2022年03月21日

リーガルマインド事業場外労働のみなし労働時間制

 制度自体は皆さんご存知、ということで特に論点らしい論点もないのでしょうが。

 労働基準法の条文を読む練習ということで。


労働基準法 第三十八条の二(事業場外労働)
1 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。


○1項本文

【事例1】
 ・所定労働時間7時間 /法定労働時間8時間

 労働時間を算定し難いときは、
  全部外勤:外勤 →7時間とみなす
  一部外勤:外勤+内勤 →あわせて7時間とみなす

 「全部又は一部」とあることから、全部外勤の場合に外勤7時間とみなすだけでなく、一部外勤の場合に外勤+内勤で7時間とみなすことになります。

○1項但書

【事例2】
 ・所定労働時間7時間 /法定労働時間8時間 /通常必要時間8時間(外勤)

 所定労働時間を超えることが必要なときは、
  外勤 →8時間(通常必要時間)とみなす

 この場合、みなされるのは「当該業務」(=外勤)だけで、内勤は対象になっていません。1項本文のように外勤+内勤あわせてみなされるわけではありません。

 それゆえ、内勤については別途、「実労働時間」を把握する必要があります。

  全部外勤:外勤8時間(みなし労働時間)
  一部外勤:外勤8時間(みなし労働時間)+内勤○時間(実労働時間)

○2項、3項

 「当該業務」(=外勤)とあるので、協定で定めることができるのは外勤のみとなります。
 そして「前項の協定」とあるので、届出書に記載するのも「外勤」のみです。

 1項但書とは別に2項の労使協定があるのは、通常必要時間を決め打ちすることで安定的な運用ができるようにしよう、ということなのでしょう。労働者側の同意もあるならば正統性・妥当性も担保できるでしょうと。

 届出書の提出範囲については、施行規則に規定があります。

労働基準法施行規則 第二十四条の二
1 法第三十八条の二第一項の規定は、法第四章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する。
2 法第三十八条の二第二項の協定(労働協約による場合を除き、労使委員会の決議及び労働時間等設定改善委員会の決議を含む。)には、有効期間の定めをするものとする。
3 法第三十八条の二第三項の規定による届出は、様式第十二号により、所轄労働基準監督署長にしなければならない。ただし、同条第二項の協定で定める時間が法第三十二条又は第四十条に規定する労働時間以下である場合には、当該協定を届け出ることを要しない。
4 使用者は、法第三十八条の二第二項の協定の内容を法第三十六条第一項の規定による届出(労使委員会の決議の届出及び労働時間等設定改善委員会の決議の届出を除く。)に付記して所轄労働基準監督署長に届け出ることによつて、前項の届出に代えることができる。


○規3項

 法定労働時間(法32条)を超えなければ提出不要とありますが、「協定で定める時間」とあることから外勤のみで判定することになります。

【事例3】
 ・外勤協定時間9時間 →提出必要
 ・外勤協定時間8時間+内勤時間2時間 →提出不要

 もちろん、あわせて法定外の時間外労働が生じれば、別途36協定の締結・提出が必要となります。


 このように、1項本文とそれ以降のみなしの対象がずれていることから、次のような疑問が生じます。

 たとえば、内勤時間に合わせて外勤時間を調整するような運用をしている場合はどうなるのでしょうか。内勤がなければ1日中外勤だが、内勤があればその分外勤を減らすといったような場合です。
 もちろん、外勤時間の把握はできない前提なので、あくまでも目安としての時間です。

 これが所定労働時間内に収まっていれば、内訳がどうであろうと所定労働時間とみなされるだけですみます。

【事例4】
 所定労働時間内に収まる
 ・外勤7時間
 ・内勤1時間+外勤6時間
 ・内勤4時間+外勤3時間
 →いずれも7時間とみなす(外勤の時間は目安であって実労働時間ではない)

 では、所定労働時間を超える運用をしている場合はどうでしょうか。

【事例5】
 ・外勤8時間
 ・内勤1時間+外勤7時間
 ・内勤4時間+外勤4時間

 常に超えるなら、その所定労働時間なんなの、というのはさておき。
 内勤時間に応じて、みなされる外勤の通常必要時間も可変するということになるでしょうか。

 また、労使協定をするならば、内勤時間に応じた外勤時間の書き分けが必要ということでしょうか。そして、書き分けた協定書のうち、外勤のみで法定労働時間を超える部分だけを提出するんだと。

 以上はあくまで条文を読んだ限りで思いついた疑問にすぎません。
 実務的にはつつがなく運用がなされているところなのでしょう。
posted by ウロ at 12:15| Comment(0) | 労働法

2022年03月14日

水町勇一郎「集団の再生」(有斐閣2005)

 一体いつ・どこで・なぜ購入したのか、自分でもまるで記憶のない書籍というものが、いくつかありまして。



水町勇一郎「集団の再生 アメリカ労働法制の歴史と理論」(有斐閣2005)

 本書についても、おそらく労働法について特に関心があったわけでもない時期に購入しているはずです。
 教科書・体系書ならともかく、よくもまあ研究書にまで手を出していたなあと。

 しかも、サブタイトルを見る限り、私の好みでない「おける論文」ぽいですし。
 
法学研究書考 〜部門別損益分析論

 なお、「おける論文」それ自体が悪いということではなく。
 私のようなド素人が読みものとして嗜むには「つまんない」というだけの話です。

 おそらくメインタイトルだけをみて「なんか格好良さそう」という印象だけで購入したのではないでしょうか。

 残念ながら、現時点では「まともな」値段では購入できなくなっています。
 やはり感じ入るものがあったら、「出版即購入積読」仕草をとっておくべきなのでしょう。
 
【クレイジープライス集】
金子宏・中里実「租税法と民法」(有斐閣2018)

 本来であれば、「感じ入る」なんてスピリチュアルな理由ではなく、ちゃんと中身を確認してから購入したいところ。
 が、ゴリゴリの研究書が一般的なリアル書店に入荷されることなんておよそなく、ネット上でも試し読みができるものはほとんどない。

 http://yuhikaku.co.jp/books/detail/4641143536

 ということでやはり、出版社のサイトの数少ない情報から「感じ取る」しかない。


 さて、ここまで前置きを書いておきながら、中身の評価は例によって致しません。
 偉そうに評価できるほどのモノが、私には備わっていませんので。

 ただ一言だけ。

 標準的な書籍では、「アメリカ労働法は解雇自由!」みたいな一面的な理解がされがち。
 ですが、歴史を辿っていくと、「自由」一辺倒ではなく、そのときどきの政治・経済状況により「集団」の側からの挑戦を受け続けてきた、ということが、本書を読むと分かります。

 「おける論文」とともに「史モノ」も苦手は私ですが、本書は特に苦痛なく読めました。
 水町先生の歴史の書き方が非常にうまい、ということかもしれません(偉そうに)。

 日本法への示唆が薄いのはいつものことですが、ここは他著を読め、ということでしょうか。
 最近になって体系書を出版されたところですし。



 水町勇一郎「詳解 労働法 第2版」(東京大学出版会2021)

 そして教科書でも、歴史の記述がしっかりされていますし。



 水町勇一郎「労働法 第9版」(有斐閣2022)
posted by ウロ at 11:11| Comment(0) | 労働法

2022年03月07日

リーガルマインド年次有給休暇 〜原則付与と比例付与

 年次有給休暇の原則付与と比例付与の対象者の切り分けについて。

 結論自体は各種手引、リーフレットなどで自明でしょうが、それが条文上どのように規律されているか、確認をしてみます。


 まずは条文から。原則付与/例外付与の切り分けに関する箇所だけ抜粋します。
 施行規則24条の3で規定されている時間・日数は【 】で組み込んでおきます。

 オリジナルはこちらでご確認ください。

労働基準法(e-Gov)
労働基準法施行規則(e-Gov)

労働基準法 第三十九条(年次有給休暇)
1 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
2 (略)
3 次に掲げる労働者(一週間の所定労働時間が【30時間】以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前二項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の一週間の所定労働日数【5.2日】(第一号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の一週間の所定労働日数又は一週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令Bで定める日数とする。
一 一週間の所定労働日数が【4日】以下の労働者
二 週以外の期間によつて所定労働日数が定められている労働者については、一年間の所定労働日数が【216日】以下の労働者
(以下略)



 よくある《労務お役立ちブログ》だと、次のような感じでまとめられています。

1 通常の労働者(週5.2日) 原則付与
2 週30時間未満で週4日以下 比例付与
3 週30時間未満で年216日以下 比例付与

 如何にも条文どおりを装っていますが、出来損ない。
 時間/週、日数/週、日数/年が無秩序に列挙されているだけで全く整理がされていない。

 非専門家向けに分かりやすく、といっても漏れや被りがあるのでは使いものにならない、ということを以前、年末調整の対象者や源泉徴収票の提出範囲に関して論じました。

リーガルマインド年末調整(その1) 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克
リーガルマインド法定調書合計表 〜規範論的アプローチと類型論的アプローチの相克

 ここでも同じ事態が生じているのではないか、と思うわけです。
 ということで、条文構造を順に追ってみましょう。

【お約束事項】
・「時間」「日数」は、いずれも「所定労働時間」「所定労働日数」のことです。
・3項の1号・2号は、単に「1号」「2号」といいます。


 まず1項・2項では、比例付与云々にかかわらず、一旦、全労働者を原則付与の対象に入れています。

 次に3項で、比例付与の対象者を列挙し、それら労働者は1項・2項とは異なる年休日数が付与されることが規定されています。
 ただし、3項はあくまでも「付与日数」に関する例外規定なので、1項・2項で全労働者に要求されている「継続勤務」や「8割以上出勤」は、比例付与の対象者にも要求されたままとなります。

 さらに3項では、「週30時間以上の労働者」が比例付与の対象者から除外されています。比例付与の対象者から除外されることで、1項・2項の原則付与に戻るということです。

 このように、条文構造上は原則としての1項・2項があり、3項で日数が比例付与になる例外を定めています。よくある解説モノで書かれているように、フルタイム用の年休制度とパートタイム用の年金制度が別々に存在しているわけではないということです。


 これらを踏まえた上で、時間/週、日数/週、日数/年の違いを意識して整理をすると、次のようになります。
年休比例付与1.png

・分かりやすさを重視して「通常の労働者(週5.2日)」を盛り込んでみましたが、これは1号の裏返しである「週4日超」に包含されるため、この列は削除してもよいです。

・条文裏返しを慎重に行うために「週4日超」と表現していますが、これは要するに「週5日以上」のことです。
 ではありますが、1時間でも8時間でも1日は1日とカウントするので、「4日超」のほうがしっくりくるかもしれません。

・週4日であっても週30時間以上であれば原則付与の対象となります(たとえば、8時間×4日=32時間)。
 また、1日あたりの所定労働時間が短くても週5日であれば原則付与の対象となります(たとえば、4時間×5日=20時間)。
 その結果、1号で比例付与の対象となるのは、「週30時間未満・不特定」かつ「週4日以下」の場合となります。

・単に「週30時間未満」ではなく「週30時間未満・不特定」と書いているのは、次のような考慮からです。
 すなわち、「日数/週」「日数/月」「日数/年」などと所定労働日数の定めがされている場合であっても、必ずしも「時間/週」まで特定されているとは限りません。のに、もし「週30時間以上」の裏返しを「週30時間未満」と記述してしまうと、「時間/週」が特定されていない場合にあてはめが不能になってしまいます。
 条文上も、「週30時間以上」を比例付与から除外しているのであって「週30時間未満」を残しているのではありません。
 以上のことを正確に表現するため、週時間が「不特定」な場合も明示することにしました。

 なお、「時間/週」が不特定でも、たとえば「時間/年」が特定されていればこれを52週で割ることで週あたりの時間を算出する、という考えもありうるかもしれません。
 が、1号・2号が「日数/週」「日数/年」それぞれに別ルールを適用していることからすると、「時間/年」を割って「時間/週」に均してしまうのは正しくないように思えます。

・週以外の期間で日数が定められている場合は、「日数/年」で判定します。
 他方で、週による日数の定めがあるかぎりは表Aで判定します。同じ労働者につき「日数/週」と「日数/年」を併用して判定することはありえません。
 規則3項の表では「日数/週」と「日数/年」が横並びで記述されてしまっていますが、本来は別々の表にしたほうが望ましいです。

・3項は、条文構造上、「週4日以下の労働者」(1号)・「週以外の期間で日数が定められている労働者」(2号)から「週30時間以上の者」を除外しています。
 上述のとおり、「日数/週」「日数/月」「日数/年」といった所定労働日数の定めがあるからといって、「時間/週」まで特定できるとは限りません。とすると、「週30時間以上の者」を除いて残った労働者には、「週30日未満の労働者」だけでなく「週時間不特定の労働者」もいるはずです。
 特に、2号の場合には「時間/週」が特定できるような定めは現実的には考えにくいように思われます。


 上記の表は、1号(A)と2号(B)とでそれぞれ分けたものです。
 そうではなく、「週30時間以上ならば所定労働日数を問わず原則付与」という3項本文の除外規定を頭にもってくるならば、次のようになるでしょうか。

年休比例付与2.png

 「週30時間以上」の場合は原則付与一択なので、もはや表にする必要がないです。
 bの見出しに「週時間不特定」を入れている理由は上述のとおりです。

 前の表とどちらでもよいのですが、3項の条文構造と馴染むのは前の表のほうです。
 ですが個人的には、週30時間以上なら問答無用で原則付与であることが分かりやすく表現されており、かつ表1つですませられるこちらのほうが好みです。


 以上を、《労務お役立ちブログ》風に横並びで整理するならば、次のようになります。

1 週30時間以上(日数は問わない) 原則付与
2 週5日以上(時間は問わない) 原則付与
3 年216日超(日数/週設定ない場合) 原則付与

4 週30時間未満・不特定で週4日以下 比例付与
5 週30時間未満・不特定で年216日以下(日数/週設定ない場合) 比例付与

 やはり表形式のほうが理解しやすいですね。


 なお、最初に書いた【お約束事項】のとおり、本記事では言葉を省略してしまっていますが、原則付与/比例付与の判定につかう時間・日数は、いずれも「所定」労働時間・日数です。

 仮に、年休発生日を少なくするために、予想される実労働時間・日数を下回る「所定」労働時間・日数を意図的に設定した場合(法定内・所定外労働時間が恒常的に発生する)、どのように評価されるでしょうか。
 所定外労働分の賃金(割増なし)が別途発生するものの、当初の賃金設定で調整はできるでしょうし。

 「労働契約書には週4日と書いてあるが本当の意思は週5日だ」などと、書かれざる当事者の意思を認定するといった手法で穴埋めされることになるのかどうか。
posted by ウロ at 11:05| Comment(0) | 労働法

2022年01月24日

土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)

 改訂チキンレースに打ち克つことができました。



 土田道夫「労働契約法 第2版」(有斐閣2016)

 「改訂チキンレース」とは、積読本に対し、通読が先か改訂版の出版が先かを競うものです。

 私がなぜ本書を購入していたのか記憶はないのですが、おそらく厚めの体系書フェチとしての嗅覚が作動したのでしょう。で、購入したものの、差し迫った必要があったわけではなかったため、まあ積みますよね。
 が、結構お高いですし、未開のまま改訂版がでるのは悲しいということで、どうにか通読しました(理解できているかどうかは別問題)。


 タイトルが「労働契約法」となっていますが、実定法としての『労働契約法』の解説だけに限定しているのではなく。

 『労働契約法』の解説だけで986頁も書くのは、さすがに難しいでしょう。下記書籍はまさしく『労働契約法』だけの解説本ですが、「詳説」を名乗ってはいても本文298頁どまりです(残りは資料編)。



 荒木尚志ほか「詳説 労働契約法 第2版」(弘文堂2014)


 類書と比べた本書の特徴は、労働法全体を『契約法』の観点から詳細に記述している点にあります。

 労働法規は、民事法/行政法/刑事法と複数の顔があります。のに、類書だとそのことについての一般的な説明はあるものの、個別の記述においてはこの違いが意識されていることはあまりないです。

 対して、本書は契約法(民事法)の観点に視点を絞った記述をしています。記述の仕方として《労使間の合意により労働契約が成立し、それが労働条件に反映される》という枠組みが徹底されているので、読み進めていくうちに、自然とそのような思考スタイルで考えられるようになってきます。

 通常この手の鈍器系体系書は必要箇所だけ辞書的につまみ食いしがち。ですが、本書は頭から通読することで、より効用が得られるように思います。


 このような思考スタイルが身につくと、労働基準法などの労働法規の位置づけもよく理解できます。

 普通に労働法の勉強をしていると、法律から直接、あらゆる労働条件が発生するかのように錯覚しがち。
 ですが、たとえば1日何時間働けばよいかについては、前提として労働契約において労働時間の定めが存在している必要があります。労働基準法は、あくまでも約定の労働時間が法定労働時間を超過している場合にかぎり発動されるものです。労使間の約定がないのに、勝手に労働時間を創出するものではありません。
 もしかしたら将来的に、「一定時間以上働ける権利」みたいなものが創設されることがあるかもしれませんが(ある種のパラダイムシフトが必要でしょう)。

 以前、労働契約の「解約ルール」について検討した際も、ベースは労働契約における当事者の合意にあって、それを民法・労基法・労契法がどのように制約しているか、という観点から論じました。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約

 やはり労働法の勉強をスタートするにあたっては、いきなり労働基準法などの労働法規から手を付けるのではなく、民法の契約法まわりから始めて、契約法の基礎理論を身につけるべきではないかと思います(近時の「同一労働同一賃金」などの衡平志向な風潮からすると、より遡って憲法から、とすべきかもしれませんが)。


 そもそもの話として、実定法としての『労働契約法』をわざわざ労働基準法とは別建てで制定したのも、労働法の領域において「合意原則」を名実ともに原則として復権させつつ、労使間の真意に基づく合意形成を促進するためではなかったかと思います。

 が、その成果はご存知の通り。労働基準法/労働契約法のバランスが、実態としての「強行法/合意」のバランスに比例しているといっても過言ではない。
 本来は、契約(法)が本体で、強行法規が外付けパーツという位置づけのはずです(主として、労働者にとっての利益保護パーツ)。だというのに、ガンダム試作3号機(デンドロビウム)におけるステイメン(労働契約)とオーキス(強行法規)のようなバランス感になってしまっているのが現状でしょうか。ステイメンがなければオーキスは機能しないのに、あたかもオーキスが本体のように見えてしまう。

デンドロビウム(RX-78GP03)
(どれがステイメンでしょうか?)

 また、あとから入れられた「有期雇用法制」のようなごちゃついた規定、合意重視の建前からすれば似つかわしくないもののはずです。合意促進が本来の『労働契約法』の役割であるならば、法があれこれ細かい小言をいうのは望ましくない。良くも悪くも、労働契約法16条(解雇)くらいの緩やかさが絶妙なさじ加減かと。
 労働契約法の位置づけが、もともとの理念とは異なり、行政法/刑事法としてまで規制する必要のない規定を突っ込んでおくための、いわば労働基準法の別働隊ポジションになってしまっているのではないでしょうか。


 本書に話を戻して。

 契約法に視点を絞るといっても、行政法規をガン無視しているわけではなく。
 たとえば「労働安全衛生法」は本拠は行政法・刑事法に属しているわけですが、その規律内容が「安全配慮義務」などの民事法上の道具立てによって、どのように労働契約の内容に取り込まれることになるか、という観点から記述されることになります。
 また、「労働協約」に関する規律も、本拠は集団法(労働組合法)ですが、労働契約の内容に影響するということでこちらも詳しく論じられています。

 といったように、視点が絞られているにもかかわらず、カバーしている範囲は相当広い。

 また、判例・裁判例の紹介が豊富なので、本書を読むだけでも、裁判所の判断がどういう傾向にあるかが一定程度把握できます。
 ちなみに、本書で明記されているわけではないので意図的かどうかが分かりませんが、最高裁→判例、下級審→裁判例と、きちんと言葉の使い分けをしているように思います。

フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法


 類書と比べて、「国際的側面」についての記述も豊富(第13章 国際的労働契約法)。この手の領域は実務先行で理論が手薄になりがちなので、より発展していってほしいところ。

 また、一番最後に「要件事実」についても一通り触れられています(888頁〜)。
 この箇所を読むことで、本書で得た実体法の理解を、要件事実論の観点から立体的に理解できるようになります。そういう意味で、長大な本書の復習として利用することもできます。


 以上、本書を「読む」ことは強くおすすめできるものの、「買う」ことまでおすすめできるかといえば微妙。本書出版の2016年以降も、法改正・新判例のラッシュが続いているわけで、もはや最新の情報とは言い難い。

 今から定価で購入したとして、改訂チキンレースに勝てる自信のある方はぜひどうぞ。

 あえて、お安くなった「初版」を買うことで、改訂チキンレースに乗っからないのもありかもしれません。余裕かまして第3版まで待機しておくと。
 初版は2008年に出版されているので、実定法としての『労働契約法』は反映されています。というか、制定直後に紛らわしいタイトルで出版されていたわけです。



 土田道夫「労働契約法」(有斐閣2008)

 ただ、初版ではその後の「有期雇用法制」の改正が反映されていません。


 また、「労働法の体系書でどれか一冊」と言われたときも、第一候補にはなりえません。

 カバー範囲が広いといってもフルカバーではないわけです。
 本書がカバーしていない範囲だけを対象とした「労働行政法」「労働刑事法」という体系書があればいいのでしょうが、まあないですよね。

 一応、下記シリーズのような「お役所系」労働法規解説書があるにはあります。同シリーズ内に『労働契約法』が含まれていないのは、まさしく「民事不介入」であることの証左といえるでしょうか。



厚生労働省労働基準局「令和3年版 労働基準法 上巻 (労働法コンメンタールNo.3)」(労務行政2022)
厚生労働省労働基準局「令和3年版 労働基準法 下巻 (労働法コンメンタールNo.3)」(労務行政2022)

 が、あくまでも実務用の逐条解説であって、理論的体系書ではない。近時の「行政法総論」や「刑法総論」の知見がふんだんに取り込まれている、などということは無く、個別の労働法規の解説がメイン。

 ということで、一冊だけ買うのであれば、普通にフルカバーした『労働法』の体系書にしておくのが無難。



 菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)
 荒木尚志「労働法 第4版」(有斐閣2020)
 水町勇一郎「詳解 労働法 第2版」(東京大学出版会2021)


 なお、同著者には「概説」名の教科書もあります。




土田道夫「労働法概説 第4版」(弘文堂2019)

 こちらは労働法全体をカバーしているものの、512頁の薄い本です。決して分かりにくい本ではないのですが、記述の厚い本書を読んでからこちらの『概説』を読むと、どうにも窮屈な印象。

 一般論としてですが、薄い本で理解できない箇所があったら、同書の同じ箇所を何度も読むよりも、一度は記述が厚めな本に目を通すべきなのでしょう。
posted by ウロ at 08:17| Comment(0) | 労働法

2021年10月25日

零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール

 前回までは、入社後の解約を前提としていました。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール

 そのまま時間軸を入社前に遡らせると、内定取消・内定辞退の問題となります(時間をずらすことで論点をつなげる技)。

 労働法の教科書では、「採用内定」は入口の問題、「労働契約の終了」は出口の問題と、別々の問題として論じられることがほとんどかと思います。が、採用内定を「解約権留保付労働契約」と理解するならば、内定取消・内定辞退も「労働契約の終了」のうちのひとつになるはずです。一般的な用語に倣って内定取消・内定辞退と書きましたが、法的にはいずれも「労働契約の解約」です。
 同種の問題なわけで、比較しながら論ずる必要があるはずです。

(なお、本来であれば「解約」と「解除」も厳密に使い分ける必要があるのでしょう。が、民法自体、言葉の使い分けが厳密ではないので、ここでもあまり拘らないことにします。)

 そこで、今回は前回までの《応用編》として、採用内定における解約ルールについて検討してみます(無期雇用での採用を前提とします)。


 その1・その2では、改正民法の「経過措置」について触れました。これが内定の場面だとどうなるか。

 この点、一般的な見解によれば、内定通知時に労働契約が成立しているとされています。とすると、2020年4月1日入社であっても、それ以前に内定通知がされている場合(当たり前)は、旧法が適用されることになります。

 早く労働契約を成立させてあげることが内定者保護に資する、というのが従前の価値判断だったのでしょう。が、改正が挟まる場合には、必ずしも早ければいいわけではありません。税法の如く、改正されるたびに税負担が重くなるのとはわけが違う。

 その4で述べたように、旧法の解釈論を展開することにより労働者を保護することが必要な場面というのが、今後は出てくるのではないでしょうか。改正解説本の類では呑気にも、改正により労働者保護は解決済み、めでたしめでたしという感じで済まされてしまっていますけども。

 まだ何も終わっちゃいない。旧法適用者と新法適用者との分断が、これから始まります。


 一般的な見解がいうところの「解約権」というものが、どこから湧き出してきたものかがはっきりしません。民法上のどれかを想定しての法律構成なのでしょうか。
 さしあたっては、内定合意に基づく約定の解約権(内定解約権)と理解しておきます。

 もしそうだとすると、内定だからといって必ず解約権が留保されているのではないということになります。あくまでも当該合意に解約権が留保されていると認定できるかぎりだということです。
 そしてこの約定の解約権、入社日までの期限付きという位置づけと解するべきだと思います。内定から入社までに限って許容される暫定的な権利なのであって、入社後は民法の規律に従うべきでしょう。


 内定解約権とは別に、民法上の解約権(627条、628条)は発生するのでしょうか。労働契約が成立している以上、排除される理由はないはずです。
 ので、わざわざ約定の解約権に関する合意を認定しなくてもよさそう。どうせ規律は同じになるでしょうし。

 ただ、内定期間中なのに報酬期間云々というのは変なので、627条の2項3項は排除してもよさそうです。
 また、2週間の「予告期間」は必要かどうか。まだ勤務が始まってもいないのに、あえて予告期間を設ける必要はなさそうです。何らかの損害が生じるならば損害賠償でカバーすればよいでしょうし。 


 約定の解約権には、内定者の「辞退権」も含まれているのでしょうか。どうも含まれていない前提で論じているように思います。

 もしそうだとすると、内定者は627条・628条により解約することになるでしょうか。


 さて、これが労働基準法・労働契約法ではどういう規律になるでしょうか。

全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)

 労働契約成立後の解約(=解雇)である以上、これらが適用されるはずです。
 ただ、14日以内の試用期間は30日の解雇予告or解雇予告手当がいらないことになっています。とすれば、それよりも前の内定期間中も予告不要とすべきでしょう。そして、それとの見合いで、内定者からの解約も予告不要とすべきだと思います。

 実際のところ、賃金支払義務・労務提供義務が発生するわけでもないのに、2週間おあずけ食らわす意味が、労働者・使用者どちらにとっても存在しないと思います。

全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)

 内定者に「就業規則」が適用されるかの問題となります。
 内定取消にあたっては就業規則記載の「解雇事由」に限定されるのか。それとも、内定期間用のルール(準就業規則?)が別途必要になるのかどうか。

 民法627条の理由なし解約が制限されるのは当然として、民法628条の「やむを得ない事由」解約も、就業規則・準就業規則に列挙された事由に限定されることになるでしょうか。

全 労働契約法16条(解雇)

 考慮要素は入社後とは相当違うでしょうが、解雇権濫用法理自体は内定期間中でも適用されることになるでしょう。

オ 労働基準法15条2項(労働条件の明示)

 たとえば、「入社前研修はないと説明されたのに実施されることになった」といった場合はここに該当するでしょうか。


 このように、内定取消・辞退の問題も、あくまでも通常の解約ルールの延長・地続きで検討すべきものでしょう。

 のに、労働法の書籍だと《論点飛びつき》な記述が飛び交っていて、まるで地に足がついていない。
 内定通知で労働契約が成立するという立場を採用した以上は、解約ルールも入社後と同じものをスライドさせた上で、どの部分が変容を受けるか、という手順で検討すべきです。

 とはいえ、そもそも入社後の解約ルール自体も、民法の規律を踏まえた上でどの箇所が労働基準法・労働契約法により変容を受けるか、という手順を踏んだ検討がなされていない、というのはその1〜4で検討したとおり。

 ので、本記事もほとんどが問題の指摘で終わってしまっているところです。
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2021年10月18日

零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール

 では、今回は「無期雇用」の解約ルールについて。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール

 まずは民法のルールから。

ア 原則 ⇒できない
イ 報酬期間なし ⇒いつでも・予告期間2週間
ウ 報酬期間6ヶ月未満 ⇒いつでも・予告期間2週間(労働者)
             次期・予告期間当期の前半(使用者)
エ 報酬期間6ヶ月以上 ⇒いつでも・予告期間2週間(労働者)
             次期?・予告期間3ヶ月(使用者)
オ やむを得ない事由 ⇒直ちに・損害賠償


 これを原則といってよいかは微妙ですが、「期限なしと決めた以上は解約できない」というものを契約の拘束力の大原則として置いておきます。もちろん、すぐにひっくり返されるわけですが(マッチポンプ)。

イ 民法627条1項
 2項の反対解釈から、1項は「期間によって報酬を定めない場合」の規律ということになります。これはどのような内容の雇用契約でしょうか。「成果物の引き渡しごとに報酬を支払う」だと請負(or成果報酬型委任)になりそうですし(ただし下記「期間」理解参照)。

Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法

 この点、労働基準法27条には「出来高払制・請負制」の労働契約についての定めがあります。このようなタイプの労働契約が該当することになるのでしょうか。

ウ・エ 627条2項・3項
 改正により、労働者側はイと同じく「いつでも・予告期間2週間」になりました。ここは旧法/新法いずれが適用されるかでかなり扱いが変わる点ではないかと思います。
 たとえば、給与が毎月末締めの会社で、1/16に解約申入れをした場合、旧法だと2/28、新法だと1/30の満了をもって解約となります。つまり、1ヶ月もずれることになります(ただし下記「期間」理解参照)。

エ 627条3項
 予告期間3ヶ月のほうですが、ここの読み方がはっきりしません。3ヶ月は2項但書に代入されるだけで本文の「次期以降」は残るのかどうか。

《例》報酬期間2021年1/1〜12/31の1年で、12/1に解約申入れ。

 ・残る説
  2022年12/31満了で解約(次期解約に間に合っていないので次々期満了時に解約)
 ・残らない説
  2021年3/1満了で解約(次期解約に間に合わない場合は申入から3ヶ月後)

 従前は、労働者にも3ヶ月ルールが適用されたことから、残る説だとまずいという問題意識があったのかもしれません。が、改正後は使用者側だけのルールになったので、議論のポイントが変わるかもしれません。とはいえ、旧法適用の契約もまだまだ残るわけで、議論の必要性が消えたことにはなりません。

 ただ、「期間によって報酬を定めた場合」自体の解釈も別れています。たとえば「年俸制」というのが報酬期間1年なのか、それとも労働基準法が適用されるかぎり毎月支払わなければならないのだから(24条2項)、報酬期間1ヶ月ということになるのか。
 菅野和夫先生の体系書に「年俸制は報酬期間1年」と書いてあるからといって、鵜呑みにしていいわけではない。



菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)

 実際のところ、年俸制を謳っていながらも「年俸制、12で割ったら月給制」「月給制、12で掛けたら年俸制」といった感じの、「なんちゃって年俸制」も少なくないのではないでしょうか。
 こういう場合ならば、支払サイクルで考えるのがよいかもしれません。

 さらに詰めて考えると、「期間」と書いてある以上、期間以外の要素で給与が変動する場合は「期間によって報酬を定めた場合」に該当しない、と考えることもできそうです。たとえば、欠勤したら日割りで基本給が削られるとしたら、それは勤務日数で報酬が定まっているのであって期間によってではない、とか。

 このような「期間」理解、おなじみ「ホステス報酬源泉徴収事件」の最高裁判決にも沿うものです。

フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法

 このような理解が正しいとすると、ウエの出番はほどんどなく、ほぼイで処理されるということになります。ウエが適用されるとしたら「管理監督者」などの場合になるでしょうか。

 と、解釈上不明瞭な箇所がいくつもあるというのに、それらを放置したまま小手先の労働者保護方向の改正だけを施し、「民法の根本的な発想を転換してやったぜ」などとドヤ顔しているのだとしたら、始末に負えない。
 旧法が長期で残ることを考慮に入れるならば、上記のような「期間」理解をして、ウエの適用場面を狭める方向で考えることもできたはずです。のに、そのような理解を示すこともなく、小手先の改正を実施したことによってかえって、「旧法が適用される労働者の皆さんは会社辞めるまでウエの古い方のルールで我慢してね」と切り捨てられたということになります。
 立法事実として、管理監督者などの限られた労働者のためだけの改正だったとは思えないのであって、普通の労働者にもウエが適用される前提での改正だったはずです。

 このような改正所作を見る限り、真に労働者保護を志向していたのではなく、とにかく民法典に人の属性をねじ込みたかっただけなのではないかと邪推してしまいます。

オ 民法628条
 規定上ははっきりしませんが、無期雇用にも適用されると解されています。


 これら民法の規律が、労働基準法・労働契約法でどのように修正されているか。

イウエ 労働基準法24条(賃金の支払)
 毎月払いを「報酬期間1ヶ月」と理解するならば、イとエは想定しがたく、ほとんどがウになるのでしょう。
 他方で、上記の「期間」理解によるならば、ウエがほとんどなくてイがメインとなります。

全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)
 使用者からの解雇につき「解雇時期・事由」や「予告期間」に制限が加えられています。

 問題は、予告期間につき、民法の「当期の前半」(ウ)「3ヶ月」(エ)と労働基準法の「30日」のいずれが適用されるのかです。この点は、どちらかといえば労働基準法適用説が優勢でしょうか。
 ただし、上記の「期間」理解によればウエがほとんどなくなるので、あまり悩まずにすみます。

 また、19条・20条それぞれの1項但書にある除外事由と、民法でいう「やむを得ない事由」とが、内容的に連関するのかどうかも気になりますが、さしあたり指摘だけしておきます。

全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)
 就業規則記載の解雇事由を「限定列挙」と解するならば、この規律も解雇事由の制約として働くことになります。

全 労働契約法16条(解雇)
 オのやむを得ない事由とは考慮要素がかなり重複しそうです。
 イ〜オのいずれの解雇権を行使するとしても、結局のところ「解雇権濫用法理」の枠組みで判断されることになるでしょうか。

オ 労働基準法15条(労働条件の明示)
 「明示された労働条件が事実と違う」場合に労働者が即時に解約できる、というのはオの上書きと位置づけることができるでしょうか。


 以上、無期雇用における民法と労働基準法・労働契約法の関係、有期雇用と比べると比較的シンプルではないかと思います。

・労働者の辞職は、民法の規定がストレートに適用される。ただし改正法の経過措置に注意。
 実務的には、一律2週間として会社で呑んでしまうことにするか。
・使用者の解雇は、解雇権発生の根拠のみ民法で、それ以外の規律は労働基準法・労働契約法で派手に制約されている。

 問題なのは、法間インターフェイスのところではなく、民法それ自体の意味内容に不明瞭な箇所が残されているところです。しかも、改正で手を入れたくせに、それが原因で、とばっちりで旧法適用下の労働者が見捨てられることになっていることです。
 
 今後、最高裁様が、立案者意思を鵜呑みにするのか、それとも自分のところの税法上の「期間」理解を労働法分野にも及ぼすのか、見ものではあります。


 いずれにしても、民法によって解約権が発生し、そのうち使用者の解雇権は労働基準法・労働契約法によって制約される、という判断構造は理解しておくべきでしょう。

 なお、前回・今回は法律レベルの交通整理でしたが、この先に、労働契約・就業規則などでどこまでこの規律を崩せるか、という問題があります(強行規定/任意規定の区別)。
 が、ここから先は個別事案抜きで判断できるものではなさそうなので、そこまで踏み込むのはいたしません。

零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール

○労働基準法

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
A 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
B 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
A 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
A 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
B 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
(賃金の支払)
第二十四条
A 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
(出来高払制の保障給)
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
(適用除外)
第百十六条 第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条第一項に規定する船員については、適用しない。
A この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

○労働契約法

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(適用除外)
第二十一条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

○民法

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
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2021年10月11日

零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール

 雇用契約の解約ルールについて、今回は「有期雇用」について検討します。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置


 民法のルールは次のとおり。

ア 原則 ⇒期間満了までは解約できない。
イ 雇用期間5年超 ⇒5年経過後・いつでも・予告期間3ヶ月(使用者)
                    ・予告期間2週間(労働者)
ウ 終期不確定 ⇒5年経過後・いつでも・予告期間3ヶ月(使用者)
                   ・予告期間2週間(労働者)
エ やむを得ない事由あり ⇒直ちに・損害賠償
オ 黙示の更新後 ⇒627条
カ 使用者が破産手続開始 ⇒627条(労働者・破産管財人)


 例によって明示はされていませんが、有期で契約した以上、期間中は解約できないのが大原則となります。

イ・ウ
 改正前は労働者も予告期間3ヶ月となっていましたが、改正により労働者は2週間に短縮されました。

 改正前の雇用の規定は、使用者/労働者という属性を考慮しない規律となっていました。これが改正により、人の属性によってルールを変えるという規律が導入されることになりました。
 これは、民法典全体に関わる発想の大きな転換ではないかと思います。


 黙示の更新後の雇用期間が無期となるのか有期となるのかについては争いがあるようですが、さしあたり無期で想定しておきます。なお、627条の規定については次回「無期雇用」のところで検討します。

 なお、上記に含めませんでしたが「債務不履行解除」も理論上はありえます。が、雇用契約における解除相当の「債務不履行」とはどういう事由になるでしょうか。また、解除における催告と解雇予告とはどのような関係にあるでしょうか。
 この手の論点は、総論と各論にまたがっているせいで、煮詰まった議論が展開されていないというのがお馴染みのところです。総論のくせに特定の類型を念頭に置いた議論しか展開されていない、という例のヤツ。
 ということで、本記事では検討の対象から外します。


 これが労働基準法・労働契約法によりどのように修正が加えられているか。

イ・ウ 労働基準法14条(契約期間等)

 「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」以外は、上限3年(または5年)とされています。それゆえ、雇用期間5年超となるのは、「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」または労働基準法の適用除外(116条)となる場合に限られることになります。

 わざわざ改正で労働者側の予告期間を2週間に短縮したものの、その射程はかなり限られたものだということです。改正検討時に保護すべきとして想定されていた労働者像と一致しているのか、やや疑問です。

 前回、有期雇用でもしばらく旧法が残る可能性がある、ということを述べましたが、解約に関して影響があるのはこの場面に限られます(もちろん、解約以外の規定も旧法適用となりますが)。

ア・エ 労働基準法附則第137条

 労働者は、1年超の契約でも1年経過後は理由なしでいつでも解約できます。
 予告期間の定めが見当たらないのですが、予告期間なしで解約できるってことなんですかね。

 労基法・労契法のルールは、基本的には「使用者」の解雇を制約するルールなのに対して、ここと下記の労基法15条は「労働者」の辞職を緩和するルールとなります。

エ 労働契約法17条(契約期間中の解雇等)

 使用者からの解雇につき「やむを得ない事由」が強行規定化されています。この反対解釈として、労働者からの辞職については、就業規則などで「やむを得ない事由」を外すことは許されるということです。

全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)

 使用者からの解雇につき「解雇時期・事由」や「予告期間」に制限が加えられています。
 有期雇用には適用されないという見解もあるようですが、適用説が通説でしょうか。

 問題は、予告期間が民法3ヶ月・労働基準法30日となる場合に、労働者有利の民法が適用されるのか、それとも労働基準法が適用されるのかです。この点は、どちらかといえば労働基準法適用説が優勢でしょうか。

全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)

 就業規則記載の解雇事由を「限定列挙」と解するならば、この規律も解雇事由の制約として働くことになります。

全 労働契約法16条(解雇)

 解雇権濫用法理は有期雇用もカバーしています。
 もちろん、解雇する場面に応じて考慮要素は変わってくるでしょう。また、エのやむを得ない事由とは考慮要素がかなり重複しそうです。

オ 労働基準法15条(労働条件の明示)

 「明示された労働条件が事実と違う」場合に労働者が即時に解約できる、というのはオの上書きと位置づけることができるでしょうか。

オ 労働契約法18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
オ 労働契約法19条(有期労働契約の更新等)

 オの黙示の更新は、当事者が積極的なアクションを起こさずそのまま雇用継続している場合のルールです。他方で、「雇止め」「無期転換」は、労働者側から積極的なアクションがあった場合のルールです。
 機能する場面が別れていますので、オ自体は上書きされていないことになります。ただ、更新後の627条のほうが上書きの対象となっています。


 以上、一通り列挙してみました。

 全体的な方向性としては、
・改正前民法が属性を考慮しない規律だったのが、改正民法により労働者寄りの規律が一部導入された
・労働基準法、労働契約法では、民法の規律からさらに、労働者に優しい・使用者に厳しい方向の規律が設けられている
・ただし、完全な上書きではないので、ちらほら民法が直接適用される場面が残っている
ということがいえるでしょうか。

 私自身は一通り整理してみてはじめて全体像が見えてきたのですが、皆さんはこれをちゃんと理解して運用されていたということでしょうか。

 さて、次回は「無期雇用」のルールを検討します。

零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール

○民法

(期間の定めのある雇用の解除)
第六百二十六条 雇用の期間が五年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。
2 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前に、その予告をしなければならない。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。
(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)
第六百三十一条 使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであっても、労働者又は破産管財人は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。

○労働基準法

(契約期間等)
第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
A 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
B 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
A 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
A 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
B 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(適用除外)
第百十六条
A この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

附 則
第百三十七条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

附 則 (平成一五年七月四日法律第一〇四号)
(検討)
第三条 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律による改正後の労働基準法第十四条の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

○労働契約法

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
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2021年10月04日

零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置

 前回の前振りから続いて、民法の条文の検討に入ろうかと思ったんですが。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約

 一点気になる論点があるので、先に露払いしておきます。


 前回、「無期雇用」だと長期にわたって旧法が残るということを述べました。

 他方で、「有期雇用」なら施行日後の更新は新法適用となるから、早い段階で旧法適用の有期雇用契約は淘汰されるのかと思いきや。
 問題となるのが、労働契約法18条の「無期転換ルール」と同法19条の「雇止め制約ルール」。

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。


(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


 施行日前締結の有期雇用契約につき、施行日後に18条による無期転換や19条による更新がなされた場合、旧法のままなのか新法に切り替わるのか。


 この点、俗に言う『公式本』では「当事者の期待」を根拠として、
  ・合意更新 新法適用
  ・法定更新 旧法のまま
という枠組みを採用しています。
  


筒井健夫,村松秀樹「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務2018)

 ここでいう「合意」には、明示のものだけでなく黙示のものも含まれると。
 で、法律に書いてある更新が全て法定更新になるのではなく、たとえば、民法629条1項は黙示の合意を推定したものだから、この規定による更新後の契約は新法によるんだと。

(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。


 他方で、労働契約法19条の「雇止め制約ルール」による更新は、使用者の意思がないから法定更新になると書かれています。とすると、雇止め制約ルートで有期雇用契約が更新され続けた場合には、旧法が残り続けるということになります。
 労働者にとっても「無期より有期がよい」というパターンがありうるわけであって、こちらのルートも無いわけではないですよね。


 では、労働契約法18条の「無期転換ルール」の場合はどちらに該当するか。

 有期⇒無期と雇用期間が変わっていることからすると、別契約扱いだということで、新法適用となりそうです。が、無期転換は労働者の一方的な形成権の行使により生ずるものであって使用者の意思は介在しないこと、期間以外は従前と同一の契約条件が継続されることからすれば、旧法のままともいえそうです。

 公式本の枠組みからすれば、旧法のままとするのが理屈が通りそうです。
 が、あくまで一立案担当者の意見にすぎません。ですし、労働者保護に寄せて考えるならば、新法適用とすべきなのでしょう。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 裁判所がどう判断するかですが、私の予測では、雇止め制約ルートの場合も含めて新法適用というような気がします。従前であれば、公式見解鵜呑み系の判決に行きがちだったと思いますが、ここはウケ狙いで労働者保護に走るのではないかと。
 どういう理屈づけするのかは分かりませんが。

 少なくとも、「当事者の期待」というだけでは何の答えもでてこない。
 雇用(労働)契約における「当事者の期待」は、
  ・使用者の期待 なるべく旧法で
  ・労働者の期待 なるべく新法で
となるのがほとんどでしょう。両当事者の期待が一致する局面は少ない(もちろん、内容によりけりですが)。
 とすると、「どちらの期待を保護するか」という判断をしなければならず、そのための判断軸が別途必要となってきます。


 さて、露払いを済ませたので、次回こそ民法の条文検討に入ります。

零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール
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2021年09月27日

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約

 民法の中にある「雇用」の規定。皆さん、その存在は知っているとは思いますが。

 大学の民法の講義だと、売買、賃貸借、請負といったメジャーな契約類型に時間を取られてしまい、「雇用」は労働法の講義で聞いてね、で済まされてしまう。
 じゃあってことで、労働法の講義に出てみたものの、労働基準法・労働契約法の隙間からちょこちょこ顔を覗かせる程度で、正面から扱ってくれません。

 また、「民法」を受験科目とする資格試験はいくつかあると思いますが、雇用なんて、せいぜい選択式問題の捨て問ポジションで出てくるくらいでしょうか。もしかしたら、花形の「危険負担」様の添え物(木の役)として登場したことがあるかもしれませんが。

 潮見佳男先生の一冊本なんて、「第7章 雇用」などと独立の章立てがされているのに、1頁だけよ。



潮見佳男「民法(全) 第2版」(有斐閣2019)

 一応フォローしておくと、体系書だとわざわざ[概説]などと予防線張っておきながら、結構な分量扱われています(40頁程度)。



潮見佳男「新契約各論II」(信山社2021)

 と、とても可哀相なやつですが、今回正面から扱ってあげようと思います。
 とはいえ、全面的に扱うのはしんどいので、解約ルールのみを検討します。
 

 ちなみに、「雇用」のところ、一丁前に2017年民法(債権関係)改正の対象となっていました。ですが、ド派手な改正があったわけでもないのでそれほど大騒ぎにはなっていないようです。

 が、「経過措置」を見れば分かる通り、改正法が適用されるのは2020年4月1日以降に締結した契約からです。
 そうすると、「無期雇用」の場合は、相当長期間にわたり旧法適用の雇用契約が残ることになります。施行日前に18歳で入社した人が65歳の定年まで勤めるとすると、向こう47年、旧法が適用され続けるということです。

 この基準となるのは「契約締結日」です。「入社日」が2020年4月1日だとしても、契約締結日がそれより前の日だと旧法が適用されることになります。
 社員情報を管理するのに入社日は記録しているはずですが、契約締結日までちゃんと記録しているでしょうか。労務管理ソフトで「契約締結日」欄があるもの、少なくとも私は見かけたことはないです。

 ちなみに、賃金請求権等の消滅時効の期間延長に関する労働基準法の改正、こちらの経過措置は「支払期日」基準となっています。ので、早い段階で新法適用に切り替わることになります(「当分の間」規定があるにせよ)。そして、民法の「完成猶予・更新」ルールについては当該事由が生じたとき基準なので、こちらも早々に新法適用に切り替わります。
 ので、本体が旧法適用の労働契約であっても、時効まわりのルールに関してはほぼ新法が適用されることになります。


 民法の典型契約の中で、これほど長く旧法が残る契約類型って、他にありますかね。

 「賃貸借」は改正で上限アップしましたが旧法では20年ですし、借地借家法上の借家は上限なしですが現実的には超長期契約は考えられないでしょう。

 あとは幻の「終身定期金」くらいですか(おなくなりになるまで)。
 言わずもがな、終身定期金の規定自体は改正も削除もされず放置状態です。が、一応契約なので、総則・債権総則・契約総則などの規定は適用されるわけです。なので、紛いなりにも旧法・新法の区別は必要となります。


 ということで、雇用の規定の改正、「大きい」問題ではないが「長い」問題ではあるということです。

 このような問題があるにも関わらず、それほどの騒ぎになっているようには見えません。改正内容が労働者有利だから、本当は旧法なのに間違って改正法を適用したとしても、会社がそこを呑めば済むだけ、ということでしょうか。


 今回は前振りで、次回以降で個々の条文を検討していきます(と思ったのですが、寄り道)。

零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール
posted by ウロ at 09:10| Comment(0) | 労働法

2020年07月20日

下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)

 労働法の教科書・体系書、近年は特に肥大化が進んでいます。



下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)

 基準としての菅野和夫先生の体系書だと、1227頁。



菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)

 それと比べれば本書は588頁と、一見薄い(?)ように思えます。
 が、いわゆる「雇用関係法」に記述を絞っているからそうなっているだけです。

 内容は非常に濃い目。
 重要論点はフォントを落としているので、かなりぎっしり。


 今どきの教科書のようにガチャつかず、極めてオーソドックスな構成。
 図表の類は一切ありません。

 もう少しわかり易さを求めるならば、水町勇一郎先生の教科書がいいと思います。
 事例に基づいた具体的な記述が多めですので。



水町勇一郎「労働法 第8版」(有斐閣2020)


 本書は労働法の知識が一通りある人が、最近の法改正・判例を体系的におさらいし直す、という使い方がいいと思います。

 中には就業規則の法的性質論とか、かなり突っ込んで記述されているものもあって、読み応えはしっかり。

 いわゆる「働き方改革」関連の法制にも触れられています。
 が、おそらく改訂作業終盤でねじ込んだと思われ、いまいち体系に溶け込んでいないような。

 次回の改訂に期待(さていつになるでしょう)。


 本書にかぎらず、労働法の教科書を読んでいて思うところ。

 たとえば、労働時間の法規制とか、言葉だけで理解しようと思っても無理がありますよね。
 図表や具体例をあれこれあげてもらわないと、初見で理解するのは大変。

 ので、図表が豊富な「わかりやすい」系の実務書を併用するのが望ましい。

 いっそのこと、誰が書いても同じになる制度の説明は、文字通りの「基本書」として出版しといてほしい。
 「日常系労務」ということで。

 これと同じようなことは、民事訴訟法の教科書についての記事でも書きました。

新堂幸司「新民事訴訟法 第6版」(弘文堂2019) 〜付・民事訴訟法と税理士

 もちろん、図表だけでの理解にとどめず、きちんと条文でどのように表現されているかを確認することは必要です。

 大垣尚司先生の会社法の教科書では、制度の解説を大胆に削って図表で代替されています。
 が、これもちゃんと条文と照らし合わせてね、という前提があってのことでしょう。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)


 しかし、この「有斐閣法学叢書」とかいうシリーズ、現役で出版されているのはもはや本書しかないんじゃないですか。

 私が知っているかぎりでいうと、下記の「名著」はしれっとシリーズから外れていますし。



龍田節・前田雅弘「会社法大要 第2版」 (有斐閣2017)
中森喜彦「刑法各論 第4版」(有斐閣2015)

 名前の紛らわしい「有斐閣法律学叢書」というシリーズなんて、2冊出たっきり。



大村敦志「家族法 第3版」(有斐閣2010)
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)

 邪推するに、デビュー前のサイレント脱退があったんじゃないかと。
 グループでデビューするはずだったのにいきなりソロデビューしている、みたいな。

 この、過去のシリーズを有耶無耶で終わらせる所業、どうにか悔い改めてほしい。

「法律学大系」(有斐閣) 〜或るstalk。
posted by ウロ at 11:57| Comment(0) | 労働法