前回は、読替規定のご紹介だけで終わりにしました(以下、同規定を「本施行令」といいます)。
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
地方税法施行令 第48条の5の2(総所得金額の算定の特例)
法第三百十三条第二項の規定により同条第一項の総所得金額を算定する場合には、所得税法第三十五条第四項第一号中「第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第十三号に規定する合計所得金額」と、租税特別措置法第四十一条の三の三第四項第三号中「所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」と、同項第四号中「所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者」とあるのは「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」と、同法第四十一条の十五の三第一項中「同条第四項(同法第百六十五条第一項において適用する場合を含む。)」とあるのは「地方税法第三百十三条第二項の規定によりその例によることとされる所得税法第三十五条第四項」と、「ついては、同法」とあるのは「ついては、地方税法施行令第四十八条の五の二の規定により読み替えられた同法」として、これらの規定の例によるものとする。
○
私が真っ先に疑問をもったのが、この読替規定、なんで「政令」に規定されているのかということです。
改正後の条文がどうなったのか、ひたすら地方税法の改正条文を探していたのですが、どおりで見つからないわけです。まさか政令(だけ)に規定されているとは。
確かに、地方税法313条では、「政令」でも「特別の定め」をすることができると規定されています。
地方税法 第三百十三条(所得割の課税標準)
1 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
が、この条文からすると、
@ 特別の定めが許されるのは「例によらない」場合であって、「例による」けどもその《より方》を調整することは許容されていないのではないか?
A 「この法律又はこれに基づく政令」とあることからすると、「法律」で何かしらの特別の定めがあってはじめて、それに基づく「政令」で特別の定めを規定できるのではないか?
といった疑問がでてきます。
このうち、@については「大は小を兼ねる」ということで、例によらないことが許されるならば、例による場合の調整も許される、ということはできるでしょうか。
問題はAで、要するに本施行令は法律で許容されていない規定なのではないかということです。
これに基づくの「これ」は、地方税法○○条といった特定の条項ではなく、「地方税法」全体を指していると読むということでしょうか。
「どうやって」読み替えるかについては政令で規定するとして、その前提である「何を」読み替えるについては法律で規定しておくべきかと。
○
しばしば「税制改正大綱」と異なる規律が改正内容に盛り込まれることがあります。
今回も、大綱にはなかった「所得金額調整控除」についての読み替えが本施行令に盛り込まれています。
大綱はあくまでも政府・与党が作った案にすぎません。国会で成立した法律が正式バージョンなのであって、法律が大綱と異なること自体は何の問題もありません。
問題は、大綱にも法律にも規定のないものを、いきなり「政令」で盛り込むことが許されるのかどうかということです。
もちろん、公的年金等控除と規律をあわせるという「内容」自体は妥当なものだと思います。が、国会を経由していないものをいきなり政令に盛り込んでもよいのか、という「正統性」には疑問があります。
しかも、自分のところの法律(地方税法)ではなく、他所の法律(所得税法)の読み替えを、いきなり政令で行ってしまってもよいのかどうか。
そういう意味でもやはり、「何を」読み替えるのかまでは法律で規定しておくべきだと思います。
○
今回の改正により、2の計算過程に地方税法(施行令)オリジナルの要素が入り込むことになりました。
1 年金収入 所
2 年金所得 所+地令
3 総所得金額 地
4 所得控除 地
5 課税総所得金額 地
6 所得割額 地
1・2と3〜6で役割分担をしていた従前の姿が崩れたことになります。かなり大きな構造の変化だと思うのですが、そこまで大きな扱いになっているようには思えません。
確かに、「例による」の中での調整なので、枠組み自体はまだ維持されています。が、その中身はもはや独自の規定を設けているのとほとんど変わりません。単なる表向きの書き方の違いでしょう。
であればいっそのこと、すべて地方税法で自己完結できるようにしてしまえばいいのではないか、と思うのですが。
財務省と総務省の縄張りとか、そういうことは私には分かりませんが、「例による」の枠組みを維持すべきよんどころない事情でもあるのでしょうか。
○
より根本的な問題としては、そもそも地方自治体の税金について法律でびっちり書き込むことが「地方自治の本旨」にかなうのかどうか、という憲法レベルの問題があります。
そういった観点からすると、例によるを維持するか独自の規定を設けるかなんていうのは、あくまでも国の「法律」の中での小競り合いにすぎません。地方税法でどこまで規律し、地方税条例でどこまで独自の規定を設けるか、といった大きな問題からすれば些細なことかもしれません。
あるいは、ふるさと納税の指定取消しの問題など、よりシビアな問題が地方税法の世界には存在しています。
本記事で論じたことなどは、これらの問題に比べれば大して実害のない問題といえるでしょう。が、「納税者の予測可能性」を重視するならば、分かりやすい地方税法の実現というものも目指すべきことなのではないでしょうか。
2022年05月16日
例による×読替規定の鬼コンボ(その2) 〜地方税法の「合計所得金額」
posted by ウロ at 15:08| Comment(0)
| 地方税法
2022年05月09日
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
先日の記事について、改正法成立後のフォローをしておきます。
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
こういう条文が入りました(都合により、市町村民税のほうの条文でいきます)。
地方税法施行令 第48条の5の2(総所得金額の算定の特例)
法第三百十三条第二項の規定により同条第一項の総所得金額を算定する場合には、所得税法第三十五条第四項第一号中「第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第十三号に規定する合計所得金額」と、租税特別措置法第四十一条の三の三第四項第三号中「所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」と、同項第四号中「所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者」とあるのは「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」と、同法第四十一条の十五の三第一項中「同条第四項(同法第百六十五条第一項において適用する場合を含む。)」とあるのは「地方税法第三百十三条第二項の規定によりその例によることとされる所得税法第三十五条第四項」と、「ついては、同法」とあるのは「ついては、地方税法施行令第四十八条の五の二の規定により読み替えられた同法」として、これらの規定の例によるものとする。
「例による」と読替規定のコンボのため異様なほど意味がとりにくい。のですが、この規定を分解すると次の通り。
ア 所35条4項1号 (公的年金等控除)
「所得税法2条第1項第30号(定義)に規定する合計所得金額」
⇒「地方税法292条第1項第13号に規定する合計所得金額」
イ 措置法41条の3の3第4項第3号 (所得金額調整控除)
「所得税法2条1項34号に規定する扶養親族」
⇒「地方税法292条1項9号に規定する扶養親族」
ウ 措置法41条の3の3第4項第4号 (所得金額調整控除)
「所得税法2条1項33号に規定する同一生計配偶者」
⇒「地方税法292条1項第7号に規定する同一生計配偶者」
エ 措置法41条の15の3第1項 (公的年金等控除(65歳以上))
「所得税法35条4項(同法第165条1項において適用する場合を含む。)」
⇒「地方税法313条2項の規定によりその例によることとされる所得税法35条4項」
「ついては、同法」
⇒「ついては、地方税法施行令48条の5の2の規定により読み替えられた同法」
○
年金所得の計算方法自体は相変わらず所得税法からお借りするやり口のままです。
が、そのお借りする過程で「合計所得金額」を地方税法のそれに読み替えるということがアに規定されています。
地方税法 第292条(市町村民税に関する用語の意義)
市町村民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十三 合計所得金額 第三百十三条第八項及び第九項の規定による控除前の同条第一項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう。
この条文だけをみたら退職所得金額も含まれてるじゃんと思いがち。ですが、「現年分離課税」となる退職所得はここから除かれる、ということは以前の記事で書いたとおりです。
なお、退職所得が「前年所得課税」となる場合はどうなるかという問題もありますが、さしあたり省略します。
非居住者に対する退職所得と住民税
そして、エでは措置法の「65歳以上」の特例についても同じノリで読み替えを行うとされています。
なんとも言えない言い回しになっていますが、これは措置法41条の15の3第1項が、所35条4項1号の控除額の65歳適用部分だけ修正している、という建付けになっているためです。ストレートな読み替えではすんなり例によれないということなのでしょう。
下記の「所得金額調整控除」が、措置法オリジナルの控除であるのとは違うわけです。
○
以前の記事で懸念していた「所得金額調整控除」ですが、これについてはイウで手当がされています。
大綱では触れられていなかったというのに、さすがしっかり穴埋めしてきています。
「扶養親族」「同一生計配偶者」の定義を地方税法のそれに読み替えることで、それらの者の「合計所得金額」もあわせて地方税法のそれに置き換えることになるんだと。
措置法 第41条の3の3(所得金額調整控除)
1 その年中の給与等の収入金額が八百五十万円を超える居住者で、特別障害者に該当するもの又は年齢二十三歳未満の扶養親族を有するもの若しくは特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有するものに係る総所得金額を計算する場合には、その年中の給与等の収入金額(当該給与等の収入金額が千万円を超える場合には、千万円)から八百五十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額を、その年分の給与所得の金額から控除する。
2 その年分の給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある居住者で、当該給与所得控除後の給与等の金額及び当該公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が十万円を超えるものに係る総所得金額を計算する場合には、当該給与所得控除後の給与等の金額(当該給与所得控除後の給与等の金額が十万円を超える場合には、十万円)及び当該公的年金等に係る雑所得の金額(当該公的年金等に係る雑所得の金額が十万円を超える場合には、十万円)の合計額から十万円を控除した残額を、その年分の給与所得の金額(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除をした残額)から控除する。
4 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 扶養親族 所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族をいう。「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」
四 同一生計配偶者 所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者をいう。「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」
六 公的年金等に係る雑所得の金額 所得税法第三十五条第二項第一号に掲げる金額をいう。
地方税法 第292条(市町村民税に関する用語の意義)
市町村民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
七 同一生計配偶者 市町村民税の納税義務者の配偶者でその納税義務者と生計を一にするもの(第三百十三条第三項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第四項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、当該年度の初日の属する年の前年(以下この条、第二百九十五条、第三百十三条から第三百十七条の三まで及び第三百十七条の六から第三百二十一条の七の九までにおいて「前年」という。)の合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。
九 扶養親族 市町村民税の納税義務者の親族(その納税義務者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法第十一条第一項第三号の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその納税義務者と生計を一にするもの(第三百十三条第三項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第四項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、前年の合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。
○
所得金額調整控除(子ども等)はこれでいいとして、所得金額調整控除(年金)の場合はどうなるのか。措置法第41条の3の3の「6号」の置き換えはされていないことから、ここだけ取り残されているのか。
おそらくですけど、6号が
六 公的年金等に係る雑所得の金額 所得税法第三十五条第二項第一号に掲げる金額をいう。
と所得税法35条2項1号をお借りしており、かつ、同条4項に「第2項に規定する公的年金等控除額は」とあることから、最終的にア(+エ)に繋がるということなんでしょう。
措置法第41条の3の3第2項、4項6号
⇒所得税法35条2項1号
⇒所得税法35条4項1号
⇒地方税法施行令第48条の5の2(ア+エ)
分かりにくいにしても、直接6号に読み替え入れてもらったほうがはるかにマシだと思うのですが、そういう条文お作法なので仕方がない。
○
以上、《日常系税務》の範疇では、そういうことになったんですねと結論だけ理解をしておけばさしあたりは足ります。そして、大綱に記載のなかった「所得金額調整控除」についても手当がされた点も忘れなければ。
が、キマイラ感にさらに磨きがかかってしまったわけで、次回少し突っ込んでみます。
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
こういう条文が入りました(都合により、市町村民税のほうの条文でいきます)。
地方税法施行令 第48条の5の2(総所得金額の算定の特例)
法第三百十三条第二項の規定により同条第一項の総所得金額を算定する場合には、所得税法第三十五条第四項第一号中「第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第十三号に規定する合計所得金額」と、租税特別措置法第四十一条の三の三第四項第三号中「所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族」とあるのは「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」と、同項第四号中「所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者」とあるのは「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」と、同法第四十一条の十五の三第一項中「同条第四項(同法第百六十五条第一項において適用する場合を含む。)」とあるのは「地方税法第三百十三条第二項の規定によりその例によることとされる所得税法第三十五条第四項」と、「ついては、同法」とあるのは「ついては、地方税法施行令第四十八条の五の二の規定により読み替えられた同法」として、これらの規定の例によるものとする。
「例による」と読替規定のコンボのため異様なほど意味がとりにくい。のですが、この規定を分解すると次の通り。
ア 所35条4項1号 (公的年金等控除)
「所得税法2条第1項第30号(定義)に規定する合計所得金額」
⇒「地方税法292条第1項第13号に規定する合計所得金額」
イ 措置法41条の3の3第4項第3号 (所得金額調整控除)
「所得税法2条1項34号に規定する扶養親族」
⇒「地方税法292条1項9号に規定する扶養親族」
ウ 措置法41条の3の3第4項第4号 (所得金額調整控除)
「所得税法2条1項33号に規定する同一生計配偶者」
⇒「地方税法292条1項第7号に規定する同一生計配偶者」
エ 措置法41条の15の3第1項 (公的年金等控除(65歳以上))
「所得税法35条4項(同法第165条1項において適用する場合を含む。)」
⇒「地方税法313条2項の規定によりその例によることとされる所得税法35条4項」
「ついては、同法」
⇒「ついては、地方税法施行令48条の5の2の規定により読み替えられた同法」
○
年金所得の計算方法自体は相変わらず所得税法からお借りするやり口のままです。
が、そのお借りする過程で「合計所得金額」を地方税法のそれに読み替えるということがアに規定されています。
地方税法 第292条(市町村民税に関する用語の意義)
市町村民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十三 合計所得金額 第三百十三条第八項及び第九項の規定による控除前の同条第一項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう。
この条文だけをみたら退職所得金額も含まれてるじゃんと思いがち。ですが、「現年分離課税」となる退職所得はここから除かれる、ということは以前の記事で書いたとおりです。
なお、退職所得が「前年所得課税」となる場合はどうなるかという問題もありますが、さしあたり省略します。
非居住者に対する退職所得と住民税
そして、エでは措置法の「65歳以上」の特例についても同じノリで読み替えを行うとされています。
なんとも言えない言い回しになっていますが、これは措置法41条の15の3第1項が、所35条4項1号の控除額の65歳適用部分だけ修正している、という建付けになっているためです。ストレートな読み替えではすんなり例によれないということなのでしょう。
下記の「所得金額調整控除」が、措置法オリジナルの控除であるのとは違うわけです。
○
以前の記事で懸念していた「所得金額調整控除」ですが、これについてはイウで手当がされています。
大綱では触れられていなかったというのに、さすがしっかり穴埋めしてきています。
「扶養親族」「同一生計配偶者」の定義を地方税法のそれに読み替えることで、それらの者の「合計所得金額」もあわせて地方税法のそれに置き換えることになるんだと。
措置法 第41条の3の3(所得金額調整控除)
1 その年中の給与等の収入金額が八百五十万円を超える居住者で、特別障害者に該当するもの又は年齢二十三歳未満の扶養親族を有するもの若しくは特別障害者である同一生計配偶者若しくは扶養親族を有するものに係る総所得金額を計算する場合には、その年中の給与等の収入金額(当該給与等の収入金額が千万円を超える場合には、千万円)から八百五十万円を控除した金額の百分の十に相当する金額を、その年分の給与所得の金額から控除する。
2 その年分の給与所得控除後の給与等の金額及び公的年金等に係る雑所得の金額がある居住者で、当該給与所得控除後の給与等の金額及び当該公的年金等に係る雑所得の金額の合計額が十万円を超えるものに係る総所得金額を計算する場合には、当該給与所得控除後の給与等の金額(当該給与所得控除後の給与等の金額が十万円を超える場合には、十万円)及び当該公的年金等に係る雑所得の金額(当該公的年金等に係る雑所得の金額が十万円を超える場合には、十万円)の合計額から十万円を控除した残額を、その年分の給与所得の金額(前項の規定の適用がある場合には、同項の規定による控除をした残額)から控除する。
4 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 扶養親族 所得税法第二条第一項第三十四号に規定する扶養親族をいう。「地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)第二百九十二条第一項第九号に規定する扶養親族」
四 同一生計配偶者 所得税法第二条第一項第三十三号に規定する同一生計配偶者をいう。「地方税法第二百九十二条第一項第七号に規定する同一生計配偶者」
六 公的年金等に係る雑所得の金額 所得税法第三十五条第二項第一号に掲げる金額をいう。
地方税法 第292条(市町村民税に関する用語の意義)
市町村民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
七 同一生計配偶者 市町村民税の納税義務者の配偶者でその納税義務者と生計を一にするもの(第三百十三条第三項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第四項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、当該年度の初日の属する年の前年(以下この条、第二百九十五条、第三百十三条から第三百十七条の三まで及び第三百十七条の六から第三百二十一条の七の九までにおいて「前年」という。)の合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。
九 扶養親族 市町村民税の納税義務者の親族(その納税義務者の配偶者を除く。)並びに児童福祉法第二十七条第一項第三号の規定により同法第六条の四に規定する里親に委託された児童及び老人福祉法第十一条第一項第三号の規定により同号に規定する養護受託者に委託された老人でその納税義務者と生計を一にするもの(第三百十三条第三項に規定する青色事業専従者に該当するもので同項に規定する給与の支払を受けるもの及び同条第四項に規定する事業専従者に該当するものを除く。)のうち、前年の合計所得金額が四十八万円以下である者をいう。
○
所得金額調整控除(子ども等)はこれでいいとして、所得金額調整控除(年金)の場合はどうなるのか。措置法第41条の3の3の「6号」の置き換えはされていないことから、ここだけ取り残されているのか。
おそらくですけど、6号が
六 公的年金等に係る雑所得の金額 所得税法第三十五条第二項第一号に掲げる金額をいう。
と所得税法35条2項1号をお借りしており、かつ、同条4項に「第2項に規定する公的年金等控除額は」とあることから、最終的にア(+エ)に繋がるということなんでしょう。
措置法第41条の3の3第2項、4項6号
⇒所得税法35条2項1号
⇒所得税法35条4項1号
⇒地方税法施行令第48条の5の2(ア+エ)
分かりにくいにしても、直接6号に読み替え入れてもらったほうがはるかにマシだと思うのですが、そういう条文お作法なので仕方がない。
○
以上、《日常系税務》の範疇では、そういうことになったんですねと結論だけ理解をしておけばさしあたりは足ります。そして、大綱に記載のなかった「所得金額調整控除」についても手当がされた点も忘れなければ。
が、キマイラ感にさらに磨きがかかってしまったわけで、次回少し突っ込んでみます。
posted by ウロ at 11:10| Comment(0)
| 地方税法
2022年05月02日
非居住者に対する退職所得と住民税
地方税法、以下の記事でも書いたとおり、なかなか難解。
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
次のような、国境を跨いで退職金が発生した場合、住民税の処理はどうなるでしょうか。
《事案》
10年前 入社 (居住者)
5年前 海外赴任 (非居住者)
2022年 海外で退職、退職金1000万円支給 (非居住者)
その後、帰国(居住者)、2023年1月1日以降も居住予定。
○
まず、この場合の所得税法上の取り扱いは、
ア 原則
「非居住者」に支給する退職所得に該当するため、国内勤務に対応する500万円(1000万円×5年/10年)につき源泉徴収(源泉分離課税20.42%)をする(所得税法161条12号ハ、164条2項2号、169条、170条)。
イ 例外(選択課税)
本人は「退職所得の選択課税」により、1000万円全額を「居住者」に対する支給とみなして還付申告をすることができる(所得税法171条、173条)。
となります。
○
これはまあ分かる。では、住民税は課税されるのでしょうか?
ウ 特別徴収
2022年1月1日現在住所がなく、所得税法199条による源泉徴収ではないため、支給者(会社)は「特別徴収」を行わない(地方税法328条)。
ここまではそこらの《税務お役立ち記事》にも書いてあることでしょう。
問題はこの先、年内に帰国していることがどう影響してくるか。
エ 住民税申告
2023年1月1日現在住所があるため、前年支給を受けた退職金が課税対象となり、本人による「住民税申告」が必要(??)。
《税務お役立ち記事》では、会社が特別徴収しないからそこで課税関係が終了するかのような書き方がされます。
が、退職所得が特別徴収(現年分離課税)の対象外となるのであれば、原則(前年所得課税)に戻って課税判定をすることになります。
ので、2023年1月1日現在でまだ帰国していなければ2022年の退職所得に課税されることはないが、帰国していれば課税される、ということになります。
○
課税されるとして、その計算はどうなるのか。所得税が「ア 原則」の場合は、
(国内収入500万円−退職所得控除(国内5年))×10%(標準税率)
ということでいいのかどうか。
住民税は、所得税と違って非居住者に対する「源泉分離課税」制度がないので、こうなるのではないかと。
オ 選択課税
では、本人が所得税で「選択課税」による還付申告を行った場合はどうか。
所得税に連動して、
(収入1000万円−退職所得控除(10年))×10%(標準税率)
ということになるのかどうか。
地方税法施行令48条の5の2(非居住者期間を有する所得割の納税義務者の課税標準の算定)がここに関係しそうな規定っぽいのですが、退職所得の場合にどのように適用されるのかが読み取れない。
○地方税法施行令
(非居住者期間を有する所得割の納税義務者の課税標準の算定)
第四十八条の五の二 前年中に所得税法第二条第一項第五号に規定する非居住者であつた期間を有する者の同法第七条第一項第一号及び第二号に規定する所得並びに同法第百六十四条に規定する国内源泉所得に係る法第三百十三条第一項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、法又は法に基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、所得税法その他の所得税に関する法令の規定による同法第百六十五条及び所得税法施行令第二百五十八条の所得税の課税標準の計算の例によつて算定するものとする。
事案が発生してから、各自個別に自治体へご相談いただくのがよろしいかと。
実情は、自治体のほうでも本人が申告してくれないかぎり支給実績を把握しようがない、というところなのでしょうが。
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
次のような、国境を跨いで退職金が発生した場合、住民税の処理はどうなるでしょうか。
《事案》
10年前 入社 (居住者)
5年前 海外赴任 (非居住者)
2022年 海外で退職、退職金1000万円支給 (非居住者)
その後、帰国(居住者)、2023年1月1日以降も居住予定。
○
まず、この場合の所得税法上の取り扱いは、
ア 原則
「非居住者」に支給する退職所得に該当するため、国内勤務に対応する500万円(1000万円×5年/10年)につき源泉徴収(源泉分離課税20.42%)をする(所得税法161条12号ハ、164条2項2号、169条、170条)。
イ 例外(選択課税)
本人は「退職所得の選択課税」により、1000万円全額を「居住者」に対する支給とみなして還付申告をすることができる(所得税法171条、173条)。
となります。
○
これはまあ分かる。では、住民税は課税されるのでしょうか?
ウ 特別徴収
2022年1月1日現在住所がなく、所得税法199条による源泉徴収ではないため、支給者(会社)は「特別徴収」を行わない(地方税法328条)。
ここまではそこらの《税務お役立ち記事》にも書いてあることでしょう。
問題はこの先、年内に帰国していることがどう影響してくるか。
エ 住民税申告
2023年1月1日現在住所があるため、前年支給を受けた退職金が課税対象となり、本人による「住民税申告」が必要(??)。
《税務お役立ち記事》では、会社が特別徴収しないからそこで課税関係が終了するかのような書き方がされます。
が、退職所得が特別徴収(現年分離課税)の対象外となるのであれば、原則(前年所得課税)に戻って課税判定をすることになります。
ので、2023年1月1日現在でまだ帰国していなければ2022年の退職所得に課税されることはないが、帰国していれば課税される、ということになります。
○
課税されるとして、その計算はどうなるのか。所得税が「ア 原則」の場合は、
(国内収入500万円−退職所得控除(国内5年))×10%(標準税率)
ということでいいのかどうか。
住民税は、所得税と違って非居住者に対する「源泉分離課税」制度がないので、こうなるのではないかと。
オ 選択課税
では、本人が所得税で「選択課税」による還付申告を行った場合はどうか。
所得税に連動して、
(収入1000万円−退職所得控除(10年))×10%(標準税率)
ということになるのかどうか。
地方税法施行令48条の5の2(非居住者期間を有する所得割の納税義務者の課税標準の算定)がここに関係しそうな規定っぽいのですが、退職所得の場合にどのように適用されるのかが読み取れない。
○地方税法施行令
(非居住者期間を有する所得割の納税義務者の課税標準の算定)
第四十八条の五の二 前年中に所得税法第二条第一項第五号に規定する非居住者であつた期間を有する者の同法第七条第一項第一号及び第二号に規定する所得並びに同法第百六十四条に規定する国内源泉所得に係る法第三百十三条第一項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、法又は法に基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、所得税法その他の所得税に関する法令の規定による同法第百六十五条及び所得税法施行令第二百五十八条の所得税の課税標準の計算の例によつて算定するものとする。
事案が発生してから、各自個別に自治体へご相談いただくのがよろしいかと。
実情は、自治体のほうでも本人が申告してくれないかぎり支給実績を把握しようがない、というところなのでしょうが。
posted by ウロ at 10:02| Comment(0)
| 地方税法
2021年12月27日
「合計所得金額」に退職所得は含まれるし含まれない。〜令和4年度税制改正大綱を素材に
「令和4年度税制改正大綱」が発表されましたが、当ブログでは、内容陳列記事を作成するつもりはありません。
というのも、要綱の段階では条文の体をなしておらず、当ブログのテーマたる「条文イジり」が発動しえないからです。
改正法にふれるとしても、法律・政令・省令あたりが出揃ってから、やっと検討してみるか、という感じになります(あくまでブログとして、であって実務家としてはまた別のお話)。
下記記事はまさにそういう趣旨のもので、「国内新規雇用者」の定義が、法律・政令・省令で一気通貫しているか、ということを扱っています。
珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)
さらに、《運営》が発表する手引の類が、条文をどのように落とし込んでいるか、というのも検討対象になりえます。
珍奇な新規(続) 〜『人材確保等促進税制御利用ガイドブック(令和3年5月31日公表版)』
今回扱ってみようと思ったものは、これからの改正内容というよりも、現行法レベルで気になるところがあったからです。
タイトルからご想像されるとおり、税法世界における「二枚舌概念」の問題です。「同居しているがしていない」「生活に必要だが必要でない」といった具合の。
【税法二枚舌概念】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
○
ということで、素材提供から。
P91
六 納税環境整備
5 その他
(地方税)
(1) 上場株式等の配当所得等に係る課税方式
@ 個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させることとする。
A 上記@に伴い、次の措置を講ずる。
イ 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用要件が所得税と一致するよう規定の整備を行う。
口 その他所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、令和6年度分以後の個人住民税について適用するとともに、所要の経過措置を講ずる。
(2)個人住民税における合計所得金額に係る規定の整備
@ 公的年金等控除額の算定の基礎となる公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額には、個人住民税における他の所得控除等と同様に、退職手当等を含まない合計所得金額を用いることとする。
(注)上記の改正は、令和4年度分以後の個人住民税について適用する。
A 給与所得者の扶養親族申告書及び給与支払報告書並びに公的年金等受給者の扶養親族申告書及び公的年金等支払報告書について、退職手当等を有する一定の配偶者及び扶養親族の氏名等を記載し、申告することとする等の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、令和5年1月1日以後に支払われる給与等及び公的年金等について適用する。
B 確定申告書における個人住民税に係る附記事項に、退職手当等を有する一定の配偶者及び扶養親族の氏名等を追加する。
(注)上記の改正は、令和4年分以後の確定申告書を令和5年1月1日以後に提出する場合について適用する。
C その他所要の措置を講ずる。
令和4年度税制改正大綱
(1)もあれなんですが、今回は(2)のほうです。
○
これだけ読んでなんのことやら理解できる人はどれだけいるでしょうか。
この中身に入る前に、前提として地方税法における個人住民税(所得割額)の建て付けを説明します(というかこれがメイン)。
【以下のお約束事項】
・地は「地方税法」、所は「所得税法」
・地方税法の引用条文は「道府県民税」で代表させます。
・所得税法200条の場合など、源泉徴収をしない退職所得は考慮外とします。
○
年金収入だけある人であれば、以下の手順で「所得割額」を算出します(ざっくり)。
1 年金収入
2 年金所得
3 総所得金額
4 所得控除
5 課税総所得金額
6 所得割額
このうち1、2の、何が年金収入にあたり、そこからどのように年金所得を算出するかについては、所得税法(政令等含む)に依存しています。
地(所得割の課税標準)
第三十二条 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
他方で、3以下は、地方税法に直接書き込まれています。これは2項にいう「この法律又はこれに基づく政令で特別の定め」にあたります。
つまり、地方税法は、個人住民税について自給自足な定めとなっていないということです。
キマイラ感溢れる継ぎ接ぎ税目。
○
所得税法によれば年金所得は次のように算出されます。
所(雑所得)
第三十五条 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
2 雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。
一 その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額
二 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額
3 前項に規定する公的年金等とは、次に掲げる年金をいう。
一 第三十一条第一号及び第二号(退職手当等とみなす一時金)に規定する法律の規定に基づく年金その他同条第一号及び第二号に規定する制度に基づく年金(これに類する給付を含む。第三号において同じ。)で政令で定めるもの
二 恩給(一時恩給を除く。)及び過去の勤務に基づき使用者であつた者から支給される年金
三 確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金(第三十一条第三号に規定する規約に基づいて拠出された掛金のうちにその年金が支給される同法第二十五条第一項(加入者)に規定する加入者(同項に規定する加入者であつた者を含む。)の負担した金額がある場合には、その年金の額からその負担した金額のうちその年金の額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額に相当する部分に限る。)その他これに類する年金として政令で定めるもの
4 第二項に規定する公的年金等控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 その年中の公的年金等の収入金額がないものとして計算した場合における第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額(次号及び第三号において「公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額」という。)が千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が六十万円に満たない場合には、六十万円)
イ 四十万円
ロ その年中の公的年金等の収入金額から五十万円を控除した残額の次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
(1) 当該残額が三百六十万円以下である場合 当該残額の百分の二十五に相当する金額
(2) 当該残額が三百六十万円を超え七百二十万円以下である場合 九十万円と当該残額から三百六十万円を控除した金額の百分の十五に相当する金額との合計額
(3) 当該残額が七百二十万円を超え九百五十万円以下である場合 百四十四万円と当該残額から七百二十万円を控除した金額の百分の五に相当する金額との合計額
(4) 当該残額が九百五十万円を超える場合 百五十五万五千円
二 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が千万円を超え二千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が五十万円に満たない場合には、五十万円)
イ 三十万円
ロ 前号ロに掲げる金額
三 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が二千万円を超える場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が四十万円に満たない場合には、四十万円)
イ 二十万円
ロ 第一号ロに掲げる金額
文字で書かれるとなんのこっちゃ、て感じでしょうが、下記ページの表で「公的年金等控除」の内容をご確認ください。
No.1600 公的年金等の課税関係
ここでは「公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額」によって公的年金等控除額が異なることになっています(4項1号〜3号)。
○
では「合計所得金額」とはなんぞや、ということですが、これは次の箇所に書かれています。
所(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十 寡婦 次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいう。
イ 夫と離婚した後婚姻をしていない者のうち、次に掲げる要件を満たすもの
(1) 扶養親族を有すること。
(2) 第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であること。
所(課税標準)
第二十二条 居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額(第七十条第一項若しくは第二項(純損失の繰越控除)又は第七十一条第一項(雑損失の繰越控除)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
一 利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額(第三十三条第三項第一号(譲渡所得の金額の計算)に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び雑所得の金額(これらの金額につき第六十九条(損益通算)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額
二 譲渡所得の金額(第三十三条第三項第二号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び一時所得の金額(これらの金額につき第六十九条の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額の二分の一に相当する金額
3 退職所得金額又は山林所得金額は、それぞれ次節の規定により計算した退職所得の金額又は山林所得の金額(これらの金額につき第六十九条から第七十一条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
何「寡婦」引用しちゃってんの、と思うかもしれません(コピペレポートがばれる大学生のごとく)。が、これ間違いではなく。
「寡婦」の定義の中にこっそり紛れていて、これを各所で使いまわしています(不格好)。
そして上記のとおり、「退職所得の金額」も合計所得金額に含まれています。
合計所得金額(国税庁)
(このページは確定申告絡みのページなので参照条文が省略されてしまっていますが、所得税法や租税特別措置法の規律をまとめた結果が書かれています。)
分離だから入れなくていいんじゃないの、と思いきや。
退職所得は確定申告しなくていい(場合がある)とは書いてあるものの、合計所得金額から除かれるということまでは書かれていません。
所(確定所得申告を要しない場合)
第百二十一条
2 その年において退職所得を有する居住者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、前条第一項の規定にかかわらず、その年分の課税退職所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。
一 その年分の退職所得に係る第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この項において「退職手当等」という。)の全部について第百九十九条(退職所得に係る源泉徴収義務)及び第二百一条第一項(退職所得に係る源泉徴収税額)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合
二 前号に該当する場合を除き、その年分の課税退職所得金額につき第八十九条(税率)の規定を適用して計算した所得税の額がその年分の退職所得に係る退職手当等につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額以下である場合
じゃあ、源泉分離課税・申告不要制度の利子所得や配当所得が加算されないとか、申告分離課税を選択すると加算されるとかそのあたりはどうなっているのか、というと、これは「租税特別措置法」が差配をしています。が、話が長くなるので今回は省略。
措置法が適用される所得については、措置法が足したり引いたりしているわけですが、所得税法本体のみが適用される退職所得については、所得税法で明記されないかぎり、合計所得金額から逃れることはできないということです。
ということで、結論として、多額の退職金をもらった年は、合計所得金額が膨らむことで公的年金等控除が少なくなることになりうるわけです。分離だから総合所得とは無関係、というのではなく、一定の影響を及ぼすことになります。
○
で、「地方税法」の話ですが、年金所得の算出についてはこの所得税法の規律をそのままお借りしているので、個人住民税を計算する際の年金所得も連動します。
ではあるのですが、厄介なのが、上記の通り全面的に所得税法の規律に依存しているのではないということ(キマイラ税目がキマイラたる所以)。
「所得控除」については地方税法に独自の規定が存在しています(以下「配偶者控除」で代表させます)。
地(所得控除)
第三十四条 道府県は、所得割の納税義務者が次の各号に掲げる者のいずれかに該当する場合には、それぞれ当該各号に定める金額をその者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除するものとする。
十 控除対象配偶者を有する所得割の納税義務者 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める金額
イ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百万円以下である場合 三十三万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者(控除対象配偶者のうち、年齢七十歳以上の者をいう。以下この条及び第三十七条第一号イにおいて同じ。)である場合には、三十八万円)
ロ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百万円を超え九百五十万円以下である場合 二十二万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、二十六万円)
ハ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百五十万円を超え千万円以下である場合 十一万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、十三万円)
地(道府県民税に関する用語の意義)
第二十三条 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
八 控除対象配偶者 同一生計配偶者のうち、前年の合計所得金額が千万円以下である道府県民税の納税義務者の配偶者をいう。
配偶者控除が「所得税だと38万円なのに住民税では33万円」などといった違いがあるのは、所得税法83条から5万円減らしている、ということではなく、地方税法自体に33万円と書き込まれているからです。
控除額は異なるものの、要件は同じとなっています(のに、お借りすることなくしっかり書き込まれている)。
ここで所得税法と同じ「合計所得金額」という言葉が出てくるため、所得税法と同じように退職所得も含めて判定するのかと思いきや。
そう早合点してはいけない。
○
「合計所得金額」の定義は地方税法にもあります。
地(道府県民税に関する用語の意義)
第二十三条 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十三 合計所得金額 第三十二条第八項及び第九項の規定による控除前の同条第一項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう。
寡婦の定義に紛れ込ませるなんてことはせず、ちゃんと独立の号で規定されています。エレガントですね(が、そもそもキマイラ)。
これだけみると、所得税法と言い回しはそっくりなので、やっぱり「退職所得金額」も含まれるんじゃん、と思いきや。
まだ早合点してはいけない。
次の規定により、合計所得金額から退職所得が除かれることになっています。
地(退職所得の課税の特例)
第五十条の二 第二十四条第一項第一号の者が退職手当等(所得税法第百九十九条の規定によりその所得税を徴収して納付すべきものに限る。以下本目において同じ。)の支払を受ける場合には、当該退職手当等に係る所得割は、第三十二条、第三十五条及び第三十九条の規定にかかわらず、当該退職手当等に係る所得を他の所得と区分し、本目に規定するところにより、当該退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日現在におけるその者の住所所在の道府県において課する。
地(所得割の課税標準)
第三十二条 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
この条文だけ読んで、「合計所得金額」から退職所得を除くと読め、というのはかなりの難題。ですが、そう読めということらしい。
我々は結論が分かっているから無理やりにでもそのように読むことができますけども、フラットな状態で読んだとして、そのような理解に到れるかは極めて怪しい。
それはともかく、結果として「配偶者控除」(地)の判定をする際の本人と配偶者の「合計所得金額」には、退職所得は含まれないということになります。
ので、所得税では退職所得のせいで配偶者控除が受けられなかったが、住民税では配偶者控除が受けられる、という事態が生じえます。
【合計所得金額に退職所得は含まれるか?】
所 公的年金等控除 含む
所 所得控除 含む
地 公的年金等控除 含む
地 所得控除 含まない!
総所得金額等の違いについて - 富田林市
(検索して一番上に出てきたので。他意はありません)
上記サイトでは、源泉分離課税の退職所得は合計所得金額に含まれないことが明記されていますが、自治体によっては書かれていないものもあったりします。
また、上記サイトでもさすがに、公的年金等控除を判定する場合には含める、ということまでは書かれていません。
○
ここまでの長い道のりを辿ってはじめて、大綱の「現行法では退職所得が公的年金等控除の判定には含まれるが所得控除の判定には含まれない」ということの意味が理解できることになります。
で、地方税法32条2項でいうところの「この法律又はこれに基づく政令で特別の定め」をおくことで、公的年金等控除についても地方税法の合計所得金額を使う旨を規定するということなのでしょう。
所得の計算に地方税法の独自要素をねじ込むという、現行法の「頭は所得税法、体は地方税法」の均衡を突き崩す、かなり大胆な改正提案だと思うのですが。「頭はライオン、体と口が山羊」的な。
なのに、所得課税のところではなく、納税環境整備のその他なんてところに記載されているという。
また、配偶者・扶養親族の退職所得情報を追加しろ、とも書いてあります。
これはおそらく、本人については支給した会社からだったり確定申告書だったりで把握できるけども、配偶者・扶養親族が退職金もらっているかどうかを把握するのが、現状困難ということなんでしょう。
仮に、所得税の確定申告で配偶者控除の適用を受けていなかったとして、その理由が、配偶者がその年退職金を沢山もらっていたからなのか、それともそれ以外の所得があったからなのか、分からないでしょうし。
「納税環境整備」の箇所に記載されているというのも、改正提案の趣旨が、決して税額を軽減する目的ではなく、自治体が退職所得を把握しやすくする、というのがメインだからではないでしょうか。
で、総務省がなんか要望していて特に害もなさそうだからとりあえず入れておくか、ぐらいのノリ。
このあたりの、所得税と住民税とで連携が取れているようで取れていない、という現状を鑑みるに、やはり、自治体から送られてくる「住民税税額決定通知書」、ちゃんと内容をみて、正しく計算されているか確認するべきものなんでしょう。
○
なお、公的年金等控除と同じポジションのものに「所得金額調整控除」があります。
No.1411所得金額調整控除
給与850万円というのは「収入」判定だからいいとして、同一生計配偶者・扶養親族の合計所得金額や給与・年金双方ある場合の年金所得の計算はどうするんでしょうかね?
自治体の業務効率を図ることがメインで、公的年金等控除の改正はそのバーター、なのだとしたら、所得金額調整控除までは手を加えないのかもしれません。
が、そこだけ残すのも、極めて落ち着きが悪い。
【合計所得金額に退職所得を含めるか?】
所得税 住民税
所得金額調整控除(子ども等) 含める 含める(?)
所得金額調整控除(年金) 含める 含める(?)
公的年金等控除 含める 含める(改正予定)
所得控除 含める 含めない
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
例による×読替規定の鬼コンボ(その2) 〜地方税法の「合計所得金額」
というのも、要綱の段階では条文の体をなしておらず、当ブログのテーマたる「条文イジり」が発動しえないからです。
改正法にふれるとしても、法律・政令・省令あたりが出揃ってから、やっと検討してみるか、という感じになります(あくまでブログとして、であって実務家としてはまた別のお話)。
下記記事はまさにそういう趣旨のもので、「国内新規雇用者」の定義が、法律・政令・省令で一気通貫しているか、ということを扱っています。
珍奇な新規 〜人材確保等促進税制における「国内新規雇用者」について(令和3年度税制改正)
さらに、《運営》が発表する手引の類が、条文をどのように落とし込んでいるか、というのも検討対象になりえます。
珍奇な新規(続) 〜『人材確保等促進税制御利用ガイドブック(令和3年5月31日公表版)』
今回扱ってみようと思ったものは、これからの改正内容というよりも、現行法レベルで気になるところがあったからです。
タイトルからご想像されるとおり、税法世界における「二枚舌概念」の問題です。「同居しているがしていない」「生活に必要だが必要でない」といった具合の。
【税法二枚舌概念】
パラドキシカル同居 〜或いは税務シュレディンガーの○○
「生活に通常必要な動産」で「生活に通常必要でない動産」
○
ということで、素材提供から。
P91
六 納税環境整備
5 その他
(地方税)
(1) 上場株式等の配当所得等に係る課税方式
@ 個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の課税方式を所得税と一致させることとする。
A 上記@に伴い、次の措置を講ずる。
イ 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用要件が所得税と一致するよう規定の整備を行う。
口 その他所要の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、令和6年度分以後の個人住民税について適用するとともに、所要の経過措置を講ずる。
(2)個人住民税における合計所得金額に係る規定の整備
@ 公的年金等控除額の算定の基礎となる公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額には、個人住民税における他の所得控除等と同様に、退職手当等を含まない合計所得金額を用いることとする。
(注)上記の改正は、令和4年度分以後の個人住民税について適用する。
A 給与所得者の扶養親族申告書及び給与支払報告書並びに公的年金等受給者の扶養親族申告書及び公的年金等支払報告書について、退職手当等を有する一定の配偶者及び扶養親族の氏名等を記載し、申告することとする等の措置を講ずる。
(注)上記の改正は、令和5年1月1日以後に支払われる給与等及び公的年金等について適用する。
B 確定申告書における個人住民税に係る附記事項に、退職手当等を有する一定の配偶者及び扶養親族の氏名等を追加する。
(注)上記の改正は、令和4年分以後の確定申告書を令和5年1月1日以後に提出する場合について適用する。
C その他所要の措置を講ずる。
令和4年度税制改正大綱
(1)もあれなんですが、今回は(2)のほうです。
○
これだけ読んでなんのことやら理解できる人はどれだけいるでしょうか。
この中身に入る前に、前提として地方税法における個人住民税(所得割額)の建て付けを説明します(というかこれがメイン)。
【以下のお約束事項】
・地は「地方税法」、所は「所得税法」
・地方税法の引用条文は「道府県民税」で代表させます。
・所得税法200条の場合など、源泉徴収をしない退職所得は考慮外とします。
○
年金収入だけある人であれば、以下の手順で「所得割額」を算出します(ざっくり)。
1 年金収入
2 年金所得
3 総所得金額
4 所得控除
5 課税総所得金額
6 所得割額
このうち1、2の、何が年金収入にあたり、そこからどのように年金所得を算出するかについては、所得税法(政令等含む)に依存しています。
地(所得割の課税標準)
第三十二条 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
他方で、3以下は、地方税法に直接書き込まれています。これは2項にいう「この法律又はこれに基づく政令で特別の定め」にあたります。
つまり、地方税法は、個人住民税について自給自足な定めとなっていないということです。
キマイラ感溢れる継ぎ接ぎ税目。
○
所得税法によれば年金所得は次のように算出されます。
所(雑所得)
第三十五条 雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。
2 雑所得の金額は、次の各号に掲げる金額の合計額とする。
一 その年中の公的年金等の収入金額から公的年金等控除額を控除した残額
二 その年中の雑所得(公的年金等に係るものを除く。)に係る総収入金額から必要経費を控除した金額
3 前項に規定する公的年金等とは、次に掲げる年金をいう。
一 第三十一条第一号及び第二号(退職手当等とみなす一時金)に規定する法律の規定に基づく年金その他同条第一号及び第二号に規定する制度に基づく年金(これに類する給付を含む。第三号において同じ。)で政令で定めるもの
二 恩給(一時恩給を除く。)及び過去の勤務に基づき使用者であつた者から支給される年金
三 確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける年金(第三十一条第三号に規定する規約に基づいて拠出された掛金のうちにその年金が支給される同法第二十五条第一項(加入者)に規定する加入者(同項に規定する加入者であつた者を含む。)の負担した金額がある場合には、その年金の額からその負担した金額のうちその年金の額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額を控除した金額に相当する部分に限る。)その他これに類する年金として政令で定めるもの
4 第二項に規定する公的年金等控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。
一 その年中の公的年金等の収入金額がないものとして計算した場合における第二条第一項第三十号(定義)に規定する合計所得金額(次号及び第三号において「公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額」という。)が千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が六十万円に満たない場合には、六十万円)
イ 四十万円
ロ その年中の公的年金等の収入金額から五十万円を控除した残額の次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める金額
(1) 当該残額が三百六十万円以下である場合 当該残額の百分の二十五に相当する金額
(2) 当該残額が三百六十万円を超え七百二十万円以下である場合 九十万円と当該残額から三百六十万円を控除した金額の百分の十五に相当する金額との合計額
(3) 当該残額が七百二十万円を超え九百五十万円以下である場合 百四十四万円と当該残額から七百二十万円を控除した金額の百分の五に相当する金額との合計額
(4) 当該残額が九百五十万円を超える場合 百五十五万五千円
二 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が千万円を超え二千万円以下である場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が五十万円に満たない場合には、五十万円)
イ 三十万円
ロ 前号ロに掲げる金額
三 その年中の公的年金等に係る雑所得以外の合計所得金額が二千万円を超える場合 次に掲げる金額の合計額(当該合計額が四十万円に満たない場合には、四十万円)
イ 二十万円
ロ 第一号ロに掲げる金額
文字で書かれるとなんのこっちゃ、て感じでしょうが、下記ページの表で「公的年金等控除」の内容をご確認ください。
No.1600 公的年金等の課税関係
ここでは「公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額」によって公的年金等控除額が異なることになっています(4項1号〜3号)。
○
では「合計所得金額」とはなんぞや、ということですが、これは次の箇所に書かれています。
所(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十 寡婦 次に掲げる者でひとり親に該当しないものをいう。
イ 夫と離婚した後婚姻をしていない者のうち、次に掲げる要件を満たすもの
(1) 扶養親族を有すること。
(2) 第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であること。
所(課税標準)
第二十二条 居住者に対して課する所得税の課税標準は、総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 総所得金額は、次節(各種所得の金額の計算)の規定により計算した次に掲げる金額の合計額(第七十条第一項若しくは第二項(純損失の繰越控除)又は第七十一条第一項(雑損失の繰越控除)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
一 利子所得の金額、配当所得の金額、不動産所得の金額、事業所得の金額、給与所得の金額、譲渡所得の金額(第三十三条第三項第一号(譲渡所得の金額の計算)に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び雑所得の金額(これらの金額につき第六十九条(損益通算)の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額
二 譲渡所得の金額(第三十三条第三項第二号に掲げる所得に係る部分の金額に限る。)及び一時所得の金額(これらの金額につき第六十九条の規定の適用がある場合には、その適用後の金額)の合計額の二分の一に相当する金額
3 退職所得金額又は山林所得金額は、それぞれ次節の規定により計算した退職所得の金額又は山林所得の金額(これらの金額につき第六十九条から第七十一条までの規定の適用がある場合には、その適用後の金額)とする。
何「寡婦」引用しちゃってんの、と思うかもしれません(コピペレポートがばれる大学生のごとく)。が、これ間違いではなく。
「寡婦」の定義の中にこっそり紛れていて、これを各所で使いまわしています(不格好)。
そして上記のとおり、「退職所得の金額」も合計所得金額に含まれています。
合計所得金額(国税庁)
(このページは確定申告絡みのページなので参照条文が省略されてしまっていますが、所得税法や租税特別措置法の規律をまとめた結果が書かれています。)
分離だから入れなくていいんじゃないの、と思いきや。
退職所得は確定申告しなくていい(場合がある)とは書いてあるものの、合計所得金額から除かれるということまでは書かれていません。
所(確定所得申告を要しない場合)
第百二十一条
2 その年において退職所得を有する居住者は、次の各号のいずれかに該当する場合には、前条第一項の規定にかかわらず、その年分の課税退職所得金額に係る所得税については、同項の規定による申告書を提出することを要しない。
一 その年分の退職所得に係る第三十条第一項(退職所得)に規定する退職手当等(以下この項において「退職手当等」という。)の全部について第百九十九条(退職所得に係る源泉徴収義務)及び第二百一条第一項(退職所得に係る源泉徴収税額)の規定による所得税の徴収をされた又はされるべき場合
二 前号に該当する場合を除き、その年分の課税退職所得金額につき第八十九条(税率)の規定を適用して計算した所得税の額がその年分の退職所得に係る退職手当等につき源泉徴収をされた又はされるべき所得税の額以下である場合
じゃあ、源泉分離課税・申告不要制度の利子所得や配当所得が加算されないとか、申告分離課税を選択すると加算されるとかそのあたりはどうなっているのか、というと、これは「租税特別措置法」が差配をしています。が、話が長くなるので今回は省略。
措置法が適用される所得については、措置法が足したり引いたりしているわけですが、所得税法本体のみが適用される退職所得については、所得税法で明記されないかぎり、合計所得金額から逃れることはできないということです。
ということで、結論として、多額の退職金をもらった年は、合計所得金額が膨らむことで公的年金等控除が少なくなることになりうるわけです。分離だから総合所得とは無関係、というのではなく、一定の影響を及ぼすことになります。
○
で、「地方税法」の話ですが、年金所得の算出についてはこの所得税法の規律をそのままお借りしているので、個人住民税を計算する際の年金所得も連動します。
ではあるのですが、厄介なのが、上記の通り全面的に所得税法の規律に依存しているのではないということ(キマイラ税目がキマイラたる所以)。
「所得控除」については地方税法に独自の規定が存在しています(以下「配偶者控除」で代表させます)。
地(所得控除)
第三十四条 道府県は、所得割の納税義務者が次の各号に掲げる者のいずれかに該当する場合には、それぞれ当該各号に定める金額をその者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除するものとする。
十 控除対象配偶者を有する所得割の納税義務者 次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める金額
イ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百万円以下である場合 三十三万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者(控除対象配偶者のうち、年齢七十歳以上の者をいう。以下この条及び第三十七条第一号イにおいて同じ。)である場合には、三十八万円)
ロ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百万円を超え九百五十万円以下である場合 二十二万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、二十六万円)
ハ 当該納税義務者の前年の合計所得金額が九百五十万円を超え千万円以下である場合 十一万円(その控除対象配偶者が老人控除対象配偶者である場合には、十三万円)
地(道府県民税に関する用語の意義)
第二十三条 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
八 控除対象配偶者 同一生計配偶者のうち、前年の合計所得金額が千万円以下である道府県民税の納税義務者の配偶者をいう。
配偶者控除が「所得税だと38万円なのに住民税では33万円」などといった違いがあるのは、所得税法83条から5万円減らしている、ということではなく、地方税法自体に33万円と書き込まれているからです。
控除額は異なるものの、要件は同じとなっています(のに、お借りすることなくしっかり書き込まれている)。
ここで所得税法と同じ「合計所得金額」という言葉が出てくるため、所得税法と同じように退職所得も含めて判定するのかと思いきや。
そう早合点してはいけない。
○
「合計所得金額」の定義は地方税法にもあります。
地(道府県民税に関する用語の意義)
第二十三条 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十三 合計所得金額 第三十二条第八項及び第九項の規定による控除前の同条第一項の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額をいう。
寡婦の定義に紛れ込ませるなんてことはせず、ちゃんと独立の号で規定されています。エレガントですね(が、そもそもキマイラ)。
これだけみると、所得税法と言い回しはそっくりなので、やっぱり「退職所得金額」も含まれるんじゃん、と思いきや。
まだ早合点してはいけない。
次の規定により、合計所得金額から退職所得が除かれることになっています。
地(退職所得の課税の特例)
第五十条の二 第二十四条第一項第一号の者が退職手当等(所得税法第百九十九条の規定によりその所得税を徴収して納付すべきものに限る。以下本目において同じ。)の支払を受ける場合には、当該退職手当等に係る所得割は、第三十二条、第三十五条及び第三十九条の規定にかかわらず、当該退職手当等に係る所得を他の所得と区分し、本目に規定するところにより、当該退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日現在におけるその者の住所所在の道府県において課する。
地(所得割の課税標準)
第三十二条 所得割の課税標準は、前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額とする。
2 前項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額は、この法律又はこれに基づく政令で特別の定めをする場合を除くほか、それぞれ所得税法その他の所得税に関する法令の規定による所得税法第二十二条第二項又は第三項の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額の計算の例によつて算定するものとする。ただし、同法第六十条の二から第六十条の四までの規定の例によらないものとする。
この条文だけ読んで、「合計所得金額」から退職所得を除くと読め、というのはかなりの難題。ですが、そう読めということらしい。
我々は結論が分かっているから無理やりにでもそのように読むことができますけども、フラットな状態で読んだとして、そのような理解に到れるかは極めて怪しい。
それはともかく、結果として「配偶者控除」(地)の判定をする際の本人と配偶者の「合計所得金額」には、退職所得は含まれないということになります。
ので、所得税では退職所得のせいで配偶者控除が受けられなかったが、住民税では配偶者控除が受けられる、という事態が生じえます。
【合計所得金額に退職所得は含まれるか?】
所 公的年金等控除 含む
所 所得控除 含む
地 公的年金等控除 含む
地 所得控除 含まない!
総所得金額等の違いについて - 富田林市
(検索して一番上に出てきたので。他意はありません)
上記サイトでは、源泉分離課税の退職所得は合計所得金額に含まれないことが明記されていますが、自治体によっては書かれていないものもあったりします。
また、上記サイトでもさすがに、公的年金等控除を判定する場合には含める、ということまでは書かれていません。
○
ここまでの長い道のりを辿ってはじめて、大綱の「現行法では退職所得が公的年金等控除の判定には含まれるが所得控除の判定には含まれない」ということの意味が理解できることになります。
で、地方税法32条2項でいうところの「この法律又はこれに基づく政令で特別の定め」をおくことで、公的年金等控除についても地方税法の合計所得金額を使う旨を規定するということなのでしょう。
所得の計算に地方税法の独自要素をねじ込むという、現行法の「頭は所得税法、体は地方税法」の均衡を突き崩す、かなり大胆な改正提案だと思うのですが。「頭はライオン、体と口が山羊」的な。
なのに、所得課税のところではなく、納税環境整備のその他なんてところに記載されているという。
また、配偶者・扶養親族の退職所得情報を追加しろ、とも書いてあります。
これはおそらく、本人については支給した会社からだったり確定申告書だったりで把握できるけども、配偶者・扶養親族が退職金もらっているかどうかを把握するのが、現状困難ということなんでしょう。
仮に、所得税の確定申告で配偶者控除の適用を受けていなかったとして、その理由が、配偶者がその年退職金を沢山もらっていたからなのか、それともそれ以外の所得があったからなのか、分からないでしょうし。
「納税環境整備」の箇所に記載されているというのも、改正提案の趣旨が、決して税額を軽減する目的ではなく、自治体が退職所得を把握しやすくする、というのがメインだからではないでしょうか。
で、総務省がなんか要望していて特に害もなさそうだからとりあえず入れておくか、ぐらいのノリ。
このあたりの、所得税と住民税とで連携が取れているようで取れていない、という現状を鑑みるに、やはり、自治体から送られてくる「住民税税額決定通知書」、ちゃんと内容をみて、正しく計算されているか確認するべきものなんでしょう。
○
なお、公的年金等控除と同じポジションのものに「所得金額調整控除」があります。
No.1411所得金額調整控除
給与850万円というのは「収入」判定だからいいとして、同一生計配偶者・扶養親族の合計所得金額や給与・年金双方ある場合の年金所得の計算はどうするんでしょうかね?
自治体の業務効率を図ることがメインで、公的年金等控除の改正はそのバーター、なのだとしたら、所得金額調整控除までは手を加えないのかもしれません。
が、そこだけ残すのも、極めて落ち着きが悪い。
【合計所得金額に退職所得を含めるか?】
所得税 住民税
所得金額調整控除(子ども等) 含める 含める(?)
所得金額調整控除(年金) 含める 含める(?)
公的年金等控除 含める 含める(改正予定)
所得控除 含める 含めない
例による×読替規定の鬼コンボ(その1) 〜地方税法の「合計所得金額」
例による×読替規定の鬼コンボ(その2) 〜地方税法の「合計所得金額」
posted by ウロ at 10:25| Comment(0)
| 地方税法
2020年03月02日
無償減資で均等割下げ(節税系の記事ではなく)
無償減資で均等割が下げられる、というのは、すでに人口に膾炙したところかと思います。
今さらブロク記事にするような人も、ほとんどいないのかもしれません。
が、ここでいう「無償減資」というのを正確に理解しておかないと、それらしい手続をとったのに要件満たしていませんでした、となって、取り返しがつかないことになりかねない。
ということで、条文にそって整理しておきます。
珍しく節税系の記事かと思いきや、お馴染みの条文読み込み系の記事です。
【これと同じノリ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
○
地方税法、地方税法施行規則、会社法、会社計算規則に跨っていますので、順をおって記述していきます(例によって条文は適宜省略いれています)。
まずスタートは、何を基準に均等割が決まるかです。
地方税法 第五十二条(法人の均等割の税率)
1 法人の均等割の標準税率は、次の表の上欄に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に定める額とする。
二 資本金等の額を有する法人で資本金等の額が千万円を超え一億円以下であるもの 年額五万円
均等割は「資本金等の額」を基準に算定されるとあります。
「資本金等の額」とは何かというと、
地方税法 第二十三条(道府県民税に関する用語の意義)
1 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
四の五 資本金等の額 次に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ次に定める額をいう。
イ 第五十三条第一項の規定により申告納付する法人 同項に規定する法人税額の課税標準の算定期間の末日現在における法人税法第二条第十六号に規定する資本金等の額と、当該算定期間の初日前に終了した各事業年度(イ及びロにおいて「過去事業年度等」という。)の(1)に掲げる金額の合計額から過去事業年度等の(2)及び(3)に掲げる金額の合計額を控除した金額に、当該算定期間中の(1)に掲げる金額を加算し、これから当該算定期間中の(3)に掲げる金額を減算した金額との合計額
法人税法上の「資本金等の額」に何やら調整を加えるのだと。
法人税法上の「資本金等の額」については、法人税法施行令に鬼のような加減算がありますが、話が長くなるので中身については省略します。
法人税法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十六 資本金等の額 法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいう。
ということで、地方税法上の「資本金等の金額」を式で書くと次のとおり。
=地方税法上の資本金等の金額
法人税法上の資本金等の金額
+過去事業年度の(1)
−過去事業年度の(2)(3) 《控除》
「控除」とあるので、ここまででマイナスなら零とします。そして、
+当該算定期間の(1) 加算
−当該算定期間の(3) 減算
と、ここは加算・減算なので、もしマイナスになるならマイナスとする、ということです。
○
この、控除・加算・減算する(1)(2)(3)が、複数法令を引用しているので、分解して整理します。
(1)
平成二十二年四月一日以後に、会社法第四百四十六条に規定する剰余金(同法第四百四十七条又は第四百四十八条の規定により資本金の額又は資本準備金の額を減少し、剰余金として計上したものを除き、総務省令で定めるものに限る。)を同法第四百五十条の規定により資本金とし、又は同法第四百四十八条第一項第二号の規定により利益準備金の額の全部若しくは一部を資本金とした金額
会社法 第四百四十六条(剰余金の額)
株式会社の剰余金の額は、第一号から第四号までに掲げる額の合計額から第五号から第七号までに掲げる額の合計額を減じて得た額とする。(各号は省略)
会社法 第四百四十七条(資本金の額の減少)
1 株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
会社法 第四百四十八条(準備金の額の減少)
1 株式会社は、準備金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
二 減少する準備金の額の全部又は一部を資本金とするときは、その旨及び資本金とする額
地方税法施行規則 第一条の九の四(法第二十三条第一項第四号の五イ(1)に規定する剰余金として計上したもの等)
1 法第二十三条第一項第四号の五イ(1)に規定する総務省令で定めるものは、会社計算規則第二十九条第二項第一号に規定する額とする。
会社計算規則 第二十九条 (その他利益剰余金の額)
2 株式会社のその他利益剰余金の額は、次項、前三款及び第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が減少するものとする。
一 法第四百五十条の規定により剰余金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額(その他利益剰余金に係る額に限る。)に相当する額
会社法 第四百五十条(資本金の額の増加)
株式会社は、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 減少する剰余金の額
二 資本金の額の増加がその効力を生ずる日
以上から、(1)に含まれるのは平成22.4.1以降の、
利益剰余金⇒資本金
利益準備金⇒資本金
に限られ、
資本剰余金⇒資本金
資本準備金⇒資本金
は括弧書きによって除かれていることがわかります。
(2)
平成十三年四月一日から平成十八年四月三十日までの間に、資本の減少(金銭その他の資産を交付したものを除く。)による資本の欠損の填補に充てた金額並びに会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律((2)において「会社法整備法」という。)第六十四条の規定による改正前の商法((2)において「旧商法」という。)第二百八十九条第一項及び第二項に規定する資本準備金による旧商法第二百八十九条第一項及び第二項第二号に規定する資本の欠損の填補に充てた金額
旧法の引用は省略しますが、(2)には平成13.4.4から18.4.30までの
資本金⇒欠損填補
資本準備金⇒欠損填補
が含まれ、(3)との対比でいうと、資本剰余金を経由する必要がないことになります。
(3)
平成十八年五月一日以後に、会社法第四百四十六条に規定する剰余金(同法第四百四十七条又は第四百四十八条の規定により資本金の額又は資本準備金の額を減少し、剰余金として計上したもので総務省令で定めるものに限る。)を同法第四百五十二条の規定により総務省令で定める損失の填補に充てた金額
会社法四百四十六条、第四百四十七条、第四百四十八条は(1)と同じ。
地方税法施行規則 第一条の九の四(法第二十三条第一項第四号の五イ(1)に規定する剰余金として計上したもの等)
2 法第二十三条第一項第四号の五イ(3)に規定する剰余金として計上したもので総務省令で定めるものは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める額とする。
一 会社法第四百四十七条の規定により資本金の額を減少した場合 会社計算規則第二十七条第一項第一号に規定する額
二 会社法第四百四十八条の規定により準備金の額を減少した場合 会社計算規則第二十七条第一項第二号に規定する額
3 前項各号に定める額は、会社法第四百五十二条の規定により損失の填補に充てた日以前一年間において剰余金として計上した額に限るものとする。
4 法第二十三条第一項第四号の五イ(3)に規定する総務省令で定める損失は、会社法第四百五十二条の規定により損失の填補に充てた日における会社計算規則第二十九条に規定するその他利益剰余金の額が零を下回る場合における当該零を下回る額とする。
会社計算規則 第二十七条(その他資本剰余金の額)
1 株式会社のその他資本剰余金の額は、第一款及び第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が増加するものとする。
一 法第四百四十七条の規定により資本金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額に相当する額
二 法第四百四十八条の規定により準備金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額に相当する額
会社法 第四百五十二条(剰余金についてのその他の処分)
株式会社は、株主総会の決議によって、損失の処理、任意積立金の積立てその他の剰余金の処分(前目に定めるもの及び剰余金の配当その他株式会社の財産を処分するものを除く。)をすることができる。この場合においては、当該剰余金の処分の額その他の法務省令で定める事項を定めなければならない。
以上から、(3)には平成18.5.1以降の、
資本金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
資本準備金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
が含まれていることがわかります。
・資本剰余金を経由する必要があること、
・資本金、資本準備金を減少して生じた資本剰余金であること
・資本剰余金に振り替えてから1年以内に欠損填補すること
というのがポイントですかね。
○
均等割の算定基準、もう一つ重要なルールがあります。
第五十二条(法人の均等割の税率)
2 法人の均等割の税率は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、当該各号に定める日現在における税率による。
一 次条第一項の規定により申告納付する法人 当該法人の同項に規定する法人税額の課税標準の算定期間の末日
4 第二項第一号に掲げる法人の資本金等の額が、同号に定める日現在における資本金の額及び資本準備金の額の合算額に満たない場合における第一項の規定の適用については、同項の表の第一号ホ中「資本金等の額が」とあるのは「次項第一号に定める日現在における資本金の額及び資本準備金の額の合算額が」と、同表の第二号から第五号までの規定中「資本金等の額が」とあるのは「次項第一号に定める日現在における資本金の額及び資本準備金の額の合算額が」とする。
地方税法上の資本金等の金額 < 会計上の資本金+資本準備金の合計額
の場合は、右辺が基準となります。
これは「自己株式の取得」などで、資本金等の金額が会計上の資本金・資本準備金を下回った場合などにきいてくるルールです。
張り切って左辺を減少させても、あわせて右辺も減少しておかないと意味がない、ということです。
○
以上を整理すると次のとおり。
【均等割の算定基準】
地方税法上の資本金等の金額
=法人税法上の資本金等の金額
+過去事業年度の(1)
−過去事業年度の(2)(3) 《控除》
+当該算定期間の(1) 加算
−当該算定期間の(3) 減算
(1)22.4.1〜 無償増資
利益剰余金⇒資本金
利益準備金⇒資本金
(2)13.4.1〜18.4.30 無償減資
資本金⇒欠損填補
資本準備金⇒欠損填補
(3)18.5.1〜 無償減資
資本金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
資本準備金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
地方税法上の資本金等の金額 < 会計上の資本金+資本準備金の合計額
の場合は、右辺を基準とする。
○
並べてみて思ったのが、(1)と(3)が表裏になっていないこと。
たとえばですけど、
資本金 1000万円
資本剰余金 500万円
利益剰余金 ▲1000万円
という会社があったとして、
資本剰余金をいきなり欠損填補にあててしまうと、(3)の流れに該当しないし、また1年以内という期間制限も超過してしまっているはずです。
× 資本剰余金⇒欠損填補
そこで、資本剰余金を一旦資本金なり資本準備金に振り替えてから、再度資本剰余金に戻して欠損填補したら(3)に該当することになるんでしょうか。
1資本剰余金⇒2資本金or資本準備金⇒3資本剰余金⇒4欠損填補
1⇒2は(1)に該当しないので加算されないし、2⇒3⇒4は形式的には(3)に該当しています。
実際にこういう状態が生じるのか、すぐに思いつかないのですが、たぶんありえますよね。
今さらブロク記事にするような人も、ほとんどいないのかもしれません。
が、ここでいう「無償減資」というのを正確に理解しておかないと、それらしい手続をとったのに要件満たしていませんでした、となって、取り返しがつかないことになりかねない。
ということで、条文にそって整理しておきます。
珍しく節税系の記事かと思いきや、お馴染みの条文読み込み系の記事です。
【これと同じノリ】
みんな大好き!倒産防。 〜措置法解釈手習い
○
地方税法、地方税法施行規則、会社法、会社計算規則に跨っていますので、順をおって記述していきます(例によって条文は適宜省略いれています)。
まずスタートは、何を基準に均等割が決まるかです。
地方税法 第五十二条(法人の均等割の税率)
1 法人の均等割の標準税率は、次の表の上欄に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に定める額とする。
二 資本金等の額を有する法人で資本金等の額が千万円を超え一億円以下であるもの 年額五万円
均等割は「資本金等の額」を基準に算定されるとあります。
「資本金等の額」とは何かというと、
地方税法 第二十三条(道府県民税に関する用語の意義)
1 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
四の五 資本金等の額 次に掲げる法人の区分に応じ、それぞれ次に定める額をいう。
イ 第五十三条第一項の規定により申告納付する法人 同項に規定する法人税額の課税標準の算定期間の末日現在における法人税法第二条第十六号に規定する資本金等の額と、当該算定期間の初日前に終了した各事業年度(イ及びロにおいて「過去事業年度等」という。)の(1)に掲げる金額の合計額から過去事業年度等の(2)及び(3)に掲げる金額の合計額を控除した金額に、当該算定期間中の(1)に掲げる金額を加算し、これから当該算定期間中の(3)に掲げる金額を減算した金額との合計額
法人税法上の「資本金等の額」に何やら調整を加えるのだと。
法人税法上の「資本金等の額」については、法人税法施行令に鬼のような加減算がありますが、話が長くなるので中身については省略します。
法人税法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十六 資本金等の額 法人が株主等から出資を受けた金額として政令で定める金額をいう。
ということで、地方税法上の「資本金等の金額」を式で書くと次のとおり。
=地方税法上の資本金等の金額
法人税法上の資本金等の金額
+過去事業年度の(1)
−過去事業年度の(2)(3) 《控除》
「控除」とあるので、ここまででマイナスなら零とします。そして、
+当該算定期間の(1) 加算
−当該算定期間の(3) 減算
と、ここは加算・減算なので、もしマイナスになるならマイナスとする、ということです。
○
この、控除・加算・減算する(1)(2)(3)が、複数法令を引用しているので、分解して整理します。
(1)
平成二十二年四月一日以後に、会社法第四百四十六条に規定する剰余金(同法第四百四十七条又は第四百四十八条の規定により資本金の額又は資本準備金の額を減少し、剰余金として計上したものを除き、総務省令で定めるものに限る。)を同法第四百五十条の規定により資本金とし、又は同法第四百四十八条第一項第二号の規定により利益準備金の額の全部若しくは一部を資本金とした金額
会社法 第四百四十六条(剰余金の額)
株式会社の剰余金の額は、第一号から第四号までに掲げる額の合計額から第五号から第七号までに掲げる額の合計額を減じて得た額とする。(各号は省略)
会社法 第四百四十七条(資本金の額の減少)
1 株式会社は、資本金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
会社法 第四百四十八条(準備金の額の減少)
1 株式会社は、準備金の額を減少することができる。この場合においては、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
二 減少する準備金の額の全部又は一部を資本金とするときは、その旨及び資本金とする額
地方税法施行規則 第一条の九の四(法第二十三条第一項第四号の五イ(1)に規定する剰余金として計上したもの等)
1 法第二十三条第一項第四号の五イ(1)に規定する総務省令で定めるものは、会社計算規則第二十九条第二項第一号に規定する額とする。
会社計算規則 第二十九条 (その他利益剰余金の額)
2 株式会社のその他利益剰余金の額は、次項、前三款及び第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が減少するものとする。
一 法第四百五十条の規定により剰余金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額(その他利益剰余金に係る額に限る。)に相当する額
会社法 第四百五十条(資本金の額の増加)
株式会社は、剰余金の額を減少して、資本金の額を増加することができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 減少する剰余金の額
二 資本金の額の増加がその効力を生ずる日
以上から、(1)に含まれるのは平成22.4.1以降の、
利益剰余金⇒資本金
利益準備金⇒資本金
に限られ、
資本剰余金⇒資本金
資本準備金⇒資本金
は括弧書きによって除かれていることがわかります。
(2)
平成十三年四月一日から平成十八年四月三十日までの間に、資本の減少(金銭その他の資産を交付したものを除く。)による資本の欠損の填補に充てた金額並びに会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律((2)において「会社法整備法」という。)第六十四条の規定による改正前の商法((2)において「旧商法」という。)第二百八十九条第一項及び第二項に規定する資本準備金による旧商法第二百八十九条第一項及び第二項第二号に規定する資本の欠損の填補に充てた金額
旧法の引用は省略しますが、(2)には平成13.4.4から18.4.30までの
資本金⇒欠損填補
資本準備金⇒欠損填補
が含まれ、(3)との対比でいうと、資本剰余金を経由する必要がないことになります。
(3)
平成十八年五月一日以後に、会社法第四百四十六条に規定する剰余金(同法第四百四十七条又は第四百四十八条の規定により資本金の額又は資本準備金の額を減少し、剰余金として計上したもので総務省令で定めるものに限る。)を同法第四百五十二条の規定により総務省令で定める損失の填補に充てた金額
会社法四百四十六条、第四百四十七条、第四百四十八条は(1)と同じ。
地方税法施行規則 第一条の九の四(法第二十三条第一項第四号の五イ(1)に規定する剰余金として計上したもの等)
2 法第二十三条第一項第四号の五イ(3)に規定する剰余金として計上したもので総務省令で定めるものは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める額とする。
一 会社法第四百四十七条の規定により資本金の額を減少した場合 会社計算規則第二十七条第一項第一号に規定する額
二 会社法第四百四十八条の規定により準備金の額を減少した場合 会社計算規則第二十七条第一項第二号に規定する額
3 前項各号に定める額は、会社法第四百五十二条の規定により損失の填補に充てた日以前一年間において剰余金として計上した額に限るものとする。
4 法第二十三条第一項第四号の五イ(3)に規定する総務省令で定める損失は、会社法第四百五十二条の規定により損失の填補に充てた日における会社計算規則第二十九条に規定するその他利益剰余金の額が零を下回る場合における当該零を下回る額とする。
会社計算規則 第二十七条(その他資本剰余金の額)
1 株式会社のその他資本剰余金の額は、第一款及び第四節に定めるところのほか、次の各号に掲げる場合に限り、当該各号に定める額が増加するものとする。
一 法第四百四十七条の規定により資本金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額に相当する額
二 法第四百四十八条の規定により準備金の額を減少する場合 同条第一項第一号の額に相当する額
会社法 第四百五十二条(剰余金についてのその他の処分)
株式会社は、株主総会の決議によって、損失の処理、任意積立金の積立てその他の剰余金の処分(前目に定めるもの及び剰余金の配当その他株式会社の財産を処分するものを除く。)をすることができる。この場合においては、当該剰余金の処分の額その他の法務省令で定める事項を定めなければならない。
以上から、(3)には平成18.5.1以降の、
資本金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
資本準備金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
が含まれていることがわかります。
・資本剰余金を経由する必要があること、
・資本金、資本準備金を減少して生じた資本剰余金であること
・資本剰余金に振り替えてから1年以内に欠損填補すること
というのがポイントですかね。
○
均等割の算定基準、もう一つ重要なルールがあります。
第五十二条(法人の均等割の税率)
2 法人の均等割の税率は、次の各号に掲げる法人の区分に応じ、当該各号に定める日現在における税率による。
一 次条第一項の規定により申告納付する法人 当該法人の同項に規定する法人税額の課税標準の算定期間の末日
4 第二項第一号に掲げる法人の資本金等の額が、同号に定める日現在における資本金の額及び資本準備金の額の合算額に満たない場合における第一項の規定の適用については、同項の表の第一号ホ中「資本金等の額が」とあるのは「次項第一号に定める日現在における資本金の額及び資本準備金の額の合算額が」と、同表の第二号から第五号までの規定中「資本金等の額が」とあるのは「次項第一号に定める日現在における資本金の額及び資本準備金の額の合算額が」とする。
地方税法上の資本金等の金額 < 会計上の資本金+資本準備金の合計額
の場合は、右辺が基準となります。
これは「自己株式の取得」などで、資本金等の金額が会計上の資本金・資本準備金を下回った場合などにきいてくるルールです。
張り切って左辺を減少させても、あわせて右辺も減少しておかないと意味がない、ということです。
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以上を整理すると次のとおり。
【均等割の算定基準】
地方税法上の資本金等の金額
=法人税法上の資本金等の金額
+過去事業年度の(1)
−過去事業年度の(2)(3) 《控除》
+当該算定期間の(1) 加算
−当該算定期間の(3) 減算
(1)22.4.1〜 無償増資
利益剰余金⇒資本金
利益準備金⇒資本金
(2)13.4.1〜18.4.30 無償減資
資本金⇒欠損填補
資本準備金⇒欠損填補
(3)18.5.1〜 無償減資
資本金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
資本準備金⇒資本剰余金⇒欠損填補(1年以内)
地方税法上の資本金等の金額 < 会計上の資本金+資本準備金の合計額
の場合は、右辺を基準とする。
○
並べてみて思ったのが、(1)と(3)が表裏になっていないこと。
たとえばですけど、
資本金 1000万円
資本剰余金 500万円
利益剰余金 ▲1000万円
という会社があったとして、
資本剰余金をいきなり欠損填補にあててしまうと、(3)の流れに該当しないし、また1年以内という期間制限も超過してしまっているはずです。
× 資本剰余金⇒欠損填補
そこで、資本剰余金を一旦資本金なり資本準備金に振り替えてから、再度資本剰余金に戻して欠損填補したら(3)に該当することになるんでしょうか。
1資本剰余金⇒2資本金or資本準備金⇒3資本剰余金⇒4欠損填補
1⇒2は(1)に該当しないので加算されないし、2⇒3⇒4は形式的には(3)に該当しています。
実際にこういう状態が生じるのか、すぐに思いつかないのですが、たぶんありえますよね。
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posted by ウロ at 11:23| Comment(0)
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