2022年09月26日

鹿田良美「判例から読み解く よくわかる相続税法」(有斐閣2022)

 相続税法の入門書風なタイトルに釣られて買ってしまいましたが、中身は全然違いました。
 や、もちろんこんな露骨な釣りタイトルに、いつまで経っても騙されるこちらが全面的に悪いのです。



鹿田良美「判例から読み解く よくわかる相続税法」(有斐閣2022)

 著者ご自身も「おわりに」で、「よくわかる相続税法になっていない」と自白されているのですが、これを「はじめに」ではなく「おわりに」に書くところが、なんとも。
 最初の「ガイダンス」では、相続税法全体の構造をコンパクトに分かりやすくまとめられているので、入門書としての期待感が高められてしまったのですが、それ以降はひたすら判決のご紹介のみ。

 あくまでも、私のような心の汚れた者による邪推にすぎませんが、最初数ページの「試し読み」で〈擬態入門書〉であることがバレることへの対策ではないか、と思わざるをえない。


 本書の特徴を一言でいうと、『判決文記載の事実の解きほぐし方が上手な本』だというのが私の評価。
 タイトルや最初のガイダンスから想起されるような『相続税法の入門書』などでは、およそない。

 通常の書籍で判決が引用される場合、規範部分は原文のまま引用されることが多いのですが、事実部分は簡単に要約されるか完全に省略されてしまうのがほとんど。
 そうすると、いざ判決原文を読もうとしても、規範部分はある程度読み慣れているものの、事実の読むのがしんどい、ということが起こりがちです。
 ですが、当該判決が判例としてどのような射程をもつかを検討するには、規範部分を読むだけでなく、事実を細かく分析しなければなりません。

 本書では、事実の説明に図表が多用されているなど、判決文の事実部分が理解しやすくなっています。そのため、自力で事実部分を読むにあたってのアプローチの仕方として、非常に参考になります。

 事実の解きほぐしをここまで丁寧にやっている本、あまり見かけないので、はじめからこの点を目的としてであれば、購入する価値はあると思います。
 特に実務家は、時間が限られていることを言い訳に、規範部分から逆算して判断の分かれ目になったと思われる事実だけをつまみ喰いしがち。ですが、判決文記載の事実をちゃんとひととおり読む、という訓練をやっておいたほうがよいです(自戒)。
 そのための補助線としてならば、本書はとても役に立つはず。

 なお、上記では「判決文記載の」事実という表現をしました。
 これは、裁判では当然のことながら「証拠」「事実認定」レベルでの争いもあるわけですが、その点は本書は正面から扱っていない、という意味合いでです。



 加藤新太郎「民事事実認定の技法」(弘文堂2022)


 ですが、ここから先、本書を「判例」本として読むとしたら、非常に物足りないと感じると思います。

 というのも、本書の判決へのアプローチを標語的にいうと、
  〈判決を判決として読む〉
にとどまり、
  〈判決を判例として読む〉
ということをしていないからです。

 たとえば、第4講と第4講補講では、農地を売買した場合、農地に関する
  売主の相続財産は、どの時点から農地→代金請求権となるのか
  買主の相続財産は、どの時点から引渡請求権→農地となるのか
についての判決が扱われています。

 で、それぞれの個別事案の帰結については、当然のことながら記述はされているのですが、
  ・他の事例で農地が問題となった場合、何をもって財産の変動があったことになるか
  ・農地ではなく一般の土地の場合はどのような事情により判断されることになるか
  ・土地以外だったらどうか。
などといった分析がなされていません。
 当該事案ではこう判断されました、というところまで。

 我々が過去の判決を読むのは、他人の揉め事を眺めたいといったゲスい根性から、などでは決してなく。今後同種の事案が生じた場合に、どのように判断がされる可能性があるかを予測するためです。
 ですが、本書は素材としての判決を詳細な事実分析とあわせてご提供してくれてはいるものの、それ以上の踏み込みがほとんどなされていない、という状態になってしまっています。

 一昔前によく見かけた、「ケースブック」という名の法科大学院教材の、判決搭載数をごっそり減らして詳細な事実分析をプラスしたバージョン、とでも形容すればイメージができるでしょうか。
 独学者にはとても使いこなせない例のアレ。本書も、適切な指導者のもと利用することが望まれているのでしょうか。

 はじめから内容に即したタイトルを冠してくれていれば、私も難癖をつけるようなことはしなかったはず。残念感ばかりが心に残る結果となってしまいました。


 かねてより、個別税法の教科書を待望しており、私の中では、所得税法・法人税法については、さしあたり「スタンダード」シリーズが鉄板となっています。そして、そこに新しく消費税法が加わるということで期待をしているところです。



 佐藤英明 スタンダード所得税法 第3版(弘文堂2022)
 渡辺徹也 スタンダード法人税法 第2版(弘文堂2019)
 佐藤英明・西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)

 本書が、相続税法の穴埋めとなってくれるかと期待して読んでみたものの、その結果は上記のとおり。

 や、重ねて言いますが、本書の内容をよく確かめもせず、相続税法の入門書だと勝手に期待して勝手に裏切られている私が悪いのです。
posted by ウロ at 09:40| Comment(0) | 租税法の教科書

2022年05月30日

酒井克彦「クローズアップ課税要件事実論 第5版」(財経詳報社2021)

 要件事実論から租税法への輸入活動については、私も関心をもって気にしているところです。



 酒井克彦「クローズアップ課税要件事実論 第5版」(財経詳報社2021)

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)
伊藤滋夫ほか「要件事実で構成する所得税法」(中央経済社2019)

 が、(あくまでも私の個人的な観測範囲内にとどまりますが)『民法前提で組み立てられた要件事実論を、租税法の特性にあわせて正しく輸入する』ということが実現できているものになかなか出くわさない。
 民事要件事実論の成果を直輸入してしまっていたり、十分に活かしきれていなかったり。

 その点、本書がどうかということですが。

 内容自体はとても勉強になるものです。第3章の各論では、裁決・判決を素材とした丁寧な条文分析が展開されていたり。
 ではあるのですが、それは『課税要件事実論』の名の下に展開すべきものなのか、という箇所がしばしば。
 租税実体法レベルの解釈論にとどまっていて、実体法レベルの議論が固まった後に展開すべき『要件事実論』にまで届いていないのではないかと。


 たとえば「一時所得該当性」について『課税要件事実論』を展開するならば、

 「8つの所得に該当しないこと」が『課税要件』となっているが、課税庁側がこれらすべての所得に「該当しない」ことを立証しなければならないのか、それとも納税者側にこれら所得に「該当する」ことにつきなんらかの負担が課せられるのか

と、『課税要件』が確定されている状態で、それを各当事者がどのように主張立証していくか、という議論のスタイルになるはずです。
 特に、一時所得の「以外の所得」や雑所得の「該当しない所得」なんて課税要件、要件事実論からしたら格好のネタになるものです。
 ですが、この点について素材となった事案では争いがなかったからか、要件事実論からの分析は特になされていません。

 一方で、「営利」とか「継続」については、何が要件事実(主要事実)で何が間接事実にあたるかを分析していて、そこはちゃんと『課税要件事実論』になっています。

 一通り読んでみて、租税実体法レベルの議論と課税要件事実論のレベルの議論とが、斑になっているような印象を受けました。そして、(あくまで体感ですが)どちらかといえば租税実体法レベルの議論が多めで、課税要件事実論が少ない。スプラトゥーン的に色塗りしていったら、実体法側が勝つ感じの。

 実体法レベルの議論を一切排除しろ、とまで言うつもりはありませんが、『課税要件事実論』をタイトルに冠している以上、『課税要件事実論』の名のもとに議論すべきこととそうでないこととは、明確に区分すべきだと思います。


 本書についてやや批判的な観点からの読み方になってしまったの、本書の次のような記述に出くわしたことが原因です。

P150 (ア)証明責任と立証責任
「一般に、証明責任とは、自己に有利な法律効果を導く法規の要件事実が存否不明の際に、裁判所が、この法規を適用し得ないことによって生ずる一方の敗訴の危険又は不利益をいうとされている。(略)
 立証責任とは、弁論主義の下において、自己に有利な法規の適用の基礎となる要件事実がいずれの当事者によっても主張されなかった結果、裁判所がこの事実を裁判の基礎になし得ないことによって生ずる一方の当事者の不利益をいい、原則として、その対象および範囲は証明責任と一致するといわれている。(略)」


 普通に「民事訴訟法」を勉強してきた人からすると、この記述読んで「???」となりますよね。
 「一致するといわれている」とかいってますけど、証明責任と立証責任、そもそもが同じものですから。同じなのは当たり前。
 「原則として」ってありますけど、例外的に一致しない場合でもあるんですか?(いや無い)

 『「マック」と「マクド」は原則として一致するといわれている。』みたいな話よ。
 原則もなにも、同じものを違って略しているだけですから。

 この記述を読んだせいで、残念ながら、これ以外の記述も悪い方向にバイアスがかかって読むことになってしまいました。


 そういうバイアスのもとでは、以下のような記述にもイチャモンをつけたくなります。

P110
「ちなみに、民法587条の金銭消費貸借契約の要件事実は次のとおりである。
  1 金銭等の返還の合意
  2 金銭等の交付
  3 弁済期の合意及び弁済期の到来」


 「要件事実」というのは、常になにがしかの訴訟物との関係で問題となるものであって、抽象的に「民法587条の要件事実」なるものが存在するわけではありません。
 仮に、契約の成立を主張するためだけであれば「弁済期の到来」は不要です。「弁済期の到来」まで主張する必要があるのは、「貸した金返せ」と請求する場合です。
(なお、「弁済期の合意」については例の争いがあるのであって(賃貸借理論)、当然のように弁済期が本質的な要素であると言い切ってよいかは留保が必要です。)

 この記述、レポ取引事件の検討の中にでてくるのですが、わざわざ「(民事)要件事実」を記述する必要ありますかね。普通に民法の実体法レベルでの記述をしておけばすむ話だと思います。
 なんていうか、無理やり要件事実論をねじ込もうとした、取ってつけた感が強い。


 ついでに、「借用概念」と「民事要件事実論」との食い合わせについて。

 ある概念が借用概念だとして、民法からお借りするのは実体法レベルの概念なのか、それとも「請求原因・抗弁・再抗弁〜」と要件事実に分解された状態でなのか、といった問題があるはずです。上記記述が実体法上の要件をわざわざ「要件事実」に置き換えているのは、後者の立場を前提としているのでしょうか(課税要件事実の中に民事要件事実が《入れ子》になっている?)。

・A説 民法→税法→課税要件事実
・B説 民法→《民事要件事実》→税法→課税要件事実

 他方で、通説的な発想からすれば、(意識はしていないでしょうが)おそらく前者の実体法そのままの状態でお借りしてくることを前提としているように思います。で、課税要件として取り込んだ後に組み換えをするかどうかは『課税要件事実論』の中で展開をすると。

 「借用概念論」の議論にかぎらず、民事要件事実論のレベルだと「請求原因・抗弁・再抗弁〜」と分配されるような契約関係が課税要件に取り込まれた場合に、税務訴訟ではどのように課税要件事実の構成がなされるのか、ということが問題とすべき論点ではないかと思います。
 民事要件事実論レベルでの分配はガン無視して、すべて課税庁側に負担させるということでいいのかどうか(たとえば「弁済していないこと」とか)。

 そして、これが「更正の請求」の局面になった場合には、主張立証すべきことが逆転するのかどうか。

 このあたりは民法的な『衡平』が通用しないので、税法特有の要件事実論を展開すべき場面なのだと思います。

 さらに、上述した、一時所得の「以外の所得」や雑所得の「該当しない所得」といった課税要件が、課税処分の取消の場面と更正の請求の場面とで主張立証内容が変わるのか。
 いずれの所得が納税者に有利/不利かは事例によって変わるわけで、課税庁側がどの所得を主張するかによって、主張立証の中身が変わるのかどうか。
 少なくとも、一時所得・雑所得が絡んでくる事案においては、具体的な争われ方を捨象して、抽象的に「所得税法○○条の課税要件事実」などといったものを抽出することはできないと思います。


 以上、もう少し深堀りできそうですけども、中途半端な問題提起どまり。私の盛大な勘違いに基づく言いがかりかもしれませんし。
 考えがいまいち煮詰まっておらず、上記の記述もまとまりのないものとなってしまっていますので、もう少し考えてみます。

 私が本書を批判的な観点から評しているのは、本書が『課税要件事実論』を全面的に展開しているものだと過剰に期待しすぎたからにすぎません。
 もし本書を、裁決・判決を素材とした条文分析本として利用するならば、大変勉強になると思います。長らく改訂されていない、判例学習本の代替として利用するとか。



酒井克彦「ブラッシュアップ租税法―判例学習の道しるべ」(財経詳報社2011)

 ちなみに、巻末の「判例・裁決索引」の一番最後が「平成27年11月6日 最高裁HP」で打ち止めになっていますが、ここは単に更新を忘れているだけでしょう(タイミング的には第4版以降の更新をサボっている)。
posted by ウロ at 01:02| Comment(0) | 租税法の教科書

2021年12月06日

租税法教科書における記述割合の変化 〜金子宏「租税法」(弘文堂)を素材に。

 「第24版」のはしがきによると、「単著」としては最後にしたいとお考えのようで。



 金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)

 私の手元にある一番古い版が1981年出版の「補正版」。1976年出版の「初版」の次の版。
 5年経っても補正版どまりとは、牧歌的な時代ですね。 

 もちろん、現役で購入したわけでなく。
 昔の租税法教科書がどんなものだったのか知りたくて、あえて購入したものです。

人類は、差異を産み育むことでマニアとなる。 〜法律書マニアクス全開


 ということで、新旧ボリューム比較をしてみます。
 ただし、縦書き(補正版)・横書き(第24版)となっていて頁数では単純比較がしにくいので、割合もみていきます。

金子租税法.png


 こんな具合。
 全体が倍以上。租税実体法の増加率が突出している。

 初版「はしがき」の時点から、「個別の課税要件を詳しく記述した」とされています。ので、他著と比べて記述割合がどの程度違うかを見てみましょう。

 私の手元にある一番古い租税法教科書が、1972年出版の下記書籍です(もちろん現役で以下略)。



 新井隆一編「租税法講義(青林講義シリーズ)」(青林書院新社1972)

 こちらの記述割合を整理すると次の通り。

新井.png


 「租税実体法」に着目すると、全体の23.75%を占めています。
 そこまで少なくはないように思うかもしれませんが、これは個別の税目の話ではなく、実体法の総論の話や通則法レベルの話がメインを占めています。

 では、個別の税目の話はどこにでてくるかというと、巻末の「資料」のところです(全7頁)。表形式で簡潔にまとめられていて、解釈論の展開は皆無。

 こちらの扱いのほうが、当時の租税法における個別税目の位置づけを代表しているのでしょうか。
 だとすると、金子租税法がいかに画期的だったのかが分かります。


 本書に話を戻して。
 個別税目のうち、所得税法・法人税法・相続税法の頁数を拾ってみると、次の通り。

租税実体法.png


 縦書き⇒横書きなので、文字数レベルで比較したらさらなる増加率になるはずです。
 法人税法が突出しているわけですが、組織再編税制や国際課税あたりが特に増加に貢献しているでしょうか。

 それにしても個別税目の記述、分解してみるとそれほど多いわけではない。所得税法とか137頁だけ。
 本書は分厚いようにみえて、個々の記述は微に入り細に入り、という感じではない。あくまでも最初に通過すべきインターフェイスとして利用すべきなのでしょう。


 いい加減、租税法学者による個別税目ごとの「体系書」が求められている。
 私の知っている限り、岡村忠生先生の法人税法以降、プロパーの租税法学者による個別税目ごとの「体系書」を見かけていない。



 岡村忠生「法人税法講義(第3版)」(成文堂2007)

 岡村先生ご自身も共著の薄い教科書に行ってしまっているわけで、「今どきそんな需要はない!」ということなんでしょうか(体系書ノスタルジック)。



岡村忠生ほか「租税法 第3版(有斐閣アルマ) 」(有斐閣2021)



 以上、さしあたりの浅めな整理。本当はより微細に分析すべきものなのでしょうが。

 そして、中身については、私がどうこう言えるようなものではなく。
 とはいいつつも、本ブログでは「租税法規の明確性」「納税者の予測可能性」「権利確定主義」「借用概念論」といった、本書を代表するテクニカルタームについては、総じて否定的な立場から論ずることが多いです。

 ではありますが、本書の「基本書」「基準書」としての役割は、いささかも揺るがないものであることに変わりはないはずです。

金子宏「租税法 第24版」(弘文堂2021)
posted by ウロ at 10:41| Comment(0) | 租税法の教科書

2021年08月23日

浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)

 シリーズ名と頁数からして、「浅く広く」系の概説書かと思って敬遠していました。
 が、そうではないようでしたので、読んでみることにしました。



 浅妻章如,酒井貴子「租税法」(日本評論社2020)

 記述すべき事項をかなり絞り込んだ上で、数値例を使って丁寧な説明がされています。ので、なんとなくで理解していた箇所も、よく理解できるようになるはずです。
 が、初学者がいきなり本書を読んで理解できるようになっているかといえば、全体的に難しい箇所のほうが多いのではないかという印象。

 本書の宣伝目的は次の通り。

 「大学生に租税法を理解させるためには、を考え抜いた入門的な教科書。読みやすく、わかりやすく、興味を持って読める工夫が満載。」

 この『入門的な教科書』という表現に、引っ掛かりを覚えます。
 入門書かつ教科書では決してなく、あくまでも「入門的」な教科書なんだと自己規定しているわけです。

 教科書として一定程度の記述範囲を確保するためでしょうか、初学者に対する配慮が不足している箇所がちらほら、というのが下記でも指摘するところです。
 ベースは(講義での補足を前提とした)教科書であって、行きがかり上入門的な記述もしているところもある、というのが「入門的な教科書」の含意でしょうか。

 私個人は、表面的な理解しかなかった箇所を深く理解できるようになったりとか、とても勉強になりました。
 が、それは事前に一定程度の知識があったからであって、ガチの初学者が同じように理解できるか、というと厳しいものがあるように思います。

 以下、あるべき租税法の入門書はどういうものになるか、といった観点からのツッコミをしてみます。
 私自身もそれなりに勉強はしているわけで、今やガチの初学者と同じ視点で読むのは難しくなっています。
 が、税理士業務においても、税の専門家でない相談者に税制を説明するにあたっては、ガチの初学者としての視点が重要になってきます。
 そのような視点を獲得するための訓練、という趣旨で本書を利用させてもらうことにします。

 なお、下記ツッコミに対して容易に予想できる反論は「紙幅が限られていたから」というものでしょう。が、私が論じたいことはあくまでも「初学者が理解できるような配慮がなされているか」という点です。
 これに対して反論として成立するとしたら「初学者向けに書いていない」というものであって、紙幅は初学者への配慮を犠牲する理由にはならないはずです。


 全体的に用語の説明が省略されがち。

 たとえば「裁決」という言葉が出てきますが、これが何なのかが説明されていません。

 用語の説明不足とも相まって「事項索引」が貧弱。
 もしかして「裁決」の定義がどこか他の箇所にあるのかもしれない、と思って事項索引を確認してみたのですが、事項索引に載っていないわけです。

 「辞書を引け!」ということかもしれませんが、「本書を通読すれば少なくとも本書に書かれていることは理解できる」状態に仕上がっていないことになります。



「法律学小辞典 第5版」(有斐閣2016)


 「通達」が各所で引用されています。が、税務における通達の位置づけについての総論的な説明がありません。
 「行政法は学習済み」という前提なのでしょうか。だとしても、行政法総論における通達理解をそのまま租税法に横流しするのではなく、ある程度の変容が必要だと思います。
 
 他方で、通達を引用する際の「租税実務では、〜とされている(○○通達)」といった表現には、強い違和感を覚えます。「通達=租税実務」と評価しているように読めてしまうので。

 「租税実務」における主な登場人物は次の通りです。
  1 納税者・税理士
  2 課税庁
  3 国税不服審判所
  4 裁判所

 もし上記表現が「通達=租税実務」を意味しているのだとすると、2だけが租税実務を構成していると表現していることになります。
 裁判所(4)は法令が支配する世界だということで除外するとして、1、3を租税実務から除外するのはなぜなのか。

 確かに審判所(3)は、建前上は第三者的立場の体裁をとっているものの、ときおり課税庁寄りに判断することがあるので、2に吸収される側面がなくはない。

【課税の都合優先裁決】
加算税をめぐる国送法と国税通則法の交錯(平成29年9月1日裁決)

 また裁判所(4)ですら、通達を文理解釈するとかいう例の高裁判決もあったとおり、2に引っ張られることがあります。

【通達の文理解釈(笑)】
解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 このノリで、どうせ税理士(1)も通達通りに行動するんだろ、と見られているのだとしたら悲しい。
 確かに、実態としては通達の影響力は強いものがあります。が、あくまでも通達は租税実務の中の一部にすぎない、という原理原則を踏まえた表現をすべきではないでしょうか。

 ちなみに別ジャンルですが、荒木尚志先生の『労働法』では、通達のことを「行政解釈では」と表現されています。
 あちらの世界でも通達が一大領域となっているわけですが、この表現なら非常にしっくりきます。



 荒木尚志「労働法 第4版」(有斐閣2020)


 本書では、いくつかの重要判決を引用する際に、単に最高裁の規範部分を抜き出すだけでなく、当該事案と下級審の判断もしっかり書かれています。
 厚めの教科書の類でも、規範部分(の上澄み)だけしか引用されていないものもあるので、この点は本書の優れた点のひとつだと思います。

 もちろん、次の学習段階では、本書に掲載されていないものも含めて、判例集を読むべきでしょう。



 中里実ほか編「租税判例百選 第7版」(有斐閣2021)

 ただ気になるのが、いくつかの判決を「事件判決」だと表現している部分があることです。
 なのに、この用語が何を意味しているのかの説明がありません。

 この点、田中豊先生の民事訴訟判例の解説書には「法理判例/場合判例/事例判例」という用語がでてきます。これでいう「事例判例」に対応するものなのかどうか。



 田中豊「民事訴訟判例 読み方の基本」(日本評論社2017)

 まあ、本書が安易に「判例」という用語を使っていないのは、好感がもてるところではあります。

【判決と判例】
フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法
 

 「図表」のたぐいがほとんどでてきません。
 所得税の基本構造(23頁)なんてどう考えても図で説明したほうがいいと思うのですが、ひたすら平文によって説明しています。

 配偶者控除・配偶者特別控除(32頁)もひたすら平文での説明。ですが、下記のような表に、補足説明をプラスする形のほうが理解しやすいはずです。

No.1191 配偶者控除
No.1195 配偶者特別控除

 他方で、数少ない厳選された図表の中に、よりによって「株主相互金融の仕組み」がねじ込まれているのが謎(130頁)。
 「もはや歴史的存在といえ、読者にとって深入りは無用かもしれない」と評価しているにもかかわらず、です。他の重要事項を差し置いて、わざわざ図まで使って株主相互金融の仕組みを理解させようとするの、脳のリソースへのテロ行為(脳テロ)ですか。

 確かに、法学においてやたらと図表に頼ることは、場合によっては正確な条文理解を妨げることになります。
 下記記事では、タックスアンサーが図表+補足説明を使って、条文にない要件を勝手に付け加え、特例の範囲を制限しようとする所作を論じました。

タックスアンサーの中の譲歩と抵抗 〜小規模宅地等の特例を素材に
タックスアンサー学習帳 〜やっててよかったTA式

 また、税法ではありませんが、下記記事では、フローチャート化が条文の規律を正確に反映していないことを論じました。

法適用通則法5条と35条における連動と非連動 〜法律学習フローチャート各論

 と、法学における図表の使用には、警戒しなければならないところがあります。
 が、少なくとも「配偶者控除・配偶者特別控除」の消失・逓減を説明するにあたって、このような欺瞞が混入するおそれは極めて少ない。
 率直にいって、条文そのものも別表形式で記述すれば足りるようなものです。

○ 17頁〜 第2章 所得税

 他の教科書類と同様、所得概念、課税単位、収入金額・必要経費、年度帰属、人的帰属といった総論的な記述が先にきています。

 が、初学者にとっては、個別の所得類型より前にこれら論点を説明されても、理解しにくいと思う。というか、実際そこで記述されていることは、総論風の記述でありながら、実のところ特定の所得類型が念頭に置かれていることが多いです。

 いわゆる「総論各論問題」。刑法総論でも、あらゆる犯罪類型を視野にいれて論じているふうで、実際は特定の犯罪類型を念頭においた議論しかしていない、というのと同じ構造。

井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)
井田良「講義刑法学・各論 第2版」(有斐閣2020)

 少なくとも入門段階では、これら総論的な記述は個別の所得類型に溶け込ませて論じるのが望ましい、というのが私の持論。

【年度帰属は所得類型ごとに検討すべき、という問題意識からの記事】
さよなら「権利確定主義」(その1) 〜事業所得と給与所得
さよなら「権利確定主義」(その2) 〜不動産所得
さよなら「権利確定主義」(その3) 〜譲渡所得
さよなら「権利確定主義」(その4) 〜違法所得

○ 18頁 所得概念

 他の教科書類と同様、例によって「包括的所得概念」の説明からスタートしています。

佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)

 そして、その後のいくつかの論点では、同概念からの帰結を記述したりしています。が、同概念どおりのストレートな結論が採用されることはなく、それぞれの場面ごとになにかしらの修正が加えられています。
 なのだとしたら、同概念では現行所得税法をあるがままに記述することができない、ということではないのでしょうか。
 あくまでも同概念は原則であり、場面ごとの例外があるにすぎない、ということかもしれません。が、ことごとく例外があるのだとしたら、もはやそれは原則として機能していないということです。

 また、もしも同概念からスタートすることで余計なバイアスがかかるのだとしたら、素直な条文理解の妨げともなりかねません。
 現行所得税法は、各所得類型ごとに異なった扱いをしているわけで、年度帰属や人的帰属についても、各所得類型ごとに異なる解釈を採用する余地があります。にもかかわらず、「所得概念は統一的に理解すべき」というバイアスが先行してしまうことで、特段の理由もなしに、そのような解釈にマイナスの評価をしてしまうことになりかねません。

○ 33頁 収入金額

 「圧縮記帳」

 法人税法とは違って、所得税法では圧縮記帳とは表現しません。この点も、所得税は所得類型ごとの違いがあるということを念頭においておけば、なぜ圧縮記帳といわないのかが理解できるところだと思います。

 もちろん、知っている人にとっては「法人税法でいうところの圧縮記帳と同様の処理という趣旨ね」ということは理解できます。が、初学者はまずは正確な理解をすべきであって、言葉遣いも正確を期するべきです。

○ 48頁 減価償却

 「租税特別措置法において、初年度全額償却や加速償却が認められることがある。」

 現行法で、加速償却はありますかね?

○ 48頁 繰延資産

 「支出の効果がその支出日以降1年以上に及ぶものは繰延資産と呼ばれ、資産計上し、数年にわたり償却費として費用化することが認められている。」

 語尾が「認められる」となっていますが、強制と任意の違いは意識的に区別すべきでしょう。

 ・繰延資産に該当 ⇒資産計上しなければならない(強制)
 ・任意償却できる ⇒いつでも償却してよい(任意)
 ・任意償却できない ⇒償却期間で償却しなければならない(強制)

 この点も、初学者への配慮の問題です。

○ 48頁 課税繰延

 「納税者は、来年以降に課税を延期させること、すなわち課税繰延ができ有利となるからだ。」

 個人の場合は「累進課税」や「損益通算」のこともあるので、ただ単に遅らせればいいというものではないです。
 特に累進課税は時間的価値を上書きするほどの猛威となりうる、ということも理解しておくべきことでしょう。

○ 88頁 所得控除

 (配偶者控除・配偶者特別控除は)「2017年改正で拡充された」

 納税者本人の所得額による消失・逓減も入ったので、拡充だけではない。

○ 103頁 益金

 (親会社から無利息融資を受けた完全子会社Sの処理について)「利息相当額は、Sの益金には加算されることはない。その理由は、仮に益金に加算したとしても、支出すべき費用分が損金として生じ、互いに相殺するからである。」

 初学者からすれば、無利息融資なのになんで「支出すべき費用分」があるんだよ、と疑問に思いますよね。この点、仕訳から入った人のほうがすんなり理解できるかもしれません。

 ここでいう「支出すべき」というのは、法的に利息支払債務があるという意味ではありません。
 「経済合理性を追求するはずの法人が無利息で金銭の貸し借りをするわけがない」という決めつけが先行してあって、

  支払利息/?

それを払わなくてよくなったんだから免除益が発生する、という建付けになります。

  支払利息/免除益

 つまり「支出すべき」というのは、法人なら当然利息を支払うべき、という税の世界の決めつけを表しているわけですが、初学者にそこまでの含意は読み取れませんよね。

 また、法律書なのだから「相殺」という用語の不正確な利用は避けるべき。しかも「互いに相殺」って《馬から落馬》みを感じる。あるいは、たとえば甲乙間に債権債務が4本あって、甲が債権Aと債務B、乙が債権Cと債務Dを互いに相殺し合う、ということでしょうか。
 

○ 117頁 損失

 「金銭債権が全額回収不能かの判断について、法人税法に定めはないが、租税実務は、次の3つの場合を挙げている。」「法律上の貸倒れとして、更生認可決定などの法的手段による債権の全部または一部の放棄があった場合(法人税法基本通達9-6-1)」

 「全額」といっておきながら「一部」でも認められるんですか、という疑問が当然生じますよね。
 ここは、法的な切り捨てなら一部でもいいことになっている、という補足が必要です。

○ 120頁 税率

 「法人税の通常の税率は」「23.2%へと段階的に引き下げられた」

 結構低いんですね、と思うかもしれませんが、これはあくまでも法人税の税率のみ。
 本書は「地方税」の記述がごっそり省略されてしまっているので、こういう記述にならざるをえません。

○ 123頁 配当

 「配当が40の場合、残り40には法人税を課され」

 所得100の例のままだとしたら残りは60。

○ 126頁 留保金課税

 第1刷では、盛大な間違いをおかしています。
 最初、知らない間にこんな大改正が入ったのかと思って一瞬焦ったのですが、単なる本書の間違いでした。

 間違いの内容は、出版社のサイトに正誤表が載っているので、そちらをご覧いただくとよいかと。

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8378.html

 以下長くなりそうなので、本記事とは切り離して次回以降論ずることにします。

留保金課税における資本金基準と株主構成基準の交錯

○ 136頁 グループ法人税制

 「大法人と一体とみられる中小法人への課税強化に「軽減税率」や「特定同族会社」に係る制限があることは、既に触れた。」

 上記のとおり126頁は修正が入ったものの、こちらの記述はそのまま。
 どうしても「制限」で言葉を揃えたいなら、特定同族会社のほうは「不適用の制限」でしょう。

○ 137頁〜 組織再編税制

 組織再編税制について、複数指摘すべき事項があるため、こちらも次回以降にまわします。

非適格は「非適格である」であって「適格でない」ではない 〜組織再編税制

○ 156頁 リバースチャージ等

 リバースチャージをとるべき理由としてあげられている事例、初学者には理解しにくいように思われます。この点も次回以降で論じてみます。

引けない消費税 〜リバースチャージと控除対象外消費税

○ 164頁 債務控除

 「従業員が将来退職する時に退職金3000万円を支払わなければならないことが予測できる場合」に、この会社の株式の評価額から見込み退職金を控除してよい、ということが書かれています。

 これは本当ですか?
 それとも、旧「退職給与引当金」の話ですか?

○ 164頁 基礎控除

 「15条にいう養子の数は原則として2人までとなっている。」

 『原則』とは?
 被相続人に実子がいない状態がデフォルトで、実子ができると例外的に養子1人までとなるということですか。

相続税法 第十五条(遺産に係る基礎控除)
2 前項の相続人の数は、同項に規定する被相続人の民法第五編第二章(相続人)の規定による相続人の数(当該被相続人に養子がある場合の当該相続人の数に算入する当該被相続人の養子の数は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める養子の数に限るものとし、相続の放棄があつた場合には、その放棄がなかつたものとした場合における相続人の数とする。)とする。
一 当該被相続人に実子がある場合又は当該被相続人に実子がなく、養子の数が一人である場合 一人
二 当該被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合 二人


 法律書において、原則/例外や任意/強制などは厳密に使うべき用語だと、私は思います。

○ 166頁 法定相続分課税方式

 法定相続分課税方式につき、偏った配分/均等配分いずれにも中立的だと評価されています。
 これ自体はそのとおりですが、平等な配分をデフォルトだと考える立場の人からすれば、不当な制度だと言われるでしょう。

 「中立的」という用語は何と何を比較するかによって評価がかわるもので、その言葉自体は決して中立的でない、ということに注意すべき。ですし、中立的であることが望ましいかはまた別問題です。

○ 167頁 延納

 「10ヶ月以内に遺産分割協議を終え申告し納付まで済ませるのは難しいことも多く、相続税法38条は一定の要件の下で延納を認めている。」

 延納はあくまでも納税の延長であって申告期限の延長ではありません。

 ・期限まで申告が難しい ⇒申告期限の延長
 ・期限まで納付が難しい ⇒延納
 ・金銭での納付が難しい ⇒物納

○ 168頁 相続財産の種類

 「被相続人が農地を買う契約の途中で死亡し」

 「契約の途中」とは?契約締結後引渡前ということでしょうか。
 法律書で法律関係を叙述する場合、正確に表現すべきでしょう。

○ 168頁 相続財産の種類

 「農地所有権移転請求権が財産評価基本通達による場合と同様に299万円と評価されるのかが争点である」

 正確には「財産評価基本通達による農地の評価と同様に」とするか、文字数減らしたいならば「農地の評価と同様に」でしょう。

○ 171頁 贈与税 期間

 「相続税法21条の2は原則として年度毎としており」

 年度毎が『原則』ということは年度毎とならない例外があるはずですが、明記されていません。
 「相続時精算課税制度」を想定しているのでしょうか。こちらも贈与税としては年度毎ですが。

○ 174頁 税額の計算

 「毎年少額ずつ受贈することで贈与税負担を軽くしようと考える場合、贈与契約を締結しないように気をつけねばならない。」

 巷の「毎年しっかり贈与契約書を作成しましょう」という提案と真っ向からぶつかる記述。

 これは、初年度にまとめて将来分を契約しないようにしましょう、ということですかね。

○ 176頁 事業承継税制

 「相続・贈与の後5年間は後継者が株式を保有し続け、さらに雇用の80%以上を維持すること等を条件として、相続税・贈与税の納税猶予及び免除を定めるものである。」

 「猶予」まではそうなんですが、「免除」までいくにはもう一声必要です。

○ 176頁 事業承継税制

 「事業承継より身内の事業承継を優遇する点で非中立的であるという問題もある。」

 親族外承継も認められているわけですが、遺贈ルートであるかぎりどうせ身内みたいなもんだろ、という評価なんですかね。
 そして、上述したとおり、非中立的それ自体が直ちに問題となるわけではありません。

○ 176頁 公正証書贈与事件

「〜という狭義の事実の認定の積み重ねがあって」「〜との広義の事実認定が導かれている。」

 ここでいう狭義/広義とは何か?
 「裁決」のような実定法上の決まった用語ですらないので、説明がないのは不親切の極み。

○ 182頁 資本所得に対する源泉徴収税

「国内法で源泉徴収税率は原則30%であるところ、」

30%はないよなあ。

○ 217頁 文理解釈

「争点は、「日数」が、計算期間(通常は15日)を意味するか出勤日数を意味するかである。」

 「通常は15日」って。
 それは当該事案のパブクラブが設定した計算日数であって、通常の計算期間ということではなかろうよ。

○ 220頁 租税回避の例

 譲渡所得を回避するということで挙げられている事例、いまいちしっくりこないので、次回以降で論じてみます。

どこまでも追いかけてくる、夜の月のように 〜租税回避チャレンジ

○ 224頁 相互売買事件

 交換の場合の収入金額は「取得した資産の時価」だということは33頁に書いてあります。
 てっきり書いてないと思って一応探してみたら、ちゃんと書いてありました。が、ちゃんと参照ページを示したほうがよいのでは。



 以上、先に書いたように、これら指摘のほとんどは、あくまでもガチの初学者にとっての「あるべき入門書」であるためには、という観点からのものです。

 私自身は本書から恩恵を受けられたように、一通り勉強が進んだ人とっての「中二階」的な位置づけであれば、優れた書籍であることは間違いありません。
 上記指摘のいくつかが本ブログの過去記事の踏まえたものになっているというのは、それなりに勉強した箇所だから気づくことができた、ということのように思えます。今回触れていない他の箇所も、私が勉強不足なだけでまだまだ指摘すべき事項があるのかもしれません。

 入門書・教科書の中には、一定程度勉強が進んだ人が読んでも資するものがあるものと、まったく無益なものとがあります。後者は主として、いわゆる《情報陳列系》《条文引き写し系》のものが該当します。
 他方で、本書は前者に属するものだということができますし、むしろそういう使い方のほうがよさそうです。もう少し勉強が進んでから、また戻ってこようと思います。

 売らんがな精神かどうか分かりませんが、宣伝目的に「入門的」という一言を挿入してしまったせいで、私の入門書ソムリエとしての嗅覚が稼働してしまい、ここまでの記事ができあがってしまいました。

 やはり、入門書と教科書とは明確に役割を区分すべき、という確信がより強まりました。
posted by ウロ at 15:42| Comment(0) | 租税法の教科書

2020年10月05日

佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)

※以下は「第2版補正2版(2020)」の書評です。

 「税法学」学習の入口として、今のところの最有力。



佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)

 「租税法」の教科書、分かりやすい風の教科書がいくつか出ていますが、あくまでも「風」なことがほとんど。
 二色刷り、図表豊富、ですます調であることが、必ずしも分かりやすいわけではない、という罠。

税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 版を重ねている、というのも一般書籍であれば信頼性に繋がります。
 が、大学の教科書の場合は、毎年学生に買わせているだけ、というパターンもありうる。

法学研究書考 〜部門別損益分析論


 他方で、本書は正しく分かりやすい。

 「租税法」という名前の教科書で、複数税法を散開的に勉強するよりも、まずは、所得税法なら所得税法だけを一通り勉強したほうがいいと思う。
 特に個別法の勉強が進んでいない段階で「総論」的な記述を読んでも、よく分からないでしょうし。

 構成として、1頁目から「総論」的な記述が長々と続く教科書は、それだけで不親切設計だと看做しても、おおよそ間違いではないと思う。


 本書が特に優れているところは、逐一事例をあげることで具体的に理解できることと、個々の制度の理由付けが記述されていてなぜそのような制度があるのかを理解することができること。

 図表も豊富で、本文の説明を視覚的に理解することに繋がっている。
 そんなの当たり前、と思うかもしれませんが、図表と本文が一致しない書籍もあるんですよ。

三木義一「よくわかる税法入門 第16版」(有斐閣2022)


 珍しいのが「手続法」の記述もあること。
 通則法の説明が、ちゃんと所得税法向けにカスタマイズされていて。

 通則法の側から勉強しても、所得税法に限った記述になっていないので、どうしても理解しにくいところ。
 それが所得税法に適用されるかぎりでの記述になっているので、非常にイメージしやすい。

 「所得税法を一通り勉強する」という観点からしても、実体法だけでなく手続法まで触れているのは、とてもよい。


 ただし、私が本書を読んでいてどうしてもなじめないのが、事例に出てくる人物の名前が「アユミ」「イサム」からはじまって、カタカナ五十音順で続々と登場してくるところ。
 事例がでてくるたびに、キャラクターのイメージをセットしなおさないといけない。
 
 これはアレです、ロシア文学読んでて、登場人物の名前をさっぱり覚えられない現象に近しい。



ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(光文社2006)

 や、長編なら、読んでいくうちに名前とキャラクターのイメージが出来上がっていくのでまだましかも。
 絶望的にキャラクター描写が下手な短編集を次々読まされる感じですかね。

 所得税法でたくさん事例をあげるのであれば、登場人物を絞ってもいけるはず。

 たとえば、

  仕事:学生⇒サラリーマン⇒個人事業主⇒会社経営⇒会社売却⇒投資家
  家庭:同棲⇒結婚⇒出産⇒離婚

などといった感じで人生を展開させれば、一人でも相当な範囲をカバーできますよね。

 ちなみに、大垣尚司先生の会社法の教科書であげられている事例は、会社の立ち上げから始まって会社の発展にあわせたひと繋ぎの事例になっています。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 親切にも、冒頭に「登場人物一覧表」もあげてくれていて、非常にイメージがしやすい。


 なお、本書にかぎらず、租税法・所得税法の教科書にかならず書いてあるのに、私がいまだによく理解できないもの。

 それが「包括的所得概念」。

 現行所得税法が「包括的所得概念」を採用しているかのようなことが最初に書いてあるものの、個々の規定の解説の段階では、「包括的所得概念」とはそぐわないものがそこかしこに出てくる。

 これって、そもそも「包括的所得概念」を採用していないってことなんじゃないのかと。

 これがたとえば、藤田宙靖先生の行政法の教科書のように、「法律による行政の原理」を『ものさし』としてそれとの偏差で行政法学の展開を記述する、という使い方ならまだ分かります。
 あくまでも、現行所得税法の立場を理解するための『ものさし』としてならば。




藤田宙靖 新版 行政法総論 上巻 青林書院2020
藤田宙靖 新版 行政法総論 下巻 青林書院2020

 が、「現行所得税法は包括的所得概念を採用している」とか書くから、実際の規定との折り合いをどうつけるというのか、逐一疑問が残ってしまう。
 単なる抽象概念で無益なだけならともかく、そのような先入観があるせいで、現行所得税法のあるがままの姿を理解することの妨げになるというのなら、それは有害概念でしょう。

 もしかしたら、シャウプ先生の呪いで、租税法の教科書を書く人は必ず冒頭に「包括的所得概念を採用している(キリッ)!」て書かないと爆散する、のだとしたら、外野があれこれ批判するべきでないのかもしれません。
 が、そうだとしても、(人生の、ではなく教科書の)最後にこれまでの記述をちゃんと振り返って、適合率を正確に測定するくらいはできますよね。

【本書よりさらに手前の入門書】


佐藤英明「プレップ租税法 第4版」(弘文堂2020)

【法人税法の教科書】
渡辺徹也「スタンダード法人税法 第2版」(弘文堂2019)

【コラボもの】
窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)
posted by ウロ at 09:25| Comment(0) | 租税法の教科書

2020年09月28日

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)



伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 租税法に「要件事実的思考」を持ち込もうという趣旨で書かれた論文集。
 のはずなんですが、要件事実論の持ち込み具合が、各執筆者によりまちまち。


 要件事実論を論ずるにあたっては、前提として、たとえば次のような概念の違いを正確に理解しておく必要があります。

 ・解釈/評価/事実/証拠
 ・主要事実/間接事実
 ・本証/反証
 ・要件事実論/事実認定論



伊藤滋夫「要件事実の基礎 新版」(有斐閣2015)
伊藤滋夫「事実認定の基礎 改訂版」(有斐閣2020)
(ついに事実認定本も改訂版が!)

 執筆陣の中で、ガチガチの要件事実論研究者は伊藤滋夫先生だけで、それ以外の方は租税法側からのアプローチ。
 上記概念を正確に使えているのだろうかと、疑問に思わないでもない箇所がちらほら(ただの反証を抗弁と言っているのではないか、とか)。


 ところで、要件事実論の学習者が辿る一般的なプロセスは、次のような感じ(私見)。

 1 序
  民法内部で争われている解釈論を立体的に理解できることにカタルシスを感じる
 2 破
  要件事実論に配慮していない民法の教科書類をディスりだす
 3 急
  要件事実論を論じる前に実体法レベルでの議論を詰めておくことが大事だと気づく

 こんなイメージを持っています。

【三部構成】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)

 要件事実的思考を租税法に導入するとかいうので、1のカタルシスが得られればいいな、と思って読んでみたのですが、残念ながら。

 たとえば、「推計課税」とか租税法内部では錯綜した議論が展開されています。
 ここに要件事実的思考を導入することで、租税法内部の議論が立体的に理解できるようになるかなあとか思ったんですが、そういうこともなく。

 もちろん、私の感度があまりにも低レベルすぎるってだけの可能性もありますが。


 租税法の中では重要論点である「借用概念」とかも論じられています。
 が、借用概念を要件事実論の観点から論ずべきことなんて「何もない」というのが私の見立て。

 というのも、借用概念論は、税法上の概念を民法からお借りして解釈するかという問題です。
 つまり、裁判所が当該概念をどのように「解釈」すべきか、ということ。

 他方で、要件事実論は、あくまでも当事者が主張立証すべき「事実」が何かを論ずるものです。
 借用概念なのか固有概念なのかが決まった後に、ようやく登場してくる。

 ので、両者が交わることはない。

 あえて交わらせようとするなら、「原則は借用概念として解釈されるから、固有概念であることを主張したい側がそのことを証明すべき。」みたいなことを言うか。
 が、これはむりやり要件事実風に仕立て上げているだけで、そこに要件事実論の知見が生かされることは、まあないでしょう(傀儡感・脱殻感強い)。


 あるいは、たとえば『住所認定に租税回避の意思を含めるべきではない』という言明について、少なくとも当該意思が住所の「主要事実」とならないことを含意していることは分かるとして、さらに「間接事実」としても用いてはいけないといっているのかどうかを分析するとか。

 主要事実を認定するための一要素としてなら考慮していいのか、あるいは、それすら許されない(法定証拠法則)ということなのか、みたいな。

 まあこれは「事実認定論」に片足突っ込んでいる気がしますけども。


 完全に私の邪推ですけど、編集段階で『要件事実論の観点から論ずべき租税法の論点』についての洗い出し・絞り込み、というのをやっていないように思います。
 論ずべき内容を、各執筆者にお任せした感じの。

 だからといって、ガチガチに執筆方針を固めてしまうと不具合が生じることもあるでしょう。

【悲劇のパンデクテン】
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民まとめ)

 が、要件事実論を租税法に導入する、なんて慣れないことをさせるのならば、事前に伊藤滋夫先生が要件事実マインドを各執筆者に叩き込んでおいたほうがよかったんじゃないですかね。

 また、ちらっと上述したとおり、要件事実論のみならず事実認定論も交えたほうがいいような気もします。
 私法側では分離して論じられていますけども、租税法で展開する際には一体として論じたほうがよさそう。


 租税法に要件事実論を導入することに否定的な立場の人もいるらしく。

 本書は「租税法でも要件事実論大事だよ」側からの論文しかないので、否定論者の具体的な論拠はわかりません。
 が、おそらくこういうことを問題視しているんだろうな、と思われる記述が本書の中にあったので、検討してみます。


P.467
「取消訴訟の請求原因として、上記@の賦課期日における事務所等の存否に係る誤認が争点とされている場合には、被告地方団体は、抗弁として、納税義務者たる法人等が賦課期日において当該地方団体の区域内において事務所等の登記登録がなされていたという具体的事実(ここでは、台帳や登記簿等の形式的な登記登録事実が要件事実となる)を主張・立証しなければならない。これに対して、原告法人等の側で、賦課期日において事務所等を廃止し又は売却して、転出していたにもかかわらず、天変地異や事故等のやむを得ない事情により、登記登録抹消の手続きをすることができなかったことや建物等の所有権移転登記をすることができなかったような事実があるとするならば、再抗弁として、当該具体的事実を障害事実として主張・立証する必要がある。」


 これは、法人住民税均等割についての、立証責任の分配に関する記述。
(地方税法で「事務所等」が使われているものはいくつかありますが、ここでは「法人住民税均等割」で代表させます)

 この記述では、均等割が課税される「事務所等」の主張立証責任を

  (抗弁)地方団体:
    形式的な登記登録事実があること
     を主張立証すべき
  (再抗弁)納税者:
    実質的な事務所実態がないこと、および
    やむを得ず登記登録の移転・抹消ができなかったこと
     を主張立証すべき

と分配することが書かれています(以下、主張立証責任は単に「立証責任」といいます)。
 ※抗弁から始まるのは、債務不存在確認訴訟と同じく更正処分取消訴訟の構造上の都合です。

 が、これ率直にいって「要件事実ロンダリング」
 すなわち、正面から租税法律主義を潜脱することはできないので、立証責任の分配経由で条文を書き換える仕草(もちろん私の造語)。

【参照:趣旨ロンダリング】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 以下、ロンダリングっぷりを敷衍します。
 (登記登録の移転抹消は「登記抹消」で代表させます。また地方団体は「課税庁」といいかえます。)


 上記立証責任の分配によれば、納税者が立証に失敗した場合には、登記だけで均等割を課税できることになります。

 確かに、「固定資産税」はそんな感じにみえる構造になっています。

地方税法 第三百四十三条(固定資産税の納税義務者等)
1 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。


 第2項第一文で「台帳課税主義」をとりつつ、同項第二文で「じゃない場合」を認めると。

 もちろん条文構造からだけで直ちに、第二文の立証責任を納税者側に負わせていいとはなりません。
 「本文+但書」形式にもなっていませんし。

 が、台帳課税主義という原則の例外、ということで、納税者に例外事由の立証責任を負わせることは不当ではない、という結論もありうるかと思います。
 他方で、納税者に本証レベルの負担までは要求すべきではない、とか、反証レベルの負担は納税者に負わせるべき、などといった見解もありえて。

【租税実体法】
 登記あり+第二文の事由なし ⇒課税する
 登記あり+第二文の事由あり ⇒課税しない

 実体法レベルでは、第二文の事由が存否不明の場合に課税できるのかどうかは分かりません。
 これを明らかにするのが要件事実論のお仕事。

【要件事実論の展開】
 A説:
  課税庁 登記あり(本証)
  納税者 第二文の事由があること(本証)

 ⇒納税者が「あること」の立証責任を負う。

 B説:
  課税庁 登記あり+第二文の事由がないこと(本証)

 ⇒課税庁ははじめから「ないこと」の主張立証をしなければならない。

 C説:
  課税庁 登記あり(本証)
   納税者 第二文の事由がある可能性があること(反証)
  課税庁 第二文の事由がないこと(本証)

 ⇒課税庁はさしあたり「登記あり」のみ主張立証すればよい。
 納税者が「あることの可能性」を主張立証してきたら、「ないこと」を主張立証すべきことになると。

 といった感じの議論をするのが「租税訴訟における要件事実論の展開」なんでしょう。
 で、「台帳課税主義」というものをどれくらい重く見るのか、なぜ第二文の場合に登記名義人に課税しないのか、といった法の趣旨から結論を導き出すと。

 とはいえ、第二文の事由は極めて限定されているので、その存否で争いになるとは考えにくい。
 あくまで要件事実論手習いとして記述してみたまでです。


 翻って均等割。

地方税法 第二十四条(道府県民税の納税義務者等)
1 道府県民税は、第三号に掲げる者に対しては均等割額及び法人税割額の合算額によつて課する。
 三 道府県内に事務所又は事業所を有する法人


 条文構造は立証責任を課税庁・納税者に分配するような形にはなっていません。

 また、下記の通知をみても、形式があればとりあえず課税、などとは考えられていません。

地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)第1章 一般的事項
6事務所又は事業所
 (1) 事務所又は事業所(以下6において「事務所等」という。)とは、それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいうものであること。この場合において事務所等において行われる事業は、当該個人又は法人の本来の事業の取引に関するものであることを必要とせず、本来の事業に直接、間接に関連して行われる附随的事業であっても社会通念上そこで事業が行われていると考えられるものについては、事務所等として取り扱って差し支えないものであるが、宿泊所、従業員詰所、番小屋、監視所等で番人、小使等のほかに別に事務員を配置せず、専ら従業員の宿泊、監視等の内部的、便宜的目的のみに供されるものは、事務所等の範囲に含まれないものであること。
 (2) 事務所等と認められるためには、その場所において行われる事業がある程度の継続性をもったものであることを要するから、たまたま2、3か月程度の一時的な事業の用に供する目的で設けられる現場事務所、仮小屋等は事務所等の範囲に入らないものであること。


 課税庁側でも、実態のあることが課税要件だと捉えられています。

 意外なことは、ここに登記登録といった事情が一切含まれていないこと。
 便宜に流れがちな課税実務としては、前記のC説的な判断をするなり、そこまでいかないにしても判断要素の一つくらいにしていてもおかしくない。
 のに、そのような内容になっていない。

【租税実体法】
  実態あり ⇒課税する
  実態なし ⇒課税しない


 にもかかわらず、上記記述では、通知にすらない登記のみによって事務所あり認定してもいいんだと。
 てっきりなにか別の税目のことを論じているのかと思ったんですが、間違いなく法人住民税均等割の箇所に書いてあります。


 上記記述のさらなる鬼っぷりは、納税者が実態がなくなったことの立証に成功したとしても、登記抹消できなかったことに「やむをえない事情」があったことの立証に失敗したら課税されてしまうということ。
 「および」を太字にしたのは、その点を強調するためです。

(抗弁)地方団体:
    形式的な登記登録事実があること
     を主張立証すべき
  (再抗弁)納税者:
    実質的な事務所実態がないこと、および
    やむを得ず登記登録の移転・抹消ができなかったこと
     を主張立証すべき

 考慮要素ですらない登記で課税するにしても、実態がなければ課税なしとするのであればまだましと言えなくもない。
 ところが、実態がなくても登記抹消できなかったことにやむを得ない事情がなければ(あることが証明できなければ)課税するんだと。

 これ、完全に地方税法を拡大解釈してますよね。

【要件事実ロンダリング】
  (課税庁)登記あり ⇒課税する
   +(納税者)実態なし ⇒課税する
    +(納税者)登記抹消してないことのやむを得ない事情あり ⇒課税しない


 租税実体法レベルでは実態が要件だったはずなところ、いつのまにかそれが登記にすり替わり、実態のほうは、それが無いことが再抗弁事実(のうちの一つ)に左遷されると。


 租税実体法を正しく理解した上で、その実体法を踏まえて立証責任の分配を行う、という手順を守るならば、以下のような流れになるはずです。

・まずは実体法上の「要件」を確認。

【租税実体法】
  実態あり ⇒課税する
  実態なし ⇒課税しない


 が、実体法レベルでは、実態が存否不明の場合に課税できるかどうかが不明。

・そこで「要件事実論」を導入。

【要件事実論の展開】
  実態あることを課税庁が立証 ⇒課税する
   課税庁が立証失敗(実態なしor実態不明) ⇒課税しない


 要件事実論により決定できるのは、実体法の要件である実態をどちらが主張立証すべきか、ということであって、そこで要件事実論のお仕事は終了。
 要件事実論の領分は、あくまでも実体法の要件を主張立証用に翻訳することであって、実体法に存在しない要件を創設することではないはずです。


 「形式があれば課税」なんて立論、どれほど課税庁寄りな論者であっても、そこまで極端なこという人いないんじゃないですかね。

 ところが、要件事実的思考を導入することで、そんな極論も臆面なく言えてしまうと。
 要件事実論、魔法のクスリですか(カタカタで書く感じの)。

 まあ、論者自身も「主観的」にはそんなつもりはなかったんだと思います。
 要件事実論を絡めないで、単純に「事務所等ってどうやって判定するの?」と質問されたら、「実態で判断するよ」て答えると思うんです。

 が、要件事実論を通すことでこんな暴論が出てきてしまうと。

 あるいは、「10秒以内に立証責任を分配しないと人質に危害を加えるぞ!」とでも脅されたとか。
 「分配」と言われてしまったので、どうにか課税庁・納税者に分けなければ、ということで反射的に形式と実態に分離させてしまったんだと。
 ひでえ妄想書きやがるな、と思うかもしれませんが、これくらいの妄想事変がなければ優秀な学者先生がこのような記述を書いたことの説明ができなくないですか。


 導入否定論者が危惧するところは、こういうところにあるんじゃないですかね。
 生半可な知識で要件事実論を導入してしまうと、こんな事態に陥ってしまうと。

 「生兵法は大怪我のもと」の教科書事例。
 編者の伊藤滋夫先生くらいガチガチの要件事実論研究者ならともかく、租税法学者が軽い気持ちで手を出すものではないと。
 少なくとも、前記「3 急」段階まで進んでからはじめて、『さて、租税要件事実論の話をしよう』とやってくれと。


 そんな中で、宮崎裕子先生の『国際租税法における要件事実論−租税条約における立証責任の転換という手法の採用について−』という論文が別格。

 ざっくり内容をいうと、PPT条項により支払者(源泉徴収義務者)に条約目的適合性の立証責任を負担させるのまずくないか、という問題意識で書かれたもの。
 非居住者である受領者側の事情を支払者に証明させるとか悪魔かよ、と(もちろん、そんな表現はされていない)。

 要件事実論を「導入」するかしないかなんて入口の議論は秒で通り過ぎて、本書籍のタイトルどおり、きちんと要件事実論が「展開」されています。

 単純に、私が宮崎節に心酔している、というだけかもしれませんが。

解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 この論文を読めただけでも成果はあったといえるでしょう。
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2020年07月27日

「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)

※以下は初版(2017)の書評です。アクティブ・ラーニング済みなので第2版はたぶん読みません。

 改訂版が正統進化とならない、とあるひとつの実例。



 「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)

 前著(いわゆる無印)は、民法と税法が絡む問題につき深く論じられていて、示唆を得るところ大でした。



 「実務家のための税務相談 民法編」(有斐閣2006)

 「新」がでてしまったせいで同書の改訂はもはや望めないわけですが、同書で展開されている「考え方」は非常に参考になるので、今からでも購入していいと思います。
(リメイク版があまりにも不評だったため、あらためてオリジナルスタッフで製作しなおす、みたいなドラマ・アニメもあったりしますが)


 さて問題は、この「新」がついている本書。
 前著の後継かと思ってノールックで購入してしまったのですが、中身が全くの別物にすり替わっていました。

 ・むやみに多数の項目が取り上げられていて、
 ・やたらと多数の執筆者が参加していて、
 ・一項目がどれもこれも3,4頁程度と短く、
 ・当該項目にかかわる法規定と通達・裁決・判決をパラパラと並べた、

感じの記述が延々と続く。
 特に新しい何かを学べる、というものでもなく。

 執筆者多数なので、決してすべてがそうだということではないのですが、

 × 設例(Question)があるのに、その設例にまともに答えていない。
 × 設例がふんわりしすぎ。
 × ★で項目を重要度をランクづけしているのに、どれもこれも同じ分量。
 × 特に税法上の問題がない項目を無理やりねじ込んでいる。
 × 項目を細分化しすぎて記述がダブついている。
 × 当該項目に関する税法上の制度・論点をランダムに並べているだけ。
 × 事案もかかずに判例の規範部分だけ書かれても射程が不明。
 × 個人(所得税)と法人(法人税)がごちゃごちゃ。
 × (売買でいうと)売主側の問題なのか買主側の問題なのかがごちゃごちゃ。
 × 印紙税や消費税の問題を、論じたり論じなかったり。
 × 実務で使う、という視点が希薄。
 × 法律用語の使い方が不正確。

などといった問題が散見される。

 きつきつの分量で中途半端な解説をするくらいなら、当該項目に関連する制度を完全網羅した「インデックス」に徹しておけばいいのに。
 個々の内容は、信頼のおける他書の該当箇所だけ指示しておいてもらえればいいですよ、と。


 これはアレです、アクティブ・ラーニング系。

【アクティブ・ラーニング系】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)
三木義一「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)
(そろそろ独立のカテゴリをつくってもいいかもしれない。)

※追記
 しました。
 カテゴリ(アクティブ・ラーニング)

 信頼のおける書籍を座右に置きながら、本書の記述が正しいかどうかを点検しながら読む感じの。
 本書の記述を鵜呑みにできないおかげで、自分の知識があやふやな部分を再確認できるので、そういう意味ではいい素材ではある(皮肉)。

 金子宏先生の体系書なんて、ありがたく拝読するという感じになってしまって、批判的に読むのはなかなか難しいですからね。



 金子宏「租税法 第23版」(弘文堂2019)

 例によって、このことに途中から気づくという致命的なミス。
 や、どうも怪しいな、とは思っていたんですよ(言い訳)。

 ツッコミどころ、かなりの数になりそうなので、今回の記事は「これから検討していくよ。」という所信表明です。


 一応、軽く頭出しだけしておきます。

61 クレジットカード契約

「信販会社は立替払をしています。そうすると、この支払いをしたときに、経費の支出があるため、損金が計上されることになります。それにあわせて、利用者に対する貸付金債権が発生するため、それを益金計上することになると思います。」

 信販会社側の税務処理なんて、私にはおよそ縁のない話だと思います(私どころか大多数がそうだと思うので、それをわざわざ本書で記述する必要ある?というのはさておき)。

 が、これ、何言っているんでしょうか。

 ここでいう「経費」とはなんなのか。まさか立替払のことか。
 「それを益金計上」というのは、貸付金債権のことなのか、そうなのか。
 ていうか、立替払をすると売掛金が貸付金になるのか。

 仕訳にするとこうですね、マジかよ信販会社(見慣れぬ科目名はオリジナル)。

  立替金費(損金)/現金
  貸付金/貸付金収入(益金)

 てっきり手数料だけが売上になるのかと思っていましたよ。
 利用者の利用額が、加盟店の売上になるだけでなく、信販会社の売上にもなるってことですね。

 これ、会計素人の人が「銀行から借入すると収入、返済すると(元本返済も)費用になる」みたいなことを言っているのと似ているような気が。

 全力で善解して、「ファイナンスリース」のことを言っていると読めばどうにかなりますか。
 や、無理だわ。別途「ファイナンスリース契約」の項目もあるし。

 あるいは、これはあくまでも税務処理であって会計処理ではないのだ、と考えてみましょうか。
 そうすると、会計で計上されていない貸付金収入と立替金費を、申告書上で加減算すればいいんですかね。

 意味ねえな。
 そもそも会計とズラすには法的根拠が必要なはずですけど、そういう規定があるわけでもないですし。

 また、ここでは「立替払方式」のことしか書かれていません。
 「債権譲渡方式」についてや、あるいは「三当事者型」以外のタイプについては一切触れられていません。

小塚荘一郎,森田果『支払決済法 第3版』(商事法務2018)


 という具合で、不可解な記述がちらほら散見されるので、うまくまとめられたら記事にします。
 たぶん、一回ではとても終わらない。

 「会社法編」もあるけども、この調子で突っ込みながら読んでいって、そこまで到達できるだろうか。



「新 実務家のための税務相談(会社法編) 第2版」(有斐閣2020)

アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民1)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民2)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民3)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民4)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民5)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民6)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民まとめ)
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2020年06月08日

酒井克彦「プログレッシブ税務会計論」(中央経済社2018)

 法律書界隈では、異常なまでの遅筆者がいる一方で、異常なまでの多産者もいらっしゃいます。

 前者のせいなのかどうか分かりませんが、先々の刊行計画というのが表に出てきません。
 おかげ様で、改訂直前に旧版を掴まされたりとか。

【直近の掴まされ例】
最近の気になる本

 とにかく教科書と小型六法さえ売れてくれればそれ以外はお構いなし、ということですか。

【邪推の極み】
法学研究書考 〜部門別損益分析論

 私のようなマニアどもは、出版社にどんなにぞんざいに扱われても、勝手に買ってくれますし。

【さすがにキッツいわあ】 
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)


 他方で、後者の代表が宇賀克也先生。

 宇賀克也先生(Amazon.co.jp)

 最高裁判事になられて滞るかと思いきや、なぜか普通に出版が続いています。
  
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 そして租税法だと、本書著者の酒井克彦先生が当代随一。

 にもかかわらず、今まで当ブログで扱うネタとは交わりませんでした。
 満を持してご登場。



酒井克彦 プログレッシブ税務会計論1(第2版) 法人税法と会計諸原則
酒井克彦 プログレッシブ税務会計論2(第2版) 収益・費用と益金・損金
酒井克彦 プログレッシブ税務会計論3 公正処理基準


 では、さっそく余談から。

 最近、というわけでもないのでしょうが、税理士さんの中には、

 ・税理士×○○
 ・税理士なのに税理士業務以外の仕事が多い。
 ・税理士らしくないと言われる。

のように、「税理士業務だけやる」ということに、どこか否定的なニュアンスを含んだ発言をされる方がいます。

 各人どのように働くかは自由であり、かつ、どのように発言するかも当然自由なわけですが、そのような人たちが、それでも税理士を名乗るのは何故なのだろうか、と思わないでもない(否定しているのではなく、単純に疑問なだけです)。


 私自身は、税理士の「本懐」は次のようなところにあると思っております。

1 租税に関する法令を熟知していること
2 租税に関する通達など行政規則に通暁していること
3 租税に関する判例・学説を熟知していて、租税に関する通達など行政規則による租税法令の解釈を、租税に関する判例・学説による租税法令の解釈が否定する可能性ないし蓋然性を判断する能力を有すること
4 租税法令の解釈・適用にあたって、制度上選択の可能性がある場合に、より合理的な選択をすることができる能力を有していること
5 自己固有の租税法令の解釈というべきものを有していること
6 租税の実務に豊かな経験を持ち精通していること
7 これらの能力を活用して、委嘱者に、真正にして適法な納税義務の過不足ない実現をめざしてこれに到達するために必要な資料・情報を提供し、それに資する助言を行う能力を有すること


 これは、新井隆一先生が、税理士の善管注意義務として求められる能力、という趣旨で掲げているものです。

あるべき税理士

 上記記事、当事務所&当ブログ開設直後に書いた記事です(登録時研修のやつや)。
 初期の頃こそ、ブログの方針が定まっていませんでした。
 が、いつの間にか、ここに掲げられた能力を磨くための修練、というのがこのブログを書く目的のひとつになっていました。

 3年越しの伏線回収的な。

 そして、どれだけ修練を重ねようとも、全く終わる気がしないこの道。
 「税理士業務以外の」ということをおっしゃる方々は、このあたり一体どこまで突き詰めているのだろうかと。
 私の乏しい能力では、他所の業務に浮気している暇がないんですけども。

 なおここまで、税理士法の第1条と第2条第1項を重視しつつ(特に第1条)、同法第2条第2項はあくまで「付随」するものにすぎない、ことを意識しながら書いています。
 「本懐」と言ったのは、そういう意識からの。

税理士法
第一条(税理士の使命)
 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
第二条(税理士の業務)
1 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第十条の四第二項に規定する道府県法定外普通税及び市町村法定外普通税をいう。)、法定外目的税(同項に規定する法定外目的税をいう。)その他の政令で定めるものを除く。第四十九条の二第二項第十号を除き、以下同じ。)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 税務代理
二 税務書類の作成
三 税務相談
2 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。


 まあ、この手のこだわり、アナクロニズムとして淘汰される運命にあるのでしょう。


 という感じで、このブログ、ひいては私の税理士業務は、税法の解釈・適用をメインディッシュとして取り組んでいるところ。

 そのせいで、親和性が高いはずの「会計」分野すら、必要なかぎりでの勉強に留まっている始末。
 なんですが、法人税法第22条第4項というものがあり、ここから「会計原則」が流れ込んできやがります。

 「税法じゃねえから知らねえよ!」と無視を決め込んでいられない。
 法を重視するがゆえに、法に書かれると弱い。

法人税法 第二十二条
1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。


 もちろん、ただ書かれてあるとおりに従うわけではないです。
 受け入れる法の側で一定の解釈を施す必要があります。

 ということで、会計にも正面から取り組まざるをえないのですが、税法と会計の絡み具合をしっかり分析した本というのが見当たらなくって。
 と思っていたら、酒井先生のこの本が思いっきりそういう本でした。


 しかし『税務会計』という名称、どうにも気に入らない。
 そのせいで、この手のタイトルの本、今まで手に取るのを敬遠していたような。

 なぜかといえば、そこに「法」が入っていないから。
 「税務」というと、あくまでも税の「実務」のことであって「法」の要素は正面に出てこない、という印象を受けます。
 法解釈論など知らなくても、通達とタックスアンサーでどうにか凌げる範囲の。

 世の中の『○○の税務』というタイトルの本のほとんどは、まさにそういう感じ。
 法解釈論を展開しているものなんて、ほとんど見かけない(数少ない例外的な存在が、酒井先生の一連の著書)。

 しかし、この領域でやるべきことは、あくまでも「法解釈」として会計原則がどこまで法人税法に組み込まれるかを検討するものであるはずです。
 にもかかわらず、「法」という文字が入っていないのはなぜなのか。

 また、はしがきに「カレーパンの法則」(カレーパンはパンであってカレーでない)について書かれています。
 その顰みに倣うならば、「税務会計は会計であって税務でない」ということになってしまうのではないか。
 税務を会計で包みこんでカラッと油で揚げた、みたいな。

 いやいや主役は「税務」、より正確にいえば「税法」だろうと。

 いくら税法の課税要件が民法に準拠していたり、民法からの「借用概念」を多用しているからといって、その状態を「税務民法」なんていう奴はいませんよね(ものすごい税の格が下がった感じを受ける)。
 なぜ「会計」だけが、税法ジャックをかましているのか。

【借用概念論の実態】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)

 とはいえ、じゃあどういう名称がいいのかと言われても、私もさしあたり思いつきません。


 誤解されそうなので念のため言っておきますが、「通達+タックスアンサー」で済む世界、そう侮れるものではない。
 専門家でない人でも容易に理解できるということや、調査官と共通言語で話せるということ、かなり大きなメリットです。

 これに対して、納税者の権利を保護するためだとかいうことで、「租税法律主義」「課税要件明確主義」といったお題目を唱えておきながら、素人には容易に理解しがたい難解な条文はお構いなしだったり、あるいは、難解な法解釈論を展開したり、などといった態度には共感しがたいものがあります。

 そこはかとなく感じる、マリー・アントワネット感。
 「納税者の予測可能性を高めたいなら、法律に細かく書き込めばいいじゃない」的な(ただし史実とは異なる)。

 いつものアレ、リンク貼っておきますね。
 これを見ても貴殿は「予測可能性高まってるぅ〜!」て言い続けられるのかと。

租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)

【小規模宅地等の特例イジり】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

 そんなことをするよりも、通達やタックスアンサーを充実させることで、「通常事例」として解決できる範囲を広げることのほうが、(実在の)納税者の予測可能性に資することになるはず。

【納税者の予測可能性】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)

 私が、このブログで税法の「法解釈論」を展開する一方で、「日常系税務」という括りも大事にしているのは、そういったメリットも重視すべき、と考えるからです。
 で、この範囲では解決できないものにかぎり、「紛争系税務」としてガチで争う方向へと進むと。

 下記記事でも書きましたが、「裁判規範」の反映としてではない、独自の「行為規範」を定立すべき、という構想がここに繋がってきます。

税法・民法における行為規範と裁判規範(その2)

【規範二分論】
・日常系税務:行為規範
  通達、タックスアンサー、FAQなどが主役
・紛争系税務:裁判規範
  法律、政令、省令などが主役

 こうやって見取り図を書いてみると、「通達を文言解釈」して法律の解釈をするなどといった例の高裁判決のヘンテコさが際立ちますよね。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 「通達を文言解釈」することに意味があるとしたら、通達を信頼して行動した納税者を保護することにあるはずです(信頼の原則)。
 およそ、法律の解釈に繋がることはありえない。


 なお、最初に書いた「税理士業務以外の〜」の人というのが、税理士業務をここでいう「日常系税務」の範囲におさめておき、余力で他の業務をやる、という方針だというのならば、なるほどそういうことですね、と合点がいきます。
 「紛争系税務」なんて、そういうの好きな奴がやっててくれればいいと。

【いろんなハイブリッドもの】
 税法×税務
 日常系税務×紛争系税務
 行為規範×裁判規範
 通常事例×異常事例
 事前×事後
 実質×形式
 客観×主観
 税理士業務×それ以外の業務
 カレー×パン

 他人にあれこれ言っておきながら、私自身も「税法」と「税務」の二兎を追っている、ということになりますね。


 さて、いつもどおり余談が長引いたところで、本題である本書について。
 とりあえず、今回は「T 法人税法と会計諸原則」のみご紹介。

 「会計原則」について会計学側の見解を紹介した後に、それぞれの会計原則が法人税法にどのように取り込まれる(または取り込まれない)かについて、丁寧な分析がなされています。

 概説書レベルだと、「法人税法の趣旨にあわせて取り込まれる」程度の記述で済まされがちなところ。
 それを、それぞれの会計原則ごとの違いにあわせて、個別の分析がなされています。

 こういう税と会計の両方に手を出した本、通常だとどちらかに偏りがち。
 なところ、本書では両側面ともにしっかりとアプローチされています。

 その上で、法人税法第22条第4項を中心とした「法解釈論」が展開されていると。

 いわゆる「短期前払費用」の特例を、会計原則(重要性の原則)を踏まえつつ法解釈論として正面から扱ったり。

法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。


 私も、倒産防前納の損金算入についてイジりを入れたことがありますが、これはあくまで措置法プロパーの問題として。
 会計原則なんて何も気にしていませんでした。
 まあ、損金経理や継続適用は全く関係なく、明細書添付の有無で損金算入できるかどうかが決まるなんて、会計原則ガン無視にもほどがありますけども。

みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い

 しかも、短期前払費用の特例については、突っ込みを入れるのを避けるというビビりっぷり。
 や、これは「日常系税務」の世界観が壊れないようにしたかったからです(言い訳)。


 分析の中には、裁判例の紹介もいくつか出てきます。
 裁判所が法人税法と会計原則との関係をどのように論じているのかと。

 が、私の見立てだと、裁判所がこの問題についてきちんと論理建てて論じているようには思えません。
 各事案ごとに、収まりの良い結論がでるような立論どまりにみえる。

 そのような、事案に必要なかぎりでの判断に留めるのが裁判所の本来の役割、といえば、それはそのとおりではあります。
 が、他の領域ではしばしば見られる威勢のいい解釈論が「法人税法×会計原則」の領域では抑え気味な気が。

【判例理論について】
判例の機能的考察(タイトル倒れ)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

 それはひとり裁判所が悪いのではなく、租税法学説が十分な理論展開をしていないからだとは思います。
 裁判所が安心して乗っかれるようなスタンダード・セオリーが存在しない。

 「スタンダード」というのは、論文レベルではなく教科書レベルでも出てくるような理論ということ。

 本書タイトルの「税務会計」の部分について論難しましたが、その前の「プログレッシブ」というのも、一応気になる(「累進課税会計論」かよ、というのではなく)。
 プログレッシブの前段階としての「税法×会計」のスタンダードというものがそもそも存在するのか、という疑問。


 以上、勇み足であれこれ言ってますが、ここは他の領域にも増して勉強不足なところ。
 なので、全くの見当違いが多々含まれているはず。

 より勉強を進めた上で、「すみません、私の認識違いでした」の訂正記事を出させていただくことになるでしょう(予言)。
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2020年03月30日

浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)

 一つ前の判例イジりの記事の見直しは、来週くらいにしておきます。

解釈の解釈は終わりました。〜最高裁令和2年3月24日判決


 さて、最近は本一冊を読み通す集中力も減退ぎみですが、この本は面白くて一気読みできました。

 タイトルだけみると、うす味のビジネス書風。
 ですが、中身はガチガチの租税法学もの。



浅妻章如 ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか(中央経済社2020)

 ある意味タイトル詐欺よ。
 表紙イラストに野球ボールを書いたりとか、いかにもユーザーフレンドリーな雰囲気出してますけども(このボール、飛んでるっぽいんですが全く躍動感ないの。これは時間停止ものか?)。


 このブログで中央出版社さんの書籍を取り上げるのは初。

 どちらかというと実務書メインの出版社なので、学術書イジりを主食とするこのブログとはあまり交わらない。
 なお、学術書イジりが過ぎて、各学術書出版社からはガン無視されているような気がするこのブログ。
 この記事も、著者及び出版社から禁忌として扱われる気がしないでもない。

 この本はタイトルから受ける雰囲気に反して、ガチ目の学術書といっていいと思います。
 メインテーマが「二重課税」とか、もうね。

 ということで、このブログで取り上げてみることに。


 ちなみに、この本自体の問題ではないのですが、「二重課税」という用語には要注意。

 というのも、「二重課税」と表現すると、課税するのが不当だという結論を先取りしているように読めてしまいます。

 が、たとえば、法人税と法人事業税(所得割)は、同じく法人の課税所得に課税されるわけですが、これが二重課税だから不当だとは一般的に考えられていません。
 また、地方法人税や法人住民税(法人税割)は法人税額を課税標準とするわけですが、これは税金に税金をかけるもので二重課税だから不当だとも考えられていません。
 あるいは、不動産取得税と固定資産税は同じく不動産にかかる税金ですが、取得と保有で違うとかいうことで、これも二重課税で不当だとはされていません。

 要するに、同じようなものに同じような課税をすることそれ自体では不当だという評価はでてこない。
(ただし、これらはあくまで一般的には、ということで、当たり前を疑う必要はあるでしょう。)

 極端な話、たとえば、あるひとつの不動産の売却益に対して、譲渡年と翌年の2回にわたって課税したとしても、それが直ちに不当かというと必ずしもそうはならない。
 というのも、仮に、現行法では譲渡年に分離で税率20%のところを譲渡年は分離10%、翌年も分離10%という制度に改正する、としてもおかしくないわけです。
 この場合、ある種の(一部)納税猶予になってむしろ納税者有利ですし(ので、割引価値を考慮して合計20%超の税率(10%+10%+α%)というのも許容されうる)。

 ということで、二重課税らしきものがあっても、不当なものとそうでないものがある、ということは、この用語を使う際には念頭においておいたほうがよいです。


 ここでは「不当」という法的に曖昧な用語を使いましたが、二重課税が問題となりうるレベルは一つではないです。

【問題となりうるレベル】
  1 憲法解釈論: 2つの課税が憲法解釈上許されるか。
  2 法律解釈論: 2つの課税が法律解釈上許されるか。
  3 立法論・政策論: 2つの課税は租税政策上望ましいか。

 それぞれのレベルで「不当」とか「許されない」というのは、
  1 違憲(法令違憲/適用違憲)
  2 違法
  3 妥当でない、望ましくない
などと表現されることになります。

 そして、実際に二重課税が問題になるとしたら、ほぼほぼ3のレベルが主戦場かと。

 というのも、2(法律解釈)のレベルで二重課税が問題となるのは、あくまでも課税を排除する旨の個別規定がある場合に限られるからです。
 たとえば、所得税法9条1項16号のような。

所得税法第九条(非課税所得)
1 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
 十六 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの


 そういった個別規定がないかぎり、二重課税それ自体は法律レベルで問題とはなりにくい。

 じゃあってことで、一つレベルをあげて1(憲法解釈)だとどうか。
 やはり憲法解釈レベルでも、二重課税を問題とするのは難しいと思います。

 憲法問題にできるとしたら、複数課税を合計したら税率100%近くになっちゃった(財産権の侵害)とか、本人が任意に選択しえない属性でもって追加的な課税がされる(平等原則違反)などといった場合でしょうか。
 が、それはまさにそのこと自体が憲法違反となるのであって、あえて「二重課税」という迂路を経由させる必要はないような。

 ということで、二重課税問題の主戦場は3(政策論)のレベルだろうと。

 課税は常に被課税者(納税者)の効用を損ねるわけで、効用を損ねることだけから課税は望ましくないという結論は導けません(納税気持ちイイッ!とかいうアブノーマリティは考慮外)。
 課税パターンがA・Bとある場合に私人+国家の効用の総量がもっとも多くなる課税をすべき、とか、私人の効用が異常に減少してしまうから課税すべきでない、などといった議論をするのが政策論のレベル。

 と、ここまでひたすら文章でつらつらと書いてきたようなことを数理的に説明してくれているのが本書となります(当然ながら、本書のほうが段違いにレベルが高い)。


 浅妻先生といえば、下記教科書の「第4章 個人の所得課税」を執筆担当されています。



中里実ほか「租税法概説 第4版」(有斐閣2021)

 以前この本の書評を書いていますが、改めて読み返してみて第4章はイジりを入れていないのでセーフ(何が?)。


 章タイトルは次のとおり。

第1章 ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか?
第2章 生命保険年金受給権に相続税を課すのに、さらに所得税も課すのか?
第3章 公平と中立性との違い
第4章 所得税があるのに相続税も課すのはおかしいのではないか?
第5章 家族を扶養したら、寄附金と同じように所得を分割できるのか?
第6章 【利子に課税しないほうが中立・公平である】という考え方は金持ち優遇とは別
第7章 資産課税も利子課税と同様の二重課税を含んでいる
第8章 法人所得課税と個人所得課税の二重課税を調整する方法はない
第9章 今年黒字なのに税金を納めない輩がいるのは、けしからん?
第10章 消費税(付加価値税)の納税義務者を規定しても負担者は分からない
第11章 外国で納めた税額について日本で二重課税を救済する
第12章 貧しい人に低価格で保育や教育を提供すべきか?
第13章 才能を測定できるなら才能に課税すべきか?

 どうにかキャッチーにしようと頑張っているのでしょうが、そこはかとなく漏れいづるガチ感。
 実際、第1章からフルスロットルよ。


 全面にわたって数理的な説明をしてくれているので、自分でエクセルイジりながら読み進めれば、言わんとすることはなんとか理解できるはず。
 そういう意味では、はしがきにも記載のとおり、法学的素養がなくても読めます。

 が、一貫した数理的な説明が仇となって、その主張が「解釈論」なのか「政策論」なのか、油断しているとどちらを論じているのか分からなくなります。ここまでが「解釈論」、ここからが「政策論」といったラベルが貼られているわけではないので。

 もちろん、そのことを自分で強めに意識しながら読めばいいんでしょうが、少なくとも非・法学学習民には無理ですよね。

 確かに、そのへんの法学入門書にかかれているような「法的三段論法」などというものは、額面通りに受け取れるものではないと、私も思います。
 「大前提(規範)⇒小前提(事実)⇒結論」の順番どおりに解釈するなんて、現実的ではなかろうと。

 極端な場合には、
  結論⇒事実・規範
と、結論を決めてから、事実認定や規範定立を調整するとか、そこまでではないにしても、
  規範⇔事実⇔結論
と、3つの間をいったりきたりしながら、全体をかためていく、というのが現実だろうと思います。

 ので、表向きの着飾った理由付けに惑わされることなく、背後にある本当の理由付けを探る、ということが重要となります。

 が、そうはいっても、やはり定石通りの法解釈お作法についても一度手順を踏んで理解しておくべき、とも思います。一応、業界の共通言語なわけですし。

【法とフィクション】


来栖三郎 法とフィクション(東京大学出版会1999)

税法・民法における行為規範と裁判規範(その5)


 ということで、この本を先に読むとしても、その後に定石通りの法解釈お作法を身につけてから再度読み直してみるといいと思います。

 共通言語、ということでいうと、解釈論/政策論のラベルはないものの、当該主張が租税法学の共通了解なのか異説なのかといった区別は逐一書いてくれていますので、そういう点では安心して読めます。

 なお、二重課税とはちょっとズレますが、刑事罰を課すこととの「二重処罰」の問題は、数理的に一元化して分析することはできるんでしょうかね?


 はしがきに「良い入門書が既に複数ある」と書かれているんですが、そんな入門書があるなら教えてほしい。
 初学者がいきなり読んでも大丈夫な入門書だと私が思えるのは、今のところ佐藤英明先生の「プレップ租税法」くらい。



佐藤英明 プレップ租税法 第4版(弘文堂2021)

税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅


 二次元にしか興味がないといいながらも、そちら系の喩えとかが全くでてこないのは、さすが学者としての自制心ですかね。

 初めての単著、とかいったら浮かれて自分の趣味をふんだんにぶち込みそうなものですけど。
 これは、それにも劣らず二重課税問題も大好きだから好きなもの同士を混ぜ込みたくない、ということでしょうか(何の話?)。


 さて最後に、徹底した数理による説明を尽くしたこの本に、例の記述をぶつけてみましょう。

三木義一ほか「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)

初版はしがき
「この本を読んだ方が、税法の中に数式ではなく、人々の生活の息吹や社会の動きを感じ取って、税法の面白さを少しでも理解してくれたら」


 この記述、以下の記事でも引用していて(しつこい)、自分の考えに対するアンチテーゼとしてフル活用中。
 数理的な説明と、息吹を感じるなんてスピリチュアルな説明とで、どちらに説得力があるかということです。

窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 租税法の教科書

2019年12月09日

田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990)

 誰だよ、「使命を果たし終えた」みたいなこと言ったやつ。
 今まで読む機会を逸したじゃないか。



 田中二郎「租税法 第3版」(有斐閣1990)
 
 確かに「第3編 租税法各論」は、平成元年までの制度の概説どまりで判例の引用も論点の記述もほぼないので、ここを読む意義は残念ながら無いかなあとは思います。

 が、「第1編 序論」と「第2編 租税法総論」はなかなかの読み応え。
 金子宏先生が乗り越えようとした山々がここにある、という感じ(偉そうにすみません)。

 金子宏『租税法 第23版』(弘文堂2019)

 「租税法と私法」という枠組みでいうと、田中先生が租税法志向なのに対して金子先生は私法志向、みたいなコントラストが読み取れたり。


 第3版は1990年出版ですが、田中先生ご自身は新版が出版された1981年の翌年、1982年にはお亡くなりなっています。
 ということで、第3版は大蔵省(当時)職員の方々が税制改正に合わせて手を加えたようです。

 継続的に税制改正を反映してくれるならそういう改訂でも意味があるんでしょう。
 が、第3版一回きりで終わらせたんじゃ意味がない。

 もし田中先生ご自身の筆が入った箇所が減っているなら、むしろマイナスともいえる。
 で、この第3版が最終版としてオンデマンドで出版され続けてしまっている。

 「はしがき」を読むと、すでに初版の段階から大蔵省職員の方々が執筆協力されているようです。
 ので、第3版で本来やるべきだったのは、田中先生が記述されていない箇所を削る作業だったはず。

 学問的意義という意味では、ダウングレードして純度の高い田中租税法大系を残しておいたほうがよかったのに(ジョブズの遺志を残す的なアレ)。

 勝手に想像するに、「第3編 租税法各論」は田中先生がほとんど書かれていない気がします。
 ので、ここを削って『租税法総論』として出版すればいいのに。


 話はちょっと違いますが、能見善久先生が四宮和夫先生の『民法総則』を改訂し続けているにもかかわらず、四宮先生単独執筆の最終版(第4版補正版)をオンデマンドで出版する、という弘文堂の所作を想起してしまいました。



 四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版) 」 (弘文堂2018)


 ちなみに、下記記事で引用した「税法は行為規範だが民法は裁判規範にすぎない」という物言い、どうやら田中先生のこの本が出どころのようです。

三木義一ほか「よくわかる税法入門 第13版」(有斐閣2019)

 が、田中先生の時代の民法理解を無批判に現代に持ってくるの、やっぱり説明不足だと思う。

 土地法、労働法、消費者法、競争法などといった規律によって契約の自由が切り崩されている状況で、『それでも契約は自由だ』という原則がどれだけ妥当するものなのか。
 もっというと、税法の規律のせいで契約の自由が事実上制約される場面もあるわけで、民法の純粋な部分だけを取り分けて、契約は自由ということに意味があるのかどうか。

 行為規範/裁判規範の問題については、あらためて整理して記事にします。

【しました】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
posted by ウロ at 11:07| Comment(0) | 租税法の教科書