2023年11月13日

みずほCFC事件判決(最高裁令和5年11月6日)と形式的犯罪論

 例によって、エキセントリックなタイトル。

 先日、取り急ぎで雑感を書きましたが。

みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 本判決の「形式偏重」な思考、以下のような物言いを想起させるんですよね。

【形式的犯罪論】
 国家権力による恣意的な処罰を抑制するため、法律による定めなしに処罰することは許されない。この趣旨を貫徹するため、裁判官は法律を形式的に適用することしか許されず、実質的な判断を加えることは禁止される。


 刑法総論の教科書の最初のほうで、すでに克服された考え方として紹介されているものです。

 「実質的判断を入れただけでは、直ちに恣意的な処罰になるわけではない」ということについては、今どきの刑法学説であれば共通認識になっているものかと思います。形式的に構成要件に該当するというだけでは犯罪は成立せず、処罰に値するだけの法益侵害があるかどうかの検討は別途必要だと。

 本判決の論理を刑法学上の道具立てになぞらえて説明するならば、

 形式的に犯罪構成要件(課税要件事実)に該当するならば、実質的な法益侵害(合算に値する子会社所得)が存在しなくても、処罰(合算課税)すべきである。

ということになります。税法の課税要件事実は租税犯罪構成要件(の一部)でもあるわけだから、わざわざ「なぞらえて」なんて言わなくてもよいのかもしれませんが。
 「形式的犯罪論」を完全トレースした物言い。


 一昔前の刑法学説(純粋な意味での形式的犯罪論)みたいなものが、税法分野では、令和時代の最高裁判決において堂々と展開されているなんて、周回遅れにも程がある。
 ではありますが、最高裁を責めるのは酷であって。やはり税法学説において、租税法上の原理原則として「罪刑法定主義」(+そこからの派生原則)を唱えるだけで満足してしまっているのが問題なのでしょう。

 『だったら、事前に・明確に・平等に、課税するって法律に書いておきゃいいんだろ。』に対して、「租税法律主義」だけではなんら対抗することができません。刑法学でいうところの「法益保護主義」に対応するような原理原則が、未だに開発されていない。

 仮に、「早歩き罪」(早歩きしたら処罰)などという犯罪があったとしたら、何ら保護すべき法益がないから許されない、となるでしょう。に対して、「早歩き税」(早歩きしたら課税)という税目があったとしても、それを制約できるような道具立ては、税法学説内部に用意されていません。


 CFC税制のように、法令上は《割り切り》によって規定せざるを得ないとしても(「課税要件の明確性」)。また、課税庁が課税処分の段階で形式的に執行せざるを得ないとしても(「課税執行面における安定性」)。裁判所までもが、個別事案における救済を検討せずに形式判断だけで押し切らなければならない、ということにはならないでしょう。

 本件でも、本来の趣旨から外れた「過剰課税」であることは認められているのだから。裁判所が個別救済したとしても「立法権の侵害」ということにはならないでしょう。もともと立法府が想定していた趣旨に沿って限定を加えているわけで。裁判所が独自の意味を勝手に充填するのではありません。

 税法が「緻密で合理的な条文の集積」から成り立っているとして。
 よく出来上がっている箇所については、余計な判断を加えず粛々と形式的なあてはめをしていけばいいのでしょう。が、そうではない箇所については、課税に値する実態が存するのかどうか、しっかり検討する必要があるのではないでしょうか。


 ここであらためて、本判決がいう「課税要件の明確性」について。

 ここまでは、さしあたり「租税法律主義」から派生するところの『明確性(憲法原理)』として捉えておきました。で、課税に対する《制約原理》なのに、《拡張原理》として使うのはおかしい、と批難しました。
 が、よくよく考えると、本判決がいうところの「課税要件の明確性」は、憲法原理としてのそれではなく。単に立法技術としての『明確性(立法技術)』を言っているのではないかと。

 前回のイメージ図のごとく、楕円の制度趣旨にピッタリ寄り添う形で制度設計するのは立法技術的に無理がある、ので、ある程度の《割り切り》は『明確性(立法技術)』の観点から許される、といっているだけだと。

 もしそうだとすると、法令そのものが違法とならない、というだけで。当該事案に適用することが許されるかどうかは、やはり、別途検討が必要になるのではないでしょうか。


 本判決において「裁判所が」個別救済をしない理由付けとして機能しているの、「調べりゃ回避できたはず」だけだと思います。「課税要件の明確性」は立法府向け、「課税執行面における安定性」は課税庁向けに使える理由にすぎず。裁判所が個別救済を拒絶する理由としては遠すぎる。

 では、「回避理論」をもって個別救済を拒絶することが正当化されるでしょうか。
 この理論、自招防衛などにおいて正当防衛を否定する根拠として使われる「退避義務」に似ているんですよね。自分で不正な侵害を招いたのであれば、反撃せずに退避すべき、として使われるやつ。
 そうすると、本件でもみずほ様に「回避義務」が課せられるのかどうか、という評価が問題となってきます。

 この点、「早歩き税」であれば、「早歩きしなければ課税を回避できる」からといって、課税が正当化されることにはならないでしょう。あまりにも行動制約が激しすぎるわけで。
 本件においては、みずほ様に配当や事業年度終了のタイミングを調整させることが、どの程度の制約となるかにかかってくるかと思います。手続きそれ自体は簡単だとしても、他への影響を考えるとそんなお気軽にイジれるものではない、とかがありえるわけで。
 本判決自身は、「やりゃあできる」程度にしか考えていないようですが。


 ここで「調整」といいましたが。CFC税制を回避するためだけにこれらタイミングを弄ることが、逆に、不当な「租税回避行為」だとか言い出さないかどうか。
 「過剰課税」の場合でも形式重視で合算するといったわけですが。反対に「過小課税」の場合にも形式重視で合算しないといってくれるのか。

 税法判決において最高裁が、形式重視でいくのか実質重視でいくのか、予測を立てるのが難しくなっているように思います。
 最近の傾向からすると、どちらかというと形式を重視しているようにもみえます。が、りそな外税控除事件判決のように、制度濫用論なんてゴリゴリの実質重視を繰り出してくることもあり。

 本事件における高裁も、決して最高裁様に逆らうつもりで実質重視でいったわけではなく。最高裁ルーレットの「形式/実質」の二択のうち実質にBETしたら外れた、というだけの話だと思います。
 こんな状況で「信託SO」の事件がやってきたら、最高裁様のご機嫌はどちらだろうかと、下級審の裁判官は見極め困るだろうな、と思います。

信託型ストックオプション雑感


 なお、税法における「形式偏重」の最新例が「インボイス制度」です。
 売上側が実質課税なのに対して、仕入側が形式控除なせいで「損税」が生じてしまっています。ここでいう「損税」というのが補足意見でいうところの「過剰課税」。

 私自身は、「損税(=過剰課税)」というものはおよそ許されない、という考えで一連の検討を進めていたのですが。本判決によれば、「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」を理由にしさえすれば、消費者が消費した以上の消費税が生じたとしても別に構わない(し個別救済もしない)、ということになります。

 「所詮カネだから」ということで許容されているのかもしれませんが。
 「処罰すべき法益侵害はないけど、分かりやすさや執行しやすさを重視した結果、処罰範囲に入っちゃったので、処罰されても我慢してね。」なんて言ったら、刑法学者から袋叩きにあいますよね。こんな主張が許されてしまう、租税法学のぬるま湯感は異常。

インボイス行為無価値論 〜消費税法の理論構造(種蒔き編26)
posted by ウロ at 10:55| Comment(0) | 判例イジり

2023年11月08日

みずほCFC事件判決 〜最高裁令和5年11月6日判決 (雑感)

 一読しての第一印象。誤読・誤解もあると思うので、そのうち修正すると思います。


 「文言解釈の原則からしたら当たり前」というような、単純なお話しではなく。

最高裁令和5年11月6日判決

 主戦場が「政令」となっているため、政令が法律の委任の趣旨をはみ出していないか、という「委任立法」の問題として論じる必要があります。

【参照:消費税法における委任立法】
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)

 「委任立法」の問題として論じる場合、
  1 法律の委任の趣旨を明確にし、
  2 政令の文言解釈で委任の趣旨をはみ出していなければそのままでOK
  3 文言解釈だと委任の趣旨をはみ出すなら、趣旨にそった限定解釈を加える
  4 限定解釈のしようがなければ政令を違法とする
という論じ方になります。

 で、最高裁は案の定、そのままでよいと結論を出したわけですが(1⇒2までで終了)。いまいち中身が腑に落ちない。


 最初に。私が理解したところの、今回の判決のイメージはこんな感じ。CFC税制の制度趣旨に対して、政令(赤枠)がズレている様子を表しています。
みずほCFC事件.png


 本判決を読んでいて、真っ先に引っかかったのが以下の箇所(第2の2(1))。

「@ 本件委任規定は、私法上は特定外国子会社等に帰属する所得を当該特定外国子会社等に係る内国法人の益金の額に合算して課税する内容の規定である。
A これは、内国法人が、法人の所得に対する租税の負担がないか又は著しく低い国又は地域に設立した子会社を利用して経済活動を行い、当該子会社に所得を発生させることによって我が国における租税の負担を回避するような事態を防止し、
B 課税要件の明確性や課税執行面における安定性を確保しつつ、
C 税負担の実質的な公平を図ることを目的とするものと解される。」


 丸数字は私が挿入しました。
 CFC税制の規定を説明するにあたって、AによってCを実現する、というのはわかるのですが。その間にBが入ってくることに違和感を持ちました。何だよ「しつつ」ってと。

 が、このあとに出てくる判示を読んで、わざわざBを挿入したことの意味が分かりました。

このような趣旨に基づく委任を受けて設けられた本件規定は、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合に係る基準時を特定外国子会社等の事業年度終了の時とするものであるところ、本件委任規定において課税要件の明確性や課税執行面における安定性の確保が重視されており、事業年度終了の時という定め方は一義的に明確であること等を考慮すれば、個別具体的な事情にかかわらず上記のように基準時を設けることには合理性があり、そのような内容を定める本件規定が本件委任規定の目的を害するものともいえない。

 政令が「いささか精緻さに乏しい」割り切り方をしていることを正当化するために、法律自身もBを目的に含めていると布石を打っておいたのでしょう。Aとは別途独立に、BもCFC税制の目的にねじ込んだおかげで、個別事情を無視した《割り切り》をしてもCFC税制の「目的を害するものとはいえない」ということができるわけです。

 が、これでは政令の《割り切り》から逆算して、CFC税制の目的をでっち上げただろと非難されてもおかしくない(ヤラセ疑惑)。


 そこで、これだけではヤラセ丸出しだと思ったのでしょうか。「前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱するか否か」などいうことまで検討し始めました(第2の2(2))。

 政令が委任の趣旨通りに作られているのであれば、わざわざ個別事案ごとの検討なんていらないはずです。やはり、政令が、CFC税制の本来の制度趣旨であるAからはみ出して規定されていることに対する後ろめたさみたいなものがあったのではないかと、下衆の勘ぐりセンサーが働きます。

 上記イメージ図では、これを緑の◯で表現しています。ぎりぎり政令のライン上に収まっているが(三笘の1mmを想定)、本来の制度趣旨(A)から距離があるものを、例外的に救済する余地を残したようにみえます。

 が、本件では、草野補足意見で露骨に書かれているように「天下のみずほ様がwwwww、調査不足でしくじるとかwwwww、超ウケるwwwww」という具合で、救済方面の議論は積められることはなく。
 ちゃんと調べりゃ回避できただろと言われて一蹴(上記イメージ図のオレンジの◯)。

【一応、補足意見の原文】
被上告人のような我が国を代表する金融機関が本件資金調達手続を立案するに当たっては、当然関係各国の税制を詳細に調査研究し、その内容を知悉することが前提であろうから、被上告人は、我が国のタックス・ヘイブン対策税制についても十分な調査を行い、かつ、(タックス・ヘイブン対策税制は頻繁に改正されるものであることは周知の事実であるから、)必要に応じて、本件資金調達手続の実施後においても最新のタックス・ヘイブン対策税制の内容を調査し、本件資金調達手続によって生み出された会社法や契約法上の権利義務関係に合理的な変更を加えることによって、予期せざる税務上の不利益が発生することがないよう注意を払い続けることを期待され得る立場にあった。


 まあ、一般論レベルで《過剰課税》を許容してしまった以上、個別論レベルで救済されるなんて、ほとんど見込めないように思えます。
 下記の判示が象徴的です。

もっとも、前述のとおり、個別具体的な事情にかかわらず基準時を設ける本件規定の内容が合理的である以上、上記のような帰結をもって直ちに、前記事実関係等の下において本件規定を適用することが本件委任規定の委任の範囲を逸脱することとはならないところ、

 いかにも《経路依存》な書きぶり。「個別事情は無視していいことにしたので個別事情は無視する」といっているだけ。
 私が《ヤラセ》と評価する所以です。


 本判決では「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」というマジックワードが出てきたわけですが。

 以前検討したムゲンエステート・ADW事件判決においても、「課税の明確性の確保」「適正な徴税の実現」といったマジックワードをもって、用途区分における《割り切り》が正当化されていて。

虚弱判決(その2) 〜ムゲン・ADW事件判決(最判令和5年3月6日)

 今後もこの手のマジックワードが頻発するようであれば、しばらく税法判決の理論的発展というものが望めない状況になりはしないかと、不穏な気持ちになります(最高裁判決の《金太郎飴答案》化現象)。

 特に、「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」のためなら、本来の制度趣旨から外れた局面においても課税できること(過剰課税)を正面から認めてしまったのは、かなり致命的ではないかと。

 これまで税法学の世界では、「租税法律主義」及びここからの派生原則が、教科書の最初のほうでやたらと強調されるのに対して。「じゃあ書いときゃいいんだろ!」に対抗できる原理原則というものの発展が目立ちません。

 そのせいかどうか、「課税要件の明確性」という、本来であれば適正課税を導くための《規制原理》として主張されていたはずのものを、過剰課税を正当化するための《拡張原理》として流用(盗用)されてしまっている始末。
 「課税執行面における安定性」にしたって、適正な課税を安定的に執行するということを意味するはずで。「抜けがあると嫌だから多めにとっておけ」などというものを正当化できるものではないはずです。

 どうすんのこれ?


 今後、本判決の表面的な理解だけが独り歩きして。
 本来の制度趣旨に「課税要件の明確性」「課税執行面における安定性」をくっつけさえすれば、個別事情を無視して文言解釈だけで突っ走れる、という下級審判決が続出する予感。

 さすがに、「通達」までもを文言解釈するなんてイカれた判決は、金輪際出現することはないでしょうが。

解釈の解釈の介錯 〜最高裁令和2年3月24日判決

 本来の制度趣旨からあまりにも外れた内容となっていた場合には、さすがに最高裁だってアウトと判定するんじゃないですかね。一応、救済の余地は辛うじてほんのり残されたわけですし。


 なお、草野補足意見の下記推察。

・一般に、我が国の税法は、世界的にも稀有といえるほどに緻密で合理的な条文の集積から成り立っており、
・このことが税制に対する国民の信頼や我が国企業の国際競争力の礎となってきたことは税法の研究や実務に携わる者が均しく首肯するところではないかと推察する。

 
 後半部分はよく分かりませんが、前半部分について。

 「緻密」とまでいえるかはともかく、我々税理士が逐一税法条文を読まずとも《日常系税務》の仕事ができちゃっているのは、(通達等が整備されていることもありますが)やはり大元の税法条文が良くできているから、といえるんじゃないですかね。
 条文知らずに税務ができちゃうのは、安定的な制度設計がなされているからだといえるのではないかと。パソコンの仕組みを知らずにパソコンが使える、みたいな。

 ただ、近時のイタチごっこ改正などで制度が複雑になってきたせいで、そのような素直な評価が通用する場面が減っていっているように思えます。
 あるいは、下記で検討したように、立案担当者が当初意図したであろう適用範囲と、実際の条文本体に書かれている適用範囲がズレているという現象も生じており(条文見出しが当初意図の名残り)。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版

 今後、条文作成能力の劣化によっても「緻密で合理的な条文の集積」が崩れていくのかもしれません。

みずほCFC事件判決(最高裁令和5年11月6日)と形式的犯罪論
posted by ウロ at 19:16| Comment(0) | 判例イジり

2023年11月06日

「丸善リサーチ」と私。

 さしあたり「有料立ち読みサイト」というのが、私の現状での位置づけです。

丸善リサーチ

◯ 
 意図的かどうか、ラインナップを見る限り各出版社、様子見って感じで。本気のコンテンツ差し出しがまだ始まっていません。多くの税理士が、改訂の都度購入しているであろう、あの本やこの本が全く含まれていない。

 FIFAワールドカップの予選に各国クラブが一線級の選手を出し渋るとか、かつてWBCにメジャーリーガーがあまり出てこなかったとかのイメージ。そこで活躍することで、クラブ・球団に還元される道筋が見えていない、みたいな。

 サイトの機能自体は、とても洗練されていて使いやすいと思います。が、いかんせんコンテンツの顔ぶれが微妙。
 あまり積極的に本を買わない、あるいはたまに思いつきで本を買う税理士先生の事務所の本棚ぽくみえる(既視感)。《揃っている》感がないんですよね。


 だからといって、「これからガンガン充実していくよ!」とかいって、頭数だけ揃えればいいというものでもありません。

 たとえば「インボイス」について。
 昨今、ただでさえ少ないリアル書店の税務棚を占拠しているインボイス解説本。こいつらが収録されたところで、内容は全部同じです。運営発行の「Q&A」の引き写しなだけ。
 せっかくの「横断検索機能」ですが、複数書籍からずらずらと同じ内容が出てくるだけでは、何の参考にもならないでしょう。

 『複数の書籍が同じことを言ってるから信用できる!』ではおよそなくて。単に出処が同じなだけで、大元がアレならワナビー達もみんなアレですよ。

【事例検討】インボイス経過措置(8割特例・5割特例) 暫定版

 そのことが分かっての上なのかどうか。
 インボイスものに関しては「資料」というカテゴリの中に「Q&A」だけが掲載されています。あえてそうしているなら、とてもよい見極めだなあと思います。
 検索汚しになるだけなので、今後も「Q&A引き写し本」は収録しないで欲しい。

 インボイスを例に出しましたが、他のジャンルでも同様です。横断検索ができたところで、通達とか質疑応答事例を引き写しただけの記述が上がってくるのでは、ただの「インターネット検索」と変わりません。

 税務に関して何かしらインターネット検索した方であれば、お分かりになるかと。◯◯税理士事務所のサイトにも、△△税理士のブログにも、国税庁のサイトと同じことしか書かれていない現象。
 あれを有料サービス上で再現するという虚無。

 可能ならば「インターネット上で拾えるレベルのものは検索に上がってこない」という機能を備えてほしい。「論文コピペチェッカー」があるんだから、普通にできますよね(なんてことをしたら、1件もヒットしないことがありえる)。


 ただ、ラインナップが一線級でなくても、それなりに意味はあって。

 私が開業したときから比較しても、近場のリアル書店は激減しており、存続していても専門書の棚が縮小・消滅の憂き目にあっていたり。中身を確認してから買うことのハードルがかなりあがってしまっています。

 ネット上に一部「試し読み」の機能がついているものもありますが。本当に一部で、最初の数ページだけで全体の良し悪しを判断するのは困難。
 酷いものだと、はしがきと目次だけで終わっていたり(私の観測範囲では「◯◯×Amazon」がそれでがっかりさせられることが多い)。

 あとの頼りは出版社の宣伝文句だけですが。これも「売らんがな」要素を排除しながら見極めなければなりません。

高木光「行政法」(有斐閣2015)

 専門書なんて、手間暇かけて宣伝したってどうせ売れねえよ、と思っているのかもしれません。ので、安易に売れそうな宣伝文句だけ貼り付けて済ませてしまうんだと。
 が、興津征雄先生の『行政法T』ように、ボリュームたっぷりでお高めの教科書であっても、中身を丁寧に作り、かつ著者ご自身がSNS上でしっかり宣伝していけば、売れるものになるはずです。



 興津征雄「行政法I」(新世社2023)


 若干話が脱線しましたが。
 というような状況で、二線級の本のために遠出して現物を確認しにいくのか、あるいは、宣伝文句を信じて目押しで購入してしまうか、どちらかしかありませんでした(なお、ここで「二線級」と言っていますが、確認するまでは一線級か二線級以下かはわからない状態であることに留意)。
 そこで、本サービスに対象の書籍が収録されていれば、中身を全て確認してから書籍を購入できることになります。

 収録されているならわざわざ購入しなくてもよいのでは、と思われるかもしれません。
 ですが、残念ながら本サービス上に収録され続けるという保証はどこにもありません。で、収録されなくなってから紙の本を買おうと思っても、品切れ絶版になっていること必至。

 ということで、私にとって、本サービスを利用した場合の効用としては、「無駄撃ち」がなくなるということかなと。蔵書(積み本)が減ることはないと思います。


 私としては、無料期間終了まで様子見て、ラインナップの方向性が変わらなそうであれば、一旦解約でしょうか。ラインナップの揃い具合によっては再開するかも、ぐらいの感じ。

 ところで、この手のサービス、実際に登録しないと収録ラインナップが見られないことが多いのですが、どういう作法なんですかね。
 今はキャンペーン中だからいいとして、通常は、収録内容も分からずに有料登録なんてしづらいと思うのですが。
posted by ウロ at 11:22| Comment(0) | ガジェット

2023年10月30日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)

 前回までで省略した「特定課税仕入」と《インボイスいらない特例》の関係について、一応確認しておきます。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)

 事業者向け/消費者向け電気通信利用役務の提供については、以前に条文構造を整理したことがあります。

【電気通信利用役務の提供とインボイス】
電気通信利用役務の提供の構造1 〜消費税法の理論構造(種蒔き編13)
電気通信利用役務の提供の構造2 〜消費税法の理論構造(種蒔き編14)
偽装リバースチャージとしてのインボイス制度 〜消費税法の理論構造(種蒔き編15)

 その際は、帳簿・請求書に関する規律は省略していました。ので、今回はその補完となります。


 まず、インボイス「前」の旧法。法30条1項の規律から確認します。

法30条1項
 ・国内課税仕入
  課税仕入れに係る消費税額
  (当該課税仕入れに係る支払対価の額に百十分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・特定課税仕入
  特定課税仕入れに係る消費税額
  (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額


 以前確認したとおり、旧法では通常の国内課税仕入(以下、「通常の」は略)と同じ計算式となっていました。
 次に7項。

 法30条7項
  原則:帳簿及び請求書 保存必要
  例外:帳簿のみ保存必要。
     少額、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項


 原則は帳簿・請求書が必要だが、特定課税仕入は帳簿のみでOKだと。
 法にそのものずばり「特定課税仕入」と明記されているものの、「その他の」となっているため、一応、政令を確認しなければなりません。

 令49条1項 帳簿のみの保存でよい場合
   三 特定課税仕入


 まあ、書いてあるわけです。
 国内課税仕入のように、通達にまではみ出すこともなく、これで完結しています。


 これがインボイス「後」はどうなったかというと。

 法30条1項
 ・国内課税仕入
  国内において行つた課税仕入れに係る消費税額
 (当該課税仕入れに係る適格請求書の記載事項を基礎として計算した金額
  その他の政令で定めるところにより計算した金額)
 ・特定課税仕入
  国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額
 (当該特定課税仕入れに係る支払対価の額に百分の七・八を乗じて算出した金額)
 ・輸入仕入
  保税地域からの引取りに係る課税貨物につき課された又は課されるべき消費税額


 旧法と比べて、国内課税仕入のみ計算式が変更となりました。
 次に7項。

 法30条7項
  原則:帳簿及び請求書等
  例外:帳簿のみ。困難、特定課税仕入、その他の政令で定める場合 →令49条1項


 相変わらず「特定課税仕入」は法に明記されているものの、やはり「その他の」なので政令を確認する必要があると。

 令49条1項 帳簿のみの保存でよい場合
  ニ 特定課税仕入


 まあ書いてありますよね。旧1号の「3万円未満」がなくなったせいで、3号から2号に繰り上がっただけです。
 国内課税仕入についての1号にはごちゃごちゃ小賢しいことが書かれているのに対して、2号はこれだけ。


 国内課税仕入があれやこれや変更があったのに対して、特定課税仕入については何も変わっちゃいない、ということが分かりました。
 30条7項で一旦原則どおり帳簿・請求書が必要としておきながら、括弧書き→政令で「特定課税仕入」は帳簿のみでOKとする構成も旧法どおり。

 が、30条9項にいう請求書は、「課税資産の譲渡」を行った場合に発行するものとされています。他方で、「特定資産の譲渡」は、2条の定義上は「課税資産の譲渡」に含まれていることにされていながら、5条で「課税資産の譲渡」から除外されています(一部除く)。
 なので、30条7項で一旦請求書を必要とする、という所作が無駄なんじゃないかと感じてしまいます。特定課税仕入と9項の請求書は無関係なわけで。

 旧法では1項の計算式が同種だったからまだ分かります。が、新法では計算式が大きく別れてしまったわけで。7項も「国内課税仕入」と「特定課税仕入」とで書き分けをすればよかったんじゃないかと。

 まあ、単に条文の書きぶりの問題で、結論には何の影響もありません。なんかしっくりこないというだけの話。


 「特定課税仕入」について、「委任立法」という観点からは特に問題がないことが分かりました。
 次回では、なぜ「特定課税仕入」はインボイス無しでよいのか、という点について検討します。
posted by ウロ at 11:27| Comment(0) | 消費税法

2023年10月23日

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その4) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編39)

 消費税法30条7項と同法施行令49条1項の関係について、前者が委任する法律、後者が委任される政令であり、いわゆる「委任立法」と呼ばれるものにあたります。ではあるのですが、税法分野で委任立法の問題が論じられるの、例の「国民健康保険料」のやつとか、裁判例がある箇所近辺くらいです。

 学者の皆さんの関心事は、外国法(学者)の研究か、国内法でも最高裁判決がある特定の論点に終始しがち。個別具体的な条文について、法律・政令・省令・通達等の規律範囲が適切に分配されているかを総点検する、なんて地に足の付いた研究を展開してくれる税法学者なんて、まあ期待できないわけです。

 仕方がないので、自分なりに、法30条7項と令49条1項の委任/受任関係について、検討をしてみることにします(以下、単に「法律」、「政令」と省略します)。

 なお、旧法では通達に規定されっぱなしだった「やむを得ない理由」が、新法では「困難な場合」として政令・省令で規定することにしたの、旧法における規律分配のままでは不適切、という判断があったからだと思います。ただ、以下では新法における委任/受任の関係のみ検討し、「旧法→新法」での規律分配の変化については触れません。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編36)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編37)
条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編38)


 まず法律は、請求書がいらない「場合」について、次の通り規定しています。

法30条7項
 (請求書等の交付を受けることが困難である場合、特定課税仕入れに係るものである場合その他の政令で定める場合における当該課税仕入れ等の税額については、帳簿)


 ここで「その他の」とあることから、
  1 困難である場合
  2 特定課税仕入れに係るものである場合
  3 その他の(政令で定める)場合
のすべてについて、政令に委任していることになります。

 これを受けた政令の側では、次の通り規定しています。

令49条1項
 一 次の課税仕入
  イ 船舶、バス、電車・軌道(3万円未満)
  ロ 入場券(簡易インボイス回収される)
  ハ 下記の者が適格者以外から棚卸資産として買い取った場合
    1 古物商 古物
    2 質屋営業 質物
    3 宅建業 建物
    4 再生資源業 再生資源
  ニ 請求書を受けることが困難として財務省令で定める場合 →規15の4
 ニ 特定課税仕入


(なお、1号ニが、省令に「再委任」していることの適法性についても論点となりますが、こちらは「困難」な場合に限定して再委任しているので、問題ないこととしておきます。)

 2号の「特定課税仕入」については、法律との対応関係は明確です。
 他方で、1号は「困難である場合」を列挙したものなのか、それとも困難な場合とは別の場合を定めたものなのかがはっきりしません。


 (その2)では、1号ニが「イからハまでに掲げるもののほか」として、省令に困難である場合を再委任しているという書きぶりから、イからハも「困難である場合」を定めているものと理解しておきました。

1号ニ
 イからハまでに掲げるもののほか、請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れとして財務省令で定めるもの


 このうちロについては、簡易インボイスが一旦発行されているものの回収されてしまうということなので、「交付」を受けるのが困難というよりも「保存」が困難という気がします。が、法律の書きぶりからすると「交付を受けるのが困難だから保存できない」と交付と保存を連動させているように読めるので、「交付」を受けるのが困難と理解してもよいのでしょう。

 また、イについては、昨今のICカードの普及具合からすれば、インボイスを要求してもよさそうではあります。他の場合との比較ということでいうと、「ETC」などは全取引についてインボイス必要となっているわけで(案の定、「勝手に緩和Q&A」がでましたが)。
 これを正当化するとしたら、まだ「紙の切符」が存在する以上、そちらに合わせて、保存→交付が困難としてインボイス不要にしておく、という説明が可能でしょうか。

 問題がハです。
 この規定自体はすでに検討ずみです。が、今回は「委任立法」という観点からの検討となります。

《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その1) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編33)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その2) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編34)
《特定業種優遇税制》としてのインボイス特例(その3) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編35)


 旧法では「やむを得ない理由」と言っていたものを、新法で「困難である場合」と言い換えたの、邪推するに、同じ文言のままでは旧通達11-6-3で認められていた「交付請求したが受けられなかった」といった場合を排除しにくいからではないかと思われます。
 旧法で「やむを得ない理由」だったものが、新法で「やむを得ない理由」でなくなるなんて不自然でしょう(まあ、法律(定義規定)で書き分けさえすれば、同じ用語でも中身はどうにでもできるところではありますが)。

 ところが、せっかく文言を変えて例外ルールを厳格化しようとしたはずなのに、旧通達では例示列挙されていなかった古物商等を「困難である場合」としてわざわざ政令に追加計上しています。旧法で対応するものといえば、「住所省略できる規定」(旧令49条1項→通達11-6-4)の中に「再生資源卸売業+準ずるもの」として挙げられていたに過ぎないものでした。

 「準ずるもの」にすぎなかった古物商等が、厳重なインボイス制度下において、名前が与えられて政令に鎮座するなんて、ものすごい出世ですね。


 で、ハは「困難である場合」を列挙したものと理解してよいかどうかです。

 この点、ハの特例のイカれっぷりを表しているのが、「適格者以外から」という要件を課していることです。「仕入税額控除を厳格化することで益税を撲滅しよう」という流れとは、完全に逆行しています。

 そもそも「非適格者」からインボイスをもらうのは「不可能」であって、これを「困難」と呼ぶのは文言上無理があります。というか「非適格者からの仕入」なんて、「困難である場合」に言い換えることによって排除しようとした、ド本命の益税発生源なはずです。

 仮に、非適格者からインボイスをもらえないことをもって「困難」だというのならば、次の場合はどうなるのか。

 1 免税事業者⇒古物商  古物を買取る  ←インボイスもらうの困難です!
 2 免税事業者⇒古物商  喫茶店で打合せ  ←???


 対比のために、2も買手をあえて古物商にしてみましたが、別に古物商でなくてもよいです。何の変哲もない「免税事業者からの仕入」であり、インボイス推進派の方々が親の仇のごとく憎しみを向けていたもの、そのものです。

 ですが、古物商が免税事業者から古物を買い取る際にインボイスをもらうのが「困難」だと表現するのであれば、古物商が免税事業者の営む喫茶店で打合せをした場合にも、同じようにインボイスをもらうのが「困難」だと言わなければおかしいでしょうよ。


 そうだとすると、古物商等特例を正当化するためには、ハは「困難である場合」とは別の「その他の場合」を列挙したものだと言うしか逃げ道はなさそうです。
 が、「その他の場合」を「困難である場合」とは別物だと位置づけてしまうと、今度は法律が政令に《白紙委任》したことになってしまいます。

 というのも、委任立法が許容される条件として、法律が《個別的・具体的》に委任をしなければなりません。そこで、法律にいう「その他の」の意味を、「困難である場合かあるいはそれに類するもの」といった具合に限定できるのであれば、委任立法は許容されるはずです。

 ところが、「その他の」を法律に掲げられた「困難」から切り離してしまうと、法律に「その他の」の中身を限定しうる取っ掛かりが何ひとつ存在しないことになってしまいます。政令が、いかなる場合を請求書不要と定めたとしても、およそ委任の範囲を逸脱することがないことになります。
 このような事態は委任立法に関する、特に税法に対しての一般的な理解からは、許されないことになるのではないでしょうか。


 あるいは、《インボイスいらない特例》は、請求書必要という制限ルールを解除するいわば《受益ルール》だから、白紙委任でも許されるということでしょうか。
 が、「受益ルールはフリーハンド」を許容してしまうと、特定業種のみに受益を付与するようなルールを政令が規定した場合に、それを統制する根拠がないことになってしまいます。たとえば、『建設業許可を受けた建設業者が一人親方に支払う報酬はインボイス不要』みたいなルールを定めても、何の問題もないということになります。

 また、請求書必要という原則ルールを無意味にするほど広範な例外ルールを定めたとしたら、それも問題でしょう。現に、インボイス制度は「益税排斥」を旨として、鳴り物入りで導入されたはずなのに、《古物商等特例》によれば、積極的に「非適格者からの仕入」であることを確認した上で控除できることになってしまっています。
 『一見白紙委任に見えても、制度全体の趣旨から委任の限度が読み取れればOK』という緩めの見解からしても、「益税排斥」と真っ向からぶつかる特例を許容するのは無理があります。

 という次第で、「受益なら委任自由」というわけにはいかないのではないでしょうか。


 こういった問題があるにもかかわらず、誰も何も騒ぎ立てることもなく。《インボイスいらない特例》の一味として、何食わぬ顔で並べられています。私が勝手に問題を作り出しているだけで、もはや議論すべきものでも何でもないということでしょうか。

 まあ、委任立法として問題があるとしても、受益ルールの場合に誰がどうやって争うのか、という手続法上の問題が残るのですが。

 委任立法という観点からしても、正当化しがたい「古物商等特例」。やはり、シンプルに《益税特権》として捉えるしかないのでは。

条文解析《インボイスいらない特例》の法的構造について(その5) 〜消費税法の理論構造(種蒔き編40)
posted by ウロ at 11:21| Comment(0) | 消費税法