2019年06月17日

野村美明『新・ケースで学ぶ国際私法』(法律文化社2020)

※以下は、2014年刊の(第2版)の書評です。

 これまでこのブログでは、理想の教科書を求めてウロウロ彷徨ってきています。

 それは税法に限らず、法学分野において何か決定的な形のものがないだろうかと。

【理想の教科書を求める旅(一例)】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)

 今回のこの本は、《形式》はかなり求めているものに近かったです。



 野村美明 新・ケースで学ぶ国際私法 (法律文化社2020)


 というのも、(広義の)国際私法ってざっくりいうと、

・抵触法 総論
・抵触法 各論(財産法、家族法)
・国際民事手続法

と分野が分かれています。
 で、これら分野を1冊でカバーしている本もあるのですが、それぞれ別々の章に分けられて検討されているのが一般的。

 が、この本では、各論の議論をベースにしつつ、その中に総論や手続法の問題を溶け込ませています。
 しかも、それらが具体的なケースに沿って解説されています。

 この形式なら、かなり理解がしやすいだろうなと、感じました。


 ただ、最初にわざわざ《形式》は、という留保をつけました。

 というのも、あくまで個人的な問題ですが、国際私法に関しては、(両極端ながら)石黒一憲先生や道垣内正人先生のような、極めて特徴的な本から入ってしまいました。



 石黒 一憲  国際私法 (新法学ライブラリ) 新世社2007
 道垣内正人 ポイント国際私法 総論 第2版 有斐閣2007
 道垣内正人 ポイント国際私法 各論 第2版 有斐閣2014

 ので、この本のような、
  ・論点についての裁判例・学説を並べて優劣を論ずる
  ・それら説から事例へのあてはめをする
という、よくある普通の記述の仕方が、どうしても退屈に感じてしまいました。

 や、あくまで個人的な問題ですよ。


 あと、ここ最近「判例」というものに関する本をよく読んでいました。

判例の機能的考察(タイトル倒れ)

 そのせいか、この本が、地裁・家裁や高裁やらの判決まで、最高裁判決と区別することなく、無遠慮に「判例」と呼んでいることに対して、違和感がどうしても拭えない。
 しかも、長々と判決文を引用しているのに、「事実」の部分は一筆書き程度の要約したものしか書いていないのがほとんど。

 「学生は判例を一般化しがち」
 「判例は事実との関係で理解すべき」

なんて学生に対する苦言は、こういう(よくありがちな)教科書の記述を改めてからいうべきだと思うんですけど。
posted by ウロ at 09:25| Comment(0) | 国際私法

2019年03月25日

多層的請求権競合論と、メロンの美味しいところだけいただく感じの。

 前回、国際私法に関する記事を書いた中で、「請求権競合」についてちらっと触れました。

 視野を広げるための、国際私法

 頭の整理をしておきたいので、ちょっと書いておきます。

法の適用に関する通則法(e-Gov)


 「請求権競合」というのは、たとえば、ある事実関係について契約責任と不法行為責任が成立しうるときに、どちらも請求していいの、といった論点です(もちろん、この例だけに限りません)。

 民法上は、両責任が併存するか、契約責任が優先するか、両責任を統合させるか、といった見解が主張されています。
 また、民事訴訟法上は、訴訟物の個数の問題という形で争われています(新旧訴訟物理論)。

 ここにさらに、国際私法上の争いが追加されるということで、さらに議論が錯綜します。

 民法、民事訴訟法では、あくまで両責任とも「日本法」が適用されることを前提にしていたわけです。

 が、通則法によって、契約法が「甲国法」、不法行為法が「乙国法」と違う準拠法が指定されることもありうるわけで、両責任を請求してきた場合には通則法上どう処理するんだ、ということがさらに問題になります(以下、通則法上は「法律行為の成立及び効力」となっているものを契約と言い換えます)。


 道垣内正人先生の論点本だと、通則法上で別々のルールを定めているんだから、契約は通則法7条・8条、不法行為は同法17条等でそれぞれ準拠法決めておしまい、実質法レベルで議論することなんてないよ、はい解散、みたいな感じのことが書いてあります(あくまで個人の印象です)。



道垣内正人 ポイント国際私法 総論 第2版 有斐閣2007
道垣内正人 ポイント国際私法 各論 第2版 有斐閣2014


 極めてシンプルで分かりやすい見解ですけども、そういうことでいいのかなあと思うわけです。


 請求権競合に関する諸外国の実質法のルールなんて私にはわかりませんので、理論的にあり得る立場を列挙してみると、

 A 併存認める。どちらかが成立すれば請求認容。
 B 併存認める。どちらかが不成立なら請求棄却。
 C 契約責任を優先する。
 D 不法行為責任を優先する。
 E 両責任を統合する。

といったあたりが考えられるかと。

 で、たとえば、

  甲国契約法=A、乙国不法行為法=A

みたいに、それぞれの指定準拠法が同じ立場なら、表立った不整合は生じないですよね(ただし、E×Eの場合は、統合の仕方が同じなら、という極めて限定された場合だけ)。

 他方で、たとえば、

  甲国契約法=D(不法行為優先)、乙国不法行為法=C(契約優先)

みたいに、両国がお互いに「どうぞどうぞ」状態になったらどう判断するんでしょう。どちらでも責任追及ができなくなるのかどうか。

 また、その国の請求権競合ルールが実質法(実体法)上にはなく、「手続法」で調整がされている場合は、「手続法は持ち込まない」ってことで、請求権競合ルール無しと扱うのか。
 それとも、本来、実質法で定めるべきものを手続法に外出ししてるだけ、てことで、手続法から請求権競合ルールを切り出してその国の実質法と扱うのか。


 道垣内先生の見解というのは、こういった込み入った議論を全部飛ばせるように、という考慮もあるのかもしれません。
 通則法上で併存を認めていることにしちゃって、かつ、実質法からは請求権競合ルールをすべて排除すると。

 が、通則法の解釈で、これまでの民法上の議論を全部すっ飛ばしてしまうような、他領域に踏み込んだ立場まで導けるのか、不勉強な私にはわかりません。
 通則法上でだって、当事者が一つの事実関係に複数の法的観点を主張してきた場合に、準拠法を指定する前、あるいは指定した後に、何らかの形で統合をするという道もありうるわけであって。


 ちなみに、以下は全く根拠のない邪推。

 日本の実務だと、実質法上も併存、手続法上も併存、が当然であるかのように扱われているところです。
 が、片方の準拠法が外国法になりそうだと分かった途端、日本法のほうに寄せようと、統合しだすんじゃないかなあと。
 「隙きあらば日本法」の法則が発動して。


 以上、国際私法に関しては、民法や刑法にも増して素人感満載なので、そういうレベルのものとして扱ってください。

 この論点、もっと深掘りするには以下のような本などを読むべきなんでしょうけども、なんせ趣味の範囲なものですから。



四宮和夫 請求権競合論 (一粒社1978)
国友明彦 国際私法上の当事者利益による性質決定 (有斐閣2002)
posted by ウロ at 12:24| Comment(0) | 国際私法

2019年02月04日

視野を広げるための、国際私法

 民法とか刑法とかの勉強ばかりしているときに、気分転換にいいのが国際私法。
 真面目に勉強している人には失礼な話ですが。

 「国際私法」というのは、たとえば、日本人甲さんとA国人乙さんが結婚する場合にどこの国のルールに従うか、とか、前に道垣内正人先生の入門書を紹介したときにあげた国際特許紛争とか、そういうのを扱っている分野です(道垣内正人先生は国際私法が専門分野)。

道垣内正人「自分で考えるちょっと違った法学入門 第4版」(有斐閣2019)

 「法の適用に関する通則法」という、日本国内の法律の解釈論がメインどころなので、そういう意味では他の法分野と同じといえば同じです。

法の適用に関する通則法(e-Gov)

 が、そもそもどこの国の法律を適用するか、というレベルの話なので、考慮すべき要素が民法とか刑法とかの「実質法」とはだいぶ違ってくるわけです。
 国際私法上の公序とか国際私法上の利益衡量とか、あえて実質法上のそれとは違うことが明示された言葉がでてきますし。

 ので、法律の勉強でありながら、「実質法」とは違った発想が必要になってきます。
 し、各論点ごとに、実質法上の考慮とは混同してはだめ、と諌められることにもなっています(ある論者が他の論者にそういう批判しておきながら、他の論点では自分が混同した主張をしていたりとか、混線具合にクラクラしたりすることも)。

 あと、実質法の勉強をしているときも、たとえば、2017年の民法改正(債権関係)が

 「生命身体侵害の損害賠償請求権の消滅時効、債務不履行と不法行為で同じ期間に揃えてやったぜ、いえーい!」

とかイキっているのに対し、

 「それ、準拠法が不法行為は日本法、債務不履行は外国法とかになったら飛んじゃうよね」

とか、ちょっと違った視点で考えることができたり(さらに「請求権競合」の問題もありますが)。

 ちなみに、実質法と国際私法の関係について、道垣内正人先生の論点本(下の本の総論のほう)では、実質法を「蟻」、国際私法を「鳥」に喩えています。
 わざわざベージの下部に蟻、上部に鳥のイラストまで添えて。
 鳥がすげえ見下ろしている感じの。しかも蟻がやたら小さい。

 この喩え、実質法の学者の皆さんからは猛烈に怒られそうですが、どうなんでしょう。

 しかも、生き物に喩えたせいで、よくよく考えると蟻側がグロテスクなことに。
 虫とか苦手なので、わざわざ書きませんけど、準拠法決定の流れを書いておきますので、心に余裕のある方はちょっと想像してみてください(やめたほうがいい)。

【準拠法決定のプロセス】
 1 当該事案を通則法が定める「単位法律関係」に分解する
 2 それぞれの単位法律関係ごとに指定された「連結点」を確定する
 3 それぞれの連結点が指し示す「準拠法」を特定する
 4 それらをつなぎ合わせた適用結果が「公序」に反する場合は結論を調整する



道垣内正人 ポイント国際私法 総論 第2版 有斐閣2007
道垣内正人 ポイント国際私法 各論 第2版 有斐閣2014


 勉強の仕方として、今では、神前禎先生のわかりやすい「入門書」があるので、入りやすくなってます。
 第1部で通則法について、第2部で国際民事手続法について、で、第3部でそれら知識を具体的な仮想例にあてはめていく、という流れで、とても理解しやすい。



神前禎 プレップ国際私法 弘文堂2015

 ちなみに、この「プレップ」シリーズ、古い本含めて良書揃いです(当ブログは弘文堂の法学書に対して毀誉褒貶が激しい)。

プレップシリーズ(弘文堂)

【毀貶】
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

【誉褒】
【書評】横田 明美「カフェパウゼで法学を―対話で見つける〈学び方〉」(弘文堂2018)
戸松秀典『憲法』(弘文堂 2015)


 で、「教科書」や「演習書」についても良い本が出てきているので学習はしやすくなっています。
 たとえば、



神前禎ほか 国際私法 第3版 (有斐閣アルマ) 有斐閣2012
櫻田 嘉章ほか 演習国際私法 CASE30 有斐閣2016
中西 康ほか 国際私法 第2版 (LEGAL QUEST) 有斐閣2018


 が、ですよ、通則法成立以降、重厚な「体系書」というのが出ていない。
 なんか、大御所が出してくれないと中堅どころも出せない、みたいな呪いでも罹っているんじゃないかと思うくらい。

 極個人的には、石黒一憲先生の本がオススメなんですが、これを体系書といってよいのかどうか。
 形式面でいうと、確かに鬼のような注釈数ですが。



石黒 一憲  国際私法 (新法学ライブラリ) 新世社2007

 が、ガチの体系書は、1989年法例改正よりも前に出版された、こういう本のことをいうわけだし。



石黒 一憲 現代国際私法〈上〉 東京大学出版会1986

【請求権競合論について】
 多層的請求権競合論と、メロンの美味しいところだけいただく感じの。
posted by ウロ at 11:32| Comment(0) | 国際私法