2020年10月05日

佐藤英明「スタンダード所得税法 第2版補正2版」(弘文堂2020)

 「税法学」学習の入口として、今のところの最有力。



佐藤英明「スタンダード所得税法 第2版補正2版」(弘文堂2020)

 「租税法」の教科書、分かりやすい風の教科書がいくつか出ていますが、あくまでも「風」なことがほとんど。
 二色刷り、図表豊富、ですます調であることが、必ずしも分かりやすいわけではない、という罠。

税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 版を重ねている、というのも一般書籍であれば信頼性に繋がります。
 が、大学の教科書の場合は、毎年学生に買わせているだけ、というパターンもありうる。

法学研究書考 〜部門別損益分析論


 他方で、本書は正しく分かりやすい。

 「租税法」という名前の教科書で、複数税法を散開的に勉強するよりも、まずは、所得税法なら所得税法だけを一通り勉強したほうがいいと思う。
 特に個別法の勉強が進んでいない段階で「総論」的な記述を読んでも、よく分からないでしょうし。

 構成として、1頁目から「総論」的な記述が長々と続く教科書は、それだけで不親切設計だと看做しても、おおよそ間違いではないと思う。


 本書が特に優れているところは、逐一事例をあげることで具体的に理解できることと、個々の制度の理由付けが記述されていてなぜそのような制度があるのかを理解することができること。

 図表も豊富で、本文の説明を視覚的に理解することに繋がっている。
 そんなの当たり前、と思うかもしれませんが、図表と本文が一致しない書籍もあるんですよ。

三木義一「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)


 珍しいのが「手続法」の記述もあること。
 通則法の説明が、ちゃんと所得税法向けにカスタマイズされていて。

 通則法の側から勉強しても、所得税法に限った記述になっていないので、どうしても理解しにくいところ。
 それが所得税法に適用されるかぎりでの記述になっているので、非常にイメージしやすい。

 「所得税法を一通り勉強する」という観点からしても、実体法だけでなく手続法まで触れているのは、とてもよい。


 ただし、私が本書を読んでいてどうしてもなじめないのが、事例に出てくる人物の名前が「アユミ」「イサム」からはじまって、カタカナ五十音順で続々と登場してくるところ。
 事例がでてくるたびに、キャラクターのイメージをセットしなおさないといけない。
 
 これはアレです、ロシア文学読んでて、登場人物の名前をさっぱり覚えられない現象に近しい。



ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」(光文社2006)

 や、長編なら、読んでいくうちに名前とキャラクターのイメージが出来上がっていくのでまだましかも。
 絶望的にキャラクター描写が下手な短編集を次々読まされる感じですかね。

 所得税法でたくさん事例をあげるのであれば、登場人物を絞ってもいけるはず。

 たとえば、

  仕事:学生⇒サラリーマン⇒個人事業主⇒会社経営⇒会社売却⇒投資家
  家庭:同棲⇒結婚⇒出産⇒離婚

などといった感じで人生を展開させれば、一人でも相当な範囲をカバーできますよね。

 ちなみに、大垣尚司先生の会社法の教科書であげられている事例は、会社の立ち上げから始まって会社の発展にあわせたひと繋ぎの事例になっています。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 親切にも、冒頭に「登場人物一覧表」もあげてくれていて、非常にイメージがしやすい。


 なお、本書にかぎらず、租税法・所得税法の教科書にかならず書いてあるのに、私がいまだによく理解できないもの。

 それが「包括的所得概念」。

 現行所得税法が「包括的所得概念」を採用しているかのようなことが最初に書いてあるものの、個々の規定の解説の段階では、「包括的所得概念」とはそぐわないものがそこかしこに出てくる。

 これって、そもそも「包括的所得概念」を採用していないってことなんじゃないのかと。

 これがたとえば、藤田宙靖先生の行政法の教科書のように、「法律による行政の原理」を『ものさし』としてそれとの偏差で行政法学の展開を記述する、という使い方ならまだ分かります。
 あくまでも、現行所得税法の立場を理解するための『ものさし』としてならば。




藤田宙靖 新版 行政法総論 上巻 青林書院2020
藤田宙靖 新版 行政法総論 下巻 青林書院2020

 が、「現行所得税法は包括的所得概念を採用している」とか書くから、実際の規定との折り合いをどうつけるというのか、逐一疑問が残ってしまう。
 単なる抽象概念で無益なだけならともかく、そのような先入観があるせいで、現行所得税法のあるがままの姿を理解することの妨げになるというのなら、それは有害概念でしょう。

 もしかしたら、シャウプ先生の呪いで、租税法の教科書を書く人は必ず冒頭に「包括的所得概念を採用している(キリッ)!」て書かないと爆散する、のだとしたら、外野があれこれ批判するべきでないのかもしれません。
 が、そうだとしても、(人生の、ではなく教科書の)最後にこれまでの記述をちゃんと振り返って、適合率を正確に測定するくらいはできますよね。

【本書よりさらに手前の入門書】


佐藤英明「プレップ租税法 第4版」(弘文堂2020)

【法人税法の教科書】
渡辺徹也「スタンダード法人税法 第2版」(弘文堂2019)

【コラボもの】
窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)

posted by ウロ at 09:25| Comment(0) | 租税法の教科書

2020年09月28日

伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)



伊藤滋夫編「租税訴訟における要件事実論の展開」(青林書院2016)

 租税法に「要件事実的思考」を持ち込もうという趣旨で書かれた論文集。
 のはずなんですが、要件事実論の持ち込み具合が、各執筆者によりまちまち。


 要件事実論を論ずるにあたっては、前提として、たとえば次のような概念の違いを正確に理解しておく必要があります。

 ・解釈/評価/事実/証拠
 ・主要事実/間接事実
 ・本証/反証
 ・要件事実論/事実認定論



伊藤滋夫「要件事実の基礎 新版」(有斐閣2015)
伊藤滋夫「事実認定の基礎 改訂版」(有斐閣2020)
(ついに事実認定本も改訂版が!)

 執筆陣の中で、ガチガチの要件事実論研究者は伊藤滋夫先生だけで、それ以外の方は租税法側からのアプローチ。
 上記概念を正確に使えているのだろうかと、疑問に思わないでもない箇所がちらほら(ただの反証を抗弁と言っているのではないか、とか)。


 ところで、要件事実論の学習者が辿る一般的なプロセスは、次のような感じ(私見)。

 1 序
  民法内部で争われている解釈論を立体的に理解できることにカタルシスを感じる
 2 破
  要件事実論に配慮していない民法の教科書類をディスりだす
 3 急
  要件事実論を論じる前に実体法レベルでの議論を詰めておくことが大事だと気づく

 こんなイメージを持っています。

【三部構成】
安田拓人ほか「ひとりで学ぶ刑法」(有斐閣2015)

 要件事実的思考を租税法に導入するとかいうので、1のカタルシスが得られればいいな、と思って読んでみたのですが、残念ながら。

 たとえば、「推計課税」とか租税法内部では錯綜した議論が展開されています。
 ここに要件事実的思考を導入することで、租税法内部の議論が立体的に理解できるようになるかなあとか思ったんですが、そういうこともなく。

 もちろん、私の感度があまりにも低レベルすぎるってだけの可能性もありますが。


 租税法の中では重要論点である「借用概念」とかも論じられています。
 が、借用概念を要件事実論の観点から論ずべきことなんて「何もない」というのが私の見立て。

 というのも、借用概念論は、税法上の概念を民法からお借りして解釈するかという問題です。
 つまり、裁判所が当該概念をどのように「解釈」すべきか、ということ。

 他方で、要件事実論は、あくまでも当事者が主張立証すべき「事実」が何かを論ずるものです。
 借用概念なのか固有概念なのかが決まった後に、ようやく登場してくる。

 ので、両者が交わることはない。

 あえて交わらせようとするなら、「原則は借用概念として解釈されるから、固有概念であることを主張したい側がそのことを証明すべき。」みたいなことを言うか。
 が、これはむりやり要件事実風に仕立て上げているだけで、そこに要件事実論の知見が生かされることは、まあないでしょう(傀儡感・脱殻感強い)。


 あるいは、たとえば『住所認定に租税回避の意思を含めるべきではない』という言明について、少なくとも当該意思が住所の「主要事実」とならないことを含意していることは分かるとして、さらに「間接事実」としても用いてはいけないといっているのかどうかを分析するとか。

 主要事実を認定するための一要素としてなら考慮していいのか、あるいは、それすら許されない(法定証拠法則)ということなのか、みたいな。

 まあこれは「事実認定論」に片足突っ込んでいる気がしますけども。


 完全に私の邪推ですけど、編集段階で『要件事実論の観点から論ずべき租税法の論点』についての洗い出し・絞り込み、というのをやっていないように思います。
 論ずべき内容を、各執筆者にお任せした感じの。

 だからといって、ガチガチに執筆方針を固めてしまうと不具合が生じることもあるでしょう。

【悲劇のパンデクテン】
「新 実務家のための税務相談(民法編) 」(有斐閣2017)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民まとめ)

 が、要件事実論を租税法に導入する、なんて慣れないことをさせるのならば、事前に伊藤滋夫先生が要件事実マインドを各執筆者に叩き込んでおいたほうがよかったんじゃないですかね。

 また、ちらっと上述したとおり、要件事実論のみならず事実認定論も交えたほうがいいような気もします。
 私法側では分離して論じられていますけども、租税法で展開する際には一体として論じたほうがよさそう。


 租税法に要件事実論を導入することに否定的な立場の人もいるらしく。

 本書は「租税法でも要件事実論大事だよ」側からの論文しかないので、否定論者の具体的な論拠はわかりません。
 が、おそらくこういうことを問題視しているんだろうな、と思われる記述が本書の中にあったので、検討してみます。


P.467
「取消訴訟の請求原因として、上記@の賦課期日における事務所等の存否に係る誤認が争点とされている場合には、被告地方団体は、抗弁として、納税義務者たる法人等が賦課期日において当該地方団体の区域内において事務所等の登記登録がなされていたという具体的事実(ここでは、台帳や登記簿等の形式的な登記登録事実が要件事実となる)を主張・立証しなければならない。これに対して、原告法人等の側で、賦課期日において事務所等を廃止し又は売却して、転出していたにもかかわらず、天変地異や事故等のやむを得ない事情により、登記登録抹消の手続きをすることができなかったことや建物等の所有権移転登記をすることができなかったような事実があるとするならば、再抗弁として、当該具体的事実を障害事実として主張・立証する必要がある。」


 これは、法人住民税均等割についての、立証責任の分配に関する記述。
(地方税法で「事務所等」が使われているものはいくつかありますが、ここでは「法人住民税均等割」で代表させます)

 この記述では、均等割が課税される「事務所等」の主張立証責任を

  (抗弁)地方団体:
    形式的な登記登録事実があること
     を主張立証すべき
  (再抗弁)納税者:
    実質的な事務所実態がないこと、および
    やむを得ず登記登録の移転・抹消ができなかったこと
     を主張立証すべき

と分配することが書かれています(以下、主張立証責任は単に「立証責任」といいます)。
 ※抗弁から始まるのは、債務不存在確認訴訟と同じく更正処分取消訴訟の構造上の都合です。

 が、これ率直にいって「要件事実ロンダリング」
 すなわち、正面から租税法律主義を潜脱することはできないので、立証責任の分配経由で条文を書き換える仕草(もちろん私の造語)。

【参照:趣旨ロンダリング】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)

 以下、ロンダリングっぷりを敷衍します。
 (登記登録の移転抹消は「登記抹消」で代表させます。また地方団体は「課税庁」といいかえます。)


 上記立証責任の分配によれば、納税者が立証に失敗した場合には、登記だけで均等割を課税できることになります。

 確かに、「固定資産税」はそんな感じにみえる構造になっています。

地方税法 第三百四十三条(固定資産税の納税義務者等)
1 固定資産税は、固定資産の所有者に課する。
2 前項の所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録されている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録されている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録されている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている第三百四十八条第一項の者が同日前に所有者でなくなつているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。


 第2項第一文で「台帳課税主義」をとりつつ、同項第二文で「じゃない場合」を認めると。

 もちろん条文構造からだけで直ちに、第二文の立証責任を納税者側に負わせていいとはなりません。
 「本文+但書」形式にもなっていませんし。

 が、台帳課税主義という原則の例外、ということで、納税者に例外事由の立証責任を負わせることは不当ではない、という結論もありうるかと思います。
 他方で、納税者に本証レベルの負担までは要求すべきではない、とか、反証レベルの負担は納税者に負わせるべき、などといった見解もありえて。

【租税実体法】
 登記あり+第二文の事由なし ⇒課税する
 登記あり+第二文の事由あり ⇒課税しない

 実体法レベルでは、第二文の事由が存否不明の場合に課税できるのかどうかは分かりません。
 これを明らかにするのが要件事実論のお仕事。

【要件事実論の展開】
 A説:
  課税庁 登記あり(本証)
  納税者 第二文の事由があること(本証)

 ⇒納税者が「あること」の立証責任を負う。

 B説:
  課税庁 登記あり+第二文の事由がないこと(本証)

 ⇒課税庁ははじめから「ないこと」の主張立証をしなければならない。

 C説:
  課税庁 登記あり(本証)
   納税者 第二文の事由がある可能性があること(反証)
  課税庁 第二文の事由がないこと(本証)

 ⇒課税庁はさしあたり「登記あり」のみ主張立証すればよい。
 納税者が「あることの可能性」を主張立証してきたら、「ないこと」を主張立証すべきことになると。

 といった感じの議論をするのが「租税訴訟における要件事実論の展開」なんでしょう。
 で、「台帳課税主義」というものをどれくらい重く見るのか、なぜ第二文の場合に登記名義人に課税しないのか、といった法の趣旨から結論を導き出すと。

 とはいえ、第二文の事由は極めて限定されているので、その存否で争いになるとは考えにくい。
 あくまで要件事実論手習いとして記述してみたまでです。


 翻って均等割。

地方税法 第二十四条(道府県民税の納税義務者等)
1 道府県民税は、第三号に掲げる者に対しては均等割額及び法人税割額の合算額によつて課する。
 三 道府県内に事務所又は事業所を有する法人


 条文構造は立証責任を課税庁・納税者に分配するような形にはなっていません。

 また、下記の通知をみても、形式があればとりあえず課税、などとは考えられていません。

地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)第1章 一般的事項
6事務所又は事業所
 (1) 事務所又は事業所(以下6において「事務所等」という。)とは、それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいうものであること。この場合において事務所等において行われる事業は、当該個人又は法人の本来の事業の取引に関するものであることを必要とせず、本来の事業に直接、間接に関連して行われる附随的事業であっても社会通念上そこで事業が行われていると考えられるものについては、事務所等として取り扱って差し支えないものであるが、宿泊所、従業員詰所、番小屋、監視所等で番人、小使等のほかに別に事務員を配置せず、専ら従業員の宿泊、監視等の内部的、便宜的目的のみに供されるものは、事務所等の範囲に含まれないものであること。
 (2) 事務所等と認められるためには、その場所において行われる事業がある程度の継続性をもったものであることを要するから、たまたま2、3か月程度の一時的な事業の用に供する目的で設けられる現場事務所、仮小屋等は事務所等の範囲に入らないものであること。


 課税庁側でも、実態のあることが課税要件だと捉えられています。

 意外なことは、ここに登記登録といった事情が一切含まれていないこと。
 便宜に流れがちな課税実務としては、前記のC説的な判断をするなり、そこまでいかないにしても判断要素の一つくらいにしていてもおかしくない。
 のに、そのような内容になっていない。

【租税実体法】
  実態あり ⇒課税する
  実態なし ⇒課税しない


 にもかかわらず、上記記述では、通知にすらない登記のみによって事務所あり認定してもいいんだと。
 てっきりなにか別の税目のことを論じているのかと思ったんですが、間違いなく法人住民税均等割の箇所に書いてあります。


 上記記述のさらなる鬼っぷりは、納税者が実態がなくなったことの立証に成功したとしても、登記抹消できなかったことに「やむをえない事情」があったことの立証に失敗したら課税されてしまうということ。
 「および」を太字にしたのは、その点を強調するためです。

(抗弁)地方団体:
    形式的な登記登録事実があること
     を主張立証すべき
  (再抗弁)納税者:
    実質的な事務所実態がないこと、および
    やむを得ず登記登録の移転・抹消ができなかったこと
     を主張立証すべき

 考慮要素ですらない登記で課税するにしても、実態がなければ課税なしとするのであればまだましと言えなくもない。
 ところが、実態がなくても登記抹消できなかったことにやむを得ない事情がなければ(あることが証明できなければ)課税するんだと。

 これ、完全に地方税法を拡大解釈してますよね。

【要件事実ロンダリング】
  (課税庁)登記あり ⇒課税する
   +(納税者)実態なし ⇒課税する
    +(納税者)登記抹消してないことのやむを得ない事情あり ⇒課税しない


 租税実体法レベルでは実態が要件だったはずなところ、いつのまにかそれが登記にすり替わり、実態のほうは、それが無いことが再抗弁事実(のうちの一つ)に左遷されると。


 租税実体法を正しく理解した上で、その実体法を踏まえて立証責任の分配を行う、という手順を守るならば、以下のような流れになるはずです。

・まずは実体法上の「要件」を確認。

【租税実体法】
  実態あり ⇒課税する
  実態なし ⇒課税しない


 が、実体法レベルでは、実態が存否不明の場合に課税できるかどうかが不明。

・そこで「要件事実論」を導入。

【要件事実論の展開】
  実態あることを課税庁が立証 ⇒課税する
   課税庁が立証失敗(実態なしor実態不明) ⇒課税しない


 要件事実論により決定できるのは、実体法の要件である実態をどちらが主張立証すべきか、ということであって、そこで要件事実論のお仕事は終了。
 要件事実論の領分は、あくまでも実体法の要件を主張立証用に翻訳することであって、実体法に存在しない要件を創設することではないはずです。


 「形式があれば課税」なんて立論、どれほど課税庁寄りな論者であっても、そこまで極端なこという人いないんじゃないですかね。

 ところが、要件事実的思考を導入することで、そんな極論も臆面なく言えてしまうと。
 要件事実論、魔法のクスリですか(カタカタで書く感じの)。

 まあ、論者自身も「主観的」にはそんなつもりはなかったんだと思います。
 要件事実論を絡めないで、単純に「事務所等ってどうやって判定するの?」と質問されたら、「実態で判断するよ」て答えると思うんです。

 が、要件事実論を通すことでこんな暴論が出てきてしまうと。

 あるいは、「10秒以内に立証責任を分配しないと人質に危害を加えるぞ!」とでも脅されたとか。
 「分配」と言われてしまったので、どうにか課税庁・納税者に分けなければ、ということで反射的に形式と実態に分離させてしまったんだと。
 ひでえ妄想書きやがるな、と思うかもしれませんが、これくらいの妄想事変がなければ優秀な学者先生がこのような記述を書いたことの説明ができなくないですか。


 導入否定論者が危惧するところは、こういうところにあるんじゃないですかね。
 生半可な知識で要件事実論を導入してしまうと、こんな事態に陥ってしまうと。

 「生兵法は大怪我のもと」の教科書事例。
 編者の伊藤滋夫先生くらいガチガチの要件事実論研究者ならともかく、租税法学者が軽い気持ちで手を出すものではないと。
 少なくとも、前記「3 急」段階まで進んでからはじめて、『さて、租税要件事実論の話をしよう』とやってくれと。


 そんな中で、宮崎裕子先生の『国際租税法における要件事実論−租税条約における立証責任の転換という手法の採用について−』という論文が別格。

 ざっくり内容をいうと、PPT条項により支払者(源泉徴収義務者)に条約目的適合性の立証責任を負担させるのまずくないか、という問題意識で書かれたもの。
 非居住者である受領者側の事情を支払者に証明させるとか悪魔かよ、と(もちろん、そんな表現はされていない)。

 要件事実論を「導入」するかしないかなんて入口の議論は秒で通り過ぎて、本書籍のタイトルどおり、きちんと要件事実論が「展開」されています。

 単純に、私が宮崎節に心酔している、というだけかもしれませんが。

解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 この論文を読めただけでも成果はあったといえるでしょう。
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2020年07月27日

「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)

※以下は初版(2017)の書評です。アクティブ・ラーニング済みなので第2版はたぶん読みません。

 改訂版が正統進化とならない、とあるひとつの実例。



 「新 実務家のための税務相談(民法編) 第2版」(有斐閣2020)

 前著(いわゆる無印)は、民法と税法が絡む問題につき深く論じられていて、示唆を得るところ大でした。



 「実務家のための税務相談 民法編」(有斐閣2006)

 「新」がでてしまったせいで同書の改訂はもはや望めないわけですが、同書で展開されている「考え方」は非常に参考になるので、今からでも購入していいと思います。
(リメイク版があまりにも不評だったため、あらためてオリジナルスタッフで製作しなおす、みたいなドラマ・アニメもあったりしますが)


 さて問題は、この「新」がついている本書。
 前著の後継かと思ってノールックで購入してしまったのですが、中身が全くの別物にすり替わっていました。

 ・むやみに多数の項目が取り上げられていて、
 ・やたらと多数の執筆者が参加していて、
 ・一項目がどれもこれも3,4頁程度と短く、
 ・当該項目にかかわる法規定と通達・裁決・判決をパラパラと並べた、

感じの記述が延々と続く。
 特に新しい何かを学べる、というものでもなく。

 執筆者多数なので、決してすべてがそうだということではないのですが、

 × 設例(Question)があるのに、その設例にまともに答えていない。
 × 設例がふんわりしすぎ。
 × ★で項目を重要度をランクづけしているのに、どれもこれも同じ分量。
 × 特に税法上の問題がない項目を無理やりねじ込んでいる。
 × 項目を細分化しすぎて記述がダブついている。
 × 当該項目に関する税法上の制度・論点をランダムに並べているだけ。
 × 事案もかかずに判例の規範部分だけ書かれても射程が不明。
 × 個人(所得税)と法人(法人税)がごちゃごちゃ。
 × (売買でいうと)売主側の問題なのか買主側の問題なのかがごちゃごちゃ。
 × 印紙税や消費税の問題を、論じたり論じなかったり。
 × 実務で使う、という視点が希薄。
 × 法律用語の使い方が不正確。

などといった問題が散見される。

 きつきつの分量で中途半端な解説をするくらいなら、当該項目に関連する制度を完全網羅した「インデックス」に徹しておけばいいのに。
 個々の内容は、信頼のおける他書の該当箇所だけ指示しておいてもらえればいいですよ、と。


 これはアレです、アクティブ・ラーニング系。

【アクティブ・ラーニング系】
後藤巻則「契約法講義 第4版」(弘文堂2017)
三木義一「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)
(そろそろ独立のカテゴリをつくってもいいかもしれない。)

※追記
 しました。
 カテゴリ(アクティブ・ラーニング)

 信頼のおける書籍を座右に置きながら、本書の記述が正しいかどうかを点検しながら読む感じの。
 本書の記述を鵜呑みにできないおかげで、自分の知識があやふやな部分を再確認できるので、そういう意味ではいい素材ではある(皮肉)。

 金子宏先生の体系書なんて、ありがたく拝読するという感じになってしまって、批判的に読むのはなかなか難しいですからね。



 金子宏「租税法 第23版」(弘文堂2019)

 例によって、このことに途中から気づくという致命的なミス。
 や、どうも怪しいな、とは思っていたんですよ(言い訳)。

 ツッコミどころ、かなりの数になりそうなので、今回の記事は「これから検討していくよ。」という所信表明です。


 一応、軽く頭出しだけしておきます。

61 クレジットカード契約

「信販会社は立替払をしています。そうすると、この支払いをしたときに、経費の支出があるため、損金が計上されることになります。それにあわせて、利用者に対する貸付金債権が発生するため、それを益金計上することになると思います。」

 信販会社側の税務処理なんて、私にはおよそ縁のない話だと思います(私どころか大多数がそうだと思うので、それをわざわざ本書で記述する必要ある?というのはさておき)。

 が、これ、何言っているんでしょうか。

 ここでいう「経費」とはなんなのか。まさか立替払のことか。
 「それを益金計上」というのは、貸付金債権のことなのか、そうなのか。
 ていうか、立替払をすると売掛金が貸付金になるのか。

 仕訳にするとこうですね、マジかよ信販会社(見慣れぬ科目名はオリジナル)。

  立替金費(損金)/現金
  貸付金/貸付金収入(益金)

 てっきり手数料だけが売上になるのかと思っていましたよ。
 利用者の利用額が、加盟店の売上になるだけでなく、信販会社の売上にもなるってことですね。

 これ、会計素人の人が「銀行から借入すると収入、返済すると(元本返済も)費用になる」みたいなことを言っているのと似ているような気が。

 全力で善解して、「ファイナンスリース」のことを言っていると読めばどうにかなりますか。
 や、無理だわ。別途「ファイナンスリース契約」の項目もあるし。

 あるいは、これはあくまでも税務処理であって会計処理ではないのだ、と考えてみましょうか。
 そうすると、会計で計上されていない貸付金収入と立替金費を、申告書上で加減算すればいいんですかね。

 意味ねえな。
 そもそも会計とズラすには法的根拠が必要なはずですけど、そういう規定があるわけでもないですし。

 また、ここでは「立替払方式」のことしか書かれていません。
 「債権譲渡方式」についてや、あるいは「三当事者型」以外のタイプについては一切触れられていません。

小塚荘一郎,森田果『支払決済法 第3版』(商事法務2018)


 という具合で、不可解な記述がちらほら散見されるので、うまくまとめられたら記事にします。
 たぶん、一回ではとても終わらない。

 「会社法編」もあるけども、この調子で突っ込みながら読んでいって、そこまで到達できるだろうか。



「新 実務家のための税務相談(会社法編) 第2版」(有斐閣2020)

アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民1)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民2)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民3)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民4)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民5)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民6)
アクティブ・ラーニング租税法【実践編】(実税民まとめ)
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2020年06月08日

酒井克彦「プログレッシブ税務会計論」(中央経済社2018)

 法律書界隈では、異常なまでの遅筆者がいる一方で、異常なまでの多産者もいらっしゃいます。

 前者のせいなのかどうか分かりませんが、先々の刊行計画というのが表に出てきません。
 おかげ様で、改訂直前に旧版を掴まされたりとか。

【直近の掴まされ例】
最近の気になる本

 とにかく教科書と小型六法さえ売れてくれればそれ以外はお構いなし、ということですか。

【邪推の極み】
法学研究書考 〜部門別損益分析論

 私のようなマニアどもは、出版社にどんなにぞんざいに扱われても、勝手に買ってくれますし。

【さすがにキッツいわあ】 
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)


 他方で、後者の代表が宇賀克也先生。

 宇賀克也先生(Amazon.co.jp)

 最高裁判事になられて滞るかと思いきや、なぜか普通に出版が続いています。
  
解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 そして租税法だと、本書著者の酒井克彦先生が当代随一。

 にもかかわらず、今まで当ブログで扱うネタとは交わりませんでした。
 満を持してご登場。



酒井克彦 プログレッシブ税務会計論1(第2版) 法人税法と会計諸原則
酒井克彦 プログレッシブ税務会計論2(第2版) 収益・費用と益金・損金
酒井克彦 プログレッシブ税務会計論3 公正処理基準


 では、さっそく余談から。

 最近、というわけでもないのでしょうが、税理士さんの中には、

 ・税理士×○○
 ・税理士なのに税理士業務以外の仕事が多い。
 ・税理士らしくないと言われる。

のように、「税理士業務だけやる」ということに、どこか否定的なニュアンスを含んだ発言をされる方がいます。

 各人どのように働くかは自由であり、かつ、どのように発言するかも当然自由なわけですが、そのような人たちが、それでも税理士を名乗るのは何故なのだろうか、と思わないでもない(否定しているのではなく、単純に疑問なだけです)。


 私自身は、税理士の「本懐」は次のようなところにあると思っております。

1 租税に関する法令を熟知していること
2 租税に関する通達など行政規則に通暁していること
3 租税に関する判例・学説を熟知していて、租税に関する通達など行政規則による租税法令の解釈を、租税に関する判例・学説による租税法令の解釈が否定する可能性ないし蓋然性を判断する能力を有すること
4 租税法令の解釈・適用にあたって、制度上選択の可能性がある場合に、より合理的な選択をすることができる能力を有していること
5 自己固有の租税法令の解釈というべきものを有していること
6 租税の実務に豊かな経験を持ち精通していること
7 これらの能力を活用して、委嘱者に、真正にして適法な納税義務の過不足ない実現をめざしてこれに到達するために必要な資料・情報を提供し、それに資する助言を行う能力を有すること


 これは、新井隆一先生が、税理士の善管注意義務として求められる能力、という趣旨で掲げているものです。

あるべき税理士

 上記記事、当事務所&当ブログ開設直後に書いた記事です(登録時研修のやつや)。
 初期の頃こそ、ブログの方針が定まっていませんでした。
 が、いつの間にか、ここに掲げられた能力を磨くための修練、というのがこのブログを書く目的のひとつになっていました。

 3年越しの伏線回収的な。

 そして、どれだけ修練を重ねようとも、全く終わる気がしないこの道。
 「税理士業務以外の」ということをおっしゃる方々は、このあたり一体どこまで突き詰めているのだろうかと。
 私の乏しい能力では、他所の業務に浮気している暇がないんですけども。

 なおここまで、税理士法の第1条と第2条第1項を重視しつつ(特に第1条)、同法第2条第2項はあくまで「付随」するものにすぎない、ことを意識しながら書いています。
 「本懐」と言ったのは、そういう意識からの。

税理士法
第一条(税理士の使命)
 税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそつて、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
第二条(税理士の業務)
1 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税(地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第十条の四第二項に規定する道府県法定外普通税及び市町村法定外普通税をいう。)、法定外目的税(同項に規定する法定外目的税をいう。)その他の政令で定めるものを除く。第四十九条の二第二項第十号を除き、以下同じ。)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一 税務代理
二 税務書類の作成
三 税務相談
2 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項については、この限りでない。


 まあ、この手のこだわり、アナクロニズムとして淘汰される運命にあるのでしょう。


 という感じで、このブログ、ひいては私の税理士業務は、税法の解釈・適用をメインディッシュとして取り組んでいるところ。

 そのせいで、親和性が高いはずの「会計」分野すら、必要なかぎりでの勉強に留まっている始末。
 なんですが、法人税法第22条第4項というものがあり、ここから「会計原則」が流れ込んできやがります。

 「税法じゃねえから知らねえよ!」と無視を決め込んでいられない。
 法を重視するがゆえに、法に書かれると弱い。

法人税法 第二十二条
1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。


 もちろん、ただ書かれてあるとおりに従うわけではないです。
 受け入れる法の側で一定の解釈を施す必要があります。

 ということで、会計にも正面から取り組まざるをえないのですが、税法と会計の絡み具合をしっかり分析した本というのが見当たらなくって。
 と思っていたら、酒井先生のこの本が思いっきりそういう本でした。


 しかし『税務会計』という名称、どうにも気に入らない。
 そのせいで、この手のタイトルの本、今まで手に取るのを敬遠していたような。

 なぜかといえば、そこに「法」が入っていないから。
 「税務」というと、あくまでも税の「実務」のことであって「法」の要素は正面に出てこない、という印象を受けます。
 法解釈論など知らなくても、通達とタックスアンサーでどうにか凌げる範囲の。

 世の中の『○○の税務』というタイトルの本のほとんどは、まさにそういう感じ。
 法解釈論を展開しているものなんて、ほとんど見かけない(数少ない例外的な存在が、酒井先生の一連の著書)。

 しかし、この領域でやるべきことは、あくまでも「法解釈」として会計原則がどこまで法人税法に組み込まれるかを検討するものであるはずです。
 にもかかわらず、「法」という文字が入っていないのはなぜなのか。

 また、はしがきに「カレーパンの法則」(カレーパンはパンであってカレーでない)について書かれています。
 その顰みに倣うならば、「税務会計は会計であって税務でない」ということになってしまうのではないか。
 税務を会計で包みこんでカラッと油で揚げた、みたいな。

 いやいや主役は「税務」、より正確にいえば「税法」だろうと。

 いくら税法の課税要件が民法に準拠していたり、民法からの「借用概念」を多用しているからといって、その状態を「税務民法」なんていう奴はいませんよね(ものすごい税の格が下がった感じを受ける)。
 なぜ「会計」だけが、税法ジャックをかましているのか。

【借用概念論の実態】
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その11)

 とはいえ、じゃあどういう名称がいいのかと言われても、私もさしあたり思いつきません。


 誤解されそうなので念のため言っておきますが、「通達+タックスアンサー」で済む世界、そう侮れるものではない。
 専門家でない人でも容易に理解できるということや、調査官と共通言語で話せるということ、かなり大きなメリットです。

 これに対して、納税者の権利を保護するためだとかいうことで、「租税法律主義」「課税要件明確主義」といったお題目を唱えておきながら、素人には容易に理解しがたい難解な条文はお構いなしだったり、あるいは、難解な法解釈論を展開したり、などといった態度には共感しがたいものがあります。

 そこはかとなく感じる、マリー・アントワネット感。
 「納税者の予測可能性を高めたいなら、法律に細かく書き込めばいいじゃない」的な(ただし史実とは異なる)。

 いつものアレ、リンク貼っておきますね。
 これを見ても貴殿は「予測可能性高まってるぅ〜!」て言い続けられるのかと。

租税特別措置法69条の4(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)

【小規模宅地等の特例イジり】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正

 そんなことをするよりも、通達やタックスアンサーを充実させることで、「通常事例」として解決できる範囲を広げることのほうが、(実在の)納税者の予測可能性に資することになるはず。

【納税者の予測可能性】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)

 私が、このブログで税法の「法解釈論」を展開する一方で、「日常系税務」という括りも大事にしているのは、そういったメリットも重視すべき、と考えるからです。
 で、この範囲では解決できないものにかぎり、「紛争系税務」としてガチで争う方向へと進むと。

 下記記事でも書きましたが、「裁判規範」の反映としてではない、独自の「行為規範」を定立すべき、という構想がここに繋がってきます。

税法・民法における行為規範と裁判規範(その2)

【規範二分論】
・日常系税務:行為規範
  通達、タックスアンサー、FAQなどが主役
・紛争系税務:裁判規範
  法律、政令、省令などが主役

 こうやって見取り図を書いてみると、「通達を文言解釈」して法律の解釈をするなどといった例の高裁判決のヘンテコさが際立ちますよね。

解釈の解釈を解釈する(free rider) 〜東京高裁平成30年7月19日判決

 「通達を文言解釈」することに意味があるとしたら、通達を信頼して行動した納税者を保護することにあるはずです(信頼の原則)。
 およそ、法律の解釈に繋がることはありえない。


 なお、最初に書いた「税理士業務以外の〜」の人というのが、税理士業務をここでいう「日常系税務」の範囲におさめておき、余力で他の業務をやる、という方針だというのならば、なるほどそういうことですね、と合点がいきます。
 「紛争系税務」なんて、そういうの好きな奴がやっててくれればいいと。

【いろんなハイブリッドもの】
 税法×税務
 日常系税務×紛争系税務
 行為規範×裁判規範
 通常事例×異常事例
 事前×事後
 実質×形式
 客観×主観
 税理士業務×それ以外の業務
 カレー×パン

 他人にあれこれ言っておきながら、私自身も「税法」と「税務」の二兎を追っている、ということになりますね。


 さて、いつもどおり余談が長引いたところで、本題である本書について。
 とりあえず、今回は「T 法人税法と会計諸原則」のみご紹介。

 「会計原則」について会計学側の見解を紹介した後に、それぞれの会計原則が法人税法にどのように取り込まれる(または取り込まれない)かについて、丁寧な分析がなされています。

 概説書レベルだと、「法人税法の趣旨にあわせて取り込まれる」程度の記述で済まされがちなところ。
 それを、それぞれの会計原則ごとの違いにあわせて、個別の分析がなされています。

 こういう税と会計の両方に手を出した本、通常だとどちらかに偏りがち。
 なところ、本書では両側面ともにしっかりとアプローチされています。

 その上で、法人税法第22条第4項を中心とした「法解釈論」が展開されていると。

 いわゆる「短期前払費用」の特例を、会計原則(重要性の原則)を踏まえつつ法解釈論として正面から扱ったり。

法人税基本通達2−2−14 (短期の前払費用)
 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない役務に対応するものをいう。以下2−2−14において同じ。)の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。
(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。


 私も、倒産防前納の損金算入についてイジりを入れたことがありますが、これはあくまで措置法プロパーの問題として。
 会計原則なんて何も気にしていませんでした。
 まあ、損金経理や継続適用は全く関係なく、明細書添付の有無で損金算入できるかどうかが決まるなんて、会計原則ガン無視にもほどがありますけども。

みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い

 しかも、短期前払費用の特例については、突っ込みを入れるのを避けるというビビりっぷり。
 や、これは「日常系税務」の世界観が壊れないようにしたかったからです(言い訳)。


 分析の中には、裁判例の紹介もいくつか出てきます。
 裁判所が法人税法と会計原則との関係をどのように論じているのかと。

 が、私の見立てだと、裁判所がこの問題についてきちんと論理建てて論じているようには思えません。
 各事案ごとに、収まりの良い結論がでるような立論どまりにみえる。

 そのような、事案に必要なかぎりでの判断に留めるのが裁判所の本来の役割、といえば、それはそのとおりではあります。
 が、他の領域ではしばしば見られる威勢のいい解釈論が「法人税法×会計原則」の領域では抑え気味な気が。

【判例理論について】
判例の機能的考察(タイトル倒れ)
非居住者に支払う著作権の使用料と源泉徴収の要否について(その12)

 それはひとり裁判所が悪いのではなく、租税法学説が十分な理論展開をしていないからだとは思います。
 裁判所が安心して乗っかれるようなスタンダード・セオリーが存在しない。

 「スタンダード」というのは、論文レベルではなく教科書レベルでも出てくるような理論ということ。

 本書タイトルの「税務会計」の部分について論難しましたが、その前の「プログレッシブ」というのも、一応気になる(「累進課税会計論」かよ、というのではなく)。
 プログレッシブの前段階としての「税法×会計」のスタンダードというものがそもそも存在するのか、という疑問。


 以上、勇み足であれこれ言ってますが、ここは他の領域にも増して勉強不足なところ。
 なので、全くの見当違いが多々含まれているはず。

 より勉強を進めた上で、「すみません、私の認識違いでした」の訂正記事を出させていただくことになるでしょう(予言)。
posted by ウロ at 09:11| Comment(0) | 租税法の教科書

2020年03月30日

浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)

 一つ前の判例イジりの記事の見直しは、来週くらいにしておきます。

解釈の解釈は終わりました。〜最高裁令和2年3月24日判決


 さて、最近は本一冊を読み通す集中力も減退ぎみですが、この本は面白くて一気読みできました。

 タイトルだけみると、うす味のビジネス書風。
 ですが、中身はガチガチの租税法学もの。



浅妻章如 ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか(中央経済社2020)

 ある意味タイトル詐欺よ。
 表紙イラストに野球ボールを書いたりとか、いかにもユーザーフレンドリーな雰囲気出してますけども(このボール、飛んでるっぽいんですが全く躍動感ないの。これは時間停止ものか?)。


 このブログで中央出版社さんの書籍を取り上げるのは初。

 どちらかというと実務書メインの出版社なので、学術書イジりを主食とするこのブログとはあまり交わらない。
 なお、学術書イジりが過ぎて、各学術書出版社からはガン無視されているような気がするこのブログ。
 この記事も、著者及び出版社から禁忌として扱われる気がしないでもない。

 この本はタイトルから受ける雰囲気に反して、ガチ目の学術書といっていいと思います。
 メインテーマが「二重課税」とか、もうね。

 ということで、このブログで取り上げてみることに。


 ちなみに、この本自体の問題ではないのですが、「二重課税」という用語には要注意。

 というのも、「二重課税」と表現すると、課税するのが不当だという結論を先取りしているように読めてしまいます。

 が、たとえば、法人税と法人事業税(所得割)は、同じく法人の課税所得に課税されるわけですが、これが二重課税だから不当だとは一般的に考えられていません。
 また、地方法人税や法人住民税(法人税割)は法人税額を課税標準とするわけですが、これは税金に税金をかけるもので二重課税だから不当だとも考えられていません。
 あるいは、不動産取得税と固定資産税は同じく不動産にかかる税金ですが、取得と保有で違うとかいうことで、これも二重課税で不当だとはされていません。

 要するに、同じようなものに同じような課税をすることそれ自体では不当だという評価はでてこない。
(ただし、これらはあくまで一般的には、ということで、当たり前を疑う必要はあるでしょう。)

 極端な話、たとえば、あるひとつの不動産の売却益に対して、譲渡年と翌年の2回にわたって課税したとしても、それが直ちに不当かというと必ずしもそうはならない。
 というのも、仮に、現行法では譲渡年に分離で税率20%のところを譲渡年は分離10%、翌年も分離10%という制度に改正する、としてもおかしくないわけです。
 この場合、ある種の(一部)納税猶予になってむしろ納税者有利ですし(ので、割引価値を考慮して合計20%超の税率(10%+10%+α%)というのも許容されうる)。

 ということで、二重課税らしきものがあっても、不当なものとそうでないものがある、ということは、この用語を使う際には念頭においておいたほうがよいです。


 ここでは「不当」という法的に曖昧な用語を使いましたが、二重課税が問題となりうるレベルは一つではないです。

【問題となりうるレベル】
  1 憲法解釈論: 2つの課税が憲法解釈上許されるか。
  2 法律解釈論: 2つの課税が法律解釈上許されるか。
  3 立法論・政策論: 2つの課税は租税政策上望ましいか。

 それぞれのレベルで「不当」とか「許されない」というのは、
  1 違憲(法令違憲/適用違憲)
  2 違法
  3 妥当でない、望ましくない
などと表現されることになります。

 そして、実際に二重課税が問題になるとしたら、ほぼほぼ3のレベルが主戦場かと。

 というのも、2(法律解釈)のレベルで二重課税が問題となるのは、あくまでも課税を排除する旨の個別規定がある場合に限られるからです。
 たとえば、所得税法9条1項16号のような。

所得税法第九条(非課税所得)
1 次に掲げる所得については、所得税を課さない。
 十六 相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの


 そういった個別規定がないかぎり、二重課税それ自体は法律レベルで問題とはなりにくい。

 じゃあってことで、一つレベルをあげて1(憲法解釈)だとどうか。
 やはり憲法解釈レベルでも、二重課税を問題とするのは難しいと思います。

 憲法問題にできるとしたら、複数課税を合計したら税率100%近くになっちゃった(財産権の侵害)とか、本人が任意に選択しえない属性でもって追加的な課税がされる(平等原則違反)などといった場合でしょうか。
 が、それはまさにそのこと自体が憲法違反となるのであって、あえて「二重課税」という迂路を経由させる必要はないような。

 ということで、二重課税問題の主戦場は3(政策論)のレベルだろうと。

 課税は常に被課税者(納税者)の効用を損ねるわけで、効用を損ねることだけから課税は望ましくないという結論は導けません(納税気持ちイイッ!とかいうアブノーマリティは考慮外)。
 課税パターンがA・Bとある場合に私人+国家の効用の総量がもっとも多くなる課税をすべき、とか、私人の効用が異常に減少してしまうから課税すべきでない、などといった議論をするのが政策論のレベル。

 と、ここまでひたすら文章でつらつらと書いてきたようなことを数理的に説明してくれているのが本書となります(当然ながら、本書のほうが段違いにレベルが高い)。


 浅妻先生といえば、下記教科書の「第4章 個人の所得課税」を執筆担当されています。



中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)

 以前この本の書評を書いていますが、改めて読み返してみて第4章はイジりを入れていないのでセーフ(何が?)。


 章タイトルは次のとおり。

第1章 ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか?
第2章 生命保険年金受給権に相続税を課すのに、さらに所得税も課すのか?
第3章 公平と中立性との違い
第4章 所得税があるのに相続税も課すのはおかしいのではないか?
第5章 家族を扶養したら、寄附金と同じように所得を分割できるのか?
第6章 【利子に課税しないほうが中立・公平である】という考え方は金持ち優遇とは別
第7章 資産課税も利子課税と同様の二重課税を含んでいる
第8章 法人所得課税と個人所得課税の二重課税を調整する方法はない
第9章 今年黒字なのに税金を納めない輩がいるのは、けしからん?
第10章 消費税(付加価値税)の納税義務者を規定しても負担者は分からない
第11章 外国で納めた税額について日本で二重課税を救済する
第12章 貧しい人に低価格で保育や教育を提供すべきか?
第13章 才能を測定できるなら才能に課税すべきか?

 どうにかキャッチーにしようと頑張っているのでしょうが、そこはかとなく漏れいづるガチ感。
 実際、第1章からフルスロットルよ。


 全面にわたって数理的な説明をしてくれているので、自分でエクセルイジりながら読み進めれば、言わんとすることはなんとか理解できるはず。
 そういう意味では、はしがきにも記載のとおり、法学的素養がなくても読めます。

 が、一貫した数理的な説明が仇となって、その主張が「解釈論」なのか「政策論」なのか、油断しているとどちらを論じているのか分からなくなります。ここまでが「解釈論」、ここからが「政策論」といったラベルが貼られているわけではないので。

 もちろん、そのことを自分で強めに意識しながら読めばいいんでしょうが、少なくとも非・法学学習民には無理ですよね。

 確かに、そのへんの法学入門書にかかれているような「法的三段論法」などというものは、額面通りに受け取れるものではないと、私も思います。
 「大前提(規範)⇒小前提(事実)⇒結論」の順番どおりに解釈するなんて、現実的ではなかろうと。

 極端な場合には、
  結論⇒事実・規範
と、結論を決めてから、事実認定や規範定立を調整するとか、そこまでではないにしても、
  規範⇔事実⇔結論
と、3つの間をいったりきたりしながら、全体をかためていく、というのが現実だろうと思います。

 ので、表向きの着飾った理由付けに惑わされることなく、背後にある本当の理由付けを探る、ということが重要となります。

 が、そうはいっても、やはり定石通りの法解釈お作法についても一度手順を踏んで理解しておくべき、とも思います。一応、業界の共通言語なわけですし。

【法とフィクション】


来栖三郎 法とフィクション(東京大学出版会1999)

税法・民法における行為規範と裁判規範(その5)


 ということで、この本を先に読むとしても、その後に定石通りの法解釈お作法を身につけてから再度読み直してみるといいと思います。

 共通言語、ということでいうと、解釈論/政策論のラベルはないものの、当該主張が租税法学の共通了解なのか異説なのかといった区別は逐一書いてくれていますので、そういう点では安心して読めます。

 なお、二重課税とはちょっとズレますが、刑事罰を課すこととの「二重処罰」の問題は、数理的に一元化して分析することはできるんでしょうかね?


 はしがきに「良い入門書が既に複数ある」と書かれているんですが、そんな入門書があるなら教えてほしい。
 初学者がいきなり読んでも大丈夫な入門書だと私が思えるのは、今のところ佐藤英明先生の「プレップ租税法」くらい。



佐藤英明 プレップ租税法 第4版(弘文堂2021)

税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅


 二次元にしか興味がないといいながらも、そちら系の喩えとかが全くでてこないのは、さすが学者としての自制心ですかね。

 初めての単著、とかいったら浮かれて自分の趣味をふんだんにぶち込みそうなものですけど。
 これは、それにも劣らず二重課税問題も大好きだから好きなもの同士を混ぜ込みたくない、ということでしょうか(何の話?)。


 さて最後に、徹底した数理による説明を尽くしたこの本に、例の記述をぶつけてみましょう。

三木義一ほか「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)

初版はしがき
「この本を読んだ方が、税法の中に数式ではなく、人々の生活の息吹や社会の動きを感じ取って、税法の面白さを少しでも理解してくれたら」


 この記述、以下の記事でも引用していて(しつこい)、自分の考えに対するアンチテーゼとしてフル活用中。
 数理的な説明と、息吹を感じるなんてスピリチュアルな説明とで、どちらに説得力があるかということです。

窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
posted by ウロ at 10:06| Comment(0) | 租税法の教科書

2019年12月09日

田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990)

 誰だよ、「使命を果たし終えた」みたいなこと言ったやつ。
 今まで読む機会を逸したじゃないか。



 田中二郎「租税法 第3版」(有斐閣1990)
 
 確かに「第3編 租税法各論」は、平成元年までの制度の概説どまりで判例の引用も論点の記述もほぼないので、ここを読む意義は残念ながら無いかなあとは思います。

 が、「第1編 序論」と「第2編 租税法総論」はなかなかの読み応え。
 金子宏先生が乗り越えようとした山々がここにある、という感じ(偉そうにすみません)。

 金子宏『租税法 第23版』(弘文堂2019)

 「租税法と私法」という枠組みでいうと、田中先生が租税法志向なのに対して金子先生は私法志向、みたいなコントラストが読み取れたり。


 第3版は1990年出版ですが、田中先生ご自身は新版が出版された1981年の翌年、1982年にはお亡くなりなっています。
 ということで、第3版は大蔵省(当時)職員の方々が税制改正に合わせて手を加えたようです。

 継続的に税制改正を反映してくれるならそういう改訂でも意味があるんでしょう。
 が、第3版一回きりで終わらせたんじゃ意味がない。

 もし田中先生ご自身の筆が入った箇所が減っているなら、むしろマイナスともいえる。
 で、この第3版が最終版としてオンデマンドで出版され続けてしまっている。

 「はしがき」を読むと、すでに初版の段階から大蔵省職員の方々が執筆協力されているようです。
 ので、第3版で本来やるべきだったのは、田中先生が記述されていない箇所を削る作業だったはず。

 学問的意義という意味では、ダウングレードして純度の高い田中租税法大系を残しておいたほうがよかったのに(ジョブズの遺志を残す的なアレ)。

 勝手に想像するに、「第3編 租税法各論」は田中先生がほとんど書かれていない気がします。
 ので、ここを削って『租税法総論』として出版すればいいのに。


 話はちょっと違いますが、能見善久先生が四宮和夫先生の『民法総則』を改訂し続けているにもかかわらず、四宮先生単独執筆の最終版(第4版補正版)をオンデマンドで出版する、という弘文堂の所作を想起してしまいました。



 四宮和夫・能見善久「民法総則(第9版) 」 (弘文堂2018)


 ちなみに、下記記事で引用した「税法は行為規範だが民法は裁判規範にすぎない」という物言い、どうやら田中先生のこの本が出どころのようです。

三木義一ほか「よくわかる税法入門 第13版」(有斐閣2019)

 が、田中先生の時代の民法理解を無批判に現代に持ってくるの、やっぱり説明不足だと思う。

 土地法、労働法、消費者法、競争法などといった規律によって契約の自由が切り崩されている状況で、『それでも契約は自由だ』という原則がどれだけ妥当するものなのか。
 もっというと、税法の規律のせいで契約の自由が事実上制約される場面もあるわけで、民法の純粋な部分だけを取り分けて、契約は自由ということに意味があるのかどうか。

 行為規範/裁判規範の問題については、あらためて整理して記事にします。

【しました】
税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)
posted by ウロ at 11:07| Comment(0) | 租税法の教科書

2019年05月13日

渡辺徹也「スタンダード法人税法 第2版」(弘文堂2019)

 この本、今までの記事の中でもおすすめしていましたが、やっと第2版をひと通り読み通せたので、正面から扱ってみます。


 渡辺徹也 スタンダード法人税法 第2版 (弘文堂2019)

【租税法の教科書イジりの旅】
アクティブラーニング租税法【入門編】
岡村忠生ほか「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)
中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅


 私が租税法の「教科書」に求めていることは、

 ・前提知識無しでも理解できること
 ・具体例(数値例)が記載してあること

といったあたり。

 そういう評価軸からすると、この本はベストです。

 なぜそのような制度があるのか、なぜそのような要件が課されているのか、といった点をしっかり記載してくれています。

 また、数値を用いた説明も多めなので、具体的に理解することができます。
 「みなし配当」のところとか、数字と図解を交えての説明なので、「資本金等の金額・利益積立金額」の分け方とか、イメージがつかみやすいと思います。
 類書だと、単に、掛け算割り算の計算式だけ書いて終わり、みたいのが多くて、なんでそういう計算するの、ということがわかりにくかったりしますし。

 ちなみに、この数値で説明する、については、佐藤英明先生の「所得税法」の教科書がさらに徹底しています。



  佐藤英明 スタンダード所得税法 第2版補正2版 (弘文堂2020)


 ということで、「法人税法」の勉強としてはもちろんですけど、その他の税目を自分で勉強するにあたっても、こういう観点から分析していけばいいのか、という意味で参考になると思います。


 と、全力で褒めておいてから、以下、若干のツッコミ。


 「目次」がざっくりすぎで使いづらいです。

 この本、本文が「Lecture」(基本)と「Next Step」(応用・発展)と別れているんですが、「Next Step」の中にもいろんな項目が含まれています。その中には横断的な内容もあるので、その記載箇所以外でも参照すべき項目だったりもします。

 にもかかわらず、目次には「Next Step」としか書かれていません。ので、そこにどんな項目が含まれているかが分からない。
 なもので、あとから探すのも大変。

 ご丁寧に、目次の全部の箇所に「Next Step」とだけ書かれているの、見ているうちに、シュールレアリズムを感じずにはいられない。


 で、この「Next Step」、本文よりフォントを落として記述しているんですが、結構な長さのものもあります。
 これを延々と読んでいくのかなりきつい。内容的にも込み入った話がでてきますし。

 この感じ、どこかで読んだな、と思い出したのが、佐久間毅先生の『民法の基礎』。

 こちらの本も優れた教科書なんですが、「発展学習」「補論」と題した項目のフォントが極々小(極悪小)。

 ページ数(=お値段)を圧縮するための手段なのかもしれませんが、極々小フォントが数ページにわたって続くの、読んでいて苦しくなってきます。

 

佐久間毅 民法の基礎1 総則 第4版 (有斐閣2018)
佐久間毅 民法の基礎2 物権 第2版 (有斐閣2019)


 数値例はあるんですが、「仕訳」までは書いてないです。
 でもたとえば、無償取引、低額・高額取引のところとかグループ法人税制のところなんかは、仕訳を書いたほうが圧倒的に理解しやすいと思うんです。

 まあ、そうすると簿記の説明もしなきゃいけないし、ということでボリューム増々になってしまう、てことですかね。



 中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)
 この記事の中で、適格要件のうち「支配関係継続要件」の「見込み」の評価についてツッコミを入れました。
 ので、渡辺先生の本ではどう書いてあるか探してみたんですけど、特に評価までは書いていませんでした。
 というか、「共同事業」の場合だけにこの要件が書いてあって、「完全支配関係」「支配関係」の場合の要件としては書かれていません(249頁)。

 なんでそういう記述になるかを邪推すると、法令の構成が、

 法: 親子関係+政令で定める場合
 令: 親子関係+兄弟関係(継続要件必要)

となっていて、継続要件が必要な「兄弟関係」の場合が施行令にしか書いてないから、なんでしょうね、たぶん。

 でも、他の箇所ではしっかり施行令含めた記述をしているのに、なんでここだけ施行令の内容を削ったのかがよくわかりません。
 しかも、あとのほうには、適格合併後に適格合併が見込まれる場合のこととか、分割の場合に分割法人側の継続保有は要求されなくなったとか、継続要件が「緩和」されていることには触れられています。
 のに、原則としての「継続保有要件」が正面から書かれていないわけです。

 なんか、私の見落としですか。
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2019年04月29日

三木義一「よくわかる税法入門 第15版」(有斐閣2021)

※2021年に「第15版」が出ます。以下は第13版についての書評。

 2001年に初版が出版されてから、もう「第13版」だそうで。



 三木 義一 よくわかる税法入門 第15版 (有斐閣2021)

 私も初期のころに読んだきりで、まあわかりやすい普通の入門書だったかな、程度の認識でした。

 久しぶりに読んでみようかと思いつつ、特にブログのネタにすることもないだろうなと軽く読みはじめたら。

 まさかのアクティブ・ラーニング系!

【アクティブ・ラーニング系とは】
後藤巻則「契約法講義」(弘文堂2017)

 最初お気軽な気持ちで読んでいたのが、途中から「アレじゃないですか、あのアレ。」となって、気持ちを切り替えて読み進めざるを得なくなる、例の展開。

 まずは端緒から。


 この本、国税庁とか内閣府、財務省などのサイトから、統計情報とか図表とか、まあまあの数の資料を転記しています。
 で、親切にも「URL」を記載してくれているんですが、古いリンクのままで更新されていないものがいくつか(全部なんてチェックしていられないので、控え目に「いくつか」と言っているだけで、実際どれくらいの数かは分かりませんよ)。

 たぶん、最初に載っけたきり、改訂時に見直ししていないんでしょうね。
 まあ、いまどきURL手打ちするやつなんていねえよ、ということで誰も気がついていないんでしょうけども。

 が、私、こういうのに無駄に鼻が利く。

 国税庁のサイト、最近リニューアルしてたけどちゃんと反映してるんだろうか、とか、昔の税調の答申なんてもう内閣府のサイトに残ってないんじゃないの、みたいな端緒から、探ってみたら案の定、という流れ。
 (ちなみに、上の記事の本に対するツッコミも、そういう鼻の利かせ方から始まっています。)

 で、こういうこまいチェックが抜けてる本て、大抵ほかにも何かしらある、という推測がつよーく働くわけです(そんなつもりなかったので、帯を読まずに捨ててしまったのは失敗)。

 以下、そういう穿った見方からのツッコミのいくつかを。


初版はしがき
 「この本を読んだ方が、税法の中に数式ではなく、人々の生活の息吹や社会の動きを感じ取って、税法の面白さを少しでも理解してくれたら」

 なぜか数式に否定的な見方をしています。

 ここは捉え方の違い、といってしまえばそれまでですが、わたし個人は、数式の中にこそ税法の中身が詰まっているのだと感じています。

 この本の捉え方:
  税法 ⇒ 人々の生活の息吹や社会の動き (数式ではなく)
 わたしの捉え方:
  税法 ⇒ 数式 ⇒ 人々の生活の息吹や社会の動き

 たとえば、自己株式の取得とか有償減資するときに、資本等の金額・利益積立金額をそれぞれいくら減らすかの計算式ありますよね(みなし配当)。
 あの計算式に数字をいろいろ入れてみることで、法人税法が「元手」と「利益」をどのように捉えているか、が理解できるじゃないですか。
 抽象的に文章であれこれ書き綴るよりも、ずっと理解が早くなるはず。

税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 この記事でも書いたんですが、数式の扱いがうすい本では、税法について充分な理解が進まないように思います(一応フォローすると、この本自体はそこそこ数値例がでてきます)。

 もし、上の引用文の趣旨が「単に数式を暗記するだけでなく、その背後にある考え方をしっかり理解しなさいよ。」ということであれば、それはおっしゃる通りだと思います。
 でも、そういう趣旨だというならば、「数式ではなく」なんて否定的な表現ではなく、「数式の中にある」とか「数式の背後にある」と書くべきでなんでしょうね。

【この記述イジり】
横流しする趣旨解釈(TPR事件・東京高裁令和元年12月11日判決)
窪田充見「家族法 第4版」(有斐閣2019)
浅妻章如「ホームラン・ボールを拾って売ったら二回課税されるのか」(中央経済社2020)

24頁
 「民法の場合は、当事者が原則として契約の自由を行使して、紛争が生じたときに裁判所に判断してもらう規範(裁判規範)ですから、裁判官が合理的に判断できればいいかもしれません。しかし、税法は税務署と納税者に直接向けられていて、両者ともに税法に定められたとおりにしなければならず(行為規範)、しかも、納税者は申告をしなければならないのです。」

 う〜ん、こういう切り分け方どうなんだろう?
 これは批判とかではなく、何かしっくりこないだけです。

(田中二郎先生の体系書が出どころっぽい)
 田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990)

 そして、この記述を起点にして、法規範についての記事を書くことに。

 税法・民法における行為規範と裁判規範(その1)


145頁
 「配偶者控除の本質は専業主婦の最低生活費控除だからです。」

 私のほうからはコメントいたしませんが、この本にこう書いてありました。

156頁
 「個人所得課税の基本的な仕組み(イメージ)」という図表が載っています。
 この図表の中で、「税額控除」に矢印が向かってて、「税額控除後の税額の一定割合を控除」と書いてあります。

 最初これ、なんのこっちゃ?て思ったんですよね。
 そして「あ!」と思い出して。

 「定率減税」のことかー!!! 2006年までで廃止されたアイツ!
 こんな子いたの、すっかり忘れてたわ(ごめんね)。

 もしかしたら『昔の税調の図をいただいてきただけなんですー。』て、言うのかもしれません。

 が、残念ながら「一部加筆修正」て書いてあって、実際、もとの図表に記載してあった「定率減税」の文字はしっかり削っているんですよね。

 なぜわざわざ内容だけ残す?
 元カレ・元カノのメール残しとく的な、連絡先は消したのに。
 まさか復活(復縁)するつもりですか?

175頁
 「資料14−4 法人税率の推移」

 「18(注)」「15(注)」の(注)は何や! 注の中身がどこにも書いてないぞ!

189頁
 「この『グループ法人税制』とは、従来の連結納税制度適用企業グループを含む100%支配企業グループのすべてを対象に、企業グループの内部取引の譲渡損益の課税繰延べ等を可能にする制度です。」

 いいえ、強制です〜。

 完全支配関係を選択すれば(←これが任意)繰り延べできるよ、という趣旨かもしれませんが、まあ誤解を招く表現。
 「可能にする」って、あたかも繰延べしてもしなくてもどっちでもいい、みたいに読めてしまう。

 「できる規定」なのか「しなさい規定」なのかの区別って、税法だとかなり神経質にならざるをえないところなんですが、こういう表現みると、そのへんに対する無頓着を感じてしまう。

196頁
 「【第38条】(法人税額等の損金不算入)法人税は、法人の所得に対して課されるものです。これは、法人が株主に対して配当をすることと同じく、法人の所得の処分と位置づけられます。ですから、法人税を納付することは、所得稼得活動ではなく所得の処分行為であり、納付された法人税額は損金に算入されないのです。」

 これ、理由付けとして成り立ってます?
 私にはよく理解できませんでした。

 しかもこの「所得課税」を軸にした説明だと、住民税均等割が損金不算入だったり、事業税所得割が損金算入な理由が説明できないですよね。

197頁
 「『収益認識に関する会計基準』及び『収益認識に関する会計基準の適用指針』はこれまでの法人税実務と相容れないものとなっていました。」

 そういうことでしたっけ?

 『法人税法の側では、これまでの確定主義・実現主義ルールを明確にした上で、22条4項経由で取り込んじゃまずい会計基準についてだけ別段の定めを設けた』というのが私の理解だったんですけど、相容れないものとなっていたんですか、そうでしたか。

 このへんはがっつり勉強していないので、私の認識不足なんでしょう。

209頁
 「相続を禁止するなら、当然生前贈与も禁止しなければいけないわよね。」

 なぜそうなる???

 『死後の処分は禁止するので生きているうちに処分しときなよ』という制度設計だってありうるわけですよね。

 決めつけの角度がきつすぎる。

223頁
 「相続が争続・争族といわれるようにトラブルが多く、個人主義化している現実と大きな隔たりができてしまっています。こうした観点から相続税を見直してみると、面白い論点がたくさん出てくるはずです。」

 「トラブルが多く」と書いたすぐあとに、「面白い」と書ける勇気。
 ちょっと怖いかも。

226頁
 「不動産鑑定士さんに頼んで、実際の時価を調べて、そちらの方が安ければ、その鑑定評価額で申告すればいいのよ。」

 や、そんな簡単に鑑定評価が通るなら、皆さん苦労しませんて。

228頁
 「時価を取引価格として課税すると事業承継が困難になります。そこで、事業に関する資産の評価額を減額するなどして、一定の条件の下で負担を軽くする事業承継税制があります(措法70条の7等参照)。」

 一般に「事業承継税制」て言われている制度は、財産評価の特例じゃなしに、納税猶予の制度じゃなかったでしたっけ。

 これは「小規模宅地等の特例」(措法69条の4)のことを言っているんですか?
 引用条文違うけども。

337頁
 「資料27-4のように、申告所得税だけで、年間約1万8000件の重加算税処分がある」

 この資料の中のどこにも、この数字出てきません。
 たぶんですけどこれ、前年の件数じゃないの?資料を新しいのに差し替えたのに、本文がそのままではないかと。

 最初に書いたとおりリンク切れだけならまだしも、資料と本文が対応していないところもあるわけです。

340頁
 「所得税を脱税している場合には市町村民税も脱税しているので」

 都道府県民税は?

 個人の場合は一緒に徴収だからかもしれませんが、まあ不正確。
 素直に「住民税」って書けばいいのに。


 以上、専門書が売れない売れないと嘆かれる昨今、こういう感じの書籍出版するのってどうなんですかね。
 しかも、初版ならともかく「第13版」まで出ているのにですよ。逆に、今まで誰にも指摘されずにスルーできていたのが不思議。

法学研究書考 〜部門別損益分析論

 手間ひまかけて丁寧に作ったって大して売れ行きに影響ないんだから、さっくし作って教科書採用活動に精力を注ぐ、そういう風潮なのかどうか。
 がんがん改訂していけば、先輩のお下がり貰う、も防げますしね。

 お前らみたいな重隅系のマニア(重箱の隅をつつく系)は、マケプレのクレプラ(アマゾンマーケットプレイスのクレイジープライス)で消耗しながら絶版本でも買ってれば、と言われている気がして悲しいわ(熱い被害妄想)。

 しかしまあ、当時いい本だと思っていたのに、自分が勉強して戻ってきたらツッコミどころ満載だった、という経験、これと一緒じゃないですかやだあ。

小林秀之 「破産から新民法がみえる」(日本評論社 2018)

 これとはまったく逆に、団藤重光先生の『法学の基礎』のように、勉強して戻ってくるたびに新たな発見がある本もあるわけです。

団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)

 ということで、いい本探しの旅はいつまでも終わらない。
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2019年04月15日

岡村忠生ほか「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2017)

 ※2020年に「第2版」が出ました。以下は「初版」の書評。

 コンパクトな租税法の教科書。
 所得税、法人税、消費税、租税手続法をカバーしています。



 岡村忠生、酒井貴子、田中晶国「租税法 (有斐閣アルマ) 」(有斐閣2020)

【租税法の教科書もの】
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅
中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)
金子宏『租税法 第23版』(弘文堂2019)

 独学に向いているか、という観点からすると、残念ながら向いていない。
 凝縮した記述が多めなので。

 逆に、実務をやっている人が、知識の整理に使うにはいい感じです。
 記述密度が高めでかなり行間を読み込む必要があるので、自分の知識のあやふやなところを再確認できます。


 で、行間読み込みしてて、ちょっと理解ができなかった箇所があったのでメモ。

 「配当(税額)控除」についての記述(108頁)。

 「配当税額控除(配当控除)は、法人・個人の二重課税を緩和する措置であり、きわめて簡便な株主税額控除(インピュテーション)と考えられる。配当所得のうち、日本の法人税の対象となる利益から支払われたとみられるものは、その10%または5%(証券投資信託では、利子やキャピタル・ゲインを含むため、5%または2.5%)を、税額控除することができる(92条)。
 税額控除の率が変わるのは、そうしなければ高い税率を適用される者ほど有利になるためである。」


 配当控除についての説明、これだけです。
 これだけ読んで内容理解できますか?

 初学者からすれば、

・なんで二重課税になるの?
・なにインピュテーションて?
・簡便て何と比べて?
・その10%の「その」ってどの?
・法人税の対象となる利益から支払われたものって?(税引前or税引後?)
・利子等を含むとなんで控除率かわるの?
・税額控除の率が変わるって、「10%または5%」と「5%または2.5%」の間のことをいっているの?、それとも、10%⇔5%、5%⇔2.5%それぞれの間のことをいっているの?

て感じで、頭の中が「???」となるんじゃないかと(というか、ここまで具体的な疑問が浮かぶならまだましで、実際は、ただただよく分からない、てなると思う)。

 当然、我々実務家からすれば、そのへんは自分の保有知識で補いながら読んでいくわけですが、初学者には難しいですよね。

 こういう「なぜ・なに」がしっかり書いている本じゃないと、独学には向きません。

 それはそれとして、最後の一文の「有利」っていうの、どういう事例を想定しているのか。

 具体例をあげてみますけど、

No.2260 所得税の税率
No.1250 配当所得があるとき(配当控除)

 配当所得(剰余金の配当)200万円で、それを含む課税総所得が
  A 2000万円
  B 1000万円

の場合に、所得税額(総合課税)がどうなるかというと、
(分離でいいじゃんとか住民税がどうとか、そういう事情は諸々捨象します)

A
 所得税額  5,204,000円(限界税率40%)
 配当控除  ▲100,000円(200万円×5%
 納付税額  5,104,000円(税負担率25.52.%)

B 
 所得税額  1,764,000円(限界税率33%)
 配当控除  ▲200,000円(200万円×10%
 納付税額  1,564,000円(税負担率15.64%)

となりますよね(しかし超過累進課税、あらためて凄いっすね)。

 当然、Aが「高い税率を適用される者」なんですが、仮に適用控除率が「10%」になったとして、どのへんが「有利」になるんですかね。

A’
 所得税額  5,204,000円(限界税率40%)
 配当控除  ▲200,000円(200万円×10%
 納付税額  5,004,000円(税負担率25.02%)

 確かに、もし配当控除額の計算が、「税額」そのものにパーセントかけるようになっていたら、有利かもね、という気もします。

A”
 所得税額  5,204,000円(限界税率40%)
 配当控除  ▲520,400円5,204,000円×10%
 納付税額  4,683,600円(税負担率23.42%)

B”
 所得税額  1,764,000円(限界税率33%)
 配当控除  ▲176,400円1,764,000円×10%)
 納付税額  1,587,600円(税負担率15.88%)

 だから、控除率下げるんだと。これならまあ分からないでもない。
 でも、実際は「配当所得」にパーセントをかけるだけなので、別に有利ってほどでも。

 それとも、法人税率より所得税の限界税率が高い人でも控除受けられる一方で、逆に低い人が還付してもらえないのはずるい、ということですかね。
 おそらく、法人と個人の所得と通算してみたときに、同じ控除率のままだと限界税率が高い人が減らしすぎになってしまう、ということだと思いますが、この一文からそこまで読み取るの無理でしょう。

 この具体例も書いてみます。

・法人所得 1000万円 法人税率30%(単純税率とします)
・税引後利益を全額配当したとする。
・配当除く課税総所得(所得控除は無視)
 C 4000万円
 D    0円

法人
 法人所得  10,000,000円
 法人税    3,000,000円(30%)
 税引後利益 7,000,000円

ここまではCDとも共通です。

C
 配当所得  7,000,000円
  他所得 40,000,000円
 課税所得 47,000,000円
  所得税 16,354,000円(限界税率45%)
 配当控除   700,000円(700万円×10%)
 差引税額 15,654,000円

 合算税額 18,654,000円(3,000,000円+15,654,000円)

 合算所得 50,000,000円(10,000,000円+40,000,000円)
 理論税額 17,704,000円(限界税率45%)
  過納付   950,000円

D
 配当所得  7,000,000円
  他所得      0円
 課税所得  7,000,000円
  所得税   974,000円(限界税率23%)
 配当控除   700,000円(700万円×10%)
 差引税額   274,000円

 合算税額  3,274,000円(3,000,000円+274,000円)

 合算所得 10,000,000円(10,000,000円+0円)
 理論税額  1,764,000円(限界税率33%)
  過納付  1,510,000円

 と、あるべき税額(理論税額)と比べたときに、Dのほうが納めすぎになっているということですね。Cも過納付ではあるんですが、Dは理論税額との比率がすごいことに(85.6%増)。

 ので、控除率を5%にすることで(控除額▲35万円)、Cの過納付が130万円になって多少は緩和されると(が、この例だと大したことない)。

 ここの例では法人税の税率を単純化してしまいましたが、実際には資本金とか所得で法人税率も変わってくるので、さらにややこしいことになるはずです。
 また、法人と個人の所得を通算する、といっても、法人が上場会社なのか同族会社なのかでも、利益状況が違うように思いますし。

 今回はブログネタ用に、長々と具体例を展開してみましたが、実際にはすべての文章について、逐一ここまで考えているわけではないです。
 基本的には「たぶんこういうことね。」くらいの理解で読みすすめていきます(すぐ上の「ややこしいことになるはず」と書いたのがそういうノリ)。

 が、自分の理解があっているかどうかあやふやな場合には、こうやって具体例書いて確認してみるわけです。
 実際、私が最初に頭に思い浮かんだABの例は正しくなかったですし。

 にしても、ここまでの具体例を思い浮かべなければこの文章を理解できないわけで、初学者がこれを教科書として使うの、なかなかハード。


 消費税の章(209頁〜)。

「コンビニ」(209頁)
「レストラン」(209頁)
ケーキ屋さん」(221頁)
「牛乳販売業者」(225頁)
「美容院」(242頁)

 明らかに「ケーキ屋さん」だけに思い入れが出ちゃっている。
 せめて、「牛乳販売業者」は「牛乳屋さん」でしょう。しかし「牛乳販売業者」て・・。



カメントツ こぐまのケーキ屋さん(小学館2018)
カメントツ こぐまのケーキ屋さん そのに (小学館2018)
カメントツ こぐまのケーキ屋さん そのさん(小学館2018)
カメントツ こぐまのケーキ屋さん そのよん(小学館2019)

 確かにこの子見たら、「おい、ケーキ販売業者!」と言えないのは理解できますが。


 この本、最初に書いたとおり、基本的に行間読み込み系の簡潔な記述なんですが、国際絡みの消費税の箇所だけが、異様に詳しめ(消費税の章50頁のうち20頁がそれ)。

 単なる制度の記述ではなく、なぜそういうルールになっているのか、相当丁寧説明してくれています。
 他の箇所からは、思いっきり浮いていますが。

 この箇所読んで、川口恭弘先生の金融商品取引法の入門書と同じノリだな、と感じました。

川口恭弘『金融商品取引法への誘い』(有斐閣2018)

 ので、論点絞って、これと同じノリで論点本みたいのを書いてくれれば、ぜひ読みたいところ。


 「内外判定基準の役割」という表をまるまる1ページつかって載せているんですが(249頁)、この表の意味がいまいちよくわかりません。

 たとえば、「資産の譲渡等(2条1項8号)」とか「電気通信利用役務の提供(同項8号の3)」は判定の要否が『否』となっていて、他方で、「課税の対象(4条1項)」とか「納税義務(5条1項)」は『要』となっています。

 でも「電気通信利用役務の提供」だったら、役務の提供を受ける者の事業所の所在地で内外判定、てやるわけですけど、この表では『否』って書いてあるわけです。

 これはどういうことかと。

 もしかすると、それぞれ用語の定義の中に「国内において」が含まれている(built-in)かどうか、という趣旨なのかもしれません。
 が、用語ごとに分断して判定の要否並べておくって、どういう場面で必要になるんでしょうか。私にはわかりませんでした。

 何かしら、私の不勉強なんでしょう。
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2019年03月18日

金子宏『租税法 第23版』(弘文堂2019)



金子宏 「租税法 第23版」(弘文堂2019)


 「○○と解すべきである(反対、判例)」と書けるのは金子先生だけ、でおなじみの。

 この名著、もうとっくに記事にしているかと思ったら、書いてなかったので記事化。


 この本、明確に使いみちが決まっていて。
 改訂されるたびに必ず買っています。

 去年は改訂がなかったので、第23版では、2017年度、2018年度、2019年度(要綱)の税制改正が反映されています。
 でも、改正の内容それ自体を理解するには、それ専用の改正本を読んだほうが早い。

 税務の本て、「○年度版」とかいって毎年改訂されてて、当然最新版を手元においておくべきなんですが、同じ本を買う必要はあまりなくって。
 ので、同じジャンルで別の人の最新版を買うとかしています。


 この本はそういう使い方ではなく。
 
 毎回頭から通読することで、

・以前の改訂から後に得た個別の知識を、体系的に整理する。
・税制改正が体系のどこに関わるものなのかを確認する。
・どのあたりに最新判例がでているかを把握する。

といったあたり。

 これ読み終わると、バトルものの映画を見終わった後に自分も強くなった気になる、みたいな、謎の税務万能感を得られます(気のせい)。
 が、その後難問に出くわすたびに削られて、等身大に戻る(でもちょっとは成長しているはず)。

 ちなみに、自分の理解ぐあいの「マイルストーン」として使う、という意味では、団藤重光先生の『法学の基礎』と同じ位置づけ。



団藤重光 「法学の基礎 第2版」(有斐閣2007)

団藤重光『法学の基礎』(有斐閣2007)


 決して初学者が手を出してはいけない。
 たぶんですけど、税法に苦手意識をもってしまうはず。

 素直に、以下の記事で紹介したような入門書・教科書でしっかり実力をつけてから、挑むべきものだと思います。

中里実ほか『租税法概説 第3版』(有斐閣2018)
税法思考が身につく、理想の教科書を求めて 〜終わりなき旅

 私は、実務を経験しているおかげで、抽象的な記述も具体例を思い浮かべながら理解できるようにはなっています。
 が、研究者の人とか、いきなり大学で座学やって難しい論文書いたりできるの、どれだけ頭いいんだろうか、と思ったり。


 ちなみに、税理士でも改訂されたら必ず買うべき学者本としては、この他に江頭憲治郎先生の『株式会社法』と菅野和夫先生の『労働法』があります。
 


江頭憲治郎 「株式会社法 第7版」(有斐閣2017)



菅野和夫 「労働法 第12版」(弘文堂2019)
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