは思案中。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1
posted by ウロ at 10:37| Comment(0) | 相続税法

2022年06月06日

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その1) 〜規範論

 小規模宅地の特例については過去散々ネタにしてきましたが、特定居住用の、しかも「二世帯住宅」と「家なき子」だけをピンポイントでイジってきました。

 条文イジりの対象となるのがそこぐらいかと思って。
 なのですが、ふと予感がして「貸付事業用宅地」の条文を眺めていたら、どうもすんなり理解しにくいところがありまして。

 「貸付事業用宅地」については、実務解説本の類でも記述が手薄なことが多いです。
 特に、昔からの継ぎ足し継ぎ足しで改訂している本だとその気が強い。

 我らがタックスアンサーでも、あっさりめ。

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 という感じで、よそ様の解説があまり頼りにならないので、自力でどうにか検討してみます。

【お約束事項】
・租税特別措置法の「69条の4」、同施行令の「40条の2」は省略して項数以降で引用します。
・遺贈は除いて相続のみとします。
・借地権等は除いて土地のみとします。
・要件の検討のみで効果のほうは考慮外とします。
・経過措置はもはや無視します。


 まずは条文。例によって大胆に省略入れています。正確には原文をお読みください。

法1
 個人が相続により取得した財産のうちに、当該相続の開始の直前において、当該相続に係る被相続人【又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族】(「被相続人等」)の事業(事業に準ずるものとして政令(1)で定めるものを含む。同項において同じ。)の用に供されていた宅地等(土地【又は土地の上に存する権利】)で財務省令で定める建物【又は構築物】の敷地の用に供されているもののうち政令(4)で定めるもの(貸付事業用宅地等に限る。「特例対象宅地等」)がある場合には、(略)

令1
 法第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの(「準事業」)とする。

法3
 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 貸付事業用宅地等
 被相続人等の事業(不動産貸付業その他政令(7)で定めるものに限る。「貸付事業」)の用に供されていた宅地等で、次に掲げる要件のいずれかを満たす当該被相続人の親族が相続により取得したもの(特定同族会社事業用宅地等及び相続開始前三年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで三年を超えて引き続き政令(19)で定める貸付事業を行つていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く。)を除き、政令(22,10)で定める部分に限る。)をいう。
 イ 当該親族が、相続開始時から申告期限までの間に当該宅地等に係る被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、当該貸付事業の用に供していること。
 ロ 当該被相続人の親族が当該被相続人と生計を一にしていた者であつて、相続開始時から申告期限まで引き続き当該宅地等を有し、かつ、相続開始前から申告期限まで引き続き当該宅地等を自己の貸付事業の用に供していること。

令7
 法第三項第四号に規定する政令で定める事業は、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業とする。
令19
 法第三項第四号に規定する政令で定める貸付事業は、同号に規定する貸付事業(「貸付事業」)のうち準事業以外のもの(「特定貸付事業」)とする。
令10
 法第三項第一号に規定する政令で定める部分は、同号に規定する被相続人等の事業の用に供されていた宅地等のうち同号に定める要件に該当する部分(同号イ又はロに掲げる要件に該当する同号に規定する被相続人の親族が相続により取得した持分の割合に応ずる部分に限る。)とする
令22
 第十項の規定は、法第三項第四号に規定する政令で定める部分について準用する。


 ここから要件を抽出すると次の通り。

【原則要件】 ○
1 貸付事業の用に供されていた土地

「貸付事業」とは
 ・不動産貸付業
 ・駐車場業、自転車駐車場業
 ・準事業

「準事業」とは
 事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの

2イ 被相続人の貸付事業の場合
    事業承継要件 相続開始時から申告期限までの間に承継し継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

2ロ 生計一親族の貸付事業の場合
    事業継続要件 相続開始前から申告期限まで継続
    保有継続要件 申告期限まで保有

 「準事業」でもいいという、謎の優しさが発揮されています。過去、お亡くなりになったこともあるようですが、今は元気にやっています(ただし下記)。

 そして、(事業+保有)継続要件も「申告期限」まででよくって、いわゆる「事業承継」保護とは言い難い。
 上記2イで「事業承継要件」とは書いたのは、タックスアンサーに倣っただけ。「承継とはいったが継続とはいっていない」ということのようで。
 長期間に渡って事業継続、株式・資産保有を要求される『事業承継税制』とは、まるで毛並みが異なる。

法人版事業承継税制(国税庁)
個人版事業承継税制(国税庁)

 「家なき子」特例の制度趣旨を『出戻り保護』っていうのと同じように、こちらを『貸付事業の継続保護』というのだとしたら、的外れも甚だしい。


 要件がこれだけだったら、特にネタにするようなこともないです。
 勝手に制度趣旨を『貸付事業の継続保護』だと勘違いして、要件を読み間違えさえしなければ十分です(解説本の類の記述が未だに手薄なのは、シンプル要件時代のノリを引きずってのことでしょうか)。

 ところが、2018年度改正により、次のような「除外要件」「除外要件の除外要件」が入りました。

【除外要件】 ×
 相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は除く

【除外要件の除外要件】 ○
 相続開始の日まで3年を超えて引き続き「特定貸付事業」を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地は除かない(除くを除く)

「特定貸付事業」とは
 ○不動産貸付業
 ○駐車場業、自転車駐車場業
 ×準事業はダメ

 いわゆる「3年縛り」。
 特定居住用や特定事業用にも「3年縛り」がありますが、それぞれ規律内容は違います。

 カッコ書き内での除く×除くの二重掛けなので(いわゆるジョジョ掛け)、一読して理解しがたい。
 ではありますが、要するに、
  ・お亡くなりになる前3年以内に駆け込みで貸付事業始めても駄目だよ(除1)。
  ・でも、それより前からガチ貸付業やってたら、直前で物件追加してもいいよ(除2)。
ということかと。

 3年超なら準事業レベルでもいい一方で、3年以内に始めた場合はガチ貸付業でもダメだという。
 駆け込みを徹底的に拒絶する、「3年縛り」ルールらしい所作。

 他方で、もともとガチ貸付業やってたなら追加し放題という、奇妙な抜け道。

 まあ、物件追加し放題とはいえ、「限度面積」が特定貸付用だけで「200u」までなので、限界はあるでしょう。追加するなら坪単価高め・収益性高めの物件にしておけ、ということでしょうか。


 以上、条文ベースに制度理解をしてみましたが、「3年縛り」ルールがいまいちしっくりきていません。

 ということで、次回は《類型論的アプローチ》により検討をすすめてみます。

貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その2) 〜類型論
貸付事業用宅地におけるトキ・ヒト・モノ(その3) 〜過程論1

【規範論×類型論】
リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
posted by ウロ at 19:57| Comment(0) | 相続税法

2021年02月15日

タックスアンサー学習帳 〜やっててよかったTA式

 以前のタックスアンサーイジり記事について、追加燃料があったので追補します。

オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に

 下記別添のP.10。

資産課税課情報第1号
「租税特別措置法(相続税法の特例関係)の取扱いについて」の一部改正について(法令解釈通達)のあらまし(情報)(平成26年1月15日)

資産課税課情報(国税庁サイト)

【参考】
 本事例において、相続人である子乙が被相続人甲と生計を一にする親族である場合にも、丙が取得した乙の居住の用に供されていたB部分は、措置法令第40条の2第4項の規定により被相続人等の居住の用に供されていた部分に含まれることから、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するものとして取り扱うことができる。
 したがって、乙が甲と生計を一にする親族である場合にも、丙が取得した乙の居住の用に供されていたB部分は、上記「(2) 丙が相続により取得した部分」と同様に特定居住用宅地等に該当することとなる。


 事例を簡略化すると次のとおり(情報では事例3ですが、ここでは事例1とします)。

《事例1》
  ・被相続人:甲、相続人:子乙、子丙
  ・土地 甲所有
  ・建物 甲所有(2世帯住宅・区分所有なし)
  ・1階(B部分)に乙居住、2階(A部分)に甲居住 (生計一or別)

 ア 乙が全体取得 ○(乙は甲となんちゃって同居しているので)
 イ 丙が全体取得 ○(乙は甲とガチ同居していないので)
 ウ 乙丙が1/2づつ取得 ○(アイの合成)

 本文ではウで乙が「生計別」の場合、上記引用の【参考】では同じく「生計一」の場合が書かれています。
 いずれの場合でも、乙丙の持分全体に特例受けられるんだと。


 こうなってくると、タックスアンサーの「除きます」ルール、ますます意味が分からないですよね。

 2 「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」※を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)を含みます。

No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

 情報の【参考】では「含まれる」としながら、タックスアンサーでは「除きます」としていると。
 穿った見方をするならば、一般に目の触れやすいタックスアンサーでは適用範囲を狭く、触れにくい情報では広く、説明を書き分けているということもできます。


 除きますルール、どの場面で働くか想像してみると分かるのですが、「家なき子」を排除する場面です。

 というのも、「@からAを除く」という物言い、《事例1》のように除かないと@に含まれてしまう場合を想定しているはずです。

 次の《事例2》のように、はじめから@とAが別建物であれば、わざわざ除きますという必要はない。
 適用範囲がかぶっていないので、@から除きようがない。

《事例2》
  ・土地 甲所有 (建物ABが隣接して建っている)
  ・建物A 甲居住 ←@
  ・建物B 乙居住(生計一) ←A

 また、《事例3》のように、Aを除いたら丸ごと@が無くなるような事例も想定していないはずです。

《事例3》
  ・土地 甲所有 
  ・建物 甲乙ガチ居住(生計一) ←@A

 そうすると、やはり《事例1》のように、生計一親族の独立部分があり、かつそこが@と重複している場合を想定していることになるのでしょう。

 で、生計一親族乙からすれば、除かれた部分はAでいけば済む話なので不都合はありません。
 除かれて困るのは家なき子丙のほう。

 これまでの改正では、せっかく創設された家なき子特例に対して、その適用を制限する取得者要件が盛り込まれてきたわけです。
 タックスアンサーでは、このような改正の「方向性」を汲み取って、勇み足をかましているのではないか、と思えます。

 が、条文から読み取れない立法担当者の「想い」から何某かの解釈を導くことの俗悪さは、これまでにも述べてきたとおりです。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?


 タックスアンサー、通常は、法令や通達などから直接読み取れることで構成されているものが大部分です。

 そんななかで、独自の解釈が混ざり込んでいると、その記述が浮き上がって見える。
 受験生の必需品、「暗記シート」で隠してみると、その部分だけ文字が消えない、みたいな。

 いまのところ、そのような暗記シートに対応するような便利グッズは出ていませんので、日々、法令通達をしっかり読み込んでおき、自ずから異常値を感知できるようしておくことが大事なんでしょう。
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 相続税法

2020年12月07日

あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)

 前回までの記事で、「家なき子特例」の各要件から立法趣旨が抽出できるか、ということを検討してきました(真面目に表現するとそうなる)。
 そういう個別要件のあれやこれやを検討しながらも、頭の中ではうっすら別のことを思い浮かべていました。

 今回は、それを表に出して一連の記事のまとめとします。

【小規模宅地等の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に

白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)

僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【家なき子の取得者要件】
(原則要件)
 1   被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
 2−1 相続前の3年間に
    ア 自分と自分の配偶者
    イ 三親等内の親族
    ウ 特別の関係がある法人
    の持ち家に住んでいない
 2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
 3   相続から申告期限まで継続保有

(除外要件)
 2−1 「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く



 前回までで展開したこと、法における「趣旨解釈」と「要件書き込み」の相剋の一局面だったりします。
 牧歌的な草食系の趣旨の世界を、脳筋な肉食系の要件書き込みが蹂躙するさま。

 発生史的にどちらが先に発生したかは私には知見がありませんが、現状をみるかぎり、要件書き込みが「攻め」で趣旨が「受け」といってよいでしょう。

【法における攻めと受け】
小林秀之「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)
私法の一般法とかいってふんぞり返っているわりに、隙だらけ。〜契約の成立と印紙税法

 本特例でも、形式要件増し増しによって、もはや出戻り保護という趣旨が維持できていない。
 美容整形を繰り返した結果クリーチャー化した、みたいな話。


 さらに焦点を引いて話を壮大にすると、「自然法主義」と「法実証主義」という英霊同士の抗争を背後に観測することができます。

 《法の本質》としてどちらが正しいか、などということは私には語り得ないところです。
 が、少なくとも税法世界では「法実証主義」ベースに考えるべきなんでしょう。
 それこそが、みんな大好き「租税法律主義」「租税法規の明確性」「納税者の予測可能性」に資するはずですよね。
 「自然法」の出番があるとしても、あまりにも租税正義に反するといった極限的な場面にかぎられるでしょう。

 立法担当者ちゃんが、みんなの予測可能性を高めてあげるために頑張って形式要件を集めてくれたのだから、今さら実質がよかったとか言わないであげて。
 実質論を展開するのは、余った実質要件のところだけにしておきましょうね。

 なお、税法とは違い「民法」では、かつては条文がゆるめで趣旨解釈の活動範囲が広めだった、のに、こちらも近時の改正により「要件書き込み系」が徐々に侵略しつつある、というのが私の見立て(大平原に着々と高層ビルが建設されていくイメージ)。


 個別論点にはあまり触れたくないのですが、ちょっと気になるのでさわりだけ。

 「実質論」を展開する余地がある箇所として問題となりうるのが、「所有」要件。
 要件2−1、2−2、3にでてくるやつです。

 要件3のほうは、遺産分割なりで相続していればいいんだろうな、と思います。
 厄介なのが要件2−1と2−2。

 「所有」と聞いて、我々がまず頭に思い浮かべるのは「登記」を持っている(登記名義人である)ことですよね。で、通常は所有権の所在と登記名義は一致するから特に問題はない。

 問題はズレがあるとき。

【名義と実質がずれる例(アトランダム)】
 ・売った(買った)けど登記移転していない
 ・割賦、リース
 ・所有権留保
 ・仮登記担保
 ・譲渡担保
 ・信託の受託者と受益者
 ・匿名組合の営業者と組合員

 これらの場合に、どちらが「所有」していることになるのか。

 登記はあくまで「対抗要件」にすぎません。「国税庁に特例適用を対抗するために登記が必要」(対抗関係)などという関係は、ここでは存在しない。
 ので、実質判定でよさそうなんですが、その実質とやらは上記例ではそれぞれどうなるのか。

 ここでもし、要件2−1、2−2の趣旨が明確ならば「その趣旨からすればこういう基準で判定すべきだ」などと趣旨解釈できたのでしょう。
 が、すでに検討したとおりこれら規定の趣旨は謎なまま。趣旨解釈を展開できるだけの中身がない。


 こういう場面こそ、まさに通達に決め打ちしておいてもらいたいところ。
 のに、通達の、かゆいところに手が届かない感がもどかしい。

 法改正が頻繁すぎて、通達の目地埋めが追いついていないのでしょうか。
 「いろんな同居」のcルールもそうですが、法令とのカップリングがうまく噛み合っていないように思える。

【古き良き、牧歌的な通達世界】


 渡辺淑夫 通達のこころ (中央経済社2019)

 上記書籍で展開されているような、法令と通達とのきれいな役割分担は、現代型税法のもとでもはや存続しえないのかもしれない。

 同書は、過去制定の通達語りで一冊の読み物として完成されています。
 他方で現代型税法では、法令側の規律領域が歪なせいで、通達の規律領域もその影響を受けて歪にならざるをえません。結果、今どきの通達を題材にしても読み物として面白みがなくなってしまう気がします。

 再三掲載している「いろんな同居」ですが、そもそもの話として、法律・政令・通達を横並びのルールとして書けてしまうの、おかしいんですよね。
 
 【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 「法段階説」のピラミッドによる説明を想像してもらえればいいんですけど、本来の法律・政令・通達の関係は、法的効力において明確な優劣関係があって、自ずから規律レベルの棲み分けもきれいに分かれているはずでした。
 のに、「いろんな同居」においては、abcが同じようなことを規律している。

 まさしく、法令と通達が「ガチ同居」しちゃっている。「なんちゃって同居」ですらない。
 同じような、といいましたが、通達が法令側に越権しているのではなく、法令が通達側にはみ出しているイメージ。通達は、法令の抜けているところを埋めてあげただけ(が、dが抜けたまま)。
 法令のほうから、通達の住居に押しかけてきたと捉えてもらえれば結構です。

 『おめえ、通達みてえな法令だな!』
 
 括弧内の引用元を書かないでおいて、「どこに規定されているでしょうかクイズ」を出しても、全く見当がつかないでしょうね。
 結論がわかったとして、なぜそこに規定されているのかの説明もできませんし。
 レベルとしては「あだち充キャラクタークイズ」と同等の難易度(男主人公、女主人公、ふくよかな男友達、髭のおじさま、など)。


 と、文言アゲ・趣旨サゲな煽り文を書きながらも、これはあくまでも「日常系税務」レベルでの話にとどまります。

 例の東京高裁判決のようなものがあることからも分かるとおり、裁判所は時としてお作法無視の飛び道具的判決を出すことがあります(ただし上告受理申立中で正座待機中)。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

【こちらは東京高裁判決破棄差戻例(納税者敗訴)】
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 ので、条文突き破った裁判チャレンジをかますことまでもを、否定するものではありません。
 日常系税務と紛争系税務とでは、頭の使い方を切り替える必要があるということ。日常系のノリを紛争系に持ち込むべきではないし、その逆もまたしかり。

 この点、税法学者や弁護士が《税理士向け》という謳い文句で書く「税法本」が、時として税理士に理解しがたいのは、紛争系のノリを日常系に持ち込もうするから。
 税理士は通達大好きとか趣旨解釈が苦手とかリーガルマインドを知らないなどと煽られても、およそ卑下する必要はない。取り扱っている領域が違うだけで。

 日常系の税理士にとってもっとも必要なのは、通達ベースの「税務本」です。小難しい法曹解釈お作法は、不要とまでは言わないが二の次。「分かっている」よりも「知っている」が先。

 ただし、税務本の読み物としての超絶つまらなさは認める。特に表本。

【税務本における表と裏】
西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 ので、退屈しのぎに要件を標語化したり、シザーハンズなどと擬人化(人?)してみたりするのですが、それもあくまでも制度理解をするための補助デバイスにすぎません。寓話はあくまで寓話であって、必ずしも現実とは一致しない。

 日常系税務で「趣旨」を活用するとしたら、未知の税制をお勉強する際に、(暗記ではなく)理解をするために使うものでしょう。
 まかり間違って、それをもって税務署職員との「交渉」に臨んでも、大した武器にはならない。水中戦に剥き出しのアンパンマンを駆り出すようなものよ(なお、ガンダム(RX-78)はアムロが異能なだけの超例外)。
 武器になるのは「書かれたもの」としての通達・国税庁のサイト、それから法令・裁決・判決。
 趣旨は紛争モードに切り替えるまで、「お守り」として心の中にしっかりしまっておきましょう。


 「趣旨からスタート」は、必ずしも納税者有利にだけ働くとは限りません。
 上記最高裁のように、趣旨解釈によって納税者敗訴判決も出されることもあります。どちらかに有利などということはない。

 そうすると、日常系税務においては『課税庁側が主張できるのは事前に通達で公表しているかぎりで、それ以上の書かれていない趣旨を課税の根拠として持ち出すことはできない』という制約を設けておくことにも意義がある。
 それにより、納税者の予測可能性・法的安定性も高まりますし。で、お互い納得いかなければ、紛争系にフィールドを移行すればいいと。

 日常系税務に趣旨を持ち込むことが許されるのは、日常を修羅道に貶める覚悟のある者だけよ。


 なお、上記最高裁の事案、「文理解釈(高裁)対 趣旨解釈(最高裁)」という文脈で語られることがありますが、これは不正確。

 最高裁判決のほうは譲渡所得課税の《趣旨》から解釈を導いているので、こちらはそのとおり。
 他方で、高裁判決のほうは文理解釈を自称しているものの、およそそうではない。

 高裁判決が文理解釈の対象としているのは通達であるし、文理解釈といいながら、とても文理からは出てこないような強引な解釈を展開しています。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 宮崎裕子最高裁判事は、補足意見にて通達の出来の悪さを論難しています。
 が、むしろ、高裁判決の無作法解釈を嗜めるべき。

 通達のほうは、非法曹が作成するものであるし、課税庁としてのお立場上、純粋な法解釈論によれないこともあるでしょう。
 どちらかといえば日常系税務で運用できることを主眼において作成しているものですし。
 法解釈論としては多少怪しくても、大量の事案を捌いていくためには、ある程度の割り切りが必要になるものです。

 それを法解釈の正しいお作法に従って是正をしていくのが司法の役割のはずです。
 のに、この高裁判決のように、《通達を文理解釈する》などという判決を出すのは、「こいつ司法の役割を完全放棄しやがった」と言われても文句はいえないでしょうよ。

 もちろん、「裁判官の独立」というお題目はあるわけですが、そもそも司法の役割を放棄しているんだから、保護すべき独立がそこにはないと思うんですけど。

 本件で文理解釈の対象となるのは「その時における価額に相当する金額」です。こんな抽象的な物言いのおかげで、譲渡所得課税の趣旨直結の解釈を展開することができるわけです。
 もし、法律レベルに時価評価についてのルールがあれこれ書き込まれていたとしたら、これら規定をガン無視した自由な趣旨解釈は展開しづらかったでしょう。


 以上、「出戻り保護」を掴みとしながら、直接関係のないところまで記述を広げてきました。

 私自身、家なき子特例については、過去にもいくつか記事を書いておきながら、実は腑に落ちていませんでした。
 今回、出戻り保護を軸としてあらためて検討することで、「うん、これは腑に落ちなくていいやつだ。」ということが分かったのが収穫。

 他方で、記述がふざけすぎていて数週間後には恥ずかしくなることが、予め見えている。

 事前確定黒歴史(津軽海峡冬景色と同じ発音です)。
posted by ウロ at 11:11| Comment(0) | 相続税法

2020年11月30日

ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2

 前回の記事で、「家なき子特例、出戻り保護してなくね?」と疑問を呈しました。
 今回は、そこから先の掘り下げです。

【小規模宅地等の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【家なき子の取得者要件】
(原則要件)
 1   被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
 2−1 相続前の3年間に
    ア 自分と自分の配偶者
    イ 三親等内の親族
    ウ 特別の関係がある法人
    の持ち家に住んでいない
 2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
 3   相続から申告期限まで継続保有

(除外要件)
 2−1 「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く


  以下、相続人A、配偶者なし、長男B(同居)、次男C(家なき子)とします。


 前回の記事で家なき子特例の各要件を検討してみたところ、いずれの要件とも本気で「出戻り」を保護する気がなさそうに思えました。

 そもそも、出戻りを保護するならば、要件の組み立てとしては直接、
  ・出戻ったらOK
または、
  ・出戻る見込みならOK
とするのが素直でしょう。

 出戻りと直接関係のない回りくどい要件をあれこれ要求したところで、《出戻り促進税制》にはなりません。
 要件3以外は「ない」「ない」「ない」と、何か見えない敵から家なき子特例を守ろうと一生懸命で、肝心の出戻りそのものを積極的に保護しようとする気がない。

 「よーしお父さん、はりきって出戻り保護しちゃうぞー」とか言ってこんな消極要件詰め合わせを持ってきたら、娘からガン無視されること必定。
 金持ちCさんがよくて貧乏Cさんがダメな理由は、一体なんなのおじさん。

 「特例クイズ!一体何を保護しているのでしょ〜う、か!?」

 とかいって、何の特例かをいわずに要件だけを順番に出していっても、最後まで誰も正解できないんじゃないですかね。
 一般正解率、たぶんこんな感じ。

 第1問 原則要件1   一般正解率0%
 第2問 原則要件2−1 一般正解率0%
 第3問 原則要件2−2 一般正解率0%
 第4問 原則要件3   一般正解率0%
 第5問 除外要件2−1 一般正解率0%

 むしろ、相続直前で持ち家に住んでいようが、過去所有していた家に住んでいようが、将来出戻るなら適用受けられる、と設計したほうが、出戻り促進に資するでしょうよ。

 なお、「見込み」なんてあやふやな要件、課税要件としては許容できない、と思った方。
 もしいらしたとしても大丈夫です。
 組織再編税制における適格要件などという大事な要件で、支配継続の「見込み」が要求されていることに対して、定評のある教科書では、

 「事後の事情を考慮しないという意味で、法的安定性を重視した結果として評価できる」

などという評価が出されていますから、安心してください!安定していますよ!

中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)


 同居者がいないとか持ち家がないという制約条件は、一見すると、保護すべき出戻りとそうでないものを選別しているようにみえるかもしれません。
 が、前回事例をあげて検討したとおり、規制範囲が雑すぎて、実際の出戻りを保護できなかったり、逆に出戻りするつもりのないものを保護したり、結論がめちゃくちゃでした。
 単純に、狭すぎるとか広すぎるというのではなく、いびつ(流行り言葉でいうと、偽陰性と偽陽性の両パターンあるということ)。

 が、めちゃくちゃ・いびつという評価は、あくまでも同特例を「出戻り保護」だという色眼鏡で見るから出てくるものにすぎません。
 なにか別の理由付けが見つかれば、救われる可能性はある(といいながら、私はもはや無理だと思う)。

 一応、要件を標語チックに書いておきましょう。

 1   同居者がいたら譲ってあげましょうね。
      でも二世帯住宅の場合はワンチャンあるから諦めないで。
 2−1 自分や親しい者の持ち家に住むのはやめましょう。
      直前に引っ越しても間に合わないので引っ越すならお早めにどうぞ。
      どれだけ不動産持っていてもいいから、とにかく自分で住むのだけはやめてね。
 2−2 自分が昔持っていた家に住むのはやめましょう。
      住んだことがなくても、一瞬でも持っていたらダメだからね。
      もし今住んでいるなら、相続直前にでも引っ越しましょうね。
 3   申告期限までは売らないでね。
      そのあとはどうぞご勝手に(ニヤリ)。

 なんなのこいつら。あらためて、同じ一つの制度の中の要件同士とは思えない。
 出戻り保護標語コンクールに応募したら、こいつら全員落選だわ。

 ちなみに、除外要件2−1はというと、

 除外要件2−1 でも被相続人が住んでいたところなら大丈夫だよ。

と、一人だけ全く性格が違う(イチジ・ニジ・ヨンジとサンジの関係)。
 でも、この子にしても出戻りを要求しているわけでもないので、そもそもデモコン(出戻り保護標語コンクール)への参加資格がない。

 週刊「家なき子特例」。
 毎号付属の要件を組み立てると出戻りを保護してくれる特例が完成する。創刊号は特別価格290円(税込)。
 という謳い文句だったのでウキウキで定期購読していたのに、完成してもさっぱり出戻り保護機能が働かない。


 先に趣旨側を決め打ちしてから要件を解釈するの、正しいようでいて間違い、というのが私の見立て。

 正しくは、個別具体的な条文上の要件から制度趣旨を導き出す、その上でその趣旨解釈により要件の意味内容を充填する、というのがあるべき姿だと思います。
 実際の要件とは無関係な趣旨を勝手にどこかから持ち込んで、条文に書かれざる意味内容を要件に盛り込むの、解釈論を超えた「立法論」になっています。
 
  × 制度趣旨 ⇒ 要件解釈
  ○ 要件確認 ⇒ 制度趣旨 ⇒ 要件解釈

 これが、複数の要件のうち一つだけが「出戻り保護」とは逆方向を向いている、という場合に、他の要件と整合するように調整を施す、ならまだ有りだと思います。
 が、要件どれもこれもが出戻り保護のほうを向いていないのに、全員無理やり出戻り保護に向かせるのは"Over The Hermeneutics"でしょう。

 と、自分の中では考えていながらも、こんなの単なるスタンスの違いにすぎないかなあとも思っていたのですが、例の東京高裁判決が出たおかげで、税法分野における「趣旨からスタート」の実害がはっきりとしました。

横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 同判決では、趣旨から勝手に要件を創設する、などという禁忌を犯しています。
 要件側から解釈をスタートする、というお作法を守らないから、支配関係のルールを完全支配関係にまで持ち込む、などという横流しを実現してやがる。

 「趣旨からスタート」派の方からすれば、東京高裁様も自分たちと同じ立場だ、ということで有利に援用するのかもしれません。
 が、書いてない要件を付け加えるの、書いてある要件に反する「反制定法解釈」と同罪ですからね。
 もちろん、「絶対的に」許されないというわけではありません。が、相当慎重にやるべきことであって、カジュアルに発動してよいものではない。


 非専門家向けに説明するためには、細かい要件を云々するより「出戻り保護」と決め打ちしたほうが分かりやすい、という意見もあるかもしれません。
 が、もしも前回記事の各事例におけるCさん(ただし金持ちCさん除く)から、「出戻り保護だときいていたのに、なんで自分の出戻りは保護されないんだ!」と詰められたら、説明できないですよね。
 「趣旨はCさん保護してあげましょうと言ってくれているんですが、要件の奴らがいうこときかなくってですね…」などと言い訳したところで、納得してもらえるとはとても思えない。
 やはり趣旨と要件が仲違いしているのがおかしいんですよ。

 ましてや税理士向けの実務書ならば、なおさら、実際の要件を説明できない制度趣旨を掲げるべきではないでしょう。

 これがたとえば、交際費の損金不算入の趣旨を「冗費の抑制」だとかいうのは、個別具体的な交際費該当性の判定にはさっぱり役立たないものの、少なくとも条文解釈の邪魔にはなることはないです。
 他方で、家なき子特例を「出戻り保護」といってしまうと、正確な要件理解を妨げることになります。

 上で標語チックに記述したあいつらに「出戻り保護しろや!」ていっても、全然言う事聞かなそうじゃないですか。
 というか、彼らだって「今日から君たちには出戻りを保護してもらいます。」とか言われたら、「え、俺たちが?無理じゃね?」という反応になるでしょうよ。

 エドワード(シザーハンズ)に「お前の愛する出戻り抱きしめてみろよ」と煽るみたいな。
 珍妙な喩えと思うかもしれませんが、もし本当に家なき子特例の核に「デモドリ姫」が実在していたとしたら、要件2−1(右シザー)と要件2−2(左シザー)にズタズタに引き裂かれて瀕死の重傷な姿が、私にはありありと思い浮かぶ(ものすごい妄想力ですね)。
 瀕死の姫を救うには、聖剣や秘石などによる奇蹟(立法論に相当)に賭けるしかない(いろんなテイルズ要素が混入)。

 でも大丈夫。実際にはそんな姫いないから。

 『一体いつから 鏡花水月を遣っていないと錯覚していた?』


 制度趣旨はあくまでも「出戻り保護」であってイタチごっこ改正のせいで歪になっているだけだ、という見方も可能かもしれません。
 が、イタチな要件のせいで出戻り保護が侵食されているのだとしたら、もともとの制度趣旨はもはや維持できない、と考えるほうが素直でしょう。
 そして、条文が解釈を施せないほど明確になってしまった以上、出戻り保護へ回帰させるのは立法論として展開するっきゃない。

 すでに重機が入ってあちこち掘り起こされているにもかかわらず、「ここは旦那様がいた頃の美しい庭園のままだ。」などと、在りし日のあの頃を思い浮かべている老庭師が思い浮かぶ。

 白井一馬先生が「組織再編税制」に対する評価として述べている『マニュアル化』、家なき子特例もそうみたほうがいいんじゃないですかね。


 立案担当者が開陳する見解、というのも必ずしもあてにならない。

 たとえば民法415条但書の帰責事由について、契約(=合意)を重視するか取引上の社会通念も重視するか、すでに解釈割れてますからね。改正したばっかりだというのに。
 それを外野が云々するならともかく、立法に関与した人の中でも争われているという。

民法第四百十五条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 そうすると、やはり出来上がった文言をベースに解釈するしかないでしょう。
 この場合だと、文言上優先劣後の関係をつけているわけではないのだから、どちらも重視すべきと解釈すると。


 さて、ここまで検討してきたのは、「家なき子特例」の立法趣旨などという極めて限局された論点にとどまります。
 が、その背後には、実は壮大な物語が広がっています(神々の大地)。

 そこで次回最終回では、壮大な物語へのプレリュードを奏でてみたいと思います(プレリュードなのに最終回なのは、未完成交響曲を意識)。

 ということで、恒例の次回予告ワード。

 ・牧歌的な草食系、脳筋な肉食系
 ・要件増し増し
 ・クリーチャー化
 ・英霊同士の抗争
 ・みんな大好き「租税法律主義」
 ・立法担当者ちゃん
 ・大平原に着々と高層ビルが建設されていく
 ・文言アゲ・趣旨サゲ
 ・お作法無視の飛び道具的判決
 ・条文突き破った裁判チャレンジ
 ・小難しい法曹解釈お作法
 ・剥き出しのアンパンマン
 ・こいつ裁判所の役割を完全放棄しやがった

(せっかく大げさな惹きで煽ったのに、これら用語で台無し)

あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 相続税法

2020年11月23日

僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1

 前回の予告どおり。予告詐欺にならずに済みました(しかし、以下の検証の結果タイトル詐欺となります)。

白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)

 前回の記事で、当該書籍に記載の「立法趣旨」に疑問があると書きました。

 それは「家なき子特例」のところ。
 ただ、私が読み違えているだけかもしれませんので、以下では本書とは独立した一般的な見解、として検討します。


 家なき子特例特例の趣旨について、一般的に『いずれ被相続人と同居する予定だった者の居住の保護』だといわれることがあります(以下、これを「出戻り保護」と称します)。
 が、実際の取得者要件を見る限り、そのような趣旨にそった要件になっていないように思います。

【家なき子の取得者要件】
(原則要件)
 1   被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
 2−1 相続前の3年間に
    ア 自分と自分の配偶者
    イ 三親等内の親族
    ウ 特別の関係がある法人
    の持ち家に住んでいない
 2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
 3   相続から申告期限まで継続保有

(除外要件)
 2−1 「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く


 順番に考えてみましょう。
 以下では、被相続人A、配偶者なし、長男B(同居)、次男C(家なき子)とします。

【小規模宅地等の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)


 要件1:被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない

 配偶者・同居法定相続人(以下「同居者」といいます)がいないというのは、Cの出戻りの「露払い」のために必要かに思えます。
 が、次のような事例をイメージしてみましょう。

【事例1】
 BはAを介護するためAとガチ同居していたがAが亡くなった。
 Bは念願の夢だった海外移住をするため現金を相続し、A宅はCが相続・居住し実家を守ってもらうことにした。

 この場合、BはもちろんCも特例を受けることはできません。Bがガチ同居していたせいで。
 Cが「実際に」出戻りしているにも関わらずです。

 そもそも、相続時点で同居者がいる/いないと、Cが将来出戻る予定があるかどうかに直接の連関はありません。
 いないほうが出戻りしやすい、くらいの遠くて薄い関係。
 実際にCが出戻れるかどうかは、Bが相続後に居住を継続するつもりかどうかにかかっています。

 とすると、要件1はCの出戻りの要保護性の問題ではなく、同居者にCよりも優先的に適用を受けさせるための規定、と理解すべきでしょう。
 としても、事例1のように、Bが適用受けるつもりがなくてもCが排除されてしまうのは何なのか。
 せっかくBに受けさせてあげようとしたのに、受けないっていうならもう誰にも受けさせねえぞとへそ曲げちゃって。

 他方で、ここで「ガチ同居/なんちゃって同居」と同居概念を分裂させると、同居者の優先保護は途端に雲行きが怪しくなる。

【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 aとcの組み合わせにより、二世帯住宅(区分所有なし)のB居住箇所にも家なき子特例が適用できてしまいます。
 本来Bを優先させるためにはたらく要件1が、a+cルールで骨抜きにされている。
(だとすると、cは通達ルールにすぎないので法令解釈として間違い、と判断される可能性もありえます。が、おそらく問題はcだけにあるのではなく、各要件がうまく連動していないことにあると思われます。)

 で、同居特例と家なき子特例が重複する場合には両適用可能者間での特例奪い合いが勃発し、遺産分割デッドロックへ突入(丸の内サディスティックを意識)。

 ここで想起されるのは、節税屋さんがBに対して「ガチ同居しなくても小宅いけるよ。」とか言ってわざわざ二世帯住宅(区分所有なし)に建て替えさせた後、Cから「俺も受けられるらしいな。」などと言われる事態になること。
 税理士がBCから申告依頼を受けたとしたら、もしCが気づいていなかったとしても適用できることを説明すべきしょうし。

 なんにしても、要件1はCの出戻り保護を積極的に根拠付けるものではない。


 要件2−1ア:相続前の3年間に自分と自分の配偶者の持ち家に住んでいない
 
 本人(と配偶者)に持ち家あったらそりゃダメでしょ、と思うかもしれません。
 が、次の事例はどう感じるでしょうか(以下、「持ち家」とは自己所有の建物に居住していることを表します)。

【事例2】
 C宅は築古の中古狭小住宅。
 リフォームしようとコツコツ貯金をしていたが、Aが障害を負いA宅をバリアフリー化しなければならなくなった。
 そこで、Cは自分の貯金を使い果たしてA宅をリフォームしてあげた。が、二世帯住宅にするまでの資金は出せなかった。
 Aが亡くなったので、A宅へ引っ越すことにした。C宅はわずかばかりの代金で売却したが、建物取壊費用でむしろマイナスとなった。

 皆さんお分かりの通り、C宅がどんなものであろうと、他に何ら財産を保有していなかろうと、自宅を所有しているかぎりはダメなんです。

【事例3】
 Cは多数の不動産収益物件を抱えていてウハウハである。
 なのに、Cの住居は自己所有ではなく、とある高級賃貸マンション(レジデンス)である。
 Aは一人暮らしのためCに同居してほしかったが、Cに拒絶され続けたまま亡くなった。

 同じ記号「C」なのに所得格差ありすぎですね(金持ちCさん貧乏Cさん)。
 高低差ありすぎて耳キーンてなりますでしょうか?

 C宅が第三者所有であるかぎり、どれだけ他に居住用不動産をかかえていようが、家なき子特例を使うことができます。
 ので、本件のA宅は、お安くCの不動産投資グループの一員となることができます。


 さて、事例2と事例3を並べてみて、要件2−1アは一体何を同特例から排除しようとしたのか、分かりますか?
 「持ち家がない」だけを要求して、その持ち家がどんなものか、持ち家以外の財産がどれくらいあるか、といった事情を一切考慮していないわけです。

 しかも持ち家があるとかないとか言っているの、あくまで「建物」だけの問題で、「土地」は自己所有でもいいことになっています。
 自分の土地に第三者に建物を建ててもらって住み続ける、というのが、特例狙い以外で一般的にあり得るのかどうか想像しにくいですが、規定上は建物さえ他人なら適用OKということです。
 土地活用ってことで借地権を設定してデベロッパーに高層マンションを建築してもらう、自分はそのうちの一室を賃借して住む、といった場合とかですか。


 この、相続時点で持ち家がある/ないという事情が、Cの出戻りの要保護性に影響を及ぼすでしょうか。
 事例2と事例3とでは、持ち家のある/なしと、出戻りの要保護性が反比例しています。
 これら事例は極端、だとしても、一般論として、相続時点の持ち家の存否が出戻りの要保護性に連動するといえるのかどうか。


 ましてや「3年」経てばいいというのも、それによって出戻りの要保護性が高まるとは思えないんですけど。

【相続時点で】
 × 持ち家に住んでいる
 × 持ち家に住んでいた(3年以内)
 ○ 持ち家に住んでいた(3年経過)
 ○ 持ち家に住んでいない(はじめから)

 この点、「事業用」や「貸付用」が3年縛りを要求するのは分かる。
 これまで一定期間にわたり事業等を続けてきたことの見返りであって、これから初めますじゃだめってことですよね。

 ただし誤解してはいけないのは、これらの継続が要求されているのはあくまでも「申告期限まで」ってこと。それ以降も事業継続していくことやその見込みすらも要件ではない。

 ので、これら制度の趣旨を「事業継続」というのは不正確。そのように捉えてしまうと、申告期限後も事業継続しなければならないと、過剰に誤解するおそれがある。

 とはいえ、相続したらすぐ止めていいわけでもなく、申告期限までは続けてねとなっていると。
 この、相続〜申告期限までの期間限定なことをどうにか整合的に説明するならば、

  ・できれば事業残してもらいたいな。
  ・でも、いきなりの相続だし難しい、かな。
  ・よしじゃあ、期間限定お試しでってなら大丈夫、だよね。
  ・続けられそうなら続けて欲しいけど、無理はしないでね。

 こんな感じになるでしょうか。
 立法担当者の当初の心積もりは、本気で事業継続を促進したかったのかもしれません。が、実際に出来上がった中途半端な要件に即した説明をしようとするならば、こういう説明にならざるをえない。

 ところが、こんな優しい気遣いお構いなしに初めから転売予定で相続したとしても、申告期限まで我慢しさえすれば要件は満たせてしまう。
 できれば継続して使ってね、というつもりで試供品を配ったのに、分解されて使えるパーツだけ転売されちゃうみたいな話。

 実は上記説明でもまだ、無理して事業継続におもねった内容にしています。
 実際の要件にピッタリと収まるような説明をするならば、「いきなり事業放置されるとその事業に関わってきた人達が困るから、せめて、せめて申告期限までは続けてね。」となります。
 なかなかの後退っぷりですが、要件を過不足なく説明するにはこう言うしかないんじゃないですか。


 ちなみに、このタイプの誤解を何の躊躇いもなく開陳しているのが、下記記事の「79 財産分与」のところ。
 離婚直前に居住用財産の贈与特例つかうのは法の趣旨にそぐわない、とか言っちゃっている。

アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民6)

 なおこの本、第2版が出るらしいですが、編集方針が変わって「新々」にでもならないかぎりは、もはや読むつもりはないです。
 皆さんはぜひ、私のツッコミも含めてアクティブ・ラーニングの材料にして、チャレンジしていただければと思います。



 新 実務家のための税務相談(民法編)〔第2版〕(有斐閣2020)


 さて話は戻って、3年他人の家に住めば出戻りOKという点。

 なぜおかしいと感じるかといえば、「将来の」出戻りを保護するというのに、なぜ「過去の」他人の家への居住実績を要求するのか、というところにあるのでしょう。
 自社PRで「うちの会社は出戻りに手厚いよ!」と書いてあるからてっきり未来志向な会社かと思って面接にいったら、面接官にやたらと過去どこに住んでいたかを聞かれた、みたいな。
 え、これから出戻りするつもりがあるかどうか、全然聞かないんですか?

 出戻り保護という先入観を外して、この3年縛りを文字通りに理解するならば、『他人の家に3年住めば、見返りとしてAの家をお安く相続させてあげるね』と理解することになりますか。

 自分で書いておいてなんですが、何なのこれ?


 要件2−1イウ:相続前の3年間に三親等内の親族・特別の関係がある法人の持ち家に住んでいない

 アですらよく分からないのだから、イウなんてなおさら謎(ウは省いてイのみ検討します)。

 公式で想定している典型例は、《Cと一緒に住んでいる未成年孫Dへの遺贈》を適用不可とすること。

 が、実際の規制範囲は孫(=Cの一親等親族)にとどまらず、かなり広範囲。
 しかも、CD間に「同居」や「生計一」も「無償性」も要求されないので、単に親族関係があるというだけでアウト。

【事例4】
 Cは、叔父さん(三親等親族)がやっている賃貸マンションの一室に相場通りの賃料で住んでいた。

 叔父さんが不労所得でウハウハであることが、Cの出戻りとなんの関係があるというのか。
 叔父さん所有マンションに住むか、第三者所有マンションに住むかで、Cの出戻りの要保護性に違いがあるとは思えませんけど。

 C本人と同一視できる範囲内ならまだしも、ここまで広範囲に拡張した時点で、なにか別の考慮要素が入り込んだ、と考えるしかないでしょう。

 もう一つ事例あげておきます。

【事例5】
 Aに介護の必要が生じたが、A宅は手狭なため、Cは隣のA所有家屋へ引っ越した(生計別、建物別)。

 被相続人も「三親等内親族」に含まれるという罠。そしてこの罠に華麗に引っかかっているのが、最初にリンクを張った記事の本(ドッキリを仕掛けられる側のプロみたいな感じ)。



※私が確認したのは「第4版」です。「第5版」で修正されているか放置されているかは未確認。

 被相続人(親)が三親等内親族に含まれるのは、言われてみれば当たり前のことであって、「罠」などというのは言いがかりかもしれません。
 が、ちゃんとした税理士法人がちゃんとした出版社から出版した本ですら欺かれているわけで。

 罠が言い過ぎなら、「人間の先入観を利用した意地悪ななぞなぞクイズ」とでも言っておけばよろしいでしょうか。

 そして、別居・生計別・建物別と揃ってしまうと、詰み。除外要件2−1も作動しない。

 ここまでくると、一体何から家なき子特例を守ろうとしているのか、もう訳がわからないよ。
 村が滅んだ後もプログラム通りに村を守ろうとする古代文明のロボットかよ(冗長な喩えツッコミ)。


 要件2−2:相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない

 公式が想定する典型例は、《持ち家を他人に名義移転しておきながら住み続ける場合》を適用不可とする、というもの。

 が、ここでも「譲渡取引の合理性」「居住の無償性」「譲渡前からの居住の継続性」といった事情を要求しておらず、単に昔所有していた家に住んでいる、ということだけでアウトになります。
 昔所有していた家に住んでいることそれ自体が、将来の出戻りを保護しない理由になるとはとても思えません。

 他方で、要件2−1と違って本人以外所有ならOKなのも謎。


 要件3:相続から申告期限まで継続保有

 申告期限まで「所有」するだけでいいと。
 申告期限までに実際に出戻ることまで要求しないにしても、出戻る「見込み」すら要求していません。

 ので、相続直後から他人に貸し出してもいいし、申告期限後なら売却することすら可能です。
 仮に、二世帯住宅(区分所有なし)に「なんちゃって同居」しているBがいたとしても、です。で、BがCと賃貸借契約を締結していなければ(引渡はある)、買主には居住権を対抗できないでしょう(The 地震売買)。
 もちろん、民法上の例外則の発動はありうるでしょうが。


除外要件2−1:「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く

 この要件、次のような事例を想定するなら意味は分かる。

【事例6】
 Aの土地にCが建物を建ててACが同居していた。Cが転勤で借家住まいとなり、Aが一人暮らしになって寂しくなったのか、すぐに亡くなってしまった。

 Cは自分の持ち家に住んではいたけど、そこではつい最近までAと同居していたわけです。
 ので、この場合のCを保護すべき、というのは納得はいきます。

 ただ、「同居」と書いていることからも分かるとおり、これはどちらかといえば「同居特例」の系列です。
 「同居特例」から漏れ出づる「さっきまで同居」を保護しているだけで、「出戻り」とは毛並みが違う。

 他方で、次の事例のように「同居」要素がない場合でも、この要件を使うことが可能です。
 
【事例7】
 Aは自分の土地に建物(旧)を建てて住んでいたが、Cが同建物を取り壊して同土地上に建物(新)を新築した。
 AはCが新建物で同居させてくれるものと思っていたが、CはAにボロアパートをあてがい、新建物にはC一人で住んだ。
 Cが転勤することになったので、Aに新建物に住まわせて維持管理をさせることにした。
 高齢の一人暮らしには住みにくい造りであったり、慣れない環境であったこともあってか、Aは居住後すぐに亡くなってしまった。

 書いているだけでなかなか胸くそ悪くなる事例ですね。もっと盛れそうですがこの程度にします。

 この事例で何が言いたいかというと、CはAと同居する必要はないってことです。

  C居住開始⇒C借家転居⇒A居住開始⇒A死亡(C転居から3年以内)
 と、居住期間がかぶっていなくても要件満たせます。

 この事例に関しては、事実認定の問題として、Aの「居住」を否定する、という考えもありうるかもしれません。
 が、他に住むところがなかったならば、やはり同建物に居住していたというしかないですよね。
 《心のふるさと》理論で、「Aの真の住処はすでに取り壊されてこの世に存在しない旧建物にある」とでもいいますか。

 そもそもこの要件、「同居」なんてことは一言も言っていない。
 単に相続時にAが居住していればいいだけ。ので、こんな胸くそ事例でも適用ができてしまう。
 ゴリゴリの親不孝案件だというのに、Aを住まわせておけばそれでいいんだと。

 原則要件と除外要件の両面が揃っているのだから、そこから何がしかの趣旨が見えてきそうなものですけど、私にはさっぱりわかりません。


 以上、家なき子特例における各要件と出戻り保護との親密度を検証してみました。
 結果、「なんか関係なくね?」というのが私の抱いた感想。

 このズレが生じる原因、要件見ないで先に趣旨を決め打ちしちゃうところにあると思うのですが、次回でこのあたりを掘り下げます。
 前回に引き続き、次回予告としての意味深なキーワード列挙をどうぞ。

 ・よーしお父さん、はりきって出戻り保護しちゃうぞ
 ・消極要件詰め合わせ
 ・特例クイズ!一体何を保護しているのでしょ〜う、か!?
 ・安心してください!安定していますよ。
 ・偽陰性と偽陽性
 ・出戻り保護標語コンクール
 ・週刊「家なき子特例」
 ・Over The Hermeneutics
 ・ただし金持ちCさん除く
 ・今日から君たちには出戻りを保護してもらいます
 ・お前の愛する出戻り抱きしめてみろよ
 ・デモドリ姫
 ・いろんなテイルズ要素
 ・一体いつから 鏡花水月を遣っていないと錯覚していた?
 ・イタチな要件
 ・壮大な物語へのプレリュード

 それでは次回、お楽しみに!

ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 相続税法

2020年11月16日

白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)

 小規模宅地等の特例、第2期3部作で一区切りつけたはずでした。

【小規模宅地等の特例】
・第1期
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)

・第2期
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に

 が、白井一馬先生の本が出たということで、読んでみることに。



 白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)


 以前の記事で、税務本には表ものと裏ものがある、ということを書きました。

【税務本の表と裏】 
西村美智子 中島礼子「組織再編税制で誤りやすいケース35」(中央経済社2020)

 本書は裏のほう。

 表本だけでは見落としがち・誤解しがちな箇所を、Q&A形式で解説してくれています。
 他方で、知識・情報が網羅されているわけではないので、本書だけで本特例を理解できるわけではない。
 あくまでも、表本で得た知識の補強・目地埋めとして利用するものです。

 また、「立法趣旨」を重視した記述をされているので、暗記に頼らない制度理解を進めることができます。
 ただし、その「立法趣旨」が本当に正しいか、疑問に思わないでもない箇所が。

 その疑問について、特例の立法趣旨の検討から始まって、一気に書き上げました。
 が、書評記事というにはあまりにも脱線しまくっていたり、もしかして私が読み違いをしているだけかもしれません。
 ので、次週以降に別記事として掲載いたします。

 意味深なキーワードを背景に流す次回予告のイメージで、登場する重要用語を列挙しておきます。
 ただし番組内容は変更する可能性があります(いわゆる次回予告詐欺)。
 
 ・露払い
 ・へそ曲げちゃって
 ・遺産分割デッドロック
 ・節税屋さん
 ・レジデンス
 ・金持ちCさん貧乏Cさん
 ・高低差ありすぎて耳キーン
 ・試供品
 ・うちの会社は出戻りに手厚いよ!
 ・ドッキリを仕掛けられる側のプロ
 ・人間の先入観を利用した意地悪ななぞなぞクイズ
 ・古代文明のロボット
 ・The 地震売買

 次回、お楽しみに!

僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)
posted by ウロ at 09:17| Comment(0) | 相続税法

2020年10月26日

オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に

 これまで小規模宅地等の特例の記事書いてきて、あれこれ論難しながら、どうせ通達の独立ルール(c)に問題があるんだろ、となんとなく考えていました。

【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 が、記事を書いているうちに、そもそも法令本体のほうが、改正に次ぐ改正による建て増しで金属疲労を起こしているのかもしれない、と思うようになってきました。

 以下、そのあたりのモヤりの確認作業。

【小規模宅地等の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2


 まずは、条文構造の分析から。

 タックスアンサー3(3)の表では、区分として@とAが最初から分岐しているように表現されています。
 が、これは条文構造を正確に記述したものではない。

 実際の条文構造は(以下、この表の中の記号を利用します)、

 ・まず、適用範囲として@とAを確定させる。
 ・次に、取得者要件の判定をする。

という流れになっています。
 ので、誰が取得者になるかに関係なく、まずは@及びAの範囲を確定します。

 で、取得者が「配偶者」の場合には、それら範囲につき無条件で適用を受けられると。
 図式的にいうと、表では、

  @1+A1

と取得者が配偶者の場合がふたつあるように書かれていますが、条文上は、

  (@+A)1

と取得者としての配偶者はあくまでもひとつだけです。

 取得者が「生計一親族」の場合は、取得者要件の中に「生計一親族居住用の宅地」であることが組み込まれているので、@が除外されてAのみに適用が受けられることになります。

 取得者が、「同一建物親族」「家なき親族」の場合も同じように、取得者要件の中に「被相続人居住用の宅地」であることが組み込まれているので、Aが除外されて@のみに適用が受けられることになります。


 ここで気がつくことは、同一建物親族も家なき親族も、取得者要件を満たす限り、適用範囲はいずれも@で同じだということです。

 素朴に考えて、同一建物親族と家なき親族とでは保護範囲が違っていて然るべきだと思うのですが、適用範囲には違いはないんだと。
 適用範囲を調整しなくとも、それぞれの取得者要件によって、適切な結論を導けるということでしょうか。

 どうにも違和感のあるところなので、パターン分けして違和感の具合を検証してみます。


 《前提条件》
 ・被相続人A、相続人子B、子C
 ・土地建物はいずれもA所有
 ・2つの土地建物はいずれも同一地積・同一床面積
 ・Bは@2(同一建物親族)、Cは@3(家なき親族)の適用を受けられるかを検討
  (Bは事例によってはA2生計一も)
 ・可変させる以外の要件は満たしているものとする
 ・特記がないかぎり区分所有はないものとする

 まずは通常事例から。

【通常事例思考】
内田勝一「借地借家法案内」(勁草書房2017)
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)

《事例1》ガチ同居

 ・AとBは一軒家に同居

 適用範囲 ○A宅@

 ア Bが取得 ○(全体)
 イ Cが取得 ×(Bがいるので)

 まあ、これは分かる。
 牧歌的な当初の制度趣旨どストレート・どストライクな事例ですよね。


《事例2−1》ガチ別居(生計別)

 ・宅地1 A居住
 ・宅地2 B居住(生計別)

 適用範囲 ○A宅@ ×B宅

 ア BがA宅を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
 イ CがA宅を取得 ○(家なき親族要件満たす)

 《事例1》と逆方向の通常事例としてあげてみました。
 まあそういう結論になるよね、と一瞬思ったんですが、本当にこの結論でいいのかどうか。

 たとえば、BがAを介護するために宅地1に隣接する宅地2に引っ越してきた、とするじゃないですか。で、Cは全く協力しなかったと。
 この場合でも上記結論とするのは、嫌ですよね。

 ちなみに、Bがきっちり家賃を支払っていたとすると、B宅は「貸付事業用」になります。
 が、Bが取得してしまうと「事業継続」しなくなるから要件満たせず。他方で、Cならいけると。
 家賃を支払うことでAの相続財産の増加に寄与しているというのに、この仕打ち。

 そこで、Bは「生計一」になるしかない。


《事例2−2》ガチ別居(生計一)

 ・宅地1 A居住
 ・宅地2 B居住(生計一)

 適用範囲 ○A宅@ ○B宅A

ア BがB宅を取得 ○(生計一親族が生計一居住用宅地を取得)
  CがA宅を取得 ○(家なき親族要件満たす)

イ BがA宅を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
  CがB宅を取得 ×(Aの居住用ではない)

 この場合のアなら、BもB宅に適用を受けられると。

 が、CのA宅への適用が排除されるわけではないので、適用選択をめぐって取り合いになることを防げない。
 特例選択においては、Bに優先権があるわけでもなく、遺産分割の審判のような制度があるわけでもないので(遺産分割の結果として適用可能者がBだけになればよいのでしょうが)

 ちなみに、この《事例2》のB宅を区分所有の状態でA宅にくっつけたのが二世帯住宅(区分所有あり)の事例になります。
 この場合は、ますますBを保護すべきとなりそうですが、そういう配慮は現行法には存在しない。

 ここまでですでに怪しげな雰囲気がでちゃってますが、本題はここから。


《事例3》なんちゃって同居(二世帯住宅・区分所有なし・独立)

 ・1階 A居住
 ・2階 B居住

 適用範囲 ○AB宅全体@

ア Bが全体取得 ○(BはAとなんちゃって同居しているので)
イ Cが全体取得 ○(BはAとガチ同居していないので)
ウ BCが1/2づつ取得 ○(アイの合成)

 アはいい、ウもまあいいか、となるとして、イはどうなのさ。
 現にBが住んでいるというのに。

 本来ならば、@3(3)でCの適用を排除できそうなものですが、a(一棟ルール)とc(独立ルール)が組み合わさると、こうならざるを得ない。

 もしかしてなんですけど、タックスアンサーの(注2)の「除きます」ルールは、この場合に発揮されるものですか(「除きます」は2つあるけど下記下線部のほう)。

2 「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」が、被相続人の居住の用に供されていた一棟の建物(「建物の区分所有等に関する法律第1条の規定に該当する建物」※を除きます。)の敷地の用に供されていたものである場合には、その敷地の用に供されていた宅地等のうち被相続人の親族の居住の用に供されていた部分(上記〔特定居住用宅地等の要件〕区分Aに該当する部分を除きます。)を含みます。

 Bが「生計一」の場合にかぎり、CがB居住部分にも適用を受けることを防ぐと。
 結論はいいのかもしれませんが、それを条文のどこから導けばいいのか。

 一応、Bが生計一の場合の「除きます」ルールの帰結を書いておくと、おそらくこうなるはずです。

 適用範囲 ○A宅@(B宅は@から除く) ○B宅A

 ア Bが全体取得 ○(A宅は同一建物親族として、B宅は生計一親族として)
 イ Cが全体取得 △(A宅部分1/2のみ家なき親族として)
 ウ BCが1/2づつ取得 B ○(持分1/2全体 アの半分)
            C △(持分1/2×1/2 イの半分) 


《事例4》同一マンション(分譲ではない)

 ・101 A居住
 ・401 B居住
 (その余の部屋は考慮外)

 適用範囲 ○101と401@

 ア Bが取得 ○(BはAとなんちゃって同居しているので)
 イ Cが取得 ○(BはAとガチ同居していないので)
 ウ BCが1/2づつ取得 ○(アイの合成)

 この場合も《事例3》と同じ結論。
 一棟内で場所を離しただけで、現行法からみれば同じ扱い。

 Cが401も含めて適用を受けられることに対する違和感は、《事例3》よりも強まりますよね。


《事例5》別マンション

 ・エスポワールA棟101 A居住
 ・エスポワールB棟401 B居住
 (その余の部屋は考慮外)

T Bが生計別
 適用範囲 ○A宅@ ×B宅

 ア BがA棟101を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
 イ CがA棟101を取得 ○(家なき親族要件満たす)

U Bが生計一
 適用範囲 ○A宅@ ○B宅A

 ア BがB棟401を取得 ○(生計一親族が生計一居住用宅地を取得)
   CがA棟101を取得 ○(家なき親族要件満たす)

 イ BがA棟101を取得 ×(Aと別棟、Aの持ち家に居住)
   CがB棟401を取得 ×(Aの居住用ではない)

 《事例3》《事例4》からの流れでここに配置しましたが、結論は《事例2》のガチ別居と同じ。

 《事例2》の結論にも疑問はありましたが、《事例4》の場合と比較するとなおさら、Bの保護されないっぷりが目立ちます。
 《事例4》では、Bは「生計別」でも同一建物内ということで適用を受けられることになっているのに。

 仮にですけど、BはAの介護のためA棟に引っ越そうとした、けどもA棟は他の借主で埋まっていた、ので一旦同じ敷地内のB棟に引っ越した、といった場合でも別棟であるかぎりは駄目だと。
 Bが駄目なのは諦めるとして、Cが受けられるのかよ、とは思いますよね。

 なんですか、魔改造してA棟とB棟を繋げばいいんですか(非推奨)。


 以上、パーツを分解し、共通要素を括りだして分析をする、ということを実践してみました。

 ここであげた事例のかぎりでいうと、Bの保護されないっぷりが目立ちました。
 その要因は、Bが、Aと別棟かつAの持ち家に住んでしまっていると、およそ@のルートが潰れてしまうからです。あとはA生計一ルートでいくしかない。
 対照的に、Cは、BがAとガチ同居していないかぎりは、家なき親族として保護が受けられます。

 もちろん、ここにあげたものは、あくまでも一事例群にすぎません。
 が、決してありえないエキセントリックなご家庭を取り上げたわけでもない。
 のに、適切に保護範囲をコントロールできていないと思われる事例が現に存在していると。

 Bの保護は、遺言や遺産分割協議、特例選択の同意などでカバーできるのかもしれません。
 が、そもそも税制がどういうつもりでこういう帰結を導いているのか、そこは明確にすべきでしょう。


 ここから先、じゃあどうやって組み直せばいいのよ、については、力及ばす。

 他の特例のように、単純に納税者と課税庁の二者間で、特例広げる/狭めるの綱引きをしているだけに留まっておらず、納税者側でも相続人間での綱引きがあって「3以上すくみ」状態にあるのが、問題をさらに厄介にしている。

 タックスアンサーの「除きます」ルールが、このあたりを見据えてこっそり仕込んだものだとしたら、それはそれでひとつの租税正義感かもしれない(難癖つけてすみません)。
 生計一親族居住用部分は同人のみ(または配偶者)が適用を受けられると。

 このアイディアを、同一建物親族と家なき親族との関係にも及ぼせないものかどうか。
 民法の法定相続人決定ルールが、序列を設けているのと同じようなノリで。

民法第八百八十七条(子及びその代襲者等の相続権)
1 被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

民法第八百八十九条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
1 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
 一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
 二 被相続人の兄弟姉妹
2 第八百八十七条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

民法第八百九十条(配偶者の相続権)
 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。


 あるいは、同一建物親族居住部分は、同人のみ(または配偶者)が適用を受けられるとするとか。

 いずれにしても、タックスアンサーでこっそり仕込んでいいものではおよそなく、法令上に明記すべきことでしょう。
 役員報酬の「Q&A」もそうですけど、あまりにも条文から離れたところでの曲芸が過ぎる。

「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)


 以上、小規模宅地等の特例の記事、第一期三部作に続き、書評をひとつ挟んで第二期三部作で一応締めておきます。

 今のところ私の中に残っている疑問として、家なき親族の「家なし」を判定する際の「所有」につき、単独所有にとどまらず、共有や各種組合(任意組合、匿名組合、投資組合、LLPなど)、信託による保有も含むのかどうか、というのがあります。

 持分あり「法人」の場合は半分支配だからこれらの場合も持分半分判定でいいだろ、などと単純に類推できないのが税法の厄介なところ。
 で、文言からも趣旨からも、どうにも決めがたい。規制を三親等内親族やら理事等やっている持分なし法人にまで拡散した時点で、この要件の趣旨が何なのか希薄化してしまっていますし。

 最終的には施行令あたりで詳細つめといてくれや、となるのでしょうが、さしあたりは通達で決め打ちしておいてほしい。

 なお、信託と小規模宅地等の特例の絡みについては次のような措置法通達がありますが、これはあくまでも適用対象の問題。

69の4-2(信託に関する権利)
 特例対象宅地等には、個人が相続又は遺贈により取得した信託に関する権利(相続税法第9条の2第6項ただし書に規定する信託に関する権利及び同法第9条の4第1項又は第2項の信託の受託者が、これらの規定により遺贈により取得したものとみなされる信託に関する権利を除く。)で、当該信託の目的となっている信託財産に属する宅地等が、当該相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族(以下69の4-24の8までにおいて「被相続人等」という。)の措置法第69条の4第1項に規定する事業の用又は居住の用に供されていた宅地等であるものが含まれることに留意する。
posted by ウロ at 10:32| Comment(0) | 相続税法

2020年10月19日

「要件書き込み」は趣旨解釈を駆逐する。〜小規模宅地等の特例を素材に

 租税法学において、要件を細かく書き込めば書き込むほど「法の明確性」「納税者の予測可能性」に資する、といったTales(テイルズ)が語られることがあります。

 確かにそういう場面もあるのでしょうが、必ずしも書き込み一辺倒でいいわけではない、という例証を以下に。

【条文】
租税特別措置法69条の4
租税特別措置法施行令40条の2

【タックスアンサー】
No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

【小規模宅地の特例】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
関場修 山口暁弘「小規模宅地等の評価減の実務 第4版」(中央経済社2018)
タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
オーバーホール租税法・序論 〜小規模宅地等の特例を素材に
白井一馬「小規模宅地等の特例」(中央経済社2020)
僕たちは!出戻り保護要件です!! 〜家なき子特例の趣旨探訪1
ぼくたちは出戻り保護ができない。 〜家なき子特例の趣旨探訪2
あの日見た特例の趣旨を僕達はまだ知らない。 〜家なき子特例の趣旨探訪3(完)


 イメージ作りのため、一つの事例をあげてみましょう。

《事例》
  ・被相続人:A、相続人:子B(兄)、子C(弟)
  ・土地 A所有
  ・建物 A所有
  ・同建物にAC同居

 Bはすでに就職していて自己所有の分譲ワンルームマンションに住んでいる。
 CはAと同居していたが、大学に進学するため大学近くのBの家に同居させてもらうことにした。
 Cは大学を卒業したら、A宅近くに就職先を見つけて、Aと同居するつもり。
 ところが、CがA宅を出た直後にAが亡くなってしまった。

 さて、A宅に小規模宅地の特例を適用することはできるでしょうか。

【家なき子の取得者要件】
(原則要件)
 1   被相続人に配偶者・同居法定相続人がいない
 2−1 相続前の3年間に
    ・自分と自分の配偶者
    ・三親等内の親族
    ・特別の関係がある法人
    の持ち家に住んでいない
 2−2 相続開始時に住んでいる家を過去所有したことがない
 3   相続から申告期限まで継続保有

(除外要件)
 2−1 「相続開始直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋」は除く

 まず、Bは自分の持ち家に住んでいるので適用不可です。

 では、Cはどうか。
 Cも「三親等内の親族」であるBの持ち家に住んでいるから適用不可だと。
 「除外要件」は2−1しかないので、この事例では機能しない。

 仮に、CがAから仕送りを受けてAと「生計一」だったらどうか。
 本事例では、CがA宅に住んでない以上、生計一でも適用しようがない。


 「居住の保護」という抽象的な制度趣旨を措定するならば、どう考えてもCの居住を保護してあげたほうがいいと思いますよね。
 B宅は東京、A宅は片田舎のどこか、なんて事情を加えたら、ますますそういう結論に傾く。

 が、Bの持ち家に住んでいるかぎり駄目だと。

 本事例でどうにか適用するためには、Cは、Bではなく他人の家に住むしかない。
 せっかく大学近くにB宅があるというのに。
 少しでもAの仕送り負担を減らそうと考えた、Cの好意が台無しよ。


 法の規定が不明確な場合は制度趣旨から解釈論を展開する、というのが法解釈の定石です。

 が、ここではそれが通用しない。
 その原因は、特定の場面を想定して、やたらと細かい要件を条文に書き込んだせい。

 特定の場面というのは、名義は違うが実質は自己所有と同等な場合のこと。
 であれば素直に「実質判断」をすればいいはずなんですが、なぜか実際の判定は親族関係や支配関係での形式判断によります。
 そのため、この事例のように通学期間中だけ一時的に親族の持ち家に住まわせてもらっていた、という場合まで制限がかかってしまう(巻き込み事故)。

 立法担当者的には「お前らが明確性とか予測可能性とかうるせえから、実質判断をしないですむよう、細かく条件書き込むことで形式判断のみにしてやったんですけども。」とおっしゃるのかもしれません。
 確かに、これが本人・配偶者・未成年の子・これらの者が支配する法人あたりまでなら(本人等で総称できる感じの)、形式のみで判断してもいい気がします。
 が、そこから先の者まで形式判断だけでいいのかどうか、極めて疑わしい。

 ア 本人等 形式アウト
 イ 三親等 形式アウト (←実質を要求すべきでは)
 ウ 四親等 形式セーフ

 ちなみに、この逆パターンが適格要件における支配関係継続の「見込み」。
 「○年継続したら制限解除」のような形式要件ではなく、継続の「見込み」といった実質のみで判定。
 不安定極まりない。

中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)


 このように、やたらと要件を書き込んだせいで、制度趣旨が当該制度をあまねく覆い尽くすことができなくなっています。
 制度趣旨にそって原則要件を制限したり除外要件を拡張したり、といったことも、規定が明確すぎてやりようがない。
 解釈の余地があるのは、いろんな同居のうちのcとdぐらい(ただし本件では無関係)。

【いろんな同居】
a どの範囲で特例の適用を受けられるかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (令40条の2第4項)
b 同居親族が適用を受けるために、同居しているかを判定するときの同居
 ⇒一棟の建物で判定 (法69条の4第3項2号イ)
c 家なき子が適用を受けるために、他の相続人が同居していないかを判定するときの同居
 ⇒独立部分で判定 (通達69の4-21)
d 家なき子が適用を受けるために、被相続人が居住していたかを判定するときの居住
 ⇒???

 Cの居住は「実質的には」B宅ではなくA宅にあるんだ、みたいな《心のふるさと理論》を持ち出すアクロバティック解釈をやるわけにもいかないでしょう。

 ただし、国税庁の質疑応答事例では、単身赴任事例で相続人の居住を拡張しているものがあります。

【国税庁 質疑応答事例】
単身赴任中の相続人が取得した被相続人の居住用宅地等についての小規模宅地等の特例

 まるで射程の不明な場当たり的な回答ですが、おそらく可愛い妻と子を実家に残している、というのがポイントなんでしょう。「いずれ戻ってくる」だけでは、家なき子との違いがありませんので。
 ので、本件の独身大学生Cにまで拡張するのは難しいのではないかと。


 ある程度解釈の余地がある規定ならば、解釈レベルで妥当な結論を導くことも可能なわけですが、ここではそれがやりにくいと。
 というか、もとの制度趣旨とそぐわない要件が設けられてしまった以上、むしろ制度趣旨のほうを修正しなければならないのでしょう。単純な「居住の保護」ではない何か。

  × 制度趣旨 ⇒ 要件創設
  ○ 要件一式 ⇒ 制度趣旨

 が、私には、現行の要件一式を整合的に説明できる制度趣旨が思いつかない。


 要件をやたらと書き込みたいのであれば、制度趣旨の出番を完全に無くすよう、当該要件のみで完結できるようにしておかなければならない。
 そうしておかないと、解釈によって勝手に課税拡張要件を付け加えられかねない。

【「基本的な考え方」から勝手に要件を創造する禁忌】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 しかしまあ、要件書き込み書き込みで制度を徒にガチガチに固める所作、「裁判官は判決自動販売機」勢力の復権かよ。
 でも、租税法律主義・租税法規の明確性・予測可能性などを最大限突き詰めていったら、行き着く先はそうなるってことですよね。
posted by ウロ at 10:39| Comment(0) | 相続税法