2023年01月02日

電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)

 種蒔き編10,11では「電気通信利用役務の提供」に関する条文を省略しましたが、ここでは正面から扱ってみます。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)
条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)
幻想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編12)


 国税庁のサイトに掲載されている情報、あるときは条文引き写しでさっぱり意味が取れなかったり、あるときは優しく噛み砕きすぎて書かれていないことに対する応用がきかなかったり、ちょうどいい塩梅の記述になかなか出くわさない。

国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係について(国税庁)

 「電気通信利用役務の提供」についての説明は、後者の典型。
 それ自体の内容はよく理解できるものの、では、消費税法にインボイスが組み込まれたらどうなるか、についての推測を働かせることができない。
 そこらの《税務お役立ち記事》でも、国税庁発表の情報をベースにしているせいで、インボイスと電気通信利用役務の提供との関係のような、国税庁が触れていない情報を検討しているようなものが出てこない。

 ということで、電気通信利用役務の提供の条文構造を確認してみます。今回はインボイス施行前のもの。


 まずは定義規定から。

第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
 八の二 特定資産の譲渡等 事業者向け電気通信利用役務の提供及び特定役務の提供をいう。
 八の三 電気通信利用役務の提供 資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行われる著作物の提供その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供(電話、電信その他の通信設備を用いて他人の通信を媒介する役務の提供を除く。)であつて、他の資産の譲渡等の結果の通知その他の他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供以外のものをいう。
 八の四 事業者向け電気通信利用役務の提供 国外事業者が行う電気通信利用役務の提供のうち、当該電気通信利用役務の提供に係る役務の性質又は当該役務の提供に係る取引条件等から当該役務の提供を受ける者が通常事業者に限られるものをいう。
 八の五 特定役務の提供 資産の譲渡等のうち、国外事業者が行う演劇その他の政令で定める役務の提供(電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)をいう。
 九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
 十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第二十八条第一項(給与所得)に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該役務の提供をしたとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもので、第七条第一項各号に掲げる資産の譲渡等に該当するもの及び第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるもの以外のものに限る。)をいう。


 ここからわかることは、

 ・資産の譲渡等の中に、電気通信利用役務の提供と特定役務の提供が含まれている。
 ・電気通信利用役務の提供のうちの事業者向け電気通信利用役務の提供と、特定役務の提供が特定資産の譲渡等にあたる。
 ・いわゆる消費者向け電気通信利用役務の提供は定義としては存在しておらず、あくまでも事業者向け以外の電気通信利用役務の提供という位置づけ。

ということになります(以下、単に「消費者向け」「事業者向け」といったり、特定役務の提供を省略したりします。)。

 資産の譲渡等
  資産の譲渡・貸付
  役務の提供
   電気通信利用役務の提供
    −事業者向け電気通信利用役務の提供 →特定資産の譲渡等
   特定役務の提供            →特定資産の譲渡等

 また、「課税仕入れ」は、「資産の譲渡等」を仕入れ側にひっくり返したものなので、この中に消費者向け・事業者向けいずれも含まれていることになります。


 次に、「課税の対象」「納税義務者」がどのように規定されているかというと。

第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。
第五条(納税義務者)
 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三十条第二項及び第三十二条を除き、以下同じ。)及び特定課税仕入れ(課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある。


 ・(課税)資産の譲渡等(特定資産の譲渡等除く)
 ・特定(課税)仕入(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等)

 「譲渡」に課税するか「仕入」に課税するかなんて、結局のところ、法律の中に書き込みさえすればどちらでもいけるということなんですよね。消費税法の《本質論》みたいなものは成り立ち得ない。
 第1条が崇高な目的などを謳わずに、単なる"Object"だけを陳列しているのがここで効いてくる。

第一条(趣旨等)
1 この法律は、消費税について、課税の対象、納税義務者、税額の計算の方法、申告、納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるものとする。


 「消費者向け」はどこにいったのかといえば、「資産の譲渡等」の中に含まれています。
 同じ電気通信利用役務の提供でも、消費者向けは「譲渡」に対して、事業者向けは「仕入」に対してそれぞれ課税されていることになります。

 あえて誤解されそうな言い方をするならば、「消費者向け電気通信利用役務の提供」は課税されるが「事業者向け電気通信利用役務の提供」は課税されない、ということです。
 事業者向けのほうは、あくまでも「仕入」に課税されるのであって「譲渡(提供)」は課税対象となっていません。


 「消費者向け」「事業者向け」の電気通信利用役務の提供といったカテゴリを設けたことの理由の一つが、「内外判定」に関する専用ルールを設けることにあります。

第四条(課税の対象)
3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、第三号に掲げる場合において、同号に定める場所がないときは、当該資産の譲渡等は国内以外の地域で行われたものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合 当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所(当該資産が船舶、航空機、鉱業権、特許権、著作権、国債証券、株券その他の資産でその所在していた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
二 役務の提供である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が国際運輸、国際通信その他の役務の提供で当該役務の提供が行われた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
三 電気通信利用役務の提供である場合 当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所(現在まで引き続いて一年以上居住する場所をいう。)又は本店若しくは主たる事務所の所在地
4 特定仕入れが国内において行われたかどうかの判定は、当該特定仕入れを行つた事業者が、当該特定仕入れとして他の者から受けた役務の提供につき、前項第二号又は第三号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、国外事業者が恒久的施設(所得税法第二条第一項第八号の四(定義)又は法人税法第二条第十二号の十九(定義)に規定する恒久的施設をいう。)で行う特定仕入れ(他の者から受けた事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものに限る。以下この項において同じ。)のうち、国内において行う資産の譲渡等に要するものは、国内で行われたものとし、事業者(国外事業者を除く。)が国外事業所等(所得税法第九十五条第四項第一号(外国税額控除)又は法人税法第六十九条第四項第一号(外国税額の控除)に規定する国外事業所等をいう。)で行う特定仕入れのうち、国内以外の地域において行う資産の譲渡等にのみ要するものは、国内以外の地域で行われたものとする。


 消費者向けは3項3号により判定します。
 事業者向けは、課税の対象が譲渡(提供)ではなく仕入のほうなので、3項3号は適用されずに4項により判定します。


 次に「課税標準」について。

第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。ただし、法人が資産を第四条第五項第二号に規定する役員に譲渡した場合において、その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは、その価額に相当する金額をその対価の額とみなす。
2 特定課税仕入れに係る消費税の課税標準は、特定課税仕入れに係る支払対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいう。)とする。


 消費者向け:課税資産の譲渡等の対価の額(消費税額相当額を除く)
 事業者向け:特定課税仕入れに係る支払対価の額

 消費者向けの場合は、国外事業者が消費税額相当額をもらっているとみなして、通常の国内譲渡と同じ扱いとなります。
 事業者向けの場合は、仕入側が納税する前提のため、対価の額には消費税額相当額は含まれていないことになっています。


 さて、「仕入税額控除」はどうなっているか。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。

6 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額とは、課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。第九項第一号において同じ。)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)をいい、
第一項に規定する特定課税仕入れに係る支払対価の額とは、特定課税仕入れの対価の額(対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額をいう。)をいい、


 ここは種蒔き編10でも見たところです。
 6項では、第28条にも出てきた「特定課税仕入れに係る支払対価の額」の定義づけが再度でてきます。これは、売上側と仕入側とは別々の制度だという前提から、わざわざこちらでも規定されているのでしょう。

 課税仕入から特定課税仕入だけが除かれていますので、消費者向けは課税仕入として、事業者向けは特定課税仕入として、仕入税額控除の計算をすることになります。

  消費者向け:課税仕入れに係る支払対価の額 ×7,8/110
  事業者向け:特定課税仕入れに係る支払対価の額 ×7.8/100

 が、平成27年の改正附則により、次の「経過措置」が設けられています。

附則第三十八条(国外事業者から受けた電気通信利用役務の提供に係る税額控除に関する経過措置)
1 事業者が、新消費税法適用日以後に国内において行った課税仕入れのうち国外事業者(新消費税法第二条第一項第四号の二に規定する国外事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)から受けた電気通信利用役務の提供(同項第八号の三に規定する電気通信利用役務の提供をいい、同項第八号の四に規定する事業者向け電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。以下この条及び次条において同じ。)に係るものについては、当分の間、新消費税法第三十条から第三十六条までの規定は、適用しない。ただし、当該国外事業者のうち登録国外事業者(次条第一項の規定により登録を受けた事業者をいう。以下附則第四十条までにおいて同じ。)に該当する者から受けた電気通信利用役務の提供については、この限りでない。


 消費者向け:当分の間、仕入税額控除できない。ただし、登録国外事業者からの仕入なら仕入税額控除できる。

 国外事業者が非登録の場合、国外事業者は日本国に納税する義務があるが(免税事業者除く)、同事業者から仕入れた側は税額控除ができないということになります。
 一足先にインボイスを先取りしたようなものです。

附則第四十二条(特定課税仕入れに関する経過措置)
 国内において特定課税仕入れを行う事業者の新消費税法適用日を含む課税期間以後の各課税期間(新消費税法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)において、当該課税期間における課税売上割合(新消費税法第三十条第二項に規定する課税売上割合をいう。)が百分の九十五以上である場合には、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかったものとして、新消費税法の規定を適用する。


 事業者向け:課税売上割合95%以上なら、当分の間、特定課税仕入はなかったものとみなす。

 事業者向けのほうは「特定課税仕入」がなかったものとみなすことにより、課税対象としての仕入(4条・5条)と控除対象としての仕入(30条)の両方が同時になかったことにされることになります。


 種蒔き編12で検討したとおり、インボイス施行により変容があったのは仕入税額控除の国内課税仕入のところだけでした。
 そうすると、影響を受けるのは消費者向けだけで事業者向けは影響を受けていないはず、と推測することができます。

 ということで、次回検討します。
posted by ウロ at 09:00| Comment(0) | 消費税法

2022年12月26日

幻想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編12)

 前々回・前回、条文を貼っ付けただけなので、一応整理をしておきます。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)
条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)


 私自身、消費税法は実務から入ったクチなので、最初のころは、

  仮受消費税−仮払消費税=納税額

という計算構造なのだと勝手に思っていました。
 そして、帳簿入力さえ正しく処理されていれば、申告書は数字飛ばすだけで完成できてしまうので、わざわざ条文を読む必要もありませんでした。

 「滅せよ益税!」を唱えている方々の脳内消費税法も、事業者は本体とは別にお国に代わって消費税をお預かりしている、というイメージを前提としているように思えます。

 が、条文に書かれていることとは全く違うわけで。


 ということで、条文の計算構造を抽出。
 「国内課税仕入」のみを想定して記述します。また、例外としての積上げ・割戻しの選択適用は考慮外とします。

 《インボイス前》
  ・売上税額
   税込金額から消費税額相当額を控除して課税標準を算出する
   課税標準に税率をかけて税額を算出する
  ・仕入税額
   税込金額から割り戻して算出する

 《インボイス後》
  ・売上税額
   税込金額から消費税額相当額を控除して課税標準を算出する
   課税標準に税率をかけて税額を算出する
  ・仕入税額
   インボイス記載の消費税額

 売上側は全く変更なしで、仕入側だけが変更されたということが分かりました。
 インボイス前は売上側・仕入側とで同種の計算方式だったものが、インボイス後は仕入側にだけ厳格な形式要件が課せられることになりました。

 売上側がそのままなのに、仕入側だけが限定されたせいで、「非登録である課税事業者は納税しなければならないが、同事業者から仕入れた課税事業者は控除できない」(控除なき納税)という事態が生じてしまったわけです。

 これをどのように正当化するかについて、条文を読んでも、そう書いてあるという以上のものは導きだすことはできませんでした。


 また、免税事業者が「益税」を得ているという風評に対しても、条文上は自分のところの譲渡に課税されないというだけで。お国のために預かった消費税をネコババしている、などということではないことが分かります。

 しかも、納税義務が免除されるとあわせて税額控除も受けられないことになっているわけで、一方的に利益だけを得ているとはかぎりません。
 むしろ、消費者と同様、消費税を負担する側にまわっているようにも思えます。


 条文の作りからすると、売上側の譲渡課税と仕入側の税額控除はそれぞれ別々の制度として機能しているようにみえます。免税事業者について、売上側・仕入側それぞれに除外規定があるのも(9条と30条)、制度して分かれていることが前提になっているからではないでしょうか。

 インボイス前はいずれも同種の計算方式によっていたことから、両制度が一体となって「付加価値」に課税している、と説明することも可能でした。
 ところが、インボイス後は、売上側は、インボイスとは全く無関係に、すべての課税取引に課税されたままです。他方で、仕入側は「もらった消費税と払った消費税は一致すべき!」というスローガンのもと、売上側からインボイスを貰わなければ控除ができないことになりました。
 売上側と仕入側とが別々に規定されているという隙を突かれた格好になります。

 法人税法における益金/損金であれば、ズラしたい場合は個別に算入・不算入ルールを設けるところです。が、消費税法の仕入税額控除については、課税仕入まるごとルールチェンジしてしまったわけです。「益金は発生主義、損金は現金主義」くらいのノリ。

 売上に課税する場面: 仕入側と一致しなくていい (控除なき課税はOK)
 仕入で控除する場面: 売上側と一致しなければならない! (課税なき控除は禁止!)

 「もらった消費税と払った消費税は一致すべき!」といいながら、課税拡大方向への片面適用で満足してしまうの、なぜなのか。
 もちろん、課税当局の立場からすれば、課税ベースが拡大することや課税処分がしやすくなる方向の改正を歓迎するのは当然の態度です。が、学者先生なり税理士までもが課税庁と一緒になって、なんの躊躇もなくインボイス導入に積極的でいられるのか、私にはどうにも理解が及びません。

 『インボイスがあれば電気通信利用役務における「事業者向け/消費者向け」の区別ができる!』とかいう例の主張、もしかしてですが、インボイスさえあればあらゆる場合で売上側と仕入側の消費税を一致させることができる、とでも思っているんですかね。
 もちろん、そういう制度を構想することはできるのかもしれません。が、少なくとも、日本の《片面適用型インボイス》とは似ても似つかない制度であることに違いはありません。


 ふと思ったのですが、「消費税はお国のための預かりモノ」という主張、条文の書きぶりとは反するが制定時の《立案者意思》がそうだった、とでもいうことなんですかね(歴史を辿るのは苦手なので、私自身は未確認です)。

アレオレ租税法 〜立案者意思は立法者意思か?

 そうではないとしても、これほど条文に反していることを堂々と主張されているんだから、それなりの根拠があるはずです。
 まさかタイトルの「消費」という二文字だけから、本体である条文を無視した解釈を導き出している、なんてことはないですよね。
posted by ウロ at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 消費税法

2022年12月19日

条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)

※令和5年度税制改正大綱が発表されましたが、本ブログが問題としている「基本構造」自体には特に影響はないため、触れずに進めます。

 インボイス施行により、消費税法の基本構造がどのように変わるのかの確認です。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)


第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。
 九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
 十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡したとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもの)をいう。

第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。
第六条(非課税)
 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第二に掲げるものには、消費税を課さない。
第五条(納税義務者)
1 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。


 このあたりは笑っちゃうくらい変わっていません。非課税取引の別表第一が第二に繰り下がったくらい。
 せめて「課税仕入」の定義くらい見直せばよさそうなものですが、これ自体は変更しないんだと。なので、インボイス無しだろうが消費者からの仕入だろうが、課税仕入の定義には含まれたままだということになります。


第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。
第二十九条(税率)
 消費税の税率は、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める率とする。
一 課税資産の譲渡等(軽減対象課税資産の譲渡等を除く。)、特定課税仕入れ及び保税地域から引き取られる課税貨物(軽減対象課税貨物を除く。) 百分の七・八
二 軽減対象課税資産の譲渡等及び保税地域から引き取られる軽減対象課税貨物 百分の六・二四


 もっと驚きなのが、「課税標準」の規定も変更がないことです。
 インボイス云々には全く影響されることなく、相当する額を控除してから税額を算出する、という税額算出過程はそのまま残されています。

 税率のほうは、軽減税率を本法に組み込んだせいで旧法のエレガンスさはお亡くなりになりまして、野暮ったい感じになりました。


 さて、ということで「仕入税額控除」の規定がどうなったかです。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る適格請求書(第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。第九項において同じ。)又は適格簡易請求書(第五十七条の四第二項に規定する適格簡易請求書をいう。第九項において同じ。)の記載事項を基礎として計算した金額その他の政令で定めるところにより計算した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。

令第四十六条(課税仕入れに係る消費税額の計算)
 法第三十条第一項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、次の各号に掲げる課税仕入れの区分に応じ当該各号に定める金額の合計額に百分の七十八を乗じて算出した金額とする。
一 適格請求書(法第五十七条の四第一項に規定する適格請求書をいう。以下同じ。)の交付を受けた課税仕入れ 当該適格請求書に記載されている同項第五号に掲げる消費税額等のうち当該課税仕入れに係る部分の金額


 ここでも比較として、特定課税仕入、輸入仕入を並べてみます。

 ・国内課税仕入
  国内において行つた課税仕入れに係る消費税額
 (当該課税仕入れに係る適格請求書の記載事項を基礎として計算した金額
  その他の政令で定めるところにより計算した金額)
 ・特定課税仕入
  国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額
 (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額

 国内課税仕入のみ、算出方法が変更になりました。

 特定課税仕入にインボイスを導入しなかったのは、リバースチャージが仕入側の制度でありながら売上側の制度でもある性格が影響しているんじゃないですかね。
 国内課税仕入のほうは、そういった制約がないってことで、売上側とは似ても似つかない、全く次元の異なる制度を採用することができたと。


 リバースチャージは、仕入側が売上側の納税をしつつ同時に自分の側の控除もするというものです。ここで、納税はしなければならないが控除はインボイスがなければできない、なんてことを言い出したら、さすがにインボイス推進派の皆さんでも、なんかおかしいぞと思うはずです。

 国内事案では、B(非登録である課税事業者)とC(Bから仕入れた課税事業者)が別事業者であることから、「Bが納付するのにCが控除できない」という事態が生じていても、誤魔化せていたのかもしれません。
 が、リバースチャージの場面では「Cが(Bの代わりに)納付するのにCが控除できない」なんてことになったら、その理不尽さに気づかれてしまっていたはずです。Bがインボイスを発行できないことの不利益をなぜCが被らなければならないのかと。
(や、国内事案でも同じことなんですけど、インボイス推進派の人たち、なぜか益税しか見えていないから。)


 以下、帳簿・請求書絡みの条文も引用しておきますが(これでも網羅的ではない)、インボイスには「消費税額」そのものを記載する、ということだけ見ておいていただければ。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(請求書等の交付を受けることが困難である場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。

8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
ロ 課税仕入れを行つた年月日
ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容(当該課税仕入れが他の者から受けた軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等に係るものである旨)
ニ 課税仕入れに係る支払対価の額(当該課税仕入れの対価として支払い、又は支払うべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、当該課税仕入れに係る資産を譲り渡し、若しくは貸し付け、又は当該課税仕入れに係る役務を提供する事業者に課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額(これらの税額に係る附帯税の額に相当する額を除く。)に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。第三十二条第一項において同じ。)

9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類及び電磁的記録(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律第二条第三号(定義)に規定する電磁的記録をいう。第二号において同じ。)をいう。
一 事業者に対し課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。次号及び第三号において同じ。)を行う他の事業者(適格請求書発行事業者に限る。次号及び第三号において同じ。)が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する適格請求書又は適格簡易請求書

(適格請求書発行事業者の義務)
第五十七条の四 適格請求書発行事業者は、国内において課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この条において同じ。)を行つた場合(第四条第五項の規定により資産の譲渡とみなされる場合、第十七条第一項又は第二項本文の規定により資産の譲渡等を行つたものとされる場合その他政令で定める場合を除く。)において、当該課税資産の譲渡等を受ける他の事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。以下この条において同じ。)から次に掲げる事項を記載した請求書、納品書その他これらに類する書類(以下この条から第五十七条の六までにおいて「適格請求書」という。)の交付を求められたときは、当該課税資産の譲渡等に係る適格請求書を当該他の事業者に交付しなければならない。ただし、当該適格請求書発行事業者が行う事業の性質上、適格請求書を交付することが困難な課税資産の譲渡等として政令で定めるものを行う場合は、この限りでない。
一 適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号(第五十七条の二第四項の登録番号をいう。次項第一号及び第三項第一号において同じ。)
二 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
三 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(当該課税資産の譲渡等が軽減対象課税資産の譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象課税資産の譲渡等である旨)
四 課税資産の譲渡等に係る税抜価額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。次項第四号及び第三項第四号において同じ。)又は税込価額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含むものとする。次項第四号及び第三項第四号において同じ。)を税率の異なるごとに区分して合計した金額及び適用税率(第二十九条第一号又は第二号に規定する税率に七十八分の百を乗じて得た率をいう。次項第五号及び第三項第五号において同じ。)
五 消費税額等(課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額の合計額として前号に掲げる税率の異なるごとに区分して合計した金額ごとに政令で定める方法により計算した金額をいう。)
六 書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称



 なお、「免税事業者」については、適格請求書発行事業者を除外する規定が入っただけで、構造そのものは変わっていません。

第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者(適格請求書発行事業者を除く。)については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等及び特定課税仕入れにつき、消費税を納める義務を免除する。ただし、この法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。


幻想消費税法 vs 条文消費税法 〜消費税法の理論構造(種蒔き編12)
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2022年12月12日

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)

 ここまで、条文を引用しないまま空中線を展開してしまったので、条文を確認しておきます。ただ、用途区分とかリバースチャージまで含めると込み入ってくるので、基本構造のみを見ていきます。

《インボイスをもって益税を割く》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)

 今回は、インボイス施行前のものを。例によって大胆に省略入れています。


 まずは定義規定。

第二条(定義)
1 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 八 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいう。
 九 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。
 十二 課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受けること(当該他の者が事業として当該資産を譲り渡したとした場合に課税資産の譲渡等に該当することとなるもの)をいう。


 課税仕入については、売る側からみて課税資産の譲渡にあたることになるか、という視点から定義づけがされています。しかも、事業として譲渡したならば、という仮定を使っているので、消費者から買う場合なども課税仕入に該当することになります。


第四条(課税の対象)
1 国内において事業者が行つた資産の譲渡等には、この法律により、消費税を課する。
第六条(非課税)
 国内において行われる資産の譲渡等のうち、別表第一に掲げるものには、消費税を課さない。
第五条(納税義務者)
1 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等につき、この法律により、消費税を納める義務がある。


 譲渡に課税となっており、消費に課税とはなっていません。


第二十八条(課税標準)
1 課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。以下この項及び第三項において同じ。)とする。
第二十九条(税率)
 消費税の税率は、百分の七・八とする。


 28条の読み方が肝になるところかと思います。数値で示すと

 ア 課税資産の譲渡の対価の額 11,000円
 イ 消費税額等に相当する額  1,000円
 ウ 課税標準額        10,000円
 エ 課税標準額に対する消費税額 780円

という感じで、まわりくどい計算になっています。
 これはおそらく、課税額というのは「課税標準×税率」で算出するもの、という形式を維持するためではないでしょうか。アにいきなり「7.8/110」を掛けるのは、この形式に反するんだと。
 なので、イもあくまで消費税額に「相当する額」であって、課税標準に税率を掛けた結果でてくる消費税額そのもの(エ)とは別物ということになります。

 この、イが消費税そのものではないという理屈により、課税事業者が実際に請求書に消費税を明記するかどうかにかかわらず、課税売上をあげた以上は問答無用で消費税が課税されてしまう、という帰結を導くことができます。


 さて、本丸の仕入税額控除です。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
1 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)が、国内において行う課税仕入れ(特定課税仕入れに該当するものを除く。以下この条及び第三十二条から第三十六条までにおいて同じ。)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる課税標準額に対する消費税額(以下この章において「課税標準額に対する消費税額」という。)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額をいう。以下この章において同じ。)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この章において同じ。)につき課された又は課されるべき消費税額(附帯税の額に相当する額を除く。次項において同じ。)の合計額を控除する。


 ここでは対比のため、特定課税仕入と輸入仕入も省略せずに引用しておきました。
 それぞれ、控除できる額は次の通りとなっています。

 ・国内課税仕入
  課税仕入れに係る消費税額
  (当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・特定課税仕入
  特定課税仕入れに係る消費税額
  (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額

 仕入側は、売上側とは違い、いきなり「7.8/110」を掛けることになっています。
 これは、税額控除の場面では「課税標準×税率」ルールに従わなくてよい、ということなんでしょう。より一層、売上側の持ってまわった感が引き立ちます。
 ではありますが、税込金額からスタートする、という意味では売上側・仕入側ともその発想は同じだと評価することができます。

 課税仕入の定義で触れた通り、消費者から買った場合も(国内)課税仕入に含まれるので、それらも含めて「×7.8/110」した額を控除することになります
 ちなみに、特定課税仕入のほうは「特定」の定義の中に「事業者向け」がビルトインされているので、仕入先が限定されていることになります。また、仕入本体に税相当額が含まれていない前提なので、「7.8/100」掛けることになっています。


 仕入税額控除を受けるための「帳簿」「請求書」についても触れておきます。厳密には「附則」の経過措置も引用すべきなんでしょうが、長くなるので本法のみです。

第三十条(仕入れに係る消費税額の控除)
7 第一項の規定は、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等(同項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が少額である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)を保存しない場合には、当該保存がない課税仕入れ等の税額については、適用しない。ただし、災害その他やむを得ない事情により、当該保存をすることができなかつたことを当該事業者において証明した場合は、この限りでない。
8 前項に規定する帳簿とは、次に掲げる帳簿をいう。
 一 課税仕入れ等の税額が課税仕入れに係るものである場合には、次に掲げる事項が記載されているもの
  イ 課税仕入れの相手方の氏名又は名称
  ロ 課税仕入れを行つた年月日
  ハ 課税仕入れに係る資産又は役務の内容
  ニ 第一項に規定する課税仕入れに係る支払対価の額
9 第七項に規定する請求書等とは、次に掲げる書類をいう。
 一 事業者に対し課税資産の譲渡等を行う他の事業者が、当該課税資産の譲渡等につき当該事業者に交付する請求書、納品書その他これらに類する書類で次に掲げる事項が記載されているもの
  イ 書類の作成者の氏名又は名称
  ロ 課税資産の譲渡等を行つた年月日(課税期間の範囲内で一定の期間内に行つた課税資産の譲渡等につきまとめて当該書類を作成する場合には、当該一定の期間)
  ハ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容
  ニ 課税資産の譲渡等の対価の額(当該課税資産の譲渡等に係る消費税額及び地方消費税額に相当する額がある場合には、当該相当する額を含む。)
  ホ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称


 消費税額そのものを記載することは求められておらず、対価の額に「相当する額」を含めて書けとなっています。


 ついでに、「免税事業者」の扱いについて。

第九条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
1 事業者のうち、その課税期間に係る基準期間における課税売上高が千万円以下である者については、第五条第一項の規定にかかわらず、その課税期間中に国内において行つた課税資産の譲渡等につき、消費税を納める義務を免除する。


 この規定によって、第5条の納税義務が免除されることになります。
 では、税額控除だけ受けて「還付」を求めることができるかというと、30条の最初の括弧書きで免税事業者が除外されているので、還付も受けることができません。

 このように、免税事業者については、ご丁寧に、プラス側・マイナス側それぞれで除外規定が設けられています。免税事業者だから消費税法上無視する、という感じの雑な規律の仕方にはなっていないということです。


 さて、これら規律がインボイス施行後はどのように変容されているか、次回確認していきます。

条文構造(インボイス後) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編11)
posted by ウロ at 08:00| Comment(0) | 消費税法

2022年12月05日

《インボイスをもって益税を滅す》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編9)

 インボイス制度について、これまでの記事では批判的な観点から検討をしてきました。

佐藤英明,西山由美「スタンダード消費税法」(弘文堂2022)
益税憎んで損税憎まず 〜消費税法の理論構造(種蒔き編1)
〈還付をみたら泥棒と思え〉思想 〜消費税法の理論構造(種蒔き編2)
消費税は〈偽装〉法人税? 〜消費税法の理論構造(種蒔き編3)
二元的消費課税論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編4)
合成の悪魔 〜消費税法の理論構造(種蒔き編5)
さよなら付加価値税 〜消費税法の理論構造(種蒔き編6)
「譲渡−インボイス=???」 〜消費税法の理論構造(種蒔き編7)
消費税における《後のせサクサク vs 先入れドロドロ》 〜消費税法の理論構造(種蒔き編8)

 が、インボイスのそもそもの発想としては、「もらった消費税と払った消費税を一致させよう」というもので、その目的自体は正当なものです。

 ところが、払った側の控除だけに厳格な形式要件を要求したせいで、益税を滅するだけでなく損税を生み出す結果となってしまっています。
 免税事業者の益税を潰すことに正当性があるとして、他の事業者が損税を押し付けられることに対する説明がなんらなされていない点が、本ブログにおける批判の対象だったわけです。
 インボイス推進派の方々は、さかんに制度目的の正当性を主張するものの、手段の相当性については触れるところがありません。
 私には、インボイスの導入で益税を滅しようとする所作、《牛刀をもって鶏を割く》もののように思えます。要するにやり過ぎ。

  インボイス前:
   消費者が負担した消費税 > 課税事業者が納付した消費税 《過小課税》

 建前上は、この符号を「=」にすべきと謳っているわけですが、実際には、

  インボイス後:
   消費者が負担した消費税 < 課税事業者が納付した消費税 《過大課税》

と逆向きにひっくり返してしまっています。

 過小課税と過大課税、どちらが望ましいかについては色々議論があるかもしれません。が、結局のところ「租税法律主義」というお題目によって、法律により決定されることになります。
 これが、ちゃんと「過小課税から過大課税に入れ替えるよ」とアナウンスした上での改正ならば、正統なプロセスだといえるでしょう。ではなく、「=にするためだよ」と欺いてインボイスを導入するの、極めて悪質ではないでしょうか。


 こういった問題だけでなく、従前の制度との整合性についても気になるところがちらほら。

 たとえば、「居住用賃貸建物」を取得した際に税額控除が否定されていることは、インボイス制度のもとではどのように正当化できるでしょうか。

消費税法改正のお知らせ(令和2年4月) - 国税庁
U.居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度の適正化

 このルールのもとでは、売主側では消費税を納付しなければならないのに、買主側では税額控除ができないことになっています。
 この帰結、前回までに論じたB(非登録である課税事業者)への支払と同じですよね。

 Bはインボイス非登録者であったわけですが、居住用賃貸建物譲渡の場面では、インボイス登録者への支払いであっても買主側では税額控除ができません。
 インボイス導入によって、売上消費税と仕入消費税を一致させようとしているにもかかわらず、このような事態が生じることは放置していてもよいのでしょうか。

 この点は、居住用賃貸収入が「非課税売上」である以上は、買主(=貸主)が最終的な消費税負担者となるのは当然だということでしょうか。ここでの税額控除否定は、消費税の最終負担者が誰かを決定するものであって、インボイスによる税額控除否定とは別次元のものなのだと。

 あとは、家賃値上げによって経済的な負担を借主に転嫁ができるかどうか。

 それにしても、調整期間3年で打ち切りというのは、あまりにも短いように思います。実務家的には、あまり長期にされると管理が大変、ということにはなりますが。


 なお、経済的な意味で消費者に転嫁できるかどうかは市場における競争力の問題であって、課税商品か非課税商品かによって大きく変わるわけではないと思います。税というラベルをつけることで、値上げに対する消費者の心理的負担が減るくらいでは。

 この「非課税売上」というもの、何かを仕入れようとすれば税額控除が制限されるし、売る場面では結局値決めの問題だしで、誰にとってどういうメリットがあるのか、未だによく理解できません。
 同じ非課税売上の中でも、保険診療のように価格が決まっているほうがいいのか、家賃のように決まっていないほうがいいのかも、なんともいえない気がします。金額を自由に決められるからといって、実際に借主に転嫁できるかは力関係次第でしょうし。


 実務書でない、消費税法の教科書に期待することは、こういった各制度の背後の理屈を説明してくれるものであって。ただただ表層の部分を分かりやすく説明するだけでは、理解が深まることはないと思います。

条文構造(インボイス前) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編10)
posted by ウロ at 00:00| Comment(0) | 消費税法