2021年10月25日

零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール

 前回までは、入社後の解約を前提としていました。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール

 そのまま時間軸を入社前に遡らせると、内定取消・内定辞退の問題となります(時間をずらすことで論点をつなげる技)。

 労働法の教科書では、「採用内定」は入口の問題、「労働契約の終了」は出口の問題と、別々の問題として論じられることがほとんどかと思います。が、採用内定を「解約権留保付労働契約」と理解するならば、内定取消・内定辞退も「労働契約の終了」のうちのひとつになるはずです。一般的な用語に倣って内定取消・内定辞退と書きましたが、法的にはいずれも「労働契約の解約」です。
 同種の問題なわけで、比較しながら論ずる必要があるはずです。

(なお、本来であれば「解約」と「解除」も厳密に使い分ける必要があるのでしょう。が、民法自体、言葉の使い分けが厳密ではないので、ここでもあまり拘らないことにします。)

 そこで、今回は前回までの《応用編》として、採用内定における解約ルールについて検討してみます(無期雇用での採用を前提とします)。


 その1・その2では、改正民法の「経過措置」について触れました。これが内定の場面だとどうなるか。

 この点、一般的な見解によれば、内定通知時に労働契約が成立しているとされています。とすると、2020年4月1日入社であっても、それ以前に内定通知がされている場合(当たり前)は、旧法が適用されることになります。

 早く労働契約を成立させてあげることが内定者保護に資する、というのが従前の価値判断だったのでしょう。が、改正が挟まる場合には、必ずしも早ければいいわけではありません。税法の如く、改正されるたびに税負担が重くなるのとはわけが違う。

 その4で述べたように、旧法の解釈論を展開することにより労働者を保護することが必要な場面というのが、今後は出てくるのではないでしょうか。改正解説本の類では呑気にも、改正により労働者保護は解決済み、めでたしめでたしという感じで済まされてしまっていますけども。

 まだ何も終わっちゃいない。旧法適用者と新法適用者との分断が、これから始まります。


 一般的な見解がいうところの「解約権」というものが、どこから湧き出してきたものかがはっきりしません。民法上のどれかを想定しての法律構成なのでしょうか。
 さしあたっては、内定合意に基づく約定の解約権(内定解約権)と理解しておきます。

 もしそうだとすると、内定だからといって必ず解約権が留保されているのではないということになります。あくまでも当該合意に解約権が留保されていると認定できるかぎりだということです。
 そしてこの約定の解約権、入社日までの期限付きという位置づけと解するべきだと思います。内定から入社までに限って許容される暫定的な権利なのであって、入社後は民法の規律に従うべきでしょう。


 内定解約権とは別に、民法上の解約権(627条、628条)は発生するのでしょうか。労働契約が成立している以上、排除される理由はないはずです。
 ので、わざわざ約定の解約権に関する合意を認定しなくてもよさそう。どうせ規律は同じになるでしょうし。

 ただ、内定期間中なのに報酬期間云々というのは変なので、627条の2項3項は排除してもよさそうです。
 また、2週間の「予告期間」は必要かどうか。まだ勤務が始まってもいないのに、あえて予告期間を設ける必要はなさそうです。何らかの損害が生じるならば損害賠償でカバーすればよいでしょうし。 


 約定の解約権には、内定者の「辞退権」も含まれているのでしょうか。どうも含まれていない前提で論じているように思います。

 もしそうだとすると、内定者は627条・628条により解約することになるでしょうか。


 さて、これが労働基準法・労働契約法ではどういう規律になるでしょうか。

全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)

 労働契約成立後の解約(=解雇)である以上、これらが適用されるはずです。
 ただ、14日以内の試用期間は30日の解雇予告or解雇予告手当がいらないことになっています。とすれば、それよりも前の内定期間中も予告不要とすべきでしょう。そして、それとの見合いで、内定者からの解約も予告不要とすべきだと思います。

 実際のところ、賃金支払義務・労務提供義務が発生するわけでもないのに、2週間おあずけ食らわす意味が、労働者・使用者どちらにとっても存在しないと思います。

全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)

 内定者に「就業規則」が適用されるかの問題となります。
 内定取消にあたっては就業規則記載の「解雇事由」に限定されるのか。それとも、内定期間用のルール(準就業規則?)が別途必要になるのかどうか。

 民法627条の理由なし解約が制限されるのは当然として、民法628条の「やむを得ない事由」解約も、就業規則・準就業規則に列挙された事由に限定されることになるでしょうか。

全 労働契約法16条(解雇)

 考慮要素は入社後とは相当違うでしょうが、解雇権濫用法理自体は内定期間中でも適用されることになるでしょう。

オ 労働基準法15条2項(労働条件の明示)

 たとえば、「入社前研修はないと説明されたのに実施されることになった」といった場合はここに該当するでしょうか。


 このように、内定取消・辞退の問題も、あくまでも通常の解約ルールの延長・地続きで検討すべきものでしょう。

 のに、労働法の書籍だと《論点飛びつき》な記述が飛び交っていて、まるで地に足がついていない。
 内定通知で労働契約が成立するという立場を採用した以上は、解約ルールも入社後と同じものをスライドさせた上で、どの部分が変容を受けるか、という手順で検討すべきです。

 とはいえ、そもそも入社後の解約ルール自体も、民法の規律を踏まえた上でどの箇所が労働基準法・労働契約法により変容を受けるか、という手順を踏んだ検討がなされていない、というのはその1〜4で検討したとおり。

 ので、本記事もほとんどが問題の指摘で終わってしまっているところです。
posted by ウロ at 10:10| Comment(0) | 労働法

2021年10月18日

零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール

 では、今回は「無期雇用」の解約ルールについて。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール

 まずは民法のルールから。

ア 原則 ⇒できない
イ 報酬期間なし ⇒いつでも・予告期間2週間
ウ 報酬期間6ヶ月未満 ⇒いつでも・予告期間2週間(労働者)
             次期・予告期間当期の前半(使用者)
エ 報酬期間6ヶ月以上 ⇒いつでも・予告期間2週間(労働者)
             次期?・予告期間3ヶ月(使用者)
オ やむを得ない事由 ⇒直ちに・損害賠償


 これを原則といってよいかは微妙ですが、「期限なしと決めた以上は解約できない」というものを契約の拘束力の大原則として置いておきます。もちろん、すぐにひっくり返されるわけですが(マッチポンプ)。

イ 民法627条1項
 2項の反対解釈から、1項は「期間によって報酬を定めない場合」の規律ということになります。これはどのような内容の雇用契約でしょうか。「成果物の引き渡しごとに報酬を支払う」だと請負(or成果報酬型委任)になりそうですし(ただし下記「期間」理解参照)。

Janusの委任 〜成果報酬型委任と印紙税法

 この点、労働基準法27条には「出来高払制・請負制」の労働契約についての定めがあります。このようなタイプの労働契約が該当することになるのでしょうか。

ウ・エ 627条2項・3項
 改正により、労働者側はイと同じく「いつでも・予告期間2週間」になりました。ここは旧法/新法いずれが適用されるかでかなり扱いが変わる点ではないかと思います。
 たとえば、給与が毎月末締めの会社で、1/16に解約申入れをした場合、旧法だと2/28、新法だと1/30の満了をもって解約となります。つまり、1ヶ月もずれることになります(ただし下記「期間」理解参照)。

エ 627条3項
 予告期間3ヶ月のほうですが、ここの読み方がはっきりしません。3ヶ月は2項但書に代入されるだけで本文の「次期以降」は残るのかどうか。

《例》報酬期間2021年1/1〜12/31の1年で、12/1に解約申入れ。

 ・残る説
  2022年12/31満了で解約(次期解約に間に合っていないので次々期満了時に解約)
 ・残らない説
  2021年3/1満了で解約(次期解約に間に合わない場合は申入から3ヶ月後)

 従前は、労働者にも3ヶ月ルールが適用されたことから、残る説だとまずいという問題意識があったのかもしれません。が、改正後は使用者側だけのルールになったので、議論のポイントが変わるかもしれません。とはいえ、旧法適用の契約もまだまだ残るわけで、議論の必要性が消えたことにはなりません。

 ただ、「期間によって報酬を定めた場合」自体の解釈も別れています。たとえば「年俸制」というのが報酬期間1年なのか、それとも労働基準法が適用されるかぎり毎月支払わなければならないのだから(24条2項)、報酬期間1ヶ月ということになるのか。
 菅野和夫先生の体系書に「年俸制は報酬期間1年」と書いてあるからといって、鵜呑みにしていいわけではない。



菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)

 実際のところ、年俸制を謳っていながらも「年俸制、12で割ったら月給制」「月給制、12で掛けたら年俸制」といった感じの、「なんちゃって年俸制」も少なくないのではないでしょうか。
 こういう場合ならば、支払サイクルで考えるのがよいかもしれません。

 さらに詰めて考えると、「期間」と書いてある以上、期間以外の要素で給与が変動する場合は「期間によって報酬を定めた場合」に該当しない、と考えることもできそうです。たとえば、欠勤したら日割りで基本給が削られるとしたら、それは勤務日数で報酬が定まっているのであって期間によってではない、とか。

 このような「期間」理解、おなじみ「ホステス報酬源泉徴収事件」の最高裁判決にも沿うものです。

フローチャートを作ろう(その6) 〜判例法

 このような理解が正しいとすると、ウエの出番はほどんどなく、ほぼイで処理されるということになります。ウエが適用されるとしたら「管理監督者」などの場合になるでしょうか。

 と、解釈上不明瞭な箇所がいくつもあるというのに、それらを放置したまま小手先の労働者保護方向の改正だけを施し、「民法の根本的な発想を転換してやったぜ」などとドヤ顔しているのだとしたら、始末に負えない。
 旧法が長期で残ることを考慮に入れるならば、上記のような「期間」理解をして、ウエの適用場面を狭める方向で考えることもできたはずです。のに、そのような理解を示すこともなく、小手先の改正を実施したことによってかえって、「旧法が適用される労働者の皆さんは会社辞めるまでウエの古い方のルールで我慢してね」と切り捨てられたということになります。
 立法事実として、管理監督者などの限られた労働者のためだけの改正だったとは思えないのであって、普通の労働者にもウエが適用される前提での改正だったはずです。

 このような改正所作を見る限り、真に労働者保護を志向していたのではなく、とにかく民法典に人の属性をねじ込みたかっただけなのではないかと邪推してしまいます。

オ 民法628条
 規定上ははっきりしませんが、無期雇用にも適用されると解されています。


 これら民法の規律が、労働基準法・労働契約法でどのように修正されているか。

イウエ 労働基準法24条(賃金の支払)
 毎月払いを「報酬期間1ヶ月」と理解するならば、イとエは想定しがたく、ほとんどがウになるのでしょう。
 他方で、上記の「期間」理解によるならば、ウエがほとんどなくてイがメインとなります。

全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)
 使用者からの解雇につき「解雇時期・事由」や「予告期間」に制限が加えられています。

 問題は、予告期間につき、民法の「当期の前半」(ウ)「3ヶ月」(エ)と労働基準法の「30日」のいずれが適用されるのかです。この点は、どちらかといえば労働基準法適用説が優勢でしょうか。
 ただし、上記の「期間」理解によればウエがほとんどなくなるので、あまり悩まずにすみます。

 また、19条・20条それぞれの1項但書にある除外事由と、民法でいう「やむを得ない事由」とが、内容的に連関するのかどうかも気になりますが、さしあたり指摘だけしておきます。

全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)
 就業規則記載の解雇事由を「限定列挙」と解するならば、この規律も解雇事由の制約として働くことになります。

全 労働契約法16条(解雇)
 オのやむを得ない事由とは考慮要素がかなり重複しそうです。
 イ〜オのいずれの解雇権を行使するとしても、結局のところ「解雇権濫用法理」の枠組みで判断されることになるでしょうか。

オ 労働基準法15条(労働条件の明示)
 「明示された労働条件が事実と違う」場合に労働者が即時に解約できる、というのはオの上書きと位置づけることができるでしょうか。


 以上、無期雇用における民法と労働基準法・労働契約法の関係、有期雇用と比べると比較的シンプルではないかと思います。

・労働者の辞職は、民法の規定がストレートに適用される。ただし改正法の経過措置に注意。
 実務的には、一律2週間として会社で呑んでしまうことにするか。
・使用者の解雇は、解雇権発生の根拠のみ民法で、それ以外の規律は労働基準法・労働契約法で派手に制約されている。

 問題なのは、法間インターフェイスのところではなく、民法それ自体の意味内容に不明瞭な箇所が残されているところです。しかも、改正で手を入れたくせに、それが原因で、とばっちりで旧法適用下の労働者が見捨てられることになっていることです。
 
 今後、最高裁様が、立案者意思を鵜呑みにするのか、それとも自分のところの税法上の「期間」理解を労働法分野にも及ぼすのか、見ものではあります。


 いずれにしても、民法によって解約権が発生し、そのうち使用者の解雇権は労働基準法・労働契約法によって制約される、という判断構造は理解しておくべきでしょう。

 なお、前回・今回は法律レベルの交通整理でしたが、この先に、労働契約・就業規則などでどこまでこの規律を崩せるか、という問題があります(強行規定/任意規定の区別)。
 が、ここから先は個別事案抜きで判断できるものではなさそうなので、そこまで踏み込むのはいたしません。

零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール

○労働基準法

(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
A 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
B 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
A 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
A 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
B 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
(賃金の支払)
第二十四条
A 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
(出来高払制の保障給)
第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
(適用除外)
第百十六条 第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条第一項に規定する船員については、適用しない。
A この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

○労働契約法

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(適用除外)
第二十一条 この法律は、国家公務員及び地方公務員については、適用しない。
2 この法律は、使用者が同居の親族のみを使用する場合の労働契約については、適用しない。

○民法

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
posted by ウロ at 09:55| Comment(0) | 労働法

2021年10月11日

零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール

 雇用契約の解約ルールについて、今回は「有期雇用」について検討します。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約
零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置


 民法のルールは次のとおり。

ア 原則 ⇒期間満了までは解約できない。
イ 雇用期間5年超 ⇒5年経過後・いつでも・予告期間3ヶ月(使用者)
                    ・予告期間2週間(労働者)
ウ 終期不確定 ⇒5年経過後・いつでも・予告期間3ヶ月(使用者)
                   ・予告期間2週間(労働者)
エ やむを得ない事由あり ⇒直ちに・損害賠償
オ 黙示の更新後 ⇒627条
カ 使用者が破産手続開始 ⇒627条(労働者・破産管財人)


 例によって明示はされていませんが、有期で契約した以上、期間中は解約できないのが大原則となります。

イ・ウ
 改正前は労働者も予告期間3ヶ月となっていましたが、改正により労働者は2週間に短縮されました。

 改正前の雇用の規定は、使用者/労働者という属性を考慮しない規律となっていました。これが改正により、人の属性によってルールを変えるという規律が導入されることになりました。
 これは、民法典全体に関わる発想の大きな転換ではないかと思います。


 黙示の更新後の雇用期間が無期となるのか有期となるのかについては争いがあるようですが、さしあたり無期で想定しておきます。なお、627条の規定については次回「無期雇用」のところで検討します。

 なお、上記に含めませんでしたが「債務不履行解除」も理論上はありえます。が、雇用契約における解除相当の「債務不履行」とはどういう事由になるでしょうか。また、解除における催告と解雇予告とはどのような関係にあるでしょうか。
 この手の論点は、総論と各論にまたがっているせいで、煮詰まった議論が展開されていないというのがお馴染みのところです。総論のくせに特定の類型を念頭に置いた議論しか展開されていない、という例のヤツ。
 ということで、本記事では検討の対象から外します。


 これが労働基準法・労働契約法によりどのように修正が加えられているか。

イ・ウ 労働基準法14条(契約期間等)

 「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」以外は、上限3年(または5年)とされています。それゆえ、雇用期間5年超となるのは、「一定の事業の完了に必要な期間を定めるもの」または労働基準法の適用除外(116条)となる場合に限られることになります。

 わざわざ改正で労働者側の予告期間を2週間に短縮したものの、その射程はかなり限られたものだということです。改正検討時に保護すべきとして想定されていた労働者像と一致しているのか、やや疑問です。

 前回、有期雇用でもしばらく旧法が残る可能性がある、ということを述べましたが、解約に関して影響があるのはこの場面に限られます(もちろん、解約以外の規定も旧法適用となりますが)。

ア・エ 労働基準法附則第137条

 労働者は、1年超の契約でも1年経過後は理由なしでいつでも解約できます。
 予告期間の定めが見当たらないのですが、予告期間なしで解約できるってことなんですかね。

 労基法・労契法のルールは、基本的には「使用者」の解雇を制約するルールなのに対して、ここと下記の労基法15条は「労働者」の辞職を緩和するルールとなります。

エ 労働契約法17条(契約期間中の解雇等)

 使用者からの解雇につき「やむを得ない事由」が強行規定化されています。この反対解釈として、労働者からの辞職については、就業規則などで「やむを得ない事由」を外すことは許されるということです。

全 労働基準法19条〜21条(解雇制限)(解雇の予告)

 使用者からの解雇につき「解雇時期・事由」や「予告期間」に制限が加えられています。
 有期雇用には適用されないという見解もあるようですが、適用説が通説でしょうか。

 問題は、予告期間が民法3ヶ月・労働基準法30日となる場合に、労働者有利の民法が適用されるのか、それとも労働基準法が適用されるのかです。この点は、どちらかといえば労働基準法適用説が優勢でしょうか。

全 労働基準法89条3号(作成及び届出の義務)

 就業規則記載の解雇事由を「限定列挙」と解するならば、この規律も解雇事由の制約として働くことになります。

全 労働契約法16条(解雇)

 解雇権濫用法理は有期雇用もカバーしています。
 もちろん、解雇する場面に応じて考慮要素は変わってくるでしょう。また、エのやむを得ない事由とは考慮要素がかなり重複しそうです。

オ 労働基準法15条(労働条件の明示)

 「明示された労働条件が事実と違う」場合に労働者が即時に解約できる、というのはオの上書きと位置づけることができるでしょうか。

オ 労働契約法18条(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
オ 労働契約法19条(有期労働契約の更新等)

 オの黙示の更新は、当事者が積極的なアクションを起こさずそのまま雇用継続している場合のルールです。他方で、「雇止め」「無期転換」は、労働者側から積極的なアクションがあった場合のルールです。
 機能する場面が別れていますので、オ自体は上書きされていないことになります。ただ、更新後の627条のほうが上書きの対象となっています。


 以上、一通り列挙してみました。

 全体的な方向性としては、
・改正前民法が属性を考慮しない規律だったのが、改正民法により労働者寄りの規律が一部導入された
・労働基準法、労働契約法では、民法の規律からさらに、労働者に優しい・使用者に厳しい方向の規律が設けられている
・ただし、完全な上書きではないので、ちらほら民法が直接適用される場面が残っている
ということがいえるでしょうか。

 私自身は一通り整理してみてはじめて全体像が見えてきたのですが、皆さんはこれをちゃんと理解して運用されていたということでしょうか。

 さて、次回は「無期雇用」のルールを検討します。

零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール

○民法

(期間の定めのある雇用の解除)
第六百二十六条 雇用の期間が五年を超え、又はその終期が不確定であるときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。
2 前項の規定により契約の解除をしようとする者は、それが使用者であるときは三箇月前、労働者であるときは二週間前に、その予告をしなければならない。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。
(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)
第六百三十一条 使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであっても、労働者又は破産管財人は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。

○労働基準法

(契約期間等)
第十四条 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一 専門的な知識、技術又は経験(以下この号及び第四十一条の二第一項第一号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二 満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
A 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
B 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
A 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
A 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
B 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(適用除外)
第百十六条
A この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。

附 則
第百三十七条 期間の定めのある労働契約(一定の事業の完了に必要な期間を定めるものを除き、その期間が一年を超えるものに限る。)を締結した労働者(第十四条第一項各号に規定する労働者を除く。)は、労働基準法の一部を改正する法律(平成十五年法律第百四号)附則第三条に規定する措置が講じられるまでの間、民法第六百二十八条の規定にかかわらず、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。

附 則 (平成一五年七月四日法律第一〇四号)
(検討)
第三条 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、この法律による改正後の労働基準法第十四条の規定について、その施行の状況を勘案しつつ検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

○労働契約法

(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。
(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。
posted by ウロ at 09:45| Comment(0) | 労働法

2021年10月04日

零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置

 前回の前振りから続いて、民法の条文の検討に入ろうかと思ったんですが。

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約

 一点気になる論点があるので、先に露払いしておきます。


 前回、「無期雇用」だと長期にわたって旧法が残るということを述べました。

 他方で、「有期雇用」なら施行日後の更新は新法適用となるから、早い段階で旧法適用の有期雇用契約は淘汰されるのかと思いきや。
 問題となるのが、労働契約法18条の「無期転換ルール」と同法19条の「雇止め制約ルール」。

(有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換)
第十八条 同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間(次項において「通算契約期間」という。)が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす。この場合において、当該申込みに係る期間の定めのない労働契約の内容である労働条件は、現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件(当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする。
2 当該使用者との間で締結された一の有期労働契約の契約期間が満了した日と当該使用者との間で締結されたその次の有期労働契約の契約期間の初日との間にこれらの契約期間のいずれにも含まれない期間(これらの契約期間が連続すると認められるものとして厚生労働省令で定める基準に該当する場合の当該いずれにも含まれない期間を除く。以下この項において「空白期間」という。)があり、当該空白期間が六月(当該空白期間の直前に満了した一の有期労働契約の契約期間(当該一の有期労働契約を含む二以上の有期労働契約の契約期間の間に空白期間がないときは、当該二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間。以下この項において同じ。)が一年に満たない場合にあっては、当該一の有期労働契約の契約期間に二分の一を乗じて得た期間を基礎として厚生労働省令で定める期間)以上であるときは、当該空白期間前に満了した有期労働契約の契約期間は、通算契約期間に算入しない。


(有期労働契約の更新等)
第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


 施行日前締結の有期雇用契約につき、施行日後に18条による無期転換や19条による更新がなされた場合、旧法のままなのか新法に切り替わるのか。


 この点、俗に言う『公式本』では「当事者の期待」を根拠として、
  ・合意更新 新法適用
  ・法定更新 旧法のまま
という枠組みを採用しています。
  


筒井健夫,村松秀樹「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務2018)

 ここでいう「合意」には、明示のものだけでなく黙示のものも含まれると。
 で、法律に書いてある更新が全て法定更新になるのではなく、たとえば、民法629条1項は黙示の合意を推定したものだから、この規定による更新後の契約は新法によるんだと。

(雇用の更新の推定等)
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。


 他方で、労働契約法19条の「雇止め制約ルール」による更新は、使用者の意思がないから法定更新になると書かれています。とすると、雇止め制約ルートで有期雇用契約が更新され続けた場合には、旧法が残り続けるということになります。
 労働者にとっても「無期より有期がよい」というパターンがありうるわけであって、こちらのルートも無いわけではないですよね。


 では、労働契約法18条の「無期転換ルール」の場合はどちらに該当するか。

 有期⇒無期と雇用期間が変わっていることからすると、別契約扱いだということで、新法適用となりそうです。が、無期転換は労働者の一方的な形成権の行使により生ずるものであって使用者の意思は介在しないこと、期間以外は従前と同一の契約条件が継続されることからすれば、旧法のままともいえそうです。

 公式本の枠組みからすれば、旧法のままとするのが理屈が通りそうです。
 が、あくまで一立案担当者の意見にすぎません。ですし、労働者保護に寄せて考えるならば、新法適用とすべきなのでしょう。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 裁判所がどう判断するかですが、私の予測では、雇止め制約ルートの場合も含めて新法適用というような気がします。従前であれば、公式見解鵜呑み系の判決に行きがちだったと思いますが、ここはウケ狙いで労働者保護に走るのではないかと。
 どういう理屈づけするのかは分かりませんが。

 少なくとも、「当事者の期待」というだけでは何の答えもでてこない。
 雇用(労働)契約における「当事者の期待」は、
  ・使用者の期待 なるべく旧法で
  ・労働者の期待 なるべく新法で
となるのがほとんどでしょう。両当事者の期待が一致する局面は少ない(もちろん、内容によりけりですが)。
 とすると、「どちらの期待を保護するか」という判断をしなければならず、そのための判断軸が別途必要となってきます。


 さて、露払いを済ませたので、次回こそ民法の条文検討に入ります。

零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 労働法

2021年09月27日

零れ落ちるもの(その1) 〜NO 雇用契約 NO 労働契約

 民法の中にある「雇用」の規定。皆さん、その存在は知っているとは思いますが。

 大学の民法の講義だと、売買、賃貸借、請負といったメジャーな契約類型に時間を取られてしまい、「雇用」は労働法の講義で聞いてね、で済まされてしまう。
 じゃあってことで、労働法の講義に出てみたものの、労働基準法・労働契約法の隙間からちょこちょこ顔を覗かせる程度で、正面から扱ってくれません。

 また、「民法」を受験科目とする資格試験はいくつかあると思いますが、雇用なんて、せいぜい選択式問題の捨て問ポジションで出てくるくらいでしょうか。もしかしたら、花形の「危険負担」様の添え物(木の役)として登場したことがあるかもしれませんが。

 潮見佳男先生の一冊本なんて、「第7章 雇用」などと独立の章立てがされているのに、1頁だけよ。



潮見佳男「民法(全) 第2版」(有斐閣2019)

 一応フォローしておくと、体系書だとわざわざ[概説]などと予防線張っておきながら、結構な分量扱われています(40頁程度)。



潮見佳男「新契約各論II」(信山社2021)

 と、とても可哀相なやつですが、今回正面から扱ってあげようと思います。
 とはいえ、全面的に扱うのはしんどいので、解約ルールのみを検討します。
 

 ちなみに、「雇用」のところ、一丁前に2017年民法(債権関係)改正の対象となっていました。ですが、ド派手な改正があったわけでもないのでそれほど大騒ぎにはなっていないようです。

 が、「経過措置」を見れば分かる通り、改正法が適用されるのは2020年4月1日以降に締結した契約からです。
 そうすると、「無期雇用」の場合は、相当長期間にわたり旧法適用の雇用契約が残ることになります。施行日前に18歳で入社した人が65歳の定年まで勤めるとすると、向こう47年、旧法が適用され続けるということです。

 この基準となるのは「契約締結日」です。「入社日」が2020年4月1日だとしても、契約締結日がそれより前の日だと旧法が適用されることになります。
 社員情報を管理するのに入社日は記録しているはずですが、契約締結日までちゃんと記録しているでしょうか。労務管理ソフトで「契約締結日」欄があるもの、少なくとも私は見かけたことはないです。

 ちなみに、賃金請求権等の消滅時効の期間延長に関する労働基準法の改正、こちらの経過措置は「支払期日」基準となっています。ので、早い段階で新法適用に切り替わることになります(「当分の間」規定があるにせよ)。そして、民法の「完成猶予・更新」ルールについては当該事由が生じたとき基準なので、こちらも早々に新法適用に切り替わります。
 ので、本体が旧法適用の労働契約であっても、時効まわりのルールに関してはほぼ新法が適用されることになります。


 民法の典型契約の中で、これほど長く旧法が残る契約類型って、他にありますかね。

 「賃貸借」は改正で上限アップしましたが旧法では20年ですし、借地借家法上の借家は上限なしですが現実的には超長期契約は考えられないでしょう。

 あとは幻の「終身定期金」くらいですか(おなくなりになるまで)。
 言わずもがな、終身定期金の規定自体は改正も削除もされず放置状態です。が、一応契約なので、総則・債権総則・契約総則などの規定は適用されるわけです。なので、紛いなりにも旧法・新法の区別は必要となります。


 ということで、雇用の規定の改正、「大きい」問題ではないが「長い」問題ではあるということです。

 このような問題があるにも関わらず、それほどの騒ぎになっているようには見えません。改正内容が労働者有利だから、本当は旧法なのに間違って改正法を適用したとしても、会社がそこを呑めば済むだけ、ということでしょうか。


 今回は前振りで、次回以降で個々の条文を検討していきます(と思ったのですが、寄り道)。

零れ落ちるもの(その2) 〜有期雇用契約と改正民法の経過措置
零れ落ちるもの(その3) 〜有期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その4) 〜無期雇用解約ルール
零れ落ちるもの(その5) 〜内定解約ルール
posted by ウロ at 09:10| Comment(0) | 労働法

2020年07月20日

下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)

 労働法の教科書・体系書、近年は特に肥大化が進んでいます。



下井隆史「労働基準法 第5版」(有斐閣2019)

 基準としての菅野和夫先生の体系書だと、1227頁。



菅野和夫「労働法 第12版」(弘文堂2019)

 それと比べれば本書は588頁と、一見薄い(?)ように思えます。
 が、いわゆる「雇用関係法」に記述を絞っているからそうなっているだけです。

 内容は非常に濃い目。
 重要論点はフォントを落としているので、かなりぎっしり。


 今どきの教科書のようにガチャつかず、極めてオーソドックスな構成。
 図表の類は一切ありません。

 もう少しわかり易さを求めるならば、水町勇一郎先生の教科書がいいと思います。
 事例に基づいた具体的な記述が多めですので。



水町勇一郎「労働法 第8版」(有斐閣2020)


 本書は労働法の知識が一通りある人が、最近の法改正・判例を体系的におさらいし直す、という使い方がいいと思います。

 中には就業規則の法的性質論とか、かなり突っ込んで記述されているものもあって、読み応えはしっかり。

 いわゆる「働き方改革」関連の法制にも触れられています。
 が、おそらく改訂作業終盤でねじ込んだと思われ、いまいち体系に溶け込んでいないような。

 次回の改訂に期待(さていつになるでしょう)。


 本書にかぎらず、労働法の教科書を読んでいて思うところ。

 たとえば、労働時間の法規制とか、言葉だけで理解しようと思っても無理がありますよね。
 図表や具体例をあれこれあげてもらわないと、初見で理解するのは大変。

 ので、図表が豊富な「わかりやすい」系の実務書を併用するのが望ましい。

 いっそのこと、誰が書いても同じになる制度の説明は、文字通りの「基本書」として出版しといてほしい。
 「日常系労務」ということで。

 これと同じようなことは、民事訴訟法の教科書についての記事でも書きました。

新堂幸司「新民事訴訟法 第6版」(弘文堂2019) 〜付・民事訴訟法と税理士

 もちろん、図表だけでの理解にとどめず、きちんと条文でどのように表現されているかを確認することは必要です。

 大垣尚司先生の会社法の教科書では、制度の解説を大胆に削って図表で代替されています。
 が、これもちゃんと条文と照らし合わせてね、という前提があってのことでしょう。

大垣尚司「金融から学ぶ会社法入門」(勁草書房2017)


 しかし、この「有斐閣法学叢書」とかいうシリーズ、現役で出版されているのはもはや本書しかないんじゃないですか。

 私が知っているかぎりでいうと、下記の「名著」はしれっとシリーズから外れていますし。



龍田節・前田雅弘「会社法大要 第2版」 (有斐閣2017)
中森喜彦「刑法各論 第4版」(有斐閣2015)

 名前の紛らわしい「有斐閣法律学叢書」というシリーズなんて、2冊出たっきり。



大村敦志「家族法 第3版」(有斐閣2010)
近藤光男「商法総則・商行為法 第8版」(有斐閣2019)

 邪推するに、デビュー前のサイレント脱退があったんじゃないかと。
 グループでデビューするはずだったのにいきなりソロデビューしている、みたいな。

 この、過去のシリーズを有耶無耶で終わらせる所業、どうにか悔い改めてほしい。

「法律学大系」(有斐閣) 〜或るstalk。
posted by ウロ at 11:57| Comment(0) | 労働法

2018年05月09日

あえて言おう!カスであると!(被用者・応募者側からみたみなし残業代)

 ここで使ってしまった総帥のセリフ、もったいない。たぶん、かっこ内変えてまた使うと思います。

 自分の事務所のお客さん、当然雇用者(使用者)側がメインですけど、あえて言おう!みなし残業代、カスであると!
 以下、税理士事務所のお仕事を想定しながら書いてますので、他業種にはそのまま当てはまらないかもしれませんが(予防線)。


 固定残業代、かなり定着してきたんですかね。昔に「年俸だから残業代払わなくていい」なんて超理論唱えてた事務所がそのままスライドしてきているイメージ(個人の感想です)。

 私がたまに覗く税理士事務所の求人サイトの募集条件をみると(別にその気はないです)、一応労働基準法に気を使ってでしょう、

 A 月給200,000円(みなし残業代含む)
 B 月給200,000円(みなし残業代45時間含む)

みたいな、おもいっきりダメなやつはさすがに見かけなくって、

 C 月給200,000円(みなし残業代45時間51,000円含む)

と、一応逆算できるようになっている表記になっていますね。
 まあ、逆算しなきゃ分からないようになっている時点で、額面で釣る気満々なんでしょうが。

 試しにCを逆算してみると、

1 割増(25%)前の残業代を出す(全部法定外とする)
  51,000円÷100/125=40,800円

2 時給を出す
  40,800円÷45時間=907円

3 基本給を出す
  200,000円−51,000円=149,000円

4 勤務時間を出す
  149,000円÷907円=164時間

5 勤務日数を出す(1日8時間とする)
  164時間÷8時間=20.5日

て感じの勤務条件だということが分かるわけです。

 もし額面同じで残業代別だったとすると、時給は、

  200,000円÷164時間=1,219円

となるわけで、残業代込の907円とはだいぶ差が出ますね。最低賃金ギリギリを攻めつつ、うっかりみなし残業時間超えちゃっても、単価低めになるようにしてるってことですね。

 ちなみに、残業代別で45時間残業した場合の月給は、

  200,000円+1,219円×45時間=254,855円

と、込みで200,000円ポッキリとはこれだけ差が出るわけです。



 そもそも、みなし残業代をとったとしても、月ごとの時給計算や残業時間の管理はしないといけないわけで、勤怠管理が楽になることにはならないはずです(正しく運用する前提)。
 勤務日数を少ない月にあわせつつ、みなし残業時間を三六協定上限の45時間に設定することで、事実上管理しなくても済むようにしてる、てことなんでしょうけど。

 ただ、応募者側からみると、毎日2時間以上残業がある月があるってことか、と感じるわけで、敬遠される理由にはなりますよね。
 残業少ないとか謳っておきながらなぜかみなし残業代(しかも45時間)を採用している事務所よりも、残業多いけど残業代しっかり払うよ、という事務所のほうが正直でわかりやすいですし。


 いやいや、これはダラダラ残業を撲滅するための手段であって、仕事早い人は早く帰れるんですよ、という事務所もあるんでしょうが、本当にそういった健全な事務所かどうかは、入ってみないと分からないわけで。
 45時間までタダで働かせられる、てことで、早く仕事が終わってもその分仕事増やされたら本末転倒だし。仕事増やされてもダラダラ残業の人と同じお給料しかもらえないし。
 制度の健全性が、所長の仕事の振り方如何に依存してしまっているってことです。

○所長の意識が【みなし残業代=上限まで働かせ放題プラン】という事務所の場合

 ダラダラ残業の人:
  残業しない →20
  だらだら残業する →20

 仕事早い人:
  仕事早く終わる→仕事増やされる! →20
  仕事あえて遅くする →20

 ダラダラ残業の人がたくさん残業するインセンティブを減らすために導入した制度なんだとしても、所長がこういう事務所の場合、仕事早い人も、早く終わらせてしまうと仕事を振られてしまうので、あえて遅くする、ということになりかねません。

 筋金入りのダラダラ残業の人なら、みなし残業時間を突き抜けて残業しないともかぎらないし。

 プロ・ダラダラ残業の人:
  残業しない →20
  だらだら残業する →20
  みなし以上に残業する →20+残業代もらえる!

 そして、ダラダラ残業の人の残業時間を減らそうとして、仕事早い人にさらに仕事が振られるという悲劇も、容易に想像できます。


 みなし残業代て、仕事の中身と労働時間は必ずしも比例しない、なのに労基法上時間ベースで賃金計算がされてしまう、という矛盾を解決するための苦肉の策でもあったとは思うんです。実質裁量労働制のような。

 だとすると、この制度を健全に運用するには、

  『所長が仕事の「質」を正当に評価できる』

ことがキモになるはずです。
 なんか時間かかってるから大変そうだな、とか、すぐ終わってるから楽そうだな、みたく時間でしか評価できないとなると、結局無駄に時間かけたほうがいいんじゃん、てことになってしまいます。
 他事務所との給与水準の違い、てのもありますが、まず大事なのは、同じ事務所内の、他の従業員との比較で正当に評価されているか、だと思います。

 そもそも、みんな仕事が早くて早く帰れる事務所なら、みなし残業代制度とか必要ないわけで。ので、みなし残業代制度とってるってことは、そういう制度をとらないといけないほど、ダラダラ残業の人が在籍しているのでは、と邪推してしまいます。


 以上、あくまで税理士事務所での仕事を想定しながらみなし残業代について書いてみました。

 おそらくですけど、有資格者ではない一般職員に、単純に時間給では換算できないような仕事まで丸投げしてしまっている、という、税理士事務所特有の問題が、ここでの問題に関係してるんじゃないのかと、なんとなく感じています。税理士相手なら「専門業務型裁量労働制」を採用すればいいわけで。
posted by ウロ at 10:05| Comment(0) | 労働法