2020年03月23日

南野森「ブリッジブック法学入門(第2版)」(信山社2013)

 この本、「“一風変わった”法学入門」と自称されていて、確かにそうなっていました。



南野 森 ブリッジブック法学入門(第2版)(信山社2013)
 
 編者は憲法学者の南野森先生。
 以前、トロペール先生の翻訳書を記事にしたことがあります。

ミシェル・トロペール(南野森訳)「リアリズムの法解釈理論」(勁草書房2013)


 目次をあげると次の通り。

T 法学の基礎
第1章 法と法学
第2章 法と法学の歴史
第3章 法律と法体系
第4章 裁判制度とその役割
第5章 判例の読み方

U 法学の展開
第6章 違憲審査制と国法秩序
第7章 保証人とその保護
第8章 会社とその利害関係者
第9章 民事訴訟における主張共通の原則
第10章 刑罰権の濫用防止と厳罰化
第11章 刑事訴訟の存在意義
第12章 社会保障法による医療の保障
第13章 著作権保護と表現の自由

 前半が一応、一般的な法学入門で触れられる基礎知識の部分になっています。
 通常の授業でも使えるように、ということでのアリバイ的な記述に思えなくもない(邪推)。

 ただし、南野先生執筆の第1章は、上記のトロペール先生の考えがバックグラウンドにあってとても読み応えあるので、とりあえずこの章だけでも目を通しておくといいと思います。

 で、後半が「論文」と言われているとおり、かなり突っ込んだ内容になっています。

 法学に興味をもってもらう、という趣旨では、こういう構成いいと思いました。
 が、前半で得た基礎知識だけで後半が読みこなせるか、というと難しい。

 学習過程を三段階に分けることってよくあると思いますが、「二段階目」が抜けているイメージ。

【三部構成】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)

 ので、後半読んでみて難しそうなら他の本に移って、しばらくしてから戻ってくる、という読み方がいいかもしれません。


 こういうコンセプトの本読んでみて、思い出したのが下記の本。



落合 誠一編 論文から見る現代社会と法(有斐閣1995)

 論文執筆者が自分の書いた論文の解説を通して、各法分野の説明をするというもの。
 社会人から入学した大学院生向けの導入講義を書籍化したもののようです。

 この講義用の論文ではなく、もともとどこかの学術誌に発表したガチの論文を題材にしているので、内容は濃い。のですが、法学部以外の出身者を対象としていて法学の知識は前提としていないので、入門書として読んでもよさそう。
 ただ、それなりの社会人経験もあるということは前提でしょうから、まっさらな学生さんがいきなり読むのは、それはそれで大変かも。


 さて、話は戻って、この本を入門書として捉えたときに気になるのが、「法制史」にふれた第2章。

 たとえば、「インスティテュシオン(法学提要)体系」とか「パンデクテン(学説彙纂)体系」とかって単語が書いてあるのに、その意味がどこにも書いていない。
 法制史の記述って、紙幅が限られているとどうしても単語の羅列になりがちではありますが、まあ不親切。

 限られた紙幅で法制史を記述するならば、たとえば、
・この本の他の章を法制史の観点から経時的にみることで立体的に展開する
とか、
・仮想通貨みたいな今どきの論点を法制史の観点から分析してみることで法制史の勉強にどんな意味があるのか理解する
とか、ポイントを絞って記述したほうがいいと思うんですけども。

 ちなみに、上記2つの単語について、たまたま平行して読んでいた篠塚昭次先生の入門書では、「オープンリール式」と「カセットテープ式」などと喩えられていました。
 さすがに時代を感じさせる喩えで、今となっては理解できるのはオールドオーディオマニアくらいでしょう(当時も?。 
 ですが、初学者(当時の)に理解してもらおうという親切心、読んでいて安心するわけです。



 篠塚 昭次 民法 よみかたとしくみ(有斐閣1992)

 なお、「法学入門」の法制史の記述で私が一番よかったと感じたのが、三ケ月章先生のもの。

 

 三ケ月 章 法学入門(弘文堂1982)

 過去の西欧から明治の日本法に到達するまでの、流れるような記述が素敵。
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2019年11月11日

伊藤正己「近代法の常識」(有信堂1992)



 伊藤 正己 近代法の常識(有信堂1992)

 極めてオーソドックスな法学入門書。

 目次を書き出してみると、

1 法と常識
2 法学という学問
3 法とは何か
4 法と道徳
5 法と強制
6 成文法
7 慣習法
8 判例法
9 学説と条理
10 市民法と社会法
11 権利と義務
12 権利の主体と客体
13 むすび

といった感じ。

 法の基礎理論として扱われる領域が一通り網羅されています。

 基礎理論ものは、どうしても記述が抽象的になりがちなところ、具体例多めなので初学者でも理解しやすいと思います。

 伊藤正己先生といえば、以下の本が有名ですかね。



 伊藤 正己 憲法 (弘文堂1995)
 伊藤 正己 裁判官と学者の間(有斐閣2001)

 特に後者は名著だと思いますが、オンデマンド版で買うかアマゾンマケプレのクレプラで買うか、お気軽に買えないのが残念。

 憲法の体系書のほうは、伊藤先生が最高裁判事になって忙しくなったので、ということで、戸松秀典先生が一部執筆に加わっているとのこと。

戸松秀典『憲法』(弘文堂 2015)
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2019年04月01日

団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)



団藤重光 法学の基礎 第2版(有斐閣2007)

 ふと思い立って、団藤重光先生の『新刑事訴訟法綱要』を読んでみました。



団藤重光 新刑事訴訟法綱要 七訂版(創文社1967)

 平野龍一先生に徹底的に批判し尽くされた後の学説状況しか知らなかったので、今まで手が出ずにいたところ。



平野龍一 刑事訴訟法 法律学全集(有斐閣1958)

 読んだ印象としては、そこまで糾問的でも職権主義的でもないかなあと。
 「基礎理論」から出発して法解釈論が始まるので、人権保障の観点からは不徹底だって評価になるんでしょうけども。

 1967年で改訂止まってしまっていますが、このあとに最高裁判事に就任されているので(1974-1983)、もしその後改訂されていれば、また違った様相になっていたかもしれない。残念。


 しかし、こういう名著が再版もされずに埋もれてしまうの、極めて大きな損失だと思うんですけど。
 著者も出版社もお亡くなりになってしまって、もう復刊は見込めないんですかね。

 刑法のほうは1990年が最終版ですが、同じ出版社だし、こちらも同じ運命を辿るのでしょうか。



団藤重光 刑法綱要総論(創文社1990)
団藤重光 刑法綱要各論(創文社1990)


 一方の平野先生の体系書は、1958年出版の初版のまま最近まで再刷されてて、今でもオンデマンド版が出ていたりと、随分優遇されているのと比べても、不遇な気が。

 我妻栄先生の『民法案内』シリーズにおける勁草書房さんのごとく、あるいは、蟻川恒正先生の『憲法的思惟』における岩波書店さんのごとく、どこか別の出版社で出さないのかどうか。



我妻栄「民法案内1」(勁草書房2013)
蟻川恒正「憲法的思惟」(岩波書店2016)


 で、何事か中身について書こうと思ったんですが、そのためには、アンチテーゼとしての平野先生の体系書も読まないとだし、また、最高裁判事を退任した後のミッシングピースを埋めるためには、団藤先生の『法学の基礎』あたりを読まないとだし。

 ということで、『法学の基礎』を読んでみることにしました。

 前にも書いたとおり、この本は初学者がいきなり手を出す本ではなく、法学の勉強が進むごとに、自分の実力を推し量る用に読むものです。

大屋雄裕「裁判の原点:社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)

 文章自体は決して固くはないのですが、書かれていることを十二分に理解するためには、個別法についての理解が先に必要になります。
 私も過去何度か読んでますが、個別法の勉強を進めてから戻ってくると、そのたびに何かしら発見があったり。

 今回読んでてふと思ったのが、こんなこと(直接そういうことが書いてあるわけではないですし、むしろ逆)。

 「自然法」思想について、私自身はどちらかというと積極的な評価をしていないのですが、

【こちらは自然権ですが】
ホッブス『リヴァイアサン』 〜彼の設定厨。
戸松秀典『憲法』(弘文堂2015)

 たとえば「禁酒法」のように「お酒くらい自由に飲ませてよ」といった程度の自由を抑圧するような法律は、いくら正式な手続によって成立したとしても実効性をもちえない、という意味あいでなら、理解できるなあと。

 「人間の本性に基づく」とか「人が人たるがゆえに」といった高尚な表現をされるとピンと来ないのですが、こういう卑近な例なら理解しやすい(いわゆる日常系自然法)。
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2019年02月18日

大橋洋一「社会とつながる行政法入門」(有斐閣2017)



大橋 洋一  社会とつながる行政法入門 (有斐閣2017)

 入門書の、理想のかたちのひとつ。

 身近な事例を題材に、行政法の基礎概念を学んでいく本。
 どんな事例かというと、目次をコピペ。
 行政法総論と行政救済法をひと通りカバーしてます。

【目次】
1 ライフサイクルと行政法●行政法への招待
2 ごみ屋敷対策●法律による行政の原理を学ぶ
3 一発レッドカード●行政上の一般原則を学ぶ1
4 卑弥呼のライバル登場●行政上の一般原則を学ぶ2
5 お年寄りと子どもを守れ●行政行為を学ぶ
6 水際作戦と孤独死●行政手続を学ぶ
7 保育所落ちたくない●行政基準を学ぶ
8 マンション選びクイズ●行政計画を学ぶ
9 江戸の敵を長崎で討つ●行政指導を学ぶ
10 活かされなかった教訓●事実行為を学ぶ
11 太閤殿下にあこがれて●行政上の義務の実効性確保を学ぶ
12 いじめ事件の真相に迫る●情報公開法を学ぶ
13 タヌキの森はいま●行政訴訟を学ぶ1
14 少女の夢●行政訴訟を学ぶ2
15 ごみ処理の悩み●行政訴訟を学ぶ3
16 生活の糧を守る●行政上の不服申立てを学ぶ
17 ピラミッド崩壊●国家賠償を学ぶ
18 津波から命を守る●損失補償を学ぶ

社会とつながる行政法入門(有斐閣のサイト)


 ただ、事例と基礎概念の説明がメインで、論点チックな記述がほとんどないので、行政法「学」の、学問としての面白さはあまり感じないかもしれません。

 ので、この本で基礎固めをしたら、溢れないうちに上位の教科書に進むのがベスト。
 この本のおかげで、基礎概念に対するイメージづくりがしっかりできているはずなので、抽象的な記述が多い本でも、具体的な事例を思い浮かべながら読み進めることができると思います。

(なお、この手の本における「Coffee Break」と第するコラムのブレイク感の無さは異常。本文とゴリゴリ地続きじゃないですかと。)


 大橋先生的には、そのまま自分の教科書に進んでもらうのがスムース、ということかもしれませんが、私はこの本読んでから藤田宙靖先生の『行政法総論』を読み直したくなりました。



大橋洋一 行政法1 現代行政過程論 第4版 有斐閣2019
大橋洋一 行政法2 現代行政救済論 第3版 有斐閣2018
藤田宙靖 新版 行政法総論 上巻 青林書院2020
藤田宙靖 新版 行政法総論 下巻 青林書院2020

 大橋先生の1が行政法総論、2が行政救済法、藤田先生が一冊で行政法総論+行政救済法なので、ちょうどおなじ範囲をカバー。奇しくも値段も同等(と書いていたのですが、後者が2分冊となり値段もアップ)。

 ちなみに、初学者の方は、普通の教科書へ行く前に、藤田宙靖先生の『行政法入門』を一回挟んだほうがよいかも。
 こちらの本は基礎理論重視なので、大橋先生の入門書では手薄な理論の部分を学ぶことができます。



藤田宙靖 行政法入門 第7版 有斐閣2016
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2018年12月17日

道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)

※以下の記事は、第3版(2007)に対する書評です。
 第4版は実物まだ読んでいませんが、どうやら問題11と12が削除されたようです。
 わたしがイジった章がピンポイントで(たまたまです)。
 これ、表紙まで変わってたら、それはそれで寂しい。



道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)

 まるで続く気はしませんが、「法学入門」系の本を「法律書マニアクス」からカテゴリ分けしていくことにしました。


 前半(問題1〜6)は「自分で考える ちょっと違った」のタイトルどおりの面白めな内容。

 たとえば、問題1では、2人(または3人)でどうやってケーキを分けたらいいか、といった問題から紛争解決の仕方を学ぶといったテーマを扱っています。

 こういった問題なら、法に関する前提知識なしでも自分なりの見解は持てるはずなので、ちゃんと「自分で考える」ことができると思います。

 で、いろいろな解決方法をあげながら、実定法上参考になりそうな制度を紹介していくので、自分の見解と対比しながら、法制度に関する知識も見についていくと。


 他方で、後半(問題7〜12)は、まあ普通、というか初学者には難しいと思います。

 たとえば、問題11では、日本の会社がアメリカの会社からアメリカの裁判所で技術侵害の訴訟を提起される、といった問題を扱っています。

 この問題から、国際私法や国際民事手続法の仕組みを学んでいくんですが、こういうの、初学者がこれ読んでどれくらい理解できるものなんですかね。
 理解するにしても、どうしても受け身にならざるをえず、「自分で考える」にも「ちょっと違った」にもならない気がするんですけど。

 ちなみに、問題12では弁護士の増員とか報酬制度の問題を扱っています。
 
 当時、弁護士にも競争原理を!と強く主張されていて、この本もどちらかというと積極的な論調で書かれているんですが、今現在の、司法改革曲がり角感強めな現状を踏まえて、ちゃんと答え合わせをしておいてほしいところです。

 といったところで、前半はおすすめ/後半は流れで、といった感じ。


 この本の前半と後半を対比しながら読んでみて、理想の「法学入門」の暫定版はこんな感じ。


 扱うテーマ・事例は、社会人経験のない学生さんでも自分なりの見解を示せるようなものが望ましい。
 見解を示すのに、一定の法的知識を必要とするようなものは相応しくない。


 その事例の法的結論は、本の中に書いてある法制度のみで判断できるものが望ましい。
 判断過程に、実は体系全体の知識が必要だったり、そこまでいかないでも書かれざる前提が含まれていたりするのは相応しくない。

 優先順位はかなり下がりますが、「法学入門」についてもなるべく読んでいきたい所存。


 しかし、この表紙の絵の人、狂気を感じる。

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 見開きにデカデカと「六法全書」て書いてある本みて、「?? ??」とか。
 これ、何してるんですか怖い。

 まさかですけど、本の表表紙・裏表紙側を開いて読んでるんじゃないですよね。
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2018年12月10日

大屋雄裕「裁判の原点:社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)

 「法学入門」ないしそれに類するタイトルの本、ものすごい量出版されていて、なんかまとめ記事書きたいなあと思っているんですが、消化量が圧倒的に少なすぎて道半ば。

 ざっくり範疇(ざっくりはんちゅう)としてはこんな感じだと思うんです。

1 法学部以外の学部の「法学」という講義で使うテキスト
2 大家が自分の法学観をまとめたもの
3 著者が工夫を凝らして法学の魅力を伝えるもの


 もちろんこれに尽きる、ということではないですけども、私の限られた観測範囲で、ということで。

○2の例




団藤重光 法学の基礎 第2版 有斐閣2007
星野英一 法学入門 有斐閣2010
田中成明 法学入門 新版 有斐閣2016
五十嵐清 法学入門 第4版 新装版 日本評論社2017
三ケ月章 法学入門 弘文堂1982
グスタフ・ラートブルフ 法学入門 東京大学出版会1964

○3の例




木庭顕 誰のために法は生まれた  朝日出版社2018
道垣内弘人 プレップ法学を学ぶ前に 第2版 弘文堂2017
道垣内正人 自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版 有斐閣2019
末弘嚴太郎 新装版 法学入門 日本評論社2018
山下純司、島田聡一郎、宍戸常寿 法解釈入門 補訂版 有斐閣2018

(1の例はあげません)


 1は、どうしても浅く広くとなるので、無味乾燥な記述になってしまいます。
 が、それは役割上、まあしょうがない。

 ただ、こういう本だけ読んで「法学はつまらない」と誤解してほしくないなあと。

 じゃあってことで、「法学入門」と書いてあるからといってうっかり2のグループに手を出してしまうと、余計こじらせてしまう。

 たとえば、団藤重光先生の「法学の基礎」、昔は「法学入門」と名乗っていた時代がありました。
 で、そのころに「法学出門」と言われた、なんて自虐がはしがきに書いてあったり。

 この本、私も何度か読み返してますけど、これは一定程度勉強が進んだ人が、節目節目でマイルストーン的に読むと効いてくるものであって、初学者がお気軽に読めるものではないです。


 ということで、初学者が文字通りの「法学入門」として読むべきものが、3のグループに属する本です。

 今回読んだのは、大屋雄裕のこの本。



大屋雄裕 裁判の原点:社会を動かす法学入門 河出書房新社2018

 大屋先生ご自身は法哲学を専攻されている先生ですが、この本は、あくまでも日本の裁判所で法がどのように実現されているか、を記述した本になっています。

 扱っている裁判例は憲法判例。
 現に通用している法規範を記述する、という意味では、以前紹介した戸松秀典先生の体系書と、コンセプトが近いんじゃないかと感じました。

戸松秀典『憲法』(弘文堂 2015)

 で、この本読んでてふと思い出したのが、長谷部恭男先生の『法とは何か』という本。
 (河出書房新社て、法学系の書籍ほとんど出してない出版社ですが、なぜかたまたま同じ出版社。)



長谷部恭男 増補新版 法とは何か 河出書房新社2015

 長谷部先生は憲法学者ですが、この本では、現代日本の憲法判例とは関係なく、過去の思想家の思想から、「あるべき法」を見出そうというコンセプトの本になっています。

 ので、お二人のそれぞれの専攻からすると、なんかねじれが生じているような。

  法哲学者: 現代の憲法判例から、現実に法がどうあるかを論ずる。
  憲法学者: 過去の思想家の思想から、法はどうあるべきかを論ずる。

 長谷部先生のほうは「法思想史入門」を謳っているので、勝手に「法学入門」的な期待をするのは、こちらのお門違いなんでしょう。
 実際、内容お優しくないですし。


 大屋先生の本に戻って、この本、「裁判は正義の実現手段ではない」とか「正義とは正しさではない」とか、やや煽り気味の章タイトルがついています。

 が、『ぼくのかんがえたさいきょうのけんぽう』なノリが苦手な私からすると、とても共感のできる内容でした。
 特定の人の、正義と信じるところのものが保護されるわけではないと。

 また、憲法判例の記述がメインではありますが、「三権分立」の意味合いについてもしっかり記述されています。
 ので、法学者の書く書物が、往々にして司法権を重視しがちなのに対し、立法権についても目配りがされています(行政権は弱め?)。


 ということで、単に制度の羅列だったり高い法の理念を謳った本ではなく、現に法がどのような機能を果たしているか、をメインで論じている本なので、理解がしやすいと思います。
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2018年09月25日

横田明美「カフェパウゼで法学を―対話で見つける〈学び方〉」(弘文堂2018)

 大学での勉強の仕方がわかる本。



 ビジネス書・実用書などにでてくる学習法・勉強法を、大学生活で出くわすイベントで使える形に仕上げてくれてるので、学生さんにとってお役に立つはずです。

 著者の横田明美先生(ぱうぜ先生)が行政法の先生なので「法学」が題材になってますが、少なくとも文系分野であれば、応用はしやすいと思います(理系はどうなんでしょう?)。

 この手の本にしてはちょっとだけお高めな気がしますが(税込2000円は下回るという勝手なイメージ)、入学直前から進路を決めるまでをカバーしてて、内容も充実してるので、そういう意味ではコスパはいいと思います。
 脚注や参考文献も豊富ですし。

 読み方としては、いきなり全体を読んでもいいんでしょうが、講義を受ける、教授にメールを送る、レポートを書く、試験を受ける、ディベートをする、ゼミに入る、卒論を書く、といったイベントにエンカウントする前に、その都度読んでいく、でもいいと思います。
 こうやって書いたとおり、個々のイベントごとに対処法が書いてあって、とても実践的です。

(勝手な推測ですけど、値段が障壁となって、1年生のうちはこういった副読本を買わず、2年生、3年生と、自己流では解決できない難易度の高いイベントがでてくるようになってから徐々に買い出す、という傾向があるのではないかと邪推。)

 クロスリファレンスもしっかりしてて事項索引もあるので、細切れで読んでも、あれどこに書いてあったっけ、てことが少なくてすみます。

 あと、初学者向けだからといって、安易に本文を「ですます調」にしなかったのはいいなと思いました。
 中身のわかりやすさで勝負してる感じ。

 こういう本は、大学で真面目に勉強したい人だけでなく、遊びの時間を増やしたい、という人こそ読んだほうがいいんじゃないですかね。
 というのも、この本に書かれた学習法使って勉強すれば、かなり無駄な時間をショートカットできるはずなので。

 私自身は真面目な学生さんでしたが、当時この本があれば、充実した大学生活がおくれたのではないかと妄想(こちらとあわせて「過去改竄」ネタがシリーズ化できそう)。


 以下は、気になったところを順不同でいくつか。

1 三色ボールペン法

 教科書を読みやすくする工夫として、色分けするの賛成です。

 あえて補足するとすれば、最初はどこに何色を引くか迷うと思うので、とりあえず1週目は「鉛筆」(あとで消しやすいやつ)でそれっぽいところに線を引いておいて、2周目から色付けしていく、というのが私個人のおすすめ。


「なぜ判例が生まれたかといえば、多くの場合は原告(民事訴訟・行政訴訟)や被告人(刑事訴訟)が頑張ったから、である。」

という記述があるんですが、なぜか民事・行政は訴えた側、刑事は訴えられた側になっている、という形式面はさておき、被告や検察官、そして裁判官だって判例形成に寄与しているはず。

 たとえば、民事でいうと、原告が契約に基づき代金請求してきたことに対し、被告が「公序良俗」違反(民法90条)を主張することで代金請求を拒む、そして裁判官がそれについて判断する、という流れがあって「公序良俗」の中身が充実していくわけですよね。
 ここでは、どちらかというと被告の側が判例形成に寄与しているわけです。

 あるいは、刑事でも、皆さんご存知「電気窃盗」なんて、窃盗罪(現行刑法だと235条に対応)にいう「所有物」は有体物のことだという当時の通念にもかかわらず、電力会社が被害を訴え、検事が公訴提起し、裁判所(大審院)が有罪としたことで、管理可能なものは窃盗罪の対象物だという判例ができあがったわけですよね(しかも、その後、245条の規定ができて立法にも影響を及ぼしている)。

 「多くの場合は」ということかもしれませんが、原告・被告人起点のケースであっても、相手方が真剣に争うことによって規範力高めな(?)判例が出来上がるんじゃないかと思うわけです。
 なので、わざわざ一方当事者だけをあげるのはなんか不自然だなと。

 このところ、井上治典先生の著書を読み返したりしてたせいか、そんなふうに感じました。




 ぱうぜ先生のセリフで「そこで、じゃーん。特別なシートをご用意しました。」と言って、フローシートの説明をしてくれるところがあります。

 じゃーんて、なんか初めてでてきたみたいに言ってるけど、あれ、数ページ前にすでにフローシートでてきたじゃん、と思って読み返してみると、時系列逆にして先取りで書いてますよ的なことがちゃんと書いてありました。
 いやあ、対話式ならなるべく時系列どおり書いてほしいところ。

 や、私の読み方が不注意なだけか。


 イメージしやすくするためでしょうが、インプット・アウトプットの仕方を「ケーキ作り」にたとえて記述しているところがあります。

 こういう喩えって、皆さんどれくらい理解しやすくなるものなんでしょう。

 私の場合は、クッキーやシュークリームを作ったことはあっても、ケーキを作ったことはないので、それなりに頭を置き換えしないと、想像がしにくかったです。
 というか、ケーキ作りをしたことがある人って、どれくらいいるものなんでしょう。今どき必修ですか。

 これ、インプット・アウトプットの仕方を学ぶと同時にケーキづくりも学ぼうぜ、という「二毛作」狙いなら、なるほどさすが、て感じですけど。


 「喩え」つながりでいうと、ジェネラリストとスペシャリストの使い分けを、「ロールプレイングゲーム」でたとえているところがあるんですが、これもどこまで理解してもらえるものなのか。

 ぱうぜ先生はドラクエとFFの特に4〜6あたりが好きとあって、私も同意見なんですが、ぱうぜ先生の喩えはどちらかというとドラクエ寄りで書かれています。

 私はといえば、どちらかというとFF寄りなので、ここの記述を理解するのに、ドラクエの転職システム⇒FFのジョブシステムへの頭の置き換えが必要でした。
 しかも、同じジョブシステムでも作品によって内容が違ってたりするので、何作目と置き換えるかも悩みどころです。FF12なんて、ゾディアックジョブシステムとかいって、同じ作品のリメイク(?)で、ジョブシステムかなりいじってきましたからね(最近のリメイクでもまたいじってる)。

 そして、その上で、FFのジョブシステム⇒ジェネラリスト・スペシャリストへの置き換えをする必要がでてきます。

 ドラクエ⇔FFであれば、まだ転職システムとジョブシステムといった比較的近いシステムだからいいですけど、メガテン(女神転生)好きにとっては仲魔システムと置き換えなきゃいけないわけで、結構大変なはず。

 なお、「法律書マニアクス」というカテゴリは、「真・女神転生3 NOCTURNE マニアクス」に由来しています。



 いっそのこと、RPGの喩えを出すときは、転職システムの原点、ドラクエ3で固定してしまう、ということでよいのではないでしょうか(提案)。

 という感じで、そもそもゲームやったことない人からしたら、私がここで書いたこともなんのこっちゃ、てなると思うんですよね。


 カフェ設定があるのだから、挿絵のコーヒーカップとかをもう少しこだわってほしかった(どうでもいいツッコミ)。


 『対話で学ぶ行政法』(有斐閣2013)をおすすめしてて、私も前々から読みたいと思ってるんですが、出版社で長らく品切れなので、再販するようせっついてほしい。

 なお、Amazonだと、品切本・絶版本でお馴染み「マケプレのクレプラ」(=マーケットプレイスのクレイジープライス。他の例としてこちら)なので、リンク貼りません。


 以上、しょうもないツッコミもしましたが、文系学生さんが有意義な大学生活を送るためには必読だと思います。

〔ここまで判明している当ブログの源流〕
・ もしもシリーズ(もしもアントニオ猪木がコンビニの店員だったら等)
・ 破産から民法がみえる
・ 真・女神転生3 NOCTURNE マニアクス

【追記】
 とか書いてたら、2の点につきぱうぜ先生御本人からご回答をいただいてしまいました。




 どうやって判例ができるのか、ということではなく、裁判やってくの大変だよ、というご趣旨のようでした。

 確かに、行政訴訟や刑事訴訟では、組織的対応ができて権限もある行政や検察を相手に裁判をしなければならない、原告(行政訴訟)や被告人(刑事訴訟)の負担は大きいですよね。

 ただ、民事の場合は、たとえば、一消費者が大企業を訴えることもあれば、大企業が一消費者を訴える、ということもあるので、必ずしも原告弱い⇔被告強いの関係になるとは限らないのではないかなあと。

 そのへんは当然わかった上で圧縮して書いている、ということで、私がブログでお気軽に感想書いているのとはおよそ比べ物にならないほどの苦労があるんですね。
 まあ、折り畳まれた行間を展開できたのはちょっとよかったかも。
posted by ウロ at 11:11| Comment(0) | 法学入門書探訪