2023年07月10日

安部 慶彦「詳解 合同会社の法務と税務」(中央経済社2023)

 「合同会社」って、一方では設立費用をお安く上げるためだけに利用されていたり。他方では複雑怪奇なスキームの中に組み込まれて利用されていたり。ニーズが極端に分かれている。

 前者については、運用段階では合同会社特有の論点というのはほとんど無く。後者も合同会社単体の論点というよりはあれやこれやの組織体の組み合わせによって生じる論点が中心だったり。

 という状況の中で、その中間あたりで、正面から合同会社を活用してみようという人間が読める本というのがほとんど見受けられない、というのが現状でした。


 そんな中で本書は、正面から合同会社を使えるようにするための知識・知恵が盛り込まれている、今までにあまりなかったタイプの本だと思います。

 安部 慶彦「詳解 合同会社の法務と税務」(中央経済社2023)

 この手の本は、「条文引き写し系」のつまんない本になりがちなところ。特に、単著で法務と税務が両方カバーされている場合、どちらかがおろそかになりがち。

 に対して本書は、一読しただけでも確かな実務経験に基づいた地に足のついた記述であることが理解できると思います。


 合同会社を理解するにあたって、どうしても我々は「株式会社」とのアナロジーで理解しようとしがちです。

 僕たち私たちの前田会社法入門なんて、本文860頁中、合同会社の項目は5頁だけ。

 前田庸「会社法入門 第13版」(有斐閣2018)

 供え本(備え本)たる江頭株式会社法の場合は、タイトルどおりはじめから省略されています。

 江頭憲治郎「株式会社法 第8版」(有斐閣2021)

 しっかり「会社法」を勉強したつもりでも、その知識はやたらと「株式会社」に偏っているはずです。
 そこを本書では、逐一株式会社との対比で合同会社について説明をしてくれているので、偏った脳に自然な形でインストールができるようになっています。大変な親切設計。


 税理士的には、「計算」のところを数字をあてはめながら説明してくれているところが、特によかったです。
 類書だと、おなじみの掛け算・割り算の数式だけ貼り付けて終わってしまうところ。数式の意味するところを具体的なイメージをもって理解することができます。

【数式vs息吹】
三木義一「よくわかる税法入門 第17版」(有斐閣2023)


 ただ、本書でかなり論点に深入りしてくれているおかげで、見えてきたところなんですが。

 未だに見解の定まらない論点というものがいくつかあり。実務で出くわしたらなかなか怖いなあと。
 フルスロットルで合同会社を全面活用する場合の落とし穴となりうるような。

 なるべくそのあたりに触れないようなかたちで運用していくのが、日常系税務の実務家としての、オススメの遣り口。
posted by ウロ at 11:28| Comment(0) | 会社法・商法

2020年12月28日

大塚英明ほか「商法総則・商行為法 第3版」(有斐閣2019)

※以下は「第3版」の書評です。

 商法総則・商行為法において、本格的な理論書とよべるもの、このところ殆ど見かけないです。

大塚英明ほか 商法総則・商行為法 第4版(有斐閣2023)

 たとえば「匿名組合」などを思い浮かべてもらえればいいと思いますが、実務でフル活用されている制度があるわけです。
 なので「実務本」はあれこれ出回っているものの、「理論的基礎」をしっかり固められる理論書というのが直近で見当たらない。

 もちろん個別論文レベルでは出ているのでしょうが、それら実務おもねり系ではなく、学術的に一つの体系としてまとめ上げられたものがないということ。

 私が直近で読んだのは、商法総論・総則に関する関俊彦先生のものが最後。

関俊彦「商法総論総則」(有斐閣2006)

 なお、江頭憲治郎先生の「商取引法」は別格。
 言わずもがなのお供え本。

 江頭憲治郎「商取引法 第9版」(弘文堂2022)

供え本(法学体系書編)


 条文・判例なぞり系の「概説書」ばかりが出版されていて。

 本書も共著の教科書なので、類書同様なぞり系かと思いつつ、目を通してみたところ。

 大塚英明先生の執筆箇所だけが、やたらと論述が深くて視野が広い。

【大塚先生執筆箇所】
 第1編 商法をかたちづくる概念 general remarks
 第1章 商人、商行為そして企業
 第5章 商業登記
 第9章 商業登記と外観主義
 第5編 商法が掲げる伝統的営業 general remarks
 第6編 企業活動への資金提供−投資

 たとえば商業登記の積極的効力に関する悪意擬制説と異次元説の対立について、(「第三者おじさん」の変なイラストを挟みつつ)それぞれの論理展開を非常に丁寧に解説されています。
 論理飛躍することなく、ひとつひとつ順を追った説明になっている。

 ここの論述は、当該論点にかぎらず、条文からスタートして判例や学説の論理構造を内在的に理解・分析する方法として、とても参考になると思います。


 他方で、他の執筆者の執筆箇所は、まあ類書よりは多少わかりやすいかな、くらいの印象で、基本はなぞり系。

 この記述のノリの不揃い感の発生原因を邪推するに、大塚先生が自分が書きたい箇所だけを文字数気にせず書いて、他の執筆者は余った紙幅で残りの項目を書かざるをえなくなった、と考えると、そうなるのかなあと。
 あ、あくまで邪推です。
 

 ところで、本書の記述で気になるところが。

 商事売買における売主の自助売却権(商法524条)に関する記述。

本書 P.221
「もっとも、商法の自助売却権も、その行使の前提として、売主は履行の提供をして相手を遅滞に付する必要があるし、競売によることが要求されるため任意処分ができず、競売前に催告を要し、競売の代金も弁済期の到来した売買代金にしか充当することができないなどの点で、売主の立場からは機動性を欠いている。そこで、当事者間の特約として、売主による催告を不要とするとか、代金の弁済期が未到来でも買主の期限の利益を喪失させて代金の支払に充当することを可能とするなどの定めが置かれることがある。」

 この記述自体がおかしいというのではなく、この文章どこかで読んだことがあるなあ、と思って。

江頭前掲書 P.27(頁数は第8版のもの)
「しかし、商法524条の自助売却権も、その行使の前提として、売主は常に履行の提供をして相手方を遅滞に付す必要があるばかりでなく、競売によることが要求されるため任意処分ができず、しかも競売前に催告を要し、また、競売の代価も弁済期の到来した売買代金にしか充当できない(買主が当然に期限の利益を喪失するわけのものではない)等の点において、売主の立場からすれば機動性を欠いている。そこで、当事者間の特約として、売主による催告を不要とする、競売によらず任意処分の方法によることを可能とする、代金の弁済期が未到来でも買主の期限の利益を喪失させて代金支払に充当することを可能とする等の定めがなされることがある。」

 こちら、江頭先生の『商取引法』の記述。
 ものすごく似ていますよね。ベタ打ちしたらIMEが学習してくれて、後の記述が楽に入力できたくらい。

 もちろん、条文引き写し系の記述ならば必然的に似ざるをえないでしょう。
 が、この記述は、条文をなぞったその先の任意の特約に関するものです。
 それがここまで似ますかね、という話。

第五百二十四条(売主による目的物の供託及び競売)
1 商人間の売買において、買主がその目的物の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、売主は、その物を供託し、又は相当の期間を定めて催告をした後に競売に付することができる。この場合において、売主がその物を供託し、又は競売に付したときは、遅滞なく、買主に対してその旨の通知を発しなければならない。
2 損傷その他の事由による価格の低落のおそれがある物は、前項の催告をしないで競売に付することができる。
3 前二項の規定により売買の目的物を競売に付したときは、売主は、その代価を供託しなければならない。ただし、その代価の全部又は一部を代金に充当することを妨げない。


 どちらが先かは版を遡らなければならないでしょうし(初版自体は江頭先生のほうがはるか前)、実はオリジナルが両書とは別にあるのかもしれません。この2書だけしか確認していないので、他書も同じような記述になっているのかもしれませんし。
 が、論述の運びがそっくりでちょっとした表現だけイジっているのが、どうもね。

 たまたまこの箇所に気づいたというだけで網羅的にチェックしたわけではないので、他の箇所がどうかは未確認。
 どこかの大学内でしか出回らない講義レジュメ、ではない一般書籍同士ですので、何らかの申し合わせはあるのかもしれませんけども。
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2020年07月06日

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 会社法どこから入るか問題、私の中ではいまだに定説がありません。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)

 一応、おすすめ教科書の記事を書いたこともありますが、これは、税理士のように実務経験が一定程度ある前提で書いています。

高橋美加ほか「会社法(第2版)」 (弘文堂2018) 〜付・税理士と会社法の教科書

 完全なるガチの初学者にとっての正解、というのはあるんだろうかと。


 本書はガチの初学者にすすめるには、あまりにも分量がありすぎ(752頁)。
 ではあるんですが、一通り読んでみて、確かに会社法を理解するには、会社法それ自体のみならず周辺の法領域や金融絡みの知識が必要だよなあと実感。

 変に遠回りするよりも、この本を読み通したほうが、その後の会社法学習が捗りそう。
 企業の発展に即した設例が随所に織り込まれていたりして、かなりイメージがしやすいですし。


 タイトルに「金融から学ぶ」とあって、確かにファイナンス方面の記述も豊富。
 学生さんにはイメージしにくい資金調達のところとか、会社法に書かれた制度を並べただけの記述とはひと味(以上)違うので、だいぶ理解しやすいのではないかと。

 それにとどまらず、会社法以外の関連法領域やら経営絡みの記述やらも盛り込まれています。
 通常「○○から学ぶ」といったタイトルをつけるのって、広大な会社法をそのまま学ぶのではなく、視線を限定することで効率よく勉強するためだと思うんです。
 が、逆に「金融」以外にまで広げちゃっている。

 「いい意味で」看板に偽りあり。いい意味で(念のためリフレイン)。
 どうしてもタイトルに「金融」を入れたいというなら、「金融から(も)学ぶ」といったほうが、実際の中身に即している気がしますけども。

 普通の教科書的な、論点に関する学説の対立みたいなものは少なめなので、一応削れるところは削ってはいます。
 に、してもボリューミー。
 が、実際に会社法を理解しようと思ったら、これだけの周辺知識もいるってことですからね。


 図やら表も豊富です。仕訳で説明している箇所もあったり。

 親切設計ではありますが、制度を整理した表については、ちゃんと自分で条文引きながらその表の内容を理解すべきでしょうね。


 いくつか「税制」についても触れられている箇所がありますが、やや気になる記述が。

147頁 役員報酬の税法上の取扱い
 役員報酬は、会社法上は職務執行の対価として会社にとって費用となる。会計上も基本的には同じである。しかし、税法上は設問のような濫用を避けるために、取締役報酬は剰余金配当と同様、原則として損金算入が認められない。ただし、あらかじめ税務署に届け出て一定額あるいは当期利益をもとに一定の算式に従って客観的に計算される金額を支払う場合は従業員の給与と同じように損金に算入することができる。


 会社法、会計、税法と、ちゃんと区別して書かれているのはいいですよね。
 が、「剰余金配当と同様」という説明の仕方に「う〜ん」となる。

 結論としてはどちらも損金不算入なのはそのとおりです。
 が、そうなるルートが違う。

法人税法第二十二条
1 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。

法人税法第三十四条(役員給与の損金不算入)
1 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第三項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。


 役員報酬が損金不算入となるのは、法人税法22条3項2号に入りそうなところ、同項柱書の「別段の定め」からの同法34条1項ルートによるもの。
 他方で、剰余金配当が損金不算入となるのは、同法22条3項3号で「資本等取引」が除外されていることによるものです。

 にもかかわらず、単純に「同様」と並べられてしまうのは、どうにも違和感あり。

 この違和感、おそらくですけど、単なる条文の書き分けだけからではなく、そこに、かつての「利益処分」概念を彷彿とさせるからかもしれません。
 役員賞与も利益配当も、課税済所得からの支出だから損金にならない、とかいう。

 今となっては役員報酬と剰余金配当は全く別の概念なんだから、安易に並べないほうがよいのではないかと。
 あえて損金不算入でグループ化するならば、交際費とか寄付金とかのグループだと思う。

 また、「ただし」以下では、例外として損金算入できる役員報酬のことが書かれています。

 このうち「一定額」のほうは「事前確定届出給与」ことだと分かります。
 が、「当期利益〜」のほうは「業績連動給与」のことなんでしょうか。
 「税務署に届け出て」が掛かっちゃっているようにも読めるのですが。

 そもそも、肝心の「定期同額給与」のことが書かれていないのはなぜなのか。
 賞与的なものを念頭においた記述なのかなあとも思ったのですが、「従業員の給与」と書かれているので、そういうつもりでもなさそうですし。

【定期同額給与とは】
「定期同額給与」のパンドラ(やめときゃよかった)


 こういう気になる記述があるものの、ここまで多方面に豊富な内容を盛り込んだ類書はないんじゃないですかね。

 ので、頑張って本書を一通り読んで全般的な知識を身に着けてから、それぞれの分野を深堀りしていくのがよさそう。

 そういう意味では、文字通りの「金融(だけ)から学ぶ会社法」とか「税法(だけ)から学ぶ会社法」のように、本当に視線を限定した書籍の出版が望まれる。

 たとえばこの本が「税法から学ぶ会社法」に相当しますかね。

東京弁護士会 「新訂第七版 法律家のための税法[会社法編]」 (第一法規2017)


 大垣先生の教科書、以下のものもありますが、特に民法のほうは2017年改正が反映されていないので、素直に改訂をまったほうがいいかもしれません。

 そういう意味では会社法のほうも改正前ではありますが、非公開会社(≒同族会社)にとっては大勢に影響はないかなあと。 



大垣尚司「金融から学ぶ民事法入門 第2版」(勁草書房2013)
大垣尚司「金融と法 企業ファイナンス入門」(有斐閣2010)
大垣尚司「金融と法II デリバティブ・金融工学」(勁草書房2022)
posted by ウロ at 11:24| Comment(0) | 会社法・商法

2019年07月01日

高橋美加ほか「会社法(第3版)」 (弘文堂2020) 〜付・税理士と会社法の教科書

※以下は「第2版(2018)」時点での記事です。

高橋美加ほか「会社法(第3版)」 (弘文堂2020) 

 実務家にとって、ボリュームたっぷりの教科書を頭から読む、というのはなかなか大変ですが、やっと読み通せました。

 このブログでは、商法総則・商行為法、手形法の記事は書いてありましたが、会社法の教科書は正面から扱っていませんでした。

会社法・商法

 ということで、この本の感想の前に、税理士が会社法の教科書とどうやってお付き合いするか、という観点から書いてみます。

 「税理士が」なのは、もちろん私が税理士だからではありますが、射程としては「法曹以外」と捉えてもいいと思います。


 会社法に限らず、実定法の学者の書く教科書って、

  ・条文に書いてある制度の解説
  ・裁判で問題となった論点に対する判例、学説

で構成されているのがほどんどです。

 ・制度解説でも、単なる「条文引き写し」から「制度趣旨」をしっかり書いたものまで、
 ・判例解説でも、学説からみた判例理解から判例を内在的に理解したものまで、

幅はありますが、基本線は上記のとおりだと思います。


 わがブログタイトルとの対比でいうと『訴訟系法務』とでも称せる内容。

  日常系 ⇔ 訴訟系
   税務 ⇔ 法務

 裁判で問題になるような論点がメインで、日常的にどう使うか、という視点は薄め。

 もちろん「将来紛争になったらどうなるか」ということを見据えて、という視点は、それはそれで大事。
 なんですが、法律を使う場面て、必ずしもそれだけではない。

 判例のない領域だったり、あるいは、そもそも判例になりえない領域について、この制度どうやって使うの、ということが、日常の業務ではあれこれ出てくるわけです。


 また「紛争」といっても、民法だったり会社法の教科書で扱われている紛争は、基本的に

 「私人×私人」

の紛争がほとんど。
 「納税者×税務署」で起こりうる紛争については、触れられていない。

 もちろん「対税務署」なんていうのは、直接的には税法上の紛争ではあって、私法上の紛争ではありません。
 が、その前提として、その行為が私法上どう扱われているか、というのが、当然問題になりうるわけです。

 ここでは、単に税法だけ知っていればいいのではなく、会社法についても精通している必要があるわけです。
 で、こういった形の紛争というのは、必ずしも判例として現れているわけではない。

 ここで、あえて「対税務署」と書いたのは、国が相手となる「訴訟」レベルの話でなく、訴訟になるほどでもない「税務調査」レベルで使えるかどうか、という意味合いからです。



 学生にとって会社法の学習が難しいのは、会社を経営したこともなければ、株式取引をしたこともない、のでイメージがしにくい、という問題があるからだと思います。

(このこととの対比でいうと、「刑法学」が、刑法典に規定されている「自然犯」メインで議論されているのは、学生がイメージしやすい、という意味では望ましい。
 はずなのに、刑法学を難しいと感じてしまうのは、扱っている事柄のほうでなく「理論」がややこしいから、ではないかと。
 おそらく、細々とした構成要件を扱う「特別刑法」までやるようになったら、細かい理論詰めてる暇ない、てなる気がします。)

 他方で、税理士なり実務経験のある人にとっては、そういうハードルは低め。

 もちろん、私のようにお客さんに上場企業がいない場合は、上半分は想像の世界。
 
  ・上場会社法
  ・中小会社法

と区分して構想されることもあるとおり、別々に論じたほうが本当は理解しやすいはず。

 のに、同じ「会社法典」の中に入っているせいで、並列的に論じられてしまっているのがほとんど。

 たとえば、「持分会社」が会社法の中で別立てになっているように、大会社と中小会社も別立てにしたほうがわかりやすいんじゃないかなあと。

 適用される制度が異なるだけでなく、そこで衡量される事情も、大会社と中小会社では違うわけで。
 裁判例の読み方も、どちらの会社の紛争かで違ってくるはずですし。

 法制上、条数節約したい、とか、大会社⇔中小会社のシームレス感を出したい、ということで一緒くたに規定するにしても、教科書までそれに倣わなくてもいいんじゃないかなあと。
 まあ、こちらはこちらで紙数制限、という問題があるのかもしれませんけども。


 会社法の教科書の理解しにくさ、という点でいうと、実体法と手続法が地続きで入り乱れている、という点もあるかもしれません。
 当然、実体法と手続法では、考慮(衡量)される事情が違うわけで。

 この区別を意識的にしてくれている教科書って、あまり見ない。


 と、長い前置きはこの程度にして、この本自体について。

 「教科書」の場合、前から読んでいってすんなり理解できるか、ということで論じる順番が大事だったりします。

 この本の構成は次の通り。

【主要目次】
 第1章 総 論
 第2章 株 式
 第3章 機 関
 第4章 資金調達
 第5章 計 算
 第6章 設 立
 第7章 定款変更
 第8章 企業買収・再編
 第9章 親子会社
 第10章 種類株式
 第11章 解散と清算
 第12章 持分会社

 何も考えないと、条文構成どおりに並べてしまいがちなところ。

 なんですが、この本では、条文構成と違って、設立が後ろのほうだったり、資金調達や種類株式、親子会社を別立てしているので、頭から順番に読むのに最適だと思います。

 しかしまあ、「定款変更」てのはどこにも行き場所がないんですかね。
 条文上は1章1条きりだし、どの本見ても、だいたい所在なさげなので。


 「条文ガイド」というのがあって、因数分解的な特殊な会社法条文について、読み解き方を書いてくれているのが親切。

 会社法の立法理由、「国民にわかりやすくするため」みたいなこと謳ってたくせに、出来上がった条文は、頭のいい人向けの込み入った構成になってしまいました。

 ので、こういう解説があると、自分で条文読み下すための取っ掛かりになりますよね。

 このノリで、全条文を分析した一冊本があってもいいと思う。


 具体例が豊富なので、イメージがしやすい。特に数字での説明が多めなのがいいですね。

 なぜそうなっているのか、といった制度趣旨がしっかり書かれてて。
 制度趣旨にそぐわない部分は、「立法論的には」と断った上でちゃんと批判しているし。

 機関構成のところとか、制度趣旨だけでなく、商法時代からの歴史的な沿革も触れられていて、経時的にも理解できます。


 税理士的には、「計算」の章がいかに分かりやすく書かれているかが、関心事になります。

【会計トライアングル】
 ・企業会計
 ・会社法会計
 ・税務会計

 「トライアングル」といえるほど、綺麗な音色を出せるような三角かは極めて疑問ですが、3つの会計があることについて、そう言い習わされています。

 で、「会社法会計」について、実務本だけでは理解できない、法的な観点から勉強するには、こういった会社法学者による本を読む必要があります。

 たとえばですけど、『無償減資で均等割下げよう!』みたいなやつ、あれは、「会社法○条による云々」という感じで、会社法上のルールにのっかってちゃんとやってるか、で判断されるので、会社法上の制度を勉強する必要があるわけです。

 「計算」のところ、ありがちな教科書だと、条文引き写しで終わっていたり、ただ貸借対照表を貼り付けただけだったり、力を入れてない感がダダ漏れだったりします。
 でも、「計算」の章こそ、具体的な数字で説明しないとだめな箇所なはず。

 で、この本がどうかですが、図やら表やら数字やらでかなり具体的に書かれているので、他書と比べたらかなり理解しやすくなっていると思いました。

 とはいえ、簿記の知識があったほうが、より理解は深まるでしょうが。


 第8章 企業買収・再編

 この章、合併、分割、株式交換・移転といった制度を横断的に論じています。

 一通り勉強した人からすると、こういう整理をしてくれると、自分の知識を整理し直すのにちょうどいい感じです。

 ですが、初めて勉強する人からすれば、合併なら合併と、縦割りで記述したほうが理解しやすそうですが、どうなんでしょうかね。
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2019年03月04日

小塚荘一郎,森田果「支払決済法 第3版」(商事法務2018)

小塚荘一郎,森田果「支払決済法 第3版」(商事法務2018)

 法学書の中では類書のあまり無い、かなりユニークな本。

 手形や小切手に関わったことなくても、クレジットカードや電子マネーなんかは使ったことあるはずなので、それらがどういう法の仕組みなのか、知っておくといいと思いますよ。

 本書で扱っているのが、次のような制度。

  ・電子マネー
  ・仮想通貨
  ・銀行振込
  ・デビットカード
  ・収納代行
  ・小切手
  ・為替手形
  ・約束手形
  ・電子記録債権
  ・クレジットカード

 身近なものからそうでないものへ
 決済機能のみのものから信用機能が備わったものへ

という流れなので、無理なく前から順番に読んでいけます(親切設計)。


 で、何が「ユニーク」かというと、支払決済に関する法制度を横断的に扱っている、という「記述対象」の点ではなく。

 法制度や判例に対する記述が、徹底して「機能的」な側面からの説明になっているところ。
 それら結論が、どのようなリスク分配が望ましいと判断した結果か、という説明なので、とても理解しやすい。
 どういう価値基準に基づいているか分からない、融通無碍な「利益衡量論」とは違って、結論に至る判断過程が明確なわけです。

(ジャンルは違いますが、田村善之先生の「インセンティブ論」が同様の説明の仕方なので、こちらも同じように理解しやすいです。)

田村善之「知的財産法 第5版」(有斐閣2010)


 また、この手の、新しめの法制度を扱った概説書だと、どうしても「条文引き写し」になりがちなところ、そうではなく、十分噛み砕いた記述になっています。
 微に入り細に入りな感じの今どきな条文を、そのまま貼り付ける系の記述にはなっていないので、読みやすい(ただし、「電子記録債権」の章が、他の章に比べてどうも条文引き写し感強めな気が)。

 「正確には逐条解説ものでどうぞ」という、理解しやすさ優先の割り切りがいいですね。

【新しめの法律が条文引き写しな】
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)


 と、全力で褒めておいて。

 機能的な観点からの説明といった点では一貫しているのですが、そこに統一的な理論体系があるわけではないです。
 というか、むしろ「そんなものいらねえ」というのがこの本のバックボーンにある考えだと思います。

 が、かつて前田理論に魅せられながら判例通説に日和った身からすると、未だに、こういった制度に共通する基礎理論・体系のようなものがないのだろうか、という夢を夢想する。

 あえての「馬から落馬する」系の文法。それだけの「儚い夢」という自覚。

【統一理論体系への憧憬】
前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣1983)

 もちろん、ガチムチの理論体系というよりは、「ムーバブルフレーム(Movable Frame)(wiki)」のようなイメージですよ(伝わらない)。


 ちなみに、「クレジットカード」のところ読んでてふと思ったのが、刑法各論の教科書の「詐欺罪」のところに出てくる「クレジットカード詐欺」の論点。

 その論点であげられている事例が、この本でいう「基本形」(カード会社・加盟店・カード保有者の三角関係)だけな気がします。
 アクワイアラ・イシュア・決済代行業者などがでてくるパターンの事例を、刑法の教科書で見かけた記憶がない(あくまで私の観測範囲)。
タグ:支払決済法
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2018年11月14日

関俊彦「商法総論総則」(有斐閣2006)

 井田良先生の本を紹介する中で、ちらっと「総論各論」問題に触れました。

井田良「講義刑法学・各論 第2版」(有斐閣2020)
井田良「講義刑法学・総論 第2版」(有斐閣2018)

 個人的に、各論で学んだ個別の議論が、総論でひとつに集約していく感じが好きだったりします。

 が、刑法総論と刑法各論との関係では、あまりそういうカタルシスを感じることがないです。

 というのも、「刑法各論」で議論されていることは、個別の犯罪類型ごとの論点がメインだし。
 他方で、「刑法総論」で議論されていることは、総論といいながら、それぞれの論点は特定の犯罪類型を念頭において議論されることがメインだし。各論の延長線て感じがして、各論からの集約感があまりないんですよね(私の読み込み不足なんでしょうが)。

 ので、刑法総論の総論(『刑法総論総論』)の誕生が、強く望まれる。


 「ザ・総論」とよべる本、私の中ではたとえば次のような本です。

大村敦志「民法総論」(岩波書店2001)
広中俊雄「新版民法綱要 第1巻 総論」(創文社2006)

 そして、今回紹介する関俊彦先生の本も「ザ・総論」な本です。

関俊彦「商法総論総則」(有斐閣2006)

(なお、志波海燕殿、シャア・アズナブル(キャスバルじゃないほう)、イルカ先生などのあの方とは違います。個人的には、星方武侠アウトロースターのフレッド・ロー推し。)

 この本は、商法分野で「総論」を正面から論じている本。
 類書だと、「商法総則」の最初のほうで、数ページ程度記述されて終わってしまうところ。

 たとえばこの本だと15頁。

【書評】近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)

 それを100頁ほど使って本格的に論じています。

 カバーする範囲としては、商法・会社法や手形法・小切手法にかぎらず、消費者法や経済法、労働法などの分野も鳥瞰されていて、かなり広い。


 このように「総論」が大きな視点で書かれている一方で、「総則」のほうは極めて丁寧な解釈が展開されています。
 特に、法源である慣習をめぐる、通則法3条(法例2条)、民法92条(+91条)、商法1条に関する解釈論は必読かと。

 残念なのが、「商行為法」がないこと。
 平成29年の民法改正についても取り込んだ上で加筆していただくことを熱望。

 関先生自身の「各論」としては、次の本。

関俊彦「金融手形小切手法 新版」(商事法務2003)
関俊彦「新訂版 会社法概論」(商事法務2009)

 私が「読み物」としてお勧めしている前田庸先生の手形法の本なんて、ボロクソに批判されていたりして、それはそれで読み応えがあります。

前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣1983)
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2018年10月22日

近藤光男「商法総則・商行為法 第9版」(有斐閣2023)

 ※以下の記事は「第7版」に対する評価でしたが、その後平成30年商法改正を織り込んだ「第8版」が出版されました。
 ので、下記の「時空間歪み問題」は解消されたわけで、この本単体としてはおすすめできるようになりました。
 が、数ヶ月しか通用しない本を出版しておきながら、フォローもなしに新版出すとか悲しみが半端ないので、内容修正せずに残しておきます。他の本でも同じことが起こりうるので、注意喚起として。

 いやあ、読み物の恨みは怖いですね。

近藤光男「商法総則・商行為法 第9版」(有斐閣2023)

 昨今の教育的配慮を尽くした、みたいながちゃがちゃした教科書とは違って、極めてオーソドックスな記述なので、とても落ち着いて読めます。
 
 判例の引用も、長々と判決文をコピペしたりせず、ポイントを絞った説明にとどめているのがいいですね。

 特商法とか割販法の解説は条文引き写し感がきついんですが、法律の性質上、まあしょうがない。

【条文を見比べてみたまえ】
 商法
 特定商取引に関する法律
 割賦販売法

 話は脱線しますが、教科書に判決文の一部を切り取って長々引用するのって、あまり意味がないと思っています。
 というのも、判例をちゃんと理解しようと思ったら、当事者の主張や事実認定含む下級審の判決から読んでいかないとだめなわけで、最高裁判決の規範部分だけを長々と引用したところで、あんまり意味がないと思うんですよね。
 最近は判例集も充実しているんだから、教科書上はポイントだけ書いて、あとは判例集みてね、でいいんじゃないですかね(もっと言えば、裁判所によるフィルターのかかっていない、生の事件記録そのものを見るべき、なんでしょうけど)。


 話は戻って。

 がしかし、この本を手放しでオススメできない理由が。

 この本、2018年3月に出版されてて、まあ、2018年度の授業に間に合わせようとしたんでしょう。

 で、2017年の民法改正を反映したとあるんですが、改正法に関する記述のスタンスが潮見佳男先生の「民法(全)」と同じ方針で、改正後の内容に沿った記述になっています。
 改正前はどうだったか、ということが(ほぼ)書かれていない。

 潮見佳男「民法(全)第3版』(有斐閣2022)

 私の見落としがなければですが、民法改正にあわせて廃止された「商事法定利率」(商法514条)とか「商事消滅時効」(商法522条)の記述がごっそり無くなっています。
 廃止されました、みたいな記述もなく。サイレント・デリート。


 改正民法の施行日(2020年4月1日)までまだ2年もあるのにちょっと気が早くない?、というのもあるんですが、「商行為法」の場合は本家民法よりももっと問題が深刻です。

 というのも、商法の運送・海商関係の規定が2018年5月に改正され、1年以内に施行されることが決まりました(2019年4月1日施行)。

 商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について


 成立自体はこの本の出版後ではありますが、法制審議会は2014年4月からスタートしてて、2016年1月には要綱案が提出されていました。

 法制審議会 - 商法(運送・海商関係)部会

 なので、こういう改正が検討されているよ、といったことは盛り込めるはずなんですが、そういった記述すら一切ありません。

 確かに、

  ・成立した法律はすでに施行されたものとして記述する。
  ・成立前の法律は改正案すら一切記述しない。

という意味では一貫した方針かもしれません。

 が、その方針のせいでありえない新世界が誕生する結果になっています。


 この本の法律世界の時間軸がどうなっているかというと、

  ・改正民法はすでに施行されている。
  ・改正商法はまだ存在すらしてない。

というものです。

 が、改正民法は2020年4月にならなければ施行されないのに、改正商法は2019年4月には施行されています。
 だから、改正民法が施行されているのに、改正商法が施行されていない世界は、民法と商法で時間の進み方が違うという新世界の常識を導入しないかぎり、存在不可能です。

 《2020年4月より後で2019年4月より前の世界???》
 ←この文章読むと頭がグルっとして酔いそうになるのですが、言葉の力ってすごいですね

 もしかしたら、改正民法本体と改正商法の経過措置の美しいハーモニーの結果、改正民法+旧商法のカップリングも、儚いひと夏の思い出のごとくありうるのかもしれません(ただし、少なくとも私にはそんな甘酸っぱい思い出は皆無)。

 2018.3時点 旧民法+旧商法
 2019.4〜  旧民法+新商法
 2020.4〜  新民法+新商法
 儚い夢?  新民法+旧商法(経過措置の魔法?)

 が、この本では、改正民法については経過措置を無視して改正後の世界だけを記述しているわけで、改正商法の経過措置だけを利用するなんて、ひと夏で終わらせようとするなんて、そんな都合よい話でいいのかってことです(ひがみが強い)。


 ところで、当ブログでは、さんざん租税特別措置法を「クリエイティビティ」だとかなんだとかいって揶揄してきました。

【措置法イジりの歴史】
ヤバイ同居 〜続・家なき子特例の平成30年改正
イタチ、巻き込み。 〜家なき子特例の平成30年改正
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
さらば所得拡大促進税制(Arrivederci) 〜評判良ければ続くやつ
ここがヘンだよ所得拡大促進税制 〜委任命令におけるゆらぎとひずみ
武器としての所得拡大促進税制 〜労働者にとっての。
税務における事前判断と事後判断 〜所得拡大促進税制の適否判定(また改正するので)

 他方で、実定法の教科書で、現実に存在しえない時空間を生み出したのを観測したのは、はじめて。
 今まで、そこまでちゃんと読み込んでなかっただけかもしれませんが。

 もちろん、出版時点ではその未来世界が存在していたわけですけど、たった2ヶ月で破壊されてしまったわけです。
 短命すぎやしませんか。

 素直に、

  1 改正されたものは改正前後を書く
  2 改正されそうなのは改正案を書く

でいいと思うんですけど。
 1が嫌なら2だけでも書いておけばいいのに。


 この本に限らず、法学の教科書って、「施行時期」とか「経過措置」が軽く扱われがちなんですが、そのあたりに関する配慮の弱さが、ここで問題として吹き出した感じ。

 最初にも書いたとおり、読み始めた最初のほうはとても良い本だと思っていて、全面的にほめるだけの内容になるかと思っていたんです。記述がすんなり頭に入ってくるし。

【全面的にほめるだけの内容になった例】
 川口恭弘「金融商品取引法への誘い」(有斐閣2018)

 が、全体読んだ後に違和感が残って、よくよく考えたら時間軸のねじれだったことに気づいてしまい、結果こういう書評になりました。

 同じジャンルですが全くコンセプトの違う、江頭憲治郎先生の『商取引法』というのが2018年10月に出版されているので、こちらだとどうなっているのか、今後確認してみたいと思います(といったまま、第9版が発売されることに)。

江頭憲治郎「商取引法 第9版」(弘文堂2022)
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2018年10月15日

川口恭弘「金融商品取引法への誘い」(有斐閣2018)

 無条件に薦められる「金融商品取引法」の入門書が、やっと出たって感じです。

川口恭弘「金融商品取引法への誘い」(有斐閣2018)

 今までも「入門書」らしき本はいくつかありました。
 が、金商法って膨大なボリュームを誇っていて、しかも技術的な規定が盛りだくさん。

【参照】
 クリックして見よ!本法と政令だけでこのボリューム。
 これでまだ内閣府令もあるんだぜ。

  金融商品取引法
  金融商品取引法施行令

 なので、薄い本で全体をカバーしようとすると、どうしても各制度の概説的な記述にとどまってしまいます。

 に対して、この本ですが、書くべきテーマを大胆に絞り込んだ上で、

 ・制度趣旨の記述がクドいくらい懇切丁寧。
 ・具体例に基づいた記述なのでイメージがしやすい。
 ・図表や書式のサンプルが多用されているので文章が理解しやすい。

といった特徴があって、頭の中に金商法の見取図がしっかり出来上がっていく感じ。

 金商法の、としてだけでなく、法律の「入門書」としてみても、理想的な入門書です。
 金商法に興味なくても「入門書マニア」なら必読(実在するかは不明)。

 あとは、この強力な見取図をもって、より上位の教科書・体系書に挑んでいけばいいと思います。

 さしあたり教科書は、

山下友信・神田 秀樹「金融商品取引法概説 第2版」(有斐閣2017)

 体系書は、

黒沼悦郎「金融商品取引法 第2版」(有斐閣2020)

といったあたりがよいのでは。

 でも本当は、川口恭弘先生のこの本のノリで、そのまま金商法の全領域を記述してくれるのが一番いいんですが。

 もの凄いボリュームになりそう。

【追記】
自著を語る『金融商品取引法への誘い』(書斎の窓2019年1月号(No.661))

 川口先生ご自身による紹介文が、書斎の窓に載っています。
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2018年01月24日

前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣 1983)

 さしあたって手形法や小切手法を学問的に深く学ぶ必要性はないんですが、学生時代に一生懸命読んだ本で、あらためて読み返してみました。

前田庸「手形法・小切手法入門」(有斐閣1983)

 昔に比べると、頭の働きが落ちているのは間違いないんですが、当時読み込んでた本を読み返すことで、かつての頭の動かし方をなぞる感じになって、脳の働きが活性化するような気がします。

 私が受験生だった当時でも、すでにこの本で勉強する人はだいぶ減ってて、私自身も最終的には無難に判例・通説をベースに勉強することになりました。

 本試験でも、今までは会社法と手形法・小切手法の2問というのが多かったのが、会社法と商法総則・商行為法の2問という組み合わせもちらほら出てきてました(たぶん)。
 なので、手形法・小切手法の勉強だけにあまり時間を使えない、という状況でもありましたし。

 この本1983年刊ですが、今読んでもあまり古さを感じませんでした。
 それは手形法・小切手法というジャンルの特性か、あるいは前田理論の特性か、両方かもしれませんが。

 前田理論というのを説明しておくと、手形取引の安全を強く保護すべきという「価値判断」を前提に、

・創造説:
 手形書いたら手形債務が発生する
・二段階手形行為論:
 手形行為を「手形債務負担行為」と「手形権利移転行為」に分解する
・手形権利移転行為有因論
 手形権利移転行為は原因関係に影響を受ける

という一連の理論から構成されています。

 ものすごい大雑把に説明していますので、なんのこっちゃ分からないかもしれませんが、要するに、手形取引の過程に多少の問題があってもなるべく手形取得者を保護できるようにする、ための理論構成になっています。

で、この本の特徴というのが、

 1 とある論点につき、まず事例をいくつかあげる
 2 それぞれ、こういう結論をとるべきだという「価値判断」を示す
 3 それらの結論の導くための「理論構成」をする

という流れで書かれているという点です。

 理論構成それ自体が正しい、という主張ではなくって、このように理論構成すればこれら価値判断を整合的に導くことができる、のでこのような理論構成をとるべきだ、という主張になっています。

 普通の本だと、こういう価値判断をあらかじめはっきり書かないで、いきなり理論構成のほうに入ってしまうことが多いのですが、この本だとそのような誤魔化しがありません。

 普通の本でも、本当は、価値判断が先にあった上で理論構成しているはずなのに、あたかも価値判断抜きの条文解釈から理論構成が導かれたかのような書き方をしがちなので、いまいち理解しにくいところがあります。
 これに対して、この本だと、先に前田先生自身の価値判断をはっきり書いてくれているので、どうしてそのような理論構成をとるのかが、はっきりと理解できます。

 ちなみに、個人的な見解ですが、学生にとって法律書が理解しにくいのは、決して理論的な部分が難しいからではなく、社会経験が乏しい中で、(特に複雑な事例において)どのような価値判断をしたらいいのかが分からないから、ではないかと思うんです。

 なので、こうやってきちんと価値判断を示してくれると、とても読みやすくなると思うんです。

 で、理論構成のほうですが、価値判断を導くための理論構成と書くと、いかにもその場その場の結論を導くためだけの理論構成であるかのように思ってしまうかもしれませんが、そうではなく、他の事例でも同じ価値判断に基づく結論を導くことができるような、周到な理論構成になっています。

 なので、読み進めていくうちに、次の論点がでてきたときに、前田理論だとどのような結論が導けるかが予測できるようになります。

 この前田理論に対しては、手形取引の安全を保護するためとはいえ、手形を作った時点で手形「債権」が発生するより前に、独立して手形「債務」だけが発生するなんて技巧的、みたいな批判がありました。
 でも、批判者が前提としている、売ります買いますの意思が一致したら債権債務が同時に発生する、とかいう「普通の」契約理論だって、決して自然現象というわけでもなんでもなく、ある一定のお約束事にすぎないのであって、あんまり批判にはなっていないと思うんです。

 実際にこれが問題になるのも、手形取得者が誰かしらに手形に基づく請求をしようとする場面であり、手形取得者から遡って誰が手形債務を負担するかを検討すればいいのであって、なんの争いのない場面では、まず手形債務が発生して、それから・・・、なんてことを考える必要はないですし。

 ちなみに、いまどき流行りの「信託ちゃん」だと、一旦「委託者=受託者=受益者」で信託成立させてから受益権を売り出す、みたいなことが認められています。
 手形・小切手のようなオールドタイプには理論を振りかざしておきながら、信託のようなハイカラなものには実務の側にすり寄って認めてしまう。なにその理論、と思わなくもない。

 前田理論を批判するとしたら、手形取引の安全を強烈に保護しようとする、その価値判断にあると思います。
 現実には手形が転々流通するなんてことほとんど無くて、あったとしてもそんな取引を強く保護すべき、なんて現実的な要請は存在しない、手形が転々流通するなんてのはもはやナニワ金融道の世界にしかないんだ、という点だと思います。

ナニワ金融道【極!単行本シリーズ】

 なので、理論的には完全無欠の前田理論も、現在の手形法・小切手法の解釈論としては通用しない、ということになるのではないかと。

 そういうことからすると、手形・小切手には通用しないとしても、今後、「財産的価値をのっけて転々流通させるもの」が開発されて、その取引の安全を強烈に保護すべき、という要請がある場合には、前田理論をまるごと輸入してくればいいんじゃないかと思うんです。
 そういう汎用性のある理論ですので。
 条文解釈からかけ離れてる、みたいな批判もあったので、じゃあ書いちゃおう、という話。

 『入門』とは別に「体系書」もあって、ぜひ読み通したいんですが、ちょっと余裕ないです。

前田庸「手形法・小切手法(法律学大系)」(有斐閣1999)

 全くの余談ですが、この「法律学大系」というシリーズ、いいラインナップだったし、文字組みや装丁、紙質なんかがもの凄く好みのタイプだったんですが、いつの間にかしれっと無くなってました。
 「創立○周年記念!!」みたいなやつの企画だった気がするんですが。

【好きがこじれるとこうなる。タチが悪い】
「法律学大系」(有斐閣) 〜或るstalk。
posted by ウロ at 17:54| Comment(0) | 会社法・商法