2025年04月14日

納税義務の成立とは何か(その2) 〜国税通則法と消費税法の交錯

 国税通則法における「納税義務の成立」が、消費税(法)においてどのように機能しているのか、以下整理をしておきます。

納税義務の成立とは何か(その1) 〜国税通則法と消費税法の交錯


 例によって条文から(適宜省略を入れています)。

国税通則法 第十五条(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定)
1 国税を納付する義務(以下「納税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。
2 納税義務は、次の各号に掲げる国税については、当該各号に定める時に成立する。
 一 所得税(次号に掲げるものを除く。) 暦年の終了の時
 三 法人税及び地方法人税 事業年度の終了の時
 七 消費税等 課税資産の譲渡等若しくは特定課税仕入れをした時又は保税地域からの引取りの時


 消費税の納税義務の成立時期は、
  1 課税資産の譲渡等をした時
  2 特定課税仕入れをした時
  3 保税地域からの引取りの時
とされています(「消費税等」の「等」にあたる奴らは省略しています)。

 消費税法も「期間税」であることから、所得税・法人税と同じく課税期間の終了時なのかと思いきや。譲渡等ごとに納税義務が成立するということです。

消費税法 第十九条(課税期間)
1 この法律において「課税期間」とは、次の各号に掲げる事業者の区分に応じ当該各号に定める期間とする。
一 個人事業者 一月一日から十二月三十一日までの期間
二 法人 事業年度



 では、譲渡(以下、譲渡で代表させます)ごとに納税義務が成立することに、何か意味があるのでしょうか。

 「納税義務の成立」という概念が必要な理由、一般的には「繰上保全差押え」や「納税の猶予」などのためだとされています。
 では、消費税の場合も同じ理由があてはまるでしょうか。

 「繰上保全差押え」のほうから見てみます。

国税通則法 第三十八条(繰上請求)
1 税務署長は、次の各号のいずれかに該当する場合において、納付すべき税額の確定した国税でその納期限までに完納されないと認められるものがあるときは、その納期限を繰り上げ、その納付を請求することができる。
3 第一項各号のいずれかに該当する場合において、次に掲げる国税(納付すべき税額が確定したものを除く。)でその確定後においては当該国税の徴収を確保することができないと認められるものがあるときは、税務署長は、その国税の法定申告期限(課税標準申告書の提出期限を含む。)前に、その確定すると見込まれる国税の金額のうちその徴収を確保するため、あらかじめ、滞納処分を執行することを要すると認める金額を決定することができる。この場合においては、その税務署の当該職員は、その金額を限度として、直ちにその者の財産を差し押さえることができる。
一 納税義務の成立した国税(課税資産の譲渡等に係る消費税を除く。)
二 課税期間が経過した課税資産の譲渡等に係る消費税
三 納税義務の成立した消費税法第四十二条第一項、第四項又は第六項(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての中間申告)の規定による申告書に係る消費税


 繰上保全差押えができるスタートラインとして、1号では「成立」とされています。
 が、消費税の場合は、1号から除かれて2号の「課税期間が経過した」ときまでスタートが遅らされています。

 ここで注意なのが、1号で除外されている「課税資産の譲渡等に係る消費税」の意味について。

消費税法 第二条 (定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。


消費税法 第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
2 保税地域から引き取られる外国貨物には、この法律により、消費税を課する。


 消費税の課税対象は次の通りとなっています。
  1 課税資産等の譲渡(特定資産の譲渡等は除く)
  2 特定課税仕入
  3 保税地域からの引取り(輸入仕入)

 消費税法の定義を鵜呑みにすると、1号から除かれるのは「課税資産等の譲渡」だけであり。「特定課税仕入」と「輸入仕入」は課税期間の終了を待つまでもなく繰上保全差押えができるように読めます。

 が、通則法の側に定義規定があって。

国税通則法 第二条(定義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
九 課税期間 国税に関する法律の規定により国税の課税標準の計算の基礎となる期間(課税資産の譲渡等(第二条第一項第九号(定義)に規定する課税資産の譲渡等をいい、同項第八号の二に規定する特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第十五条第二項第七号(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定)において同じ。)及び特定課税仕入れ(同法第五条第一項(納税義務者)に規定する特定課税仕入れをいう。同号において同じ。)に課される消費税(以下「課税資産の譲渡等に係る消費税」という。)については、同法第十九条(課税期間)に規定する課税期間)をいう。


 国税通則法にいう「課税資産の譲渡等に係る消費税」は、
  1 課税資産等の譲渡(特定資産の譲渡等は除く)に課される消費税
  2 特定課税仕入に課される消費税
のふたつだと定義されています。

 その結果、「特定課税仕入」も「課税資産等の譲渡」と同様、課税期間の終了まで待たなければ繰上保全差押えができないことになります。


 そうすると、「輸入仕入」だけが、引取り直後から繰上保全差押えできることになります。
 が、現実に、保税地域からの引取り(輸入許可)をしたのにお国に輸入消費税が納付されないシチュエーションというのが、ウブな私には思いつきません。


 意味が取りづらいのが、3号の中間申告のところ。

 「納税義務の成立した(中間)申告書に係る消費税」ということが書かれているのですが、中間申告における納税義務が成立する「課税資産の譲渡等」とはどれのことなのでしょうか。
 中間申告の計算のもととなる「譲渡等」は前期中の譲渡です。そうすると、前期終了時点で中間納税義務が成立しているということなのか。が、そうすると「申告書に係る」という文言とはそぐわないことになってしまいます。
 また、「みなし申告」(消費税法44条)の場合もここに含めてよいのかがはっきりしません。

 結論としては、「中間申告対象期間」を経過したときが基準点になりそうですが、少なくとも、国税通則法で用意された道具立てだけからは、判断がつきません。


 ということで、消費税を「繰上保全差押え」する場面において、「納税義務の成立」概念はほとんど機能していないと思われます。


 では、「納税の猶予」のほうはどうかというと。

国税通則法 第四十六条(納税の猶予の要件等)
1 税務署長(第四十三条第一項ただし書、第三項若しくは第四項(国税の徴収の所轄庁)又は第四十四条第一項(更生手続等が開始した場合の徴収の所轄庁の特例)の規定により税関長又は国税局長が国税の徴収を行う場合には、その税関長又は国税局長。以下この章において「税務署長等」という。)は、震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害により納税者がその財産につき相当な損失を受けた場合において、その者がその損失を受けた日以後一年以内に納付すべき国税で次に掲げるものがあるときは、政令で定めるところにより、その災害のやんだ日から二月以内にされたその者の申請に基づき、その納期限(納税の告知がされていない源泉徴収等による国税については、その法定納期限)から一年以内の期間(第三号に掲げる国税については、政令で定める期間)を限り、その国税の全部又は一部の納税を猶予することができる。
一 次に掲げる国税の区分に応じ、それぞれ次に定める日以前に納税義務の成立した国税(消費税及び政令で定めるものを除く。)で、納期限(納税の告知がされていない源泉徴収等による国税については、その法定納期限)がその損失を受けた日以後に到来するもののうち、その申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの
イ 源泉徴収等による国税並びに申告納税方式による消費税等(保税地域からの引取りに係るものにあつては、石油石炭税法(昭和五十三年法律第二十五号)第十七条第三項(引取りに係る原油等についての石油石炭税の納付等)の規定により納付すべき石油石炭税に限る。)、航空機燃料税、電源開発促進税及び印紙税 その災害のやんだ日の属する月の末日
ロ イに掲げる国税以外の国税 その災害のやんだ日
二 その災害のやんだ日以前に課税期間が経過した課税資産の譲渡等に係る消費税でその納期限がその損失を受けた日以後に到来するもののうちその申請の日以前に納付すべき税額の確定したもの
三 予定納税に係る所得税その他政令で定める国税でその納期限がその損失を受けた日以後に到来するもの


 まず、1号の柱書で、一般消費税は同号から除かれています。
 で、2号によると、ここでも、個々の譲渡等のときではなく「課税期間が経過した」ときが基準点となっています。

 中間申告については、3号の委任を受けた施行令に規定されています。

通則令 第十四条(納税の猶予の特例となる国税)
2 法第四十六条第一項第三号に規定する政令で定める国税は、次に掲げる国税とする。
三 消費税法第四十二条第一項、第四項又は第六項(課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れについての中間申告)の規定による申告書の提出により納付すべき消費税及び当該消費税に係る修正申告書の提出又は更正により納付すべき消費税


 法で「災害→納期限」であることが要求されているものの、1号のような「成立→災害」といった災害前要件は何も要求されていません。前期を基準に税額が決まってしまうから、ということなのでしょうか。


 なお、「輸入消費税」については規定が見当たらないので、少なくとも「国税通則法の」納税猶予制度は使えない、ということでよいのでしょうか。

 ということで、消費税の納税猶予の場面でも、「納税義務の成立」概念は機能してないといえるかと思います。


 以上、国税通則法と消費税法の条文から読み取れることを整理したにすぎません。
 残念ながら、国税通則法の解説書を読んでも、消費税法の解説書を読んでも、上記問題にとって役に立つ記述が見つけられませんでした(私の観測範囲内のみ)。

 「繰上保全差押え」と「納税の猶予」の2つだけしか検討していないものの。どうやら、一般消費税の中でも輸入仕入は15条7号どおりの「随時税」的扱い、それ以外は「期間税」的扱いとなっているように思われます。
 そうすると、所得税と同じように、源泉所得税とそれ以外の2つに分けて規定したほうがすっきりするような気がします(個別消費税は随時税寄りか?)。

 そのほかに検証しておきたいこととして、
・贈与税の位置づけ(期間税なんだか随時税なんだか)
・逋脱犯の成立要件との関係(どの時点から租税債権侵害行為できるか)
といったものがあるのですが、しばらく先送りします。


 共通項を括り出すという《パンデクテン仕草》。

 もちろんメリットもあるのでしょうが。縦割り志向の強い税法領域では、分断されて論じられてしまうというデメリットのほうが大きいように思います。

 ということで、各種個別税法の解説書において、国税通則法の規律を溶け込ませたものが出版されることを期待しておきます。
posted by ウロ at 09:03| Comment(0) | 国税通則法

2025年03月31日

納税義務の成立とは何か(その1) 〜国税通則法と消費税法の交錯

 先日の記事からの「成立」つながりということで。

「事前確定届出給与、支給日前に不支給決議すればお咎めなし」なる謎理論について
《民法会計》なる奇説について

 税法で「成立」というと、国税通則法15条に定められている「納税義務の成立」が思い浮かぶかと思います。納税義務は、成立した後に確定させる《二段階構造》になっている、と説明されるところのやつです。

 納税義務の成立と確定を「抽象的納税義務/具体的納税義務」と表現したの、田中二郎先生が初めてなのかどうか。寡聞にして存じ上げませんが、この用語法、あまりしっくりきていません。

田中二郎「租税法(第3版)」(有斐閣1990)

 というのも、納税義務の成立後であれば、繰上保全差押えは可能になるし、納税の猶予の基準点にもなるわけです。「抽象的」というには、パワーがありすぎではないでしょうか。

 法学において「抽象的/具体的」という用語は、日常用語とは異なった、かなり独特な使われ方をするものの。やはり「抽象的」というよりは、もっと中身のある感じの用語のほうが相応しいのではないでしょうか。

 じゃあ何がいいのかと言われても思い浮かばないので、単なる問題意識の開陳のみしておきます(「確定」のほうも、言うほど確定してないじゃん、とかイチャモンの類でしょうか)。


 さて、本論。

 『国税通則法』の教科書(『租税法』の教科書の中の国税通則法パートを含む)というものが、いくつかあるのですが。総じて内容が分かりにくい。
 もちろん実務家は、それでも必要に応じて読まないといけないわけです。が、学習者にとっては迷惑この上ない。

 その原因として私が強く思いあたるもの。

 たとえばですけど、民法における『債権総論』の教科書が、(おおむね)条文順に記述しているにも関わらず。あるときは売買の話、あるときは不法行為の話と、あっちこっちに話が飛んでしまい。付いていくのに精一杯、て感じになりますよね。
 前は『民法総則』、後ろは『債権各論』とそれぞれに美味しいところを持っていかれてしまっているという、『債権総論』の悲しい立ち位置ゆえではありますが。学習段階においては害悪でしかない。

 これと同じ現象が、『国税通則法』でも起こっているのではないかと。
 すなわち、『国税通則法』の教科書も、法人税法のことを記述していたかと思えば相続税法の話に飛んでいたり。あらゆる記述で、長距離の思考移動を要求されます。
 そして、ほとんどの記述は、それなりに個別税法の学習が進んでいなければ理解できないものばかり(「税理士試験」の受験科目に国税通則法が含まれていないの、こういう理由もあるのかなと勝手に思っています)。

 個別税法パートと国税通則法パートを別々の人が執筆している共著だと、さらに不味くて。
 お互いにお見合いしてしまい、どちらからも深く論じられないがち。

 《パンデクテンの悲劇》みたいなことが、国税通則法の教科書でも起こっているのではないでしょうか。

【対パンデクテン】
米倉明「プレップ民法(第5版)」(弘文堂2018)


 この点、佐藤英明先生の教科書はさすがって感じで。
 所得税法にかかわる国税通則法の規律を、所得税法の解説に溶け込ませて論述しています。

佐藤英明「スタンダード所得税法 第3版」(弘文堂2022)
Appendix1(補論1) 所得税に関わる手続き

 主として司法試験受験生向けのサービスなのかもしれません(出題範囲の絡み)。が、司法試験受験生以外でも、国税通則法を学習する必要がある方にとって、非常に有益な記述かと思います。


 残念ながら、現状、国税通則法の規律を個別税法に溶け込ませたものは、佐藤英明先生のようなイレギュラー以外は存在しないのであり(私個人の観測範囲)。自力でどうにかしなければなりません。

 そこで今回、「消費税法」と国税通則法の「納税義務の成立」との関係について整理してみたのですが、長くなるので、次回にまわします。


 軽く頭出しだけしておくと。

国税通則法 第十五条(納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定)
1 国税を納付する義務(源泉徴収等による国税については、これを徴収して国に納付する義務。以下「納税義務」という。)が成立する場合には、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税を除き、国税に関する法律の定める手続により、その国税についての納付すべき税額が確定されるものとする。
2 納税義務は、次の各号に掲げる国税(第一号から第十三号までにおいて、附帯税を除く。)については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。
一 所得税(次号に掲げるものを除く。) 暦年の終了の時
二 源泉徴収による所得税 利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時
三 法人税及び地方法人税 事業年度の終了の時
四 相続税 相続又は遺贈(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。)による財産の取得の時
五 贈与税 贈与(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。)による財産の取得の時
七 消費税等 課税資産の譲渡等若しくは特定課税仕入れをした時又は課税物件の製造場(石油ガス税については石油ガスの充塡場とし、石油石炭税については原油、ガス状炭化水素又は石炭の採取場とする。)からの移出若しくは保税地域からの引取りの時


 消費税の納税義務は、所得税・法人税のように課税期間の終了時ではなく、個々の取引ごとに成立するとされています。
 「仕入税額控除」はどこにいったんだ、と思われるかもしれません。が、少なくとも、通則法上は『税額転嫁と仕入税額控除の両輪により駆動する仕組みの税』などという両輪駆動テーゼは採用しておらず。控除を無視した課税側のみで納税義務が成立すると考えていることが分かるかと思います。

【両輪駆動テーゼ】
《税負担の累積防止》なる税務ミームについて 〜最高裁令和5年3月6日判決(ADW事件)

 所得税・法人税のほうを、たとえば「給与をもらう毎に納税義務が成立する」と構成することも可能なはずです。が、そうはせず、所得税・法人税と消費税とであえて違った規律を採用しているということです。

 で、この「個々の取引ごとに消費税の納税義務が成立する」ことにいかなる意味があるのか、ということを、次回整理したいと思います。

納税義務の成立とは何か(その2) 〜国税通則法と消費税法の交錯
posted by ウロ at 08:25| Comment(0) | 国税通則法