法律文章の「書き方」本。
書き方本の中でも特に、「表現」特化型といえるでしょうか。
白石忠志「法律文章読本」(弘文堂2024) Amazon
白石忠志先生は競争法の専門家なのですが。
「競争法」に興味のない私ですら、白石先生の著書だけは、どうしても読みたくなってしまいます。
白石忠志「技術と競争の法的構造」(有斐閣1994)
デビッド・ガーバー「競争法ガイド」(東京大学出版会2021)
※教科書・体系書を記事化できていないのは、単なる能力不足。上記記事にしても、正面から向き合ってないですし。
今回も、あまたの積読本を押しのけて、さっそく読んでしまう羽目に。
ちなみに、同一タイミング・同一出版社で購入⇒積読された本。
菅野和夫,山川隆一「労働法 第13版」(弘文堂2024) Amazon
田村善之,清水紀子「特許法講義」(弘文堂2024) Amazon
「法律文章を書く人は全員必読ですよ。」とだけ紹介してもしょうもないので、以下感想を。
◯
いきなりイチャモンの類から。
・
タイトルの『読本』は、一見まぎらわしい。
もちろん、「入門書」という意味からすれば、間違った言葉を使っているわけではないです。が、「読み/書き」でいうところの「書き方」がメインの本なのに『読本』とはこれいかに、と一瞬脳内にノイズが走ってしまいました。
まあ、私が『文章読本』という言葉に馴染みがないだけの話でしょうけども。教養レベルが低いだけの問題。
・
例によって、「帯」をみてみると(イチャモン基本所作としての「帯イジり」)。
【帯イジり例】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)
『言葉の基本から始める法学入門』と書いてありました。
が、本書は「書き方」のお作法がひたすら丁寧に解説されたものであって。これをもって『法学入門』というのは、違う気がします(本ブログのカテゴリも、本当はおかしい)。
団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)
もし「これから法学を学んでみようかな」というガチの初学者勢が「送り仮名の付け方」みたいなものを読まされたら、速攻、入口から引き返してしまうのではないでしょうか。
扱われている素材も、独禁法など「大人の」法分野が結構あって。初学者には意味が取りにくいであろうところが、しばしば。
本書が効いてくるのは、ある程度法律文章を読んだことのある人が、自分でも「書いてみむとてする」などと思いたったタイミングだと思います。
単なるお作法の羅列にすぎないと思っていた本書の記述が、これから書こうとする全ての法律文章に活きてくるのが実感できるはずです。
『◯◯警察』という言い回しがありますが。
「法学入門」という用語に対しても、それに相応しい内容となっているか、取り締まる方がいらっしゃってもよろしいのではないでしょうか(他人任せ)。
・
目次で、括弧数字の下位レベルの項目が省かれているのは、読後のふりかえりに不便。この出版社だけかどうか分かりませんが、この手の目次、しばしば見られる。
◯
イチャモンはこれくらいにして。あとは本書を読みながら思ったことなど。
法律文章を書くにあたってのお作法として、追加したほうがよいと私が思ったもの。
『卑近な喩えをむやみに使わない。』
というものです。
どういうことかというと、下記の記事。
吉田利宏「実務家のための労働法令読みこなし術」(労務行政2013)
そこでは、「章名・節名をもって見出しに代えさせていただきます」系の見出しがない条文を、「ラーメンのスープ(大)」と「チャーハンについてくるスープ(小)」で喩えてはいるが意味分からんよ、というツッコミをしました。
別の記事だとこれも。
多田望ほか「国際私法 (有斐閣ストゥディア)」 (有斐閣2021)
法人を「ロボット」になぞらえるとか、事例を人間ではなく「猫ちゃん」に置き換えてしまうとかに対しても、イチャモンをつけました。
卑近な喩えなんてあげないで、それ自体の具体例をあげていけば理解してもらえるもののはずです。
面白い(と本人が思うところの)喩えが思いついちゃったら、どうしても披露したくなるのは、とてもよく分かります。畢竟独自の見解を唱えるときなどは、説得力を少しでも水増しするために、喩えを持ち出すこともあるでしょう。
が、既存の概念を正確に理解する場面においては、ひたすら具体例をあげていけばいいのであって。わざわざ卑近な喩えで人心を惑すべきではないでしょう。
もちろんこんなお作法、流派というか美意識の類でしょうから。本書のような「基本インフラ整備の書」に盛り込むようなものではないです。
ちなみに、本書をこのことを意識しながら読んでみましたが。具体例が豊富なのに対し、卑近な喩えは見当たりませんでした。さすが(偉そう)。
◯
「条文見出し」ついでに。
本書では、(公式見出し)と【非公式見出し】があること、【非公式見出し】を解釈に用いてはならない、とされています。
これ自体はそのとおりなのですが。では、(公式見出し)は解釈に用いてもよいのでしょうか。
本書では明言されていません。が、「用いてもよい説」が多数派でしょうか?
私自身は、(公式見出し)であっても解釈に用いるべきではないと思っていて。そのことを強く意識させられたのが、「8割控除」にまつわるお話し。
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版補遺
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版余滴
【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 決定版
8割控除の適用範囲として、税制改正大綱⇒条文見出し⇒旧Q&Aのラインでは「適格請求書発行事業者以外からの課税仕入」とされていました。が、この書きぶり、条文本体の規律の仕方とは全く異なるものです。
条文見出しを使って、どうにか条文本体と異なる帰結をゴリ押ししようとしたけども。最終的には、さすがに内容かけ離れすぎ、ということで、あきらめざるをえなくなった、というのが一連の経緯といえるでしょうか。
このような、条文見出しで条文本体を上塗りしようとする一群の輩を見るにつけ。「条文見出しを解釈に使うのは禁止!本体のみで勝負しろ!」とルール設定としておいたほうが、立案技術の健全な発展が見込まれるのではないかと思います。
もし、なにかの間違えで、裁判所に持ち込まれるようなことがあったとしたら。裁判所、条文見出しを使って《立案ミス尻拭い系の限定解釈》を繰り出してきやがりそうですし。
【過小課税尻拭い判決】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
【過大課税尻拭い判決】
みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)
◯
本書でぜひスタンダードとして整備しておいて欲しかったのが、「借用元/借用先」のような「元/先」の使い分け。
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)
毎回どっちがどっちか分からなくなるので、用法を決め打ちしておいていただけると助かります。
◯
本書では、「普通の人が異なるイメージを持つ例」として、フリーランスが企業Aとの関係では「特定受託事業者」にあたるが、消費者Cらとの関係では「特定受託事業者」に該当しない、というものを挙げられています。普通の人は、場面ごとに人の属性が変わるのは馴染みがないだろうと(そうですかね?)。
フリーランス法に明るくないので、このような事業者該当性の判定の仕方が正しいのかどうか、分かりませんが。僕らの「消費税法」では、これとは明らかに異なる規律の仕方をしています。
消費税法 第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 個人事業者 事業を行う個人をいう。
四 事業者 個人事業者及び法人をいう。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
たとえば、個人事業をやっている人が、「自宅」を売却したらどうなるかというと。
・事業をやっている人なので「事業者」に該当する。
・「事業として」ではないので「資産の譲渡等」に該当しない。
・よって、消費税は課税されない。
となります。
これを「自宅の売却場面では「事業者」にあたらない」としてしまうと、資産の譲渡等の定義の中に「事業として」が組み込まれていることの説明ができなくなってしまいます。
自宅の売却だから「事業者」にはあたらない、のではなく。事業をやっている以上「事業者」であることからは逃れられない、が、「資産の譲渡等」にあたらないから課税されずにすむ、という建付けになっているということです。
課税されないという結論が変わらないんだったら、どっちでもいいじゃん、と思うかもしれません。が、消費税法の中には、「事業者」である、それだけの事実で規律が決定される条項があります。
自宅を売却しようが事務所を売却しようが、「事業者」である以上どちらでも同じ扱いになるとか(そのうち記事化します)。
なので、フリーランス法における「特定受託事業者」と同じノリで、消費税法における「事業者」も理解してしまうと、事故る可能性があります(前者を「相対的主体概念」、後者を「絶対的主体概念」とネーミングしておきます)。
これはどちらが主体概念として正しいか、ということではなく。
フリーランス法はあくまでも個別の業務委託ごとにフリーランスを保護すれば足りる、ということで相対的主体概念を採用した、他方で、消費税法は、事業をやっている、それだけで規律を及ぼしたいものがある、ということで、主体概念には余計な飾りを盛り込まなかった、ということなのでしょう。
フリーランス法における「特定受託事業者」についても、もし今後、個別の業務委託に結び付けずに「特定受託事業者」であること自体で規律を及ぼしたいとか、対消費者との関係でも規律を及ぼしたい、といった事情が生じた場合には、主体概念の調整が必要になるのでしょう。
フリーランス法における「特定受託事業者」が、相対的主体概念なのだとすると。厳密にいえば、委託者A社との関係で該当する「特定受託事業者」(対A)と、委託者Bとの関係で該当する「特定受託事業者」(対B)とは、別モノだということになるのでしょうか。
もちろん、今こんなこと考えてても何の実益もないと思います。が、消費税法におけるような事故を未然に防ぐためには、平素から正確な理解を心がけておくべきでしょう。
◯
以上、余計なことをあれこれ書きましたが。
最初に書いたとおり、法律文章を書く人は全員必読だと思います(俺は全て分かっている、という人は除く)。
各人が『ぼくのかんがえたさいきょうのお作法』を開陳するにしても、本書をベースラインとすれば生産的な議論ができるはずです。
法令について書いた文章を読んでいて、「これ、法曹が書いた文章でないな」とバレるの、これらお作法を踏まえて書いていないからというのが、要因のひとつだったりします。
ので、税理士にかぎらず「それらしい」法律文章を書きたい方は、ぜひ本書記載のお作法を身に着けていただくのがよろしいかと思います。
2024年04月15日
白石忠志「法律文章読本」(弘文堂2024)
posted by ウロ at 09:04| Comment(0)
| 法学入門書探訪
2021年07月26日
宍戸常寿・石川博康編「法学入門」(有斐閣2021)
『法学入門』なるタイトルの書籍、きちんと対象読者を限定すべきだよなあ、とつくづく思う。
宍戸常寿・石川博康編「法学入門」(有斐閣2021) Amazon
○
たとえば、森田果先生の入門書は、法の「機能」面を記述することを徹底していて、前提知識のない高校生でも読めるような内容になっています。
森田果「法学を学ぶのはなぜ?」(有斐閣2020)
今回紹介の本書はというと。
全体として、情報陳列系・単語列挙型といった趣きで、「自分で考える」要素が弱め。少ないページでできるだけ多くの知識を盛り込もうとしているせいで、個々の記述の膨らみが薄い。
【自分で考える系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
「法解釈論」を展開しているのも、解釈手法をご紹介するための例としてあげられている「公園で野球をすることを禁じる。」のところくらい。現行の実定法に即した解釈論というものがほぼ見受けられない。
確かに「法解釈」については、下記のような優れた《入門書》があるので、そちらで勉強したほうが望ましいと思います。
山下純司ほか「法解釈入門 第2版」(有斐閣2020) Amazon
○
本書の構成は次のとおり。
第1章 法とは何か
第2章 法の基本──憲法・民法・刑法・手続法
第3章 法と社会──領域からみる
第4章 法とは何か,再び
第1章は全体の導入だからまあいいとして、第2章がきつい。
次々と法律用語がでてくるのですが、中には用語の定義・内容が書かれていないものがあったり。
こういう所作、入門書では禁忌だと私は思うのですが。ガチの初学者にとっては、かなりのストレスではないかと。
「手続法」の記述なんて、手続図や書式例もなしに延々と専門用語が書き連ねられていて、初学者が理解するには無理がある。これをもって具体的なイメージがつかめるとか、どうして思えるのでしょうか。
「民法」の記述も、第3章の記述と被らないようにするためでしょうか、「契約法+α」といった内容となっていて、民法全体の概観というには断片的。
かといって、学習が進んだ段階の人が読んで益する内容か、といえばそうでもなく。個別法ごとの入門書・基本書を超えるような、何か違った視点を得られる記述が書かれているわけでもありません。
扱う事項を減らさないままページ数だけを圧縮しようとすると、そうならざるをえないのでしょう。『法学入門』の悪い癖。
○
本書でおすすめできる箇所をあげるとしたら、第3章。
ライフサイクル、人々の暮らし、組織、市場、公益実現、情報、グローバル社会といった切り口から、横断的に各種法領域を整理されています。たとえば、地方自治体(憲法・行政法)や株式会社(会社法)などを「組織」という観点から並べて記述するとか。
第3章に関しては、初学者以外の人が読んでも資するものがあると思います。
が、なぜこのような切り口を選択したのか、とか、ほかにどのような切り口があるのか、といったことが説明されていません(分担執筆あるある)。なので、ただただ受動的に、整理済みのものを受け取るだけになりがち。
この切り口の結果だけをみて、自分で新たな切り口を考え出せるのだとしたら、その人はもはやこの本の対象読者からは大きくハズレているでしょうし。
○
第4章は「史」の話。
本書のような入門書の中で「史」をどこに配置するか、といえば最後の最後とすべきことには同意です。
下記入門書で「史」が第2章に配置されていたのは、違和感がありましたし。
南野森「ブリッジブック法学入門(第2版)」(信山社2013)
が、そもそも入門書で「史」にふれるか、ということ自体を問題とすべきです。
仮に、本書第3章までをしっかり読みこんだとして、第4章の内容を理解できるかといえば、たぶん無理。
第4章の記述それ自体は、単純な図式化に警戒的だったりして、とても配慮がなされた内容になっていると思います。が、それが「初学者」に向かっているか、といわれればそうは思えない。
現時の個別法に関する知識が不十分な段階で、それを経時的に広げようというのは無茶でしょうよ。
入門段階で「史」を学習するのならば、論点を大幅に絞り込んで、過去と現在がどうつながっているかを深く論じたほうが、初学者の興味を唆ると思う。
大学のカリキュラム的に、とにかく法学入門に「史」(を浅く広くしたもの)を混入させなければならない、拠ん所ない事情でもあるのでしょうか。
○
ということで、あえてこの本を、法学の学習プロセスの中に組み込みたいということであれば、次のような手順をおすすめしておきます。
1 まず第1章(20頁程度)だけを読む。
(本書から離れる)
2 各個別法ごとの入門書を読む。
3 各個別法ごとの基本書を読む。
(本書に戻る)
4 第3章を読んで、3の知識に「横串」を通す。
(本書から離れる)
5 各個別法の学習に戻って、「横串」を通せるところがないか自分で探してみる。
(本書に戻る)
6 ふと「史」が気になったら、第4章を読んで経時的に知識を広げてみる。
初学者がいきなり通読するには、なかなかしんどい。
なお、第2章については、どの学習段階においても読むべきタイミングが思いつきません。
○
『法学入門』的な書籍、現状私が望む役割は次の3つ。
1 入門書(文字通りの)
前提知識なしでも読み通せる。その後の学習のスターターの役割。
個別法の入門書が自力で読めるようになれればいいのであって、情報陳列は不要。
「スターター」ということでいうと、下記のような書籍も優れた入門書となりえます。
新堂幸司編「社会人のための法学入門」(有斐閣1993) Amazon
落合誠一編「論文から見る現代社会と法」 (有斐閣1995) Amazon
柏木昇編「日本の企業と法」 (有斐閣1996) Amazon
これから大学院に入る他学部出身・社会人向けの講座を書籍化したもののようで、内容は高度め。ので、いきなり読んでもほとんど理解できないはずです。
ですが、何やら法学って面白そう、を感じるには最適な素材ではないかと。
2 中門書(横串本)
各個別法の学習を深める視点の提供。
各個別法ごとの散らばった法知識を一定の視点から整理する役割。
3 出門書
大家の集大成もの。
味読すべきものであって、役割とかそういう俗っぽいものとは別次元。
団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)
「商品表示」という観点からすれば、本来は1のみが入門書の名に値するのでしょう。が、少なくとも単なる制度の概説ものが入門書と名乗らないかぎりは、あえて異論を唱えるつもりはありません。
ただ、123のいずれであるのかは、事前に明記しておいてほしいです。むやみやたらと対象読者を広げることなく。
もちろん、1冊の本の中で役割が分かれていることもあるでしょうが。
宍戸常寿・石川博康編「法学入門」(有斐閣2021) Amazon
○
たとえば、森田果先生の入門書は、法の「機能」面を記述することを徹底していて、前提知識のない高校生でも読めるような内容になっています。
森田果「法学を学ぶのはなぜ?」(有斐閣2020)
今回紹介の本書はというと。
全体として、情報陳列系・単語列挙型といった趣きで、「自分で考える」要素が弱め。少ないページでできるだけ多くの知識を盛り込もうとしているせいで、個々の記述の膨らみが薄い。
【自分で考える系】
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
「法解釈論」を展開しているのも、解釈手法をご紹介するための例としてあげられている「公園で野球をすることを禁じる。」のところくらい。現行の実定法に即した解釈論というものがほぼ見受けられない。
確かに「法解釈」については、下記のような優れた《入門書》があるので、そちらで勉強したほうが望ましいと思います。
山下純司ほか「法解釈入門 第2版」(有斐閣2020) Amazon
○
本書の構成は次のとおり。
第1章 法とは何か
第2章 法の基本──憲法・民法・刑法・手続法
第3章 法と社会──領域からみる
第4章 法とは何か,再び
第1章は全体の導入だからまあいいとして、第2章がきつい。
次々と法律用語がでてくるのですが、中には用語の定義・内容が書かれていないものがあったり。
こういう所作、入門書では禁忌だと私は思うのですが。ガチの初学者にとっては、かなりのストレスではないかと。
「手続法」の記述なんて、手続図や書式例もなしに延々と専門用語が書き連ねられていて、初学者が理解するには無理がある。これをもって具体的なイメージがつかめるとか、どうして思えるのでしょうか。
「民法」の記述も、第3章の記述と被らないようにするためでしょうか、「契約法+α」といった内容となっていて、民法全体の概観というには断片的。
かといって、学習が進んだ段階の人が読んで益する内容か、といえばそうでもなく。個別法ごとの入門書・基本書を超えるような、何か違った視点を得られる記述が書かれているわけでもありません。
扱う事項を減らさないままページ数だけを圧縮しようとすると、そうならざるをえないのでしょう。『法学入門』の悪い癖。
○
本書でおすすめできる箇所をあげるとしたら、第3章。
ライフサイクル、人々の暮らし、組織、市場、公益実現、情報、グローバル社会といった切り口から、横断的に各種法領域を整理されています。たとえば、地方自治体(憲法・行政法)や株式会社(会社法)などを「組織」という観点から並べて記述するとか。
第3章に関しては、初学者以外の人が読んでも資するものがあると思います。
が、なぜこのような切り口を選択したのか、とか、ほかにどのような切り口があるのか、といったことが説明されていません(分担執筆あるある)。なので、ただただ受動的に、整理済みのものを受け取るだけになりがち。
この切り口の結果だけをみて、自分で新たな切り口を考え出せるのだとしたら、その人はもはやこの本の対象読者からは大きくハズレているでしょうし。
○
第4章は「史」の話。
本書のような入門書の中で「史」をどこに配置するか、といえば最後の最後とすべきことには同意です。
下記入門書で「史」が第2章に配置されていたのは、違和感がありましたし。
南野森「ブリッジブック法学入門(第2版)」(信山社2013)
が、そもそも入門書で「史」にふれるか、ということ自体を問題とすべきです。
仮に、本書第3章までをしっかり読みこんだとして、第4章の内容を理解できるかといえば、たぶん無理。
第4章の記述それ自体は、単純な図式化に警戒的だったりして、とても配慮がなされた内容になっていると思います。が、それが「初学者」に向かっているか、といわれればそうは思えない。
現時の個別法に関する知識が不十分な段階で、それを経時的に広げようというのは無茶でしょうよ。
入門段階で「史」を学習するのならば、論点を大幅に絞り込んで、過去と現在がどうつながっているかを深く論じたほうが、初学者の興味を唆ると思う。
大学のカリキュラム的に、とにかく法学入門に「史」(を浅く広くしたもの)を混入させなければならない、拠ん所ない事情でもあるのでしょうか。
○
ということで、あえてこの本を、法学の学習プロセスの中に組み込みたいということであれば、次のような手順をおすすめしておきます。
1 まず第1章(20頁程度)だけを読む。
(本書から離れる)
2 各個別法ごとの入門書を読む。
3 各個別法ごとの基本書を読む。
(本書に戻る)
4 第3章を読んで、3の知識に「横串」を通す。
(本書から離れる)
5 各個別法の学習に戻って、「横串」を通せるところがないか自分で探してみる。
(本書に戻る)
6 ふと「史」が気になったら、第4章を読んで経時的に知識を広げてみる。
初学者がいきなり通読するには、なかなかしんどい。
なお、第2章については、どの学習段階においても読むべきタイミングが思いつきません。
○
『法学入門』的な書籍、現状私が望む役割は次の3つ。
1 入門書(文字通りの)
前提知識なしでも読み通せる。その後の学習のスターターの役割。
個別法の入門書が自力で読めるようになれればいいのであって、情報陳列は不要。
「スターター」ということでいうと、下記のような書籍も優れた入門書となりえます。
新堂幸司編「社会人のための法学入門」(有斐閣1993) Amazon
落合誠一編「論文から見る現代社会と法」 (有斐閣1995) Amazon
柏木昇編「日本の企業と法」 (有斐閣1996) Amazon
これから大学院に入る他学部出身・社会人向けの講座を書籍化したもののようで、内容は高度め。ので、いきなり読んでもほとんど理解できないはずです。
ですが、何やら法学って面白そう、を感じるには最適な素材ではないかと。
2 中門書(横串本)
各個別法の学習を深める視点の提供。
各個別法ごとの散らばった法知識を一定の視点から整理する役割。
3 出門書
大家の集大成もの。
味読すべきものであって、役割とかそういう俗っぽいものとは別次元。
団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)
「商品表示」という観点からすれば、本来は1のみが入門書の名に値するのでしょう。が、少なくとも単なる制度の概説ものが入門書と名乗らないかぎりは、あえて異論を唱えるつもりはありません。
ただ、123のいずれであるのかは、事前に明記しておいてほしいです。むやみやたらと対象読者を広げることなく。
もちろん、1冊の本の中で役割が分かれていることもあるでしょうが。
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| 法学入門書探訪
2021年01月11日
森田果「法学を学ぶのはなぜ?」(有斐閣2020)
むしろなぜ、このような法学入門書が今まで出版されてこなかったのか。
森田果「法学を学ぶのはなぜ?」(有斐閣2020)
なにが「むしろ」なのかといえば、法の「機能」に絞った記述がなされた法学入門書というのが、なぜ今までに出版されていなかったのか、ということです。
大家の総決算系は別として、ほとんどの法学入門書が「知識陳列系」でした。
【総決算系】
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
星野英一「法学入門」(有斐閣2010)
田中成明「法学入門 新版」(有斐閣2016)
五十嵐清「法学入門 第4版 新装版」(日本評論社2017)
全くの前提知識や社会経験がない人を法学に誘おうと思ったら、本書のように徹底して法の機能面を重視した記述することになるはずなのですが。
知識の陳列は、入門したあとの個別の実定法ごとにやればいいわけで。
やはり「法学入門」という名前で出版されている大部分の書籍が、法学部以外の学部で実施されている『法学』という名前の講義用のテキストだから、なんですかね。
○
今までですと、オススメの法学入門書を尋ねられても、それぞれの勉強目的を確認してからでないとお答えしづらいところでした。
これからは、とりあえずこれを読め、ということにします。
総決算系のように「分からない箇所があったら一通り勉強してから再読しましょう」といった注意をすることなく、「前から順番に理解しながら読んでいきなさい」ということができますし。
なお、森田果先生といえば、下記記事でも「機能」重視の書籍を紹介していますね。
小塚荘一郎,森田果『支払決済法 第3版』(商事法務2018)
○
ところで、異様に《胴ロング男子》な表紙イラストはどういう意図なのか。
アマゾン書影だとしっかり帯で隠されていますが、帯をめくっていただくと、頭1個分身長の低い隣の女子と腰の位置が同じで、すごい違和感を味わえますよ。
まさか、そういう仕掛け本ですか。
道垣内正人先生の入門書でもそうでしたが、惹きのある個性的なイラストを載せるノルマでも、あるんですか。
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
まったくの無関係ですが、下記のようなガチの美麗なイラストを表紙にしている法学書もある中で、わざわざ上記のような特色のあるイラストを採用する理由を、ぜひ知りたい。
大島義則「行政法ガール2」(法律文化社2020)
これがおしりたんていさんみたいに、イケメンかつおしり顔であることに物語上意味がある、のであれば分かります。
「なんでおしり顔なんだよ!」などとイチャモンをつけるような野暮なことはいたしません。
トロル「おしりたんてい」(ポプラ社2012)
が、本書では、胴ロング男子がその胴ロングを活かした法解釈を展開する、などといった物語(Tails of Legal Long-Torso)では決してないわけで。
森田果「法学を学ぶのはなぜ?」(有斐閣2020)
なにが「むしろ」なのかといえば、法の「機能」に絞った記述がなされた法学入門書というのが、なぜ今までに出版されていなかったのか、ということです。
大家の総決算系は別として、ほとんどの法学入門書が「知識陳列系」でした。
【総決算系】
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
星野英一「法学入門」(有斐閣2010)
田中成明「法学入門 新版」(有斐閣2016)
五十嵐清「法学入門 第4版 新装版」(日本評論社2017)
全くの前提知識や社会経験がない人を法学に誘おうと思ったら、本書のように徹底して法の機能面を重視した記述することになるはずなのですが。
知識の陳列は、入門したあとの個別の実定法ごとにやればいいわけで。
やはり「法学入門」という名前で出版されている大部分の書籍が、法学部以外の学部で実施されている『法学』という名前の講義用のテキストだから、なんですかね。
○
今までですと、オススメの法学入門書を尋ねられても、それぞれの勉強目的を確認してからでないとお答えしづらいところでした。
これからは、とりあえずこれを読め、ということにします。
総決算系のように「分からない箇所があったら一通り勉強してから再読しましょう」といった注意をすることなく、「前から順番に理解しながら読んでいきなさい」ということができますし。
なお、森田果先生といえば、下記記事でも「機能」重視の書籍を紹介していますね。
小塚荘一郎,森田果『支払決済法 第3版』(商事法務2018)
○
ところで、異様に《胴ロング男子》な表紙イラストはどういう意図なのか。
アマゾン書影だとしっかり帯で隠されていますが、帯をめくっていただくと、頭1個分身長の低い隣の女子と腰の位置が同じで、すごい違和感を味わえますよ。
まさか、そういう仕掛け本ですか。
道垣内正人先生の入門書でもそうでしたが、惹きのある個性的なイラストを載せるノルマでも、あるんですか。
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
まったくの無関係ですが、下記のようなガチの美麗なイラストを表紙にしている法学書もある中で、わざわざ上記のような特色のあるイラストを採用する理由を、ぜひ知りたい。
大島義則「行政法ガール2」(法律文化社2020)
これがおしりたんていさんみたいに、イケメンかつおしり顔であることに物語上意味がある、のであれば分かります。
「なんでおしり顔なんだよ!」などとイチャモンをつけるような野暮なことはいたしません。
トロル「おしりたんてい」(ポプラ社2012)
が、本書では、胴ロング男子がその胴ロングを活かした法解釈を展開する、などといった物語(Tails of Legal Long-Torso)では決してないわけで。
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2021年01月04日
南野森「法学の世界」(日本評論社2019)
法学入門の、ひとつの望ましい形。
南野森編「新版 法学の世界」(日本評論社2019)
各科目10頁程度で、各法領域を専攻する研究者が当該法領域の面白い(と各執筆者が考える)ところを語る、というもの。
概説的な情報の陳列は少なめで、ポイントを絞った記述がメイン。
こういうコンセプトこそが、文字通りの『入門』と呼ぶにふさわしい。
のに、タイトルに「入門」を入れていないのは、既存の、情報陳列系の『法学入門』とは一緒にされたくない、ということですかね。タイトル汚染されてしまっているということで。
○
人によって面白いと感じる科目は違うと思うので、通読はせずに気になるところから拾い読み、でいいと思います。
で、面白そうな科目があれば、当該科目を履修選択するなりして深く学んでみるとか。
あるいは、すでに選択してしまった、とか必須科目だが面白さが分からない、といった科目を読んでみたり。
○
ただし、法学が厄介なのは、教える人によって面白い/つまらないが大きく可変すること。
なので、誰から教わるか(誰の本を読むか)が極めて重要。
科目の特性、というものもあるのでしょうが、どちらかというと、専ら、教えてくれる人に依存しているように感じます。
この本読んで「○○法、面白そうだな。」と思っても、自分の大学の授業はそれほどでもなかったり、とかはいくらでもありうる。
本書には「学習ガイド・文献案内」もあるので、一応のルートは示してくれています。
が、総じてレベルが高めなので、段階的学習にはなりにくい。
旧版と新版で執筆者をごっそり入れ替えているのは、同じ科目でも執筆者が変わればそれが刺さる人も変わってくる、というのもあるんでしょうね(ただし、全とっかえではない)。
南野森編「法学の世界」(日本評論社2013)
○
このようなコンセプトからすると、どう考えても「一見さんお断り」感を出しすぎな科目があるのはどう捉えればいいのか。
これは「一見さんお断り」な感じを逆に面白いと感じる人を選び出す儀式(Initiation)でしょうか。
うっかり軽い気持ちで科目選択してしまうのを予め防いでくれていると。
科目選択におけるミスマッチ、どちら側にとっても不幸ですからね。
そういうゲートとして機能させる、ということであれば、それもある意味で「入門」と呼んでもよいのかもしれません。
むしろ「門」というのはそういうものですか。
○
個人的には、「刑事訴訟法」(緑大輔先生執筆)のところが気になりました。
たまたま、鴨良弼先生の『刑事訴訟における技術と倫理』を読んだばかりだったのですが、唐突に同書が引用されていました。
鴨良弼「刑事訴訟における技術と倫理」(日本評論社1964)
同書(所収の論文)は、刑事訴訟に倫理や信義則を導入して訴訟当事者の関係を規律しようというものです。
出版は56年前。
当然のことながら、鴨先生ご自身の問題意識は、当時の問題を解決しようということにあるのでしょう。
この考えを現代にもってきたらどうなんだろう、とかいうことを妄想していたら、いきなり紹介がされていたのでびっくり。
まさか入門書に鴨先生の著書が出てくるとは思わないじゃないですか。
というか、教科書や体系書にだって、こういう基礎理論系の議論はほとんど出てこない気がしますし。
刑事訴訟法は、緑先生ご自身の入門書があるので、次に読むべき本が明確ですね。
緑大輔「刑事訴訟法入門 第2版」(日本評論社2017)
○
「刑法」(和田俊憲先生執筆)では、刑法学における想像・妄想の重要性が説かれています。
おっしゃるとおりで、読み物としても、過去の裁判例の分析ばかりが展開されたものよりも、限界事例(あるいは限界はみ出た事例)についてあれこれ検討したもののほうが、面白いと感じるはずです。
それが実務で役に立つかといわれれば、「直近では」役に立たない、というだけでしょう。
和田先生も、ご自身の入門書がありますね。
和田俊憲「どこでも刑法 #総論」(有斐閣2019)
辰井聡子 和田俊憲「刑法ガイドマップ(総論)」(信山社2019)
○
「労働法」(大内伸哉先生執筆)では、これからの労働構造の変革を見据えると(旧来の)労働法の展望は明るくないよ、といった趣旨のことがぶっちゃけられています。
各科目への勧誘とすべきはずの入門書でそれ書いちゃいますか、と思わなくもないですが、変に良いところだけを強調するよりも、現実を教えてくれるのは誠実なのかもしれません。
○
「国際私法」(横溝大先生執筆)では、石黒一憲先生と道垣内正人先生の著書を対比させながら読め、ということが書いてあるのですが、もう少し対比させるための補助線を書いておいてほしいところ。
私自身もまさにそういう入り方をしたのですが、ほとんど前進できていないわけで。
野村美明『新・ケースで学ぶ国際私法』(法律文化社2020)
○
ちなみに「租税法」(神山弘行先生執筆)は比較的堅実。
具体例や数字が全然出てこないので、特色らしい特色を感じにくいかもしれません。
なお、私自身の考えは「数字」の中にこそ税法の面白さが詰まっている、というのが持論。
三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
南野森編「新版 法学の世界」(日本評論社2019)
各科目10頁程度で、各法領域を専攻する研究者が当該法領域の面白い(と各執筆者が考える)ところを語る、というもの。
概説的な情報の陳列は少なめで、ポイントを絞った記述がメイン。
こういうコンセプトこそが、文字通りの『入門』と呼ぶにふさわしい。
のに、タイトルに「入門」を入れていないのは、既存の、情報陳列系の『法学入門』とは一緒にされたくない、ということですかね。タイトル汚染されてしまっているということで。
○
人によって面白いと感じる科目は違うと思うので、通読はせずに気になるところから拾い読み、でいいと思います。
で、面白そうな科目があれば、当該科目を履修選択するなりして深く学んでみるとか。
あるいは、すでに選択してしまった、とか必須科目だが面白さが分からない、といった科目を読んでみたり。
○
ただし、法学が厄介なのは、教える人によって面白い/つまらないが大きく可変すること。
なので、誰から教わるか(誰の本を読むか)が極めて重要。
科目の特性、というものもあるのでしょうが、どちらかというと、専ら、教えてくれる人に依存しているように感じます。
この本読んで「○○法、面白そうだな。」と思っても、自分の大学の授業はそれほどでもなかったり、とかはいくらでもありうる。
本書には「学習ガイド・文献案内」もあるので、一応のルートは示してくれています。
が、総じてレベルが高めなので、段階的学習にはなりにくい。
旧版と新版で執筆者をごっそり入れ替えているのは、同じ科目でも執筆者が変わればそれが刺さる人も変わってくる、というのもあるんでしょうね(ただし、全とっかえではない)。
南野森編「法学の世界」(日本評論社2013)
○
このようなコンセプトからすると、どう考えても「一見さんお断り」感を出しすぎな科目があるのはどう捉えればいいのか。
これは「一見さんお断り」な感じを逆に面白いと感じる人を選び出す儀式(Initiation)でしょうか。
うっかり軽い気持ちで科目選択してしまうのを予め防いでくれていると。
科目選択におけるミスマッチ、どちら側にとっても不幸ですからね。
そういうゲートとして機能させる、ということであれば、それもある意味で「入門」と呼んでもよいのかもしれません。
むしろ「門」というのはそういうものですか。
○
個人的には、「刑事訴訟法」(緑大輔先生執筆)のところが気になりました。
たまたま、鴨良弼先生の『刑事訴訟における技術と倫理』を読んだばかりだったのですが、唐突に同書が引用されていました。
鴨良弼「刑事訴訟における技術と倫理」(日本評論社1964)
同書(所収の論文)は、刑事訴訟に倫理や信義則を導入して訴訟当事者の関係を規律しようというものです。
出版は56年前。
当然のことながら、鴨先生ご自身の問題意識は、当時の問題を解決しようということにあるのでしょう。
この考えを現代にもってきたらどうなんだろう、とかいうことを妄想していたら、いきなり紹介がされていたのでびっくり。
まさか入門書に鴨先生の著書が出てくるとは思わないじゃないですか。
というか、教科書や体系書にだって、こういう基礎理論系の議論はほとんど出てこない気がしますし。
刑事訴訟法は、緑先生ご自身の入門書があるので、次に読むべき本が明確ですね。
緑大輔「刑事訴訟法入門 第2版」(日本評論社2017)
○
「刑法」(和田俊憲先生執筆)では、刑法学における想像・妄想の重要性が説かれています。
おっしゃるとおりで、読み物としても、過去の裁判例の分析ばかりが展開されたものよりも、限界事例(あるいは限界はみ出た事例)についてあれこれ検討したもののほうが、面白いと感じるはずです。
それが実務で役に立つかといわれれば、「直近では」役に立たない、というだけでしょう。
和田先生も、ご自身の入門書がありますね。
和田俊憲「どこでも刑法 #総論」(有斐閣2019)
辰井聡子 和田俊憲「刑法ガイドマップ(総論)」(信山社2019)
○
「労働法」(大内伸哉先生執筆)では、これからの労働構造の変革を見据えると(旧来の)労働法の展望は明るくないよ、といった趣旨のことがぶっちゃけられています。
各科目への勧誘とすべきはずの入門書でそれ書いちゃいますか、と思わなくもないですが、変に良いところだけを強調するよりも、現実を教えてくれるのは誠実なのかもしれません。
○
「国際私法」(横溝大先生執筆)では、石黒一憲先生と道垣内正人先生の著書を対比させながら読め、ということが書いてあるのですが、もう少し対比させるための補助線を書いておいてほしいところ。
私自身もまさにそういう入り方をしたのですが、ほとんど前進できていないわけで。
野村美明『新・ケースで学ぶ国際私法』(法律文化社2020)
○
ちなみに「租税法」(神山弘行先生執筆)は比較的堅実。
具体例や数字が全然出てこないので、特色らしい特色を感じにくいかもしれません。
なお、私自身の考えは「数字」の中にこそ税法の面白さが詰まっている、というのが持論。
三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)
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2020年11月09日
太田勝造「AI時代の法学入門 学際的アプローチ」(弘文堂2020)
※以下は、タイトルに釣られて買ったことと私の理解力のなさを自白する文章で構成されています(予め予防線)。
太田勝造「AI時代の法学入門 学際的アプローチ」(弘文堂2020)
タイトルに「AI」が入り込んでいるものの、テーマを「AIと法」に絞っているわけではありません。
用法としては、「縄文時代」とか「ダルビッシュ世代」などと同じ意味合い。
あくまでもその時代を代表するもののひとつをあげているだけ。
土器だけがあの時代の文化的特徴ではないし、あの世代がみなダルビッシュ投手のような選手ではないし。
散開感という意味では、一昔前の『現代法学入門』などといったお堅めの本と同じ風。
『現代』の部分を今様の流行りワードに入れ替えてみた、といった感じの。
が、法学入門で「税込2,860円」という価格設定はお高め。
もちろん、これだけ高度な内容からすればこれでも安いくらいだ、という自己評価はあるかとは思います。
ですが、そもそも高度な内容であること自体、法学にほんのり興味をもった人が読めるものではない。
昨今のリモート学習環境ならば、指定教科書として買わざるを得ないであろうことを見越してなのか、そうなのか(先輩お下がり市場及び図書館コピー文化の壊滅的状況を想起せよ)。
法学研究書考 〜部門別損益分析論
○
本書は、従来の法学を「条文と判例の丸暗記」とサゲて、他分野の成果を取り込むべきだというところから始まります。
これ、かつての《法と経済学》が流行りだしたころのノリを彷彿とさせる(以下、従来の法学を「従来型」といいます)。
そのノリというのは、従来型を不合理だとサゲた上で、経済学内の道具立てで説明できない法制度は間違い!という勢いだったかと。
私自身は最初からリアルタイムで体験したわけではないですが、出始めの頃を述懐した文章などを読むと、そういう印象を受けました。
で、そのうち両分野を内在的に理解できる頭のいい人が現れてくると、そのような一方的な主張が緩和されてきて、従来型を活かしつつうまく取り入れられるようになると。
結果、今となっては会社法などいくつかの分野で経済学の道具立てが取り入れられつつも、未だ、従来型の根幹の部分がごっそり入れ変わったわけではない。
また、サブタイトルにある『学際的』という旗振り用語で私が思い出すのは、かつての「システム論」「システム理論」を法学に取り入れようという試み。
個人的には、とてもおもしろそうだと思ったんですが、今どうなっているんですかね。
T.エックホフ、 N.K.ズンドビー 「法システム―法理論へのアプローチ」(ミネルヴァ書房1997)
という感じで、他分野の成果を取り入れよう、という試みは過去何度も繰り返されているものの、従来型の枠組みが大幅に影響を受けることはなかった、というのが私の見立て。
「法政策学」なんて、いまだに平井宜雄先生の教科書にとってかわるような教科書が出てきませんし。
平井宜雄「法政策学 法制度設計の理論と技法」(有斐閣1995)
もちろん、個別論文のレベルでは展開されているのかもしれません。が、「教科書」レベルでどれくらい出てくるか、というのが一つの目安ではあろうかと思います。
まさに、会社法だと教科書レベルでも「法と経済学」のアプローチが結構な割合で展開されているわけで。
○
本書でも、あれこれ他分野のご紹介がされているのですが、現状の法実務の運用にどのように関わってくるのかがあまり見えてこない。
すでにできあがっている建物を目の前にしながら「これよりも他にこんなに素晴らしい『建材』があるんですよ!」と、次々と建材の性能だけのセールストークを聞かされている感じ。
どんなに既存の建材よりも優れていたとしても、それを従来の建物に組み込むには一部修繕だけですむのか、それとも全面的な建替えが必要なのかといった、従来の建物との関係を説明してもらえないと、実際にそれを採用するかの判断ができないですよね。
もちろん、それが専門業者の集まる建材見本市での話ならばそれで全く問題はないでしょう。
が、一般消費者向けのフェアでそんな売り方してたらどうなるのさ、という話です。
突飛な例え話をもって、私が何を問題視しているかといえば、タイトルに『法学入門』と冠していること。
従来型の入口に擬態して、全く違う方向に連れて行こうとしている。
この手の本は、あくまでも『アナザー』であって、法学入門者がいきなり読むものではない、というのが私の見立て。
FFのXをやらずにいきなりX-2からやらせるかよ、という話。
ファイナルファンタジーX/X-2 HD Remaster
今ならセットで買えるので安心。
○
従来型を「海外の法制度・法学者の議論の紹介どまり」とディスりながら、本書でも同じようなノリで他分野のご紹介が展開されている(と私は感じました)。
法学の内か外かの違いはあれど、《ご紹介感》が強いのは共通。
また、従来型を「条文と判例の丸暗記」だと批判するものの、それ以上に詳しく説明しないまま「学際的」のほうのご紹介へ進んでしまいます。
『守破離』でいうところの、いきなり『離』からはじめるやつ。
あるいは、具象画から始めずにいきなり抽象画を描き出すみたいな。
が、従来型に問題があるのならば、一旦はそれを内在的に理解するというプロセスが必要でしょう。
でないと、従来型の何が問題で、そして「学際的」の何が優れているのかも理解できない。
従来型がどんなにイケてないにしても、みんながそれに倣って長いこと実務運用をしてきたわけです。
そのような積み重ねによる実績があること、それ自体に法的安定性という価値があるわけで。
「王様は裸だー!」と暴露したとして、そもそも裸でいることが問題である、という共通理解が存在していなければ、その暴露は成り立ちません。
さすがに裸だと喩えとして適切でないとすれば、「王様はお焦げ好きだー!」でもいいです。
お焦げをどれだけ食べると体に悪いのか、そして王様はどれだけお焦げを食べているのか、といった前提事実が分からなければ、それがどれだけ問題なのか明らかになりません。
もし仮に問題があるということで王様を失脚させたとして、そのあとの統治をどうするのか、ということも問題になります。
お焦げ好きでもさしあたり統治がうまくいっているのならば、わざわざ現状をひっくり返す必要もないだろうと。
「自然権」なるものの実在を証明できなくても、そのほうがみんなが納得できるというならば、そういう説明も残しておく、という戦略的判断もあるわけだし(王様の喩えが突飛なので、法学っぽい話に戻しました)。
【インセンティブ論×自然権論】
田村善之「知財の理論」(有斐閣2019)
過去これまでの「学際的アプローチ」によるチャレンジが、法学の根幹を突き崩すところまでいっていないのは、既存の価値を捨ててまで取って代わるだけのメリットがみえていないからではないのか。
○
従来型の法学入門をディスっているものの、この浅く広くの紹介の仕方、憲法・民法・刑法〜といった感じで代表的な法分野を概観していく概説書とあまり変わらないじゃん。
今どきは、ポイントを絞って初学者に興味を持たれるような構成にしている法学入門もあるわけです。
のに、わざわざ従来型の法学入門の構成に倣うという謎の所作。
やはり共著は避けたほうが無難、という知見がまたしても積み重なっていく。
○
以上、ここまでの論難は、あくまでもタイトルに「法学入門」を入れ込んだことに対するものです。
中身はそのままで、アナザー、オルタナティブであることがわかるタイトルになっていてくれれば、我々《入門書警察》が出動することはありませんでした。
専門書が売れない昨今だからこそ、売らんがな系のタイトルや宣伝文句には厳しい目を向けざるをえない。
【宣伝文句問題】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
高木
他方で、団藤重光先生のようにタイトルロンダリングしておいてくれれば、入門書警察的にはセーフ。
団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)
○
皆様が本書のタイトルをみて期待したことをそのまま実現したいならば、小塚壮一郎先生の新書を読むことをオススメしておきます。
小塚荘一郎「AIの時代と法 (岩波新書) 」(岩波書店2019)
太田勝造「AI時代の法学入門 学際的アプローチ」(弘文堂2020)
タイトルに「AI」が入り込んでいるものの、テーマを「AIと法」に絞っているわけではありません。
用法としては、「縄文時代」とか「ダルビッシュ世代」などと同じ意味合い。
あくまでもその時代を代表するもののひとつをあげているだけ。
土器だけがあの時代の文化的特徴ではないし、あの世代がみなダルビッシュ投手のような選手ではないし。
散開感という意味では、一昔前の『現代法学入門』などといったお堅めの本と同じ風。
『現代』の部分を今様の流行りワードに入れ替えてみた、といった感じの。
が、法学入門で「税込2,860円」という価格設定はお高め。
もちろん、これだけ高度な内容からすればこれでも安いくらいだ、という自己評価はあるかとは思います。
ですが、そもそも高度な内容であること自体、法学にほんのり興味をもった人が読めるものではない。
昨今のリモート学習環境ならば、指定教科書として買わざるを得ないであろうことを見越してなのか、そうなのか(先輩お下がり市場及び図書館コピー文化の壊滅的状況を想起せよ)。
法学研究書考 〜部門別損益分析論
○
本書は、従来の法学を「条文と判例の丸暗記」とサゲて、他分野の成果を取り込むべきだというところから始まります。
これ、かつての《法と経済学》が流行りだしたころのノリを彷彿とさせる(以下、従来の法学を「従来型」といいます)。
そのノリというのは、従来型を不合理だとサゲた上で、経済学内の道具立てで説明できない法制度は間違い!という勢いだったかと。
私自身は最初からリアルタイムで体験したわけではないですが、出始めの頃を述懐した文章などを読むと、そういう印象を受けました。
で、そのうち両分野を内在的に理解できる頭のいい人が現れてくると、そのような一方的な主張が緩和されてきて、従来型を活かしつつうまく取り入れられるようになると。
結果、今となっては会社法などいくつかの分野で経済学の道具立てが取り入れられつつも、未だ、従来型の根幹の部分がごっそり入れ変わったわけではない。
また、サブタイトルにある『学際的』という旗振り用語で私が思い出すのは、かつての「システム論」「システム理論」を法学に取り入れようという試み。
個人的には、とてもおもしろそうだと思ったんですが、今どうなっているんですかね。
T.エックホフ、 N.K.ズンドビー 「法システム―法理論へのアプローチ」(ミネルヴァ書房1997)
という感じで、他分野の成果を取り入れよう、という試みは過去何度も繰り返されているものの、従来型の枠組みが大幅に影響を受けることはなかった、というのが私の見立て。
「法政策学」なんて、いまだに平井宜雄先生の教科書にとってかわるような教科書が出てきませんし。
平井宜雄「法政策学 法制度設計の理論と技法」(有斐閣1995)
もちろん、個別論文のレベルでは展開されているのかもしれません。が、「教科書」レベルでどれくらい出てくるか、というのが一つの目安ではあろうかと思います。
まさに、会社法だと教科書レベルでも「法と経済学」のアプローチが結構な割合で展開されているわけで。
○
本書でも、あれこれ他分野のご紹介がされているのですが、現状の法実務の運用にどのように関わってくるのかがあまり見えてこない。
すでにできあがっている建物を目の前にしながら「これよりも他にこんなに素晴らしい『建材』があるんですよ!」と、次々と建材の性能だけのセールストークを聞かされている感じ。
どんなに既存の建材よりも優れていたとしても、それを従来の建物に組み込むには一部修繕だけですむのか、それとも全面的な建替えが必要なのかといった、従来の建物との関係を説明してもらえないと、実際にそれを採用するかの判断ができないですよね。
もちろん、それが専門業者の集まる建材見本市での話ならばそれで全く問題はないでしょう。
が、一般消費者向けのフェアでそんな売り方してたらどうなるのさ、という話です。
突飛な例え話をもって、私が何を問題視しているかといえば、タイトルに『法学入門』と冠していること。
従来型の入口に擬態して、全く違う方向に連れて行こうとしている。
この手の本は、あくまでも『アナザー』であって、法学入門者がいきなり読むものではない、というのが私の見立て。
FFのXをやらずにいきなりX-2からやらせるかよ、という話。
ファイナルファンタジーX/X-2 HD Remaster
今ならセットで買えるので安心。
○
従来型を「海外の法制度・法学者の議論の紹介どまり」とディスりながら、本書でも同じようなノリで他分野のご紹介が展開されている(と私は感じました)。
法学の内か外かの違いはあれど、《ご紹介感》が強いのは共通。
また、従来型を「条文と判例の丸暗記」だと批判するものの、それ以上に詳しく説明しないまま「学際的」のほうのご紹介へ進んでしまいます。
『守破離』でいうところの、いきなり『離』からはじめるやつ。
あるいは、具象画から始めずにいきなり抽象画を描き出すみたいな。
が、従来型に問題があるのならば、一旦はそれを内在的に理解するというプロセスが必要でしょう。
でないと、従来型の何が問題で、そして「学際的」の何が優れているのかも理解できない。
従来型がどんなにイケてないにしても、みんながそれに倣って長いこと実務運用をしてきたわけです。
そのような積み重ねによる実績があること、それ自体に法的安定性という価値があるわけで。
「王様は裸だー!」と暴露したとして、そもそも裸でいることが問題である、という共通理解が存在していなければ、その暴露は成り立ちません。
さすがに裸だと喩えとして適切でないとすれば、「王様はお焦げ好きだー!」でもいいです。
お焦げをどれだけ食べると体に悪いのか、そして王様はどれだけお焦げを食べているのか、といった前提事実が分からなければ、それがどれだけ問題なのか明らかになりません。
もし仮に問題があるということで王様を失脚させたとして、そのあとの統治をどうするのか、ということも問題になります。
お焦げ好きでもさしあたり統治がうまくいっているのならば、わざわざ現状をひっくり返す必要もないだろうと。
「自然権」なるものの実在を証明できなくても、そのほうがみんなが納得できるというならば、そういう説明も残しておく、という戦略的判断もあるわけだし(王様の喩えが突飛なので、法学っぽい話に戻しました)。
【インセンティブ論×自然権論】
田村善之「知財の理論」(有斐閣2019)
過去これまでの「学際的アプローチ」によるチャレンジが、法学の根幹を突き崩すところまでいっていないのは、既存の価値を捨ててまで取って代わるだけのメリットがみえていないからではないのか。
○
従来型の法学入門をディスっているものの、この浅く広くの紹介の仕方、憲法・民法・刑法〜といった感じで代表的な法分野を概観していく概説書とあまり変わらないじゃん。
今どきは、ポイントを絞って初学者に興味を持たれるような構成にしている法学入門もあるわけです。
のに、わざわざ従来型の法学入門の構成に倣うという謎の所作。
やはり共著は避けたほうが無難、という知見がまたしても積み重なっていく。
○
以上、ここまでの論難は、あくまでもタイトルに「法学入門」を入れ込んだことに対するものです。
中身はそのままで、アナザー、オルタナティブであることがわかるタイトルになっていてくれれば、我々《入門書警察》が出動することはありませんでした。
専門書が売れない昨今だからこそ、売らんがな系のタイトルや宣伝文句には厳しい目を向けざるをえない。
【宣伝文句問題】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
高木
他方で、団藤重光先生のようにタイトルロンダリングしておいてくれれば、入門書警察的にはセーフ。
団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)
○
皆様が本書のタイトルをみて期待したことをそのまま実現したいならば、小塚壮一郎先生の新書を読むことをオススメしておきます。
小塚荘一郎「AIの時代と法 (岩波新書) 」(岩波書店2019)
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| 法学入門書探訪
2020年03月23日
南野森「ブリッジブック法学入門(第3版)」(信山社2022)
※以下は第2版(2013)の書評です。
この本、「“一風変わった”法学入門」と自称されていて、確かにそうなっていました。
南野森「ブリッジブック法学入門 第3版」(信山社2022)
編者は憲法学者の南野森先生。
以前、トロペール先生の翻訳書を記事にしたことがあります。
ミシェル・トロペール(南野森訳)「リアリズムの法解釈理論」(勁草書房2013)
○
目次をあげると次の通り。
T 法学の基礎
第1章 法と法学
第2章 法と法学の歴史
第3章 法律と法体系
第4章 裁判制度とその役割
第5章 判例の読み方
U 法学の展開
第6章 違憲審査制と国法秩序
第7章 保証人とその保護
第8章 会社とその利害関係者
第9章 民事訴訟における主張共通の原則
第10章 刑罰権の濫用防止と厳罰化
第11章 刑事訴訟の存在意義
第12章 社会保障法による医療の保障
第13章 著作権保護と表現の自由
前半が一応、一般的な法学入門で触れられる基礎知識の部分になっています。
通常の授業でも使えるように、ということでのアリバイ的な記述に思えなくもない(邪推)。
ただし、南野先生執筆の第1章は、上記のトロペール先生の考えがバックグラウンドにあってとても読み応えあるので、とりあえずこの章だけでも目を通しておくといいと思います。
で、後半が「論文」と言われているとおり、かなり突っ込んだ内容になっています。
法学に興味をもってもらう、という趣旨では、こういう構成いいと思いました。
が、前半で得た基礎知識だけで後半が読みこなせるか、というと難しい。
学習過程を三段階に分けることってよくあると思いますが、「二段階目」が抜けているイメージ。
【三部構成】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)
ので、後半読んでみて難しそうなら他の本に移って、しばらくしてから戻ってくる、という読み方がいいかもしれません。
○
こういうコンセプトの本読んでみて、思い出したのが下記の本。
落合 誠一編「論文から見る現代社会と法」(有斐閣1995)
論文執筆者が自分の書いた論文の解説を通して、各法分野の説明をするというもの。
社会人から入学した大学院生向けの導入講義を書籍化したもののようです。
この講義用の論文ではなく、もともとどこかの学術誌に発表したガチの論文を題材にしているので、内容は濃い。のですが、法学部以外の出身者を対象としていて法学の知識は前提としていないので、入門書として読んでもよさそう。
ただ、それなりの社会人経験もあるということは前提でしょうから、まっさらな学生さんがいきなり読むのは、それはそれで大変かも。
○
さて、話は戻って、この本を入門書として捉えたときに気になるのが、「法制史」にふれた第2章。
たとえば、「インスティテュシオン(法学提要)体系」とか「パンデクテン(学説彙纂)体系」とかって単語が書いてあるのに、その意味がどこにも書いていない。
法制史の記述って、紙幅が限られているとどうしても単語の羅列になりがちではありますが、まあ不親切。
限られた紙幅で法制史を記述するならば、たとえば、
・この本の他の章を法制史の観点から経時的にみることで立体的に展開する
とか、
・仮想通貨みたいな今どきの論点を法制史の観点から分析してみることで法制史の勉強にどんな意味があるのか理解する
とか、ポイントを絞って記述したほうがいいと思うんですけども。
ちなみに、上記2つの単語について、たまたま平行して読んでいた篠塚昭次先生の入門書では、「オープンリール式」と「カセットテープ式」などと喩えられていました。
さすがに時代を感じさせる喩えで、今となっては理解できるのはオールドオーディオマニアくらいでしょう(当時も?。
ですが、初学者(当時の)に理解してもらおうという親切心、読んでいて安心するわけです。
篠塚昭次「民法 よみかたとしくみ」(有斐閣1992)
なお、「法学入門」の法制史の記述で私が一番よかったと感じたのが、三ケ月章先生のもの。
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
過去の西欧から明治の日本法に到達するまでの、流れるような記述が素敵。
この本、「“一風変わった”法学入門」と自称されていて、確かにそうなっていました。
南野森「ブリッジブック法学入門 第3版」(信山社2022)
編者は憲法学者の南野森先生。
以前、トロペール先生の翻訳書を記事にしたことがあります。
ミシェル・トロペール(南野森訳)「リアリズムの法解釈理論」(勁草書房2013)
○
目次をあげると次の通り。
T 法学の基礎
第1章 法と法学
第2章 法と法学の歴史
第3章 法律と法体系
第4章 裁判制度とその役割
第5章 判例の読み方
U 法学の展開
第6章 違憲審査制と国法秩序
第7章 保証人とその保護
第8章 会社とその利害関係者
第9章 民事訴訟における主張共通の原則
第10章 刑罰権の濫用防止と厳罰化
第11章 刑事訴訟の存在意義
第12章 社会保障法による医療の保障
第13章 著作権保護と表現の自由
前半が一応、一般的な法学入門で触れられる基礎知識の部分になっています。
通常の授業でも使えるように、ということでのアリバイ的な記述に思えなくもない(邪推)。
ただし、南野先生執筆の第1章は、上記のトロペール先生の考えがバックグラウンドにあってとても読み応えあるので、とりあえずこの章だけでも目を通しておくといいと思います。
で、後半が「論文」と言われているとおり、かなり突っ込んだ内容になっています。
法学に興味をもってもらう、という趣旨では、こういう構成いいと思いました。
が、前半で得た基礎知識だけで後半が読みこなせるか、というと難しい。
学習過程を三段階に分けることってよくあると思いますが、「二段階目」が抜けているイメージ。
【三部構成】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)
ので、後半読んでみて難しそうなら他の本に移って、しばらくしてから戻ってくる、という読み方がいいかもしれません。
○
こういうコンセプトの本読んでみて、思い出したのが下記の本。
落合 誠一編「論文から見る現代社会と法」(有斐閣1995)
論文執筆者が自分の書いた論文の解説を通して、各法分野の説明をするというもの。
社会人から入学した大学院生向けの導入講義を書籍化したもののようです。
この講義用の論文ではなく、もともとどこかの学術誌に発表したガチの論文を題材にしているので、内容は濃い。のですが、法学部以外の出身者を対象としていて法学の知識は前提としていないので、入門書として読んでもよさそう。
ただ、それなりの社会人経験もあるということは前提でしょうから、まっさらな学生さんがいきなり読むのは、それはそれで大変かも。
○
さて、話は戻って、この本を入門書として捉えたときに気になるのが、「法制史」にふれた第2章。
たとえば、「インスティテュシオン(法学提要)体系」とか「パンデクテン(学説彙纂)体系」とかって単語が書いてあるのに、その意味がどこにも書いていない。
法制史の記述って、紙幅が限られているとどうしても単語の羅列になりがちではありますが、まあ不親切。
限られた紙幅で法制史を記述するならば、たとえば、
・この本の他の章を法制史の観点から経時的にみることで立体的に展開する
とか、
・仮想通貨みたいな今どきの論点を法制史の観点から分析してみることで法制史の勉強にどんな意味があるのか理解する
とか、ポイントを絞って記述したほうがいいと思うんですけども。
ちなみに、上記2つの単語について、たまたま平行して読んでいた篠塚昭次先生の入門書では、「オープンリール式」と「カセットテープ式」などと喩えられていました。
さすがに時代を感じさせる喩えで、今となっては理解できるのはオールドオーディオマニアくらいでしょう(当時も?。
ですが、初学者(当時の)に理解してもらおうという親切心、読んでいて安心するわけです。
篠塚昭次「民法 よみかたとしくみ」(有斐閣1992)
なお、「法学入門」の法制史の記述で私が一番よかったと感じたのが、三ケ月章先生のもの。
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
過去の西欧から明治の日本法に到達するまでの、流れるような記述が素敵。
posted by ウロ at 11:51| Comment(0)
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2019年11月11日
伊藤正己「近代法の常識」(有信堂1992)
極めてオーソドックスな法学入門書。
伊藤正己「近代法の常識」(有信堂1992)
目次を書き出してみると、
1 法と常識
2 法学という学問
3 法とは何か
4 法と道徳
5 法と強制
6 成文法
7 慣習法
8 判例法
9 学説と条理
10 市民法と社会法
11 権利と義務
12 権利の主体と客体
13 むすび
といった感じ。
法の基礎理論として扱われる領域が一通り網羅されています。
基礎理論ものは、どうしても記述が抽象的になりがちなところ、具体例多めなので初学者でも理解しやすいと思います。
伊藤正己先生といえば、以下の本が有名ですかね。
伊藤正己「憲法」(弘文堂1995)
伊藤正己「裁判官と学者の間」(有斐閣2001)
特に後者は名著だと思いますが、オンデマンド版で買うかアマゾンマケプレのクレプラで買うか、お気軽に買えないのが残念。
憲法の体系書のほうは、伊藤先生が最高裁判事になって忙しくなったので、ということで、戸松秀典先生が一部執筆に加わっているとのこと。
戸松秀典「憲法」(弘文堂2015)
伊藤正己「近代法の常識」(有信堂1992)
目次を書き出してみると、
1 法と常識
2 法学という学問
3 法とは何か
4 法と道徳
5 法と強制
6 成文法
7 慣習法
8 判例法
9 学説と条理
10 市民法と社会法
11 権利と義務
12 権利の主体と客体
13 むすび
といった感じ。
法の基礎理論として扱われる領域が一通り網羅されています。
基礎理論ものは、どうしても記述が抽象的になりがちなところ、具体例多めなので初学者でも理解しやすいと思います。
伊藤正己先生といえば、以下の本が有名ですかね。
伊藤正己「憲法」(弘文堂1995)
伊藤正己「裁判官と学者の間」(有斐閣2001)
特に後者は名著だと思いますが、オンデマンド版で買うかアマゾンマケプレのクレプラで買うか、お気軽に買えないのが残念。
憲法の体系書のほうは、伊藤先生が最高裁判事になって忙しくなったので、ということで、戸松秀典先生が一部執筆に加わっているとのこと。
戸松秀典「憲法」(弘文堂2015)
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2019年04月01日
団藤重光「法学の基礎」(有斐閣2007)
ふと思い立って、団藤重光先生の『新刑事訴訟法綱要』を読んでみました。
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)
団藤重光「新刑事訴訟法綱要 七訂版」(創文社1967)
平野龍一先生に徹底的に批判し尽くされた後の学説状況しか知らなかったので、今まで手が出ずにいたところ。
平野龍一「刑事訴訟法(法律学全集)」(有斐閣1958)
読んだ印象としては、そこまで糾問的でも職権主義的でもないかなあと。
「基礎理論」から出発して法解釈論が始まるので、人権保障の観点からは不徹底だって評価になるんでしょうけども。
1967年で改訂止まってしまっていますが、このあとに最高裁判事に就任されているので(1974-1983)、もしその後改訂されていれば、また違った様相になっていたかもしれない。残念。
○
しかし、こういう名著が再版もされずに埋もれてしまうの、極めて大きな損失だと思うんですけど。
著者も出版社もお亡くなりになってしまって、もう復刊は見込めないんですかね。
刑法のほうは1990年が最終版ですが、同じ出版社だし、こちらも同じ運命を辿るのでしょうか。
団藤重光「刑法綱要総論」(創文社1990)
団藤重光「刑法綱要各論」(創文社1990)
【追記】
講談社からオンデマンド版が出版されることに。
そこまで禁止的な値段設定ではなさそうです。
創文社オンデマンド叢書
○
一方の平野先生の体系書は、1958年出版の初版のまま最近まで再刷されてて、今でもオンデマンド版が出ていたりと、随分優遇されているのと比べても、不遇な気が。
我妻栄先生の『民法案内』シリーズにおける勁草書房さんのごとく、あるいは、蟻川恒正先生の『憲法的思惟』における岩波書店さんのごとく、どこか別の出版社で出さないのかどうか。
我妻栄「民法案内1」(勁草書房2013)
蟻川恒正「憲法的思惟」(岩波書店2016)
○
で、何事か中身について書こうと思ったんですが、そのためには、アンチテーゼとしての平野先生の体系書も読まないとだし、また、最高裁判事を退任した後のミッシングピースを埋めるためには、団藤先生の『法学の基礎』あたりを読まないとだし。
ということで、『法学の基礎』を読んでみることにしました。
前にも書いたとおり、この本は初学者がいきなり手を出す本ではなく、法学の勉強が進むごとに、自分の実力を推し量る用に読むものです。
大屋雄裕「裁判の原点:社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)
文章自体は決して固くはないのですが、書かれていることを十二分に理解するためには、個別法についての理解が先に必要になります。
私も過去何度か読んでますが、個別法の勉強を進めてから戻ってくると、そのたびに何かしら発見があったり。
今回読んでてふと思ったのが、こんなこと(直接そういうことが書いてあるわけではないですし、むしろ逆)。
「自然法」思想について、私自身はどちらかというと積極的な評価をしていないのですが、
【こちらは自然権ですが】
ホッブズ『リヴァイアサン』 〜彼の設定厨。
戸松秀典『憲法』(弘文堂2015)
たとえば「禁酒法」のように「お酒くらい自由に飲ませてよ」といった程度の自由を抑圧するような法律は、いくら正式な手続によって成立したとしても実効性をもちえない、という意味あいでなら、理解できるなあと。
「人間の本性に基づく」とか「人が人たるがゆえに」といった高尚な表現をされるとピンと来ないのですが、こういう卑近な例なら理解しやすい(いわゆる日常系自然法)。
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)
団藤重光「新刑事訴訟法綱要 七訂版」(創文社1967)
平野龍一先生に徹底的に批判し尽くされた後の学説状況しか知らなかったので、今まで手が出ずにいたところ。
平野龍一「刑事訴訟法(法律学全集)」(有斐閣1958)
読んだ印象としては、そこまで糾問的でも職権主義的でもないかなあと。
「基礎理論」から出発して法解釈論が始まるので、人権保障の観点からは不徹底だって評価になるんでしょうけども。
1967年で改訂止まってしまっていますが、このあとに最高裁判事に就任されているので(1974-1983)、もしその後改訂されていれば、また違った様相になっていたかもしれない。残念。
○
しかし、こういう名著が再版もされずに埋もれてしまうの、極めて大きな損失だと思うんですけど。
著者も出版社もお亡くなりになってしまって、もう復刊は見込めないんですかね。
刑法のほうは1990年が最終版ですが、同じ出版社だし、こちらも同じ運命を辿るのでしょうか。
団藤重光「刑法綱要総論」(創文社1990)
団藤重光「刑法綱要各論」(創文社1990)
【追記】
講談社からオンデマンド版が出版されることに。
そこまで禁止的な値段設定ではなさそうです。
創文社オンデマンド叢書
○
一方の平野先生の体系書は、1958年出版の初版のまま最近まで再刷されてて、今でもオンデマンド版が出ていたりと、随分優遇されているのと比べても、不遇な気が。
我妻栄先生の『民法案内』シリーズにおける勁草書房さんのごとく、あるいは、蟻川恒正先生の『憲法的思惟』における岩波書店さんのごとく、どこか別の出版社で出さないのかどうか。
我妻栄「民法案内1」(勁草書房2013)
蟻川恒正「憲法的思惟」(岩波書店2016)
○
で、何事か中身について書こうと思ったんですが、そのためには、アンチテーゼとしての平野先生の体系書も読まないとだし、また、最高裁判事を退任した後のミッシングピースを埋めるためには、団藤先生の『法学の基礎』あたりを読まないとだし。
ということで、『法学の基礎』を読んでみることにしました。
前にも書いたとおり、この本は初学者がいきなり手を出す本ではなく、法学の勉強が進むごとに、自分の実力を推し量る用に読むものです。
大屋雄裕「裁判の原点:社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)
文章自体は決して固くはないのですが、書かれていることを十二分に理解するためには、個別法についての理解が先に必要になります。
私も過去何度か読んでますが、個別法の勉強を進めてから戻ってくると、そのたびに何かしら発見があったり。
今回読んでてふと思ったのが、こんなこと(直接そういうことが書いてあるわけではないですし、むしろ逆)。
「自然法」思想について、私自身はどちらかというと積極的な評価をしていないのですが、
【こちらは自然権ですが】
ホッブズ『リヴァイアサン』 〜彼の設定厨。
戸松秀典『憲法』(弘文堂2015)
たとえば「禁酒法」のように「お酒くらい自由に飲ませてよ」といった程度の自由を抑圧するような法律は、いくら正式な手続によって成立したとしても実効性をもちえない、という意味あいでなら、理解できるなあと。
「人間の本性に基づく」とか「人が人たるがゆえに」といった高尚な表現をされるとピンと来ないのですが、こういう卑近な例なら理解しやすい(いわゆる日常系自然法)。
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2018年12月17日
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
※以下の記事は、第3版(2007)に対する書評です。
第4版は実物まだ読んでいませんが、どうやら問題11と12が削除されたようです。
わたしがイジった章がピンポイントで(たまたまでしょう)。
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
まるで続く気はしませんが、「法学入門」系の本を「法律書マニアクス」からカテゴリ分けしていくことにしました。
法学入門書探訪
○
前半(問題1〜6)は「自分で考える ちょっと違った」のタイトルどおりの面白めな内容。
たとえば、問題1では、2人(または3人)でどうやってケーキを分けたらいいか、といった問題から紛争解決の仕方を学ぶといったテーマを扱っています。
こういった問題なら、法に関する前提知識なしでも自分なりの見解は持てるはずなので、ちゃんと「自分で考える」ことができると思います。
で、いろいろな解決方法をあげながら、実定法上参考になりそうな制度を紹介していくので、自分の見解と対比しながら、法制度に関する知識も見についていくと。
○
他方で、後半(問題7〜12)は、まあ普通、というか初学者には難しいと思います。
たとえば、問題11では、日本の会社がアメリカの会社からアメリカの裁判所で技術侵害の訴訟を提起される、といった問題を扱っています。
この問題から、国際私法や国際民事手続法の仕組みを学んでいくんですが、こういうの、初学者がこれ読んでどれくらい理解できるものなんですかね。
理解するにしても、どうしても受け身にならざるをえず、「自分で考える」にも「ちょっと違った」にもならない気がするんですけど。
ちなみに、問題12では弁護士の増員とか報酬制度の問題を扱っています。
当時、弁護士にも競争原理を!と強く主張されていて、この本もどちらかというと積極的な論調で書かれているんですが、今現在の、司法改革曲がり角感強めな現状を踏まえて、ちゃんと答え合わせをしておいてほしいところです(冒頭に書いたとおり、第4版で項目まるごと削除する、というサイレント回答がなされています)。
といったところで、前半はおすすめ/後半は流れで、といった感じ。
○
この本の前半と後半を対比しながら読んでみて、理想の「法学入門」の暫定版はこんな感じ。
1
扱うテーマ・事例は、社会人経験のない学生さんでも自分なりの見解を示せるようなものが望ましい。
見解を示すのに、一定の法的知識を必要とするようなものは相応しくない。
2
その事例の法的結論は、本の中に書いてある法制度のみで判断できるものが望ましい。
判断過程に、実は体系全体の知識が必要だったり、そこまでいかないでも書かれざる前提が含まれていたりするのは相応しくない。
優先順位はかなり下がりますが、「法学入門」についてもなるべく読んでいきたい所存。
○
しかし、この表紙の絵の人、狂気を感じる。
見開きにデカデカと「六法全書」て書いてある本みて、「?? ??」とか。
これ、何してるんですか怖い。
まさかですけど、本の表表紙・裏表紙側を開いて読んでるんじゃないですよね。
第4版は実物まだ読んでいませんが、どうやら問題11と12が削除されたようです。
わたしがイジった章がピンポイントで(たまたまでしょう)。
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
まるで続く気はしませんが、「法学入門」系の本を「法律書マニアクス」からカテゴリ分けしていくことにしました。
法学入門書探訪
○
前半(問題1〜6)は「自分で考える ちょっと違った」のタイトルどおりの面白めな内容。
たとえば、問題1では、2人(または3人)でどうやってケーキを分けたらいいか、といった問題から紛争解決の仕方を学ぶといったテーマを扱っています。
こういった問題なら、法に関する前提知識なしでも自分なりの見解は持てるはずなので、ちゃんと「自分で考える」ことができると思います。
で、いろいろな解決方法をあげながら、実定法上参考になりそうな制度を紹介していくので、自分の見解と対比しながら、法制度に関する知識も見についていくと。
○
他方で、後半(問題7〜12)は、まあ普通、というか初学者には難しいと思います。
たとえば、問題11では、日本の会社がアメリカの会社からアメリカの裁判所で技術侵害の訴訟を提起される、といった問題を扱っています。
この問題から、国際私法や国際民事手続法の仕組みを学んでいくんですが、こういうの、初学者がこれ読んでどれくらい理解できるものなんですかね。
理解するにしても、どうしても受け身にならざるをえず、「自分で考える」にも「ちょっと違った」にもならない気がするんですけど。
ちなみに、問題12では弁護士の増員とか報酬制度の問題を扱っています。
当時、弁護士にも競争原理を!と強く主張されていて、この本もどちらかというと積極的な論調で書かれているんですが、今現在の、司法改革曲がり角感強めな現状を踏まえて、ちゃんと答え合わせをしておいてほしいところです(冒頭に書いたとおり、第4版で項目まるごと削除する、というサイレント回答がなされています)。
といったところで、前半はおすすめ/後半は流れで、といった感じ。
○
この本の前半と後半を対比しながら読んでみて、理想の「法学入門」の暫定版はこんな感じ。
1
扱うテーマ・事例は、社会人経験のない学生さんでも自分なりの見解を示せるようなものが望ましい。
見解を示すのに、一定の法的知識を必要とするようなものは相応しくない。
2
その事例の法的結論は、本の中に書いてある法制度のみで判断できるものが望ましい。
判断過程に、実は体系全体の知識が必要だったり、そこまでいかないでも書かれざる前提が含まれていたりするのは相応しくない。
優先順位はかなり下がりますが、「法学入門」についてもなるべく読んでいきたい所存。
○
しかし、この表紙の絵の人、狂気を感じる。
見開きにデカデカと「六法全書」て書いてある本みて、「?? ??」とか。
これ、何してるんですか怖い。
まさかですけど、本の表表紙・裏表紙側を開いて読んでるんじゃないですよね。
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2018年12月10日
大屋雄裕「裁判の原点 社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)
「法学入門」ないしそれに類するタイトルの本、ものすごい量出版されていて、なんかまとめ記事書きたいなあと思っているんですが、消化量が圧倒的に少なすぎて道半ば。
ざっくり範疇(ざっくりはんちゅう)としてはこんな感じだと思うんです。
1 法学部以外の学部の「法学」という講義で使うテキスト
2 大家が自分の法学観をまとめたもの
3 著者が工夫を凝らして法学の魅力を伝えるもの
もちろんこれに尽きる、ということではないですけども、私の限られた観測範囲で、ということで。
○2の例
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)
星野英一「法学入門」(有斐閣2010)
田中成明「法学入門 第3版」(有斐閣2023)
五十嵐清「法学入門 第4版 新装版」(日本評論社2017)
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
グスタフ・ラートブルフ「法学入門」(東京大学出版会1964)
○3の例
木庭顕「誰のために法は生まれた」(朝日出版社2018)
道垣内弘人「プレップ法学を学ぶ前に 第2版」(弘文堂2017)
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
末弘嚴太郎「新装版 法学入門」(日本評論社2018)
山下純司、島田聡一郎、宍戸常寿「法解釈入門 第2版」(有斐閣2020)
(1の例はあげません)
○
1は、どうしても浅く広くとなるので、無味乾燥な記述になってしまいます。
が、それは役割上、まあしょうがない。
ただ、こういう本だけ読んで「法学はつまらない」と誤解してほしくないなあと。
じゃあってことで、「法学入門」と書いてあるからといってうっかり2のグループに手を出してしまうと、余計こじらせてしまう。
たとえば、団藤重光先生の「法学の基礎」、昔は「法学入門」と名乗っていた時代がありました。
で、そのころに「法学出門」と言われた、なんて自虐がはしがきに書いてあったり。
この本、私も何度か読み返してますけど、これは一定程度勉強が進んだ人が、節目節目でマイルストーン的に読むと効いてくるものであって、初学者がお気軽に読めるものではないです。
○
ということで、初学者が文字通りの「法学入門」として読むべきものが、3のグループに属する本です。
今回読んだのは、大屋雄裕のこの本。
大屋雄裕「裁判の原点 社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)
大屋先生ご自身は法哲学を専攻されている先生ですが、この本は、あくまでも日本の裁判所で法がどのように実現されているか、を記述した本になっています。
扱っている裁判例は憲法判例。
現に通用している法規範を記述する、という意味では、以前紹介した戸松秀典先生の体系書と、コンセプトが近いんじゃないかと感じました。
戸松秀典「憲法」(弘文堂2015)
で、この本読んでてふと思い出したのが、長谷部恭男先生の『法とは何か』という本。
(河出書房新社て、法学系の書籍ほとんど出してない出版社ですが、なぜかたまたま同じ出版社。)
長谷部恭男「増補新版 法とは何か」(河出書房新社2015)
長谷部先生は憲法学者ですが、この本では、現代日本の憲法判例とは関係なく、過去の思想家の思想から、「あるべき法」を見出そうというコンセプトの本になっています。
ので、お二人のそれぞれの専攻からすると、なんかねじれが生じているような。
法哲学者: 現代の憲法判例から、現実に法がどうあるかを論ずる。
憲法学者: 過去の思想家の思想から、法はどうあるべきかを論ずる。
長谷部先生のほうは「法思想史入門」を謳っているので、勝手に「法学入門」的な期待をするのは、こちらのお門違いなんでしょう。
実際、内容お優しくないですし。
○
大屋先生の本に戻って、この本、「裁判は正義の実現手段ではない」とか「正義とは正しさではない」とか、やや煽り気味の章タイトルがついています。
が、『ぼくのかんがえたさいきょうのけんぽう』なノリが苦手な私からすると、とても共感のできる内容でした。
特定の人の、正義と信じるところのものが保護されるわけではないと。
また、憲法判例の記述がメインではありますが、「三権分立」の意味合いについてもしっかり記述されています。
ので、法学者の書く書物が、往々にして司法権を重視しがちなのに対し、立法権についても目配りがされています(行政権は弱め?)。
○
ということで、単に制度の羅列だったり高い法の理念を謳った本ではなく、現に法がどのような機能を果たしているか、をメインで論じている本なので、理解がしやすいと思います。
ざっくり範疇(ざっくりはんちゅう)としてはこんな感じだと思うんです。
1 法学部以外の学部の「法学」という講義で使うテキスト
2 大家が自分の法学観をまとめたもの
3 著者が工夫を凝らして法学の魅力を伝えるもの
もちろんこれに尽きる、ということではないですけども、私の限られた観測範囲で、ということで。
○2の例
団藤重光「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)
星野英一「法学入門」(有斐閣2010)
田中成明「法学入門 第3版」(有斐閣2023)
五十嵐清「法学入門 第4版 新装版」(日本評論社2017)
三ケ月章「法学入門」(弘文堂1982)
グスタフ・ラートブルフ「法学入門」(東京大学出版会1964)
○3の例
木庭顕「誰のために法は生まれた」(朝日出版社2018)
道垣内弘人「プレップ法学を学ぶ前に 第2版」(弘文堂2017)
道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)
末弘嚴太郎「新装版 法学入門」(日本評論社2018)
山下純司、島田聡一郎、宍戸常寿「法解釈入門 第2版」(有斐閣2020)
(1の例はあげません)
○
1は、どうしても浅く広くとなるので、無味乾燥な記述になってしまいます。
が、それは役割上、まあしょうがない。
ただ、こういう本だけ読んで「法学はつまらない」と誤解してほしくないなあと。
じゃあってことで、「法学入門」と書いてあるからといってうっかり2のグループに手を出してしまうと、余計こじらせてしまう。
たとえば、団藤重光先生の「法学の基礎」、昔は「法学入門」と名乗っていた時代がありました。
で、そのころに「法学出門」と言われた、なんて自虐がはしがきに書いてあったり。
この本、私も何度か読み返してますけど、これは一定程度勉強が進んだ人が、節目節目でマイルストーン的に読むと効いてくるものであって、初学者がお気軽に読めるものではないです。
○
ということで、初学者が文字通りの「法学入門」として読むべきものが、3のグループに属する本です。
今回読んだのは、大屋雄裕のこの本。
大屋雄裕「裁判の原点 社会を動かす法学入門」(河出書房新社2018)
大屋先生ご自身は法哲学を専攻されている先生ですが、この本は、あくまでも日本の裁判所で法がどのように実現されているか、を記述した本になっています。
扱っている裁判例は憲法判例。
現に通用している法規範を記述する、という意味では、以前紹介した戸松秀典先生の体系書と、コンセプトが近いんじゃないかと感じました。
戸松秀典「憲法」(弘文堂2015)
で、この本読んでてふと思い出したのが、長谷部恭男先生の『法とは何か』という本。
(河出書房新社て、法学系の書籍ほとんど出してない出版社ですが、なぜかたまたま同じ出版社。)
長谷部恭男「増補新版 法とは何か」(河出書房新社2015)
長谷部先生は憲法学者ですが、この本では、現代日本の憲法判例とは関係なく、過去の思想家の思想から、「あるべき法」を見出そうというコンセプトの本になっています。
ので、お二人のそれぞれの専攻からすると、なんかねじれが生じているような。
法哲学者: 現代の憲法判例から、現実に法がどうあるかを論ずる。
憲法学者: 過去の思想家の思想から、法はどうあるべきかを論ずる。
長谷部先生のほうは「法思想史入門」を謳っているので、勝手に「法学入門」的な期待をするのは、こちらのお門違いなんでしょう。
実際、内容お優しくないですし。
○
大屋先生の本に戻って、この本、「裁判は正義の実現手段ではない」とか「正義とは正しさではない」とか、やや煽り気味の章タイトルがついています。
が、『ぼくのかんがえたさいきょうのけんぽう』なノリが苦手な私からすると、とても共感のできる内容でした。
特定の人の、正義と信じるところのものが保護されるわけではないと。
また、憲法判例の記述がメインではありますが、「三権分立」の意味合いについてもしっかり記述されています。
ので、法学者の書く書物が、往々にして司法権を重視しがちなのに対し、立法権についても目配りがされています(行政権は弱め?)。
○
ということで、単に制度の羅列だったり高い法の理念を謳った本ではなく、現に法がどのような機能を果たしているか、をメインで論じている本なので、理解がしやすいと思います。
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